【ラブライブ!】スクールアイドルを始めるらしい (207)


 ラブライブ!のオリジナル学校、主人公、アイドルでのんびり更新SS

主人公のみキャラは決定済みで、他8人のメンバーは安価。その他選択肢なども安価

 原作キャラは話題に挙がるくらいで基本出ない方向。R板に移動する必要がある方向になったら、あっちで別に建てたり

 主人公は二年生。一年生から三年生まで三人ずつ
一年生、三年生は三人。主人公がいる二年生は二人。
キャラとキャラの関係や設定はぶっ飛んでたりR板行け的なものでなければ。当然ながら女の子のみ
妹でも双子、姉、友達や幼馴染、知り合いエトセトラ…自分の挙げたキャラに関係がついても、設定が若干変わっても見守ろうという精神で

 キャラは席が埋まるまで募集してま

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1479593229

【どもです。全然大丈夫です。容姿とか口調とか詳しく書かれてないところは>>1かコンマとかで決めちゃうので
    あと作曲、作詞、衣装、撮影とか担当できるメンバーがいると有り難い……うっかり忘れてた】


 私が生きてる理由を、ずっと探してた。

 なんの取り柄もない私がなんでこの世界に生まれたのか。

 私はなにがしたいのか。

 ずっと分からなくて、ただ眺めているだけで。

 すぐ目の前に見える綺麗な景色に向かおうともしなくて。

 学校と家の狭い世界に閉じこもっていた。

 それが一番楽だったから。子供だから。


 でも本当は分かっていた。分かっていたんだ。

 誰だって可能性を秘めている。なにもしないでなにを残せるというのか。

 歩かないと足跡はできない。

 前にも、後ろにも。進まないといけないんだ。


 そう思ったのは、いつ頃の話だっただろうか――

【新キャラ、テンプレありがとうございま。それだけ書いてくれるとすごくやりやすいですね】


【4月】

 スクールアイドル。
 その言葉が流行りだしたのがいつだかは思い出せない。
 ただ私の耳に入る頃にはもう社会の一大ブームと化していた。

 高校生がアイドル活動。年齢的におかしくはないのだが仕事ではない以上、私は彼女らをただの目立ちたがり屋としか思えなかった。
 そんなものが流行ったりするのだから世の中分からないものだ。

 高校生は高校生らしく、勉強と部活と、分不相応にしていればいい。
 ――なんて、我ながら古臭いと思う。

 けど実際そう思ったのだから仕方ない。
 私の通う『彩星(さいせい)女子高等学校』でもブームに乗ってスクールアイドルのグループができたのだけど、ちっとも私の興味を引かなかった。
 アイドルはアイドル。高校生は高校生。
 大人の力を借りないで子供だけでなにができるというのだ。

深羽「……ふぁ」

 家。入学式と始業式が近づいてきた春休み。
 私はのんびりと居間でテレビを観ていた。
 適当に回したチャンネルに映ったのはスクールアイドルを特集した番組。
 流石は大会が開催されるほどの娯楽ジャンル。春休みに特番が組まれるなんて中々だ。
 きっと新入生への期待も大きいのだろう。夢見る少女らにはいい刺激だ。
 なんて、番組を観ながらあれこれ考える。

 ――やだな、つい嫌味っぽくなってしまう。なんでだろう。

深羽「アイドル、ね……」

 またあくびをひとつ。
 テレビから視線を外し私の向かい側、窓を見る。
 窓にうっすら映っている私の姿。
 飛島 深羽(とびしま みう)。文具店を営む家に生まれた女の子。
 暗めなオレンジ色のショートヘアで片目が隠れた、ぱっと見暗めで――実際暗い奴。
 アイドルなんて縁がない、愛想もない無気力な目が特徴。

深羽「私には無理だね。絶対」

 性格的にも見た目的にも。


深羽母「深羽、あんた今暇?」ヒョコッ

 目を隠す髪をかき上げつつピース、なんてポーズをとっていた私は慌てて手を下ろす。ガン、とテーブルに勢い良く手を打ち付けつつ。

深羽「ひ、暇って、なんで?」

深羽母「なにしてんのあんた」

深羽「聞かんといて……なんでもないから」

 テレビの真似したなんて言えるわけがない。魔が差したとはこのこと。

深羽母「また馬鹿したんでしょ。まぁいいけど。お店、見ておいてくれる?」

深羽「……分かった」

 正直面倒。けれど今更だ。私が平和に食っていくためにもこれくらいは協力しなくては。

深羽母「どうも。じゃ、アイドルごっこもほどほどに」

深羽「……見てたな」 

 テレビに映ってる番組と私のポーズ。何をやっていたのかは一目瞭然ということか。恥ずかしい。
 いい歳して私がやっていたのと同じポーズを決め去っていく母を見送り、私はのっそりと立ち上がる。

深羽「お店番かぁ……看板娘も辛いよ」

 とりあえず着替えてこのだらしない部屋着をなんとかしないと。
 それから髪も整えて……いい時間潰しにはなりそうだ。


【とりあえず眠いのでここまでで】


【名前】辰巳 恭子 (たつみ きょうこ)
【学年】3年
【年齢】18歳
【誕生日】9月7日
【服装】
学校指定の制服ではなく自分で用意した黒セーラー服の上に昇り龍スカジャンを羽織っている(ロングスカート)
【身長・体重】
174cm 65kg
【髪型】
長く伸ばした髪を茶髪に染めている
【好きなこと・もの】
弟、龍柄のアイテム、白玉あんみつ
【嫌いなこと・もの】ビビリ、
【特技】剣道、運動全般、バイク運転
【趣味】龍柄のアイテム集め
【性格】負けず嫌いで、妥協するのが大嫌いの努力家
小学4年生の弟を溺愛している。
【詳細】
レディース『龍姫隊』のリーダーを務めるスケ番。元々は品行方正。文武両道。の優等生だったが剣道の師範をしている父親と喧嘩になり反抗の意を示すため聞きかじりの知識で不良の真似事をしていたら段々とエスカレートして最終的にレディースを率いるまでになる。やり過ぎたことを少し後悔しつつも不良仲間とつるみ、飲酒や喫煙やカツアゲなどの暴力を振るうことはないが校則を破って髪を染めたり。ピアスをつけたり。今までが厳しかった分現状を楽しんでいる。
【備考】
剣道はインターハイで優勝する程の腕前。
密かにA-RISEに憧れている。

余ったらライバル校の生徒にでも

↑の辰巳恭子の年齢の設定は無しで学年は2年でお願いします。

どもです。キャラは一年生 鷹末さん(1)、周防さん(2)、若部さん(3)。
         二年生 深羽さん(4)、宗さん(5)、小枝さん(6)。
         三年生 陸上さん(7)、榎本さん(8)、影山さん(9)。

 でやろうと思います。
 余ったキャラはライバルの一人に。いいキャラなので。辰巳さんの番号は0。


 で、予想以上にキャラ同士の関係がないのでここから安価で色々付け足していこうかなと
 上記キャラの一覧で適当に振り分けた番号を使います。
 とりあえず4回。やっておきます。名字や設定が変わったりするかもですが、ご了承を。


 まず、関係。

 コンマ判定で

 1 なんだか気に入らない
 2 妹
 3 姉
 4 幼馴染
 5 知り合い
 6 同居人
 7 義理の姉妹
 8 ライバル
 9 師弟
 0 憧れの人
 ゾロ目 安価募集

 ↓1~4 コンマ末尾で判定

なんだか気に入らない
(理由は分からないけれど気に入らない。お互いにそんな気持ちを持っているのか、それとも片方だけか、それは>>1の気分次第)

幼馴染み 2回判定
(小さい頃からの付き合い。仲がいいのか悪いのか、疎遠なのかそれも気分次第)

ライバル
(互いに互いを意識している競争相手。どんなもので競っているのかはまだ分からない)



と、最初の関係判定の種類はこんな感じになりました。
では次。なんだか気に入らない、の関係を持つキャラを↓1、2のコンマ判定にて決めます。これは特にルールはなく、末尾の数字と同じ番号のキャラが二人選ばれます。

数字が被ったら再安価

 鷹末玲奈 & 宗晴香
 服飾の実力も容姿も優れた少女。玲奈やメンバーは素直に彼女を称賛するのだが、決して肯定はせず。
 実力才能努力とは裏腹に自信なさげな晴香の態度。玲奈は釈然としない気持ちを抱いている。
 そんな玲奈に晴香はびくびく。お互いある意味不器用なのかもしれない。


 『なんだか気に入らない』。これで決定。


 次、幼馴染の一回目の判定


 ↓1、2のコンマで幼馴染の関係を持つキャラを判定。被ったら再安価

周防ちどり & 小枝芽衣
 幼い頃の友人。中学時代までは近所なのもありよく遊んでいたが芽衣が高校に進学し一人暮らしを決意すると自然と疎遠に。
 偶然同じ学校、同じ県にいるのだが――芽衣はまったく覚えていない。
 名前を聞いておらず顔も成長して記憶と一致しない。伊達眼鏡を外すとようやく気づくレベル。一年という月日ではなく記憶力に問題があるに違いない。
 一方ちどりの方は彼女のことをよく覚えていて、自分のことを引っ張ってくれていた彼女をよく頼りにしている。


 ということで決定。

 次はもう一回幼馴染の判定を。
 ↓1、2のコンマ末尾で判定。被ったら再安価。同じキャラでも同じ組み合わせじゃなければ採用されま


若部 山茶 & 小枝芽衣
 あまり似ていないように思える二人。けれど根っこのそそっかしさはよく似ている。
 お互いに同じ学校に通っていることは知らないが、会えばしっかり思い出せるくらいには付き合いも長い。名前も知っている。
 阿吽の呼吸と言うべき仲の良さで、考えていることが大抵分かってしまう。自分の思考とよく似ているから。


 では次です。ライバルの関係を持つ二人をコンマ判定。
 例のごとく↓1、2の末尾で判定

飛島深羽 & 影山真央
 髪型、スタイル、雰囲気。並んでいると姉妹かと思われるほど似た点が多い二人。
 深羽はそんな彼女に危機感を覚えているらしい。性格ははるかに自分よりいいし、頭もいいし。
 対する真央もまた自分と似た姿の彼女を密かにライバル視しているらしい。どこに意識する要素があるのかは分からないが。


 とのことで、判定終わり。
 四回判定を行いましたが――


 ↓1~ 追加で判定するか否か(関係の幼馴染は候補から除外。追加をするかしないか先に二票入った方を採用で、追加判定する場合はとりあえず二回判定を行います)

 ではあと二回判定で。


 1 なんだか気に入らない
 2 妹
 3 姉
 4 安価募集
 5 知り合い
 6 同居人
 7 義理の姉妹
 8 ライバル
 9 師弟
 0 憧れの人
 ゾロ目 安価募集

 ↓1、2 コンマ末尾で判定

 知り合い と なんだか気に入らない  です


 では知り合いの関係を持つキャラの判定をば

 ↓1、2でコンマの末尾で判定


陸上つかさ & 榎本悠
 同学年で同クラス。話したことはあまりないがお互いの印象は悪くない。元気で明るくムードメーカーなつかさに、クールそうで可愛らしいグッズを持つ悠。興味はある二人だが接点はなく、これまで話す機会もなかった。

知り合い、これで決定。
次はなんだか気に入らないの関係の判定を

↓1、2でコンマ末尾で判定



鷹末玲奈 & 陸上つかさ
 真面目な玲奈に男っぽい性格なつかさ。その相性は悪く、衝突することもしばしば。決して嫌っているわけでもないが思考回路はほぼ真逆。苦手意識はぬぐえない。


 関係性はこれで終わり。
 あとはキャラのプロフィールをまとめて、本編を開始します。今日できるかは不明。


とりあえずキャラのプロフを再編、調整しましたので、投稿を。書かれている情報量が少ないものは色々追加したりしてるのでご了承を。本編はまた今度に



名前:鷹末 玲奈(たかすえ れいな)
学年:一年生?
誕生日:12月19日
身長:159cm
髪形:ブロンドのロングヘア。さらさらと癖が一切ない綺麗な髪。?
身体的特徴:華奢なスタイルにすらりと高めな身長。品というものを感じさせるオーラ。男女問わず魅力的に感じさせる、作られたかのような美しさを持つ?
好き嫌い:はっきりしないものが嫌いで、好きなものは激辛な料理、お肉。?
性格:規律が好きな生真面目で頑固者、年上にもガンガン意見を言ってくるタイプ。怒ると自覚はないがガラが悪くなる。?
その他:?ドイツ人の母と日本人の父のハーフ。バイオリンが得意で放課後に学校で演奏している。
 食が太くいっぱい食べるのだがペースは驚くほど遅く上品に食べる。


名前:周防ちどり(すぼう ちどり)
学年:一年生
誕生日:7月6日?
身長:158cm
髪形:暗い緑色のボブカット?
身体的特徴:伊達眼鏡にバッテンの形にした髪留め。スタイルは平均的。
好き嫌い:好きなのはキーボード、チョコレート。嫌いなのは大勢の前で話すこと臭いの強いもの。?
性格:シャイだが努力が大好きなポジティブな性格。好きなキーボードや音楽についての知識は多いが、興味がわかなかったものに対しては極端に知識量が少ない。
その他:中学時代は軽音楽部でキーボードをしていて、作曲も何度かしている?。
親の仕事の都合で県外の高校に進学することになった今はこっそり動画サイトに作った曲のアップをしているが、高校ではバレないようにおとなしくしている。?
大勢の前で演奏するのは良いが、人前で話すのが苦手。

名前:若部 山茶(わかべ さざん)?
学年: 1年
誕生日: 11月3日
身長: 152cm
髪形: 金の短めのポニーテール
身体的特徴: 華奢だが筋肉質
好き:果物全般
嫌い: 勉強
性格:賑やかで前向きなムードメーカー、常にポジティブでうるさいくらい
その他: スポーツなら何でもピカイチな運動神経の塊だが、勉強は超がつくレベルの苦手。 ただ興味の持ったこと何でも覚えられる。
物怖じせず、グングン引っ張っていくタイプ



名前:飛島 深羽(とびしま みう)
学年:二年生
誕生日:4月27日
身長:158cm
髪形:暗めのオレンジ色のショート。片目を隠している。
身体的特徴:顔は整っているのだがパッと見の印象は地味で暗く見えてしまう。出るとこは出てしまるべきところはしまった抜群のスタイル。無気力そうな目も特徴的。
好き嫌い:好きなものはジャンクフードやファストフード。嫌いなものは特になし。
性格:常識的な性格で普段は問題も特徴もこれといってないのだが、客観的に見た感想や考えを率直に告げ問題になることが度々。根は優しいのだが誤解されやすく、長考からの突拍子もない行動でおかしな人と思われることも。
その他:自称生きる意味を探す探求者。主人公。これまで目立つこともなくのんびりと生きてきたが、ひょんなことからスクールアイドルに。容姿以外にこれといってアイドルとしての才能はないが、料理の腕はピカ一。けれど大体作るのはジャンクフード、ファストフード。

名前:宗 晴香 (そう はるか)?
誕生日:2月8日
身長 :160cm
学年:2年
好きなもの:和菓子、蕎麦
嫌いなもの:生魚
髪型:ピンク色のロングヘア。前髪は目の上あたりで真っ直ぐに切り揃え、左右に少量の髪で細いツインテールを作っている。
身体的特徴:平均的で健康的なスタイル。大きめなお尻と柔らかそうな脚が特徴的。
性格:引っ込み思案で大人しい。迷惑になるのを嫌がり、助けを求められるまで少し離れた位置でおろおろしたりする。

その他:手先がとても器用で特にミシン等裁縫関連の腕はピカイチ
父子家庭で育った影響で妹のためにアニメの衣装を作ってあげて喜ばせようと特訓した賜物。そのため作る衣装のモチーフが若干オタクっぽい
唯一の難点としてはお金の使い方については厳しく守銭奴な面も


名前: 小枝芽衣(こえだめい)
学年: 2年
誕生日: 8月29日
身長: 153cm?
髪形: 髪色はグレー 穂乃果と逆な方向に結んでるワンサイドアップ
身体的特徴: なでなでしたくなる様なスマートな小柄娘だけど成長過程中?
好き嫌い:  好き ハンバーグ  苦手 巨乳
性格:リーダー気質で普段冷たい態度をとっているが困っている人をみると何故かすぐ謝りだし救いの手を差し伸べるそそっかしい性格に急変する
野外にいくとUMAや怪異な村の話を熱く持ち上げたりする、廃村廃墟洞窟、[立ち入り禁止]を見るとスマフォをもって進入したくなるほど冒険心が強い

その他: 特技 ランダム12個言われた数字が覚えられる PCスマフォの内部をいじるのが好き
野生の茸には詳しい
UFO UMAと交信することができる?

