男「んぁ?ここは・・・」 犬娘「に、人間!?」 (517)

男「何だここ・・・。見渡す限りのすすき野原?」ボー

犬娘「は、はわっ、ににに人間がどうしてここに!?」

男「俺、確かに家の布団で寝てた筈なのに・・・。いつの間に外に出たんだ?」

犬娘「ど、どうしよう。こういうときはどうしたら!?」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375583017

男「えーと、確かに家の布団で寝てた筈なのに・・・」ボー

犬娘「(うぅ、怖くはなさそうだけど、人間なんてお話ししたことないよぅ・・・)」

男「しかも見渡す限りのすすき野原。空に星が散らばってるってことは、夜ってことだろうけど・・・」

犬娘「(はわわ、キョロキョロし始めた!な、何か探してるの!?)」

男「んーと、取り敢えずここを動かないと、何も分からないか」ヨッコイセ

犬娘「(た、立ち上がった!?)」

男「えーと、どこかに民家の明かりとかないかなあ?」

犬娘「(さ、さらに遠くを見渡すようにキョロキョロし始めた!?)」

男「ん?星明かりに照らされてぼんやりとだけど、獣道が見える・・・」

犬娘「(はわっ!?し、しまった、私の通った跡だ!)」アセアセ

男「この道は・・・。あの遠くに見える山の麓に伸びてるのか?」

犬娘「(きゃー!きゃー!そ、そっちは私達の村が!!)」ジタバタゴロゴロ

男「んー、他にアテもないし、この道を進むか。何とかなるでしょ。うん」

犬娘「(あっ、あっ!行っちゃう!このままだと私の村に人間が!)」オロオロ

男「うし、そうと決まれば。行きますかー」スタスタ

犬娘「(どどどどうしよう!?と、止める!?いや、怖くてとてもじゃないけど声なんて掛けられない!でも止めないと、あーでも!でもー!)」ジタバタゴロゴロ

男「~~♪」

犬娘「(あっ、行っちゃった!こ、こうなったら、先回りして皆に人間のこと伝えないと!!)」ガサガサ スタタタタ!

~男side~
男「それにしても、本当にここどこだろう?見渡す限りずっとすすき野原。空はよく見れば薄紫色。月は同じみたいだけど、何倍も大きいし・・・」

男「・・・でも。何でかなあ。不思議と違和感ないんだよなあ。夢みたいな景色なのに・・・」

男「あ、夢か。そうか。そうだよな。何でこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。夢に決まってるよコレ」

男「いきなり目が覚めたら自分の知らない世界。普通じゃないもんなー。明日大学受験だから緊張してるのかな・・・」

男「よし。夢だと分かれば悩むこともない。この幻想的で美しい景色を心行くまで楽しもう!知らない土地を進むのって、童心に帰るなー。ドンドン進もう!」

~犬娘side~
犬娘「ハッ、ハッ!・・・」ダダダダダダダ!

犬娘「な、何で!人間、の、ハッ、男の人、が!ハァッ・・・!」ダダダダダダダ!

犬娘「こんな時に!ハァッ!ここにーー!ブハァッ!」ダダダダダダダ!

カラス「おや、犬娘!どうしたんだい、そんな必死な顔で!」スィー

犬娘「あ、か、カラスさん!ハァッ、ハァッ!」ダダダダダダダ!

カラス「おやおや、ただ事じゃなさそうだね」バサバサ

犬娘「そ、そうなの!ハァッ、さっき、すすき野原で、ハァッ、お祭り用のすすきを、ハッ、採っていたんだけど、ハッ」ダダダダダダダ!

カラス「ふむふむ」

犬娘「い、いき、なり!ハァッ、そ、空から、人間、が!」ダダダダダダダ!

カラス「ほほう!?人間!それは面白い!」カカカ 
犬娘「お、面白く、ないよ!?ハァッ、だから、早く、はっ、皆に、伝えに行くん、だよっ!」ダダダダダダダ!

~犬娘の住む村『秋之村』~
ワイワイガヤガヤ

大狸「おう!犬のとこの!」

犬父「これは大狸の旦那!御無沙汰してます!」

大狸「ワッハッハ!何の何の!元気そうで何より!」バンバン

犬父「ははは、そちらこそお元気そうで」た

おお



>>8 間違えたんで、書き直し

~犬娘の住む村『秋之村』~
ワイワイガヤガヤ

大狸「おう!犬のとこの!」

犬父「これは大狸の旦那!お元気そうで!」

大狸「ワッハッハ!そっちも元気そうで何よりじゃ!」バンバン

犬父「あはは」

大狸「それより、今年もまたこの時期が来たのう!」

犬父「ええ、この村で一年に一度行われる大祭事、『紫苑祭』」

大狸「ワッハッハ!儂はこの祭りが生き甲斐といっても良いくらいこの祭りが好きでなあ!」

犬父「ええ、私もですよ。一年に一度、5日間だけの祭りですからね。この時期しか、周囲の村々との交流も行えない」

大狸「ワッハッハ!儂は来れないこともないがのお!」

犬父「ははっ、確かに全盛期のあなたでしたらそうでしょうが、今はもう歳でしょう?隠居した身で、無理はしない方が良いですよ?娘さんに叱られたくないなら、ね?」

大狸「いやはや。それは勘弁願いたいのう・・・」ポリポリ

犬父「あはは」

大狸「ワハハ!」

猫少年「おぉーい!犬父さーん!」タッタッタッ

犬父「ん?どうしたんだい?」

猫少年「い、今、犬娘が村に駆け込んできて、急いで犬父さんと村長を連れてきてくれ、って!」ハァ ハァ

犬父「どうしたんだろうか・・・」

大狸「まあ、行けば自ずと知れるであろうよ。ほれ、行かんか」

犬父「そうですね。あ、良ければ一緒に・・・」

大狸「お?そうか?では、儂も行くとしようか」ウズウズ

犬父「ははっ、そう言うと思ってましたよ」

猫少年「あの、・・・」

犬父「ああ、すまない。どうもありがとう。君は祭りの手伝いに行ってくれないか?」

猫少年「は、はいっ」タッタッタッ

犬父「さて、と・・・」

ガヤガヤ
ダイジョウブー?
ホラ オミズー

犬娘「(ゼーーハーー、ゼーーハーー・・・)」グッタリ

犬父「犬娘!」

大狸「おうおう。これはこれは・・・」

村長「ふがふが」プルプル

犬少年「あ、ほら、犬娘!犬父さんが来たよ!」ユサユサ

犬父「ああ、そのままで。犬娘、いったいどうしたんだ?すすきを採りに行っていたのだろう?何があったというんだ?」

犬娘「」プルプル スッ(指差し)

犬父「?」

カラス「あ、あっしが説明します」

犬父「カラス。君も一緒に?」

大狸「おお、ヤタの」

カラス「大狸の旦那、やめてくだせえ。もう昔の話でさあ」

犬父「カラス、それで何があった?」

カラス「ああ、すいやせん。実はですね。すすき野原に人間が出たらしいんですわ」

犬父「!」

大狸「ほう!」

村長「ふがふが」プルプル

カラス「しかも、真っ直ぐここを目指しているとか」

ニンゲンダッテー!
ホントカナ?
ニンゲンッテコワイノ?

ガヤガヤ

犬父「うーん・・・」

大狸「ワッハッハ!これは!久方振りに面白いぞ!」

村長「ふがふが」プルプル

犬父「あ、村長は自宅に戻ってください」

村長「ふが・・・」ヨロヨロ

大狸「それでカラスよ。その人間は今はどのあたりにおるか分かるか!?」

カラス「さあ、あっしはずっと犬娘に付いて来たもんで、実際に見た訳じゃあありゃあせんから・・・」

犬父「大狸さん・・・」

大狸「何を深刻そうな顔をしておる犬父!」

犬父「しかし、流石に前例がありません。人間という存在は、我々はまだしも、子供達の間ではもはや物語の中の存在になりつつあるものです。さらには、相手の人格すら分からない。この状況で下手を打てば、また・・・」

大狸「ワッハッハ!構わん!また過去の再来となるならば、この儂が一命を賭してでもその人間を捻り潰すまでよ!」

犬父「しかし、それでは済まないかもしれない!あなただけでなく、村に集まっている皆に危険があるのですよ!?」

ニンゲンッテコワインダ!
ド、ドウスルンダロウ!?
セッカクノオマツリナノニ

ザワザワ

大狸「犬父よ、落ち着け。子供らに聞こえておる・・・」

犬父「・・・!す、すみません」

大狸「あー、皆よく聞け!これから人間が来るかもしれん!が、安心せい!この儂、大狸の爺が皆を守っておる!古来より生き抜いてきた大妖怪の力、信じて任せよ!」

ヨカッター
ソレナラアンシンダネ
サ、ジュンビヲツヅケルヨ

ガヤガヤ

犬父「ありがとうございます」

大狸「ワッハッハ!気にするな!犬父よ、確かに辛い過去はある。儂とて、人間を恨んでいた時期もあったわ」

犬父「・・・」

大狸「しかし、しかしの?儂らの恨み辛みを、何も知らぬ孫子の代まで受け継がせるのは、呪いであると、儂はそう思うのよ」

犬父「仰るとおりです」

大狸「ワッハッハ!まあ、その人間が救いようのない者であれば叩き伏せるがの!」バンバン

犬父「ははっ、期待してますよ」


カラス「大狸の旦那、犬父さん。その人間、1人で、若い男らしいですぜ」

大狸「ほう。何か得物は持っておったか?」

カラス「いえ。そこまでは・・・」

犬娘「わ、私が説明します」

犬父「犬娘。大丈夫か?」

大狸「おお!ようやっと目覚めたか」

犬娘「大狸のおじいさん、お久しぶりです」ニコッ

大狸「うむ、久方振りじゃ」ナデナデ

犬娘「えへへ。カラスさん、ありがとうね」

カラス「いやいや。あっしは大したことぁしてねえよ」

犬父「犬娘、それで、その男の特徴や、分かっていることを教えてくれるかい?」

犬娘「はい、父さん。えーと、18、9の男の人で、武器や鎧は身に付けていませんでした」

犬父「うん。それで?」

犬娘「何か、面白い着物を着ていました。見たこと無いような、袷が無い物を着て、袴も履かず、足の形がそのままの布を履いていました」

大狸「ふむ。恐らくは西洋の召し物であろうよ」

犬父「ご存知で?」

大狸「おう。最後に人の里に降りたとき・・・ざっと200年前かの?その頃にはこの国に伝わっておったわ。確か洋服と言ったか」

犬娘「ほぇー・・・。あ、あと、何かを探しているような感じでした!」

犬父「何かを?」

犬娘「はい、辺りをキョロキョロ見渡して」

大狸「・・・恐らく、そこがどこであるかを把握しようとしていたのだろうて」

犬娘「なる程。あ、それで、暫くキョロキョロしてから、私たちがいつも使う獣道を見つけて、そこを辿ってここへ向かっています!あと暫くすれば着くかも!」

犬父「ふむ。相手は丸腰。そしてこの場所を何も知らない・・・。ならば何故ここへ現れた?」ブツブツ

大狸「犬父よ、ここで悩んでも仕方あるまいて。おいカラスよ、警備の者に外から人が現れたら知らせよと伝えてくれるか?」

カラス「へい!あっしに任せておくんなせえ!」バサバサ

犬父「犬娘、よく伝えてくれたね。一度家に戻って、休むといい」ポンポン

大狸「おお、そうじゃのう。よく休めよ?」

犬娘「はい。そうしますー」ペコリ トコトコトコ

大狸「それにしても、愉快なことになったのう?犬父」

犬父「あはは。この件を『愉快なこと』と言えるあなたは本当に頼もしいですよ」

大狸「ワッハッハ!存分に頼れ!このジジイも、まだ捨てたもんではないぞ?」

犬父「ええ。ところで、大狸さん」

大狸「ん?」

犬父「今回の件、どう見ますか?」

大狸「どう、とは?」

犬父「私たち妖の者がこの国の各地に散り、それぞれが強固な結界を張り、一年に一度の交流のみで過ごしてきたこの約百年。かつて一度たりとも人間の侵入を許したことはありません」

大狸「うむ。確かに」

犬父「しかし、今回は人間の侵入を許した。それも突如として宙から現れた、と」

大狸「うむ」

犬父「一体何故だと思いますか?」

大狸「犬父よ、儂とて万能ではない。この手の考え事は、むしろお主の方が得意であろうよ」

犬父「それは、そうですが・・・」

大狸「ほれ、お主の悪い癖じゃ。物事の結論を急ぎすぎる」

犬父「あ・・・」

大狸「もう少し肩の力を抜かんか。焦っていてもどうにもなるまいよ」ポンポン

犬父「・・・ははっ。そうですね」

大狸「うむ。そうして笑っておれ。そうしていれば、自ずと答えは見えてこようよ」

犬父「はいっ!さ、私たちも祭りの設営の手伝いに行きましょうか」

大狸「おお、そうしようかの!」

男「フンフンフフーン♪フフンフーン♪」

男「お?あそこに見えるのは町明かりか?ようやく人の気配の有るところに着いたなー」

男「腹も減ってきたし、何か食べるものくれるかなあ?夢の中なのに、財布の中身は現実的だ・・・」

~秋之村 すすき野原方面入り口~

唐傘お化け「やや!?前方に人影を確認しましたぞ!?」ピョーンピョーン

カラス「何!?本当ですかい!?」

塗り壁「・・・いる」ボソッ

カラス「じゃあ、あっしが大狸の旦那達に伝えてきやす!それまでここで留めておいておくんなせえ!」バサバサ

唐傘お化け「あい!お任せを!」ピョーンピョーン

塗り壁「・・・通せんぼは、得意」ボソッ

男「おお、着いた着いた。それにしても綺麗だなー。江戸時代みたいな街並みが広がっていて、薄暗い世界を、軒先に吊されているランタンのようなものの暖かい光が照らしている」

唐傘お化け「お、おい!そこの人間!」ピョーンピョーン

男「お!ようやく人がぅおう!?」ビクッ

唐傘お化け「やいやい人間!ここへ一体何しに来た?」ピョーンピョーン

男「え、え?いや、あの・・・。てか傘が喋った!?」オロオロ

塗り壁「・・・唐傘、落ち着け」ボソッ

男「うわあ今度は壁まで!」

塗り壁「・・・お前も落ち着け、人間」ボソッ

唐傘お化け「いいか!間もなく大狸の旦那達が来る!それまでお前はここにいるんだ!」ピョーンピョーン

塗り壁「・・・待っていろ」ボソッ

男「この二人?だけでもビックリなのに、狸ときたか・・・。しかも『たち』って・・・」

~秋之村中央広場・祭り会場~
カラス「お、大狸の旦那あぁぁ!」バサバサ

トンテンカン トンテンカン
大狸「お?なんじゃいヤタの」ヨッコラセ

カラス「いやだから今はただのカラス・・・じゃなくて!」

犬父「おやカラス。まさか・・・」

カラス「へ、へいっ!例の人間が・・・」ボソボソ

犬父「大狸さん」コクッ

大狸「ワッハッハ!待ちくたびれたわい!」

カラス「ささ、お二方、急いで!」バサバサ

・・・・・・・・・・・・・・・・

犬娘「・・・わ、私も!」

犬父「やはりすすき野原方面入り口ですか!」タッタッタ

カラス「へい!今は唐傘の兄さんと塗り壁の大将が足留めしてまさあ!」バサバサ

大狸「ワッハッハ!疼くのう!楽しいのう!」ドスンドスンドスン

カラス「見えましたぜ!お二方!」バサバサ

大狸「おお!」ドスンドスンドスン



唐傘お化け「あははは!本当かい!?」ゲラゲラ

男「おお、本当なんだそれが。こう、強い風が吹くとな?傘が逆さまにひっくり返るんだよ。雨を溜める器になっちまうんだ」

唐傘お化け「何だいそれ!?傘の風上にも置けないな!」アッハッハッハ

塗り壁「・・・ふっ」

カラス「・・・あれ?」

犬父「これは、一体?」ポカン

大狸「あやつら・・・」ハァー

唐傘お化け「あ、大狸の旦那に犬父さん!お疲れ様です!」ビシッ ピョーン

塗り壁「・・・」ペコリ

男「お、アンタらが狸に犬の」

カラス「こ、こら!人間!何て口のききかたを!」

男「おお、カラスもいるのか」

カラス「こ、こら!あっしに触るな!」
ギャーギャー

犬父「(唐傘くんに、塗り壁くん。これは一体?)」ボソボソ

唐傘お化け「(いやそれが、話してみるとなかなかどうして面白い奴でして・・・)」

塗り壁「(・・・人間、面白い)」ボソッ

犬父「(・・・)」チラッ

男「おお、狸の旦那。アンタ随分でかいなあ」

大狸「・・・人間」ギロッ

犬父「(大狸さん!?)」

大狸「人間。お主は、何をしにここへ?」

男「いや、まあいいじゃねえか。それよりアンタ・・・」

大狸「人間。儂の質問に答えろ・・・!」ゴッ!

男「・・・!すまない」スッ

大狸「(ほう。纏う空気が変わりよった)では、質問に答えろ。何をしにここへ?」

男「俺は、ふと気が付いたらすすき野原にいた。周りを見ても何も分からず、とにかく人を探そうと獣道を辿ってここへ来た。とにかく誰かしら人と会う。それが目的だ」

大狸「・・・嘘偽りはないな?」

男「誓って」

大狸「・・・」

男「・・・」

大狸「くっ、くはっ・・・」プルプル

犬父「え?」

大狸「ワッハッハッハッハ!良かろう人間!お主なかなか見所があるぞ!そやつらの言うとおり、面白い!」バンバン

男「ふぅー。お眼鏡に適って何より」ホッ

犬父「大狸さん・・・」

大狸「犬父よ、案ずるな。この人間は、儂らに何一つ害をもたらさんよ」

犬父「そう、ですか・・・」

男「じゃあ、改めて。男だ。大狸の旦那、それから犬父さんとやら。カラス。宜しく頼むよ」ペコリ

カラス「むう。大狸の旦那が言うのなら・・・」

犬父「ええ。宜しくお願いします」ペコリ

大狸「ワッハッハ!男よ!それにしてもいい時期に迷い込んできたのう!」

男「いい時期、とは?」

犬父「明日から5日間、年に一度の大きなお祭りがあるんですよ」

男「へえ!祭りか!」

大狸「儂ら妖の者が一番楽しみにしておる祭りじゃ。心行くまで楽しんでいけい!」

唐傘お化け「楽しいぞー!『紫苑祭』は!」ピョーンピョーン

カラス「折角ここに留まるんだ。楽しんで行けよ」

男「ああ!」

大狸「しかし、お主も初めての土地で祭りを楽しむのも一苦労だろう」

男「む、確かにな」

大狸「そこで、だ。案内を付けよう」

男「本当か!?助かる」

犬父「しかし、誰を?あなたや私は立場上、自由な時間など無いに等しい。カラスも、塗り壁くんや唐傘くんも、当日は警備の仕事が殆どです。他の妖(ひと)達に頼もうにも、皆警戒してしまいますよ」

大狸「ワッハッハ!何を言う。もう1人おるではないか。この人間を知っていて、祭りの期間中は手の空いている者が」

犬父「それは?」

大狸「おうい、聞いておるのだろう!?犬娘!」

犬娘「はうあ!」ドキーン!

犬父「犬娘!?」

大狸「ワッハッハ!やはりな!お主なら付いてきておるだろうと思ったわ!」

犬父「犬娘・・・。帰って休んでいなさいと言ったのに・・・」

犬娘「うぅ・・・。父さん、ごめんなさい。でも、どうしても気になって・・・」シューン

男「ええっと?」

大狸「お主を、すすき野原で見かけた者じゃ。この娘の報せで、警備の者に足止めするように頼んでおったのよ」

男「ああ、なる程。でも、それならあの野原で声を掛けてくれれば良かったのに」

犬娘「あう、で、でも人間なんて見たの初めてだったから、そのぅ・・・」モジモジ

カラス「犬娘は、緊張しちまってそれどころじゃなかったんだぜ?」

犬娘「はうぅぅー///」プシュー

男「そっか。なら、これからよろしくな。犬娘」ナデナデ

犬娘「ふあっ!?」ビクン!

犬父「!?」

男「あ、悪い。なんか、つい撫でたくなって・・・」

犬父「あー、君。私の娘なんだが」ゴホン

男「分かってるって。もうしないから」ヒラヒラ 

犬娘「は、はうあうはうあうあー・・・///」プシュー バタン!

犬父「い、犬娘!?」

男「えー、と?」

大狸「ワッハッハ!気にするな!お主のせいではないわい。くっくっく、楽しみじゃのう!」

犬娘「あうあう・・・///」プシュー

犬父「犬娘!全くもう・・・」ハァー

~数時間後~
男「いやー、それにしても面白いなあここは」

犬娘「・・・」ドキドキ

男「お、あっちにいるのは猫の妖怪か?」

ワッ、ニンゲンダー
イヌムスメトアルイテル
ミタメハアンマリコワクナイネー
ザワザワ

男「ははっ、さっきからあちこちで噂になってら。犬娘、平気か?俺と一緒に騒がれてるけど」

犬娘「・・・」ドキドキ

男「犬娘?」ヒョイ

犬娘「ぅわひゃあ!な、ななな何ですか!?///」ドキーン!

男「いや、何かさっきから上の空だし、具合でも悪いのかなー、って」

犬娘「い、いえいえ!そんなことありませんですよ!?」ブンブン!

男「そうか?ならいいけど・・・」スタスタ

犬娘「(うう、父さんに大狸のおじいさんのばか!あんな事言われたら意識しちゃうよ!)」

~ちょっと前~
犬母「あら!殿方と祭りへ!?」

犬娘「か、母さん!勘違いしないでね!?別に変な意味じゃなくて、ただ迷い込んできて右も左も分からない人間の案内をするだけなんだから!」

犬母「まったく・・・。そんなこと言っているから、あなたは素敵な恋人の1人や2人もモノに出来ないのよ?」

犬父「確かに、思春期(盛り)を過ぎたというのに、特に親しい男の子が居ないというのは、どうだろうか・・・」ハァー

犬娘「父さんは普通安心する立場じゃないの!?」

犬父「いや、確かに一時期は男の影が無いことに安心していた時期もあったけど、流石に二周期を過ぎても恋人の1人もいないっていうのはねえ・・・」フゥー

犬母「そうよ?私たちも早く孫の顔が見たいですもの。焦りもするわ」ハァー

大狸「ワッハッハ!ならば今回あの男が迷い込んできて良かったではないか!」

犬娘「大狸のおじいさん!?」

犬父「大狸さん、それは流石に・・・」

大狸「何を言うか!今は滅多にないが、昔は人間と交わる事などざらにあったぞ!」

犬父「それは、そうですけど・・・」

犬母「あら、いいですわね!」

犬娘「母さん!おじいさんも!やめてくださいよもう!」プンプン

大狸「何を言うておる。あの人間、『男』は、儂が見込んだ男じゃぞ?お主も嫌っておるわけではないのだろう?」

犬娘「そ、それは!そうですけど!でも、まだ相手の事もよく知らないし、第一あの方が私のことをどう思っているのかだって・・・」

犬母「あら。なら、あなたがその男君の事をよく知って、男君があなたのことをどう思っているのか分かれば文句は無いと?」

犬娘「え!?いや、ちが・・・!///」カァァー

大狸「ワッハッハ!初々しいのう!この話、別室で待たせている男に聞かせてやりたいわ!」

犬娘「いや、ちょ、ダメですよ!」

犬父「むう。やはり娘に恋人が出来るというのは、それなりに複雑な心境だな・・・。しかも相手は人間、か」

犬娘「父さんまでー!」

大狸「まあ、ともかく」

犬父「そういった?可能性?もある、ということは覚えておいて」

犬母「頑張ってきなさい!祭りの期間は5日。それだけあれば、若い男女ですもの。嫌が応にでも、関係は進んでいきますわ!」

~現在~
犬娘「(まったく、皆勝手なんだから!そりゃ、私だって素敵な恋人くらい欲しいけどさ)」

男「・・・ーい」

犬娘「(大体父さんだってあまり人間の事好きじゃないみたいなこと言ってたのに、大狸のおじいさんが認めたらすぐこの人のこと認めちゃうし!)」

男「・・・すめー?」

犬娘「(ま、まあ?確かにこの人、背も高いし、結構筋肉もあるし、あ、頭撫でてくれたし・・・///)」ウフフ

男「ぃ・・ぬ・・・め・・・ってばー?」

犬娘「(さっき撫でられた時、気持ち良かったなぁ・・・。父さんとも、母さんとも違う、温かくて、大きな手・・・)」

男「・・・!・・・!!」 

犬娘「(こ、ここ恋人がどうとかは別として!)」ブンブン!

男「!?」ビクッ

犬娘「(も、もう一度撫でてほし・・・)」チラッ

男「い・ぬ・む・す・め!!」ガッ!

犬娘「きゃあぁーー!!」

男「うおっ!」

犬娘「ななな何ですかいきなり!ひ、妖(ひと)の肩を掴んで!!」ドキドキ

男「いや、さっきから何度も声掛けてるのに全然返事しないし、上の空だったからどうしたのかな、と思ったんだよ」

犬娘「だ、大丈夫です!もう、全然大丈夫です!」アセアセ

男「そうか?顔、真っ赤だぞ?熱でもあるんじゃないか?」ピト

犬娘「!!!?」ドッキーン!!

男「んー、熱は無いか・・・?」

犬娘「(は、はわわわわわ!!お、おで、おでこ!さ、触られてるー!)」ドッキン!ドッキン!

男「うーん・・・ってあれ?何かさらに顔が赤く・・・って熱う!?」バッ!

犬娘「きゃん!」

男「あ、悪い!じゃなくて!犬娘、お前熱すごいじゃないか!」

犬娘「い、いや、これは・・・///」

男「具合悪いなら無理して案内してくれなくても良かったのに!」

犬娘「いや、あの、だから・・・///」

男「ほら、一度帰ろう。ゆっくり休んでいないとダメだ」グイッ

犬娘「ほぇ?ひゃあっ!

男「ほら、一度帰ろう!ゆっくり休んでいないとダメだ」グイッ

犬娘「ほぇ?ひゃあっ!」ズテン!

男「うおっと!?」ヨロ

犬娘「あわわ、す、すいません!(どどどどうしよう!?あまりに緊張しちゃって、こ、腰が抜けちゃった・・・///)」

男「おいおい・・・。立てないほど体調悪いのか・・・。こうなったら!」グイッ ダキッ

犬娘「はわっ!?///」

男「よし、行くぞ、しっかり掴まってろよ!」ダッ!

犬娘「(こ、こここの体勢は!?///)」カァァー

オカアサン、イヌムスメノネエチャンガオヒメサマダッコサレテルー
アラアラ、ホホエマシイワネー
ジョウチャンオアツイネエ!

ワハハ ワハハ

犬娘「(ーーーーーーーー!!!!!)///」ギュウゥゥ

男「はっ、はっ・・・。犬娘、もうすぐだからな!!」ダッダッダッダッ

犬娘「(・・・あ、すごく、必死な顔・・・)」

男「はっ、はっ・・・!」ダッダッダッダッ

犬娘「(この人は、会ったばかりの私のこと、本当に心配してくれているんだ・・・)」

男「はっ、はっ・・・。あと、少しだ・・・!犬娘、頑張れよ!」ダッダッダッダッ

犬娘「(!!)」ドキーン!

犬娘「(どうしよう・・・。この人は人間なのに・・・)」

男「よし!はっ、はっ・・・。家が見えてきた!」ダッダッダッダッ

犬娘「(絶対に有り得ない、って思ってたのに・・・)」トクン トクン



犬娘「(本当に好きに・・・、なっちゃった)///」ボッ

男「うわあ!犬娘の熱がさらに高く!?」

ー犬娘の家ー
犬母「まったくあの子ったら・・・」ハァ 

男「あ、犬母さん!犬娘は大丈夫なのか?」

犬母「あら男君。待っていてくれたのね。ええ、あの子は平気よ。何の問題もないわ」

男「そうか・・・」ホッ

犬父「それにしてもすまなかったね、男君。あの子も重かっただろうに、ここまで運んでくれて」

大狸「ワッハッハ!やはり、儂の見込んだ通りじゃのう!」ヒック

男「いや、そんな大層なことはしてないよ」

犬父「いやいや、出会って間もない妖(ひと)の為にあそこまで頑張れるというのは美徳だよ。君はとてもいい青年だ」クイッ コクコク

犬母「あなた、あまり飲み過ぎませんように」

犬父「あはは、分かっているよ。まだお猪口に2杯だ。まあ、そろそろ止めるがね」

大狸「何じゃ。もう終いかの?ならば男、お主はどうじゃ?」ドン!

男「いや、俺は未成年・・・だが、どうせ夢だ。頂こう」

大狸「ワッハッハ!話が分かるのう!」トクトク

犬父「ところで、『夢』とは?」

男「ん?いや、今のこの状況だよ。大学受験を明日に控えた俺の脳がせめてもの慰めに見せる夢だろうな、って」クイッ 

犬母「それは・・・」

男「まー、こんな不思議な体験、現実には有り得ないだろうしな!夢の中で、夢であることを把握するのって何て言うんだっけか?白昼夢?は、違うよなー」

犬父「あー、男君?」

大狸「・・・!」プルプル

男「ん?どうしたんだ?皆揃って妙な顔して」キョトン

犬父「ここは、紛れもなく現実だよ?」

男「はい?」

犬母「確かに、あなたの世界では起こり得ないことでしょうし、夢だと思い込みたくなる気持ちも分からなくもないけど・・・」

犬父「ここはちゃんと『現実』の世界だよ?」

男「・・・え?」

大狸「ワァーッハッハッハ!!こ、これは面白いぞ男!!」バンバン!

男「え!?ちょ。本当か!?」

犬父「ああ。本当だよ。何なら君の頬でも抓ってみようか?」

男「そ、そんな・・・」ガックリ

犬母「あらあら。ここが夢なら良かった?」

男「いや、そんなことはない。そんなことはないけど・・・」

大狸「因みに、こことお主の住んでおったせかいの時間の流れは同じじゃ。ここの夜が明けるとき、お主の世界の夜も明ける」ゴクゴク

男「そ、そんな・・・!受験が!」

犬父「その、まあ、何というか・・・」

犬母「げ、元気を出して?」ポンポン

男「うう、必死に勉強してきたのに・・・」

大狸「ワッハッハ!諦めよ!これからはここで暮らすのじゃ!どの道諦めるしかないわい!」

男「おおっとお?予測はしてましたけど本当に帰れない設定まで?」

犬父「実を言えば、君はかなり特殊な例でね。ここ百年近くの年月において、ただの一度も前例が無いんだ」

男「そ、そんな・・・。対処のしようもないと?」

犬父「ああ、勿論、調査はするよ。今後また同じ事が起こらないとも限らないからね」

男「そうか・・・。じゃあ、任せてもいいか?」

犬父「ああ、任せてくれ」

大狸「男よ、安心せい。この犬父は、この村でも指折りの頭の良さを誇っておる」

男「ああ、信じる」

犬母「男君。あなたは、ここで暮らしなさいな」

男「えっ?」

犬父「ああ、そうするといい。というより、そうするほか無いだろう?」

男「いや、だけど・・・」

大狸「ワッハッハ!そうさせてもらえ!何も気にすることはあるまいよ!」

犬母「もちろん、相応に働いて貰いますけどね?」ウフフ

犬父「それに勿論、君さえ良ければ、だけどね」

男「・・・いや。願ってもない。帰れない以上、俺にはここで暮らす以外の選択肢は無いんだ。よろしく頼みます」ペコリ

大狸「ワッハッハ!年に一度の祭りの日に現れた人間!帰れずに妖怪の村で暮らす!実に面白いのお!」

男「まあ、滅多に出来ない体験ではあろうな」

犬父「そうと決まれば、男君。早速、明日の祭りの開催式で、君のことを村の皆や、ここに集まった他の村の者達に伝えたいんだが、いいかい?」

男「ああ。是非もない。これから暮らす以上、皆に知っておいてもらった方が、後々無用な騒ぎが起きなくて済むしな」

犬母「あらあら。結構豪気なのね」クスクス

大狸「頼もしいのう!ワッハッハ!」

大狸「さて、話も纏まったところで、儂は一度戻るとするかのう」ヨッコラセ

犬父「今回はすみませんでした。助かりましたよ」

大狸「なんのなんの。儂は楽しませて貰っただけよ!」

犬母「大狸さん、帰路、お気を付けて」  

大狸「おお。ではな!また明日来るわ!」


犬父「さて、男君。君も今日は疲れたろう。風呂が沸いている。湯に浸かってゆっくりしてくるといい」

男「そうか。有り難い」

犬母「もう。男君?ここはもうあなたの家も同然なんですからね?変な遠慮はしないように」

男「ははっ。分かったよ。じゃあ、行ってくる」

犬父「ああ、行ってらっしゃい」

犬母「着替えは脱衣場に置いてある浴衣を着てくださいねー」ヒラヒラ

ー犬娘の家・浴場ー
カポーン
男「おお、露天か!」

男「それにしても、妙なことになったなあ・・・」ゴシゴシ

男「未だに夢を見ているような感覚が残ってる」ザバー

男「まあ、悩んでいても仕方がないしなあ。明日からの生活、どうなっていくことやら・・・」ザブン

男「ふぅーー。いい湯だぁ・・・」




犬娘「(・・・・・・)」

犬娘「(お、男さんがどうしてここに!?)」

ー数分前・犬娘の部屋ー
犬娘「うぅ、ん・・・」パチッ

犬娘「あれ?私・・・」ムクリ キョロキョロ

犬娘「確か、男さんとお祭りの会場を回っていて・・・」

犬娘「急におでこ触られて、驚いて、お姫様抱っこで・・・。!!」ボッ

犬娘「ッーーーーーーー!!!」ジタバタ ゴロゴロ

犬娘「ぶはあっ!はあ、はあ・・・。うぅ、変な汗かいちゃった・・・」



大狸『ワァーッハッハッハ!こ、これは面白いぞ男!!』バンバン!



犬娘「まだ皆お話ししてる・・・。それに、お酒飲んでるのかな?」クンクン

犬娘「なら、汗もかいたし、お風呂行ってこよう・・・」コソコソ

犬娘「うう、抱っこされてたとき、汗臭くなかったかなあ・・・?」クンクン

カポーン
犬娘「ふう・・・」

犬娘「それにしても男さん、これからどうするんだろう?人間の村から来たってことは、この村に知り合いなんていないだろうし・・・」ウーン

犬娘「お、男さん、ウチに住んでくれないかなあ///」エヘヘ

犬娘「そしたら、きっとまた撫でてくれるよね?///」ポー


ほわわーーん
男『犬娘、可愛いね・・・』

犬娘『か、可愛いだなんてそんな!男さんたらお上手なんですから!///』アセアセ

男『本当に可愛いよ・・・。おいで、撫でてあげよう・・・』ギュウッ ナデリナデリ

犬娘『ふわっ!お、男さん・・・///』デレー



犬娘「きゃー!きゃー!お、男さんたらダイタンですぅー!///」バッシャバッシャ

犬娘「はあ、はあ、はあ・・・。私ったらな、何てはしたない妄想を・・・」チャプン

犬娘「うぅーー。でも、実際問題、男さんどうするのかな?」ウーン ブクブク


『おお、露天か!』


犬娘「!!」ドキーン!

犬娘「(お、男さんがどうしてここに!?)」

男『ふうー。それにしても・・・』

犬娘「(?)」

男『犬娘は大丈夫かな?』

犬娘「(へっ?)」

男『急に熱出して倒れるなんて・・・。悪い病気とかじゃないといいなあ』

犬娘「(お、男さん・・・!そこまで私の事を!?)」キューン!

犬娘「(うう、今すぐ男さんの側に行きたい!それで、また撫でてもらいたい!)」

男『さて、そろそろ上がるかな。あまり長湯してもなんだし』ザパッ

犬娘「(でもでも、お風呂で殿方の側に寄るなんてはしたないし!)」ウーンウーン ブクブク

カラカラカラ パタン

犬娘「(え、えーい、こうなったら、一か八かで男さんの胸の中に!)お、男さん!!」ザバッ!

しーーん

犬娘「・・・」

犬娘「ぐすっ」

ー犬娘の家・茶の間ー
犬母「さあ、今日は腕によりをかけて作りましたからね!たんと食べなさいな!」

ズラァーー!!

男「おお!これはすごいな!」

犬父「妻の料理は村一番と言われるほどでね。是非味わってくれたまえ」

男「そういや、すすき野原で目が覚めてから、何も食べてないんだった。それじゃあ、頂きます!」

男「ふまい!ほれ、めひゃくひゃふまいぞ!?(訳:うまい!これ、めちゃくちゃうまいぞ!?)」ガツガツ モグモグ

犬母「あらあら。そんなに急いで食べなくても、まだまだあるわよ?」ウフフ

犬娘「あ、あの、男さん!」

男「ん?何だ?犬娘」ゴクン

犬娘「あ、あの、その・・・」モジモジ

男「?」

犬娘「こ、ここここれ!食べてくらしゃい!」バッ!

犬娘「(か、噛んじゃったーー!)///」プシュー

男「おお、肉じゃがか!好物だよ、頂きます」ヒョイパク モグモグ

犬娘「!!」

男「ふむふむ」モグモグ

犬娘「(ど、どうかな・・・!?)」ドキドキ

男「ん!美味い!すごく美味いぞ!!」

犬娘「ほ、ホントですか!?」パアァァ

犬母「ふふ、良かったわねー。一生懸命作った甲斐があって」

犬娘「も、もう!母さんってば!///」

男「これ、犬娘が作ったのか?料理、得意なんだな」モグモグ

犬娘「い、いえ、そんな・・・///」テレテレ

男「うん、これならいつでも嫁に行けるな!」

犬娘「お、お嫁さ・・・!?///」ボッ

犬父「おお、良かったな、犬娘。お墨付きだ」

犬母「うふふ、孫の顔が見られる日も近いかしら?」

犬娘「わー!わー!と、父さんも母さんも早く食べなよ!!///」

男「???」パクパク

男「ごちそうさまぁっ!」パン!

犬母「あらあら。お粗末様でした。いい食べっぷりだったわー」ウフフ

犬父「ああ、見ていて気持ちが良かったよ」ズズー

男「犬母さん、めちゃくちゃ美味しかったよ!」

犬母「あらそう?うふふ、ならこれから毎日張り切っちゃおうかしら?」

男「いやー、ほんとに。毎日でも食べたいくらいだ」ポン、ポン

犬娘「ぅーー・・・」プルプル

犬母「(あらあら。)男君、参考までに聞くと、今日の献立の中で、どれが一番好みだったかしら?」

犬娘「!」ピーーン!

男「え?んーー・・・」

犬娘「(お、男さん・・・!?)」ドキドキ

男「・・・犬娘の肉じゃがかなあ。犬娘、お前の肉じゃが、一番好みだったぞ!」

犬娘「!!ほ、ホントですか!?」パタパタ

男「ああ。何て言うのかな・・・。こう、俺の求める、一番家庭的な味だった。将来は、こんな肉じゃがを作れる女の子と家庭を持てたらなあ、って思ったほどだ」

犬娘「っーーー!!///」パタパタパタパタ!!

犬母「うふふ、犬娘ったら。こんなに尻尾を振っちゃって」クスクス

犬娘「か、母さん!うるさいよ!///」

犬母「はいはい。それじゃあ、私は食器を片してきますね」スッ

男「あ、そのくらいは俺が・・・」

犬母「いいのよ。男子厨房に入るべからず。洗い物まで、女の仕事ですよ?」フフッ スタスタ

男「行っちゃった・・・」

犬父「はは。気配りも出来て、男君は本当にいい青年だなあ」ズズー

犬娘「ほら、父さん!いつまでもお茶飲んでないで、お風呂にでも行ってきたら?」

犬父「おお、そうだね。では、行ってくるとしよう。男君、君の部屋は後で案内しよう。それまで、ここで犬娘と待っていてくれるかい?」

男「ああ、構わないよ」

犬父「では、暫し失礼・・・」スタスタ スー パタン

男「ふうー」

犬娘「あ、お、男さん。よ、良かったらお茶、飲みますか?」

男「ああ。頂くよ」ニコッ
犬娘「(はうぅーーー!)わ、分かりました!すぐに淹れてきますね!///」パタパタ

男「・・・犬娘、また熱がぶり返したのかなあ・・・」

ー犬娘の家・台所ー
犬娘「母さん、お茶っ葉どこ?」ガサゴソ

犬母「あら、男君にお茶?」カチャカチャ ゴシゴシ

犬娘「うん、淹れてあげようと思って」エヘヘ

犬母「あらそう。結構順調に進んでいるのかしら?お二人は?」ウフフ

犬娘「か、母さん!そういう話はいいってば!////」

犬母「はいはい。ま、どうせこれからは一緒ですものね。焦らなくても良いでしょうし」カチャカチャ ゴシゴシ

犬娘「そうそう。これから一緒・・・え?」キョトン

犬母「あら、言ってなかったかしら?男君、これからここで暮らすのよ?」

犬娘「・・・え?」

犬母「あらあら。あなた、男君がこれからどうするか考えてなかったの?」

犬娘「いや、せいぜい一晩泊まっていくくらいかなーって思ってたのに!え!?暮らすの!?」

犬母「そうよ?父さんと私と出話して、決めたわ」

ー犬娘の家・茶の間ー
男「犬娘、遅いなあ・・・」

スッ パタン

犬娘「お、おおお男さん。お、おま、お待たせいたしました・・・」カタカタカタカタ

男「い、犬娘?」

犬娘「は、はい?なな何でしょう?あ、お茶です///」カタカタ スッ

男「あ、ああ。ありがとう」ズズ

犬娘「・・・///」プルプル

男「??」



ー犬娘sideー
犬娘「(う、うわあー。お、男さん、これから毎日一緒なんだー・・・!)///」プルプル

男「??」ズズー

犬娘「(ど、どうしよう!?か、顔が勝手に緩んじゃう!)///」プルプル ピクン!ピクン!

