卯月「みんなで頑張ります!」 (79)


これはモバマスssです
気分を害する表現や展開があるかもしれません


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P「みんなが卯月みたいだったら、きっと良い世界なのにな」


P(そんな何気ない一言が、すべての発端だった)


P(みんなが頑張り屋で優しい心を持っていたら、そんな事を考えながらポツリとつぶやいた)


P(そんなに声は大きくなかったはずだ。けれど卯月には聞こえていたらしい)


卯月「…はいっ!島村卯月、頑張ります!」


P(あまり会話が成り立っていないきもするけど、そんな事もあるか)


P(そんな風に、その時は流してしまった)


P(もし、その時)


P(俺が、会話を続けていたら)


P(卯月の表情をちゃんと見ていたら)


P(こんな事にはならなかっただろう)




P(翌日電車に乗ると、いつも通り満席だった)


P(まぁ4駅だし、立ってスマホ弄ってればすぐだしいいか)


「あの…よければ、座りますか?」


P(前の席に座った、高校生の女の子に声を掛けらてた)


P(別段俺が老けている訳でも怪我をしている訳でもないが…)


P「いや、あと4駅だから大丈夫だよ」


「いえ、私は次の駅で降りますから」


P(と同時に、電車が駅に着いた)


P「成る程…じゃ、ありがとう」


「はいっ!頑張ります!」


P(何処かで聞いた事のある言い方だ…もしかしたらあの子は卯月のファンだったのかもしれない)


P(なんとなく自分が得意げになりながら、事務所へと向かった)




ガチャ


P「おはようございます」


ちひろ「おはようございます、プロデューサーさん。今日も頑張りましょう!」


P「はい。もう誰か来てますか?」


ちひろ「もう凛ちゃんと未央ちゃんが来てますよ」


P「早いなぁ…取り敢えず、みんなが揃うまで昨日の続きやっちゃいます」


ちひろ「あ、でしたら…ささやかながら、頑張るプロデューサーさんに、っと」コトッ


P「何時もありがとうございます。このドリンク飲むと元気が出るんですよね。お金払いますよ」


ちひろ「いえいえ、私もプロデューサーさんの事を応援していますから。お代は結構です」


P(…おかしい。何かが…)


P「あ、ありがとうございます」




P(パソコンと睨めっこしているうちに、全員揃っていた)


P(けれど、数人の様子がおかしい)


P(杏はいつも通りダラけていて…凛、未央、みくが凄く不安そうな表情をしている)


P(っと、取り敢えず挨拶からだな)


P「おはよう、皆んな今日はレッスンだよな?」


ちひろ「そうですよ。もうすぐ大きなライブですから」


P「よし、じゃあトレーナーさんにはもう色々伝えてあるから。通しでやった後に何かあったらまた教えてくれ」


P「一回通しでやってみないと気づけない事もあるからな」


P「身体傷めないようにだけ気を付けてな」


「はいっ!頑張ります!」


P(…部屋に、みんなの頑張りますの声が響き渡った)