名前:陸上つかさ(くがうえ つかさ)
学年:三年生
誕生日:4月2日
身長:175cm
髪形:赤色の髪のショートへア
身体的特徴:高い身長にほどよく引き締まった身体。スレンダーで凛とした顔立ちから女子からも人気が高い
好き嫌い:好きなものは釣り、スポーツ観戦。嫌いなのは女の子らしいファンシーなもの。
性格:男勝りな性格で、さっぱりとした姉御肌。過保護な一面がある……が、男兄弟への対応と変わらず、その対応はアバウトで男らしい。
その他:?5人兄弟で全員男だったので男勝りな性格。男っぽい格好が似合うし好きではあるがフリフリの女物の服が苦手で恥ずかしがる一面もある。
趣味は釣りとスポーツ観戦?。
兄弟の試合などよく撮影していたのでカメラの操作は一通り得意。


名前:榎本 悠(えのもと ゆう)?
学年: 3年
誕生日: 11/13?
身長: 164センチ
髪形: 薄水色のセミロング
身体的特徴: スタイルは良いが、胸はさほど大きくはない
好き:クリームシチュー
嫌い: ステーキの脂身
性格:クールで冷静沈着を装っている。生徒達はそんな姿を「かっこいい」と言うが、内面はとても感情的。何かあるたびに脳内会議を繰り広げて、悠ちゃん1号や、悠ちゃん2号に助けを求めている。

その他: 生徒会副会長。可愛いものが大好きで、収集癖がある。特にパンダに対する愛は本物。パンダ柄のポーチや、ペンを使っていたり、シュシュなどを身につけているパンダ愛の徹底ぶりに、下級生達はギャップ萌えを感じている。
これといって突出した特技はないが、大体のことはこなせるオールラウンダー。

名前:影山 真央(かげやま まお)?
学年:3年
誕生日:8月16日
身長:162㎝
髪形:やや青みがかった白髪のロングヘア、前髪で目を隠している
身体的特徴:普段は前髪で隠れているが割と童顔、おっぱいが大きい
好き:詩を書くこと、読書、噂話の収集
苦手:おばけ、雷
性格:控えめでおしとやか。生き字引レベルの物知り
その他:気配を消して歩くのが上手く、いつの間にか人の背後に回り込んでいることからついたあだ名が「背後霊」。本人は若干気にしている。
中学生の妹が一人いて、最近彼女が中二病を発症した事が悩みの種。


判明している&作成したキャラとキャラの関係


鷹末玲奈 & 宗晴香
 服飾の実力も容姿も優れた少女。玲奈やメンバーは素直に彼女を称賛するのだが、決して肯定はせず。
 実力才能努力とは裏腹に自信なさげな晴香の態度。玲奈は釈然としない気持ちを抱いている。
 そんな玲奈に晴香はびくびく。お互いある意味不器用なのかもしれない。


周防ちどり & 小枝芽衣
 幼い頃の友人。中学時代までは近所なのもありよく遊んでいたが芽衣が高校に進学し一人暮らしを決意すると自然と疎遠に。
 偶然同じ学校、同じ県にいるのだが――芽衣はまったく覚えていない。
 名前を聞いておらず顔も成長して記憶と一致しない。伊達眼鏡を外すとようやく気づくレベル。一年という月日ではなく記憶力に問題があるに違いない。
 一方ちどりの方は彼女のことをよく覚えていて、自分のことを引っ張ってくれていた彼女をよく頼りにしている。

若部 山茶 & 小枝芽衣
 あまり似ていないように思える二人。けれど根っこのそそっかしさはよく似ている。
 お互いに同じ学校に通っていることは知らないが、会えばしっかり思い出せるくらいには付き合いも長い。名前も知っている。
 阿吽の呼吸と言うべき仲の良さで、考えていることが大抵分かってしまう。自分の思考とよく似ているから。


飛島深羽 & 影山真央
 髪型、スタイル、雰囲気。並んでいると姉妹かと思われるほど似た点が多い二人。
 深羽はそんな彼女に危機感を覚えているらしい。性格ははるかに自分よりいいし、頭もいいし。
 対する真央もまた自分と似た姿の彼女を密かにライバル視しているらしい。どこに意識する要素があるのかは分からないが。


陸上つかさ & 榎本悠
 同学年で同クラス。話したことはあまりないがお互いの印象は悪くない。元気で明るくムードメーカーなつかさに、クールそうで可愛らしいグッズを持つ悠。興味はある二人だが接点はなく、これまで話す機会もなかった。

鷹末玲奈 & 陸上つかさ
 真面目な玲奈に男っぽい性格なつかさ。その相性は悪く、衝突することもしばしば。決して嫌っているわけでもないが思考回路はほぼ真逆。苦手意識はぬぐえない。

普段使わないスマホだからか文字化けが……半角スペースなるべく消したのですが、残ってますな。

また後でパソコンで直して書き込んどきます。とりあえずキャラはこれで、本編を。では今日はここまで


 文房具店といっても、それほど古臭いわけではない。腐っても埼玉県。それなりにお店には気を使わなくては生き残っていけないのだ。

深羽「とはいえ、手広くやればいいって話じゃないけど」

 店の奥に位置するカウンター内。変わり映えしない店内を眺め、私は呟いた。
 一般的なコンビニより小さめなお店。そこに置かれた棚。人がやっと二人同時に並んで歩けるであろう通路。ところ狭しと商品の置かれた窮屈なそこには、文房具以外のものもいっぱい置かれている。
 雑貨、ジュースに駄菓子に缶詰め……弁当でも置いたらもうコンビニである。

深羽「これで生き残ってるんだから分からない……」

 携帯ゲームを起動。お客さん今日は何人来るのやら……春休みだからそれなりには来そうだけど。
 さて、のんびりお店番。真面目に待つ気はなく、がっつり暇潰しをするつもりで鼻唄など歌いつつゲームをプレイ。
 しばらくこうして時間が過ぎていく――と思っていたんだけど。

???「ここここ。いいお店なんだよ」

???「そ、そうなの? お邪魔しますー……」

 なんだかお洒落な喫茶店や服屋にでも入ってくるような台詞をやりとりしながら、お客さんが入ってきた。


深羽「いらっしゃいませー」

 ゲームはパタンと閉じ店員モードになる私。愛想はないけど。

??「あれ? 店員さんいつもと違う?」

??「そうなの? 知らないけど……」

 お母さんが接客したのだろう。ちょっと戸惑った声が、棚で見えない入口付近から聞こえてくる。
 少ししてお店に入ってきた二人の姿が見える。
 一人目。グレーの色の髪を頭の横で結んだ小さな女の子。一見クールそうで、けれど身長のせいで可愛らしく見えて、なんだか不思議な子だ。
 二人目。ピンク色のサラッとしたロングの髪を、ちょこんとちょっとだけ左右で結んで細い紐のようにした女の子。おどおどなんて擬音が付きそうな表情と仕草、一人目の女の子の服の裾を掴んでいて、見た目はあの子より大人っぽいのに子供っぽく見えてしまう。

 ……なんか見覚え、あるような。

グレーな子「こんにちは」

ピンクな子「こ、こんにちは」

深羽「あ、はい。こんにちは」

 ぼんやり考えている最中に声をかけられ、我に帰る。挨拶。それをされるとつい自然と返してしまうのが人間である。

グレーな子「ちょっと聞きたいんだけど、いい?」

深羽「はい。なんですか?」

グレーな子「ポスターとか、ビラとか作ろうと思ってるんだけど、いいペンとかある?」

深羽「ペン、ですね……」

 ええと、確かあったような……。セットよりはバラがいいかな。学生にペンのセットは若干高いし。


ピンクな子「……」ジーッ

深羽「よっこいしょ――ん?」

 カウンターを開いて通り、閉じる。ペンのあるコーナーを思い出し、案内しようと――した直後、視線を感じ二人目の方へ振り向いた。
 ……見られている。すごく。

深羽「あの……なにか?」

ピンクな子「あっ、その……飛島さんよね?」

グレーな子「飛島……? 聞いたことがあるような……」

 私服だから分からなかったけど、やっぱり知り合いだったみたいだ。グレーな子がカウンターの中から出てきた私を下から上にじっくり見る。
 彼女の視線がゆっくり上がっていく。そして、私の身体のちょうど中間上辺りで止まった。

グレーな子「うげっ! 深羽か!」

 ……すごく泣きたくなってきた。

ピンクな子「もう、芽衣ちゃんダメよ? すごく失礼」

芽衣「ってもなぁ……苦手なカテゴリだし。晴香も分かるでしょ?」

晴香「全然分からないからね?」ニッコリ

 ……話から予想するに、別に私が皆に嫌われているというわけではないらしい。個人的に芽衣とかいう子に嫌われているだけで。

芽衣「その顔、深羽はまだ気づいてないみたいだね。クラスメイトなのに」

深羽「……すみません。さっぱり……クラスメイト?」

晴香「そう。クラスメイト。……でもあんまり話さなかったわよね」

 クラスメイト……通りで見覚えがあるわけだ。納得と同時に申し訳なさが、こう……。始業式まだだし、一年生の時ずっと同じクラスってことで。そんなにみんなと交流しなかったかな、私。

芽衣「ま、お互い様ってことかな。私も覚えてなかったし。あ、あとため口でいいよ。他に客さんがいたら敬語でも」

深羽「う、うん……」

 なんだこの子。淡々とした口調だけどぐいくいとくる。表情も決してフレンドリーじゃないのに。

晴香「こら、飛島さん困ってるよ? って、ごめんね。こんなやり取りウザいよね?」

 この子はこの子でいやに控え目だし。

深羽「大丈夫、気にしてない。……ペンだよね? それならこっちにあるよ」

 色々気になるけどとりあえず案内せねば。彼女らはペンを探しに来たのだ。
 芽衣は何故かそわそわしてたけど仕事優先。店のとあるコーナーへ。

晴香「わ、すごい……ペンでもこんなに」

芽衣「おお……目立ちそうなのないかな?」

深羽「目立ちそうなものなら……これとか」

 希望の品を一通り。目立つものと言っても太さ、色、とか種類は色々ある。後はお客さんに任せてもいいけど……

深羽「なにを書くの?」

 用途を聞くのは大事だよね。もしかしたらペンじゃないものが必要かもしれないし。

芽衣「なにを、かぁ……」

晴香「あはは……」

深羽「……?」

 苦笑する二人。言いにくいことなのだろうか。照れ臭そうに目を逸らす二人は、首を傾げる私へポソッと告げる。

晴香「スクールアイドル」

芽衣「始めようって思ったんだ」


 ……なるほど。スクールアイドルを始めるらしい。
 スクールアイドル……って、始めようって始めるものなんだっけ?

深羽「そっか、スクールアイドル……その宣伝ってこと?」

芽衣「うん、部を作るのに五人は必要みたいだからメンバー集めないと」

晴香「今は芽衣ちゃん一人だけだし」

芽衣「え? 晴香、本当に見てるだけなつもりなんだ?」

晴香「約束してないじゃない。私は衣装作るだけ」

深羽「……」

芽衣「あ、ごめんごめん。ってことで、とりあえず華やかで目立って、仲間になりたいって思えるものがいいの」

深羽「なるほど」

 そういうことならもっとらしい物があるかな……。どれがいいかな。

深羽「これとかは?」サッ

芽衣「うーん、色が地味?」

深羽「……これ?」

晴香「派手すぎるよね? あ、ごめんなさい」

深羽「……」

 あれこれとペンの候補を挙げてみるけど反応はいまいち。ピンとこないようだ。
 ……となると、これはもうペンの問題ではないような気がする。


深羽「デザイン……の問題のような気がするんだけど」

晴香「……だよね。ゴメンナサイ」

 縮こまりながら謝る晴香。

芽衣「デザイン? なるほど、それは思いつかなかった」

 それとは対照的にクールそうな顔でコクコクと頷く芽衣。
 ……多分彼女が晴香をぐいぐい引っ張ってきたのだろう。その光景が目に浮かぶようだ。

芽衣「晴香、どう? デザインできる?」

晴香「私のは……あれだよ? 引かれるというか」

芽衣「あー、そっか。別に気にしないけどなぁ……好きだけど」

晴香「芽衣が好きでも私が恥ずかしいの。やだからね?」

 ぶんぶんと首を横に振り晴香が拒絶する。ツインテールがバシバシと芽衣に命中していた。

芽衣「となると……うーん」

 顎に手を当て考え込む素振りを見せる彼女。子供っぽい容姿で冷静に考え込む彼女の視線が晴香から棚、そして私へ向く。
 うんうん、と何度か頷く芽衣。彼女は目をキリッとさせ、鋭く一言。

芽衣「深羽、君に任せた……!」

深羽「ざけんな」

 反射的に台詞が出た。


 冒頭の語りからこれは回想なのだと分かるだろう。だとしたらどこに『ざけんな』と口走るスクールアイドルがいるのだという話である。
 が、いるのだ。似合わない似合わないと言っておきながらアイドルになった馬鹿が。

深羽「……こんな感じ?」

 ざけんなと言いながら、やっと思い出したクラスメイトを家に上げポスターを描きはじめる馬鹿が。

 ……まぁ、だからこそ色々はじまるわけで。


芽衣「ん、いいね。流石は文房具店の看板娘」

晴香「上手。硬派でかっこいい!」

深羽「そう、かな?」

 自室。和風な作りの部屋の床に広々と展開されたポスター。その下書きを終えて、色をつけた。
 スクールアイドル部、その2。部員募集。でかでかと書かれた文字に、晴香が描いたデフォルメされたアイドルの絵。中々いい出来だと我ながら思ってしまう。

芽衣「いいって。自信持ちなよ、深羽」

深羽「うん……」

 こうもはっきり褒められたことなんて久しぶりだ。大したことでもないのに照れてしまう。

深羽「それにしても……」

 赤くなりそうな顔を誤魔化すためにゴホンと咳払い。話題を変えようと気になっていたことを問う。

深羽「その2って何?」

晴香「あぁ……それ。もうアイドルしてる部があるから、一応って」

深羽「……そういえばそうだ」

 思い出す。そういえば学校にはもうスクールアイドルがいたんだった。いつだったかな……ライブを見たけど。それほど印象に残らなかったグループの。


深羽「けどそれなら、わざわざ新しく作らなくても……」

芽衣「そうなんだけど、でも折角やるなら新しくの方がいいと思って」

晴香「あはは……無駄に行動的よね、ほんと」

芽衣「分からなくもないでしょ。ね?」

 まあ、確かに。中古と言ってはアレだけど、新品を好むのは人間の性と言っても仕方ない。
 スクールアイドルもやるなら新しく、自分たちで作った方が楽しいだろうし。

深羽「うん。新しいなら気は楽」

芽衣「だよね。あー楽しみだなぁ、新入生勧誘」

晴香「そんなに人集まらないと思うけど……どうだろう」

芽衣「大丈夫。やることはやったし、結果はついてくるから」

 どこからその自信が来るのか。ほぼ真顔で涼しく言い放つ芽衣に、髪をいじる晴香が肩を落とした。
  彼女らを知らない私からは彼女の自信の理由はさっぱりだ。けど成功してほしいとは思う。スクールアイドルで学校が盛り上がるなら言うことなしである。
 光が大きくなるほど闇もまた大きくなる。つまり学校が盛り上がることで、私の日影もまた大きく、平穏に過ごせるということ。陰ながら応援させてもらおう。

芽衣「……で。ここまで手伝ってもらったついでなんだけど」

 一仕事終えた気持ちよさを感じながらペンや定規をしまっていると、なんだか嫌な予感がする言葉が。


深羽「……なに?」

芽衣「勧誘、手伝ってくれない? ご飯は奢るからさ」

深羽「……」

 ざけんな、という言葉はなんとかのみ込んだ私である。
 まったく無関係な私を何故こうも捲き込むのか。理解に苦しむ。
 私は普通というか二人のことを覚えていないし、いい子な晴香もかすかに覚えてるくらいだし、芽衣に至っては私へ嫌悪感がある筈なのに忘れてたレベル。
 人前に出るような人間じゃないのだ。うん。絶対。

晴香「ちょ、芽衣ちゃん。飛島さんもう十分手伝ってくれたでしょ」

芽衣「いやでも人手二人じゃ足りないし……三人でも足りないし……」

 ……単なる人手不足か。そ、そうだよね。

芽衣「……? なんかしょんぼりしてる?」

深羽「してない。私に手伝う理由があると思う?」

芽衣「ある」

 尋ねると意外にもきっぱりと答えられた。サイドテールを揺らし、平らな胸を張ると彼女はフッと微笑。

芽衣「深羽ってお人好しそあいたっ!?」

晴香「」スパーンッ!

