白菊ほたる「手を取り合って」 (63)

白菊ほたる「手を取り合って」

アイドルマスター シンデレラガールズのSSです。本編設定を一部改変してあります。
註 過去に千早スレへ投下した短編作品の再構成となります
                   一部引用 改変 ALIVE NBGI
                           高機動幻想ガンパレード・マーチ アルファ・システム
                           踊り明かそう フレデリック・ロウ&アンドレ・プレヴィン
                      外伝原案 妖精跳ぶ 蝋の館



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―――思い出が折り重なってく……

   独りで寂しかったときにも あなたはいつも微笑みをくれた―――




 長く狭いトンネルを独り歩く。

コツ コツ コツ

 ここはとても寒くて、心細くて、お腹がすいて……

ドク ドク ドク

 足音が心臓の鼓動と共鳴する。
足を止めれば、そのまま心臓まで止まってしまうのではないか?
それはほんの一滴。なのに小さな不安のシミが、じわりじわりと広がりはじめる。

ドクッ ドクッ ドクッ

 帰りたい 帰りたくない ここから逃げ出したい。
私の迷いは鼓動を高め……

コッ コッ コッ

 知らず、足を駆けさせる。
……でも帰れない。


 トンネルはとても長くて、出口が見えません。
例え振り返ったとしても、入り口もまた見えないでしょう。

 人影も無く、私は世界にたった独りなのではないか?
そんな大きな不安が、私を押しつぶす。

ハァ ハァ ハァ

 浅く か細い呼吸。
背が丸まり、自然と私の顔は伏せられます。
今まで視界に入らなかった床の汚れが、意識を引き戻してくれました。

 以前は何時も見ていた光景。
何時からだろう? 長らく見る事のなかった光景。

ハ ハ ハ

 可笑しい事など何もないのに、私は声をあげて笑います。
誰か見ている人がいたとしたら、私が狂ってしまったのかと心配した事でしょう。


 でも、大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの横顔を覚えているから。


―――しかし闇は待ち伏せていた 幸せ全てのみこまれ
   希望失って悲しみにくれるなか 空からそそぐ光 暖かく差しのべる―――

 不意に口遊む。成る程、確かにぴったりだ。
ならばこれはおとぎばなしだ。
めでたしめでたしで終わる御伽噺、誰もが笑う御伽噺。

 だから大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの鼓動を知っているから。


 ……記憶を掘り起こす……


 今なら私は信じられる。
あなたを宿す未来が見える。
差し出された手を取って、私も一緒に歩き出そう。




―――母のぬくもり 憶えている?―――



  灰かぶりは王子様に見初められ 幸せに暮らしましたとさ めでたしめでたし


 あれはおとぎばなし、誰もが笑う御伽噺。


 子供の頃の私には、どこが幸せなのかがよく解りませんでした。
だってそうでしょう? 灰かぶりは舞踏会に出たかったのに、お話しでは一度しか踊れなかったんですから。


 だから私は母に、灰かぶりではなく鬼のお話しをせがんでいました。

 それは子守唄 子供の頃に何度も聴いた子守唄。


かつて世に鬼あり
鬼は踊る人形であった
かは豪華絢爛たる死の舞踏
鬼はそをもって、天を穿ち、海を砕き、地を血で満たした
武尊ものとも五十もの嵐とも戦った
誰もが鬼へとひれ伏した

ある日 鬼は踊る事を止めた
産めよ 育てよ 地に満ちよ
人形は母として 子供達の守り神となったのだ


 私は鬼の話が大好きでした。
語り部となる母の姿はなんだか悔しそうで、でもちょっぴり誇らしげで。
ああ、母もまた鬼が大好きなんだなって 私はそう思いました。




―――どんな夢も願っていれば いつかは叶うよ―――


 口遊む歌詞が、むなしく響きます。

 伝説のアイドル日高舞に憧れた私は、幼稚園へ通うよりもアイドル事務所へ務める事を母へと願いました。
母は随分と渋りましたが、私のわがままを受け入れアイドルへの道を示してくれたのです。


 あれから9年。
様々な事務所を渡り歩いておりますが、私 白菊ほたるには……お仕事が……ありません。


 後で知った事ですが、最初の事務所は母のかつての同僚が起こした事務所であったそうです。
子役専門のモデル事務所であり、年が近いおかげで仲の良いお友達も出来ました。
しかしながら所長がハリウッドへ移住するとの事とで、事務所が閉鎖されてしまいました。

 次にお世話になった事務所は資金繰りに行き詰まり、早々と倒産してしまいました。
なんでも暴力団の地上げに遭い、事務所は重機で破壊されてしまったそうです。

 その後も幾つもの事務所の門をたたきましたが、アイドル活動とは程遠い名ばかりの事務所が大半でした。
脱税・密入国斡旋・資金洗浄等々、どこへ行っても経営者が不法収入を得ようとして警察の御厄介になり事務所が潰れてしまいます。
なぜか私が事務所へ勤め始めると先輩アイドルの引退が相次ぎ、経営が火の車になってしまうらしいんですよね。

 ニートショック 血のバレンタイン 門番廃止 着ぐるみフェス アリスゲーム etc

 新聞の社会面を賑わす、芸能事務所の連鎖倒産には物心ついて以来一度も回避できた記憶がありません。
爆死の2文字と共に一夜にして事務所が更地となった事も、両手の指では足りないくらいです。


―――どんな夢も願っていれば いつかは叶うよ―――

 何時しか口癖となった歌を口遊みながら、私は広い北海道の大地で途方に暮れていました。

 【病みのゲーム勝利により事務所を閉める事と相成りました】
修学旅行で札幌へとやって来た私は、このメールによって帰る場所を失ったのです。
勝利したのに事務所を閉めるとは奇妙な文面ですが、私の直感が事務所はすでに潰れていると教えてくれます。
そしてこの直感はきっと正しいのでしょう。




 気が付けば、私はグループから離れ独り時計台の前に立ち尽くしていました。
幸い今は自由時間ですし、はぐれてしまっていても時間内にバスへ戻れば大丈夫でしょう。

ハァ

 溜息がこぼれます。
視線の先には敷石の隙間に生える雑草達が映ります。
地面に生えけってして人にかえりみられる事のない雑草達。私も彼らと同じです。
華やかな芸能の世界に憧れましたが、一度も人前で踊る事のない灰かぶり。
そして誰もが見上げる時計台の下で、足蹴にされる雑草達。

ハァ

 また、溜息がこぼれます。
せっかく来た時計台ですし、もっと近くで見てみましょう。

ドン

 足を踏み出した私は、誰かにぶつかってしまいました。

ほたる「あの……す、すみません……! 前を良く見ていなくてその」

  「ダー、謝罪は受け入れました。だから頭を下げる、ダメです」

 顔を上げた私の目に飛び込んできたのは、澄み渡る北国の空でした。
透き通った青い目が私を見つめ――

  「ヤー、だから頭を下げます。空ばかり見ていました」

 か細い銀髪が雲の様に風に舞います。
互いにもう一度会釈をしたのち、私はバスへと向かいました。


 ですが道中では先程出会った女性の事を考えてしまいます。
……とてもお綺麗でした……あの纏う空気を華と呼ぶのでしょうね。けれど私は雑草。
彼女の様な方が、きっとシンデレラガールに挑む権利があるのだと思います。そして私は灰かぶりのまま。

 丸まった背を起こします。何時からでしょうか、癖になった猫背を伸ばすのは久しぶりです。
舞踏会で踊れるとは思いません、だけど灰かぶりにだって歌う権利くらいはあるはずです。

 澄み渡る北国の空に向かって、私は歌います。大好きな歌を。

―――二人は両手を握りしめて 喜びあって 幸せかみしめ―――

 道行く人々は誰も私に意識を向けません、でも構いません。
灰かぶりの歌はきっとネズミを幸せにしていたのですから。
ガラスの靴も、カボチャの馬車も私には必要ありません。
自然と足取りが軽くなります。シンデレラのダンスはガラスの靴が踊らせたのではなく、灰かぶりの実力であったはずです。
だってそうでしょう? 踊りだすのは赤い靴、ガラスの靴に魔法はかけられていなかったんですから。


ほたる「歌えるだけでも……幸せ……」

 あれはおとぎばなし、誰もが笑う御伽噺。

 今なら解ります。
たった一度だけであっても、シンデレラは舞踏会へ参加できて幸せだったんです。

 だから私は笑わない。
灰かぶりは踊る事を諦めなかったんですから―――どんなに不幸でも。




 ドン
 ガシャン


 足を踏み出した私は、再び誰かにぶつかってしまいました。

ほたる「すみません……すみません……!」

 地面には壊れた鉢植えと色眼鏡、土がこぼれています。

 やっぱり私は灰かぶりではなく、疫病神なのかもしれません。
歌とダンスは誰かを幸せにする為にあるはずなのに、迷惑ばかりかけています。

ほたる「私がいると……みんな不幸に……」

 いけません、泣いては。
なのにどんどん悲しくなってしまって……。


  「ほら、大丈夫。この子はまだ頑張れる」

 私の両手に白いスズランが押し込まれました。

えっと……状況を掴めない私は目を白黒させながら、壊れた鉢植えとスズランを交互に見やります。


ハ ハ ハ

 頭上から降り注ぐ笑い声。
気が動転して忘れていましたが、この方はどなたなのでしょう?
きちんと謝罪して、弁償をしませんと。

 顔を上げると同時に、私の両手がそっと慈しむ様に包み込まれました。

ボーン ボーン ボーン

 時計台が12時の音を告げます。

  「運命の出会いって信じるかい?」

 私の目に飛び込んできたのは―――
王子様ではなく―――
魔法使いでもなく―――

 幸せの花を包み、灰かぶりの初めてのファンとなったネズミだったのです。




  「ほたるちゃんには、苦労を掛けるね」

 私をスカウトした色眼鏡の男性は、とんでもない嘘吐きだったのです。
不思議ですよね。北海道から鳥取、鳥取から羽田、羽田から東京へと向かう間彼の言葉がずっと胸の内でこだましていました。

 何の根拠も無い言葉。それを口にした彼の横顔は、白いスズランに隠れて良く見えませんでしたけど。
ああ、この人は私と違って今がとても幸せなんだろうなって……そう考えたら……また悲しくなってしまって……

ほたる「私がお世話になった事務所は、全部潰れてしまうんです。
    新しい事務所にお世話になるんだから、大事な事だから……言わなきゃいけないと……ずっと、ずっと思っていたのですけれど。
    ……勇気が……出なくて……。その内また潰れちゃうんじゃないかって……すみません。
    今まで……黙っていました。私がいると……みんな不幸に……。
    すみません……すみません! ずっと、ずっと秘密にしてたんですけど、悪気は……謝ってばかりで……すみません……」

 やっと言えました。
東京で彼に会うなり、私は今まで押さえつけていた気持ちを全部吐き出さざるをえませんでした。

 これできっとスカウトのお話はお流れ。でも、仕方がありませんね。私が悪いんですから。
もう関西・中国圏の事務所では私を雇って下さらないでしょうし、下調べしておいた東京の事務所を幾つかあたってみましょう。

  「明日はきっといい日だよ」

 私の両手に、今度は白菊が押し込まれました。私と同じ名前の……
この方はひょっとしてお花屋さんなのでしょうか?

ほたる「……信じて、いないんですか。私の言った事を。
    ……それとも、すごく、前向きなんですか」

 私の両手がそっと慈しむ様に包み込まれました。

  「おいで、ほたるちゃん」

ほたる「どうして……どうして……そんな事を言うんですか。
    そばに……居てくれなくてもいいのに。
    幸せで……いてくれればそれでいいのに」



 灰かぶりにはガラスの靴も、カボチャの馬車もありません。でも白菊はありました。
白菊だけは……ありました。




  「おいで、ほたるちゃん」

 お花屋さんに手を引かれ、東京を巡ります。
その間に色々な事を教えて頂きました。

 彼は芸能関係者では無い事、所属しているのは芸能事務所では無い事、でも上司からは前向きな話を頂けた事。
だからアイドルになりたいとの私の夢は、必ずかなうと言ってくれました。
何の根拠も無い言葉。それを口にした彼の横顔は、白菊に隠れて良く見えませんでしたけど。



  【ブティックShi-no】

 お花屋さんに連れてこられたのは、高級婦人服の専門店でした。こちらに勤めているそうです。
母がこちらのカタログを定期購読していた事を思い出します。東京に限らず関西圏でも有名なお店なのでしょう。
面接の為に裏口から社長室へと通された私は、小さくても手入れの行き届いた部屋だなと物珍しくあれこれを眺めていました。


  「貴女がほたるちゃんね。Shi-no共同経営者の高橋礼子よ。よろしくね」

 ジャケットを軽く羽織りながら社長室へとやって来た女性は、そう名乗りました。
まるで古い映画で見たマリリン・モンローの様に、何気ない仕草なのに大人の魅力が満載でくらくらしちゃいます。

ほたる「は、はじめまして……白菊ほたるです。
    実は暗い話で申し訳ないのですが以前所属していたプロダクションが倒産してしまって……。
    すみません……その前も……その前も……。あ、でも私、頑張りますので!!」

 背を伸ばし、精一杯胸を張って言葉を伝えます。

礼子「良し、合格。
   固くならなくてもいいわ。別にとって食おうって訳じゃないし。
   それに女の子には、誰だってシンデレラガールを目指す権利はあるわ」

 えっと、もう面接は終わりなのでしょうか? まだ履歴書の提出もしていないのですけれども……。
ソファーへと座るように手で示されました。大人しく指示に従います。

礼子「直ぐに消え去るかもしれない子へ、私からあれこれ言うつもりはないわ。
   私はただチャンスを与えるだけ。もちろん幾つかの条件は付けるけれどもね」

 そうですよね。そんなにうまい話がある筈ありませんからね。

礼子「うちは自前のモデルを抱えるだけだけれども、形式上芸能事務所としての届け出も出してあるのよ。
   なにかと融通が利くから。だからアイドルになりたいとの、ほたるちゃんの夢に対しては道を示す事が出来るわ」

 そう語る礼子さんの目は――私を見ていない?
いえ、確かに視線は私へ向けてくださっているのですが……意識は隣へ向けられているような……。

礼子「ほたるちゃん。貴女はアイドルアルティメイトへ挑みなさい。
   これが貴女へ出すただ一つの条件よ。この世界はね、実績だけが全てなの。
   厳しい物言いになるけれど、うちに必要なのは実績の出せる人間だけなのよ」

 【アイドルアルティメイト】通称IU。
年に一度開催され、真のトップアイドルを決める歌番組。あの日高舞が優勝した……。
挑むものは数あれど途中の予選や本選で敗退すれば敗者の汚名だけが残り、そのまま引退するケースが多いと聞いています。
それに――私が挑めと。


礼子「次にプロ太郎君。貴方への条件は三つよ。
   まず一つ目。ほたるちゃんは貴方が担当なさい。貴方が連れて来たのだから。
   うちのスタッフは志乃が連れて来た子しか、面倒を見ないわ。それでも平気?」

 礼子さんは私への興味を失ったようです。隣に控えていたお花屋さんへと足を進めました。
お花屋さんは下の名前がプロタロウさんなのですね。

モバP「はい、ティンときましたので」

礼子「そんな言葉を使うのは志乃くらいだけだと思っていたけれど、貴方まで……。
   志乃はそう言って色々な子を連れてくるのだけれど、私にはそのティン? が良く分からないのよね」

 私にも、まったく分かりません。聞き覚えはあるのですが。

礼子「アイドルを目指すならば、うちでのモデル業だけではなく他社の御仕事をも捜し歩く事になるわ。
   今すぐに提供できるのは、私が現役時代の古臭いノウハウだけ。
   プロデュースに関しての手厚いサポートは受けられないわよ。後悔しない?」

モバP「笑っていたんです。
   ほたるちゃんは笑ってくれたんです。
   だから僕の選択は、きっと間違いじゃありません」

 何の根拠も無い言葉。それを口にした彼の横顔は、礼子さんに隠れて良く見えませんでしたけど。
フッと、場の空気が柔らかくなったような気がします。礼子さんの肩が下がって――安心しているのでしょうか?

