千川ちひろ「プロデューサーさんと幸子ちゃん」 (97)

ちひろさんと眺める、2人の歩み

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ちひろ「どうやら新たにアイドルが所属するようです」

――事務所
ガチャ

P「ただいま戻りました」

ちひろ「おかえりなさい、プロデューサーさん。どうでした、オーディション?」

P「粒ぞろいでしたよ。魅力的な子がたくさんいました」

ちひろ「お? ということは、誰かスカウトするんですか?」

P「ええ、一応目星もつけてますよ」

ちひろ「あら、仲間が増えますね。楽しみです♪」

ちひろ「ちなみに、どんな子ですか? 可愛い子、それともカッコイイ子ですか? あるいはずば抜けた特技があるとか?」

P「あー、なんというか、変な子でしたよ。いや、そうでもないか? それが、ふ、ふふふっ」

ちひろ「ぷ、プロデューサーさん?」

P「いや、1番の子を呼んだら、10番のくせに返事をしたんですよ、その子」

ちひろ「はは~ん、さてはドジっ子ですか?」

P「それだけなら、そうなんですけどね。あろうことか『一番っていうのは、オーディションの順番ではなくボクが一番カワイイってことですから!』ですって、ふふふ」

ちひろ「え、えぇ?」

P「凄く傲慢で、ボクをプロデュース出来るなんて幸せだ、とか言い出すんですよ」

ちひろ「た、確かに変な子というか、なんというか」

P「その後、まだ採用が決まっていないって言ったらあわあわしていて、それがまた面白くて、ふふふ」

ちひろ「は、ははは……」

ちひろ「えっと、だ、大丈夫なんですか、その子……?」

P「俺がどうするか次第じゃないですかね。傲慢ですけど、言葉の通りの容姿でしたから、伸びる可能性は十二分にあります」

ちひろ「おお、可愛い子ですか」

P「いいえ、違いますよ」



P「カワイイ子です」



ちひろ「幸子ちゃんの初ライブに向けてレッスンが始まりました」

――事務所

ガチャ

P「ただいま戻りました。幸子を送ってきましたよ」

ちひろ「おかえりなさい。幸子ちゃん、レッスンはどんな感じですか?」

P「あー、うーん、悪くないです」

ちひろ「な、なんだか微妙な評価ですね」

P「いや、苦手はあっても、基本的な能力は高い子ですよ。覚えもなかなか早いですし。ただ……」

ちひろ「ただ?」

P「生意気」

ちひろ「あはは、ばっさり言いますね」

ちひろ「私が接しているかぎりだと、言動はともかく、礼儀正しいしそこまででもないと思いますが?」

P「他でもないその言動が問題だと思うんですけどね」

ちひろ「ははは……」

P「俺に対して謎の上から目線だし、すぐに虚勢を張るから、こう、イラッとしますね」

P「……ま、そんなことでイラッとする自分にも腹が立つんですけどね」

ちひろ「はぁ?」

P「失礼で生意気だとは思うんですけど、負けず嫌いですし、なんだかんだ言いつつもしっかり頑張っているんで伸びるとは思いますよ」

ちひろ「ふふふ、本当は結構評価してるんですね?」

P「……まぁ」

ちひろ「ふ、ふふふ、素直じゃないですね」

P「……幸子、この間こんなこと言ってたんですよ」


幸子『プロデューサーさんは、ボクをカワイイって証明するためにボクをプロデュースしてるんですよね。出会ったときにそう言いましたよね?』

幸子『幸子ちゃんはカワイイって、みんなに言わせてください! できますよね? ボクのプロデューサーさんなんですから!』

幸子『もう一回確認です、プロデューサーさん。ボクが一番に決まってますよね? フフーン!』


ちひろ「生意気言っても信頼されてるじゃないですか」

P「うーん、やっぱり、そうですかね?」

ちひろ「きっとそうですよ♪ だから、ちゃんと幸子ちゃんのこと見てあげてくださいね。素直にですよ?」

P「あはは、頑張ります。うーん、飯でも連れて行くかなー」


ちひろ「幸子ちゃんも初ライブに向けて頑張っているようです」

――事務所

ガチャ

幸子「おはようございます。カワイイボクがやってきましたよ!」

ちひろ「おはようございます、幸子ちゃん。今日もカワイイですね」

幸子「フフーン♪ さすがちひろさんですね、よく分かっています」

ちひろ(このやり取りにもすっかり慣れました)

幸子「それに比べてPさんときたら……」

ちひろ(ここからプロデューサーさんの愚痴に移るのも慣れました……)

ちひろ「あー、プロデューサーさんがどうかしたんですか?」

幸子「聞いてくださいよ!」

幸子「ボクが頑張って、いや、ボクにかかればお手のものなんですけど、レッスンをこなすじゃないですか。そんなボクにかける言葉といえばなんですか?」

ちひろ「え、えっと、カワイイ?」

幸子「そうです、その通りです。それなのにPさんときたら、あそこがまだまだ、ここはもっとこうすべき、ってそればっかりなんですよ!」

幸子「カワイイボクが歌い、踊り、微笑みかける。これ以上に必要なことってあると思います?」

ちひろ「ま、まあ、幸子ちゃんならもっと出来ると思ってのことですよ」

幸子「そ、そうですかね? いや、そうですよね!」

幸子「まあ、そうやってボクをもっとカワイくしようというPさんの厳しさは、その、ありがたく思いますが……」

幸子「でも、Pさんはもっとボクを褒めるべきだと思うんです!」

ちひろ(は、始まったー!)