 おどおどした申し訳なさそうな顔の晴香に頭を叩かれる芽衣。シュールだ。

晴香「芽衣ちゃん?」

芽衣「素直に言います……」

 不思議な力関係だなぁ……遠い目。
 芽衣が正座をし背筋をピンと立てる。そのまま妙にかしこまった姿勢で彼女は言う。


芽衣「深羽ってアイドル向きだと思って。そのスカウトも兼ねてね」

深羽「節穴か」

芽衣「ふしっ!? そ、そんなこと言われると思わなかった!」

晴香「ぷ、ぷふっ……」

芽衣「そこー、笑わない」

 晴香のツインテールの片方を引っ張る芽衣。今度は彼女が『ご、ごめんなさい』と謝る。
 アイドル……私がアイドル向き。

 ……ないな。

深羽「私はこんなだけど、どこにアイドル要素が?」

芽衣「あると思うけど。そのスタイルと、もう私たち深羽と違和感なく話せてるし」

 『スタイル』のところで胸見ながら苦い顔しなくとも……。彼女の私への嫌悪感の原因が分かってきた。

晴香「そういえば……。なんでだろう」

芽衣「親しみやすいっていうか……人が良さそうなのが分かるっていうか……とにかく」

 正座からすっと立ち上がり、芽衣が私を見下ろす。彼女はいそいそと手を服で拭き髪を整えると、私へ手を差し出した。

芽衣「深羽、私と一緒にラブライブを目指さない?」

 ラブライブ。スクールアイドルたちの全国大会。とても現実味がある話ではない。
 でも私は私へ手を伸ばす彼女の姿に強い動揺を覚えていた。

 私がアイドルに。私をアイドルに。
 私へ手を差し出してくれる人がいる。

 ドキドキと胸が高鳴った。
 こんなこと初めてだった。緊張で震える手。目の前の彼女の手をとる。簡単なはずのそれに何秒も時間をかけて私は手を握る。

 温かい手。触れているとすごく安心したのを今も覚えている。

 優しく頷く彼女へ私はなんとか声を絞り出し、告げた。

深羽「け……見学から」

 芽衣と晴香が同時にずっこけた。

今回はここまでで。また次回


 そんなこんなでスクールアイドル部その2を作るべく私は芽衣を手伝うことになった。
 見学も部が作られないとできやしない。それにもし私がスクールアイドルをするにしても、リーダーになるだろう芽衣の覚悟や実力は見ておきたかった。

深羽「ってことで、明日も学校行くから」

深羽母「へぇ……アイドルね。あんたが。あんたがアイドル……ぷぷ」

 笑うな母よ。
 始業式がある日の朝である。一階の居間で父が店の方に向かうのを見送り、いつものように朝食を食べていた私は母へこれまでの経緯を語った。
 こたつにテレビ、ソファー。居間といえば、な家具が配置された部屋。ここでスクールアイドルの特番をだらしなく見てた時は、私がアイドルになるなんてことは微塵も思ってなかった。
 有り得ない。似合いもしない。それは自分も分かっている。けど……。

深羽母「あははっ、面白いね。いいんじゃない? アイドル」

 ここまで楽しそうに笑われるとは。パサパサに焼かれた鮭を一口大に箸で裂いていた私は、向かい側に座る母を呆れた目で睨んだ。

深羽「本当にそう思ってる?」

深羽母「思ってる思ってる。深羽は私似で顔もいいから。愛想は良くないけど。ふふふ」

 うわぁ、楽しそう……。心なしか機嫌も良くなったような。
 とりあえず反対ではないみたいで安心した。嬉しそうだしなによりだ。


深羽母「あんたが有名になったら、このお店も有名になるだろうし……ガンバ!」

 ……この母、ほんと変わらない。
 けどまあこんな言葉でも、本心で応援してくれているのは分かる。真面目な場や重たい空気が苦手な人だから。
 苦笑しながら私は頷いた。

深羽「入学式、どうなることやら……」

 新入生が三人は入部してくれないと部ができない。他の部にとられちゃうかもしれないし、入学式当日の勧誘が一番重要。
 スクールアイドル人気はあるし、おそらく大丈夫だろうとは思うけど……。

 やっぱり不安は拭えないものだ。
 でも、それ以外の感情もしっかりあって。

深羽母「ふふ。楽しみね、深羽」

深羽「まぁ、ね……」

 芽衣の活動がどんな影響をもたらすのか。それがとても楽しみではあった。
 不安と期待……相反しているとも言えよう二つの感情。それがもたらす高揚感。青春とはきっとこういうものなのだろうと私は実感した。


 
 
 
 
 彩星女子高等学校――私や芽衣、晴香が通っている学校は、街からちょっと外れた位置、山のふもと辺りにある。

 故に虫がちょっと多めで、たまに山に近いグラウンドグラウンドからはたぬきやらの目撃情報もある。
 幸いスズメバチとかイノシシとか危険そうなものは滅多に見ないのだが……どちらかといえば都会なのに、学校は何故こうも田舎めいているのか不思議でならない。
 そんな点が評価されている一つのポイントなのだけれど。

深羽「……」

 さて始業式当日。
 始業式やら新学期初めてのホームルームやらを一通り終えて、お昼前にようやく解散。
 明日に備えて家でぐーたらしてようかと思っていると、見知った顔が私の前に現れた。

芽衣「や、こんにちは」

晴香「今年も同じクラスだね、飛島さん 」

 制服姿の二人である。
 一学年に3クラス。二年生に進級するにあたり当然クラス換えもあったのだが、見事三人同じクラス。
 いつも一人でぼんやりしていた私も、今年は話し相手に困りそうにない。


深羽「……どうしたの? 二人揃って」

晴香「挨拶しようかと思って。その、仲良くなりたいし……」

芽衣「それとスクールアイドルについて語りに。敵情視察も兼ねて」

 照れ臭そうに指先で頬をかく晴香に、ふふんと得意気に笑う芽衣。がやがやと騒がしい教室の隅、私の席の周りに二人が立つ。

深羽「敵情視察……?」

芽衣「そう。我が学校のスクールアイドル。そのグループについて知ろうってことで」

 そう言って、芽衣が机の上にパソコンを置く。小型のノートパソコンを開き、電源をオンに。

芽衣「あ、そうだ。それで思い出したんだけどさ。深羽、グループ名について何か案はない?」

深羽「なんで私に?」

芽衣「前々から晴香と考えてたけど中々浮かばなくて。スクールアイドル部その2でいつまでもいるわけにはいかないし」

深羽「それは……確かに」

 格好もつかないだろうし。
 スクールアイドルのグループ名……か。私がつけていいのか分からないけど、案を挙げるくらいならいいかな。

 ……なにかないだろうか。


 ↓1~4 スクールアイドルのグループ名案を一つずつ。良さげなものが採用され、なかったら再安価

【遅れました。яebirth を採用しようと思います
   らしいですし、言いやすいですし、ぴんときましたので】

【本編の続きは今から書きます】


深羽「……思いつかない」

 考えてみたけどピンとくるものがない。
 まだどんなメンバーが集まるか分からないし、先が見えなさすぎる。

晴香「だよね。のんびりやっていきましょう」

芽衣「しょうがないか。じゃ、動画再生するよ」

 ……後々のためにも考えておかないと。
 その2じゃ集まってくれた部員にも悪かろう。
 私を左右から挟むようにパソコンを眺める二人。窮屈な状態で操作されたパソコンに動画が再生された。
 大手動画サイトに投稿された動画らしきそれは、中々の再生数。
 ロードからしばらく。画面に映りだされた9人の女子高生が順番に――ライブへの気合い、いや意気込みだろうか。
 元気よく語り、そしてライブを始める。

???『夢に手を伸ばし続けていた』

 明るい音楽に、明るい声。
 まるで青春のように軽やかで前向きな歌声。楽しさを全面に出し、それを観客にも伝えようと歌にダンスに笑顔に、みんなが一体となって一つの物語を紡ぐ。
 何も話していないのに、まるで彼女らの心がそのまま伝わるように真っ直ぐで。

???『私たちのそれぞれの夢』

 それまでスクールアイドルを内心小馬鹿にしていた私は、知らずの内に動画に見とれてしまっていた。
 これが、スクールアイドル。
 これが、女子高生。
 プロでもなんでもない、ただの素人集団。
 なのになんでこんなにも心を打たれてるのだろうか……。

???『――ありがとうございました!』

 あっという間に一曲の持ち時間が終わり、アイドルらは頭を勢いよく下げる。
 そして上げた顔は誰もが充実感に満ちた笑顔。
 楽しそうだと思った。羨ましいと思った。
 私が密かに憧れた彼女らは、清々しい表情で最後に告げた。

???『яebirth (リ・バース)! 影山真央の作詩、???の作曲で『夢を追いかけ』、ありがとうございました!』

 ――яebirth。間違いない。この人達のライブ、私聞いたんだよね……?
 でも、何か違うような。私が聞いた時はもっと違って……気のせい、かな?

芽衣「……どうしよう。思った以上にレベル高い」

晴香「真顔で言うことかしら……」

 動画再生後、パソコンをぱたんと閉じて芽衣が弱気な言葉をもらす。яebirth。私達の先輩となるスクールアイドル部その1。私たちがスクールアイドルをするならば彼女らが身近なライバルにもなるわけで。
 到底初心者が勝てる領域ではない。一年生から三年生まで、踊りも歌も容姿も曲も突っ込むような粗はなかった。
 あのクオリティで世間的には有名じゃないのだから、この国のすさまじいスクールアイドル飽和っぷりが窺える。

深羽「どうでもいいんじゃないかな。あっちがレベル高くても、こっちも頑張ればいい話だし。時間はたっぷりあるよ」

芽衣「……だよね。今はメンバー集めるしかないか」

晴香「そうそう。戦うわけでもないから」

芽衣「うんっ。となると……やっぱり作曲とかコーチできる人が欲しいよね。対抗するには」

 いつもの表情、冷静な声で芽衣があれこれと考えはじめる。
 彼女の情熱は中々のものだ。あの動画を見ても対抗しようと思うのだから。
 しかし、作曲かぁ……。そんなことできる生徒、学校にいる時点でかなりの奇跡なのだろう。スクールアイドルとか流行ってるし、作曲に興味ある人も増えているだろうけど狭き門なのは違いあるまい。
 センスに準備を整えるお金に環境、そして楽器、音楽の知識。生徒の身分では途方もない話である。


芽衣「よーし、やる気出てきた。じゃ帰りに何か食べよっか」

晴香「いいよ。飛島さんはどうする?」

深羽「付き合う。お腹が空いた」

芽衣「あ、深羽。ご飯奢るのは明日ね。お昼ご飯をしっかりご馳走してあげるから」

深羽「分かった」

 とはいえ考えていても仕方ないことだ。
 頷いて、帰りの支度をすぐ整える。荷物は少なく鞄も軽い。寄り道するには絶好の日だ。
 三人並んでぞろぞろと話しながら学校を歩く。そういえばこうして誰かと一緒に帰ったり、寄り道したり……初めてだよね。  スクールアイドル……見学決めてよかった。
 しみじみ思う私である。

 ○


 女子高生が食事と言えば甘いものが食べられる喫茶店やレストラン、ハンバーガーとかのファストフード店が思い浮かぶだろう。
 華やかな女の子たちの食事風景。きゃっきゃうふふと、触れてはならない聖域のように清らかで。
 実際そのように優雅な食事をする女子高生もいるのだろう。
 けれど私たちは育ち盛り。同性同士で遠慮して華やかさをとるよりも、ボリュームをとる年齢にある。
 質より量。量より好み。女子高生は自分に正直であると言えよう。

晴香「けどお昼上がりでラーメン屋に来る女の子ってどうなの……?」

芽衣「え? ここのラーメン美味しいよ」

深羽「ラーメンは好き。日本の立派なファストフード」キラキラ

晴香「そんな目で言われると何も返せない……」

 お昼で下校。学校から出て真っ直ぐラーメン店へ。晴香は見た目からして華やかで清らかな女子高生タイプだから若干戸惑い気味だけど、私にはこういうお店が心地いい。
 のれんのある入り口、ラーメンの香りが漂う店内。手放しに綺麗とは言えないけれど掃除はしてあるお店。これぞラーメン店って感じ。
 長テーブルの椅子に座り、うんうんと頷く私と芽衣。ラーメン。一言にラーメンと言っても種類は色々で、きっと晴香にも合うものがあるはずだ。
 彼女みたいな子には……野菜タンメンとか、担々麺とか。野菜とか胡麻は女子好きだから。


晴香「えっと……じゃあ私、とんこつラーメンで」

 と思ったけど意外にもボリューミーな選択。晴香も結構乗り気だし気にしなくてよさそうだ。
 メニューチラッと見て即決だったし。相変わらず自信なさげな口調だけど。

芽衣「私は味噌にしようかな」

深羽「辛味噌チャーシューで」

晴香「女子高生がこれ……っ!」

 自分も今思ってしまった。

芽衣「まあまあ。食べ物くらい好きなもの食べても怒られないよ。注文お願いします」

深羽「食は自由」

晴香「二人とも息ぴったりだよね……私の方がちょっと付き合い長いのに」

 私達の分も注文してくれる芽衣を見つつ、晴香が言う。息というか好みのような気がするけど……。

深羽「晴香はなんで芽衣に協力してるの?」

 そういえば、と気になったので尋ねてみる。芽衣と晴香。晴香は衣装作りを担当するみたいなことを言っていたけど……どういうきっかけなのか。

晴香「それは……どうしてだったかしら」

芽衣「去年の学園祭で衣装作ってたのを思い出したから。スクールアイドルといったら衣装ってピンときて」

 ふむふむ。それで芽衣が晴香に声をかけて……多分、私みたいな展開で協力することになったのだろう。


晴香「思い付きが多いよね……」

芽衣「そんなことないよ。スクールアイドル部だって、ずっと考えてたことだから」

深羽「なんでスクールアイドルなの?」

 質問してみて、私は知らないことが多いのだと実感した。そんな状態で見学するとか協力するとか……思い付き多いのは私ではなかろうか。
 お冷やを飲み、芽衣をちらっと見る。彼女は何を考えているのかよく分からない涼しい顔でサイドテールに触れた。

