【ガルパン】演劇・ウォー! (214)

キャラ崩壊あり。

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カタカタカタカタカタ

沙織「…………」

優花里「…………」

カタカタカタカタカタ

沙織「……………」

優花里「……………」

カタカタカタカタカタ
バシン!

沙織「もおおお!やだーーー!」

バササササ

優花里「ああ!武部殿!書類!書類が!!」

沙織「生徒会がこんなに大変なんて聞いてないよぉ!何よこの書類の束!見て!ジャンプだよジャンプ!」

優花里「わかってますよぉ。ああ、もう、バラバラじゃないですかぁ、全くぅ……」

沙織「んねぇー、ゆかりぃん。もう事務仕事なんてほっといてアイス食べ行こうよぉ」

優花里「だぁめです。予算決議案に施設の補修の段取り、部活動の活動場所割り振りに、戦車道関連雑誌のグラビア取材、それに、戦車の配備計画も」

沙織「うあああ、やめてぇ、仕事の話をしないでぇ。ねぇぇゆかりん。じゃあちょっとだけ、ちょっとだけお菓子食べようよ」

優花里「ええ?一時間前にお茶したばっかりですよ?」

沙織「んもう!デートではね!女の子が疲れてないかちゃんと確認してね!それでベンチとか見つけては休みを取るものなの!」

優花里「私だって女の子で……分かった分かった分かりました!分かりましたからそのインク壺しまってください!ボールペンしか使ってないくせに、どこから持ってきたんですか、もう!」

沙織「うふふん、やった!私紅茶淹れてくる!ゆかりんは『諸雑費』用意しといてね、よろしくぅ!」

たたた……

優花里「はいはい。全く、こういう手際は前会長達からちゃーんと盗んでるんですから」

なんか言ったーー?

優花里「なんでもないでーーす!……さて、仕方ありませんね。五十鈴殿には悪いですが、たまには秘蔵の極上バームクーヘンちゃんを」

ガチャ

華「良い匂い。お茶ですか?」

優花里「ふげ!五十鈴殿!」

華ーー?おかえりーー!

華「ただいま戻りましたよーー。さて、優花里さん?私、その書棚にお菓子が入っているなんて知りませんでしたわ?」

優花里「あ、こ、これはその、これは……」

カチャカチャ

沙織「おろ?ゆかりんどうしたの?そんなとこで」

華「裏切りですわ」

優花里「はああん五十鈴どのぉ、すみません!だってだって、これ手に入れるのすっごく苦労したんです!味わいたいんですぅ!」

沙織「箱抱きしめてる」

華「ぅ……さすがにこの前のように一人で半分以上食べたりしませんよ。抑えますから、グルメ細胞抑えますから」

優花里「ほんとですか?等分ですよ?西住殿と冷泉殿の分も残して等分ですよ?」

華「ひのふの………ちょっ、待ってください。それはあまりにも!」

優花里「ほらぁぁぁ!」

沙織「こらこら。喧嘩しないの。……あれ?華、その書類は?」

華「むむむ……あぁ、これですか?先ほど生徒から直接面談で相談があって」

沙織「あぁ、華の公約だもんね。頑張るねぇ」

華「カロリー使いますわ」

ぐぐぐ

優花里「あああ!だめだめだめ!武部殿手伝ってください!取られちゃううう」

沙織「こら、華。分けっこ。……それで?」

華「う、うう、分かりました……それで、武道場の奥のホール、分かります?」

沙織「あぁ、この前取り壊し決めた、あの」

華「ええ、あの」

優花里「はぁ、はぁ……ゆ、幽霊ホールですよね?」

華「えぇ。そこを取り壊さないでくれと」

沙織「え?でも、誰も使ってないし、維持費だって馬鹿に……」

優花里「ま、まさか……でも五十鈴殿、そういうの強そうですし……」

華「いいえ。ちゃんと足のついてる方です。お二人も良く知る方ですよ」

沙織「ええ?……誰だろ」

優花里「んー……五十鈴殿、もったいぶらないでくださいよぉ」

華「……丸山紗希ちゃんです」

沙織・優花里「へ?」

華「あの子、演劇部らしいですわ」



翌日、お昼

みほ「へええ、紗希ちゃんが」

麻子「意外だな」

沙織「お、麻子の驚き顔、レアだね」

麻子「私だって驚くことくらいある。しかし、彼女はちゃんとセリフとか言えるのか」

華「もう、そんなあけすけな……まぁ、不安なのは分かりますわ。一見、幕が開いてもずっと舞台に立っちゃってそうですし」

みほ「一見?」

優花里「驚きましたよねぇ。……みなさん、『鉄の道』って大河ドラマ、知ってます?」

みほ「それって……」

麻子「覚えているぞ。母が好きだった」

優花里「あ、その、ご、ごめんなさい……」

麻子「え?……ああいや、すまん、そういうつもりじゃない。良い思い出なんだ」

沙織「ん、麻子なら大丈夫だよゆかりん、続けて」

優花里「え、えぇ、その……そのドラマ、戦車道の起源をテーマにしたものだったんですけど、結構なヒットだったんです。リアルな戦車戦の描写、時代に揉まれる人間ドラマ。恋愛要素もあったりして……かくいう私も大ファンです!幼少期の主人公がII号に乗るシーンは母にせがんでなんどもなんども……」

華「優花里さん、脱線しかけてますわ」

優花里「えっ」

沙織「ここからゆかりんの戦車愛が炸裂しちゃうから。昨日もう一度やってるから」

麻子「さもありなん」

みほ「あはは……」

優花里「あう、すみません……。えっと、で、そのですね、近代戦車道の礎となった主人公の一生を追う話なんですけど、その幼少期の頃を演じてたのがなんと!丸山ちゃんなんです!!」

麻子「ほおお」

みほ「ふぇ!」

優花里「すんごいんですから!天才子役丸山紗希!幼いながらに激情と愛情を併せ持つ主人公を、すえおそろしいほど自然に演じてるんです!」

華「意外ですよねぇ」

沙織「ウーチューブで名シーン集あるから見たんだけどね、凄いよ。シーン切り抜きだけなのに、もう、ちょっと泣けちゃうくらい熱演なの」

麻子「それ、母の制止を振り切って、戦車に乗って飛び出すシーンか」

沙織「そう!それ!麻子なんでわかったの!?」

麻子「そこ、私も良く覚えているからな。そうか、しかし、あの子が……」

華「えぇ。まさかですよね……しかも、なんでかその作品を限りに引退したそうで……」

みほ「えっと、それで、紗希ちゃんはどうしたいって言ってたの?」

優花里「あ、あぁ、丸山ちゃんは『ホールを壊さないで』だそうで……」

みほ「え?それだけ?」

華「あ、いえ、一応書類も渡してもらいまして、私がその場で目を通すとですね」

麻子「ああ」

華「当社比三割増しくらいの真剣な目で私を見据えて、頭を下げて、………出て行きました」

みほ「な、なんじゃそりゃー……」

麻子「うーむ……それで学校のことに口を出されてもなぁ」

華「まあまあ。で、その書類がこちらです」

みほ「『鉄の道、舞台化企画書』……厚い!」

麻子「本気か?」

沙織「本気も本気みたいだよ。見て、予算とかもきっちり。それに、計画通り上手くいけば、ホールに意味を与えてやるどころか、黒字までガツーンと出ちゃうかも!全校生徒みんなで叙々苑行けちゃうかもよ!」

みほ「うーん、さすがにファンタジーなような……」

沙織「えへへ、まーね。でもね、意外と読ませてくれるんだ、この企画書」

優花里「私も最初半信半疑でしたが、丸山ちゃん、なかなかどうしてしっかりしてらっしゃる」

華「何より私は、あの紗希さんが、自分から、お願いを私達にしてくれたことが嬉しいんです。私達、今、頼られてます」

みほ「華さん……」

麻子「ほう、燃えてるな」

華「もちろん、失敗すればカツカツな予算の都合上取り壊しに待ったはかけられませんが……上手くいけばその予算に余裕も出来て、その他諸々の問題にも一発逆転の目があります。背水の陣は私達の得意分野ですわ」

沙織「違いないね!」

優花里「会長、やっちゃいましょう!」

華「うふふ、ここに新生徒会初作戦、『演劇ウォー』を発令します!生徒会、フォー!!」

今のところここまでです。

よろしくお願いします。

演劇道、始めます!


カエサル「……それで、我々が集められたわけか」

優花里「はい!公募とかするには我々の処理能力はまだ未熟ですし、まずここは、気心知れた戦車道メンバーしかないかと」

左衛門佐「演劇部の連中は?」

沙織「それが去年みんな辞めちゃって、今の部員は紗希ちゃん一人みたいで」

華「廃校騒ぎで偶然廃部を免れていたようですが、事実上廃部状態でしたね」

優花里「そこで!既に関係性が作れている戦車道チームでやろうってことです!体力もありますしね!」

カエサル「正解だろうが、いつまでもそれでは、上層部が硬直してると取られかねないぞ?」

優花里「う、そ、そうですよね。もし迷惑でしたらあの、一応自由参加です……」

エルヴィン「いやいやいや、カエサルも悪いとは決して言ってないさ。むしろ楽しみだよ。ただ、次からは違うのもありなんじゃないかなってな」

おりょう(あいつグデーリアンにめっちゃ甘いぜよ)

左衛門佐(ふ、みっともないなぁ!)

エルヴィン「ぐっ!」

典子「大丈夫だよ秋山さん!基本的にここにいるメンバーで、嫌って言う人はいないでしょ」

ツチヤ「そーそー!」

優花里「み、みなさん。ありがとうございます!」

ナカジマ「で、この企画書の通りだと、私らがセットに小道具か。納得だね」

ツチヤ「燃えるね~!」

ホシノ「すんごいのかましてやろうよ」

スズキ「予算引っ張るぜ~」

沙織「ほ、ほどほどにお願いしますね……」

典子「根性で音響だ!!」

妙子「はいはいはい!私、かけたい歌あります!!」

あけび「私も私も!蝶野さんの入場曲かけたい!」

忍「そういうことじゃないでしょ!」

梓「私達は照明かぁ」

あや「おろ?紗希と桂莉奈ちゃんの名前がない」

あゆみ「それについてはあとから説明あるんじゃないかな」

優季「うーーん?」

ねこにゃー「衣装……任せて。コス衣装なら大得意だよ」

ももがー「ねこにゃー氏の作っても着れない裁縫スキルが活かされるぞな。もっと着てみればいいのに」

ねこにゃー「は、恥ずかしいにゃ……うーん、でも……」

パゾ美「私達は制作進行……適任かな」

ゴモ代「なにするの?」

パゾ美「外部との折衝、客席の準備、チケットの管理、他のチームの暴走を止めたり、色々」

ゴモ代「詳しいね、パゾ美」

パゾ美「まぁね」

カエサル「我々は時代考証と、衣装手伝いと、役者……?」

優花里「はい!監督兼脚本家さんからのご指名です!メインは役者だそうです!」

エルヴィン「ふふ、照れるな」

左衛門佐「んー、何故我々なんだろう……」

おりょう「あー……多分イロモノぜよ……」

「「「「ははっ、それだ」」」」

桂莉奈「ええーっ!ずるい!カバさん先輩達舞台だと大根なのに!見た目優先じゃん!」

カエサル「ぐっ!言ってはならんことを!」

エルヴィン「えっ、そうなの!?」

左衛門佐「おまっ」

おりょう(やばそうぜよ)

優花里「えへへ、桂莉奈ちゃんも役者だよ」

桂莉奈「えっ!」

沙織「ね!演出さん!」

紗希(コクリ)

あや「えっ演出ぅ!?紗希が!?」

梓「紗希、大丈夫なの?」

紗希「……みなさん、ありがとう」

優季「しゃ!」

あや「喋ったぁぁぁぁぁ!」

あゆみ「必要なら普通に喋るじゃん、紗希。物静かなだけで」

ツチヤ「しょ、衝撃ぃ……」

紗希「……私のワガママにつきあってくれて、嬉しい。絶対に、良い作品にしましょう」

ぺこり

ナカジマ「おお……」

ねこにゃー「な、なんだかすごく嬉しいにゃー」

華「……秘すれば華、ですね。ちょっと意味、違いますけど」

沙織「なにそれ?」

麻子「風姿花伝。日本最古の演技ハウツー本みたいなものだ」

沙織「へえええ……」

紗希「それではまず、みなさんに脚本を配るので、それを読んで」

……………

紗希「……一週間後に予算の会議をするので、足りそう余りそうの判断をお願いします」

桂莉奈「おおお、紗希がしっかりした口調でつらつらと……」

沙織「途中に挟まる無がシュールだけどね」

あや「どうする、優季。このままだとうさぎさんチームのバカ担当が私と桂莉奈ちゃんと優季だけになるよ」

優季「マジボケは元々あやの専門だから大丈夫だよぉ」

あや「なんだとぉ!」

紗希「それから、役者さんにはまだ空きがあります」

……………

妙子「……お?」

紗希「やりたい方、待ってます」

妙子「ムム!」

ねこにゃー「う、うーん、ちょ、ちょっぴり興味あるかも……」

ぺらり

みほ「ん、あれ?……私役者決定なの!?む、むりむりむりだよぉ!」

紗希(にっこり)

みほ「ここで紗希ちゃんスマイルなの!?」

麻子「ははは、観念しろ西住さん。たまには楽なポジションをとでもおもったのかもしれんが、そうは問屋が卸さんらしいぞ」

沙織「麻子もマスト役者だよ、ほら」

麻子「何っ!?(ぺらり)……と、取り消せ丸山っ。素人が人前で演技できるか!」

紗希(ぼー……)

麻子「く、ここぞとばかりに宙を見つめやがって……」

みほ「ふっふっふ、麻子さん、人を笑わば穴二つだね」

麻子「ぐ、ぐ、ぐ……朝練とかは行けないからな!」

紗希「(にっこり)みなさん、よろしく」

一週間後

会議だ!

