リーリエ「ベッドの上に」 (62)

ポケモンサンムーンの♀主人公(ミヅキ)×リーリエ
口調とか時系列は気にしてはいけない

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~ポケモン研究所~

ガチャッ

ミヅキ「博士いますー?」

ミヅキ「……」キョロキョロ

ミヅキ「博士ー?」

ミヅキ「うーん、いないかあ」

育てている子が新しい技を覚えたため、ククイ博士に詳しいことを教えてもらおうと訪れた研究所。
しかし中を見て回っても探し人の姿はない。
どこかに出かけているのだろうか……まあ、そもそも博士が研究所にいることはほとんどなかったりするので駄目元で来てみたんだけど。

ミヅキ「またバトルロイヤルにでも参戦してるのかなー。ねえ、どこにいるか分かる?」ナデナデ

イワンコ「ワガン!!」スリスリ

ミヅキ「ふふふ、愛いやつ愛いやつ」

しばしの間すり寄って来たイワンコを撫でくり回す。
ただし博士が自らを実験台に技の研究を行っているせいか、気を抜くと何かしらの技を仕掛けてくることがあるので注意が必要だ。

ミヅキ「さてさて、どうしようかな」

博士を探しに行く?
いったん家に戻って出直す?
そこら辺の草むらで新しいポケモンを探しつつ時間を潰す?

……いやいや、せっかく『誰もいない』研究所に来たのだ。
下手に動きまわらず、ここは博士が帰って来るのを待たせてもらうとしよう。

ミヅキ「ふっふっふ……」

そう、私の『特等席』で。

……

ミヅキ「はあ……落ち着くぅ……」

柔らかなベッドに横たわり、ゴロゴロと転がる。
自分のベッドではない。
もちろん博士のベッドでもない。
研究所内のロフトを間借りしているもう一人の住人にして私の大切な友達――リーリエが使っているソファベッドに、だ。

ミヅキ「人をダメにするベッドってたぶんこんな感じなんだろうなあ……」ゴロゴロ

ミヅキ「ん~……」

ミヅキ「……♪」クンカクンカ

ミヅキ「どうしてこんなに良い匂いがするんだろう……不思議だねえ」

自分がうっとりとした、だらしない表情をしていることが分かる。
勝手に人様のベッドに潜り込んでこんなことをやっている自分はひょっとして変態さんなのではと少し心配になったりするけど。

ミヅキ「やめられない、よねえ……」

ミヅキ「……ん」

リーリエの匂いに包まれる。
まるでリーリエに抱きしめられているかのような感覚。
安心する――感覚。

ミヅキ「……」ウトウト

流石に寝てしまうのはまずい。
そう頭では分かっているのだが、まぶたが少しずつ閉じて行くのを止められない。

ヤミカラス「くわ」

私の行動を部屋の隅からじっと見守っていたヤミカラスが一声鳴いて頷く。
まるで私が眠るのを許可してくれたかのようだ。
……そういえば、最初にベッドに潜り込んだ時は見知らぬ私を警戒してか大声で鳴き散らかされたりもしたっけ。
こっそり何度も通っているうちに、私もここを使用する権利を持っていると納得してくれたのか最近では特に反応を示さなくなっていたけど。

ミヅキ「すう……」

ヤミカラスの許可を貰ったことがトドメになったのか、私の意識はそこで深い闇に落ちて行った……
いや、許可とか全部私が勝手に思っているだけなんだけども。

ミヅキ「zzz」

……

リーリエ「はあ、疲れました……」

『びゅう!びゅう!』

リーリエ「もう、暴れないでくださいほしぐもちゃん!」

今日はククイ博士に頼まれていた簡単な買い物を済ませるだけのお出かけだった。
それなのにいつにも増して元気よくバッグから飛び出して行こうとするほしぐもちゃんに振り回されたり、途中で虫よけスプレーがなくなって慌てて草むらをかわしつつ買いに戻ったり……。
お昼過ぎには研究所に戻って来るはずだったのに、もうすっかり夕方になってしまっていた。

ガチャッ

リーリエ「ただいま戻りました……」

リーリエ「といっても、博士は今日は戻らないんでしたか」

バーネット博士に呼ばれて空間研究所に行ってくる、とのことだったはずだ。
今夜は研究所に私一人っきり、か……。

リーリエ「……」

最近ではククイ博士やハウさんを始め、明るく元気な人たちと過ごすことが多かったためか少しだけ……寂しいと感じる。
ハウさんは確かイリマさんと特訓の最中。
そしてあの人は……