ちひろ(私は最近気づいてしまったのです。文句を言いつつも幸子ちゃんが少し楽しそうだということに)

ちひろ(生意気に見える言動も、素直に翻訳すれば構ってほしい、褒めてほしいになるということに)

ちひろ(た す け て)

幸子「プロデューサーさんもトレーナーさんも、ボクのことを考えてくれてるのはわかりますけど、言い方があるじゃないですか?」

幸子「もっと、ほめて、おだてて、ノせて、ボクがいい気持ちでアイドルできるように頑張ってほしいものです! それが仕事ですよ! フフーン!」

幸子「……ちひろさん、聞いています?」

ちひろ「あ、はい」

ガチャ

P「お疲れさまです。おーい、幸子。そろそろレッスン行くぞ」

幸子「待ちくたびれましたよ! さあ、行きましょう」

幸子「と、その前に、ボクに会ったら言うべきことがあるんじゃないですか?」

P「はいはい、カワイイカワイイ」

幸子「なんですかそれ! 雑じゃないですか! ちゃんと褒めてくださいよ!」

P「れっすんのじかんにおくれちゃうー、いそがなきゃー」

幸子「棒読みじゃないですかー! もー!」

幸子「もう、しっかりしてください。ボクを褒めるのも仕事のうちですよ」

幸子「プロデューサーさん、最近、熱意足りてます? 大事なのはボクをトップアイドルにしてあげたいっていう、強く熱い想いですよ!」

幸子「それを失ったら、ボクのプロデューサー失格ですから!」

P「……もう、耳たこだよ。よし、気合入れて今日のレッスンに向かうぞ。カワイイ姿を見せてくれよ」

幸子「フフーン♪ もちろんです。気合をいれて、一緒に上を目指しましょう!」

P「おう!……ということで、行ってきますね、ちひろさん」

幸子「行ってきます!」

ちひろ「はい、いってらっしゃーい……」

ちひろ「……毎回このやり取りやってから出発するのなんなんですかね?」


ちひろ「初ライブは無事成功したようです。そういえば、幸子ちゃんはオフをどう過ごすのでしょうか?」

――事務所

幸子「あの、ちひろさん」

ちひろ「はい、なんでしょうか?」

幸子「今度ボクがオフの日って、Pさんもオフでしたっけ?」

ちひろ「ちょっと待ってくださいね……。はい、そうですね、オフですよ」

幸子「そうですか。ふぅ……」

ちひろ「Pさんのオフがどうしたんですか? もしかして、デートでもするんですか?」

幸子「デっ?! ち、違いますよ!」

幸子「Pさんも頑張ってくれているようですし、ボクのお買い物に付き合わせてあげるんです」

幸子「ボクは優しいので!」

ちひろ(んん? それってデートなのでは??)

幸子「ち、ちなみに、Pさんの趣味とか好きなものとか分かりますか?」

ちひろ「んー、プロデューサーさんあまりそういう話しませんから」

幸子「そ、そうですか……。じゃあ、よく話しているものとか!」

ちひろ「んー、それこそ幸子ちゃんのことですかね」

幸子「! そ、そうですか。そうですよね! さすがはボクのプロデューサーです」

幸子「……ん? ということは、ボクと一緒にお出かけできればPさんも幸せじゃないですか!」

ちひろ「え? ああ、そうですね、はい」

幸子「ちひろさん、ありがとうございました!」

ちひろ「ふふふ、プロデューサーさんとお出かけできるといいですね♪」

幸子「だ、だから、ちょっとしたPさんへのご褒美ですって! 別にボクがどうこうでは……」

ちひろ(あぁ~癒される~カワイイ~)


ちひろ「先日のデー……いや、ご褒美とやらはどうだったのでしょうか?」

――事務所

ガチャ

P「おはようございます……」

ちひろ「おはようございます。どうしたんですか、休日明けなのに随分と疲れた様子ですけど?」

P「昨日はずっと幸子の買い物に付き合わされて、すっかり疲れてしまって……」

ちひろ(結局付き合ったんだ)

ちひろ「あはは……。ちなみに、何をしていたんですか?」

P「荷物持ち」

ちひろ「は?」

P「荷物持ちです」

ちひろ「あ、はい」

P「ひたすら幸子が服を買うのについていく感じでしたよ。やたら買うし、疲れた……」

ちひろ「あー、それはお疲れさまです……」

P「ま、休みは滅多に外出しないので、気分転換になったのは確かですけどね」

ちひろ「お?」

P「オフを一緒に過ごしてみて、幸子のこともまた少し理解できたかな、と」

P「なんだかんだ言いつつも信頼してくれている? というか懐いている感じは受けました」

ちひろ(割と最初から懐いていたと思うけれども……)

P「幸子が服を見ている間にちょっとトイレに行ったんですけど、戻ってくると幸子がオロオロしてたんですよ。で――」


幸子『ちょっと、このボクを置いてどこに行ってたんですか! 勝手にいなくならないで下さい!』


P「――ですって。少し目に涙を浮かべていて、なかなかカワイかったですよ」

ちひろ「悪趣味ですよ……」

P「いや、別にわざとじゃないですって!」

P「その後は終始べったりで、まあ、それなりに慕ってくれているのかなー、と思うと言動がどれもカワイくてですね」

ちひろ「は、はぁ」

P「疲れはしたものの、悪くないオフでした!」

ちひろ「のろけじゃねーか!」

ちひろ(あー、プロデューサーさんまで……)

P「まあまあ、少しずつ幸子との信頼関係が強くなってきたというだけですよ」

ちひろ「ソーデスネ」

P「幸子の魅力が少し見えてきたので、新たな企画でも練ることにしますよ」

ちひろ「ソーデスネ」

P「いやー、それがですね、幸子はリアクションがいいんですよ。買い物中なんですけど――」

ちひろ「ソーデスネ」

ちひろ「……」

ちひろ(たすけて)


ちひろ「どうやら幸子ちゃんがプロデューサーさんにお怒りのようです」

――事務所、休憩スペース

ちひろ「はぁ、苦いお茶はいいですね~」

幸子「あ、ちひろさん休憩中ですか?」

ちひろ「はい、仕事がひと段落したので」

幸子「そうですか。ボクもここで宿題を済ませてしまいましょう。大丈夫ですか?」

ちひろ「ええ、構いませんよ」

ちひろ「……あの~、幸子ちゃんなんでキョロキョロしてるんですか?」

幸子「あ、あー、いえ、何か仕掛けられていないかと、少し気になって」

ちひろ「え」

幸子「まったく、最近のPさんはしょっちゅうサプライズを仕掛けてくるから油断できません!」

ちひろ(インザスカイのことかしら?)

