みほ「ゆ、優花里さん、どうしてこの写真を持ってるの……?」優花里「へ?」 (152)

―秋山宅―

優花里「どうぞ。これで全部だと思います」

みほ「わぁ、ありがとう」

優花里「いえいえ。でも、急にアルバムが見たいだなんて、どうしたんですか?」

みほ「ほら、前に一度だけ優花里さんの昔の写真を見たのを思い出して」

沙織「昔からゆかりんは戦車大好きなのはよーくわかってるんだけど、それっていつからなのかなぁーって」

華「みほさんと沙織さんが優花里さんはいつ、どこで戦車のことを好きになったのか気になったそうです」

優花里「それで写真ですか」

麻子「まぁ、写真を見れば一目瞭然だろうからな」

優花里「直接、聞いてくれたら答えましたよ?」

みほ「ううん。優花里さんのこと、もっと知りたかったし」ペラッ

優花里「西住殿……。う、うれしいですぅ」

みほ「え……」

沙織「みぽりん、どうしたの?」

みほ「ゆ、優花里さん、どうしてこの写真を持ってるの……?」

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優花里「へ?」

麻子「なんの写真だ?」

みほ「こ、これ……」

華「えーと、この戦車は確かⅡ号戦車、ですよね?」

麻子「秋山さんがⅡ号の上で笑ってるな。何歳ぐらいだ」

優花里「ええと、多分ですけど、6歳か7歳ぐらいかと」

沙織「10年前かぁ。私はこのとき、なにしてたかなぁ」

麻子「今と大して変わってないが」

華「そのころから結婚願望があったのですか」

沙織「流石にないわよ!! ……多分」

優花里「西住殿、その写真がどうかされたのですか?」

みほ「だ、だってこれ……わ、私の実家にある戦車……」

優花里「は、はい?」

沙織「これ、みぽりんのなの?」

麻子「同一の車輌なだけじゃないのか」

みほ「ううん。間違いない。これは私がお姉ちゃんと一緒に乗っていたⅡ号戦車……」

優花里「そ、そうなのですか?」

みほ「優花里さん、どうしてこの写真を……?」

優花里「わ、私に聞かれても……。当時のことはよく覚えていませんし……」

華「みほさんの実家は熊本ですよね。大洗からは離れていますし」

みほ「この戦車を見間違うはずがない。ここに傷があるでしょ。この傷は私が運転したときに電柱にぶつけたときの傷だし、ここの凹みは私が運転したときに横転させてできたものだし……」

麻子「全部、西住さんが原因なのか」

みほ「ゆ、優花里さん、どうしてⅡ号と一緒に写ってるの!?」

優花里「わ、わかりません!!」

沙織「これがみぽりんの戦車だとすると、ゆかりんはみぽりんと会ったことがあるのかな」

麻子「またはニアミスをしていることになる」

華「どちらにしてもロマンチックですわ」

みほ「あの!! 私たち昔から知り合いだったのかな!?」

優花里「ま、待ってください! おかあさ、母親に聞いてみますから!!」

沙織「みぽりん、なんで興奮してるの?」

みほ「だって、幼馴染に昔から憧れてて……」

華「わかりますわ」

沙織「わかるんだ」

麻子「沙織とは幼馴染だが、特別なことは何もないな」

沙織「ただの腐れ縁だよね」

みほ「そういうことを言ってみたい……」

優花里「母親を連れてきました」

好子「どうしたんですか?」

みほ「こ、この写真なんですけど! いつ、どこで撮ったものですか!?」

好子「あー、この写真ですか。10年ぐらい前に優花里にせがまれて熊本県まで家族旅行をしたんです」

優花里「私がせがんだの?」

好子「そうよ。テレビで戦車道の試合を見ていた、貴方がね」

みほ「戦車道の試合ですか」

好子「丁度、そのころから優花里は戦車のことが大好きになっていきましたね」

沙織「けど、どうして熊本なの?」

好子「その時の試合は熊本でやっていたみたいで」

華「なるほど。現地で直接試合を見たいと優花里さんは申し出たのですね」

好子「ええ、そうです」

麻子「黒森峰か」

好子「いえ、あのとき優花里が見ていたのは社会人の試合でした」

沙織「そのときの試合がきっかけでゆかりんの戦車ラブが始まったわけだ」

優花里「そうみたいですね。どんな試合だったのかは覚えていませんけど」

華「きっと優花里さんの人生を変えるほどの好試合だったのでしょうね」

沙織「大げさじゃない?」

華「そんなことありませんわ。その試合を見ていなければ、こうして優花里さんと戦車道を共に歩めてはいなかったかもしれませんし」

沙織「そんなもんかなぁ」

みほ「なら、やっぱりこの写真は……」

好子「その写真は偶然戦車に乗って公園まで来ていた女の子がいまして、そのときに撮ったものです」

沙織「絶対、みぽりんだね」

みほ「うん。私とお姉ちゃん以外に、そんな女の子はいなかったはず……」

沙織「自分でいっちゃう?」

みほ「私と優花里さんって、幼馴染だったんだね!」

優花里「おぉぉ。そ、そういうことになりますね!!」

好子「あら、そうだったの?」

華「ドラマチックです」

麻子「熊本で社会人リーグの試合をしていたということは、リーグ戦の最中だったのか。それなら地元近くで試合をするときに観戦すればいい。何故、わざわざ熊本まで旅行を?」

好子「社会人リーグの試合を見に行ったわけじゃないんです。当時、熊本で戦車道の大規模なイベントがあって、それを見にいったんです」

華「なるほど」

好子「全国から色んな戦車が集まっていて、それはもう優花里が大喜びで」

麻子「……」

沙織「麻子?」

みほ「私たち、く、腐れ縁だね!」

優花里「言葉は悪いですけど、そうかもしれませんね!!」

みほ「はぁ……一度言ってみたかった言葉が……こうして言えるなんて……」

好子「いい友達ができて、お母さんも嬉しいわ、優花里」

麻子「沙織。覚えていないか」

沙織「なにが?」

麻子「私たち、家族ぐるみで一度だけ旅行をしたことがあったな」

沙織「あぁ、あった、あった。小学校低学年ぐらいでしょ」

麻子「沙織の寮にアルバムはあるか」

沙織「もっちろん! 結婚式のときに使う写真は常に持っておかないとね!!」

華「沙織さん……」

麻子「行くぞ」

みほ「ど、どうしたの、麻子さん」

麻子「もしかしたら、沙織とだけ腐れ縁というわけではない気がする」

優花里「はい?」

麻子「先に行く」

沙織「あぁ! 待ってよ、麻子ぉ!!」

優花里「私もお供しますよ!!」

好子「ゆかりー、夕飯までには戻ってくるのよー」

―沙織の部屋―

沙織「じゃーん。これが私の写真! どうどう? どれも使えそうでしょ!?」

優花里「すごい。幼少期からカメラ目線です」

華「いえ、それだけではありません。顔の角度も殆ど一緒ですわ」

みほ「沙織さんのこだわりだね」

沙織「だって、この角度がいいんだもんっ」

麻子「これでもない……これでも……」

華「一体、何を捜しているのでしょうか」

沙織「さぁ……」

麻子「これだ」

みほ「え……」

沙織「なになにー? おっほぉ、私がバッチリ乙女目線で決まってるじゃない」

麻子「沙織は関係ない。注目してほしいのは、沙織の後ろに写っているものだ」

優花里「これは……戦車、ですか……。パンター、ですね」

みほ「もしかして、この写真、熊本で……?」

麻子「秋山さんのお母さんが言っていた熊本での戦車道イベント……。私と沙織もその場にいた」

優花里「で、では!! どこかですれ違っている可能性があるのですね!?」

みほ「すごい!! 沙織さんと麻子さんとも腐れ縁だなんて!!」

沙織「こういうのも腐れ縁っていうのかな」

みほ「わーいっ、腐れ縁だねっ」

華「わたくしも参加していないでしょうか……さびしいです……」

みほ「あ……華さん……ごめんなさい……」

優花里「あぁ、五十鈴殿……」

麻子「あの会場に居た可能性は大いにあるはずだ」

華「ほんとうですか!?」

麻子「全国の子どもを集客できるほどの魅力が当時のイベントにはあったはずだ。でなければ、私と沙織、そして秋山さんまでもが熊本にいるなんて偶然にしては出来すぎている」

みほ「さ、探そう、華さん!! 熊本の写真が出てくるかも!!」

華「は、はい!! すぐに自分の寮へ戻ります!!」

沙織「ま、待って!! ちょっと落ち着こう!! 嬉しいのは分かるけど、私たちが実際に会ってるかどうかは分からないじゃない? ゆかりんの写真だって、みぽりんは写ってなかったし」

優花里「そうですね。あの写真、駐車していたⅡ号に私が勝手に登ってしまっただけかもしれませんよね……」

沙織「そうそう。だから――」

麻子「沙織」

沙織「なに?」

麻子「西住さんを見ろ」

沙織「え?」

みほ「そっか……そうだよね……幼馴染なんて……そう簡単にできないよね……私……ずっと……友達なんて……いなかったもんね……」

沙織「みぽりん!? ちょ、ちょっと落ち込みすぎよぉ!!」

みほ「ごめんなさい……勝手に盛り上がって……」

沙織「あの!! いや、きっとね、出会ってるとは思うよ!! だって、私もほら、みぽりんを最初にみたときに、どこかでみたことあるなーってちょっと思ったぐらいだもん!」

