文香「カタテ読書」 (13)

元ネタというかイメージソング的な

https://youtu.be/L45ELqTudzo

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480251918

「……ふぅ」

読み終えた本を閉じ、息をひとつこぼします。

……この本は美嘉さんに借りたものでした。

彼女に相談しに行ったところ、これがいいよと渡されたものです。

年下に相談……というのも変な話かもしれませんが、内容が内容だったので……その道に通じてる人がいいかと思いまして……。

さて、借りた本の内容は……嘘や愛がやたら壮大に綴られたお話でした。

いえ、面白い物語ではあったんです、読んでいて飽きない良い話でした。

ですが……。

……あくまで、物語として面白かった、という思いがぬぐえません。

悪も善も恋も活字となって彩られていたからこそ……面白いものとなったのであって。

これが現実に役立つものなのか……というと。

でも、あの美嘉さんが役立つと言ったものですし……。

……幼少の頃から物語に囲まれて過ごしてきて、物語と共に生きてきました。

恋も青春も物語の中で経験してきましたが、現実にはまったくもってありません……少なくとも、私の心がそのような情景に彩られたことは……。

そんな私だからこそ、ありえない……なんて思ってしまうのかもしれません。

……初めてなんです。

こんな……誰かに、思いを寄せるなんて。

「……!」

ふと、顔を上げると対面のソファにプロデューサーさんが俯いて座っていました。

思わずびくりと体が震えてしまいます。

いつの間に座っていたのでしょう……もしかして、私に声をかけたりもしてくださったのでしょうか?

だとしたら……申し訳ないことをしてしまったかもしれません。

本を読むと周りが見えなくなるくらい熱中してしまうこと……治したいとは思っているのですが、どうも……。

「……あの、プロデューサーさん」

申し訳なさを胸に、声をかけてみてもプロデューサーさんは動きません。

規則正しい呼吸の音が聞こえてくるだけで――

――もしかしてと思い、立ち上がってプロデューサーさんの下へ向かいました。

「……」

隣に座って様子を伺います。

けれど、プロデューサーさんは身じろぎひとつしません。

……顔を見ようとしても隣からは見えませんでした。

なので……少し無作法かとは思いますが、床に膝をついて覗き見てみます。

「……あっ」

……やはり、プロデューサーさんは眠っていました。

何か私に用事があったのでしょうか?

それなら起こした方が良い……かもしれません。

ですが……。

「くー……」

ここまで気持ちよさそうに眠っていると……どうも起こすのをためらってしまいます。

きっと良い夢をみているのでしょう。どことなく幸せそうな寝顔です。

……どんな夢を見ているのでしょうか少し覗いてみたくなります。

もしも私が獏だったなら……いえ、獏は夢を食べてしまう生き物でしたね、ふふ。

「……」

さてどうしましょうか……と、少し考えます。

……もし私に用事があって、それで眠ってしまったのなら、それほど疲れているということです。

もし用事など無く、ただ仮眠を取っているのなら、それだけ疲れているということです。

……そう、いずれにせよプロデューサーさんは疲れて眠ってしまっているのでしょう。

ならば、起こすなんて非道な真似はできませんね。

幸い、あたりを見回してもあわただしそうに動いているモノもありませんし、人もいません。

今この時間、この空間は私とプロデューサーさんの二人きりです。

なので私が邪魔しなければ、プロデューサーさんは幸せから覚めることは無いはずです。

……けれど、このままだと少し寒いかもしれませんから……毛布を持ってきましょう。

ええっと……どこに置いてるでしょうか……?