P「…未央、凛、みく、杏…近いうちに四人での仕事があるかもしれないから部屋に来てもらっていいか?」


未央「お、おっけー!この未央ちゃんをご指名とはなかなか先方も見る目がありますなぁ」


莉嘉「四人ともいいなー、頑張ってね!」


バタンッ



P「…何があった?」


凛「分かんない…少なくとも、みんな正常じゃないのだけは確かかな」


未央「しまむーは何時も通りだったけど…他のみんなが、ね」


みく「みんながおかしくなっても、みくは自分を曲げないよ!」


杏「…うーん…そもそもさ、何が変なんだと思う?」


凛「…みんな、なんだか張り切り過ぎてない?事務所だけじゃなくて」


P「ちひろさんがやたら優しいかったな。今日も1日頑張りましょう!ってさ」


みく「ね、みく久し振りに…って言うか初めて電車で席を譲られたもん」


P「あ、それは俺もだ。老けて見えたとは思いたくなかったけど、みくのを聞いて安心出来たよ」


未央「私も何時も以上にみんなに応援されてたかな。頑張ってね!って」


杏「頑張って、ね…」





P「みく、李衣菜と話してどうだった?」


みく「なんかね、めっちゃ優しかった。今日も猫耳着けて頑張ってね!って…」


P「他、何かないか?」


未央「あとらんらんが凄くにこにこしながら普通の言葉を喋ってて驚いたかな」


凛「あ、そう言えばそうだったね。久し振りに普通に喋ってるの見た気がする」


未央「ライブ頑張りましょう!ってまぁ変な事言ってた訳じゃないんだけどねー」


杏「…頑張る、かーやっぱり」


凛「何か分かったの?」


杏「いや、まだ憶測に過ぎないし変に関係拗らせたくないから言わないけどね?」


みく「うーん、まぁ李衣菜ちゃんが猫耳に理解を持ってくれたと思えば…」


未央「私達の思い過ごしなのかな。色々考え過ぎてるかも」


P「かもしれないな。まぁ今日一日いつも通り過ごして何かあったらすぐ連絡してくれ」




P「悪かったな、時間とっちゃって」


未央「あっはっは、なになに未央ちゃんとプロデューサーの仲じゃないか!」


ちひろ「お話は纏まりましたか?」


P「ええ、取り敢えず俺は少し他の部署をまわってきます」


凛「それじゃ、私達もレッスン行ってくるから」


杏「杏はめんどーだし…いや行くからね?流石にもうライブ前だし」


ちひろ「では、みなさん頑張ってきて下さい」


バタンッ


P「さて…他の人たちも見ておかないといけないな」





美嘉「あっ、プロデューサーさんじゃん」


P「あ、おはよう美嘉」


美嘉「何してんの?こんな場所で。ライブ近いんでしょ?」


P「にしてはやたら笑顔だな。そっちこそ何処に行くんだ?」


美嘉「レッスンルームだよ。ほら、みんなが頑張ってるならアタシも頑張らなきゃ!ってね」


P「そうか、それじゃ…ん?」


美嘉「じゃあね、プロデューサーさん。そっちも頑張ってね!」


P(…美嘉って、俺の事プロデューサーさんって呼んでたっけ…)


P(…考え過ぎか?いやでも急に変わる事なんて無いよな…)


P「取り敢えず、他の人にも会ってみるか」




楓「あら…プロデューサーさん。おはようございます」


P「おはようございます、楓さん」


楓「もうすぐ大きなライブらいしですね。お忙しいとは思いますが、頑張って下さい」


P「ダジャレを交えてこないなんて珍しくですね。確かに最近は忙しいですけど、近いうちにまた飲みに行きましょう」


楓「…何を言っているんですか?お酒はあまり身体に良くありませんし、そんな時間があったらレッスンを受けますから」


P「…え?」


楓「如何しましたか?プロデューサーさん」


P「あっ、いえ。そう言えば近くに美味しい焼肉屋が出来たらしいので、今度お昼にでも…」


楓「お肉ばかりでは身体に良くありませんよ?きちんと野菜も食べないと…」


P「そ、そうですよね。おっと、はやく書類提出しにいかないと」


楓「あっ、すみません…時間を取ってしまって…」


P「では、また近いうちに」


楓「はい、頑張って下さい」




P(変に疑われない様に、本当に専務の部屋の前まで来たが…)


P(なんだ?何が起きている?楓さんがお酒を拒否するなんてあり得ない…)


P(それに、お肉だけでなく野菜も…最近、何処かで聞いた様な気がする)


P「…なんなんだろうなぁ」


専務「一体こんな場所で何をしている?」


P「え?あっ、すみません。次の企画等の書類を…」


専務「まぁいい、入りたまえプロデューサーさん」


P(…は?何言ってるんだ専務は。しかもやたら笑顔で)


