島村卯月「Take me☆Take you」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】 (62)


(プロローグ)


 最初は、キラキラしたものに憧れる、どこにでもいる女の子でした。

 そんな私はある日魔法にかけられて。

 夢に踏み出して。

 その先にあるものに向かって、みんなと一緒に階段を上って。

 一目散に走り続けて。

 するといつの間にか、その夢は叶っていました。

 そして今日。

 私は、シンデレラガールになりました。



※ウルトラマンオーブ×アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

※三船美優「遥かな旋律、琥珀の夢」の続きになります。
三船美優「遥かな旋律、琥珀の夢」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471088856/)
※↑はオーブ側の時代設定を「本編から二、三年前」としていましたが、こちらと合わせる都合上、「本編と同年」とします。
※時系列的には↑の話が本編より少し前、このスレの話が17話「復活の聖剣」以降という感じです。

※ウルトラ怪獣擬人化計画のキャラクターが登場しますが、そちらの本編との関係はありません。

※主な登場キャラクター
島村卯月(17) 三船美優(26) ガラオンさん(?)

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira123886.jpg


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479994423


(1)


記者「えーでは次に島村さん。新曲についての思いをお聞かせください」

卯月「は、はいっ」

 緊張で声が上擦ってしまう卯月に、隣の楓がくすりと笑った。
 346プロダクション事務所の応接室。ソファセットには卯月、楓、美優、乃々、芳乃の五人が顔を揃え、雑誌記者からのインタビューを受けていた。

卯月「新曲『Take me☆Take you』はこれまでやこれからのことについて考えながら歌いました」

卯月「ファンの皆さんに貰った力を返せていけたらいいな、と思ってます。ぜひ、楽しみにしててください」

記者「はい、ありがとうございました!」

 息をついた卯月の肩にぽんと手が乗せられたので隣を振り向いてみると、

卯月「ふにゅっ?」

楓「ふふっ♪」

 楓の人差し指が頬に刺さって、卯月は顔を真っ赤にした。

卯月「も、もう楓さん~っ」

楓「うふふ、ごめんなさいね。緊張してる卯月ちゃんが可愛らしかったから」

記者「仲がよろしいですね。これも記事にしても?」

楓「ええ、どうぞ~♪」

卯月「え、ええーっ!?」

 と、インタビュー中でもフリーダムな楓に何かと振り回されながら、取材は終わりに向かっていった。


記者「最後に、PVは明日公開とのことですが、それについては?」

美優「私は初めての経験でしたので、緊張してしまいました……乃々ちゃんや芳乃ちゃんはきちんとできていて立派です」

乃々「……え、えぇ……? 芳乃さんはともかく……もりくぼは……」

芳乃「ふふ、乃々さんの雄姿ー、ファンの方々はさぞ喜ばれることと思いますー」

乃々「そ、そんなぁ……そんな大それたことしてないですしぃ……」

楓「いつもの乃々ちゃんの路線から逸れたことしてないから、とても喜ばれると思うわ……ふふっ♪」

卯月「あ、あはは……」

記者「シンデレラガールの島村さんはどうお考えですか?」

 突然その単語が飛び出してきて、卯月は不意を突かれたような気分になった。

卯月「じ、実はまだ実感がそこまでなくて……なのでいつも通りの感想なんですけど――」

 シンデレラガールとは、346プロの総選挙で栄えある第一位に輝いたアイドルのことを指す。
 卯月は今年度のシンデレラガールに選ばれ、今回の曲はその記念のものだった。

 しかし記者に言った通りまだ実感らしい実感はなかった。
 とはいえ楓のようなトップアイドルとの仕事、メディアへの露出、そして今のように「シンデレラガール」として名指しで呼ばれることは格段に多くなっており、それは理解できていた。

