楓「雨宿りも兼ねて、一杯、ご一緒しませんか?」 (27)

【attention】

・基本的にアニメ世界観準拠、武内P×楓さんのお話です(『P』表記は『武内P』と考えていただきますと幸いです)。

・完全な台本形式ではなく地の文を含みます。読みづらく感じてしまいましたらごめんなさい。

・キャラ崩壊にはなるべくならないように心掛けていますが、
 その辺は個々人で物差しが変わってくる部分だと思いますので広い目でどうかひとつ。

・一人称や基本的な設定等、なにか間違ってる部分があれば教えていただけると嬉しいです。

・最後に、SS速報にスレ立てするのは初めてのことなので、何卒よろしくお願いします。


長々とすみません、次レスより本編です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480153508

1.

「あ」

「……お疲れ様です、高垣さん」


秋雨の降る金曜の夜、346プロダクションの玄関口。
私は、たまたま『彼』と鉢合わせた。

楓「お疲れ様です、プロデューサー。今お帰りですか?」

P「はい」

楓「いつもよりお早いんですね」

P「えぇ。今日はたまたま」

楓「そうですか」

P「えぇ」

流れるような定型文を受け取り、渡して。
そこで会話は途切れた。


雨が強くなる前に今日はさっさと帰ってしまおうと思っていたはずなのだけれど、二人並んでプロダクション前に立っていると、どうにもこちらから一歩目の帰り道を踏み出すのが憚られる。
間を持たすにも、得意の駄洒落もなぜだか思い浮かばないし。
新しい話題を振ることもせずつらつらとそんなことを考えていると、彼が少しだけこちらを向いて、口を開いた。

P「高垣さんも」

楓「え?」

P「高垣さんも、今日はもう上がりなのでしょうか」

楓「あっ、はい。一応そうですね……今日は」

P「そうですか。雨が降っていますので、風邪などにはお気をつけて」


言い終わり、彼はすっと視線を前に戻す。
その目線は、同じ前を向いているのでも、最初の挨拶の時とは意味するところが違うように見えた。
きっと数瞬の後、彼は「では、私はこれで」と言い残して去っていってしまう。
確定しているわけでもないのに、私はその予感になぜだか少し焦れた。
――言ってしまえば、引き止めたかったのだ。

P「……では、私はこれで」

楓「あっ」

そしてその予感は、やはり的中していて。
続く言葉が何も浮かばないまま、自分で言うのもなんだがだいぶ情けない声が漏れる。

P「……? どうかしましたか」

楓「えと、あの……」

P「…………」

楓「じ、実は」

P「はい」

楓「……傘、忘れてしまいまして」


引き止めたのだから何か言わなければ、と焦って思わず口をついたのは、どうしようもなくしょうもない嘘、だった。

P「……! それは大変です。今タクシーをお呼びしますので――」

楓「あぁいえ、私の家すぐ近くなのでタクシーを呼ぶほどでは」

P「そう、ですか。では私の傘をお使いください」

ここまで話して私は、実はもうこの会話の終着点を一つに見定めていた。
それにしても、いやはや、なんともまあ我ながら――――


楓「大丈夫ですよそんな。それにそれじゃあプロデューサーが濡れてしまいます」

P「私が濡れるのは気にしないでください。高垣さんはアイドルですから」

楓「そうはいきません」


一瞬、沈黙が降りる。
降りる、というか私が黙ったのだから、降ろしたというのが正解か。
そしてそれは勿論、意図的なもの。
続く言葉を探す必要は無い――なぜなら。
もうこの先は予定調和。
この会話が始まったときから、あらかじめこう言うと決めていた言葉を、音に乗せるだけなのだから。


楓「あっ、それなら」

少しだけわざとらしく、私はポンと手を叩く。

P「?」

楓「雨宿りも兼ねて、一杯、ご一緒しませんか?」


――いやはや、ずるい女だなぁこれは。我ながら。
そう自己評価を下しながらもためらいなく閃きを実行に移すあたり、私の中でプロデューサーとお酒を飲むという行為はそれなりに価値のあるものなのかもしれないなと、少しずつ勢いを増していく雨粒を大雑把に眺めがら思った。
隣でプロデューサーが悩んでいる気配を感じるけれど、断られるかも、といった心配は特にしていない。

だって。


P「………分かりました。雨宿り、ということであれば」


そんな心配をするほど――相手のリアクションが想像できないほど――浅い付き合いでは決してないのだから。

――あ、もちろん、なんでも知っている、というわけでは無いですけれどね?

ここまで書いておいてなんですが、トリップとかメ欄とかそもそもちゃんと見れてるかとか大丈夫ですよね…?

2.


雨を受けながら事務所から少しだけ走って、私達は目的のお店へ到着する。
ここに来るのも随分久しぶりかしら、なんて考えながら、年季の入った引き戸に手を掛けた。
カラカラカラ、と小気味良い音を立て、戸が開く。

楓「こんにちはー」

店主「――おぉ!楓ちゃんじゃねえか!久しぶりだなぁいらっしゃい!」


そう元気よく私たちを迎えてくれたのは、ここの大将。
ここはプロダクションからほど近い、私がまだモデルをやっていた頃からの行きつけの場所だった。

楓「お久しぶりです、大将」

今日はあまりお客さんが入っていないようで、店内を見渡してみても、話したことはないけれど顔はよく見知った常連さんが数人カウンターに居る程度。
週末とは言え、ピークタイムを過ぎた雨の日ともなればこんなものだろうか。
なんにせよ、私とプロデューサーにとっては好都合だった。


店主「いやー相変わらず別嬪さんだなあ。そんで、そちらのでっけえ兄ちゃんは?」

大将の注意がプロデューサーへ向く。
彼をここへ連れてくるのは初めてのこと。
普段一緒に訪れるのは大抵同じ事務所の飲み友達なので、私が初めて連れてきた男の人ということもあってか、若干訝しげな目線だった。

P「初めまして。私は美城プロダクションでプロデューサーをやっておりまして……」

その視線を知ってか知らずか、相も変わらず彼は朴訥な挨拶、
というかあのー、その言い方だと…………。

店主「プロデューサーってぇと……あーあーなるほどな!楓ちゃんの世話係みてえなもんか!」

ほら、そういう誤解をされてしまいますよ?