犬娘「(うう、気を抜くと尻尾もぶんぶん振っちゃいそうだし・・・///)」ギュゥゥゥ

男「ぷはあー。お茶も美味いなー」ホッコリ

犬娘「(か、かかか可愛いーー!)///」ドキーン!

男「ふう・・・」コト

犬娘「(あ、お湯のみを持つ手・・・)」

犬娘「(やっぱり大きいなぁ・・・)」ホウ

犬娘「(・・・うう、撫でて欲しいーーー!!///)」プルプル

男「(さっきから、犬娘が挙動不審だ・・・)」

犬娘「・・・///」イヤンイヤン

犬娘「・・・!」プルプル

犬娘「・・・///」ホウ

犬娘「・・・!///」ガクガクガク

男「・・・」

男「(正直少し怖いな)」ズズー

男「あ、そうだ。犬娘」

犬娘「ひ、ひゃい!?///」アセッ

男「もう聞いたかな?俺、今日からこの家で世話になるんだ」

犬娘「は、はい。さっき母さんから聞きました」

男「そっか。なら、そういうことだから。男の俺がいるなんて落ち着かないかもだけど、これからよろしくな」ポン ナデナデ

犬娘「!!ふぁ・・・!!///」プルプル

男「ん?あ、悪い。またやっちゃったな」パッ

犬娘「あ!!」

男「うおっ。な、何だ?」

犬娘「(お、思わず叫んじゃった!ど、どうしよう!?ま、まだ撫でて欲しいなんて、わがままかな?で、でも、折角の機会だし・・・!)」

男「犬娘?」

犬娘「(うう、も、もうわがままと思われてでも!!)あ、あの!も、もっと撫でてくれませんか!?」グイ

男「え?ああ、全然いいぞ」

犬娘「ほ、ホントですか!?」グイグイ

男「ああ、撫でる、撫でるよ。でもその前に・・・」

犬娘「な、何でしょう!?」キラキラ ワクワク

男「あー、ちょっと離れてくれるか?流石に近すぎる」

犬娘「へ?あ・・・///」カアァ

犬娘「す、すいません、私ったら///」チンマリ

男「あはは、いいよ。ほら、よしよーし」ナデリナデリ

犬娘「ふわあぁぁーーー・・・///」ウットリ パタパタパタパタ!!

男「あはは、そんなに気持ちいいかー?顔、緩みっぱなしだぞー?」ナデナデ

犬娘「ふ、ふぁいーー・・・///お、男しゃん、とても上手でしゅーー・・・///」デレー ブンブン!!

男「尻尾もぶんぶん振ってる。可愛いなー犬娘は」ヨシヨシ

犬娘「か、かわっ・・・!?///」キュゥン!!

男「うん、まるで妹が出来たみたいだ」ナデナデ

犬娘「あう・・・。妹、ですか・・・」シューン フリ…フリ…

男「?犬娘?俺、何か不味いこと言ったかな?それとも、あまり気持ち良くなかったか?」

犬娘「あ、いえ、そんなことは!!」ブンブン

男「そうか?なんか、ちょっと元気無くなったから」

犬娘「いえ、これから私が成長して母さんみたいになればいいだけです!任せてください!」フンス

男「??ああ、頑張れよ」ナデナデ

犬娘「ふぇへへー///」デレー

男「(うん、やっぱり妹が出来た気分だ)」

ー数分後ー
犬父「いやー、すまない。すっかり遅くなってしまった」ホッコリ

男「いやいや。そんなことはないさ」

犬娘「父さん、お帰り」テカテカツヤツヤ

犬父「ああ、ただいま(犬娘の血色が異常にいい?)」

犬母「あら、戻ったのね」スッ パタン

犬娘「母さん?随分かかったね?確かにお皿は多かったけど、母さんならもう少し早く・・・はっ!?」

犬母「(うふふ、早く私みたいになれるといいわねー?)」

犬娘「(の、覗いてたの!?)///」

犬母「(あらあら、あなたの気持ちよさそーーうな声が勝手に聞こえてきただけよ?)」ウフフ

犬娘「ーーー!!///」ポカポカ

犬母「あらあら、この子ったら」

男・犬父「???」

犬父「さて、男君。夜も更けてきたし、そろそろ君の部屋へ案内しよう」

男「お、そうか。っていっても、空はここへ来たときから変わらないんだな。ずっと紫色で、大きな満月が浮かんでいる」

犬父「ああ、言っていなかったか。ここの空は、祭りが終わるまでずっとこうだよ。昼も、夜もね」

男「へえ!」

犬母「一年に一度訪れる、空が紫色の夜に変わる一週間。その間の5日間に行われるのが、『紫苑祭』よ」

男「そうなのか・・・。なぜ、こんな事が?」

犬娘「それが、詳しい理由は分からないんです」

男「分からない?」

犬父「ああ、この村を覆う結界に何らかの力が働いてこうなるのか、自然的な力でこうなるのか、誰かが意図的に行っていることなのか、仮説こそあれ、事実は判明していないんだ」

男「へえ。不思議なこともあるもんだな」

犬父「君も十分『不思議なこと』、なんだけどね」

男「おおっと、そうだったな」

犬父「あはは。では、行こうか男君」

男「ああ。犬母さん、犬娘、おやすみなさい」

犬母「はい、おやすみなさい」

犬娘「あ、私の部屋もそっちなんで、途中までご一緒しますね!」フリフリ

男「ああ、行こうか」

ー犬娘の家・客間ー
犬父「男君、君はこれからはこの部屋を使ってくれ」スッ

男「おお、1人部屋にしては広いな。いいのか?」

犬父「構わないよ。それに、犬娘がここにしろとうるさ・・・」

犬娘「わー!わー!ほ、ほら父さん!もういいでしょ!?お休み!」グイグイ

犬父「おおっと、はいはい・・・。では男君、また明日ね」スタスタ

男「ああ。お休み」

犬娘「で、では、男さん!明日の朝、私が起こしに来るので!」ビシッ

男「おお、助かるよ」

犬娘「はい!おやすみなさい!」スッ パタン

男「・・・犬娘は隣か」

タメ口が若干鼻につくな

せやな

態度のでかさもな
若干というか結構

俺もエラソーな奴と思う

>>66>>67>>68>>70

ご指摘ありがとうございます。一番最初の構想で、主人公はルフィのような性格を考えて書き始めたので、ちょっと嫌なキャラかなーと思いつつも、始めてしまったものは仕方がないと、進めてきました。

これからの皆さんのご意見次第で、続投か、口調のテコ入れをしていこうか決めようと思います。

どうでしょうか?

それから、この場を借りてもう一つ。

いつも感想を書き込んでいただいている皆様。初めてのSSスレで緊張している私にとって、とても大きな励みとなっております。本当に有り難う御座います。

今後とも鋭意努力し、皆様に楽しんでいけるようなお話を書いていけたらと思っております。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします

書きやすい方でいいと思います!
犬娘が可愛ければ…(笑)

口調は気になるけど好きに書いたらいい
ただそういう意見が出るのも自然なことだと思う
他は面白いよ

普通の妖怪?(途中に出た唐笠お化け)とかはタメ口でいいと思うけど、犬父とか大狸とか目上っぽいやつには敬語がいいと思う

物語上その性格が必要なら変えなくてもいいと思うし
>>1自身がよっぽど気に入らない限り、途中でコロコロ変えるも変だから
次の作品への参考程度にしとけばいいんじゃないの

で、どうやったら飛べるんですかね

>>73 >>74 >>75 >>76
ご意見有り難う御座います。

今回は、皆様のご意見を吟味した上で、口調を少々変化させようと思います。

口調の変化に伴い、多少の違和感が生じるかもしれませんが、それでも構わないという方は、引き続き当作品をお楽しみください。

違和感に伴い、閲覧を終える方は、また次回作等でお会い出来ることを願っております。ここまで、有り難う御座いました。

それでは、引き続き『男「んあ?ここは・・・」 犬娘「に、人間!?」』をお楽しみくださいませ。

>>77

当作品のページを開いたまま、端末を枕の下に置いて眠るのが良策かと

ー犬娘の家・犬娘の部屋ー
犬娘「(きゃー!きゃー!お、男さんの隣の部屋だー!)」ゴロゴロゴロゴロ!!

犬娘「あ、明日は男さんと一緒に、始まるお祭りを楽しむんだ!」フトン ギュゥゥゥ!!


ー数分後ー
犬娘「ふう・・・。それにしても、今日の夕方出会った人を、一日も経たないうちに好きになっちゃうなんて・・・」ホウ

犬娘「しかも、相手は人間・・・」

犬娘「そういえば、昔は、人間と交わることもあったらしいけど、どうして今は無いんだろう?・・・ふわあーー・・・あふ」シパシパ

犬娘「そもそも、どうして私たち妖は、人と違う世界で生きているんだろう・・・?」ウトウト

犬娘「男さん、私たち妖のこと、どう思ってるのかな・・・」コクッ コクッ

犬娘「・・・好きに、なってくれると・・・いい、な・・・」ポスン

犬娘「Zzz」スー スー

ー犬娘の家・男の部屋ー
男「それにしても、本当に何でこんな所に来たんだろう、俺・・・」

男「家で大人しく昼寝してただけなのに。いきなり異世界召喚なんて・・・」

男「大狸さんも、犬父さんや犬母さん、犬娘も、皆良くしてくれるから助かったけど・・・」

男「くぁ・・・ーーふぅ。妖怪だらけのこの村で、俺、やっていけるかな・・・。いや、やっていくしか、ないのか・・・」

男「ま、何とかなるか・・・。また明日になったら考えよう・・・」

男「Zzz」グー グー

・・・・・・
・・・・
・・

ー翌朝 犬娘の家・男の部屋の前ー
犬娘「・・・ふ、普段より半刻も早く目が覚めちゃいました・・・!」

犬娘「ちょっと早いですけど、男さんを起こさなければ!」グッ!

犬娘「そ、そしたら、おはようの撫でなでをしてもらえるかも・・・」エヘヘ

犬娘「そ、それに、朝起こしてあげるのって、まるでふ、夫婦、みたいだし・・・///」ポッ

犬娘「よーし、そうと決まれば・・・!お、男さーん?朝ですよー?」コンコン

しーーん

犬娘「男さーん?起きてますかー?」コンコン

しーーん

犬娘「お、男さん、全然起きる気配がありません・・・。こ、こうなったら、お部屋に入って、直接起こしましょう!」

犬娘「こ、これは不可抗力です!け、決して男さんの寝顔がみたいとか、あわよくば隣で横になりたいなんて思っていませんし!そ、そう、男さんを起こすために仕方なくですから・・・!」

しーーん

犬娘「わ、私ったら、誰に言い訳してるんでしょうか・・・///」

犬娘「と、とにかく!いざ、お部屋へ・・・!」スー

犬娘「(お、男さーーん・・・?)」ソロソロ

男「・・・」Zzz Zzz

犬娘「(お、男さんの!ね、寝顔ーー!)///」キュン!

男「んん・・・。・・・」Zzz Zzz

犬娘「(いえいえ、いつまでも眺めてはいらません!起こさなければ!)」ブルブル

犬娘「お、男さーーん」ユサユサ

男「んんあ・・・。んんー・・・」ゴロン

犬娘「(お、男さん、大の字になって・・・。はっ!こ、これは、うう腕枕というやつでは!?)」

男「・・・」Zzz Zzz

犬娘「(お、男さんったら大胆です!い、いきなり腕枕だなんて・・・!)///」イヤンイヤン

男「・・・」Zzz Zz

犬娘「(で、でも、折角ですしね!お、起きない男さんが悪いんです!も、もしかしたら腕の重みで起きるかもしれませんし!)」フンス

男「・・・」

犬娘「(で、では、いざ・・・!)」ジリジリ

男「あー、おはよう、犬娘」パチッ

犬娘「きゃあ!」ビックウ!!

男「ああ、ごめん、驚かせたかな?」

犬娘「お、おおお男さん!?起きてらしたんですか!?///」カアァ

男「うん。何か、すごい圧力で」

犬娘「はうぅーー///」シューン

犬娘「(わ、私、勢いあまってなんてことを・・・!)///」

男「くぁーーー・・・。ふうー。おはよ、犬娘。起こしに来てくれて、有り難うな」ポン ナデナデ

犬娘「あっ。い、いえいえ、これくらいー///」テレテレ

男「ん。じゃあ、布団をたたむから、ちょっとどいていてな」ポンポン

犬娘「はっ、はい。あ、それとこれ、お着物です。父さんのですけど。男さん、お着物は今着ている寝巻きの浴衣と、昨日着ていた、ようふく?しかないでしょう?」スッ

男「ああ、そういえばそうだね。いつもこの浴衣っていうわけにもいかないだろうし。洋服は目立つだろうし。うん。有り難くお借りするね」タタミタタミ

犬娘「はい。男さん、きっと似合いますよ」ニコッ

男「うん、じゃあ早速着替えようかな」

犬娘「はい!」

男「・・・」

犬娘「・・・」

男「犬娘?」

犬娘「はい?」キョトン

男「あー、俺、着替えたいんだけど?」

犬娘「へ?あ、そ、そうですよね!わ、私ったら!///」エヘヘ

犬娘「じ、じゃあ襖の外で待っているので、お着替えが終わったら、声を掛けてください!///」スッ パタン

男「・・・犬娘って、天然?」

ー犬娘の家・男の部屋の外ー
犬娘「あうぅーー。私ったら、またはしたないことを・・・」ショボーン

犬娘「お、男さん、私のことをはしたない女の子だ、って思ってたらどうしよう?」ウー

犬娘「・・・ううん。まだこれからだもん!まだまだ巻き返せるはず!頑張れ私!」フンス

犬娘「・・・で、でも、ち、ちょっとだけ男さんのお着替えを覗いても・・・。ほ、ほら、お着物の着方、分からないかもだし・・・!」コクコク

犬娘「こ、これは決してはしたないことではなく、男さんが困っていないか確認するという、親切なことで、やましいところは何も・・・!」ソー

男「犬娘、終わったよ」スッ

犬娘「わひゃあっ!?」ビックウ!!

男「・・・犬娘?」キョトン

犬娘「いえいえ!な、何でもないですよ!?あ、お、お着物の着方、分かりました?」アセアセ

男「う、うん。着物っていっても、甚平みたいなもので、簡単だったよ」

犬娘「そ、そうですか!あ、母さんが朝ご飯を用意しているんです!さ、さあ、早く食べに行きましょう!」ピュー!

男「あっ、犬娘?」

ドタドタドタドタ!!

男「どうしたんだ?ホントに」

ー犬娘の家・茶の間ー
男「犬母さん、おはようございます」

犬母「あら、男君。おはよう。今ご飯よそうから、座って待っててね」スタスタ

男「はい、ありがとうございます」

犬娘「男さん、男さん!今朝のお味噌汁は、私が作ったんですよ!」フンス

男「へえ!それは楽しみだ。朝から家の手伝いなんて、えらいなー犬娘」ナデナデ

犬娘「ふぁ・・・。えへへー///」デレデレ フリフリ

男「(犬娘は撫でられるのが好きみたいだ。本当に犬みたいで愛らしいなー)」ナデナデ

犬母「あらあら。朝から仲睦まじいわねー」ウフフ

犬娘「か、母さんったら!か、からかわないでよもう・・・///」

男「いやあ、犬娘があまりに可愛らしいんで、つい撫でたくなっちゃうんですよ」ナデナデ

犬娘「か、かわっ!?///」プシュー

犬母「あらあら。良かったわねー、犬娘?」ウフフ

犬娘「あうあう・・・///」プシュー

男「あ、ところで、犬父さんは?」

犬母「ああ、あの人なら、今頃会場で最後の設営に行っているわ」ペタペタ

男「え?声をかけてくれれば、俺も手伝ったのに・・・」

犬母「うふふ。あなたは今日の主人公ですもの。登場は祭りが始まってから、よ?はい、ご飯」コト

男「あ、すみません、頂きます。んー、主人公と言われても、俺、ただの人間ですよ?」

犬母「あら。ただの人間だからこそ、とても珍しいのよ?はい、犬娘」ペタペタ コト

犬娘「ありがとう。・・・そうですよ、男さん。もう人間を見たことがある妖(ひと)なんて、大狸のおじいさんくらいなんですから」

男「へぇー」

犬母「まあまあ。込み入った話は後にして。まずは朝ご飯よ。頂きます」

男「頂きます!」

犬娘「頂きまーーす」

カチャカチャ 
男「お、犬娘、この味噌汁、美味いぞー」モグモグ ズー

犬娘「本当ですか!?良かったです!」ニコニコ ブンブン

男「犬母さんの焼いてくれた鮭も、塩加減が丁度良くて、美味しいです」ムシャムシャ

犬母「あら。嬉しいわー。まだお代わりありますからね?」ウフフ

男「はい!頂きます!」ガツガツ



ー数十分後ー
男「ぷはあー!ごちそうさまでした!」

犬母「はい、お粗末様でした。本当にいい食べっぷりねー」

犬娘「男さん、そんなに美味しかったですか?」

男「ああ。本当に美味しかったよ」ポン

犬母「さて、食事も終わったことだし。犬娘、男君。顔を洗っていらっしゃい。そしたら、男君は先にお祭りの会場に行っていなさいな。場所は分かるわね?」

男「ええ、分かります」

犬娘「母さん、私は?」

犬娘「あなたは、少し待っていなさい」

犬娘「えー・・・」ブー

犬母「少し用があるのよ。ほら、いいから顔を洗ってきなさい」パンパン

男「はい。行こうか、犬娘」スタスタ

犬娘「はーい」トテトテ





犬母「・・・うふふ」キュピーン

ー犬娘の家・洗面所ー
男「・・・」シャカシャカシャカシャカ

犬娘「・・・」シャコシャコシャコシャコ

男「・・・」ガラガラー ペッ

犬娘「・・・」ブクブクブク ペッ

男「・・・」バシャバシャ!

犬娘「・・・」パチャパチャ

ぴかーーん!

男「よし、終わり!」キラーン

犬娘「はい!」キラーン

男「それじゃあ、俺はこのまま祭りの会場へ行って、犬父さんを手伝ってくるよ」

犬娘「はい。私もご一緒したかったのですが・・・」ショボーン

男「あはは。用事が済んだら、後で合流しようよ。今度は、祭りの中を案内してくれる?」ナデナデ

犬娘「あふう・・・/// はい!必ず!」グッ!

男「うん。ありがとう。それじゃあ、また後でね」スタスタ

犬娘「行ってらっしゃいませ!」ブンブン

犬娘「・・・」アタマサスリ

犬娘「・・・えへへ///」

犬娘「よし、母さんのところへ行こう!」トテトテ

犬娘「母さーん?どこー?」

犬母「ああ、犬娘。こっちよ」クイクイ

犬母「物置部屋?」

ー秋之村・中央広場 紫苑祭開会式会場ー

犬父「・・・では、そういうことで。よろしくお願いします」

男「おーい!犬父さーん!」タッタッタ

犬父「ん?ああ、男君。おはよう、よく眠れたかな?」

男「おはようございます。ええ、おかげさまでぐっすりと」

犬父「そうか。それは良かった」

男「それで、俺も何か手伝おうと思って・・・」

犬父「そうなのかい?気持ちはありがたいが、今丁度最後の打ち合わせが終わったところでね。特にすることはないんだよ」

男「そうですか・・・」

犬父「そんなに気落ちしないでくれ。あと半刻もすれば、祭りが始まる。君には、その時に目一杯働いてもらうよ」

男「はい!」

犬父「まあ、働くと言っても、中央の舞台上で祭りに来ている皆に、顔見せするだけだけどね」

男「そういえば、人間がここに来るのは、初めてだ、みたいなこと聞きましたけど」

犬父「ああ、君たち人間の世界から離れ、結界を作り、その中で暮らし始めてから約百年。今までに事例のない出来事だよ」

男「そう、なんですか・・・」

犬父「まあ、安心してくれ。君の帰る方法は、皆で探している。気長に待っていてくれないか?」

男「ええ。ありがとうございます」

犬父「じゃあ、あと半刻ほど、皆の前で話すことでも考えてくれ」

男「あ、はい!」

ー半刻後 秋之村・中央広場ー
ワイワイ ガヤガヤ

大狸「あー、皆の者!静粛に!!」

ザワ ザワ 
……

大狸「うむ。あー、空が動きを止め、月の光を存分に浴びることの出来る5日間!儂ら妖が一番活動的になる期間じゃ!皆の者!飲め!食え!歌え!踊れ!折角の祭じゃ!楽しまねば損ぞ!さらに!今年は特別な客人もおる!」

トクベツナキャクジン?
ダレダロウ?
モシカシテセイヨウノ…
ソンナバカナ

大狸「では、特別な客人こと、人間の、男じゃ!!」バッ!

男「・・・ど、どうも!」

ニンゲン!?
ソウイエバキノウ、イヌムスメガニンゲンヲミタトカ
ウワ、ホンモノノニンゲンダ!!

大狸「ほれほれ!静まらんか!男が話せんわい!」

しーーーーーーーん!!

男「(大狸さん、余計なことを・・・!!)あー、えと、ご紹介賜りました、男です。人間ですけど、怖くないですよ?まだこの村や妖に慣れていないので、早く皆と仲良くなれたらと思います。よ、よろしくお願いします!」ガバッ!



ドドン!ヒューーー……ドパァン!!
ワーー!!
マツリダー!!
サア、クウゾー!!


>>92は間違えました。

以下の文になります

ー半刻後 秋之村・中央広場ー
ワイワイ ガヤガヤ

大狸「皆の者!静まれー!」

ザワ…ザワ…  シーーン

大狸「よしよし。皆の者、待ちに待った紫苑祭じゃ。今年もこうして無事に祭りを迎えることが出来たこと、嬉しく思うぞ!」

大狸「そして、今年の紫苑祭は、1人の客を迎えておる」

キャク?
ダレダロウ?
アッ!モシカシテ!

大狸「あー、既に感づいておる者もおるじゃろう。そう!昨日突然現れた、人間の!男じゃ!(ほれ、男、上がって来んかい)」ボソボソ

男「は、はい!」タンタン

男「(う、うわ、凄い視線!)」

アレガニンゲン?
オモッタヨリフツウダネー

男「(く!何かめちゃくちゃ恥ずかしい!)」

シャベラナイネー
グアイワルイノカナ?

大狸「(ほれ、男、喋らんか!)」

男「!あ、えーと、人間の男です!昨日訪れたばかりで、分からないことだらけですけど、早く皆と仲良くなれるように頑張りたいと思います!よ、よろしくお願いします!」ガバッ!

男「(こ、これでいいのか?)」ドキドキ

パチ、、パチ、、

男「(え?)」

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
ウワアーーー!!!

男「え?え?」

大狸「安心せい。皆がお前を受け入れてくれたんじゃ」ポン

男「そう、なんですか・・・」ホッ

大狸「よし!男の紹介も済んだ!これより、紫苑祭を開催する!!」

ドッ!ヒュルルーーー……ドパァ…ン!!!

ワーー!!

男「ふう・・・」

大狸「男、ご苦労じゃったの。ほれ、お主も遊んでこい」シッシッ

男「はい、行ってきます!」

ー秋之村・常夜ノ森に続く道ー
サー!ウマイニクガトレタゾー!!
オジサン、ワタガシクダサイ!

ガヤガヤ ザワザワ

男「ふう。それにしても、ここどこだ?」キョロキョロ

男「はあ。何となくで知らない道に入るもんじゃないな・・・。戻ろうにも、この人混みの流れを逆らう気もしないし・・・」

男「犬娘、きっと待ってるよなあ・・・」ハア

砂かけ婆「おや!アンタさっきの人間じゃないかい!?」

男「え?あっ、はい。男といいます」ペコリ

砂かけ婆「へぇー!人間なのに礼儀がいいのかい!珍しいねえ!」

男「そうなんですか?」

砂かけ婆「そうだよ!人間なんて、アタシら妖を見たらすぅぐにやっつけにくるんだよ!問答無用でね!」

男「そんな・・・」

砂かけ婆「まあ、この話はアタシの婆さんから聞いた話なんだけどね!?」

男「すい、ません・・・」

砂かけ婆「やだねえ!アンタが謝る事じゃないよ!アタシだって、実際に人間に意地悪されたわけじゃないしねえ!」ポンポン

男「でも・・・」

砂かけ婆「いいのいいの!こんな話をしたアタシも悪かったね!ほら、これやるから、元気を出しな!」

男「あ、林檎飴・・・」

砂かけ婆「お、知ってるのかい?なら説明しなくてもいいね!ほれ、持っておいき!」

男「・・・ありがとうございます」

砂かけ婆「いいんだよ!あ!最後に一つ!」

男「ペロ 何でしょう?」

砂かけ婆「いいかい?アタシら妖は確かに人間に意地悪された。そりゃ、中には恨んでる奴らだっているだろうさ!」

男「はい」

砂かけ婆「でもね!結局は過去の話なんだ!今を生きる、若いアンタが過去に飲まれちゃいけないよ!しっかり前向いて歩いていきな!」

男「・・・はい!」

砂かけ婆「いい返事だ!それじゃあ、またおいで!」

男「必ず」ペコリ

男「砂かけ婆さん、いい人だったなあ・・・」ペロペロ

男「やっぱり、昔は人と妖は敵対していたのか・・・」

男「・・・」

男「今は、俺が悩んでも仕方ないか!よし、犬娘を探そう」



ー秋之村・中央広場ー
犬娘「うう・・・。男さんがいない・・・」ドヨーン

犬娘「こうも人が多いと、ニオイも追えないし・・・」クンクン

犬娘「はあ・・・」

???「あら。犬娘?」

犬娘「え?あ!狐娘ちゃん!」タタッ

狐娘「ええそうよ。久しぶりね。丁度一年振りだわ」ニコ

犬娘「狐娘ちゃん、相変わらず綺麗だねー!」

狐娘「そ、そうかしら?///」

犬娘「うん、背も高いし、胸も大きいし、お腹はキュッと締まってるし・・・」

狐娘「な、何かくすぐったいわね///」ソワソワ

犬娘「脚も長いし、尻尾もふわふわで・・・あれ?」

狐娘「?何?どうかしたの?」

犬娘「狐娘ちゃん、尻尾・・・」

狐娘「え?ああ、そうよ。私、今年の始まりに、六尾になったのよ」ニコリ

犬娘「う、うわあー!凄いね!狐娘ちゃん!おめでとう!」ブンブン

狐娘「え、ええ。ありがとう///」テレ

犬娘「でも本当にすごいね!五尾以上は、とても難しい試練を突破しなくちゃいけないから、大人でも難しいって聞いていたのに!」

狐娘「そうね。確かにとても大変な試練だったわ。でもね、私は、どうしても九尾になりたい。そのためだと思えば、どんな努力も苦しくないわ」

犬娘「そっかぁ・・・。本当にすごいよ、狐娘ちゃんは」

狐娘「うふふ、ありがとうね、犬娘」ニコリ

犬娘「えへへ」

狐娘「そういえば、犬娘。あなたは随分とおめかししているけど、どうしたの?」

犬娘「あ!私、男さんを探しているの!狐娘ちゃん、見なかった?」

狐娘「男って、あの人間?」

犬娘「そうだよ。あの人」

狐娘「犬娘、どうして人間を?」

犬娘「うん。実は・・・」

ー説明中ー

犬娘「っていうことなの」

狐娘「成る程ね。それで、迷子になった男を探していると」

犬娘「うん・・・。ニオイも追えないし、困ってて・・・」ショボーン

狐娘「その男、人間なんでしょう?人間なんかのどこが・・・」

犬娘「な、なんかじゃないよ!」

狐娘「!?」ビクッ

犬娘「男さんは、確かに人間だけど、それだけだよ!」

狐娘「犬娘?」

犬娘「私は犬だし、狐娘ちゃんは狐。それと同じように、男さんは人間だけど、それだけだよ!」ガルル!!

狐娘「・・・そうね。ごめんなさい。私が悪かったわ。(あの犬娘にここまで言わせるなんて。その男とかいう人間、何者?)」

犬娘「あ、わ、私こそごめんね!熱くなって・・・///」

狐娘「犬娘。あなた、その人間のことが好きなのね?」

犬娘「ふぇっ!?い、いや!その!」アセアセ

狐娘「ふふ。隠さなくてもいいわよ。丸分かりだわ」

犬娘「うぅー・・・///」

狐娘「ふふ。いいわ、犬娘。私も一緒に探してあげるわ」

犬娘「え?本当!?」フリフリ

狐娘「ええ、私も、会ってみたいしね」

犬娘「え!?」

狐娘「え?あ、ち、違うわよ!?純粋に、人間がどういうものか気になるだけ!」

犬娘「そ、そっか、そうだよね!ごめんね、早とちりしちゃって」アセアセ

狐娘「ふふ。いいから。男を探しに行きましょう?」

犬娘「うん!」

ー男sideー
男「あの、すいません、中央広場はどっちでしょうか?」

小豆洗い「あン?中央広場なら、この道を真っ直ぐ進めばいいさね!」シャキシャキ 

男「そうですか。ありがとうございます」ペコリ

小豆洗い「なんのなんの。またな、兄ちゃん」シャキシャキ スタスタ

男「ふう。あと少しかな」

唐傘お化け「男ーー!」ピョーンピョーン

男「え?おお!唐傘!」

唐傘お化け「ぃよう!どうだい!?楽しんでいるかい!?」ピョーンピョーン

男「ああ。まあ、それなりには」

唐傘お化け「何だい、歯切れが悪いね!」ピョーンピョーン

男「まあ、道に迷ってなあ・・・」

唐傘お化け「あらら!そいつは大変だ!オイラが道案内してやろうか!?」ピョーンピョーン

男「おお、それは助かる!」

唐傘お化け「よっしゃ、任せておきな!中央広場でいいのかい!?」ピョーンピョーン

男「ああ。犬娘と合流したいんだ」

唐傘お化け「あいよ!ささ、こっちだぜ!」ピョーンピョーン

カラス「お、男じゃねえか!」バサバサ

男「ああ、カラス!いいところに!」

カラス「何だい。あっしに何か用かい?」バサバサ

男「ああ、犬娘を見かけたら、中央広場の舞台前に来てくれと伝えてくれないか?」

カラス「何だ。そのくらいならお安いご用だ。任せておきな!」バサバサ

男「頼んだぞー」

ー犬娘sideー
犬娘「男さんを見かけませんでしたか?」

一つ目男「ああ?そういやさっき、常夜ノ森方面の露店の、砂かけ婆が見かけたと言っていたぜ」

犬娘「そうですか!ありがとうございます」ペコリ

一つ目男「いいってことよ。そんじゃな、嬢ちゃん」ノッシノッシ

狐娘「その男っていう人、どうしてそんな所に行ったのかしら?」

犬娘「地理感覚が無いから、普通に迷ったのかも・・・」

狐娘「あら。結構おっちょこちょいさんなのかしら?」

犬娘「なのかなあ・・・」

犬娘「あ、すいません、男さんを見かけませんでしたか?」

猫少年「え、その人なら・・・」

狐娘「あら?あれは・・・」

カラス「お!お嬢!やっと見つけた!」バサバサ

犬娘「・・・。そうですか。ありがとうございました」

狐娘「犬娘、お客様よ」

犬娘「へ?あ!カラスさん!」

カラス「いやあ、意外とすんなり見つかったぜ!おや、狐の嬢ちゃんも!久しぶりだねえ」

狐娘「ええカラス。お久しぶりね」

犬娘「それで、カラスさん。何かあったの?」

カラス「おおっと、そうだそうだ。嬢ちゃんら、常夜ノ森方面の道に行こうとしているだろう?だけど、このまま中央広場の舞台前で待っていてくれないか?」

犬娘「え?どうして?」

カラス「男の奴がよ、唐傘に案内されて、もうすぐここへ来るんだよ」

狐娘「成る程。そういうことね」

カラス「ああ。だからよ、中央広場の舞台前。そこにいてくれよ?」

狐娘「ええ。分かったわ」

犬娘「ありがとうね、カラスさん!」

カラス「いいってことよ。じゃ、あっしも祭りを楽しんでくるとしますか!」バサバサ

狐娘「常夜ノ森方面の道に行く前で良かったわね」

犬娘「そうだねー。じゃあ、しばらく待ってようか」

狐娘「ええ、そうね」

ー数分後ー
犬娘「・・・っていうことがあったんだよ!」

狐娘「ふふ。そんなことがあったのね」クスクス

ワイワイ ガヤガヤ
…ヌ……メー!
ザワザワ

犬娘「!!」ピコーーン!

狐娘「犬娘?」

犬娘「今、男さんの声が聞こえた!」キョロキョロ

狐娘「この雑踏の中で!?」

ワイワイ ガヤガヤ
ィヌ…メー!
ザワザワ

犬娘「ほらまた!」キョロキョロ

狐娘「犬娘・・・。そんなに会いたいのね」ホロリ

犬娘「幻聴じゃないよ!?」

男「おーい!犬娘ー!」タッタッタッ

犬娘「ほら!男さーん!」ブンブン パタパタ

狐娘「本当にいた!?」

男「いやー、犬娘、ごめんな?待っただろうに」ハァハァ

犬娘「い、いえ!そんなこと!こうして合流できましたし!」

男「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」ナデナデ

犬娘「ふあぁぁぁー・・・!///」ポー

狐娘「(犬娘がここまで気を許すなんて・・・)」

男「・・・あれ?犬娘、この娘は?」

犬娘「あ、はい。私のお友達の狐娘ちゃんです!狐娘ちゃん、この方が男さんだよ!」

狐娘「ええ、分かっているわ。初めまして、男さん。冬華村より参りました、狐娘と申します。以後、お見知り置きを」ペコリ

男「ああ、これはご丁寧にどうも。男です。人間だけど、君たち妖とも仲良くなれたらいいな、って思っているんだ。よろしくね」スッ

狐娘「・・・ええ。よろしく」キュッ

ー秋之村・中央広場 露店街ー
男「こうして見ると、人間の世界の出店と変わらないんだなー」

犬娘「そうなんですか?」

男「ああ。焼きそばに綿菓子、お好み焼きに人形焼き、射的に輪投げに金魚すくい。まんま同じだ」

狐娘「へえ。興味深いわね」

男「んー。こういう所に来ると、無性に腹が減るんだよなー」

犬娘「そうですね!全部食べたいくらいです!」

狐娘「そうね。私も何か食べたいわ」

男「んじゃあ、まずは・・・ってしまった!」

犬娘「男さん?」

狐娘「どうしたのよ?」

男「俺、この世界にお金はほとんど持ってきてないんだった・・・。2人とも、悪いんだけど安いものでいいかな?」 

犬娘「そ、そんな!男さん!自分の分は自分で出しますよ!」アセアセ

狐娘「そうよ。そのくらいのお金は持ってきているわ」

男「いや、でもなあ・・・。あ、ていうか、そもそも人間のお金は使えるのか?」

犬娘「そういえば、どうなんでしょう?」

狐娘「男さん、あなたのお財布の中、見せてくれるかしら?」

男「ああ、はい」
ー男の所持金 2,856円ー

狐娘「ええ、ここでも使える通貨だわ。ていうか、あなた・・・」

犬娘「お金いっぱいあるじゃないですか!」

男「・・・え?」

犬娘「男さん、これで少ないだなんて、贅沢ですよ?」

狐娘「まったく、少ないだなんて言うから、10円位かと思っていたのに・・・」

男「いや、え?」

犬娘「男さん?」

狐娘「!もしかして、人間の世界とここでは、物価が違うのかしら?」

男「そうなのかな?」

犬娘「?」

狐娘「じゃあ、手っ取り早く露店に行って、確認してみましょう」

焼きそば屋「いらっしゃい!おお、アンタ人間のお兄ちゃんだね!?いいなあ!綺麗どころを両脇に侍らせて!」 

犬娘「き、綺麗どころだなんてそんな///」テレテレ

男「おじさん、焼きそば一つ、いくらですか?」

焼きそば屋「あん?一つ40円だよ!」

男「40円!?」

焼きそば屋「おおっと、高いって言ってもダメだぜ!?これ以上はまけらんねえな!」

男「じ、じゃあ、3つください」

焼きそば屋「お!彼女の分も出すってかい!?かぁー!いいねえ!お兄ちゃん男だよ!気に入った!特別だぜ!?3つで100円だ!持ってけドロボー!」

男「あ、ありがとうございます」

焼きそば屋「いいってことよ!また来てくんな!」

狐娘「ね?私たちが十分だ、って言った通りだったでしょう?」

男「ああ、驚いたよ。まさかここまで安いなんて」

犬娘「ちなみに、人間の世界だと、焼きそばは一ついくらなんですか?」

男「んー、祭りっていう場合だと、祭りによって変わってくるんだけど、だいたい400円前後かな」

犬娘「わっ!そんなにするんですか!?」

狐娘「それはぼったくりって言うんじゃないの?」

男「いやいや。人間はこれくらいが普通なんだよ」

犬娘「へー。人間の世界って、お金がかかるんですねー」

男「うん。そうだね」

狐娘「そ、それより、早く焼きそばを食べましょう?私、お腹ペコペコだわ///」

犬娘「はっ!そうでした!焼きそばを食べましょう!」

男「あはは。そうだね。あそこの休憩所で食べようか」

犬娘「はいっ!」

ー休憩所ー
男「うん、美味い!」ズルズル

犬娘「美味しいですねー」ズルズル

狐娘「美味しいわ」モグモグ

アッ!ニンゲンジャナイ!?
ホントダ!
アンガイカッコイイカモ
ヒソヒソ ヒソヒソ

男「うーん」モグモグ

犬娘「お、男さん。気になりますか?」モグモグ

狐娘「無視していればいいわよ。物珍しさで目立っているだけで、しばらくすれば収まるわ」フキフキ

男「いや、なんかなあ・・・。俺と一緒にいるせいで、2人も悪目立ちしてるんじゃないかと思うとな」ウーン

狐娘「あら。自分のことより私達の心配?」

男「そりゃそうだろう。俺1人ならどうにでもなるが、2人はそうもいかないだろうし・・・。まあ、仮に俺が原因でいじめられたりしても、2人は守るよ」ズルズル

犬娘「お、男さん・・・///」キューン

狐娘「あ、ありがとう///」

男「いやいや。仲良くしてもらっている礼だと思ってくれ」

犬娘「・・・男さん?」

男「ん?」

犬娘「仲良くしてもらっている、だなんて言い方、しないでください」プンプン

男「え?」キョトン

狐娘「そうね。私も、犬娘も、あなたから礼を貰いたくて仲良く『してあげて』いるわけではないわ」

犬娘「そうです。私たちは、私たち自身で、男さんと一緒にいたいと思ったから、こうしているんです」

男「・・・」

狐娘「だから、そんな言い方で、私達の気持ちまで貶めるようなことはしないで」

男「・・・ああ。ごめん。ありがとうな、2人とも」

犬娘「いえいえ」

狐娘「分かればいいわ」

男「ははっ」

犬娘「えへへ」

狐娘「ふふっ」

男「さて、食べ終わったし、どこか行こうか?」

犬娘「そうですね!」

狐娘「でも、どこに行くの?」

男「うーん。俺はこの祭りのことも、どこに何があるのかも分からないから、2人に任せるよ」

犬娘「でしたら、村を案内しましょうか!」

男「え?いいのか?」

狐娘「そうね。私達はもうこの祭りは珍しくないから、あなたの案内をした方が有意義だわ」

犬娘「そうです!また迷子になったりしないためにも、村を案内します!」

男「じやあ、お言葉に甘えて」

狐娘「ふふ。行きましょう」

犬娘「まずはここ。基本中の基本、中央広場!」

男「うん。ここはもう分かるよ」

狐娘「ここは、まさに秋之村の中心よ。辿り着けないなんてことはまず有り得ないわ」

犬娘「そして、この中央広場は円形になっていて、東西南北に一本ずつ、それから、北東に一本の計五本の道が伸びていて、それぞれ・・・」

北>『常夜ノ森』 野生の動植物の生息地。木々が高密度で茂っているため、昼間でも暗い。肉や薬草は、ここで採る。

南>『秋之村・住宅街』 民家が密集している。犬娘の家も、勿論こっち。また、祭りの時は一部の民家を開放、宿屋に。また、一部は工業区になっていて、家具や道具、食糧の加工なども行われている。

東>『すすき野原』 何故か一年中すすきの生えている広原。余りに広大なため、一定の距離以上進むことは禁じられている。未開地域。

西>『農業区』 牛や豚、米や野菜はここで作る。当然、一年に一度しか他村と交流を持てない秋之村は、食糧自給率100パーセント!

