【結城友奈は】 樹「失って得た掛け替えのない一日」 【勇者である】 (25)


結城友奈は勇者である。の、樹ちゃんの誕生日の為のSS

短め


「……ふぅ」

今日だけは、すごく早く目が覚めた

起きちゃいけない、起きちゃいけない

そう思いすぎたのかなと反省して目を瞑ってみたものの

残念ながら、目はバッチリと覚めてしまっていた

部屋の外、リビングからはお姉ちゃんの楽し気な鼻歌が聞こえてくる

それもそのはず。というのは少し気恥しいけど……今日は私の誕生日なのだ

だからお姉ちゃんはいつも以上に楽しそうに、嬉しそうに朝ごはんを作ってくれる

いつも、お姉ちゃんの手作りで、特別だけど

今日という日は何割か増して特別だったりする

「えへへ」

最初はつらいと思ったこともあるけれど

今は考えると、思わず笑みがこぼれてくる。嬉しくて、幸せだから

他の家とは足りないものがあるけれど

でも、それを補って幸せなことがあるから


「いっつき~、おきなさーい」

部屋のドアが開いて、飛び込んでくる少し弾んだお姉ちゃんの声

いつも迷惑かけているのにこんな日だけ起きているのはどういうことだろう。なんて

自分で自分に笑いかけて、閉じた目をゆっくりと開いていく

「おはよー、樹。お誕生日おめでとう」

「……うん、ありがとーお姉ちゃん」

出来る限り起きていなかったアピール

いつも当たり前のようにやっていたことを意識してやるのは、少し難しかった

でも、上手くごまかせたようで、お姉ちゃんは遅刻するわよ~と

いつも通りのことをいつもよりも明るい声で言って、部屋を出て行く

口に出したら怒るかもしれないけど

普段は男勝りな部分もあるお姉ちゃんだけど、こういうるんるんとした気分のときは

とっても可愛いと私は思う

もちろん、普段は格好良くて、炊事洗濯なんでも出来るお姉ちゃんだ


「いただきます」

「召し上がれ」

食卓に並べられた、お味噌汁にご飯に煮物に焼魚

どれも出来たばっかりで、手を掲げると熱がじりじりと皮膚を焼く

煮物に入ったジャガイモをぱくっと咥えて、下と口裏でぐにゅっと潰すと

染み込んだほんのりと甘みのあるだしが口いっぱいに広がっていく……おいしい

「今日は一日中晴れみたいね」

テレビから流れる天気予報をみて、お姉ちゃんが小さくこぼす

「うん、日曜日なら、もっと良かったのに」

そうすれば、お姉ちゃんとゆっくり買い物にもいけたのになぁ。と思う

お姉ちゃんはそんな私の呟きに困ったように笑って、確かにねぇ。と

残念そうな声を出す

お姉ちゃんはいろんなことを沢山してくれる

なにかサプライズを用意してくれたりとか

おいしくて嬉しいお祝いご飯を作ってくれたりとか

そこまでしてくれなくても良いと思うのは贅沢な悩みだとは思うけど

でも、夏凜さんの時のように

勇者部のみんなでほんの少しだけ開くパーティー

コーラやお茶、スポーツドリンクで乾杯して、

イチゴの乗ったショートケーキをみんなで食べる。そんな位のお祝いが、私は嬉しい

だから、お姉ちゃんと長くお出かけできないのは残念だけど

そんな大きな準備をお姉ちゃんにさせない平日の誕生日は

正直に言うと、残念なのと同時に嬉しくもあったりする

「えへへ、でも。学校がある日はある日でいいかな」

「そっか、そうね。みんなも居るし」

私が嬉しそうに笑うとお姉ちゃんも笑顔になる

それが嬉しくて、またよりいっそうの笑顔を浮かべてみせる

「それならさっと食べて早く行くわよ、樹」

「えーっ、ご飯はゆっくり食べたいなぁ」

「なら、早く起きなきゃだめよ? 樹」

うん、それはそうだ


「そうだ、樹」

お姉ちゃんはそう言うと、私の右前髪を止めるヘアピンを外して

別のヘアピンをつけて、よしっと笑う

お姉ちゃんの手には私がいつもつけていた物があって

鏡を見てみると、本当に僅かだけど大きな違いがあった

「六枚になってる」

前まで使っていたやつは5枚の花弁

今回お姉ちゃんが付けてくれたのは6枚の花弁

