俺の考えの斜め上を行く女 (10)
男「拝啓、お父様」スタスタ
誰もいない道で小さくつぶやいた秋、世間ではいろいろな準備が始まったりしている。
読書の秋やら、部活やら、それぞれの人生を歩み春に向けての準備を始めている中で…。
どうして俺は糞親父をお父様とつぶやいたかといえば…。
女「フッフッフ」スタスタ
男「助けて父さん、ストーカーだよ」ボソッ
彼女はストーカーである。ストーカー暦、数分。
短すぎるかもしれないが本人が嫌がってる場合はストーカーに当てはまることもあるのだとか、彼女の名前は女。クラスメイトである。
ついでに美人の部類に入ると言うか、学年の男子が選ぶ付き合いたい子ランキングナンバー2である。
1位じゃねーのかよ。普通は1位の子がうんたらかんたらとか、上手く行けば付き合ったり好きになってくれたりするんじゃないの?バカなの?
男「…」チラッ
女「…?」
彼女は…。首を傾げて俺を不思議そうに見る。何故か俺も首を傾げる。ちょっと可愛いとか思ってしまった。
女「ふむ…もっとくれるの?」スッ
何をだよ。その差し出した右手を引っ込めろ、率直な意見といえばそれだ。
彼女との出会いは特に面白いイベントはない。
ただ単に、買い物で足りなかったお金を少し出してあげただけだ。貸しただけだあげてねぇーよ。
女「さっきのお金なら返さない?」
男「なんで疑問形?いや、別にいいよ」
女「良いのかよ!」
男「お前が言うなよ!ってかお前そんなキャラじゃねーだろ!もっとこう…何ていうか」
女「ああ、それ猫かぶりだし」
男「マジかよ」
ショックだ。こんな女だったのか。
女「うん、そんな女だよ?」
男「で、どうでもいいけどなんでさっきからついてくるわけ?」
女「暇だから」
男「勉強しろよ」
女「学年1位の私にそれ言う?学年96位君」
男「…すいませんでした」
女「おう、気をつけろよ」
男みたいな女だ。
女「付いてないよ」ヒラヒラ
みぇ・・・みぇ・・・ない。
女「残念でした」HAHAHA
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気付いたら俺は駆け出していた。心を読まれた気がしたんだ。
女さんは美人だ。どんな美人かとか、もう何ていうか黒髪のストレートでいまどき少ない大和撫子とか言っても過言じゃないほど落ち着いて…。
いや、先ほどの会話でそれはすべてぶち壊されたが、何というか見透かされた思春期の恥ずかしさで走り出していたんだ。
女「ただいまー」
男「は?」
女「んー?」
かしげた姿は凄く惹かれる。だがそれ以前にいつも聞くような自然な言葉に俺はつい誰でも言ってしまいそうな返事をしてしまう。
てかなんで俺の家に居るんですか?ここ俺の家ですよね。何がただいまーなんですかこの野郎。
女「その場合はこのアマなんじゃない?」
男「そーですねそうかもしれませんね。なんで我が家に帰ってきたかのような言葉を発しているのか気になりやがりますが何か御用ですか」ハァハァ
女「麦茶でも飲めよ~」ガチャ、パタン
男「それは俺んちのだ!」
女「作ったのは私だ!しかも今日!」
男「は?いや・・・は?」
女「知らなかったの?君のお父さんと私のお母さんは仕事仲間なんだよ?」
男「だから何なの?」
正直に言うと話が見えない。さっきからずれたような話し方に女さんとはいえ少し苛立つ。起承転結コレ大事。
何を言いたいのかはっきり言ってわからない。
女「んーついでにいうと私のお父さんと君のお父さんは幼馴染」
男「それは知らなかった」
女「私のお母さんを取り合った仲間と書いて友と書いて強敵」カキカキ
男「いちいち書かなくていいから」
女「おう、しゃーねーな」フッ
男「やだ、俺より男らしいかも」
女「だがついていない」キリッ
男「キメ顔で言われましても」
女「まぁどうでもいいけど今日からよろしく」
男「何をですか?」
女「ありきたりだけど今日からここに住むんだな-コレが」
男「ありきたりじゃねーよ!何なの?聞いてないんですけど」
女「そういうと思ってメモを貰ってるよ」スッ
男「…」パシッ
半ば苛立ちと素っ頓狂なことをいうこの女さんの言うことを真に受けては居ないが、一応には状況判断のためにメモを奪ってみる。
そこには一言、数文字だけの一言が添えられていた。
許嫁だ(笑)
男「意味わかんねーよ!」ビリビリ
女「HAHAHA、こっちから願い下げだ!」
男「言わなくても釣り合わないのは分かっとるわ!」
女「そこは押し倒してでも自分のものにするとかしろよ!」
男「ちゃんと告白ぐらいして付き合って!お互い好きになって!ずっと惹かれ合ったら結婚も考えるような恋愛がしたんだよ!」
女「…」
男「な、なんだよ」
女「えへへ、ちょっとキュンってした」ニコッ
キュンってしたのはお前の笑顔だよ!てか何なんだコレはこの状況をちゃんと説明してくれ、それともコレはドッキリなのだろうか?カメラとかそこらじゅうに仕掛けているんではないだろうか?