 要は、自分ひとりだけ変わっていなくて、周りが変わってしまった。
 卯月はそんな感慨を、妙に他人事のような視点から抱いているのだった。


 インタビューを終えて皆と別れ、自分の部署の部屋に戻ると、ソファでくつろいでいた凛と未央が声を掛けてきた。

凛「インタビュー終わったの? お疲れ」

未央「しまむーお疲れー。どうだった?」

卯月「ありきたりなことしか言えなかったです……えへへ」

未央「ふふん……ありきたりなことでもシンデレラガールの口から発せられればそれは魔法の言葉になるのさっ!」

卯月「え、えぇ!? そうなんですか!?」

未央「そうそう。一言一言に責任がのしかかってくるからね~」

卯月「せ、責任……」

未央「うむ。メディアの前ではもちろん、プライベートでも言動には注意した方が……」

 と、言いかけた未央の頭を凛がぺしっと叩いた。

凛「こら未央。おどかさないの」

未央「えへへ……まあでもファンのみんなは喜んでくれると思うから大丈夫だよ、きっと!」

凛「うん。卯月はあんまり気負わずそのままでいた方がいいよ」

卯月「は……はいっ。がんばりますっ!」


 がちゃりとドアが開くと、今度はプロデューサーが入ってきた。

P「帰ってたのか」

卯月「はい。……」

P「そっか」

 アイドルたちの予定が書かれてある奥のホワイトボードに目をやる。

P「今日の予定はもう終わり?」

卯月「はい」

P「お疲れ」

卯月「は……はい」

 プロデューサーはそのまま卯月の横を通り過ぎて、デスクに向かってしまった。

卯月「……」

凛・未央「「?」」

 その背中を見詰めている卯月の様子に凛と未央は顔を見合わせて首を傾げた。


   *

 夕方。未央と別れて駅を出、卯月と凛は帰路についていた。

凛「明日だね」

卯月「え?」

 急に言い出した凛の顔を振り返った。

凛「PV。楽しみにしてる」

卯月「あぁ……。いい曲ですよ。楓さんたちは素敵ですし、乃々ちゃんたちはかわいいですし」

凛「卯月は?」

卯月「えっ?」

凛「卯月はどういう感じに映ってる?」

卯月「…………」

 うーん、と唸りながら思案投げ首になる卯月に凛は苦笑する。

凛「そんなに考え込むことかな」

卯月「何だか……よくわからないです。気付くと終わっちゃってて……」

凛「そうなんだ」

卯月「はい……」

 それきり二人は口を閉ざして、黙々と歩き続けた。
 凛の家のそばまで来た時には日はほぼ落ちて、街はどっぷりと夜に浸かっていた。


凛「卯月」

 凛は足を止めて卯月を呼んだ。

凛「プロデューサーと何かあった?」

卯月「え?」

凛「今日、何だかぎこちないというか、普通じゃないみたいだったから」

卯月「……特に何かあったというわけじゃないんですけど……」

 今日のプロデューサーは普段と比べて変ということではなかった。
 口数は多くなく放任主義な面があるのはいつも通りで、凛が違和感を持ったのはむしろ卯月の方だった。

凛「大丈夫? 卯月」

卯月「え? はい……」

 本当にわかってない様子で卯月は頷いた。
 嘘はついていないようだしこれ以上追及してもしょうがないかと、凛はそこで話を切り上げた。

凛「ごめん。行こっか」

 再び並んで歩き出す。凛の家の花屋の前まで来たところ、ちょうど店から出て来た男とぶつかった。


男「おっと……」

卯月「あっ……すみません」

 男の手から薄紫色の花束が落ちた。慌てて拾い上げ、それを渡す。

男「悪いな。怪我はないかい」

卯月「は、はい。大丈夫です」

 花束を受け取った男はそれを担いで去っていった。
 その後ろ姿を見ながら、凛はぽつりと呟いた。

凛「ブルーローズアプローズ……」

卯月「えっ?」

凛「贈り物かな。きっと、いいことがあったんだね」

卯月「??」

 首を傾げる卯月に微笑みかけて、凛は言った。

凛「ブルーローズの花言葉は『夢叶う』」

卯月「夢、叶う……」

 「そうだ」と思いついたふうに凛は店に入った。
 しばらくして出てくると、その手には小さな花束が握られていた。

凛「……おめでとう。卯月」

 卯月は満面の笑顔で、それを受け取った。


   *

 翌日。卯月が起きて二階の自室からリビングに降りると、母親がパソコンと向かい合っていた。

母「あ、おはよう卯月。遅かったわね」

 時計を見ると昼の十二時だった。
 昨夜遅くまで美穂と長電話したのが響いたらしい。

卯月「おはよ……ごはんある?」

母「そんなことより卯月、PV見たわよ」

卯月「そんなことって…………あ、そっか。今日公開だったかぁ」

母「かわいく映ってたわよ。出番も一番多かったし」

卯月「うん……」

母「さっすがシンデレラガールね」

卯月「うん……」

 生返事をしながら焼き上がったトーストを皿に乗せ、食卓についてテレビをつけた。
 ちょうど昼のニュースの時間だ。スポーツニュースが終わると次は芸能ニュースに入る。
 トップで紹介されるだろうかと期待して見ていると――


TV『では次は芸能ニュースの時間です!』

TV『まずはこのニュースからお届けしましょう! 昨日武道館で開催されたガラオンさんのLIVEに超満員のファンが押し寄せました!』

卯月(……えっ?)

 意に反してトップを飾ったのは別のアイドルのニュースだった。

TV『今年の春、ミジープロダクションから鮮烈デビューを飾ったガラオンさん!』

TV『人気はうなぎ上りで、この短期間で武道館ライブを果たしたのは芸能界で初とのことです!』

 奇抜な衣装を身に纏い、ステージ上で歌うひとりの少女。
 力強く、しかし時には切なく、かと思うとかわいらしさも見せる、変幻自在な歌声とパフォーマンス。

ガラオンさん『オラァァァーーーーッ!!! てめーらもっと怒れ! 盛り上がりが足んねえぞコラァッ!!!』

ガラオンさん『世界とは刹那の集積……ここで逢えた奇跡に感謝して、届けましょう。私の歌を』

ガラオンさん『というわけで、聴いてくださいっ♪ 「Yes! 侵略宣言☆」!』

TV『ガラオンさんはこの強烈なキャラクターで人気を博した超新星アイドル。今日は彼女の魅力をたっぷりお伝えします!』

卯月(…………)

 そのまま芸能ニュースは終わるギリギリまでガラオンさんの話題で持ちきりだった。
 最後になってようやく「Take me☆Take you」のPV映像が流れ出したが、

TV『今日、346プロ総選挙上位アイドルによる新曲PVが公開されました! 皆さんチェックしてくださいね!』

TV『では番組も終わりです。エンディングはこの曲、ガラオンさんの「Yes! 侵略宣言☆」です♪』

 30秒も経たずに終わってしまい、別の番組に切り替わっても卯月はしばらく、呆然と画面を見詰めて続けていた。


(2)


 一週間後。事務所に来た卯月はプロデューサーに呼び出された。

卯月「何ですか?」

P「これを読んで」

 差し出された紙束に視線を落とすと、卯月はその丸い目をさらに丸くした。

卯月「プロデューサーさん、これって……」

P「うん。ミジープロダクションからのライブバトルの申し込みだ。相手に卯月を指名してる」

卯月「ライブバトル……」

 アイドル戦国時代である昨今、事務所の違うアイドルによるライブバトルは頻繁に行われていた。
 同じ会場で続けて歌い、その後観客の投票によって勝敗を決める。単純だが人気イベントのひとつとなっていた。

卯月「ミジープロダクションっていうと……」

P「うん。卯月も知ってると思うけど、今人気急上昇中のガラオンさんっていうアイドルが相手になる」

卯月「……!」

 この前のことが思い出され、卯月は全身をぶるっと震わせた。


P「ミジープロダクションは所属アイドルがガラオンさん一人だけの小さい事務所なんだ」

卯月「えっ? そうなんですか」

P「うん。だからあちらの狙いは、この業界における力関係の逆転になる」

卯月「……えっと……」

P「つまり、互いの事務所ナンバーワンのアイドル同士で優劣を決めることで、事務所自体の勝敗も決めようとしているんだ」

卯月「ナ、ナンバーワンなんて……」

P「何言ってるんだ、シンデレラガールだろ」

卯月「…………あっ、そうでした」

P「まぁ、だから……」

 そこでプロデューサーは珍しく言いにくそうに言葉を切った。

卯月「何ですか?」

P「……卯月には事務所を背負って歌ってもらうことになる」

卯月「…………」


P「でもそれは『受けるなら』の話だから、もし受けたくなければ別に断ってもいい」

卯月「……事務所的にメリットとデメリットは……どうなるんですか」

 その問いにもプロデューサーは答えにくそうに口籠った。

P「メリットは単純に収入。特にこのマッチングだとお客さんはいっぱい集まるだろうから。デメリットは……」

卯月「……私が負けたら、事務所の評判が落ちちゃうってこと……ですよね」

P「そう深刻にならなくてもいいよ。もし負けたとしてもそれだけでファンがみんなあちらに靡くわけじゃないんだし」

 プロデューサーはそう言ったが、卯月の脳裏には先日のニュースが過ぎっていた。
 もう既に世間の注目度はあちらが圧倒的に勝っている。そんな状態でライブバトルにも敗北したとなれば――

卯月(…………)

 暗い顔で考え込む卯月を見て、プロデューサーは言った。

P「やっぱり断ろうか」

卯月「えっ……、で、でも」

 妙なことに、胸は不安でいっぱいなのに、そう言われると拍子抜けしたような気持ちになった。


P「…………」

卯月「…………」

 そして、沈黙。
 卯月は俯いたままプロデューサーの顔を見ることができない。

P「余計なこと言ったかな」

卯月「そういう……わけじゃ」

P「…………」

卯月「…………」

 何だろう、この気持ちは。何か言わなければならないのに、それが思いつかない。
 何かを心の底から求めているのに、それが何かがわからない。

 卯月はおずおずと顔を上げてプロデューサーを見た。
 視線がぶつかる。疑わし気な眼差しが矢のようにすっと目に入ってくる。慌てて顔を伏せた。

P「卯月――」

 プロデューサーが言いかけたその時だった。

未央「プロデューサー!」

 部屋のドアが大きな音を立てて開かれたと思うと、勢いよく未央が入ってきた。


卯月「み、未央ちゃん?」

未央「あ、しまむー……た、大変だよ。これ見て」

 差し出されたスマートフォンの画面を二人で見る。
 男の顔写真が載っている記事。ミジープロダクション社長チェン・パーと書かれてあった。

P「『ミジープロダクション宣戦布告』……」

卯月「『346プロにライブバトルの申し込み』……?」

凛「プロデューサー、卯月! それちょうどテレビでやってる」

 凛もいつの間にか来ていてテレビをつけていた。

インタビュアー『ではチェンさん。武道館ライブまで果たしたガラオンさんですが、次のプロデュースはどのように?』

パー『そうですねえ、次は今までしてこなかったライブバトルをやろうと思っています』

インタビュアー『ライブバトルですか。ここだけの話、相手はどこにするかとか決めてます?』

パー『ハハハ。実は346プロダクションさんのシンデレラガールとお手合わせ願おうかと思っているんですよ』

P「……っ」

 プロデューサーは歯をぎりっと噛んだ。


インタビュアー『業界一の相手じゃないですか。その勝負に勝てば逆転できるという見込みで?』

パー『いえいえ、そんな大それたことは考えておりません。胸を借りるつもりで挑ませていただきます』

卯月「…………」

パー『もちろん通ればの話ですが。しかし良いライブになるでしょうし受けていただけると思っております』

インタビュアー『そうですねえ。そのマッチングとなると私共アイドルファンとしても注目の一戦となりそうです』

パー『はい。期待して待っていてください』

 それから映像はガラオンさんのライブの話題へと移り、凛はテレビを切った。
 しん、と部屋が静まり返る。誰も口にしなかったが、思いは同じだった。

 これで退路は塞がれた。申し込みを受けるしかなくなった。
 卯月とガラオンさんの注目度の高さからこの話は既にネットニュースでも出回っている。
 ここでライブバトルが破綻になれば、「346プロは逃げた」と思われても仕方がない。