ガチャ


専務「それで…次の企画とやらは?」


P「この書類です。まだ完成とは言えませんが方向性等を」


専務「…ふむ」ペラッ


専務「悪く無いな。特にこの、テーマは笑顔という部分」


P「はぁ?!」


専務「…何を驚いているんだ?この企画書を書いたのはプロデューサーさんではないのか?」


P「い、いえ。失礼しました」



P(なんだなんだなんなんだ!美嘉はまぁ分かる、楓さんもまぁ疲れてるんだろう。だけど)


専務「ふむ…期待している。頑張ってくれ」


P(この専務はキャラ崩壊とかのレベルじゃない。そもそも立場が圧倒的に下の俺にプロデューサーさん、って…)


P「…失礼します」


ガチャ


P(何が起きてるんだ…)


P(不気味すぎる。すれ違う人みな活気に溢れている。だけど…)


P(なんでこんなに、貼り付けた様な笑顔なんだ…)


P(…ともかく、情報を集めないと。早く凛や杏と…)


杏「あれ、プロデューサーさんじゃん」


P「お、丁度良かった…っておい、レッスンどうしたんだよ」


杏「一旦休憩だよー。まさかライブ前ですら私がサボると思った?」


P「いや、杏はこういう時はちゃんとやるよな。悪かった」



P「それにしても、なんだか楽しそうだな」


杏「まーね、レッスン楽しかったから」


P「そうか、そりゃいい事だ。ところでそっちは何か変わった事とかあったか?」


杏「特に何もないよ?プロデューサーさん考え過ぎじゃない?」


P「いや、流石にこれは何もないじゃ済ませられないだろ…」


杏「考え過ぎだって。プロデューサーさん疲れてるんじゃない?」


P(…なぁ、杏。なんでそんなににやけてるんだ?)


杏「まぁいいや、私はまたレッスン頑張ってくるから」


P「…おう。じゃ、また後でな」



P(…杏が、頑張るだって?)


P(おいおいおい、まるで卯月の真似をしてるみたいじゃないか)


P(と言うかむしろ、ほんとに卯月みたいになってるぞ)


P(…なんて、普通だったら笑い飛ばしていただろう)


P(けれど)


奏「あら。プロデューサーさん疲れてる顔してるわ。頑張って、応援してるから」


P「…ありがとう」


部長「どうしたんだい?プロデューサーさん。疲れているなら休むといいよ、後は私が頑張ってやっておこう」


P「ありがとうございます!」


幸子「ふふーん、カワイイ私がもっとカワイくなる為頑張らないといけませんね!」


P「…そうですね」


フレデリカ「フンフンフフーン」


ありす「橘ありす、頑張ります!」


P(…そんな馬鹿げた仮説が正しいと思えてしまうくらいには、馬鹿げた事態になっていた)