みほ「ホント!?」

沙織「ほ、ほんと、ほんと」

華「だから、声をかけようって提案したのですか?」

沙織「そうだよ。もちろん」

みほ「沙織さん……!! 私の事、覚えていてくれたんだ……!!」

麻子「自ら墓穴を掘ったか」

沙織「こうなったら、探そうよ!! 私たちが昔からの知り合いだったっていう証拠を!!」

みほ「うん!」

華「いいですね。わたくし、なんだかワクワクしてきました」

優花里「わたしもでぇす!! あんこうチームは昔から運命という絆で繋がっていたのですね!!」

みほ「ホントに腐れ縁なんだね!」

華「はい。きっとそうです」

みほ「うれしいなぁ」

麻子「大丈夫か」

沙織「絶対に見つけるから」

麻子「どうなっても知らないぞ」

沙織「協力して!」

麻子「アイス5個」

沙織「2個!」

麻子「3個」

沙織「よし! それでいいよ

麻子「まず最優先で調べなければいけないのは、五十鈴さんが当時のイベントに来ていたかどうかだな」

華「少々、時間をください。お母様か新三郎に確認を取ったほうが写真を探すより早いはずです」

沙織「うん。お願いね、華」

華「はい」ピッ

みほ「華さんも、きっといるよね」

優花里「きっといますよぉ。これだけ偶然が重なれば、それはもはや必然と言ってもいいはずですし」

麻子「私もそう思う。ここまで来て、五十鈴さんだけがいなかったというは、逆に不自然だ」

沙織「居てくれないと、困る!」

華「もしもし、新三郎? ちょっと聞きたいことがあるの。10年前ぐらいに家族で熊本に旅行していたかしら?」

華「……」

みほ「どうなんだろう?」

優花里「まだ答えが返ってきてはいないのでは?」

華「そう……。そうなの……」

沙織「あれ? 華の様子、おかしくない?」

華「わかったわ。いいえ。気にしないで。大したことではないから……。ええ、大丈夫よ。また連絡するわ」ピッ

みほ「華さん?」

優花里「どうでしたか……?」

華「当時、熊本への旅行はしていなかったそうです……」

麻子「……」

沙織「あ……そ、そうなんだ……」

華「わたくしは、腐れ縁とはいえないようですね。けれど、この縁は大切にしたいです」

みほ「うん。華さんは、大切な友達だよ」

華「ありがとうございます……みほさん……」

沙織「あ、あれじゃない? ホントは行ってたけど、忘れちゃってるだけとか!」

華「いいえ。10年前、五十鈴家は大忙しだったらしく、旅行に行っている暇などなかったそうです」

優花里「生け花の展示会でもあったのでしょうか」

華「らしいです。展示会というよりは、花の飾りだそうですけど」

みほ「そう……なんだ……」

華「なんとなく、思い出しました。わたくしもお母様と共にその飾りを少しだけ手伝った記憶があります」

沙織「楽しかった?」

華「どうでしょうか。お母様と一緒に飾るだけで誇らしくは思えていたはずですが」

華「けれど、やはりみなさんと同じ場所に居たかったですわ」

みほ「……」

優花里「今はこうしてここにいるじゃないですか!!」

華「優花里さん……」

優花里「10年前のことはもう忘れましょう!! い、いいですよね、西住殿!!」

みほ「うん。そうだよね。昔は昔だもんね」

華「でも、みほさんは幼馴染や腐れ縁にあこがれて……」

みほ「確かに憧れてはいたけど、けど、こうしてみんなといる時間のほうが大事だから」

華「みほさん……」

沙織「うんうん。そうだよね。いつまでも過去に縛られてたら新しい恋だってできないもんね!! よし、今から何か食べに行く!?」

華「いいですね! 行きましょう!!」

優花里「はい!! 夕食前のおやつにしましょう!!」

みほ「うん、いこう!」

麻子「ふっ。上手く逃げたか。まぁ、私も西住さんの意見には賛成だが」

―翌日 生徒会室―

みほ「失礼します」

杏「やぁやぁ、西住ちゃん」

みほ「どうしたんですか、これ。凄い資料……」

桃「我々もそろそろ引退だからな。資料の整理を進めているところだ」

柚子「新生徒会の発足時に、資料が乱雑だとスムーズに引継ぎもできないからね」

みほ「私も何かお手伝いをしましょうか」

杏「いいから。西住ちゃんは私とこっちで戦車道の打ち合わせだ。練習試合の申し込みも結構きてるんだよねぇ」

みほ「そうなんですか」

杏「マジノ、知波単、サンダース、アンツィオ、聖グロリアーナ、そしてなんとぉ、くろもりみねぇ!」

みほ「わぁ……」

杏「どことするぅ?」

みほ「ええと、そうですね……日程の調整さえできれば全校としたいですけど……」

柚子「あ! ももちゃーん、みてみてー。懐かしいアルバムがでてきたよー」

桃「桃ちゃんと呼ぶな!! そのアルバムは、柚子が持ち込んだものだろ。早く持って帰れと言っただろう」

柚子「みてみて、ほら、桃ちゃん、小さくてかわいー」

桃「いちいち見せなくていい!!」

杏「どんな写真?」

みほ「私も興味あります」

桃「西住まで何をしているんだ!!」

杏「へー。これ何歳ぐらい?」

柚子「たしかぁ、8歳とかじゃないでしょうか」

みほ「あぁー!?」

桃「な、なんだ!?」

みほ「ボコ! 河嶋さんの隣にいるの、ボコですよね!?」

桃「なに……?」

柚子「手しか見えないけど?」

みほ「でも、ほら、包帯の切れ端が写ってます!!」

杏「ボコなんじゃない?」

みほ「どこのイベントなんですか? 今でもそのイベントあるんですか?」

桃「知るか!! 大体、これは大洗のイベントでもなんでもないぞ!!」

みほ「そ、そうなんですか……」

杏「だったら、どこ?」

桃「これは熊本県です」

みほ「え……」

柚子「そうそう。私たちも家族で行ったんだよね」

桃「ここからは遠いが、当時は子どもの人気の場所だったからな」

杏「もしかして、熊本のボコランド?」

柚子「それです。今では見る影もないですけど」

みほ「そ、そんな場所が熊本にあったんですか!?」

杏「西住ちゃんは熊本出身だよね。知らなかったの?」

みほ「いや……どうなんだろう……覚えてないだけかな……」

桃「第二のボコミュージアムとして建てられたが、開園して間もなくボコのブームが去ってしまってな。1年ももたなかったはずだ」

みほ「そ、そうなんだ……」

柚子「なつかしいなぁ。あのときの桃ちゃん、ボコを怖がって泣いてたよね」

桃「泣いてない!!」

柚子「ないてたぁ」

みほ「けど、そのときから茨城にボコミュージアムはあったんですよね」

杏「うん。でも、みーんな、わざわざ熊本まで行きたいっておねだりしちゃうぐらいだもんな」

柚子「近くにボコミュージアムはあっても、ボコランドのほうが何倍も大きかったですからね」

杏「私も行ったような気がする」

桃「大体は一度ぐらい行っているでしょうね」

杏「もしかしたら、同じに日に行ってたりして」

柚子「えー? そんな素敵な偶然ありますか?」

杏「あるかもねぇ」

みほ「ふふ……」

桃「なんだ、西住。何がおかしい」

みほ「あ、いえ。昨日、私たちも同じようなことで大騒ぎしたので」

杏「なになに。どんなこと?」

みほ「それが――」

柚子「そうなんだぁ……。10年前に同じ場所にあんこうチームが……」

桃「五十鈴はいなかったんだろう」

みほ「そうなんです」

柚子「4人が居ただけでも、すごいことだとは思うけどね」

桃「だが、五十鈴のことを想えば、あまり話題にはしないほうがいいかもしれないな」

みほ「はい……」

杏「戦車のイベントかぁ。うーん……あったような……なかったような……」

柚子「会長、何か心当たりでも?」

杏「いや、ケイやチョビ子と最初に出会ったのってボコランドだったんだよねぇ」

みほ「え!?」

柚子「し、知り合いだったんですか!?」

杏「言ってなかったっけ?」

桃「ケイと安斎が会長に対して妙に馴れ馴れしかったのは、顔見知りだったからなんですか?」

杏「そういうことだ」

みほ「あの!! だったら、会長もケイさんも安斎さんもみんなボコのことが好きなんですか!?」

杏「ごめん、西住ちゃん。私もケイもチョビ子もボコに対しての情熱はないよ」

みほ「はぁ……そうですか……」

桃「どれほど好きなんだ、お前は」

杏「チョビに至っては、当時もボコのことが好きだったのかはわからんないしな」

柚子「ボコランドに行ったのなら、好きだったんだじゃあ……」

杏「ボコランドで戦車道のイベントもやってたはずだ。チョビはそっちを見に来てたんじゃないかねぇ」

桃「安斎ならありえますね」

杏「なにより、今の西住ちゃんの話を聞く限り、秋山ちゃんは戦車を見に行ってるわけだしな。ボコを見に来ていた層と戦車を見に来ていた層に分かれていたに違いない」

みほ「そ、そっか」

桃「ボコランドでは開園時に戦車道のイベントを催していた、というわけですね」

杏「あのときのパンフでもあればわかるんだろうけど、手元にないしなぁ」

柚子「私は会長の考えは自然だと思います」

杏「一緒にいたのはあんこうチームだけじゃなくて、カメさんチームかもねぇ」

柚子「あはは。もしそうなら、とんでもない偶然ですよね」

桃「昔話はこれぐらいにして、仕事の続きだ。柚子、日が暮れるぞ」

柚子「あーん、待ってよ、ももちゃーん」

桃「よぶなっ!」

杏「気になる?」

みほ「え!? あ、いえ……まぁ……」

杏「私もいたかもしれないもんなぁ。だったら、面白いのにな」

みほ「そうですね……」

杏「うっし。電話しよっか」

みほ「え? あ、マジノ女学院からですか?」

杏「ん? いやいや、ケイとチョビに」

みほ「へ?」

杏「当時を知る人間に聞いてみたほうがいいからな」

みほ「会長……」

杏「気になったことは徹底的に調べないと気が済まないんだ」

みほ「なんだか、すみません」

杏「ちょっと待っててよ。すぐにわかると思うし」

杏「もしもし、おケイ。今、ひまー? うん、ちょっと聞きたいことがあってさ」

みほ「あ……」

みほ(当時を知る人間……。そうだ。お姉ちゃんとお母さんだって、当時のことは絶対に知ってるはず)