 部屋の空気を感じ取ってか、未央がことさらに明るい声を出した。

未央「しまむー、これお客さんいっぱい入るよ! いいステージにしなきゃ!」

卯月「えっ? ――あっ、はいっ! がんばりますっ!」

 努めて明るい返事をしながらも卯月の胸には不安の芽が萌していた。

 あんな強烈なキャラクターをした新進気鋭のアイドルに果たして勝つことができるのだろうか。
 卯月は自分が他のアイドルと比べて没個性的であると思っていた。そんな自分が勝つにはどうしたらいいのだろう。

卯月(私の武器……私の良さって、いったい何だろう……?)


(3)


キュー「お疲れ、パーチェンコ」

パー「ああ」

 ここは都内某所にあるミジープロダクションの事務所。
 テナントビルのワンフロアだけと、今を時めく芸能事務所にしては寂しいものである。

パー「ガラオンさんは?」

キュー「番組の収録だよ。クーチェンコがついて行ってる。そろそろ戻ってくると思うけど」

パー「うむ。噂をすればだな」

 階段を上ってくる足音が響いてきた。
 入口のドアが開き、事務所唯一の所属アイドルと、付き添いの社員が帰ってきた。

クー「ただいま戻った」

キュー「お帰り。変わりはなかった?」

クー「ああ。万事良好だ」

ガラオンさん「おい、アイドル様のお帰りだぞォ!! さっさと菓子のひとつやふたつ用意しろやァ!!」

キュー「ひゃ、ひゃいぃっ!? い、今すぐっ!」

ガラオンさん「あっ……そんなに慌てなくてもいいですから……すみません、大声を出して……」

キュー「あ、そう……?」

ガラオンさん「んなわけねェだろさっさと働きやがれェェ!!」

キュー「ひゃいぃっ!!」


ガラオンさん「それにしても、今日もファンの皆さんが喜んでくれたみたいで良かった♪」

キュー「ガラオンさんちゃんのパフォーマンスは凄いもんね~」

ガラオンさん「てめえ何が『さんちゃん』だもう一遍言ってみろゴルァァァ!!!」

キュー「ひぃぃっ!!」

クー「キューチェンコ、わざわざリアクションを取らなくても構わん……」

パー「しかし、どうも『怒』の頻度が高くなっている気がするな。そろそろ電池切れか?」

クー「だろうな。今日も働き詰めだったから」

ガラオンさん「てめえらものんきにくつろいでねえで動きやがれボケェ!!」

ガラオンさん「……はあ、私としたことが取り乱してしまったわ……ごめんなさいね」

ガラオンさん「ああああ!!! そうじゃねえだろ何勝手なこと口走ってんだァァァ!!!」

ガラオンさん「でも、これでみんなが満足してくれるんなら、私はそれでいいかな☆」

ガラオンさん「おいてめえらァ!! さっさと万全な状態に戻しやがれェェ!!」

パー「クーチェンコ」

クー「御意」

 クーチェンコがガラオンさんの後ろに回り、背中を何やら弄り始めた。
 すると彼女は突然瞼を下ろし、がくりとうなだれた。クーチェンコが弄っていた背中の一部分が開かれていた。
 その内部にはボタンやスイッチ、コードやメーターなどの機械が詰まっていた。


クー「これでよしと」

 気を失ったようになっているガラオンさんを壁際まで連れて行き、背中から伸ばしたコードをコンセントに差す。
 内部の計器が反応していることを確認し、クーチェンコはソファに戻った。

クー「今日のニュース見たぞ、兄者」

パー「うむ。これで346プロはこちらの申し出を受けるしかあるまい」

キュー「ライブバトルは初めてだけどどうするの?」

パー「要領は同じだ。あらかじめ観客の一部を買収して票数を操作する。そうすれば確実に勝てる」

クー「今までもテレビ局や雑誌記者へ裏金を渡していただろう。あれと同じだ」

キュー「成程ねえ。そういえば前のNews12は見物だったよねえ。あっちのPVの話題を全部潰しちゃったんだもん」

パー「流石に全ての局に金を渡すことはできなかったがな――」

 パーチェンコがそう言った時だった。

クー「何奴!」

 クーチェンコが鋭く言い放ち、ドアにペーパーナイフを投げつけた。
 ドアにぶつかり、ゴンッという低い音が鳴る。部屋中に響き、壁が震動する。

パー「…………」

キュー「…………」

 二人が息を呑む。クーチェンコも黙ってドアを睨んでいた。


「ニャー」

クー「む……?」

キュー「なぁんだ、猫か」

パー「全く、おどかせよって」

クー「すまぬ。曲者がドアの向こうにいるように思えてな」

 歓談に戻る三人。一方、事務所の外では――

男(……なるほど、そういうことか)

 男の影が動いていたことに、三人は気付いていなかった。


パー「しかしそういう金を惜しみなく出せるのも全てガラオンさんが稼いでくれるおかげだ」

キュー「だよねえ。侵略の為に地球に来たのに資金不足で何もできないなんて僕らちょっとバカだったよねえ」

クー「なけなしの軍資金しか制作費につぎ込めなかったが、最高のアンドロイドだ。彼女は」

 三人は目を細めて、ぐったりと寝ているガラオンさん向けて手を合わせた。

パー「……さて。今日も本来の仕事の始まりだ」

クー「ああ」

キュー「頑張ろっか!」

 部屋を出て階下に降りる。階段の裏に地下室へのマンホールがあった。三人はそれに潜り込む。
 内部はコンクリートで塗り固められた広大な空洞になっていた。照明をつけると――

パー「今日は頭部を完成させるぞ!」

クー「おう!」

キュー「うん!」

 壁際に組まれた鉄骨。その内部に置かれたロボットの頭部。
 ミジープロダクションの地下には侵略ロボットの工場が広がっていた。


(4)