~プロデューサー室~


P「…もう多分、みんな何となく気付いてると思うが…」


凛「…うん、やっぱり」


未央「みんな、しまむーみたいになってるね」


みく「あれ?杏チャンは?」


P「残念ながら…もう、卯月になっていた」


みく「卯月になっていた、ってなかなか凄い響きだにゃ…」


凛「これ、幾ら何でも異常だよ。会う人会う人みんな笑顔を浮かべて頑張ります、って…」


P「俺への呼び方も、みんなプロデューサーさんになってたし」


未央「普通だったら喜べる事なんだけどねー。ほんとに何が起きてるんだろ」


P「そう言えば、杏はいつからあんな風になってたんだ?」


凛「そう言えば…休憩前に、卯月が杏に話しかけてた気がするけど…」


みく「その時に何かあったって考えるべきなのかも」


P「杏は何か気付いてたのかもしれないが…今となっては何も聞けそうにないからな…」




凛「…正直さ、かなり不気味だよね」


未央「しまむーの笑顔と頑張りは私達もいつも助けられてるけど、みんながみんなってなるとね」


P「これは、感染って考えていいものなのかな」


みく「杏チャンが朝まではいつも通りだったからそうなのかも」


未央「となると何が原因なのかと何で感染するのかを考えないとね」


凛「原因は…ほんとに卯月にあるのかな」


P「そうと決めるのは早計じゃないか?そもそも何でこんなことになってるのかも分からないし…」


みく「じゃあ、みくが夜李衣菜ちゃんに聞いてみるにゃ。昨日の夜まではいつも通りだったし、何かヒントが見つかるかも」


P「頼んだぞ、みく」


みく「任せるにゃ!」




P(家に帰ってテレビをつけると、気象予報士もまた不気味な程笑顔だった)


『明日は今日以上に冷え込むでしょう。みなさん、頑張りましょう!』


P(他のニュースキャスター達にも数人は普通の表情の人がいたのに、番組が終わる頃には皆ニコニコしていた)


P(昨日まではこんなことになっていなかったのに…)


P(そう言えば、昨日は卯月が生放送の番組に出ていたんだっけか。数字もなかり高かったと聞いた)


P(あんなに楽しみにしていた生放送の音楽番組も、奇妙過ぎて見ていられない)


P(明日また、外に出なければいけないのが少し怖い。そんな怖いなんて理由で休めたら苦労しないが)


P「…ふぅ。今日は寝るか」



~翌日、事務所~


P「おはようございます」


みく「おはようにゃ!アイドルより後にくるなんて、プロデューサーさんは頑張りが足りないにゃ!」


P「…なぁ、みく。昨日の夜は結局どうだったんだ?」


みく「李衣菜ちゃんの事?別に何もなかったよ?」


P「そうか、うん」


みく「へんなプロデューサーさんだにゃ」


P「…なぁ凛、未央、とりあえず部屋に来てくれないか?」


未央「りょーかい!」


凛「うん…」



P「…みくも、ダメみたいだな」


凛「なんなの、これ…テレビ見てもさ、みんな笑顔を貼り付けてて…なんか怖いよ」


未央「みんな頑張れ、頑張る、って。あれはしまむーの性格あってこそだしずっと言われ続けると気が滅入りそうだよね」


P「悪ふざけなんてレベルじゃないよな…なんなんだ」


ドンドンドン!ドンドンドン!


未央「ひっ?!」


凛「なに?!今打ち合わせ中なんだけど!」


ドンドンドン!ドンドンドン!


みく「ねぇ、なに話してるの?別にみくは普通だよ?」


P「…鍵掛けておいてよかったな」


ドンドンドン!ドンドンドン!


みく「ねーってばー!みく達と一緒にレッスン行こ?頑張ろ?」


李衣菜「そーですよ、プロデューサーさん。鍵は確かにロックですけど」


P「李衣菜は正常運転だな」




ドンドンドン!ドンドンドン!


P「悪いが打ち合わせ中なんだ、少しまっててくれー」


凛「…これから、どうしよ…」


P「取り敢えず、何もなかったフリしていつも通りに過ごすしかないな。実害はないし、解決策を探そう」


未央「とは言えこっちのブレインが真っ先に落とされちゃってるし…」


P「事務所でまだ正常な人を探してくる。一回集まって話し合おう」


凛「…わかった、プロデューサーも気を付けてね」


P「おう、お前らも迂闊な事は言うなよ」




「頑張ります!」


「笑顔ですっ!ブイッ!」


P(大の大人が、しかも男がそんな事しても気持ち悪いだけなんだけどな…)


P(兎に角、他に正常な人を探さないと。先ずはクローネの部屋に行ってみるか)


コンコンコン、ガチャ


ありす「貴方は…シンデレラプロジェクトのプロデューサーさんですよね?」


P「あぁ、おはようありす。ちょっと用事があるんだけど入って大丈夫か?」


ありす「ごゆっくりどうぞ。すぐいちごパスタを用意しますから」


P「大丈夫です、いやほんとに」


P(さて、確かありすと奏はダメだったな…他の人達は…)


文香「…」シュッシュッ


唯「…」シュッシュッ


P(笑顔で横ステップをひたすら繰り返している唯と文香…あれはアウトだ)


周子「おなかすいたーん、生ハムメロン食べたい」


P(アウト)


奈緒「やっぱり笑顔が一番だよな、ぶいっ!」


加蓮「…奈緒、ほんとにどうしたの?」


P(よしっ!加蓮は大丈夫だ!)