芽衣「スクールアイドル……女の子の憧れ。青春の象徴……そう言えない?」

 ……すごくぺらっぺらな理由に思えるのは私だけだろうか。さる有名なスクールアイドルは廃校から救うべくアイドルを始めたとか、そんなこと聞いたこと後だと普通の理由も軽く思えてしまう。

芽衣「まぁ……理由は他にもあるんだけど。それが主な理由かな」

晴香「楽しくやりたいってことだよね」

深羽「ちょっとチャラい」

芽衣「はは、でも真面目だよ。練習だってやってきたし、明日もメンバー集めるつもりだし」

 私の発言に余裕の対応。よっぽど自信があるらしい。練習……歌とかダンスとかかな。芽衣のことはよく知らないけど、ここまですらすらと言葉を返せるのだ。本当に真剣にやってきたのだろう。
 そんな彼女が私のことを誘ってくれた。なんだか嬉しい。

晴香「……そうだね。そこは私もそう思う」

深羽「新入生、可愛い子がいっぱい来てくれるといいね」

芽衣「ん。私の夢、ラブライブ……目指せるくらいにはなりたいよね」

 まだ見ぬ明日へ想いを馳せ、私達はしんみりと目を細める。

 ……ラーメン屋じゃなかったらもっと雰囲気出てたんだろうなぁ、なんて思いながら。


赤髪の女の子「お待たせしました。とんこつラーメンの方は――」

 早速よさげなシーンがとんこつラーメンの匂いに掻き消されたし。
 元気のいい声に、テーブル横へやってきた店員さんの方を振り向く。
 すると、ラーメンの器をテーブルに置き微笑む店員さんと目が合った。綺麗な人だ。
 スラッとした長身に整った顔立ちは可愛いと言うよりは綺麗で、凛とした印象を受ける。
 女性なのにラーメン屋店主みたいな頭のタオルだとか、シャツにショートパンツだとか男っぽい格好がよく似合っている。

晴香「あ、はい。私で――」

芽衣「バイトさんですか?」

 手をおずおずと挙げる晴香。その横から割り込むように芽衣が声をかけた。
 ……ん? 世間話? 芽衣って店員さんとそんなことするタイプなのかな。

赤髪の女の子「――え? あ、はい。バイトですけど……ラーメン、どうぞ」

芽衣「ふんふん、学校は彩星で?」

赤髪の女の子「はい。あ、ラーメン伸びちゃうので、ちょっと取りに……」

 きょとんと不思議な顔をしながら答えるバイトの女の子。
 彼女は何を訊かれているのかさっぱりな様子だったけど……私は大体分かってしまった。

深羽「……スカウト?」ジトー

芽衣「そうだけど。どうしたの?」

深羽「別に」

 綺麗どころなら誰でもいいってことなのか……それともあの子に私と同じく何かを感じたのか。
 ……なんかジェラシー。

赤髪の女の子「残りの辛味噌と味噌。ご注文は以上ですか?」

芽衣「うん。深羽」ススッ

深羽「ありがと」

 目の前に置かれたラーメンを食べるべく、箸へ手を伸ばす。ケースから取り出した割り箸を割り、いただきますと小声で挨拶。
 私は見学者。芽衣が誰をスカウトしようと止める権利はないし、手伝う義理もない。ここは傍観させていただこう。
 食べていいのかみんなの様子を窺っていた晴香にも箸を渡す。


深羽「食べてよう。お腹空いてるでしょ」

晴香「あ、ありがとう」パア

 すると嬉しそうに晴香はラーメンを食べ始めた。ちゅるちゅると輝いた目でラーメンを食べる姿が可愛らしい。おあずけされてた小さな子供みたいだ。

芽衣「……で、なんですけど。スクールアイドル、興味ありませんか?」

赤髪の女の子「急な質問ですね……どういう意味ですか?」

 さて。そうして晴香に癒されている間にもスカウトは進行中。
 スクールアイドル。その単語を聞いた瞬間、バイトさんの目が鋭くなったような気がしたけど……何かあるのだろうか。

芽衣「明日から新しく作るスクールアイドル部のメンバーを集めようと思って。どうですか? 部員に――」

赤髪の女の子「なりません」

 ――何かあるらしい。
 芽衣が全てを言い切る前にお断り。それで話は終わりだと言うように、彼女はくるっと背を向けて去っていった。びっくりするくらい真顔で。

深羽「盛大にフラれた」ズルズル

芽衣「……なんで」

晴香「急すぎよね……たぶん」ズルズル

 落ち込む芽衣にラーメンをすする二人。落胆しつつ芽衣もラーメンを食べはじめる。

芽衣「深羽はついてきたのに……あれが普通の反応なのかな」

晴香「うん」

深羽「即答されると私が普通じゃないことになるよね」

芽衣「うーん……でも、なんかおかしな断り方だよね」

 ラーメンをすすり、口の中のものをしっかり食べてから芽衣がぼやく。
 確かにあれはおかしかった。アイドルに誘われているのだ。つまり容姿を褒められているのと同じ。
 なのに照れた様子もなく真顔で断られる。
 さながら魔王から世界の半分を云々と誘われた勇者みたいな。分かりきった問いをバッサリ切り捨てるような感じ。
 とても初対面、同じ学校で同じ性別の相手にするリアクションではない。
 それまでが好意的な対応だっただけに、おかしく思えてしまう。

 
晴香「あの人なら他にも声かけられてそうだし……だからじゃない?」

芽衣「なるほどなぁ……二年生ではないだろうし、そうなると三年生……うんざりってことかぁ」

 うんざり。正にその言葉が似合う対応だった。
 でもただ単に何かしらの部に勧誘されただけなら、スクールアイドルと聞いた時の反応はどういう理由があるのだろうか。

 スクールアイドルというと、この学校にはリ・バースしかないけれど……何か関係が?

深羽「……」

芽衣「深羽、麺伸びちゃうよ?」

深羽「あ。うん、勿体ない」

 ラーメンを食べながら、私は頭に浮かんだ疑問について考えていた。

 あの子とリ・バースが関係しているとしたら……うんざりするほどの問題ってなんだろう?
 
 ただの推測。バイトの女の子がスクールアイドルに関係しているなんて確証はない。
 けれどその疑問は私の中でモヤモヤと渦を巻いて居座り続けた。


 多分この時私は思い出しかけていたのだ。

 印象に残らなかったリ・バースのライブ。その様子を。

 たった二人きりで踊り、歌う彼女達の表情を。







【今回はここまで】

【サンシャインを1話、2話しか観ていないのであれですが、時間軸は大体ラブライブの二期後ですね】
【制服は……あまり考えてなかったですけどセーラー服で。いずれ描写も入れようかと】


前回のラブライブ!


 私、飛島深羽。
 春から二年生になったいわゆる地味めな女の子。やることもなく、夢もなくただただ日々を過ごしてきた私は、ある日転機を迎える。

芽衣「ラブライブを目指さない?」

 私のお店へやってきた同級生が私をスクールアイドルへと誘った。
 大それた目的を躊躇うことなく口にし、私へ手を差し出す彼女。

 スクールアイドル。
 私が内心見下していた、縁がないと思っていた存在。
 でも芽衣、晴香、二人に心を惹かれた私はステージへと近づくことを決意した。

 そして、入学式の日がやってくる。

芽衣「どうですか? 部員に――」

赤髪の女の子「なりません」

 けれど私の頭にはもやもやした不安が。
 スクールアイドル。私の学校。何か私たちの知らない問題があるのだとしたら、勧誘は果たしてうまくいくのだろうか。

 先の分からない光の中に、私は今足を踏み入れようとしていた。


 【4月】


 輝きに憧れてステージを目指した。
 まばゆい光に目を細め、切れる息を気にせずにただひらすら進んだ。
 その結果がどうあれ後悔することはない。

 ……私は、そう思っていた。

律華「……」

 夜のお店番はいつも退屈だ。私は深く息を吐いた。
 このご時世に銭湯などやっている私の実家は、物珍しさもあってそれなりに盛況している。
 けれど夕飯時を過ぎた今お客さんはまばら。レトロチックな、壁も床も家具も木で統一された店内は無人無音。閉店間際なのもあるだろうが……正直暇ではある。
 こうして番頭台で本を読んでいても咎めたり声をかけたりする人なんていない。

律華「暇ぁ……」

 眠気を感じ、欠伸しながら本を閉じる。口を大きく開けて顔を上げ――

つかさ「や、こんばんは」

 知らずの内に立っている見知った顔に咳き込む。

つかさ「おお、珍しく大きめなリアクション」

律華「ちょっとびっくりして……。どーしたの? 牛乳?」

 女湯の番頭台の前に立ち、楽しげにしているつかさ。
 彼女の後ろ、脱衣場の左右に並ぶ棚には誰の荷物もなくお客さんがいないことがすぐ分かった。
 ……良かった。こんな無防備なところを知り合いじゃない誰かに観られたら恥ずかしい。

つかさ「話がてらバイトの疲れを癒やしに。はい料金」

律華「珍しいねぇ。つかさちゃんがお風呂入りに来るなんて」

つかさ「貸し切り状態みたいだしね。それに明日は入学式であたしは学校行かないから」

律華「……? 急な話?」

 どんな話題だろうか。首を傾げて問いかけると、つかさは目をすっと鋭くさせた。
 ……真剣なお話みたい。

つかさ「多分二年生だろうね。三人の女の子達が新しくスクールアイドル部を作るつもりみたい」

律華「え……!」

 驚いた。去年は何事もなかったのにまさか今年になって誰かが動き出すなんて。

律華「そう……いつかくるとは思ってたけどー……」

つかさ「去年何もなかったのが逆に驚きなんだけどな。多分その三人、リ・バースのこと何も知らないと思う」

律華「スクールアイドルをはじめるのは思いつきってことね。ふふ、青春らしい」

 くすくすと笑う私に対し、つかさの表情は暗い。これから起こること。それは彼女とまったくの無関係だというのに、相変わらず優しい子だ。

律華「大丈夫。リ・バースの二人にとって、その三人にとってもきっといい刺激になると思うから」

律華「結果がどうあれ、ね」

 身体を伸ばしてなんとか彼女の頭を撫でる。

つかさ「心配してないからな? あたしには関係ないし」

律華「うん、わかってるー」

 視線を逸らして憎まれ口を叩く彼女はとても子供っぽくて可愛い。手を離して私が適当に答えるとつかさは頬を膨らませた。

律華「……ふふ」

 本当に心配してないなら元メンバーの私のところへ来るはずがない。……なんてことは言わないでおく。分かりきったことだし。

つかさ「なんで笑うんだ?」

律華「本当なら応援してあげたいけど……そうもいかないね」

つかさ「やっぱりあのルールを撤回する気はないのか」

律華「二年前からの規則だからねー。あれがなければもっとすごいことになってたと思うし」

つかさ「だけど……もう、三年生は……」

 暗い顔のまま、彼女は途中まで口にして言い淀んだ。
 三年生は。その先は言わずとも分かる。

律華「うん。だけど私達はあの子達から離れたから……見守ることしかできないんだよ」

律華「外野が騒いでどうこうされるなら、今の三年生もリ・バースもいない」

つかさ「……」

 静かに私は言う。目の前の彼女に向かって口にした言葉だけど、それがもう一人、私自身に向け言い聞かせた台詞だと分かっていた。
 私が三年生にできることはない。かつてリ・バースから抜け、彼女たちの努力を見て見ぬふりをした私には何もできない。

 私は後悔していた。走った先には何もなくて、道が大切な人とはっきり分かれてしまって。
 前に進んだ結果は……散々だ。

 だから期待をしてしまう。
 私にできなかったことをその三人がなんとかしてくれるのではないのかと。

 そんなこと考えることすらおこがましいのだけど。

 でも……それ以上に今のリ・バースは見ていられないほど悲しいから。

律華「生徒会長にできるのは、それぐらい」

つかさ「……」

 つかさは何も言わなかった。ただ一度頷いて、脱衣場の中へと歩いていく。
 ――失望させちゃったかな。

 でもね、私はそういう道を選んだんだ。

 もう戻ることはできない。別の道を選ぶこともできない。

律華「……うん。しょうがない」

 だから私は、何もしない。
 もうこれ以上後悔したくないから。


 ○

 本来二年生と三年生は休みのはずの入学式。
 けれども私が学校に行くと、意外にも生徒達の人数は多かった。

深羽「それもそうか……」

 朝。半笑いの母に見送られて登校し、いつものように教室へ向かう私。たった数日前は縁すらなかった、青春の雰囲気漂う賑やかな校内を歩きながら私はひとりごちる。
 入学式。帰宅部の在校生には何の関係もない日だが、部活をやっている人間にとってこのイベントはとても大切だ。
 なにしろ勧誘ができる一番早い日なのだ。今年一年部がどうなるかがかかっている日と言っても過言ではない。賑わって当然。

深羽「新しく部を作るなら尚更、だね」

 無論、スクールアイドル部その2にとっても重要な日だ。
 今日は特に何をするかとか聞いてなかったけど、きっとあの行動的な芽衣なら何か考えていることだろう。期待しておこう。

 文化祭のような浮かれた空気をひしひしと感じつつ、ようやく教室の前に。

深羽「……」

 今日、この日を逃せばスクールアイドル部その2を作ることは難しくなる。不安と期待。緊張してしまう自分を追い払うように頭を振り、私は勢いよくドアを開いた。

芽衣「お。おはよう」

晴香「おはよう、飛島さん」

 教室の中は学校の活気に反して二人しかいなかった。落ち着いて挨拶してくる二人に私は安堵する。ちょっと肩の力が抜けた気がした。

深羽「おはよう。早いね、二人とも」

芽衣「まぁね。色々やることはあるし」

晴香「私は暇で……」

 机を二つほどくっつけて、その上に先日のポスターやビラを広げている二人。勧誘の準備はバッチリって感じ。
 あとは……ん? なんか衣装みたいなものが……。


芽衣「気づいた?」

 教室のドアを閉じて二人の近くに。服らしきものを見ていると、芽衣がフッと笑った。

芽衣「これこそ今日の秘策。晴香の作成した衣装!」

深羽「これが? ……ふむ」

 何故か芽衣が得意気にしているのはともかく、置いてある衣装はかなりの出来だ。畳んであって全貌は分からないけど素人が作ったとは思えない。

晴香「……おかしかったかな?」

深羽「そんなことはないよ。すごい出来だったから」

芽衣「でしょ。私の目に狂いはなかったね」

晴香「そ、そうかな……」

 対称的な二人のリアクション。芽衣は自信満々に、晴香はおどおどと。こんなクオリティで作れるなら、晴香も胸を張っていいのに。

芽衣「で、問題は誰がどの衣装を着てどんな勧誘をするかなんだけど……」

深羽「……芽衣じゃないの?」

芽衣「私でもいいよ? でも、アイドルはしいって言ったら……」

 チラッと前を見る芽衣。その視線の先には晴香。……確かに、性格の消極的なところは除いて、アイドルらしいって言ったらこの面子だと彼女がトップだ。ふわふわと可愛らしくて、髪型もらしいし、色合いもとてもいい。
 芽衣も小さくて可愛くて、人の注目を集めるだろうけど……小さすぎて注目を集めるまでが長そう。