リーリエ「……ううん、ダメダメ。次の試練に向けてポケモンさん達と鍛え直すって言ってたし、邪魔をしちゃうのは」

頭をブンブンと振って考えを切り替える。
とりあえずお風呂に入って、それから本でも読んで……
そう計画立てながら梯子をのぼり、間借りさせて貰っているロフトへ向かう。
すると、

リーリエ「あ……え、ええっ!?」

ミヅキ「zzz」

リーリエ「み、ミヅキ……さん……?」

気持ち良さそうに眠るあの人……ミヅキさんを見つけたのだった。
……何故か私が使っているベッドの上で。

ミヅキ「うにゅ……」

リーリエ「あの、ミヅキさん?……寝てます?」

見れば分かることではあるが、恐る恐る確認してみる。

ミヅキ「zzz」

リーリエ「寝て、ますね……」

ゆっくりと自分のベッドへ、ミヅキさんへ近づく。
私の枕に半分埋もれている穏やかな寝顔が間近になる。

ミヅキ「zzz」

リーリエ「可愛い……」

ぽつりと言葉が零れた。
普段からニコニコと笑い、誰にでも、どんなことにも物怖じしないミヅキさん。
私が困っている時に必ず現れて助けてくれる、とても頼もしいヒーローのような女の子。
私の……大切な、大切なお友達。

リーリエ「……っ」

そんなミヅキさんが私のベッドで幼い子供のように、無邪気で無防備な……今まで見たことがない安らかな表情で眠っている。
どくん、と胸が高鳴る。
どうしてここにミヅキさんが、とか何で私のベッドに、とか疑問点が頭の中でぐるぐるしているけれど。
その寝顔を間近で眺めると、そんなことは頭から吹っ飛んで行ってしまう。

リーリエ「ミヅキ、さん」

寝顔から目が離せない。
微かな寝息を感じ取れる距離まで近づく。

リーリエ「………………」

ミヅキ「zzz」

リーリエ「………………………………」

ぼうっとその表情に見惚れる。
時間がどれだけ過ぎたのか分からないけど、不思議といつまでもそうしていられそうだった。
すると、

ミヅキ「ん、んぅ……?」

リーリエ「っ!?」ビクッ

ミヅキ「ん~……」モゾモゾ

リーリエ「み、ミヅキさん?起きましたか?」

突然ミヅキさんが身じろぎをして、何かを求めるかのように体をモゾモゾと動かす。
ずっと見つめていたのがバレたのかとドキドキする。

ミヅキ「あは……♪」ギュウッ

お目当ては毛布だったのか、それをギュッと抱きしめてご満悦の表情だ。
そして、

ミヅキ「……」スンスン

リーリエ「ちょっ!?」

ミヅキ「いいにおい……♪」

リーリエ「~~~~っ///」

顔から火が出るようだった。
ミヅキさんが毛布に顔を埋めて……明らかに匂いをかいでいる。
私の、毛布に。

しかも、いいにおいって。
みづきさんが。
とても、うれしそうに。

リーリエ「ミヅキさん!?あなた本当に起きてませんよね!?///」

ミヅキ「zzz」

とても恥ずかしくって、何だか嬉しくって。
思わず大声を上げてしまうが、それでも彼女は私へ意識を向けて来ない。
ひょっとしてからかわれているのでは……?

リーリエ「……」ジーッ

ミヅキ「zzz」

だらしなく緩む彼女の顔を注意深く観察するものの、やはり眠っているようだ。
よほど疲れているのか……よほど私のベッドの寝心地が良いのか。
ミヅキさんは幸せそうに眠り続けている。

リーリエ「あ……」

ふと、気付く。
本当に眠っているのか確認しようと覗きこんだために、先ほどよりもさらに近く。
すぐ目の前に、ミヅキさんの寝顔。
そう、もう少しだけ私が動けば……口づけを交わせそうなほど近くに―――――

リーリエ「…………///」

ミヅキ「ん……」

リーリエ「ミヅキ、さん……///」

待って、私は何をしようとしている?
自分で自分が分からなくなる。
頭の中が真っ白になって、ただただミヅキさんを見つめて。
さらに一歩、近づいて。

ミヅキ「zzz」

リーリエ「……っ」

唇が、触れそうになる。
どくん、どくん、どくん、どくんと暴れ回る心臓の鼓動の音が、ミヅキさんを起こしてしまわないかと不安になる。
視界に映るのは、彼女だけ。
耳に入って来る音は、私の鼓動音と彼女の寝息だけ。
まるで世界に私とミヅキさんの二人しかいないと錯覚しそうになって。