フレデリカ「フンフンフフーン、フレデリカ~」


P(分からない…)



P「加蓮、ちょっといいか?」


加蓮「…っ!うん、ちょっとまってて奈緒」


奈緒「おう、横ステップ練習して待ってるから」


バタンッ


P「…他のみんなは…」


加蓮「…うん、ダメみたい。専務もいきなりみんな笑顔を大切にとか言い出して、もう訳わかんないよ…」


P「こっちの部署はいつ頃から、どんな風にあんな感じになってったんだ?」


加蓮「最初はありすちゃんだけだったと思うんだけどね。確か…文香、奏、周子、唯、奈緒の順にちょっとずつおかしくなってって…」


P「…となると、やっぱり何かしらで感染してるみたいだな。順番的にそんな気がする」


加蓮「ねぇ、みんなまるで卯月みたいになってるけどそっちはどうなってるの?」


P「おそらく凛と未央以外は…それに、卯月がこんな事するとは思えない!」


加蓮「でも1回、ちゃんと話をするべきじゃないかな。このままにしてたら、いつかは私達まで…」


P「…もう少し、もう少しだけ待ってくれ。もう少しちゃんと事態を見極めたいんだ」


加蓮「…分かったけど…何かあってからじゃ遅いからね?」


P「あぁ、加蓮も気を付けてくれ」


加蓮「プロデューサーこそ」


P(…さて、とは言えどうするかな…)


P(そもそも、何がどうなって感染していくのかも分からない)


P(なんだ、何が感染の原因なんだ…)


未央「あっ、プロデューサー!」


P「お、未央か。何かあったか?」


未央「いやいや、レッスンの休憩だからふらふらしてたんだ。何か進展とかあった?」


P「いや、何も…」




P「なんだ…何が原因で…」


フレデリカ「ふんふんふふーん、フレデリカー」


ありす「フレデリカさん!頑張ります!」


フレデリカ「わぁお、ありすちゃん。フレちゃんは何時でも不真面目に頑張ってるよー?」


ありす「…」にやり


フレデリカ「…うっ、なんだこの心の奥がポカポカしてくる感覚は~!!」


フレデリカ「……」


フレデリカ「…………」


フレデリカ「…頑張りますっ!」


P・未央「っ?!」



P「なぁ、未央…今の見たか?」


未央「うん…まさか、今の一瞬でなんて…」


P「もしかしたら、だぞ。もしかしたらなんだが…頑張るって言葉が…」


未央「私もそう思ってたけど…言うだけなら、私もプロデューサーも言ってるよね?」


P「何か、まだあるはずなんだ…」


フレデリカ「ふんふんふふーん。加蓮ちゃん、今日のレッスンがんばろーね!」


加蓮「…うん、私もがんば


P「加蓮!ちょっといいか!」


加蓮「へっ、何?!どうしたのプロデューサー」


未央「…セーフみたい。とりあえず一回プロデューサーの部屋行こっか」




P(横ステップが蔓延る廊下を抜けて、精神をすり減らしながら俺たちは部屋に着いた)


P「加蓮、ようやく感染のきっかけが分かった。頑張るって言うワードだ」


未央「それを多分、感染してる人に言われて自分も口にするとうつされるっぽいね」


加蓮「…それで、分かったけどどうするつもり?」


P「…きちんと話す。卯月が戻って来たら、あいつに一回話をちゃんと聞いてみる」


未央「ほんとに、しまむーなのかな…」


P「分からない。でも、まずは話をしてみるしかなさそうだ」


加蓮「それで、今からいくつもり?」


P「いや、今日はレッスンが終わったら直で帰る予定になっているし明日は撮影だ。早くても明後日になるな」


加蓮「…それまでに、何もないといいけど…」


P「みんな…なんとかして、明後日まで耐えてくれ」



P(帰宅して、テレビをつけた。既にもう、画面に映っている人の殆どが薄ら笑いを浮かべている)