そこに気づいたのが嬉しかったのか

お姉ちゃんは「ふっふっふっ」と

いつものどちらかと言えば男の子のような笑い声を漏らす

「なんでかわかる? 樹」

「うん」

解らないわけがないよ。お姉ちゃん

そう思いながら、新しいヘアピンに触れる

「友奈さん、東郷先輩、夏凜さん、園子さん、お姉ちゃん、私。だよね?」

「そっ、アタシはすぐに卒業しちゃうけど。でも、それでもアタシ達勇者部は不滅で。そして」

「うん、ずっと一緒」

お姉ちゃんと向かい合って、手を握る

色々と大変なことがあった今年

でも、何とか乗り越える事の出来た一年

それ以上の苦難があるのかどうかわからないけど

でも、それでも。私達は一緒だと、願いを握り合った


◇◆◇◆学校◇◆◇◆


「お、おはよ」

学校に着いた途端、待ち構えていたように声をかけてきたのは、夏凜さん

下駄箱のところに来る前に、そわそわとしながら壁に寄りかかっているのが見えたときは

なんだかとっても言葉に出来ない気持ちになった

もちろん、嬉しい方で

「おはようございます、夏凜さん」

多分、何も解らないようなすっとぼけた顔は出来てなかったと思う

でも

視界に映る夏凜さんの表情は、一番に照れくさそうで

二番に「あ、偶然ね樹」とでも言いたげな感じで、私のそれにまったく気づいてない

「偶然ね、樹……」

「そうですね、誰か待ってるんですか?」

「ぅえっ、え、いや、別に待ってないけどッ」


お姉ちゃんが悪戯したくなるといったのが良く解る感じで

誕生日特権です。ごめんなさいと夏凜さんに心の中で謝って

自分の中の小悪魔的な部分がニヤリと笑ったのを見逃す

偶然と言われて待ってるんですか? なんて、明らかに解ってて言ってるよね

「それなら、途中まで一緒に行きませんか? お姉ちゃん、日直だったらしくて……」

さっさと行っちゃったんです。と、残念そうに言う

本当に日直だったし、残念なのは嘘じゃない

「ま、まぁ別に良いけど」

「ありがとうございますっ」

壁から離れた夏凜さんの横にくっついて歩く

時々厳しいことをいう夏凜さんだけど、照れ隠しだったりなんだり

そう言うのだって、私は知ってる。友奈さんはわかってないみたいだけど

東郷先輩も園子さんもお姉ちゃんだって、解ってる


「…………」

夏凜さんの隣を歩く。それだけで私的にはちょっぴりな幸せ

でも、夏凜さんは私とは逆の方向を見たままで

普段は長いような短いような廊下や階段はあっという間に過ぎていく

お姉ちゃんのクラス、3年生は二階

夏凜さん達二年生のクラスは三階

そして、私、一年生のクラスは四階にある

途中まで一緒となると、どうしても夏凜さんとは先にお別れになってしまう

並んで歩く間黙り込んだままだった夏凜さんは

3階につくと、あっと声を漏らして私を見る

「その、いつ――」

「あーっ、樹ちゃん!」

夏凜さんの声はそんな大きな声に遮られて

私と夏凜さんの目がその声の元に向くと

友奈さんが手を振っていて

そのすぐそばで東郷先輩と園子さんが

笑顔で向かい合って何かを言うと、私達に目を向けて小さく手を振る


「もう、友奈ちゃんったら急に大声で呼ぶんだから」

「勇者部のプリンセスにちゅうもーっく! って感じだったね~」

近づいてきた東郷先輩たちは

困ったように笑いながら言って、原因の友奈さんは「えへへっごめんね」と

私達の先輩とは思えないような無邪気な笑顔を見せる

先輩なのに、先輩らしくない笑顔

でも、時々見せる先輩らしさが、私は好きです

そんな告白を心の中でしながら、おはようございます。頭を下げる

「おはよう樹ちゃんっ、お誕生日おめでとうっ!」

友奈さんはそう言いながら、むぎゅーっと抱き着いてきて

「おめでとう、樹ちゃん。友奈ちゃんと同い年ね」

「本当だ~、ゆーゆといっつんクラスメイトだったかもしれないんだよね~」

「樹ちゃんとクラスメイトかぁ」

想像できないなぁという友奈さんだけど