そして、私は――――――――――


『びゅう!』

リーリエ「ひゃあああああああああっ!?///」

リーリエ「ごめんなさい!ごめんなさい!何もしてませんから!///」

『びゅう?』

……突然鳴き声を上げたほしぐもちゃんによって、現実に引き戻されたのだった。

……

リーリエ「はあっ、はあっ、はあっ……はああ~……」

ほしぐもちゃんに何もしていないと一通りの必死の弁明を行った後、私は思わずその場に蹲ってしまっていた。

リーリエ「私は一体何をやっているんでしょうか……///」

顔が熱い。
冷や水を浴びせられたかのように冷静になった私の頭と対照的だ。
私は、眠っている無防備なミヅキさんに……
大切な、お友達だと思っていた女の子に……
つまり、私は……

リーリエ「…………っ!///」

ぶんぶんぶんぶん、と頭を振る。
まるで邪な考えを振り払うかのように。

ミヅキ「えへへ……zzz」

リーリエ「う~……」

ちなみにミヅキさんは、ほしぐもちゃんの鳴き声にも私の大声にも動じず眠り続けている。
この人は本当に大物かもしれない。
起きなくてよかったという気持ちはあるが、私の葛藤に全く気付かず気持ち良さそうに眠る姿についつい恨めしい視線を送ってしまう。

リーリエ「む~……」ジーッ

ミズキ「zzz」

リーリエ「…………///」

しかしその視線も長続きはしない。
ミヅキさんの寝顔……さらに言うなら、その口元を直視し続けられない。

リーリエ「これ以上、ミヅキさんの傍にいるのは良くないかもですね……///」

ぽつりとそう漏らし、下に降りて本でも読もうと決める。
ミヅキさんがいつから眠り続けているのかは分からないが、一時間もあれば目覚めるだろう。
そのくらいの間があればこの熱い顔も私の頭も普段通りに戻るはず。
……たぶん、きっと。

ミヅキ「……りーりえ?」

リーリエ「はいっ!?」

ミヅキ「ん~……」

リーリエ「み、ミヅキさん?起きましたか?」

何というタイミング。
私がその場を離れようとした瞬間にミヅキさんに名前を呼ばれ、再びベッドに――――彼女に近づく。
まだ顔は熱いまま……気付かれないか心配になる。

リーリエ「あの……」

ミヅキ「……」

リーリエ「ミヅキさん?」

ミズキ「…………」

リーリエ「えっと……寝言?」

ミヅキ「…………zzz」

リーリエ「……」

目を開く気配はない。
どうやら本当に眠ったままのようだった。

リーリエ「眠っているミヅキさんに振り回されっぱなしですね……」

思わず苦笑してしまい、肩の力が抜ける。

リーリエ「でも、寝言で呼んでくれるなんて……どんな夢を見ているのでしょうか」

私が夢の中に出て来たのだろうか。
夢に出て来るくらい、彼女も私を想ってくれているのだろうか。
だとしたら、嬉しい。
素直にそう思う。

リーリエ「あ……」

身じろぎしたせいか、ミヅキさんの前髪が乱れていることに気付く。

リーリエ「ふふ、寝苦しいじゃないんですか?」

ミヅキ「ん……♪」

口元にくっついた髪をそっと指で払うと、ミヅキさんの顔が綻んだ。
どうやらムズムズしていたらしい。
その様子に、ついつい嬉しくなってしまう。

リーリエ「ふふ……」

起こしてしまわないよう注意しながら彼女の頬を撫でる。
ずっと触っていたくなるような柔らかなその感触に、笑みが抑えられない。
今度は変な気持ちは湧かず……ただ愛おしいという思いが溢れてくるようだった。

ミヅキ「りーりえ……」

リーリエ「はい、何ですか?」

また寝言で私の名前を。
そのことに喜びを覚え、頬を撫でながらミヅキさんに顔を寄せる。

……油断していたのだろう。
先ほどのように私からミヅキさんに何かしてしまう、という恐れがなかったから。
だから。

ミヅキ「リーリエの匂い……♪」グイッ

リーリエ「きゃあっ!?」

寝ぼけたミヅキさんが私の手を引っ張って。
彼女に覆いかぶさるような状態になって。
そのままミヅキさんが私を抱きしめてきても、止めることが出来なかった。

リーリエ「みみみみみみミヅキさん!?///」

ミヅキ「……♪」クンクン

リーリエ「く、首筋の匂いをかがないで下さい!私まだシャワーも浴びてないんですから!///」

ミヅキ「ん~……」

リーリエ「さっきから疑問でしたけど本当に寝てるんですかあなたは!///」

じたばた暴れるが、ミヅキさんはがっちりと私を抱きしめて離そうとしない。
冷静になったはずの頭が一瞬で沸騰し、どうしていいか分からなくなる。
この人はもう……!