幸子「気が付いたら空から飛びおりる羽目になりましたし」

ちひろ(やっぱり……)

幸子「まあ、ボクはあれくらい平気でしたけどね!」

ちひろ「幸子ちゃん、膝が震えてますよ」

幸子「う、うぐっ……。ほ、他にも遊園地のジェットコースターではレインコートが必要って教えてくれなかったですし」

ちひろ「え? どういうことですか?」

幸子「水しぶきがかかるジェットコースターだったんですよ! Pさんは気づいたくせに教えてくれなかったせいで水も滴るカワイイ幸子でしたよ、まったく!」

ちひろ(そっちじゃない。そっちじゃないの、幸子ちゃん。遊園地? え、またデート?)

幸子「まあ、楽しかったので何度か乗ったんですけどね!」

ちひろ(しかもめっちゃ楽しんでる……)

幸子「あとは……先日のCDデビューでしょうか」

幸子「帰宅したらパパとママがにこにこして出迎えてくれて、何かと思ったら、Pさんから先に連絡がいっていたようです」

幸子「詳しい話は翌日するから、家族でお祝いしなさいって。あれには驚きました」

ちひろ「ふふふ、よかったですね♪」

幸子「まあ、ボクがCDデビューできたことには驚きませんでしたけどね! 遅いくらいですよ、まったく!」

ちひろ「改めておめでとうございます、幸子ちゃん」

幸子「フフーン♪ ありがとうございます」

幸子「ただ……」

ちひろ「ただ?」

幸子「最近、ボクのせいでPさんは今まで以上に忙しくなったようですね」

ちひろ「あー、そうですね」

幸子「そのせいで、どうもボクの相手をおろそかにしているように感じます。これはいけませんね」

ちひろ「は、はぁ……」

幸子「まったく、ボクのプロデューサーなんだからちゃんとボクをカワイがらなきゃダメですよ。Pさんは本当にダメダメですね!」

ちひろ「あはは……。そんなダメダメなプロデューサーさんから、幸子ちゃんに封筒を預かっています」

幸子「……へ?」

ちひろ「どうぞ♪」

幸子「お、少し大きいですね。えーっと、封筒を開けると中には……封筒!?」

幸子「そしてその中には、封筒」

幸子「……」

幸子「マトリョーシカじゃないんですから! もー!」

幸子「ちひろさん?」

ちひろ「ち、違います! 私はこれを渡してくれと言われただけですから!」

幸子「まったくPさんは――ん? 中にチケット?」

ちひろ「おや、おやおや~?」

幸子「あ、いえ、なんでもないです! ボクは用事が出来たので帰ります! お疲れさまでした!」

ちひろ「はーい、お疲れさまでした♪」

ちひろ「……」

ちひろ「仕事、しましょう」


ちひろ「世間はクリスマス。私たちのプロダクションもクリスマスパーティーを開催しますよ!」

――事務所

ガチャ

ちひろ「はぁ、寒い寒い。会場と事務所を行ったり来たりで忙しいですね」

箱「……」

ちひろ「あら、こんな箱ありましたっけ?」

ちひろ「うーん……あ! これが宅配便に頼み忘れたプレゼントですか。早速、お願いしてしまいましょう」

ちひろ「あー、もしもし。集荷をお願いしたいのですが――」

ちひろ「――はい、はい、よろしくお願いします」

ちひろ「ふぅ。では、また会場に戻りましょうか」

ガチャ

P「ふぅ、見つかった見つかった」

ちひろ「あ、プロデューサーさん!」

P「ちひろさん、戻っていたんですか。あ、宅配便に頼み忘れたプレゼントなんですけど――」

ちひろ「ああ、それでしたら見つけましたよ!」

P「え?」

ちひろ「……え?」

P「いや、それを見つけたっていう報告なんですけど……」

ちひろ「んん? では、この箱はいったい?」

P「……もしかして」

P「コンコン、中に入ってますかー?」

ちひろ「いや、猫じゃあるまいし――」

箱「?!?!?」ガタン

P「やっぱりな。今開けてやるぞー」

幸子「……っぷはぁ。ああ、酸素って美味しいですね……」

ちひろ「え? ええ?!」

P「空気穴忘れたのか。いやー、危なかったな。危うくそのままプレゼントとして運ばれるところだったぞ」

幸子「え? え? ボクがうとうとしている間にそんなことが?」

ちひろ「あ、あはは、すいません」

幸子「いえ、ちひろさんのせいではありませんよ! 寛大なボクは許してあげます!」

P「……幸子、箱から出ないのか?」

幸子「あ、いえ、その……」

ちひろ(ん? 幸子ちゃんがこっちを恨めしそうにじっと見てる?)

ちひろ(あー、プロデューサーさんね。はいはい、ちっひは退散しますよー)

ちひろ「あー、会場に仕事が残っているので、私はそちらに行ってきますねー! ごゆっくり!」

P「はい、いってらっしゃい。荷物の件は俺が対応しておきますね」

ちひろ「はい、お願いしますね」

P「……で、その箱はなんなんだ?」

幸子「見て分からないんですか? 本当にPさんはダメダメですね!」

幸子「フフーン、メリークリスマスですよ! お祝いに世界一カワイイプレゼントです! ステキなプレゼントで良かったですね!」

P「……は?」

幸子「ちょっと、何を呆けてるんですか! あ、それともカワイイプレゼントに目を奪われてしまいましたか? ああ、なんて罪なボク……」

幸子「嬉しいでしょう? さあ、存分に褒めてくれていいんですよ!」

P「幸子」

幸子「フフーン、なんですか?」

P「まず1つ、パーティー会場はここじゃないぞ。下手したら放って置かれたままだったからな」

幸子「ちょっ、そういうことは先に言ってくださいよ!」

P「伝えたはずだぞ? 心配したんだからな」

幸子「す、すみません……」

P「そしてもう1つ、自分をプレゼントとか迂闊に口にするなよ。いや、色々とやばいから」

幸子「? ま、まあ、Pさんの忠告に従いましょう」

幸子(ちえっ、Pさんを喜ばせ……驚かせられると思ったのに)

