小鳥「音無小鳥、第二形態です!」 (63)

昨日までの私は、確かに第一形態でした。

生まれたまま2X年生きてきた……それが昨日までの私。


つい先日まではね、第一形態のまま大台に乗るんじゃないかと、半ば諦めてましたよ。

いつ終わるともしれない、辛い……とても長く辛い日々でした。


でもね、もうそんなことはどうでもいいんです。

だって、今の私は生まれ変わった第二形態なんだから!



彼からプロポーズされて、初めて迎える朝。

彼の部屋で、初めて迎える朝。

彼と一夜を共にして、一緒に迎える朝。

大好きなプロデューサーさんと……。


幸せすぎて4時起きです!

おはようございます!


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371221188

いちおう話としてはこれの続きですが、先に読まなくても特に問題ないです。
気が向いたらどうぞ。

小鳥「逆に考えるんだ」
小鳥「逆に考えるんだ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370784864/)

乙女の嗜みで、まずは朝シャワーです。

昨夜、もちろんお風呂は借りましたよ?

で、でも、それからその……また汗をかいちゃったから///


うん、心なしかいつもより肌のツヤがいいわ。

まるで伊織ちゃんのおでこみたい。

幸せって目に見えるものなのね、うふふ。


さっぱりしたら、次は朝食の準備ね。

彼も、いつも朝は早いみたいだけど、5時前だからさすがにまだお寝坊さん。


先に起きて、朝ごはんを作りながら彼が起きるのを待ってる……。

私だってね、こんなことしてみたかったんですよ。


うん!

我ながらよくやってる!頑張ってる!すごい!

なにがすごいって、これが妄想じゃなくリアルなことがすごいです!

それじゃ、彼の大きめのエプロンを借りて……。

ん?裸エプロン?まさか!

彼から借りた、これまた大きめのパジャマをちゃんと着てますよ。

そんながっつく必要、もう全然ないみたいな〜?


彼氏いない歴?

はっ!そんな昔のことは忘れたね。

私には、世界一素敵な恋人で婚約者がいるんですから!


あ、ちなみに第三形態が可愛い奥さんで、第四形態が素敵なママです。

うふふ♪

小鳥「こころのブル〜スカ〜イ つ〜ばさ〜で〜〜♪」


トントントンって包丁のリズムに合わせて、自然と鼻歌がこぼれる。

自分のために作る朝食なんて、苦行以外の何者でもなかったけど……。

なんでも心の持ちようなのね。


小鳥「うん、ちょうどいいお味♪」


少しでも美味しくないものなんて、彼には出せません。

メニューは定番だけど、ご飯とお味噌汁と玉子焼きに、軽く炙った海苔。

あとはサラダをたくさん盛り合わせて、栄養のバランスもバッチリ。


これなら、今すぐ彼の奥さんになっても恥ずかしくないわね。

もちろん私は今すぐでも、なんなら今日、今から挙式でも構わないんだけど……。

彼は今、大きな仕事を抱えてるから、それが一段落するまではお預け……。


大台までには間に合いますよね?ね?

P「おはようございます」

小鳥「あ、おはようございます。もっとゆっくり寝てても良かったのに」

P「習慣なんで、自然と目が覚めるんですよ」


時刻はAM5:30。あの出勤時間なら、こんな早いのも納得。

でも、ちょっと残念。

目覚めのキスで起こしてあげようと思ってたのに。


P「いい匂いがすると思ったら、朝食を作っててくれたんですか?」

小鳥「はい。お口に合うかどうか……」

P「そんな心配はいりませんよ」

 グイッ

小鳥「あ……」

P「こんな可愛い恋人が作ってくれたごはんが、美味しくないわけがないですから」

 チュッ

小鳥「ん……」


不意打ち……。

朝からずるいです……。

大好きなあなたのキスは、やっぱりドキドキします。

昨夜から何度キスして、何度キスされたか数え切れないぐらいなのに。


小鳥「もう……お野菜切ってる最中なのに、危ないですよ?」


あなたのために作ったサラダが、鉄分とヘモグロビンの隠し味で台無しになるところでした。


P「はい、ごめんなさい……」

小鳥「これからは、お料理してる時は禁止です。いいですね?」


その分、二人の時間にもっと……ね?


P「エプロン姿の小鳥さんが可愛くて、我慢できる自信がないです」

小鳥「……///」


こ、こんなことを真顔で言う人とは知りませんでした……。

自慢じゃないけど、私はそういうのに慣れてないんですからね!もう!

