花売りの姉妹 (28)

町外れの古い小屋に貧しい姉妹が暮らしていました。

姉の名前は凛。ぶっきらぼうですが妹思いのしっかり者。

妹は未央。少しおっちょこちょいですが明るい子です。

二人は裏の山に咲いた花を摘んで、町で売って暮らしていました。

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「お姉ちゃん、今日もお花売れないね…」

「今日は寒くて人があまり通らないしね…もうちょっとしたらおうちに帰ろうか。」

「でも、売れないと、今日もご飯食べられないだよね…?」

「……うん。」

最近は町の人たちも生活が苦しいのか、もう何日も、花を買っていく人は現れていません。

「じゃあ、私がいっぱい売ってくるね…!」

「みなさん…!花は…花はいりませんか…!」

「とっても、とってもきれいですよ…!」

元気が取り柄の未央の声も、寒さと空腹で震えています。その様子を見て、凛も必死に町行く人に声をかけますが、やはりこの日も花が売れることはありませんでした。

…………

「見つけた…!」

「わあっ…!お姉ちゃんすごい…!」

食べ物らしい食べ物が底をついてから、食事は二人で探した木の実や野草が主になっていました。

…………

「いただきます」

「いただきます」

本当なら二人とも今が育ち盛り、食事は全く足りません。

「ごちそうさま。」

「お姉ちゃん、もういいの…?」

「うん。疲れちゃったからもう寝ようかな。」

「お姉ちゃん…」

「それ、未央が食べていいよ。」

「…私もお腹いっぱいになっちゃった。明日一緒に食べよっか。」

凛の意図は理解しましたが汲むことはありませんでした。

「ねえ、お姉ちゃん。」

「なに?」

「明日は…いっぱいお花売ろうね。」

「…そうだね。」

二人ともそれが難しいことはよくわかっています。

それでも、せめて食事の代わりに希望だけでも口にしなければ、きっと命を明日につなぐことはできないでしょう。

「もう、暗くなったから寝るよ。」

「うん。」

「ほら、こっちおいで。」

「うん。」

二人の家はもう何年もまともに修理されていない小屋。雪混じりのすきま風が二人の体をこれでもかと冷やします。

「今日も…寒いね。」

「うん…」

「ほら、こっちおいで。」

「うん。」

「えへへ…お姉ちゃん、あったかい…」

「未央もあったかいよ。」

花売りと木の実探しで体は冷え切っていましたが、なぜか抱き合うと互いに暖かさを感じ、その暖かさに眠気を誘われこの日も二人は眠りにつくのでした。

…………

「ケホッケホッ…」

「未央…」

「お姉ちゃん…」

まともに栄養も取れず、毎日寒さの中で外に立っていた未央は、とうとう体調を崩してしまいました。

「今日は一人で売ってくるから、ここで待っててね。」

「ううん…私、大丈夫…ケホッ」

「だめ。未央はおうちで休んでて。いい?」

「でも…」

「私がたくさん売って、お薬も、おいしいご飯も…たくさん買ってくるから…!」

「お姉ちゃん…」

「本当は一緒にいてあげたいけど…」

「ううん…一人でも…大丈夫…」

「暗くなるまでには帰ってくるから、待っててね。」

「うん…」

叶うあてもないかすかな希望を頼りに、凛は花を売りに出ていきました。

「花は、いりませんか…!」

「とてもとても…きれいなお花です…!」

何日かぶりに晴れたこともあって、いつもより人通りは多くなっていました。

大切な妹に良い薬とたくさんのご飯を持って帰る。未央の顔を思い浮かべる度に、その声は自然と大きくなりました。

「おや、きれいな花だ。一ついただこうか。」

「…!ありがとうございます!」

「小さいのに偉いねぇ、頑張ってね。」

未央以外と会話したのはいつ以来だったでしょうか。思い出すことさえ難しいくらい、久しぶりに花が売れました。

「未央、待ってて…!お姉ちゃん頑張るから…!」

いつもは見向きもされなかった凛の花はどんどん売れていきます。

日が傾きかかった頃には、凛の手にはいくらかのお金と残ったわずかな花が握られていました。

「これだけあれば、薬が買える…!ご飯だって少しなら…!」

しかし、この町では日が沈むとどの店も閉まってしまいます。疲労と空腹でよろめきながら、凛は薬屋を目指して駆け出しました。

「お薬買ったら、どれくらい残るかな…」

「久しぶりに、お米、食べられるかな…」

「おいもでもいいかな…」

「……」

「未央、喜んでくれるといいな…!」

薬で元気になった未央とご飯を食べる様子を思い浮かべると、自然と足取りが軽くなります。

ですが、いろいろ考えながら走っていたせいで―

ドンッ

「きゃあっ…!」

「おっとごめんねぇ、お嬢ちゃん?」

「ご、ごめんなさいっ!」

口調と見た目であまり良い素性の男でないことは明らかです。しかし構っている時間はありません。ぶつかった拍子に落としたお金を拾って早く薬を買いに―