みほ(いくらなんでも私一人では戦車を動かしてないし、なによりⅡ号戦車に乗るときはいつもお姉ちゃんと一緒だった……)

みほ(優花里さんのあの写真……お姉ちゃんに聞けば何かわかるかも……)

みほ「よし」ピッ

まほ『――はい』

みほ「あ、お姉ちゃん、今、大丈夫?」

まほ『ああ。何か用か』

みほ「あのね、10年ぐらい前のことなんだけど……。Ⅱ号戦車に乗ってるとき、写真撮影を頼んできた女の子とかいたかな?」

まほ『誰のことを言っている?』

みほ「誰って……?」

まほ『近所を走っているときには色んな人に写真の撮影許可を求められた。女の子もかなりいたから、特徴を言ってもらえなければ誰のことなのか分からない』

みほ「あぁ……そうなんだ……」

まほ『覚えていないの?』

みほ「う、うん。そうだったっけ?」

まほ『そうだ。割と大変だった』

みほ「ご、ごめんなさい」

まほ『謝ることはない。それで、用件はそれだけか』

みほ「ああ、ええと……。もう一つ、確認したいんだけど」

まほ『なんでも言え』

みほ「ボコランドっていう夢のテーマパークが熊本にあったって、覚えてる?」

まほ『あれだけみほが行きたいと駄々をこねていたのに、忘れられるわけがないだろう』

みほ「そ、そうなの!?」

まほ『みほが7歳のときのことだが、本当に忘れているの?』

みほ「私、そこに行った?」

まほ『いや、結局は行けなかった。行く機会を作れないまま、閉園になったからな』

みほ「はぁ……やっぱり……そこに行ってるなら絶対に覚えてるもんね……」

まほ『近くまでは行ったがな。お母様が戦車道のエキシビジョンに出場することになっていたから。みほは終日、拗ねていたが』

みほ「うぅ……なんだか……はずかしい……」

まほ『そういえば、あの日は色々とあったな』

みほ「あの日って、エキシビションがあった日?」

まほ『ああ。ボコランド開園記念で実現した戦車道でも異例の試合だった』

みほ「へぇ……。どんな内容だったの?」

まほ『西住家元と島田家元が試合をしたのよ』

みほ「それって、愛里寿ちゃんのお母さんが……!?」

まほ『この両家で試合をすること自体が稀であり、お母様と島田流家元の直接対決はこのときが初めてだったはず』

まほ『観客も非常に多かったと記憶している』

みほ「そんなにすごい試合だったんだね」

まほ『あの試合、みほは殆ど見ていなかったが』

みほ「ごめんなさい……」

まほ『途中で観客席から逃げ出したぐらいだからな』

みほ「そうだったの!?」

まほ『人も多かったし、すぐにみほを見失ってしまった。人生で最も走り回った日でもあったな』

みほ「お姉ちゃん、ホントにごめんね。けど、全然覚えてないなぁ……。私はどこで見つかったの?」

まほ『試合会場から500メートルほど離れた場所にあった広場だ。公園と言ってもいいかもしれないが』

まほ『みほはⅡ号戦車でそこまで移動していた』

みほ「その公園で何かしてたのかな」

まほ『手を振っていたな』

みほ「な、なんで?」

まほ『私にとっても長年の謎だ。いい加減、教えてほしいぐらいだ』

みほ「お姉ちゃんに向けて振っていたの?」

まほ『私には背を向けていた。もしかしたら遠くの誰かに向けてのものだったかもしれないな』

みほ(誰かとお別れした直後とかだったのかな……)

まほ『何を聞いてもお前は『秘密だから』の一点張りだった。機嫌は良くなっていたし、それ以上問い詰めようとは思わなかったけど。やはり気にはなる』

みほ「私もなんだか気になるよ。お姉ちゃんが私を見つけるまでどれぐらいかかったの?」

まほ『もう覚えてはいないが、1時間以上は探していたと思う。試合会場も広かったし、会場内だけでもかなりの時間を使っていたはずだ』

みほ「どうして公園まで行こうと思ったの? 直感?」

まほ『む……。確かにそうだな……。私は何故、その公園に足を向けたんだ……?』

みほ「誰かに私の居場所を教えてもらわないと、離れた場所を探そうとは思わないような……」

まほ『誰かに……。そうだ。誰かが私を呼びに来た』

みほ「呼びに?」

まほ『みほがいる場所を教えてくれた子がいた……。だが、あれは……』

みほ「思い出せない?」

まほ『あの時は必死だったからな。その人物の顔までははっきりと覚えていない。ただ藁をも縋る思いで、ついて行っただけだ。今思えば誘拐されていても不思議ではなかった』

みほ「あはは。そうだね」

まほ『しかし、私も気になってきたな。その人物にもお礼を言いたいぐらいだ』

みほ「すぐに別れちゃったんだ」

まほ『気が付けばいなくなっていた。一体、誰だったのか……』

みほ「そのときのことを思い出せるモノでもあればいいんだけどなぁ。写真とか」

まほ『あの日の写真なら、いくつかあるはずだ』

みほ「ホント!? それじゃあ、あとでケータイに送って欲しいな」

まほ『ケータイで写真を撮ればいいのか。わかった。寮に帰ったら送ろう』

みほ「ありがとう、お姉ちゃん」

まほ『気にするな。何か思い出せたらすぐに教えて欲しい』

みほ(お姉ちゃんに電話してみてよかった。ちょっと緊張したけど……。優花里さんの写真と繋がる物が写っていれば、私も思い出せるかな……)

杏「西住ちゃん。何か思い出せた?」

みほ「いえ。お姉ちゃんにも聞いてみたんですけど、まだ何も。会長のほうは?」

杏「ケイとチョビに聞いて、一つだけ思い出せたことがあったよ」

みほ「それは?」

杏「ケイやチョビと出会った日、ボコも戦車も関係ないところで遊んでたっぽいね」

みほ「三人でですか?」

杏「4人か5人はいただろうって二人は言ってたな。私もそれぐらいで遊んだと思ってる。私の曖昧な記憶が正しければだけど」

みほ「曖昧なんですか……。ええと、会長とケイさん、安斎さんの他にもう一人か二人一緒にいたんですよね」

杏「河嶋や小山か、あるいは西住ちゃんなのか……」

みほ「どうして忘れてしまっているんでしょうか。ひょっとすると、大事な約束を交わしているかもしれないのに」

杏「ケイとチョビとはその日の昼から夕方までずっと遊んでたけど、謎の人物とは1時間ぐらいしか一緒にいなかったみたいだしな。顔はよく覚えてなくて当然だし、話した内容なんて覚えている方が不思議だと思うけどね」

みほ「沙織さんや優花里さんと幼馴染だったらいいのに……」

杏「ま、これ以上のことはここではわかんないし、まずは目先のことを片付けていこっか」

みほ「あ、はい。そうですね。ええと、練習試合は……まず……」

>>まほ『西住家元と島田家元が試合をしたのよ』

>>みほ「それって、愛里寿ちゃんのお母さんが……!?」

>>まほ『この両家で試合をすること自体が稀であり、お母様と島田流家元の直接対決はこのときが初めてだったはず』


当時もう千代さんは家元って設定?
劇場版ではしほさんが千代さんから家元襲名をまるで最近のことみたいに祝われてるし。

>>49
本編見直してみた
本編開始時から家元だと思い込んでた俺にわか
考えてみれば設定的にも10年前から家元襲名してるのは無理があるので訂正します


>>45
まほ『西住家元と島田家元が試合をしたのよ』

みほ「それって、愛里寿ちゃんのお母さんが……!?」

まほ『この両家で試合をすること自体が稀であり、お母様と島田流家元の直接対決はこのときが初めてだったはず』

まほ『西住流と島田流が試合をしたのよ』

みほ「それって、愛里寿ちゃんのお母さんが……?」

まほ『この両家で試合をすること自体が稀であり、お母様と島田千代の直接対決はこのときが初めてだったはず』

>>54
安価間違えた

>>45>>42

―華の部屋―

華「はぁ……。やはりないのでしょうか……」

沙織「熊本へは行ったことないんでしょ?」

華「そうなのですけど……。なんだか諦められなくて」

沙織「気持ちはわかるけどさぁ」

優花里「五十鈴殿の写真はどれもお花に囲まれていますね」

華「はい。戦車道に出会う前は華道一筋でしたので」

麻子「戦車が端にでも写っていれば希望はあるんだがな」

華「わたくしの写真はこれで全部です」

優花里「ありませんね……」

華「残念です……。申し訳ありません。みなさんにも無理を言って探してもらったのに、何も出てこなくて……」

沙織(うーん。麻子のアルバムを探ればなにかあるかもしれないけど……)