P(テレビを消してツイッターを覗く)


P(TLの殆どが、頑張りますで埋まっていた)


P(明後日だ、明後日に卯月と話す)


P(そこで、何とかしないと…)


P(正直、俺はまだ何処かで油断していた)


P(みんなが優しい心を持って、頑張っている)


P(別に、悪くないじゃないか、と)




P「…ふぁー…ねむい」


P「取り敢えず、天気予報だけ確認しとくか」


ピッ


卯月『今日は曇り空が続くでしょう。夕方からは各地で雨が降るかもしれませんっ!』


P「…は?」


P(いやいやいや、卯月は気象予報士の資格を持っていないし、そんな予定は入ってなかったぞ?!)


卯月『此方からは以上です!スタジオを皆さん、頑張って下さい!』


卯月『さて、次のコーナーは此方です!』


P(カメラがスタジオに戻された…なのに)


P(映っている人物は、全員卯月だった)



P(外を歩いて駅へと向かう)


P(道を歩く人々は、みな卯月だった)


P(意味が分からない。なんだこれは)


P(感染するのは中身だけじゃなかったのか)


P(満員電車も、ほぼ全員卯月だった)


P(ほんの時折普通の人もいたが、かけられた頑張りますと言う言葉を呟いてしまった瞬間、その人も卯月になった)


P(席を譲って貰えた、ありがたい)




~事務所~


P「おーい!凛、未央!」


凛「…プロデューサー、おはよ」


卯月「おっはよープロデューサーさん!どうしたんですか?元気ないですね~?」


P「…凛、打ち合わせがあるからちょっと来てくれ」


凛「…うん」


バタンッ



凛「…なんなの?!」


P「俺だって分からない!もうパニックになりそうだ!」


凛「加蓮も奈緒も、ラインで三件に一件は頑張りますって言ってくるし、夜遅くまで通話するし…」


P「分からない…ほんとになんなんだこれは…」


凛「ねぇ、卯月は?」


P「あいつは今日は撮影だ。明後日、落ち着いて話が出来る。それまで耐えてくれ」


凛「…うん」


P(不味いな…凛が精神的にかなりきてる)


P(とは言え俺だってもう限界ギリギリだ。脳の処理が全くもって追いつかない)


P(あと一日、なんとか…)




卯月「と言う訳です。このプロジェクトはーー」


卯月「それなら、このアイドルをーー」


P(会議室は、俺以外みんな卯月だった)


P(正直気が狂いそうたが、あと2日でいい)


P(…と、そこで俺は気が付いた)


P(これだけたくさんの卯月の中で、果たして俺は本物の卯月を見つけられるのか、と)


卯月「それでは、今日の会議はこれで終わりです。みなさん、がんばりましょう!」


卯月「お疲れ様です!頑張ります!」


P(…無理じゃない?)


P(いや、やるんだ。なんとしても解決しないと!)



P(なんとかその日の会議は乗り越えた)


カタカタカタ


P(仕事をしている間は、他の事を考えずに済むから良い)


卯月「お疲れ様です、プロデューサーさん!」


P(この時間にここにいるという事は…本物の卯月じゃないな)


P「…お疲れ様。今日はどうだった?」


卯月「大変でしたけど、もうすぐおっきなステージですから。頑張りました!」


P「そうか…がん」


P(あっぶない…言ってはいけないんだった)


P「おう、期待してるぞ!」




P(…そろそろ凛が戻ってくる筈だが…)


凛「…プロデューサー」


P「お疲れ、凛。大丈夫か?」


凛「…もう、無理かな。あれだけ卯月と一緒にいたのに、今ではもう…」


P「…お、おい!どこに行くんだ?!」


凛「ねぇ、今日もお疲れ様」


P(さっきまで俺と喋っていた卯月に、凛は話しかけた)


卯月「はい、お疲れ様です凛ちゃん!明日も頑張りましょう!」


P(…まさか!)