華「それではただいまより、有志による『鉄の道 舞台化プロジェクト』、予算会議を始めます」

優花里「意見がある人は手を挙げて発言してください!」

ツチヤ「はい!」

優花里「はいツチヤちゃん!」

ツチヤ「この大道具小道具の予算の80万、これじゃどう考えても足りないよ」

沙織「どええ!いきなりぶっこんできた!」

華「ぶっちぎり一番予算をお渡ししてるんですが、ええ……」

ホシノ「ぜんっぜん足りない。まず、みんな、さっき配った舞台装置図見てよ。で真ん中。ここ。この回転舞台のギミックに200万は使うもんね」

みほ「か、回転舞台」

優花里「あの、これ、要ります?」

だんっ!

優花里「うわっ!」

ナカジマ「秋山ちゃん、それを言っちゃあおしめえよ!」

沙織「なんですかそのポーズ」

華「波止場ですかね」

ナカジマ「舞台演劇なんて酔狂の極み。理由なんてね、『だって面白いじゃん』これだけで………充分さ!」

優花里「お、おお……!」

エルヴィン「こらこらこらグデーリアン、流されかけてるぞ。予算は有限だろう。大道具ばかりに予算が流れて、結果舞台が成り立たなくなる方が問題だろう」

優花里「そ、そっか……そうですね。そうですよ!」

ナカジマ「ちぃ!」

スズキ「でも、やっぱり一番は演出さん次第だよね?」

華「演出さん、どうですか?」

紗希(ふるふる)

沙織「あらら、残念」

ツチヤ「ちょちょ、待って待って!なんでさ演出さん!絶対面白いし、舞台の転換もスピーディになるよ!」

紗希「確かに面白い。………でも、限られた予算の使い方としては不適切」

ナカジマ「う、でも、そんなこと言ってたらなんにもできないよぉ」

紗希「だから、こうして会議があります」

……………

紗希「……でも、この舞台で回転装置なんて、すごい。この図もとても独創的。……ここ、すごく、良い。刺激的です」

スズキ(あ、そこ私の案!!)

紗希「………時間には限りがあるけど、どんどん案を出して、欲しい。………良ければ、予算だってなんとかしてもらいます」

華「えっ」

ナカジマ「う、うん……任せといて!」

紗希(にっこり)

あや「すげー、紗希」

妙子「乗せ方が敏腕って感じだね」

華「う、うむむ、しれっと恐ろしいことを言われた気もしますが……」

優花里「では、次の方!」

カエサル「はい!」

優花里「はいカエサル殿!」

カエサル「衣装の予算、20万。ぜんっぜん足りないな!」

沙織「またぁ!?」

ねこにゃー「…………」

エルヴィン「おりょう」

おりょう「みんな、手元の衣装チームの資料を見て欲しいぜよ。この時代の服装を完全に再現するには、まず50万は欲しいぜよ」

優花里「うひぃ!」

華「みなさん、お金が畑から採れるって勘違いしてません?」

左衛門佐「根拠はあるぞ。この時代の着物のレンタル代と、購入するもののアタリ、自作する装飾品の材料費を合算したのが、裏ページにある」

沙織「うぇ!?こんなにするの!?」

ツチヤ「ちょいちょいちょい!さっき私らに言った言葉はどうしたのさ」

エルヴィン「衣装はいわばリアリティの要。これは舞台を支えるリアリティのための、コラテラルダメージだな」

優花里「コラテラルダメージ」

沙織「それっぽい響きの単語使うのやめて!うちのゆかりんそういうのに弱いんだから!」

桂莉奈「こ、コラテラルダメージなら仕方ないね」

あや「えっ!……ああ、仕方ないな」

優季「異論なぁし」

梓「バカさんチームは見栄を張らないでください!」

カエサル「どうなんだ演出さん!」

紗希(フルフル)

エルヴィン「な、何故」

紗希「提案に根拠があるのはすごく、ありがたい。ちゃんと考えてくれたのがよくわかる。………でも、一つ、許せない」

沙織(う、こわ……)

おりょう「な、なんぜよ」

紗希「……ねこにゃーさんとももがーさんと、話し合い、しました?」

ねこにゃー・ももがー「!」

左衛門佐「え、いや、声はかけたが、私達に任せると……」

紗希「最初から、………決めつけてなかった?」

カエサル「な、なんと」

紗希「どうせ使えない、って」

ねこにゃー「………」

ももがー「ねこにゃー氏………」

エルヴィン「そ、それは、いや、そこまでは……」

紗希「………ねこにゃーさんとももがーさんは、必要です」

おりょう「ぜよ?」

ねこにゃー「あっ、あの!あ、私、あの、裁縫とか得意だよ。あ、だから、ある程度は作れる、と思う、多分……」

ももがー「あのあの!ねこにゃー氏の裁縫、ほんと凄いぞな!ぷ、プロ顔負けぞな!」

ねこにゃー「そ、そんなぁ、ももがー氏こそ」

左衛門佐「そ、そうだったのか……」

ねこにゃー「あの、言わなくてごめんなさい、でもあの、なんだか言えなくて……」

紗希「…………」

エルヴィン「……そりゃ、言えんだろうな」

左衛門佐「ああ。正直、最初からあまり戦力として見てなかったかもしれん。そんな奴らから声をかけられてもな……」

ねこにゃー・ももがー「…………」

カエサル「………すまん、二人とも。我々は、二人のことを蔑ろにしていた」

ねこにゃー・ももがー「!!」

エルヴィン「私達と一緒に、もう一度予算を考えてくれるか?あなた達と共に作る前提で」

おりょう「今度は、合同軍としてぜよ。どうか、頼む」

ぺこり

ねこにゃー「わっ、あの、頭を!あの!あの、でもあの、い、嫌じゃないの?あ、の、無理してない?」

カエサル「?何が?」

ももがー「だって私たちちょっと変だし、あんまり自分から馴染もうとできないし……」

おりょう「……おいおい、何を言ってるぜよ」

ねこにゃー「へ?」

エルヴィン「私たちとてイロモノ集団!周囲に混じれぬ者同士!」

左衛門佐「思えば、はみ出し者同士気が合うかも分からんぞ!」

ももがー「み、みんな……」

カエサル「ねこにゃーさん、ももがーさん。私たちは今から友達だ。そしてどうか、我らと一緒に戦ってくれ」

ねこにゃー「う、うん!!」

ももがー「も、もちろんぞな!」

典子「くううう!根性ーー!!」

妙子「根性ーー!!」

忍「あ、キャプテンが青春に感化されてる!」

あけび「妙子ちゃんは半分悪ノリだけどね」

梓「私たちも照明頑張るよ!」

おー!!!

ナカジマ「むむ、私たちも負けてらんないね!」

ホシノ「ああ!」

ツチヤ「こりゃもっとハンドメイドを増やさないとだね」

スズキ「メカ屋の血が騒ぐね~」

パゾ美「燃えるね」

ゴモ代「パゾ美、そういうの似合わないね」

パゾ美「……たまにはね」

優花里「お、おお、思わぬ方向に……!」

華「どうなるかと思いましたが、まーるく収まりましたね」

沙織「予算は振り出しだけど、大きな一歩だねぇ」

紗希(にっこり)

優花里「さぁ、どんどん行きますよ!次の方!」

はい!はい!はい!

ーーーーーーーーー

練習するよ!

紗希「それでは、今日から、………立ち稽古に入ります」

桂莉奈「つ、ついに!発声と歩き方と姿勢と読み稽古の無限ループから、ついに!」

妙子「長く苦しい戦いだった……」

みほ「はううう……」ぷるぷるぷる

麻子「西住さん、緊張早すぎだぞ」

紗希「まず、ト書きに書いてある、登場人物の行動は、絶対にすること」

……………

紗希「理解できなくても、行動。意味もなく、立ち止まらない」

カエサル「オ、オウ」

エルヴィン「マカセロ」

ねこにゃー「あは、メガテンの悪魔にこういう子いるぞな」

桂莉奈「ヌエですね!」

左衛門佐「はは……我々、読み稽古の時点でぼこぼこだからな」

おりょう「『大根すぎて逆に面白い』ってダメだしが地味に一番堪えてるぜよ」

紗希「それではまず、立ち稽古の前に」

……………

紗希「この本のテーマは、なんだと思いますか?」

妙子「テーマ?」

桂莉奈「はいはい!戦争の悲惨さと戦車道の歴史を伝える!」

左衛門佐「んなざっくりな……」

紗希「ううん、人それぞれでいい。………桂莉奈ちゃんのも、きっとある」

桂莉奈「ほらー」

左衛門佐「むっ、……じゃあ、あ、愛、とか」

エルヴィン「似合わんなぁ」

おりょう「全くぜよ」

左衛門佐「な、なんだ、いいじゃないか!別に!」

紗希「とてもいいと思う。普遍のテーマ」

紗希(にっこり)

左衛門佐「ほらみろ!ほぉらみろ!」

カエサル「鬼の首を獲ったように……」

みほ「愛かぁ」

麻子「どうした、西住さん」

みほ「えっ、ううん。そういうのもあるんだって」

麻子「え?」

紗希「……西住さん、は?」

みほ「ふぇ?あ、でもあの、私のはちょっと変だと思うから気にしないで!」

紗希「そういうの、大事。………教えてください」

みほ「うぅ、えっと、私は……漠然としてるけど、悲しいとか、……怒り?とかかなぁ」

カエサル「へ?」

ねこにゃー「怒りにゃ?」

紗希「……………」

麻子「悲しいはともかく、怒りって、どういうことだ?」

みほ「あの、台本読んで、なんとなくだから……あの、ほんとに、気にしないでぇ……」

紗希「……ううん、それは、すごく面白いと思う」

みほ「ふぇ」

紗希「怒り、いいと思う」

エルヴィン(し、真剣な目だ)

左衛門佐(ということが、最近ようやく分かってきたな)

みほ「あ、ありがとう……」

紗希(こくこく)

妙子「んー、でも私は、テーマとかっていうか、お客さんを笑わせたいなぁ」

紗希「!」

桂莉奈「妙子ちゃん、この台本でそれ出るって、すごいね」

おりょう「さすがぶっこみ妙子ぜよ」

紗希「妙子さん」

……………

紗希「良い」

妙子「え?へ?あ、どうも……」

ねこにゃー「な、なになに」

麻子「何への礼なんだ……」

紗希「そこは、すごく大事。常に、喜劇だと思って。それで、どうしても、そう思えない時だけ、そうして」

紗希(にっこり)

桂莉奈「ほおおお……」

みほ「常に喜劇かぁ」

妙子「あら?私が一番紗希ちゃんの意を汲んだっぽい?………つまり、私も天才!?」

おりょう「猛烈に調子乗ってるぜよ」

麻子「おお……磯部さんが手を焼くだけはあるな」

紗希「あと、これ、配役表」

桂莉奈「あ!さっきから気になってた紙!」

エルヴィン「や、やっぱり配役表!つ、ついに!」

カエサル「エルヴィン、ドキドキしてるとこ悪いが、私たちの配役はほぼほぼ確定してるぞ……」

左衛門佐「言うな言うな」

紗希「それではみなさん、目を通して、ください」

ぺらり

ーーーーーーーーーーーーーーーー

沙織「ただいまー」

優花里「おかえりなさい、武部殿。外、冷えました?」

沙織「うん、さぶかったー。生徒会室は極楽だねぇ」

優花里「ふふふ、経費で落ちますからねぇ。はい、コート。今、ココア淹れてきますねー」

とててて……

沙織「ゆかりんありがとー。……うーん、ゆかりん、いいお嫁さんになるね」

華「私も最近気づきましたけど、違いありませんわ。……で、沙織さん、広報の首尾は?」

沙織「うん、ばっちり!戦車道関係校にはみんな直々に広報行かせてもらえることになったし、月刊戦車道の人も、今度の取材の時には、ついでに稽古見に来てくれるって」

華「では」

沙織「うん!出来次第では誌面に取り上げてくれるかも!まぁ、陸の本屋さんにも置いてあるようなのだし、ハードルは高いと思うけどねー」

華「まぁ……。さすが沙織さん。ほんとに頼りになります」

沙織「えへへ、事務仕事苦手だし、営業くらいはちゃんとしないとね。あ、ゆかりんさんきゅー」

優花里「いえいえ。でも、五十鈴殿もすごいんですよ。ばっちり、原作者と、関係者への上演許可を取りましたからね」

沙織「はぁ゛~おいひい…………え!すごい!やるじゃん華!上演料は?何割?」

華「ノーで」

沙織「ヤクザか!」

優花里「剛腕ですよねぇ」

華「ある程度の交渉はしましたが、有利な材料は揃いに揃ってましたから」

優花里「えへ、我々、まさに今話題の高校ですしね!」

沙織「まぁ、紗希ちゃんもいるし、その絡みもあるのかな?でも、こんな短期間でまとめられたのはすごいよ!」

華「ありがとうございます。紗希ちゃんのお名前をお出したら、大体話がまとまりましたわ。それに……」

優花里「それに?」

華「ふふ、まぁ、ここはおいおいですかね。……あら?優花里さん、その紙は?」

優花里「あ、これですか?ふふふ、実は私、今日、事務仕事がついに一区切りついたので自動車部さん達のお手伝いをしに行ってたんです!」

沙織「あぁ~ありがとゆかりん……あ、それでゆかりん、ほっぺたにペンキが……」

優花里「えっ、うそ!」

華「ふっふふ、大丈夫、愛嬌ですわ」

優花里「ううう~……言ってくださいよぉ。……こほん。で、ですね。そこで、面白いものを貰ったんです!……じゃん!配役表!」

沙織「おっ、じゃあ、ついに発表されたの!?主役は?あとあと、お母さん役は?」

優花里「それがなんとびっくり、主役は……冷泉殿であります!」

沙織「えええ!」

華「い、意外ですわ……!だって主人公の初子さん、勝気で男勝りな感じなのに……」

優花里「ね、びっくりですよね!しかし、もっとびっくりなのが、初子さんのお母さん役がですね、……西住殿なんですよ」

沙織「……無理でしょ」

華「あまりにかけ離れてますわ……」

優花里「ええ、初子さんをいじめにいじめぬく鬼の母……正直、真逆もいいところですよね」

沙織「みぽりん、大丈夫かなぁ……」

華「まぁ、紗希ちゃんはしっかり演出さんをされてるそうですし、考えなしではないでしょう。……他の方は?」

優花里「あとは……」

沙織「当てよっか。特攻隊の人達はね、カバさんチーム」

優花里「あはは、それは誰でも分かりますよぉ」

華「まぁ、コメディリリーフですし、色々美味しい役所ですよね」

沙織「あとはねー、麻子が主役なら……そうだね、初子の姉が妙子ちゃんで、友達が桂莉奈ちゃん、そんで先生が、ねこにゃーさん!」

優花里「え!」

華「どうなんですか、優花里さん」

優花里「すごい!全員正解です!」

沙織「ふふん。ドラマ大好き沙織さんを舐めちゃーいけないよ!」

華「まぁ……沙織さんの恋愛の勉強が実を結びましたね」

沙織「ちょっと華、どういう意味!?」

華「ふふふ、なんでもありませんわ。………でも、不安もありますけど……舞台、楽しみですわね」

沙織「もう。でもまぁ、そーだね。………この立場になって思ったのはさ、たまに稽古とか作業してるとことかちらっと見るとさ。………みんなを楽しませる場を作るってのは、したいことさせてあげるってのは、大変だけど、楽しいよね」