礼子「それじゃあ~~そうね、こうしましょう。
   ほたるちゃんを一人前の女性として扱ってあげなさい。女の子は何時だってシンデレラなんだから。
   これが二つ目の条件よ」

 ??? それがアイドル活動の秘訣になるのでしょうか。
でも礼子さんは言外に私を子ども扱いしていますよね? 確かに私は子供ですけれど。
そんな私の抗議の視線は、ウインク一つで叩き落とされてしまいました。

礼子「ほたるちゃんを女性として扱うと言っても、手は出しちゃダメよ。
   花は咲く前に手折るべきじゃあないの。うちに限らずそれはどこでも御法度。
   もっとゆっくり寝かせて、女は熟れるほど……イイ香りを放つものよ」

モバP「胆に銘じます」

礼子「ハートで良いの? もっと下じゃあなくて」

 礼子さんがお花屋さんにもたれ掛り、胸元を弄り始めました。
わわわ、気恥ずかしくなって顔を背けてしまいます。大人って凄い。


モバP「おいで、ほたるちゃん」

 お花屋さんが私の左手を引いて強引にこの場を離れようとします。
からかわれていると、気付いたのでしょうか?

礼子「履歴書は置いていきなさいな。
   細かい契約は、御両親と詰めておくから」

 廊下へ出た所でお花屋さんが踵を返し、私だけが外へと避難する形となりました。
社長室のドアが閉じられます。
お二人の声が遠くなり、やがて聞こえなくなりました。


 そういえば、お花屋さんへの最後の条件は何であったのでしょう?




 かくして継母は、灰かぶりへとお城の舞踏会へ参加するよう言いつけたのです。




―――怖がるのは恥ずかしくない 最初だから―――


モバP「御免よ、ほたるちゃん。騙すような形になってしまって」

 廊下へ出るなり、お花屋さんは頭を下げてきました。
それを見てようやく解ったのです。
この方はとんでもない嘘吐きなのではなく――

ほたる「あなたは、いい人ですね」

 ただ勇気がなかっただけなんだって。
私が疫病神と呼ばれていた事を、ずっと言い出せなかった様に。

ほたる「……もう一度、やり直しましょう。
    ……笑顔……むずかしいですね……」

 私はお花屋さんの両手を、包み込みます。慈しんで。

モバP「ほたるちゃん。君は僕があまり気付きたくなかった本性に、気付かせる行動をとるね。
   ……いや。僕は今まで自分の事をお人好しなだけの、仕事向きでない家庭的な人間だと思っていたのだけれど……」

 例え苦手であっても、それが出来ない訳ではありません。
私はいつも笑顔の練習をしています。
しおれていても……花は花ですよね。

モバP「ほたるちゃん。僕たちはもう少し明るく生きよう。
   明るい人というのは、喋り方や態度じゃないはずだ。
   僕は思うんだよ。明るい人というのは、自分を信頼できる人だって」

 何の根拠もない言葉。この方は御自分の言葉を全く信じておられません。
それでも私を安心させようと……嘘を吐くのです。

ほたる「これから、あなたを何とお呼びすればよいですか?
    私を担当して下さるんですよね。やはりマネージャーでしょうか?」

 マネージャー呼びですと、Shi-no所属のフロアマネージャーと区別がつかない為好ましくないそうです。

モバP「僕も適当に、へらへら笑うのはもう止めるよ。
   君は僕を笑うかい? 僕にはプロデューサーとしての素質はまったくない。
   だけど僕はこの瞬間から、シンデレラガールを育て上げるアイドルマスターを名乗りたいのだけれど」

 そう語る彼の姿はなんだか恥ずかしそうで、でもちょっぴり誇らしげで。

ほたる「では、プロデューサーと」

 私は笑います。
あなたはとんでもない嘘吐きで、私を騙せるはずがないと気付いているのに……。

ほたる「私は、思います。
    明日は、きっといい日だって」

 だから私も嘘を吐きます。あなたを騙す為に。
何の根拠もありませんけれど。

モバP「ああ。安心した――」

 それを口にしたあなたの表情は、ずっと伏せられたままで見えませんでしたけど。
やっぱり――また嘘を吐くんですね。

ほたる「プロデューサーさんの一言で、不幸が一つ消えるんです」

 元気に……なって……。
自分と他人どちらも信じる事が出来ないのは、あまりに寂しすぎます。

 私は……トップアイドルになりたいです。
私こんなに不幸体質ですけど……でも、ファンの人を幸せにしたいんです。
あなたを……幸せにしたいんです。




 お城は遠く、舞踏会の音は届きません。

 どんなに待っても、魔法使いは現れませんでした。
だから灰かぶりは、待つ事を止め自分でライオンに魔法をかけたのです。




  『あの……仲良くしたいんですけど……あの……そうもいかないんで。
   和を乱す様な人とは、一緒に居ちゃいけないって……。
   いえ、その、ほたるちゃんじゃなくて――プロ太郎さんですよ』


礼子「ようこそ、モデル部へ。二人ともあらためて歓迎するわ」

 生活拠点を東京へと移した私は、この日からアイドルへ向けての再スタートを切りました。
JPYシンデレラプロダクション 通称モデル部はShi-noの完全子会社としての立ち位置であるそうです。
なんでも雇用形態や就労規定等の都合上、同会社では都合が悪いとか。大人の世界は複雑です。

礼子「ここでは私を所長と呼ぶ事。けじめは大切よ」

 私と共にモデル部へ移籍となったプロデューサーさんですが、少々厳しい立場に立たされているそうです。
不定期の人事異動。
それも本人の強い希望による転属との形となっている為、それまでの業務を突然投げ出したわがままな人物との評がなされてしまったのです。


モバP『僕はほたるちゃんと共に歩く事を選んだ。それだけの話だよ。
   僕は虫けらの様な男で、才能も無かったしね。
   何時かはShi-noを辞める事も決断しなければならなかったから』

 あいさつ回りの際に先輩モデルから受けた忠告。そしてプロデューサーさんの決意表明を思い出します。
何時しか私は自然と、プロデューサーさんの袖口を左手でそっと握っていました。

 私は、ここにいます。

 私は、ここにいます。それを伝えたくて。
私も移籍を繰り返している身ですから、外様への風当たりの厳しさは理解しているつもりです。

 訓示を行う礼子さん――いえ、所長の目は私を見ていません。やはり意識は隣に……

礼子「それとプロ太郎君、差し入れをありがとう。皆きっと喜んでくれるわ」

 所長がプロデューサーへともたれ掛り、首筋に向けて語りかけます。
聞かなければ良かった。
先程まではプロデューサーさんを独占できるとのホンのちょっとした優越感に浸っていた私ですが、今では自分への嫌悪感に苛まれてしまいます。
大人になりたい、子供でいたくない、でも……大人ではいられない。

 プロデューサーさんが私を大人として扱ってくれるのは、所長の計らいによるもの。
自分が不運に囚われている事を否応なく意識させられます。
いったいどこの誰が好き好んで、この様な過酷な運命を望むというのでしょうか。
ならばプロデュースというの名の鎖で、彼を縛り付ける私は……。

 私の左手から力が抜け落ちると同時に、プロデューサーさんがその手を握り返してきました。
そばに……居てくれなくてもいいのに。
幸せで……いてくれればそれでいいのに。


  灰かぶりは王子様に見初められ 幸せに暮らしましたとさ めでたしめでたし

 違います、私はそんな事を望んではいません。
出会ったばかりで互いの事を何も知らない男女が恋に落ちるというのは、さすがに無理があります。

 灰かぶりは舞踏会に出て踊りたかっただけ。
だから私も、アイドルになりたいだけなんです。

礼子「ない物ねだりをして、他人の事を羨んで、そのくせすぐ諦める。
   そうやって手放しておきながら、未練がましく手繰り寄せる。だから子供なのよ」

 プロデューサーさんの動きに気付いたのか、所長が屈みこみ私の耳元へささやいてきました。

 貴女なんかに……いったい私の何が分かるっていうんですか!
私はアイドルになりたくて、なのに私がお世話になった事務所はどんどん潰れていってしまって。
9年ですよ! ずっと夢見ていて、なのにデビューも出来なくて、心労で白髪も増えていて。

礼子「そんな子供から、男を奪うほど私は物好きではないし、落ちぶれてもいないわ。
   もっと我儘を言いなさい。日高舞になりたいのでしょう?
   男の一人や二人、ひれ伏させる事も出来ずにどうするの」

 ささやきは続きます。私はこれ以上聞きたくないと頭を振り、所長へ向き合います。
必死で睨みつけましたが、所長にはどこ吹く風。
ですが……今にして思えばこの時初めて、私は所長のお眼鏡にかなったのかもしれません。

モバP「よかった」

 プロデューサーさんはそう、呟きました。


 翌日、先輩モデルの森久保さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。



 愛の女神の申し子エロスは人々の心を手玉に取るのが楽しみでした。
いかなる頑なな心も、彼の愛の矢を受ければたちまち恋の虜となったのです。





  『プロ太郎さんの色眼鏡が、本当に嫌いなんです。
   まるで私達の事なんて、目に入っていないかのよう。
   ……多少能力があるからと言って……!』



ほたる「今回は移籍せず……頑張れそう……」

 プロデューサーさんとの幾度かのレッスンを経て、私はアイドル歌手路線で売り出されるとの方針が決まりました。
デビュー当初はShi-noの名声を借り受けての子供服モデル業から名を売る事となりましたが、IUへの挑戦に向けては糧になりにくいとの事です。
モデル業は衣服の魅力を引き出す為個人の魅力を希薄にせねばならず、個人の魅力を売り出す正統派アイドル業とは相反するとか。

  『泣いたり笑ったり、出来なくさせてやるであります』

 ですがそれは華やかさに欠け・運動神経も悪く・軽快な話術も持たない私を、なんとかしてアイドルへと育てる為の苦渋の決断なのでしょう。
LIVE適性を見る為の試験では見習いトレーナーさんを相手に模擬試合を行いましたが、ボロボロでした。
アイドルのレッスンは好きですから、暇をみては個人練習もしていたのですが……。

ハァ

 溜息がこぼれます。
視線の先には私が以前壊してしまったスズランの鉢植えが映ります。

『ほら、大丈夫。この子はまだ頑張れる』

 プロデューサーさんが私に吐いた初めての嘘。
私はこれからもあの方に、どれだけの嘘を吐かせる事になるのでしょう。


――――


ほたる「お水をあげて、しっかりお世話すれば……元気になりますか……?」

 レッスンの帰り道、私はお花屋さんにてスズラン――Convallaria majalisと呼ぶそうです――の治療を頼み育て方も教わっていました。
北海道で私が壊してしまったConvallaria majalisの鉢植え――スズランは北海道の名産であるそうです――はモデル部の事務所に飾られていたのです。
ですが気候が合わないのか、元気が無くてずっと気になっていたんですよね。

  「お日様に当て過ぎちゃったんだね。この子はさ、もっと日陰でひっそりと咲いているのが幸せなの」

 ドキリとする言葉――意味のない言葉。
思わず睨み付けそうになり、堪えます。
落ち着かないと、私の事を話している訳ではありません。

ふう ふう

 大丈夫、私は笑えます。
いつも笑顔の練習をしているんですから――えっ! 私はいったい何を考えて……。
アイドルの笑顔はファンを幸せにできるはず……この様な上辺を取り繕う為のものではないはずです。
私は自分がこんなにも攻撃的かつ打算交じりな人間となってしまっている事に気付き、身震いする事となりました。

 なぜでしょう? 念願のアイドルデビューが出来ましたし、御仕事も順調な滑り出し。
入社日に先輩モデルは一名退社されてしまいましたが、何時ものペースならば今頃までに二桁は辞められているはず。
不安に思う事など無いはずなのに、所長にお会いする度被害妄想が強くなっているような気がしてなりません。


ほたる「そういえば……あの方も可愛かったのに、もう消えてしまいましたね」

 私の愛読していたファッション誌では、青いリボンの似合う人気読者モデルが活躍していましたが最新号では全く露出が有りません。
容姿端麗・編み物が得意とアイドルとしても活躍できそうな素敵な方でしたが……。
アイドル群雄割拠のこのご時世では、読者モデルからのステップアップは困難なのでしょう。

