にこ「卒業式」 (11)



短いです。
卒業式の後のお話。



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ーー怒られる、と思った。




「これ、全部あなたの私物?」

なんて言われて。


こっそり、貯めて貯めてやっと手にしたアイドルグッズではあったけども。
家がそんなに裕福なわけじゃなかったし、妹たちにいちごを食べさせるのにも躊躇するような、そんな家庭だったし。

あんなにたくさんの「にこの」アイドルグッズを見たら、妹たちはやっぱりずるいって言うのかな。





隣にお母さんがいて。

なんとなく、気まずかった。



海外でμ’sのライブを出来ることを知って、にこもまだスクールアイドルなんだって浮き足立っていたけど、校門の前で待ってたお母さんを見たらその足はぴたりと地面についた。



(もう、聞いたのかな。海外……お金、かかっちゃうよねやっぱり)


そんな、ニューヨークなんてさ。
授業とかでちょっと聞いたかもしれないぐらいで、自分がそこにいくなんて全然想像出来ない。


(迷惑、かけちゃうかな。ままに。)




どちらともなく、ゆっくり、ゆっくり帰り道を歩き出した。
両手にはたくさんのアイドルグッズが入った袋を持って。


(卒業式なのに、ちょっとおかしいかも)


そう、
隣にこんな格好したままがいるのも、ちょっとおかしい。



(卒業……か……)


(どうして何も言わないのかな、怒ってる?)


ほんの少し斜め前を歩く母親は、どこかぽつんとした背中をしている。

このままにこがここに止まってても、そのままいっちゃいそうな……



(だめだめ、迷惑はかけない。)



頭を振りかぶってもくもくと帰路を歩く。
ああ、そういえばあの子達にあんな恥ずかしいところを見せちゃった。散々からかわれたな…でも、悪い気はしなかったな……なんて、そんなこと、ぼーっと考えてたら。







「あのアイドルグッズ、全部あなたのなの?」





ーーはっ、とした。





(やっぱり、だめだったの、かな。)



目の前の母親の顔色は伺えず、ただ俯いた。
手に少しの力を入れて握ってみたりした。


……なんて、言えばいいんだろう、
これから働いてお金を返します、って?

とりあえず謝ったほうがいい、よね?


でも、まま…わたし、わたしは、ずっと…






アイドルが、好きで




アイドルに、なりたくて……




でも、だけど


親を悲しませるなら、それも間違いだった…?



「まま、ごめんなさ」

「ごめんなさいね。にこ」



ーー耳を、疑った。

にこは、今謝ったはずなのに。
それなのに音として聞こえてきたのは母親の言葉。


「なんで、ままが謝るの……」


喉が、乾いてヒリヒリした。
さっきまでそんなことなかったのに。

「そのグッズ……全部自分で買ったんでしょう」


固まったまま、体のどこも動かせなかった。
それまでなんとも思ってなかった両手の袋が一気に重量を増した気がした。

「…………」

ただ、無言で頷いた。
前を見ている母親には見えるはずもないのに。

「まま、ごめんね、わたし、」


わたし…………



「…………」

「…………っ」


言葉が出てこない。
謝る?開き直る?どんな言葉を選べば正解なの?


さわさわ、と木々が揺れて桜の花びらがローファーにふわり、と乗る。


そういえば、にこのイメージカラーはピンクだった……なんて、変なこと思い出して。

それと同時に、ライブ会場で見た色とりどりのサイリウムの海を思い出した。



「……っ!」



アイドルが、すき。


すきなの、そんな言葉じゃ足りないぐらい。




ずっとアイドルになりたかった。


ずっと、ずっと、ずっと。


にこは、





「……にっこにっこにー♪」

「……!」

「あなたが考えたの?これ」

そう言って、ままは振り返ってふわりと微笑んだ。


「う、ん、そう…」


凛とかすごい寒いって言ってたけど。
でもわたしのお気に入り。




「ごめんなさいね、にこ。あなたにばっかり負担をかけて」





……いい香りがした。桜のような。
そう、そういえば、ままの香りはこんな感じだった。


見開いた目には、ままが着ていた黒いスーツの肩の部分だけが映っていて。

ままに抱きしめられたことを理解するのにはかなりの時間を有した。



「まま…………」


「わたしは、大銀河宇宙ナンバーワンアイドル、矢澤にこ……にこにーの大ファン。産まれた前からずっとあなたはわたしのアイドルよ、にこ」


「…………!」








泣かない、と思ってた。


卒業式なんて。



でも、ままからのその言葉で

わたしは、矢澤にこは


あと少しでスクールアイドルを卒業するんだって、

音ノ木坂学院3年生の矢澤にこは、

もう今日で卒業なんだって。


ままのその言葉が、ずどんと胸に響いた。




「……っぅ、!っ、く…」


よしよし、と。
頭を撫でるその手はあったかくて。



ああ、やっぱり母親なんだと思った。



「やりたいこと、たくさん我慢させてごめんなさいね。そのグッズも本当は私が買ってあげるべきだったのに」


思い切りかぶりを振る。
そんなこと、気にしてない。気にしてないよ。


「でも、高校生最後にあなたが輝いているところを見れてよかった。わたし、あなたの母親でよかったって、本当に心からそう思うの」



ぎゅぅ、と
ままの手に力がこもった。


ぼやぼやとピンク色が揺れた。
頬が冷たいのか熱いのかわからない。


ただひとつ、

わたしは卒業したんだなって。



そう確信した。

思えば辛いこともあった。

ひとりでいたことももちろんあった。


きっとそれをままは知ってたんだ。



途中でアイドルを諦めようとしたこと、μ’sのことも。




ああ、わたし。


わたしは、ままの娘でよかった。





わたしは、わたしで、矢澤にこでよかった。


UTXじゃなく、この音ノ木坂学院に入ってよかった。


アイドル研究部を始めてよかった。


諦めないでよかった。





穂乃果に出会えて、μ’sに入れてよかった…



色々な思いが頭の中でぐるぐる、ぐるぐる回る。
全部が昨日のことみたいだ。



ぐず、と鼻を鳴らせば
ちょっと慌てたようにポケットからティッシュを出してぐしゃぐしゃに濡れたほっぺも一緒に拭いてくれた。



ふと見上げた空はさっきと同じ空のはずなのに澄んで見えた。



そういえば、9人揃って初めてライブをした時もこんな青空だったな。





「にこ、大丈夫?」


ぼーっとしすぎたかな。
また斜め前にままが立ってる。


「うん、大丈夫」



どちらともなく手を重ねて歩く。
そのあたたかさはまるで今日の天気と同じで、思わず顔がほころんだ。









「にこ、卒業ほんとにおめでとう」


「……うん」




なんでか、言葉が上手く出てこなくて。
足元にひらっと落ちた桜の花びらを見つめながらこれからのことを少しだけ考えた。




(あのね、)



(にこも、ままの娘でよかったよ。)







直接言うのはちょっぴりまだ恥ずかしいの。

だから、もう少しだけ待っててね。

いつかもっとたくさん笑顔をプレゼントするから。

本当に、本当にありがとう。





「まま、大好き」


そう言って寄り添えば、
ぐず、と同じように鼻を鳴らしたままが笑った。



「ふふ、いきなりなんなのよ。ままもにこのことがだーいすき」






あたたかい春風が吹く今日、

わたし矢澤にこは音ノ木坂学院を、卒業した。





ーーそれはちょっとした、にことままだけの秘密のお話。














~FIN~

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