優花里「それ分かります。責任もすごいですけど、やりがいも。……きっと、前生徒会の方々も、こんな気持ちだったんですかね」

華「違いありませんわ。そうでなきゃ、あそこまで頑張れませんもの」

………………

沙織「私達も、もうひと頑張りしよっか!」

優花里「私、ちょっとでも予算を出せるところが無いか精査してみます!」

沙織「私は舞台広報のTODOリスト更新とチラシ作り!早めに作って完成度あげちゃうよ!」

華「えーっと、私は……」

沙織「華は急ぎでないときはでーんと構えといて。それが一番のお仕事!」

華「ええ?でも、それではお二人に悪い気が……」

優花里「大丈夫です!今回の上演許可みたいに、一番大事な時に頼れる切り札であり、あらゆる意思決定の要なんですから!」

沙織「忙しい時ほど、身体あけといてね!私たちがその分は支えるからさ!」

華「…………」

沙織「は、華、どしたの?」

華「あ、す、すみません。(ゴシゴシ)は、恥ずかしいですわ。ほんと、何故か、ちょっと……」

優花里「……武部殿、私、会長とお仕事できて嬉しいです」

沙織「えへへ、私も。ね、華会長!」

華「お二人とも、ありがとうございます。……それでは、生徒会、フォー!」

とりあえずの一区切り
ありがとうございます

長くなりそう。もうなってるか

ついてきてもらえると嬉しいです

誰も突っ込んでないけど自動車部、ツチヤ以外卒業したんじゃないのか

>>57
説明入れてたとこをばっさり切ってたんだった
自動車部だけ進学せずみんな同じ自動車メーカーに就職することが決まってるので、戦車道絡みの行事とかにも普通に参加してる設定です
時系列的には企画スタートが11月頃なイメージです

阪口ちゃんは桂利奈よ桂利奈

>>62
やべ、すまん桂利奈ちゃん

ありがとうございます

なにかが足りないのです


麻子「II号をお借りします」

みほ「……待ちなさい、初子」

麻子「聞けません。私はもう、あなたの言葉は聞きません」

みほ「愚か者!あなた一人に何ができるの!」

麻子「その為の戦車でしょう」

みほ「そういうことではない!」

麻子「戦車は、火砕流の中をも進む。教えてくださったのはお母様です」

みほ「!」

麻子「さようなら」

みほ「初子!」

みほ「…………」

みほ「イ、イカナイデ」

パン!

麻子・みほ「!」

紗希「…………ありがとう。ダメ出しします」

桂利奈「先輩すごいなぁ……」

ねこにゃー「迫力出てきたずら。普通に見れるずら」

妙子「いけるいける!」

紗希「はい………まず、シーン全体が、赤点」

麻子「むぐ」

みほ「は、はい……」

左衛門佐(かっら!)

おりょう(まぁじかぜよ)

エルヴィン(私たちのシーンでにっこにこしてる丸山と本当に同じ人物なのか?)

カエサル(二人にばかり厳しすぎるな……)

紗希「ここが一番の分岐点。ここに大きなカタルシスがある」

……………

紗希「………西住さん、それを台無しにしてる」

みほ「はい……」

麻子(ぴくっ)

桂利奈「さ、紗希、あの、言い方を……」

紗希「………」

紗希「台本を離すのがとても早かったし、一番に形にしてくれた。西住さんは、素晴らしい役者。才がある」

みほ「…………」

紗希「でも。西住さんの母役は、見ていて全く愛せない。……これ、前にも言いました」

みほ「(しゅーん)はい……」

麻子(ぴくぴく)

紗希「西住さんがやってるのは、母じゃない」

みほ「え……」

紗希「ただの鬼」

みほ「ふ、ぐ……」

麻子「……丸山、もう少し具体的に言ってくれ」

左衛門佐(うおっ)

妙子(こっわ!声こっわ!)

紗希「………」

みほ「ま、麻子さ」

麻子「この台本を渡されて、しかもわざわざ西住さんをこの役に指名しておいて、真面目に取り組んだら『ただの鬼』だと」

紗希「………」

麻子「気の弱い西住さんに。ここまでやらせておいて。毎度毎度。お前、ふざけるなよ。何を考えてるんだ」

紗希「私は、真剣に考えてる」

麻子「なら我々がどうすれば良いか明確に言え。くだらん答えだったら私達は降りるぞ」

みほ「麻子さん!」

麻子「…………」

紗希「…………」

妙子「あらっ、やばい感じ?」

桂利奈(たた妙子ちゃん!だめ!)

妙子「もご」

麻子「…………」

紗希「………私は、お母さんがいない」

みほ「!」

麻子「それがどうした。私なんて父もいないぞ。不幸自慢なら結構だ」

妙子「もご……!」

みほ「…………」

紗希「…………分かった。なら、聞いて」

麻子「………」

紗希「私は、初子さんのお母さんは、初子さんを愛していたと思う」

みほ「え………?」

麻子「………」

紗希「もちろん、多分、厳しすぎるし、他の人より分かり辛いけど。………でも、そうでなきゃ、あんなに怒れない。見て、あげられない」

……………

紗希「私は、初子さんのお母さんに、優しい母親を見たい。初子さんには、思い切り甘えて欲しい。………見たい。………そして、見せたい」

みほ「紗希ちゃん……」

麻子「…………」

桂利奈「えっ、で、でも、台本にそんなシーン……」

紗希「……人は、矛盾するもの」

左衛門佐「そんな、素人の私たちに笑いながら怒る竹中直人みたいなことしろったって……」

紗希「……………」

妙子「紗希ちゃん、寂しいの?」

紗希「!」

桂利奈「えっ」

カエサル「おっ、おい近藤、何言ってるんだ」

妙子「え、いや、なんとなく………」

紗希「…………私には、お母さんはもう、良くわからない。………だから、確かめたい」

……………

紗希「お願いします」

みほ「え?」

麻子「……言いたいことは分かった。勝手だがな。……共感もできる」

桂利奈「わかるの!?」

おりょう「さすが天才ぜよ」

麻子「しかし、私たちにはその方法がわからない。具体的にそれを掴むには、私の記憶はおぼろげで、西住さんには経験すらない。……すまない。本来なら、役者の仕事なんだろうが」

妙子「あ。冷泉先輩、もう怒ってないの?」

左衛門佐「だ、だからな」

麻子「怒ってないぞ」

エルヴィン「素直!!」

妙子「よかったぁ。やっぱり仲良くしたいですからね」

みほ「妙子ちゃん」

紗希「…………」

カエサル(空気を読むことの究極系は、読まないことと見つけたり……)

麻子「だが、演出の考えは分かっても、途方に暮れるな。私たちには実力も経験もないわけだし……甘えて欲しいったって……」

ねこにゃー「うーん……澤ちゃんの面倒見てる時とかの西住さんはバブみ力結構高いと思うけどにゃ(ぼそり)」

桂利奈「あー」

紗希「………?」

妙子「バブみ力?」

ねこにゃー「えっ」

妙子「バブみ力って、なんですか?」

ねこにゃー「えっ!や、あの、なんでも……」

妙子「検索しよう」

ねこにゃー「わ!待って!あの、ネット!ネットの言葉!」

カエサル「近藤!私たち仲間内でつい固まるタイプの人間に!隠語を説明させようなんて!」

エルヴィン「ゲシュタポか!」

左衛門佐「間諜を捕らえた獄吏か!」

おりょう「隠れキリシタンに対する江戸幕府ぜよ」

「「「それだぁ!!!」」」

妙子「お、おお」

ねこにゃー「み、みんなあああ」

カエサル「これもまた友情よ」

みほ「すっかり仲良しさんだね」

麻子「ああ。通じるものがあるんだろうな」

紗希「……バブみ、気になる」

ねこにゃー「ふげ!」

桂利奈「紗希ぃ!もういいから!」

紗希「……ひらめきそう。ねこにゃーさん、教えて」

エルヴィン「え、演出までが妙子ナイズされてるぞ」

おりょう「急性妙子症候群ぜよ……」

妙子「人を病原体みたいに言わないでくださいよ!」

ねこにゃー「う、あ……うー……えー、バブみというのは、こう、思わず童心にかえって、こう、あの、ママーってなるような人の魅力で……あの、シャアとか……」

紗希「ママ………」

妙子「シャアってなに?掛け声?」

ねこにゃー(はあああ恥ずかしいよおお)

紗希「……続けて欲しい」

エルヴィン(サドか!)

カエサル(あ、悪意はないから)

ねこにゃー「ああ、うう、あー、それに当てられた人は、あのー、赤ちゃんみたく、お、おぎゃっちゃうと、いう、か……う、ううう……」

紗希「…………」

妙子「おぎゃるかぁ。ちょっと気持ち悪いけど、響きがいいですね~」

みほ「ふぇぇ」

麻子「わからなくもないが、それなら沙織の方がバブみだな」

左衛門佐「お、おい、冷泉さんまでネジが外れかけてるぞ」

紗希「バブみ……」

………………

紗希「それだ」

みほ「えっ」

紗希(にっこり)

麻子「お、おい、なんだ丸山。おい、その笑みはなんだ、おい!」

紗希「バブおぎゃ作戦。………閃きました」

一旦ここまで
また続きます

ナカジマ「ホシノ!固定甘い!も少し力入れて!」

ホシノ「しゃーないな!」

ぐっ

ナカジマ「おっけ!」

ドガガガガガガ

ナカジマ「よーーし!ビス止め終わり!上手側のセット完成!!」

ホシノ「超~順調だね。ツチヤーー!スズキーー!そっちどおーー!?」

ガラララ

ツチヤ「はは……時刻表ギミック、進捗やっばいかも」

ホシノ「あちゃー……」

スズキ「空港のあれ、何気に技術力すごいね、マジ……」

ナカジマ「おいおい、泣き言言ってらんないぞ。役者さん達の稽古、中々厳しいらしいじゃん」

ツチヤ「ああ、紗希ちゃん、結構ビシバシ行くらしいからね~」

ホシノ「基本にこにこだけど、あんまり台本覚えるのサボるから、阪口のやつ、いっぺんがっつり絞られたっていうしな。泣くほど」

スズキ「はは、正直ビビるね。でも、それからバキバキに頑張ってるんでしょ?」

ナカジマ「うん。一人も逃げず、毎日遅くまで頑張ってる。素人連中なりに燃えてるってさ。こりゃ、うちらも早くセット作って、想像力の羽根をだね………」

ホシノ「………」

ツチヤ「………」

スズキ「………」

ナカジマ「あ、どしたの?みんな、固まっ、て………」

・・・

みほ「お、お~~よしよ~~し……」

麻子(うう~~~!)

王大河「あら^~いくつですか^~」

みほ「い、1歳だよね~……」

麻子(ぐっ……!)

こくん

ナカジマ・ホシノ・スズキ・ツチヤ「ぼほっ!!!」

大河「あら^~~かわいいね^~~」

パシャシャシャシャ

麻子「むぉ!」

みほ「ひぃ!写真やめて!」

大河「あ!自動車部のみなさん!」

みほ・麻子「ふぇ!(むご!)」

ナカジマ「あら^~~あらあらあらあら^~~~こんにちは^~~~」

ホシノ「冷泉かわいいですのよわ^~~~」

麻子「むぐぶぅ!むぐぶむぅ!」(うるさい!ピノコか!)

みほ「あ、ああ、こら、麻子さ……麻子ちゃん、暴れないで~~……」

ゆさゆさ
かろんかろんかろん

麻子(うう~~~~!!!真面目か!!)

スズキ「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

ツチヤ「れ、冷泉さん、よかったじゃん!おんぶ、好きじゃん!」

麻子「うむぶい!」(うるさい!)