もう……///

小鳥「すぐにできますから、もう邪魔しちゃダメです!」

P「わかりました。それじゃ、シャワーでも浴びてきます」

小鳥「はい、ごゆっくり」


シャワー……。

そうよね、プロデューサーさんも昨夜……。

あうぅ……///


こんなドキドキしてたら手元が……。

もう無理!あとはレタスをちぎっておしまい!


あ、お昼のお弁当の分がまだだった。

玉子焼きを少し余らせて、あとは炒め物と……揚げ物はちょっと無理ね。

今日は時間も材料もないから、足りない分は冷凍食品で手早く済ませましょう。


だから早く落ち着いて、私のドキドキ!

P「ごちそうさまでした!」

小鳥「お粗末さまでした。あの……」

P「ん?もちろん、今まで食べたどの朝食より美味しかったですよ」

小鳥「ふふ、ありがとうございます」


本当に美味しそうに、子供みたいにガツガツ食べてくれて……。

そんなあなたを見てるだけで、私は幸せでお腹いっぱいです♪


P「それじゃ、片付けは俺がやるんで、小鳥さんは着替えとか準備を済ませちゃってください」

小鳥「え?でも……」

P「美味しい朝ごはんをご馳走になったんだから、洗い物ぐらいは、ね?」

小鳥「はい。それならお願いします」

P「任せてください」

小鳥「……あ」

P「?」

小鳥「覗いちゃダメですよ?」

P「え?ダメなんですか?」

小鳥「恋人同士でも、ダメなものはダメなんです!」

P「はーい」

小鳥「ふふ」

準備が整ったら、二人で一緒に通勤。

どちらからともなく……手をつないで///


私たちより早く出社するのなんて、いたとしても律子さんぐらいだから。

誰かに見られるかも、なんて気にしなくていいのは、早朝出勤のいいところよね。


小鳥「律子さんには事情を……?」

P「話したほうがいいでしょうね。律子が味方だと心強いし」

小鳥「他のみんなには……?」

P「ん〜……」

小鳥「みんな多感な時期だから、今はまだ内緒の方が……」

P「そう、ですね……」

多感なんて言ったのは、自分への言い訳。

私がわかるだけでも、確実に何人かはプロデューサーさんのこと……。

彼女たちの思いを踏みにじって、耐えられるだけの覚悟が、今はまだありません。


P「大丈夫です」

小鳥「え?」

P「なにがあっても、俺がいますから」

小鳥「は、はい……///」


もう、この手は離せないかも……。

このままずっと、事務所に着かなければいいな……。

 ♪〜〜

プロデューサーさんに着信。

こんな早くに誰かしら?


P「もしもし……はい、おはようございます…………はい、はい」

P「律子は?…………ああ、今移動中ですね、たぶん」


律子さん?竜宮小町の誰か?

だとしたら、プロデューサーさんの話し方からして……。


P「どこですか?…………はい、そこならわかります」

P「今から俺が行きますから、そこから少しでも動かないでくださいね」


ああ、やっぱり。

なんで今朝に限って、こんな早く……。


 ギュッ

つないだ手を少しだけ強く握ってみた。

気づいてくれましたか?

P「いいですか。そこを絶対に…………いやいや!言ってるそばから動かないでくださいよ」

P「すぐに行きます。それじゃ」

 ピッ


小鳥「あずささんですか?」

P「ええ。今から迎えに行ってきます」

P「1時間ぐらいは掛かるかもしれませんが」

小鳥「はい……」


それでもまだ、始業時間には間に合いますもんね。

早く出てきてよかった……と思いたいけど。

 ギュッ

P「あの……?」

小鳥「……」


頭では理解できても、右手が言うことを聞いてくれないんです!

わかってくれないんですか?


P「あずささんを放っておく訳にはいきませんよね?俺はプロデューサーなんだから」

小鳥「はい……」

 パッ…


ほんとは嫌だけど、これ以上あなたを困らせて、めんどくさい女だとは思われたくないから……。

なんだろ私……みっともないな。

彼より何年も長く生きてるのに、私のほうが甘えん坊の子供みたい……。


P「それじゃ、事務所の方はお願いします」

小鳥「わかりました」

P「いってきます」

小鳥「いってらっしゃい」

あずささんか……。

うちのアイドルみんなの中で最年長の、大人の女性。

ええ、それでも私よりはずっと若いですよ。


毎日のように迷子になることと、少しばかり天然なことを除けば、女性としてほぼ完璧な人。

家事スキルまで備えてるんだから、いくらなんでも反則よね。


最大の武器は……あれはね、実際に抱きつかれてみないとわからないわ。

はい、同性の私ですらトロトロのフワフワでメロメロでした。

私だって密かに自信があったのに……あれには勝てません!