芽衣「……なんか失礼なこと考えなかった?」

深羽「そんなことは全然……」

 危ない危ない……。

芽衣「で、深羽もいいし。ここが男子校なら注目集めるのは間違いなく深羽だし……髪上げて笑顔見せてればらしく見えるんじゃない?」

深羽「褒めてるのか褒めてないのか……」

晴香「片目隠しにスタイル抜群、セーラー服に黒タイツ……アニメのキャラみたいだよね!」

深羽「……それも褒めてるの?」

 なにはともあれ、誰でもいいってことだ。私は釈然としないけど……主に自分への評価が。

芽衣「うーん、どうしようかな……」

深羽「……」

 ここで何かアドバイスしておくべきだろうか。私はまだポスターやビラに文字をちょろっと書いたくらいしかしてないし……。


 1「私がやろうか」
 2「芽衣に任せるよ」
 3「晴香のアイドル姿見てみたいな」

 ↓1 一つ選択

 選択 3「晴香のアイドル姿見てみたいな」

 【ルートが若干分岐します】


深羽「晴香のアイドル姿見てみたいな」

 適任と言えば彼女。ここは晴香にやってもらうのが間違いないだろう。

晴香「ひえ!? な、なんで私?」

芽衣「すごいサラッと言った……むしろ不審者」

深羽「そんなことない」

芽衣「そうかな。まぁ――晴香。アイドルらしいのは晴香だと思うんだけど、どう?」

 私と芽衣。二人の注目を受け芽衣があたふたと慌てる。
 性格的には適任とは言えないけど、可愛くはあるよね。うん。

晴香「あの……私、衣装だけの協力って言ったわよね?」

芽衣「言ったね。でも深羽見たいって言ってるし」

深羽「是非」

芽衣「そこは否定しないのね……」

晴香「ううぅ……でも」

深羽「駄目かな? サポートはするから」ジー

深羽「ね?」ジジー

晴香「ぐぐぐ……分かった。頑張る」プイッ

 見つめながら真摯にお願いすると彼女は顔を逸らして頷いてくれた。
 よっぽど恥ずかしいのか頬を赤くさせて。

芽衣「うん、オーケー。それなら私達はビラ配り頑張ろうか」

深羽「了解。晴香が身体張ってくれるんだし」コクッ

芽衣「うん。死ぬ気でやろう」グッ

晴香「大袈裟なような……」

 握手する私と芽衣。それを呆れた様子で見つめ、晴香が肩を落とした。
 さて大事な勧誘、この方針でうまくいくといいけれど……。

 
 
 入学式、そしてホームルーム。

 それを終えて校舎から出てくる一年生を勧誘する、というのが学校側から定められている大まかなルールらしい。
 なので時間まで作戦の確認や雑談しながら教室で待機をし――

 戦いのときはやってきた。

 校舎から出てくる新入生。
 校門前はそれまでのざわつきを塗りつぶすかのようなにぎやかさに包まれ、一変する。
 勿論私たちもその中にいた。

深羽「……」

芽衣「……」

 活気の中、自分たちの武器を手に機会を待つ。
 私たちの視線の先には仕留めるべき的に、ジッと身動き一つせず慎重に周囲に視線を巡らせる大将。
 喧騒の中動き出さない戦い。それはさながら達人同士の対峙のようだった。
 先に動き出した方が負ける。
 ちっとも意味が分からなかった言葉が今は痛いほど理解できる。だって――

晴香「……」ガタガタガタ

 動いたら卒倒しそうだから。

 他の部活に混ざってほぼ中心位置。中々いいポジションを取れたけど勧誘は順調とは言えなかった。
 まぁ……あれだよね。フリフリの可愛い服を着た美少女が、マッチ売りの少女よろしく寒さに震えたみたいにガタガタしながらビラを差し出したまま硬直していたら、誰だって近寄りたくはなくなる。新手のパフォーマーと勘違いしておひねり置こうとする人がいるくらい勧誘という言葉からはかけ離れているのだから。

芽衣「やっぱり無理だったかな」ソワソワ

深羽「もう少し様子を見よう? やってくれるって言ってくれたんだし、私たちはビラ配って」

 武器――もといビラを抱え、心配そうな顔をしている芽衣。
 新入生の中で緊張と恥ずかしさですごいことになってる晴香は確かに心配だけど、引き受けてくれた彼女を駄目そうだからとすぐ回収することはあんまりしたくない。彼女は彼女なりに頑張っているのだから私たちも頑張るだけだ。

深羽「スクールアイドル、興味ありませんか? いかがですか?」

 晴香だけに頑張らせるわけにもいかない。私もぼちぼちと勧誘をはじめる。
 できるだけの元気と愛想を振りまいて、にっこりと笑って。

新入生1「スクールアイドル……?」

 すると存外あっさりと立ち止まってくれる子が。
 流石スクールアイドル。大流行の看板は伊達ではない。ここがチャンスと私はまだそわそわしている芽衣に声をかけ、立ち止まった新入生の御一行に接近。

深羽「どうですか? 新設のスクールアイドル部その2――名前は未定ですけど」

芽衣「興味あります?」

新入生2「いいじゃん、スクールアイドル。中学の友達もやるって言ってたし――」

新入生1「う、うん。興味はあったけど」

新入生3「でも、あれよね?」

深羽「……?」

 『あれ』。一人が口にした途端、三人の様子が変わる。
 その表情に私は見覚えがあった。

新入生1「あ、あの……やっぱりいいです」

新入生3「ごめんなさい」

深羽「え? あ、うん」

 引き止めるのは無駄。なんとなく察し、私は他の部活のところへ歩いていく彼女達を見送った。

深羽「……なんだろう」

 何か、私が知らないことがあるのだろうか。
 分からないけど……なにしろあの反応だ。勧誘がすんなりうまくいくとは思えない。
 なにかしら改めて作戦を練ったほうが。頷く。私は隣の芽衣へと振り向き――

深羽「芽衣、一旦話を――」

芽衣「やっぱり見てられない! 晴香、大丈夫っ?」ダッ

 話しかける間もなく芽衣が走り去った。

芽衣「ほら、ビラは私たちに任せて晴香は笑顔笑顔」

晴香「うぅ……ごめんね、芽衣ちゃん……飛島さん……私、もうダメみたい……」ガクッ

芽衣「あ、晴香!? 晴香ー!」

 あ、動かしたから負けた。――って言ってる場合じゃない。

深羽「一旦下がろう。今は不利」

芽衣「そ、そんな……くっ!」

 ……芽衣、キャラ違う。私も戦闘モノみたいな台詞を言っといてなんだけど。
 まともに勧誘できていない内に一度撤退。勧誘している校舎から校門の道の左端へ。
 知識も経験もない新参者の未熟さを、私は身に沁みて理解するのだった。


 そんな、バトル漫画みたいなノリで避難して――

深羽「スクールアイドル、この学校でなにかあったの?」

芽衣「『なにか』?」

 件の疑問について尋ねてみた。
 けどまぁ、返ってくるのはぽかんとした様子の復唱だけ。そりゃそうである。連続してお断りされるような理由があって、それを知っているならば私が誘われた時点で説明がないのがおかしい。

晴香「……様子が、おかしかったことよね」

芽衣「晴香が?」

深羽「むしろそれは全員」

晴香「真面目な話だよね?」

 ほんとごめんなさい。

深羽「……ごほん。さっき勧誘した子達、途中で断ってきたんだけど――スクールアイドル部はなんかダメみたいな……」

 なんとも言えないけど、でもなんとなく……。

深羽「ラーメン屋のバイトさんみたいな感じだった」

芽衣「……あの人?」

深羽「うん。スクールアイドル部ができなくて当たり前みたいな。自分はもう諦めてる、みたいな」

晴香「……うん。なんとなく分かる」

晴香「みんな興味はあるみたいなのに、声かけてこなかったから」

 前にいて彼女はそう感じたらしい。
 もうすっかり落ち着いた様子で晴香が静かに語る。

芽衣「うーん……なんかあるのかな。それより晴香、もう大丈夫?」

晴香「え? あ、うん。平気よ」

 ……芽衣、過保護すぎる気が。それよりって。
 こういう子なのね。勧誘の大事な時間だというのに人がいいというか。

晴香「ちょっと緊張しちゃっただけだから……」

深羽「ちょっとどころじゃなかったような気がするけど」

晴香「うっ……」

 図星だったらしい。短く呻いた晴香ががくっと肩を落としてしまう。
 彼女の容姿は素晴らしい。アイドルらしい可愛らしさ全開に、ふわふわフリフリな衣装。どことなく制服っぽい半袖のフリルが付いた白いシャツに、首元にピンク色のリボン。下はチェックのミニスカート。
 晴香の髪色に合わせたコーディネートで、健康的で眩しい――女の子が憧れるアイドルそのもの。
 道のど真ん中で石像になるパフォーマンスをしていなければ、本来人だかりができてもおかしくないレベルなのだ。
 その有り余るポテンシャルが彼女の性格面でマイナスされた。きっとそれも事実なのだけれど……それ以上に誰一人として晴香に近づいてこなかったのは不思議としか言い様がない。
 何か理由があるはずだ。

深羽「でも、勧誘がうまくいってないのは晴香のせいじゃないと思う。っていうか失敗しても誰のせいでもないし」

芽衣「頼んだのは私たちだからね。それにおかしいのは薄々分かってたんだ」

 芽衣もやはりそれは感づいていたらしい。三人が揃って抱く違和感。これはもう偶然とは言えない。
 けれどそれが何か分からない以上、どうすることもできないのも事実で……。私達は暗い顔でうつむく。
 何もできることはない。けどこのまま勧誘を続けてもメンバーが集まるかどうか……。
 困り果てた私は自然と芽衣を見る。晴香もまた彼女を頼るように視線を向け――芽衣はまるでそのタイミングを見計らっていたかのように顔を上げた。

芽衣「……じゃ、奥の手やろうかな」

 そして短く告げる。
 サイドテールを揺らしフッと不敵に微笑む芽衣。身体を伸ばし、両手でガッツポーズを作る。

晴香「奥の手?」

芽衣「うん。スクールアイドルらしい、入りたいって思うような勧誘」

深羽「……?」

 そんな方法が? 首を傾げる私の前、彼女は私へと振り向き自信ありげに笑みを浮かべた。
 赤っぽい瞳が私をまっすぐ見据える。何も分からない不安に圧されているであろう彼女。しかしその目は希望に輝いていた。

芽衣「見てて、深羽。私の本気。本当にスクールアイドルをやりたいんだ、って」

 私にはない、ひたむきな勇気。楽しむ心。
 それが眩しくて、私は目を逸らすようにして頷いた。

深羽「うん。何をするかは分からないけど……見てるよ」

 彼女がここまで言うのだ。見届けるとしよう。
 成功するか失敗するかはともかく、見守っていたい。そう思ったから。

芽衣「よし。晴香も見ててね。アイドルの魅力、教えちゃうから」

 このまますぐ行くつもりらしい。セーラー服を整えると彼女はまっすぐ、私たちが勧誘していた場所へと向かっていく。
 静かにしっかりとした足取りで歩いて行く芽衣。小柄な彼女の背中は勧誘している同級生や先輩よりも大きく、頼もしく見えた。

晴香「何をするのかしら……?」

深羽「分からない。けど……大丈夫な気がする」

 誰も何もなかったところからここまで来たのだ。
 私たちのリーダーと言えば芽衣。私たちを取り巻く話の主役は彼女。
 芽衣ならばなんとかできるはずだ。


芽衣「……さ、はじめよう」

 喧騒の中力強く、彼女のそんな一言が聞こえた。


芽衣「……」

 すーっと息を吸う。
 瞬間、静寂が訪れた――ような気がした。
 その場の誰もが同時に黙るなんてこと、あるはずもない。
 けれどその瞬間はまるで彼女のステージが始まる直前のように、周りにいる人達が観客になったかのように、無音の世界が訪れたのだ。

芽衣「『ここから、今から、はじめよう』」

芽衣『過去へ未来へ今へ繋がる道を、駆け抜けて』

 聞いたことのない曲。その冒頭部分。
 伴奏もなしに高らかに歌い上げた彼女。
 ちらちらと彼女を見る周囲の人達。けれどまだ注目という域には至らず、賑やかさに変わりはなく。

芽衣『最初は誰でも一人で』

 それでも芽衣は歌うことをやめない。
 むしろ楽しそうに声を弾ませて、リズムをとっていた身体を大きく動かしはじめ踊りだす。
 周りが見えているのか、いないのか。いずれにせよ私には信じられない行為だった。

芽衣『分かれ道だってある』

 ちら、ちらと次第に彼女は注目を集めていく。歌い踊り眩しいほどの笑顔を浮かべ、芽衣は客観的に見ればリ・バースと比較して技術が勝っているとは言えない。けれど彼女の歌はにぎやかさの中で明るく響き、まるで楽しさを体現しているかのようなダンスは見ているだけで気持ちが明るくなってくる。

芽衣『けど、寂しくはない。目指す場所がここにあるから』

 それはテレビで見るアイドルからは感じなかったもので、私に希望というものを教えてくれて。
 その点では、私が見た筈の生リ・バースより――いや、全アイドルより優れているのだろう。

晴香「……芽衣、こんなに踊れたの?」

深羽「予想外だね……てっきり、思いつきでここまで突っ走ってたのかと」

 これまでの芽衣の印象とはまったく違うクオリティ。……否、思ってみれば彼女らしいといえるか。わざわざスクールアイドル部を新たに立てようとしているのだ。その情熱はくすぶっていた私には想像できない。

芽衣『私はここにいる。声を張り上げよう。みんなの声も聞こえる、この空の下で』

 歌が盛り上がっていく。彼女の歌声は一層強く響き、確信を得たようなキリッとした彼女の横顔は凛々しく、思わず見とれてしまう。それはこの場にいるほぼ全員がそうだったのだろう。楽しげな声でざわついていた場は静まり、視線が集まりはじめる。
 有名スクールアイドルとは違って、うまくもない歌。うまくもない踊り。なのに人を惹きつけてやまない。
 緊張もあるはずなのに、芽衣は生徒たちが静まった一瞬の静寂、息を大きく吸い、一歩前へ。空いていたスペースへと跳び、軽やかに踊りだす。

芽衣『一人じゃない。見えないだけさ。だから走っていこう、明日へ』

芽衣『そばにいなくても力になるよ。だって私はそう思うから』

 大した技術もない。けど高鳴る胸は止められない。私は初めてアイドルに憧れる人達の気持ちが分かった。
 私も彼女みたいに誰かに希望を与えられたら。踊れたら。……楽しく思えたら。

 きっと人生は変わるのだろう。

深羽「……」

 遠い世界みたいな話だ。
 私はその世界の外で、ずっと存在すら知らずに生きてきた。今、見学者っていう立場で、スクールアイドルになろうと思えばなれる位置にいても彼女は遠すぎる。

芽衣『過去へ未来へ今へ――この声はどこまでも響くんだ』

 光輝くステージの中。彼女は生徒達の視線を釘付けにさせるお姫様のように綺麗で可愛くて、とておも同級生のように思えなくて。私と晴香が見ている先で、彼女はあっという間に新入生たちに囲まれた。

晴香「これがアイドル……」

 私も同じようなことを呟いていたかもしれない。まさかプロではなく、素人同然の高校生にアイドルのすさまじさを思い知らされるとは。

深羽「……って、私たちも勧誘しないと」

晴香「あっ! そうだねっ」

 見事なパフォーマンスを披露した芽衣は新入生に質問攻めにされている。一人では対処しきれないだろうし、私たちも手伝わないと。
 急いでビラを手に。芽衣の元へと向かっていく私たち。

深(それにしても……)