 例え日陰者として生きる事が正しいとしても、花を咲かせていけない道理は有りません。
この子は幸福の木なんですから。いつか元気に花を咲かせるって……信じたいんです……。

  「学校? 今日は休みだよ。
   貴女のプロデューサーはお花を買ったりするの?」

 花屋の店員さん――ここの娘さんであるそうです――と世間話をしていると、話題がアイドル業へと移りました。
えっと……Convallaria majalisに白菊を持ち歩いていましたね。事務所にも白菖蒲が活けて有りますし。
きっとプロデューサーさんは、白いお花が好きなのだと思います。

  「私は蒼が好きかな」


――――


 事務所への帰り道、お腹のすいた私は買い食いに挑戦しようと思い立ちました。
行き先は事務所の隣にあるお結び専門店――メシヤさんです。
金髪の外国人女性が一人で切り盛りしているお店であり、私も幾度かプロデューサーさんに連れて行っていただいた事があります。
バナナのお寿司を頼もうとすると何時も止められてしまうので、丁度良い機会です。
外国人向けの料理だからと言われましたが、きっとアボガド巻きの様においしい筈です。
なにせ大手の回転寿司チェーンのメニューにもあるそうですし、お寿司なだけに。

 交差点での信号待ち。手元を見やればConvallaria majalisの鉢植えが映ります。
なんだか元気になったような気がします。私も頑張らないといけませんね。
視線を上げると、色眼鏡のプロデューサーさんが手ぶらでメシヤさんへと入る姿が見えました。
このままだと店内でお会いする事になりますね。バナナのお寿司は又の機会にとっておきましょう。


  「プロ太郎様、お仕事は選んでもいいのではないでしょうか?」

 メシヤさんの店内に入ると、プロデューサーさんと店長さんが談笑されていました。
とても慈愛に満ちた言葉。それを口にした彼女の横顔は、薔薇に隠れて良く見えませんでしたけど。

 ――えっ!
プロデューサーさんの手元には先程まで存在しなかった、お結びの包みとピンク色の薔薇の鉢植えが有りました。
そのお花はなぜここにあるのですか?
そのお花はなぜアナタの手元にあるのですか?
お二人はいったいどの様なご関係なのですか?

ほたる「プロデューサーさん、見てください……! 少しだけ、葉っぱが元気に……!」

 尋ねてみたいと思いました――。
確かめてみたいと思いました――。
出来るはずがありませんでした。

 だから私は精一杯の笑顔で、プロデューサーさんに話しかけます。
彼はやさしいですから、きっと会話を切り上げてこちらへ振り向いてくれると信じて……。

モバP「よかった」

 プロデューサーさんはそう、呟きました。

 ああ、お花はこんなにも綺麗なのに。
私の心は嫉妬に満ちて、こんなにも醜い。

 見ないで下さい。
そんなにも寂しげな顔で、私を見ないで下さい。
自分への嫌悪感で泣き出しそうになりながら、店長さんへお結びを注文します。
これでもう、お二人だけで話は出来ないはず……そんな打算が耳鳴りとなって響いていました。

  「良き日になりますよう……」

 今まではあれ程おいしかったお結びですが、今日だけは砂の塊を食べているかのように感じられました。
店内の荘厳なオルガン曲も聞こえません。



 翌日、事務員の岡崎さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。



 ある時エロスは、うっかり自分の指を矢で刺してしまいました。
ちくりと走る胸の痛み。そして彼は、偶然見とめた美しいプシュケに恋をしてしまいました。





  『腐ったリンゴは、周りのリンゴも腐らせます。
   お互い、腐らないようにしたいですね。
   ……プロ太郎さんのことですよ』



ほたる「もうちょっと明るく……ですか?
    えっと……いぇいっ……みたいな?」

 アイドルのお仕事はとても好きです。
レッスンも自分の上達が感じられ、充実感に満ちています。
ですが……私はもう笑えません。

 子どもの頃からずっと芸能界へしがみついて生きてきました。
だから華やかなだけの世界ではないと、分かっていた筈なのに……。
ファンからの声援が、こんなにも辛かっただなんて。

  『アタシ特訓とか練習とか下積みとか努力とか気合いとか根性とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね。
   体力ないし。それでもいい? ダメぇ?』

 ラジオ番組にてファンから頂いたお便り。
私はこれに答える事が出来ず、別なお便りを読み上げてしまいました。

 報われない努力をするのは、辛い事です。
無駄と知りつつ頑張るのは大変な事です。
何よりも苦しいのは、全力を出し切ってその上で結果が出せない事。

 この方はきっと励まして欲しかったのだと思います。
頑張れ と、萎えた心を奮い立たせる為のたった一言を。

 以前の私であれば、励ます事が出来ました。
アイドルではありませんが、どんなに不幸でもトップアイドルになりたいと頑張り続けていましたから。

礼子『厳しい物言いになるけれど、うちに必要なのは実績の出せる人間だけなのよ』

 私はもうアイドルです。歌い踊る人形。
けっしてひるまずたゆまずに、死の舞踏を届けましょう。
アイドルは夢を与えるお仕事です。私は日高舞になるのですから。

 でもそれは何の為の、誰の為の舞なのでしょう?



――――

  「ほたるさん……聖水をかけたら蒸発してしまいそうですわね……。
   やはり今一度、お仕事を選ぶようプロ太郎様にお頼みいたしましょうか?」

 仕事帰りにメシヤさんへとご飯を食べに来た私は、入店早々軽食コーナーへと押し込まれました。
まるでプロデューサーさんが担当として不適切であるかのような物言いですね。
そんな事は有りませんよ。途切れる事無くお仕事を持ってきてくれていますし、ファン数だって右肩上がりです。

ほたる「私は……走り続けます……!
    負けたら……事務所に居られません……負けたら……褒めてもらえません」

 さあ、バナナのお寿司を持ってきてください。
私はお腹がペコペコなんです。

  「生憎と、今は切らしておりまして……。
   お寿司でしたら、バラのお寿司をご用意しますので」

 薔薇のお寿司ですって?
いったいそれはどんな嫌がらせですか!
あれ以来、私はお花を見るのも嫌になってしまっているのに……。

ぐぅ~

 空腹には逆らえませんね。
食べたら直ぐに自主レッスンに移らないと、IUの1次予選まで間が無いんですから。


  「良き糧になると信じて……」

 赤・緑・黄色・白・茶・ピンク・黄土・紅・黒・深緑。
店長さんが差し出してくれたのは色とりどりの花弁を持つ、目にも鮮やかなちらし寿司でした。

 えっと……薔薇のお寿司? ではありませんよね、これ。
メニューを見るとちらし寿司の写真に、バラ寿司との別名も記載されておりました。

 恥ずかしい、勘違いです。寿司桶からは薔薇を模した飾り寿司が切り分けらています。
そもそも店長さんは私を心配して下さっていたのに、嫌がらせととらえてしまうだなんて……穴があったら入りたい気分です。
ちらし寿司を口へ運ぶと、卵の上品な甘さと大葉のさわやかさ、きゅうりのポリポリとした歯ごたえに酢飯の程よい酸味がじんわりと染み込んできます。

  「ほたるさん、私のお茶をどうぞ楽しんでくださいまし」

 こんなにも美味しいちらし寿司は初めてです。
緑茶の渋みで喉を洗い流しすと、食後の2杯目はローズヒップティーが用意されています。
本当に薔薇尽くしですね。もう自主レッスンへ向かう気分でもありませんし、プロデューサーさんへ夕食を差し入れしましょう。

  「プロ太郎様はこの手の品を好みませんゆえ、結びに致しましょう」

 店長さんは表情を消し一瞬で笑顔を取り繕った後、寿司桶をかき混ぜてお結びを握って下さいました。
もったいない、せっかく綺麗に作って下さっていたのに……。何か怒らせるような事を言ってしまったのでしょうか?
あんなにも眩しかったお寿司が、海苔で包まれて真っ黒になってしまいました。



 海苔をお寿司の水分で馴染ませた方が美味しいとの事なので、私は今少しお茶会に留まります。
随分と良くしていただいていますが、ここまでいたせりつくせりですとくすぐったい気がしてしまいますね。
理由を尋ねるとかつてお友達がアイドルをされていたとの事で、駆け出しアイドルである私を見ると老婆心が湧くとか?
どう見ても店長さんは20歳前後にしか見えませんけれど、それでも老婆ですか。
うーん……外国の方ですし、感性が違うのかもしれませんね。


かつて世に太陽の恵みあり
太陽は踊る人形であった
かは傲慢にして不遜
ただ一人新たなる世界の秩序を自認した
十二の鐘の音を砕くべく 十時の愛へと挑み続けた
誰もが愛へとひれ伏した
ただひとつ太陽だけはこうべを垂れなかった
踊る人形は沈む事を良しとしなかったのだ

  「惨めな最期でした。ですが私は笑いません。
   たとえ見劣りはしても、その想いはきっとファンへと届いた事でしょう」

 十字の愛に神戸ですか……店長さんのお友達ですしきっと外国の方でしょうね。
やはり何かしらの制限があったのでしょうか? 宗教関係は大変そうです。
もしかするとお店で流れている曲も、聖歌なのかもしれませんね。

  「とても誤解を招きやすい方でした。
   良き担当に巡り合えていればと、悔やまれてなりません。
   ほたるさんひとつひとつの言葉を大切に……。
   アドリア海から昇る朝日は美しくとも、それは気の抜けたブドウ酒。
   同じ仮面を付けてはなりません。私とあなたのカルナバルなのですから」

 ……ど、どうしましょう。
なにかとても大切な事を伝えて下さっているはずなのですが、外国のことわざはまったく分かりません。
これからは英語も勉強するとしましても――プロデューサーさんと正直に話し合えとの事なのでしょうか?


ほたる「私……プロデューサーさんにその気にさせられて……。
    でも……このまま……騙されていたいのかもしれません」

 尋ねたい、確かめたくない、出来るはずがない。
大人になりたい、子供でいたくない、でも……大人ではいられない。
支離滅裂。とても今の気持ちをプロデューサーさんへぶつけるわけにはいきません。

  「どんなに求められたとしても、斜塔を倒してしまうわけにはいきません。
   ですがそういう事なのです」

 私の解釈に満足されたのか、店長さんはレジへと移られました。
色眼鏡の男性が会計を済ませ、保冷室から真っ黒なお結びを受け取ります。

モバP「よかった」

 プロデューサーさんはそう、呟きました。



 翌日、先輩モデルの松尾さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。



 けれども、住む世界が違うため、
エロスはプシュケに自分の想いを素直に告げる事が出来ませんでした。





  『プロ太郎さんの臭い匂いがうつってはいませんか?
   勝利ばかりを追い求めていては、足元から腐り落ちますよ』


ほたる「ほ、ほーにゃんらぶりーはーとびーむ、発射きゅんっ!……きゅんっ。
    みなさん、ハートがどきどきしてますか?」

 IUの3次予選は現在北海道で行われています。
さすがにここまで来られる方はみな実力者ばかりで、声援ポイントで大きく差をつけられています。

 これが、私の切り札。あまーいハートのアピール。
この手だけは使いたくありませんでしたが、もうなりふり構ってはいられません。


乃々『涙は女の武器と教わりました……私、涙を見せてるんですけど……』

千鶴『ちーちゃんラブリービーム……これがアイドルらしさ……? うーん……角度が……ハッ!』

 先輩モデルの森久保さんと松尾さんから、以前教えて頂きました。
本来であれば、これは会場のファンを盛り上げる為のかわいらしいアピールポーズだそうです。
けれども……かわいらしい花にもトゲは有ります。例えばそう、クイーン・エリザベスの様に。
店長さんの薔薇の鉢植えは、悪意が無くとも私の心にトゲを刺しましたよね。


ほたる「昨日も練習……してますから。
    私の暗い気持ちは……この灯りでなくしてしまいますから……!」

 私は人形です。歌い踊る毒花。
けっしてひるまずたゆまずに、死の舞踏を届けましょう。
アイドルは心を砕くお仕事です。誰もが私へひれ伏すのですから。

ほたる「どうしてもトップアイドルになりたいんです……! どんなに不幸でも!」

 同情でしょうか? 迷いでしょうか? 対戦相手の動きに陰りが見えてきました。
それはほんの一滴。なのに小さな不安のシミが、じわりじわりと広がりはじめる。

ドクッ ドクッ ドクッ

 彼女の迷いは鼓動を高め……

コッ コッ コッ

 知らず、足を駆けさせる。
……ああ、なんて無様。半テンポずれたステップ、そして跳躍。
もはや彼女は、自らのパフォーマンスを望むように発揮する事は出来ないでしょう。
――判り切った結末を語る必要はありませんよね。


 ただ勝利を目指すだけであれば、私が用いたデバフ効果は実に有効です。
今回実力に見合わぬ勝利を求めた私は、対戦相手の彼女へ不幸を届けさせて頂きました。
桜の木の根元へ死体を埋めると鮮やかな花が咲くとの俗説が有りますが、ファンは犠牲の子羊を求めているのでしょうか?

 ならば犠牲を増やしましょう。より軽やかに花弁を散らしましょう。
灰かぶりは人形。12の鐘の音が響くまで踊り続けるのですから。

 でもそれは何の為の、誰の為の舞なのでしょう?
ファンである王子様は何も答えてはくれません。


泰葉『ひな祭りまで争い……。でも芸能界はそういうところだって私わかってる。
   まぶしかった。楽しそうに歌うあなたたちが、パレードよりずっと』

 事務員の岡崎さん……貴女も同じ気持ちだったのでしょうか?

ほたる『みんなが幸せになってくれたら……それだけでいいんです……!』

 私は自分の不幸体質が嫌でした。
自分が不幸になる事がではありません、なによりも他人を不幸にしてしまう事が嫌だったのです。
ですが……今の私は……相も変わらず打算にまみれています。

 無垢である事が、望ましいとは思いません。
けれども今日の様な行いが、褒められるべき事では無い事も分かっています。

 なんだかとても疲れてしまいました。
IUの敗者は予選・本戦問わず引退者が多いと聞きますが、中には勝者であっても引退を選ぶ方は少なくないそうです。
もうこのまま目をつむってしまえば、これ以上頑張らなくても良いのでしょうか?