みほ「み、みなさん、笑わないでくださいぃぃ……」

麻子「むぐぅ……」

スズキ「ひっひ……あぁ、ごめんごめん。かわいいよ西住ちゃん、冷泉ちゃん。ふたりとも似合ってるよ。んぶっふ!」

麻子「~~~~~!」

じたばた

みほ「あ、あ、こらこら、恥ずかしがらないの~……」

ナカジマ「それで、なんでこんな格好を?」

みほ「実は………」

ほわわわ………

みほ「三日間ずっと親子として生活!?」

麻子「し、しかも、わ、私は0歳だと……!」

紗希(にっこり)

麻子「ふざけるな!」

紗希「じゃあ1歳からでいい」

麻子「ほとんど同じだろ!」

みほ「む、無理だよぉ。ど、どうやれっていうの……」

紗希「まず、西住さんは冷泉さんを、おんぶ」

…………

紗希「基本的に全ての世話を焼く」

カエサル(エグいな)

エルヴィン「なんて突飛で無茶な稽古……月影先生か」

「「「恐ろしい子!!」」」

みほ「全て……」

麻子「待て、丸山。範囲を、せめて範囲を定義してくれ。風呂とトイレはだめだろ。さすがにまずいだろ」

紗希「…………」

桂利奈(あ、これその気だったやつだ)

麻子「おっ、おい!尊厳。人間の尊厳」

紗希「………トイレは、許します。お風呂は、許しません」

みほ「ふぇぇ……」

麻子「お、おま……」

妙子「いいじゃん冷泉先輩。いつもみんなで入ってるじゃないですか」

麻子「全然違うだろっ」

妙子「それに、秋山先輩あたりなら多分めちゃくちゃ喜ぶよ。こう、もしゃもしゃーって」

みほ「あはっ、あー」

麻子「秋山さんならなんのてらいもなくべたべたに甘えそうだな……」

紗希「とにかく、二人はこれから三日親子。麻子さんの服は、こちらで手配します。……稽古は、他のシーンをやるので、土日祝、たっぷり遊んできてください」

紗希(にっこり)

妙子「いいな~」

左衛門佐「子連れ狼……」

「「「それだw」」」

麻子「ぐ、く、く……!」

みほ「………ま、麻子~……」

麻子「真面目か!!!」

ほわわわ………

みほ「ということに……」

麻子「うぶぅ……」

ナカジマ「はえ~……紗希ちゃん、すんごいこと考えるなぁ」

ホシノ「ああ。正直服とかこれマジで、どっから用意したんだこれこんな……アカチャンホンポな……」

スズキ「おしゃぶりがいい感じにマジキチだね」

麻子「ぶ……」こくん

大河「戦車道チーム、い・け・な・い 秘密特訓……いや、西住ママの倒錯愛……いやいや……」

麻子「んぶ!」

みほ「き、記事にしないでぇ」

大河「何をおっしゃる西住さん!あなた方戦車道チームは我が校のアイドル!皆の潤いを有名税に納めるのは義務ですよぉ!さぁさぁ!膨らませますよ~」

みほ「ひいいい」

麻子「むぶむむむ……」ガタガタ

ツチヤ「……たぁいがちゃん!」

がし!

大河「うっひゃ!」

ツチヤ「私たちの大道具も取材してよぉ~」

ナカジマ・ホシノ・スズキ「!」

大河「え、や、しかし、目の前にこんな面白い取材対象がありながら……」

ホシノ「ほお゛~?私たちの装置は面白くないってか?」

大河「え!や、」

ナカジマ「ネタバレは一切だめだけど、取材はただだぜ~?どんどん取材してよ~」

大河「えええ!記者相手にそんな無茶苦茶なぁ!」

スズキ「まぁまぁまぁまぁ。先輩命令ってことでさぁ~」

大河「あああ体育会系はこれだから!あ!その首の角度やめて!やめてください先ぱぁい!」

ツチヤ「よ~し!ついでに大道具体験もさせよ~!」

ホシノ「楽しい楽しいペンキ塗りの時間だ~」

スズキ「すごいんだよ!塗っても塗っても終わらないからね!魔法さ!」

大河「ひえええ……!」ずるずるずる……

みほ・麻子「…………」ぽかーん

ナカジマ(頑張ってねん)ぱくぱく

すたすた

みほ「な、ナカジマさん、ありがとう……!」

麻子「むぶむ……!」

みほ「さ、麻子ちゃん、とりあえず家に行こっか!」

麻子「む!むぶ!」(ま、待て待て待って!)

みほ「ぐえええ、な、なに゛どしたの」

麻子「むぶ……!」(こんな格好で学校の外なんて……!)

(紗希「身振り手振りは禁止」)

麻子「む……!ぐ……むううううう!!!」

みほ「ま、麻子?麻子ちゃん?」

麻子「むうううううう!むぶうううううう!!」(ヤケ)

みほ「あ、あわわ、麻子さん、あ、や、麻子ちゃん、どうしたの。どうしたの……」

(紗希「小さい子供は………伝えることが出来ない。全力で汲んであげて」)

みほ(か、考えなさい西住みほ。麻子さんが今何に困ってるか、何に、何に、何に……)

がしっ

麻子「おっぶ!」

みほ「と、トイレじゃない」

麻子「むぶ!むおぶうううう!!」

みほ「あ!あ!………そうだ!ちょっと、ごめんね」

すとん

麻子「むぶ!」

みほ「よっ、と」

ばさ

麻子「!!」(に、西住さん、コートを……分かってくれたのか……!)

みほ「えへへ、麻子さ、ちゃん、寒かったんでしょ」

麻子「むぶ……」(ず、ズレてる………が、結果オーライか。しかし西住さん、寒くは……)

みほ「………よかった!正解だね!ふふ、私、ちょっと冴えてるかも。……へくしっ!あ゛う


麻子「む、ぶぶ。むぶぶ」

みほ「あ、麻子さ……麻子ちゃんは子供なんだから余計な心配しないの。……よいしょ」

麻子「むぶ……」

みほ「さ、帰ろう!」

ーーーーーーーーーー

妙子「……舞台上のルールとして、メガネ取るとメーテルになるってどう?」

カエサル「ぶっ!それ、いい!」

ねこにゃー「ちょ、ちょっと、からかわないでほしいにゃ。だいたいボクがメーテルなんて」

桂利奈「ほい!」パッ

ねこにゃー「(しなっ……)こら、桂利奈ちゃん……」

左衛門佐「んふははは!ノリノリじゃないか!」

エルヴィン「ほおおお、ねこにゃーよ、お前美人だなぁ」

ねこにゃー「///」

おりょう「うお、その表情女子力たっけーぜよ」

妙子「むむ(しなっ……)」

桂利奈「なんで妙子ちゃんは対抗しようとしてるの……」

じゃあそこにだなーー

こんなのもーー

紗希(にこにこ)

紗希(楽しんでくれてる……みんなは、それが一番……)

紗希(西住さん、冷泉さん、無理をかけますが、……お願いします)

ーーーーーーーーーー

二日後、夜

みほ「ふぅぅぅぅ……づがれだぁ゛……」ほかほか

麻子「………」ほかほか

みほ「いいお湯だったねぇ、麻子?」

麻子「ぶ………」

※至って健全な入浴シーンだったことをここに記しておく。

みほ「あ、あてて、三日もおんぶだとさすがに腰にくるね……さ、ドライヤーして寝よっか」

麻子「むぶ………」

ゴオオオーー……

みほ「んーふーんーふーんっんーーんふふー」

麻子(自然にタオルの上から……慣れてきてるな、西住さん。それにこの匂い……うっすらと……お互いのボディソープを交換しろという指示、なるほどな)

麻子(私を扱う手つきも随分と大胆になった。最初はこわごわだったのに。それでいて注意深くて、安心する。それに私も……)

みほ「かゆいところはありませんかー?」

麻子「んぶ」

みほ「ふふふ、よーござんすねー」

麻子(楽だ。何も言わなくても汲んでくれる。私には無駄に考える癖があったのが良く分かる。何も考えなくて良いというのは、絶対に守られているというのは、快い………)

ゴオオオーー……カチッ

みほ「はい、おしまい。……眠い?」

麻子「む………」

みほ「うん、ねんねしましょう」

麻子「ぶ」

みほ「よっ、と………」

とん、とん、とん、とん……

麻子(…………あ)

麻子(ああ、この感覚……そうか、この感覚は。………もう少し、もう少し背中が広ければなぁ)

麻子「ぶ………」

みほ「……麻子?どうしたの?」

ぎゅ

麻子「んぶ……」

みほ「………ま、麻子さ………はいはい。しょうがないですね」

麻子「う、ふ、ぐっ………うああ………」

ぽろっ

コロコロ……コロン

………………

………………

………………

麻子「………す、すまん、西住さん、もう、大丈夫だ………」

みほ「……もういいの?」

麻子「ああ……すまない。背中が、あ、あんまり、あったか、く、て」

みほ「…………」

麻子「う、ぐ………」

みほ「…………」

麻子「……ふ、う、ふううう……す、すまない、今度こそ、大丈夫……」

みほ「うん……」

とん、とん、とん

カチャ

みほ「よい、しょ」

麻子「…………」

すとん

みほ「はぁぁ、重かったよ、麻子さん」

麻子「うるさいな」

みほ「ふっふふ、ルール、破っちゃったね」

麻子「いいじゃないか。もう、私たちは大丈夫だろ」

ぎゅ

みほ「あー、甘えただ」

麻子「最後の夜なんだ。大目に見てくれ」

みほ「そっか、最後かぁ……色々あったね」

麻子「全くだ……寄港の時、嫌々散歩しにいった公園でくそガキ共に絡まれたのはきつかったなぁ」

みほ「ねー。結局みんなで砂遊びしちゃったけど」

麻子「あれでふっきれたな」

みほ「うん。麻子さんすごかったよ。もう、振る舞いが完全に幼稚園児だもん」

麻子「私は一歳だろう?天才児だ」

みほ「ふふふ、違いないね。お風呂も、シャンプーハット欲しがるし」

麻子「あれはいいなあ。素敵だ、ぞ、ふぁ……」

みほ「ほんと?今度、使ってみよっかな」

麻子「ぁふ、ふふ、ああ、おすすめだ………」

みほ「うん………」

麻子「……………」

みほ「……………」

そっ

麻子「ん……」

みほ「ふふふ、大丈夫。寝付くまで、ちゃんとみといてあげますよ」

麻子「うん………」

みほ「素直。いつも、このくらい素直ならーーー」

麻子「………?……西住、さん?」

みほ「このくらい、素直なら……あなたはやんちゃで……」

麻子「………?」

みほ「…………」

(はいはい。寝付くまで、ちゃんとみといてあげるからね)

(いつも、このくらい素直ならいいのに。あなたはやんちゃで困るわ)

(ううん、いいのよ。それでいい。みほは、うちの坊ちゃんだもんね)

(ねーんねーん、ころーりーよ、おこーろーりよー)

みほ「ぼーやーは………よいーこーだ………」

麻子「ど、どうした……?」

みほ「…………麻子さん………私………どうしよう、私…………」

麻子「…………」

みほ「なんで………なんで今頃になって…………」

麻子「……………」

みほ「……………」

ーーーーーーーーーーーー

とりあえずここまで
読んでくれてありがとうございます

100レス超えちゃった……

みほ「初子」

パン!

麻子「………!」キッ

みほ「なんですか今の調練は。そんなことで、鬼畜敵兵からこの国を守れますか。その為の技と道を示せますか」

麻子「……お言葉ですが。今や航空機の時代。戦車など燃料食いの無用の長物だからこうして……」

バシン!

麻子「ぉっ、ぐ……!」

みほ「初子!言葉に気をつけなさい!貴女はその戦車に食べさせてもらっていると言って良い!!」

麻子「くっ、そ、ババア……!」

みほ「汚い口を……蘭子!こやつを土蔵に繋げておきなさい。頭が冷えるまで」

ねこにゃー(頭ベール)「は……」

麻子「ババア!私は人殺しも、その手伝いも!絶対絶対しないぞ!!ババア!ババアーーッ!!」

みほ「ふん………」

みほ「…………」

みほ「…………」

ごそごそ
サッ
ぱかっ

みほ「………全然いけるわよね」

パン!

みほ「!」

紗希「……ありがとう……ダメ出しします」

麻子「ふっふ、西住さん、コンパクトか、なるほどなあ」ヒリヒリ

みほ「えへへ。あの、麻子さん大丈夫?」

麻子「なに、気にするな。おばあのガチビンタのがすごいぞ」

みほ「ふふっ、そっか。ごめんね、お願いね」

紗希「…………」

妙子「す、すごい!すごいよ先輩達!」

カエサル「冷泉さん、前よりずっと血が通ってるというか……ちゃんと娘だな。それも激情家の……」

桂利奈「西住先輩も前よりずっと怖いけど、怖いのに、なんだろう、怒ってるだけじゃなくて……」

ぱさり

ねこにゃー「横から見てたけど、ほんとに親子みたいだにゃ……」

麻子「………」

みほ「………」

エルヴィン「普通巷の高校演劇ってのは、こんなに演技できるものなのか?」

おりょう「まるで姫川亜弓と北島マヤぜよ……」

「「「恐ろしい子……!!」」」

桂利奈「私、お兄ちゃんに連れられて何度かプロのお芝居見に行ったことあるけど、それですらピンキリだったよ。すごいよ!」

麻子「ああ。まぁな」

みほ「うん……」

紗希「…………」

桂利奈「あれっ、紗希?」

紗希(上手くいったということは、二人の傷を抉ったということ。楽しんでいる人を見るのは面白いが、往々にして傷ついている人の方がずっと……。でもそれは……)

紗希「………うん、………とても、良かった………」

カエサル「演出……?」

妙子「ま、まさかまだ不満が……」

紗希「…………」

麻子「なんだ、丸山、その顔は」

紗希「!」

ねこにゃー「れ、冷泉さん?」

みほ「…………」

麻子「言っておくが、私たちの心配なら無用だ

紗希「…………」

麻子「……お前がどこまで見抜いているか、私たちの事情を何故知っているかは知らんが……お前にも共通するものがあるんだろう。だから、あの荒唐無稽な策を提案した」

紗希「………ごめんなさい。……私の……エゴ」

麻子「勘違いするな。今日から私は、私がやりたいから参加するんだ」

紗希「え」

ねこにゃー(ち、遅刻魔の冷泉さんが!)

カエサル(いっつも眠気を隠そうともしない冷泉さんが!)

妙子(お目目ぱっちり!)