ミヅキ「……ちゅっ」

リーリエ「…………へ?」

時が止まる。
首筋に、何かが当たった。
もしかして、これは、ミヅキさんの……

ミヅキ「……」ペロッ

リーリエ「ひやっ―――――――」

ぞくぞくぞく、と体が震える。
首筋にキスをされて、そして……舐められた。
みづき、さんが、わたしの。
わたしに。

リーリエ「~~~~~~~~~っ!!……きゅう」

そのことをはっきりと自覚した瞬間、私は声にならない悲鳴を上げ……限界を迎えたのか、そこで意識がとだえた。

ミヅキ「むにゅ……えへへ……♪」ギュウッ

りーりえ「」

……

ミヅキ「ふわあああ……よく寝たあ……」

まどろみの中から意識が覚醒して行く。
ちょっとだけのつもりが、快適過ぎてかなりの時間眠ってしまっていたようだ。
うーむ、リーリエベッド恐るべし。

ミヅキ「何だかいつもよりさらに寝心地良かった気がする……」

いい夢も見れたし。
そう思いつつ、抱き枕にしていたリーリエを離す。
……リーリエ?

ミヅキ「えっ?」

りーりえ「」

ミヅキ「あれ……?」

寝ぼけた頭で考える。
どうしてリーリエが……いや、本来のベッドの持ち主なのでここにいるのは全くおかしくないのだけど。
私が眠っているベッドに潜り込んできた?

ミヅキ「うーん……」

りーりえ「」

よく分からない。
よく分からないけど。

ミヅキ「博士は戻ってないし、リーリエも眠って?いるみたいだし……いいよね?」

りーりえ「」

ミヅキ「ん~~~~……落ち着くぅ……」ギュウウッ

もう少しだけ、この幸せを堪能させてもらうことにしよう。
博士が帰って来るか、リーリエが目覚める時まで。


リーリエベッド編・おわり

次は主人公ベッド編の予定

************

~ミヅキの家~

リーリエ「ちょっと早く来すぎちゃいましたね……」ソワソワ

『びゅう?』

リーリエ「だ、大丈夫ですよほしぐもちゃん。私は冷静です!」

『びゅう…』

ここはハウオリシティのはずれ、ミヅキさんの家……の前。
今日はミヅキさんにお呼ばれしており、一緒に食事をいただくことになっている。
ただし、

リーリエ「約束の時間まであと一時間ですか……」ドキドキ

そう、時間まで待ち切れずに飛び出して来てしまったのだ。
居ても立ってもいられない、という言葉をここまで実感したのは初めてかもしれなかった。
しかしそれもしょうがない。
お友達の家に招待されるということ自体これまでほとんどなかったのに、それに加えて……

リーリエ「……ミヅキさんに」ドキドキ

あの人に、お誘いされたのだから。

リーリエ「時間までどうしていましょうか……」

キョロキョロと辺りを見回す。
さすがに今すぐ訪問しても迷惑だろうし、かといってずっと家の前をうろうろして泥棒さんと間違われたりしても大変だ。
ポケモンセンター内のカフェにでも寄って……

「あらー?リーリエちゃん?」

リーリエ「はっ、はい!?」ビクッ

悩んでいると、突然声をかけられ驚いて振り向く。
たしかこの人は……

ママ「ミヅキから聞いてたけど、ずいぶん早いのね?時間を間違っちゃってたかしら?」

リーリエ「いえっ!私が早く来すぎてしまっただけです……。その、楽しみでしたので……///」

ママ「あらあら、それは嬉しいわあ♪」

ミヅキさんのお母さんにくすくす、と笑われる。
顔がかあっと熱くなるのを感じるものの、不思議と嫌な感じはしない。
ミヅキさんのお母さんはとても優しそうで……ミヅキさんとよく似ているな、と感じる。