 プロデューサーさん、いったいどうすれば明日は良い日になるのですか?
私にはもう何も思い出せません。



泰葉『あきらめちゃダメ……。すべてが去った後では……取り戻せないから』

ほたる「私は人形じゃありません……!
    負けてもいいんです。楽しいLIVEに勝敗は関係ありません」

 精一杯の叫び。
今まで押し殺してきた気持ちが、とうとう噴き出してしまいました。

 はっ 思わず口から零れ落ちてしまいましたが、この言葉を聞かれる訳にはいきません。
私にチャンスを下さった所長の期待。
私の名を上げる為、仕事をかき集めて下さったプロデューサーさんの努力を裏切る事になってしまいます。

 辺りを見回しても控室には私以外の人影は有りません。まずは一安心。
気付けに白菖蒲の香りを胸いっぱいに吸い込みます。

ふう

 葉菖蒲とは種族が違う為香りは弱いのですが、それでも直接鼻を近づければさわやかな香りが心を慰めてくれます。
プロデューサーさんは、LIVE前には何時もこの様に新しいお花を用意して下さいます。
おかげで私の自室は頂いたお花だらけなのですが、世話をするのも楽しいんですよ。

ほたる「私は枯れません。プロデューサーさんがいてくれるから」

 これもまた、偽りのない私の本音です。
それにしても秘密を我慢できずに叫んでしまうだなんて、まるで王様の耳はロバの耳だと知ってしまった床屋の様ですね。
床屋といえば母譲りの黒髪も随分と伸びてきましたし、そろそろ美容院にでも行きましょうか?

 鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?
髪飾りとペンダントを外し髪を下すと、其処には13歳の白雪姫が映っていました。
ひんそーでひんにゅーでちんちくりんで……体重とウエストだけは、スタイルの良い母とほぼ変わらないとはとても思えません。

ほたる「ひどい顔」

 ……ああ、なんて無様。涙の跡がシミとなり、化粧が溶け崩れています。
とても人様にお見せできるような代物ではありませんね。
汗で張り付いた前髪を右手で引きはがし、化粧直しを行います。
作業中にふと思い立ち、幼いころの記憶を頼りに真似てみますと――うん、受け継いでいたものは他にもありました。
母もよく化粧の際はこうして右手で髪を抑えていましたね。

 染めるべきなのか、染めざるべきなのか……やはり染める方が――

  『女を魅せるのはこういう時……髪の先まで手は抜かないのよ』

 いえ、止めておきましょう。きちんと手入れはしていますし。
いっそこの混じった白髪を染めあげてしまえば、人形を続ける決心がつくのかもしれません。
ですが、そのままの私を認めてスカウトしてくれたプロデューサーさんがいたから……。

 プロデューサーさんは、一度も白髪を染めろと私へ言った事は有りませんでした。
幾ら白が好きな方であっても、プロデュースを担当するならば染めるよう指導するのが当然ですよね。
先輩モデルの鷺沢さんは、お仕事の時だけ毛染めを持ち歩いていましたし。
その期待へ、偽らない今の姿で……応えて上げたいんです。

 もしもプロデューサーさんが本当に魔法使いであったならば――
何時の日か、私へ毒りんごを食べさせる日が来るのでしょうか?
仕方がありませんよね。あなたはとんでもない嘘吐きで、私を騙せるはずがないと気付いているのですから。
だからきっと私は毒リンゴを食べるのでしょうね。あなたを騙す為に。


 携帯電話をかけ、LIVEが終わった事をプロデューサーさんに伝えます。
後は結果発表と、迎えを待つばかりですね。

モバP「よかった」

 プロデューサーさんはそう、呟きました。


――――


  「カーク ヴァス ザヴート?……フッ、貴方のお名前は? と聞きました。……ミーニャ ザヴート アーニャ。
   アーニャは、ええと……ニックネームよ。私はアーニャ……アナスタシアです」

 IUの3次予選は全行程が終了し、私は今アナスタシアさんと共に壇上でスポットライトを浴びています。
まさか彼女とこうして再び出会う機会があるとは、夢にも思ってはいませんでした。
透き通った青い目が私を見つめ――まるで吸い込まれてしまいそうな気分です。

アーニャ「ファンの人の前は、ちゃんと日本語使うべきですね。ほたる」

 覚えたての英語で返事をしましたら、やんわりと日本語を使うよう誘導されてしまいました。
発音が悪かったのでしょうか? 名前は聞き取って頂きましたが、気を遣わせてしまいましたね。
仕事の合間にいっぱい勉強をして英検4級を取ったばかりなのですが、精進が足りませんでした。


 今年のIU予選は参加アイドルの水準が低く、合格者は私とアーニャさんの二人だけであったそうです。
二組しか生き残らない争いとなったのは、14年ぶりだとか。
ちくり、ちくりと偉い方々からの皮肉が我が身に突き刺さります。これが針の筵にいるとの状況なのですね。

アーニャ「ンー……ニチェボー……悪くないです。アイドルは皆のナジェージタだから……あー……希望ですから。
     私のことは、アーニャ、でいいですよ」

 偉い方々からの冷たい視線もどこ吹く風。アナスタシア――いいえ、アーニャさんは気さくに私へ話しかけてくださいます。
か細い銀髪がスポットライトに照らされ、宝石の様に輝いています。私の白髪とは大違いですね。

 聞けば、あの日のアーニャさんは複数の事務所からアイドルへのスカウトを受けたばかりで、身の振り方を悩んでいらしたとか。
私がスカウトされる場面を見て、東豪寺プロダクションへお世話になる事を決めたそうです。
私の事を覚えていてくださったんですね。不思議な縁を感じます。

アーニャ「……シトー? ……えっと、何ですか?
     ショーブ……勝負ですか」

 せめてものお近づきの印にと、気付けに持ち歩いていた白菖蒲をアーニャさんにプレゼントいたしました。
花菖蒲の花言葉は【優しさ・あなたを信じる】。プロデューサーさんが私にくださった大切な言葉です。
アーニャさんは外国の方ですから細かい意味は伝わらないかもしれませんが……。
こんなにも綺麗なお花ですし、贈り物にお花を渡すのは世界共通で友好の証となるはずです。


アーニャ「こう見えてハーフだから、言葉は分かるんですよ。
     パパが見たら何を言うかな……?」

 アーニャさんは表情を消し一瞬で笑顔を取り繕った後、お花の香りを嗅いでいます。
今の動作はどこかで……。ひょっとして私、また何か怒らせるような事を言ってしまったのでしょうか?

アーニャ「私はパパに聞きました。
     【ロシアを治める者は鉄の腕を持たねばならない。しかしその手には常に手袋をはめねばならない】と」

 アーニャさんが片方の手袋を外し、私へと差し出してきました。……手袋?
困りましたね、アーニャさんはロシアの方でしたか。それでは英語が通じないのも当然です。
まだ、ロシアのことわざは勉強していませんのでまったく分かりませんし――贈り物を受け取らないのは失礼ですよね。

 私も衣装の手袋を片方だけ外し、アーニャさんの手袋と交換する事に致しました。
たしか以前テレビで見たサッカーの試合では、試合後に選手同士が健闘をたたえてユニフォームを交換していたはずです。
衣装の上着を脱ぐわけにはいきませんし、これで友好を深める事が出来れば……。

アーニャ「ほたる、貴女は本当の心とわかりました……。パパは昔、氷の川で泳いでいました。
     ヤー……だから、アイドルを頑張りますね。んん……伝わっているかな……」

 アーニャさんの差し出してくださった手を取って、握手を致します。
事務所が違う為世間ではライバル扱いされてしまうのかもしれませんが、私達はきっと良いお友達になれると思います。

 何時の間にか偉い方々のお話は終わっており、私達の前にマイクとカメラが集中していました。
ですが人込みの中心にいるのはアーニャさん。
自然と私は壇上を降り、壁の花となる事を選んでいました。

  『お日様に当て過ぎちゃったんだね。この子はさ、もっと日陰でひっそりと咲いているのが幸せなの』

ふう

 人込みから離れると、なんだか落ち着いた気分になります。
仕方がありませんよね。私は、アイドルなのに華が無いって思われていますから。
意地悪な姐達も、こうして壁の花となり王子様を見つめていたんですよね。

 私は……舞踏会で12時の鐘の音を越えて踊り続けるのでしょうか?
それとも踊る事を止め、壁の花となるのでしょうか?
あるいは……ガラスの靴を置いて逃げ出してしまうのでしょうか?

  『泣いたり笑ったり、出来なくさせてやるであります』

 そうですよね。ここまで来てしまったのですから、泣いても笑っても悔いだけは残さないようにしたいですね。


ほたる「一緒に踊りますか? ふふ」

 例えお日様を浴び続けても、あのスズランは枯れずに頑張りました。
だからプロデューサーさんが望むなら、私はもう一度壇上へ上がって撮影やインタビューの御相手も出来ますよ。
手も顔もちゃんと洗ってきたんです。しおれていても……花は花ですよね、プロデューサーさん。

礼子「おいでなさい、ほたるちゃん」

 迎えに来てくださったプロデューサーさん? に手を引かれ、IUの予選会場を後にします。
残念です。灰かむりのお誘いは断られてしまいました。
笑顔……むずかしいですね……。

 プロデューサーさんになら怒られても平気です……優しい人って分かってますから……。
プロデューサーさん、私の力であなたの夢は叶えられましたか……? もっともっと大きな夢を、これからも一緒に見たいです……!
私こんなに不幸体質ですけど……でも、ファンの人を幸せにしたいんです! だから、一緒に、トップアイドルに……!

礼子「思い出しちゃうわよね……。気持ちに気付かないオトコと、空回りしちゃうオンナのお話。
   肌が触れ合うくらい近くで……でも、温もりが心地よくて……一緒だと安らぐ……。
   夢を見られるって幸せね」



 翌日、私とアーニャさんが決闘の約束をしたとのゴシップ記事が悪徳記者の手によって発表されました。



 ガラスの靴も、カボチャの馬車も、どこにもありませんでした。
だから灰かぶりは、勇気の無いライオンをともにして裸足でお城へ向かうのです。





  『ほたるちゃんは、純真よね。
   私も貴女の様に、無邪気に何かを信じて一生懸命になりたいと思うわ。
   よりにもよってそれがプロ太郎さんというのは、どうにも納得できないのだけれど』


ほたる「て……やんでい……やっぱり無理です……す、すみません、全然似合わないです……。
    今の私、自然に笑えていますか?」

 アイドルのお仕事はとても好きです。
レッスンも自分の上達が感じられ、充実感に満ちています。
ですが……もう私 白菊ほたるには……テレビのお仕事が……ありません。

  「デレっす。い、一回だけだぞ!
   アタシを応援してくれた人たちに、アタシに可愛いドレスを着せてくれた人に、みんなに……みんなに感謝してる! みんな大好きだーっ!」

 今日は神谷さんの紹介で、シンデレラジオのゲストとして一緒にお話しをしています。
元々は将来のシンデレラを発掘するとの触れ込みで始まったこのラジオですが、当初の志はどこへやら。
今ではすっかりメインパーソナリティーの神谷さんに私物化されており、色々と融通が利くとか。

奈緒『ま、まぁ、ほたるが頼むなら、少しは協力してやるよ。
   うちもさ、東豪寺とは浅からぬ縁もあるしな』

 ファンからのお題に答えるとのこのコーナーは、過激化する事も無く長寿人気を保っているそうです。
ちなみに前回の放送にて【ミニスカサンタ衣装とスカイダイビングやるならどちらですか?】とのお葉書へスタッフ賞が進呈されました。
ミニスカサンタと神谷さんが答えた為に、今回の放送はミニスカサンタ衣装にてお送りしています。
公開生放送の為不安でいっぱいです。机で隠されているとはいえ、衣装がミニ過ぎて見ているこちらが恥ずかしくなってしまいます。

奈緒「そういやさ、ほたる。蒼い鳥のペンダント無くしちゃったんだって?
   実はさアタシの友達にも蒼が好きな子がいてね――」

 IU3次予選が終わった後、気が付けばいつも身に付けていた蒼い鳥のペンダントが無くなっていたんです。
幸運のお守りとして大切にしていたのですが……テレビのお仕事が減ってしまったのもそのせいかもしれませんね。

奈緒「年度末にはIUの決勝だろ。こっちはIA大賞に向けて新曲の準備してんだよ。
   新しい衣装も考えないと――薔薇とか、ゴージャスだよな」

 IA大賞――正式名称アイドルアカデミー連合協会大賞。
アイドル界の健全な育成と発展を目的として、その年のアイドル界に大きく貢献したアイドルに贈られる賞です。
IUとは違いLIVEパフォーマンスではなく、CDの売り上げ実績が選定の際に重視されます。
私はカバー曲だけしか歌っていませんが、それでも歌のお仕事が一番好きです。
そろそろ放送時間が押してきていますし、神谷さんは新曲の宣伝で閉めに入るのでしょうね。

ほたる「私は……日高舞の衣装が着たいです」

 また……薔薇。決して悪意はないのでしょうが、神谷さんの言葉は私の心へトゲを刺します。
お花は好きです。今までずっとお花をモチーフとした衣装を着せていただいていますし……。
ですが薔薇だけは……苦手意識が拭えません。きっと私の罪を思い出してしまうからでしょうね。

奈緒「そっか。アタシはさ、友達のみんなに教えてあげたいんだ!
   夢は必ず叶うんだって事を!
   IA大賞をアタシ達のステージへ。ゴールじゃなくて、スタートだよ。へへっ」

 神谷さんの新曲が流れ、無事シンデレラジオは終了しました。
いえ、無事だと思っていたのは私だけでしたね。
あの頃の私はまだ子供で……自分の行いや発言がどの様な意味を持つのか――
どれだけの影響があるのか、何も理解してはいませんでした。


――――

ほたる「あ、あの……すみません、こんな新しい衣装まで……大丈夫ですか?
    お仕事はちゃんとありますか? プロダクションの経営は傾いていませんか? 
    私せいいっぱい頑張ります! 期待に応えます……!」