北東>『荒海』 魚介類を採る狩り場。夏場は海水浴場に。また、広い浜を生かし、小さいが造船所もある。沖に出るとその名の通り大荒れの海となる。他村と隔てられている最たる原因。しかし、『紫苑祭』の時期は海が収まり、他村の者達は船で海を越えやってくる。

男「へー。でも、これを見ると、他の村は、島って感じか?」

犬娘「そうですね。少し小さな島が、村になっています」

狐娘「ちなみに、ここ『秋之村(あきのむら)』、私の住む『冬華村(とうかむら)』の他に、『春陽村(はるひむら)』と『夏雨村(なつめむら)』の、計4つの村・・・まあ、島ね。があるわ」

男「へえ。全部北東の海の向こうにあるんだよな?」

犬娘「いえ、それが少し違うんです。この地図を見てください」

 ー海図ー     
                  北
    ーーーー『冬華村』ーーー 西十東

   / 魔 /     \ 魔海 / 南
             \  /
  / 海 /  『荒海』 『春陽村』

 『夏雨村』

   ーーー ー     /
   / 魔 海 /     /
  ーーーーーーー『秋之村』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

犬娘「大まかな海図ですけど、大体はこうなっているわけです」

男「へー。この『荒海』を通って、他の村、島?村でいいか。村から人が来る、と」

犬娘「はい」

男「なあ、この『魔海』っていうのは?」

狐娘「決して入ることの出来ない海域よ」

男「決して入ることの出来ない海域?」

犬娘「はい。常に分厚い霧で覆われていて、その海域に入った船は、帰ってきた試しがありません」

狐娘「今じゃ誰も近寄ろうとしないわ」

男「でも、その中にこの『夏雨村』はあるんだろ?」

狐娘「確かに、『夏雨村』は、『魔海』に囲まれているけど、完全に囲まれているわけじゃないのよ」

犬娘「この海図は子供でも分かるように、って作られているので解りづらいと思いますけど、『夏雨村』の北東にも、港があって、そこから真っ直ぐに進む海路は、普通の海なんです」

男「へー。でも、そんな所からここまで来るのは大変そうだな。他の島じゃ『紫苑祭』はやらないのか?」

狐娘「そうね。確かに、『春陽村』や、『冬華村』の方が、『夏雨村』にしてみれば近いし、安全でしょうけど。でも、『冬華村』でやるには、『春陽村』が危険だし、『夏雨村』も、確実に安全とは言えないわ」

犬娘「それに、『春陽村』でやる場合も、『夏雨村』と『冬華村』、両方確実に安全とは言えません」

狐娘「でも、この『秋之村』でやる場合は、被害に遭う確率が高いのは『夏雨村』1つ。だから、ここ『秋之村』で行われるのよ」

男「それは・・・」

狐娘「勘違いしないで。私たちだって、全部の村が安全に交流を行える方がいいと思っているわ」

犬娘「でも、『夏雨村』の長が、この村で『紫苑祭』を行うことを決めたんです」

狐娘「『夏雨村』の長・・・大狸のお爺さまがね」

男「え!?」

犬娘「はい。なんでも、この村で『紫苑祭』を行うと決めた時・・・」



ー数十年前 夏雨村・大狸の屋敷ー
犬神(現・秋之村村長)『むう・・・。一体どうすれば・・・』

白狐姫(現・冬華村村長)『やはり、一年毎の交代制で・・・』

鬼神(現・春陽村村長)『オレらントコロは、
主な種族柄、軍備も揃ってるし、荒者揃いだから構わねェけどよ、平和ボケしたテメエらントコじゃあ、ちと辛くねェか?』ポリポリ

武者狸(現・大狸)「・・・」

鬼神「オイ、化け狸。テメエはどうしたらいいと思うよ?」

犬神「・・・」

白狐姫「・・・」

武者狸「・・・『紫苑祭』は、犬神の治める『秋之村』で行え」

犬神「それは・・・」

白狐姫「・・・しかし、それではあなた方のみに負担をかけることになってしまいます」

武者狸「構わぬ。既に、民には知らせておるし、了承も済んでおる」

鬼神「へェ。あれほど自分の領民が傷つくのを嫌っていたってェのに、どういう風の吹き回しだ?そりゃあ?」

武者狸「ふん。『夏雨村』の民は、儂自らが護ればよい。それならば民が傷つくこともなかろう。さらに、貴様等の民も、無駄な被害を出さずに済む」

鬼神「ハッ!傷つくのはテメエ1人でいいってか!泣かせるねェ」カッカッカ

白狐姫「鬼神!口を慎め!」カッ

鬼神「おぉおぉ。おっかねェな」

武者狸「鬼神よ。貴様の村の、軍船にも用いることの出来る造船技術と、技師、儂が借り受けるぞ。期限は、次の『静海』。一年後だ」

鬼神「あ?オレらの船は門外不出だぜ?それを貸せってンなら・・・」

白狐姫「き・し・ん・・・?」ゴゴゴ!!

鬼神「チッ!わぁったよ!技師50!これで文句ねェな!?」

武者狸「上々。犬神、貴様からは・・・」

犬神「ああ。技師50人分、加えて、予備として30人分の食料を・・・そうだな。半年分。確かに届けさせよう」

武者狸「助かる。白狐姫よ、貴様は・・・」

白狐姫「はい。次の航海が無事に行えるよう、総力を挙げて、海図の制作、量産を行います」

武者狸「うむ。では皆、よろしく頼むぞ」

犬神「応・・・!」

白狐姫「かしこまりまして御座います・・・」

鬼神「チッ!・・・御意に」




武者狸「未来を生きる者達に、せめてもの光となればよいが・・・」

男「そんなことが・・・」

犬娘「はい。それ以来、『紫苑祭』は、この村で行われてきました」

狐娘「私達の村も、『春陽村』も、おかげで今まで事故になんて遭ったことがないわ」

犬娘「『夏雨村』も、大狸のおじいさんのおかげで、大事に至ったことはありません」

男「ただ者じゃないとは思っていたけど、そんなにすごい妖(ひと)だったのか・・・」

狐娘「ふふ。今度本人にでも武勇伝を聞いてみなさいな」

犬娘「男さん、きっと驚きますよ!」

男「そうだね。今度機会があったら聞いてみるよ」

犬娘「はいっ!」 

狐娘「さて、他に質問はあるかしら?」

男「いや、正直頭がいっぱいだよ」

犬娘「ちょっと、お話が長かったですかね」

男「うん。そうかも」

狐娘「まあ、それなら、また分からないことが出てきたときにでも聞けばいいわ」

男「うん。そうするよ」

狐娘「あら。もうこんな時間なのね」

男「え?あ、もう夕方か」

犬娘「次はどうしましょうか?」

狐娘「悪いんだけど、私はここで帰るわね」

犬娘「え?」

狐娘「えっと、その・・・。ちょっと用事があるのよ」

男「そっか。なら、ここでお別れかな」

犬娘「またね、狐娘ちゃん。また明日!」

狐娘「ええ。またね、犬娘、男さん」フリフリ カランコロン カランコロン




犬娘「狐娘ちゃん、どうしたのかな?」

男「狐娘、様子がおかしかったな」

犬娘「あ、男さんも気づきましたか?」

男「まあ、あんな顔してたらなあ・・・」

犬娘「狐娘ちゃん、他の妖(ひと)に心配掛けないように無理するから、そこに心配です・・・」

男「犬娘は優しいんだね」ポンポン

犬娘「あ・・・。えへへ///」

男「まあ、明日も様子がおかしいようなら、聞いてみようよ」ナデナデ

犬娘「はい、そうします」コクッ

男「よし!じゃあ、俺達は出店を覗きながら、戻ろうか」

犬娘「はいっ!」

男「あー、あと、犬娘」

犬娘「はい?」

男「えっと、その・・・」

犬娘「?」キョトン

男「ゆ、浴衣、すごく似合ってる。と、とても可愛いよ///」テレ

犬娘「・・・」

男「本当は、合流した時に言おうと思ったんだけど、狐娘の手前、言えなくて」

犬娘「・・・」

男「もっと早く言えたらよかったんだけどね」

犬娘「・・・」プルプル

男「俺、昔からその辺の気が利かない、ってよく言われてて・・・」

犬娘「・・・」ブルブル!

男「だから、今度からは気を付け・・・犬娘?」

犬娘「・・・」ガタガタガタガタ!!!

男「い、犬娘!?」ガッ!

犬娘「っっーーーーーーー!!!!!???」ボンッ!!!

男「うわあ!?い、犬娘が噴火した!?」

犬娘「お!おと!男さ!男さんが、わ、かわ!?」ガクガクガクガク!!!

男「い、犬娘!ここ道のド真ん中だから!」

オカアサン、アノヒトタチナニヤッテルノー?
シッ!ミチャイケマセン!
ナンダ?チワゲンカカ!?
ヤレヤレー!
ヤンヤ ヤンヤ

男「ひ、妖(ひと)が集まってきた!」

犬娘「わ、わた!?わわわわ!かわ!?○△ぃ※×カ☆!ム△す※○メ>!?」クルクルクルクル!!!

男「こ、こうなったら!」

オ?オニイチャンイクカ!?
イケイケ!
オカアサ…
ミチャイケマセン!
ヤイノ ヤイノ

犬娘「わた!わたひが!かわかわわわ!」バタバタバタバタ!!

男「犬娘!ごめん!」ダキッ!

犬娘「!!!」ボンッ!!! パタンキュー

男「お、お騒がせしましたーー!!」ビュンッ!

ー犬娘の家・犬娘の部屋ー
犬母「ごめんなさいね、男君。この子ったら、二日続けて失神するなんて」ハァ

男「い、いえ」

犬娘「Zzz Zzz」

犬母「それにしても、今日はどうして失神したのかしら?」

男「さ、さあ!?何ででしょうね!?」

犬母「(うふふ。まあ大体の予想はつきますけど。)さて、男君。私はこれからお夕飯の支度をしてきますので、暫くこの子の様子を見ていてもらえるかしら?」

男「あ、はい。任せてください」

犬母「うふふ。お願いね。それじゃあ、お夕飯ができたら声を掛けるわ」スタスタ スッ パタン

男「ふう。犬娘には、あまりストレートな物言いは避けた方がいいかな?」

犬娘「Zzz Zzz」

男「まさか、ここまで恥ずかしがり屋だとは・・・」

犬娘「Zzz ・・・えへへ・・・。男さぁん・・・」ムニャムニャ

男「・・・!」

男「よしよし」ナデ…ナデ…

犬娘「Zzz ・・・///」スースー







犬母「うふふ・・・」キラーン!

ー紫苑祭二日目 犬娘の家・犬娘の部屋ー
チュンチュン チュンチュン

犬娘「ん・・・。あれ・・・?」ムクリ

犬娘「ここ、私の部屋・・・?」キョロキョロ

犬娘「どうし・・・わひゃあ!?」ビクッ

男「Zzz Zzz」グーグー

犬娘「(お、おおお男さんが私の横で寝てーーー!?)///」ドキーン!

男「んん・・・。ふむう・・・Zzz」モゾモゾ グーグー

犬娘「(お、男さんが!ま、丸まって!か、可愛いーー!)///」キュウン!

犬娘「(ていうか!どうして男さんが私の横で!?)」

男「んん。ふあーーー・・・ぁふ。あ、犬娘、おはよう」ムクリ

犬娘「あ、はい男さん。おはようございます・・・じゃなくて!」

男「んあ?」ファーー

犬娘「ど、どどどうして男さんがここで寝ていたんですか!?///」

男「あ。い、いやそれは・・・」

犬娘「ま、まさか。わ、私にやらしいことを・・・!!(も、もしそうなら!私のことも女の子として見てくれているって事に!?)///」ドキドキ

男「ち、違う違う!そんな気はこれっぽっちもないって!」

犬娘「え・・・?」

男「いや!昨日、祭りの途中で犬娘が失神したから、抱き抱えて連れ帰って、それからずっと看てたらつい寝ちゃっただけで!そんな、いやらしいことなんかしてないから!」アセアセ

犬娘「そ、そうなんですか。また私ったら・・・///ごめんなさい、男さん・・・」ショボン

男「い、いや、気にしないでよ!俺も、ちゃんと部屋に戻ればよかったね。ごめん」

犬娘「(・・・そんな気がこれっぽっちも無いって言われました・・・。私、魅力無いのかなあ・・・)」グス

男「い、犬娘?泣くほど嫌だったかな?本当にごめんね?」オロオロ

犬娘「え?あ、いや、違います!男さんが一緒に寝てくれたのは、すごく嬉しかったです!」

男「そ、そうなの?」

犬娘「はい!毎日でもお願いしたいくらいに!」フンス! グイグイ

男「え・・・!///」

犬娘「あ・・・///」カアァー

男「え、えと、犬娘。その・・・///」

犬娘「・・・さい」プルプル

男「・・・え?」

犬娘「ごめんなさーい!!」ワーン! スパァン! ダダダダダ!

男「・・・」ポカーン

ー犬娘の家・裏庭ー
犬娘「うぅ・・・。またおかしなこと言っちゃった・・・」トボトボ

犬娘「男さん、絶対私のこと、変な娘だって思ったよね・・・」トボトボ ピタ

犬娘「はあーーーーー・・・。これから、どんな顔して男さんに会えばいいのかなあ・・・」

犬娘「男さん、私のこと、嫌いになっちゃったかな・・・」ウルウル

犬母「あら。呼びに行ってもいないから、どこに行ったのかと思ったら」ヒョコ

犬娘「あ・・・母さん・・・」グスッ ゴシゴシ

犬母「・・・男君からある程度の話は聞いたけど・・・」

犬娘「うん・・・」

犬母「私から言えることは一つだけよ」

犬娘「・・・?」

犬母「大丈夫」ギュウ

犬娘「あ・・・」

犬母「初めての感情に、あなた自身も戸惑っているのね。でも、誰もが通る道だし、あなたは何も気にすることはないわ」ポンポン

犬娘「母、さ・・・」

犬母「ふふ。初恋で浮かれて、好きな人の前にいると、冷静ではいられなくなる。そんなの、当たり前じゃない。女の子ですもの」

犬娘「・・・うん」

犬母「男君のこと、好きなんでしょ?」

犬娘「うん。好き・・・。男さんが、大好き・・・///」キュッ

犬母「なら、それでいいじゃない。嫌われたかもしれなくても、今度は、前以上に好きになってもらえばいいじゃない」

犬娘「うん・・・!」

犬母「まあ、そもそも男君は、あなたのこと嫌ってなんかいないけど?」

犬娘「え?」

犬母「うふふ。あとは当人同士で、何とかしなさいな」スタスタ

犬娘「?」


タッタッタッ!
男「犬娘!」バッ

犬娘「お、男さん!?どうして・・・!」

男「はあ、はあ・・・。いや、犬娘が飛び出した後、慌てて追いかけてきたんだよ」ハァ…ハァ…

犬娘「男さん・・・」

男「ごめんな、犬娘。俺、本当に配慮が足りなくて・・・」

犬娘「・・・違うんです、男さん」

男「え?」

犬娘「私が、臆病だっただけなんです」

男「犬娘・・・?」

犬娘「(大丈夫。この気持ちは、誇っていい気持ちなんだ。)男さん」

男「何?犬娘」

犬娘「こ、今夜から、一緒に眠ってくださいますか・・・?///」

男「へっ!?」 

犬娘「だめ・・・でしょうか?」ウルウル

男「!!お、俺で、良ければ・・・///」

犬娘「えへへ。約束ですからね?///」

男「あ、ああ」

犬娘「さあ、母さんが朝ご飯を作って待っていますよ。行きましょう?」スッ

男「・・・うん」ギュッ ニコッ

犬娘「えへへ///」トコトコ








男「(い、犬娘、何か、色っぽかったな・・・///)」

ー犬娘の家・茶の間ー
犬娘「ーーー♪」パクパク

男「・・・」ボー

犬母「うふふ」ニコニコ

男「(あ、あの、犬母さん・・・)」ボソボソ

犬母「あら、何かしら?お代わりする?」パカッ

男「あ、いただきます。あ!そんなに多くなくていいです。その半分くらいで・・・」

犬母「はいどうぞ」コト

男「どうも・・・じゃなくて!)」

犬母「(うふふ。分かっているわ?犬娘の事よね?)」ヒソヒソ 

男「(ええ。今までろくに女の子と接した事なんてないんで、正直犬娘の考えていることや思っていることが分からないんですよ・・・)」ボソボソ チラッ

犬娘「んぐんぐ・・・。 ! ///」チビチビ

男「(犬娘、一体どうしたんでしょう・・・?俺、何かしたんでしょうか?)」ヒソヒソ

犬母「(うふふ。男君?この事は、男君自身で気づいてあげなくちゃ、意味がないのよ)」

男「(はあ・・・)」

犬母「(うふふ。紫苑祭は今日を含めて、あと四日。時間はまだあるわ。焦らず、じっくりと考えなさいな)」

犬娘「ごちそうさま!男さん、早く顔を洗って、お祭りに行きましょう!」ウズウズ

男「あ、ああ!今食べちゃうから!」ガツガツ!!

犬母「(ああ・・・。楽しいことになるといいわあ・・・)」ウフフ

狐娘とかよめてたし
男の性格が鼻につくからって無理に変える必要ないんだよ?

>>137
いえ、確かに男の性格は変更しましたが、それだけです。物語の進行には全く影響はありません。狐娘も、これから出てくるであろうヒロインも、全て予定調和です。

ただ、書き溜めも無く、その場その場で思い付いた事を書いているだけなので、皆さんには読みづらくなっていくかもしれませんが、今後とも、楽しんで頂けたら幸いです。

では、本日はもう一踏ん張り

ー秋之村・中央広場ー
ワイワイ ガヤガヤ

犬娘「さあ!男さん、紫苑祭二日目ですよ!」フンス!

男「うん、そうだね」

犬娘「今日は十刻に、狐娘ちゃんがここへ来るので、それまでここで待機です」

男「あ、そうなんだ。いつの間に待ち合わせを決めてたの?」

犬娘「いえ、実は今朝、男さんが顔を洗っているときに、カラスさんが伝えに来てくれたんですよ」

男「カラス・・・。お前、いいように使われてるな・・・」

犬娘「男さん?」

男「ああ、何でもないよ。今度、カラスに豆でもやろうか・・・」ポンポン ナデナデ

犬娘「ふあ・・・!えへへ///」フリフリ

男「(あれ?昨日より赤くならない。流石に、もう慣れたのかな)」ナデナデ

犬娘「わふふふ・・・///」フリフリ

男「(尻尾振ってる・・・。お気に召したようで何より)」ウンウン

男「さて、狐娘はまだ来ないし、待っている間、どうしようか?出店で、何か買う?」

犬娘「あ、で、でしたら!」

男「うん。何かな?」

犬娘「も、もうしばらく撫でてくれませんか?///」ワクワク

男「え?構わないけど・・・。それでいいの?」

犬娘「はい!是非!」キラキラ ブンブンブンブン!!

男「うお!?尻尾が!?わ、分かった、いくよ?」

犬娘「はい・・・!」

男「ん。はい」ナデ…ナデ…

犬娘「ふ、ふわあーーー・・・!」ウッットリ… 

男「(そういえば、犬娘から撫でてくれ、なんて言われたの、初めてだ)」ナデリナデリ

犬娘「くぅーーーん・・・///」フリフリ

男「(犬娘も、本当に心を開いてくれた・・・ってことかな?)」ナデナデ

ー数分後ー
狐娘「犬娘、男さん、お待たs・・・」

男「い、犬娘、流石に腕が・・・!」ナデリナデリ

犬娘「も、もうちょっとお願いします。あと少し・・・」

狐娘「・・・何をしているの?衆人環視のド真ん中で・・・」

犬娘「あ、狐娘ちゃん!おはよう!」シュタッ

男「ああ、狐娘。お、おはよう」ナデナデ

狐娘「ええ、おはよう・・・じゃなくて。ていうか一度撫でるのをやめなさいよ」

犬娘「そうですね。男さん、どうもありがとうございました」

男「腕が・・・!」プルプル

犬娘「わわ!ご、ごめんなさい!」

男「い、いやいや。気にしないでよ。俺の筋力不足だから」プルプル

犬娘「うぅ・・・」シュン

狐娘「・・・朝っぱらから見せつけてくれるわね」

男「い、いや、そんなつもりは・・・!


狐娘「・・・ふふ。分かってるわ。冗談よ」クスクス

犬娘「(男さん、そんなに慌てて否定しなくても・・・)」ブスー

男「犬娘?」

犬娘「何でもないです」プイッ

男「??」

狐娘「ふふ。さ、そろそろ行きましょうか」

男「あ、ああ。今日はどこへ行くんだ?」

狐娘「そうね。今日は・・・。!!(隠れて!)」グイッ!

男「お、おい!?」

犬娘「ひゃあ!?」

狐娘「(しっ!)」ソー





忍び狐1「おい、おられたか?」

忍び狐2「いや、どこにもおらぬ」

忍び狐3「全く・・・。あの方にも困ったものだ」

忍び狐2「とにかく、早く彼女を見つけよう。さもなくば・・・」

忍び狐3「ああ、坊ちゃんに何を言われるか分からぬからな」

忍び狐1「よし、では、見つけ次第呼び子で連絡。直ちに捕らえる。急げよ、お前達」バッ

忍び狐2・3「応」バッ




狐娘「・・・ふう。行ったようね」

男「どうしたんだ?狐娘。あの人達は?」

狐娘「・・・何でもないわ。怪しい格好していたから、近付きたく無かっただけよ」

犬娘「狐娘ちゃん?」

狐娘「いいから。この話はもう終わり。さ、行きましょう」

男「あ、ああ。それで、結局どこへ行くんだ?」

狐娘「ええ。実は、残りの祭りの期間をどう過ごすか、ある程度は考えてみたのよ」

犬娘「というと?」

狐娘「今日も含めて、紫苑祭は残り4日。その4日間で、各島を一周してみようと思ってね」

男「へえ!でも、祭りはこの村で行われているんだろ?他の島でも、何かやっているのか?」

狐娘「ここほど大したことはやっていないけどね。もっと小さな、市場程度のものはやっているはずよ。それに祭りの期間中は、各島からやってくる人や帰る人の為に、船はずっと行き来しているから、いつでも行けるわ」

犬娘「私、昔に冬華村と、夏雨村に一度だけ行きましたけど、どちらもとてもいいところでしたよ!」

男「へえ!それは行ってみたいな」

狐娘「どの道、今年の祭りは、あなたの案内で終えるつもりだったしね」

男「あ。なんか、悪いな」 

狐娘「気にしなくていいのよ。今までと違う祭りは面白いしね」

犬娘「そうですよ、男さん。私も、また色んな村に行けるって、ワクワクしてますもん!」

男「・・・ああ。よし!行こうか!」

犬娘「はいっ!」

狐娘「最初に行く島は、一番遠い島。常夏の気候で、漁業に特化した村。大狸のお爺さまがおられる、夏雨村よ」

ー夏雨村・港ー
男「すごいな!船が沢山並んでる!」

犬娘「ここは、一年を通して温暖な気候が続くため、お魚がいっぱい穫れるんですよ!」

狐娘「あと、果物もよく採れるわね。甘くて、とても美味しいのよ」

男「へえー。今は、ずっと同じ紫の空だけど、また太陽が出るようになったら、海も綺麗に輝くんだろうなー」

大狸「おお!男に犬娘、狐娘まで!来ておったか!」ドシンドシン

犬娘「あ、大狸のお爺さま!こんにちは!」

男「どうも!」

狐娘「ふふ。お久しぶりです」

大狸「む?狐娘、そういえばお主は・・・」

狐娘「お爺さま、そのお話は・・・」

男「・・・?」

犬娘「あ、カニ・・・!」

大狸「む。すまんすまん。ところで、こんな所まで何をしに来たんじゃ?」

犬娘「あ、はい。男さんに、各島を案内しようと思って!」

狐娘「ええ。残りの4日間で、各島を巡ります」

大狸「ほう!それは面白そうじゃのう!よし、ならばこの村、楽しんで行ってくれ、お主ら」

男「はい」

大狸「うむ。それと、今晩は儂の家に泊まってゆけ。お主らの保護者には、儂が伝えておこう。(狐娘、お主のことも、儂が何とかしておこう。4日間、楽しんでくるといい)」

狐娘「(お気遣い、感謝いたします)」

男「ありがとうございます」

犬娘「ございます!」

大狸「ワッハッハ!よいよい。ほれ、時間が無くなるぞ?行ってこい!」

犬娘「そうですね。男さん、狐娘ちゃん。行きましょう!」タッタッタ

男「あ、犬娘!それじゃ、行って来ます!」タッタッタ

狐娘「それでは、これで」ペコリ タッタッタ







大狸「むう・・・」

ー夏雨村・商業区ー
ガヤガヤ ザワザワ

男「へえ、祭りの期間でも、結構賑わってるな」

犬娘「まあ、祭りと言っても、貿易が主ですからね。あまり関係のない人は、残ることも多いんですよ」

狐娘「そうね。特にこの夏雨村は、危険もあるしね」

男「そうなんだ」

犬娘「では、男さん、夏雨村に来たら、まずは海へ行きましょう!」

男「海?」

狐娘「ええ、魔海に囲まれてはいるけれど、実際には、海水浴に使えるだけの範囲には普通の海があるの。そこは、ここのいい観光名所なのよ」

男「へー。ここは秋之村よりも暖かいし、泳ぐにはいい気候みたいだしな」

犬娘「はい!というわけで、早速行きましょう!」

ー夏雨村・海水浴場ー
アハハ キャー ザザァーン

男「おお、綺麗な海だな!それに、予想よりも広いし」

犬娘「はい、ここは四島の中でも随一の広さです」

狐娘「さ、泳ぎましょう?」

男「あれ?水着なんかあるのか?」

犬娘「ありますよー。ちゃんと、男さんの分もあります」ジャン!

男「・・・今俺が着ている甚平と、何が違うんだ?」

犬娘「強いて言うなら生地、ですね。より軽く、薄い物になっています」

狐娘「私達のも、生地を泳ぎやすいように変えた物になっているわ。見た目はそのままよ」

男「へー。じゃあ、着替えて、またここに集合しようか」

犬娘「そうですね。あ、更衣室はあっちです」

狐娘「じゃあ、また後でね、男さん」

男「うん、また」


ー夏雨村・海水浴場 男子更衣室ー
男「うーん。やっぱり、俺の知っているような水着は、この世界には無いか」ヌギヌギ

男「まあ、本当に江戸時代みたいに、ふんどし一丁とか、最悪全裸とかじゃなくて、本当に良かった・・・」モゾモゾ

狸親父「お?おい、兄ちゃん!あんた、人間かいな!?」


男「へ?あ、そうです。一昨日の午後、秋之村に来ました」

狸親父「ほうか。あんたが、長の言っておった人間かいな。思っとったよりもおもろないな」

狸爺「なんやなんや・・・。人間ちゅうたら、ちょんまげゆう髪型して、刀差してるんとちゃうんか?何でしとらんねん」

狸少年「兄ちゃん、人間の落ちこぼれなのかー!?」
ワイワイ

男「あ、あはは・・・」

狸親父「人間を最後に見たのは、ワシらの爺さん、そこのおとんや、長が現役やった時代や。その頃から、人間も変わった、っちゅうことやろ」

男「ええ。そうですね。大分変わりましたよ、人間は」

狸爺「なんや。わしのように200くらい、気合いで生きんか」

男「200は流石に・・・」

狸親父「まあ、兄ちゃんら人間から見たら、信じられんやろうなー」

男「ええ。ここに来てから、驚いてばかりです」

狸親父「せやろな。まあ、困ったことがあったら、誰かに頼りぃや。皆、いい奴らばかりやからの」

狸少年「なあおとんー。早よ行こー?」

狸親父「おお。せやな。ほな、兄ちゃん、楽しんでいきや」

男「あ、はい。そうします」

狸少年「じゃあな兄ちゃん!落ちこぼれでも、落ち込むなよー」

男「あはは・・・」




男「・・・ふう。ここでも、思ったより受け入れてもらえたな。珍しいけれど、大した奴じゃないからかな・・・」

男「昔は人間と争っていた、みたいな話も聞いたから、気にはなっていたけど・・・」

男「・・・思ったより時間かかっちゃったな。早く行こう」

ー夏雨村・海水浴場 女子更衣室ー
犬娘「・・・」ヌギヌギ ジー

狐娘「犬娘?どうしたの?」ヌギヌギ

犬娘「・・・うぅ。狐娘ちゃん、綺麗だなあって思って・・・」

狐娘「ちょ、ちょっと、どうしたのよいきなり///」

犬娘「元々綺麗なのは知ってたけど、改めて見ると、歴然の差に落ち込むよ・・・。特に胸とか・・・」

狐娘「む・・・!?何をおかしなことを言っているのよ!///」

犬娘「どうやったら胸が大きくなるのかなあ・・・?狐娘ちゃん、何か秘訣とかある?」

狐娘「知らないわよ!///」

犬娘「うう。男さんが、大きい方が好きだったらどうしよう?」

狐娘「気になるなら、本人に聞けばいいじゃない」

犬娘「・・・恥ずかしくて聞けないよ///」

狐娘「はあーー・・・。なら、気にしないの。あなたはあなたなんだから。自分に自信を持てない女の子に、男の子は見向きもしないものよ」

犬娘「わ、分かった!私は、私らしく頑張るよ!」

狐娘「ふふ。その意気よ」

犬娘「うん!じゃあ、行こう!狐娘ちゃん!」タッタッタ

狐娘「・・・犬娘。あなたは自由に恋が出来る。私には、それが何よりも羨ましいわ」

ー夏雨村・海水浴場ー
男「おー、やっぱりいざ泳ぐとなるとテンション上がるなー」

犬娘「男さーん!お待たせしましたー」タッタッタ

狐娘「ごめんなさいね」タッタッタ

男「あ、二人とも。いや、俺も今来たところだからさ」

犬娘「そうなんですか?なら、良かったです」

狐娘「さ、準備運動をして、泳ぎましょう」

ー準備運動中ー

犬娘「よし、完璧です!」

狐娘「さ、行きましょう!」

犬・狐娘「わー!」ザパーン!

男「あはは。狐娘もああやってはしゃげるんだな。昨日の様子が気になってたから、良かったな。元気そうで。よーし、俺も行くか!」ザブザブ

犬娘「狐娘ちゃん、潜りっこしましょう!どっちが長く潜っていられるか、勝負です!」

狐娘「あら。あなた、今まで私に勝った試しがないのに、いいのかしら?」フフン

犬娘「私だって、お風呂で特訓を積んできました!今年こそは負けませんよ!」メラメラ

狐娘「その意気やよし!返り討ちにしてあげるわ!」

犬娘「男さん、審判をお願いします!」

男「はいはい。それじゃあいくよ?用ー意・・・」

犬娘「・・・すうーーー!」

狐娘「・・・!」

男「始め!」

犬娘「・・・!」ザブン!

狐娘「・・・!」ザブン!

ー数秒後ー
狐娘「がぼぼ・・・」

犬娘「ばぼぼ・・・」

男「おお、二人とも、結構保つな」


ー数十秒後ー
犬娘「ーーーー!ーーーー!」バタバタ

狐娘「ごぼっ・・・!」ブクブクブク

男「お?狐娘が優勢か?」


ー数分後ー
犬娘「・・・」

狐娘「・・・!ぷはあっ!はあ・・・はあ!」

男「お!狐娘の負けか!」

狐娘「くう、初めて負けたわ!なかなかやるわね、犬娘!」

犬娘「・・・」

男「犬娘?」

犬娘「・・・」プカー

男狐・娘「うわあ!?犬娘ーー!!」

男「い、犬娘!しっかりしろ!」ユサユサ

狐娘「お、男さん、落ち着いて!こ、こういうときは妖工呼吸よ!」ガバッ

犬娘「・・・わ、ど、どうせなら男さんに!」パチッ

男「・・・」

狐娘「・・・」

犬娘「あ・・・」

狐娘「・・・はあ。あなた、本当にいい度胸ね」ゴゴゴゴ

犬娘「い、いや、最初は本当に気を失ってたんだよ!男さんに揺すられて目が覚めたの!」

男「・・・犬娘」スッ

犬娘「ひゃい!?ご、ごめんなさい男さん!」

男「・・・大事にならなくて良かったよ」ポンポン

犬娘「あ・・・。男さん・・・」

男「でも。俺も狐娘も、本当に心配したんだ。もう、あんなことはしないでくれよ?」

犬娘「・・・はい。ごめんなさい」シューン

男「よし、じゃあ狐娘」

狐娘「ええ」

犬娘「・・・え?」

男「悪いことしたなら・・・」ニコッ

狐娘「お仕置き、よね?」ニコッ

犬娘「あ、あはは、は」タラー

狐娘「この・・・バカーー!!」グリグリ!

犬娘「ご、ごめんなさいーーー!!!」ヒーン

男「ふう。本当によかったなあ」

犬娘「男さん助けてくださいーー!!」

男「んー。もう少ししたらね」

犬娘「男さんひどいーー!!」

狐娘「うふふー。反省したのかしら?」グリグリ

犬娘「し、しました!すごくしましたー!」

狐娘「・・・なら、許してあげるわ」パッ

犬娘「あう・・・。うう、頭がジンジンします・・・」シクシク

狐娘「これに懲りたら、もう変な真似はしないこと。いいわね?」

犬娘「はい・・・」

男「よし!じゃあ、気を取り直して、泳ごうか」

狐娘「そうね」

犬娘「は、はい!」

ー数十分後ー
男「ふうー!結構泳いだな」

犬娘「男さーん!私たち、少し休んでますねー!」

男「おーう!俺はもう少し泳いだら、休むよー!」

狐娘「分かったわー!」

男「よし、もう少し沖に出てみるか」バシャバシャ




???「だ、誰か!た、たぶぇ、がぼっ、たふけてー!」バッシャンバッシャン

男「え?って、溺れてる!?」

???「あ、あひが、つ、つりっ!?ごぼごぼ!」バタバタ

男「くっ。おーい!今行くから!もう少し堪えてくれー!」

???「がぼっ!ごぼっ!」バタバタ

男「急げ・・・!」

男「おい、大丈夫か!?」ガシッ

???「わきゃあ!?さ、鮫!?うわーん!食べても美味しくないよーー!?」バッシャンバッシャン

男「うわ、この・・・!暴れるな!俺は鮫じゃない!君を助けに来たんだ!」グイッ

???「もうイヤー!お祖父様ーー!」エーン

男「ああもう!大丈夫だ!君は必ず助ける!!」ダキッ

???「いやあー・・・!あ、あれ?」パチクリ

男「ったく、暴れたら余計に危ないっていうのに」

???「え?きゃっ!と、殿方!?あ、あの・・・///」

男「ああ、ごめんな、抱きつくような形になっちゃって」

???「い、いえ、その・・・///」ゴニョゴニョ

男「?まあいいや。俺、後ろ向くから、首に腕を回してくれるか?おぶさる感じで」クル

???「で、でも・・・」

男「足、つってるんだろ?治ったかもしれないけど、またつるかもしれないし。浜まで連れて行くから」

???「は、はい」オズオズ ギュッ

男「よし、行くぞー」バシャバシャ

???「(・・・これが、殿方の背中)///」ポー

男「あ、喋らなくていいから、そのままで聞いてくれ。水が顔につきそうだったり、飲みそうになったら、肩を叩いてくれ。話そうとすると、余計に水を飲むから」

???「(それに、とても優しい・・・)///」

男「おい?聞いてるか?」

???「へ?は、はぃがぼっ!」ケホケホ!

男「聞いてないな・・・。何かあったら、話さずに肩をたたく。いいな?」

???「ーーーーーー!(がぼっ!だなんて、変な声聞かれちゃったー!)///」トントン

男「ん。よし」

ー浜辺ー
男「ふう、到着」

???「あ、あの・・・」

男「ん?ああ、大丈夫?まだ息が苦しかったりする?」

???「い、いえ大丈夫ですわ。本当にありがとうございました」

男「いやいや。何ともないならよかった。えーと?」

???「わ、私としたことが!申し遅れましたわ。私、狸娘と申します」

男「狸娘ちゃんか。俺は男だよ。よろしく」

狸娘「男様、ですね。改めて、本当にありがとうございます」

男「様だなんてやめてくれよ。普通に男でいいって」

狸娘「そ、そんなわけには!」

男「うーん。まあ、それで気が済むならいいけど・・・」

狸娘「はい。男様、何かお礼をさせてくださいませ」

男「え!?いや、いいよ!気にしないで!」

狸娘「しかし、それでは私の気が済みませんわ!」

男「うーん。そう言われてもなあ・・・」

狸娘「で、では!今晩のお夕飯をご馳走させてくださいませ!」

男「それはありがたいけど、今夜は行かなくちゃいけないところがあって・・・」

狸娘「そ、そんな・・・!」ガーン

男「(なんか、悪いことしてる気がしてきた・・・)」

犬娘「男さーん!そろそろ着替え・・・。誰ですかその娘?」

狐娘「男さん、まさか・・・」

男「違う!何を考えたかは知らないけど、狐娘の考えているようなことじゃないと断言できる!」

狸娘「男様、この方々は?」

男「あ、ああ。俺がここでお世話になっている、犬娘と、狐娘だよ」

犬娘「・・・犬娘です。よろしく(男様!?様って何!?何なのこの娘!)」

狐娘「狐娘よ。よろしくね(あらあら。犬娘にライバル登場かしら?)」

男「それで二人とも、こっちは、狸娘ちゃん。さっき溺れかけていたから、助けたんだ」

狸娘「狸娘と申します。よろしくお願いしますわ(お、お世話しているですって!?お、男様を!?なんてうらやま・・・んっんん!破廉恥なことを!)」

男「えーと、狸娘ちゃん。悪いんだけど、俺達・・・」

狸娘「どうか、狸娘と、呼びつけでお呼びください」

男「あ、うん。なら、狸娘。俺達、そろそろ行かなくちゃいけないからさ」

狸娘「・・・うう。名残惜しいですが、仕方ないですわね・・・」

犬娘「そうです!出会ったばかりで寂しいですけど、ここまでなんです!」

狸娘「くっ・・・!」

狐娘「犬娘。落ち着きなさい」

男「じゃあ、悪いけどこれで。また、きっと会えるから」

狸娘「・・・男様!」

男「え?」

狸娘「また、近い内必ず、お会いいたしましょう!」

男「・・・うん。そうだね!」

狐娘「男さん、そろそろ」

犬娘「そうです!早く行きましょう!」グイグイ

男「わっ、とと。それじゃあまたねー!」ブンブン

狐娘「失礼するわね」ペコリ スタスタ






狸娘「ああ、男様・・・///」

犬娘「・・・」ムスー

男「(なあ、狐娘。犬娘、何か機嫌悪いみたいなんだけど、何か知ってるか?)」ボソボソ

狐娘「(ふふ。私は何も知らないけど?)」ヒソヒソ

男「(うーん。どうしたんだろうか・・・)」

犬娘「・・・男さん」

男「な、何かな?」

犬娘「・・・今朝の約束、覚えてますよね?」

狐娘「約束?」

男「お、覚えてるよ!大丈夫、約束は守るから!」

犬娘「ならいいです♪」

狐娘「男さん、約束って?」

男「聞かないでくれ・・・。嫌でも分かるから・・・」

狐娘「そ。なら、楽しみにしているわね」

ー夏雨村・大狸の屋敷ー
男「へえー。思ったよりは小さいお屋敷なんだな。昔ながらの田舎の家みたいだ」

犬娘「大狸のおじいさんはこのくらいがちょうどいい、って言ってこのお家にしたらしいですよ」

狐娘「あら、お迎えが来たみたいよ」

狸侍女「お三方、お待ち申し上げておりました。主がお待ちしております。どうぞ、こちらへ」

男「侍女がいるとか、すごいなやっぱり」

犬娘「大狸のおじいさんですからねえ」

狐娘「大狸のお爺さまだからね」

男「・・・その認識で伝わるのもすごいよ」

ー大狸の屋敷・客間ー
大狸「おお!よう来たのう、お主ら!ささ、座れ座れ!」

男「失礼します」

犬娘「こんばんは、大狸のおじいさん!」

狐娘「お招き頂き、ありがとうございます」

大狸「堅い堅い!もっと楽にせんか!犬娘のように!」

男「はあ・・・」

狐娘「そう仰るのでしたら、そのように。こんばんは、大狸のお爺さま」

大狸「うむ。そういえば、祭りの期間中に全ての村を回るということは、明日には冬華村か春陽村へ行くのじゃろう?」

犬娘「はい!」

狐娘「・・・明日は、春陽村へ行こうと思っています」

男「え?でも、冬華村の方が近くないか?」

犬娘「きっと、自分の故郷は最後のとっておきなんですよね、狐娘ちゃん?」

狐娘「・・・ええ。そうよ。楽しみにしていなさい?男さん。とても綺麗な所なんだから」

男「・・・?」

大狸「・・・。よし!まあ、明日のことは良い。お主らが来るのを待ちわびて、腹が減ってしまった!飯にしよう!」パンパン!