ママ「外は暑いでしょ?さあ中に入って入って」

リーリエ「えっ?あっ、はい……お邪魔します……」

家の中に通される。
初めて来たわけでもないのに、何故だか少し緊張してしまう。
ミヅキさんは……

ママ「ミヅキには今きのみを取りに行ってもらってるのよねえ」

リーリエ「あ、そうなんですか」

ママ「私もリーリエちゃんとお話したいけど、それは後のお楽しみね。今から腕によりをかけて料理を作っちゃうから……そうね、ミヅキの部屋で待っててもらえるかしら?」

リーリエ「ミヅキさんのお部屋……勝手に入っていいんでしょうか?」

ママ「あはは、平気平気。元々あの子、リーリエちゃんが来るってはりきって片付けてたから」

リーリエ「そ、そうなんですか……///」

私のためにミヅキさんが。
そう聞くだけで、私の心が弾む。
思わず顔がにやけてしまいそうになるのを必死で我慢するのは大変だった。

……

リーリエ「ここが……」

ミヅキさんの部屋。
一歩踏み入れた瞬間、彼女の香りを微かに感じる。

リーリエ「……」キョロキョロ

何故だか落ち着かず、部屋の中を見回してしまう。
テレビにゲーム機、メタモンさんのクッション、ピカチュウさんのぬいぐるみ、机の上に地球儀と、本が少し……
そして。

リーリエ「……あ」

ミヅキさんの、ベッドが目にとまる。

リーリエ「ここで、ミヅキさんが」

リーリエ「…………」

リーリエ「……………………」

見つめる。見つめる。見つめる。

リーリエ「……い、いいですよね?」

彼女は、私が使っているソファベッドでお休みしていたのだ。
それならば私だって、当然同じことをしても良い権利……すなわち、彼女のベッドで休ませてもらっても良いはず。
……おそらく、きっと。

リーリエ「し、失礼します……」モゾモゾ

誰に断っているのかは分からないが、そう呟いて恐る恐るベッドの上にあがる。
柔らかな感触に身を横たえる。

リーリエ「……ん」

リーリエ「ふわ、あ……」

より一層、彼女の匂いを感じる。
何故だろう……ドキドキするのに、なんだか心安らぐ香り……
その香りに身を包まれていると、まるで彼女に……ミヅキさんに、抱きしめられているかのようだった。

リーリエ「はあ……」

目を瞑る。
ずっとこうしていたいと思ってしまう。
どうしてミヅキさんが私のベッドに潜り込んでいたのか疑問だったが、その気持ちが何となく分かった気がした。

リーリエ「ミヅキさん……」

彼女を感じる。
ベッドの上で、ミヅキさんと。

リーリエ「あう……///」

先日の出来事を思い出してしまう。
私のベッドで眠っていたミヅキさんに……私のベッドでミヅキさんと……

リーリエ「うう~……!///」ボフッ

恥ずかしくなってしまい、いつもの癖で枕に顔を埋める。
しかしそれは私の枕ではなく彼女が使っているもの。
安らぐ香りも強過ぎると毒になるのか、心臓の鼓動も体の火照りもまったく収まる気配を見せなかった。

……

リーリエ「すう、すう……」

リーリエ「……ん、んぅ……」

リーリエ「…………」

うっすらと目を開く。
しばらくベッドの上で悶々としていたのは覚えているが、どうやら疲れてあのまま眠ってしまっていたらしい。
人のベッドで眠ってしまうなんて……ミヅキさんもやっぱりこんな感じだったのだろうか。