 母以外には明かした事のなかった憧れ。
今まで押し殺してきた気持ちは、ささいな刺激で噴き出してしまいました。
思わず口から零れ落ちてしまったあの言葉を、プロデューサーさんはしっかりと耳にしてしまっていたのです。

  「お礼なんていいよ! その気持ちだけで、ウチなら十分……ね!」

 今日はShi-no本社にてデザイナーの杉坂さんが、ドレスの仮縫いをして下さっています。
モチーフは月見草――あの日高舞が最後のLIVEで着た衣装です。
きっとプロデューサーさんが古いビデオを探して、デザイン画を書き起こしてくれたのでしょう。

 海「なかなかの腕前でしょ?」

 私はモデル部所属の為Shi-no本社スタッフの方々とは交流が少なく、ここまで良くしていただくと恐縮してしまいます。
特にデザイナー室へは入室が厳しく制限されている為、杉坂さんとお会いするのは初めてなのですが。
なんでもデザイナー室では少量ながら貴金属の加工も行っているらしくて、私の社員IDでは入室が許可されないんですよね。

 海「こうしてよく弟たちの服も縫うんだ。あいつらやんちゃでさ……」

 私、前の事務所で怒られる事が多かったんです。それで……少し怖がりになっちゃって。
だから……大きな声を出す方も苦手だったのですが、杉坂さんは元気で……やさしいですね……。
私もあんなに威勢よく暮らせたら……。


ほたる「ひらひらさせます……!」

 これでも、思い切ってポーズしてるんですけど……プロデューサーさんはダンスを続けるよう指示されます。
仮縫いの段階でここまで動いてしまって良い物なのでしょうか?
けど、言う事はちゃんと聞かなきゃって思ってます。逃げたくは……ないですから。

 月見草は他の花とちがって、夜にこっそり咲く小さな花。
まるで私みたいですね……。それでも咲けただけいいかも……。たとえ見てもらえなくたって……。

ほたる「歌えるだけでも……幸せ……」

 あれはおとぎばなし、誰もが笑う御伽噺。

 ようやく思い出せました。
ガラスの靴も、カボチャの馬車も私には必要ありません。
自然と足取りが軽くなります。シンデレラのダンスはガラスの靴が踊らせたのではなく、灰かぶりの実力であったはずです。
だってそうでしょう? 踊りだすのは赤い靴、ガラスの靴に魔法はかけられていなかったんですから。

 海「衣装に振り回されないようにっ」

 灰かぶりは夜の女王だったんです。
舞踏会での活躍も、王子様の為に頑張った訳ではありません。
何時もの様にただ歌い舞っただけ。だってそうでしょう?
灰かぶりの歌はきっと何時だって、ネズミを幸せにしていたのですから。



モバP「御免よ、ほたるちゃん。騙すような形になってしまって」

 ダンスを終えるなり、プロデューサーさんは頭を下げてきました。
時計の針は12時を示し、仮縫いのドレスは解れてただの布きれとなってしまっています。
それを見てようやく分かったのです。
これは――日高舞の衣装ではありません。

ほたる「プロデューサーさんはどんな魔法が使いたいですか?」

 よく見れば意匠は同じでも、衣装の細部が異なります。
日高舞の衣装は胴回りがゆったりとしていたのに、これは仮縫いでも体にフィットするタイトなデザイン。
そして何よりも違うのは……テレビではピンクと紫で彩られてたはずの衣装が、白一色であった事。

ほたる「……もう一度、やり直しましょう。
    ……笑顔……むずかしいですね……」

 私はプロデューサーさんの両手を、再び包み込みます。慈しんで。


 海「才能だけが全てじゃないんだね。わかったよプロ太郎さん。
   頼れる存在って……なんかいいね。へへっ」

 杉坂さんの話では、本物の日高舞の衣装はデザイナー室にデザイン原画があるそうです。
その為社長の許可さえ下りれば、何時でも本制作が可能との事。
デザインの盗用は厳禁ですが、プロ太郎さんもかつてはデザイン部で見習いをしていた為手習いに参考としていたとか。

 海「スカートが気になって……」

 私は社長にお会いした事もありません。普段からお会いできる一番偉い方は所長ですしね。
ちなみに本日のプロデューサーさん印のドレスですが……デザイン――論外。配色――不可。ようは落第であったとか。
プロデューサーさんは作業用ゴーグルを身に付け、杉坂さんから手解きを受けています。
こんな時であっても、プロデューサーさんは色眼鏡を外さないのですね。

ほたる「いつか……プロデューサーさんに……あの……幸せを届けられるアイドルに……」

 全ては社長の気紛れ次第との事ですので、私はモデル部へと戻りお花の世話へと移りました。
水やりの最中に先輩方から伺ったのですが、社長は14年近く在宅勤務でありShi-noの経営は実質所長が一人で行っているとか。
先輩方には世間話を通じて幾度も励まして頂きました。たくさんの仲間といて、不運も逃げていきそう……。

ほたる「私は、思います。
    明日は、きっといい日だって」

 自然と口から言葉が零れ落ちていました。
何の根拠もありませんけれど。



 翌日、Shi-noフロアマネージャーの服部さんが休職届を出されました。



 偉大な魔法使いのオズは、とんでもない嘘吐きでした。
だから灰かぶりは、自分もまた最後まで嘘を吐き続ける事を決めたのです。





  『また……。あなた達のように、仲の良いプロデューサーとアイドルって居るのね。……関係ないわね。
   おめでとう。……もし、私もあなた達みたいな関係だったら……』


ほたる「プロデューサーさん、あの……お疲れじゃないですか……。
    私なんかに付き合ってもらっちゃったから……すみません」

 ついに恐れていた事が起こってしまいました。
私のわがままのせいで、プロデューサーさんを苦しませてしまっています。

モバP「ほら、大丈夫。これがあればまだ頑張れる」

 私の両手に安産祈願のお守りが押し込まれました。

ほたる『こんなにたくさん開運グッズ……これで私の不幸体質も治るかも……。
    えっ? 安産祈願のお守り……あ、違うんです、これは間違えて……。
    あの……プロデューサーさん、選んでもらえませんか? 自分で選ぶより、選んでもらったほうが運がいいと思うから……。
    お、お揃い……? あの……お仕事の時も……お守り持って頑張ろうと思います……』

これは鎌倉あじさい巡りの時の……まだ持っていてくださったんですね。

  「ほら、ちゃんと1人で買ってこれましたよぉ、エッヘン♪ 案外、アメリカもたいしたことないですねぇ!
   このまま、イズミンアコちゃん、あとほたるちゃんとで全米制覇ですよぉ♪」

 西園寺プロダクションの村松さんが、お水を買ってきてくださいました。
プロデューサーさんに酔い止め薬を飲ませ、一足先に観光バスまで引き返す事に致します。
乗り物酔いとはこんなにも辛い物だったのですね。

ほたる「お守りに想いを込めました」

 元気に……なって……。
プロデューサーさんとなら……喜びも苦しみも分かち合えるんです。

―――どんな夢も願っていれば いつかは叶うよ―――

 口癖となった歌を口遊みながら、プロデューサーさんの様子を窺います。
拭いてあげますねっ。全部拭きますから、動かないで任せてください、プロデューサーさん。
……お薬が効いたのか汗は引いていますので、大丈夫そうですね。
私がフーバーダムとレイクミードを見たいと言ったばかりにこんな事になってしまって――。

ほたる「私の家族、最初はアイドルやるのに反対だったんです……。すごく心配だったらしくて……。
    プロデューサーの前向きなところ……見習います……!」

 プロデュサーさん曰く、これはただの時差ボケとの事。
それよりもIU優勝の前に厄落としが出来て良かったと、喜んでくださいました。
不幸……いや、私が不注意だったんでしょうか?

 何の根拠もない言葉。この方は御自分の言葉を全く信じておられません。
それでも私を安心させようと……何時までも嘘を吐くのです。

モバP「ほたるちゃんには、苦労を掛けるね。変わろうと決意したけれど、僕は虫けらの様な男で。
   綺麗な花があっても、蜜を吸い葉をかじるばかりで傷付ける事しかできないんだ。
   あんなに一緒だったのに、スズランが枯れそうになっていた事も分からなかった」

 虫が花粉を運ばなければ、実を結ばない花だってあります。
過去の不幸な私は食べつくされてしまいましたが、今の私は貴方が育ててくれた種なんです。
母が土を、所長が光を、多くの方が水をまいてくださいました。後はただ芽を出し花を咲かせるだけ。

 笑顔……ですよね……。これまでで最高の笑顔……もっと自信のある笑顔を……。

ほたる「私、プロデューサーさんとなら……きっとどんな困難だって乗り越えていけそうです……。だから、これからも……!
    もっとプロデューサーさんと、皆といたいです。人ってわがままになるんですね……」

 だから私も嘘を吐きます。
あなたを騙す為に、どこまでも。

モバP「明日はきっといい日だよ」

 それを口にしたあなたの横顔を、しっかりと見たのはこれが初めてでした。
やっぱり――また嘘を吐くんですね。



  『ほたるちゃん、カジノ行こ! ……え、未成年はアカンの? ガーン!』

 Shi-noの慰安旅行でラスベガスへ来ていた私達なのですが、ここって大人の為の町なんですよね。
本社スタッフの大半は成人の為カジノ暮らしを楽しんでおられますが、モデル部の場合は未成年も所属しておりそうもいきません。
どうやって過ごそうかと悩んでいた私ですが、今日はたまたまアメリカツアーに来ていた西園寺プロダクションの方々と一緒に観光を楽しむ事となっています。

さくら『たとえ日本語が通じなくても、スマイルは全世界共通ですねぇ♪』

 幸い普段から英語の勉強に励んでいましたので、私が皆さんの通訳を買って出ました。
先輩モデルのケイトさんからは、古式ゆかしい本場のクィーンズイングリッシュを入念に指導していただきましたしね。
The rain in Spain stays mainly in the plainとこの様に、自信は有ります。
意訳するならば、橋の端で嘴の箸が走るとでも言えば良いのでしょうか?
いざとなれば村松さんがお持ちの英会話の本をお借りすれば、困る事も無いでしょう。


モバP『え、英語……は、はろーっ!』

 それよりもプロデューサーさんが、英語はさっぱりだと正直に教えて下さった事が嬉しいですね。
少しでも御恩を返せれば……行く当てのない私によくしてくれた……ほんのお礼です。

モバP『英語より、ロシア語が得意カモダヨー?』

 ドキリとする言葉――意味のない言葉。
あの日もしかしたらプロデューサーさんは、私ではなくアーニャさんをスカウトしていたのかもしれないんですよね。
仮に私が東豪寺プロダクション、アーニャさんがJPYシンデレラプロダクションへスカウトされていたとしたら……。

 意味のない仮定。
こうして落ち着いていられるのも、プロデューサーさんが私の不安を消してくれるから……。
それはほんの一滴。なのに小さな不安のシミが、じわりじわりと広がりはじめる。

モバP『僕はほたるちゃんと共に歩く事を選んだ。それだけの話だよ』

 仕方がありませんよね。アーニャさんはお綺麗でした……あの纏う空気を華と呼ぶのでしょうね。けれど私は雑草。
彼女の様な方が、きっとシンデレラガールに挑む権利があるのだと思います。そして私は灰かぶりのまま。
でも、プロデューサーさんは月見草のよさに気付く人だから……私はそれだけで……。たとえ見てもらえなくたって……。

ほたる「どんなことでも、プロデューサーさんになら笑って話せる気がするんです……受け止めてくれるって……思うから……」

 きっと店長さんが伝えたかったのは、こんな風に大切な時間を過ごす事だったのだと思います。
だから私は話しをしたいと思います。正直に。
今までの不安を――これからの不安を。


ほたる「プロデューサーさん、お疲れ様です……。こうしてふたりで歩く時間……とてもゆっくり過ごせて嬉しく思います……」


――――


ほたる「写真に撮るしかないですよね。でも、みんなといる楽しさまでは……残せないかも……」

 観光バスへの道すがら、せめて旅の思い出にと私は使い捨てカメラで撮影に励みました。
特に狙いを定めずシャッターを押すだけですが、アメリカを代表する人造湖は圧巻ですね。
でも撮影たくさんしたけど……プロデューサーさんとふたりで撮ったのは1枚もないですね……。

  「ねえ夢子ちゃん。さっきのお店何か変じゃなかったかな? なにがとは、はっきり言えないんだけど……」

  「男の癖に細かい事をぐちぐちと――いい涼。
   私に任せてさっきみたいにアンタはとにかくイエスとだけ言っとけばいいのよ。ちゃんと写真撮って貰えたでしょ」

 ふと視線を上げると写真屋さん? の建物が有りましたのでそちらへ向かう事としました。
店外には男女のツーショット写真が沢山飾られています。
プロデュサーさんを休ませる意味でも、日差しを遮る屋根が欲しいですしね。


  「ハァイ! 私はレナよ。ネバダへようこそ!
   婚姻許可証か結婚証明書はお持ち? 貴方達は東洋系ね。
   グリーンカードを見せて貰えれば、こちらで手続きもしておくわ。もちろん旅行者でも歓迎よ!」

 店内に足を踏み入れるなり、バニースーツのお姉さんに手を引かれカメラの前へと立たされました。
戸惑う私達には目もくれず、テキパキとウサギのお姉さんは撮影の準備に入っています。アメリカの客引きは強引ですね。
しかもこの方、お胸がすっごく豊かです。もしかすると所長よりも大きいのかもしれません。

レナ「ん~? どこ見てるの、もうっ♪ うちはとにかく速さが売りなの。
   私、負けず嫌いなのよね! 神前式・仏式・ユダヤ式なんでもござれよ。
   さってと! やりますか! お仕事するわよっ!」

 全体的な肉付きと色っぽさでは所長に軍配が上がるのでしょうが……。
バニースーツのせいでお胸がすごく強調されていてなんだかとても……えっちぃですね。
いえそれよりもこのウサギさん、すごく早口な上に西部訛りが酷すぎて何をおっしゃっているのかあまり聞き取れません。

レナ「お待たせ♪ さぁ行きましょうか。あら、初めて? 緊張する?
   貴方達も日本人だったのね。私は日本語を使えるけど、どちらが御好み?
   式のオプションには御代を貰うけど、こちらはタダでいいわよ」