 さっきまで見向きもされなかったのに、こうも変わるものなのか。
 それも見向きされない理由が何かあったはずなのに、だ。興味がないだとか、そういう理由ではなく『係わりたくない』明確な理由がある様子だったのに――まったく、芽衣の情熱には恐れ入る。
 これならよく分からない事情も越えて、本当に部を新設できるかも……。

晴香「……? 上級生?」

 小走りで人だかりへ向かっていたそんな最中、晴香がふとそんなことを呟いた。
 私は後ろを振り向き晴香の視線を辿る。斜め前――ちょうど芽衣らから横に離れた位置を見ると、

深羽「あれ?」

 そこには二人の生徒がいた。制服の具合に見た目の年齢。見るからに新入生ではない。視線を真っ直ぐに向けて人だかり、芽衣らの方へと歩いている。
 私は彼女らに見覚えがあった。

 薄水色のセミロングヘアの女の子。
 クールそうなきりっとした顔立ち、モデルのようなスタイル、ピンと背筋を立てせて凛々しく、歩く姿にすら華がある。
 冷静沈着で冷酷さすら感じさせる彼女の表情だが、私は知っている。仲間に可愛らしいアイテムなどを指摘され照れたり、ライブで楽しそうに笑う彼女の女子高生らしい面を。

 彼女の後ろを歩いている人物のことも知っている。
 青みがかった白髪のロングヘア。前髪で目を隠していて、暗めな印象を受ける少女だ。
 制服を着ていても用意に分かるほど豊かな女性らしいスタイル、低めな身長、目が隠れていても予想できる綺麗な顔立ち――謙虚である必要などないのではと思える容姿で、控えめでおしとやかで、とてもいじらしい女性である。
 私の知る彼女はもっと楽しそうな顔をして、雰囲気ももう少し明るかったのだけれど、今はまるで戦いに赴く戦士のような覚悟を感じられた。

 並々ならない雰囲気で芽衣へと向かっていく二人。
 見覚えがあるのは何故だかすぐ分かった。上級生に興味がなかった私が彼女らを目にする機会が最近あったのだ。

 つまりは、彼女らこそ――

晴香「もしかして『яebirth』?」

 そう。現在学園に存在する唯一のスクールアイドルグループである。
 彼女らが芽衣に何の用があるのか。嫌な予感がするのは言うまでもない。

深羽「……」

 これから何が起こるのか。なんとなく察しがついてしまった私は足を止める。
 怖いだとか、面倒だとか、そんな感情からではない。ここから先は関係者以外足を踏み入れることは許されない領域だ。
 見学するつもりでいた私が、ただ偶然に勧誘を手伝うことになった私が無遠慮に首を突っ込んでいい問題ではない。

晴香「飛島さん?」

深羽「……」

 立ち止まった私の後ろから横へ、ひょっこりと顔を覗き込むように並ぶ晴香。彼女はこれからどうなるのか私と予想が違うみたいだけど……。
 行くべきかここで見守るべきか。悩んで立ち止まっていると、その直後に声が響いた。

薄水色の女の子「なにをしているのかしら?」

 ざわつきの中で透き通る声。声が極端に大きいわけではないのにはっきりと聞き取れて、それでいて全く不快ではない。
 彼女の声が発せられると間もなく、辺りは静寂に包まれた。芽衣のパフォーマンスで盛り上がっていたのがまるで嘘みたいに。
 芽衣、そして私と晴香。張本人らを除く殆どの人達が彼女の出現にバツが悪そうな気まずそうな顔をしている。まるでこうなることが悪いことだって分かっているかのように。

芽衣「榎本 悠さん……? 影山 真央さんも……」

悠「……」
真央「……」

 そして彼女ら二人が芽衣を見る目も『責められて当然』といった感じのもの。
 すっかり話の場に立つタイミングを失ってしまった。そこにのこのこと歩いていくだけの勇気は私にはない。



【訂正 そこに → あそこに】


悠「スクールアイドル部――二つ目を作ろうとしているって聞いたけど」

 冷たい視線が芽衣を射抜く。重苦しい空気。芽衣も敵意に身体を向け、真剣ムード。
 新入生が怖気づくんじゃないかと場違いな心配をしてしまう私である。

芽衣「はい。名前はまだ決めてないですけど……それが何か?」

真央「――決まり、知らないの?」

芽衣「決まり?」

 芽衣が首を傾げる。そのリアクションが意外だったのか、敵意を剥き出しにしていた二人は驚く様子を見せた。

真央「……悠ちゃん、どうする?」

悠「……」

 額に手を当て丸々一分ほど思考。
 重たい雰囲気のままの短い筈の時間はとても長く感じられた。

芽衣「……えと、その決まりって?」

悠「え? それは……」

真央「スクールアイドルグループの結成禁止」

 急に声をかけられてびっくりする悠に代わり、簡潔に答える真央。
 スクールアイドルのグループ結成の禁止。……なるほど、確かにそれならみんなのリアクションにも納得ができる。

芽衣「禁止? そんなこと聞かなかったですけど」

悠「コホン。……それはそうね。聞かなかった人も多分いるわ」

悠「校則に載せるようなルールじゃないこともあって、暗黙の決まりみたいなものだけど――」

芽衣「それでも、みんなは守ってたってことですか?」

 周囲をちらと見て芽衣が呆れた顔をする。彼女の心境は分からない。けれどスクールアイドルの先輩を前にこの不敵な態度は中々できるものじゃない。物怖じせずに自分を表現する彼女がかっこよく見えた。

悠「ええ。とても大切な決まりごとなの」

 わずかに緩んでいた空気が、再び鋭く張り詰める。戸惑い気味だった悠もいつの間にかクールさを取り戻しており、場は再び緊張感に包まれた。
 流行りのスクールアイドルを禁止して自分らは続けているのだから、それなりの理由があるのは道理。
 わざわざこうして言いに来ているのだ。余程のことなのだろう。でも……。

芽衣「なんで禁止なんてされているんですか?」

 納得はできなかった。芽衣も同じだろう。

悠「理由はどうでもいいわ」

 まっすぐ向けられる芽衣の眼差し。そして問い。それをあっさりと払うように悠は言い捨てた。

悠「私達は確認しに来たの。ルールはもう一つあってね」

芽衣「もう一つ?」

 睨み合う二人。この場にいる私達は揃って彼女らの会話をただ見守っていた。
 やがて、悠が口を開き語りはじめる。

悠「私達と勝負をして、勝った方のグループをこの学校のスクールアイドルとして認める」

 それは衝撃的で、理不尽な規則だった。

悠「それがもう一つの決まりごと。負けた方はグループを解散してもらうわ」

芽衣「なっ……」

 芽衣が息をのむ。私と晴香もまた、予想外なルールに驚愕した。
 勝負? 負けた方が解散?

 誰もやりたがらないわけだ。
 二人は二年ほどスクールアイドルをしてきた。それに比べて、アイドルをしようと挑戦することになる生徒はおそらく未経験。
 それで負けたら解散。おそらくは再結成することも許されないのだろう。
 


 ようやく見えてきた学校の事情。けれど私にはまだよく分からない点がいくつかあった。

 疑問点はある。けれどこの時点で、部を作るには過酷な条件を乗り越えなければならないことが分かった。
 素人が先輩に勝つなんて不可能に近い。だからみんな諦めていたんだ。

 暗い顔をする新入生達。見れば周囲で勧誘をしていた在校生らも同じような顔をしていた。
 みんな無理だと分かっているのだ。私だって芽衣を応援したいけどよく分かる。

 ここで終わりだ。
 悔しいけど、ここで退けばまだ新しく他の部を作ることだって――

芽衣「……分かりました」

 みんなが諦めたと思っていた。
 けれど彼女はちっとも諦めていなくて。
 少しだけ目を閉じて大きく頷くと、芽衣は笑みを浮かべてみせた。

芽衣「スクールアイドル、諦めるつもりはないから――やってみせます」

悠「――そう」

真央「自信はあるの? 部員、五人集められる?」

芽衣「自信はありますし、やってみせます」

 きっぱりと断言。できると思っている人がこの場で何人いるだろうか。笑みを浮かべている者が何人いるだろうか。
 多分、彼女一人だけだ。
 一人だけ芽衣は明るく立ち向かおうとしている。自分がそうしたいから。アイドルをしたいから。

 やっぱり、彼女は眩しい。

悠「分かったわ。なら――律華」

律華「……本当にやるの?」

 悠が目配せをする。視線の先、いつの間にか立っていた女子生徒が不安そうな顔をした。
 あの人は確か、生徒会長の律華さん。新入生の誘導や、勧誘のアナウンスをしていたような。
 スピーカーやら色々な機材が彼女の周りに置いてあって……二人が何をするつもりか、すぐ察しがついた。

真央「お願い」コクッ

律華「……」

 律華は何も答えない。ただ一度首を縦に振ると芽衣を見やり、何かのスイッチを操作した。

悠「さっきの歌とダンス、見せてもらったわ」

真央「だから今度は私たちの番」

 音楽が鳴りだす。スピーカーからだろう。話ながら彼女らは身体でリズムをとり、音楽に合わせて踊りはじめる。
 クールな印象の曲だ。芽衣達と見たリ・バースの雰囲気とは正反対と言っていい。

悠『倒れても歌い続ける』

真央『声を上げて高らかにずっと』

 それぞれ順番に一人ずつ歌う。文にすればたった一行にも満たないであろう短いパートで、彼女たちの経験や実力が窺えた。
 踊りに視線の動き、表情。歌もスピーカーの音楽に負けない大きさで、やはり通る綺麗な声をしている。
 技量は芽衣と比較にならないほど高い。

二人『生まれた時から変わらない そうこれは定められたfighting』

真央『可愛いだけじゃ何も得られない』

悠『綺麗なだけじゃ乗り越えられない』

二人『自分で強く 勝ち取るのよready』

 照れ臭い歌詞も彼女らが口にすると不思議とかっこよく思える。私の思うアイドルらしさとはまた違うけど、こういったかっこいい女性も映えるものだ。
 まさに圧倒的。技術に演出、歌にダンスに表情に。全てが芽衣を上回っていた。
 端から見ていた素人がそう判断できるほどの明確な差。けれども私は何故だろう、二人のライブに心が震えることはなかった。
 ――テレビでアイドルを見た時と同じだ。スクールアイドルとアイドル。テレビで編集された姿と、ネットの動画。
 考えてみればすぐに分かることだった。

悠「……。これが『яebirth』」

 曲が止まり、若干息を上げた悠が涼しげな顔をして口を開く。あれほど声を出し、踊っていたのに全然疲れた様子はない。二人きりでもしっかりと練習やトレーニングをしていたのだろう。

真央「遊びでアイドルをするつもりなら……やめた方がいいと思う」

 彼女らは真面目にスクールアイドルと向き合っている。
 そんな彼女らが発する警告は、事情を知らない私にも重く響く。

 彼女らの意思に、スクールアイドルとして過ごしてきた時間に真っ正直から対抗する。それはとても難しいこと。
 ……でも、芽衣ならやれるんじゃないかと思う私もいた。
 新しく部を作り、自分のしたいことに真っ直ぐで、一人で歌い踊った彼女なら。眩しさを感じるほど輝く彼女なら。
 頑張れ。私は拳を握りしめ、呟いた。彼女ならできる。そう信じて。
 みんなの注目の中。二人のパフォーマンスを見ていた芽衣が、言葉をかけられハッとした様子で悠らを睨み直した。

芽衣「……っ、遊びじゃ」

 彼女はそう言って、初めて目線を二人から逸らす。
 あの芽衣が遊びならばという言葉に言い淀み、目を逸らしてしまう。意外だった。彼女が遊び気分なんかじゃないことは知っていたから。芽衣自身もそう思っているはずなのに、なんで黙ってしまうのだろう……?

悠「否定、しないのね。それもそうね」

律華「――悠ちゃん」

悠「あなたは黙ってなさい」

 宥めようとした律華を悠が冷たい声で制する。厳しい、敵に向ける視線を律華から芽衣へと向け、そして周囲へ。

悠「あなたの味方をしようだなんて人、周りにいないもの」

 シンプルな一言。彼女の視線と言葉に、私は自分が青ざめるのを感じた。
 あぁ、そういうことか。芽衣は分かっているのだ。自分以外のみんなが諦めていると。自分の味方などいないのだと。

 私もそうだ。諦め、でも彼女ならと、頑張れと観客席で見守るような気持ちでただ眺めてるだけ。

 ……勇気がないのだ。
 二人は正論を口にしている。でもそれは間違っている。分かっているのに、私達にはそれを否定する力がない。自分より強いものに立ち向かう材料がない。

 だから、見ているだけしかできない。

 そうだ。それしかできない。

 だから、正しい――

悠「いくら人が集まったって、物珍しさからの野次馬しか集まらない。そんな実力で、なにができるの? なにもできないでしょう?」

芽衣「……」

 ――わけがない。
 俯いて何も言い返せずにいる芽衣の姿に、私は自分を重ねていた。


 かわいくて、眩しくて、輝いていて――まさにきらびやかなステージの上が似合う彼女は、ひねくれてステージの上を貶す私へと手を差し伸べてくれた。

 なんてことはない。ただの勧誘だ。人数合わせのつもりだったのかもしれない。

 でも私は、芽衣に救われていたんだ。憧れていたんだ。

 見ていただけだった私。見学するつもりでいた私。けどそんな私でも、ステージの近くにいて。暗がりにいる私へ手を伸ばしてくれて。

 私と彼女の間に障害はない。ちょっと進めば行けるんだ。同じ場所に。

 だから今度は私が。

深羽「……よし」

 ペンを持ち気合いを入れて記入。一枚の紙を手に、それ以外のビラはポケットに突っ込み一歩踏み出す。
 突然歩き出した私に晴香のびっくりした声が聞こえたけど、説明は後回し。早足で芽衣の前、三人の間へと飛び込む。

悠「……? 遠くで見ていた観客がどうしたのかしら?」

 不可解そうな顔をする悠に真央。後ろをちらっと見れば、顔を上げた芽衣もまた不思議そうに私を見ていた。
 みんなの注目を集める。そのプレッシャーは想像以上に重い。緊張で震えそうになる声をなんとか抑え、私ははっきりとした口調で告げる。