麻子「私の部屋に来るか? 一応、私のアルバムも見てみたほうがいい。同じ場所にいたのなら五十鈴さんが写っていても不思議はない」

沙織「え!?」

麻子「何を驚いている?」

沙織「だって、麻子……」

麻子「五十鈴さんが西住さんには秘密にしてまで頼み込んでくるほどだ。私だってできる限りの協力はする」

沙織「いいの?」

麻子「構わない」

華「冷泉さん……」

優花里「武部殿、冷泉殿はあまり昔の写真は見たくないのでは……」

沙織「そのはずなんだけど……」

華「あの、やはりここまでにしますわ。わたくしも少しむきになってしまって。これ以上、無い物を探すのはよくありませんし」

華「優花里さんも10年前のことは忘れようって言ってくれたのに、ダメですよね」

麻子「私も探したい」

華「はい?」

麻子「10年前、沙織以外に誰が居たのか、知りたい」

沙織「夜、眠れなくなるわよ」

麻子「いつものことだ。気にするな」

沙織「気にするわよ。もう」

―麻子の部屋―

麻子「これが私の持っているアルバムだ」

優花里「見てもいいですか」

麻子「ああ。そのために出してきた」

沙織「……」ペラッ

華「この、冷泉さんの隣にいるのが……」

麻子「私の母親だ」

優花里「すごく綺麗な人ですね」

麻子「そうだな」

沙織「やっぱ、もうやめよ」

麻子「ダメだ」

沙織「でもぉ」

麻子「気にするな」

沙織「気にするってば」

麻子「大丈夫だ。本当に」

優花里「探しましょう。隈なく」

沙織「ゆかりんまでそんなこと言うの?」

優花里「ここにいる全員が10年前に会っていたなんてとってもすごいことなんですよ!?」

沙織「わかってるけど」

優花里「冷泉殿だって、その、上手くは言えませんが……」

華「思い出は、楽しいほうがいいです」

麻子「……」

華「わたくしたちではとても冷泉さんの隙間を埋めることなんてできないかもしれません。けれど、思い出を共有できれば、そのときの楽しみは増え、そして分かち合えます」

華「冷泉さん、わたくしの我儘にここまで付き合ってくれて、本当に感謝しています」

麻子「まだ五十鈴さんの写真は見つかってないが」

華「必ず見つけ出しますわ。それでみほさんをびっくりさせましょうね」

麻子「……うん」

沙織(悲しい思い出ばっかりは誰でも嫌だもんね)

優花里「武部殿! こちらの写真を注視していただけますか!」

沙織「よーし!! 任せてよ!! この男を見る目だけは間違いない私が、バッチリ華のこともみつけちゃうんだから!!」

優花里「うーん……。五十鈴殿らしき影は見当たりませんね」

麻子「写真はこれで終わりだ」

沙織「やっぱ、熊本に行ってないんじゃ写ってる訳ないわよねー」

華「うぅ……奇跡がそう簡単に起こるわけはありませんね……」

沙織「華は写ってないなー。お花は写ってるのに」

麻子「どれだ?」

沙織「ほら、これ。麻子と私が並んで写ってるやつ。そういえばこの写真は私は持ってなかったなぁ」

麻子「私のお母さんかお父さんが撮影したんだろう。ボコランドにこんな場所もあったのか」

沙織「庭園みたいなところで撮ったんじゃない?」

優花里「流石武部殿。顔の角度はどれも一緒ですね」

沙織「当たりまえでしょ。わたしだよっ」キラッ

優花里「あはは……」

華「あ、あの!! それ、見せてください!!」

沙織「な、なになに?」

華「このお二人の背景にある花に見覚えがあります」

沙織「よくある花だし、見覚えはあるんじゃない?」

華「いえ、花の種類ではなく、花の飾り方です」

優花里「わ、わかるものなのですか?」

華「はい。ここのユリの角度。これはお母様の挿し方に似ていますが、それを模範した誰かのモノ。ユリの周りにあるトルコギキョウの挿し方もお母様とよく似ていますが、別人が挿しています」

沙織「なんかみぽりんと同じようなこと言ってるよ」

優花里「お二人とも高名な流派の家で育っていますから」

沙織「小さいときから戦車道とか華道をやってるとそこまでわかるもんなのかな」

華「この挿し方は……でも……いえ、それしか考えられない……」

麻子「わかったのか」

華「これはわたくしが飾ったものです。お母様の挿し方を真似て」

沙織「え? ってことは、後ろにあるのは華の作品ってこと?」

優花里「五十鈴殿の生け花とは趣が異なるような気もしますが」

華「いえ、わたくしが生まれて初めて庭花として飾ったものですわ」

麻子「当時、五十鈴さんの作品は熊本までやってきていたのか」

沙織「んー、ねえ、麻子。そういえばこの公園みたいなところで誰かと会わなかったっけ? やけに花をじーっと見てる子がいたような気がするんだけど」

麻子「いたな」

優花里「五十鈴殿がそこにいたのですか!?」

華「しかし、新三郎は熊本へは行っていないと……」

麻子「五十鈴さん。確か、10年ぐらい前は大忙しで花の飾りをしていたと言っていたな」

華「はい。みたいです」

麻子「それは熊本で行われたんじゃないか」

沙織「ちょっと待って。熊本へは行ってないって何度も言ってるじゃない」

麻子「全国を飛び回っていたとしたらどうだ」

優花里「おぉ! 熊本は通過点のひとつだったということですか!?」

麻子「全国で何か所も飾りを行っていたとするなら、その一か所に過ぎない熊本のことを忘れていても不思議ではない」

麻子「加えて仕事としての移動が多かったのなら、それは旅行とは言えないからな」

華「あ……」

沙織「華、一日だけ熊本に寄ってたんじゃない?」

優花里「その可能性は高いですね!!」

華「つ、つぎはお母様に聞いてみますっ!」

―みほの部屋―

みほ「はぁ……」

みほ(練習試合の申し込みが沢山あるのは嬉しいけど、日程の調整が難しいな。学園艦の寄港日だってあるし……。会長が手伝ってくれるとは言ってるけど資料整理も大変そうだし、なんか私が……)

みほ「ん? あ、お姉ちゃんからメールが……。わぁ、写真、送ってくれる。あとでお礼の電話しなきゃ」

みほ「どんな写真だろう」ピッ

みほ(試合会場での写真か……。ホントだ。私、なんだか拗ねてる。お姉ちゃん、困ってるなぁ)

みほ「懐かしいなぁ」ピッ

みほ「え……」

みほ(これ……一緒に写ってるのって……拡大してみよう……)ピッ

みほ「あ……」

みほ「そうだ……なんで……なんで忘れてたんだろう……」

みほ「……」ピッピッ

まほ『もしもし?』

みほ「お姉ちゃん、あの、練習試合の件なんだけど』

まほ『ああ、黒森峰はいつでも構わない。大洗の寄港日に合わせようと思う』

―生徒会室―

桃「はぁ……全く終わる気配がないな……」

柚子「一日じゃ終わらないよね」

杏「……」

柚子「会長も手伝ってくださいよぉ」

桃「先ほどからその写真をずっと眺めていますが、何かあるのですか」

杏「いやぁ、運命だねぇ、ホント」

柚子「はい?」

杏「思い出した。全部。思い出したよ」

桃「何をでしょうか」

杏「河嶋、小山」

桃「はい」

柚子「なんでしょう?」

杏「守れたよ」

桃・柚子「「はい?」」

―大洗女子学園―

みほ「はぁ……はぁ……はぁ……」

沙織「みぽりん!」

優花里「西住殿!!」

みほ「み、みんな、急に呼び出してごめんね……はぁ……はぁ……」

華「いえ、わたくしたちもみほさんに伝えたいことがありましたので」

みほ「そう、なの?」

麻子「恐らくだが、10年前に五十鈴さんも同じ場所にいた」

華「お母様に聞きました。熊本には8時間ほど滞在していたらしいです。わたくしと共に」

優花里「なんでもお仕事で九州を回られていたときがあったそうで、そのときに熊本にも立ち寄ったとか」

みほ「そうなんだ。だったら、やっぱりこの写真も……間違いないよね……」

優花里「新たな写真があったのですか?」

みほ「うんっ。見て」

沙織「え……」

みほ「全部、思い出せたの。この写真を見て――」

―熊本県熊本市 試合会場―

『センチュリオン、走行不能!!』

ワァァァァ!!!

まほ「見て、みほ。お母様が敵車輌を撃破したよ」

みほ「……」

まほ「みほ。これも戦車道の勉強だから」

みほ「ボコランド、行きたい」

まほ「後で行こう」

みほ「今行きたい」

まほ「みほ。我儘を言わないで」

みほ「私、行ってくる」

まほ「みほ!?」

みほ「試合が終わるまでには戻ってくるから!」タタタッ

まほ「みほ!! 待って!!」

『 ヤークトティーガー、走行不能!!』

みほ「こっちに転回すれば、ボコランドの入り口に――」

ドンッ!