麻子「……二人がいなくなってから初めて、ようやく私の気持ちに折り合いがつきそうなんだ。演劇の魔力とかいうものか」

エルヴィン「魔力か……」

左衛門佐「よく分からんが、言い得て妙だな。三日やってはやめられぬ……」

おりょう「大根筆頭の私たちがいっても毛ほどもかっこつかんぜよ」

カエサル「はは、違いない」

麻子「………お前も、その可能性を考慮にいれてはくれていたんだろう。答えの出る過程の、副産物を」

紗希「……!」

みほ「多分、紗希ちゃんも似たような経験があるんでしょ?だから、私たちにあそこまで効果的な指示ができた。……違う?」

桂利奈(えっ)

紗希「それは…………でも」

麻子「くどいぞ。お前は我々に指示をした。そして我々はそれに乗った。結果舞台には良い影響が出た。違うか」

紗希「…………(ふるふる)」

みほ「なら、良いんだよ。私も、紗希ちゃんに感謝してる。……大切なものに、周りの傷ごとかかってしまっていたかさぶたを取れたから……」

紗希「………ありがとう、ございます」

麻子「ふん。礼を言うには早いだろう。私は私がやりたいだけだしな」

紗希「…………」

妙子「先輩………ベジータみたい」

桂利奈「ぶっ!」

麻子「な゛っ」

みほ「んふふ……私も、今のものの言い方が古い友達にあんまりそっくりで笑っちゃうよ」

麻子「なんでぇ!」

カエサル「おや?随分甘えっぽいなぁ」

おりょう「あれ?冷泉ちゃん?どうしたんぜよ?」

ねこにゃー「よしよしにゃー」

麻子「むぐぐ……貴様らぁ……!」

紗希「………ふふ」

紗希(良かった………良い、チーム)

紗希(これなら、きっと守れる)

紗希(紗々子さん。見ていてね。私達の演劇道)

ーーーーーーーーーー

じりじり……

優花里「五十鈴殿、ストップ、ストップです」

華「まぁまぁまぁまぁ優花里さん。あと三つ。三つしか……三つもありますよ?」

優花里「ええ。そして元々は10個ありました」

華「………」

優花里「どなたか存じませんが私がお茶を汲みにほんの少し目を離した隙にですよ。7つ。7つなくなりました」

華「……現在窓の鍵は閉められておらず、生徒会室には雨樋を伝って入ることができる、つまり……」

優花里「ばりっばりの内部犯ですよ!クリームがほっぺに付いてんですよ!!」

華「えっ。……ペロッ……これは、フレンチクルーラー……!」

優花里「やかましい!コンビニにミスドが入ってくるの超レアなのに!あなたって人は!あなたって人は!!」

華「いえね?ドーナツがですよ?私に食べて欲しいとですね?」

優花里「もおおおお!!絶対残りは武部殿と私とで一個と半分こっこしますから!!絶対しますから!!」

華「なんで!三つあるんだから等分すればいいじゃないですか!不公平です!!」

優花里「どの口が言いますかぁぁ!!」

ガチャ!

沙織「ゆゆゆゆゆかりん!はっ、はっ、華!みっ、見て見て見て!」

優花里「おかえりなさい!!(ブチ切れ)」

華「あら、沙織さん、雑誌ですか?ゼクシィって今日発売でしたっけ」

沙織「ゆかりんなんで怒ってんの……ってちがうよ!これこれ!」

優花里「あ!月刊戦車道ですよね!」

沙織「そう!そんで、ここ!」

華「なになに、今どき女子は戦車女子、戦車道と女子力に密接なカンケイ……」

沙織「えっ、そんな記事あるの!?見せて!」

優花里「もー、五十鈴殿!武部殿をからかわないで……って、ああ!この記事!!」

『あの大洗女子が新たな挑戦!大河ドラマ「鉄の道」の舞台化へ!』

華「えらいこっちゃですね」

優花里「えらいこっちゃじゃないですか!?」

沙織「えらいこっちゃだよ!!ニッチな需要とはいえ全国規模で宣伝しちゃったよ!!」

優花里「わ、わ、西住殿、凛々しい……。あ、冷泉殿かわいいですねぇ」

沙織「こら、ゆかりん写真ばっかじゃなくて本文も読みなよー」

華「素晴らしい……沙織さんが話をつけてくれたおかげですわ」

沙織「えへへ……じゃなくて!そう!予約!予約がすごいの!」

優花里「?いいことじゃないですか」

華「元より望むところでしょう?」

沙織「もおおお!月刊戦車道の人がわざわざ予約窓口も載せてくれたおかげでね!ちょっと前からチケット薄がヤバいの!!もう満席まで出てるんだから!!」

華「まぁ。結構ステージ数用意したのですが……あ、大黒字ってことですか?」

沙織「そうそう!へへへ、叙々苑叙々苑……じゃなくて!招待券とかどうするの!」

華・優花里「え?」

沙織「んぅ~~~、ばか!!学校の子達とかパパとかママとか呼べないじゃん!!!」

華・優花里「あっ!!」

沙織「どうする?ねぇ、どうする!?メンバーの子達の親御さんもお友達もまだ全然呼べてないでしょ!」

優花里「どどどどうしましょう!?わ、私もお父さんお母さん呼びたいです!どうしましょう!!」

華「落ち着きなさい二人とも。華道の呼吸をしましょう。はい、ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

沙織・優花里「ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

華「あ!生まれましたぁ、元気な女の子ですよ。ほら(ショコラフレンチ)」

ずるっ……

沙織「あ、あのね、華……」

優花里「もおお、五十鈴どのぉ……」

華「落ち着きました?」

沙織・優花里「!」

華「慌てても良いことは一つもありませんもの。さ、糖分を入れて話し合いましょう」

沙織「………もう、やっぱりなんだかんだ会長なのよね」

優花里「ええ。なんだかんだ頼りになります。それ買ってきたの私ですけどね。……五十鈴殿、それは武部殿にあげてくださいね」

華「もちろんですわ。ハイ、沙織さ…………」

沙織「………?」

華「……………」

むしゃ

華「ふぁい、ろうぞ」

沙織「あ、ありがとう」

優花里「なんで渡す前にちょっとかじったんですか!」

華「んぐ、ど、ドーナツが……」

優花里「まだ言うか!まだ言うか!」

華「むぐぐ」

沙織「はいはい、とにかく、対策会議ーー!!」

ーーーーーーーーーー

それから侃侃諤諤の会議が行われ、結局メンバー全員の同意と日程調節を取り、ステージ数を増やして、そこには関係者を優先的に入れることとなった。

舞台スペースをちょっと削ったら今のままでも客席が増やせるでしょのパゾ美と、ふざけんじゃねぇむしろ客席をもう一列寄こせの自動車部(主にホシノ)とのバトルがあったり、(大怪獣パゾ美VS特攻のホシノ事件)

招待券を出す範囲の話で、仲良しだからという理由でサンダースとアンツィオの知り合い全員に招待券を出していいか聞く優花里にパゾ美が関節技をかけたり、(ウォーズマンパゾ美事件)

黒森峰に4枚以上招待券を出そうとするとやたら恐々とするみほをあんこうメンバーが宥めたり、(これは美談)

チケット管理、客席整備の大切さを説くパゾ美にメンバー全員がひれ伏してみたりと、(ゴッドパゾ美事件)

色々なことがあったが。詳しいことは想像にお任せする。

そして月日は流れ、いよいよ本番の日を迎える。

ーーーーーーーーーー

開演直前です!


沙織「いよいよ、この日がやってきたね」

華「ええ。本番初日……魔が住むと言われているそうですね」

優花里「ここまで本当に大変でしたねぇ。予算は結局上乗せでしたし、寄港から外部の方の誘導、交通整備、関係各所へのお礼と招待券の配布……」

沙織「広報も超大変だったけど、月刊戦車道効果すごかったし、他の高校の人達もいっぱい来てくれるし……あとは、追加ステージが今日の出来次第で完全に埋まってくれるか、ってところかな……」

華「しかし誤算だったのは、我々が忙しすぎて、結局今日の今日まで一度も完成形を見れなかったことですね」

優花里「だから今日、関係者席で見れるんじゃないですか!生で舞台を観るのも初めてですし、すっごい楽しみですよぉ」

沙織「……き、緊張して、肩にきてる」

華「?何故です?」

沙織「だって、私すごい宣伝してきたからさ……これで万が一にも、ちょっと面白くなかったらと思うと……」

優花里「だ、大丈夫!月刊戦車道の記者さんも絶賛していましたし、きっと大丈夫ですよ。それに、あの西住殿も冷泉殿もいますし、演出さんは元天才子役ですし……」

華「お二人とも、不安なのですね」

沙織・優花里「う……」

華「信用、出来ませんか?」

沙織「ち、違うよ!でも、だってやっぱり、私たち素人なわけだし……」

優花里「わ、私たちが面白かったとしても客観的にどうなのかわかりませんし、下手したら大洗がずっと馬鹿にされたり……」

華「……不安ということは、お二人がそれだけ、この舞台に時間と手間をかけたということ」

沙織・優花里「!」

華「私も、その気持ちは良く分かります。けど、それと同時に、限りなく楽しみなんです。……開場前の全体集会の時のみなさんの顔、見ましたよね」

沙織「………うん」

優花里「……みなさん、目がほんとにキラキラしてましたね。自信とやる気で……」

華「ええ。あの顔だけで私たちには成功のようなものです。優花里さんが予算をかき集め、沙織さんが広報をし、出来た環境でみなさんが真剣に毎日頑張ったから、あの顔がある。……今は、一観客として、開演が本当に待ち遠しいですわ」

沙織「華……」

優花里「……私たちが頑張れたのは、会長が私たちをしっかり見てくれて、大事なことは全部判断してくれたからです」

華「ふふふ、ありがとう。でも、こういう話は打ち上げまで取っておきましょう。ほら、お迎えですわ」

パゾ美「ご招待の五十鈴様、武部様、秋山様でよろしいですか?」

沙織「はっ、はい!」

パゾ美「お席にご案内します。場内暗くなっておりますので、足元にお気をつけくださいね」

優花里「ふぉぉ、選手でないというのは、不思議な心持ちですねぇ」

華「よろしくね、パゾ美さん」

パゾ美「はっ、はい。では、こちらに」

………………

優花里「わぁ……!」

沙織(ははは華!人!人いっぱいいる!)

華(満席ですからね。……おや、男の方も普通にいらっしゃいますよ?普段は男子禁制。今しかないのでは?)

沙織(そっ、そんな余裕ないよぉ!)

優花里「ん?あっ!」

まほ「おや」

エリカ「げ……(黙ってなさい)」シー

優花里(ふりふり)

沙織(ゆかりんどしたの?)

優花里(えへへ、まほ選手と逸見選手、来てくれてました!)

沙織(おーー!!)バッ

華(あらあら)チラッ

エリカ「あいつら……」

まほ「ふふ、いいじゃないか。かわいらしい。関係者席が妙に良いところにあると思ったら」

エリカ「ふん、客をさし置いて最前列なんて、烏滸がましいですよ」

まほ「いや、一番芝居を楽しめるのは、まさに我々の座っているこちらの席の辺りだよ。分かっている者がいるらしい。ありがたいことだな。ほら、見知った顔も多い」

エリカ(……隊長、あの……あちらの席に)

まほ「……エリカ。私は一観客として芝居を観に来ただけだ。水を差すな」

エリカ(す、すみません。でも、あの……)

まほ「あの人もたまには気まぐれを起こすということだ。他意はない」

エリカ(………)

まほ(……ああ、エリカ、そんな顔をしないでおくれ。……お前も楽しめ。なんといってもみほが出てるぞ)

エリカ(か、関係ありませんよっ)

まほ(ふふ。かわいいやつ。……さぁ、前説のようだ。静粛にな)

ーーーーーーーーーーーー

あとには退けない戦いです


紗希「……みなさま。本日はお越し頂きまして、誠にありがとうございます。上演に先立ちまして、いくつかお願い事がございます」

紗希「まず、お喋りは、お控えください」バッテン

紗希「また、(ごそごそ)おタバコ、(ごそごそ)お食事もお控えください」ぽーい

まほ(おお)

エリカ(手品かしら、あんなデカイタバコとチキンの作り物、どこから)

紗希「お飲み物は、場内乾燥しますので、ご自由にどうぞ」マル

紗希「携帯電話は、音や振動の出ないマナーモードにするか、電源を切るか」

ごそごそ

紗希「こちらにお預けください。(ごそごそ)確実です(カチッ)」ギュイイイイイ

まほ(ふふ)

エリカ(あれネジ回すやつ?確実ってそりゃそうでしょ……)

紗希「……今回のお話は、日本の近代戦車道の起源に纏わるお話です」

紗希「お堅いテーマですが、硬くならず、ゆる~くご覧になってください。90分、休憩は御座いませんので、……ね」

紗希(にっこり)

優花里(ああ、紗希ちゃんがぺらぺらと……!)

沙織(ううう、紗希ちゃん立派になって……)

華(時折挟まれる間がいい味出してますねぇ)

紗希「地震、その他災害時には、あちらとあちらに非常口がございます。我々が誘導致しますので、上演中止の合図までは、勝手に動いたりすることのないよう、お願い致します」

紗希「また、お席の座布団には、防災頭巾が仕込んであります。有事の際にはこのように、(ごそごそ)防災頭巾を取り出して、頭に被ってください」

スッ……

紗希「少し恥ずかしいかもしれませんが、命は何にも代え難いものですから」

ウウウウーーー

ウウウウーーー

途端にサイレンが鳴り出し、
場内が一気に真っ赤になり、俄かに緞帳の裏、客席の横、後ろが騒然とし始める。

空襲だ!!!

早く防空壕へ!!!

紗希「……………」

パゾ美「あなた!!何してるんですか!!早く!!!」

グイッ!

紗希「あ…………」

たたたたた

サイレンと罵声、悲鳴、爆発音がけたたましさを増す中、焦燥を煽るような短調のBGMが徐々に入りだし、照明がだんだんと落ちていき、完全に暗転する。

まほ(ほう……)

エリカ(ドキドキしてきた)

沙織(は、はじまる!)

優花里(心臓が飛び出そうです!)