麗「……よし、ストップ!」

 トレーナーの青木麗の一声に五人のアイドルは動きを止めた。

麗「森久保と島村の動きが少し固かったが……まあいいだろう。合格だ」

 ほっと、皆揃って胸をなでおろした。

麗「今日はこれで終わり。ステージまで気を抜かないように」

   *

美優「……卯月ちゃん、乃々ちゃん」

 更衣室で着替えている最中、美優は卯月と乃々に声を掛けた。

乃々「な……なんでしょう……」

美優「この後、時間空いてるかしら」

卯月「はい。私は……」

乃々「もりくぼも空いてますけど……」

美優「なら、お茶でもしない?」

 後ろで顔を見合わせていた楓と芳乃に目配せをする。
 二人は頷いて、先に部屋を後にした。


   *

卯月「わあ~……ここが美優さんの部署ですか」

乃々「すごく整頓されてますし……」

美優「ふふっ。いらっしゃい」

 卯月と乃々は美優が所属する部署の部屋に来ていた。
 余計なものがなく、整理整頓が行き届き、キャビネットの中にもファイルが色分けされて並べられている。

美優「うちはしっかりした子が多いから……自然と綺麗になっちゃうわね」

卯月「へえ~……すごいです! うちも見習わなきゃ……」

 部屋を見回していた卯月は、ふと気づいて目を止めた。

乃々「卯月さん……?」

卯月「……ブルーローズアプローズ……」

 壁から突き出た飾り棚に置かれていたガラスの花瓶。
 それに生けられていた花は、薄紫のバラ――ブルーローズアプローズだった。

美優「二人とも。お茶の準備ができたから、どうぞ座って」

 いつの間にかテーブルの上には紅茶とお菓子が並べられていた。


美優「『Take me☆Take you』のメンバーでこの三人だけ揃うのは……初めてだったかしら」

卯月「そうですね。美優さんは大人ですから、楓さんや心さんと一緒の方が多かったと思います」

乃々「あと……何故か菜々さんともよくお話されてたような……」

卯月「そうですね。ひとりだけ……どうしてでしょう?」

美優「菜々ちゃんは、シャイニーナンバーズのラジオでお世話になって……その縁で」

卯月「ああー、そうでしたね! あの回の美優さん、とっても可愛かったです!」

 手をぽんと叩いて卯月が笑うと、美優の顔は一瞬で真っ赤に染まった。

卯月「特にトラの鳴き声の真似してるところが本当に可愛くて~」

美優「う、卯月ちゃん……もういいから……」

卯月「? そうですか……?」

 美優はこほんと咳払いして言った。

美優「ラジオと言えば……乃々ちゃんも可愛かったわね……」

乃々「ひぃっ!?」

 ソファの端でじっと沈黙を守っていた乃々が飛び上がった。

卯月「そうでしたね。凛ちゃんもそう言ってました」

乃々「うぅぅ……」

 乃々もまた赤くなってうつむいた。


乃々「もりくぼはお二人みたいにかわいくなんてないですしぃ……」

美優「そんなことないと思うけれど……」

乃々「ありますあります全然あります……。どうしてこんな場所にいるのかもよくわかってないですし……」

卯月「乃々ちゃんはとっても可愛いですよ。自信持ってください!」

乃々「う、卯月さん……ま、真っ直ぐすぎますしぃー……」

美優「ふふっ。凛ちゃんもそうだったけど……守ってあげたくなるんじゃないかしら」

乃々「どういうことですかぁ~……」

卯月「頭撫でてあげたくなりますよね。えへへ」

乃々「うぅぅぅぅ……」

 何も言えなくなってしまった乃々の頭を撫でながら、卯月はふっと考えた。

卯月(乃々ちゃんや美優さんの良さは分かるのに……)

 自分のことは少しも分からないのは、何故なのだろう。
 卯月はライブバトルの申し込みを受けてからずっと考え続けていた。自分の良さとは一体何なのかと。


 努力してきた自負はある。それでも周りだって同じ、もしくはそれ以上の努力をしている。
 だから歌もダンスも上手にはなったけれど、一番だという自信は当然ながらない。それでも――

 ――それでも、みんなは私を選んでくれた。

 卯月がシンデレラガールになれたのは単純に彼女が一番だと思ったファンが一番多かったからだ。
 ならば、そう思った理由が知りたかった。それがライブバトルに勝つ鍵になるかもしれないから。

乃々「……? 卯月さん……?」

 乃々がおずおずと顔を上げた。考え込んでいる内に手が止まっていたらしい。
 慌ててテーブルに向き直り、平静を装ってティーカップを持ち上げた。

美優「…………」

 美優はそんな卯月の様子を、気遣わし気に見ていた。

   *

麗「おい、島村。何してる?」

 午後五時半。部屋が夕焼けのオレンジ色に染まっている時分。
 レッスンルームで卯月がひとり踊っているのを見かけて麗は中に入った。

卯月「あ、トレーナーさん。自主練です。ライブバトルがもう間近なので……」

麗「……そうか。よし、もう一度初めから」

卯月「えっ?」

麗「特別レッスンをしてやると言ってるんだ。さあ、あまり時間はないぞ!」

卯月「は、はいっ!」

 音楽を最初からにして再び踊り出す。麗の指示が飛ぶ。
 たまたまレッスンルームの前を通りかかった美優はそれに気付き、部屋をじっと覗き込んでいた。

美優「…………」


   *

 日も落ちた帰り道。美優は歩きながら卯月のことを考えていた。

美優(大丈夫かしら……)

 かつて自分も体調を顧みずにレッスンし、倒れてしまったことがあった。
 彼女もそうならなければいいが……そんなことを思っていると、

美優(…………)

 何かが聞こえた気がして、ぴたりと足を止めた。
 周りには誰もいない。暗い歩道とぼんやりとした街灯。そんな静かな街に、ハーモニカのような音楽が流れていた。

美優(この、曲……)

 徐々に近くなってくる。前の角から背の高い影が現れる。
 こちらを向き、歩いてくる。街灯の光だまりの中に入ると、その姿が照らし出された。

美優「貴方は……」

男「……久しぶり」

 ――あの事件の日に出会った男だった。

男「元気そうで何よりだ」

美優「……もしかして、あの花束も……」

 先日、プロデューサーが事務所に持ってきたブルーローズの花束。
 訊けば事務所の前に置いてあったのを見つけたのだという。メッセージカードもあったらしいが、その内容は教えてもらえなかった。


男「ああ。……本当はもうあんたたちの前に姿を見せる気はなかったんだが」

 どこか別のところを向いて喋っていた男は、言葉を切ると美優に向き合った。

男「予定が変わった」

美優「何か、あったんですか……?」

男「あんたのところのアイドルが今度ライブバトル? ってやつをするらしいな」

美優「卯月ちゃんですか? はい。そういう話はありますけど……」

男「その対戦相手は宇宙人が作ったアンドロイドだ」

 突然飛び出してきた言葉に美優はぽかんと口を開いた。そんな様子に男は苦笑を浮かべる。

男「おいおい、別に冗談を言ってるわけじゃないぜ」

美優「は……はい。でも、宇宙人……アンドロイドなんて……」

男「信じる信じないは勝手だが、これだけは確かなことがある。奴らは次のライブで不正をするつもりだ」

 美優はハッと息を呑んだ。

男「だがライブバトルが話題になっている以上、俺が乗り込んで問い質すわけにもいかない。あんたのところに迷惑をかけるかもしれないからな」

美優「……そう……ですね」


男「どうする」

美優「まずは……卯月ちゃんのプロデューサーさんに相談したいと思います」

男「わかった。――それだけだ。あばよ」

 と言って背を向ける男。美優は声をかけようとして躊躇った。そういえば名前を知らない。
 ああ、でも確か――。あの日の記憶の中で確かに言っていた名前が――

美優「――ウルトラマンオーブさん!」

 そう叫ぶと同時に、男は大袈裟にも見えるくらい派手に転んだ。

美優「だ、大丈夫ですか……?」

男「………………い、いったい何のこと……だ……? ハハ……」

 駆け寄ると、男はとてもぎこちない笑みを浮かべた。
 隠していても仕方ないと思い、事情を話す。彼が「ウルトラマンオーブ」と名乗り、変身したところを見たのだと。

男「ああ……そういうことだったのか。だけど、あまり大きな声では言わないでくれ……」

美優「は……はい。すみません……」

男「いや、いいんだけど……で、何?」

美優「頼みたいことがあるんです。貴方に」


(5)


 机の上の置時計の夜光針は午後九時を指してぼんやり光っていた。
 電気もつけていない部屋の中は暗く沈み、窓に貼りつく街灯の明かりが、まるで深海から見た水面のように見える。