 プロデューサーさんが鞄から私達のパスポートを取り出して、ウサギさんへ見せています。
ああ、なるほど。証明書? って身分証明書の事だったんですね。
パスポートを受け取ると、ウサギさんは何やら書類にサインをしています。

ほたる「写真撮るときは……照明たくさん当ててください……。
    後は……その、なるべく簡潔にお願いします」

 あの強引な客引きから見るに、ここはもしかすると観光客相手のぼったくり商売をしているのかもしれませんね。
下手にオプションを頼むと高額請求が来るかもしれませんし、早めに終わらせていただきましょう。

レナ「そう、なら細かい所は省いて宣誓式だけがいいわね。人生は度胸とハッタリが大事よ。
   愛も夢も、この宣誓台に賭けて。やっぱり英語の方が雰囲気出るものね。
   ミスター。あなたはこの少女を永遠に愛すると誓えますか?」

 ウサギさんがリモコンを操作すると、スピーカーから音楽が流れてきました。
これは――メシヤさんの店内でもよく流れている荘厳なオルガン曲ですね。なんだか懐かしくなってしまいました。
プロデューサーさんへとささやきます。日本に戻ったらまた一緒にお結びを食べましょうね。

モバP「よかった」

 プロデューサーさんはそう、呟きました。

レナ「ワカッタ? オーケーって事なの?
   それじゃこの中から指輪を選んであげて。何事も真剣にならないと、ね?
   ミセス。あなたはこの男性と生涯を共に歩む事を誓えますか?」

 えっ、えっ、何で指輪がこんなに沢山! 宝石なんて高価な物いりませんし早くお店を出ませんと――ああでもパスポートを預けたままです。
アメリカに来てまでプロデューサーさんをこんな不幸に巻き込んでしまうだなんて……。

ほたる「えっと……おまかせします」

 プロデューサーさんがこれは指輪ではなく、飴細工であるとささやいてくれました。
1つ貰えるとの事ですが、私の頭は御代への心配で一杯です。
1ドルって旅行前は幾らでしたっけ? お財布には今何ドル入れていたでしょうか?
もしも払えなかったら、怖いお兄さん達が出てくるんじゃ……。

レナ「オマカセ? イエスね!
   ではネバダ州知事より与った権限により、私が証人となりここに二人が夫婦である事を承認します!」

 プロデューサーさんが私の口へ指輪――いえ、飴細工を差し出しました。
飴細工ですと縁日で鶴を見た事は有りますが、綺麗な指輪なんてご、豪華すぎです……。私なんかが食べていいんでしょうか。
うう、とても甘くて美味しいです。こんな状況でなければ、ぱさぱさーって天まで飛べる気持ちになれたでしょうね。

レナ「なんてね。はい、撮影は終了よ。
   お子様にはまだ早かったかしら? 大きくなったらまた来てね。
   正式なものではないし、御代は気持ちだけで結構よ」

 当然カメラから閃光が放たれ、ポラロイド写真が出来上がりました。
自然に笑おうとしましたが、くしゃくしゃな顔になってしまっていて。これって泣き顔ですよね?
プロデューサーさんが支払いを済ませ、写真と書類、パスポートを受け取ります。

 あれ……御代はそれだけでいいんですか? 予想とは違って常識的な額ですね。
また来るようにと言われた気がしましたし、書類は割引券か何かでしょうか……。
ウサギさんを勝手に悪人扱いしてしまった事が申し訳なく感じられ、お店を出るまで何度も深く頭を下げました。


  「シミュレーションは必要よね。その……万が一の日が来るかもしれないし。
   ときめきも数値化できるのかな。私がノリ気? そ、そんなんじゃ……!」

 写真屋さんを出ると、丁度西園寺プロダクションの大石さんと合流できました。
さっそくですが先程のポラロイド写真を見せ、大石さんも写真を撮ってはどうかとお勧め致します。
せめてものお詫びに、ウサギさんの売り上げへ貢献できれば良いのですが。

 泉「……そりゃ、私だって女の子だから……嬉しいけど……複雑だなぁ。
   ね、写真撮って! 二人に送るの! やっぱり変な感じだよ……」

 先程まではにこやかだった大石さんですが、写真とお店を見比べると表情を消し何事かを呟き始めました。
これは――IUの3次予選で御一緒したアーニャさんであるかの様ですね。
目から光が消え酷く冷たい空気を纏っているかのように感じられますが、直ぐにまた明るい笑顔を見せてくれるのでしょう。
だって私達を心配して追いかけて来てくれるくらい、優しい方なのですから。


 帰国後、西園寺プロダクションのニューウェーブが解散した事を知りました。
悪徳記者は1人の男性を巡るメンバー間の痴情のもつれが原因だと書き立てていますが、こんなもの当てになりませんよね。



 とうとうエロスはプシュケを自分の傍へと連れてきました。
嫌がる彼女に構わず、一緒の生活を始めます。






―――お仕事が終わったら……どうしても、プロデューサーさんに言ってほしい言葉があるんです―――


ほたる「月見草の衣装、うれしいです……。でもうれしさに慣れてなくて、どういう顔すればいいのか、わからなくて。
    プロデューサーさん、着せてくれてありがとう……。少しずつ……幸せに慣れたい……」

 IU本戦の直前、私は控室にて大慌てで白菊のドレスを脱いでいます。
なんでも今朝になって当然社長がふらりと出社した為、プロデューサーさんがその場で許可を頂いてくれたそうです。
そこからは杉坂さんのみならずデザイナー室の皆さんも巻き込んで、突貫作業で仕上げてくれたとか。

ほたる「今まで……私は不幸だって……思ってました……。でもプロデューサーさんと出会って……私は変われたと思います……」

 新しい衣装はデザイン原画そのままの仕上げである為、背丈は合いますが私には随分とサイズが大きめですね。
特に元々胴回りがゆったりとしたデザインである為に、自分がひんそーでひんにゅーでちんちくりんな事を意識させられます。
サイズ直しの余裕も無い為、所々を仮縫いで止め誤魔化す形となりました。これでは激しいダンスは踊れませんね。

ほたる「でも……今までの私がなければ……プロデューサーさんにも会えてなかったかもしれません。
    だから、私……今とっても幸せなんです……!」

 今年のIU本戦の演者は3名。
1年を通じて予選を勝ち上がった私とアーニャさん。
そして主催者推薦枠であったニューウェーブに代わり、IA大賞受賞の実績をこわれ急きょ補欠出場の決まった神谷さん。

 下馬評価では私の名前が上がる事は有りません。
長い間テレビでのお仕事が無く露出が極端に減った為、知名度でお二人に後れを取っていますね。

 そして今回のLIVEはフェスの様な対決式ではなく、単独LIVEを順番に行う形式ですので真の実力が問われます。
以前の様に小細工の余地もありませんね。もっともデバフ効果を狙う気は全くありませんでしたが。
私の出番は最後です。後はもうシンデレラガールの座をめざし全力を尽くすだけ……。


礼子「入っても良いかしら?
   ほたるちゃんそろそろ出番よ。移動の準備に――ヒィッ!」

 楽屋を覗き込んだ所長が、突然奇声を上げ床へと崩れ落ちました。
それはまるで、青ざめた馬に乗る見てはいけないものを見てしまったかの様な……。

礼子「ま、まさか……プロ太郎君……貴方の仕業じゃないわよね?
   私との約束を忘れたとは言わせないわよ!」

 プロデューサーさんが気付けにブランデーを飲ませましたが、所長の震えはまだ治まっていません。
それどころか介抱をしているはずのプロデューサーさんへ対して、飛び掛からんばかりの剣幕です。

モバP「もちろん覚えております。
   僕がほたるちゃんにドレスを着せました」

 2口目のブランデーが所長へと注がれます。これで落ち着いていただければよいのですが……。
あれ? どうして控室にお酒があるのでしょうか。所長の私物ではありませんよね――母の忘れ物かも。
今までプロデューサーさんから頂いた気付けの差し入れは全てお花でしたし、そもそも私は未成年ですのでお酒なんて飲めませんが……。

礼子「出て行きなさい! 警備員を呼ぶわよ。
   いえ、待って――私のゲストパスをあげるわ。だから外で話をしましょう。
   志乃を呼ぶまで、警察への引き渡しはしないと約束するから――」

モバP「既に社長からは許可を頂いております」

礼子「そんな! 志乃が……確かにあの子ならば許可を出せるけど……」

 あっ! そういえばデザインの盗用は御法度だって聞いた事が有ります。それで所長は怒っていたんですね。
今朝社長から許可を頂いたばかりですし、所長へは連絡が届いていなかったのでしょう。
さすがにアパレル業界の方はすごいですね。古い衣装でも誰がデザインしたのか一目で判るだなんて。

ほたる「全部、私がプロデューサーさんにお願いした事です。
    だから……悪いのは全てわがままを言った私です。プロデューサーさんは悪くありません」

 未だ座り込んだままの所長の手を取り、立ち上がらせます。
所長は土気色の顔をしたまましばらくの間私を眺めていましたが、良く似合っていると褒めてくださいました。
ヨロヨロと控室を立ち去る所長の後ろ姿は、私が今までIU予選で蹴散らし引退へと追い込んでしまった名も無きアイドル達を思い起こさせます。


ほたる「さよならって挨拶した後……もう二度と会えなくなるかもって思ったこと、ありませんか?
    私わかったんです……今まで不幸だったのは、プロデューサーさんと逢うために運を使い果たしていたのかも……なんて……」

 プロデューサーさんの手を取り、廊下へと足を向けます。
ステージ脇の特等席で、プロデューサーさんには今日のLIVEを見ていて欲しいから……。
歩を進めるとプロデューサーさんの手が力なく離れ、私の左手は空を掴みます。


モバP「御免よ、ほたるちゃん。騙すような形になってしまって。
   もう君のプロデュースはしてあげられないんだ」

 それを口にしたあなたの胸元には、本来あるはずのモデル部の社員証はありませんでしたね。

 あの頃の私はまだ子供で、どんなに不幸でもアイドルになりたいと夢に縋りついていて……。
自分が本当に幸せにしたい人を、不幸にしていた事に気付く事も出来ませんでした。
まるで――綺麗な花があっても、蜜を吸い葉をかじるばかりで傷付ける事しかできない虫の様に。


モバP「僕なら……もう大丈夫だよ。ありがとう。
   明日はきっといい日だよ、ほたるちゃん。
   お疲れ。君は――幸せにならなきゃ」

 プロデューサーさんにずっと守られてる気がして、明日も明後日もその先もずっと会えるって……。
私達に限ってそんなことはありえませんと……そう信じていて。


ボーン ボーン ボーン

 今日が……ずっと終わらなければいいのに――。

 柱時計が12時の音を告げます。


 随分後になってから知ったのですが……所長の出された最後の条件によって、プロデュース期間は1年限りであったそうです。



 エロスはプシュケをじっと見つめます。怒りはなく、深い悲しみと憐れみの表情で。
それによりプシュケが気を失ってしまうとしても。





 長く狭いトンネルを独り歩く。

コツ コツ コツ

 ここはとても寒くて、心細くて、お腹がすいて……

ドク ドク ドク

 足音が心臓の鼓動と共鳴する。
足を止めれば、そのまま心臓まで止まってしまうのではないか?
それはほんの一滴。なのに小さな不安のシミが、じわりじわりと広がりはじめる。

ドクッ ドクッ ドクッ

 帰りたい 帰りたくない ここから逃げ出したい。
私の迷いは鼓動を高め……

コッ コッ コッ

 知らず、足を駆けさせる。
……でも帰れない。


 大人になりたいと 私は望みました。


 トンネルはとても長くて、出口が見えません。
例え振り返ったとしても、入り口もまた見えないでしょう。

 人影も無く、私は世界にたった独りなのではないか?
そんな大きな不安が、私を押しつぶす。

ハァ ハァ ハァ

 浅く か細い呼吸。
背が丸まり、自然と私の顔は伏せられます。
今まで視界に入らなかった床の汚れが、意識を引き戻してくれました。

 以前は何時も見ていた光景。
何時からだろう? 長らく見る事のなかった光景。

ハ ハ ハ

 可笑しい事など何もないのに、私は声をあげて笑います。
誰か見ている人がいたとしたら、私が狂ってしまったのかと心配した事でしょう。


 大人であるべきだと 私は望みました。


 でも、大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの横顔を覚えているから。


―――しかし闇は待ち伏せていた 幸せ全てのみこまれ
   希望失って悲しみにくれるなか 空からそそぐ光 暖かく差しのべる―――

 不意に口遊む。成る程、確かにぴったりだ。
ならばこれはおとぎばなしだ。
めでたしめでたしで終わる御伽噺、誰もが笑う御伽噺。

 だから大丈夫。
私はもう笑わない。あなたの鼓動を知っているから。


 ……記憶を掘り起こす……


 大人でいたかったと あなたは望みましたね。


 今なら私は信じられる。
あなたを宿す未来が見える。
差し出された手を取って、私も一緒に歩き出そう。



 プシュケが目覚めたとき、城も中庭もなく、雑草の中にいました。
エロスとともにすべて消えてしまったのです。





 ステージへと足を進めるにつれ、歓声が鳴り止んでゆきます。

 アーニャさん・神谷さん両名のLIVEにて最高の盛り上がりを見せていた筈の会場は、まるでお通夜の様に静まり返りました。
観客の顔は一様に真っ青です。花道から私が視線を向けても顔をそむけ、怯えるばかり。
どこにも、味方はいないのですね……。

 これが私の最後のLIVEとなるのかもしれません。
ステージの中央から静寂を断ち切って、語りかけます。


ほたる「私は、思います。
    明日は、きっといい日だって。
    昨日よりも今日よりも、明日はきっといい日だって。
    何の根拠もありませんけれど、そう思います。
    明日は、きっといい日になります。
    いつも、頑張っていますから。
    昨日よりも今日よりも、明日は頑張った分だけ、きっと前に進んでいます。
    頑張りは報われないときもあるけれど、それよりもっともっと頑張れば、前に進めます。
    -1+2なら答えはプラスになるんです。
    -1億+1億1でも、答はプラスです。
    だから、昨日よりも今日よりも絶対に明日は良くなります。頑張り続ける限り。
    先に寿命はつきるかも知れないけど、その時は天国で頑張ればいいんです」

 マイクを通さず。

 私の声を。

 私の言葉で。

  『ほたるさんひとつひとつの言葉を大切に……』

 これはプロデューサーさんへの言葉ではありません。


  『アタシ特訓とか練習とか下積みとか努力とか気合いとか根性とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね。
   体力ないし。それでもいい? ダメぇ?』

 私の事を応援してくれたファンの為に。


ほたる『プロデューサーさんの一言で、不幸が一つ消えるんです』

 伝説のアイドル日高舞に憧れた私の為に。


ほたる「誰が、どう言ったって、いいじゃないですか。
    重要なのは……きっと重要なのは、みんながどう自分を思うかじゃなくて……。
    みんなが、どれだけ幸せになれたか、です。 ね?
    だから、きっと、なんとかなりますよ。
    運も、他人も関係ありません。自分だけで、答えは決まるんだから。
    頑張れば……きっと」


ほたる『歌えるだけでも……幸せ……』

 これから先、シンデレラを夢見る全ての灰かむりの為に。




 だから、私は歌います。
大好きな曲を。


 【ALIVE】


 私は、ここにいます。

 私は、ここにいます。それを伝えたくて。



 ――判り切った結末を語る必要はありませんよね。





  眠りなさい!  眠りなさい! 

