フローズ「いいふーふの日だとさ」(モンスター娘のいる日常オンラインSS) (21)

DMMから配信されて……いた。

モンスター娘のいる日常オンラインのSSです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479741778


出会い

 あの子との出会いは、きっと運命だった。

単身赴任しているのに変なところが過保護な親が、

独居状態の俺が寂しくならないようにと他種族間交流法の定める『世帯主』に申請をしたことから始まった。

 まずは、墨須(すみす)と名乗る他種族間コーディネーターさんが家に来て、すっごく長い時間、説教のような説明を聞く……

そして、ひとりのメイドさんが派遣されてきた。

ミューと名乗るその子は、ドラゴンメイドという種族らしい。

種族のメイドと衣装のメイドは全く意味が違うはずだが、妙に似合っていた。


 そして、最初の留学生を選ぶときがきた……

確かあの時は、墨須さんがニヤニヤしながら封筒をいくつか渡してきたんだったっけな……

「好きな子を選んで」とまるでくじ引きのように堅く閉じ、透けもしないたくさんの封筒から

1つだけを選ばされたのだった。

どれも同じもののはずなのに、その時、俺の中で1つだけ気になる封筒があった。

匂いも色も折れたりする目印もないのに、それしか選ぶ意味が無いように思えて、

迷いもせず、その封筒を選んだ。

墨須さんはその封筒を開けると、中に入っていた1枚の履歴書を見せてきた。


『種族:フェンリル 名前:フローズ』

半人半狼の他種族の子の写真が貼られている。

可愛い顔なのに全く笑顔を見せず、睨みつけている写真。

その睨みつけている瞳が俺には寂しそうに見えたのが、最初の印象だった。


「この子かぁ……ちょっと注意点を説明するわね」

その後、墨須さんからフローズの注意点を習う。

すぐに暴れてしまう血気盛んな子で、それを抑制する『グレイプニル』という拘束具を装着させられているらしい。

なんだか可哀想な気がして拘束具を外せないかと聞いてみたが、掟でもあるらしく外す予定は無いらしい。

そして、そのフローズさん用に部屋の改装を行う書類にサインをして……

数週間後に出会うことになった。


「オマエも物好きだな」

最初の挨拶はそんな一言だった。

やっぱり、俺には彼女の目の奥が態度とは違う色に見えてしまう。

それがスタートだった。


フローズのいる生活

 フローズが来てから今までの日常が一変した。

急に暴れ出して、拘束具が発動する音、肉を焼くと必ず笑顔でパタパタと廊下を走ってくる音

立派な爪や歯をやすりで丁寧に手入れをする音、そして……そのやすりを紛失して深夜に探し回る音

一人では感じない音、そして、温もりや匂い、笑顔、どれもが新鮮で楽しくなった。

 ただ、やっぱり拘束具で無理やり抑え込まれるフローズは好きになれなかった。

拘束具は発動したら大量の鎖が部屋の隅に船のアンカーのように突き刺さって、彼女の四肢を伸ばして動きを止める。

こんな光景見るのは好きじゃない。

それに、フローズが暴れてしまうときもあるけれど、たまに誤作動もしている。

そんな装置が好きになれるはずがないじゃないか。


 ある日、その拘束具の発動で怪我をしているのを見てしまった。

俺は、拘束されたフローズが見ていられなくて、拘束具を一緒に外そうとして……俺もちょっとケガをしてしまう。

そんな無駄になった時間が過ぎてフローズが落ち着いたのを感じて、傷を治すクリームを彼女に塗った。

彼女は『変わり者』だと笑って……お返しだと、俺にも手当てしてくれた。

お互いに手当てする優しい空気が好きで、俺の傷にクリームを塗るフローズの眼差しに見惚れてる自分に気づいてしまう。


 その後、俺はどうにかして彼女の拘束具を外せないかと真剣に考えるようになっていた。

いや、それだけじゃない。心のどこかでフローズと一緒にいる時間を大切に思うようになっていた。

あと、とても大事なことに気付いた。

フローズはもともと噛み癖があるんだけれど、気に入ったものを甘噛みする。

証拠に彼女と最初に買ったお気に入りの抱き枕兼用のクッションは、未だに破れる気配がない。

お気に入りのウィンナーは思いっきりかぶりついて、パリッとした食感を全力で楽しむけど、それはそれ。


 そんな発見をして、ちょっと経った頃、俺がソファーで雑誌を読んでいたら……フローズが噛みつこうとしてきた。

その瞬間、拘束具が発動してしまい、彼女はまた宙吊りで四肢を固定されてしまう。

「なんでだよ! 甘噛みしようとしただけなのに!」

彼女が俺に甘噛みをしようとしていた。

その言葉の意味が嬉しくて、そして、その結果、拘束されてしまっているフローズが不憫すぎて……

俺は許せなくなっていた。

 拘束が解除された後、フローズといろいろ話した。

やっぱり俺は拘束具を外したいということ。

フローズ自身は風習だから仕方ないと、

家の工具を全て犠牲にしても壊れなかったことに怒っていたはずの子が大人しく受け入れていた。


「もし外せたら、一緒に大手を振って出かけてみたいな」

なんて、可愛い言葉も聴こえてきた。

その可愛さに当てられて、今度は俺が笑ってしまう。