P「世話係……といいますか、今は楓さんの専属というわけでは……」

楓「――しっ」
P「っ」

面白そうなので、ここでプロデューサーにこっそり耳打ち。
それ以上は言わないでおいてください、という内心を察してもらうことにした。

これは余談だけれど、存外プロデューサーの身長が高くて、耳打ちするのにつま先立ちでちょっと頑張った。

P「…………はい。まぁ、そんなようなものでしょうか」
楓「……ふふっ」

企みが上手くいったことが少しだけおかしくて、思わず笑いが漏れる。
全くもって、相変わらず言葉の足りない人だった。

まあ、そんなところが可愛くもあるのだけれど。

大将はそれで納得したようで、席へ案内される。
いつもはカウンターに通されるのだが、今日は諸々考慮してくれたのだろう、奥まった個室へ案内してもらった。

楓「それじゃあ……えーと、なんでしょうかね?」

お互いにジョッキを掲げ持ったところで、乾杯の音頭となるべき言葉が見当たらないことに気付く。

P「……すいません、このようなことは苦手なもので…………」

向かいに座るプロデューサーも、大きな背中を少し曲げ、自分も同じだと言外に示している。

楓「そうですねぇ……じゃあ月並みですが、今日も一日、お仕事お疲れ様でした、ということで」

P「はい」

P・楓「「乾杯」」

そう言って、行き先を見失ったまま手に持っていたジョッキをやっとのこと煽る。
四分の一程を一息に飲んでからプロデューサーを見ると、彼はなぜだかこちらを見つめていた。

楓「――? どうしたんですか?」


P「いえ、その……いいんでしょうか、プロデューサーという立場でありながらこのような……」

なんだそんなことか、と思う気持ちをしかし表情には出さず、私は薄く微笑む。

楓「いいんです。これは私からお願いしたことですし、それに」

飲み始めてすぐだというのにこんな話はできればしたくないのだけれど、というのが胸の内。
けれど彼にそんな気持ちを引きずられたまま飲んだって、お酒は美味しくはならないだろう。
それに、不器用なまでに仕事に誠実であろうとする姿勢は、純粋に素敵だな、とも思いますし。

楓「雨が止むまで、というお話ですから」

P「そう、ですか」

楓「えぇ。そうです」

楓「――ところで、プロデューサーは明日もお仕事ですか?」

P「いえ、明日は休日になっていた筈ですが……」

楓「……ほほう。それを明かしてくれるんですね?」

P「……? それはどういう意味でしょうか」

楓「いえいえ。お気になさらず。あ、お料理来たみたいですよ」

こういう時は、彼の素直で実直な性格に感謝したくなる。
あまり言葉の多くない人だけれど、今の発言で少なくとも、さっきの躊躇いがちな言葉の出処が『私と飲みたくないから』ではないということが伺えた。
多少無理に誘った手前、ほんの少しだけとはいえそういった心配もあったのだ。

それにもう一つ。
明日が休みなら、今日は夜がよっぽど深まるまで飲んでいても大丈夫そうだな、とも。
思ったり、した。

手元のジョッキを、また一口。
同じものなのに、先程よりも美味しく感じたのは、きっと偶然じゃない。

P「――高垣さんは」

楓「はい、なんでしょうか」

P「明日のご予定は、どうなっているのでしょうか」

楓「――――っ」

ジョッキの結露を手慰みに撫でていた指が止まる。

楓「こほん。……教えてほしいですか?」

P「はい」

全くこの人は……。
素直過ぎるというのも考えものだ。


楓「えー………………はい、お休みです」

P「そうですか」

楓「えぇ」

そう言って、彼は少し黙る。
その沈黙は、何かを逡巡しているような間。

P「――では今日は」

楓「えっ?」

P「? どうかなさいましたか」

楓「い、いいえ。続きをどうぞ」


『では今日は』?
それってつまり、プロデューサーも私と同じことを考えて……。

一旦中断し申す

そんな私の淡い期待は、


P「――貴重な明日の休日に影響が出ないよう、飲み過ぎには気をつけましょう」

楓「っっっっっ」

ものの数秒で、見るも無惨に打ち砕かれた。
完璧なまでの肩透かしを食って、思わずテーブルに突っ伏しかける。
私の両肘が最後の砦となっていなければ、ジョッキをなぎ倒して本当にテーブルの木目を舐めているところだった。
こういうのも天然と言うのかしら……。

楓「ぷ、ロデューサー?」

P「は、はい」

楓「アイドルの体調を気遣うその姿勢、職業的には大変素晴らしいです」

P「あ、ありがとうございます……?」

楓「で、す、が」

必要以上に強調する。
最初の一杯も空いたところで、口調も少しだけ遠慮がなくなってきていた。

楓「唐変木にも程があります」

P「……トウヘンボク、ですか」

楓「はい」

P「具体的にはどのあたりが――」
楓「教えませんけどね?」

若干食い気味に言う。

P「――そう、ですか」

楓「えぇ」

あ、ショックを受けたお顔をしていらっしゃる。
少し言い過ぎちゃったかしら……。

また夜に書きますー

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