みほ「きゃ!?」

ケイ「おっと。大丈夫? 怪我はない?」

みほ「う、うん」

ケイ「オールオッケー?」

みほ「お、おっけー」

ケイ「ベリナーイス! 前を見ないでダッシュしてたらまた誰かとクラッシュしちゃうわよ。気を付けてね」

みほ「ごめんなさい。どうしてもボコランドに行きたくて」

ケイ「あそこに? 奇遇ね。私も行こうと思ってたのよ。でも、ママとパパがエスケープしちゃってさぁ、中に入れないのよねぇ」

みほ「どうして?」

ケイ「マネーがないとどうしようもないじゃない?」

みほ「お母さんとお父さんを探してるの?」

ケイ「イエース。きっと道に迷ってるんでしょうね。それじゃ、私は行くけど、本当に大丈夫?」

みほ「うんっ。ありがとうございました!」

みほ「そっか……お金……持ってない……」

みほ「ボコランドに入れない……」

みほ「お姉ちゃんのところに戻ろうかな」

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

みほ「来た道を戻ればいいだけのはず」

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

みほ「……」

みほ「おねえちゃーん」

みほ「おねえちゃーん!!」

みほ「……」

みほ「こっちかな……」

みほ「おねえちゃーん!!」

ガヤガヤ……ガヤガヤ……

みほ「……」

みほ「おねえちゃん……どこ……」

―駐車場 Ⅱ号戦車内―

みほ「おねえちゃん……」

みほ「Ⅱ号の中にもいない……どうしよう……」

みほ「……」

みほ「お母さんの試合……ちゃんと見てたら……よかった……」

みほ「うっく……ぐす……」

「わー!! Ⅱ号戦車!! お母さん、これⅡ号戦車だよ!!」

みほ「え……?」

優花里「すごーい!!」キャッキャッ

好子「優花里、一人で走らないの」

みほ(だ、誰かきた……)

優花里「ねえ、ねえ、お母さん、写真撮って!」

好子「こら、勝手に登ろうとしないの。それに断りもなく写真を撮るのも失礼でしょ」

優花里「でもぉ」

みほ(戦車の上に立ちたいのかな……)

好子「ほら、行きましょう」

優花里「はぁーい……」

みほ(あ、行っちゃう……どうしよう……写真ぐらいなら良いけど……)

みほ「……」

みほ「あ、あの!!」

「きゃぁ!?」

みほ「あれ?」

少女「な、なによ!! 急に出てきたらびっくりするじゃない!! 居るならいるって言いなさいよ!!」

みほ「ご、ごめんなさい」

少女「全く」

みほ「あの、写真ぐらいならいいけど?」

少女「はぁ? 別に写真なんていらないわよ。私はもっと強い戦車を見に来たんだから」

みほ「そうなんだ……」

少女「それじゃあね」

みほ「うん……」

少女「ちなみに」

みほ「え?」

少女「その弱そうな戦車を見て大喜びしていた子は、向こうに行ったわよ。追いかければ間に合うんじゃない?」

みほ「……」

少女「なによ」

みほ「あ、えと、どうしたらいいのかなって」

少女「追いかけろって言ってるのよ!!」

みほ「は、はい!!」

少女「何よ。トロい子ね」

みほ「あ、ありがとう!」

少女「はいはい」

Ⅱ号戦車『まってー』ゴゴゴゴッ

少女「……」

少女「戦車持ってるなんて……羨ましい……」

少女「ま、いいけど」

―公園―

Ⅱ号戦車『どこかな……』ゴゴゴゴッ

みほ「こっちじゃなかったのかな……?」

華「……」

みほ(あの子かな?)

みほ「あのー。写真ならとってもいいよー」

華「あの。申し訳ありませんが少しだけ、移動をしていただけませんか?」

みほ「どうして?」

華「その場所で、お花を生けるようにいわれていまして……」

みほ「お花を?」

華「はい。ここで庭花を飾るようにとお母様に言われましたので、その場所を占領されてしまうと困ります」

みほ「あ、ごめんなさい。すぐに移動するね」

Ⅱ号戦車『……』ゴゴゴッ

華「ありがとうございます。これでお花を飾ることができますわ」

みほ「どういたしまして」

華「では、始めます」

みほ「……」

華「……」チョキチョキ

みほ「……」

華「あ、あのぉ。そんなに見られると、恥ずかしいです」

みほ「見てちゃダメなの?」

華「いえ、そういうわけではありませんけど、何分こうした庭花を飾るのは初めてで」

みほ「そうなんだ。楽しい?」

華「楽しいかはわかりません。これは五十鈴家に生まれた者の宿命です」

みほ「しゅくめいなんだ」

華「はい。ですので、楽しいとかつまらないとか、考えたことはありませんわ」

みほ「ふぅん。私も戦車のこと楽しいとか思ったことないよ」

華「戦車……? この鉄の塊のことですか」

みほ「うん。西住家に生まれたら、戦車には乗らなきゃいけないってお母さんが言ってて、ずっと乗ってるの」

華「生け花と戦車の違いはありますけど、わたくしたちは似ているのかもしれませんね」

みほ「そうなのかな」

華「それにしてもこの鉄と油の臭い……。これに乗っていると花の香りが分からなくなってしまいそうです。嫌になりませんか?」

みほ「私はもう慣れちゃったからなんとも思わないよ」

華「お強いのですね」

みほ「そうかな? こうしてお花を綺麗に飾れるほうがすごいと思うけど」

華「いえ。わたくしなんてまだまだですわ」チョキチョキ

みほ「……」

華「……」チョキチョキ

「熊本城を水攻めじゃー!!」

「ルビコンを渡れ!!」

「ペリーの黒船来航ぜよ!!」

「それだ!!」

「私たちは気が合うでござるな!」

みほ「みんなボコランドにいくのかなぁ」

華「違うと思いますよ」

みほ「ボコランド、行かないの?」

華「ボコ……? とはなんでしょう?」

みほ「えぇぇ!? ボコを知らないの!?」

華「申し訳ありません。不勉強で」

みほ「あのね! ボコはね!! すぐにボコられるんだけど、でも、絶対にくじけたりしないの!! それでとってもかわいいの!!」

華「そうなのですか」

みほ「うん!! きっとね!! あなたも一度見たら大好きになると思う!! だから、あとでボコをみにいこっ!」

華「そうですね。時間が出来ればご一緒したいです」

みほ「うん!! あ……でも……お金がないと……ボコランド、入れない……」

華「わたくしもお金は持ち合わせていません」

みほ「ざんねん……」

華「残念ですね」チョキチョキ

みほ「はぁ……」

華「あの、よろしければ後ほどこの戦車に乗せてはいただけませんか?」

みほ「え? うん、いいよ」

華「ありがとうございます。では、そのお礼に一緒にお花を飾りませんか?」

みほ「いいの?」

華「このスペースに少しだけなら、きっと大丈夫です」

みほ「わぁ、ありがとう! どのお花をつかっていいの?」

華「お好きなのをどうぞ。鋏はこれを。手を切らないように気を付けてください」

みほ「うんっ」チョキチョキ

華「違います」

みほ「え?」

華「鋏はこう持つのです」

みほ「こ、こう?」

華「はい。あと姿勢は正してください」

みほ「うん」

華「正座です」

みほ「えぇぇ」

華「花を生けるときは姿勢からです。姿勢が崩れていればいい花は挿せません」

華「これで完成です」

みほ「すごーい! 何もなかったところがお花畑みたいになってる!」

華「お母様に見てもらわないと。ここで待っていてください」

みほ「うん!」

みほ「うーん……ここにこのお花を……」

みほ「違うかな……こうかな……」チョキチョキ

みほ「んー?」

みほ「はぁ……これでいいのかな……?」

「ヘイ、彼女!」

みほ「え?」

沙織「さっきからなにしてるの?」

麻子「花を飾っていたんだろ」

沙織「どうして?」

麻子「私にきくな」

沙織「ふつーボコランドにいかない?」

みほ「うん。本当ならボコランドにいきたいんだけど」

沙織「だよね!! 流行にのってこそ、乙女だもんね! ボコをみてかわいーっていえば男子はみんな胸キュンしちゃうって雑誌に書いてたし!!」

みほ「むねきゅん?」

沙織「あなたも狙いはそれでしょ!?」

みほ「あ、えと」

麻子「沙織とは違うだろうに」

沙織「えー? 絶対そうだって」

みほ「あはは……よくわからないけど……」

沙織「でも、お花を飾るのも乙女力高いと思うよ、私は。これはこれでモテるよ。うん。すっごいキレイだし」

麻子「確かに。一人で作ったのか」

みほ「ううん。私じゃなくてもう一人の女の子が作ったの」

沙織「ふぅん。あなたの友達?」

みほ「え? あ、ち、ちがうと思う」

麻子「違うのか」

沙織「ま、いいや。おとーさーん!! ここでしゃしんとってー!! 私の後ろにお花があればすっごく可愛く撮れるとおもんだー!!」

沙織「一緒にどう?」

みほ「ううん。大丈夫。私はここを完成させないといけないから」

沙織「そう?」

麻子「忙しいんだろう。誘ってやるな」

沙織「ぶー。ちょっとぐらいいいじゃない」

「とるぞー」

沙織「はぁーい。うふっ」

麻子「……」

カシャ

沙織「ありがとう、おとーさんっ」

「麻子、行くわよ」

麻子「はい、お母さん」

沙織「じゃあね!」

みほ「うん」

みほ(ボコランド行くんだ……いいなぁ……)