  素直に眠る程 賢しい子供ではなくて

  眠りません! 眠りたくありません! 今夜は眠れません

  どんなに輝く宝冠も 子供のわがままは止められなくて

  一晩中  踊り明かしたいんです

  一晩中  踊り明かしたいんです

  彼が踊ってくれるなら このままずっと……踊り続けたいんです





―――私と一緒は……つまらなくなかったですか?―――


モバP「――」

ほたる「――」

モバP「――」

ほたる「――」

モバP「――ほたるちゃん、其処に居るのかい?」

ほたる「はい」

モバP「来ていたのならば、声をかけてくれればよいのに」

ほたる「随分とお悩みの様でしたので」

モバP「考えてみたいんだ。大切な事だからね」

ほたる「それはもしかして……私の事でしょうか?」

モバP「よく分かったね」

ほたる「顔に書いてありますから。プロデューサーさんはなんだか嬉しそうな顔をしています」

モバP「そうかもしれないね。ほたるちゃんも、今は嬉しそうな顔をしているよね」

ほたる「はい、とっても」


モバP「考えてみたいんだ。ほたるちゃんの将来の事なんだから」

ほたる「お答えはでましたか?」

モバP「さっぱりだよ。見当もつかない」

ほたる「一年前初めて私に逢った時、どの様にプロデュースをするおつもりでしたか?」

モバP「さっぱりだったね。何をすれば良いのかも分からなかった」

ほたる「おんなじですね」

モバP「同じだね」


モバP「一年前初めて僕に逢った時、ほたるちゃんは何がしたかったのかな?」

ほたる「頑張らなきゃいけないって、思っていました。
    プロデューサーさんは臆病な方ですから」

モバP「ほたるちゃんは、これから何がしたいのかな?
   君は人形じゃないんだから、将来の夢とかあるよね」

ほたる「願いはあります。でもそれが叶うとは思えません。
    プロデューサーさんは臆病な方ですから。だから頑張らなきゃいけないって思います」

モバP「同じだね」

ほたる「おんなじですね」


モバP「答えを教えてはくれないのかな?」

ほたる「願いを叶える事だけが、幸せではありません。
    それにプロデューサーさんは、もうお答えを御存じですよね?」

モバP「顔に書いてあるからね。ほたるちゃんはなんだか嬉しそうな顔をしているよ」

ほたる「はい、とっても。プロデューサーさんも、今は嬉しそうな顔をしていますね」

モバP「そうかもしれないね」


ほたる「答え合わせはなさらないのですか?」

モバP「願いが叶う事だけが、幸せではないからね。
   それにほたるちゃんは、もう僕の答えが何なのかを分かっているんだよね」

ほたる「顔に書いてありますから。プロデューサーさんはなんだか困った顔をしています」

モバP「そうかもしれないね。ほたるちゃんも、今は困った顔をしているよね」

ほたる「はい、とっても」


モバP「答え合わせはどうしようか?」

ほたる「違っていたら、困りますね」

モバP「当っていたら、困るね」

ほたる「おんなじですね」

モバP「同じだね」


モバP「考えてみたいんだ。ほたるちゃんの将来の事なんだから」

ほたる「考えてばかりではいけませんよ。私達の将来の事なんですから」

モバP「何が違うのかな? 同じ事だよね」

ほたる「何も違いませんよ? おんなじ事ですから」


モバP「――」

ほたる「――」

モバP「――」

ほたる「――」

モバP「一緒に考える事は止めようか? ほたるちゃんを困らせてしまうから」

ほたる「一緒に考える事は止めませんか? プロデューサーさんを困らせてしまいますから」

モバP「同じだね」

ほたる「おんなじですね」


モバP「もう君のプロデュースはしてあげられないんだ」

ほたる「手も顔もちゃんと洗ってきたんです」

モバP「願いを叶える事だけで、幸せだったんだ。
   僕は臆病な男だから」

ほたる「願いが叶う事だけで、幸せだったんです。
    私はプロデューサーさんの幸せなお人形」

モバP「おいで、ほたるちゃん」

ほたる「一緒に踊りますか? ふふ」

モバP「考えてみたいんだ。大切な事だからね」

ほたる「それはもしかして……私達の事でしょうか?」

モバP「よく分かったね」

ほたる「顔に書いてありますから。プロデューサーさんはなんだか嬉しそうな顔をしています」

モバP「そうかもしれないね。ほたるちゃんも、今は嬉しそうな顔をしているよね」

ほたる「はい、とっても」


 このままふたりでどこまでも……それもいいかなって思います。
プロデューサーさんと一緒にお世話をして……一緒に咲いたお花を見るのが……今の私の、ささやかな夢です……。

 もう12の鐘の音は鳴り止んでいて……。
ガラスの靴も カボチャの馬車も 継母さえもお城へと置いてきてしまいました。
綺麗なドレスも 宝冠も 灰かむりには必要ありません。
だけどこの先きっと、お城からは迎えがやってが来て……。


 本当はふたりともそんな事は無いと分かっています。
願いを叶える事だけで、幸せにはなれませんでしたから。

 けれどもこのままふたり、手を取り合って踊り明かしたい。

 だってそうでしょう?
御伽噺は何時だって、めでたしめでたしで終わるんですから――。



 お城は遠く、舞踏会の音は届きません。

 どんなに待っても、魔法使いは現れませんでした。





―――ひとつの命が生まれゆく

   二人は両手を握りしめて喜びあって幸せかみしめ

   母なる大地に感謝をする―――





  灰かぶりは王子様に見初められ 幸せに暮らしましたとさ めでたしめでたし


 あれはおとぎばなし、誰もが笑う御伽噺。


 子供の頃の私には、どこが幸せなのかがよく解りませんでした。
だってそうでしょう? 灰かぶりは舞踏会に出たかったのに、お話しでは一度しか踊れなかったんですから。


 だから私は母に、灰かぶりではなく毒花のお話しをせがんでいました。

 それは子守唄 子供の頃に何度も聴いた子守唄。


かつて世に毒花あり
毒花は歌う人形であった
かは豪華絢爛たる死の音色
毒花はそをもって、天を穿ち、海を砕き、地を血で満たした
至上の宝石とも宇宙の星とも戦った
誰もが毒花へとひれ伏した

ある日 毒花は歌う事を止めた
産めよ 育てよ 地に満ちよ
人形は母として 子供達の守り神となったのだ


 私は毒花の話が大好きでした。
語り部となる母の姿はなんだか恥ずかしそうで、でもちょっぴり誇らしげで。
ああ、母もまた毒花が大好きなんだなって 私はそう思いました。



めでたしめでたし





 本編はここで終了です。
この先は本編へ織り込まなかった、白菊ほたるの不幸にまつわる外伝となります。
本編とは毛色が違い、性的な表現を含むコメディ色の強いR-15展開です。
その為そういったものが苦手な方や、余韻を楽しみたい方は閲覧を中止して下さるよう願います。




  森久保乃々の場合

ほたる「それでプロデューサーさん。私に見せたいものっていったいなんでしょうか?」

モバP「ほら、このハマグリだよ」

ほたる「えっ……大きい……」

モバP「ほたるちゃんくらいの年だと、これだけ大きいものは見た事ないだろうと思ってね」

ほたる「はい。私が知っているはまぐりは、もっと小さいものしかありませんでした」

モバP「これはね女の子の為のものなんだ。今日はひな祭りだからね、潮汁にぴったりだよ」

ほたる「不思議ですね。貝の口が開いてぴくぴくしてて」

モバP「ほたるちゃん、いきなり触っちゃ駄目だよ」

ほたる「きゃっ」


モバP「御免よ、汚しちゃったね。今拭いてあげるから」

ほたる「大丈夫ですよ。貝のお汁は別に体に悪い物ではありませんし。
    ん、苦くて変な味ですね」

モバP「ほたるちゃん。舐めるのはお行儀が悪いよ」

ほたる「ふふ。これだけ沢山貝がありますし、他の方にも差し入れされるんですよね」

モバP「でも、最初はほたるちゃんに食べて貰いたいんだ。
   そーと両手でバケツを持って、ゆっくりと動かしてね。海水が零れちゃうから」

――――

 SOS SOS もりくぼは今 ドキドキする程 大ピンチです。

 お仕事に疲れた私は、新しいお仕事から逃れるべく机の下に隠れていたのですが……。


ほたる「それでプロデューサーさん。私に見せたいものっていったいなんでしょうか?」

モバP「ほら、この―――だよ」

ほたる「えっ……大きい……」


 この声は、ほたるちゃんとプロ太郎さんですね。
お二人とも移籍されたばかりですが、プロ太郎さんとは親しくするなと大人達から言われているんですよね。
いぢめ、ダメゼッタイ、です。他に誰もいないみたいですし、やっぱりお話しをしてみたいです。


モバP「ほたるちゃんくらいの年だと、これだけ大きいものは見た事ないだろうと思ってね」

ほたる「はい。私が知っている―――は、もっと小さい―――」

モバP「これはね女の子の為のものなんだ」


 机の下から外へ出ようと思った私ですが、不穏な空気を感じ思いとどまりました。
この展開は……過激な少女漫画で見た覚えがあるんですけど。


ほたる「不思議ですね。―――ぴくぴくしてて」

モバP「ほたるちゃん、いきなり触っちゃ駄目だよ」

ほたる「きゃっ」


 なんですか。なんなんですか、この沈黙は。
もしも私の予感が正しければ、命の火が消えますけど。


モバP「御免よ、汚しちゃったね。今拭いてあげるから」

ほたる「大丈夫ですよ。―――お汁は別に体に悪い物ではありませんし。
    ん、苦くて変な味ですね」

モバP「ほたるちゃん。舐めるのはお行儀が悪いよ」


 ほたるちゃんって確かまだ中学生ですよね。
それなのにえっちい事をさせるだなんて、プロ太郎さんはきちくです。おに、あくま……。
あはは……あははあ……あぅ……もう分からないです……。だんだん変な気持ちになってきましたけど……。


ほたる「ふふ―――他の方にも挿し入れされるんですよね」

モバP「でも、最初はほたるちゃんに食べて貰いたいんだ。
   そーと両手で―――持って、ゆっくりと動かしてね」


 もりくぼも中学生です。
もしもこのままプロ太郎さんに目を付けられたとしたら……お、お、犯される!
そんなのむーりぃ……。

 来ないでいいですけど……神様仏様プロ太郎様……来ないで気づかないでいいですけど……そのまま外に、外に、帰っていいので直帰でおつか――。



ほたる「翌日、先輩モデルの森久保さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。
    本格的にモデルを目指し、パリへと留学されるそうです。
    余程の決意なのでしょうね。大成される事を願っています」





  岡崎泰葉の場合

モバP「ほたるちゃん、もう十分身体はほぐれたかな?
   本当は何年かかけて準備をしていた方が良いんだろうけれど」

ほたる「はい、怖いですけど……覚悟を決めましたから」

モバP「無理だと思ったら、直ぐに止めるからね」

ほたる「いえ、最後までお願いします。股わりを経験しておけば、もっと激しいダンスも出来るはずです。
    綾瀬さんからアドバイスを頂きましたし、健康にも良いそうですよ」


ほたる「あっ……あっ……くぅ~~、い、痛いです」

モバP「やっぱりまだ無理だよほたるちゃん」

ほたる「大丈夫です。でもプロデューサーさん、もっとゆっくりと押し込んでみてください」

モバP「ほたるちゃん、もっとゆっくり大きく息をして。その方が負担が少ない筈だから」


ほたる「ひぎぃ! くっ、あ はぁ~~……。
    ふぅー ふぅー プロデューサーさん……ありがとうございました」

――――

 SOS SOS 私は今 ドキドキする程 大ピンチです。

 備品の在庫管理をしようと、私は倉庫の扉へと手を伸ばしたのですが……。


モバP「ほたるちゃん、もう十分身体はほぐれたかな?
   本当は何年かかけて準備をしていた方が良いんだろうけれど」

ほたる「はい、怖いですけど……覚悟を決めましたから」


 この声は……ほたるちゃんとプロ太郎さんですね。
こんな人気のない場所で二人して何を?
プロ太郎さんは所長の愛人枠入社との噂もありますし、あまり好ましい人ではないんですよね。


モバP「無理だと思ったら、直ぐに止めるからね」

ほたる「いえ、最後までお願いします。―――経験しておけば、もっと激しいダンスも出来るはずです。
    綾瀬さんからアドバイスを頂きましたし」

 穂乃香さん! 貴女は良識のある方だと信じていたんですよ。
いたいけな少女に対して男性経験のアドバイスって、何を考えているんですか!