狸侍女「はい、主様」スタッ

男「(いつの間に大狸さんの後ろに!?)」

大狸「うむ。飯の用意を頼むぞ」

狸侍女「かしこまりました。すぐに」ヒュッ

男「(今度は消えた!?)」

大狸「ん?おお、男は、当然会うのは初めてじゃったのう。儂に古くから仕えておる、狸侍女じゃ。あやつはなかなか優秀でのう。何でもこなすゆえ、つい頼りすぎてしまう」

狸侍女「お褒めに与り、恐悦至極にございます」

男「今度は俺たちの真後ろに!?しかも両手に大皿を何枚も持って!実は忍者か何かだったんですか!?」

狸侍女「侍女にございます」

男「あ、あはは・・・」

犬娘「狸侍女さんは、本当に何でも出来るんですよ!」

狐娘「ええ、家事や炊事はもちろん・・・」

犬娘「狩りや漁、建築の技術もすごいです!さらには槍を持たせたら敵無し!あの槍捌きは思わず見とれちゃいますよ!」

男「そんなことまで出来るの!?」

狸侍女「侍女ですので」

男「いやいや・・・」

大狸「ワッハッハ!まあよいではないか!それより、狸侍女よ、あやつはどうしておる?」

狸侍女「はっ。今はあのお方以外の誰とも会える気分ではないと。客人には申し訳ないが、よろしく伝えてくれと仰っておりました」コト コト

大狸「あやつめ。帰ってきたものの、様子がおかしいと思ったら、誰にも会わぬとは・・・。お、すまんの」

狸侍女「無理矢理にでも、引きずってきましょうか?」コト コト

犬娘「どなたか、いらっしゃるんですか?・・・あ、ありがとうございます」

狐娘「美味しそうですね。頂きます。・・・大狸のお爺さま、もしかして・・・」

大狸「うむ。儂の娘じゃ」

男「ええ!?大狸さん、娘さんいらっしゃったんですか!?・・・あ、どうも」

大狸「まあ、娘と言っても、実の親子ではないがの。孤児を1人、引き取ったんじゃ」

男「孤児を・・・」

狸侍女「はい。狐娘様の一つ下、犬娘様と同い年でございます」

大狸「むう。狸侍女よ、引きずってこいとは言わんが、何とか連れてきてくれぬか?」

狸侍女「かしこまりました」ヒュッ

男「・・・もう慣れた自分がちょっと怖い」

大狸「ワッハッハ!いつまでも驚くよりいいじゃろうて」

狸侍女「連れてきました」スタッ

男「屋根裏から!?」

狐娘「流石に驚いたわね」

???「いやですわー!私は、あのお方にお会いしたいのです!」ジタバタ

狐娘「あらあら。随分とお転婆なのね。ていうか、この声・・・」

犬娘「も、もしかして!」ワナワナ

大狸「まったく・・・。客人の前じゃぞ!いい加減にせんか狸娘!」

男「狸娘!?」

狸娘「お祖父様までそんなことを仰るのですか!?私は、男様とだけお会いしたいと男様あ!?」

大狸「なんじゃ、知り合いか?」

男「い、いやまあ・・・。てか、え?狸娘?」

狸娘「ッーーーーー!!!!!/////」カアァーーー

狐娘「大狸のお爺さま、実は・・・」カクカクシカジカ

大狸「なんと!男よ、本当に感謝するぞ!狸娘の命を救ってくれたとは!!」

犬娘「こ、こんなことが・・・!」ガーン

狸侍女「これはこれは・・・」

大狸「ワッハッハ!何とも面白い偶然もあるものよ!」

狸娘「お、男様が行かねばならなかった場所って・・・///」

男「う、うん。ここだったんだよ。大狸さんに呼ばれていてね」

狸娘「お、お祖父様!どうして男様が来ると、一言仰ってくださらなかったのですか!?」

大狸「儂がこの者らを招いたとき、お主は既に海へ行っておっただろうに」

狸侍女「さらにお嬢様は、客人が来ると申し上げましても、会いたくないの一点張りで、わたくしの話をお聞きにならなかったからだと思われますが」

狸娘「ーーーっ!!も、もう分かりました!私が悪かったですわ!」スタスタ スッ

狐娘「まさか、こんなことがあるなんてねえ」

男「あはは。でも、また会えてよかったよ」

狸娘「お、男様・・・。はしたない姿をお見せしましたわ。お恥ずかしい・・・///」テレテレ

犬娘「ぅーー・・・」プルプル

大狸「(ほう。これはこれは)」クックック

狸侍女「主様、そろそろ・・・」

大狸「うむ。よし!男よ、此度のことの礼も兼ねて、改めて楽しんでくれ。では乾杯!」

全員『かんぱーい!』ガチャン!

ー数十分後ー
大狸「ワッハッハ!男よ!酒は飲まんのか!?/////」ウィー ヒック

男「いや、俺は未成年なんで!」

狸侍女「男様、主が絡んで申し訳ありません。主様、お酒でしたら私がお相手いたします。さ、こちらへ」

狐娘「狸侍女さん、相手するって、あなた既にお銚子7本分のお酒を飲み干してるわよ?」

狸侍女「いえ、これしきのお酒は水と変わりません。私には何の影響もありませんので、問題ありません」ケロリ

狸娘「うふふ、狸侍女は優秀ですもの。お酒などモノともしませんわ」

男「醸造酒ではべらぼうにアルコール度数が高い日本酒を、お銚子に7本も飲んで問題ないって・・・」

犬娘「ある、こーるどすう?」

男「ああ、お酒の強さみたいなものだよ。その数字が高いほど、お酒が強い、ってことなんだ」

犬娘「へー!」

大狸「何じゃい!狸侍女は酔わぬから面白うないわい。男ぉー。少しでいいんじゃ。飲まんか?の?/////」ヒック

男「いやいや・・・」

狸侍女「でしたら、男様でも飲めるよう、甘酒をお持ちいたしましょうか」

男「甘酒?」

狸侍女「はい。犬娘様の故郷、秋之村のお米で造った、自信の一品です。これは子供でも飲めるようにと造ったので、男様でも問題無く飲めるかと」

狐娘「『造った』、って・・・」

犬娘「『自信の一品です』、って・・・」

狸侍女「はい。わたくしが造りました」

狸娘「それはいいですわね!狸侍女、すぐにお持ちなさい」

狸侍女「かしこまりました」ヒュッ

男「・・・もう何でもありか」

狸侍女「お持ちいたしました」ヒュッ

男「あ、すいませんわざわざ」

狸娘「お、男様!私がお酌いたしますわ!」

犬娘「! お、男さん、お酌なら私に!父さん相手で慣れてますから、私の方が上手ですよ!?」

狸娘「な!?わ、私だってお祖父様に毎日のようにお酌していますわ!?」

犬娘「くぬぬ・・・!」

狸娘「むむむ・・・!」

狐娘「二人とも、そんなことしている間に・・・」

二人『・・・え?』

狸侍女「ささ、男様、ご一献」トクトク

男「いや、すいませんどうも。頂きます」

犬・狸娘『あーー!!』

狐娘「・・・ね?」

狸娘「た、狸侍女、何を・・・?」ワナワナ

犬娘「うう・・・。男さんにお酌したかったのに・・・」プルプル

狸侍女「いえ、お二方は仲良く喧嘩をなされていたので、そのままにしておいた方が宜しいかと判断いたしました。しかし、そうなりますと男様がお暇になってしまわれますので、主様のお酌をするわたくしが適任かと思い、男様にもお酌をいたしました」

犬・狸娘『くっ・・・!』

大狸「ワッハッハ!男!では・・・!」

男「ええ、乾杯、です」カチャン

大狸「んぐっ、んぐっ・・・。ぷはあーー!!やはりのう!お主と飲む酒は美味いわ!」

男「あはは。ありがとうございます。・・・あ、この甘酒、本当に美味しい。何て言うか、香りがいいですね」

狸侍女「はい。老若男女、全ての方が飲めた方がいいかとも思いまして、ほんの少し果物の汁を入れてあります」

男「へえ・・・。うん、本当に美味しい」コクン

狸侍女「お褒めの言葉、ありがたく承ります」

男「本当にすごいんですね、狸侍女さん。何でも出来て・・・。心から尊敬しますよ」

狸侍女「・・・い、いえ。侍女ですので、このくらいは当然です///」ポッ

犬娘「うー・・・!!」

狸娘「わ、私だってあんなこと言われていませんのに・・・!」

狐娘「・・・あ、この煮物美味しいわ・・・」モグモグ

大狸「ワッハッハ!のう、男よ!今日の件も何かの縁!どうじゃ?狸娘を嫁に貰ってはくれぬか!?」

男「へっ?」

犬娘「はぅわ!?」

狸娘「お、おおおお祖父様!?///」ボンッ

狸侍女「狐娘様、こちらの煮魚も自信作でございます」スッ

狐娘「あら、金目鯛ね。頂くわ・・・うん、凄く美味しいわ」モグモグ

大狸「お主、今付き合いのある女子(おなご)はおるのか?」グビグビ

男「い、いえ。いませんけど」

大狸「ならよかろう!狸娘は、多少わがままではあるが、儂の娘じゃ!器量はよいぞ?」

男「い、いや、そんなこといきなり言われても!今日会ったばかりの女の子と、いきなり結婚だなんて言われても困りますって!」アタフタ

狸娘「お、お祖父様!男様の言うとおりです!性急過ぎますわ!」

大狸「何じゃ。お主とてまんざらでも・・・」

狸娘「わー!わー!お祖父様!?おかしなことを言うようでしたら、私でも怒りますわよ!?///」

犬娘「そうですよ!男さんはそんな気はこれっぽっちもありませんから!」

大狸「おお、犬娘。お主も男のことが・・・」

犬娘「わー!わー!お、大狸のお爺さま!?それ以上言ったら、私でも怒るんですからね!?///」

狸侍女「まあまあ、お二方。落ち着いてください。主様も、あまり煽るのはお控えになりますように」

狸娘「うるさいですわ狸侍女!男様に褒められたからっていい気になって!」

狸侍女「な・・・!わ、わたくしは別に、いい気になってなど・・・!///」

犬娘「あー!その反応、まさか狸侍女さんまで!?」

狸侍女「な!?そ、そんなことはございません!」

ギャーギャー! ワイワイ

狐娘「結婚、ね・・・」トクトク クイッ

狐娘「あら、この甘酒、本当に美味しいわ」ホウ

男「・・・なあ、狐娘?」ソロソロ

狐娘「あら、男さん。あの騒ぎの中心人物が、ここに来ていいのかしら?」  

男「勘弁してよ・・・。狸娘と結婚だなんて、いきなり過ぎるよ・・・」

狐娘「あら。なら、狸侍女さん・・・はともかく。犬娘はどうかしら?」

男「あはは。犬娘は、兄貴を取られるみたいで嫌がってるんだろ」

狐娘「・・・犬娘。頑張りなさいね・・・」

男「?」

狐娘「それで、男さん。私に何かお話でもあるのかしら?」

男「ああ、うん。狐娘」

狐娘「何かしら?」

男「・・・何を隠してる?」

狐娘「・・・・・・は?」 

男「今朝、秋之村の中央広場で忍者みたいな格好した妖(ひと)達から身を隠したとき、狐娘は少し震えてた。まるで恐れているみたいに」

狐娘「そ、そんなこと・・・」

男「それだけじゃない。初めて会った日の帰り道だって、どこか物憂げだった。何があった?」

狐娘「っ・・・!」

大狸「おぉーい!男よ!もっと付き合わんか!飲み足りないわい!」

犬娘「あ!男さん!次は私がお酌を!」

狸娘「い、いえ!次こそは私が!」

狸侍女「僭越ながら、先程もお酌したわたくしが」

ギャーギャー! ワイワイ

狐娘「ほ、ほら、呼んでるわよ。行ってきなさい」

男「でも・・・」

狐娘「男さん。あなたは、とても優しい人。でも、今の私には、その優しさは辛いだけなのよ。・・・祭りの最終日、明後日の冬華村。そこで、全てを話すわ。だから、それまで待っていて・・・?」フルフル

男「きっとだぞ?・・・俺で力になれることがあるなら言ってくれよ?絶対に助けるから」

大狸「おぅい男ぉー!」

男「ああ、はい!今行きますよ!」

大狸「で、どうじゃ!狸娘を嫁に!なんなら、狸侍女もつけるぞ!一夫多妻もありじゃろうて!」

男「い、いやいや!俺にはそんな甲斐性ありませんから!」

狸娘「お、男様と夫婦(めおと)に・・・!///」

犬娘「うぅーー!」プルプル

狸侍女「わたくしは侍女ですので、夫婦の契りなどは・・・。主様がわたくしがおらずとも生活出来るようになってからでないと・・・」

大狸「ほほう?その気はあると?」

狸侍女「・・・主様、後ほど、わたくしと組み手をしましょうか。ああ、大丈夫です、ほんの500本ほどですので。おや、どうしました?涙目で首を横に振って」
ガヤガヤ ワイワイ





狐娘「・・・ふ、ふふっ・・・。私だって、皆みたいに・・・っ」グスッ

ーさらに数十分後ー
犬娘「うーん、うーん・・・。おとこひゃあん・・・」スースー

狸娘「お、おとこしゃま・・・。ふぇへへ・・・」ムニャムニャ

大狸「ワッハッハ。子供らは眠ってしもうたか」グイッ

狸侍女「主様、そろそろお控えになりますよう。お身体に障ります」

男「そうですよ、飲み過ぎです」

大狸「うむ、すまんの。ついつい酒が進んでしもうたわ」

狐娘「うぅ・・・ん・・・」スヤスヤ

男「あ、狐娘も寝ちゃったか」

狸侍女「既に、別室に布団を敷いてあります。お風呂は明日の朝入っていただくことにして、今夜はこのまま眠って貰いましょう」

狸侍女「では、三人を運んで参ります」

男「あ、俺も手伝いますよ」

狸侍女「いえ、大丈夫ですので、男様は、主とお話でもしていてくださいませ」ヒュッ

男「眠っている妖(ひと)三人抱えて移動したのか?本当に何者なんだあの妖(ひと)・・・」


大狸「あやつは儂ら狸の一族でも上位に位置した戦闘系家系の出身でのう。その一族においても特に有能であると言われておったのよ」

男「へえ。それはすごいですね」

大狸「男、お主は怖がらんのか?」

男「え?」

大狸「いや、実はの。儂ら妖の者らが戦を止めてから、あやつの一族はその力を生かせず、衰退していったのじゃよ。戦の事のみを追求してきた一族であったがゆえ、戦のない世の中になっては、滅ぶしかなかったのじゃろう」

男「・・・」

大狸「じゃが、衰退していく一族を見ていることが出来なくなったのであろう・・・。先代当主、狸侍女の父親じゃな。あやつは、人の世への侵攻を企ておったのよ。再び戦になれば、一族は復興出来ると考えたのじゃろう。そして、その侵攻軍の中に、まだ幼かった狸侍女はおった」

ー10年前・夏雨村 戦狸(せんり)一族の里ー武者狸(現・大狸)「考え直せ!戦狸!」

戦狸(狸侍女の父)「考えは変わらぬ!再び人との争乱を巻き起こす!そうなれば、我ら一族は再び栄華を巻き起こす事が出来る!」

武者狸「人との争いが終わり、幾年もの月日が流れた!今更人との争いを求める者などおらぬ!貴様のやろうとしていることは、いたずらに民を傷付けることだぞ!」

戦狸「ならば!!我らは滅べと!?戦のない世の中では、我らは生きること叶わぬ!武者狸よ!貴様は、他の民を傷付けぬ為、我らに滅びよと!そう言うのか!?」

武者狸「違う!戦う以外の生き方を探せと!そう言っておる!何故解せぬ!?」

戦狸「・・・武者狸よ。もう無理なのだ・・・!我ら戦狸一族は、もう止まらぬ!かつては二千を誇った我ら一族も、今ではわずか576だ!戦を生業とし、ここまで来た我らの誇り。今更捨て去ること叶わぬ!」

武者狸「・・・!どうしても行くと言うのであれば、我らは貴様らを力ずくでも止めるぞ!」スラッ

戦狸「武者狸よ!我らの邪魔をするなら、我らも貴様らを推し通る!」チャキッ

武者狸・戦狸『全軍・・・』

ガチャガチャッ!!

スラッ シャキン! シャキン!

武者狸・戦狸『かかれえぇぇ!!』


ーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー

男「そんなことが・・・」

大狸「今思えば、あれがあ奴らの最期の意地だったのじゃろう・・・。どうせ滅びるのなら、せめて戦いの中で散ろうと・・・」

男「・・・」

大狸「あ奴らは、その戦いでほぼ全滅した・・・。自刃した者も、数多くおった。戦狸は、最期に言っておったよ。『何故、我らは滅びねばならぬ?戦の無い世の中。多くの民の望んだ世の中。民の望んだ世の中に、我らはどうしていられない?』、とな・・・」

大狸「あ奴らも、本当は分かっておったのよ。戦わずとも生きる術を見つけ、生きていくのが一番よいと。じゃが、戦狸一族としての誇りが、それを許さなかった。戦を捨てるのなら、生きていないのも同じであると、そう思っておったのよ」

男「・・・それで、狸侍女さんは?」

大狸「うむ。戦いが終わった後、自失呆然といった様子で屍の真ん中に座っておった。父親の使っておった槍を抱き締めての」

男「やっぱり、狸侍女さんも、向かってきたんですか?」

大狸「いや。あ奴は、何もしなかった。ただ、座っておるだけでの。あ奴の忘れ形見、殺す訳にもいかず、あ奴が見つけることの出来なかった、戦う以外の道。それを見つけさせるために、連れ帰ってきたのよ」

男「そうだったんですか・・・」

大狸「当然、始めの頃は村の皆から避けられておってのう。皆、怖がっておったのよ。槍さえ持たせれば、どんな獲物でも一撃で仕留めて帰ってくる。まだ幼いのにも関わらず、じゃ。今でこそ皆も狸侍女と接してきて、当たり前のように接してはおるが。お主は、どうじゃ?この話を聞いて、怖いと思うか?」

男「え?何でです?」

大狸「何で、とは。戦闘系一族の形見。戦いにおいては並ぶもの無しとさえ言われていた者じゃぞ?恐れはせんのか?」

男「いえ、全然。確かに、話だけ聞けば、恐ろしいですけど、実際に話してみましたし、恐ろしいなんてことは全然思いませんよ。狸侍女さんは、何でも出来る、素晴らしい女の人ですよ。それに、可愛らしいですし」

大狸「・・・!くっくっく。なるほど、犬娘や狸娘の気も知れるというものじゃ・・・!のう、狸侍女!」

男「えっ!?」

狸侍女「っ・・・///」

男「い、いや、あはは・・・。恥ずかしいこと言っちゃいましたね・・・///」テレ

狸侍女「い、いえ。その・・・ありがとうございます、男様。そのようなこと言われたのは初めてですので、その・・・どう言ったらいいのか・・・///」

男「あ、あはは・・・」

大狸「ワッハッハ!これはこれは!面白いのう!」

狸侍女「主様、組み手を二倍に増やしましょうか?」

大狸「すまんすまん!くっくっく。じゃが、こんな展開になるとは・・・!」

狸侍女「っーーー///」

大狸「ワッハッハ!さて、男よ、風呂に行かぬか?ここの風呂は儂自慢での!」

男「はい、是非ご一緒させてください」

大狸「うむうむ。では、行こうか」

狸侍女「で、では、お二方のお着替えを用意しておきます」

大狸「うむ。頼むぞ」

男「すいません、お願いします」

狸侍女「行ってらっしゃいませ」ペコリ

ー大狸の屋敷・浴場ー
カポーン
男「うわあ、結構広いんですね」

大狸「うむ。風呂には拘りたかったからのう」

男「細かいところまで装飾が凝っていて、とても気持ちよさそうです」

大狸「ワッハッハ!見る目があるのう、男は」

男「俺も、風呂は好きですからね」

大狸「よし、では浸かるとしようか!」

カポーン

男「・・・ふぅー。いい気持ちですねー」

大狸「じゃろう?儂自慢の風呂じゃ」

男「ふう・・・」

大狸「はぁーー・・・」

カポーン

男「・・・大狸さん」

大狸「・・・んー?」

男「狐娘の様子がおかしい理由、知ってますよね?」

大狸「・・・うむ」

男「教えてはもらえないでしょうか?」

大狸「狐娘本人はお主に話したか?」

男「いいえ」

大狸「なら、儂が言うわけにもいくまいよ」

男「・・・でも、気になるんです。狐娘がたまに見せるあの悲しげな顔。きっと理由がある」

大狸「それを知ってどうする?お主にはどうにも出来ぬ事かも知れぬ。狐娘はお主には助けを求めておらぬかも知れぬ」

男「それでも。困っているなら、助けてあげたいんです。友達ですから」

大狸「なら、信じて待っておれ。あ奴も、今は整理する時間が欲しいじゃろうて・・・」

男「・・・はい」

ー数分後ー
大狸「よし。では、儂はそろそろ上がるとしよう」ザパッ

男「あ、俺も上がります」ザバッ

ガラッ

大狸「うむ。着替えもあるな。では、着替えたら、今日は寝るとしようかの。明日も早いのであろう?」

男「そうですね。春陽村に行くと言っていましたから。一番遠い春陽村に行くってことは、早めに出ないと時間が無くなるでしょうし」

大狸「そうじゃのう。名残惜しいが、狸娘か狸侍女の婿に来れば、また会えるからの」

男「いやいや・・・」

大狸「ワッハッハ!まあ、儂も冗談で言っておるのではないからの。よく考えておいてくれ」ノッシノッシ

男「あ、お休みなさい」

男「・・・はあ。大狸さん、冗談じゃない、とか言っていたけど、婿になるとか嫁にするとか、いきなり過ぎるよなあ・・・」

狸侍女「男様」ヒュッ

男「うわあ!?た、狸侍女さん!」

狸侍女「驚かせてしまい申し訳ありません。主様より、寝室へとご案内せよとのことでしたので、参上いたしました」

男「あ、そうなんですか。よろしくお願いします」

狸侍女「はい。では、こちらへ」スタスタ

男「(てっきり、俺も『ヒュッ』で連れて行かれるのかと思った)

狸侍女「・・・」スタスタ

男「・・・」テクテク

男「(・・・き、気まずい)」

狸侍女「(お嬢様、不義理をお許し下さい。)・・・男様」

男「は、はい?」

狸侍女「男様は、その・・・」

男「?」

狸侍女「主の言っていた、婿入りの話、いかがお考えでしょうか?」

男「え?あ、ああ。うーん、まだ俺には早いんじゃないかなー、としか」

狸侍女「そ、そうですか」

男「すいませんね、狸侍女さんまで、こんな話に巻き込んじゃって」

狸侍女「・・・いえ。戸惑いはしましたが、実のところ、嬉しくもありました」

男「え?」

狸侍女「主が仰っていたように、わたくしは、戦うことだけが存在意義である、という風習の中で育ってきました」

男「それは・・・」

狸侍女「もちろん、今となってはそんなことはございません。村の皆も、良くして下さいます。しかし、どこか距離を取られがちなのも、また事実なのです」

男「・・・」

狸侍女「私が見つけた、戦う以外の道。それは、普通の、一人の女として生きていく道でした」

男「・・・はい」

狸侍女「しかし、村の皆は、わたくしをどこかで恐れていて、そんな色っぽい話などあるわけがないと、やはり、わたくしに普通の幸せなど手に入ることは無いのだと、諦めておりました」

男「そんなことは・・・!」

狸侍女「では!・・・では、男様は、わたくしを受け入れて下さいますか・・・?」

男「!?」

狸侍女「・・・出会ってからまだ一日も経っていないのに何を、と申されるかもしれません・・・。でも、わたくしの胸にある、このもどかしい気持ち・・・!」

男「・・・」

狸侍女「主が男様にわたくしの生い立ちをお話になっていたとき、わたくしは、男様に嫌われると思っていました・・・。また、距離を取られてしまうと・・・」

狸侍女「しかし、男様は、わたくしを恐れるどころか、か、可愛らしいとまで仰って下さいました・・・///」

男「あ、あはは・・・」

狸侍女「男様。あなた様に『怖くない』と言われたとき、途方もないような喜びを感じました。確かに、いきなり婚姻などの話になったのは驚きましたが」

男「で、ですよねー」

狸侍女「・・・でも、そうなればよいとも思いました」

男「・・・へ?」

狸侍女「男様。・・・わたくし、狸侍女は。あなた様を、心よりお慕い申し上げております///」

男「っ・・・!」

狸侍女「多くは望みません・・・。わたくしの、たった一つの望みは。男様、あなた様と、添い遂げることにございます///」

男「た、狸侍女さん。俺は・・・っ!」

狸侍女「・・・」スッ

男「!」

狸侍女「・・・男様。今すぐにお返事は頂けません。お受けになって下さるとしても、お断りになるとしても、わたくしの、心が追い付きません・・・。卑怯ですね、男様には、心の準備などさせませんでしたのに・・・」

男「・・・いえ。よく分かります・・・」

狸侍女「わたくしも、明日より男様と共に参ります。男様があと二つの島を巡り、時間を掛けてお考えになった上で、わたくしをお選び頂けたのなら、最終日、答えをお聞かせ下さい。わたくしは、その時までお待ちいたしております・・・///」

男「・・・はい」

狸侍女「・・・ふふっ。ああ、こんな気持ちになったのは初めてです。嬉しくて、楽しくて、でも、どこか寂しくて・・・。でも、それが嫌じゃなくて・・・」

男「・・・ははっ」

狸侍女「ふふ。さ、お部屋に着きました。長いお話に付き合わせてしまいましたね」

男「いえ。何というか、その・・・。ありがとうございます」

狸侍女「・・・!ふふっ、おかしな方ですね。それでは、お休みなさいませ」ペコリ

男「ええ。お休みなさい」スッ パタ…

狸侍女「大好きです、男様・・・///」ボソッ

男「・・・!///」…ン

ー大狸の屋敷・男の部屋ー
男「・・・狸侍女さんに告白された・・・」

男「女の子から告白されたのなんて初めてだから、嬉しいとかいうより、どうしたらいいのか、って感じだな・・・」

リー リー 

男「・・・虫が鳴いてる。いい声だ、な・・・」ウトウト

男「また、明日も・・・、楽しくなると、いいな・・・」Zzz Zzz

ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー

ー紫苑祭・三日目ー
チュンチュン チチチ コケコッコー!!
犬娘「・・・!」パチッ ガバッ! キョロキョロ

狸娘「うふふ、男様ったらぁ・・・///」クークー

狐娘「んんー・・・」モゾモゾ スースー

犬娘「(むっふっふ。昨夜は不本意な結果に終わりましたが、今日は男さんを起こしに行くことで、狸娘ちゃんや狸侍女さんよりも一歩先んじます!)」ソロソロ スー

犬娘「(男さんと一番長く過ごしたのは私です。男さんは鈍感で、なかなか私の気持ちには気付いてくれないけど、きっと振り向かせて見せます!)」グッ!

犬娘「(今行きます!男さん!)」スタタタタ

ー大狸の屋敷・男の部屋前ー
犬娘「ふっふっふ。男さんの匂いを追えば、寝室を見つけるくらい簡単です・・・!」

犬娘「昨日は私が先に寝てしまったから、一緒に寝るって約束を守ってもらえませんでしたからね、これくらいはさせてもらわないと・・・!」

犬娘「では早速・・・!男さーん、朝ですよー!」スッ

男「うぅん・・・。犬娘、あと少し・・・」ムニャムニャ

犬娘「はうぅ!こ、この遣り取り、父さんと母さんの遣り取りとほぼ同じ・・・!///」キュウン

犬娘「お、男さん。起きないと、朝ご飯無くなっちゃいますよー?」

男「もう、少しー・・・」

犬娘「(男さん寝ぼけてる?なら・・・!)じ、じゃあ男さん。その、私も一緒に寝てもいいですか?///」ドキドキ

男「おー・・・。いいよー。おいでー・・・」モゾモゾ

犬娘「ほ、本当ですか!?で、では早速・・・!///」ソーー

狸娘「そうはさせませんわ!」スパァン!!

男「!?」ビクッ

犬娘「わきゃあっ!?た、狸娘ちゃん!?」

狸娘「あ、危ないところでしたわ!犬娘さん、抜け駆けは卑怯でしてよ!?」

犬娘「も、もうちょっとだったのに!」

狸娘「抜け駆けなんてさせませんわよ!」

ギャーギャー

男「あー、二人とも?何してるの?」

犬娘「・・・」

狸娘「・・・」

コンコン

狸侍女『男様、朝でございます。起きていらっしゃいますか?』

狐娘『それから、犬娘と狸娘が来ていると思うのだけど』

男「あ、おはようございます。わざわざすみません。二人はここで遊んでるよ」

犬娘「・・・また失敗・・・」ズーン

狸娘「また狸侍女が・・・!」ドヨーン

狐娘「ま、予想通りね」

狸侍女「皆様、おはようございます」

狸娘「・・・おはよう」

犬娘「・・・おはようございます・・・」

男「あ・・・。お、おはよう!狸侍女さん!」

狸侍女「っ!お、おはようございます男様。女性陣がお風呂を上がるまで、朝食は待っていて下さいませ。そ、それでは!」ヒュッ

狐娘「あらあら?」

犬娘「・・・。・・・!?」

狸娘「お、おお男様?昨夜、狸侍女と何かありましたの?」ワナワナ

男「な、何もないよ?そ、それよりほら!お風呂行ってきなよ!俺、着替えて大狸さんと待ってるからさ!それじゃ!」ピュー!

犬娘「あ!男さん!」

狸娘「まだ何も聞いておりませんわよ!?」

狐娘「ま、この後もどうせ男さんと一緒なんだから、その時聞けばいいでしょう?それより、早くお風呂に行きましょう?昨夜は入らなかったから、早く入りたいわ」

犬娘「仕方ないね。後で必ず聞こう!」

狸娘「そ、そうですわね。みっちりお話を聞かないと・・・!」






狐娘「男さん、大変ね」

ー数十分後 大狸の屋敷・居間ー
大狸「おお、三人とも上がったか」

犬娘「お待たせしました!」

狐娘「さっぱりしたわ」

狸娘「おはようございます、お祖父様」

大狸「うむうむ。よし、皆揃ったことじゃ、朝食にしようかの。おうい」パンパン

狸侍女「既に用意は出来ております」

ズラー!

男「一瞬で朝食が食卓に並んだ!?」

狸侍女「侍女ですので」

男「いやいや・・・」

大狸「ワッハッハ!気にするな!では、頂こうかの」

全員『頂きます!』

カチャカチャ ズズー モグモグ

犬娘「(お、男さん・・・)」コソコソ

男「(ん、何?)」

犬娘「(わ、私、ネギ類だけはどうしてもだめで・・・)」チョコン

男「(ああ、この焼いたタマネギか。うん、いいよ。俺が食べるよ)」

犬娘「(あ、ありがとうございます!それで、あのう・・・)」スッ

男「(ん?まだ何か苦手なもぬぁ!?)」

犬娘「(い、一度やってみたかったんです・・・。はい、あーん、って///)」

男「(い、いや、それは・・・///)」

犬娘「(だめ、ですか・・・?)」ウルウル

男「(う・・・!わ、分かったよ!・・・あーん)」

犬娘「(えへへ。あ、あーん///)」

男「(あむっ。んぐんぐ。うん、美味しいよ)」

犬娘「(そ、そうですか!えへ。えへへ///)」ニコニコ パクパク

狸娘「・・・」

狸侍女「・・・」

男「・・・はっ!?」

狐娘「小声で話してたって、こんなに近いんだもの。何してるかなんて丸見えよ」ハァ…

狸娘「い、犬娘さん・・・。また抜け駆けを!」

狸侍女「ふむ・・・。男様。次は私が男様に食べさせてあげましょうか?」

狸娘「なあ!?狸侍女、あなたまで!?」

犬娘「だ、だめです!男さんには、私が食べさせてあげるんです!」

ギャーギャー!

大狸「これはこれは。本当に賑やかじゃのう・・・」ズズー モグモグ

狐娘「はあ・・・。少し賑やか過ぎる気もするけどね・・・」

ー数分後ー
全員『ごちそうさまでした!』

狸侍女「では、わたくしは食器を片付けて参ります」ヒュッ

男「今度は食卓から一度に食器が消えた・・・」

大狸「さて、狐娘よ。もうすぐに出るのであろう?」

狐娘「ええ。次は春陽村へ。少し時間が掛かるから、早めに出ないと」

狸侍女「主様。わたくしも男様と共に参ろうと思います」ヒュッ

大狸「おお!そう言うと思っておったわい。儂のことは気にせず、存分に楽しんでくるといい!」

狸侍女「ありがとうございます」ペコリ

犬娘「た、狸侍女さんも来るんですか!?」

狸娘「お、お祖父様!私も行って参ります!」

犬娘「狸娘ちゃんまで!?」

大狸「ワッハッハ!構わん構わん!行ってこい!」

狐娘「また賑やかになるわねえ・・・」 

男「あはは。楽しくていいじゃない」

犬娘「(こ、これは早急に何らかの対策を立てねば・・・!!)」

狸娘「(この旅行で、一気に男様との仲を縮めてみせますわ!)」

狸侍女「(お二人には申し訳ないですが、わたくしとて負けませんよ・・・?)」

ピカァッ! ゴロゴロ!

狐娘「さ、そろそろ行きましょうか」

ー夏雨村・港ー
大狸「ではの!また最終日にでも会おうではないか!」

男「はい、そうですね」

犬娘「大狸のおじいさん、ありがとうございました!」

狐娘「ありがとうございました」

大狸「なんのなんの!またいつでも来るがよいぞ!」

狸娘「ではお祖父様、行って参ります!くれぐれもお身体には気を付けて下さい!」 

狸侍女「行って参ります。2日間は屋敷を空けますが、決して不摂生などしませぬよう、お願いいたします」

大狸「分かっておるわい。二人も、気を付けるのじゃぞ?」

一つ目船頭「ではー、夏雨村発ー、春陽村行き便ー。出発いたしますー」

大狸「男よ!皆のこと、くれぐれも頼んだぞ!」

男「はい!」

大狸「よし!気を付けていけー!」

全員『行ってきます!』

ー船上・甲板ー
男「うわ、風が強いな・・・」ビュオォーー!

狐娘「そうね、魔海から出るには、この強風を抜けなければいけないのよ。魔海に入るときは問題ないのにね・・・」バタバタ!

犬娘「か、風が強いと、よろけちゃいますー!お、男さん、掴まっててもいいですか?」ヨロヨロ

男「ああ、犬娘は小柄だから、余計にこの風は辛いよね。いいよ、おいで」

犬娘「わっふっふー///」ギュウ

狸娘「く!犬娘さん!?何度も抜け駆けして、卑怯ですわよ!?」

犬娘「ひ、卑怯じゃないよ!」

狸娘「やーい!卑怯者ー!」

犬娘「な、何をー!?」

ギャーギャー!

男「あ、犬娘!・・・行っちゃった」

狸侍女「(・・・次に船に乗るときは、後ろから男様に抱き締めて頂きましょうか・・・)」ポワワーン…

ーー
ーーーーー
ーーーーーーーーー
男『狸侍女・・・』ギュウ

狸侍女『あ、お、男様・・・///』

男『狸侍女は、暖かいな。それに、いい匂いがする・・・』スンスン

狸侍女『お、男様、駄目です・・・。髪の匂いを嗅ぐなんて・・・!は、恥ずかしいです・・・///』

男『そんなこと言って、本当はこういう事、されたかったんだろ・・・?もうお前は俺だけの侍女だ・・・。ずっと俺の傍にいろ・・・』スッ

狸侍女『あ、男・・・様・・・』チュッ

ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーー

狸侍女「(うふふ、男様、そんなこと・・・はっ!?わ、わたくしとしたことが、何て妄想を・・・///)」カアァー


狐娘「・・・」ボー… 

男「狐娘?」

狐娘「・・・あ、ご、ごめんなさいね。少しぼうっとしていたわ。あら。犬娘は?」

男「ああ、何か狸娘と遊んでるよ。狸侍女さんは、向こうで海を見てるみたい」

狐娘「あら、そう・・・。それで?何か用かしら?」

男「いや、その・・・大丈夫か?」

狐娘「ええ、大丈夫よ。本当に、少しぼうっとしただけだから」

男「そうか?ならいいけど・・・」

狐娘「ふふっ、わざわざそんなことを言いに来てくれたの?ありがとうね」

男「・・・うん、まあ。寂しそうな顔、してたからさ」 

狐娘「・・・ふふっ。本当にあなた、妖(ひと)のことよく見てるのね」

男「そうかな?」

狐娘「そうよ。私は、あまり表情に変化なんて見せないのに」

男「そうなのか?でも、辛いだろ?そうやって、自分の中に溜め込むのは」

狐娘「ふふ。もう慣れたわ」

男「それでも、だよ。心があるんだから、辛くないわけ無いよな」

狐娘「・・・そう、かもね」

男「・・・」

狐娘「・・・」

男「俺は、狐娘が話してくれるまで待つよ。待っていてくれ、って言われたしな」

狐娘「・・・ええ」

男「でも、悩み事とかじゃなくても、辛かったら辛い、って言ってくれよ?具体的なことは言わなくていいからさ」

狐娘「そうね。そうするわ・・・」

男「うん。頑張れよ」ナデナデ

狐娘「っ・・・!///」ビクン! 

男「あ、悪い。嫌だったか?」

狐娘「い、いいえ。急だったから、少し驚いただけよ///」

男「そっか。でも、悪かったな。いきなり女の子の頭に触るなんて」

狐娘「い、いえ、その・・・」

男「?」

狐娘「よ、よければ、もう少しだけ撫でてくれないかしら?///」

男「・・・いいよ。俺でよければ、好きなだけ」ナデナデ

狐娘「・・・ふふっ」

男「ん?」

狐娘「くすぐったいけど、気持ちいいわ・・・///」

男「それは良かった」

狐娘「ええ。とてもいい気持ち・・・。これからも時々、お願いしようかしら?」

男「ははっ、喜んで」ナデナデ

ーーーーーーーー
ーーーーー
ーー

ー春陽村・港ー
男「着いたー!」

狸娘「ここが春陽村ですわ。一年を通して緩やかな暖かさが続くため、野菜や果物が美味しいですわね」

男「へー」

狐娘「ここは、主に鬼族が暮らしているわね」

男「鬼?あ、そういえば、前に紫苑祭の開催場所を決めるときの話し合いで、春陽村代表の名前が、確か・・・」

犬娘「鬼神様ですね」

男「そうそう、鬼神、様?だったよな。結構恐そうな名前だよなー」

狐娘「ふふっ。でも、そうでもないわよ?愉快な方よ」

男「そうなの?」

狸侍女「鬼神様は、豪放磊落。この言葉がまさにぴったりかと」

男「へえー」

犬娘「さ、とにかく行きましょう!ここの果物は安くて美味しいから楽しみにしてたんです!」

男「よし、それじゃ、行こうか」

ー春陽村・中央区ー
ワイワイガヤガヤ ザワザワ

男「へえー。結構賑わってるな」

犬娘「確かに、賑わっていますけど、気を付けて下さいね?」

男「え?何に?」

狸娘「ここ、春陽村は結構無法地帯なのですわ」

男「え!?」

狸侍女「一応、最低限の法はあるのですが、盗みや喧嘩などは日常茶飯事です」

狐娘「まあ、暮らしている妖(ひと)達の大部分の種族柄、仕方ないことではあるけどね」

男「鬼族、だっけ?本当に鬼なんだ・・・」

狐娘「ええそうよ。周りを見て、気付かない?」

男「あ、確かに。耳や尻尾が無いから、とても人にそっくりだけど、角が生えてる」

犬娘「鬼族は、強い方が正義、っていうちょっと乱暴な考え方を持っていますからね」

男「こえー・・・」

狸侍女「安心なさってくださいませ、男様。鬼だろうが何だろうが、わたくしがやっつけてご覧に入れます」

男「ありがとうございます、狸侍女さん。でも俺は男ですからね。いざという時は、俺も頑張りますよ」

狸侍女「と、いうと?」

狐娘「男さんも、昔武術をやっていたの?」

男「うん。『獅神流(ししんりゅう)』っていう流派の武術を、護身術程度にね」

狸娘「で、では、いざという時は守って下さいますか?」

男「あはは。鬼を相手にどこまでやれるかは分からないけど、皆を守れるように頑張るよ」

犬娘「男さん、かっこいいです!///」

狸娘「(早速誰か絡んでこないかしら?)」キョロキョロ

狸侍女「男様。宜しければ今度、わたくしと手合わせをしていただけないでしょうか?」

男「どこまでやれるか分かりませんけど、いいですよ」

狐娘「ふふっ。その時は私も観戦させて貰うわね」

男「あはは。みっともないところは見せられないな」

犬娘「それも楽しみですけど・・・」

男「え?」

犬娘「な、何か食べに行きませんか?///」クゥー

狸娘「そうですわね。長らく船に揺られていたお陰で、お腹が空きましたわ」

狸侍女「では、この通りを真っ直ぐ進んだ所にある、観光客向けの比較的安全な食事処へ行きましょうか」

男「そうですね。よし、行こう!」

全員『おー!』

ー春陽村・中央区 食事処『雲』ー
ガラガラ

ガヤガヤ ザワザワ

男「こんにちはー」

鬼店員1「いらっしゃいませ!何名様でお越しですか?」

男「あ、五人です」

鬼店員1「五名様ですね?当店、全席禁煙となっておりますが宜しいでしょうか?」

男「はい、大丈夫です」

鬼店員1「恐れ入ります。それでは、お席の方へご案内いたします、こちらへどうぞー。五名様ご案内でーす!!」




鬼店員1「それでは、お絞り失礼いたします。ご注文がお決まりになりましたら、店員へお声をお掛けくださいませ!失礼いたします」スタスタ

男「・・・」

狐娘「? 男さん、どうかしたの?」

男「いや、何か懐かしい気分になって泣きそうになった・・・」

犬娘「?」

男「いや、何でもないんだ!さ、食べるもの決めようか!」ペラッ

    ー食事処『雲』・お品書きー

  ー冷前菜ー       ー温前菜ー
 ・筑紫のお浸し     ・里芋煮っ転がし
 ・新玉葱の盛り合わせ  ・筍と大根の煮物          

  ーご飯物ー       ー麺物ー 
 ・春陽豚の豚丼     ・月見そば
 ・焼き魚定食      ・とろろそば
 (味噌汁・漬け物付き) ・掛けそば
 ・お茶漬け       ・肉そば

  ー飲み物ー
 ・米酒(秋之村産米使用)
 ・果実酒(夏雨村産果実使用)
 ・清酒(冬華村産清水使用)
 ・果実濁り酒(春陽村産果実使用)

男「へー。品数は少ないけど、どれも美味しそうだな」

狸侍女「ここは、調理する者が一人しかいないので、自然と品数を絞るしか無かったのだとか」

男「そうなんですか?」

狸侍女「はい。実は、ここの店主はわたくしの知り合いでして」

犬娘「そうだったんですか?」

狸娘「私も初耳ですわね」

狐娘「よっぽど、これらの料理にこだわりがあるのかしら?」

狸侍女「いえ。単純に調理場の面積の問題で・・・」

男「? まあ、その話は食べながらでも聞くとして。皆、注文するもの、決まった?」

犬娘「私は、春陽豚の豚丼にします!」

狸侍女「わたくしは月見そばに」

狸娘「私はお茶漬けにしますわ」

狐娘「んー、そうね・・・。肉そばにするわ」

男「よし、俺は焼き魚定食だな。すいませーん!」

鬼店員2「あ、はーい!お待たせいたしました。ご注文お伺いいたします!」

男「えーと、豚丼を一つと、月見そばを一つ。それから、お茶漬けを一つと、肉そばを一つと、焼き魚定食を一つで」

鬼店員2「かしこまりました!お料理出るまで、少々お待ちくださいませー!」ペコリ テクテク

男「よし。それで、さっきの話ですけど、面積の問題って、どういうことですか?」

犬娘「確かに、このお店は広くは無いですけど、調理場に一人しか入れない、ってほどじゃないですよね?」

狸侍女「はい。実は、ここの店主は蜘蛛女と申しまして、土蜘蛛の一族なのです」

狐娘「ああ、成る程ね」

犬娘「そういう事でしたか」

狸娘「それなら、まあ」

男「つ、土蜘蛛の一族?あ、店の名前も確か・・・」

狸侍女「はい、言葉遊びですね」

狸娘「土蜘蛛の一族と言えば、この春陽村でもかなり有名な家系ですわね。鬼の一族と互角に争えるだけの力を持ちながら、その力を振るいたがらない平和主義、だったかしら?」

狐娘「そのいいとこのお嬢様が、何で小さな料理屋を?」

狸侍女「はい。元々土蜘蛛の一族は平和主義も相まって、庶民的なことでも有名でしたが、蜘蛛女は特にその傾向が強く、名門の家に生まれながら、幼い頃から抱いていた夢が、『料理屋の女主人』だったそうで」

犬娘「へー!素敵な夢ですね!」

狸侍女「はい。わたくしと蜘蛛女は、数年前にこの春陽村で出会いました。特にこれといった出来事があったわけではないのですが、何故か気が合い、交流が続いています」

男「へー。そういえば、さっき皆納得していたけど、どうして蜘蛛女さんが調理場にいると、他に妖(ひと)が入れないんです?」 

狐娘「単純な話しよ。土蜘蛛の一族は、上半身は私達と同じ、人に近い形。でも、下半身はそのまま蜘蛛なのよ」

男「・・・えっ」

狸侍女「はい。そういう訳で、下半身がどうしても大きい為、幅が無くなってしまったらしいのです。まあ、少し動けば端から端まで手が届くので、問題は無いそうですが」

男「下半身が蜘蛛かあ・・・。それは予想してなかったなー」

狸侍女「実は、この島に着いたときに、蜘蛛女に文を出しておきました。わたくしが、人間の男様を連れてゆくと書いておいたので、男様に会いに出てくるかと」

男「そうですか。土蜘蛛の一族かー。どんな妖(ひと)なんだろう」

ー数分後ー
鬼店員1「失礼いたしまーす。お待たせいたしました、こちら月見そばとお茶漬け、肉そばでございます!」

男「あ、どうも。この辺に置いておいてください」

鬼店員1「かしこまりました!失礼いたしまーす」コト コト

狐娘「どうも」 

狸娘「ありがとうございますわ」

鬼店員1「まもなく店長が参りますので、少々お待ちくださいませ!」ペコリ トコトコ

男「店長直々に料理を運んできてくれるのか」



蜘蛛女「お待たせいたしました。こちら春陽豚の豚丼と、焼き魚定食でございます」

鬼客1「お!蜘蛛女ちゃん!調理場から出てくるなんて珍しいね!俺に会いに来てくれたのかい!?」

犬客1「馬鹿言うな!俺にだよな!」

鬼客2「オメエも何言ってやがるんでえ!俺に決まってらあな!」

狸客1「何をー!?俺だろ!」

ギャーギャー!