百合「これが華さんの飾った庭花ね」

みほ(あ、戻ってきた)

華「どうでしょうか」

百合「まとまってはいるけれど、個性と新しさに欠けるわね。私の花にとてもよく似ている。ただそれだけね」

華「すみません……」

百合「次の場所ではそれらに注意し飾るように」

華「は、はい」

百合「私の方はもう少し時間がかかると思うので、それまでは自由にしていなさい」

華「わかりました」

百合「ところで、そこの子は?」

みほ(こわそう……)

華「先ほど知り合いました」

百合「鉄と油の臭い……。この戦車と同じ臭いがするわね。華さん、戦車になど近づかないように。繊細な指と鼻が汚れてしまうわよ」

華「わ、わかりました」

みほ「……」

華「怒られてしまいました」

みほ「こんなに綺麗なのにダメなんだ」

華「華道は一日にしてならず。簡単には褒めてくれません」

みほ「私のお母さんも同じ。褒められたことなんてないよ」

華「やはり、私たちは似ていますね」

みほ「そうだね」

華「先ほどの約束はなかったことにしてください」

みほ「え?」

華「戦車にはどうやら乗らない方がよさそうなので」

みほ「そんな! ちょっとぐらいなら大丈夫だよ!」

華「お母様にはきっと分かってしまいます」

みほ「でも、私がお花を飾らせてもらって、あなたが戦車に乗るって約束だったのに」

華「わたくしから言い出したことですから」

みほ「上に乗るのもダメなの?」

華「はい。きっとわたくしが怒られてしまいます」

みほ「そっか……」

華「ごめんなさい」

みほ「ううん。でも、いつか乗ってほしいな」

華「はい。いつかあなたの戦車に乗せてくださいね」

みほ「うん! このお花のお返しは絶対にする!」

華「嬉しいですわ」

みほ「約束っ」

華「勿論です」ギュッ

みほ「えへへ」

華「うふふ。では、わたくしはお母様のところへ向かいます。お母様の花を見て、学ぶためにこうして遠くまできたので」

みほ「また、会えるかな?」

華「きっと会えます」

みほ「うん!」

華「はい。さようなら。それから、貴方が飾った花、独創的で力強く、そしてとても優しい……。わたくしにはないものです。とても良いですよ」

みほ「そうなの!? ありがとう!! またね!!」

みほ「これがいいんだぁ……なんだかうれしいなぁ……」

みほ「えへへ……」

「おい」

みほ「あ、はい?」

アンチョビ「この戦車はお前のか?」

みほ「うん、そうだよ」

アンチョビ「戦車道、しているのか」

みほ「うん」

アンチョビ「そうか……」

「チョビ子ー」

アンチョビ「千代美だ!!」

杏「どっちでもいいじゃん。畏まる仲でもないんだし」

アンチョビ「よくない!! あと、お前とは今日初めて出会ったんだぞ!! かしこまれ!!」

杏「迷子センターでね。で、なんか面白いものでもあった?」

アンチョビ「花が沢山あるから、デイジーもあると思ったんだが、それ以上にすごいものを発見した。生の戦車だぞ、杏」

杏「へー。おっきいなぁ」

アンチョビ「私もいつか、戦車道をするぞ」

杏「戦車、好きだっけ?」

アンチョビ「私が今日、熊本まで来たのは試合を見るためだぞ」

みほ「試合って、戦車道の?」

アンチョビ「ああ。もうすぐ終わりそうだったのに、良いところで連れて行かれてしまったんだ。私は確かに迷子、じゃなかった、親と別行動をとっていたが、特に困ってはいなかった」

杏「ケータイもあるしな」

アンチョビ「あの警備員が全部悪い」

みほ「お母さんとお父さんが心配してるんじゃあ……」

ケイ「アンジー、チョビー! おいていかないでよー!!」

杏「ごめん、ケイ。チョビ子がどうしてもこっちにいきたいっていうからさー」

アンチョビ「千代美だ!! チョビはやめろぉ!!」

みほ「ちよみさん」

アンチョビ「だから千代美だ!! あ、いや、あってるのか」

みほ「試合はもう終わったの?」

アンチョビ「私が連れて行かれるときには両チーム隊長車を残すだけになっていた」

みほ「それじゃあ、もう終わってるのかな」

アンチョビ「試合内容が気になるのか」

みほ「うん……。お母さんが出てるから」

アンチョビ「へえ。あの試合は西住流と島田流の戦いだろ? お前の母親は、西住流か島田流の門下生か?」

みほ「あ、えっと」

ケイ「ワオ! どうしたのクラッシュガール。こんなところで」

みほ「さっきはごめんなさい」

ケイ「いいわよ。別に。あなたも迷子になったの? ボコランドはいった?」

みほ「お金、なくて」

ケイ「そっか。私もまだパパとママに会えてないのよねー」

杏「でも、こうして私とチョビに会えたから良かったじゃん」

ケイ「それはハッピーだけど、私はボコを見に来たんだけどなぁ」

みほ「ボコのこと好きなの?」

ケイ「オフコース!! だって、すっごくキュートじゃない!」

みほ「わぁ……!」

ケイ「あなたも好きなの?」

みほ「うん!! 大好き!!」

ケイ「いいフレンドになれそうね」

杏「ケイは誰とでも仲良くなれるでしょ」

ケイ「アンジーもね」

アンチョビ「あのクマのどこがいいんだ?」

みほ「ボコボコにされても立ち上がるところ!!」

ケイ「誰にでもすぐにケンカを売る度胸」

杏「なんとなくすきー」

アンチョビ「ふぅん。よくわからん。戦車のほうが何倍もいいだろうに」

ケイ「戦車? そんなにいい?」

杏「大きいから乗れば眺めはいいだろうなぁ」

ケイ「誰の戦車なの?」

みほ「私とお姉ちゃんの。ここまで乗ってきたんだ」

ケイ「ふーん。へー。乗ってもいい?」

みほ「うん!」

ケイ「サンキュー! アンジーとチョビもトゥギャザーする?」

杏「いいの?」

みほ「のって! 私が操縦するから」

アンチョビ「おぉ!! 初戦車だ!!」

杏「んじゃ、えんりょなくー」

ケイ「よーし! ゴーアヘーッド!!」

みほ「パンツァー・フォー!」

Ⅱ号戦車『……』ゴゴゴゴッ

アンチョビ「うぉぉ!? うごいてる!! うごいてるぞー!!」

杏「おぉ! 中々、いいねぇ」

ケイ「アハハハハ!! いいわよー!! もっとスピードあげてー!!」

みほ「うん!」グイッ

アンチョビ「は、はやすぎないか!?」

―ボコランド 入場口―

桃「うわぁぁぁん!!」

柚子「もう、桃ちゃん。ボコはいないよ? 泣き止んでよぉ」ナデナデ

桃「うわぁぁぁん!!」

柚子「お母さんたちとはぐれちゃったし、どうしよう……」

桃「うわぁぁぁん!!」

柚子「うぅ……ももちゃん……なき、やんで……ぐすっ……」

桃「ゆずちゃぁぁん……!!」

柚子「ももちゃぁん……」

ゴゴゴゴ……!!

柚子「へ?」

アンチョビ「とまれとまれー!! ひとがいるぞー!!」バンバン!!!