リーリエ「……いま、何時でしょう」

ミヅキさんはまだ帰って来ていないようなので、それほど時間は経っていないらしい。

リーリエ「ちゃんと起きて待ってないと、ミヅキさんに申し訳ないですね……」

よいしょ、と体を起こそうとする。
起こそうとして、

リーリエ「ミヅキさんに……っ」

ぼーっとする頭に、一つの思い付きが浮かんだ。
一気に眠気が吹き飛ぶ。

……もし私がベッドで眠っているところを見たら、ミヅキさんは、どういう行動をするのだろうか。

リーリエ「……」

どうしよう、気になる。
眠るミヅキさんを見つけた時の私の行動は、まああの通りだったわけだけれど。
彼女は一体どうするだろうか。

リーリエ「勝手にベッドに入ったことに呆れるでしょうか?とくに気にせず、普通に起こそうとするのでしょうか?」

それとも。
私がしたことを。
あるいは。
私がしようとしたことを。
さらには。
私が考えもつかなかったことを。

リーリエ「…………///」

私は何を考えているのだろうか。
馬鹿なことはやめて、大人しく待つべきだと思う。

リーリエ「でも……」

ガチャッ

「ただ…まー…」
「…えり。…ちゃんもう……てるわよ」

リーリエ「っ!?」ビクッ

少し離れたところでドアが開く音。
そして、彼女の声。
ミヅキさんが、帰って来たのだ。

リーリエ「……っ」ドキドキ

ベッドの中で身を固くする。
どうやら私は、とっさに寝たふりをすることを選んでしまったようだ。

トットット…

小さな足音が聞こえる。
こちらに近づいて来るのが分かる。

リーリエ「…………」ドキドキ

目をぎゅっと閉じてその時を待つ。
……ガチャ、と控えめに部屋のドアが開く気配を感じる。
いよいよだ。

リーリエ「……………………」ドキドキドキドキ

『……』

すぐ傍にいるのを感じる。
私が眠っている(フリをしている)様子を見つめているようだ。
鼓動が、高鳴る。
ミヅキさんは、どうするのだろうか。

そんな疑問に答えるように、私の寝顔を覗きこんでいた影が動き、そして―――――


ポカッ!ポカポカッ

リーリエ「きゃあっ!?」ガバッ

ニャース「にゃあん」

……猫パンチを受けて、私は飛び起きたのだった。

リーリエ「にゃ、ニャース……さん……?」

ニャース「にゃあ」ポンッ

つねむけざまし

リーリエ「えっと……くれるのですか?」

ニャース「にゃご」コクコク

リーリエ「あ、ありがとうございます……」

私が目を覚ましたことに満足したのか、ニャースさんはそのまま部屋を出て行く。
ミヅキさんが帰って来たので起こしに来た、ということだろうか。

リーリエ「……」

私のドキドキは、いったい。

ミヅキ「リーリエ!待たせちゃってごめんね!」

リーリエ「あっ、ミヅキさん」

ニャースさんと入れ違いになるように彼女がやってきた。

ミヅキ「きのみ取ってたらまたオニスズメたちに狙われちゃって……ちょっと手間取っちゃった」

リーリエ「えっ!?だ、大丈夫なんですか!?お怪我は!?」

ミヅキ「へーきへーき」

コロコロと笑う彼女を見て安心する。
それと同時に、ミヅキさんが大変な目に遭っていたのに良からぬ考えを抱いていたことに罪悪感を覚えた。

リーリエ「ニャースさんには感謝、ですね」ボソッ

ミヅキ「……?なにか言った?」

リーリエ「いえ、何でもありませんよ」

ミヅキさんに笑顔を向ける。
自分がやろうとしていたことはなかったことにしよう、そうしよう。

ミヅキ「ふーん……?ところで、リーリエは何してたの?」

リーリエ「えっ!?」

びくっ、と反応してしまう。
今たしかにミヅキさんの視線がベッドに向けられたような……

ミヅキ「約束の時間より早く来て待っててくれたみたいだけど、私の部屋って何もないから退屈じゃなかった?」

リーリエ「い、いえいえ、そんなことは……。テレビも本もありますし……」

……ミヅキさんのベッドもありますし、とは勿論言えない。

ミヅキ「テレビも点いてないし、本も読んでなかったみたいだけど?」

リーリエ「えっと……そのぅ……」

ニコニコと笑いながら問いかけてくるミヅキさん。
その笑顔はいつも私を安心させてくれる、大好きな表情なのだけれど……
気のせいだろうか、何だか今は少し意地悪そうに見えてしまう。

リーリエ「ほ、ほしぐもちゃんと遊んでたんです!ニャースさんも先ほどまで一緒にいました!」

ミヅキ「ふ~ん?ほ~?」

リーリエ「うう……何を言いたいんですかぁ……」

ミヅキ「べっつに~?」

……ミヅキさんはたまに意地悪になる。
以前からも少しだけそんな一面を見せることはあったのだが、今日確信に至った。
そんなミヅキさんも……魅力的だと思ってしまう私はおかしいのだろうか。

ミヅキ「……」ニコニコ

リーリエ「う~……」

ミヅキ「……ま、その話もおいおい聞くとして。もうすぐ料理が出来るから行こっ!」ギュッ

リーリエ「あ……。は、はいっ」

手を引かれて部屋を出る。
その間際に、先ほどまで自分がいたベッドをちらりと見る。

リーリエ「……」

もし、意地悪ミヅキさんがベッドで眠る私を見つけていたら。

リーリエ「……///」

機会があれば、やっぱり試してみようと心に誓うのだった。


ミヅキベッド編・おわり

あと一つ短いのを書き殴る予定です

************

ミヅキ「zzz」

リーリエ「え?ミヅキ、さん……?」

目の前の光景が信じられなかった。
あの時と同じように、ベッドで気持ち良さそうに眠っているミヅキさん。
あの時よりも、心なしか嬉しそうに眠っているミヅキさん。

リーリエ「どうしてですか……」

ミヅキ「zzz」

様々な感情が巻き起こり、体内で暴れまわるのを感じる。
ミヅキさんを、見つけてしまった。
エーテルパラダイス内の――――――かあさまのベッドの上で。

……

ミヅキ「……お邪魔しまーす」コソコソ

ミヅキ「誰もいない、よね?」

ミヅキ「ふっふっふ」

私はいま、とあるベッドがある部屋にやって来ている。
そう、前々から一度じっくりと堪能させてもらいたいと思っていた――――リーリエのママであるルザミーネさんのベッドだ。