華(みなさん……)

幕が開ける。

ーーーーーーーーー

一旦ここまでです
読んでくれてありがとうございます。励みになります

舞台も終盤に差し掛かった。
書類や薬莢、サトウキビの残骸が散乱した舞台の上で、麻子とみほが対峙する。


麻子「……II号をお借りします」

みほ「待ちなさい、初子!!」

麻子「聞けません。私はもう。……あなたの言葉は聞きません」

みほ「お……愚か者!!あなた一人に何ができるの!!!」

麻子「その為の戦車でしょう!?」

みほ「そういうことではない!!」

麻子「戦車は、火砕流の中をも進む。教えてくださったのは……あなたです」

みほ「!」

麻子「……さようなら」

みほ「初子!!」

みほ「…………」

みほ「い、行かないで……!!!」

力無く崩折れたみほを残して舞台上が暗転し、けたたましく艦砲射撃と機関銃の砲声、悲痛な悲鳴が聞こえてくる。
10秒ほど経つと銃声ともに時折フラッシュが焚かれ、その度に煙を吹く八九式を盾にして機関銃を構える妙子、桂利奈、カエサルがチラリと見える。

桂利奈「おかあさあああああん!!!」

妙子「踏ん張りなさい!!!一秒でも長く食い止めるのよ!!!」

桂利奈「死にたくないよおおおおおおお!!!」

妙子「ぐっ……!!」

カエサル「そよさん、そよさん」

妙子「何!?鈴木さん、聞こえない!!!」

カエサル「弾、無くなっちゃった」

妙子「何!?聞こえないって!!!」

カエサル「弾!!無くなっちゃった!!!」

妙子「馬鹿!!!ちゃんと頭だして狙わずに撃つからですよ!!!」

カエサル「………だって、怖いんだもん!!」

妙子「馬鹿!!!それでも玉付いてんの!!?」

カエサル「くっ、悔しいけど、付いてるよ」

妙子「はぁ!?聞こえない!!!」

カエサル「付いてます!!!」

妙子「はぁ!!?」

カエサル「…………そよさん!!!好きでした!!!」

妙子「へっ!?」

カエサル「ぼ、僕が特攻から逃げたのは、きっとあなたに会うためだったんだ」

すっく
でろん

フラッシュが焚かれて、冗談かってくらい内臓をはみ出させまくったカエサルの姿が見える。

妙子「わっ!!!あなっ、あなた、お腹、それ、だ、大丈夫って」

カエサル「ご、ごめんなさい。また、つまんない嘘ついちゃったんだ」

妙子「な、なんで」

カエサル「そよさん」

機関銃の音と共にストロボのようにマズルフラッシュが起き、コマ送りでキスが見える

妙子「!!!」

カエサル「すごい。接吻って、美味しいんですね」

妙子「す、鈴木さ」

砲声が一瞬止む。

カエサル「!!!!!」

妙子「あ」

カエサルが手榴弾をいくつも抱えて走って行く。
何発かの銃声のあと、大きな爆発音がして、近くから聞こえてくるのが艦砲射撃の着弾音だけになる。

妙子「!!!あ、ああ、あ……」

ゆっくりと照明がついていく。
妙子がへなへなと座り込んでしまう。

桂利奈「…………」

妙子「か、かりなちゃ……そんな………」

ギャラギャラギャラギャラ………

麻子「お姉!!!お姉ーーーっ!!!」

一回りほど小さいII号戦車が、はけ口付近を豪快に壊しながら現れた。

舞台半ばで止まると、キューポラから麻子が躍りでる。

妙子「は、初子……」

麻子「み、みんなは……?」

妙子「みんな死んじゃったわ。みんな死んじゃった……死んじゃった……」

麻子「か、かりな……!?かりな……ああ……!!!」

妙子「杉山さんも、野上さんも、里子にーやんも、す、す、鈴木、さんも、み、み、みんな……!!!」

麻子「そ、そんな……そんな………」

妙子「あ、あ、あんたのせいよ」

麻子「え」

妙子「あんたが、あんたが、遅いから」

麻子「う、うう、ううううう!!!」

妙子「泣きゃいいってもんじゃないでしょ!!!そうやって泣けばいっつもいっつも私か誰かが守ってくれると思って!!!」

麻子「ごめんなさい、ごめんなさいお姉……!!!」

妙子「なんで来たの!!!お母様と一緒に隠れてれば良かったでしょう!!!」

麻子「だって、だってお姉達が、お姉達ともう会えないって思って……!!!」

妙子「お姉お姉お姉お姉って……私はあんたの姉じゃないっつーの!!!」

麻子「え!!!」

銃声が再び近づいてくる。

妙子「!!初子!!!乗りなさい!!!」

麻子「おね、え?え?」

妙子「早く!!!」

二人がII号に乗り込むと、II号の正面装甲が二つに分かれ、タイツ姿の足が生えて舞台袖に引っ込んでいき、客席から中の様子が見えるようになる。
砲声が少しだけ遠くから聞こえるようになる。

妙子「くっ、II号なんて、紙装甲も良いとこじゃないの。風が吹き抜けるような気すらするわ」

麻子「おね、おね、お姉、さっきのは……」

妙子「私、貰われっこなのよ」

麻子「え!!!」

妙子「あんた、自分の名前に何も思わなかったの?」

麻子「…………?」

妙子「初めての子だから初子なんじゃない」

麻子「え!」

妙子「跡取りはまだかまだかって急かされに急かされたお母様が取った緊急手段、それが私。おばあさまは私に妙にきつかったの、覚えてるでしょ」

麻子「そ、そんな……」

妙子「お……、あの人が私に隊長の方を任せたのも、あんたにばかり厳しかったのも、私には妙に甘かったのも、ずるいって言ってたわよね?結局あんたに継がせるためよ」

麻子「!!」

妙子「カレーがいつも甘口だったのも、卵焼きがバカみたいに甘かったのも、あんたのせいよ」

麻子「そんな、そんな」

妙子「!停車!!」

麻子「!!!」

近くから着弾音が聞こえる。

麻子「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!!」

妙子「前進!!!逃げるわよ!!!」

麻子「ど、どこへ」

妙子「………とにかく動きなさい!!!」

先ほどまでに油圧でほんの少し車体が持ち上げられ、戦車の位置はそのままに、キャタピラが動いている。

麻子「…………」

妙子「…………」

砲声がどんどん大きくなる。

麻子「!!ふっ、ふっ、ふっ、くぅ……!」

妙子「…………私、あんたのこと、嫌いだったわ」

麻子「!!」

妙子「だいっ嫌いよ、だいっ嫌い!!べたべたべたべたくっついて回ってきて」

麻子「え………」

妙子「ど、どこに行くにもちょろちょろと……!」

麻子「…………」

妙子「こんな家に引き取られたせいで恋愛もろくに出来ないわ才能もない戦車やらされるわ……あんたは最初からいつもちょっと遅いし……。お母様も取ってくし……前を見なさい!!!」

麻子「!!」

妙子「ああ、くそっ!……あんたなんか!私が本当の娘だったらっていつも思ってた!!」

麻子「じゃあなんで、あんなに優しくしてくれたの!!」

妙子「ばっ、だから、前!!!」

麻子「!!」

唐突に舞台が陥没し、II号が思いきり傾く。
麻子が半狂乱になってペダルとレバーを動かすが、キャタピラははまり込んでいて動かない。

麻子「あ、あ、あ!!!」

妙子「ぐっ…………初子、落ち着きなさい」

麻子「………でも、でも……!」

妙子「ゲホッ……ああ、ほんと、心配だわ……初子、この先一人で大丈夫かしら……」

麻子「そ、それ」

初子「……これを、使いなさい」

妙子が首に巻かれた白いスカーフをしゅると外し、麻子に手渡した。

麻子「うん!」

妙子「待て!!!傷口に当てるんじゃないの。……私はいいの。絶対そのままにしときなさい」

麻子「な、なん……」

妙子「戦車服脱いで。制服だけになりなさい」

麻子「え?」

妙子「いい?あんたは巻き込まれた民間人」

麻子「えっ」

妙子「それさ、後ろにショベルあったでしょ。括り付けなさい」

麻子「待って!!」

妙子「聞きなさい」

麻子「…………」

妙子「あんたにこれから何があっても、あんたは生き延びなきゃいけない。気を、強く持つこと」

麻子「…………」

妙子「……お母様の子なんだから。あなたが死んだら、お母様はきっと悲しむよ。……私も悲しい」

麻子「………!お姉……!」

妙子「……結局お姉なのね。初子」

カチャ

麻子「お姉、待って」

妙子「ごめんね初子。私のかわいい妹。……大好きだったわ」

麻子「待って!!」

麻子はひっつかんで止めようとするが、妙子はそれより早く外に出て行ってしまう。
呆然とする麻子。
銃声が何発も聞こえ、遠くなり、静かになる。

舞台が暗くなっていく。

麻子「っく、ふ、うう……!!!」

『デテコイ、デテコイ、デテコイ』

麻子「!!!」

スピーカーを通して、加工されたカタコトの音声が流れてくる。
麻子はレバーを取りそうになった手を止め、引き戻し、シャベルを引っ掴むと、持ち手のところにスカーフを結びつけ、少しの躊躇のあと、キューポラからそれをおずおずと差し出した。

『…………』

麻子「…………」

『デテコイ、デテコイ、デテコイ……』

暗転。
音声が、段々と水の中から聞こえてくるように変わっていく。

照明が明けると、散乱していた書類などは綺麗になくなっており、II号も消えている。
八九式は幌をかけられ、飛び出た部分と舞台脇のトラスとで洗濯物を掛ける紐が繋がっている。
女性物の服がふわふわとはためいている。
麻子が、制服ではなくワンピース姿で、ぼんやりと遠くを眺めている。



兵士(パゾ美)「1623番!!1623番の方!!!」

麻子「私です」

兵士(パゾ美)「1623番で、間違いないでしょうか?」

麻子「はい」

兵士「……残念ながら、お母様のいた壕は、最後まで抗戦されて……」

麻子「!!!」

麻子「……そうですか」

兵士「あの、これ、お手紙です」

麻子「手紙……?」

兵士「はい。東出絢子様から、しばらく前に、本土から配達のご予約を……」

麻子「!」

バッ

兵士「お、っわ」

麻子「あ、ご、ごめんなさい。お勤めご苦労様です……」

兵士「い、いえ……。痛み入ります。では、私はこれで」

兵士がはけていくのには目もくれず、麻子は手の中の手紙を見つめる。

麻子「…………」

スッ

ぺり、ぺり、ぺり……

麻子「………初子へ」

麻子「この手紙が届いたということは、私はあなたに会えなかったということでしょう。船の事故か、空襲か。叶うのなら、もう少し、ちゃんと大きくなるまで見てあげたかったけど。こういう時勢ですから、仕方ないと、強く生きてくださいね」

麻子の身体が強張る。

麻子「初子。身体は無事ですか?ちゃんと食べられていますか?もし話せていたら、最後の内容は?なんでもない会話なら、本当に嬉しいわ。……私たちのことをたまに思い出してくれていたら良いのですが、まあ、そうは行かないでしょうね」

気づくと、舞台が麻子へのスポットと、後ろをくっきり分けて照らしている。

麻子「目を閉じれば今でも浮かんできます。あなたを初めて抱いた時の重み。暖かさ」

ガラガラガラガラ

唐突にストレッチャーが入ってきて、後ろでシーンが始まる。

ねこにゃー(手術着)「東出さん、落ち着いて。ひっ、ひっ、ふー。ひっ、ひっ、ふー」

みほ「ひっ、ひっ、ふうううう、ひっ、ひっ、ふう゛う゛う゛うううあ゛あ゛あ゛ああああ」

カエサル(スーツ姿)「絢子さん。頑張れ、頑張れ!」

みほ「う゛るせえ゛え゛え゛え゛え゛!!!」

カエサル「」

左衛門佐(手術着)「まだよ、まだ、まだ」

みほ「あ、だめ、死ぬ、うあああああああ!!!西瓜があ!!!西瓜がでてきあああ!!いだいいだいいだいしぬう゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」