蜘蛛女「うふふ。あちらの方々は気にしないでね?初めまして、皆さん。そして、男くん。私は蜘蛛女よ。よろしくね?」スッ

男「あ、男です。よろしくお願いします」ギュッ

蜘蛛女「ふふ。あなた、面白いわね。人間なのに、私が恐ろしくないのかしら?」

男「恐くはないですよ。正直なところ、驚きはしましたけどね」

狸侍女「久し振りですね、蜘蛛女」

蜘蛛女「本当にね。変わりないようで何よりだわ、狸侍女」

狸侍女「あなたこそ。変わりないようで」

蜘蛛女「ええ。忙しくて、病気になる暇もないわ」

男「それはいいことですよ」

蜘蛛女「そうね。お陰様で大繁盛ですもの」

犬娘「蜘蛛女さん!これ、とても美味しいです!」パクパクモグモグ 

狸娘「ええ、ただのお茶漬けだと思っていたのに、この美味しさ。なかなか出来ますわね」

男「あ、じゃあ俺も・・・」パクッ

蜘蛛女「ふふ。どうかしら?」

男「うん!美味しいです。これなら、この盛況ぶりも頷けますね」

狸侍女「良かったですね、蜘蛛女」

蜘蛛女「ええ。ふふ、ありがと。さて、私は調理場に戻るけど、、ゆっくりしていってね。また今夜にでも会いましょう?」トコトコトコトコ

男「・・・綺麗な人だったな」ボソッ

狐娘「あら。男さんはああいう妖(ひと)が好みなのかしら?」

犬娘「!」

狸娘「!」

狸侍女「そうなのですか?男様」

男「い、いや、違うって!そういう話じゃなくて、純粋に綺麗だな、って思っただけ!」

犬娘「そうなんですか?」

男「う、うん。ほら、紅い和服がすごくぴったりだったじゃない?それで、すごく綺麗だな、って」

狸娘「成る程・・・。男様は赤が好きなのですね?」

男「え?あ、ああ。まあ、好きな方だね」

狸娘「(荷物の中に赤い着物はあったかしら?)」

狸侍女「まあ、男様の好みは追々明らかにしていくとして・・・」

男「えぇー・・・」

狐娘「今は、料理を食べてしまいましょう?」

犬娘「そうですね!こんなに美味しいんですから、温かい内に頂きましょう!」

男「そうだね。食べちゃおうか」




狐娘「・・・あ。油揚げが入ってる・・・」

ー数十分後ー
男「ごちそうさまでした!」

犬娘「とても美味しかったですねー」

狐娘「そうね。また来たいわ」

狸娘「ですわね」

狸侍女「はい。蜘蛛女も喜ぶかと」

犬娘「さて!じゃあご飯も食べましたし、行きましょうか!」

狐娘「そうね、お会計しましょうか」

男「おっと、俺が払うから。先に出てて」サッ

狸娘「お、男様。このくらいは私が!」

狸侍女「そうですよ。申し訳ないです」

男「あはは。気にしないでよ。すいませーん、お会計お願いします」

鬼店員3「はいありがとうございます!お会計、250円でございます!」

男「相変わらず安いな・・・。それじゃあ、これで」チャリン

鬼店員3「はい、250円丁度お預かりいたします!こちら領収証のお返しでございます!ありがとうございました!またお越しくださいませ!」

蜘蛛女「あら、お帰り?また来てちょうだいね」

男「あ、はい!どうもごちそうさまでした!」

犬娘「ごちそうさまでしたー!」

狐娘「油揚げ、ありがとうございました」

狸娘「また必ず寄りますわ!」

狸侍女「では蜘蛛女。また後程」

蜘蛛女「ええ、また夕方に会いに行くわ。それじゃあね、楽しんでいらっしゃいな」フリフリ

男「はい。行って来ます」ガラガラ

ガラガラ ピシャッ



蜘蛛女「・・・人間、か・・・。無事に帰れるといいけれど・・・」

鬼店員1「て、店長!注文溜まってきましたよ!?」

ー春陽村・大通りー
ワイワイ ガヤガヤ

男「それで、次はどこへ?」

狐娘「そうねえ。春陽村と言えば、美しい山々を登るのが楽しいわね」

狸侍女「そうですね。山の中には綺麗な花が沢山咲いていたりして、なかなか良いものです」

犬娘「だけど確か・・・」

狸娘「山賊紛いの行為をする鬼もいるとか・・・」

男「えっ」

狐娘「まあ、確かにそういう輩もいるけど・・・」

狸侍女「わたくしがおりますので問題は無いかと」

男「成る程・・・」

狐娘「まあ、いざとなれば奥の手もあるしね」

犬娘「奥の手?」

狐娘「心配しないで、ってことよ。私だって、一応六尾なんだしね」

狸娘「な、なら、大丈夫そうですわね」

狸侍女「はい。それでは、参りましょうか」

ー春陽村・巡山登山口ー
男「おお、予想よりは小さいんだな」

狐娘「まあ、今日一日だけだしね。あまり高い山に登って、帰れなくなったりしたら大変だもの」

狸侍女「それに、この山は特に美しい景色を見ることが出来ますしね」

犬娘「ほえー!楽しみです!」

男「確かに、俺達の他にも登山客が見えるな」

犬娘「どんな景色があるんでしょうねー?」

狸娘「わ、私、あまり体力に自信は・・・」

狸侍女「大丈夫です。道のりこそ多少は長くありますが、急な坂などがあるわけではないので、お嬢様程度の体力でも登り切れるかと」

狸娘「て、程度で悪かったですわね!いいですわ!登り切って見せますわよ!」

狐娘「ふふ。・・・狸侍女さん、いざという時は頼りにしてますからね?」

狸侍女「はい。わたくしにお任せくださいませ。皆様の安全は保証いたします」

男「ありがとうございます、狸侍女さん。よし!それじゃあ、行こうか!」

全員『おー!』

ー巡山・二合目付近ー
男「いやー、結構緩やかなんだね」

犬娘「それに、道の端に色々な花が咲いていて、とても綺麗ですねー」

狐娘「ふふ。気に入ってくれたかしら」

狸娘「ええ。とてもいい所ですわ!でも、狐娘さんはよくこのような所を知っていましたわね?」

狐娘「ええ。実は何年か前に、父上と来たことがあるのよ」

狸侍女「そこで、わたくしと話し合い、皆様にここの景色をご覧に入れて差し上げたいとのことでしたので、この登山を計画いたしました」

男「そうだったんですか」

狐娘「昔に、父上と見た景色をもう一度見たい、っていう私のわがままもあったんだけれどね」

男「そのくらい、わがままでも何でもないさ。こんなにいい所だし、そう思うのは当たり前だって」

犬娘「そうだよ、狐娘ちゃん。こんなにいい所、連れてきてくれてありがとうね!」

狐娘「二人とも・・・。ふふっ、どういたしまして」

狸侍女「では、まだ登山は始まったばかりですので、一層張り切って参りましょう」

狸娘「そうですわね。まだ二合目でここまで素晴らしいんですもの。他にどんな綺麗な景色が見られるか、楽しみですわ」

犬娘「よーし!頑張りましょう、男さん!」

男「そうだね。頑張ろうか!」

ーその頃 巡山・四合目ー
牛頭1「ヒッヒ!この山にゃあ、まだカモがネギしょってくるな!」

馬頭1「おおともよ!しかも、ちょっと顔を隠して襲えば、馬鹿共は勝手に鬼族の連中の仕業だと勘違いしてくれるからな!」

牛頭1「こんな簡単な儲け話を思い付くなんて、俺たち天才じゃねえか?」

馬頭1「違ぇねえや!」

ギャハハ!!

馬頭2「頭ぁ!次の獲物ですぜ!ひょろひょろした男が一人に、女子供が四人でさあ!」

牛頭1「お、今度は女だらけの登山客だってよ!俺あ先に配置に着いてるぜ!」バッ

馬頭1「よっし!ここに差し掛かったらいつも通り行くぞ!」バッ

馬頭2「へいっ!」ガサガサ






???「・・・やっと見つけた・・・!」バッ

ー巡山・三号目ー
サラサラ サラサラ

男「お、この辺は小川でも流れてるのかな?」

犬娘「せせらぎの音に癒されますねー」

狐娘「もう少し先に進むと、小川の横に小さな休憩所があるわ。そこで一度休みましょうか」

狸娘「そうですわね。少し小川も見に行きたいですわ」

狸侍女「では、休憩所へ向かいましょう」

テクテク

…………

……ガサッ

牛頭1「(ヒヒッ・・・!今日のカモを発見・・・!)」

馬頭2「(それじゃあ、手はず通りに!)」

馬頭1「(しくじるなよ!)」

牛頭2「(任せといてくだせえ!)」





男「ふぅー。着いた着いた!」ドカッ

犬娘「小川の横の小さな庵っていいですねー」

狐娘「そうね。この軒先から見える小川はとても綺麗で、私の記憶にも強く残っていたわ」

狸侍女「奥にお茶汲みの道具がありましたので、お茶を入れて参ります」スタスタ

狸娘「では、わたしはそれまで小川の横で涼んでいますわね。お、男様。よ、よろしければご一緒にいかがですか?///」モジモジ

男「え?ああ、いいよ。一緒に行こうか」

犬娘「わ、私も行きます!」アセッ

男「うん、そうだね。一緒に行こう。狐娘はどうだ?」

狐娘「ふふっ、遠慮しておくわ。ここに狸侍女さんを残して行くのもなんだしね」

男「そっか。すぐ戻ってくるから、少し待っててな」スタスタ

犬娘「(た、狸娘ちゃんも狸侍女さんを待っていた方がいいんじゃないですか!?)」ヒソヒソ

狸娘「(な、何を仰いますの!?それなら犬娘さんこそ待っていればいいのではなくて!?)」

犬娘「(うぐぐ・・・!)」

狸娘「(むぐぐ・・・!)」

男「? 二人とも、行かないの?」

犬娘「はっ・・・!」

狸娘「い、今行きますわ!」

タッタッタ

ー巡山・小川ー
サラサラ サラサラ

男「おお。綺麗なかわだなー。涼しいし」

犬娘「足が冷たくて気持ちいいですねー」

狸娘「そうですわねー」

ガサガサ! バッ!

鬼男?1「おいそこのガキ共!金目のもんを置いてきなあ!」

鬼男?2「そうだぜ!?俺たちは泣く子も黙る鬼族!大人しく出さねえと、痛い目に遭うぜ!?」

犬娘「お、男さん!どどどどうしましょう!?」オロオロ

男「・・・」

狸娘「お、男様!?どうなさいましたの!?」アセアセ

鬼男?2「何だあ!?男の方は、鬼族の俺らにビビって気でも失ったか!?」

鬼男?1「みっともねぇなあ!まあ俺らはお・に!だからな!ギャハハ!」

犬娘「お、男さん!しっかりしてください!」

男「・・・いや、あのさ。あの妖(ひと)達、多分鬼族じゃないでしょ」

鬼男?1,2『ギクッ!』

狸娘「と、申しますと?」

男「うん。本当に鬼族なら、あそこまで自分を強調しないと思うんだ。でも、あの妖(ひと)達は、やたら鬼族、ってことを強調してる。まるで、鬼族の仕業に仕立て上げようかとしてるみたいに。わざわざ変な面を着けてる時点で怪しいけどね」

犬娘「じとー・・・」

狸娘「じろー・・・」

鬼男?1「う、うるせえ!何か証拠でもあんのかよ!?」

鬼男?2「そ、そうだぜ!証拠を見せろよ証拠を!」

男「証拠ねえ・・・」

男「じゃあ、その面を外してくれる?」

鬼男?2「な、何でだよ!」

男「いや、だから証拠だよ。面を外せば、鬼族かそうじゃないか分かるよ」

鬼男?1「別にそんなことしなくても、こんなことするのは鬼族だろ!」

鬼男?2「そ、そうだぞ!鬼族と言えば、野蛮で横暴!自己中心的!今の状況が証拠だあ!」

男「その言い方も、第三者が鬼族を悪く言っているように聞こえるんだよね。それこそ、鬼族のせいにするために」

鬼男?1「ぐ・・・!う、うるせえ!ともかく、俺らは泣く子も黙る鬼族!」

鬼男?2「大人しく金を渡さねえなら、力ずくで頂いていくぜ!」

ドンッ! ダダダダ!

犬娘「お、男さん!逃げましょう!」

狸娘「そ、そうですわ!早く!」

男「論破されたら諦めてくれるかと思ったけど、逆上させちゃったか・・・!よ、よし、こっちへ・・・!」

鬼男?1「逃がすか、よお!」ブンッ!

男「あ、危なっ!?そんな勢いで殴られたら大怪我するぞ!?」ヒョイッ

鬼男?2「うるせえ!テメエはいっぺん痛い目に遭えばいいんだ!」ブオッ!

男「・・・っとお!危ないっつーのに!」ダン!

犬娘「お、男さん!」

男「いいから!二人は先に庵に戻って・・・どわっ!?」ブンッ! サッ

狸娘「で、でも!」

男「俺は!おわっ!だ、大丈夫ぅわっ!だから!早く狐娘達に!おっとお!」ヒョイッ サッ タンッ

犬娘「わ、分かりました!行くよ、狸娘ちゃん!」

狸娘「ーーーっ!男様、どうかご無事で!」

タッタッタッタッ……

鬼男?1「ちっ!女の方は逃がしたか!」

鬼男?2「気にするな!庵には頭達が行ってる!この男を潰すことを考えろ!」

男「え!?金目の物盗るんじゃなくて潰すの!?ていうか、庵に頭って・・・!」

鬼男?2「散々コケにされて黙ってられるか!」

鬼男?1「そうだな!待てやゴラア!」

男「くっ、流石に分が悪い!庵の皆のことも気になるし・・・!逃げるが勝ちで!」ダッ!

鬼男?1「待てやあ!」ダッ!

鬼男?2「逃がさねえぞ!」ダッ!

男「と、とにかく庵で皆と合流しよう!」タッタッタッタッタ……

ー少し前 巡山・庵ー
サラサラ サラサラ

狸侍女「狐娘様、お茶が入りました」コト

狐娘「ありがとうございます、狸侍女さん」フー、フー…コク

狐娘「美味しい・・・」ホウ…

狸侍女「それにしても、少々遅いですね」

狐娘「ふふ、男さんが二人と何をしているか気になるんですか?」

狸侍女「な・・・っ!そ、そんなことはございません!///」アセッ

狐娘「・・・っふふ。大丈夫ですよ。今男さんが一番異性として意識しているのは、間違い無く狸侍女さんでしょうし」

狸侍女「ほ、本当ですか・・・?」

狐娘「ええ。きっと」

狸侍女「そ、そうですか・・・/// ってそ、そんなことは考えておりません!」

狐娘「・・・ちょっと無理がありません?」

狸侍女「・・・不覚でした」

狐娘「・・・ぷっ。あははは!」

狸侍女「ーーーーっ///」

狐娘「ご、ごめんなさいね?笑ったりして。別にからかおうとか思った訳じゃないんですよ。ただ、少し意外だったから・・・」

狸侍女「・・・ええ。自分でも解っております。色恋は性分ではありませんから」

狐娘「そんなことないですよ。狸侍女さん、男さんに恋をしてから、心なしか表情が明るくなりましたもの」

狸侍女「そ、そうでしょうか?」

狐娘「ええ。・・・素敵な恋ね」

狸侍女「・・・はい。男様と出逢って、わたくしの世界は変わりました。とても素敵なことだと思います」

狐娘「ふふっ。羨ましいわ」

狸侍女「? 狐娘様は・・・。!!」 

ガサガサ バッ

鬼男?3「おい、そこの女共!怪我したくなけりゃあ、金目のモノを置いてきな!」

鬼男?4「お前ら、見た所狸と狐だろ?オレたち鬼には従った方が身のためだぞ?」

狐娘「鬼・・・ねぇ。狸侍女さん?」

狸侍女「ええ。・・・あなた方、牛頭と馬頭ですね?」

鬼男?3改め牛頭1「・・・ほう!よくぞ一目で見抜いたな!」

鬼男?4改め馬頭1「ただのカモかと思ったら、賢いカモだったか!」

狐娘「あら、以外と簡単に白状するのね?」

牛頭1「本当はもっと粘った方がいいんだろうが、アンタらには隠しても無駄だろうしな」

馬頭1「あまり取りたくない手段ではあるが、口封じさせて貰うぜ?悪く思うなよ!」

ダッ!

狸侍女「! 狐娘様、わたくしの後ろへ!」チャキッ! ブン!

牛頭1「うおっ!槍を使うのか!」サッ

馬頭1「だが!俺らは牛頭と馬頭!戦場において活躍してきた種族!」

牛頭1「ちょっと槍が使えるからと粋がると、痛い目見るぜ!」

狸侍女「・・・かつて、鬼族と並ぶ力を持つと畏怖された戦狸の一族。そして、一族に伝わる名槍『九十九貫(つくもぬき)』。その力、とくとお見せいたしましょう!」ヒュンヒュンヒュン……パシッ!

牛頭1「うら!喰らえよ!」ブオン!

狸侍女「ふっ!」ガキィン!

牛頭1「はっはあ!やるねえ!まさか戦狸の一族が生き残っていたとはな!半信半疑だったよ!」グググ…!

狸侍女「わたくしが最後の生き残りです」グググ…!

牛頭1「へっ!なら、ここで戦狸の一族は終わりだな!」ギィン! バッ!

狸侍女「そうはいきませんよ。わたくしにはまだやりたいことが残っています!」バッ! ザザッ!

牛頭1「ははっ、そう来なくちゃな!」ブン!

狸侍女「・・・!」ヒュッ!

ガキィン!

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーー

馬頭1「お嬢ちゃんの相手はオレがしようかねえ」

狐娘「あら、乱暴なお誘いは嫌いよ?」

馬頭1「ヒャハ!言うじゃないの。こりゃあ殺すのが惜しいな」チャキ

狐娘「ふふ。あなたに出来るかしら?馬面さん?」フワ…

馬頭1「な!?六尾だと!?おいおい、オレあ精々四尾までしか見たことねえぞ・・・」

狐娘「ふふ。良かったわね、五尾以上の狐族なんて、滅多に出会えないのよ?」

馬頭1「・・・ヒャハ!いいねえ!そんな高位の狐を殺せるなんて!」フォンフォンフォン!

狐娘「戦闘狂ね・・・。(あの青竜刀が厄介ね。すごい早さで振り回してる)」

馬頭1「ヒャハ!元々オレらは戦いたくて山賊紛いの事やってたんだ!こんな好機、逃がしてたまるか!」ダッ! ヒュン!

狐娘「っ!」バッ!

スパァン!!  スタッ!

狐娘「(参ったわね。私、近接戦は得意じゃないんだけれど)」ツー…

馬頭1「どしたい!?冷や汗かいて!見せてくれよ!六尾の力ってやつをさあ!!」ドンッ!

狐娘「くっ・・・!『狐流武舞・暮葉』!」ボウ…!

馬頭1「あん?」

狐娘「はっ!」ビッ!

ザアァァーーー!!

馬頭1「うお!?何だこれ!落ち葉がまとわりついて・・・!」ジタバタ

狐娘「(うまく幻術に掛かってくれたけど、精々時間稼ぎね・・・。何とかしないと・・・!)」

狸侍女「はあっ!」ヒュン! ボッ!

牛頭1「うおっ!?く、やるじゃねえか・・・!」ギン! ガキィン!

狸侍女「(こちらは何とかなっていますが・・・。まずいですね。あちらは狐娘様が不利です・・・!)」チラッ

牛頭1「! はっはあ!相対中によそ見とはいえ余裕だな!」ブウン!

狸侍女「しまっ・・・!?」

???「そこまでだ!」ヒュッ! ギイン!

牛頭1「なっ・・・!?」

狸侍女「(どこから!?)」

???「やっと見つけたぞ!我ら鬼族の名を騙り、略奪を続けてきた悪党共よ!」

牛頭1「鬼族!?ちいっ!本物のお出ましかよ!しかもあの家紋、開祖直系じゃねえか!」

狸侍女「あ、あの・・・」

???「すまない。話は後だ。今は奴を捕らえる!」

狐娘「狸侍女さん!」タタッ

狸侍女「狐娘様!ご無事で!?」

狐娘「ええ。さっき、幻術で翻弄されていた馬頭を、あの妖(ひと)が・・・」スッ

馬頭1「が・・・か・・・!」ピクピク

牛頭1「何!?こうなったら、俺だけでも・・・!」

???「逃がさん!はあぁっ!」ビュッ! ドゴン!

牛頭1「ごぶぁっ!?・・・ごふっ・・・」ドサッ

???「・・・ふう。全く、鬼の名を騙るなど、呆れた連中だ」

狸侍女「・・・あ、あの」

???「ん?あ、ああ!すまない。私は鬼女。このところ巡山に出没するという山賊を追っていてたんだ」

狐娘「鬼女さん。助けて頂いて、ありがとうございました」ペコリ

狸侍女「ありがとうございます」ペコリ

鬼女「や、やめてくれ!私は私の目的のためにコイツらを追っていたのであって、礼を言われる為じゃない!」アセアセ

狐娘「いえ、理由はどうであれ、助けて頂いたのは事実ですから」

狸侍女「はい。ありがとうございます」

鬼女「むう・・・。な、何か照れるな///」



犬娘「おーい!狐娘ちゃーーん!」ダダダダ!

狸娘「はあっ、はあっ・・・!た、狸侍女・・・!無事ですの・・・!?」ゼハー ゼハー

男「た、狸娘も大丈夫?もう少しだから!おーい!二人ともー!無事かー!?」タッタッタ

狸侍女「男様!犬娘様に、お嬢様も!」

狐娘「良かった。三人も無事みたいね」

犬娘「狐娘ちゃん!」ガバッ!

狐娘「きゃっ!危ないわね、犬娘」ガシッ!ヨロロ…

犬娘「ぶ、無事でよかったよー」ヘナヘナ

狸娘「た、狸侍女も・・・!大事ありませんわね・・・?」ハァ…ハァ…

狸侍女「はい、お嬢様。ご心配ありがとうございます」ナデナデ

男「やっぱり、二人も襲われてたんだね。無事で良かった」ホウ…

鬼女「うむ。良かったな!」

男「あ、鬼女さん。どうもありがとうございました」

鬼女「だ、だから礼などいい!何か、むず痒くなる・・・!///」

男「あははっ」

鬼女「むう・・・。笑うなぁ・・・」


狸侍女「男様、鬼女様とはお知り合いで?」

男「いや、実はさっき俺達も襲われてさ。追われていたんだけど、その時鬼女さんが現れて、敵をやっつけてくれたんだ」

鬼女「まあ、あいつらもこの牛頭馬頭の部下でな。同じく追跡の対象だったのだ。気にするな」

狐娘「男さん達も?」

犬娘「うん!牛頭と馬頭の山賊だったよ!」 

狸娘「危ない連中でしたわ・・・」

鬼女「うん。奴らは、このところこの山に登る登山客を狙って略奪行為を繰り返していてな。この山を管理している私の家に、取り締まってくれとの連絡が来たのだ」

男「それで、今日にやっと足取りを掴んで、仕留めた、と・・・」

鬼女「ああ。あのまま放っておけば、鬼族に間違った想像をしてしまう妖々(ひとびと)が現れないとも限らないからな」

狐娘「成る程」

鬼女「それにしても、男も、狸侍女も、狐娘も大したものだ。牛頭馬頭は私達鬼族に次ぐ戦闘系種族。それとあそこまで渡り合うとは」

狸侍女「はい。侍女ですので」

男「あ、何か久しぶりに聞いたような感じがする」

狐娘「まあ、私も六尾だし、あのくらいは・・・って、男さん?渡り合ったって、あなたも戦ったの?」

男「え?あ、いや、戦ったっていうか、逃げ回ってただけだよ」

鬼女「何を謙遜している。牛頭と馬頭、二人の攻撃をかすらせもせずに逃げ回るなど、並の者が出来ることではないぞ?」

男「いやいや。本当は立ち向かえたら良かったんですけどねえ・・・。あれが精一杯でしたよ」

犬娘「でも、男さんすごかったですよ!あんなに身軽に動き回って!」

狸娘「そうですわ。それに、何度かあの二人に攻撃もしていたではないですか」

男「あはは。全然効いてなかったけどね」

狐娘「それでもすごいわよ。牛頭と馬頭を相手に立ち回れるなんて」

狸侍女「ええ。ますます手合わせが楽しみになってきました」

男「いやいや。二人まで、勘弁してくださいよ・・・」

鬼女「それに、男は心も強いな!」

狐娘「心?」

鬼女「ああ。牛頭と馬頭が私達鬼族を騙って現れたとき、恐怖に流されたりせず、冷静に相手を判断していた。民間人が山賊に襲われれば恐慌状態に陥り、奴らの言うことを鵜呑みにして、鬼族の仕業だと思ってしまうところも、その強い心で恐怖心を押さえ、相手を論破さえしていた!」

男「いや、そんな大袈裟な事じゃないですよ!俺、もともと各種族の事とか疎いですし!」

鬼女「それでもだ!疎いからこそ囚われがちになる先入観にも惑わされず、相手を冷静に分析するその心力と観察眼。賞賛に値するぞ!」

犬娘「男さん、本当にスゴいんですね・・・!」キラキラ

狸娘「流石は男様ですわ・・・!」キラキラ

男「ああ!?二人が変な洗脳を受けたみたいになってる!?」

鬼女「それに、私は嬉しかったんだ」

狸侍女「嬉しかった、とは?」

鬼女「うん。あいつらに何と言われても、男は、鬼族の仕業だと言わなかった。今までに襲われてきた妖(ひと)達は、皆、鬼族がやったんだ、って言っていた。確かに、私達の中には、そうういったことをしてきた連中もいる。・・・でも、皆がそうだというわけではないんだ」

狐娘「・・・そうね」

鬼女「男は、それを分かってくれていた。むしろ鬼族を庇おうとまでしてくれた」

男「い、いや、鬼女さん。俺、そこまで考えてた訳じゃ・・・」

鬼女「それでも!・・・それでも、私は嬉しかった。鬼だからと、そんな判断をせずに鬼族の名誉を守ってくれた男に、私は本当に感謝しているんだ・・・」

男「鬼女さん・・・。むしろ、助けてもらった俺の方が礼を言わないといけないのに・・・」

狐娘「男さんはもう十分感謝したんでしょう?なら、お礼くらいは受け取っておきなさいな」

狸侍女「そうですね。男様にとっては大したことではなくても、この方にとっては大事なことだったようですよ」

鬼女「ああ。ありがとう、男・・・」

男「・・・はい。どういたしまして、鬼女さん」ニコッ

鬼女「!」ドキン!

男「鬼女さん?」

鬼女「う、うん!?何でもないぞ!?(な、何だ?今の感覚は)///」

犬娘「・・・! ま、また・・・!」ワナワナ

狸娘「こ、こんな所でまで・・・!」プルプル

狐娘「はあ・・・。あなた達も大変ねえ・・・」 

狸侍女「はい。ですが、あの様子ですと本人も自分の気持ちを理解していないようなので、さしたる障害ではないかと」

狐娘「あら。やっぱり狸侍女さんが一歩先んじていますね」

狸侍女「はい。この件に関しては負けるつもりはありませんから」

狐娘「ふふっ。頑張ってくださいね?」

狸侍女「はい」

男「さて!結構時間過ぎちゃったけど、どうしようか?」

狐娘「そうねえ。そろそろ夕方になるし。山はすぐに暗くなるのよね」

狸娘「そうですわね。名残惜しいですが、そろそろ下山した方がいいかもしれませんわね」

犬娘「えー・・・」

鬼女「何だ、もう下りてしまうのか?」

男「んー、そうですね。また明日も朝から冬華村に行かなくちゃいけないし・・・」

鬼女「こ、この村からも出て行ってしまうのか!?」

犬娘「船が出ているのが祭りの期間だけですしね」 

狸娘「男さんをこの期間内に全島に案内するのですわ」

鬼女「そ、そうか・・・。祭りも三日目。あと二日しかないものな」

男「ええ。最終日には一度秋之村に戻って、犬父さんに、帰る手段が見つかったかどうかも聞かなくちゃ行けませんし」

鬼女「帰る?どこにだ?」

犬娘「どこ、って・・・」

狐娘「人間の世界ですよ?」

鬼女「人間!?」

男「あれ?言ってませんでしたっけ」

鬼女「き、聞いてないぞ!?」

狸侍女「それにしたって、今までで気付きそうなものですが」 

鬼女「い、いや、てっきり尻尾と耳を隠した獣人系種族か、油舐めとか小豆洗いとかの亜人系種族かと・・・」

狐娘「まあ、確かに人間だとは思わないわよねえ」

鬼女「お、男!さ、触ってみてもいいか?」

男「へ?ええ。構いませんけど」スッ

鬼女「・・・おお」チョンチョン

男「・・・」

鬼女「・・・おお?」ツンツン

男「うひっ!く、くすぐったいです・・・!」

鬼女「あ、ああ!すまない。ふむ。人間は私達と大して変わらないんだな」ギュウ

男「そうですね。鬼女さんも、柔らかくて、温かいです」ギュウ

鬼女「!///」ボッ!

犬娘「お、男さん!その辺で!」

狸娘「そ、そうですわ!少しくっつきすぎじゃありませんこと!?」

男「あ、ああ。すいませんね、鬼女さん」パッ

鬼女「あ・・・っ」

狐娘「・・・男さんって、たまにわざとやってるんじゃないかと思うわね」

男「?」

男「さて。じゃあそろそろ下山しようか」

犬娘「そうですね。行きましょうか」

狸娘「確か、蜘蛛女さんも、夜になったら合流するんでしたわよね?」

狸侍女「はい。なんでも、夕飯と、今夜の宿を提供してくれるとか」

狐娘「あら、ありがたいわね」

男「それじゃあ、鬼女さん。改めて、どうもありがとうございました」

鬼女「あ、うん・・・」

狸侍女「ご縁がありましたら、またどこかで」

鬼女「・・・うん」

男「? 鬼女さん?どうかしましたか?」

鬼女「え・・・?あ、お、男達は、明日のいつの船で出るんだ?」 

男「俺達ですか?えーと、朝一の便です。だよね?狐娘」

狐娘「ええ。その通りよ」

鬼女「そうか。じゃあ、見送りに行くよ!」

男「本当ですか?嬉しいです。それじゃあ、また明日」

犬娘「失礼します、鬼女さん!ありがとうございました」

狸娘「さようなら」

テクテクテクテク………







鬼女「・・・・・・」

ー春陽村・蜘蛛女宅ー
ガラガラ

男「こんばんはー」

犬娘「お邪魔しまーす」

蜘蛛女「あら、いらっしゃい。上がって上がって」

狸娘「こんばんは、蜘蛛女さん」

狐娘「お邪魔します」

蜘蛛女「はいこんばんは。くつろいでいってね」

狸侍女「蜘蛛女、今日はありがとうございます。助かります。土産と言うほどではありませんが、わたくしが造ったお酒です。どうぞ」スッ

蜘蛛女「あら、ありがたいわね。私、あなたが造ったお酒が一番好きよ」

狸侍女「そう言ってもらえると嬉しいです」

蜘蛛女「ふふっ。お世辞じゃないわよ?まあともかく、あなたもお上がりなさいな」

狸侍女「ええ。失礼します」

ー蜘蛛女宅・居間ー
犬娘「ふぁー・・・。玄関でも思いましたけど、広いお家ですねー」

男「そうだね。立派なお家だねー」

蜘蛛女「ふふ。私は下半身がこうだから、どうしても普通の家じゃ暮らし辛いのよ。はい、お茶」コト…コト…

狐娘「成る程。あ、ありがとうございます」

蜘蛛女「それにしても、今日は災難だったわね」

狸侍女「ええ。お陰で巡山を登り切ることが出来ませんでした」

犬娘「あれ?蜘蛛女さん何で知ってるんですか?」

蜘蛛女「ふふ。だって、鬼族の方々に山賊討伐の以来を出したのは私だもの」

男「そうだったんですか!」

蜘蛛女「鬼女は、私の友達でもあってね。困ってたからお願いしたのよ」

狐娘「蜘蛛女さんは、暴れているのが牛頭馬頭だと気付いていたんですか?」

蜘蛛女「確証は無かったけどね。でも、鬼族とも付き合いがある私には、どうにも違和感があったのよ。それで、実際に鬼族の鬼女に聞いてみたら、向こうも向こうで怪しい奴らに困っている、って話だったから、正式に依頼を出したわけなのよ」

男「へー」

蜘蛛女「それにしても、牛頭と馬頭なんてね。あいつら、タチの悪い不良だから、一度懲らしめないと駄目よね」

狸娘「い、いえ。今日で十分懲りたんじゃありません?」

犬娘「鬼女さんにめちゃくちゃに殴られてたもんね・・・」

蜘蛛女「あら、そう?なら、お説教くらいで許してあげようかしら」

男「? 蜘蛛女さんは、牛頭や馬頭と知り合いなんですか?」

蜘蛛女「え? ああ、あいつらは、私の元部下なのよ」

男「え!?」

蜘蛛女「ふふ。私、昔はそれなりに名の知れた悪党だったのよ?」

狸娘「そ、そうなのですか?」

狸侍女「はい。春陽村で何か事件が起こると、真っ先疑われるくらいでした」

狐娘「えー・・・」

蜘蛛女「まあ、数年前に狸侍女に負けてから、足を洗ったけどね」

犬娘「そ、そうだったんですか・・・」

蜘蛛女「そうよ?私、今でも怒ると恐いわよー・・・?」

犬娘「ひい!」

狸侍女「蜘蛛女、あまりからかうものではありませんよ」

蜘蛛女「あははっ。そうね。ごめんね?犬娘ちゃん」ナデナデ

犬娘「あうあう・・・」ガクブル

男「あ、あはは・・・」

蜘蛛女「まあ、そんな感じで、あいつらは私の荒れていた時代の子分だったのよ。でも、私が狸侍女に負けて、率いていた一味を解散した時、あいつらは真っ当な道を生きず、そのまま馬鹿なことを続けているわ」

狸娘「そうだったんですの・・・」

蜘蛛女「まあ、私も最後まで面倒見れなかった後ろめたさから、見逃してきたんだけどね。でも、流石に最近はやりすぎたわ。ここら辺で一度、しっかり話し合わなくちゃ」

男「そうですか。・・・何て言うか、その、頑張ってくださいね」

蜘蛛女「ええ、ありがとう。ごめんなさいね。本当なら、あなた達が命を狙われる前に私が止めるべきだったのに」

男「気にしないでください。そこまでやったのは彼等の責任であって、蜘蛛女さんのせいじゃないですよ。そのことで、あなたを恨んだりはしません」

犬娘「そうですよ!悪いのは牛頭さんと馬頭さんです!」

狸娘「そうですわ。お気になさらないでください」

蜘蛛女「あなた達・・・」

狐娘「と、いうことですよ」

狸侍女「あなたは、ちゃんと彼等と向き合おうとしている。それだけで、十分です」

蜘蛛女「・・・ええ。ありがとう」

男「いえいえ」

蜘蛛女「ふふっ。さて、それじゃあ、お夕飯にしましょうか。腕に寄りを掛けて作ったから、沢山食べてちょうだいね?」

全員『はい!』

ー数十分後ー
男「ご馳走様でした!」

犬娘「美味しかったですー」コロン

狸娘「ご馳走様でした。って、い、犬娘さん、お行儀が悪いですわよ」

蜘蛛女「ふふ。お粗末様でした」 

狐娘「とっても美味しかったです。ご馳走様でした」

狸侍女「蜘蛛女、また腕を上げましたね」

蜘蛛女「ええ。私、料理屋の店長よ?それに、一人暮らしだから、家事や炊事は出来ないとね」

男「いいですね。家事や炊事が出来る女性って。なんか、家庭的って感じがして、憧れます」

犬娘「! あ、蜘蛛女さん、片付けは私がやります!」ガタッ

狸娘「わ、私も手伝いますわ!」ガタッ

狐娘「・・・単純ね」

蜘蛛女「あら、そう?それじゃあ、お願いしようかしら」

犬娘「はい!任せてください!お、男さん!私、お片付け得意なんですよ!」グイ

狸娘「わ、私だって、作るのはともかく、片すのは得意ですわ!」グイ

男「え、え?あ、うん。が、頑張って・・・?」

犬娘「はい!」

狸娘「お任せくださいませ!」

ガチャガチャ… スタスタスタ

蜘蛛女「ふふっ、なかなか面白いことになってるみたいね?男くん」 

男「へ?」キョトン

狐娘「(そういえば、狸侍女さんは行かなくていいの?)」ヒソヒソ

狸侍女「(ええ。今日は折角ですから、このまま男様の近くにいようかと)」ヒソヒソ

狐娘「(成る程ね・・・)」

男「それにしても、明日は四つ目の村かー。この数日、本当にあっと言う間だったなー」

狸侍女「そうですね。わたくし達でもそう感じますから、男様は一層早く感じるのでしょうね」

蜘蛛女「明日は、どの村へ行くのかしら?」

狐娘「明日は、私の故郷、冬華村に行こうと思ってます」

蜘蛛女「あら、いいわね。あそこの清酒も美味しいのよねー」

狸侍女「まったく、あなたの酒好きにも呆れますね」ハァー

蜘蛛女「あら、好きな物は好きなんですもの。しょうがないことでしょう? と、いうわけで、あなたから頂いたお酒も開けさせて貰うわね」キュポン トクトクトク…

狸侍女「言いながらもう開けているじゃないですか・・・」

蜘蛛女「いいでしょう? 頂きます、と」クイッ コクン

男「蜘蛛女さんはお酒が好きなんですね」

蜘蛛女「んっ・・・、ふぅーー・・・。そうね、お酒を呑んでいるときが最高に幸せと言っても過言ではないわ」

狸侍女「蜘蛛女は昔からお酒に目がないのです。わたくしがお酒に強くなったのも、蜘蛛女に付き合わされてきたからなのです」

狐娘「でも、大人の女、って感じて格好良いじゃないですか」

蜘蛛女「あら、狐娘ちゃん分かるじゃない。どうかしら?一緒に飲む?」

狐娘「いえ、遠慮しておきますね」

蜘蛛女「あら残念。なら、男くんはどうかしら?」チャポチャポ

男「いえ、俺も未成年なんで。遠慮しておきます」

蜘蛛女「むー。つまらないわねえ。狸侍女、あなたはどう?」

狸侍女「そうですね。酌をする程度には付き合いますよ。一人で飲むのも味気ないでしょうし」

蜘蛛女「あら、嬉しいわね。じゃ、早速・・・」トクトク…

狸侍女「頂きましょうか」

クイッ コクン…

狸侍女「我ながら、中々いい出来ですね」

蜘蛛女「ええ、相変わらず美味しいわ」

男「あはは。本当に美味しそうに飲みますね」

狐娘「そうね。見ていて気持ちがいいわ」

狸侍女「! お二方、申し訳ございません。ただいまお茶を淹れて参ります。蜘蛛女?」

蜘蛛女「ええ。台所も好きに使ってくれて構わないわ」

男「あ、そんな気を使わないでくださいよ」

狸侍女「いえ、そういうわけにはいきません。では、蜘蛛女、少しお借りしますよ」ヒュッ

蜘蛛女「あら。相変わらず忙しないのね」クイッ

ー少し前 蜘蛛女宅・台所ー
犬娘「・・・」ゴシゴシ ジャブジャブ

狸娘「・・・」フキフキ カチャカチャ

犬娘「・・・ねえ、狸娘ちゃん」

狸娘「・・・何ですの?」

犬娘「この、洗い物をして家庭的であることを示して男さんの好感度を上げよう作戦、実際に現場を男さんに見て貰わないと意味無いんじゃない?」

狸娘「・・・言おうか言うまいか迷っていたことを・・・」

犬娘「はあ・・・。男さん、全然私たちの気持ちに気付いてくれないよね・・・」ゴシゴ…

狸娘「そうですわね・・・」フキフ…

二人『はあー・・・』

狸娘「・・・そういえば、どうして犬娘さんは男様を?」

犬娘「え?あ、うん・・・。実はね・・・」

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

狸娘「成る程・・・。出会ったばかりの犬娘さんの為に、必死で走って・・・」

犬娘「う、うん。狸娘ちゃんみたいに命を救われたとか、大層な理由じゃないけど。それでも、私の為に必死で走ってくれた男さんを、あっと言う間に好きになっちゃった///」

狸娘「羨ましいですわねー。お姫様抱っこで運んでもらえたなんて・・・」

犬娘「えへへ。私の一生の思いでだよ///」

狸娘「羨ましいですわ・・・」

犬娘「そういえば、狸侍女さんも男さんのこと好きなんじゃないかな!?」

狸娘「そうですわね。今朝、男様と狸侍女の間に、一瞬でしたが変な空気が流れてましたわ。お互いがお互いを意識し合うような」

犬娘「も、もしかして、狸侍女さん、もう告白しちゃったのかな?」

狸娘「・・・有り得なくはないですわね」

犬娘「私、狸侍女さんまで男さんのこと好きなら、勝ち目が無い気がするよ・・・」

狸娘「あら。そんな心持ちでしたら、私が男様を頂いてしまいますわよ?」

犬娘「だ、ダメだよ!」

狸娘「ふふ。その意気ですわ」

犬娘「あ・・・」

狸娘「相手が誰であろうとも、男様を射止めるために頑張る。そうでしょう?」

犬娘「うん」

狸娘「なら、最後まで頑張りましょう?私だって、負けませんけどね?」

犬娘「わ、私だって負けないもん!よーし、ぱぱっと皿洗いを終わらせて、男さんの所に行こう!」ゴシゴシ! ジャブジャブ!