みほ『よいしょっと』グイッ

ケイ「アハハハハハ!! 良いドライブだったわー!! ベリーナイス!!」

杏「戦車もいいねぇ」

みほ「どうだった?」

アンチョビ「怖すぎる……。じゃない、スリルがありすぎるな」

ケイ「戦車の良さ、ちょっとだけわかったかも」

みほ「ホント?」

ケイ「私もいつか戦車にライドしてみたいわね」

アンチョビ「ほう。ケイ、では将来はライバルだな」

ケイ「えー? 一緒のチームがいいけどなぁ」

杏「全員、大洗に来たらいいんじゃない?」

アンチョビ「何をいう。大洗では戦車道の授業はないってきいてるぞ」

杏「そうなの?」

アンチョビ「私の地元でも戦車道の授業がなくてな。将来はきちんと授業として選べる学校に進みたいから、きちんと調べているんだ」

ケイ「今はやってないんでしょ? 初戦車だーって言ってたし」

アンチョビ「習い事で始めようと思っている。お母さんが中々許可してくれなくてな。危ないからダメだって」

みほ「特殊カーボンがあるからそんなに危なくないよ」

アンチョビ「私もそれを説明しているんだが、分かってくれないんだ」

桃「うわぁぁぁん!!」

杏「ん?」

アンチョビ「ああ、そうだった。怪我はないか?」

みほ「私、ひいちゃったかな?」

ケイ「戦車でひいてたらこんなに元気に泣けないんじゃない?」

桃「うわぁぁぁん!!」

アンチョビ「おいおい。泣いていたら分からないだろ」

杏「怪我はしてないっぽいな」

柚子「あの、桃ちゃんはボコにおどろいて泣いちゃってるだけで……」

みほ「どうして? ボコ、かわいいのに」

柚子「いきなりボコに「おらおらーボコボコにするぞー」っていわれたの」

ケイ「それでこんなにクライしてるのね。ドントクラーイ」

桃「う……うわぁぁぁん!!!」

杏「ありゃあ。お母さんかお父さんは?」

柚子「桃ちゃんが急に走り出したから、私も追いかけて……それではぐれちゃった……」

アンチョビ「どうする?」

杏「そうだなぁ。とりあえず、この子を泣き止ますかぁ」

みほ「どうやって?」

杏「良い物があるんだ。大洗伝統の子守グッズがね」

ケイ「どんなの?」

杏「はい!」グッ

桃「もがっ……!?」

柚子「な、なにを!?」

杏「干し芋を食べればどんなに泣いていても泣き止む」

桃「むぐ……む……はむ……」

杏「どう?」

桃「……おいしい」

杏「でしょ?」

みほ「すごーい!」

杏「大洗の名産だからなぁ」

柚子「ありがとう! 桃ちゃんって一度泣き出すと中々泣き止まなくて……」

杏「そんなときは干し芋だ」

桃「大洗に住んでるの?」

杏「ああ。そうだぞ」

柚子「私たちも大洗から来たの」

杏「へえ、んじゃ地元なんだ。奇遇だねぇ」

アンチョビ「さて、ボコランドまでこれたし、そろそろ両親と合流しないとな」

ケイ「んー、そうねー。どこにいるかしら」

みほ「私もそろそろ戻らないと……」

杏「それじゃ迷子センターにこの二人を届けるついでに、私たちもいこっか」

ケイ「そうね。クラッシュガールは? ボコランドの中でファミリーが待ってるとかないの?」

みほ「私のお母さんとお姉ちゃんは向こうにいると思う」

アンチョビ「試合会場のほうか」

杏「チョビの両親もそっちじゃないの? チョビは戦車道を見に来たんでしょ?」

アンチョビ「あのなぁ。そもそも私のお母さんは戦車道を嫌っているんだ。私を試合会場まで連れてきてくれるわけがないだろう」

ケイ「なるほど。ボコランドに連れて行ってっておねだりしたのね」

アンチョビ「そうだ。それで隙を見て抜け出した」

杏「へえ、頭いいな。チョビ」

アンチョビ「私は隊長になりたいんだ。これぐらいの頭脳はなくてはな」

ケイ「隊長って大変なのね。私には向いてないかも」

杏「そうだなぁ。のーんびりやりたいかもね」

アンチョビ「戦車に乗るなら長のほうが絶対に楽しい。間違いない」

杏「そういうものなの?」

みほ「え? どうだろう。お母さんはいつも隊長だけど。楽しそうにはしてないよ。いつも怖いもん」

アンチョビ「隊長なのか!? では、あの試合でも!?」

みほ「うん。そうだよ」

アンチョビ「お前、もしかして島田流なのか!?」

杏「名前、聞いてなかったな。なんていうの?」

みほ「私は――」

「ちよみちゃーん!! 探したじゃない!! どこにいってたのー!?」

アンチョビ「おかあさん!!」

「携帯電話にも出ないし、心配させないで。貴方にもしものことがあったら、お母さん、泣いちゃうでしょ」

アンチョビ「ごめんなさい……」

「あら、お友達?」

アンチョビ「うん。さっき知り合った」

杏「どうもー」

「みんなのパパやママは?」

ケイ「それがわからなくてさー。探してはいるんだけど」

アンチョビ「そうだ。お母さん。みんなと一緒に暫く遊んでいい? ボコランドの中にみんなの家族もいるみたいだし。きっと一緒に遊んでいれば向こうから見つけてくれるはずだ」

「そうね。そうしたほうがいいかしら」

アンチョビ「よしっ。もう少し、共に遊べるぞ」

ケイ「イエーイ!! エンジョイしましょ! エンジョイ!!」

桃「ゆずちゃぁん……」

柚子「私たちも一緒でいいの?」

杏「いいんじゃない?」

アンチョビ「お前はどうする?」

みほ「えっと」

「千代美ちゃん? この子、どうして戦車に乗っているの?」

アンチョビ「あ、それは……」

「もしかして戦車道の……」

みほ「私は、何も関係ないから!! ここを通っただけで!!」

杏「そうそう。私たち、友達でもなんでもないから」

アンチョビ「お、おい」

みほ「それじゃあ!!」

ゴゴゴゴゴッ

「戦車道の友達ができたかと思ったわね」

柚子「あの子、寂しそうにしてた」

ケイ「アンジー、あの言い方はないんじゃない?」

杏「チョビが怒られそうになってたから仕方ないじゃん」

アンチョビ「私のことなどどうでもいいだろうが。あいつ、大丈夫か……」

―公園―

みほ(思わず、こっちまできちゃった……)

みほ「千代美ちゃん、怒られてないかなぁ」

みほ「……」

みほ「おねえちゃん、おこってるかなぁ……」

みほ「戻らなきゃ……」

「あったー!! やっぱりあったー!! おかーさん! こっちこっち!!」

みほ「え?」

優花里「Ⅱ号戦車!! 駐車場にとまってたやつだー!!」

みほ(あの子だ)

好子「そんなに走らないで、優花里」

優花里「すごーい!! こんなに近くで戦車をみれるなんてー!!」

好子「さっきまでたくさん見てたじゃない」

優花里「違うの! こうして手で触れるのがうれしいの!!」

好子「わかったわ。でも、持ち主がいないんだから、勝手に触らないようにね」

優花里「えー……」

みほ「あ、あの!!」

優花里「わぁ!?」

好子「あ、あら?」

みほ「写真なら、いいよ」

優花里「え……」

みほ「あと、乗るのも別にいいけど」

優花里「いいの!?」

みほ「うん」

優花里「わーい!!」

好子「こら、優花里。お礼は?」

優花里「あぅ。ありがとうございます!! 光栄であります!!」

みほ「う、うん?」

好子「ごめんなさいね。この子、最近戦車とかに興味をもって、話し方も映画か何かに影響されちゃったみたいで」

優花里「あの!! 乗車してもよろしいですか!?」

みほ「いいよ。乗ってみて」

優花里「ありがとうございます!!! ええと……」

みほ「みほっていうの。あなたは?」

優花里「秋山優花里といいます!! みほ殿!!!」

みほ「あはは。変なのー」

優花里「そうですか?」

みほ「こっちが操縦席」

優花里「おぉぉぉ!!! これが生の操縦席なんですねー!?」

みほ「これを押すとエンジンがかかるの」

優花里「……」

みほ「……」

優花里「むー……」

みほ「あ、うん。エンジンかけてみて」

優花里「いやっほー!!! さいこーだぜー!!!」

みほ(こんなに楽しそうに戦車に乗る子、初めて見た)

―試合会場―

千代「良い試合でしたわ。またいつか試合をしましょう。西住さん」

しほ「次は西住流が勝つ」

千代「楽しみにしていますわ。それでは娘が待っていますので」

しほ「ああ」

しほ(ボコランドに行く時間ぐらいはありそうね。早く、まほとみほのところに向かわないと)

まほ「おかあさま……」

しほ「まほ。試合はちゃんと見ていたの」

まほ「……」

しほ「この試合も貴方達がこれから戦車道を歩んでいくために大切なことが――」

まほ「あ、あの、お、おか……さま……」

しほ「なにかあったの?」

まほ「も、もうしわけ……ありま、せん……すべて……わたし、の、せき、にんで、す……」

しほ「しっかりなさい。何があったというの」

まほ「み、みほ……が……いなく……なって……ひっしに……さがし……たけど……どこにも……いな、くて……ごめんなさい……」

しほ「な……」

まほ「ごめんなさい……おか、さま……」

しほ「泣き止みなさい。貴方は西住の名を背負う者なのよ。この程度のことで動じてどうするのです」

まほ「うっ……うぅ……」

しほ「みほも西住の家に生まれた者よ。一人でいるからと泣いてしまうほど弱い娘ではないはず。貴方もそうでしょう」

まほ「は、はい……」

しほ「まほはここにいなさい。私が探し出すわ」

まほ「お、おねがいします……」

しほ「ええ」

しほ「……」ダダダッ

千代「愛里寿と一緒にボコランドへ――」

しほ「待ちなさい」ガシッ

千代「な、なんですの!?」

しほ「むすめを……探してほしい……」グググッ

千代「いたっ……ちょっと……そんなに強く肩をつかまないで……」

―公園―

優花里「いやっほぉー!!!」

みほ「上手、上手」パチパチ

優花里「ありがとうございます!! みほ殿!! ところで、あの、機関砲も……その……」モジモジ

みほ「空砲になっちゃうけど、いい?」

優花里「はい!! もちろんでぇす!!」

みほ「なら、いいよ」

優花里「やったぁ!! よーし、第二小隊!! 今、援護する!!」

みほ「うてー!」

優花里「でやぁぁぁぁ!!!!」ズドドドドド!!!!