担当の違うプロデューサーさんとは、比較的接点が少ないのが救い……。


救い?

我ながら嫌な言い方……。

 ── 1時間後 765プロ事務所 ──


P「あずささん、保護してきましたー」

あずさ「すいませ〜ん、遅くなりました〜」

律子「あずささん、少しぐらい遅くなってもいいですから、なるべく私を頼ってくださいね」

あずさ「はい、ごめんなさい……」

律子「おはようございます、プロデューサー殿。ご迷惑をおかけしました」

P「おはよう。お互い様だから気にしなくていいよ」

律子「そうですね、ありがとうございます」

あずさ「あの……ありがとうございました」

P「いえいえ、あずささんのお役にたてて光栄ですよ」

あずさ「あ、あらあら……///」

小鳥「……」ムッ

わかってはいるんです。

この人は、自分の言動が女性にどう受け取られるか、無自覚なだけなんだって。

私だって、同じようなことが何度も……あれ?


本当に同じようなこと?

プロデューサーさん、実は私のことが結構最初のころから気になってたって……。

やだもう、照れちゃう!///


じゃなくて!

もしかして……私ってば、アプローチされてるとは気づかずにスルーしてた!?


……。

あ、私にわかるわけないわ。

わかるぐらいなら、こんな歳まで100%乙女じゃなかったもんね!

P「よし、みんな集まってくれ」

P「すまないが、時間がないから手短にミーティングを済ませるぞ」

一同「はい!」


朝から収録やレコーディングに向かう子たちだけだから、全員いるわけじゃないけど。

このうちの何人かは、やっぱり……。


でも、だったらどうするの?

みんなが可哀想だから、私が身を引く?

できるわけない。

彼と一緒にいられることを、知ってしまった後なんだから。


P「こと……」

P「……」

P「音無さん」

小鳥「え……?あ、はい」


そうか、みんなの前じゃ……。

自分で「みんなには内緒に」なんて言っていおて、勝手だとは思うけど……。

なんか、ヤダな……。

P「全員送ったら、一旦戻ってきます。事務所のほうはお願いしますね」

小鳥「はい、気をつけて」

P「いってきます」

一同「いってきまーす!」

小鳥「いってらっしゃい!」


律子さんたちも、ミーティングが終わったら出発のはず。

私一人になって、昼頃にプロデューサーさんが戻ってくるってことよね。

プロデューサーさんだけ……。


ふ、二人っきりでランチライム!?

私の妄想空間だった一人きりの事務所が、二人のためのラブラブ空間に!?

頑張ってお弁当作ってきてよかった!


社長!空気読めますよね!読んでくださいよ!

 ── 昼 765プロ事務所 ──


P「ただいま戻りましたー」

P「……」キョロキョロ

小鳥「ふふ、私しかいませんよ?」


社長も空気を読んでくれましたし。


あ、プロデューサーさん、仕事モードから……。

二人だけの時間の……恋人モードに……。

こういうの、私にもわかるものなんだ……自分でもびっくりです。


P「ただいま、小鳥さん」

小鳥「はい……おかえりなさい///」


じ、事務所ですからね!

お昼休みだからって、私は抱きついたりしませんよ!

キスなんてしちゃダメなんですからね!


P「小鳥さん……」

 グイッ

小鳥「あ……ダメです……」

P「ごめん……我慢できない」

小鳥「ん……」

 チュッ


今日だけは特別です……。

小鳥「は、はい。あ〜〜ん」

P「あ〜〜……んむ」モグモグ

P「うん、さっぱりしてて美味しいです」

小鳥「そうですか?あはは……///」


妄そ……イメージトレーニングでさんざん鍛えたシチュエーションを、ついに実戦で!

などと意気込んでみたものの、いざとなると、やっぱり恥ずかしいもので……。


彼のほうからお願いされたときは、耳を疑いましたね。

仕事モードだと、年上の私よりずっとしっかりしてて、頼りがいのある人なのに。

恋人モードだと甘々で……でも、やっぱり彼にリードされちゃってます。


ええ、私が主導権を持ってても、ろくなことにはなりませんからね。

身の程はわきまえてますとも。

小鳥「じゃあ、次のおかずは……」


 prrrrr……prrrrr……

両手がふさがってるのに、どうやって電話に出ろっていうんですか!