でも、そうだったとしてもきっと楽しかったかもしれないねと友奈さんは言って

それなら、私はお姉ちゃんや東郷先輩たちが卒業しちゃっても

一人で取り残されることはなかったのになぁと、ふと。思って

そんな寂しくなった気持ちを慰めるように

「い、樹ッ」

緊張した声が真横から聞こえた

「えっと、おめでと……誕生日」

自分の誕生日でさえ、どんなふうにしたらいいのか分からないと言ってた夏凜さんは

少し迫るような言い方だったけど、お祝いしてくれた


「えへへ」

「な、なによっ」

「いえ、有難うございますっ」

言葉だけのお祝い

それだけで、とても嬉しかった

大変なことがあった毎日を乗り越えたから

きっと、今までのお祝いの言葉とは違う

何か特別なものがあったんだと思う

だから、すごく、すごく、嬉しくて

そんな私の笑みに、夏凜さんは「べ、別にっ」と言ってそっぽを向く

その照れ隠しの仕草が東郷先輩や園子さんには面白かったようで

「夏凜ちゃん照れてる?」、「にぼっしーてれてれ~」とからかわれて

それを笑っちゃって「笑うな!」って、友奈さんと一緒に怒られる

凄く楽しくて幸せな一日の始まりだった


「そういえば、樹ちゃんピン変えたんだね」

「はいっ、お姉ちゃんが今朝、付け替えてくれたんです」

友奈さんが気づいてくれた変化

それをみんなに見せるようにすると

東郷先輩も、園子さんも気づいたようになるほど。と言って

夏凜さんはなんなのよ。と不満げに呟く

「私達は6人、花弁も6枚つまりこれは私達ってことじゃないかしら」

「東郷先輩大正解ですっ」

ああ、なるほどっと言った夏凜さんは

すぐに恥ずかしそうに笑って「分かってたけど!」と言い換える

それだからお姉ちゃんにいじられるんですよ。とは、言わなかった

そんなこんなでHRが始まる少し前の鐘が鳴り響く

みんなでまた放課後にねと別れた瞬間

夏凜さんだけが、「待って樹」と呼び止めてきた


「はい?」

「えっと……」

止めたはいいけど何を言うべきか

そんな風に迷った夏凜さんだったけど

いろんなところから聞こえてくる慌ただしい音

それに交じって規則正しく近づいてくる先生の足音に

夏凜さんは「あのさ」と、私を見つめて

さっきのじゃうまく言えなかったと考えて悩んで決めたんだと思う

「に、似合ってるわよ……新しいやつ。それだけ」

夏凜さんは一人で呼び止めて、

一人で言って、一人で教室に逃げていく

それを目で追いながら、

私は嬉しさに緩んだ頬をムニムニと揉み、自分のクラスへと向かった


◇◆◇◆スーパー◇◆◇◆


「んー樹、何食べたい?」

「カレーとか?」

放課後、私はお姉ちゃんと一緒に近所のスーパーに立ち寄っていた

というのも、今日は私の誕生日だから

好きなもの作ってあげるから買いに行こうって誘われたのです

今頃私達の家では

友奈さん達が準備しているんじゃないかなーなんて、

サプライズを壊しちゃうようなことを考える頭をふって、笑う

お姉ちゃんが企画なのはわかってることで

そして、それだからこそなんとなく察せてしまう

時々時間を確かめてるのが、良い証拠だなぁって

「カレーねぇ……もうちょっと捻ったものでも良いのよ?」

「うん。でも」

お姉ちゃんの空いた手を握ると、お姉ちゃんは驚いたように目を開いて

困惑した表情で「どうしたの?」と、聞いてくる

だから私は何でもないよと笑って見せて

「カレーなら、私も手伝えると思うから」

そう言う。そう思った。そうしたいと、思っていた

あっけにとられたお姉ちゃんに、私は笑顔を浮かべたまま、続ける

「今日は一緒にいろんなことがしたい。一人じゃできないけど。でも、お姉ちゃんと少しずつ」

何かをできるようになっていきたいから

そう言うと、お姉ちゃんは驚いた表情から

凄く、嬉しそうな顔をして

でも、外だから、私の前だから

お姉ちゃんらしい笑顔を見せて、私の頭をポンポンっと叩く

「……嬉しいこと言ってくれるじゃない。樹」