 ベッドに寝転んでいる卯月は音楽プレーヤーで自分の歌を聴いていた。
 デビュー曲である「S(mile)ING!」。今と比べると歌が上手でなく、少し恥ずかしい気分にもなる。

卯月「愛をこめて、ずっと、歌うよ――」

 自分の声に重ねて、微かな声で歌った。
 曲が終わると電源を落とし、耳からイヤホンを抜いた。

 この曲を収録した当時の決意は揺らいではいない。
 歌詞にあるように、皆に笑顔を届けられるように、ずっと歌い続ける。それは変わらない。

卯月(だけど……)

 シンデレラガールとして、事務所を背負うアイドルとして、そのままでいいのだろうか。
 自分自身だけなら問題はない。だが、相手を打ち負かす目的としては、それはあまりにも弱い。

 今まで卯月にとって他のアイドルは「目標」だった。戦うべきは自分自身とであって、他人ではなかった。
 だけど彼女は今シンデレラガールになってしまった。他人を目標とするのではなく、他人の目標とならなくてはいけない存在となってしまった。

卯月(…………)

 そんな私が、今までと同じようにして、果たして勝てるのか。
 不安と焦燥がじりじりと胸を焼いて、居ても立っても居られない気持ちになる。
 今すぐにでも事務所に行ってレッスンしなければという気分にさせられる。


卯月(私は…………)

 どうすればいいのだろう、どうすべきなのだろう。
 そう思った時、スマホのバイブ音がした。見てみると、美優からのメールだった。

卯月(美優さん?)

 メールを開いて文面に目を通してみて、卯月は仰天した。

   *

卯月「……」

 家の近くの公園。この時間にもなると子供の影もなく、ひっそりとしている。
 その中に二人の人影があった。メールで卯月を呼び出した美優と、焦げ茶のジャケットを羽織った長身の男がひとり。

美優「卯月ちゃん。ごめんなさい、こんな夜中に呼び出して」

卯月「い、いえ……」

 卯月の目は男に釘付けだった。それもそのはず、美優からのメールにはこう書いてあったのだ。

『今から会ってほしい人がいるの。
 説明が難しいのだけど、彼はウルトラマンオーブなの。
 これは内緒にしてほしいって言われているから本人には言わないでね。』

美優「ガイさん。彼女が卯月ちゃんです」

 ガイと呼ばれた男が振り向く。卯月と視線が合うと、両者「あれっ」と声を上げた。

美優「どうしたんですか?」

卯月「あの……この前凛ちゃんのお花屋さんにいた……」

 先日、凛の家の花屋の店先でぶつかってしまった男だった。


ガイ「お前さんだったのか」

美優「……知り合いだったんですか?」

ガイ「いや、道端で会ったことがあるだけさ」

卯月「それで美優さん、どうして……?」

 話を向けられた美優は言葉を詰まらせていたが、意を決したように卯月の目を見た。

美優「……卯月ちゃん。最近、何か困ってない?」

卯月「……」

 卯月は我知らず目を逸らしていた。

美優「私たちにも相談できないことなら……その、他の人に頼ってみるのもいいと思って」

卯月「……ありがとうございます」

 卯月はぺこりと頭を下げた。頷いた美優は、ガイに目配せして公園から出ていった。

ガイ「…………」

卯月「…………」

ガイ「……とりあえず、座るか」

卯月「は、はい」

 ベンチに並んで座る。卯月はガイを横目でちらちらと見た。
 この人があのウルトラマンオーブの正体。色々聞きたいことや知りたいことはあるが、それは措いて……。
 普通の人でないなら、話を聞いてもらうのもいいかもしれない。


ガイ「……で、お前さんは何に悩んでるんだ?」

卯月「…………」

 迷いながらも卯月は語り出した。
 シンデレラガールという誰にも頼れない立場であること。事務所を背負って戦わねばならないこと。
 そして、今までの自分と同じではその相手を倒せないと思うことを。

ガイ「…………」

 じっと耳を傾けていたガイは、何だか気まずそうに頬を掻いた。

ガイ「……俺はお前さんのことを全く知らないから、無責任に聞こえるかもしれないが」

 卯月は頷いて先を促した。

ガイ「自分を信じることが大切だと思う」

卯月「…………」

ガイ「シンデレラガールになったんだろ? なら今までのやり方でも十分良いパフォーマンスはできるんじゃないか?」

 卯月は首を振って、弱々しく答えた。

卯月「私は他のみんなと違って武器になるものがなくて……」

 自信の根拠となる力がない。それが深刻な問題だった。

卯月「だから自信と言われても、それがわからないんです……」


 するとガイは、こう言った。

ガイ「だったら、自分を信じてくれる奴らの声に耳を傾けてみたらどうだ?」

卯月「え……?」

ガイ「きっと、みんなお前さんのことを信じてるよ。その声を聞けば、勇気が貰えるはずさ」

卯月「…………」

 みんなに、訊く。
 本当にそれでいいのだろうか。本当にそれで自分の武器が見つかるのだろうか。

ガイ「……もう遅いから、帰んな」

 卯月の肩をぽんと叩いて、ガイは腰を上げた。

卯月「あ、あのっ」

ガイ「どうした?」

卯月「ガイさんも……そういう経験あるんですか……?」

 それを聞いたガイは振り向いて、微かな笑みをこぼした。

ガイ「ああ。そいつがくれた勇気がなかったら、今の俺はここにはいない」

 その笑みは爽やかで、それでいてどこか切なげに見えた。


   *

美穂「あっ、卯月ちゃん」

響子「おはようございますっ」

 翌朝、事務所に来た卯月は通路で美穂と響子に会った。

卯月「おはよう。今日は二人でお仕事?」

 美穂と響子は卯月を加えた三人で【ピンクチェックスクール】というユニットになる。
 この二人だけの仕事というのは珍しいな、と思っていると、意に反して二人は首を横に振った。