P「あー、あと最後に」

幸子「ま、まだあるんですか?!」

P「普通に驚いたし、いいプレゼントだったよ。さすが! カワイイ!」

幸子「ふ、フフーン♪ 存分に感謝してください!」

P「うーん、貰った幸子どこに飾ろうかなー? 好き勝手できるしなー」

幸子「あー! さっきの忠告はこういうことですか! もー!」

P「ははは」

P(ちょっと違うけど、まあいいか)

P「さ、会場に向かうか。よっ、こい、せっ!!」

幸子「わ、わわ?! え?! 箱ごと運ぶつもりですか?!」

P「素敵なプレゼントを貰ったって自慢しにいかないとなー」

幸子「お、おろして、おろしてくださーい! フギャー!」


ちひろ「幸子ちゃんが七夕の短冊を書いてくれました」

――事務所

幸子「ちひろさん、カワイイボクが短冊を書いてきてあげましたよ!」

ちひろ「はい、受け取りました。幸子ちゃん、早かったですね」

幸子「何事もきっちり早めにこなすのがボクですからね!」

ちひろ「さすが幸子ちゃん。よっ、カワイイ!」

幸子「……なんか、最近ちひろさんもボクの扱いが雑になってきていませんか?」

ちひろ「そんなわけないですよ。本心からのカワイイです♪」

幸子「そ、そうですか? そうですよね! フフーン!」

幸子「では、これからボクはレッスンに行ってきますね」

ちひろ「はい、いってらっしゃい。今日も頑張ってきてください♪」

幸子「もちろんですよ!」

ちひろ「ふふふ……あっ、幸子ちゃん! 短冊、どのあたりに飾ってほしいとかありますか? あまり目立つところには飾ってほしくない、とか、他の人の目に触れてほしくない、とかあるでしょうし」

幸子「いえ、ボクの短冊はどこでも構いません」

ちひろ「あら、そうですか? せっかく早く提出してくれたので、それこそ上の方に飾ってもいいんですよ?」

幸子「確かにカワイイボクに頂点はお似合いです。でもボクは優しいので、他の方に頂点に飾ることを譲ってあげます!」

幸子「……まあ、ボクは大した願い事を書いていませんし」

ちひろ「え?」

幸子「では、ボクは今度こそレッスンに行きます」

ちひろ「あ、呼び止めちゃってごめんなさいね。行ってらっしゃい」

ちひろ「……幸子ちゃん、なんて書いたのかしら?」


短冊『ボクの願いはPさんが叶えるって決まってますので』


ちひろ「……うわーお」

ちひろ「ふふふ、いつの間にか、すっかり2人とも仲良し、というか、いいパートナーですね♪」

ちひろ「最初の頃はギャーギャー文句を言い合ってい……」

ちひろ「……あれもなんだかんだ楽しそうでしたね」

ちひろ「……」

ちひろ「はぁ、今日は本当に暑いですね。暑いなぁ~」


ちひろ「夏といえばプールですね。幸子ちゃんにもそんなお仕事がきました」

――事務所・休憩スペース

ちひろ「あら、プロデューサーさんも休憩ですか」

P「はい、ひと段落したので。それと、身体が重くて重くて」

ちひろ「昨日オフでしたよね? 何かされていたんですか?」

P「いやー、友人に誘われてプールに行ったんですけど、思った以上に疲れました」

ちひろ「あー、いいですね~」

P「これだけ暑い日が続いているんで気持ちよかったです。ただ、運動不足なのか、もうへとへとですよ」

ちひろ「ふふふ、また幸子ちゃんにぶーぶー言われますよ? ボクのプロデューサーなのにだらしないですよ! って」

P「! え、ええ、そ、ソウデスネー」

ちひろ「……ん?」

ちひろ「なんですか、その、実際に言われたみたいなリアクション?」

P「さ、さぁ?」

P「あ、あー、俺なんか飲み物持ってきますよ? 何がいいですか?」

ちひろ「あ、はい。では麦茶をお願いします」

P「はい、行ってきますね。ははは、ははは」

ちひろ「……プロデューサーさん、どうしたんでしょうか?」

幸子「おや、ちひろさんは休憩中ですか」

ちひろ「あら、幸子ちゃん。なんだか、少しお疲れですか?」

幸子「ええ、昨日はプールに行ったので……あ、暑かったからですよ!」

ちひろ「え、ええ。幸子ちゃんはCDデビューのラジオで泳げるって言ってましたし、泳ぎの練習ということもないでしょうから」

幸子「うぐっ」

ちひろ「?」

ちひろ「……え、幸子ちゃんも昨日プールに行ったんですか?」

幸子「は、はい? 幸子ちゃん"も"?」

ちひろ「ちなみに誰と行ったん――」

幸子「あ、ああ! ボクとしたことが用事を忘れていました。失礼します!」

ちひろ「……ほーん」

P「ちひろさん、お待たせしました」

ちひろ「あ、ありがとうございます」

ちひろ「そうそう、さっき幸子ちゃんがここに来たんですよ」

P「そ、そうですか」

ちひろ「幸子ちゃん も 昨日プールに行ったんですって。誰かさんと同じだなー。不思議ですねー」

P「そ、そうですね」

ちひろ「……」

P「……」

ちひろ「またデートですか?」

P「ち、違いますよー! っていうか、またってなんですか?!」

ちひろ(相変わらずデートとは認めないんですね)