……ってわけにはいきませんよね、はい。

ん〜……なんか、嫌な予感しかしない。


P「あ、俺が出ますよ」

小鳥「そうですか?お願いします」

P「はい、765プロ……やよいか?どうした?」


あ、このパターン……。

いつも、こういう電話が来ると……。


P「うん、うん……わかった、今から俺が行く」

P「心配しなくていいから。それじゃ」

仕事モードに入っちゃった……。

でも、仕方のないこと。

この人は、みんなのプロデューサーなんだから。


P「収録組が、よその事務所のアイドルグループともめたみたいです」

P「急いで行ってきます」

小鳥「はい。状況がわかったら、こちらにも連絡ください」

P「ええ、それじゃ……あ、お弁当あとで食べますから」

小鳥「はい……」

P「いってきます!」

小鳥「いってらっしゃい……」


たぶん、彼はもう一日戻ってこれない。

お弁当、無駄になっちゃうかも……。


でも、これが彼と私の仕事。

うん、仕事しなきゃ……。

 ── 夜 765プロ事務所 ──


結局プロデューサーさんは、現場対応に追われて戻ってこれず。

一度だけ業務上の連絡があったけど、思った以上にもめてたようで……。

相手先と話がつくのは、もっと遅くなりそうとか……。


お弁当は自分のお夕飯がわりにしようかと思ったけど、なんだか悲しくなって食べられなかった。

早く食べるか捨てるかしないと悪くなっちゃうのに……。


お夕飯、彼のために考えたメニュー。

お買い物するつもりだった食材のメモを丸めて捨てた。


浮かれていた昼前の自分が、なんだか腹立たしい。

上手くいかないな……。


 prrrrr……prrrrr……

あ、これたぶん……。


小鳥「はい、765プロです」

P『音無さんですか?連絡遅くなってすいません』

小鳥「プロデューサーさん……」

やっぱり彼。

私に直接じゃなく、会社の電話にかけてきたのは、仕事の報告だから。

だから私は、小鳥さんじゃなくて音無さん。


P『先方の事務所とは話がつきそうなんですが、アイドルのほうがヘソを曲げてるみたいで』

P『まだしばらくかかりそうなんで、今日は事務所に戻らず直帰します』

小鳥「わかりました。私のほうで戸締りしておきます」

P『お願いします。それじゃ、先方を待たせてるので……』


それだけ?


小鳥「それだけですか?」

P『え?』

小鳥「他になにも言ってくれないんですか?」

P『……』


こんなこと、言いたくなかったのに。言わないつもりだったのに。


P『仕事中ですよ。わかってください』

小鳥「わかりました。もういいです」

 ガチャ


バカだ、私……。

最低だ……。

 ── 同日夜 たるき亭 ──


小鳥「別にね、『ごめん小鳥、愛してるよ』なんて言ってくれとは言いませんよ?」

小鳥「言って欲しいですけど!」

 ゴク…ゴク…

律子「うっわ、めんどくさ……」

小鳥「聞こえるように心の声を言うなんて、ひどいじゃないですか!」バンッ!

律子「ええ、心からの声ですから」


なに上手いこと言ってんだ、コンチクショー!

座布団ないから、椅子もう一個持ってきて!

……。

なんてね。


ひどいのは私のほう。

彼とのことで何度か相談に乗ってもらったけど、本当は律子さんだって彼のことを……。

本人は絶対に認めようとはしないけどね。


でも、私が今頼れるのは律子さんだけ。

ごめんなさい。今日だけは甘えさせてください……。

律子「お酒も飲めないのに、こんなことに付き合わされるほうの身にもなってほしいんですけど」

小鳥「律子さんまで、そんな冷たいこと言うんですか!?」

 ゴク…ゴク…

小鳥「ぷはぁ〜!」

律子「おい、飲みすぎ!」

小鳥「飲まなきゃやってらんねぇってんだ、バーローめ!」ヒック

律子「だいたい、なんなんですかあなたたちは?」

律子「せっかく上手くいったんだから、そのまま丸く収まっててくださいよ」

小鳥「もういいわ……。冷たい恋人と同僚しかいない私には、お酒しかないのよ……」

 ゴク…ゴク…

律子「あのバカプロデューサー!私にこんな負債を押し付けやがって……!」

小鳥「彼のこと悪く言わないでください!」バンッ!