美穂「今から卯月ちゃんところの部署に行こうかなって思ってて」

卯月「? 何か御用が?」

響子「ライブバトル、いよいよ明後日だねって二人で話してたので」

卯月「あぁ……」

 何故かしら急所を突かれたような気持ちになって、卯月はどぎまぎした。

美穂「頑張ってね。私たちも会場で応援するから!」

響子「楽しみにしてますっ」

卯月「う、うん……」

美穂「じゃあ、そろそろ行くね」

卯月「あ、あのっ!」

 背を向けかけた二人は卯月を振り返った。

卯月「…………ありがとうございます。頑張りますね!」

 二人は笑顔で頷いて、手を振って別れた。

卯月「…………」

 二人の姿が見えなくなると、卯月は小さく溜め息を吐いた。


   *

卯月「おはようございまーす……」

凛「おはよう、卯月」

未央「しまむー、おはよ!」

 部屋に行くと、凛と未央が先にソファに座っていた。

卯月「……」

 ドアの近くで突っ立っている卯月に二人が首を傾げる。

未央「しまむー、どうしたの?」

卯月「えっ?」

凛「体調でも悪いんじゃない? 最近自主練頑張ってるって聞いたけど、無理しちゃ駄目だよ」

卯月「いえ……そういうわけじゃないんですけど……」

 口籠る卯月だったが、思い直して顔を上げた。さっきと同じことを繰り返してはいけない。

卯月「あ、あの。二人とも、訊いていいですか?」

凛「何?」

卯月「私って、どうしてシンデレラガールになれたんでしょう……?」

 凛と未央は顔を見合わせた。


凛「どうしてって……卯月が人気だったからじゃないの」

卯月「……どうして、私に票を入れてくれたんでしょう……?」

未央「そりゃあ、ほらっ」

 未央が立ち上がって卯月の両頬をつまんで引っ張った。

卯月「ふぃおひゃん?」

未央「笑顔が可愛いからに決まってんじゃん♪ もっと自信持ちなって」

卯月「笑顔……ですか」

凛「卯月」

 凛も立って、卯月のそばに寄った。

凛「心配しないで。いつも通りの笑顔で、ちゃんと歌えばお客さんは応えてくれるから」

未央「そうそう。せっかくの大ステージなんだから、楽しまなきゃ損だよ?」

卯月「……そうですね。私、頑張ります!」


未央「そういえば、プロデューサー遅いね」

 三人でソファに戻ると、未央が思い出したように言った。

卯月「まだ来てないんですか?」

凛「ここに来るときに見たよ。美優さんと話してたけど」

卯月「美優さんと?」

凛「うん。何か内緒話みたいな感じで。それから二人でどこか行っちゃって」

未央「ま、まさかスキャンダルの予感!?」

凛「そんなわけないでしょ」

未央「だよねー。あのプロデューサーに限ってねえ……」

 それからプロデューサーのことを言い合う二人だったが、卯月は別のことを考えていた。

卯月(美優さん……もしかして私のこと言ったりしたのかな)

 昨夜の言動を見るに美優は卯月のことを気遣っている。卯月の様子がおかしいと思っている。
 そのことをプロデューサーに言ったのではないか。そう思うと、背筋に冷や汗が落ちるのを感じた。

卯月(だめ……)

 何が駄目なのか分からない。でも――

凛「あ、プロデューサー」

未央「噂をすればってやつ?」

 ドアが開く音がしたと思うと、卯月は荷物を持って部屋を飛び出していた。
 背中に視線が突き刺さるのを感じながら通路を走った。更衣室に入り、荒れた息を整えていると、自然と涙がこぼれた。


 それから卯月は本番の日まで、事務所に来なかった。


   *

 二日後。都内の某公園内にある野外ステージ。
 既に観客席には人がびっしりと埋まっている。

キュー「観客たくさん入ったね。今回の収入も期待できそう♪」

パー「うむ」

クー「パーチェンコよ、買収したのは観客の何割だ?」

パー「3000人中600人。二割だ」

キュー「えー、それだけで大丈夫?」

クー「二割もあれば心配はあるまい。346プロのアイドルが勝つには残り2400人中1500人以上の票が必要となる」

パー「対してこちらは900人以上の票が集まれば勝ちだ。どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだ」

キュー「なるほど」

クー「さて……ガラオンさんよ。準備はいいか?」

ガラオンさん「大丈夫、行けます!」

パー「よし、今日も観客のハートを鷲掴みにするのだ!」

ガラオンさん「たりめーなことぬかしてんじゃァねェぞ!! 誰に向かって口利いてやがる!!」

キュー「さあ頑張って!」

ガラオンさん「はい……皆さんの心に響くような力強い歌声を……!!」


 ガラオンさんの歌声がステージ上で響く中、卯月は控え室の椅子に座ってそれを聞いていた。

卯月(上手いなあ……)

 そういえば彼女の歌声をきちんと聞いたことがなかった。
 倒すべき相手なのに、下調べも全くしていなかった。自分のことで手一杯だった。

卯月(……そうじゃない……か)

 倒すべき相手。そんな目でしか彼女を見ていなかったから。だから彼女の声を聞こうとさえ思わなかったのだ。
 今までなら目標の一人として、喜んで聞いて、何かを感じ取ろうとしたはずなのに。

卯月(私は……)

 いったい、何をしてきたのだろう。
 ひとりだけで頑張ろうとして、ひとりだけ空回りして、結局ひとりだけ置いていかれて。

卯月(ひとりぼっち……)

 シンデレラガールは独りなのだと思い込んでいた。
 でも違う。そう思い込んでいた自分が勝手にひとりきりになっていただけだったのだ。

卯月「……っ」

 唇を噛みたい思いだった。もう手遅れだ。こんな状態で、勝てるわけがない――

P「……卯月」

卯月「!」

 卯月は弾かれたように顔を上げた。そばにプロデューサーが立っていた。


P「…………」

卯月「…………」

 気まずそうに、卯月は顔をうつむけた。合わせる顔がなかった。
 この勝負に負けは事務所の負けを意味する。それなのに。

卯月(それなのに、私は……)

 目を強く瞑って奥から押し寄せてくる激情に耐えようとする。
 壊れてしまいそうな勢いを、身体をこわばらせて圧しとどめる。それでも溢れ出して、身体が小刻みに震えた。

P「卯月」

卯月(だめ……)

 ――名前を呼ばないで。

P「最近、話す時間がとれなくてごめん」

 ――そんなことを言わないで。

P「……卯月?」

卯月「っ、……っ」

 膝に置いた手の甲にぽたぽたと雫が落ちた。
 もう抑えが効かなくなる。肩が震え出す。嗚咽が止まらなくなる。涙が、とめどなく頬を伝った。


卯月「ごめんなさい……」

卯月「私、負けちゃいます……」

卯月「大事な……ライブバトルなのに……」

 十分に回らない呂律で、卯月は衝動に任せるままに口を動かした。
 シンデレラガールになってから抱いてきた不安。ライブバトルが決まってからの不安。

卯月「プロデューサーさんに、認めてもらいたくて……」

卯月「でも、プロデューサーさんに、迷惑、かけたくなくて……」

卯月「もう、私、わからない……わかりません……」

P「…………」

卯月「ごめんなさい、勝てません……私……」

P「……卯月」

 ハンカチを渡して、涙を拭わせる。落ち着いてきたのを見て、彼は卯月の手を取った。

P「立って」

卯月「……?」


 立ち上がった卯月はおもむろに顔を上げた。
 目が合う。互いの視線が互いの瞳の中に、まるで流れ星のように飛び込む。

P「謝るのは俺の方だ。心配かけさせてごめん」

 卯月はぶるぶると首を振った。

P「卯月。大丈夫だから」

卯月「…………」

P「……みんな、君のことを信じてる。だから大丈夫」

卯月「どうして……」

P「え?」

卯月「どうして……? どうして、信じられるんですか……?」

P「そんなこと……」

 プロデューサーは、困ったように笑んだ。

P「ずっと、信じてきたから」

卯月「ずっと……?」

P「うん」

 プロデューサーが頷くと、控え室の外から声が聞こえた。


スタッフ「すみません! 出番ですのでスタンバイお願いします!」

P「はい、ただ今!」

 卯月に向き直ったプロデューサーは、力強く言った。

P「曲は『S(mile)ING!』」

卯月「……はい」

P「わかる?」

卯月「……はい」

 卯月も力強く頷いた。潤んだ瞳がきらりと光った。

P「行っておいで」

卯月「はい。……行ってきます!」

『だったら、自分を信じてくれる奴らの声に耳を傾けてみたらどうだ?』

『きっと、みんなお前さんのことを信じてるよ。その声を聞けば、勇気が貰えるはずさ』

 ガイの言葉が脳裏に蘇る。
 プロデューサーは言ってくれた。ずっと信じてきたから、今も信じていると。

 曲は『S(mile)ING!』。あの頃の、変わらない気持ちを込めて――


卯月「皆さん、お待たせしました!」

 ステージに飛び出した卯月は声を張り上げる。
 見渡す限りに広がる観客たち。赤、青、様々な色に光るサイリウムの群れはまるで花畑。
 その中に、卯月は仲間たちの顔を見つけた。