凛「…うん。頑張ろ、卯月」


P(俺は耐えられず、その場を駆け出した)


P(おそらくもう卯月は仕事を終えている筈だ)


P(急いで誰もいない屋上に行き、電話を掛けた)


つー、つー、つー


P(…だめか)


P(もしかしたら、全員がこの状態になるまで俺に会わないつもりかもしれない)


P(だが、卯月は明後日には必ず事務所にくる)


P(ライブ前最後の打ち合わせに、こない筈がない)


P(その時まで、なんとか耐えるんだ…)








卯月『閉まるドアにご注意下さい』


P(電車の中は、もうみんな卯月だった)


P(皆が皆席を譲り合う光景は、見ていて逆に不気味だ)


P(ドアの上のパネルに流れるCMも、少しずつ出演者に卯月が増えている)


P(改札を抜けて家を目指す)


P(もう何も視界に入れない為に、俺はスマートフォンをひたすら弄った)


P(それでも卯月の声が聞こえてくる。耐えられずにイヤホンを着けて大音量で音楽を流し、画面を見ながら走り出した)


P(そんな、外界をシャットダウンした状態で道を走ったらどんなに危険な事か)


P(そんな簡単な事も考えられずに走り続け、気付けば大通りを赤信号なのに飛び出していた)




ガシャン!!


卯月「うわぁぁあ!す、すみません!大丈夫ですか?!」


P「っっ!!!」


P(横からきた自転車に気付かず、ぶつかってしまう)


P(完全に此方の不注意だ。けれど、謝罪よりもさきに怒りが先にきた)


P「いってえ!くそ!なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!」


卯月「ほんとにごめんなさい!びょ、病院に…」


P(ハッとなって、一瞬にして頭が冷えた)


P(今のは完全に俺が悪い。なのに、怒鳴りつけて卯月を泣かせてしまった)


P(この人が本物の卯月ではないだろう。けれど、卯月の表情で涙を流すその姿は、俺の心を深く抉る)


P「…すみません」


P(そうポツリと呟き、俺はまた走って家を目指した)


P(家について、テレビどころか電気をつける事もなくシャワーを浴びて布団に潜り込んだ)


P(幸い自転車はそんなにスピードがでていなかったから、痛みはもうひいている)


P(けれどそれ以上に、胸が締め付けられるほど痛かった)


P「…くそっ…くそっ!」


P(卯月の泣き顔なんて、みたくなかった)


P(卯月に怒鳴るなんて、俺は…)




P「…もう朝か」


P(気付けば寝落ちしていた様だ。テレビをつければ画面端に7:30と表示されている)


卯月「今日もとても冷え込みます。頑張りましょう!」


P(おそらく、画面越しでもこの頑張りましょうに頑張ると返してしまうと感染するのだろう)


P(でなければ、ここまで一気に一瞬で広がる筈がない)


P(どの番組も、出演者は卯月だけ)


P(おかしいな、卯月は凄く優しくて、いい子で、なのに)


P(今ではもう、怖いだけだ)





卯月「おはようございます、プロデューサーさん」


P「おはようございます」


卯月「プロデューサーさん、もうすぐライブですね!」


卯月「精一杯、頑張ります!」


卯月「その為にも、今日のレッスンを頑張らないと」


P「あぁ、体調には気をつけろよ」


P(卯月同士の会話も、もうどこか慣れてしまった気がする)


卯月「プロデューサーさん、調子良くないんですか?」


P「いや、絶好調だ。さて…やるか」


P(全力でキーボードを叩く)


P(仕事をしていれば、他のことは考えずにすむ)