律子「ああもう、ほんとめんどくさ!」

律子「ラブコメがやりたかったら、私に関係ないところでやれ!」


明日から気をつけます……。

 ── 深夜 小鳥自宅 ──


律子「ほら、おうちに着きましたよ。はいはい、靴脱いで!」

律子「玄関に転がらないで、せめてベッドまで行く!」

小鳥「ふゎ〜い……」

律子「鍵は外から閉めて、ドアポストに放り込んでおきますから」

律子「風邪ひかないように、ちゃんと着替えて寝てくださいね」

小鳥「え〜?泊まっていってくれないんですか〜?」

律子「これ以上つきあってられません!」

小鳥「律子さんのいけず〜……」


ごめんなさい。ありがとう、律子さん。

いつも、こんなバカな私に優しくしてくれて……。


律子「それじゃ、おやすみなさい」

小鳥「おやすみなさ〜い……」


あ、お弁当箱、事務所に置いてきちゃったかも……。

ますます処分するのがめんどくさい……。

なんで、いちいち今思い出すのよ……。

 ガチャ…バタン

律子さん、出ていった……。

大して広くもない部屋なのに、一人きりがこんなに寂しいなんて……。


「─────」

「────」


あれ?外で話し声がする。

律子さんと、この声って……。


 ガチャ

あ、入ってきた。

か、彼よね?泥棒さんじゃないわよね?

とりあえず、シーツで顔を……。


P「ただいま、小鳥さん」


おかえりなさい、プロデューサーさん。

あれ?なんで声が出ないの?

P「もう寝てますか?」


いえ、狸寝入りです。

どうせバレてますよね?


P「今日は現場の方が余裕なくて、小鳥さんに……」

P「いや、言い訳してもしょうがないですね」


わかってます。

あなたが悪くないことはわかってます。


P「小鳥さんのことを気遣ってあげられなくて、ごめんなさい」

P「どうしても直接謝りたくて……」


謝るのは私の方です。

ごめんなさい……。

P「忘れ物があったから、さっき事務所に寄ってきました」

P「お弁当、置きっぱなしだったからいただきました。美味しかったです」


うそ。あんなに時間が経って、美味しいわけありません。

お腹、壊さないでくださいね。


P「弁当箱、ここに置いておきますね」

P「それじゃ帰ります」


嫌です……。

でも、これ以上あなたを困らせるのはもっと嫌です。


P「朝、迎えに来ます」

P「風邪ひかないように、ちゃんと着替えて寝てくださいね」


律子さんと同じこと言ってる……バカ。

待ってます……。


P「おやすみなさい」

小鳥「おやすみなさい……」

 ── 翌朝 小鳥自宅 ──


今気づいたけど、携帯に彼からの履歴が残ってた。

たぶんこれ、酔い潰れて律子さんに送ってもらってた間よね。

通話したことになってる……ってことは律子さんが出た?


そっか、それでプロデューサーさんが……。

もう……ほんとにおせっかい焼きなんだから。

彼がいなかったら、好きになっちゃいそうですよ。


そんな律子さんを心配させるわけにはいきませんからね。

風邪ひかないように、ちゃんとシャワーを浴びて着替えてから寝た……

はずなのに、朝起きたらなぜか下着だけでした!不思議!


それにしてもひどい顔……。

彼にこんな顔見られなくてよかったかも……。

 ピンポーン

早いですよ!

まだ、ろくに準備も出来てないのに……。


だいたい、寝てる時間なんてあったんですか?

ちゃんと休んでくれないと困りますよ。


P「おはようございます、小鳥さん」

小鳥「おはようございます……」

P「コンビニのおにぎりとサンドイッチですけど、簡単に食事を済ませてから出ましょう」

小鳥「はい……」


昨日に続いて、彼と手をつないでの出勤。

二人とも無言で、空気が重い。

この内蔵にのし掛るような空気は、二日酔いに効きますね!あはは。


はぁ……。

ええ、私が素直になれないのがいけないんです。


ああ、子供の頃、こんあことがあったなぁ……。

学校に行きたくないと駄々をこねて、お母さんに無理やり手を引かれて連れて行かれたっけ。

あれから何年……どころじゃないけど経ってると思ってるのよ、私……。

 ── 朝 765プロ事務所 ──


高木「───えー、最近は喜ばしいことに、君たちの努力が認められて───」

高木「───こうして全員が事務所に揃うことも少なくなったが───」


社長、話が長いです……。

嫌々学校に連れられて、朝礼で貧血起こして倒れたトラウマを思い出させるつもりですか!