P「あの、これ幸子には秘密にしてくださいね」

ちひろ「は、はい」

P「実は、幸子、泳げないんですよ」

ちひろ「……えぇ?!」

P「まぁ、幸子はそういうこと言いだせないので、ひっそり練習に行ったそうなんです。ただ、親御さんが心配して俺のところに連絡してきたんですよ」

ちひろ「それでプールに?」

P「はい。昨日はつきっきりで幸子の練習に付き合いましたよ」

P「幸子は内緒にしているんで、周りには言わないでくださいね」

ちひろ「……ええ、もちろんです♪」


ちひろ「事務所にいたみなさんと初詣に行きました」

――神社

ちひろ「幸子ちゃん、楽しそうですね」

P「ええ、不器用な子ですから、ああして友達が増えていくのを見ると安心? というか、嬉しいですね」

ちひろ「ふふふ、そうですね。……あ、幸子ちゃんこっちに来ますね」

幸子「Pさん、ちひろさん、見てください! 大吉ですよ!」

幸子「ふっふっふーん♪ どうですかボクの運勢、天に愛されたこの才能、誰もが羨むこの強運!」

幸子「幸せな子になるよう名付けられました! 名は体を表します!」

P「おー、そうだな、スゴイナー」

幸子「ちょっ、なんですかその反応!」

P「何度も引き直していたの、こっからも見えたぞ」

幸子「い、いいんですよ! 特別ルールです!」

ちひろ「そうだそうだー!」

P「やめてくださいちひろさん(真顔)」

P「……市原さんに大吉のくじあげたんだろ」

幸子「み、見てたんですか……」

幸子「ま、まあ、ボクは運もいいですからね! その運を分けてあげるのもボクの仕事です!」

幸子「……だから、この大吉2枚もPさんとちひろさんにプレゼントします」

ちひろ「え、いいんですか?」

幸子「ええ、お2人が不幸だとボクも幸せになれませんし!」

幸子「その代わり、ボクの運を受け取った以上ダメダメじゃ許しませんよ! 大吉級のお仕事を取ってきてくださいね!」

P「あー、そうだな。気が引き締まるな」

ちひろ「そうですね。今年もよろしくお願いします、幸子ちゃん♪」

サチコオネーサン、イッショニエマヲカクデスヨー

シンネンニアラタナシンネンヲ、フフフ……

P「ほら、行っといで」

幸子「ボクは人気者ですからね、仕方ありませんね!」

ちひろ「思わぬお年玉を貰ってしまいましたね」

P「そうですね、ますます頑張らないとなぁ」

ちひろ「……私たちも絵馬を書きましょうか」

P「そうしましょう。ちひろさんは何を書くんですか?」

ちひろ「事務所の子たちが活躍できますように、といったところでしょうか。プロデューサーさんは?」

P「幸子をトップアイドルに、と思ったんですけど」

ちひろ「え、違うんですか?」

P「それは俺が叶えることですから、神様に譲る気はありませんよ」

ちひろ(キザかよ)

P「なので、いい仕事にたくさん巡り合えますように、とかですかね」

ちひろ「ふふふ」

P「な、なんですか?」

ちひろ「いや、幸子ちゃんとプロデューサーさん、似ているなーって」

P「は、はぁ? いや、俺ってそんなにカワイイかなぁ?」

ちひろ「そこじゃないです(真顔)」

P「あ、はい」

P「……そういえばなんですけど」

ちひろ「なんでしょう?」

P「幸子、おみくじにどれだけ使ったんでしょうか」

ちひろ「……」

P「……」

P・ちひろ「お年玉をたくさんあげよう」


ちひろ「幸子ちゃんがチョーヤバイ感じでイケイケって感じー、です」

――衣装室

幸子「ボクってば……チョーセクシーでヤバくなーい?」

P「……」

ちひろ「……」

幸子「ふふふ……ボクは天才肌なので、ギャルっぽいお仕事だってこなせちゃいますよ」

P「きたでしょ、これは」

ちひろ「うーん、ありです! いい感じですね!」

P・幸子「いぇーい!」

ちひろ「新しい幸子ちゃん、という感じですね。カワイイです!」

幸子「おしとやかなボクにギャル風って意外でしたけど……これなら大成功間違いなしですね! Pさんの企画に応えたボクって……やっぱチョーサイコー♪」

P「いやー、よく仕上げてくれたよ」

幸子「まあ、Pさんの企画は信用できますからね。ボクもきっちり応えてあげますよ」

幸子「たまにアレですけどね……」

ちひろ(あっ)

ちひろ「さ、幸子ちゃん。新たな挑戦って感じだったけど、大変じゃありませんでしたか?」

幸子「ボクにかかればお手のものです!」

幸子「それに、新しいことは面白いですし、ボクが目立てるので好きですよ!」

ちひろ「しかし、よくこんな企画思いつきましたね」

P「今回は幸子も考えるのに付き合ってくれたので、捗りましたよ」

幸子「ボクがオフを使ってまで付き合ったんだから当然ですよ」

ちひろ「……ん?」

P「いや、横にいてくれただけですけどね。それでも捗るんですよ」

幸子「ボクだってアドバイスしましたよ!」

P「えー、そうだっけ?」

ちひろ(んー、違いますよー。オフを使ってまで一緒にいたことを聞きたいんですけどー?)

P「さて、打ち合わせもこれくらいで大丈夫だろう。ちひろさん、付き合ってくれてありがとうございました」

ちひろ「いえいえ。幸子ちゃん、次のお仕事も頑張ってくださいね」

幸子「フフーン、任せてください!」

P「じゃ、このまま幸子を送ってから帰りますね」

ちひろ「はい、分かりました」

幸子「では、行きましょうか、Pさん。楽しみですね」

ちひろ「ん? この後どこかに寄るんですか?」

P・幸子「え、いつも通り食事ですよ(けど)?」

ちひろ(なんで、当然でしょうみたいな顔してるんですかねー?)