P(他のものを見ないで済む)


P(早く、今日が終わってくれ)


P(仕事がもっと終わらなければいいのになんて、初めてだ)




卯月「それで、プロデューサーさんの部署は明日確か…」


P「はい、それに向けて今は追い込みかけている最中です」


卯月「頑張って成功させて下さい!」


P「ありがとうございます」


P(…誰だったんだろう、あの人は)


P(目上の人だといけないから、敬語で喋っておいたけど)


P(もう、誰が誰だか分からないくらいになっていた)


P(完全に見分けがつかない)


P(明日、果たして俺は…)




P(なんとか帰宅したはいいけれど…)


ぴっ


卯月『え?アイドルがマグロ漁協を?!のコーナーです!』


ぴっ


卯月『今日17時ごろ、◯◯市で大きな火事がありました。幸い怪我人はでていない様です』


ぴっ


卯月『東京ツリーの一番上から石を落とした場合、地面に着く時点でーー


ぴっ


P(…どの番組も卯月卯月卯月卯月)


P(…寝よう)






P(…さて、今日だ)


卯月「募金にご協力くださーい!お願いします!」


P(朝から寒そうだなぁ)


卯月「頑張って下さい!」チャリン


P(優しいなぁ、流石卯月だ)


卯月「よろしければどうぞー!」


P(コンタクトのチラシか。最近視力落ちてきてるし買ってみるかな)


卯月「私達の歌を聞いて下さい!」


P(朝から路上ライブか。それにしても綺麗な声だな…そりゃそうか、卯月だし)


P(…なんだろう、もう怖いって思うことすら疲れるし…)






ガチャ


卯月「おはようございます、プロデューサーさん!」


P「…おはよう、卯月。今日も元気だな」


P(沢山の卯月が部屋にいるなか、最初に俺に挨拶してきた卯月が)


P(何故だか分からないけど、本物の卯月だと思った)


P「…なぁ、少し屋上で話さないか?」


卯月「…はい、コートを着てくるので少し待ってて下さい」




~屋上~


P「…ライブももう直前だな」


卯月「そうですね。その為にも頑張らないといけません!」


P「調子はどうだ?明日は最高のパフォーマンスを見せられそうか?」


卯月「う…が、頑張ります!きっと、絶対やってみせます!」


P「…なぁ、卯月。俺はもう疲れたよ」


卯月「…プロデューサーさんが望んだんじゃないですか」


P「…そうだな。そうだった」


卯月「プロデューサーさんがそう言ってくれた時…私、凄く嬉しかったんです」





P「確かに、平和な世界だ。みんな優しいし、素直だし。素敵な世界だな」


卯月「はい!頑張りましたっ!」


P「…俺のせい、なんだよな」


卯月「せい、だなんて言わないで下さい」


P「…ははっ、たしかにそれは卯月に失礼だ」


卯月「そうですよ、プロデューサーさんったら…」


P「…なぁ、卯月」


卯月「…なんでしょうか?」








P「ライブ、頑張ろうな」


卯月「…はいっ、頑張ります!」








卯月(ついに、ライブ当日です!)


卯月(色々ありましたけど、兎に角今日は最高のステージになる)


卯月(そんな気がします)


卯月「それでは、いきましょう!」


卯月「そうですね、蒼い風が駆け抜けるように!」


卯月「それじゃ…最高のステージ、期待してます!」


卯月(照明が少し暗くなりました、ついに始まりです)


卯月(観客席には沢山の卯月が、今か今かと待ち構えています)


卯月(こんな優しい世界が、きっと)


卯月(私の望んでいたモノなんでしょう、きっと)


卯月(最初から、変に迷わずこうなっていれば楽だったのでしょう)


卯月(でも、今はもう関係ありません)


卯月「みなさん、準備はいいですか?」


卯月「せーのっ!」


卯月「「「頑張りますっ!!!」」」




時間がかかってすみません
お付き合い、ありがとうございました

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