高木「私からは以上だ」

P「社長。自分からもよろしいでしょうか」

高木「ん、なにかね?」


プロデューサーさん?どうしたんだろ?

なんだか、いつにもまして背筋が伸びてて……こっち見た?


P「小鳥さん、隣に来てください」

小鳥「へ?」


今、音無さんじゃなく、小鳥さんって?

な、なんだかわからないけど、隣にですね。

あ、名前で読んだことに気づいた子が不思議そうにしてる。

P「俺は、音無さん……小鳥さんと結婚します」

小鳥「え?」

一同「え……」

一同「えええぇぇぇぇぇ!?」


言っちゃったぁ!

マジですか、プロデューサーさん!?


うわぁ……わかってはいたけど、みんなの反応が……。

何人か気絶してるんじゃないかしら?

このあとの仕事に影響なければいいけど……。

律子さんだけ、呆れたような、安心したような顔で……。

あ、「やれやれ」って言ってる。

それ、実際に口に出していう人はあまりいないんですよ、律子さん。


高木「ほ、本当かね、君!?」

P「はい!」

高木「お、音無くん?」


ええ、わかってる。

ここで引いたら取り返しがつかないわ!


小鳥「はい!音無小鳥はプロデューサーさんと結婚します!」

 ── 夜 P自宅 ──


小鳥「事前に相談ぐらいしてくれてもいいじゃないですか!」

P「相談したら断ったでしょ?」

小鳥「う……」


ええ、そうですとも。

意気地なしで悪うございましたね!


せっかく、彼のベッドに隣り合って座ってるのに……。

肩を寄せて、体を預けられるようなムードにならないじゃないですか。

やっと二人だけの時間を取り戻せたんだから、私はもっと甘えたいんです!


P「俺はこれでよかったと思ってます」

P「小鳥さんは嫌でしたか?」

小鳥「そんな、こと……」


嫌なわけがありません。嬉しいに決まってます。

でも……。

予想していたこととはいえ、何人かは明らかに落ち込んでた。

顔に出さなかっただけの子だって……。

幸い、敵意を向けられるようなことはなかったけど、明日からはどうなるかなんてわからない。


ううん、みんないい子なのはわかってる。

信じるしかないってことも。

みんなと、あなたを。


 ギュッ

P「小鳥さん……」

小鳥「あ……」


この人の腕の中って、なんでこんなに安心できるんだろ……。

あったかい……。


P「言ったでしょ。なにがあっても俺がいます」

P「大丈夫です」


そうですね。ほかの何を失っても、あなたがいるんだから。


小鳥「はい……あなたを信じます」


信じています。

P「次の休みに、一緒に家を探しましょう」

小鳥「家を?」

P「そう、一軒家……」

P「いや、ここは男らしく新築で!」

小鳥「それって……」

P「俺と小鳥さんの、二人の家です」

小鳥「……!」

小鳥「はい!」


 ── 数ヵ月後 ──

P「小鳥さん、よく似合ってますよ」

小鳥「こんな素敵なドレス……夢みたいです」

P「それは、こっちのセリフです」

P「綺麗です、小鳥さん」

小鳥「もう……///」


今から、あなたの花嫁になるんですから。

あなたの隣にふさわしい私でいたいんです。


ううん、きっとそうなります。

あなたの、生涯の伴侶として。

小鳥「それで、いつまでさん付けなんですか?」

P「それは小鳥さんもでしょ」

小鳥「あなたがやめないからですよ」

P「じゃあ、小鳥さんがやめたら俺もやめます」

小鳥「あなたからお先に」

P「いえいえ、小鳥さんからどうぞ」

小鳥「……」

P「……」

小鳥「ふふ」

P「ははは」


たぶん、ずっと変わらないままなんだと思います。

これが、私たちだから。

小鳥「第二形態も、今日で終了です」

P「なんです、それ?」

小鳥「私の幸せの段階です♪」

P「?」

小鳥「もっと幸せになるってことですよ!」

P「じゃあ、それよりもっと幸せになりましょう」

小鳥「もちろん!」


二人で、手をつないで。


P「行きましょうか!」

小鳥「はい!」



おわり

今まで、くっつくまでばっかりだったので、たまにはくっついた後を

ってことで、「逆に考えるんだ」から話は続いてますが、
こっちはこっちで独立したSSとして書いたつもりです

第三形態と第四形態は今のところ予定なし
話を思いついたら書くかも

読んでくれたみんな、ありがとう

誕生日も近いし、次はできればりっちゃんで!

乙ありがとう
2、3日したら依頼出します

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