『頑張ってね。私たちも会場で応援するから!』

『楽しみにしてますっ』

『笑顔が可愛いからに決まってんじゃん♪ もっと自信持ちなって』

『いつも通りの笑顔で、ちゃんと歌えばお客さんは応えてくれるから』

 そうだ。みんな、自分のことを信じてくれた。
 彼女たちだけじゃない。待ってくれたファンのみんなも。

 輝くステージの上、スポットライトの光を瞳の奥に乱反射させながら、卯月は言った。


卯月「346プロダクション――シンデレラガールの、島村卯月です!」


 みんなからもらった勇気で、歌い遂げて、みんなを笑顔に。
 曲のイントロが流れ出す。ステップを踏みながら、卯月は叫んだ。

卯月「――聴いてください! 『S(mile)ING!』!」


(6)


MC『では結果発表です! 集計開始ー!!』

 ライブバトルが終わり、ステージのスクリーンに二つの棒グラフが現れる。
 観客たちはスマホから指定のアドレスに飛んで投票し、リアルタイムで集計が開始される。

MC『勝者はー!?』

 ステージ上を駆け回っていたスポットライトが消え、真っ暗になる。
 次の瞬間、その光が降り注がれた。その下にいたのは――

MC『346プロ所属、島村卯月だーー!!』

卯月「……!」


パー「な……バカな!」

クー「信じられん……」

キュー「そんな! まさかあいつら裏切ったんじゃ……」

P「違いますよ」

三人「「「!」」」

 三人が振り返ると、卯月のプロデューサーと美優、そしてガイが立っていた。


P「その目で確認してみてください。観客の数を」

パー「何……?」

クー「……む! 合計が」

 クーチェンコがいち早く気付く。
 スクリーンに表示されている投票数、その総数が観客数の3000より多かったのだ。

P「ここは野外ステージです。実は近くにいてアドレスを知っていれば投票は誰でもできる」

キュー「まさか、君たちも不正を!」

 その言葉に、プロデューサーは首を横に振った。
 パーチェンコが気付いて声を上げる。

パー「そうか……立ち見の奴らが……!」

P「はい。野外ステージの場合は正規の観客数に加えて偶然立ち寄った人たちも投票に参加します」

パー「……成程、分母が大きくなったことで不正による干渉度が小さくなったということか……」

P「もちろん、それだけじゃない。卯月の歌がみんなを引き寄せたからです」

美優「そして、貴方たちの不正の証拠も集めさせてもらいました」

 美優が紙束を突き出して示す。ミジープロの三人はたじろいだ。


パー「そ、それをどうする気だ」

P「……公表はしません。もしそうしたら、あなたたちのアイドルやそのファンに影響が出るでしょう」

クー「それを信じろと言うのか」

P「もちろん、これ以上不正をしないという約束をしていただけるなら、ですが」

キュー「パ、パーチェンコ……どうしよう……」

パー「……やむを得まい」

 パーチェンコはクーチェンコに目配せした。
 それを察知してガイが叫ぶ。

ガイ「待て! 妙な真似はするな!」

P「えっ?」

クー「もう遅い」

 クーチェンコが取り出したコントローラー。
 そのボタンを押すと、三人は身を翻してステージ上に躍り出た。


パー「どけ!」

卯月「きゃっ……!?」

P「卯月!」

 卯月を押しのけ駆ける三人。振り向いたガラオンさんの腕に掴まる。
 すると彼女の足元から炎が噴き出てきた。ジェット噴射の要領で三人の身体を担ぎながら空を飛んでいく。

 ざわめく観衆。その視線の先には――

ガイ「!」

 人面のような形のロボットが、空中に浮かんでいた。


パー「コアユニット、セット!」

 ロボットに入り込んだ三人はそれぞれ操縦席についていた。
 パーチェンコがスイッチを押すと、中央にいたガラオンさんが床の中に取り込まれる。
 ミジー星人が作り出したアンドロイド・ガラオンさんの正体は、侵略ロボットのコアユニットだったのだ。

クー「コンディション、グリーン!」

キュー「立ち上がれ! 我がミジー星の叡智の結晶!」

三人「「「起動せよ! “三面ロボ頭獣”ガラオン!!」」」


 ロボットの吊り上がった鋭い眼から赤いビームが放たれた。
 会場近くに着弾し、観客たちが悲鳴を上げながら逃げ出す。

P「卯月、大丈夫か」

卯月「は、はい……」

 ステージで倒れている卯月の手を取って立たせるプロデューサー。
 美優は胸を撫で下ろして、隣を見た。

美優「…………」

 いつの間にか、ガイの姿は消えていた。


クー「まだ頭部しか出来上がっていないが、やるしかあるまい……」

キュー「幸い無事に動いてるよ。いけるいける!」

パー「よし。まずはあの忌々しい会場をぶち壊してやるぞ!」

 ガラオンが高度を下げ、公園に降り立つ。
 頭部の下から突き出た短い足を動かしながら、ステージに向かって歩いて行く。


ガイ「これ以上好き勝手させてたまるか!」

 逃げ惑う群衆から離れていたガイは、オーブリングを身体の前に翳した。


ガイ『――タロウさん!』

『ウルトラマンタロウ!』

ガイ『メビウスさん!』

『ウルトラマンメビウス!』

ガイ『――熱いやつ、頼みますっ!!』

 オーブリングを掲げると、それぞれ半分に灯っていた赤と白の光が混ざり合った。
 金色の光と化して満ち、淡い光でガイの全身を包んでいき、そして――

『フュージョンアップ!』

『ウルトラマンオーブ バーンマイト!』


キュー「食らえっ!」

 目から放たれるビームがステージ向けて真っ直ぐに駆け走る。
 その上にいた卯月とプロデューサーは思わず顔を背けたが――

卯月「……?」

 薄く開いた瞼の間から薄靄のような柔らかな光が射し込んできた。
 会場を守るようにして人型の光が佇んでいた。爪先から頭頂に向けて光のリングが昇り、それと共に彼を包んでいた薄靄が弾ける。