フローズはそんな俺を見て、オシャレもしないし、歯をやすりで磨くような娘だけど、

それが実現したら、化粧して一緒にお出かけしてやる! と怒っているようだけど、

とても嬉しそうに話してくれた。


フローズの新しい服

 「なぁ、本当にいいのか?」

フローズに買ってきた新しい服を渡し、フェンリル族の長老さんから送られてきた鍵を使う。

ガシャンと音を立てて外れる、グレイプニルと名の付く拘束具。

そう、俺は合間を見て墨須さんに連絡を取り、誤作動がとても多くなったフローズの現状を長老さんに報告していた。

結果、多大な出費をすることになったが、それはそれ、俺はフローズの本来の姿でホームステイしてくれる喜びを噛み締めていた。

ただ、当の本人は、本気で暴れてしまったときに止められないよな?

と、不穏なことを言い出してしまったので、

これからはフローズのご機嫌取りが今以上に必要になる事実に少し苦笑いが出てしまうのだった。


 いろんな場所にお出かけをしたり、一緒に遊んだり、そんな日々のなか、

二人で散歩中に見つけた……人の気配の無い湖がフローズのお気に入りになっていた。

その湖で、フローズは水浴びをしたり、周りを散歩したりして……


     ある月が綺麗な夜、俺は彼女の涙をみた。


 グレイプニルの存在と、過去の留学経験、人が嫌いになった時期、そんな与太話。

彼女の全てを聴いた俺は、一糸纏わぬ、言葉と姿と涙を見せる愛しい人狼を抱きしめていた。

法律で決められた中で、出来る1番の愛情表現で、彼女に愛を捧ぐ。

俺は、誰より……いや、比べるまでもなくフローズが好きだ。

やんちゃにはしゃぐ姿も、美味しそうに肉を食べる姿も、夜のやすりタイムの鼻歌も、

全てが愛おしくて、大切で、その全てを受け入れて、これからもずっと一緒に過ごしたいと願った。

ただ、そんな願いは……


いいふーふの日に

 ミューさんから連絡が入った。

一部の政府の政策試験に採用されている模範的な世帯主以外、全てのホームステイを終了する。

その模範的ななんとやらに俺の名前は入っていない。

つまり……


11月22日に俺とフローズは別れる。


 再開の目途はなく、完全にお別れの可能性がきわめて高い。

俺は、笑った……「なんでだよ」って何度も何度も呟いて、顔を熱く寂しい水で染めながら、笑うしかできなかった。

フローズはそんな俺を見ていたのだろうけど、何も言わなかった。


その日まで、あと数か月も無い。

俺は、そんな話題を忘れたかのようにいつも通り過ごす。

フローズも、可愛いワガママで俺を振り回し、たまに甘噛みをして、あの湖で散歩をする。

お互いに触れられなくなった話題。

ただ、たまにフローズの唇が『さよなら』と呟いたように見えて、強く抱きしめてしまう。

その度に「ベタベタ馴れ合うのは嫌いなんだよ……」と怒ってくるが、その語尾は震えていた。


 時間というのは残酷で、そんな日々がどんどん11月22日に近付ける。


 運命の日……俺は墨須さんからのメールで目が覚める。

いや、目覚めたというか、眠れなかった夜が過ぎ、少しだけ油断した時に、目覚ましのようにスマホが通知を知らせた。

要約すると『同じような世帯主が大勢居て、対応に四苦八苦しているので、俺の所には昼くらいに来る』


 フローズは、もう起きていた。

俺の朝食を待っているようで、いつもなら「腹が減った」と怒りそうな時間なのに、

そんな様子も無く、静かに待っている。

ドアの近くにはもう荷物が積んであった。

俺は、それを見ないふりをして、

昨日買ってきたお気に入りのフランクフルトをフローズが好きな食感になるこだわりの方法で調理して、

俺が好きだと言って買ったパンに挟んで、二人で食べる。

今朝は、いつものように「美味い」ってはしゃぐ声も無い。


 お別れまで、あと数時間。

俺はそっと、フローズを抱き寄せた。


今日は触っても抱きしめても怒らない。


いつものフローズじゃないみたいで、たくさん触れられるのは嬉しいけれど寂しくも感じる。

禁則事項に触れない、最後のライン

きっと、来客のベルでお互いに離してしまう距離。

それが、どうしても嫌で、フローズのように……抱きしめる肩にそっと甘噛みをした。

フローズのぬくもりを忘れないようにそっと、噛む。

唇が肩から離れたら、フローズから頬ずりをされた。

どっちの涙だか分からない温かくて寂しい感触が、心に刺さっていく。


 呼び鈴が鳴る。

どっちからともなく離れる体……

フローズは耳元で『見送りなんかすんなよ』と囁いて、

リビングの俺を残して出て行った。


 寂しがりで、ヤンチャで、可愛くて、カッコよくて、大好きな人狼

また、もしまた会えたら、今度は周りが羨むような良い夫婦になりたい。


いつか……また、会えるはず……

見送りも出来ない俺は、ドアの閉まる音を聞いて、

泣き崩れるのだった。


終わり


ハマっていたゲームが終わる。

その寂しさに負けそうなので、ろくなあとがきもせず締めます。

フローズ、ずっとずっと大好きです。

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