カエサル「絢子さん!大丈夫!大丈夫だから!!」

みほ「鼻に西瓜つめたろかああああああ!!!」

カエサル「」

ねこにゃー「あ、頭が出てきた!!!」

みほ「あ゛う゛!!!」

シュポーン!と小気味いいSEが鳴る。

ねこにゃー「生まれた!生まれましたよ!」

左衛門佐「元気な女の子です!」

ねこにゃーが麻子によく似たぬいぐるみを抱き上げる。
ぬいぐるみには普通に髪の毛も服も付いている。

みほ「はああああ……!!」

カエサル「あ、絢子さん、絢子さん……!!!」

ねこにゃー「はい、絢子さん」

そっ

みほ「………!!!う、う……!!!」

カエサル「ああ、この輪郭!耳!君にそっくりだよ、絢子さん、ほら!」

みほ「め、目は、あなたにそっくり。か、かわいい。天使だわ」

カエサル「ぼっ、僕にも!僕にも抱かせてくれ!!!」

みほを乗せたストレッチャーごと、四人がはけて行く。
それをずっと見ていた麻子が、震える。

麻子「毎日が驚きの連続でした。あなたはおかあさん、おねえ、わんわんと言葉を覚えて、お父さんはペロにとっても嫉妬していました」

カエサルとエルヴィンが走り込んでくる。

エルヴィン(きぐるみ姿)「わんわん!!!わんわん!!!」

カエサル「待てこら!ペロ!!私ばっかり舐めやがって!!今日こそ分からせるからな!!!」

エルヴィン「わんわん!!!わんわん!!!」

カエサル「待てーー!!」

麻子「ふふ……」

麻子「大きくなるとあなたは、お姉ちゃんといつも遊んでいました。やんちゃなあなたはお姉ちゃんをいつも困らせて、いたずらしてはお姉ちゃんが代わりに謝っていました」

オーバーオールを着た妙子と、みほが出てくる。
妙子は麻子のぬいぐるみを抱きしめている。

妙子「ふふふ」

みほ「そよは、初子のことが大好きね」

妙子「うん!!」

みほ「初子は、やんちゃで困るわ」

妙子「私がその分しっかりするからいいもん!ね?」

みほ「ふふふ。初子は?お姉ちゃんのこと好き?」

みほと妙子がぬいぐるみに耳を傾ける。

みほ「大好きだって」

妙子「えへへ、初子ぉ。お姉がずっと一緒だよ」

妙子がぬいぐるみを優しく抱きすくめる。
みほが妙子をそっと撫でる。
妙子は不思議そうに見上げると、にこにこと笑った。

麻子「………!!」

麻子「あ、あなたが薙刀を始めると言ったのも、戦車を始めると言ったのも、全部そよを追いかけてでしたね。あなたは本当にお姉ちゃん子でした」

麻子「………ね、願わくば、あなたが戦車をやり始めるなど、い、言わなければ良かった。そ、そよ、が長女で、あなたが、次女で、それで、本当は、良かった」

麻子「私は、良い母では、無かったかも、しれません。でも、あなたたちを、あ、あ、愛して………!!!」

麻子の後ろから、みほが照明の境界を越えて抱きしめる。

麻子「お、おかあさん……!」

みほ「うん」

麻子「おかあさん……!!」

みほ「うん」

麻子「おかあさん……!!!」

みほ「……うん」

麻子「な、なんで……!!」

みほ「…………」

麻子「ご、ごめんなさい、私、私、ひどいことを」

みほ「……知っているわ」

麻子「!」

みほ「私は、あなたが、私たちをほんとうに大切に思ってくれていたことを知っている。もっと、ちゃんと甘えようとしてくれていたことも知っている」

麻子「……お、おかあさん、なの?」

みほ「……死んだら、いなくなるわけではないのよ。いなくなるわけではないの」

麻子「…………」

みほ「生きなさい、初子。それが一番の親孝行よ」

麻子「………うん……!!」

みほ「良い子……」

麻子は泣きながら、幸せそうにみほに身を委ねる。
段々とスポットライトが消え、舞台が暗転していく。

うっすらと光る時刻表が、カタカタと音を立てて回り続ける。

カタカタカタカタ

カタカタカタカタ

パタン

時刻表が、現在の年次を指す。

再び照明がゆっくりつくと、みほと麻子が、ゆっくりと立ち上がり、礼をする。

少しの間の後、嵐のように拍手が起こった。

華「………!………!!」

沙織「お、おぐっ、うう……」

優花里「ふうううう、ううう……」


みほと麻子が、涙の跡を隠そうともせず、すっと前を向く。
はけ口から、役者達が入ってくる。
全員で横並びになり、手を繋いだ。
拍手が一度、静かになる。

麻子「ありがとうございました」

ありがとうございました!!!

一層大きな拍手が起こり、端から一人一人手を離して思い思いに役者がはけていく。
最後に、麻子とみほがそっと手を離して、麻子がはけ終えてからも、拍手はしばらく続いていた。


まほ(みほ。お前は……)

エリカ「ふうううう、えぐ、う、うふう、ううう……」

しほ「…………」

菊代「しほちゃん、良い劇だったね。はい」

しほ「………あり゛がとう」


ーーーーーーーーーー

一旦ここまでで一区切りです

間が空いてしまいましたが、読んでもらえてたら嬉しいです
ありがとうございます

打ち上げ、それは本当に大事なことだね


華「……みなさん、杯は満たされておりますか?」

はーい!!!

華「ふふふ。……では、乾杯の挨拶を、演出の紗希ちゃん。お願いします」

紗希「え」

あや「よっ!待ってました!」

優季「演出家ぁ」

紗希(おろおろ……)

みほ「紗希ちゃん、思うままに、だよ?」

麻子「そうだ、お前が良く言ってたダメだしだぞ」

紗希「う………」

…………

紗希「みなさん、本当に、お疲れ様でした。ホール、守れそうです。………ありがとうございました」

・・・・・

桂利奈「えっ」

エルヴィン「終わり!?そりゃあないぞ演出!」

ねこにゃー「そっ、そうにゃ、こっちは積もる話が積もりつもってるのに、紗希ちゃんがそれじゃ困るにゃあ!」

カエサル「な、なんかあるだろ、なんか」

左衛門佐「思い出話のひとつやふたつ!私はあるぞ!坂口がセリフを」

桂利奈「もんざさぁん!!」

おりょう「ほれほれ、私たちの腹筋も涙腺も準備万端ぜよ!さあさあ」

紗希(おろおろ……)

華「みんな仲良しですねぇ」

沙織「ね。ちょーっと妬けちゃうなぁ」

優花里「分かりますが、それだけ有意義な時間を過ごせたってことで」

みほ「まあまあみんな。この後紗希ちゃんと一人一人お話しようよ、ね?」

麻子「そうだ。うちの演出はこういう感じが苦手なことくらい、分かるだろう」

妙子「ねー、それより早く乾杯しよ?お腹もうぺこぺこだよ」

おお………

おりょう「さすが妙子……」

左衛門佐「逆にすごい。逆に空気読まない。あえての妙子」

妙子「へ?」

みほ「ふふっ」

麻子「ふふふ……いいぞ近藤。さ、丸山」

紗希「…………」

紗希(にっこり)

紗希「乾杯」

かんぱーーーい!!!

パゾ美「肉だぞーーーー!!!」

ゴモ代「お寿司よーーーー!!!」

沙織「ふおおおお……うにうにいくらまぐまぐうにうにぃ!高級ネタの宝石箱やぁ!!!」

麻子「ふふ、子供か」

優花里「ひええ、お肉がこれテレビでしか見たことないやつですよこれ!!!」

みほ「そう?」

優花里「そうなんですよ!!!」

華「いいんですか?グルメ細胞開放してしまいますよ?本当にいいんですね?」

パゾ美「もちろん、食べきれるものなら」

ゴモ代「ま、それくらい黒字に余裕があったってことです」

華「こぉぉぉぉぉ……」

沙織(か、華道の呼吸なの!?)

優花里「く、黒字ってどのくらいでした?」

パゾ美(こしょこしょ……)

優花里「ほほほほんとですか!!?」

沙織「何なになにどのくらいなの!?」

華「お金より大切なことはいっぱいありますが、あって困るものではありませんよねっ」

優花里(こしょこしょ……)

沙織「ひえっ……!」

華「こ、これは、色んなこまごました問題にカタがつきそうですねぇ……」

沙織「で、でも、チケットだけじゃ足りなくない?なんでそんな……」

パゾ美「それはですね……」

よーみんなー

沙織「あ!」

優花里「あ!」

華「杏ちゃん!!」

え!

あっ!

杏ちゃーーん!!!

杏「えへへぇ、うーれしいねー、みんなして約束守ってくれちゃってさぁ」

華「わぁ~、お久しぶりです杏ちゃん。お受験の方は良いのですか?」

杏「いや~それがさ~…………」

沙織「えっ……」

優花里「ま、まさか……」

……………

杏「うーかっちゃったーー!!!」

イエーーーーーーーーイ!!!

あや「あっんっずっ!!!あっんっずっ!!!」

優季「さいこーかも~」

妙子「ん?あれ?河嶋先輩と小山先輩は?」

杏「あ、河嶋は前期落ちたから後期に賭けてて、小山は受かったからそれを見てやってる感じ」

エルヴィン「妙子ォ!!!」

カエサル「今回ばかりは、今回ばかりはだめだぞお前!」

左衛門佐「空気を読め!少しだけでもいい!!」

おりょう「逆の逆はお前、普通にアウトぜよ」

桂利奈「私ですらなんとなーく察したのに……」

妙子「な、なんでなんで!わっかんないよ普通~」

ねこにゃー「ま、まあまあにゃ」

典子「すみませんみなさんウチの妙子が……」

紗希「大丈夫。河嶋先輩はきっと受かる」

麻子「無責任な……しかし、そんな気もしてくるな」

みほ「うん、そうだね。とっても頑張り屋さんだし……。あの、杏ちゃん、見てくれました?」

杏「ああ~西住ちゃん。千秋楽だったんだけどね、最高だったよ~」

みほ「えへへ……」

杏「もうラストのとことかポロポロ泣いちゃって泣いちゃって、隣の小山と河嶋なんてしゃくりあげるの我慢してて……」

優花里「あれっ」

沙織「そう!いたよね!!河嶋先輩普通にいたよね!!!」

パゾ美「三人して受付の私たちに泣きながら良かった良かった言いながらササーッと帰ったのは、そういう事情だったんですね……」

杏「ごめんね~。あ、パゾ美ちゃん、売り上げどうだった?」

パゾ美「それはもう。さすが杏ちゃんです。おみそれしました」

杏「ふふ~ん」

沙織「なになに?なんの話?」

優花里「んー……あ?あぁーー、………ああ!!!そういうことですか!!!」

華「ど、どうされたんです?」

優花里「パゾ美ちゃんから屋台の出店許可とか求められたあれ、あれですよね!」

パゾ美「まさに。今回の黒字の三割強は、ブロマイドなどのグッズ販売と屋台のインセンティブです」

沙織「さ、三割強!?」

華「すごい。ということは……」

優花里「あダメ。生々しいからダメです」

華「ドーナツで言うなら」

優花里「ダメだってばぁ!!」

杏「ふふふ、わしが伝授した」

杏ちゃーーん!!!

杏「んふふん、みんなにひもじい思いはさせたくないからねぇ」

華「さすがです杏ちゃん、超永世名誉生徒会長なだけあります」

杏「なーにを仰る華会長。今回の企画、すごかったよ。私、見終えてちょっと悔しかったくらいだもん」

華「へ?」

杏「こんだけの人数を巻き込んで、みんながいきいきと活躍して……紗希ちゃんが前説してる姿でもう私、正直やばかったよね。舞台の全容が見えた時にはもうちょっと、涙腺にきてたもんね」

紗希(にっこり)

ナカジマ「嬉しいねぇ」

ホシノ「ま、実際会心の出来だしね」

杏「ねぇ、これってすごいよ華会長。君はみんなの学園生活に確かな青春を刻む、その土台を作ったんだよ」

華「杏ちゃん……」

杏「この劇のこと、関わった子で忘れる子はいないんじゃないかな。辛いことがあった時とか、なんとなく思い出してくれるんじゃないかな。こんなすごいことやったんだぞーって。……戦車道で優勝した時みたいなさ」

華「か、会長……!!」

沙織「ふええ、会長~~」

優花里「良かったです、良かったですぅぅ」

杏「おろろ。会長はきみだろ、華ちゃん会長。たぁけべちゃんに秋山どの副会長。三人とも立派になったねぇ。よしよし」

杏「あ、そういえばまだゲストいるんだけど、入れちゃっていい?」

パゾ美「えっ!?待たせてるんですか、この寒い中!?」

杏「うん」

パゾ美「こ、こともなげに!ど、どうぞ、どうぞ~!!!」

バターン!!!

ケイ「超!エキサイティーン!!」

ナオミ(にかっ)くっちゃくっちゃ

アリサ「来たわよありんこラビッツ共!!」

梓「サンダースの皆さん!」

ケイ「あんなすごいの観れると思わなかったわ。マジで。ナイスよだんまりラビットちゃん」

紗希(///)

ナオミ「芸能関連で我々に招待券出すなんて生意気と思ってたけど……やるね」

アリサ「操縦手!あんたの演技良かった。良かったわぁ。あの甘ったれの子があんな頑張って……ちっくしょう、敵兵め……!」がしっ、ぶんぶんぶん

桂利奈「えへへぇ、ありがとうアリサさん」

あゆみ(サンダースの人がそれ言っていいのかなぁ)

カチューシャ「あ、あんたたち!あんなくそさむい中待たせやがって!シベるわよ!!」

ノンナ「まあまあ」

ナカジマ「あー!カッちゃん!ノンちゃん!」

ホシノ「囲め囲め!!」

ノンナ「の、のん……」

カチューシャ「ジマーシャ!やるじゃないの。どうせあんた達でしょ、あんな手品紛いのセット作って。暗転5秒で舞台上に八九式出てきた時はやるじゃないって気分になったわ。まあまあやるじゃない。ちょっとだけ」

ノンナ「あら、結局ハンカチがびしょびしょになるまで泣いてませんでしたっけ」

レオポンチーム(にやっ)

カチューシャ「ノンナァ!!!」

カルパッチョ「たかちゃあん!」

カエサル「ああ、ひなちゃん!」

カルパッチョ「そよを守るために生身で飛び出しちゃうたかちゃん、とってもかっこよかったよぉ」

カエサル「そ、そんな。私はひなちゃんなら現実ですら同じことができるよ……」

カルパッチョ「たかちゃん……」

カエサル「ひなちゃん……」

エルヴィン「こいつら……」

ペパロニ「仲良しっすよねぇ」

アンチョビ「ふ、不純同性交遊はアンツィオの戦車道では禁止なんだからな!」

カルパッチョ「でもキスは重罪よ」(低音)

カエサル「ひえっ!」

ぴよたん「メーーテルーーー!!ももがー氏ーーー!!」

ねこにゃー「あああぴよたん氏!!ぴよたん氏だぁ!!」

ももがー「さ、最近ネトゲでも会えなかったからぁ、およよよよ、およよよよ」

ぴよたん「ねこにゃー氏、とっても堂々としてたずら。ももがー氏も、あの衣装みんなみんな超素敵だったずら。二人ともとってもすごかったですぞ。頑張ったねぇ」

よしよし

ねこにゃー・ももがー「ぴよたん卒業しないでええええ」

ぴよたん「よしよし、よしよし……!」

パゾ美「はは、大混乱だね」

ゴモ代「まあいいじゃない。打ち上げなんだしさ……」

そど子「ええ。適度にハメを外すのは大事よ」

パゾ美「えっ!」

ゴモ代「そ、そど子!!」

そど子「久しぶりね。私も見たかったわ。……後でDVD、売ってね」

パゾ美「そど子!そど子ぉ!」

ゴモ代「な、何言ってるの!ただに決まってるでしょ!!う、うう」

そど子「はいはい、全く、そこはちゃんとしなさいよ。……パゾ美、ゴモ代、頑張ったそうね。あなた達が風紀委員で誇らしいわ。お疲れ様」

パゾ美「あねごおおおお」

ゴモ代「ねえさああああん」

そど子「こ、こらっ、シャバいこと言わないの!全く、あんたたちはいつまでも私のシャバ僧なんだから……ぐすん」

麻子(意味を間違ってると思う)