深羽「観客じゃないです。私は芽衣の作るスクールアイドル部の見学希望者です」

悠「見学者が一体何の用? 関係ない人は――」

深羽「関係あります」

 くるっと方向転換。先輩方から芽衣へ身体を向け私は微笑む。さっきは他人面しちゃったけど……今は違う。

深羽「芽衣。私は芽衣の作るスクールアイドルが見たい」

 ほぼ無音に近いほどに静まった場で、私の声だけが響く。
 自分の気持ちを正直に大勢の人の前で口にする。照れ臭いけど、私は少し成長できたのだろう。

深羽「芽衣の夢がラブライブに出ることなら、私の夢はそれを見届けること。それがはっきり分かったから……私、見学は止める」

深羽「今度は芽衣の隣で一緒に歩いて、しっかり見てるよ。だから――」

 口を出る想いは止まらない。震えそうになる緊張はいつの間にかどこかへ消え、私は再度リ・バースへ振り向く。
 そして手にしていた紙を突きつけるように前へ掲げ、宣言。

深羽「――宣戦布告!」

 『入部届け』。
 私の名前が大きく記入されたそれを示し、目を丸くさせる二人の先輩へ私は堂々
と告げた。

深羽「芽衣は私を動かしてくれた。なにもできないのはあなた達二人だ」

 芽衣に感じた心が揺さぶられるような踊り、歌、笑顔――それが前のリ・バースにもあったから。
 その『яebirth』の輝きの強さを知っているから、私は確信できた。

 それは素人から見た、直感的で頼りない予感。
 けど私はそれを信じることができたんだ。

 だって、ここに彼女によって突き動かされた私がいるのだから。

深羽「芽衣は――私達は絶対に負けない!」

 その宣言がどれほど途方もなく無謀なものなのかは言うまでもない。

 初心者が数年の経験者に勝つ。不可能にほぼ近い勝負になることは馬鹿でも分かる。

 無謀で、不可能で――けれど、それができてしまうと信じる自分がいて。

 きっと青春ってそういうものなのだ。

 呆気にとられる私以外の全員。その視線を浴び、私は不敵に笑う。


 ――ここからが、始まり。回想の終わり。

 何の起伏もない人生を送っていた私は、いつの間にかステージの上へ立っていた。

 きっかけはяebirth、そして芽衣。

 夢を見届けるため。自分が変わるため。私は未知の世界へと飛び込んだ。つまりは――


 スクールアイドルを始めるらしい。

【今回はここまで更新。お待たせして申し訳ないです】


 ◯


 それは今までの子達にはなかった決意。

 勝負すると、やってみせると、負けないと、確信を持って断言する彼女らは眩しくて。

 圧倒した筈の私達はただ一言。

悠「……勝負の内容と日時を決めるなさい」


真央「いつでも挑戦を受けるから」

 それだけ口にして背中を向けた。
 周りの生徒達の呆気にとられた顔がチラッと見えた。私たちもほんの少し前はあんな表情をしていたのだろう。
 けれど今は違う。

真央「……なにもできないのは、私達」

悠「――戯れ言よ、素人の」

 私の呟きに悠が吐き捨てた。
 彼女らしくない冷たい口調に思わず身体が跳ねてしまう。


 ――でも私も彼女と同じ気持ち。
 なにもできない。そう言われて腹が立たない人間はいないだろう。何かしてきたのなら尚更。

真央「……」スッ

 けどね、ゆーちゃん。私はこうも思うんだ。
 今のままじゃ誰も前に進めやしないんだ、って。

 今の私達はあの頃と違う。それが間違ってるだなんてことは思わない。でも……ゆーちゃんにはもっと楽しく笑っていてほしいから。
 
 だから――ちょっとだけ。

真央「……今日は、もう帰るね」

悠「え? ええ。また」

 簡単な挨拶を済ませ、ゆーちゃんと別れる。生徒会の仕事がある彼女は校舎の中へと入っていった。
 私はそのまま前へと進み、先程取り出した携帯電話のアドレス帳を開く。目的のアドレスはすぐ見つかった。

 『きょうこちゃん』。連絡するのはいつぶりだろう。元気にしてるといいけど。

真央「……ちょっとだけ、あの子達のこと手伝うね」

 変わらずに終わりを迎えそうになっていた私達。そこへやってきた一縷の希望。

 あの子達の真っ直ぐさを信じたくなったから。

 私は意を決してメールを打ちはじめた。



【2話 おわり 3話に続く】
(あらすじ(>>109)の前を1話としてください)


 前回のラブライブ!


 ついにやってきた入学式当日。
 スクールアイドル部を新たに作るため、私たち三人で新入生勧誘をはじめる。

晴香「うぅ……ごめんね、芽衣ちゃん……飛島さん……私、もうダメみたい……」ガクッ

芽衣「あ、晴香!? 晴香ー!」

 けれども待っていたのは失敗の連続。段々と私達は焦りを積もらせて――

芽衣「……じゃ、奥の手やろうかな」

 そこで立ち上がったのが芽衣。彼女の素晴らしいパフォーマンスで勧誘は無事成功、と思いきや、

悠「私達と勝負をして、勝った方のグループをこの学校のスクールアイドルとして認める」

 私達の想像以上にこの学校は何かを抱えているらしかった。
 先輩との勝負。無謀な挑戦。ほぼゼロに近い勝算に、意外にも乗り気な人物が。

深羽「――宣戦布告!」

 それが私。

深羽「芽衣は――私達は絶対負けない!」

 ついさっきまで見学者だった私は、その場の勢いでスクールアイドル部への入部、勝負することを決めたのだった。


 ……ほんと、これからどうなるんだろう。



【ルート情報】
 ・前回選択肢が3話に影響します
 ・主人公に対する評価が変化します

 前略。
 青春とはいつだったのか。おそらく多くの人が思い浮かべる疑問。その答えを私は早くも手にしてしまったような気がします。

 理由の分からない入学式の異常現象に構わず突っ込み、感情のまま自分の身を不安定な場所に持っていき、挙句の果てに身の丈以上の敵に啖呵をふっかけ――嗚呼まさに若気の至り。

 望郷の思いが如く、つい昨日の自分を懐かしく微笑ましく思う自分がいると同時に、その無謀さを恥じてしまう私もおりまして。
 その感覚はさながら空を浮遊するよう。
 明日からの私は果たしてどこに向かうのやら。いつどこへ風が吹くのか。飛ばされてしまうのか。先行きすら見えず大変不安でございます。

深羽「はぁ……」

 なんて、慣れない言葉遣いで思考を延々と繰り返していた私は思い身体を起こした。

 朝である。
 入学式から翌日。色々あって頭が追いつかない状態だけれども、今日も学校に行かなくてはならない。

深羽「……正直凄まじく気が進まない」

 それなりに有名な先輩スクールアイドルに喧嘩をふっかけた素人。私がどんな評価をされるかなんて、自分自身でしっかりと理解している。
 ……とても学校に行く気になんてなれない。

深羽「でもここで行かないのはもっとまずいことになるだろうし」

 今なら無謀な生徒で済む。けどここでサボれば無謀な上に臆病で、卑怯な生徒だと思われること間違い無し。
 それに行きたくないと言っても、ただの気分的な問題。私達は当然の権利を使ったまでで、今のところ世間のルール的には何の問題もない。
 つまり学校に行かないだとか、逃げの姿勢をとることは不自然で。あまりしたくはない。

深羽「……思考が延々ループ」

 ため息。行かないといけないのは分かっているし、行こうとも思っている。
 でもいまいち勇気がわかず、あれこれ考えるだけ。どうにも周囲の目が気になってしまう。これも平坦な人生を歩んできた結果か。

深羽母「深羽ー。友達が来てるわよー」

深羽「……え?」

 ぼんやりと壁を眺めながらついつい考え込んでいると、部屋の外からそんな声が聞こえてきた。
 やたら楽しそうな声である。友達? こんな朝早くに……芽衣かな?

深羽「とりあえず支度しないと……」

 寝起き姿を見せるのは恥ずかしい。引きこもりたくなる気持ちを振り払い、私はベッドから降りた。


 ○



深羽母「いやー、アイドルやってるだけあって流石に可愛い子だねぇ」

晴香「そ、そんなことは……。それに、私スクールアイドルはまだ――」

深羽母「ああもう謙虚っ。うちの子にも見習ってほしいわ、この可愛げのあるリアクション!」

 学校へ行く準備をあらかた済ませて一階の玄関前、居間へ行くとそこで晴香がお母さんに捕まっていた。
 頭のてっぺんを優しい手つきで撫でられ、ピンク色の髪を揺らしながら物凄くあたふたしている。ふわふわと女の子らしく柔らかい雰囲気の彼女は、私のクラスメイトその1。今日は昨日と少し変わって、ツインテールを作っているゴムに花みたいなアクセサリーが付いている。
 私よりもはるかにアイドルらしくて、守ってあげたくなる小動物的な可愛さを持つ子である。

 さて、そんな彼女が何故一人で私の家へ?
 てっきり芽衣だと思っていた私は面食らってしまった。

深羽「おはよう。なにしてるの?」

深羽母「あぁ、やっと来た。おはよう。ご飯置いてあるから食べなさい」

晴香「あ。飛島さん。おはよう」

 撫でられ顔を赤くさせながら晴香が挨拶をしてくれる。母親さんは娘に興味がないのか、全然顔を合わせてくれる気配がない。

深羽「ん、分かった」

深羽「……」

 二人の隣を歩いて、居間の時計をチラ見。時刻はいつも通り。朝食をのんびり食べている時間だ。晴香の家がどこだかは知らないけど、起きて準備してここまで来るとなると、それなりに早起きしてきたのだろう。
 とりあえず、いただきますと一言。朝食の白米、お味噌汁、瓶入りの鮭フレークという簡単なメニューを見、瓶に手を伸ばす。
 朝はあんまり食べる気にならないしこれくらいがちょうどいい。

深羽「――晴香、今朝はどうしたの? 一人で私の家に来て」

晴香「えっ? あ、ええ――ちょっと話したいことがあって。迷惑……だったかし」

深羽母「そんなことない!」クワッ

深羽「……私も」

 お母さん。撫でるのを止めたのはいいけど食い気味で全力で会話に入ろうとするのは止めてください。

晴香「そ、そう。よかったです、おばさん」

 流石に晴香も引き気味である。
 それにしても話したいこと……ね。それ以上は言わないし、多分二人きりで相談したいことなのだろう。
 なんとなく察した私は朝食をいつもより早めに食べ進める。
 友達の相談となれば眠い朝でも話は別だ。
 それからすぐに私達は登校の準備を整え、絡もうとしてくる面倒な母親を振り払い、家を出た。
 晴香や小さくて可愛い芽衣が今度家に来る時は、事前に連絡するよう言っておこうと心に誓って。


深羽「……やっと出られた」

晴香「とても家から出たとは思えない台詞よね……あはは」

 家から出て学校に向かう。
 通学出勤、掃除にゴミ出し。朝は忙しく、道を歩いている人が多い。住宅街ともなると、あちこちから人の声が聞こえてくる。

深羽「それで、話ってなに?」

 家では聞けなかったけど、ここなら話してくれるだろう。晴香に興味津々なおばさんはいないし。

晴香「あ、うん。芽衣ちゃんと飛島さんってリ・バースと勝負するのよね?」

 ちらっとこちらを見て尋ねる晴香。話といえばまぁ、それが来るのは分かっていた。でも一応彼女は部外者なわけで。関係ないと言える立場で、わざわざ私と二人で何か話そうとするのだから律儀というか。


深羽「うん。スクールアイドルをするのに必要なら勿論」

晴香「そう、だよね」

晴香「……」

 ……。どうしたというのだろう。晴香はそこで黙ってしまった。
 前髪をいじりつつ、私は首を傾げる。勝負に何か? ……うーん、分からない。繊細そうな子だし、私には考えが及ばない悩みがあるのだろうか。それとも単に負けそうなのが心配だとか……結構有り得る。私も心配だから。

晴香「っ……」

 色々考えて黙っていると、不意に晴香が顔を上げた。何か切羽詰まったような表情で私を見、口を少し開いて――閉じる。何かを言いかけたようだ。

深羽「晴香?」

晴香「な、なんでもない。勝負するなら飛島さん含めて衣装が五着は必要だよね。頑張らないと」

 思いきり早口。露骨なほど何かを隠そうとする彼女に、私は追及する気になれなかった。
 嫌がるところに無理矢理足を突っ込むわけにもいかないし。

深羽「ね、晴香。悩みがあるなら話――」

ドスの利いた声「――見つけた」

 心配していることくらいは伝えておこう。勇気を出して私が言いかけたその時、聞き慣れない声と共に一人の女性が現れた。
 フラッと横の道から何気なく何気なく出てきた彼女。長い茶髪に、脚が見えない丈の制服のスカート。黒いセーラー服の上にスカジャンを羽織り――な、なんだ、あのアナログな不良さんは。
 刺々しい見た目に驚き立ち止まる私たちを彼女は睨む。大人なお姉さん的な顔立ちで、綺麗な人なのに威圧感が……。

晴香「飛島さん……知り合い?」

深羽「し、知らない……」

 二人して蛇に睨まれた蛙状態。さっきとはまた違ったシリアスな空気で、私らは視線だけ合わせる。
 朝、知らない不良に見つけたと声をかけられる。すごく怖いことだというのが分かるだろうか。
 何かされる? どうして?
 完全に真っ白になってしまっている頭。そのまま数秒動けずにいると、睨んだままだった不良が不意に口を開いた。
 見た目と同じく綺麗で、でも凄みのある声で彼女は一言。

睨む少女「おはよう」

 なんかもうただの挨拶が怖かった。
 第二声で何故挨拶をチョイスするのか。それが第一声でいいのではないか。
 ツッコミの血が騒ぎ、ずっこけたくなるけれどグッとこらえる。

睨む少女「今日はお前に話があってな」

 不良の視線が私をとらえ――え? 私?

深羽「あの、初対面じゃ……」

睨む少女「あぁ。頼まれ事をされてな――スクールアイドル、やるんだろ?」

深羽「え?」

 な、なんでそれを!?
 うちの生徒……なのは違うか。制服が違うし。ならなんで?
 サスペンスから最早ホラーと化している現在の状況。そこへ場違いなほど賑やかな足音が聞こえてきた。

騒がしい声「あ、いた! コラー! 恭子! 今日こそ練習出てもらうんだからね!」

睨む少女「――っ! やべっ」

 彼女がやってきた横道の方、遠くから聞こえてきた声に不良――おそらく恭子がギクッと身体を跳ねさせ反応する。
 余程捕まりたくないのだろう。私たちに何も言わず彼女はすたこらと逃げ、

騒がしい声の少女「待ちなさいっての! 金髪不良ー!」

 その後を追う、赤髪の女の子が慌ただしく走っていく。
 二人の少女があっという間に見えなくなり、後にはぽかんとする二人の女子高生が残された。

晴香「な、なんだったの……?」

深羽「さっぱり分からない」

 なんで私のことを知っていたのかも、声をかけて何をしようとしていたのかも、彼女が何者なのかも何もかも分からず。
 うーん……状況を考えるに、やさぐれたリ・バース三年生が刺客を送り込んできた――とか? いやいや、でもそこまで闇の組織化はしてないよね?

深羽「ん?」

 悪役顔した三年生とOBの先輩らを思い浮かべる頭をブンブンと振りため息。
 するとさっきまで恭子が立っていた場所に一枚の紙が。

深羽「なんだろ――」ヒョイ

『ターゲット!