狸娘「ええ!」フキフキ! カチャカチャ








狸侍女「・・・」

狸侍女「(出るに出れませんでしたね・・・。もう少し時間を置いて、その時お茶を淹れに来たことにしましょう)」

ー蜘蛛女宅・居間ー
蜘蛛女「・・・」トクトク グイッ

男「蜘蛛女さん、少し飲み過ぎじゃないですか?」

蜘蛛女「何言ってるのよ。まだまだよ」

狐娘「蜘蛛女さん、お酒強いんですか?」 

蜘蛛女「ええ。そこらの上戸には負けないわよ?」トクトク

男「いや、だからって飲み過ぎは・・・」

蜘蛛女「いいの!飲みたいときに飲む!これが一番美味しく飲めるんだから!」グイッ

犬娘「ただいま戻りました!」

狸娘「それから、お茶をお持ちしましたわ」カチャカチャ

狸侍女「あ、蜘蛛女。少し飲む速度を落としなさい。少し早いですよ」

狸娘「はい、男様、狐娘さん。お茶ですわ」コト コト

男「うん、ありがとう」

狐娘「ありがとう」

犬娘「・・・お、男さん」

男「ん?」

犬娘「わ、私!お皿洗い頑張りました!」

男「うん。どうもありがとうね」

犬娘「・・・」

男「?」

犬娘「・・・が、頑張ったんですよ?」ソワソワ

男「・・・! うん。よく頑張ったね」ナデナデ

犬娘「ふわあ・・・。えへへー///」フリフリ

狸娘「お、男様!わ、私も頑張りましたわ!」ズイ

男「うん。狸娘も、ありがとうね」ナデナデ

狸娘「は、はい!///」

ー蜘蛛女宅・居間ー
蜘蛛女「・・・」トクトク… クイッ

男「蜘蛛女さん、少し飲み過ぎじゃないですか?」

蜘蛛女「あら。まだまだよ」トクトク

狐娘「蜘蛛女さん、お酒強いんですか?」

蜘蛛女「ええ。そこらの上戸には負けないわよ?」クイッ

男「いやいや。それでも、少し飲む速度が早いですって」 

蜘蛛女「いいのよ。お酒は飲みたいときに飲むのが美味しいんだから」トクトク…

狸侍女「まったく、男様の言う通り飲み過ぎですよ」

犬娘「お皿洗い終わりましたー!」トテトテ

狸娘「それから、お茶を淹れてきましたわ。はい、男様、狐娘さん」コト コト

男「あ、ありがとう」

狐娘「ありがとう」

犬娘「男さん!」

男「ん?」

犬娘「私、お皿洗い頑張りました!」

男「うん。ありがとうね」

犬娘「・・・」

男「?」

犬娘「・・・が、頑張ったんですよ?」ソワソワ

男「ああ! うん、お疲れさま」ナデナデ

犬娘「んっ! えへへー///」フリフリ

狸娘「お、男様!私も頑張りましたわ!」

男「うん。狸娘も、ありがとうね」ナデナデ

狸娘「は、はい!///」

>>267は間違いです(;゚ロ゚)

蜘蛛女「・・・若いわねー」

狸侍女「蜘蛛女、あなたもまだ二十を過ぎたばかりでしょうに」

狐娘「そうですよ。蜘蛛女さんも若いじゃないですか」

蜘蛛女「でもらあの娘達に比べたら、十分年増よ」トクトク…クイッ

狸侍女「・・・その理屈だと、あなたと同い年のわたくしも年増ということになりますが?」

蜘蛛女「あ、そうね。あなたも年増だわ。あはは」トクトク…

狸侍女「蜘蛛女、あなた酔ってますね?」ハァー

蜘蛛女「そうね・・・。今日はお酒の回りが早いわ」

狐娘「蜘蛛女さんの飲む早さも早いんだと思いますよ?」

狸侍女「まったく、仕様のない」スッ

蜘蛛女「ふふ。そんなこと言って、酔い醒ましを作ってくれるあなたは、いい奥方になるわね」

狸侍女「ば、馬鹿なことを言わないでください///」

蜘蛛女「ふふ。男くんが羨ましいわね」

狸侍女「ちょ、蜘蛛女!?」チラッ

男「ふ、二人とも、そろそろいい?」ナデナデ

犬娘「も、もう少しだけ・・・」フリフリ パタパタ

狸娘「お願いしますわ・・・」ウットリ

男「あ、あはは・・・」ナデナデ

狐娘「それどころじゃないみたいですね」

蜘蛛女「良かったわね、狸侍女?」

狸侍女「正直複雑です・・・」

ー数分後ー
男「う、腕が・・・!」プルプル

犬娘「はふう・・・///」ツヤツヤ

狸娘「満足ですわ・・・///」テカテカ

蜘蛛女「ふふ。二人も満足したみたいだし、お風呂にでも入らない?」

犬娘「あ、そうですね」

狐娘「じゃあ、誰から行きましょうか?」

蜘蛛女「あら。私は躰が大きいから、お風呂も広いわよ。だから、皆で入りましょうよ」

狸侍女「そうですね。折角ですし、そうしますか」

蜘蛛女「男くんも一緒に入る?」

男「入りませんよ!」

蜘蛛女「あら、そう?残念ね」クスクス

犬娘「男さんとお風呂・・・///」

狸娘「いいですわね・・・///」

狐娘「ほらほら、いいから行くわよ」

狸侍女「では、男様。お先に失礼いたします」

男「はいはい。行ってらっしゃい」フリフリ





狸娘「(・・・・・・)」

ー蜘蛛女宅・風呂場ー
カポーン

犬娘「確かに広いですねー」

蜘蛛女「でしょう?さ、入って入って」

狐娘「湯船もやっぱり大きいんですね」

蜘蛛女「ええ。お風呂は好きだから、よりゆったりと長く楽しめるように、私が入ってもまだ余裕があるくらいは広く作ってあるわ」ザブザブ

狸娘「・・・」

狸侍女「? いかがなさいましたか?お嬢様」チャポン

狸娘「い、いえ。何でもないですわ!(・・・くっ!この中で私と近い体型は犬娘さんだけですのね!?途方もない敗北感ですわ・・・)」

蜘蛛女「ふふ。大丈夫よ。あなたくらいの年頃なら、これから大きくなっていくわよ」クスクス

狸娘「な・・・っ!?///」

犬娘「頑張ろうね!狸娘ちゃん!」グッ!

狸娘「うぅ・・・。そうですわね・・・///」

狐娘「そんなに気にしなくてもいいと思うけどね」チャプン

狸娘「そ、それは持てる者のみが言える発言ですわ!」

犬娘「そうだよ!私たちもそんな台詞が言えるくらい大きくなりたいよ!」

狐娘「は、はい・・・。ごめんなさい」

狸侍女「まあまあ、お二方。体型の問題については時間に任せるしかありませんし」

狸娘「くっ!あなたも余裕のある胸で羨ましいですわ・・・!」

犬娘「私は全然大きくならないのに・・・」ズーン

狸侍女「い、いえ。これも自然とこうなったものですので・・・」

蜘蛛女「そういえば、殿方に揉まれると大きくなる、なんて話を聞いたことがあるわね」

狸娘「と、殿方に・・・///」

犬娘「胸を!?///」

蜘蛛女「ええ。私の友達が、結婚してから毎日のように旦那に胸を揉まれていたら、大きくなった、って。真偽の程は分からないけどね」

犬娘「・・・じ、自分で揉むのではダメなんですか?」

狸娘「そ、そうですわ。流石にいきなり殿方に揉んで貰うのは、ちょっと・・・」

蜘蛛女「さあ?それでもいいんじゃないかしら」

狐娘「・・・二人とも、取り敢えず裸で突っ立ってないで、お風呂に入ったら?」

狸侍女「お風邪を召してしまいますよ?」

犬娘「わっ、そうだね!」チャポン

狸娘「し、失礼しますわね」チャポン


全員『ふーー・・・』

カポーン

犬娘「でも、皆体型が整ってて羨ましいです・・・。私は、背も大きくないし、胸も小さいし、いつまでも子供の体つきです・・・」

狸娘「私も大して変わりませんわ。蜘蛛女さんや狸侍女並に、とは言いませんけど、せめて狐娘さんくらいは背も胸も欲しいですわ・・・」

狐娘「私は、ここ数年で成長したから。あなた達も、あと二、三年経てば育つでしょう」

狸侍女「ええ。まだ若いのですから、これからですよ」

犬娘「うぅ・・・。そうかなあ・・・?」

蜘蛛女「大丈夫よ。私もあなた達くらいの頃は全然お子様だったんだから」

狸娘「そ、そうなのですか?」

蜘蛛女「ええ。皆そんなものよ」

狐娘「だから気にしないでいいのよ」

犬娘「う、うん」

狸娘「そう、ですわね・・・」

狸侍女「時が過ぎるのを待ちましょう。そうすれば、自然と結果は出ますよ」

犬娘「そうですね。そうします」


全員『ふーー・・・』

カポーン












男「・・・皆、遅いな」ポツーン

ー数分後ー
犬娘「男さーん、上がりましたー/////」トタトタトタ

狸侍女「いいお湯でした・・・/////」ホカホカ

男「あ、皆出たんだ。なら、俺も入らせて貰おうかな」

狐娘「男さん、場所は・・・/////」ポカポカ

狸娘「あ、わ、私が案内しますわ!/////」ホカホカ

男「あ、本当?なら、お願いね」

蜘蛛女「ふふ。ゆっくりしてらっしゃいな/////」トクトク クイッ

狸侍女「あ! もう、あなたという妖(ひと)は・・・」

男「あはは。じゃあ、ちょっと行ってきますね」 

犬娘「行ってらっしゃいー」

狸娘「男様、こちらですわ」トコトコ

男「はーい」スタスタ

風呂が数分て長くなくね?

>>278

一応、一人で待たされた男の立場で考えると、数分でも長く感じるな、と思い、「遅いな」と書きました。

また、風呂での女性陣の会話からさらに数分後、と考えているので、実際には20から30分程度と設定しています。

分かりづらいですね。すいません。

ご指摘ありがとうございました。以降気を付けて参りたいと思います。

ー蜘蛛女宅・廊下ー
男「それにしても、廊下も広いね」

狸娘「そうですわね。蜘蛛女さんのお体を考えると、この位の広さは必要なのでしょう」

男「確かにねー」

狸娘「・・・」

男「・・・」

男「(な、何か空気が重い・・・!)」

狸娘「・・・男様、着きましたわ。ここがお風呂場ですわ」

男「え? あ、ああ、ありがとう。それじゃあ、行ってくるね」カラカラ

狸娘「行ってらっしゃいませ」カラカラ パタン









狸娘「・・・い、行きますわ・・・!」

ー蜘蛛女宅・風呂場ー
カポーン

男「おお、本当に広いなー」

男「何か、ここに来てからずっと広いお風呂にばかり入っている気がするなー。向こうに帰ったとき、めちゃくちゃ狭く感じそう」ワシャワシャ

男「んー、ここのお風呂は広いけど、シャワーが無いのが欠点だなー」ザバー

男「汲み置きのお湯で遣り繰りするのも、大変だよなー。保温とか」

狸娘「お、男様。お、お背中お流ししますわね・・・///」カラカラ

男「あ、本当? ありがとう、助かるぅわああ!?」ガタン!

狸娘「お、驚かせてすみません///」

男「いや、てか、え!? 狸娘!? 何、どうしたの!?」アセアセ クルッ ギュッ

狸娘「い、いえ。今日は、山で助けていただきましたし、お礼に、お背中をお流ししようかと・・・///」

男「(あ、危なかった! 危うく後ろに振り向くところだった・・・!)お、お礼? 別にいいのに」

狸娘「でも、私は命を救われました。これで二度目ですわ。このご恩は、ちゃんとお返しさせてください!」

男「い、いや、でも、これは流石に・・・///」

狸娘「で、では、失礼いたしますね///」イソイソ

男「(話を聞いてらっしゃらない!?)」

狸娘「お、男様、お加減はいかがですか?」ゴシゴシ

男「あ、うん。気持ちいいよ」

狸娘「そ、そうですか。良かったですわ///」ゴシゴシ

男「(く、何だこれ。何がどうしてこうなった・・・!?)」

狸娘「んしょ、んしょ・・・」ゴシゴシ

男「(風呂場に入ってきてるけど、ちゃんと服は着てるんだろうな!?)」

狸娘「ん、少し泡が袖に付いてしまいますわね。男様、少し失礼いたしますね。袖を捲りたいので」

男「あ、うん。いいよ。(着てたー!)」

狸娘「で、では、続きを・・・」

男「あ、いや、もういいよ! 大丈夫! ありがとうね!」

狸娘「え? で、でも、まだ前が・・・」

男「前も洗うつもりだったの!?」

狸娘「え? あ、いえ! そ、そんなこと・・・!///」カアァ

男「と、とにかく、もう大丈夫だから。ありがとうね」

狸娘「・・・男様」

男「う、うん?」

狸娘「男様は、恋慕する女性はいらっしゃいますか?」

男「レンボ? あ、恋慕!? い、いやいや。いないけど・・・」

狸娘「で、では!」ガシッ

男「うお!?(後ろから両肩を抑えられた!?逃げられない!)」

狸娘「お、男様。わ、私と、お付き合いしては頂けませんか・・・!?///」

男「え!? あ、・・・え!?」

狸娘「な、何度も言わせないでくださいませ・・・///」

男「ご、ごめん。ちゃんと聞いてたよ! でも、俺?」

狸娘「はい。夏雨村の海で救われた時、男様こそが私の運命の方だと感じました。誰にでも分け隔てなく接する優しさ、山賊相手にも立ち向かう勇敢さ。とても素晴らしい方だと思います」

男「い、いや、流石に褒めすぎ・・・」

狸娘「その謙虚さも、また美徳だと思いますわ」

男「う、うーん・・・」

狸娘「す、すいません。出会ってまだ二日なのに、いきなりこんなこと。でも、私は男様が、す、好き、です・・・///」

男「う、うん・・・///」

狸娘「男様ったら、全然私達の気持ちに気付いてくださらないから、思い切ってこんな事をしてしまいましたわ///」

男「そ、そうだったんだ。ご、ごめんね?」

狸娘「ふふっ。いえ、いいんです。それに、いきなりお返事を頂こうとも思いませんわ。このお祭りの期間中に、答えを出していただければと思います」

男「・・・うん」

狸娘「それじゃあ、お先に失礼いたしますわね。皆さんに怪しまれてしまいますわ」カラカラ

男「う、うん・・・」カラカラ パタン

男「・・・」

男「・・・どうしよう」

カポーン

>>285 ありがとう ちゃんとイメージできました
   ついでに良いゲームと出会えました

ー蜘蛛女宅・居間ー
男「お風呂いただきましたー」

蜘蛛女「あら、お帰りなさい」

狸侍女「お帰りなさいませ、男様。お茶はいかがですか?」

男「あ、頂きます」

蜘蛛女「あら、湯上がりはお酒じゃないの?」

狸侍女「こら、蜘蛛女。やめなさい」

男「あはは。そういえば、他の皆は?」

蜘蛛女「先に寝室へ行ったわよ」

狸侍女「今日は登山したり、山賊に襲われたりで、皆さんお疲れのようでしたから。明日も早いですし、先に休むように伝えました」

蜘蛛女「で、私達は昔話に花を咲かせながら晩酌、ってわけよ」トクトク

男「ああ、なるほど」

蜘蛛女「ふふ。男くんも良かったら聞いていきなさいよ。お茶飲みながらでも、ね?」クイッ

狸侍女「蜘蛛女。男様もお疲れです。無理に誘いませんように」

男「いえ。お茶もまだありますし、少しだけなら、付き合いますよ」

蜘蛛女「あら、話が分かるわね。さ、飲むわよ狸侍女」トクトク

狸侍女「全く。わたくしも明日は早いのですから、少しですよ?」

蜘蛛女「どうせ酔わないクセに」クスッ

男「あはは」

>>287

良かったです

古風なんだし、お付き合いよりも結婚を望んだ方が物語に合うかなと思います

>>291 ありがとうございます。

いきなり交際すっ飛ばして結婚はいきなりかな、と思ったのでお付き合いにしたのですが、結婚の方が良かったですかね。

次回以降のヒロインに反映させたいと思います。

ご指摘助かりました。ありがとうございます。

ー数十分後ー
蜘蛛女「それでね? 狸侍女が「もう悪さをするな」、って言ってきたから、私達も「余所者が指図するな!」って言って、大喧嘩が始まったのよ/////」トクトク クイッ

狸侍女「蜘蛛女。その話は36回目です」

男「そ、そうですよ。飲み過ぎじゃないですか?」

蜘蛛女「何言ってるのよー。まだまだ平気よ。私は酔っ払ってなんかないんだから/////」

男「そ、それ典型的な酔っ払いの台詞ですよ!」

狸侍女「全く、あなたという妖(ひと)は・・・。ほら、そろそろ片付けますよ」

蜘蛛女「そんなあ・・・。あと一本だけ飲みましょうよー/////」ヒック

狸侍女「駄目です。・・・では、片付けて参りますので、男様、申し訳ありませんが、蜘蛛女を見ていてもらえませんか?」

男「あ、いいですよ。ちゃんと見ておきます」

狸侍女「ありがとうございます。では」ヒュッ

男「転がってたお銚子が一瞬で!?」

蜘蛛女「た、狸侍女の意地悪ー・・・/////」ウィー

男「酔うと、少し幼くなるのかこの妖(ひと)・・・」

蜘蛛女「わ、私のお酒達がー・・・/////」ヒック

男「ま、まあまあ。蜘蛛女さん、そろそろ寝ましょうよ。もう夜も遅いですよ」

蜘蛛女「うー・・・。じゃあ、男くんと一緒に寝るー/////」

男「はい!?」

蜘蛛女「ふふふー。私からお酒を取り上げるなら、男くんの身柄を私が取り上げちゃうわー/////」ヒック

男「い、いやいや! 全然意味が分からないですよ!」

蜘蛛女「んー? 男くんは意外とお馬鹿さんなのかしら?/////」ヒック!

男「よ、酔っ払いに馬鹿にされた・・・」

蜘蛛女「ふふ。男くん、可愛いわよねー。食べたくなっちゃう/////」ペロリ

男「うっ!?(な、何か、かなり妖艶な雰囲気が・・・!)///」

蜘蛛女「・・・ねえ? 男くん・・・」ジリジリ

男「な、何です・・・?」タラー…

蜘蛛女「お姉さんと、い・い・こ・と。してみない・・・?/////」ソッ…

男「はぃい!?(ち、近い!)///」

蜘蛛女「何でかしら。さっきから、躰が火照るのよ・・・/////」

男「そ、それは酔いのせいじゃないですか?」アセアセ

蜘蛛女「ふふ。どうかしらね? 試してみる?/////」ツツー

男「あ、うあ・・・///」

犬娘「・・・男さん?」

男「い、犬娘!!?」

ー数十分前 蜘蛛女宅・客間ー
狸娘「さ、いよいよ明日は冬華村ですわね」

狐娘「ええ。明日も早いわよ」

犬娘「明日は、どんな所を回るの?」

狐娘「そうね。取り敢えず、行ってから決める感じかしら・・・」

狸娘「あら、それで大丈夫ですの?」

狐娘「ええ。冬華村は実際はあまり見るところは無いのよ。寒さの厳しい所だしね。正直観光にはあまり向いていないわ」

犬娘「確かに、前に行ったときは寒かったねー。でも、雪がいっぱい積もってて楽しかったよー」

狐娘「あなたずっと外を走り回っていたわよね、そういえば・・・」

狸娘「流石は犬ですわね・・・」

犬娘「?」キョトン

狐娘「まあ、とにかくそんなわけで、どうするかは明日の朝、船の上で考えれば大丈夫よ」 

狸娘「なるほど」

狐娘「でも、祭りの日もあと二日。二日後には、また皆お別れね」

狸娘「そう、ですわね」

犬娘「そういえば、男さんはどうするのかな?」

狸娘「どうする、とは?」

犬娘「男さん、やっぱり人間の世界に帰りたいだろうし、帰る方法が見つかってたら、帰っちゃうよね・・・」

狸娘「それは・・・」

狐娘「そうね。いきなりこっちに来たんですもの。向こうでやり残してきたことも沢山あるはずよね」

犬娘「最終的にはどうなるか分からないけど・・・」

狸娘「けど?」

犬娘「・・・うん。ずっと、ここに居てくれたらなあ、って。そう思うんだ」

狐娘「そうね。そうなったらいいわよね」

狸娘「そうですわね。そうなったら、どれだけいいか」

狐娘「でも、私達がそれを考えても仕方ないわ。決めるのは男さんですもの」

犬娘「うん・・・」

狸娘「さ、なら早く寝てしまいましょう。明日にでもまた、話せばいいですわ」

犬娘「そうだね・・・。お休みなさい!」ポフッ

狐娘「お休み、二人とも」

狸娘「ええ。お休みなさい・・・」


ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー


犬娘「(・・・はっ! また私だけで寝ちゃうところだった!)」パチッ!

犬娘「(危ない危ない。今日こそ男さんと一緒に寝るんだ)」モゾモゾ

犬娘「(温かい男さんに、ぎゅってしてもらいながら寝るんだー・・・///)」コソコソ

犬娘「(くふふ・・・。早く男さんの所に行こう!)」スッ…パタン


ー蜘蛛女宅・客間前廊下ー
犬娘「えーと、男さんは・・・」クンクン

犬娘「まだ居間にいる・・・!」トコトコトコ

男『はぃい!?』

犬娘「ゎふっ!?」ビクッ

犬娘「お、男さん、何かあったのかな・・・!」タタッ!

犬娘「お、男さん!」スパアン!

蜘蛛女「ふふ。どうかしらね? 試してみる?」ツツー

男「あ、うあ・・・///」

犬娘「・・・男さん?」

男「い、犬娘!!?」

男「い、犬娘、これは・・・!」

蜘蛛女「ほらあ、男くん・・・。早くシましょう・・・/////」ヒック

男「だあ! ちょっと静かにしててくださいよ!」

犬娘「お、男さん、す、すすするって・・・!」ワナワナ

男「ち、違うよ!? 何もしないよ!? 蜘蛛女さんは酔っ払ってて、変なこと言ってるだけで・・・!」

蜘蛛女「あらー? 私は本気よ? ほら・・・/////」ガシッ ムニュウ

男「うわ!? む、胸・・・!///」

犬娘「!!」

蜘蛛女「ふふ。ほら、こんなにドキドキしてる・・・/////」ヒック

男「ちょ、離してくださいよ! ほら、犬娘が見てますって!」

蜘蛛女「あら、犬娘ちゃんー? どう? 一緒にスる?/////」ウィー ヒック

犬娘「な、ななな・・・///」

蜘蛛女「ふふ。三人で、っていうのも悪くはないんじゃない?/////」ヒック

男「悪いですよ!」 

蜘蛛女「あら。じゃあ、二人で・・・?/////」ヒック

男「そうじゃなくてえぇぇ!」

蜘蛛女「もう、わがままばっかり言う口は・・・!/////」ガシッ

男「へっ? んむっ!?」チュ…

犬娘「!!!?」

蜘蛛女「ん、む・・・、ふ・・・/////」チュク チュク

男「むーっ!? んむーっ!!」ジタバタ

蜘蛛女「ん、ぷはあっ・・・! もう、暴れちゃダメじゃない・・・/////」ツー…

犬娘「お、男さ・・・」ジワ

男「い、犬娘! これは・・・!」

犬娘「ご、ごめんなさい! 私、お邪魔しちゃって・・・!」ポロポロ 

男「ぅえ!? いや、だから・・・!」アセアセ

犬娘「お、お休、み・・・ ヒック なさい!」タタッ

男「い、犬む・・・ぅわっ!」ガシッ ズテン

蜘蛛女「うふふー。逃がさないわよー・・・?/////」ヒック ジリジリ

男「くっ! もういい加減に・・・!」バッ…

狸侍女「いい加減にしなさい、蜘蛛女・・・」ゴゴゴ…!!

男「た、狸侍女さん!」

蜘蛛女「あれ? 狸侍女、あなたも・・・/////」ヒック

狸侍女「ふっ・・・!」ヒュッ ビシッ

蜘蛛女「! ・・・」バタン キュー…

男「た、狸侍女さん、ありがとうございます! 助かりました」

狸侍女「いえ、助けに参るのが遅くなり、申し訳ありませんでした」

男「いえ、そんな・・・。って、俺、犬娘を追いかけなきゃいけないんで、行ってきます!」ダッ 

狸侍女「犬娘様は、裏手に参られました!」

男「ありがとうございますー!」タッタッ ガラガラ

蜘蛛女「きゅー・・・/////」Zzz Zzz

狸侍女「・・・全く、あなたは本当に厄介な火種を残してくれましたね・・・」ハァ…

ー蜘蛛女宅・裏庭ー
犬娘「うっ、ぐすっ・・・」トボトボ…

犬娘「・・・男さん、やっぱり蜘蛛女さんみたいな女の妖(ひと)が好きなのかな・・・」グスッ トボトボ…

犬娘「うぅ・・・。私だって、あと何年かすればきっと・・・」トボトボ…

犬娘「・・・・・・」ヘナヘナ

ポロポロ ポロポロ

犬娘「・・・辛いよぉ、男さん・・・!」グスッ エグッ

男『犬娘ー!』タッタッタッ

犬娘「! お、男さ・・・?」グスッ ヒック

男「いた! 犬娘!!」タッタッタッ

犬娘「ど、どうじで・・・?」エグエグ

男「ど、どうしても何も、あんな誤解をそのままにしてはおけないでしょ!」ハア、ハア…

犬娘「・・・ご、ごかい・・・?」ヒック グスッ

男「そうだよ・・・。いい? まず、俺と蜘蛛女さんは恋人だとか、そんな関係じゃない」

犬娘「で、でもさっき、せ、接吻じでたあ・・・!」ブワッ!

男「だあ! だ、だから、蜘蛛女さんはあの時滅茶苦茶酔っ払ってたの! それで、変な感じになっちゃって・・・!」

犬娘「む、胸も、ざわってだー!!」ワーン!

男「いや、だからさ、どっちも俺からじゃなかったでしょう!?」

犬娘「・・・!」ヒック! グスッ

男「ね・・・ね?」

犬娘「・・・」ヒック…

男「・・・」

犬娘「・・・でも嫌そうじゃながったー!」ブワッ!

男「うわあ!? えーと・・・!」アタフタ

犬娘「お、男ざん、く、蜘蛛女さんみだいなお、女の妖(ひと)が好みなんですか!?」エグエグ

男「い、いや。俺は、どっちかって言うと年上より年下が・・・」

犬娘「ほ、本当でずか!?」ヒック エグッ

男「ほ、本当だよ! って、何か恥ずかしいな・・・」

犬娘「く、蜘蛛女さんより、私が好きですか!?」

男「へっ? う、うん。もちろん」

犬娘「! ほ、本当ですか・・・?」ヒック

男「う、うん! 犬娘の方が好きだよ。初めて会ったときから、ずっと一緒にいるし、それに、可愛いし」

犬娘「・・・本当?」グスッ

男「うん、本当だよ。・・・ごめんね、犬娘。嫌な思いさせちゃって・・・」ポンポン

犬娘「男さん・・・」ヒック

男「うん? 何?」ナデナデ

犬娘「・・・ぎゅっ、てしてください・・・///」

男「・・・うん。いいよ」ギュッ

犬娘「ぐすっ・・・。えへへ///」ギュウー

男「よしよし」ポンポン

犬娘「お、男さん。約束、覚えていますか?」

男「うん。一緒に寝るんだよね?」

犬娘「は、はい・・・///」

男「・・・よし、それじゃあ行こうか。布団も敷かなくちゃね」

犬娘「は、はい! 私、お手伝いしますね!」

男「うん、ありがと。さ、行こう」キュッ スタスタ

犬娘「! はい///(男さんから、手を繋いでくれた///)」トコトコ

ー蜘蛛女宅・居間ー
狸侍女「お帰りなさいませ」

男「あ、ただいま戻りました」

犬娘「た、ただいまです」

狸侍女「犬娘様、先程は蜘蛛女が失礼をいたしました。泥酔した上での行動でしたので、お気になされない方がよろしいかと」

犬娘「は、はい。大丈夫です。もう気にしてませんから」

狸侍女「・・・ありがとうございます。それでは、お休みなさいませ」ヒュッ

男「・・・こういう時は普通に行けばいいのに・・・」

犬娘「あ、あはは・・・」

男「さて、それじゃあ俺達も寝ようか」 

犬娘「はい!」

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

男「よし、布団も敷き終わったし」

犬娘「寝ましょうか!」モゾモゾ

男「うん。お休み、犬娘」バフッ

犬娘「お休みなさい、男さん・・・」

犬娘「(今日は、色々大変だったなぁ。山賊に襲われたり、蜘蛛女さんが酔っ払ったり・・・)」

犬娘「(でも、最後にこんなにいいことがあって、良かったな・・・)」

犬娘「(男さんの隣で眠れて、寝顔が見られるなんて・・・///)」

男「Zzz…Zzz…」

犬娘「(ああ、やっぱり私は、この方が好きなんだな・・・///)」

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

ー翌日 紫苑祭・四日目ー
チュンチュン チチチ

男「ん、ふあー・・・ぁふ。朝か・・・」ムクリ

犬娘「Zzz…Zzz…」

男「あれ?犬娘・・・ああ。そういえば昨日は一緒に寝たんだっけか」

犬娘「ん、んん・・・。あ、男しゃん・・・。おはようございまふ・・・」モゾモゾ

男「うん、おはよう。顔を洗ってこようと思うんだけど、一緒に行く?」

犬娘「はい。行きます・・・」ゴシゴシ

男「あ、目は掻いちゃだめだよ」

犬娘「はいー・・・」シパシパ

男「あはは。じゃあ、行こうか」スタスタ

犬娘「ゎふ・・・」ヨロヨロ

スラッ

狸娘「きゃっ!? お、男様!」

男「おっ、と! ごめん狸娘。驚かせたね」

狸娘「い、いえ。それより、犬娘さんがいなく・・・」

犬娘「あ、狸娘ちゃんおはよー・・・」

狸娘「!?」ガーン!

男「(あ、何かまた面倒なことになりそうな気がする・・・)」

狸娘「い、犬娘さん・・・。な、なぜ男様の部屋に・・・!?」

男「あー、狸娘これは・・・」

犬娘「えへへ。昨日は男さんと一緒に寝たんだー・・・///」

狸娘「な!?」

男「あー・・・」

犬娘「えへへー///」

狸娘「お、男様!? どういうことですの!?」

男「いや、話せば長くなるんだよ・・・」

犬娘「うふふー。朝ご飯を食べに行きましょうー」ポヤポヤ

狸娘「・・・男様、後程詳しくお話を伺わせて頂きますからね・・・?」

男「あはは・・・」

ー蜘蛛女宅・居間ー
男「おはようございます」

犬娘「おはようございまーす」

狸娘「おはようございます」

狐娘「あら、おはよう」

狸侍女「おはようございます、お二方。朝ご飯が出来ておりますので、お席にどうぞ」

狸娘「あら、蜘蛛女さんは?」

狸侍女「ああ、彼女なら・・・」

蜘蛛女「ぉ、おぉぉ・・・ぉはよぅ・・・」ズル…ズル…

犬娘「ひい!?」

狸娘「く、蜘蛛女さん!?」

蜘蛛女「あ、だめ・・・。大きな声出さないで・・・」ズキズキ

狸侍女「あれほど飲み過ぎるなと言ったのに聞かないからですよ、蜘蛛女」

狐娘「どれだけ飲んだんですか・・・」

蜘蛛女「うぅ・・・。お説教も聞きたくないわ・・・」ズルズル…

男「お水でも持ってきますか?」

蜘蛛女「ありがとー・・・」グデー

犬娘「お酒って怖いんですね・・・」

狸娘「こうはなりたくありませんわね・・・」

蜘蛛女「ふ、ふふ・・・。反面教師としての役割は果たせたみたいね・・・」

狸侍女「何を馬鹿なことを・・・」

男「はい、お水ですよ」

蜘蛛女「ありがとぅー・・・」コク…コク…

狸侍女「さて、では遅くなりましたが朝食にしましょう」

狐娘「そうですね」

全員『いただきまーす!』

カチャカチャ モグモグ

男「それにしても、ついに紫苑祭も四日目かー」モグモグ

狸娘「そうですわね。残すところ、今日を含めても二日しかありませんわ」

犬娘「今日は冬華村に行くんだよね? 狐娘ちゃん」

狐娘「ええ。まあ、本当に見る物はそんなにないから、もしかしたら夜には秋之村に着くかもしれないわね」

男「あ、そうなんだ」パクパク

狸侍女「ならば、皆で一度秋之村に参りましょうか」

狸娘「そうですわね。私達はまだ行っていませんし」

狐娘「そうね。時間に余裕が出来たら、それでもいいかもね」

蜘蛛女「ぅー・・・。狸侍女ー、お水ちょうらい・・・」ズキズキ

狸侍女「・・・全く、本当に仕方のない妖(ひと)ですね」

ー数十分後ー

全員『御馳走様でした!』

男「さて、それじゃあ歯を磨きに行こうか」

蜘蛛女「あー、食器は私が片付けておくからそのままでいいわよ・・・」ズキズキ

狸娘「い、いえ、それは・・・」

蜘蛛女「いいのよ・・・。あなた達はさっさと出掛ける準備をしちゃいなさい・・・。余裕があるわけではないんだから」ズキズキ

狸侍女「そうですね。わたくしも手伝って参りますので、皆様はお先にどうぞ」

男「・・・二人とも、すいません。よろしくお願いします」

狐娘「お願いします」

犬娘「ありがとうございます」

狸娘「それでは、行きましょうか」

スタスタ

狸侍女「では、片付けますよ、蜘蛛女」カチャカチャ

蜘蛛女「はいはい。昨夜の件の、せめてもの罪滅ぼしね・・・」ズキズキ カチャカチャ

狸侍女「このくらいのことでは、本当に『せめてもの』、ですけどね」

蜘蛛女「相変わらず容赦ないわねー・・・」

ー春陽村・港ー
ワイワイ ガヤガヤ ザワザワ

男「それじゃあ蜘蛛女さん。本当に御世話になりました!」

犬娘「ありがとうございました!」

蜘蛛女「いいのよ。私こそ、悪かったわね。・・・色々と」

男「あ、あはは・・・」

狐娘「牛頭や馬頭に会いに行くんでしたよね?」

蜘蛛女「ええ。きっちり、絞ってくるわ」

狸娘「ふふ。頑張ってくださいね」

蜘蛛女「ええ。任せておきなさい」

狸侍女「それでは、そろそろ出発ですので」

蜘蛛女「ええ。・・・また顔を出しなさいよ、狸侍女」

狸侍女「はい、必ず。身体に気を付けるんですよ?」スッ

蜘蛛女「あなたこそ」ギュッ!

狐船頭「まもなくー、冬華村行きの便がー、出発いたしますー。お客様はー、ご搭乗になりー、お待ちくださいませー」

蜘蛛女「さ、時間よ。気を付けて行ってらっしゃい!」

全員『行ってきます!』ゾロゾロ

ガヤガヤ ザワザワ

???「み、見つけた・・・!」

ー船上ー
男「んーっ、船はいいなあ」ノビーッ

狸侍女「はい。海風が気持ちいいです」

男「あれ? そういえば犬娘達は?」

狸侍女「はい。なんでも、船内に大道芸人がおり、芸を見てくると」

男「ああ、そうなんですか。狸侍女さんはいいんですか?」

狸侍女「はい。わたくしはここで、男様のお側におります」ニコッ

男「っ・・・///」

狸侍女「? 男様?」

男「あ、いえ! 何でもないです!(この妖(ひと)、基本無表情なんだけど、たまに笑うと、すごく可愛いんだよなあ)///」

狸侍女「?」

???「あ、お、おお男!」スタスタ

男「? あ! 鬼女さん!」

鬼女「きき奇遇だな! こんな所で出会うなんて!」

男「本当ですね! でも、どうしてここに?」

鬼女「う、うむ! 折角の紫苑祭期間だからな! たまには他の村に行くのもいいものだと思ったんだ!」

狸侍女「牛頭や馬頭は・・・」

鬼女「あ、ああ。心配はいらない。既に私達で懲らしめたし、今頃は蜘蛛女に正座で説教を食らっている頃だと思う」

男「あはは。何となく想像できますね」

鬼女「う、うむ。ところで、お、男達はこのまま冬華村にむかうのだろう?」

男「ええ。そうですね」

鬼女「も、もしよければ、わ、私も一緒に行ってもいいか?///」

男「ええ、もちろんです。皆喜びますよ」ニコッ

鬼女「! そ、そうか・・・///」

狸侍女「(男様はそうやって無自覚に女性を虜にしていくから厄介ですね)」ハァ…

男「? 狸侍女さん?」

狸侍女「いえ。それでは、お嬢様達がお戻りになり次第、お伝えします」

鬼女「うむ。よろしく頼む!」スッ

男「こちらこそ」ギュッ!

鬼女「えへへ///」

男「? 鬼女さん?」

鬼女「え? あ、いや、何でもないぞ! うん」ゴホンゴホン!

男「?」

狸侍女「(本当に鈍感なのですね・・・)」ハァー…

犬娘「すごかったねー! あの大道芸人さん!」

狸娘「そうですわね! まさか口から刀を出すなんて」

狐娘「面白かったわね」

テクテク

男「あ、皆来たみたい。 オーイ、皆ー!」

犬娘「? 男さん?」

狐娘「どうしたのかしら?」

狸娘「まあ、ともかく行ってみ・・・鬼女さん!?」

鬼女「や、やあ! 皆、昨日ぶりだな!」

犬娘「どどどうしてここに・・・?」ワナワナ

鬼女「う、うむ。たまたまな? た・ま・た・ま! 偶然にも私も冬華村に行こうと思っていて、さらに偶然、船が一緒だったのだ!」

男「すごい偶然があるもんだよねー」アハハ

狐娘「・・・男さん、本気で言って・・・るわよね」

男「え?」

狸侍女「ちなみに、本日からご一緒に行動されます」

犬娘・狸娘「!!?」

鬼女「うむ。よ、よろしくな!」

狐娘「よろしくお願いします。(大変ね、三人とも・・・)」

男「じゃあ冬華村に着くまで、もう少し待ちましょうか」

鬼女「う、うむ! 男に、色々と聞きたいことがあるんだ。聞いてもいいか?」

男「答えられることなら」

ペチャクチャ

犬娘「・・・どうして、こんな事が・・・!」

狸娘「・・・まあ、もう驚きませんけど・・・」

狐娘「その、頑張ってくださいね」

狸侍女「はい。攻めあるのみです」ゴゴゴ…!

犬娘「私も、負けない!」ゴゴゴ!