毛布を探し、戻ってきてもプロデューサーさんの体勢は変わっていませんでした。

……本当にぐっすりと眠っているのですね。

「……お疲れ様です」

起こさぬよう、そっと毛布をかけて、一言。

……帰ってきた返事は寝息でした。

ですが、それで満足です……ふふ。

「……さて」

毛布をかけるという目的も果たし……どうしましょうか。

本ももう読み終えてしまったのですが……。

ふむ……。

……とりえあず座りましょう。

ずっと立っているのも疲れますから……そう考えて、私はソファに座ります。

……そこは意図せずプロデューサーさんの隣でした。

「……なんて」

我ながら呆れてしまうくらい変な言い訳ですね、ふふ。

すやすやと寝息を立てるプロデューサーさんの隣で私は座っています。

「……」

何をするでもなく、ただ座っています。

片手に持った本を開くことも無く、ただ座っています。

「……」

それだけなのに、私の心は高揚しています。

とくんとくんと心が暴れまわっています。

外に溢れて……プロデューサーさんを起こしてしまうんじゃないかってくらい響いています。

……物語でしか体感したことの無かったことを、今私自身が体験しています。

数々の物語にこのような描写はありましたが……思いを寄せている人がすぐそばにいると、本当にこうなるんですね……。

「……」

とくんとくん。

とくんとくん。

この片手の恋のお手本にもこのようなシーンはありました。

眠っている男の子のそばに寄り添う女の子。

その女の子は男の子に思いを寄せていて、その眠っている男の子に――

「――」

……何を考えているのでしょうか、私は。

そんな、そんなことができるはず……。

……でも――。

「う……ううん……」

「!」

思わず聞こえた声にビクリと体を震わせます。

そして、息も止め、様子を見る態勢に。

「くー……」

「……ほっ」

寝息がまた聞こえたところで、一息。

……よく考えると、何で息を止めたのかわかりません。

慌てていたにしたって、意味のわからない行動です。

「……はぁ」

さっきとはまた別の息がこぼれました。

「……」

すやすや、とプロデューサーさんは眠っています。私のこの思いも露知らず。

……伝えようともしてませんから、当然ですが。

人に思いを伝えず、思いに気づいて欲しいなんて傲慢にもほどがあります。

プロデューサーさんがサトリならよかったかもしれませんけど……。

……なんて、それこそ再現不可能な物語ですね。

「はぁ……」

過去、多くの人たちは思いを文にしたためていたと言います。

ならば私も……と、思い立ったこともありました。

しかし、いかんせんどういった書式で書けばいいかもわからず、筆が進みませんでした。

やはり私にはこれしかないと書物を取り出しそれを参考に書いてみましたが……結果、様々な要素の入り混じったよくわからない文章が出来上がりました。

何を伝えたいのかまったく読み取れないであろうものが。

「……」

他に何か参考になるものはないか……と考えて思いついたのは莉嘉さんの歌っていた曲でした。

あの曲もまた、このような思いに駆られた少女の話でしたから。

なので、今度はそれを参考に……と曲を聞き込んでみましたが……。

……私には、このような直球な言葉は難しい、と結論付けました。

我ながら面倒な性格です、本当に。

「はぁ……」

もうひとつため息がこぼれます。

もしも私を取り巻く物語がご都合展開に溢れた単純なシナリオだったなら、こんなにも悩むことは無かったんでしょうか。

好きと好きを伝え合って、今頃は……。

「……」

……ふと、視界にプロデューサーさんの手が目に入りました。

私のものとは違ってゴツッとした頼りがいのある手が、力なく置かれています。

私はそれを見て……一度視界から外して、入れて、外して、入れて。

「……プロデューサーさん」

その手を握りました。

どくんどくん、と刻むように脈が響きます。

私のものと絶妙にタイミングのずれた脈が、どこか心地よく感じます。

そのまま溶け合って、ひとつになるような……。

「……」

とくん、どくん。

どくん、とくん。

しばらくその心地よさに酔いしれていた後、はっと我に返ります。

何をしているのでしょうか、私は。

これではまるで寝込みを襲っているような――いえ、そこまではいきませんけれど……。

でも……それこそ、あの本だと――。

「……」

――たとえばキスをしたり。

――たとえば抱きしめたり。

「そんなこと……」

できるわけが……。

……。

できるのなら……。

……今なら、きっと、あの本のように再現することだって……。

握っても起きないのだから、もっと触れたって……。

「……」

「……」

「……」

「すぅ……」

大きく息を吸って。

「はぁ……」

大きく息を吐いて。

「……」

心を落ち着かせて。

そして私は――

「――」

片手に持った本を開きます。

「……」

ペラ、ペラ、と適当にページをめくります。

片手だと少しめくりづらいですが……まあ、仕方ありません。

……何が仕方ないのでしょうか。

ただ誤魔化すためだけにめくっているというのに。

「……」

そもそも、誰に何を誤魔化しているのでしょうか。

今ここにいるのは私とプロデューサーさんだけで、プロデューサーさんは眠っていて……。

私を誤魔化す……って言うのもおかしな話ですが……でも、きっと……。

……それに、本当に誤魔化したいならこの握った手を離すべきでしょう。

ですが、私の手にはまだ、刻むように脈が響いています。

とくん、どくん、と混ざり合っています……。

私は何がしたいのでしょうか……自分で自分がよくわかりません。

……ああ、そういえばこの本でも、女の子がそういった心境に陥っていましたね。

あれはどのあたりのページだったでしょうか……。

「……」

ペラ、ペラ、と片手でページをめくります。

もう片手でプロデューサーさんの脈を感じながら。

傍から見たら滑稽かもしれませんね……私自身もそう思っていますし。

「はぁ……」

……いつか。

いつか、私はしっかりと思いを告げることができ――いえ、私からでなくてもかまいません。

とにかく私の思いが届き、結ばれ、成就する。

そんな素敵なシナリオにたどり着くことができるのでしょうか……。

「……」

お手本を片手に恋の勉強をしている今の私には……まだ難しそうです。





おしまい

突発的にふみふみに合うんじゃないかなって思ったので、勢いで。

NU-KOさんオトカドールの曲全曲歌唱してるとかすごすぎ。

誤字脱字、コレジャナイ感などはすいません。読んでくださった方ありがとうございました。

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