 オレンジ髪の暗そうな女子。
 やる時はやる? スタイル良い

 見つけたら始末』

深羽「……」ポイッ

 見てない。私は何も見てない。

晴香「あれっ? どうしたの、飛島さん?」

深羽「なんでもないよ。さっ、早く行こう?」

晴香「え、ええ」

 さっ、今日も学校頑張ろう☆



※今回はここまでで

 
 朝の件は何だったのか。
 対決、我が校のスクールアイドル事情のあれこれに加えて謎の不良。そろそろ私の心労がキャパを越えてくるのではないかと思う今日この頃。
 物思いに耽り続けいつの間にか午前の授業は終了。驚愕した私である。ノートはとってたみたいだけど絶対頭入ってないね。復習しておかねば。
 に、してもだ。

美羽「なんでこう、問題って続くのかな……」

 問題、試練、エトセトラ――の悩み事。
 数日前はそんなことに頭を悩ませるなんて思ってもみなかったのに、今や渦中に飛び込んで絶賛苦悩中。
 悩んで苦しむことは分かっていた。でも、その最中に新たな問題が飛び込んでくるとは。流れを起こして中心にトラブルが引き寄せられて。本当、渦潮みたいだ。
 ため息を吐く。ふと視線を前に向ければ、見知った人物と目が合った。

芽衣「や、深羽」

晴香「お昼一緒にどう?」

 ちょうどこちらへ辿り着いた二人はそれぞれビニール袋と丁寧に包まれた弁当箱を私の机の上へ。私が答える暇もなく近くの椅子を移動させ、いそいそと食事の準備をはじめる。


深羽「……なにかあるの?」

芽衣「うん。昼休みに勧誘しようと思って」

 ビニール袋からコンビニのパンを出した芽衣が、目を輝かせて静かに答える。
 勧誘。リ・バースと戦うためにはまずメンバーを揃えなくては話にならない。細かな勝負方法はこちらが決めていいような口振りだったけど、五人――つまり部活と認められる人数以上の部員がいて初めて勝負することができる。

深羽「勧誘、かぁ……」

晴香「厳しそう……。昨日も結局勧誘できなかったから」

芽衣「まぁ……」

 ずーん、と空気が重くなる。
 私もお弁当を出して食べ始めるけど……とても楽しくランチなんて気分にはなれない。
 新入生を勧誘するなら昨日が絶好のチャンス。今日明日としばらく部活の見学会があるものの、それは部活として活動している部にのみ関係するイベント。私たちに出る幕はなく。

芽衣「こほん。ま、一人ターゲットはいるからさ。放課後はその子のスカウトに使うとして……お昼は新入生を無差別勧誘」

晴香「あれ? 二年生はいいの?」

芽衣「んー。希望あるのは一年生かなと思って。二年生はスクールアイドルの決まり今まで守ってたわけだし」

 芽衣が淡々と答えると、晴香の表情が若干曇った。確かに、一年生より長くルールを守っていた二年生より入ってきたばかりの一年生に希望を賭けた方が賢いか。
 声をかければすぐ加入してくれそうな二年生もいるのだが……私の勘違いだったら嫌だし。


深羽「分かった。お昼はいいとして……そのターゲットって?」

芽衣「あぁ、うん。ちょっと待って」

 いつも通りにクールな口調で落ち着いて答える芽衣。けどその目は一層輝きを増し、携帯を取り出す動作は慌ただしい。はしゃいでいることが見て知れた。

芽衣「……っと。この子。今朝見つけた金の卵だよ」

深羽「ふんふん……わっ」

晴香「ほえぇー」

 携帯の画面いっぱいに映ったのは一枚の写真。校門前と思しき場所でピースしている女の子が撮られている。とりあえず盗撮じゃないみたいで安心した。
 すごく綺麗な子だった。反射的に驚きの声が出てしまうほどに。サラサラしたロングの金髪に、まるで作られたみたいな美しい顔立ち。撮影に乗り気じゃないようでブスッと無愛想な表情をしつつピースを作っているけど――そんなシチュエーションでも神秘的なほど綺麗で可愛らしい。
 同じ制服を着て同じ通学鞄を持っているというのに、この雰囲気の差。外国人、なのかな? 私の学校の中で第一印象のインパクトがこれほど強い人物はいただろうか。
 こんな子が歌って踊って笑顔を見せて……間違いなく人気が出る。すごいことになる。


芽衣「アイドルをやるからにはやっぱり見た目は大事だし、この子楽器やってるみたいだし、力になってくれそうじゃない?」

晴香「勧誘……こ、このレベルの女の子を……」

 晴香がぶつぶつと呟く。私も正直戸惑っている。芽衣はかわいいし、私も決して悪くはない……と思いたいけど、高嶺の花すぎないかなあ、なんて。

芽衣「目標は高くいかないと」

深羽「……スカウトできそうなの? すごい面倒そうな顔されてるけど」

芽衣「はは……。駄目そうかも」

 ……だよね。楽器やってるなら尚更だろう。

芽衣「でも粘るよ。部活動やらないらしいから」

晴香「お嬢様っぽいし家とかで楽器やるかもしれないよ?」

深羽「……この子も可能性低そう」

 うん、また暗くなった。
 ……本当、私達のやろうとしてることの難しさといったら。
 今日の勧誘でちょちょいとメンバー増えるといいんだけど……。

芽衣「ま、頑張っていこう。昨日の出来事もあるし、勝負することは知られてるから」

深羽「……うん」

晴香「やるしかないってことね」

 黙々とパンを食べる芽衣。暗くなっていた空気が彼女の真っ直ぐな言葉で元の雰囲気を取り戻す。
 口調は淡々としてるし、表情もあんまり変えない彼女だけど、私達を引っ張って挑み続ける姿に励まされる。流石は我らがリーダー。小さいのに頼れる女の子だ。

芽衣「深羽、また何か失礼なこと考えてない?」

 同じく無表情気味な私の心を読む技術もまこと恐るべし……。





 早めにお昼を済ませて一年生の教室が並ぶ階へ。
 第一、第二、第三と校舎がある我らの高校は第一に昇降口、職員室や事務室、三年生の教室。その奥、第二校舎に二年生の教室。更にその奥、第三校舎に一年生の教室……といった具合の、年齢が上がるにつれて歩く距離を減らしていくシステム。
 ただ科学室や音楽室などは第二第三にあるため、ご年配に優しいのは登下校のみ。はてには体育館、グラウンドは小さな川を挟んで向こう側と、優しいのやら優しくないのやら。
 中途半端な都会田舎な高校はその辺も曖昧である。

深羽「さてと……どうする?」

 お昼休みということもあって、廊下は賑やかだ。
 ガヤガヤと騒がしい中、階段の踊り場で私たちは小さく固まって作戦会議。この場所で勧誘……あらゆる方向から人目があって恥ずかしい。昨日は同じ目的の人が何人もいたけど、今日はそうでもないし。

芽衣「まずはコレ」

 と、芽衣が手にしていたダンボールの板――に付いていた紐を私の首にかける。『スクールアイドル部 部員募集 集え挑戦者』……やたら暑苦しいフォントで書かれた看板である。

晴香「……こ、こんなので集まるの?」

芽衣「フッ、大丈夫」

 心配そうに見る晴香に、芽衣はクールに微笑む。小さな子供が背伸びしたかのような仕草に、頭を撫でたくなる衝動に駆られた。ぐっと我慢我慢。


芽衣「深羽はもう有名人だし。ほら、アレ見て」

 コレの次はアレ。何だろうかと、視線を芽衣が指で示した先を見てみる。

深羽「え……ええっ!?」

 そこには思わずびっくりする物が。
 『リ・バースへ挑戦状!?』。そんなタイトルの新聞が踊り場の壁に貼り付けられていたのだ。

晴香「はぇー……すごい。完璧に小説化されてる」

 晴香が感嘆を漏らす。
 パッと見は新聞で、最初の数行もそれらしい感じなのだけど……大部分は昨日一連の出来事を見ている誰かの視点で書かれた小説であった。
 やたら上手くて、昨日体験したことだというのに引き込まれてしまう。
 宣伝としてすごく有り難い。有り難いんだけど……なんで勧誘前の教室で集まったところの会話も書かれてるのだろう。

深羽「何これ」

芽衣「生徒会新聞らしいよ?」

晴香「何やってるんだろう、生徒会」ボソッ

 一日で高クオリティのノベライズ化とは……何が生徒会を突き動かしたのだろうか。この学校が心配だ。

深羽「でもこれで有名になるなんて……」

 言いかけて、私は気づく。廊下、階段――近くを通る生徒が私のことをチラチラ見ていることに。
 中には数人で話していて、私と目が合うと逃げ出す女の子がいる始末。


芽衣「今気づいた?」

深羽「……ウン」

 そりゃあそうだよ……先輩に堂々と喧嘩ふっかけた二年生が出てきただなんて聞いたら間違いなく注目される。それも今をときめくスクールアイドルってジャンルで、部の存続を賭けた決闘――嗚呼、なんてエンターテイメント。張本人は気が気でないのだけれど。
 からかうような笑みを浮かべている芽衣へ、私は力無く頷いた。

晴香「気づいた? えっと、何に?」

芽衣「深羽の注目度さ。今日の勧誘は深羽頼みだから頑張って」

晴香「注目……? あ。私にも分かった」

 生徒の視線と新聞。交互にそれを見、晴香もようやく察したらしい。大人しめな彼女はススッと私から距離をとった。

晴香「ファ、ファイトっ。飛島さん」ガッツポーズ

 ……しょうがない。本来なら目立つようなことはしたくないけど、アイドルをやる以上そんなこと言ってられないし。昨日は晴香に頑張らせたし。今度は私の番か。

深羽「分かった、頑張ってみ――」

??「あ、あの……」

 やってみよう、なんて思い承諾しようとした瞬間声がかかる。控え目な、晴香を彷彿とさせる大人しそうな印象の声である。不意を突かれたけれども早速私の出番のようだ。意気揚々と振り向く私。


深羽「はい、何ですか?」

 歳下の一年生の教室が近いとはいえ一応見知らぬ人。敬語を使い対応。声をかけてきたのは声の印象通り、大人しそうな女の子。眼鏡をかけたしっかりしてそうな子で、よく見るとかなりかわいい。
 暗い、黒髪に近めな緑色の髪を後ろは短めに切り揃えていて前髪は目の辺りの長さで自然に流している。おでこをちょっと見せるように髪を上げているバツ印に交差してとめてあるヘアピン、眼鏡と小物が目を引くお洒落さんだけど、色が大人しいからかパッと見は結構地味めだ。

 彩星の制服は上下共に黒いセーラー服。襟やスカートの裾に白いラインが付き、胸に学校のマークが入ったシンプルな制服である。
 一年生は白。二年生は赤。三年生は黒。それぞれ異なる色のリボンを付けており、そこで学年は区別できる。
 この子は……一年生みたいだ。ピカピカのちょっと大きめな真新しい制服が初々しい。
 私に話しかけたということはアイドル部志願、だろうか。

眼鏡の子「あ、あの……その」

深羽「は、はい……」

眼鏡の子「……」モジモジ

深羽「……」

 ……ど、どうしよう。沈黙が。え? 私が何か話すべき? しまった、会話の自主性が全くない私に勧誘は無理があったか?

芽衣「――二人とも黙っちゃったよ」

晴香「あはは……」

 それをちょっと後ろから見てた二人が、苦笑しつつ前へ。私の横へ並ぶと女の子の姿を見る。すると声に反応して、女の子が下へ向けていた視線を上げた。
 茶色の瞳、ぱっちりとした目は芽衣に向けられており、心なしかワクワクしてるように見えた。芽衣の知り合いかな?

芽衣「ん? 入部希望者だよね?」キョトン

 ……どうやら知り合いではないみたいだ。

晴香「あれっ? あ、君……昨日、見てた人よね?」

 代わりに反応したのは晴香。昨日? 見てたってことは声はかけてこなかったらしい。
 これはやはり入部希望の線が濃い。今日はまだ勧誘を始めてもいないというのに幸先がいい。

眼鏡の子「えっ? ぁ、はい……」

深羽「興味があるなら、是非――」

声が大きな子「あーっ! 見つけた!」


 突然響く声に、多分この場にいた四人全員驚いただろう。爆竹でも投げつけられたみたいに至近距離で炸裂した大声にビクッと身体を揺らし、みんなが会話を中断してそちらを見る。
 芽衣に負けず劣らずちっさい女の子が、キラキラ輝く目を私達へ向けていた。学年は一年生。緩めに制服のリボンを結び、セーラー服の上から灰色のパーカーを羽織っている。検査に引っ掛かりそうなアレンジだが、だらしない印象はなく、むしろスポーツマン的な活発で爽やかなイメージが強い。
 髪は例の勧誘ターゲットよりもちょっと暗めの金色で短めのポニーテール。癖があるのかこめかみ上ぐらいの一箇所がぴょこんと跳ねている。
 明るさ元気さに溢れた大きな目、まだまだ子供っぽい幼めな顔立ち――おぉう、この子もレベル高い。芽衣がクールなかわいい猫タイプだとすると、この子は小型犬的な人懐っこそうな可愛らしさがある。
 さて、鼻息荒く若干興奮気味な彼女は尻尾みたいに髪を揺らして一歩二歩前へ。そしてそのまま足を速め――あ、あれっ? 突進してきてない?

芽衣「……あ。まさか……山茶!」

 ん? 知り合い?

山茶「うん! ひっさしぶりー! 芽衣!」ガバッドゴッ

芽衣「ほんと久しぶりだけど止ま――ぐえっ」ドサッ

 あ、飛びつかれて潰された。
 ……あまりに登場から目まぐるしいから理解が追いつかなかったけど、知り合いで、激しめなボディランゲージするくらいには仲がいいみたいだ。
 ふふふ、これはこれは……またメンバーが増えそうじゃないの。
 山茶、って呼ばれてたよね。山茶に眼鏡の子で一気に二人も――ん?


眼鏡の子「……」

 どうしたのだろう?
 じゃれつく山茶に引き剥がそうとする芽衣。二人の微笑ましいやりとりを見つめながら、眼鏡の子は悲しそうに胸の前で自分の手を抱くように握る。
 そんな顔するような場面でもないような……。芽衣は割と迷惑そうだけど。

晴香「あ、あの! どうしたの?」

 もしかして飛びつきからのじゃれつきが、ゾンビ映画を彷彿とさせたり――なんて、くだらないことを考えていると晴香が眼鏡の子へと声をかける。
 ちょっと意外だ。今までの彼女なら困った感じで様子を見てると思ってたんだけど。

眼鏡の子「っ! な、なんでもないですからっ。――ごめんなさいっ」

 声をかけられ、ハッとした女の子。彼女は困った様子で晴香と芽衣達の間で視線を泳がせ、慌ただしく階段を上がっていってしまった。
 見るからに逃げたけど……本当にどうしたのだろうか。

芽衣「はー……やっと離れた。あれ? さっきの子は?」

晴香「逃げちゃった。何かあったのかも」

 ようやく立ち上がり、山茶を落ち着かせた芽衣が辺りを見回す。けれどまぁもう既に彼女は去った後。見つかるわけもなく。晴香がため息混じりに答えた。

山茶「え? あ。もしかして私、乱入しちゃった?」

晴香「あはは、ちょっと、ね。……でも、他に理由があるような」

芽衣「次見かけたら声かけようか。追いかけたいけどそろそろお昼休み終わりそうだから」

芽衣「山茶、また放課後に話そう」

山茶「りょーかい! じゃ、またねー」

 ブンブンと手を振り、山茶が元気よく走り去る。第一印象と変わらず元気の塊みたいな子だ。


芽衣「さて……」

深羽「……」

芽衣「戻るよ? 深羽、どうかした?」

深羽「……うん。少し、引っかかってることが」

晴香「ひ、引っかかってること?」ゴクリ

芽衣「……。うん、言ってみて」

 教室へ帰ろうとしていた二人が足を止め、真剣な顔で私を見る。
 私はちょっと引っかかることがあった。さっきから気になっている、とある一つの疑問。それを解消せずにはいられなかった。
 数秒、間を空け、私は重い口を開いた。

深羽「……私全然喋ってなくない?」

芽衣「……」スタスタ
晴香「……」スタスタ

深羽「ちょっと、リアクションして」

 待って損したと言わんばかりに無言で歩き出す二人に、私は慌ててついていった。
 自分から喋り出す練習しておかないと……。台詞遮られ率が凄まじい。



  ○


 それからなんやかんやとお昼休みが過ぎて午後の授業。
 2科目が終了し、帰りのホームルームが済むとまた芽衣が晴香を連れて――

芽衣「やほー、深羽」

深羽「ん……あれ? 晴香は?」

芽衣「あぁ、今日は用事あるから別行動だって」

 連れて来なかった。
 尋ねると、芽衣は不思議そうな顔をして答える。用事あるから帰る、じゃなくて用事あるから別行動……。ひょっとするとスクールアイドル部のために何かしてくれてるのかな。

芽衣「深羽はどうする? 今日は昼休みの子――山茶を勧誘して、例の女の子の勧誘もするつもりだけど」

深羽「えっ? うーん……」

 まさかそれを問われるとは。昼休み、既に私へ放課後の予定を話していたし、改めて訊かれるとは思ってもいなかった。
 ……もしかして晴香についていってほしかったり?


 うーん……どうしよう。


 1 芽衣に付き合う
 2 晴香を探す

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