みほ「あははは」

優花里「はぁぁ……」

みほ「どうだった?」

優花里「私、とっても幸福です!!」

好子(優花里が幸せそうにしているのはいいけれど……将来が少しだけ不安になるわね……。でも、戦車を通じてこうしてお友達もできるなら、良いことなのかもね)

好子「ゆかりー、写真とるわよー」

優花里「うん!!」

好子「はい、ポーズ」ピッ

優花里「ありがとう、お母さん!」

みほ「戦車、すごく好きなんだね」

優花里「はい!! 戦車に全てを捧げてもいいと思っているぐらいです!!」

みほ「そうなんだ。すごいなぁ。わたしも優花里ちゃんみたいに戦車が好きになれたらいいのになぁ」

優花里「戦車、嫌いなんですか?」

みほ「戦車より、ボコのほうが好きだから」

優花里「そうなんですか」

みほ「うん。私の家で戦車道やってるから、私も戦車に乗らなくちゃいけなくて」

優花里「……」

みほ「毎日練習があるからクラスの子とも遊べないし……学校が終わればみんな遊んでるのに……わたしだけ……」

優花里「戦車の事、あまり好きじゃないんですね」

みほ「だって、したくてしているわけじゃないもん」

優花里「私はみほ殿こと、とても羨ましく思います」

みほ「そうかなぁ。私は優花里ちゃんが羨ましいけど」

優花里「いえいえ。こうして戦車にいつでも乗ることができるみほ殿にあこがれてしまいますよぉ」

みほ「いいのかなぁ」

優花里「だって、Ⅱ号戦車って3人乗りですよ。これを乗り越すためには3人の力が必要になるわけです。移動するだけなら1人でもいいんでしょうけど、それでは戦車が可哀想です」

優花里「ちゃんと3人で動かしてあげたほうが戦車も喜びます」

みほ「戦車が……」

優花里「この子を動かすために3人が力を合わせなくてはいけない。その3人は戦車で繋がっていなければいけないんです。みんなの心がバラバラだったら、この子はちゃんと機能してくれません」

優花里「だから戦車に乗ることで、色んな人と仲良くなれるんですよ。みほ殿が心から羨ましいです」

みほ「色んな人と仲良く……」

優花里「戦車は一人じゃ動かせませんからね」

みほ「そんな風に考えたことなかったなぁ」

優花里「1人で乗るよりも2人。2人よりも3人で乗る方が楽しいですよ。絶対」

みほ「それじゃあ、優花里ちゃん。今度は私と一緒に乗ってくれる?」

優花里「はい!! 勿論です!!」

好子「ゆかりー。どこにいくつもりなのー?」

優花里「ちょっと戦車で走ってくるー!」

好子「遠くにいっちゃだめよ」

優花里「はぁーい」

みほ「ねえ、優花里ちゃん。試合会場に私のお姉ちゃんがいるんだけど、迎えに行ってもいいかな? きっと心配してると思うし」

優花里「わかりました! 行きましょう! それで、お姉さんも戦車に乗るんですか?」

みほ「もちろん。私と一緒にいつも練習してるから」

優花里「おぉぉ!! では、3人でⅡ号戦車に乗れますね!!」

みほ「そうだね」

優花里「もえてきたぜぇぇ!!」

みほ「それじゃ、パンツァー・フォー!」

優花里「ふぉー!!」

Ⅱ号戦車『いってきまーす!!』

好子「きをつけてねー」

好子(いい友達、よね)

―ボコランド―

沙織「たのしかったー。これで男の子たちにも流行の最先端な話が出来て、できるオンナをアピールできるね」

麻子「全く興味ない」

沙織「だめだよぉ、麻子。麻子だって、可愛いんだからもっと流行に敏感にならなきゃ」

麻子「はぁ……」

『迷子のお知らせをします。本日――』

『貸してもらいます』

『あ、ちょっと困ります!!』

沙織「ん? なにかな?」

しほ『みほ!! このエリアに居ることはわかっています!! 無駄な抵抗はせずに投降しなさい!!』

千代『しほさん、そんな言い方はやめたほうが』

しほ『みほ!! 聞こえているのなら返事をしなさい!!』

千代『特徴を言ったほうがよろしいのでは?』

しほ『私の娘はⅡ号戦車と共に移動しています!! みほー!!』

麻子「戦車に乗ってる女の子か。一人だけ見かけたな」

沙織「お花のところにいた子のことなの?」

麻子「戦車に乗っている娘なんて、他に居なかったと思うが」

沙織「あの子、迷子だったんだ。だから、あんなところで寂しそうにしてたんだね」

麻子「知り合いも近くにはいそうになかったしな」

沙織「まだいるかもしれないし、いってみよっか」

麻子「おい、沙織。勝手に行こうとするな。怒られるぞ」

沙織「けど、気にならない?」

麻子「気にならないわけではないが……」

沙織「だったらいこーよ!! ね?」

麻子「しかしだな」

沙織「わかったわよー。おとーさん! ちょっと向こうにいってくるねー!!」

「ん? わかった。入口のところでまってるからなぁ」

沙織「はぁーい。これでいいよね?」

麻子「私のお母さんは……」

沙織「私のおとーさんとおかーさんがちゃんと説明してくれるって! いくよー、まこー」

―ボコランド 入口―

沙織「確か、向こうだったよね」

麻子「沙織、そもそも相手は名前も知らない子だ。こういうのを大きなお世話っていうらしいぞ」

沙織「別にいーじゃない。顔は知ってるんだし」

麻子「お前は……」

沙織「それにあの子のお母さんも結構心配してたっぽいし、連れて行ってあげればあの子のお兄さんとか弟さんを紹介してもらえるかも!」

麻子「は?」

沙織「そしたらさ、私にも許婚ができちゃったりするのよぉ、きっと!」

麻子「たまにだが、沙織に考えていることが分からなくなるな」

沙織「私の未来の旦那様がいるかもしれないし! 張り切って、いこー!」

麻子「もう勝手にしてくれ」

ゴゴゴゴゴ……

沙織「ん?」

優花里「みほ殿!! 急停止してください!! 前方に人が!!」

みほ『うんっ』グッ

沙織「きゃぁ!?」

麻子「おぉ」

優花里「大丈夫ですか!?」

みほ「轢いちゃったかな?」

沙織「こ、こらー! 危ないじゃない!! ちゃんと前を見て運転してよね!」

優花里「す、すみません。発見が遅れてしまいました」

みほ「だいじょーぶ?」

麻子「ああ、怪我はない」

みほ「あ、さっきの……」

沙織「もー。それはそうと、貴方のお母さんが探してたよ」

みほ「え!? そ、そうなの!?」

沙織「うん。こらー、はやくでてこーいって」

みほ「お、おかあさん……お、怒ってる……どうしよう……」

優花里「何故、みほ殿の母親が怒るのですか?」

麻子「誰にも言わずにここまで来たのか?」

みほ「本当はボコランドの隣で戦車道の試合を見てなくちゃいけなかったから……」

麻子「それでか」

優花里「あれはよかったですよー!! 私、戦車のことがより一層好きになりましたし、戦車道にも参加してみたいです!!」

沙織「せんしゃどうってなぁに」

麻子「たしか武芸の一つだっておばぁからきいたことがある」

優花里「良妻賢母の育成にはもってこいらしいです。パンフレットにはそう書いてありますね」

沙織「りょーさいけんぼ?」

麻子「誰もが羨む女性になれるということだ」

沙織「おっほぉ! よーし! 私もせんしゃどーやる!!」

優花里「おぉー!! みほ殿! これで三人目ですよ!!」

沙織「で、どうやればいいの?」

優花里「まずはですね、戦車に乗らなくては始まりません」

沙織「これね。のろ、のろ」

みほ「でも、私、お母さんのところに戻らないと……」

沙織「あぁ、そっか。なら、迷子センターまで一緒に乗って行ってもいい?」

>>138
みほ「本当はボコランドの隣で戦車道の試合を見てなくちゃいけなかったから……」

みほ「本当はボコランドの隣でやっている戦車道の試合を見てなくちゃいけなかったから……」

麻子「やめておけ、沙織」

沙織「なんでよー」

麻子「ええと……」

みほ「あ、私、みほっていうの。西住みほ」

麻子「みほか。みほ、お母さんのところへは戻りたくないんだろう」

みほ「え……」

麻子「違うのか」

みほ「……」

優花里「突然、何を言うのですか」

麻子「お母さんの言いつけを守らずに逃げ出したのが良い証拠だ」

みほ「だって……」

麻子「私の母親も厳しい。いつもケンカしているし、逃げ出すことも多い」

みほ「そうなの?」

麻子「好きなことだって何一つさせてくれないしな。本当は試合なんて見たくなかった。こっちのボコランドに来たかったんじゃないのか」

みほ「実はそうなんだ。けど、もう駄目みたい。早く、お姉ちゃんとお母さんのところに戻らないと」

麻子「どういう事情があるのかは分からないが、嫌ならな良いんじゃないか」

みほ「へ?」

沙織「ちょっと、麻子。それこそ大きなお世話なんじゃない?」

麻子「こうして逃げ出したくなるのは、全部親の所為だ。私たちは何も悪くない」

優花里「あなたもみほ殿と同じなんですか」

麻子「正直、一緒にいるのは好きじゃない」

優花里「そ、そこまで……」

沙織「お母さん、悲しんじゃうわよ」

麻子「いいだろ、別に。それに、私の事なんてきっと何も考えてくれていない。ただ自分の思い通りにならないから、機嫌を悪くしているだけなんだ」

沙織「そんなこと、ないとおもうけどなぁ」

麻子「みほ、今から私たちと遊ばないか」

みほ「いいの?」

麻子「構わない」

沙織「さっきまでめんどくさそうにしてたのにぃ」

麻子「気が変わったんだ。私も、戦車に乗ってみたくなった」

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