そして俺は数時間の無駄な時間を使い、最初の数分だけカメラを探すのを手伝ってくれた女さんは、ご飯と風呂を勝手に済ませ。俺の部屋だった部屋に入っていくと朝まで出てくることはなかった。と同時、俺の部屋はクソ親父の趣味部屋へと移動になった瞬間でもあった。
朝はいつも普通だ。どう普通かと聞かれても答えることは特に無いってことだ。
ただ、それはいつもどおりならって事でもある。
女「よぉ相棒、戦う理由は見つかったか?」
男「俺のゲーム勝手にやったろ」
女「うん、お陰様で寝不足」モグモグ
普通だ。至って普通の会話。まるで数年前から一緒にいたかのような普通の会話。顔を洗って開口二番目がそれだ。
いや…分かってる、コレは現実逃避だ。普通じゃねーよ。クラスメイトが人んちで勝手にパン焼いて、それだけじゃねぇ、俺のを作らずに自分のだけ用意してるんだ。何なんだこれは、嫌がらせか?本当にドッキリとかじゃねぇだろうな…おい。
女「あんな熱い男たちみたいになりたいものだ」キリッ
男「HAHAHA」
女「HAHAHA」
意味もなく笑った。涙がでるほど笑った。涙の半分は優しさよりもこの不遇にだ。
自分で朝食を用意する間に女さんは登校するために一人だけ清々しく、苛立たしくも爽やかな笑顔で「行ってきます」と言って我が家から出ていく。
朝食をすませ、誰も居なくなった家から出た空はむかつくほど青く爽やかな晴天だった。
ーーーー学校。
友「いやー、すげぇ雨だな。お前は傘持ってきてなかったの」
男「持ってきてたら濡れてねぇだろ」
見事に天気にも裏切られた瞬間である。
友「まぁそりゃそうか、ほれタオル」
男「どうせ有料だろ?」
友「んや、今日は良いわ」
男「珍しいな、なんでだ?」
友「んふふ」クイッ
気持ち悪い笑い方をした友人は周囲にバレないように顎で目線を促す。
女「私に何か用なのかな?」ニコッ
友「ふおっ!?」
バレてらぁ。
友「ち、違う。違いますん」カァー
気があるのは凄く分かりやすかった。当の本人も分かってるのか判ってないのかどっちなのか、いつもの笑顔でどうしたのとか聞いていた。
女「友君おもしろーい」
面白いのはお前の演技力だよ。
男「女さん行ったぞ。で、結局のところ何が言いたかったんだよ?」
友「気づけよ!朝から女さんと話せたんだぜ!」
だから何なんだ。こちとら目覚めたら目の前にいたぞ。男君の寝顔って面白いとか言われてみろ、軽くトラウマだ。普段何なの?俺ってそんな変な顔してる?
もしボッチで寝たふりとかしてたらその顔は心底面白いだろうな。ちなみに朝の開口一番目がそれだ。
その後は特にイベントもなく、後は帰るだけ。女さんも話しかけてこないし、他の奴らは新作の映画の話やら、部活の話やらで持ちきりだ。
友「あーあ、女さんと話をしたの朝だけだぜ?ないわー超ないわー」
男「そうか、悲しいな」
帰ったら居るんですよ我が家に。自慢じゃねーよ。思春期の男の子としたらハッピーな事件だと思うだろ?そうでもない。
ドキドキしてねれないと思った一日目はすぐに熟睡したし。風呂だって女さんのあとに入るってだけでもうあれだ、思春期だ。
いつもと違うシャンプーの香りとかコンディショナーとかびっくりするほどユートピアだぞ。悪霊退散。
友「てかよー」
男「…ん?」
友「いつもとテンションおかしくね?」
よく気付いたな褒めてやる。これから帰って何か作らないとなとか考えてるわけよ。ついでに言えば、理由の分からぬ住人の飯とかも考えないといけないわけよ、分かる?
更に言うと、俺の部屋にある誰にも言えないような秘密をどうにかして移動しなければならない。ベットの下にあるアレとか机の引き出しの更に裏側に隠したアレとか。もうアレだよアレ。思春期だ。
つまりタイムリミットがある。もともと俺の部屋だし?我が家だし?勝手に入っても許されると思う。それにたった一日で女さんの部屋になってるわけがない。
友「な~に考えてんだ?」
うん、やっぱりちゃんと聞いて、許可を得てから部屋に入らせて貰おう。死になくないし。
?「…ふふっ」
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