「おや、お嬢ちゃんにこんなキラキラしたものはまだ早いんじゃないのかい?」

「か、返してください!それは妹の薬を買うために!」

「お兄さんも今ぶつかったところが痛くてねえ、お薬が必要なんだよ。せっかくだからこのお金で買わせてもらうよ。じゃあねぇ?」

「ま、待って!待って!」

男は散らばった花を踏みつけて町へと消えていきました。

…………

「お金も、ない…花も、ない…どうしよう…どうしたら、いいの…」

前をちゃんと見ていたら、もっとしっかりとお金を握っていたら。せめて大きな声で助けを呼べたら。両手に握られた花とお金はあっという間に悔しさと絶望に変わってしまいました。

もう、凛には何も売るものがありません。それでも、何も持たずに家に帰ることはどうしてもできませんでした。

「誰か…!誰かお金をください…!」

「妹が病気なんです…!お薬を買うお金を…!」

皮肉にも、花を売っていたときよりも多くの人が凛に目をやります。ある人は同情、ある人は軽蔑、そしてまたある人は嘲笑を視線に乗せて。

「お願いします…!もう何日も、ちゃんとご飯を食べていないんです!誰か!誰か…!」

それでも凛は、か細い声を精一杯張り上げます。

しかし、凛が得たものは無数の視線と少しの憐れみの言葉だけでした。

…………

すっかり外は暗くなってしまいました。店の閉まった町を歩く人はもう見当たりません。

「……」

凛はただただ、その場にうずくまるしかありませんでした。もう、立ち上がる力さえ残ってはいません。

「ごめんね…未央…お姉ちゃん…お薬…買えな…かった…」

だんだん凛のまぶたが落ちていきます。しかし、いつも隣にいた未央はいません。

「おねえ…ちゃん…?」

いるはずのない未央の声がします。

「未央…?」

「おねえちゃん…!」

どうして?未央は家で待っているはずなのに。

「おねえちゃん、おそいから…むかえにきた…よ…」

あちこちを擦りむき、手足はどろだらけ。未央はほとんど倒れ込むように凛の隣で膝をつきました。

「家で寝てないと…だめだよ…」

「おねえちゃんも…くらくなったら…おうちにかえらないとだめだよ…」

「そう…だったね…」

「未央…ごめんね…」

「おねえちゃん…?」

「お薬…買えなかった…」

「ううん、わたしなら…だいじょぶ…だから…」

「そんなこと…」

「だいじょぶ、だから…おうち、かえろ…?」

「うん…」

未央の顔を見て最後の力が湧いてきた凛は立ち上がって未央の手を握ります。

「未央、帰ろっか。」

「うん…!」

なんとか立ち上がろうとした未央ですが、体はもう限界でした。

フラッ…

「未央…!」

バタッ

「えへ、へ…ちょっと、つかれちゃった…みたい…」

未央の顔を見て最後の力が湧いてきた凛は立ち上がって未央の手を握ります。

「未央、帰ろっか。」

「うん…!」

なんとか立ち上がろうとした未央ですが、体はもう限界でした。

フラッ…

「未央…!」

バタッ

「えへ、へ…ちょっと、つかれちゃった…みたい…」

「ちょっと…ちょっとだけ…休んでから、帰ろっか…?」

「うん…」

「どうせ、家も寒いもんね…」

「おねえちゃん…」

「未央…こっち、おいで…」

「うん…」

「一緒だと…あったかい、ね…」

「うん…!」

眠気で二人の意識がだんだんあやふやになっていきます。

「おねえちゃん…」

「なあに…?」

「あした…いっぱい…おはな…うれると…いいね…」

「うん…きっと…だいじょうぶ…だよ…」

「そしたら…いっぱい…おいしいごはん…たべよう…」

「あったかい…ふくも…かってあげるね…」

「それは…いらない…」

「え…?」

「おねえちゃん…あったかいから…」

「…そう、だね…」

「あっ…」

「ゆき…?」

「きれい…」

いつもの強い風に乗って刺さるように降る雪と同じとは思えないくらい、優しく優しく粉雪が舞ってきました。

「きれいだね…」

「うん…」

二人は声も上げず、ただ見とれていました。

…………

「あー、けっこう積もっちまったなあ。」

一晩降り続けた雪は、町で一番の大通りも真っ白に染めていました。

「雪かかねえと店も開けらんねえな…ん?」

通りの一角だけ、雪が積もっていないことに気づきました。

「ありゃ…人か…?」

あらかた酔っ払って寝たとか、そんなとこだろう、そう思って男は近づいていきます。

「おーい、こんなとこで、なにやってんだー?」

しかし、横たわる二人の少女から返事が返ってくることはありませんでした。

「おーい、起きろー?」

長い黒髪の少女の手に握られた、茎の折れた花がとてもとてもきれいに咲いていました。

終わりです。
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