ちひろ「プロデューサーさんと幸子ちゃんが温泉ライブから帰ってきました」

――事務所・休憩スペース

ちひろ「幸子ちゃん、お土産ありがとうございます。このお饅頭美味しいです♪」

幸子「フフーン、このボクが選んだお饅頭ですからね!」

ちひろ「ふふふ。ライブもそうですが、温泉はどうでしたか?」

P「気持ちよかったですね。露天風呂からは紅葉もよく見えて綺麗でした。仕事の一環で温泉に入れて嬉しかったですよ」

ちひろ「幸子ちゃんはどうでしたか?」

幸子「き、気持ちよかったですよ?」

ちひろ「?」

P「あはは、こいつ、限界まで挑戦するって言ってのぼせたんですよ。慌てましたね」

幸子「ちょ、言わないでくださいよ!」

P「暫く看病してたんですよ。そうしたらうわごとで、カワイイの限界に挑戦する、とか言っててさすがに笑いましたね」

幸子「ぐっ、それは事実ですけど……」

ちひろ「え、事実なんですか?」

幸子「そうです。カワイイの限界突破です。ボクはもっと上を目指すんです!」

P「その心意気はいい。素晴らしい」

幸子「フフーン、そうでしょう」

P「だが、それは温泉にどれだけ浸かれるかとは無関係だよ」

幸子「ぐぬ、ま、まあ、そうですけど……!」

幸子「まあ、それはいいです。今回のライブを通してしっとりカワイイ幸子を見せることもできたので!」

P「そうだな。しっとりカワイイ幸子はよかったな」

ちひろ「し、しっとりカワイイ?」

P・幸子「そうです。しっとりカワイイですよ」

ちひろ(分からないんですか? みたいな顔されても……)

P「ほら、これがライブの写真です。夕陽、紅葉をバックに、こう、しっとりカワイイでしょ」

ちひろ(プロデューサーさんもよく分かってないのでは?)

ちひろ「どれどれ……。こ、これは!」

P・幸子・ちひろ「しっとりカワイイ!」

ちひろ「!?」

P「前回のセクシーギャルから、新しい魅力をどんどん出せているな」

幸子「ええ、そうですね。これからもたくさん挑戦をしていきましょう!」

幸子「Pさん、今まで以上に頑張ってくださいよ!」

P「幸子もしっかり応えてくれよ?」

P・幸子「はっはっは!」

ちひろ(いい感じにまとまってしまった)

P・幸子「それにしても……」

ちひろ「な、なんですか?」

P・幸子「また温泉に行きたい……」

ちひろ「それは他でもない私のセリフですからね?」


ちひろ「幸子ちゃんとオーロラが勝負する様をテレビで見ます」

――事務所・休憩スペース

幸子『何でもオーロラは、「夜空の奇跡」とか「カワイイ」とか、みんなに褒められてるじゃないですか』

幸子『けれど、そんなオーロラもカワイイボクには遠く及びません! 今回は、それをファンにも知ってもらうための旅なんです!』


ちひろ「……」

P「……」

ちひろ「あの、しょっぱなから何を言っているか分からないんですけど……」

P「幸子とオーロラ、どちらがカワイイか、って話ですよ?」

ちひろ「あ、はい」

ちひろ(最近、幸子ちゃんの言う"カワイイ"がよく分かりません)

ちひろ「見ていると、相変わらず幸子ちゃんは、こう、神様に愛されている感じがしますね」

ちひろ(何の神様に、とは言いませんが)

P「幸子を追っかけていると面白いことがよく起こるんですよねー」

ちひろ「あははは……」

P「面白く見えるのも、幸子が全力で取り組んで、全身で感情を表現するからでしょうね。凄い子ですよ」

ちひろ「……そうですね」

P「基本的にはカワイイんですよ。ほら、ちょうど犬と戯れているシーンですよ」

ちひろ「わあ、本当ですね。カワイ――」


幸子『犬たちに慕われています。ほら、信頼の甘噛みを……ちょっ、強っ、フギャー!』


P「カワイイですね」

ちひろ「ソーデスネ」

――番組も終盤

幸子『わぁ……すごい……。って、オーロラくらいで我を忘れたりしませんっ。ボクが見とれるのは、鏡に映ったボクくらいです!』

幸子『でも、オーロラの美しさは想像以上でしたけど。ボクも、いつかあれくらい輝いて……』


ちひろ「……幸子ちゃんも、やっぱり普通の女の子なんですね」

P「ええ、そうですね。撮影後、オーロラの下で――」

幸子『オーロラは、ボクも生まれて初めて見ました。プロデューサーさん、オーロラって……こんなにキレイなんですね』

P『俺も驚いたよ。まさか、ここまでとはなぁ』

幸子『……アイドルにならなかったらこんな景色は見られなかったですね。それについては、ちょっとだけ感謝してますよ』

P『そうかい。俺も幸子のおかげでこれが見れたんだし、感謝しないとな。ちょっとだけ』

幸子『なんですか、意趣返しのつもりですか?』

P『ははは。いや、感謝してるよ』

幸子『それでいいんですよ! もっとプロデューサーさんはボクに感謝すべきです!』

P『はいはい』

幸子『ちゃんと聞いてます?!』

幸子『……』

P『……』

幸子『ボ、ボクがアイドルになって、プロデューサーさんと出会って……それって奇跡、ですよね』

P『……へ?』

幸子『……な、なんとか言ったらどうなんですか! ボクがせっかくこう、ロ、ロマンチックなことを言ってあげたというのに!』

P『いや、そうは言われてもだな』

幸子『まったく、これだから乙女心の分からないプロデューサーさんは。せっかくなんだからもっとロマンチックなセリフを返してくれても……』

P『んー?』

幸子『……はっ。なっ、なんでもありませんよ! オーロラがロマンチックだから、ボクのムードにぴったりって話です! フ、フフーン!』

P『まあ、聞こえていたけれども』

幸子『もー!!』

P「――いや、なんでもないです」

ちひろ「えー、そこまで言って気になりますよ。教えてくーだーさーいー」

P「はっはっは、どうやらノルウェーに記憶を置いてきてしまったようで。勘弁してください」

P「あ、番組がそろそろ終わりますよ」


幸子『名残惜しいですが、そろそろ帰り支度をしなければいけません』

幸子『せっかくなので記念となるものを残していきたいですねぇ』

幸子『……そうだ、ボクのカワイさ! これを雪の上に、そっと置いて』

幸子『フフーン♪』


ちひろ「……」

ちひろ(え、なに?)