ミヅキ「見るからに高級そうだよね。ふかふかだし大きいし」

ミヅキ「ではさっそく……」

もふっ、と。
ベッドにダイブした私を迎え入れ、柔らかく包み込んでくれる感触。

ミヅキ「んんー……」

思わず声が漏れてしまった。
これは、心地よい。
どこまでも沈み込んで……包んでくれそうなやわらかさ……

ミヅキ「ふわあ……」

すぐさま眠気が襲ってくる。
何という安心感だろうか、これは今までに経験がしたことのないレベルだ。
さらに。

ミヅキ「何だろう、懐かしい匂いがする」クンクン

ミヅキ「はあ……♪」

母親の香り、とでも言うのだろうか。
もう覚えていないはずの赤ちゃんだった頃の記憶がよみがえって来るような感覚。
そして、微かに感じる……リーリエの匂い。

ミヅキ「リーリエも、昔はこのベッドで一緒に寝てたって言ってたよね……」

その時の香りが残っているのだろうか。
それとも親子であるルザミーネさんとリーリエが似たような香りをしているのか。

ミヅキ「うーん……」ゴロゴロ

ミヅキ「んー……」

ミヅキ「……」

ミヅキ「zzz」

私を虜にするリーリエ一族の匂いとベッドの寝心地の良さに敵うはずもなく。
意識を手放し、深いまどろみの中に落ちて行ったのだった――――

……

ミヅキ「……んにゅ?」

ギシッ、とベッドが軋む。
……誰かが私に覆いかぶさっている?

ミヅキ「ふわっ!?」

誰かの気配に一気に意識が覚醒する。
そして気付く。
まるで私を押し倒しているかのような格好でこちらを覗きこんでいるのは……

リーリエ「おはようございます、ミヅキさん」

ミヅキ「お……おはよ?」

リーリエ「……」プクー

……何だかとっても怒っているように見えるリーリエだった。

ミヅキ「り、リーリエ?怒ってるの?」

リーリエ「そんなことないです」プクー

ミヅキ「いやでも」

リーリエ「ないったらないのです!」プクー

ミヅキ「はい……」

ほっぺたを膨らませて明らかに怒リーリエ状態ではあるのだが、本人がそう言うのならこれ以上突っ込むのはやめておこう。
……怒った顔も可愛いな、と思ったのは内緒だ。

リーリエ「……ミヅキさんは」

ミヅキ「なに?」

リーリエ「こうやって私いが、……色んな人のベッドに潜り込んでいるのですか?」

ミヅキ「わたしいが?」

リーリエ「……」

ミヅキ「え、えっと……」

何故だろう。
ここで返答を間違うとまずいことになると私の直感が激しく警告している。

ミヅキ「い、色んな人のってわけじゃないよ?ほら、このベッドって大きくて寝心地が良さそうだから気になっちゃって……」

リーリエ「例えば」

ミヅキ「え?」

リーリエ「マオさんのベッドとか」

ぎくり。

ミヅキ「…………」

リーリエ「スイレンさんのベッドとか」

ぎくりぎくり。

ミヅキ「……………………」

リーリエ「あるのですね?」

ミヅキ「……うう」

はい、あります。
……そう答えたわけではないが、明らかに図星を突かれた様子の私にリーリエの表情が一層険しくなる。
吸い込まれそうなほど綺麗な瞳の中に、燃えたぎる炎が見えたような気がした。

リーリエ「……かあさまのベッドは心地よかったですか?」

ミヅキ「えっと……うん。すごく柔らかくて包み込んでくれる感じがして」

リーリエ「ふーん、そうですか。マオさんは?スイレンさんは?」

ミヅキ「潮風に包まれてる感じだったり、お腹空くようないい匂いだったりしたけど……。で、でもでもリーリエのベッドが一番だよ!うん!」

リーリエ「……」

ミヅキ「あ、あの、リーリエ?どうしてそんなこと聞くの?」

リーリエ「…………」

どうしよう、何か考え事をしているのか黙り込んでしまった。

ミヅキ「うう……」

リーリエはずっと私に覆いかぶさったままだけど疲れたりしないのだろうか。
そういえばこの体勢、何だか……

ミヅキ「…………」

傍から見れば、まるでベッドの上で見つめ合っているかのように映るであろう私たち。
吐息がかかるほど彼女の顔が間近にあり……意識してしまうと、赤面してしまいそうだった。