「えへへっ」

私の誕生日

でも、だけど、私はお姉ちゃんが喜ぶ顔が見たいから

何もかもを任せるなんて言うことはしたくなかった


「それじゃ、カレーの材料買っていくわよーっ」

「うんっ」

お姉ちゃんと手を握り合って、お店の中を歩き回る

割と広い。でも、大したことはないお店の中ではあったけれど

棚に区切られた場所は、考えようによっては別の場所で

私だけだとは思うけど、なんだかデートをしている気分になった

もちろん、そういうような感じというだけで、とくには意味はなかったけど

「少し奮発して高い方買っちゃえ」

「良いの?」

「いーのっ」

いつもは買わなそうなシチュー用の高いお肉を籠に入れたお姉ちゃんは

ご満悦な様子で答える

嬉しそうで、楽しそうで――私もすごく、楽しく感じた


◇◆◇◆自宅◇◆◇◆


「「「「お誕生日おめでとーっ!」」」」

家に帰ると、パーンッという音と共に友奈さん達の声が聞こえた

「えへへっ、やっぱり」

そう言うと、友奈さんは分かってたの?と聞いてきて

私はえっへんと鼻を鳴らしてから

「お姉ちゃんが企画なら見破れますよ」

なんて、誇って見せる

と言っても、全部が全部じゃないし

今日はなんとなくそんな感じがしたっていうだけで……でも

「っ……」

分かっていたことなのに

サプライズにはなりきれていないことなのに……

「樹ちゃん……?」

東郷先輩が何か不安そうに言ったのが聞こえて

私は自分がみんなに対してしちゃいけないような顔をしているんだと気づいて

すぐに、すこしだけ熱くなった目元を拭って笑う


「樹、カレーつっくろ~」

お姉ちゃんは私を気遣ってか

私の両肩を後ろから掴んで、グイッと押す

それは明るい声で、優しい声で

私の「うん」っという返事はすこしだけ揺らいでいた

「カレーを作るんですか?」

「あっ、私も手伝います!」

「刃の扱いなら任せなさい!」

「私も何かしたいな~」

私とお姉ちゃんでのカレー作り

その予定には吹き出し付きでみんなでの。という言葉が後付けされる

でも、全然嫌な気持ちにはならない

むしろ、楽しかった

おととしや去年は、たった二人での誕生日だったから

だから、すごく、楽しくて、幸せで、嫌な気持ちなんて沸くはずがなかった

「わーっ、夏凜それ皮切ってない!」

「そのっち、包丁握ったままぼーっとしてたら危ないわ!」

決して広くはないキッチンに入りきらない大人数

食卓も調理台に変えての料理は、すごく賑やかだった

普段のお姉ちゃんの鼻歌や、テレビ番組の音だけのリビング

それも悪くないけれど、やっぱり、賑やかな方が嬉しくて

「ねぇ、お姉ちゃん」

「うん?」

「勇者部に入って……本当に良かった」


鍋を混ぜるお姉ちゃんの横でそう言いながら、そっとみんなに目を向ける

玉ねぎを切ったことでダメージを受けた夏凜さんと友奈さん

それを慰める園子さんと東郷先輩。凄く賑やかだ

テレビのようなBGMの流れている会話じゃないのに

なのに、それはとても気持ちがいい雰囲気で

「目が、目が……ッ」

「めつぶっしー、しっかり!」

お姉ちゃんも同じ光景を見て

小さく噴き出して笑うと「まったく」と、呆れているような声を漏らして鍋へと目を戻す

「そう言ってくれると、お姉ちゃんも嬉しい」

「……お姉ちゃんが嬉しいなら。私はもっと嬉しい」

そっと体を寄せると

お姉ちゃんは「甘えん坊なんだから」と言って

でも、何も言わずに受け入れてくれて体を寄せ合う

何か変な意味はなく、ただ寄り添い合いたいと思った

お姉ちゃんのことを感じたいと思った

それを受け入れてくれたお姉ちゃんは

おたまで一掬いしたカレーを鍋に滴らせて、とろみを見ると

もう少しかな。と頷く

その姿はやっぱり……お母さんの姿と、重なってしまった


「それでは改めまして~ッ!」

「「「「「お誕生日おめでとーっ!」」」」」

みんなの分のカレーが並んだ食卓

流石に席が足らなくて拡張したけれど