狸娘「私だって、負けませんわ!」ゴゴゴ!








男「!?」ゾクッ!

ー冬華村・港ー
狸侍女「到着しました」ザクザク

男「わ、結構寒いですね! 雪も大分積もってるし」ヒュウゥゥー ザクザク

犬娘「ここは年中雪が降るくらいの気温ですから」ザクザク

狸娘「そ、それにしたって寒過ぎますわ・・・! き、狐娘さんはよくこんな環境で・・・狐娘さん?」ガタガタガタガタ

狐娘「・・・・・・」

犬娘「? 狐娘ちゃん?」

狐娘「え? あ、ああ、ごめんなさい。少し、ボーッとしてたわ」

狸娘「大丈夫ですの? 船内でも時折、何か考え事してましたけど」

狐娘「ええ、大丈夫よ。気にしないで。さ、行きましょうか」ザクザク

犬娘「あ、ま、待ってー」ザクザク

狸娘「お、お二人とも元気ですわね・・・」ザクザク



男「・・・」

狸侍女「気になりますか? 狐娘様が」

男「あ。ええ、やっぱり、どこか様子がおかしいです」

狸侍女「はい。この祭中も、時折考え込んでいる様子が見受けられました」

男「ちゃんと自分から話すから、それまで待っていて欲しいとは言われましたけど・・・」

狸侍女「もどかしいですね」

男「ええ。大したことじゃないといいんですけど」



犬娘「男さーーん! 狸侍女さーーん! 行きますよー!」ブンブン

男「はーい! 今行くよー! ・・・まあ、悩んでも仕方ないですね。話してくれるのを待ちましょう」ザクザク

狸侍女「そうですね。そうするのがよろしいかと」ザクザク

犬娘「何をお話してたんですか?」

男「うん、ここはすごく寒いね、って。それで、まずはどこに?」

狐娘「まずは、湖かしらね。そこで魚釣りが出来るのよ」

男「へー。面白そうだね」

狸娘「なんでも、その湖は凍っていて、上に乗って釣りをするらしいですわ」

犬娘「凍った湖に乗るのは初めてなので、楽しみです!」

男「そうだね。俺も楽しみだ」

狐娘「ふふ。行きましょうか」

ザクザクザクザク


ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

忍び狐1「ようやく見つけた」

忍び狐2「全く、手間を掛けさせる」

忍び狐3「まあそう言うな。あの方が逃げたくなるのも分かる」

忍び狐2「まあ、な・・・」

忍び狐1「ほら、無駄話は終わりだ。坊ちゃんに連絡、頼むぞ」

忍び狐3「はっ」ヒュッ

忍び狐2「・・・俺、正直今回の仕事、乗り気じゃないです」

忍び狐1「ああ。俺もさ。だが、我ら忍びにとって、主君の命令は絶対。逆らうわけにはいかんさ。例え主君がどんな奴でもな」

忍び狐2「辛いっすね・・・」

忍び狐1「それも忍びの仕事の内だ」

忍び狐2「妖狐様も、お辛いでしょうに・・・」

忍び狐1「それ以上言うな。仕事に支障を来すぞ」

忍び狐2「はっ・・・」ヒュッ

忍び狐1「・・・」

忍び狐1「仕えるべき相手を間違えた忍びというのは、本当にやるせないな・・・」ヒュッ

ー冬華村・白尾湖ー 
男「おー。結構広いねー」

狐娘「ええ。あ、ほら、他にも釣りに来ている妖(ひと)がちらほらと見えるわ」

狸侍女「ここでは何が釣れるんです?」

狸娘「そういえば、何でしょう?」

狐娘「ここでは、アジ、ボラ、キス、カレイ、クロダイ、メバルにスズキかしらね」

犬娘「結構釣れるんですねー」

鬼女「・・・」ガタガタガタガタ

男「そういえば、到着してからずっと静かだと思ってたら・・・」

鬼女「・・・!」ガタガタガタガタ…!

狸侍女「大丈夫ですか? 鬼女様」

鬼女「さ、さささ寒い・・・!」ガタガタ カチカチ

犬娘「わ、凄い震えてる」

狐娘「大丈夫ですか? これ、羽織っていてください」ゴソゴソ スッ

鬼女「あ、ああ、す、すすすまない・・・」ガタガタ ブルブル ファサ…

鬼女「お、おお。これは温かい・・・」

狐娘「この島に住むなら必ず必要になる防寒具です。皆も、寒さが酷くなったら言ってね。まだあるから」

男「俺は、まだ平気かな。少し厚着してきたし」

犬娘「私は元々寒いの平気です!」

狸娘「そうですわね。私もまだ平気ですわ」

狸侍女「同じく」

狐娘「そ。それじゃあ、釣り竿を借りてくるわね」スタスタ

鬼女「・・・ふう、ようやく落ち着いた。それにしても、皆よく平気だな」

男「人間の世界の冬も、これくらいですからね。慣れているんですよ」

犬娘「男さんは、人間の世界の冬華村みたいな所に住んでいたんですか?」

男「いや、人間の世界は、四季って言って、一年間で春、夏、秋、冬って順番に巡るんだよ」

狸娘「そうなのですか!?」

鬼女「なんと、四つの季節を味わえるとは! 羨ましいな」

男「そ、そんなに驚く事ですかね?」

狸侍女「四季が同じ場所を巡るのは、大変興味深いことかと」

犬娘「面白いですねー。一つの場所にいても、春夏秋冬味わえるんですかー」

男「価値観が違うって面白いなあ」

狐娘「あら? 皆どうしたの?」ガチャガチャ

男「いや、人と妖との価値観の違いについて考えてたんだよ。あ、手伝うよ」

狐娘「ありがとう、男さん。それで、価値観って?」

犬娘「人間の世界は、一つの村で春夏秋冬が味わえるんだってー!」

狸娘「面白いですわよね」

狐娘「確かに、それは面白いわね。でも、男さんからしてみれば、それは当たり前のことで、驚くような事じゃないから、価値観の違い、と」

狸侍女「はい。その通りです」

狐娘「なるほどね。確かに、私も興味あるけど、まあ、その話は釣りでもしながら、ね?


鬼女「うむ、そうだな!」

狐娘「あ、しまった。穴を開ける道具を借りてくるのを忘れちゃった。ごめん、もう少し待っててね」

鬼女「あ、その必要はないぞ。穴を開けるなら、私に任せてくれ!」ブン! バリィン!

男「うわ、力ずくで!?」

鬼女「ははは。この位なら簡単だぞ」ヒラヒラ

狸侍女「さすが、本家鬼族ですね」

狸娘「こんな分厚い氷を素手で割るなんて・・・」

狐娘「助かりました、鬼女さん」

鬼女「なんのなんの!」アハハ

犬娘「・・・あ、お魚!」

狐娘「それじゃあ鬼女さん、人数分穴を開けてもらってもいいですか?」

鬼女「ああ。任せてくれ!」ブン! バリィン!

犬娘「すごいですねー。あっという間に人数分の穴が」

狸侍女「それも、全部同じ大きさで開けられています」

鬼女「ふふん。この位は朝飯前だ」エヘン!

狸娘「お見事ですわ!」

鬼女「えへん!」

男「本当にすごいですよ、鬼女さん!」

鬼女「えっへ・・・あ、う、うん・・・。ほ、褒めてもらえると嬉しい・・・///」テレテレ

犬娘「!」

狸娘「!」

狸侍女「さ。取り敢えず釣りをしましょう」

狐娘「そうね。ほら、犬娘に狸娘。歯を食いしばってないで。竿」

犬娘「こ、こうなったら、沢山釣って男さんに褒めてもらう!」パシッ

狸娘「私も負けませんわ!」パシッ

狐娘「まったく、あなた達は・・・」ハァ…

狸侍女「鬼女様、男様、こちら竿です」スッ

鬼女「う、うん。ありがとう」チャッ

男「あ、ありがとうございます、狸侍女さん」チャッ

狐娘「それじゃあ、折角だから、誰が一番多く釣れるか競争しましょうか」

鬼女「それはいいな! よし、勝負だ!」チャポン

狸侍女「面白そうです。わたくしは負けませんよ?」チャポン

男「あはは。よーし、じゃあ・・・」チャポン

犬娘「釣り勝負、」チャポン

狸娘「開始ですわ!」チャポン

男「いやー、釣りなんて久し振りだなあ」

狐娘「そうなの?」

男「うん。俺の住んでいる所は、周りに海も川も無くてね。遠出しないといけなかったから」

狸侍女「成る程。それでは、釣りなどはなかなか出来ませんね」

鬼女「ふむ。それでは、男は不利か?」

男「いえいえ。気にしなくてもいいですよ」

犬娘「あ、かかった!」グイグイ

狸娘「もう!?」

男「お、犬娘が最初の釣果を挙げるかな?」

狐娘「結構大きそうね」

犬娘「むむむー・・・!」グググー……!

狐娘「犬娘、頑張って!」

犬娘「うーーん・・・!」グググー……!

鬼女「おお、かなりの大物か!?」

犬娘「えーーい!!」グイ! ザバー!

男「おお! 釣れた!」

狸侍女「やりましたね、犬娘様」

狐娘「かなり大きいわね」

犬娘「や、やったー・・・」ハァ…ハァ…

狸娘「これは何ていう魚ですの?」

鬼女「えーと・・・?」

犬娘「あ、あれ? このお魚・・・」ジー…


魚「んだよ・・・。旨そうな飯が漂ってると思ったら、釣り餌だったのかよ・・・。それもこんな嬢ちゃんに釣られちまうたあ、俺もヤキが回ったかねえ・・・」

全員『・・・』

魚「くそ・・・。俺の魚生もここまでか・・・。もう少し・・・。あともう少しだけ、自由でいたかったぜ・・・」

全員『・・・』

魚「いいぜ! 俺も男だ、腹ァ括ろうじゃねぇか! 煮るなり焼くなり好きにしろぃ!」デーン!

全員『・・・』

犬娘「・・・」ムンズ スタスタ

魚「ふっ。嬢ちゃん。アンタ、この俺を釣ったんだ。その誇り、忘れ・・・」

犬娘「・・・」ポイッ

魚「あ? え、ちょっ・・・!」ボチャン!

全員『・・・』

犬娘「・・・今のは、何ていうか・・・。全体的に無しの方向で・・・」

狸侍女「そ、そうですね・・・」

鬼女「狐娘。この湖では、言葉を話す魚が釣れるのか・・・?」

狐娘「い、いえ。私も初めて見ましたし、話に聞いたこともないです」

狸娘「突然変異、でしょうか?」

男「いや、それにしても何で言葉・・・。えー・・・?」

犬娘「と、取り敢えず今のは忘れて! 釣りを再開しましょう!」

狐娘「そ、そうね。そうしましょう」

鬼女「・・・もしかして、また誰か釣ったりして・・・」ボソッ

全員『・・・』

男「ま、まあ、普通に知能はあったし、二度も針に引っかからないでしょ!」

狸娘「そ、そうですわね! 次に釣れるのは普通の魚のはずですわ!」

鬼女「う、うむ。そうだな! おかしな事を言って済まない! さ、釣りを再開しよう!」

犬娘「次こそ、美味しいお魚を釣る!」フンス!

狸侍女「わたくしも、スズキなどを釣ってみたいものです」

狐娘「塩焼きで食べたいわ・・・」

全員『・・・』

ー数分後ー

狸娘「わ! か、掛かりましたわ!」グイー…

狸侍女「お嬢様、頑張ってください」

狐娘「あら、こちらも掛かったわ!」ググー…

男「二人とも、頑張って!」

犬娘「頑張ってー!」

狸娘「もう少しですわ!」グイグイ

鬼女「おお、もう魚影が見えてきた!」

狐娘「うーん・・・! こっちはまだね・・・」グイグイ

男「狐娘の方が大きいみたいだね」

狸娘「つ、れ・・・ましたわー!」グイ! ザパッ!

犬娘「あ、今度は普通のお魚!」

狸娘「これは・・・」

狸侍女「ボラ、ですね」

鬼女「おお、やったな!」

狸娘「え、ええ(正直パッとしませんわ・・・)」

狐娘「よい、しょっと!」ザパー!

男「あ、狐娘も釣れた?」

狐娘「ええ。キスが釣れたわ」

鬼女「おお! キスは天ぷらが美味しいんだ!」

狐娘「ええ。後で近くの食堂に持って行きましょう。そこで、釣った魚を調理してもらえますから」

犬娘「これで、狸娘ちゃんと狐娘ちゃんが、一歩先んじたね」

男「よーし、俺も釣るぞー!」

鬼女「む! 私もだ!」

狐娘「ふふ。次は何が釣れるかしら」

ー数十分後ー
狐娘「それじゃあ、そこまでー!」

鬼女「お、もう終わりか」

狸娘「全員で沢山釣れましたわね」

犬娘「お刺身! 塩焼き! 煮付け!」ワーイ!

男「あはは。確かに、お腹空いてきたね」

狸侍女「それでは、皆様の釣果を、順番に発表していきましょう」

狐娘「そうね。まず私は・・・4匹ね」

鬼女「私は3匹だ・・・」

男「俺は5匹」

犬娘「わ、私は1匹です・・・」ショボーン

狸娘「私は3匹ですわ」

狸侍女「わたくしは8匹です」

男「それじゃあ・・・」

狐娘「優勝は、狸侍女さんです!」パチパチ

鬼女「すごいな! 8匹も釣るなんて!」

犬娘「あう。負けました・・・」

狸娘「流石は狸侍女ですわね」

狸侍女「はい。侍女ですので」

男「侍女って釣果すら操れるのか・・・」

狐娘「さて、それじゃあ、お昼には少し早いけど、魚を持って食堂に行きましょうか」

狸侍女「食堂の方々に言って、しばらくとっておいてもらいましょう。それに、24匹も食べられませんから、お客様皆に分けてあげましょう」

鬼女「うむ。それがいいな」

狸娘「それじゃあ、早速行きましょうか」

ー食堂ー
狐娘「こんにちはー」ガラガラ

店主「へいらっしゃ・・・って! 妖狐さんとこの嬢ちゃんじゃねえか!」

狐娘「ええ。お久しぶりです、店主さん」

店主「本当に久し振りだなあ! いやー、大きくなったもんだ!」

男「あれ、狐娘の知り合い?」

狐娘「ええ。父の友人で、昔からその縁で付き合いがあるの」

店主「お、嬢ちゃんのお友達かい? よく来たなあ! ささ、座ってくれや!」

犬娘「はーい」

狸娘「随分と豪快な方ですわね」

店主「ガハハ! 褒め言葉と受け取っておくぜ!」

鬼女「店主殿。実は、私達は先ほど釣りをしてきてまして・・・」

狸侍女「こちらでお料理して頂けないかと思いまして」

狐娘「もちろん、沢山釣ってきましたから、そちらは差し上げます」

店主「ほう、どれどれ? おお、沢山釣れたもんだなあ! よし、任せておきな!すぐに作ってきてやるよ!」

男「ありがとうございます」

店主「ガハハ! いいってことよ! ちょっと待ってな!」スタスタ

犬娘「いい妖(ひと)そうですねー」

男「うん、そうだね」

狐娘「昔からずっと御世話になってるわ。頭が上がらないくらいね」

狸侍女「いいですね。そういった妖(ひと)がいるというのは」

鬼女「うん。そういった妖(ひと)との繋がりは、とても大切だからな!」

狐娘「ええ。感謝してます」

男「ああいう妖(ひと)と友達ってことは、狐娘のお父さんもああいう感じなの?」

狐娘「いいえ。正反対って言ってもいいくらいかしらね。物静かで、頑固で」

狸娘「その正反対さが、逆に良かったのでしょうね」

鬼女「ふむ。正反対の性格の持ち主が友達か。互いにいい刺激を得ていたのだろうな」

狐娘「ええ。何でも、子供の頃からの付き合いだとか」

犬娘「へー!」

男「それじゃあ、もう一人のお父さんみたいな妖(ひと)なんだね」

狐娘「ええ。本当にそんな感じね」

狸侍女「そういえば、狐娘様はご実家に寄られなくてよろしいのですか?」

狐娘「・・・後で、ちゃんと顔は出しますよ」

狸侍女「? そうですか」


店主「ほいお待ち遠さん! とりあえず、簡単に刺身にしてみたぞ。ほれ、食いねえ!」ドン!

犬娘「お、美味しそー!」ジュルリ

男「うわあ、本当だ。すごく美味そうだ!」

狸娘「さ、早速頂きましょう!」

店主「おう! まだ他にも作ってるからな! どんどん食え!」スタスタ

狐娘「それじゃあ、頂きます」カチャカチャ パクッ

狸侍女「! 確かに、とても美味しいですね」モグモグ

鬼女「は、箸が止まらん!」パクパク ムシャムシャ

男「ちょ、鬼女さん一息に何枚も食べないでくださいよ!」

犬娘「ああ! お刺身がどんどん減っていく!」

鬼女「す、すまん。つい・・・!」モグモグ

狐娘「ああ、もうこんなに少なく・・・」

店主「はい追加お待ち遠・・・ってもうこんなに食ったのか!」

鬼女「す、すまない店主殿。あまりの美味さについ・・・」ソー…

狸侍女「鬼女様・・・?」

鬼女「はっ・・・!?」

店主「ガハハ! そんなに喜んで貰えたならよかったぜ。 ほら、追加だ。天ぷらに、蒲焼き。刺身もな!」ドン!

狐娘「わ、ありがとうございます」

ー数十分後ー
全員『ごちそうさまでしたー!』

店主「おう! よく食ったなあ、お前ら!」

犬娘「美味しかったですー・・・」

男「どうも、ありがとうございました」

狸侍女「御馳走様でした」

店主「ガハハ! 見ていて気持ちのいい食いっぷりだったぜ!」

狸娘「お箸が止まらなくなるほど美味しかったんですもの」

鬼女「うん。これからは毎年ここに来ようと思う」

男「確かに、そんな気持ちになりますね」

店主「嬉しいねえ。そういや嬢ちゃん、妖狐は元気かい? あいつ、前に借金の連帯保証人になっちまった、って言っていたが・・・」

男「!」

狐娘「だ、大丈夫です! そのことはもう何とかなりますから!」

店主「そうか? ならいいけどよ・・・」

男「狐娘・・・」

狐娘「さ、さあ! そろそろ行きましょう! 店主さん、御馳走様でした! お会計は・・・」

店主「水くせえ! んなもんいらねえよ!」

鬼女「おお! 店主殿は太っ腹だな!」

狸娘「で、でも・・・」

狐娘「ええ。そういう訳には・・・」

店主「いいんだよ! 嬢ちゃんは俺の娘みたいなものだ! 娘に飯食わせて金を取る親なんざいねえわな!」ガハハ!

犬娘「店主さん・・・」

狸侍女「ありがとうございます」

店主「おうよ! 魚も結構貰ったしな! お互い様だよ、嬢ちゃん」

狐娘「・・・ありがとうございます。店主さん」

狸侍女「それでは、そろそろ参りましょうか」

店主「お、出るか。まあ、あまり観光には向いてない所だが、いい所だぜ。楽しんできな!」

男「はい。それじゃあ・・・」ガラガラ

狐娘「行ってきます!」

店主「気い付けてなー!」ブンブン

ーその頃 冬華村・とある屋敷ー
ガシャアン!
麻呂狐「えぇーい! まだ狐娘ちゃんを連れ戻せぬでおじゃるか!?」

頭領狐「は・・・。この村に帰っていらした所までは確認しましたが、その後は・・・」

麻呂狐「くぅー! この無能共めが! 役立たず!」

頭領狐「・・・しかし主。この村におられる以上、もう時間の問題かと・・・」

麻呂狐「ならさっさと連れてくるでおじゃる! 麻呂の花嫁でおじゃるぞ!」

頭領狐「・・・しかし、ご本人がそれを望んでおられないのでは・・・」

麻呂狐「そんな訳無いでおじゃる! 無礼な!」

頭領狐「・・・しかし現に・・・」

麻呂狐「黙りゃ! 狐娘ちゃんはまだ16。ちいとばかり恥ずかしがっているだけでおじゃる!」

頭領狐「・・・」

麻呂狐「それに、そもそも借金を抱えた狐娘ちゃんの父君を助けてやったこの麻呂との結婚を、喜びこそすれど、嫌がることなど有り得ぬわ! 馬鹿者め!」

頭領狐「・・・はっ(・・・そもそも、そうなるように仕向けたのは貴様だろうに・・・)」

麻呂狐「いいでおじゃるか? 麻呂はもう待ち切れぬ! 今日中に連れ戻し、予定通り今夜には祝言を挙げるでおじゃるぞ!」

頭領狐「・・・御意に」

麻呂狐「・・・ふん! 貴様らのような薄汚ーい忍び風情を拾ってやった父上の恩、その父上の亡き今、息子であるこの麻呂に仕えることで返すでおじゃるぞ!」ドスドス…




頭領狐「・・・稲荷様の恩、か・・・。稲荷様。我等、貴方様に御仕えしたこと、微塵の後悔も御座いません・・・」

頭領狐「・・・しかし、貴方様の御子息は、どうしてこんな俗物になってしまわれた・・・」

ヒュッ!

忍び狐3「頭領! 狐娘様を確認。現在、白銀の里に向かわれております」

頭領狐「・・・承知。恐らく、父君と話をしに行かれるのだろう。その間に周囲を囲め。そのまま好機を待て。恐らく、いずれ妖狐様より合図が出る。そうしたら、狐娘様の確保に入れ」

忍び狐3「はっ・・・!」

頭領狐「・・・くれぐれも、丁重に行えよ。また、お連れ様にも手荒な真似は決してするな・・・」

忍び狐3「はっ。皆に徹底させます。では・・・!」ヒュッ!

頭領狐「・・・妖狐様。心中、お察しいたしますぞ・・・」

ー冬華村・白銀の里ー
狐娘「ここが、私の故郷の里よ」

男「うわ・・・。すごく綺麗だ・・・」

犬娘「やっぱり、いつ来てもいい所ですねー」

鬼女「すごいな。何というか、すごく幻想的だ」

狸娘「ええ。美しいですわ・・・」

狐娘「さ、私の家はこっちよ。着いてきて」スタスタ

男「あ、うん」

犬娘「はーい」

狸侍女「行きますよ、お嬢様、鬼女様」

鬼女「あ、ああ!」

狸娘「今行きますわ!」

ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーー

忍び狐3「目標を確認しました」 

忍び狐1「よし。忍び隊47人、総員配置に着け。頭の言伝、努々忘れることの無いようにな」

忍び狐達『はっ・・・!』ヒュヒュッ!



忍び狐1「さて。お嬢さんには悪いが、こちらも仕事なんでね。手は抜かないぜ・・・」ヒュッ!

男「それにしても、何だか白川郷にすごく似てるなー」

狸侍女「しらかわごう、ですか?」

男「はい。俺の住んでいた国、えーと、村の、一つの地域なんですけどね、こことすごくそっくりなんですよ」

狸娘「男様の故郷にも、こういった素晴らしい風景があるのですか?」

男「うん。とても綺麗で、文化的に価値のある所だから、皆で大切にしているんだよ」

犬娘「そうなんですかー」

鬼女「興味深いな。人間の村にも、ここと同じような場所があるなんて」

狐娘「そうね。ふふ、いつか人間の世界にも行ってみたいわね」

犬娘「もしかしたら、今頃お父さんが人間の世界に行く方法を見つけているかもしれないしね!」

狸侍女「・・・男様の暮らしていた場所。是非、行ってみたいものです」

男「ええ。皆なら大歓迎ですよ。是非、いらしてください」

狸娘「その時は、男様のご両親にもご挨拶しなければいけませんわね」

男「あー、まあ、うん・・・」

狐娘「? 何か不都合でも?」

犬娘「私達が、妖族だからですか・・・?」ショボーン

男「いやいや! そうじゃなくて。俺、両親がいないからさ」挨拶しようにも、親はいないんだよ」

鬼女「そう、なのか・・・?」

狸侍女「それは・・・」

男「いやあ、14の春に、朝起きたら親がいなくてさ。書き置きが一つあって、要するに借金が返せなくなっちゃって・・・」

狐娘「!!」

男「で、息子の俺に全部押し付けて消えちゃったんだよね」

犬娘「そんな・・・」ダバー

狸娘「酷すぎますわ・・・」ザバー

男「大号泣!?」

鬼女「酷い親もいたものだな・・・」

狸侍女「・・・それで、その借金は?」

男「うん。まだ全部は返し切れてないんだけど、周りの人達に助けられて、もう殆ど返済できてるよ。お金を貸してくれてた人達も、結構いい人達でさ。利息はいらない、って言ってくれてるし」

狐娘「・・・大変よね。借金の方に身を売られるなんて」

狸娘「そうですわ! 男様は何も悪くないのに!」

鬼女「そんな親には文句の一つでも言ってやった方がいいのではないか?」

男「いえ、いいんですよ。おかげで、早くから自立できましたし、色んな人達との繋がりも持てて、ある意味今の状況には感謝してるんです。まあ、何も言わずにいきなり出て行ったことは、少し腹立たしくも思いましたけど」

狸侍女「男様・・・」

男「あはは。ちょっと、格好つけた言い方ですけどね。一応、産んで、育ててくれた人達ですから。恨んだりはしてません」

狐娘「そう。大人なのね、男さんは・・・」

犬娘「男さん、格好いいですよ!」

鬼女「うむ! 立派なものだ!」

男「あ、ありがとうございます」

狸娘「男様はお強いのですね」

男「いやいや。逃げたくても逃げ場が無かっただけだよ」

狐娘「それでも、とても凄いことだわ。―その強さが、私にはとても羨ましい・・・」

男「狐娘・・・?」

狐娘「・・・何でもないわ。さ、あそこの屋敷が、私の家よ。行きましょう」

男「・・・?」

ー冬華村・妖狐の屋敷ー
狐娘「ただいま戻りました」ガラガラ

犬娘「おじゃましまーす」

男「おじゃまします」

奉公狐「! お嬢様! お帰りなさいまし」パタパタ

鬼女「お、お嬢様?」

狸娘「狐娘さんの親御様は、もしかして・・・」

狐娘「違うわよ。ただ単に、大きなお店をやっているだけ。その店主の娘だからよ」

狸侍女「なるほど」

奉公狐「これはこれは! ご友人様方もご一緒で! ささ、お上がりになってください! 客間へご案内いたします!」ペコペコ

狐娘「ありがとう。私が父上と話をしている間、この妖(ひと)達のもてなしをお願いね」

奉公狐「はい。かしこまりました!」ペコペコ

狐娘「そういうことだから、皆は先に客間へ行っててちょうだい。私も、後から行くわ」スタスタ

狸娘「・・・狐娘さん、ご実家だというのに、あまり嬉しそうじゃありませんわね」

犬娘「うん。何だか、緊張してるみたいだった」

男「・・・」

鬼女「まあ、何かしらの事情があるにしても、私達が踏み込める話題ではないだろう」

狸侍女「はい。家庭の問題となると、さすがに・・・」

奉公狐「皆様、客間へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」テクテク

犬娘「はーい」

鬼女「男? ほら、行くぞ?」

男「あ、はい。今行きます」

ー妖狐の屋敷・客間ー
奉公狐「それでは、ただいまお茶を淹れて参りますので、どうぞおくつろぎになってお待ちくださいませ」ペコリ スー…トン

男「結構広いね、ここのお屋敷も」

犬娘「狐娘ちゃんのお父さん、妖狐さんは、この里でも有数の商家ですからね」

鬼女「なら、お嬢様というのも頷けるな」

狸娘「すごいですわね、商売でここまで成功するなんて」

狸侍女「わたくし達は、大狸様の高名でいい暮らしをしていたようなものでしたからね」

狸娘「そ、そういうことは言わなくてもいいことですわ!」

男「あはは」

鬼女「ん? 大狸とは、あの大狸様のことか?


犬娘「そうですよー」

鬼女「何と! 大狸様のご息女であらせられましたか! そうとは知らず、大変なご無礼を・・・!」ザザー

狸娘「ち、ちょっと! 頭を上げてください!」

鬼女「し、しかし!」

男「・・・何これ?」

狸侍女「鬼族は上下関係に重きを置く一族です。そのため、四神(ししん)とも呼ばれた、我ら妖族の英雄の一人の娘とあらば、尊敬の対象になるのかと。失礼、『の』が多かったですね。聞き取りづらかったでしょうか?」

男「あ、いや、そこはいいんですけど・・・」

狸娘「お、鬼女さん! 私は養子で貰われただけで、別に血縁というわけでもないんですのよ!?」

鬼女「されど、かの大狸様のご息女に間違いはなし! 軽々しく頭を上げるわけには・・・」

犬娘「わ、頭がだんだん畳にめり込んでる・・・」

男「わー! と、止めないと!」

狸侍女「・・・お嬢様」ゴニョゴニョ

狸娘「うぅー。お、鬼女さん!」

鬼女「はっ!」

狸娘「私からの命令です。私とは、今まで通り、普通に接しなさい」

鬼女「それは・・・!?」

狸娘「私の言うことが聞けませんか・・・?」

鬼女「・・・! お心遣い、感謝いたします!」

狸娘「・・・」ジトー

鬼女「え、えーと、ありがとう、狸娘」

狸娘「まったくもう・・・」

奉公狐「あ、あのー、もう入ってもよろしいでしょうか?」

狸侍女「ああ、失礼いたしました。どうぞ」

スー

奉公狐「失礼いたします。粗茶ですが、どうぞ」コト

狸侍女「ありがとうございます。後はこちらでやりますので、お仕事に戻ってください」ニコリ

奉公狐「! は、はははい!///」パタパタ ペコリ

狸侍女「? どうしたのでしょうか、あんなに慌てて」キョトン

男「あ、あはは・・・」

ーその頃 妖狐の屋敷・茶室
妖狐「・・・」

スタスタ

狐娘「・・・父上。狐娘です」

妖狐「・・・入れ」

狐娘「失礼します」スッ トン

妖狐「今まで、どこをほっつき歩いていた・・・?」

狐娘「友人と、紫苑祭の期間を使い、各村を回っておりました」

妖狐「私に一言もなくか」

狐娘「言えば、父上は止めたでしょう?」

妖狐「では、止められる理由も分かっていよう?」

狐娘「・・・私は、まだ結婚などしたくはありません。ましてや、借金の末の婚姻など・・・」

妖狐「・・・正直な所、お前には申し訳なく思っている。私が取引先を見極めることが出来なかったせいで、借金を背負い、金の援助を得るために、貴様を嫁に出さねばならなくなった。全て、私が悪いのだ」

狐娘「では・・・!」

妖狐「しかしだ。しかし、相手はかの稲荷様のお家。その現当主様からの直々のご指名とあらば、断るわけにはいかんのだ・・・!断れば、たちまち私の店は潰される!」

狐娘「・・・そんなに、店が惜しいのですか」

妖狐「・・・何?」

狐娘「私に! 望まぬ結婚をさせてまで、この店が惜しいのですか!?」

妖狐「・・・」

狐娘「父上が、亡き母上との約束のため、この店を守ってきたのは知っております。しかし、それでも私は、あのような方と結婚などしたくはありません! 物事を全てお金で考え、自分の思い通りにならないものは排する。そんな殿方に嫁ぐなど、私は嫌です!」

妖狐「・・・」

狐娘「わがままでしょうか・・・。私は、店など無くともよいと思っています・・・。例え貧しくなっても、父上と、二人で笑って暮らせれば、それで十分なのです・・・。母上だって、きっと・・・」ポロ…ポロ…

妖狐「狐娘・・・」

狐娘「亡き母上より、今ここにいる私を、どうして見てくれないのですか・・・?」ヒクッ…グスッ…

妖狐「・・・すまぬ。私はもう、後には退けないのだ」

狐娘「え・・・?」

妖狐「どんな手を使ってでも、私はこの店を守る。守らねばならぬのだ」

狐娘「そんな・・・」

妖狐「お前を嫁に出せば、借金の肩代わりだけではない。今後も資金を援助してくださるとのことだ。それに、稲荷様のお家と縁が持てれば、まだ店は大きくなる! この好機、逃すわけにはいかぬ!」

狐娘「・・・では私は、この店を維持するための・・・。道具なのですか・・・?」ポロ…ポロ…

妖狐「・・・すまぬ」

狐娘「・・・っ!!」ダダッ! タッタッタッタ……

妖狐「許せ・・・。許せよ、狐娘・・・!!」

ヒュッ

忍び狐7「妖狐様・・・」

妖狐「・・・構わぬ。手筈通り、あれを連れて行くがいい・・・!」

忍び狐7「・・・この店への永続的な援助。決して違えぬと誓いましょう」ヒュッ





妖狐「・・・これで良いのだ。あ奴も、あの家に嫁げば何一つ不自由はせん。これで良いのだ。これで・・・」

ー妖狐の屋敷・客間ー
犬娘「それにしても、狐娘ちゃん」遅いですねすズズー

狸娘「そうですわね。お父様とどんなお話をされているのでしょう?」ズズー

男「・・・」

鬼女「男? どうしたんだ?」

狸侍女「やはり、気になられますか?」

男「ええ。・・・余計なお世話かもしれないですけど、ちょっと様子を見に・・・」

奉公狐『あ!? お嬢様、どちらへ!?』

狐娘『どいて!』

ガラガラ! バン!

犬娘「! 今の・・・!」

鬼女「狐娘だな。何かあったのか?」

男「くっ、追いかけよう!」

狸侍女「はい・・・!」

狸娘「玄関から外に出ましたわ!」

タタタタ!

ガラガラ!

鬼女「!! あれは!?」

狐娘「な、何をするの!?」ジタバタ

忍び狐13「申し訳御座いません。少々、お静かに・・・」トン

狐娘「離し、うっ・・・!?」トサッ

忍び狐26「おい。頭は手荒な真似はするなと・・・!」

忍び狐13「だが、あのまま騒がれては、そもそも任務を遂行できない。最大限力は抜いた」

忍び狐5「話は後だ。頭に報告に・・・」

男「狐娘えぇぇー!!」

犬娘「狐娘ちゃーん!」

忍び狐7「くっ、彼らがお連れ様とやらか!」

忍び狐1「お前達は狐娘様をお連れして屋敷へ戻れ! 彼らは俺が足止めしておく! 第二、第三忍隊俺と共に彼らの足止めに入れ!」

忍び狐13「はっ」タタタタタ……

忍び狐11「君達! すまないが、彼女の後を追わせるわけにはいかない!」バッ!

忍び狐1「悪いが、これも仕事なんだ。このまま大人しく引き下がってくれないか?」

忍び狐達「・・・」ザザザザッ!

狸侍女「囲まれましたか・・・」

男「仕事!? 狐娘を誘拐することがですか!?」

鬼女「仕事と言うからには雇い主がいるな!? どこのどいつだ!」

狸娘「ふ、二人とも落ち着いて!」

忍び狐1「すまないが、俺達は忍び。主の名は易々と口には出来ない」

鬼女「くっ・・・!」

犬娘「き、狐娘ちゃんが・・・。そうだ、よ、妖狐さんに・・・!」

狸侍女「いえ。この件、恐らく妖狐様も一枚噛んでおられますね?」

男「え!?」

忍び狐1「・・・ああ、そうだ。これは、俺達の雇い主だけでなく、妖狐様の希望でもあるのだ」

犬娘「そん、な・・・」

狸娘「ああ! 狐娘さんがもうあんなに遠くに!」

男「狐娘! くそ、そこをどいてください!」

忍び狐1「すまない」

鬼女「男、もはや言葉を聞かぬなら実力行使だ! 悪いが力尽くでも道を空けて貰うぞ!」ゴッ!

狸娘「そ、そんな・・・!」

男「くっ・・・! 確かに、言葉で伝わらないなら・・・!」バッ!

犬娘「あ、あわわ・・・」アセアセ

狸侍女「・・・お嬢様と犬娘様はわたくしの後ろに」

鬼女「道を空けろお!」ビュッ! ガン!

忍び狐4「ぐおっ! かはっ!」ドサッ! ヨロ…ヨロ…

男「そこをどいてください!」ヒュン! バキッ!

忍び狐16「うおっ!」ドサッ!

忍び狐22「この・・・!」ザッ!

忍び狐1「手は出すな!」

忍び狐9「しかし・・・!」

忍び狐1「ならぬ!」

忍び狐達『・・・はっ!』

鬼女「!? こいつら・・・!?」

男「受けるだけ!?」

忍び狐1「俺達は、決して君達に手荒な真似はしない。だが、彼女を追わせるわけにもいかない」

男「何を・・・!」

忍び狐1「俺達は忍び。主君や上司の命令を確実に遂行する者だ」

狸侍女「・・・そこまで誇り高いあなた方が、どうしてこのような真似を?」

忍び狐3「・・・俺達だって、こんなことしたいわけじゃない・・・」

忍び狐35「でも、どんな奴でも、そいつが主君なら、命令を聞くしかないんだ・・・!」

忍び狐1「余計なことを言うな!」

忍び狐35「・・・すいませんっ」

狸侍女「・・・いいでしょう。ここはわたくし達が退きます」

鬼女「狸侍女!? 何を・・・!」

狸侍女「鬼女様、既に狐娘様を追える状況ではありません。ここは大人しく退がるのが得策かと。男様も、一度冷静になって考えてくださいませ」

鬼女「しかし・・・!」

男「・・・分かりました。ここは退がります」スッ…

鬼女「お、男まで・・・!」

狸娘「鬼女さん、お願いですから・・・!」ギュウ… ウルウル…

鬼女「ーーーーっ! 分かった・・・!」スッ…

忍び狐1「・・・すまない・・・!」ペコリ ヒュッ!

忍び狐達『・・・』ヒュヒュン!


ビュウゥゥーー………


犬娘「うっ、ぐすっ・・・。狐娘ちゃん・・・」ヒック エグッ…

狸娘「・・・犬娘さん・・・」ギュウ

犬娘「うぅ・・・。うぇーーーん・・・!」

鬼女「・・・!!」フゥーーー……!!

狸侍女「男様。辛い決断を迫り、申し訳ありませんでした」

男「そんなことないですよ。おかげで冷静になれました。ありがとうございます」

狸侍女「いえ・・・」

鬼女「だが、どうするのだ!? このまま見捨てるのか!?」

狸娘「そんなこと・・・! 狸侍女・・・?」

狸侍女「はい。あの場では、あの人数を相手に戦っても、時間の無駄でした。それより、手っ取り早く事情を伺った方がよろしいかと判断しましたので、一度退いたのです。このままにしておくつもりなど、毛頭ありませんよ」

鬼女「それでは、どうするのだ?」

男「彼らなりの罪滅ぼしの意志だったのかもしれませんね。重要な事を一つ、教えてくれました」

狸侍女「はい。わたくしが妖狐様の名を出したとき、白を切るでも、誤魔化すでもなく、素直に彼も関わっていると白状しました」

鬼女「そうか! 妖狐殿に話を聞くのだな!」

狸娘「狐娘さんの、お父上・・・」

犬娘「どうして、こんなことを・・・」エグッ グスッ…

男「・・・とにかく、いつまでも外にいても仕方ない。一度お屋敷に戻って、妖狐さんに話を聞こう。まずはそれからだ」

狸侍女「はい」

ー妖狐の屋敷・茶室ー
妖狐「それで・・・。何の用かね」

男「・・・単刀直入に聞きます。何故、忍びの皆さんに狐娘を誘拐させたのですか?」

妖狐「! 何故それを・・・!」

狸侍女「やはりそうでしたか」

妖狐「・・・! くっ!」

鬼女「呆れたものだな。よくそれで父を名乗れたものだ」

狸娘「そんな・・・」

犬娘「妖狐さん、どうして・・・!」

妖狐「・・・!」

男「話してもらいます。全て」

妖狐「・・・私が、借金の連帯保証人になってしまったという話は?」

男「白尾湖の近くの食堂の店主さんから、少し・・・」

妖狐「・・・うむ。私は、古い友人が作った借金の連帯保証人になってしまった。そいつは、すぐに返せるから、名前だけ貸してくれと言っていて、私は名を貸してしまったのだ」

男「・・・」

妖狐「元々、そいつは事業もいくつか持っていたし、確かに補填はすぐに出来るだろうと思っていた。が・・・」

狸侍女「その妖(ひと)は、行方を眩ましたと・・・」

妖狐「・・・ああ。あいつは、他にも多額の借金を抱えていてな。その全てを私に押し付け、姿を消したのだ」

男「・・・! だから、俺の話を聞いたときに・・・」

犬娘「男さん・・・?」

男「・・・何でもないよ。続けてください」

妖狐「・・・私は、頭を抱えたよ。多額の借金を背負わされ、それを返済する日々は、まさに地獄のようだった。どれだけ商品を売り上げても、借金の返済で殆ど消えてしまう。毎日のように赤字続きだった・・・」

狸娘「そんな・・・」

妖狐「しかし、ある時そんな私に声をかけて下さった方がいた」

狸侍女「それは?」

妖狐「・・・そこまでは、言えん」

男「・・・その方に恩義があるのは分かります。でも、本当にこれでいいんですか?」

妖狐「・・・何?」

鬼女「狐娘は、泣いていたぞ」

妖狐「!」

男「誘拐されるなんて、怖かっただろうに。それが親も黙認しているなんて、悲しくて、苦しくて・・・とても辛かったはずです・・・!」

妖狐「だが・・・、私は・・・!」

狸侍女「妖狐様。親とは、子供の幸せを祈り、生きるのではありませんか?」

鬼女「私達には、貴殿のしたことが、狐娘の幸せになるとは思えない」

妖狐「っ・・・」

男「妖狐さん・・・!」

妖狐「・・・資金援助の代わりに、狐娘と婚約したのは、麻呂狐様だ」

狸侍女「!」

鬼女「誰だ? そいつは」

狸娘「昔、お祖父様から聞いた話だと、この村で白狐姫様に次ぐ地位の持ち主ですわ」

犬娘「ええ!? 村長さんの次に!?」

狸娘「ええ。何でも、古くから続く由緒正しい家系だとか」

鬼女「確かに、そんな奴ならあれほどの忍びを抱え込んでいても不思議はないな・・・」

妖狐「・・・あの方は、『借金に困っているのだろう? 援助してやっても良い』と私に持ち掛けてきた」

男「それで・・・」

妖狐「ああ。『その代わり、娘を嫁に寄越せ』と、そうも言われた」

男「それで狐娘を!?」

狸侍女「おかしいとは思われなかったのですか?」

妖狐「私が借金に苦しんでいる時期と、麻呂狐様が私にこの話を申し込んできたことの繋がりを、だろう? その時は、おかしいなんて思う余裕すら無かったんだ。毎日の借金に頭を抱えていたからね」

犬娘「そんなに大変だったんですね・・・」

鬼女「だが、その行方を眩ました男と、麻呂狐とやらが裏で繋がっているのはほぼ明確ではないか。何故そんな奴の言いなりになる」

妖狐「相手は由緒正しい御家の当主だ。一介の商人風情に過ぎない私が刃向かえるわけがない。それに、証拠となる契約書が向こうに抑えられている以上、どうにも出来ん! ・・・私は、この店を守らねばならない。死んだ妻との約束なのだ。この店をずっと守っていくと。だから・・・」

男「だから、娘を無理矢理嫁がせたんですか・・・!」

妖狐「仕方がないんだ! 君達に何が分かる!? このまま借金にまみれ、惨めな生活を送れと!? それに娘を巻き込めと!?」

鬼女「それは貴殿の都合だろう。狐娘の意志は聞いたのか?」

妖狐「!」

男「狐娘なら、貧しくともあなたといっしょにいたい。それくらいは言ってのけたはずです」

妖狐「・・・しかし、親として、娘にそんな生活はさせられん。それに、あの家に嫁げば、生活も将来も安泰。狐娘のためにも、これが一番いいのだ・・・!」

狸娘「そんな・・・!」

犬娘「勝手なこ・・・」

男「勝手に子供の幸せを決めつけるな!!」ドン!