リーリエ「ミヅキさん」

ミヅキ「ひゃいっ!?」

妙な気分になっていたところに突然名前を呼ばれ、思わず変な声が出てしまう。
平常心、平常心を……

リーリエ「私、いまとっても眠いんです」

ミヅキ「……そ、そうなの?」

リーリエ「はい。ここに来たのもかあさまのベッドで休ませてもらおうと思っていたからなんですが……」

ミヅキ「そうなんだ……あ、もしかして私邪魔かな!?すぐどけるね、うん!」

この場から素早く離脱できる口実が舞い込んで来るとは!
喜び勇んで起きあがろうとする。
する、が。

リーリエ「ふふ……」

ミヅキ「り、リーリエ?あの、動けないんだけど……」

リーリエが上から私を押さえ付け、起きあがることができなかった。

リーリエ「ミヅキさんが邪魔だなんて、そんなことあるわけないじゃないですか」

先ほどまでの怒リーリエはどこへやら、にっこりとほほ笑むリーリエ。
……笑顔のはずなのに、怖さが増しているのは何故なのだろうか。
気のせいということにしたい。

リーリエ「あなたは旅でお疲れなんですから、休養は大切です」

ミヅキ「そ、そうかもね。だから私は家に帰って」

リーリエ「いえいえ、その必要はありません。見ての通りこのベッドは二人くらい余裕で入れます」

リーリエ「ですから」

リーリエ「一緒に、休みましょう」

ミヅキ「ちょ、リーリエ!?」

ぎゅうっ、と力強く抱きしめられる。
柔らかな感触が伝わる。
リーリエの匂いが、体温が、鼓動が――――

ミヅキ「~~~~っ///」

リーリエ「ふふっ、どうしたのですか?この前は同じように私を抱きしめたまま眠っていたじゃないですか」

ミヅキ「い、いやあれは寝ぼけてて……」

それに、違う。
全然違うのだ。
自分から抱きしめるのと、リーリエから抱きしめてもらうのとでこうも違うとは思わなかった。
恥ずかしさと嬉しさがごちゃまぜになり、訳が分からなくなってくる。

リーリエ「ミヅキさん、可愛い……♪」ナデナデ

ミヅキ「ふわ……や、やめて……///」

リーリエ「顔を背けないで下さい。ほら、こっちを見て……」

頭の中がぐるぐるする。
リーリエでいっぱいになる。
何が彼女をそうさせてしまったのか、かつてのオドオドしたリーリエの姿はそこにはなく……

リーリエ「ミヅキさん……」

……そこから先のことはよく覚えていない。

……

リーリエ「うう……///」

昨日のことを思い出すと顔が真っ赤になってしまう。
私のベッドだけだと思っていたのに、ミヅキさんが色んな人のベッドに潜り込んでいるのだと知り――――私は見事に暴走した。
自分の中にあんな積極性があったことも、身を焦がすほどの嫉妬心が湧いたことも、私だけを見て欲しいという強い独占欲があったことも……何もかも驚きだった。

リーリエ「……それとも」

リーリエ「ミヅキさんのおかげで新しい私になれた、ということでしょうか?」

彼女の表情。
彼女の感触。
そして、昨日初めて見た普段とは違うミヅキさんの姿。

リーリエ「……慌てるミヅキさんは可愛かったですね」

ミヅキさんのあの姿を他の誰にも見られたくない。
ミヅキさんに、私だけを見ていてほしい。

リーリエ「だから」

そのためには、今までの情けない私のままでいるわけにはいかないのだ。
ふらふらとどこまでも行ってしまいそうな彼女を、しっかりと捕まえておける自分にならなければならない。

リーリエ「ゼンリョクで、がんばります!」


おしまい



ミヅキ「最近リーリエが毎日一緒に寝ましょうって誘ってくるんだけど……」

グラジオ「そうか、妹をよろしく頼む」

リーリエかわいい、ただそれだけ
また我慢できなくなったらミヅリリ話書きます

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年12月12日 (月) 23:33:19   ID: ztcFwZec

リーリエ可愛い
ミヅリリ尊い……。
受けなリーリエもいいけど、攻めが似合うなー。

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