法子「テレポート」 (9)


ごとん、と音がした。

その音は事務所の空き部屋から聞こえてきた。

その部屋では、以前から発明好きの池袋晶葉が何作目とも分からない機械の製作中で、それを知っていた椎名法子は、またなにか面白い発明品が出来たに違いないと、期待感に口元を緩ませていた。

前回はドローン技術を利用した飛行装置、その前は5分で汚れを落とす超強力洗浄洗濯機、そのまた前は人工知能を備えた小型ウサミンロボ。

いつだったか、塩胡椒を「塩」と「胡椒」に分別する機械などといったものもあった。どんな用途のために作ったのかは分からないが、発明家とは面白いと思えばどんなものでも作ってしまう生き物なのだろう。


ドアを開けてみると、中では晶葉が頭を抱えて唸っているところであった。

「おかしい……なにがどうなってこんなことに……」

部屋の中には、一メートル幅の正方形が置いてあり、その周りには仰々しくパイプや電線などが張り巡らされている。予想通り、また発明品が完成したようだが、様子を見るに、失敗したようだ。

「またなにか作ったの?」

「む、法子か。実はテレポート装置を作っていたところでな。なんでもここに転送できる画期的なマシンだ」

「テレポート装置!すっごーい!それってドーナツも持ってこれる?」

「ああ、だが少し失敗してしまってな……これを見たまえ」

晶葉の指差した正方形の表面のガラス板は、一面に真っ赤に染まっていた。

「なぁに、これ」

「これはリンゴだ」

「リンゴ?」

なるほど。よく見ると、うっすらと筋のような模様や、艶のある光沢が見て取れる。まさしく、リンゴの皮であった。

「どうもどこかの設計を誤って、転送されてきたものがこの容器一杯に拡大されて転送されてきてしまうらしい。いったいどこで間違ったのだ……」

「じゃあ、これはとっても大きなリンゴってこと?」

「そういうことになるな。どれ、ちょっと切ってみよう」

晶葉は容器の蓋を開け、容器と同じ、正方形の巨大なリンゴを取り出した。軽がると持ち上げているので、重さは変わらず、体積だけが膨張しているのだろう。

苦戦しながら包丁で切ってみると、中もしっかりとしている。試しに食べてみても、ちゃんと歯ごたえもあり、瑞々しく、甘酸っぱい味が口に広がった。まごうことなく、リンゴであった。

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「すごい発明だね!これでドーナツもテレポートできるかな?」

「ああ、できるぞ。ここに転送してきたいものの名前を入力してこのボタンを押すだけでいい。あとは人工知能がその情報を調べ、分析し、そのもののある場所に人工的なワームホールを出現させ、この容器に転送させるのだ」

「ええと、ドー、ナ、ツ……えい!」

法子がボタンを押すと、機械が猛烈な速度で計算を始め、十秒もしないうちに容器の中はドーナツでパンパンになっていた。

とりだしてみると、正方形の中心に穴が開いていて、少々面白い。法子は思わず噛り付いた。

「もぐもぐ……ところで、このドーナツはどこから来たの?」

「それは分からない。説明し忘れてしまったが、ここに場所を入力しないと、この場所から一番近い所から転送される仕組みになっている。それも、品質を最優先した上でな。腐ったものや、毒の入ったものが送られてきても困る。そういったことも含めて、人工知能が計算してくれるのだ………おっと、もうこんな時間か。私は仕事にいくよ。この装置は自由に使ってくれ。あまり悪さはしないように」

そう言い残して、晶葉は出て行った。

法子は口いっぱいにドーナツを含みながら、申し訳ない気持ちになっていた。

(どこから来たのかわからない?それじゃあ泥棒さんだよ……)

しかし、食べてしまったドーナツをどこに返していいかも分からず、誰に謝っていいかも分からない。
とりあえず、残しては失礼だと思い、すべて食べてしまうことにした。


そうこうしているうちに、ドアが開いた。

「法子ちゃん、ここにいましたかー!いやぁ、探しましたよー」

「あっ、みちるちゃん!」

「あ、あの……私もいるよ……ふひ……」

「輝子ちゃんも!」

みちるはなにやら手包を持っている。よく見ると、法子が愛してやまないドーナツ屋の箱であった。

「時子さんに法子ちゃんに渡してくれと頼まれまして。一緒に食べていいそうですから、一緒に食べましょう!輝子ちゃんは偶々そこにいましたので、連れてきちゃいました。あははー!」

「連れてこられちゃいました…ふひ……め、迷惑じゃなければ、いいかな…?」

「いいよいいよ!一緒に食べよう!」

法子は勢いよく箱を開けた。しかし、中身は空であった。
なるほど、ここから転送されてきたようである。後で時子さんに謝ることにしておこう。

二人を見ると、空っぽの箱に頭を混乱させているようであった。事情を説明すると、理解してくれたようだ。
「つまり……ここに好きなものを入力すれば、転送されてくる…ってわけか……」

「なるほど。じゃあ、ここにパンと入力すれば、大きなパンが転送されてくるわけですねー!」

みちるは早速、機械の前に座った。

「ものの名前は、パ、ン。場所は……大原ベーカリーです。実家には後で連絡しておけば大丈夫でしょう!あははー!」

ごとん。十秒もしないうちに容器は大きなパンで満たされた。香ばしい香りが鼻を刺激する。焼きたてのようだ。

「あははー!すごいすごい!四角くて、大きなパンですねー。さあ、一緒に食べましょう!」

「そ、その前に……私も親友の机の下から、シイタケくんを転送しよう……大きなシイタケくん……楽しみだな……」

今度は輝子が機械の前に座りった。

ごとん。十秒もしないうちに容器は大きなシイタケくんで満たされた。

「ふひ…大きくなったシイタケくん。これは生じゃ食べられないから、家に持って帰ろう……」

「ふふっ♪じゃあ、食べようか。このドーナツも一緒に食べよう!」


三人で大きなドーナツとパンを食べていると、再びドアが開いた。

「ここにもいない……まゆはこんなにも貴方に会いたがっているのに…」

それは佐久間まゆであった。また、プロデューサーを探しているのであろう。

「まゆちゃん、プロデューサーを探しているの?」

「法子ちゃん……ええ、そうなんです。プロデューサーさんに会いたくて会いたくて、ほら、こんなにも震えて…」

見ればまゆの手は小刻みに震えていた。法子もドーナツが食べたくて震えることがある。みちるも同じようであり、心配そうにしていた。

「ふごふご……だったらいいものがありますよー」

「いいもの?」

「テレポート装置だよ!」

「ここに情報を入力すれば……転送されてくるんだ……このキノコもパンもドーナツも、転送してきたものなんだ…ふひ…」

「わあ、すごい!じゃあ、早速……」

まゆは機械の前に座った。プロデューサーの名前を打ち込んだ。場所は分からないが、彼はこの世に一人だ。優秀な人工知能を兼ね備えたこの機械なら、しっかりと転送してくれることであろう。

「あっ!」

そこで法子は気がついた。それはまゆが転送装置のボタンを押すのと同時であった。

ごとん。十秒もしないうちに容器は………。




終劇

これにて終了ですー

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