卯月「……ウルトラマンオーブ……」

 そこにいたのは、頭に二本の角を生やした赤い巨人だった。


オーブ『――紅に、燃えるぜ!!』

パー「現れたか……ウルトラマンオーブ!」

クー「邪魔をするのなら、倒すのみ!」

キュー「行けー!!」

ガラオン「――――」

 ガラオンのこめかみから二本のアームが飛び出した。
 その場で助走をつけ、走り出す。その勢いに公園の木々が薙ぎ倒される。

オーブ「ハァァ――」

 オーブは片膝を突いて腕を構え、それを迎え撃つ。

オーブ「――ドリャアアアッ!!!」

 ガラオンがすぐ目の前まで迫った瞬間、思いっきり殴りつけた。よたよたとガラオンが後退する。

オーブ「セアッ!」

 勇ましい掛け声を上げてガラオンの顔面を蹴り飛ばす。
 更に後ずさったところに続けて回し蹴りを繰り出す。


クー「小癪な!」

ガラオン「――」

オーブ「!」

 回し蹴りを食らって回転したガラオン。攻撃していた顔面の隣もまた別の表情の顔になっていた。
 見るからにげっそりとした顔。その目から青いビームが放たれた。

オーブ「グアッ……!」

 思わぬ奇襲に倒れるオーブ。
 それを踏みつけようとガラオンが歩を進めるが、

オーブ「テアッ!!」

 右手で身体を支えながら左足で蹴り飛ばした。

クー「くっ!」

パー「ならばこれだ!」

 ガラオンがもう一度回る。次の顔は目と口が弧の形となっているにやけ顔だ。
 その口から黄色いガスが噴き出される。笑気ガスでオーブを怯ませようとする作戦だった。

オーブ「サアッ!!」

 しかしオーブはジャンプしてそれを躱していた。空中で身体を捻り、勢いのままにスワローキックを見舞う。

パー「ぐ、ぐううっ……!」


オーブ「デリャッ!」

 倒れたガラオンの足をオーブが掴み、持ち上げる。

オーブ「ハアアアアアアア――――ドリャァァッ!!」

 そしてそのままジャイアントスイングし、投げ捨てた。
 ガラオンの内部のミジー星人たちはグロッキーになりながらよろよろと立ち上がる。

キュー「目、目がぁ……目が回るぅぅ……」

クー「キューチェンコ、今は耐える時……うぷっ」

パー「ま、まだだ……まだ……」

 操縦桿に手を伸ばす。
 しかしその時、信じられないことが起こった。勝手にガラオンが動き始めたのだ。

パー「な、何が!? 故障か!?」

クー「……ハッ、まさか!」

キュー「ガラオンさんの充電が残り少ない!」

 エネルギー不足によるガラオンさんの暴走が、ガラオンにも影響を与えていたのだった。


ガラオン「――、――、――」

オーブ「……!?」

 突然ガラオンが高速回転し出したことにオーブはたじろいでいた。
 しかも途中からビームを放ち始めた。周囲に赤・青・黄の光線が撒き散らされる。

オーブ「グッ、グアッ……!」

パー「お、いいぞ! オーブを押してるぞ!」

キュー「よーし! そのままいっけー!!」

オーブ「ジュアァッ……!!」

 怒涛の勢いで放ち続けられる光線によってオーブはガラオンに近づけない。
 むしろ後ずさりを余儀なくされる一方。身体の前に張ったバリアも限界が来ている。

卯月「……っ!!」

P「お、おい! 卯月!」

卯月「ウルトラマンオーブさん!」

 オーブが首だけ振り返ると、卯月がステージから飛び降り、観客席まで走り寄ってきた。

卯月「私も……私も、あなたを信じてます!」

 ――私を救う言葉を授けてくれたあなたを。
 恐怖を何とか押しとどめて、卯月は彼に向かって頷いた。


オーブ「……!」

 オーブも頷きを返す。瞬間、バリアが高い音を立てて割れた。
 光線の乱射がオーブに襲い掛かる。爆発とその煙で彼の姿が見えなくなる。

卯月「……」

 手を組み合わせてそれを見ていた卯月は、やがて煙の中に浮かぶ光に気付いた。

卯月「!」

オーブ「オォォォォ……!!」

 オーブが爆煙の中から飛び出した。その全身には炎のようなエネルギーが。
 放たれる光線が次々と襲い掛かる。しかし全く怯むことなく、オーブは突き進む。

オーブ「ハアッ!」

 全身の炎が右の拳に集約される。その右ストレートを回転するガラオンに叩きつけた。

オーブ「――ドリャアアアアアアッッ!!!」

ガラオン「――、――」

三人「「「うぎゃああああああ!?!?!?」」」

 殴り飛ばされたガラオンは物凄い勢いで吹っ飛ばされ、ごろごろと転がった。

キュー「『怒』の顔面が破壊されたぁ!!」

クー・パー「「何ィィ!?」」


 肩で息をするオーブのカラータイマーが点滅し出す。
 同時に、彼の額のランプが強い光を放った。

オーブ「……シュアッ!」


 ガイが一枚のカードを取り出し、オーブリングにリードする。

『覚醒せよ、オーブオリジン!』

ガイ『オーブカリバー!』

 召喚されたオーブカリバーを手に取り、カリバーホイールを回す。
 火・水・土・風、四つのエレメントの紋章が剣に浮かび上がり、オーブの身体に集約される。

オーブ「――テヤッ!」

 蒼い光が弾け、オーブの姿が生まれ変わる。
 銀、赤、黒に染まる彼の本来の姿、“オーブオリジン”に。


オーブ『――銀河の光が、我を呼ぶ!』


 構えた聖剣の切っ先を光らせながら、彼はそう叫んだ。


オーブ「ジュワッ!」

 オーブカリバーに土のエレメントを灯し、剣を地面に突き刺す。

オーブ『オーブグランドカリバー!』

 そこから二条に別れた光線が弧を描きながら地上を這い進む。
 ガラオンの残る「笑」と「悲」の二面を同時に襲い、「怒」の面と同様に潰した。

クー・パー「「うわああああああ!!!」」

キュー「もう逃げるしかないよ!」

パー「う、うむ……! エンジン全開!!」

 足を収納し、浮き上がるガラオン。オーブは剣を引き抜き、構える。今度は火のエレメントが灯った。

オーブ『――オーブフレイムカリバー!!』

 剣で円を描くと切っ先に沿って虚空に炎のリングが形成された。

オーブ「ジュアッ!!」

 剣を振るい、それを飛ばす。空中を逃げるガラオンを囲み、ぐるぐると回転し出す。


パー「あ、熱ぅっ!?」

クー「な、何が起きている!?」

 ガラオンが炎の球体に閉じ込められ、ロボ内部の温度も急上昇していた。
 てんやわんやの騒ぎになる。その時、汗をだらだら流すキューチェンコが前方を指さした。

キュー「あ、あ、あ、あれ!!」

クー「!」

パー「うわあああああ!!」

 そこには、剣を振りかぶったオーブが迫っていた。

オーブ「――デヤアッ!!」

 ガラオンを一刀両断し、地面に降り立つオーブ。
 轟音で空気がびりびりと震動し、疾風が吹き荒れる。彼の背後の空で爆炎が広がっていた。


パー「……終わりか」

クー「盛者必衰……我らもまたその宿命から逃れられなかったということ……」

キュー「ちっくしょーーーー!!!」

 ロボットから投げ出された三人は地上に向けて真っ逆さまになっていた。


三人「「「……え?」」」

 三人が声を揃える。突然、落下が止まったのだ。
 顔を上げる。オーブの瞳が彼らを見下ろしていた。

パー「ど、どうして……」

クー「何故、我らを……」

キュー「何でもいいよぅ……ありがとうオーブ……いえ、オーブ様~~!」

 パーチェンコとクーチェンコは怪訝そうにしていたが、キューチェンコは感涙に咽んでいた。
 そんな末っ子の様子を見て二人も笑顔になる。オーブに向けて手を振った。

オーブ「…………」

 オーブは頷いて、彼らを地上に下ろした。

パー「ありがとう。ウルトラマンオーブ」

 と、その時――

渋川「おいお前ら! 今回の事件の犯人だな!!」

 拳銃を構えた渋川と、大量のビートル隊員が波のように押し寄せてきた。

三人「「「え?」」」

 振り返ると、オーブは既に空の彼方へ飛び立っていた。
 その後、三人が数珠繋ぎで連行される様が全テレビ局のトップニュースを飾ったのは、言うまでもない。


(エピローグ)



「卯月ちゃん。そろそろ行きましょう」


「はいっ」


 楓に呼ばれ、卯月は揃いの衣装を身に纏った九人の先頭に立った。
 舞台袖から飛び出す。輝くステージと、暗い観客席。その中に無数のサイリウムが花畑のように色とりどりに広がっている。


「皆さん、こんにちは!」


「いつも私に勇気をくれる皆さんを、笑顔にできますように!」


「そんな想いを乗せて歌います! 聴いてください!」


「Take me☆Take you!」



おわり


[登場怪獣]

“三面ロボ頭獣”ガラオン
・体長:56m
・体重:65,000t

“知略宇宙人”ミジー星人が開発しようとしていた特殊戦闘用メカニックモンスターの頭部。
特殊営業用アンドロイド・ガラオンさんをコアユニットとして起動する。
「怒」「悲」「笑」の三面の顔を持ち、それぞれから攻撃を放つことが可能。

元は『ウルトラマンダイナ』13話「怪獣工場」に登場したロボット怪獣。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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