 ――いえ、真面目で不器用な穂乃香さんであるが故の過ちなのかもしれません。
艶のある表現を求めて思い悩んだ挙句、実体験が不可欠だとの誤った結論にたどり着いてしまって……。


ほたる「あっ……あっ……くぅ~~、い、痛いです」

モバP「やっぱりまだ無理だよほたるちゃん」


 プロ太郎さんもプロ太郎さんですよ! そこは断るのが大人の対応です。
中学生には早すぎますよ、私もまだ経験ありませんし。

 それにしてもプロ太郎さんは随分手馴れているような……。


ほたる「大丈夫です。でもプロデューサーさん、もっとゆっくりと押し込んでみてください」

モバP「ほたるちゃん、もっとゆっくり大きく息をして。その方が負担が少ない筈だから」


 ハッ 私は恐ろしい事実に気が付いてしまいました。
ひょっとしてプロ太郎さんというのは所長の愛人ではなく、実は男娼なのでは?

 よその事務所では恋愛禁止令を出された女優達へ、性欲処理の為に男娼をあてがうとの話がゴシップ記事に書いてありました。
うちではその様な禁止令は有りませんが、末席とは言え立派な芸能事務所です。
その様な口外できない人間を囲い込む可能性は十分にあります。

 ほたるちゃんは、身近な男性としてプロ太郎さんへと相談をした。
プロ太郎さんはお仕事の依頼だと受け取って、ほたるちゃんへの対応を行った。
そう、これは不幸な事故だったんです。


ほたる「ひぎぃ! くっ、あ はぁ~~……。
    ふぅー ふぅー プロデューサーさん……ありがとうございました」


 あ、ああ、もう手遅れなんですね。ごめんなさいほたるちゃん。
私がもっと早くプロ太郎さんの正体に気が付いていれば……二人を引き離す事も出来たのに。
ごめんなさいほたるちゃん。本当にごめんなさい。


ほたる「翌日、事務員の岡崎さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。
    自分を見つめ直す為に、世界一周の旅へと出られるそうです。
    一回り大きくなって戻られる事を願っています」




  松尾千鶴の場合

亜季「見習いトレーナーの大和亜季です。ビシバシ厳しく行きますので、覚悟してくださいね?
   泣いたり笑ったり、出来なくさせてやるであります」

珠美「見習いトレーナーの脇山珠美です。未熟者ではありますが、誠心誠意努めさせていただきます」

モバP「今日は無理を聞き届けていただき、ありがとうございます。ベテラントレーナーさん。
   今度の撮影はセンゴク☆ランブの方々との殺陣ですので、予め経験を積ませておきたいんです」

ベテ「薙刀を扱いたいとの事だったな。これは私の仕事では無いんだが。
   2メートルを超えるような得物を扱う仕事は、本職の振付師であっても経験のあるものは少ない。
   弟子達へ任せきりでは安全面に不安があるのでな、私が監督させていただく。
   御代は見習い二人分だけで結構だ。こちらとしても弟子達へ貴重な経験をさせていただき、ありがたいゆえな」

ほたる「白菊ほたるです。今日はプロデューサーさんと二人でレッスンを受けさせていただきます。
    よろしくお願いします」

亜季「良い返事ですね、気に入りました!
   うちに来て妹をファァァァッ くっ、いえ、あのその失言でした。
   ですのでベテ殿、その様に殺気を向けるのは止めていただきたく」

ほたる「あの今何が――」

モバP「時間がありません、早速お願いします!」

珠美「ではいただいた撮影資料に従って。
   まずは珠美と亜季殿がプロデューサー殿と演武を行いますので、真剣に動作を覚えてくださいね。
   どうです? 軽やかな足さばき!」


珠美「プロデューサー殿! その様に腰を引いてばかりでは珠美の剣を受ける事は出来ませんよ」

モバP「そう言われてもこれ以上は息が苦しくて、少し休ませてもらえると」

ベテ「全く……そんなに熱い視線を送られたら何だか私も熱くなってしまうな……。
   今更泣き言を言われても困る。私を怒らせたいのか……?
   キミから申し出た事なのだから、最後まで御付き合いいただこう」

亜季「ほたるさん、目をそらしてはなりませんよ。
   しっかりと上官のお姿を目に焼き付けるのです」


ほたる「プロデューサーさん、もっと身体の力を抜いてください」

モバP「力を抜けと言われても、油断したら魂が抜けて出ちゃいそうだよ」

ベテ「キミは私の言う事を聞かないな……悪い子だ。
   無理だと言われるならば、ほたる嬢へと代わっていただく事となるが。
   その場合は演目を覚えきれていない恐れがある為、身の安全は保障できん」

モバP「いえ、やります。やらせてください! どんどんやってください」

亜季「ベテ殿はああ言っておられますが、単なる激励ですので勘違いなさらぬよう。
   さすがにほたるさんへ何の配慮も無く、2メートルの竿を扱わせたりは致しません」


珠美「今一度珠美が突き込みますので、プロデューサー殿はそれを全身で柔らかく受け止めて――そうその調子。
   お腹の内側へと導くように、そこで体位を入れ替えて。
   そのまま亜季殿を突いていただきたく――竿が下がっていますよ!」

亜季「御自分の得物ならば、しっかりと立たせるべし。
   プロデューサー殿、巨体は小回りが利きません。そこを突くであります!」

――――

 自主レッスンを終えシャワー室へと向かっていた私ですが、奇妙な叫び声にふと足を止めました。


亜季「ファァァァッ くっ」


 疲れているのかな?
とても女性の口から発せられるとは思えない、如何わしい言葉が隣の部屋から……。
きっと気のせい。早くシャワーを浴びてすっきりしないと。

 思えばこの時に直ぐに帰宅していれば、あんな場面へ立ち会わなくて済んだのに……。
ハッ、むしろ幸運だったのかも?


珠美「プロデューサー殿! その様に腰を引いてばかりでは珠美―――剣を受ける事は出来ませんよ」

モバP「そう言われてもこれ以上は―――苦しくて、少し休ませてもらえると」

ベテ「全く……そんなに熱い視線を送られたら何だか私も熱くなってしまうな……。
   今更泣き言を言われても困る。私を怒らせたいのか……?
   キミから申し出た事なのだから、最後まで御突き合いいただこう」

亜季「ほたる殿、目をそらしてはなりませんよ。
   しっかりと上官の雄型を目に焼き付けるのです」


 SOS SOS 私は今 ドキドキする程 大ピンチです。

 シャワーを浴びた帰り道、先程の場所でまたもや如何わしい言葉が隣の部屋から……。
気のせいじゃなかった。

 受ける 突き 雄型 やっぱり……これってゴシップ記事に書いてあった、枕営業よね。
不潔だわ! 幾らお仕事が欲しいからってあんな事やこんな事を……。

 直ぐに止めさせないと。こんなの絶対に間違ってる。
さあ勇気を出して、このドアを開ければ――。
私はできる、私はできる……。自分に……言い聞かせればきっと……!

 ハッ もしかしたらプロ太郎さんは、偉い方からの変態的要求からほたるちゃんを守っているのでは?
もしも私が乱入したら、プロ太郎さんの犠牲が無駄になってしまうかも……。


ほたる「プロデューサーさん―――抜いてください」

モバP「抜けと言われても、油断したら―――射精ちゃいそうだよ」

ベテ「キミは私の言う事を聞かないな……悪い子だ
   無理だと言われるならば、ほたる嬢―――代わっていただく―――。
   その場合は―――身の安全は保障できん」


 信じた私がバカだった。
バカよね、そう、バカ……。
プロ太郎さんは、既に偉い方の目の前でほたるちゃんをその毒牙へ捧げていて……。

 故郷のお母さん……芸能界は怖い所です。
お仕事が、そんなに大事なの?

 何時までも鳴かず飛ばずの状態が続いたら、私はえっちなビデオに出演させられたりするんじゃ……。


モバP「犯ります。犯らせてください! どんどん犯ってください」

亜季「ほたるさんへ―――2メートルの竿を」


 ヒィッ! 2メートルってそんなもの挿入されたら、お腹を突き破って口から飛び出しちゃう。
このままここに居たら、私まで串刺しに……。


珠美「今一度珠美が突き込みますので、プロデューサー殿はそれを全身で柔らかく受け止めて――そうその調子。
   お腹の内側へと導くように、そこで体位を入れ替えて。
   そのまま亜季殿を突いていただきたく――竿が下がっていますよ!」

亜季「御自分の得物ならば、しっかりと勃起たせるべし。
   プロデューサー殿―――そこを突くであります!」


 ああなんてことなの、もうプロ太郎さんのお尻はボロボロに……。
由里子さんも生ものだけは駄目だって言ってたし。

 私、見知らぬアイドルだから!
今のうちにどこかへ……。別にコソコソしてないです! してないから。
ふぅ、気づかれなかった……。


ほたる「翌日、先輩モデルの松尾さんがJPYシンデレラプロダクションを退社されました。
    よそのアイドル事務所から引き抜きのお話が合ったそうです。
    私だってアイドルらしくいたい……! とのお言葉を残されたとか。
    これからはライバルですね。もしもお会いする事があれば、正々堂々と戦いたいです」




  服部瞳子の場合

 海「プロ太郎さん、糸が違うよ。
  それはピンク、衣装に合わせるなら白でないと」

モバP「あっそうか。御免よ、うっかりしていて――ぐっぁ 痛い」

 海「ちょっとプロ太郎さん、大丈夫なのかい? 縫い針がこんなに深く手に刺さっちゃって」

モバP「御免よ、海さん。僕の不注意で心配させてしまって」

 海「馬鹿! 何言ってんだい。プロ太郎さんの責任だけじゃないよ。
   下手に声をかけたウチも悪いんだから」

モバP「これだけ奥まで深く届いていると、ちゃんと処置をしてもらわないと心配だよね」

 海「このままほっといたら、傷口が膿む事になっちゃうね。
   とりあえず、このハンカチで血を抑えて」

モバP「これからお医者さんに見て貰うよ。
   後片付けを頼んでも良いかな」

 海「アンタって人はまったく。ウチが病院へ行かないでどうするのさ。
   一人で行かせる程、薄情な女じゃないよ」

――――

 お昼休み、皆とお弁当を食べようと思った私は休憩中の子を探して声をかけていたのだけれど……。
廊下を寄り添いながら歩く二人が、何かを言い合っているのを見かけたわ。

 それにしてもあんな事があっただなんて……頭が痛いわね。


 海「ちょっとプロ太郎さん、大丈夫なのかい? ―――こんなに深く―――刺さっちゃって」

モバP「御免よ、海さん。僕の不注意で心配させてしまって」

 海「馬鹿! 何言ってんだい。プロ太郎さんの責任だけじゃないよ。
   ―――ウチも悪いんだから」

モバP「奥まで深く届いていると、ちゃんと処置をしてもらわないと心配だよね」

 海「このままほっといたら―――産む事になっちゃうね」

モバP「これからお医者さんに―――」

 海「アンタって人はまったく―――が病院へ行かないでどうするのさ。
   一人で行かせる―――薄情―――」


 事後? 事後って事なの……職場で!?
杉坂さんって確かまだ18歳よね。私が18の頃はお仕事を覚えたばかりで、大変だったな。
毎日がむしゃらに働いていて、20を過ぎる頃に旦那と出会えて恋も仕事も充実したのよね。
24で結婚してフロアマネージャーへの昇格も決まって、いずれは支店長の座も夢じゃないって張り切っていたっけ――。

 と 現実逃避はここまでにして、この場で私が取るべき行動は何かしら。

瞳子「アナタ達、早く二人で病院へ行きなさい!
   話は後で聞かせてもらうから」

 避妊に失敗しちゃったみたいだし、まずは病院へ行かせないと。
アフターピルは好ましくないけれど、家族計画は夫婦でしっかり話し合うべきよね。

 それから二人が行為に及んでいたのは、位置関係から推測するに奥の会議室かしら。
後の査問に備えて、現場を確認しておかないと。


 このデザイン画は……色々と手を加えてあるけれど、うーん。
元はおそらく、社長が日高舞の為に作ったと伝え聞くマタニティドレスよね?
そして床に落ちているのは、かつてはドレスであったと思われる布きれ……。

 そう、そういう事なのね。
お説教は何時でも出来ると、慈悲の心を見せたのが誤りだったわ。
他人の性行為を想像したくはないけれど――。

 プロ太郎くんは、杉坂さんへマタニティドレスを着せて疑似妊婦姿を楽しんでいたのね。
そしてそのまま勢い余って、本当に子供を作ろうとしてしまったと……こんな所かしら。

 勤務時間内における職場での不適切な行為・備品の私物化・相手女性は未成年。
これは口頭注意どころか、最低でも書面での警告が必要な案件ね。
聞き取り調査の内容しだいでは、懲罰解雇も視野に入れないと。
これが私の最後のお仕事だなんて、本当に頭が痛いわね。



ほたる「翌日、Shi-noフロアマネージャーの服部さんが休職届を出されました。
    妊娠30週を過ぎた為、来月末までには産休を取りたいそうです。
    元気な赤ちゃんが生まれると良いですね」



画像

クラリス(20)
http://i.imgur.com/BcDSjZb.jpg
http://i.imgur.com/AUJr7ln.jpg

バナナのお寿司
http://i.imgur.com/9a8YQJW.jpg

佐久間まゆ(16)
http://i.imgur.com/udLggaq.jpg

森久保乃々(14)
http://i.imgur.com/fZwvUQh.jpg

岡崎泰葉(16)
http://i.imgur.com/ZvWe0Kp.jpg

脇山珠美(16)
http://i.imgur.com/ZAJjmSV.jpg

大石泉(15)
http://i.imgur.com/yxpI4DQ.jpg

白菊ほたる(13)
http://i.imgur.com/l1PDAVE.jpg



投下は以上です。
モバマスでの過去作は以下が存在します、興味を持っていただければ幸いです。

星輝子「キノコ雲?」
星輝子「キノコ雲?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368266944/)

モバP「こうして僕の新婚生活は始まった」
モバP「こうして僕の新婚生活は始まった」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1366896132/)

岡崎泰葉「最近、私を抱く回数が減りましたね」


乙乙乙
前の幸子のやつもよかったよ

乙乙

乙です
面白かったッス

結局最後どうなったんだ?


そういや、ガンパレにも不運キャラいたな

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