ダージリン「私の中の嵐はしばらく止みそうにありませんわ」

オレンジペコ「速水真澄ですね」

みほ「ダージリンさん!」

ダージリン「みほさん、素晴らしかったわ。演劇は元々お好きだったの?とても素人には見えなかった」

みほ「えへへ……お姉ちゃんほど好きではないですけど、昔、よくお母さんに連れてってもらってましたから……」

ダージリン「………そう、それは良いことね。……しかし、あの鉄面皮さんが舞台好きとはね。教養としてくらいしか嗜まないと思ってたけど」

アッサム「ダージリン様、統計上不用意にそういうことを仰るのは……」

まほ「死亡フラグだぞ」

ダージリン「あら」

みほ「おっ、お姉ちゃん!!エリカさん!!」

エリカ「う、うるさいわねっ、声が大きいのよ」

みほ「あう」

まほ「こら。エリカ、素直にな。みほ、とても良かったよ。……後でゆっくり話そう」

みほ「うん、お姉ちゃん……」

エリカ「おい、妖怪紅茶女。聞いたわよ、三回もリピートしてその度にみほに紫のバラの花束を差し入れてたそうじゃないの。ペコちゃんというものがありながら。このスケコマシ。ジョンブル野郎。骨が折れろ」

ペコ「エリカさん、もっと言ってやってください」

ダージリン「ふぅ……心の機微の分からない方というのは困りますわ。魅力あるものにアプローチをかけるのは、英国レディとして当然の義務ですもの。ね?みほさん」

みほ「わ、わ、わっ」

エリカ「ちょっと!そのお茶っ葉臭い手を放しなさいよ!」

まほ「よせエリカ。……ダージリン、貴様とはやはり一度、同じ土俵できっちり決着を付けねばならんらしいな」

ダージリン「ええ。もちろんいつでも受けて立ちます。私、挑まれた勝負からは逃げませんの。グロリアーナの赤にかけて」

ペコ(きゅん)

エリカ(ええ、惚れた弱みすぎるでしょペコちゃん……)

まほ「ふん。向こう一年間退屈はしなさそうだな、良かったよ。しかしこの場は」

ぱっ

ダージリン「おっと」

みほ「わわ!」

まほ「私の勝ちだ。頂いていくぞ。ははは……」

みほ「お、おねおねお姉ちゃん……」

ダージリン「……ふん、あてられたのかしらね」

ペコ「まぁ……」

エリカ「…………みほ!」

ぴたっ

みほ「ふぇ?」

エリカ「……よ、良かったわ、劇」

みほ「……うん!!!」

エリカ(ほっこり)

ダージリン(ふふふ、万事塞翁が馬……か)

~屋外~

まほ「……大洗の艦は風が心地いいな」

みほ「ふふ、何それ。黒森峰だって同じ海の上じゃない」

まほ「いや、違うよ。全然違う……」

みほ「……そっか」

まほ「うん。……良い舞台だった。驚いたよ」

みほ「えへ、でしょ?」

まほ「お前が初子役の子……冷泉さんだな?と本気で喧嘩しているのを見てちょっと不安になったが、ちゃんとまとめてくるとはな。不覚にもやられたよ」

みほ「麻子さんのこと信頼してるもん。お姉ちゃん、客だしの時、うさぎの目だったよね?」

まほ「からかうな、このっ」

みほ「あははは!やめてぇ!」

まほ「うりうりうり……ふふふ。学校、楽しいか?」

みほ「うん!」

まほ「そうか、良かったよ、良かった……。全く。戦車道でも、学校生活でも負けるとはな。ふっふふ」

みほ「……お姉ちゃん」

まほ「そしてお前は、また私をおいて大人になっていくわけだ」

みほ「え?」

まほ「………お母様を許すのか」

みほ「!」

まほ「お前の演技、あれは、お母様だった」

みほ「……分かる?」

まほ「分かるさ。姉妹なんだから。……あの最後のシーン、あれは原作では……いや、元々、遺された母の手紙を初子は一切読めなかった。郵便局ごと焼け落ちてしまっていたからな」

みほ「知ってたの」

まほ「当然だ。元々は私たちのひいおばあ様の半生。私が知らない道理もない。……むしろ、お前がうちのことに興味を持ってたことに驚いたよ」

みほ「……ごめんなさい」

まほ「何を………あぁ、いや違う。私は、自分が西住流を継ぐのには何の不満もないさ。ただ、純粋に驚いたってだけだよ。………あれを書いたのは、お前か?」

みほ「……うん、台本にはなかったんだけど、私と麻子さんで書いたの。どうしてもそうしたいって思って。麻子さんも、どうしても言葉が欲しかったって」

まほ「そうか………演出は何も?」

みほ「うん。いいよって」

まほ「そうか………」

みほ「………お姉ちゃん。お母さんは、私たちのこと………」

まほ「やめてくれ」

みほ「でも」

まほ「あの人が鬼なら私はそれで良かった」

みほ「…………」

まほ「鬼なら、元々優しくなんてできないから、そういう生き物だから仕方ない。恨みもしない。でも、でもあの人は」

みほ「優しかった」

まほ「………そうだ。私たちの若い時分を、選択肢を、私の姉としての誇りを尽く奪っておきながら、あの人は結局………」

みほ「………お母さんは、きっと後悔してる。私たちにした全てのことを覚えてるから」

まほ「!」

みほ「私たちが生まれた時のこと。私たちの身体の重み。命を支える緊張感。背中に感じる暖かさ。お世話の大変さ。ごはんをおいしそうに食べてくれた時の喜び。一緒に入るお布団の中の、どうしようもなく幸せな気持ち」

まほ「それは………」

みほ「それで、その上で、お母さんはきっと、全部覚えてる。言っちゃったこととか、やっちゃったこととか。私たちが忘れちゃったようなことまで」

まほ「…………」

みほ「初日の公演の後、お母さん、目を真っ赤っかにしながら、みほには私を恨む権利があるのよって。私のことをちゃんと責めなさいって。でもね、そのあと、菊代さんに違うでしょーって思いっきりしばかれてた」

まほ「………ふ」

みほ「うぶぇ!って、お母さんがうぶぇ!って言ってたの。笑っちゃうよね。?っぺたにもみじができてて、そこでちょっぴり泣いちゃってるの。歯をぎゅってしてるのに。ぽろぽろって。今かよーって。でもね、それで、ああやっぱり、お母さんも後悔してたんだなって」

まほ「……みほは、なんて」

みほ「……だから、私こそ、ごめんねって。悪者みたいにしちゃってたって。見る目とか、態度とか、全部。……そんなのってないよね。あんなに大事に、あんなに優しく育ててくれてたのに。忘れてた。忘れようとしてたんだと思う」

まほ「忘れようとしてた?」

みほ「うん。お母さんは最初から鬼だったって、諦めるために」

まほ「…………」

みほ「……お母さん、何処かで家元としての自分と折り合いがつかなくなっちゃったんだと思う。真面目だから」

まほ「でもあの人は家元を取った」

みほ「お母さんにも、お母さんとしての誇りがあるのにね」

まほ「……それは、そんなの関係ない。あの人は家元という立場を優先して、母という立場を蔑ろにしたからだ」

みほ「……あのね。これはお母さんにも言ったんだけど。お姉ちゃんも、もう、自分を責めないで」

まほ「………な、ぜ、私が出てくる」

みほ「私が今日ここで幸せなのは、大洗のみんなだけのおかげじゃないよ」

まほ「え?」

みほ「あの日アイスの当たりの方をくれて、いつも手を引っ張ってくれたお姉ちゃんがいたからなんだよ」

まほ「……そんな、それは」

みほ「ううん。それだけじゃない。いつもそうだった。お母さんとお姉ちゃんが側でずっと育てて、ずっと見ていてくれてたからだよ。そんな二人に感謝しても、とても恨んだりできない」

まほ「み、みほ……」

みほ「あのね。私、お姉ちゃんが私のお姉ちゃんで良かった」

まほ「う、ぐ、うっ……」

みほ「大好きだよ」

まほ「み、みほ……」

ぎゅっ

みほ「……お姉ちゃん」

まほ「うん……!」

みほ「私の、お姉ちゃん」

まほ「うん……!!」

~ホール~

紗希「……………」

麻子「……やっぱりここにいたか、丸山。みんな探してたぞ」

紗希「!」

麻子「今すごいことになってるぞ。ゲストがたくさん来て料理が足りないからって、アンツィオの連中が差し入れだっておぞましい量のパスタを茹でやがった。あいつら、愉快なスパゲティモンスターだ」

紗希「…………」

麻子「さすがに食い切れるかってパゾ美がブチ切れかけたんだけど、全然大丈夫そうなんだ。今、それ使って五十鈴さんとナオミさんとノンナさんがフードファイトしてる。あれはもはや格闘技だな。食の。……丸山、見に行かないか?」

紗希(にっこり)

麻子「なんだ、行かないのか?変な意地張って参加したアッサムさんと何故か挑んだ逸見さんがギブアップの罰ゲームに一発芸大会やらされてるぞ」

紗希(?)

麻子「アッサムさんのおでこネタと逸見さんのハンバーグ姉貴ネタのキレがやばいんだ。特にアッサムさんのアッサム消しゴムってネタと、逸見さんのツンデレハンバーグの歌な、やばいぞ。ついでに笑いすぎて死にかけてるダージリンさんも見れる。どうだ?」

紗希(ふるふる)

麻子「……全く、必要無ければ喋らんとはいえ、本当に静かな奴だなお前は」

紗希(おろおろ)

麻子「大丈夫だ。……私も少し、ここにいさせてくれ」

紗希(こくり)

麻子「……不思議な気分だ。このホールには何も無かった時の方が見慣れていたはずなのに、何故だろうな。違和感すらある」

紗希(こくん)

麻子「……丸山、いつかはすまんな。不幸自慢とかはいいだなんて言ってしまって」

紗希(……?)

麻子「私の不幸自慢を聞いてくれ」

紗希「…………」

麻子「……私の両親とは、最後に喧嘩したまま別れてしまった。……今思えば馬鹿馬鹿しい理由の馬鹿馬鹿しい喧嘩だった」

紗希「…………」

麻子「でも、私が最後に言った言葉が頭にこびりついてしまってたんだ。……親不孝極まりない言葉だ。正直、夜はいつも思い出してしまってた」

紗希「………」

麻子「しかし、今回この劇でなんとなく分かった。親というのは、子が思っている以上に子を愛していて、汲んでくれているんだな。私が二人を大好きだったことは、多分ちゃんと伝わってたし、今なら、二人も私を愛してくれていたに違いないという確信がある」

紗希(にっこり)

麻子「それを伝えられないこと、今の私を見せてあげられないことだけが残念だがな。……なぁ、丸山は」

紗希「冷泉麻子さん」

麻子「は?」

紗希「あなたのお母さんもお父さんも、あなたのことを誇らしく思っている。ちょくちょく見守っている。私たちの自慢の娘だと言っている」

麻子「……ああ、それを願おう」

紗希(にっこり)

あゆみ「あ!冷泉先輩こんなとこにいた!おーい、紗希!」

麻子「なんだ山郷、水をさ、す、な……?」

紗希「………」

紗希(?)「………」

麻子「えっ、あれっ、えっ?丸山が、ふた、り?」

紗希(じわっ)

紗希(?)「……頑張ったね、紗希」

麻子「え?」

紗希(?)「ずっと厳しくして、ごめんね」

紗希「……おかあさん」

紗希(?)「………うん。ありがとうね」

紗希(こくん)

紗希(?)「身体に気をつけてね。お友達を大事に、ね」

紗希(こくこく)

紗希(?) (ふりふり)

紗希「…………」(ふりふり)

麻子「えっ、へっ、……き、消え………」

あゆみ「紗希、今のは……」

紗希「……丸山紗々子。OG。………幽霊ホールの主の正体」

麻子「きゅう」

ばたん

あゆみ「そ、それって、お、おば、おば、おば……」

紗希「…………」

紗希「そして、私の、お母さん」

それから。

みほは家に、たまに帰るようになった。
家に帰る度に、母の美味くはない手料理が振る舞われ、まだぎこちない親子の会話をし、お墓参りをして、大洗に帰る。
まほとしほの間の溝はまだまだ深いが、次期家元は、同じ轍を踏むことはないだろう。
みほが間にいるのだから。

麻子は、夜に快眠できるようになった。
夢にくらい見るのも悪くないのかもとぼやいているが、その顔はとてもすっきりしている。
おばあはそんな麻子を見て、嬉しいやら、寂しいやら、複雑な顔をしていた。
次もきっと乗り越えられると、信じられたのだろうか。

紗希は、また前のように喋らなくなった。
どうやら、必要なら喋る、そうでないなら別に、というスタンスは一貫しているらしい。
ただ、周りの受け取り方は少し変わり、特に戦車道受講者の多くは、テレパシーの如くなんとなく察することができるようになった。
言葉数は増えないが、笑顔は増えた紗希だった。

優花里「そして春。我らの季節!!」

沙織「いよいよ私たちが三年生……最終学年!」

華「私たちの道を後輩に、ばしりと、見せつけて差し上げましょう」

優花里「はいっ!会長!!」

沙織「会長!新歓パーティに林間学校、他校交流会に戦車道体験!次の企画、目白押しだよ!!」

優花里「私たち、休む暇もありませんね!」

華「ええ。行きましょう、皆さん。大洗、フォー!!!」

以上になります

ここまで長くなったのに、読んでくださった方、本当にありがとうございました

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