準備を終えたお姉ちゃんのひと声に合わせてみんなが声を上げる

隣近所に迷惑だよ。なんてことを考える私はきっと

あんまり考えたくないんだろうなと、思って……

「あり……」

『『お誕生日おめでとう、樹』』

今は聞くことの出来な二つの声

もう新しく見る事の出来ない幸せそうな表情

過去に見たその幸せそうなものが頭の中に蘇ってきた

「っ」

笑顔でいようって頑張った

何か別のことを考えてこんなことにはならないようにしようって思った

でも、無理だった

「樹……」

賑やかになればなるほど、思い出が蘇ってくる

お父さんやお母さんの

凄く、すごく嬉しそうなお祝いの言葉が……聞こえてくる

泣きそうで、泣きそうで

でも、ぎゅっと唇を噛み締めて

泣いているときによく感じる口の中での唾の蓄積を感じて、ごくりと飲み込む

「ありがとう……ございますっ」


震えたその声に、みんなが一瞬だけ静まり返って

そのすぐ後に、誰かのお腹がぐ~っと空気を乱した

「あははっ、お腹すいちゃった」

「……もう、友奈ちゃんったら」

友奈さんのお茶目な笑みに

東郷先輩も困ったように笑いながら言って、お姉ちゃん達にも笑顔が戻っていく

だから、私はもう大丈夫と胸に手を当てて、頷く

「今日は有難うございます……色々あったけど。でも、だからこそ。みんなでお祝いできるのが嬉しいですっ」

二人きりのお祝いが続いた二年間

一昨年は私もお姉ちゃんも、すごく無理したお誕生日のお祝いになって

去年は少しましにはなったけれど、でもやっぱり寂しさは拭えなくて

そして、今年は……

そのうれしさを込めた私のことをみんなが見つめて、笑顔を浮かべる


「私達も嬉しいよ。樹ちゃん」

「みんなでお祝いするのって楽しいよね~」

友奈さんの言葉に園子さんが乗っかって

二人で「ね~」と言い合いながらニコニコとする

それを見守る東郷先輩は私を見ると

「お休みの日ならもっとサプライズ出来たの」

そう言いながら、スマホの勇者部のサイトを開いて見せる

そこには、犬吠埼樹ハッピーバースデーと

お祝いメッセージがでかでかと―――って

「わぁぁぁぁぁーっ! 恥ずかしいですっ!」

「ふふっ、これはオフラインで作った別のサイトよ。樹ちゃん」

顔が熱くなった私の前で、東郷先輩は涼しい笑顔を浮かべると

ごめんねと言いながら、いつもの勇者部公式のサイトを開いて見せる

恐る恐る覗くと、本当にいつものサイトのままで、何も変わってはいなかった


「びっくりさせないでくださいっ」

「わっしーがいっつんを虐めてる~」

「なっ」

「現行犯逮捕だ~」

園子さんが東郷先輩にぎゅっと抱き着くと

東郷先輩は「離れてそのっち!」と、まんざらでもなさそうに、声を上げて

「何やってんのよ……あんたら」

それを夏凜さんが呆れたように見つめる

それを間近で見る私とお姉ちゃんは

互いに顔を見合わせて、声を上げずに笑い合う

きっと、寂しかったのも、切なかったのも私だけじゃなかったんだと思う

お姉ちゃんも、同じような気持ちを抱いていて

きっと、今私がそれを拭われたように、お姉ちゃんも

勇者部のみんなに、救われたんだと思う

「賑やかだね、お姉ちゃん」

「ほんと、ほんとにね」

私の言葉にお姉ちゃんは感慨深そうな声を漏らして

小さくくすっと笑うと優しい目を、私に向けて

「……おめでと。それと、ありがとね。樹」

お姉ちゃんは私の誕生日を、祝ってくれた

失ってしまったものがある。無くなってしまったものがある

でも、だからこそ得られたものがたくさんあって

だから、そう

今日は今までの私にとって【失って得た、掛け替えのない一日】で

そして、さらにさらに新しくなっていくための――大切な一歩だ


以上です。
普通に日を跨いでしまったのが無念です
次回は半日作成ではなく事前に準備できたらと思います

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