P「うん、うん、いい記念になったな」

ちひろ(プロデューサーさんもすっかり毒さ……カワイイされてしまった)

ちひろ「ちなみに、オーロラとの対決はどうなったんですか?」

P「きらめきの種類が違うので勝負不成立です。住み分け成功と喜んでました」

ちひろ「お、おう……」


ちひろ「最近、幸子ちゃんとプロデューサーさんが二人してどこかに消えます。怪しいですね……」

――事務所・廊下

ちひろ「また、プロデューサーさんと幸子ちゃんがどこかに行ってしまいましたね」

ちひろ「最近は休憩スペースで一緒にお喋りする時間が減って少し寂しいです……」

ちひろ「なーんて」

ちひろ「それにしても、毎回何をしているのかしら?」

ちひろ「……ん? あそこの備品室、誰か使ったのかしら。扉が少し空いてますね」

ちひろ「まったく、普段あまり使わないとはいえ、しっかり施錠してほしいものです」

ちひろ「……あれ、中から声が聞こえる? 誰か使っているのかしら?」

――備品室

ちひろ「失礼します。誰か使って……あ」

P・幸子「あ」

ちひろ「えっと、何をしていたんですか? まさか、人目のないところでやましいことを――」

P「ち、違いますよ! あー、幸子、ちひろさん相手ならいいだろ?」

幸子「はぁ、仕方ないですね」

ちひろ「え? え?」

P「仕事がどんどん増えてきて、勉強が少し大変になってきたようで。苦戦してる様を人前に晒したくないから、とここで勉強してたんです」

幸子「お、概ねその通りですけど……」

P「ちひろさん相手に見栄張らなくてもいいだろ?」

幸子「うっ……」

ちひろ「あー、そうだったんですか。最近、休憩スペースでお2人を見かける機会が少なかったので少し寂しかったんですよ」

幸子「そうでしたか。やはり、カワイイボクはみんなに求められてしまうんですね」

P「あははは。まあ、勉強が落ち着いてきたら、また休憩スペースでのんびりお茶でもしましょう」

ちひろ「はい、楽しみにしています♪」

ちひろ「このことは秘密にしておきますね」

P「ええ、お願いします」

ちひろ「それと、お聞きしたいんですけどー」

P「なんでしょう?」

ちひろ「なんでプロデューサーさんは幸子ちゃんの頭を撫で続けているんですか?」

P「……」

幸子「……」

ちひろ「あのー?」

幸子「ふ、ふふーん! Pさんに撫でてもらうと、なんだか勢いで問題が解ける気がしませんか? しますよね!」

ちひろ「え? は、はぁ」

幸子「つまり、そういうことです!」

ちひろ「でも、今はノート開いてませんよね?」

幸子「あ」

P「あ、あー! ノートを使わない感じの宿題なんですよー! 俺やちひろさんの頃とは学ぶ内容も違うしなー! ちひろさんも知らないやつなんだよなー!」

ちひろ「お、おう」

ちひろ(深くは追及しないことにしよう)

ちひろ「ホワイトボードに書いてあるものは?」

P「あー、あれですか。幸子に少し勉強を教えていたので」

ちひろ「へぇ~。……ん? 幸子のカワイイところ、みたいな板書はなんですか?」

幸子「Pさんに褒めてもらっていたんですよ!」

P「ええ、これは必要なことですしね。幸子は褒めて伸びる子ですから」

幸子「その通りです。花にとっての水、ボクにとってのPさんの褒め言葉ですよ♪」

ちひろ(これは照れたりしないんですね。分からない……)

ちひろ「えっと、まあ、色々秘密にしておきますね」

P・幸子「よろしくお願いします」


ちひろ「プロデューサーさんと幸子ちゃんがデー……お買い物しているところを見つけてしまいました」

――街中

ちひろ「ふぅ、たまにはショッピングもいいですね」

ちひろ「……あら、あのクレープ屋台は幸子ちゃんにおススメされたところですね」

ちひろ「結構人が並んでいますねー。近くのベンチで食べている人もいっぱい……」

ちひろ「ちょうどいいですし、私も少し食べていきましょうか」

ちひろ「あ、あの親子連れ? 歳の離れた兄妹かしら? 食べさせ合いっこして可愛い、いや、カワイイですね♪」

ちひろ「……ん? カワイイ?」

ちひろ「って、よく見るとプロデューサーさんと幸子ちゃんじゃないですか! 外で何してるんだあの2人!」

ちひろ「ま、まぁ、少し観察してみましょうか」

ちひろ(オフの2人がどんな感じか気になりますし?)

ちひろ「お、幸子ちゃんが得意げに何か言ってますね。プロデューサーさんは苦笑、ですか……」

ちひろ「おおかた、カワイイボクに味見させてくれてもいいんですよ、とか、そういうところでしょうか」

ちひろ「あ、本当にプロデューサーさんから一口貰ってる……」

ちひろ「また幸子ちゃんが得意げに何か言ってますね。チラチラプロデューサーさんの顔を見ながら」

ちひろ「うーん、このパターンは……特別にボクのクレープを分けてあげましょう、とかですかね!」

ちひろ「あ! 言い終わらないうちにプロデューサーさんががぶっと一口」

ちひろ「ほらー、幸子ちゃんがギャーってなってますよ!」

ちひろ(なんだろう、なんだか楽しくなってきた)

――数分後

ちひろ「こんにちは、ちひろです。2人がクレープを食べ終え、移動し始めたのでひっそりついていきます」

ちひろ「あ、クレープは美味しかったです。今度幸子ちゃんと感想合戦とかしたいですね♪」

ちひろ「お、2人がショーウィンドウの前で止まりましたね……」

ちひろ「熱心に覗いているのは……箱?」

ちひろ「そして、ガラスに映る2人の目が……目?」

P「こんにちは、ちひろさん。奇遇ですね」

幸子「おや、ちひろさんじゃないですか。休日までカワイイボクに会いにくるなんて、分かっていますね!」

ちひろ「え、ええ、奇遇ですね。ははは……」

P「幸子は気づいていないようですけど、人の後をつけるのは悪趣味ですよ」コソコソ

ちひろ「あ、あはは、すいません」コソコソ

ちひろ「そ、それで、箱を眺めて何をしていたんですか?」

P「あー、この箱はカワイくないって話をしていたんですよ」

ちひろ「え、可愛いじゃないですか」

幸子「ちっちっち、ちひろさんもまだまだですね。この箱は可愛いかもしれませんが、カワイくはないんですよ!」

ちひろ「は、はぁ」

ちひろ(あ、分からない話だ)

幸子「どのラッピングもなかなかのカワイさです、それは認めます。ただ、しょせん包みだけです!」

幸子「パッと見のカワイさだけを競うなんて、まだまだですねぇ」

ちひろ「! へぇ、幸子ちゃんの口からそんな言葉を聞くとは思いませんでした」

幸子「フフーン、ボクだって成長しているんです。誰かさんは相変わらず厳しい要求をしてきますからね」

P「幸子なら出来ると思ってるんだろうけどな、その誰かさんは」

幸子「よくわかってますねぇ、その誰かさんは♪」

幸子「そう、真のカワイさとは、内面から隠しきれないほどに出てくるものなんです!」

ちひろ「お、おお~!」

ちひろ(よかった、今回は分かる話です!)

ちひろ「ふふふ、でも、幸子ちゃんも本当に変わりましたね」

幸子「確かに成長していますが、そんなに変わりましたかねぇ?」

ちひろ「そうですよ。最初の頃はプロデューサーさんのこと、ずいぶんとぞんざいに扱っていたような」

幸子「ち、違いますよ! あれはプロデューサーさんがダメダメだっただけです!」

P「ははは、まあ、そういうことらしいです」

ちひろ「プロデューサーさんもなんだか丸くなりましたね。生意気で困るとか言ってたのに」

幸子「な、生意気?! ふ、ふーん……」

P「うぐっ、まあ、それは本当です。けど、それは幸子のことをちゃんと知らなかったからですよ」

幸子「そ、そうですよね! フフーン」

ちひろ「ふふふ、時間をかけて仲良くなったようなら、それでいいじゃないですか」

幸子「まあ、そうですけど……」

ちひろ「あ、でも周りの目は気にしてくださいよ。まったく、堂々とデートだなんて」

幸子「いえ、これはデートじゃありませんよ?」

ちひろ「は?」

P「普段頑張ってくれてるからお返しだそうです」

幸子「そうですよ! ボクは人に感謝できる子ですからね!」

幸子「それに、休日だっていうのに、ボクのプロデューサーともあろう人が1人で街を歩くなんてありえませんからね!」

ちひろ「お、おう。ちなみに、前回一緒に出掛けたのは?」

P・幸子「前回のオフ」

ちひろ「」

P「これから幸子の服を見に行くんですけど、ちひろさんも来ますか?」

ちひろ「い、いえ、遠慮しておきます。どうぞ2人で楽しんできてください」

幸子「そうですか? では、また明日ボクに会えることを楽しみにしていてくださいね!」

P「ちひろさん、お疲れさまでした」

ちひろ「はい、お疲れさまです……」

ちひろ「……」

ちひろ(私が断ったとき、2人してちょっとほっとした顔をしたことに、本人たちは気づいているのかしら?)

ちひろ「コーヒーを買ってから帰りましょうか……」


ちひろ「今日は幸子ちゃんの誕生日です。今ごろどうしているのでしょうか?」

――事務所

ガチャ

幸子「おはようございます。誕生日カワイイボクがやってきましたよ!」

ちひろ「おはようございます。幸子ちゃん、お誕生日おめでとうございます♪」

幸子「ちひろさんもボクがお祝いできてよかったですね。そして、ありがとうございます!」

ちひろ「ええ、そうですね♪」

ちひろ「はい、幸子ちゃんにプレゼ――」

幸子「おっと、まだそれを受け取るわけにはいきません」

ちひろ「はい? あー」

幸子「ボクのために頑張ってくれているあの人に、最初にプレゼントを渡す役目を用意してあげるんです。ボクは優しいですからね!」

ちひろ「ふふふ、きっと喜んでくれますよ」

ガチャ

P「おはようございまーす」

ちひろ「噂をすればあの人ね。幸子ちゃん、いってらっしゃい」

幸子「ええ、いってきますね」

ちひろ(さーて、今日も仕事しますか。苦いものがほしいですねー)

「待ちくたびれましたよね、Pさん! カワイイボクの誕生日を、前日からお祝いしたくてたまらなかったでしょう!」

――昨日からずっとあなたにお祝いされるのが楽しみでした

「Pさんからのプレゼントを真っ先に貰ってあげます! ボクは優しいですから当然です。さぁ、はやく渡してください♪」

――あなたのプレゼントを最初に貰いたいんです

「今日はボクの貴重な時間をPさんにあげます! カワイイボクがもっと活躍できるよう、相談を聞いてあげますからね!」

――今日はずっとあなたといたい。いっぱいっぱい、お話したい


幸子「さあ、Pさん。今日は思う存分ボクをお祝いしていいんですよ!」

終わりです。

1日遅れたけど、幸子、お誕生日おめでとう!
自然と、それもさも当たり前のように強い信頼を滲ませた言葉を投げかけてくる幸子カワイイ!

これからもカワイイを磨き続ける幸子をよろしくお願いします

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