鬼女「! お、男?」

男「そんなことで、狐娘が本当に幸せになれると思っているんですか!?」

妖狐「無論だ!」

男「そんなことあるわけないでしょう・・・!」

妖狐「何を・・・!」

男「どんなに借金があったって、子供は親と過ごせればそれで良かったんです・・・。どんなに苦しくったって、家族がいれば、それで十分なのに・・・!」

狸侍女「男様・・・」

妖狐「・・・君は・・・」

男「・・・俺の親も、昔借金をしました。挙げ句、俺に全てを任せて、二人ともいなくなりました・・・」

妖狐「・・・」

男「あれは、本当に辛いんです・・・。信じていたものに裏切られて、独りぼっちになって・・・」

犬娘「男さん・・・」

男「妖狐さん。あなたがしたことは、俺の親と殆ど変わりません。娘を裏切って、借金の形に無理矢理嫁がせるなんて!」

妖狐「・・・私、は・・・」

鬼女「どの道、黒幕が分かった以上、私達は狐娘を助けに行く」スクッ

狸娘「そうですわね」スッ

犬娘「・・・うん」スクッ

妖狐「! そ、それは・・・!」

男「・・・お金やお店と、狐娘。どちらが本当に大切なのか、よく考えてください・・・。失礼します」ペコリ スクッ

スタスタスタスタ

狸侍女「・・・狐娘様は、妖狐様を本当に尊敬していましたよ」ペコリ スッ



妖狐「私は・・・間違っているのか・・・? だが・・・!」

ー妖狐の屋敷前ー
犬娘「男さん・・・」

男「うん。助けに行こう、狐娘を」

鬼女「ふっ。そうこなくてはな!」

狸娘「狸侍女、麻呂狐とやらの屋敷の場所は・・・」

狸侍女「かなりの御家ですからね。家の場所は、過去に聞いたことがあります」

鬼女「では、後は行くだけだな」

狸侍女「はい」

犬娘「狐娘ちゃん・・・。すぐに助けに行くからね!」

男「よし。皆、行こう!」

ー麻呂狐の屋敷・庭ー
ヒュッ!

忍び狐13「頭、狐娘様をお連れしました。今は、客間で・・・」

頭領狐「ご苦労。あの男には、俺から伝えておこう。皆は今日は休ませろ」

忍び狐13「はっ」ヒュッ!

頭領狐「・・・さて。またあの男と顔を合わせなくてはな・・・」

ー麻呂狐の屋敷 麻呂狐の部屋ー
麻呂狐「なんと! 狐娘ちゃんを連れ帰ったとな!?」

頭領狐「は・・・。今は、客間にて控えております」

麻呂狐「ほう! よくやったでおじゃる! 麻呂はそなたらを信じておったでおじゃる!」

頭領狐「・・・有り難いお言葉に御座います・・・」

麻呂狐「むふー! で、では早速、狐娘ちゃんに会いに行くでおじゃる!」

頭領狐「それは、お止めになった方が宜しいかと」

麻呂狐「何故でおじゃる!? 夫が妻となる者に会いに行って何が悪いでおじゃるか!?」

頭領狐「は。麻呂狐様は、今宵祝言を挙げると仰られました・・・。祝言前に花嫁に会うのは、縁起が悪いと、そういう風潮も御座います故、お止めになった方が宜しいかと・・・」

麻呂狐「むぅー! し、しかし・・・!」

頭領狐「麻呂狐様。狐娘様も、そういった縁起物を大切になさった方が、好ましく思うものかと・・・」

麻呂狐「えぇーい! 分かったでおじゃる! 祝言までは顔を合わせぬ! これでよいでおじゃるな!?」

頭領狐「は。それが最善に御座いますれば・・・」

麻呂狐「ふ、ふふ。よいよい。楽しみが増すというものよな! ホホホ!」スタスタ





頭領狐「・・・」

頭領狐「・・・来るなら、早く来い。彼女を、救ってやれ・・・」

ー麻呂狐の屋敷・客間ー
狐娘「ん、んん・・・。ここ、は・・・」ボー

忍び狐7「気が付かれましたか」

狐娘「! あ、あなた達は!」ガバッ!

忍び狐7「はい。主の命により、あなたを
ここまで連れてきました」

狐娘「主とは、父のことですか? それとも・・・」

忍び狐7「我等の主は、麻呂狐様にございます」

狐娘「じゃあ、ここは・・・」

忍び狐7「はい。麻呂狐様のお屋敷にございます」

狐娘「そんな・・・」

忍び狐7「現在の時刻は午後2時。四時間後の午後6時には、麻呂狐様と祝言を挙げることになっております」

狐娘「!」

忍び狐7「・・・私は、警備があるので、部屋を離れます。何かあれば、お声を掛けて下さればすぐに参ります。では」ヒュッ





狐娘「・・・」

狐娘「こんなの、嫌だ・・・。皆ぁ・・・」ポロ…ポロ…

ー冬華村・街道ー
男「はっ、はっ・・・。狸侍女さん! あとどの位ですか?」タッタッタッタ

狸侍女「はい。この街道を進むと、北の広場に出ます。そこを突っ切れば、もうすぐです」タタタタタ

犬娘「はぁっ、はぁっ・・・。狐娘ちゃん・・・!」タッタッタッタ…

狸娘「犬娘さん、頑張って!」タッタッタッタ…

鬼女「む。見えたぞ! あれが広場だな!」タタタタタ…

男「よし! あそこを抜ければ!」タッタッタッタ

忍び狐1「止まれ!」ヒュン!

男「うおっ!?」ズザザッ!

狸侍女「! 苦無!」バッ! キンッ!

ヒュンヒュンヒュン… トスッ

鬼女「ふん、やはり警護部隊をおいているか」ハア、ハア…

狸侍女「20人程、でしょうか・・・」フゥ、フゥ…

犬娘「はあ、はあっ・・・!」

狸娘「い、犬娘さん、こちらへ」

男「・・・やっぱり、素直に通してはくれませんか?」

忍び狐13「申し訳ありませんが、これも仕事の内なのです。主の屋敷に、侵入者を通す訳にはいきません」

忍び狐達『・・・』ズラリ!

鬼女「ふん、面白い。忍びが何人いようが、私には勝てぬと知れ!」ゴッ!

男「早く、狐娘を助けないといけないんです。道を空けて貰います!」バッ!

狸侍女「掛かってくるというのなら・・・。お怪我をされても知りませんからね・・・?」ヒンンヒュンヒュン……パシッ!

忍び狐2「今回は、こっちも手を出す。そっちこそ、怪我をしても後悔するなよ?」

忍び狐1「屋敷警護屋外部隊! 第一、第二忍隊、構え!」

忍び狐達『はっ!』チャキ チャキ ジャキ ジャキン!

男「!」ギュッ!

鬼女「ふふん・・・」ゴキゴキ

狸侍女「・・・」フゥーッ!

犬娘「私だって、少しは・・・!」ガルル

狸娘「犬娘さん、無理はしないように」バッ

忍び狐1「我等は総勢20名。易々とここを抜けると思うな・・・! かかれえぇぇ!」ビュッ!
し忍び狐達『おお!』ビュビュビュン! バババババ!

狸侍女「苦無や手裏剣などの飛び道具はわたくしが対応します! 接近してきた者達の対応をお願いします!」ダンッ! ガキキキキキン!

男「分かりました!」

鬼女「任せたぞ!」

犬娘「わ、私だってえ・・・!」ガルル

狸娘「い、犬娘さん! 私達は下がりますわよ!」グイグイ

犬娘「がるるぅー・・・!」ズリズリ

鬼女「行くぞ! はあっ!」ドンッ!

男「今行くから! 狐娘!」ダダッ!

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

ー麻呂狐の屋敷・庭ー
頭領狐「・・・始まったか」

ヒュッ

忍び狐21「頭。たった今、広場で交戦が・・・」

頭領狐「分かっている」

忍び狐21「・・・頭。私も、今回は・・・」

頭領狐「迷うな。忍びなのだ、切り替えろ」

忍び狐21「・・・はっ」ヒュッ

頭領狐「・・・思ったより、皆の志気が低いな。・・・麻呂狐様。因果応報の意味、その身で味わって頂くことになるやもしれませんぞ」

頭領狐「・・・ふっ。こんな事を考えている時点で、忍び失格だな・・・」

ー麻呂狐の屋敷・客間ー
狐娘「ぐすっ・・・。どうして、こんなことになっちゃったのかな・・・」

狐娘「父上と・・・。お父さんと二人で暮らせればそれで良かったのに・・・」

狐娘「何で、こんな・・・」

ワーー! トメロー! ニガスナ! カコメ!カコメ!

バタバタ

狐娘「・・・?」グスッ スタスタ… スラッ

男「狐娘ーー! どこだー!?」バキッ! ハア、ハア…

忍び狐9「ぐおっ!」ドサッ

鬼女「はは! その程度か、忍び!」ドゴン! フー、フー……

忍び狐達『うわあーー!!』ドカァン!

忍び狐11「くっ! そこおっ!」ヒュンッ!

狸侍女「ふっ・・・!」ガキン!

忍び狐11「何っ!?」

狸侍女「道を、空けなさい!」ビュッ!

忍び狐11「うっ・・・!」ドゴッ!

犬娘「狐娘ちゃーん! 助けに来たよー!」タッタッタ

狸娘「狐娘さん! 返事をしてください!」タッタッタッタ




狐娘「皆・・・!」ポロ…ポロ…

ヒュッ スタッ

忍び狐7「狐娘様。申し訳ありませんが、ここから離れていただきます」ガシッ

狐娘「! い、いや! 離して!」グイグイ

忍び狐7「! どうか大人しくなさってください・・・!」

狐娘「いやあ! 男さん! 犬娘! 皆ぁ」




男「! 今の声・・・! 狐娘!?」

鬼女「男、あそこだ!」

狸侍女「あの部屋です!」



狐娘「男さん!」



男「狐娘! 今行く!」ダッ!

犬娘「狸娘ちゃん!」タタッ!

狸娘「ええ! 私達も!」タッ!

忍び狐1「行かせるな! ここで食い止めろ!」

忍び狐達『はっ!』ビュビュン!

鬼女「狸侍女! 男達に道を作るぞ!」バッ!

狸侍女「心得ております!」チャキッ!

忍び狐1「くっ! 邪魔を!」

ー麻呂狐の屋敷・麻呂狐の部屋ー
麻呂狐「あ、あわわわ・・・! 賊が入り込んだでおじゃるか!?」

頭領狐「はっ・・・。我等忍軍の攻撃を潜り抜け、現在は庭中で戦闘が行われております」

麻呂狐「なななんと! もうすぐそこではないか! ええい、何故その前で止められなかったのじゃ! この無能共めが!」ベチン!

頭領狐「っ・・・! 申し訳御座いません」

麻呂狐「えぇい! もうよい! して、賊は何人じゃ!?」

頭領狐「はっ。戦闘に参加していない者も含めて、全員で五人です」

麻呂狐「なぬ!? たかが五人にここまで攻め込まれたでおじゃるか!?」

頭領狐「はっ。個々の戦力が著しく高く、足止めが精一杯です」

ドッゴォン! ウワアァァーー!

麻呂狐「ひいー! 奴らの目的は何じゃ!? 金か!? 金ならいくらでも用意してやる! さっさと消えてたもれ!」ブルブル

頭領狐「いえ。奴等の目的は狐娘様かと・・・」

麻呂狐「なぬ!? どういうことでおじゃるか!? 妖狐は狐娘ちゃんと麻呂の結婚を認めた筈では!?」

頭領狐「は。恐らくは、妖狐様のご指示ではなく、独断での侵攻かと」

麻呂狐「い、一体誰がそのような!」

頭領狐「狐娘様の御友人方でしょう」

麻呂狐「なぬ? では、賊は皆子供か!? ・・・むきー! 子供風情が麻呂と狐娘ちゃんの結婚を邪魔しに来たのでおじゃるか!?」

頭領狐「その通りかと・・・」

麻呂狐「何故じゃ! 麻呂と狐娘ちゃんは相思相愛! 親も認めた結婚でおじゃるぞ! 何故邪魔をするのじゃ!?」

頭領狐「それは・・・」

ヒュッ

忍び狐46「か、頭! 狐娘様が、攫われようとしております! どうか、お力添えを!」

麻呂狐「なぬー!? いくら狐娘ちゃんの友とはいえ、そのような事は許さぬぞ! 頭領狐、麻呂も行く! 警護に着け!」

頭領狐「しかし、相手は子供とはいえ、我等と渡り合う戦力の持ち主です。麻呂狐様が直々に出向かれるのは危険かと・・・」

麻呂狐「黙りゃ! 貴様等忍軍は、子供相手と油断し、知らずの内に力を抜いてしまっているだけでおじゃろう! ならば、実際は大したことないはずでおじゃる! これだから忍び風情は・・・!」

忍び狐46「・・・!」ギリッ!

頭領狐「(落ち着け・・・) では、参りましょう。くれぐれも、私から離れませんように」

麻呂狐「ふん! さっさと行くぞ!」ドスドス

頭領狐「(お前は表の戦闘に戻れ。いいな? 力一杯立ち回れよ?」

忍び狐46「(承知!)」ヒュッ!

麻呂狐「頭領狐! 早くするでおじゃる!」

頭領狐「ただいま・・・」

ー麻呂狐の屋敷・庭ー
忍び狐16「はっ!」ブン!

男「うあっ!」ズバッ!

鬼女「男! このお!」バキッ!

忍び狐16「ぐえっ!」ドゴン!

狸侍女「男様、ご無事ですか!?」タタッ

男「ぐ、ぅあ・・・。へ、平気です!」ヨロヨロ… ポタ…ポタ…

犬娘「! お、男さん、左目が!」

狸娘「狸侍女! 早く治療を・・・!」

男「いや、後にしてください! 何よりもまず、狐娘を!」

鬼女「しかし・・・!」

狸侍女「確かに、今の状況では、応急処置すらままなりませんね」

犬娘「じゃあ・・・」

男「狐娘を早く助け出してからだよ」

忍び狐47「うおお!」ブン!

狸侍女「はっ・・・! やあっ!」ギン! ブオン!

忍び狐47「う!? おあっ!」ドカッ!

忍び狐達『・・・!』ズラー!

鬼女「・・・くっ! あと少しだというのに!」

犬娘「狐娘ちゃん・・・!」

狸娘「どうしますの? 狸侍女」

狸侍女「・・・やはり、今まで通りの強行突破しか・・・」

狐娘「あ、あぁ・・・! 男さんが!」

忍び狐7「狐娘様、どうかこちらへ・・・!」グイッ!

狐娘「きゃっ!? こ、この! 離しなさい!」ブオッ!

忍び狐7「くっ!? 六尾の力・・・!」タジッ

狐娘「私だって・・・! いつまでもただ黙って泣いている訳じゃ・・・!」ゴゴ…!

麻呂狐「そこまででおじゃるうーー!!」

狐娘「!!?」

忍び狐7「! 麻呂狐様・・・」シュタッ

忍び狐達『・・・!』ズザザッ!

男「! 忍び狐さん達が一斉に膝を着いた・・・。ということは、あの妖(ひと)が・・・」

鬼女「今回の黒幕か!」

狸侍女「間違いありませんね。麻呂狐様です」

麻呂狐「まったく。貴様等忍びは子供を相手に一体何を遊んでいるでおじゃるか! 馬鹿共め!」ケッ!

忍び狐達『っ・・・!』

犬娘「ひどい・・・!」

狸娘「そんな言い方しなくても・・・!」

麻呂狐「ふん。まあよい。それより! そこな者ら。一体何故麻呂と狐娘ちゃんの結婚を邪魔するでおじゃるか?」

鬼女「決まっている! 狐娘を助けたいからだ!」

狸娘「そうですわ! 狐娘さんを返しなさい!」

麻呂狐「おやおや。何を言うでおじゃる? 此度の結婚、双方合意でおじゃるぞ? それを『助ける』とは。言葉の使い方がおかしいでおじゃるぞ? 近頃の若者は、正しい言葉遣いが出来ぬでおじゃるなあ。嘆かわしや・・・」クスクス

犬娘「・・・あの男すごい腹立つんですけど」

狸娘「無茶苦茶同意ですわ・・・」

男「・・・麻呂狐様。今回の結婚、狐娘は嫌がっておりました」

麻呂狐「・・・何じゃと?」

男「今回のご結婚、妖狐さんが借金の形に貴方に嫁がせたのだと、そう伺いました」

狸侍女「狐娘様自らの意志ではないものと存じます」

麻呂狐「ほほう? 借金の形の末の婚姻故、狐娘ちゃんの意志ではないと?」

鬼女「そうだ! 貴様が無理矢理に組んだ縁談だろう!」

麻呂狐「ホッホッホ・・・。なるほどなるほど・・・」

男「麻呂狐様・・・?」

麻呂狐「ホホ。・・・黙らぬか! この下賤の輩が!」ビリビリ!

男「!」

犬娘「ひっ!?」

麻呂狐「此度の結婚が麻呂からの一方的なものであると? 狐娘ちゃんの意志ではないと? 馬鹿を申すのも大概にするでおじゃる!」

狸娘「こ、この無駄な自信は一体どこから・・・!」

麻呂狐「そもそも! 今回の縁談は、借金を助けてやった麻呂に是非とも礼がしたいと、妖狐から申し込んできたもの! それを麻呂が受けてやったのでおじゃる! それを破談にするようなことがあれば、狐娘ちゃんだけでなく、妖狐の店も、名声的な致命傷を得るでおじゃろうなあ」

狸侍女「なるほど。用意周到ですね」

麻呂狐「ホホホ。ほれ、狐娘ちゃん? あの馬鹿共にハッキリと言うてやるでおじゃる。『私は麻呂狐様を心から愛している。助けなど余計なお世話だ』と、の」

狐娘「! そ、そんなこと・・・!」

麻呂狐「んんー? どうしたでおじゃるか? まさか、店の運命が掛かっているというのに、麻呂との結婚を嫌がっている訳ではあるまいの?」

狐娘「誰がお前なんかと・・・!」

麻呂狐「・・・おや、おかしいのう。麻呂には今、『この者達を殺せ』と聞こえたでおじゃるぞ?」

狐娘「な・・・っ!?」

鬼女「卑怯な・・・!!」

狸娘「この男は、どこまでも腐っていますわね・・・!」

犬娘「ーーー・・・っ!!」ガルル…!

狸侍女「この男・・・!」

男「麻呂狐様!?」

麻呂狐「うぅーむ。麻呂としては心苦しい故、手荒な真似はしたくないんじゃがの。妻となる者が言うのであれば仕方があるまい。忍軍、構えよ」

忍び狐達『・・・はっ』ジャキジャキジャキン!! ズラッ!

男「くっ! これは流石に・・・!」

鬼女「防ぎ切れんな!」

麻呂狐「ホホ。ではさらばじゃ、妻の友人達よ・・・」スッ…

狐娘「やめてえー!」

麻呂狐「ホホ。如何した? 我が『妻』よ」

狐娘「わた・・・は・・・麻呂、・・・を愛・・・て・・・」

麻呂狐「聞こえぬの」スッ

ヒュッ! グサッ!

男「!? うあぁ!」ドサッ!

狐娘「!? 男さん!」

麻呂狐「ホッホ。すまぬすまぬ。声が小さかった故、耳を済まそうと手を動かしたら、忍びが勘違いしてしもうたわ」

男「うぁあ・・・!」ドクドク…!

狸侍女「男様! しっかり!」バッ! テキパキ

鬼女「く! 何と汚い手を!」ギリッ!

犬娘「お、男さぁん!」

狸娘「大丈夫、左肩に刺さりはしましたが、致命傷ではありませんわ!」

狐娘「あぁ・・・! 男さん・・・!」

麻呂狐「ホホホ。さて、また耳を済まさねばならぬかな? こやつらは頭が悪い故、また勘違いをするやも知れぬなあ? 怖い怖い」ホホホ

狐娘「・・・わ、私、狐娘は・・・!」

麻呂狐「ふむ」

狐娘「ま、麻呂狐様を・・・心から、あ、あ・・・!」

麻呂狐「ホホ! 照れておるのか!? そのようなところも、また愛いものじゃのう!」

狐娘「あ、あい・・・あいし・・・」

男「・・・止めろ、狐娘・・・! 例え嘘でも・・・、そんな男の・・・。言う通りにする必要なんか・・・ない!」ヨロ…ヨロ…

狐娘「男さん・・・!?」

麻呂狐「・・・何じゃ? 小僧、何か言うたか?」

男「・・・狐娘。大丈夫だよ・・・。ごめん、心配掛けてるね・・・」

狐娘「男、さん・・・?」

男「ごめんね。俺、人間だから。男なのに、弱くてみっともないところ見せてるね・・・」ゲホッ! ゲホッ!

鬼女「! 男、余り無理は・・・。 ?」クイッ

犬娘「・・・」フルフル

男「でも、大丈夫だから・・・。必ず、俺達が、君をそこから助けるから・・・!」ヨロ… ポタ、ポタ…

麻呂狐「ふん! 満身創痍のそなたに何が出来ると!?」

男「大丈夫。心配いらない・・・。そんな奴の言いなりになることなんかないんだ・・・」

狐娘「おとこ、さ・・・」ポロポロ

男「・・・そこで待っていて・・・。必ず、助けるから・・・!!」バッ…!

麻呂狐「むきぃーーっ! さっきから麻呂を無視しよって! えぇい構わぬ! 忍軍、あの不愉快な男を殺せ!」

忍び狐達『はっ!』ビュビュン!

狐娘「! お、男さん、危な・・・!!」

男「・・・!」ハア、ハア…

ガキキキキキン! トスッ トストストストス

麻呂狐「なぬ!?」

男「・・・ありがとうございます。狸侍女さん、鬼女さん」

狸侍女「いえ。この位は余裕です。侍女ですので」

鬼女「開戦直後に言ったろう? 何人いようが敵ではないと」

麻呂狐「くぅーっ! もう一度じゃ! 討て! 討つのじゃ!」

忍び狐達『はっ・・・!』ザザザッ…!

鬼女「! ここは私達が抑える!」バッ!

狸侍女「男様。お嬢様と犬娘様を連れ狐娘様の元へ!」ヒュンヒュンヒュンヒュン…パシッ!

男「・・・はい!」ダッ!

犬娘「男さん! 私が付いてますからね!」

狸娘「私もいますわ!」

男「うん。ありがとう・・・!」

麻呂狐「何をしておる! 早く討たんか!」

忍び狐達『はっ!』ビュビュン! ビュビュビュン!

鬼女「さて、狸侍女、やるぞ!」バッ!

狸侍女「はい。・・・男様、狐娘様はお願いいたします! はあっ!」ダンッ!

ワアァァァー……!! ガキィン! ギン! バキッ!

男「ふっ、ふっ・・・。狐娘・・・!」タタタタタ

麻呂狐「むぅ!? 頭領狐、こちらに向かってくるあの無礼な男を仕留めるでおじゃる!」

頭領狐「・・・御意」ズイッ

犬娘「頭領、ってことは・・・」タッタッタ

狸娘「この忍軍において最強、ということですわね・・・!」タッタッタ

麻呂狐「ホホ。麻呂と狐娘ちゃんは祝言の準備に入る故、ここで片付けておくでおじゃるぞ」スタスタ ガシッ

狐娘「! や、嫌! 離して!」ジタバタ

麻呂狐「えぇい! 暴れるでないわ!」バシッ!

狐娘「あっ・・・!」ヨロ…

男「!」ギリッ…

麻呂狐「全く・・・。ほれ、早ようこちらに来るでおじゃる!」ガシッ ズルズル

狐娘「痛い! か、髪、放して・・・!」ズリズリ

麻呂狐「ホホホ。素直に従わぬお主が悪て(おじゃる」

男「・・・」

犬娘「ひどい・・・!」

狸娘「何て事を!」

頭領狐「麻呂狐様、お早く奥へ・・・」

麻呂狐「分かっておる。ほれ、行くぞ、狐娘ちゃん」ズルズル

狐娘「痛あっ・・・! 嫌! 男さん! 皆あ!」

犬娘「狐娘ちゃん!」

狸娘「お待ちなさいな!」

頭領狐「憤っているところ悪いが、ここは通さんぞ!」バッ! ヒュンッ!

犬娘「消えた!?」

狸娘「犬娘さん、匂いで追えませんの!?」

犬娘「だめ、速すぎて・・・!」

男「・・・」

頭領狐「(まずは男、お前だ)」シュンッ! ブオッ……

犬娘「! 男さん、うし・・・」

男「!!」ボッ…!

バキッ!

頭領狐「ぐおっ!?」ズザザー…

犬娘「お、男さんすごい!」

狸娘「よく相手の居場所が・・・!」

男「・・・て・・・さぃ・・・」ボソッ

犬娘「男、さん・・・?」

頭領狐「ふん。まぐれで当てたか? だが、次はこうは行かんぞ・・・!」ヒュッ!

頭領狐「(間に狸の嬢ちゃんを挟んでの一撃! 気取ることすらできまい!」

男「ふっ・・・!」ゴッ!

頭領狐「なっ!?」バキッ! ドサッ

男「・・・そこを退いてください!!」ビュッ! ゴッ!

ドゴン!

頭領狐「・・・っ! ごはっ・・・!!」ドサッ

男「はあ、はあ・・・」

犬娘「お、男さんすごいですよ!」

狸娘「まさか、敵の頭領を倒すなんて・・・!」

男「・・・いや。手を抜いて貰っただけだよ・・・。じゃなきゃ、勝てなかった・・・」

犬娘「え?」

狸娘「それは・・・」

頭領狐「・・・いや。君は確かに強い。本気で戦っていたとしても、今の君には負けたかも知れんな・・・」スッ パチン!

ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーー

ガシャン! ガチャン! ガチャガチャ…

鬼女「はあっ、はあっ・・・こ、これは?」

狸侍女「ぶ、武器を捨てた?」ハア、ハア…

忍び狐16「・・・数々の非礼、失礼いたしました」ザッ

忍び狐1「我等忍軍、頭領を失ったが故、敗北に御座います」ザッ

鬼女「では・・・」

狸侍女「はい。恐らく、男様達が」

忍び狐41「我等は敗者。もはや勝者たるあなた方に手は出せません」

忍び狐2「こんな事、言えた立場じゃないけど・・・。狐娘様を、救ってください」

鬼女「ああ!」

狸侍女「必ず・・・!」

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

頭領狐「・・・これで、我等忍軍は全滅。君達を阻む者はもう、いないだろう。ここから先は、彼女たちを待たずとも、君達だけで行けるはずだ」

男「あなた達は・・・」

頭領狐「すまない。私達は忍びなのだ。主に仕え、従うことこそ忍びの至上。例え、それが今回のようなことであってもな・・・」

犬娘「でも・・・」

狸娘「あなた方は、ちゃんと過ちに気付けましたわ・・・」

頭領狐「やめてくれ・・・。惨めな気持ちになる・・・」

男「・・・犬娘、狸娘。この妖(ひと)の治療をお願い」

犬娘「え?」

狸娘「は、はい。分かりましたわ」

男「俺は、あの男を一発ぶん殴ってくるから」

頭領狐「何故、私に治療を・・・?」

男「だって、あなたは本当はいい妖(ひと)だったから。・・・あなた達なら、忍び以外の生き方だって、きっと出来ますよ」ダッ!

犬娘「と、取り敢えず、ここで治療を・・・」

狸娘「そうですわね。狸侍女と鬼女さんも追い付くでしょうし」

犬娘「・・・一応縛っておく?」

狸娘「どうしましょうか」

二人『ジトー・・・』

頭領狐「ふっ。君達のような反応が当たり前だというのに。彼は随分と甘いな・・・。私を『いい妖(ひと)』などと・・・」

犬娘「・・・まあ、確かにそうですけど・・・。あ、ちょっと服を脱がせますよ?」スルスル

狸娘「そこが良いところでもあるんですわ」ガサゴソ

頭領狐「成る程。・・・良い男だな、彼は・・・」ホウ…

犬娘「(! ま、まさか遂に男の妖(ひと)まで!?)」

狸娘「(お、男様、何と恐ろしい!)」

頭領狐「・・・ん? どうかしたのか?」

犬娘「え!? あ、ああ、いえいえ! 何でも・・・って、あれ?」スルス…ピタッ

狸娘「? 犬娘さん? どうしまし、た、の・・・」

頭領狐「な、何だ? 私の胸をじっと見て・・・」

犬娘「今まで目しか出してなかったから分からなかったけど・・・」

狸娘「あなた・・・、女性でしたの?」

頭領狐「あ、ああ。忍びに性別は関係ないが、一応私は女だ」

犬娘「!!」ガーン!

狸娘「!!」ガーン!

頭領狐「な、何ださっきから!?」

犬娘「うぅ・・・。こうなったら・・・」

狸娘「このまま以後関わる事の無いように祈るしかありませんわ・・・」

頭領狐「??」キョトン

ー麻呂狐ー

ー麻呂狐の屋敷・奥廊下ー
麻呂狐「全く・・・! どいつもこいつも麻呂を馬鹿にしくさりよってからに・・・!」

狐娘「い、たい・・・!」ズルズル

麻呂狐「くふふ。狐娘ちゃん、安心するでおじゃる。祝言を挙げて、すぐに麻呂に逆らえぬよう、躾てやる故、の。そうすれば、痛みさえも悦楽となり、麻呂に刃向かおうなどと思うことも無くなるでおじゃる」ホホホ

狐娘「!? い、嫌よ! 離して!」ジタバタ

麻呂狐「全く・・・。暴れるでないわ小娘ぇ!」バキッ!

狐娘「きゃっ! あぐっ・・・!」ズザー

麻呂狐「ふぅ、ふぅ・・・。いいでおじゃるか? お主はもはや逃れること叶わぬ身。大人しく麻呂と結婚するでおじゃる・・・!」

狐娘「うぅ・・・。そんなの・・・!」ポロポロ

麻呂狐「全く。何をそんなに嫌がっているでおじゃるか? 地位も、金もあるこの麻呂に嫁ぐなぞ、他の女が見れば嫉妬に荒れ狂う程の栄誉であるぞ?」

狐娘「私は・・・! そんな栄誉なんかいらない!」

麻呂狐「・・・照れ隠しにしては少し度が過ぎておるの。少々早いが、ここらで多少の躾が必要かの?」

狐娘「うっ・・・!(どうして!? 何でここだと力が出せないの!?)」

麻呂狐「ふふ、助けは来ないでおじゃる。まあ、しかしすぐに会えるでおじゃるが」

狐娘「え・・・?」

麻呂狐「くふふ・・・。まあ、会えるといっても、『首』だけ、じゃがの?」ホーッホッホッ!

狐娘「!!?」ゾッ!

麻呂狐「ホホ。もうすぐ頭領狐が首を持ってくるでおじゃろう。そうしたら、その首も並べて祝言じゃ」

狐娘「い、いや・・・。いや・・・!!」フルフル

麻呂狐「ホホ。あの男の首は特に可愛がってやらねばの」

狐娘「え!?」

麻呂狐「狐娘ちゃんを誑かすあの男。首だけとなっても麻呂は許さぬ!」

狐娘「そん、な・・・!」

ダダダダダ……

麻呂狐「む? ホホ、早速首が届いたようじゃの?」

狐娘「そんな・・・!?」

ダダダダダ……!!

麻呂狐「ホホ、最初は一体誰の首が・・・。!?」

男「狐娘えぇぇーー!!」ダダダダダ!!

狐娘「男さん!!」

麻呂狐「なぬーー!?」

麻呂狐「な、なな何故貴様が!? まさか忍び連中を倒したとでもいうでおじゃるか!?」

男「忍び部隊は全員俺達がやっつけた! あとはお前だけだ・・・!」ハア、ハア…

麻呂狐「そ、そんな! そんなはずが!」

男「・・・大人しく狐娘を返せ」ハア、ハア…

麻呂狐「ひい!? く、来るな! 狐娘ちゃんがどうなってもいいでおじゃるか!?」グイッ! ピタッ

狐娘「あっ・・・!」

男「くっ・・・!」

麻呂狐「ホホ! 麻呂とて護身用に刃物の一つくらい持っているでおじゃる!」

狐娘「お、男さ・・・」

男「・・・大丈夫。助けるよ、必ず」

狐娘「・・・はいっ!」

麻呂狐「ふ、ふふ。この状況で助けると!? 馬鹿者め、どう考えても麻呂が有利でおじゃる!」

男「麻呂狐。最後の忠告だ。大人しく狐娘を返せ」

麻呂狐「黙りゃ! 狐娘ちゃんを誑かす下衆が! 貴様こそとっとと消えるでおじゃる!」

男「・・・そうか。残念だ」スタスタ

麻呂狐「ち、近寄るな! この短刀で狐娘ちゃんを傷付けたいでおじゃるか!?」

ヒュッ!

狸侍女「背後から失礼いたします。狐娘様を返していただきます」ガシッ バッ!

狐娘「きゃっ!? た、狸侍女さん!」

狸侍女「はい。お待たせして申し訳ありませんでした」

麻呂狐「なあっ!? こ、この無礼者! 何を・・・!!」

男「・・・!」ダンッ!

麻呂狐「ひえっ!?」

男「一度頭を・・・冷やしてこい!」ビュッ…ドゴオ!

麻呂狐「ぶぇろばらぶへばっ!?」バキイッ! ドッ ズザザザー!

男「・・・っ! はあぁぁーー!」ヘナヘナ

麻呂狐「あが、か・・・」ピクピク

狐娘「男さん!」タタッ

狸侍女「男様、先程の怪我の手当なども行います。少々じっとしていてください」

男「あはは。すいません」

狐娘「男さん・・・! 本当にありがとうございます・・・!」ギュウ…!

男「あはは。狐娘、間に合ってよかったよ」ナデナデ

狐娘「! お、男、さん・・・」グスッ 

男「あ・・・。頬が、少し腫れてる。叩かれたりしたの・・・?」

狐娘「え、ええ・・・」

男「・・・ごめんね。怖かっただろうに・・・」ナデナデ

狐娘「いいの! ・・・いいんです。こうして皆で助けに来てくれて、本当に嬉しいです・・・。それに、男さん、目が・・・」

男「あー。ざっくりやられちゃったからね・・・」

狐娘「狸侍女さん、治りますか?」

狸侍女「・・・いえ。申し訳ありませんが、肩の刺し傷や他の傷は、痕が残るとは思いますが、何とか治ります。しかし、流石に目は、もう・・・」

狐娘「そんな・・・」

男「大丈夫。気にしないで。片目が見えれば充分だよ」

狐娘「でも・・・」

男「大丈夫。俺の目一つで狐娘が助けられたなら、安いもんだよ」ニコッ ポンポン

狐娘「男さん・・・///」

狸侍女「・・・そ、そろそろ鬼女様達が来る頃です。帰り支度を」

男「そうですね」

狐娘「は、はい!」

ー麿狐の屋敷・裏口ー
鬼女「・・・よし、誰もいない。脱出するぞ」

犬娘「はい!」

狸娘「や、やっと帰れますのね・・・」

狸侍女「はい。忍びの皆様は庭の整備や、主の治療で、他に手が回らない、だそうです」

男「あはは。ありがたいですね」

狐娘「あ、あの!」

鬼女「ん? どうした、狐娘」

狐娘「皆、本当にありがとうございました!」ガバッ!

犬娘「狐娘ちゃん・・・」

狸娘「そんな、私達は当然のことをしたまでですわ」

狐娘「いいえ。助けに来てくれて、本当に嬉しかった。ありがとう・・・!」

鬼女「はは! 気にするな!」ポンポン

狸侍女「はい。皆、自分の意志でしたことです」

男「うん。そうだよ、狐娘。無事に助けられて良かったよ」

狐娘「男さん。あなたは、片目まで失ったのに・・・」

男「あはは、大丈夫だよ。まあ、流石に元の世界に戻ったら皆に詰問されるかもしれないけど」

犬娘「! そういえば、紫苑祭も明日で最後・・・」

狸娘「男様も、帰ってしまわれるかもしれないのですわね・・・」

男「うん。犬父さんが変える方法を見つけていてくれるといいけど」

鬼女「そう、か・・・。もう帰ってしまうのか・・・」

狸侍女「狐娘様は、どうなさるのですか?」

男「そうだよ。これから、どうするの? 妖狐さんともう一度しっかり話した方が・・・」

狐娘「・・・いえ。私はもう、あの家には戻らないわ」

犬娘「え!? で、でも・・・」

狸娘「それは・・・」

狐娘「いいの。今回の縁談が持ち掛けられた時から、ずっと考えていたのよ。あの家を出ようって」

狸侍女「しかし、家を出てどうするのですか?」

狐娘「そうね。犬娘もいる秋之村にでも行って、暮らすわ」

鬼女「し、しかし、仕事などもこなさねば、生活できまい?」

狐娘「そう、ね・・・。まあ、ある程度の貯金はあらから、当面はそれで凌ぎながら、仕事も探すわ」

男「そんな大雑把な・・・」

狸娘「そ、それならお祖父様に頼んで、何か職に就けるように取り計らいましょうか?」

狐娘「それはありがたいけど、大丈夫よ。何とかするわ」

狸娘「でも・・・」

狸侍女「お嬢様。とりあえずここを去った方がよろしいかと」

男「そうですね。皆、早く行こう」

犬娘「はい!」

鬼女「でも、どうする? どこへ行くのだ?」

狐娘「取り敢えず、秋之村へ行きましょう。犬父さんや犬母さん、大狸様もいらっしゃるはずよ」

狸侍女「そうですね。主もいらっしゃるのでしたら、秋之村へ行った方がよろしいですね。男様の怪我も、応急処置しかしておりませんし・・・」

狸娘「では、早速秋之村へ!」

ー秋之村行きの船・船上ー
男「・・・」ボー

男「っ! つつ・・・。やっぱり痛むな・・・」ズキズキ

狐娘「・・・男さん」スタスタ

男「え? あ、狐娘。どうしたの? 皆と一緒に船室で休んでたんじゃ・・・」

狐娘「いえ。少し、お話したくて」

男「そっか。まあ、あんな目に遭った直後だし、休みたくても休めないか」

狐娘「え、ええ。まあ、そんな感じ・・・」

男「うん、そうだよね」

ザザァ…ン……

狐娘「・・・あの、男さん?」

男「んー? 何ー・・・?」

狐娘「その、あの・・・。目、やっぱり痛むわよね?」

男「あー・・・、うん。まあね」

狐娘「・・・本当に、ごめんなさい。謝って済むことじゃないけど、それでも・・・」

男「いいって。この位、何ともないからさ」クシャクシャ

狐娘「あ・・・///」

男「ん? ああ、ごめん、つい犬娘や狸娘と同じ感じで」パッ

狐娘「あ!」

男「ん?」

狐娘「・・・もう少し、撫でてくれる・・・?」

男「ああ。構わないけど・・・」ナデ…ナデ…

狐娘「んっ・・・。ふふっ・・・///」クスクス

男「あれ? くすぐったかった?」

狐娘「ええ、少し。でも、とても落ち着くわ・・・」

男「・・・そっか。なら良かったよ」

ザザァ…ン…

狐娘「男さん。私、これからは一人で生きていこうと思ってるの」

男「うん。そう言ってたね」

狐娘「これからは、自分の力で、生きていく。言うほど簡単な話じゃ無いっていうのも分かってるけど、やるしかないの」

男「うん・・・」

狐娘「さっきは、狸娘にも『自分でやる』、なんて言っちゃったし・・・。・・・でもね。でも、やっぱり怖いの。今まで父上の庇護で生きてきた小娘ですもの。いきなりの独り立ちなんて、無謀だとふ自分でも分かってる・・・」

男「狐娘・・・」

狐娘「ふふ。おかしいわよね。男さんなんて全く知りもしない世界に放り込まれても、モノともせずに頑張ってきたのに、この世界に生きていた私が怖じ気つくなんて・・・」

男「いや、しょうがないと思うよ。誰だって、独り立ちは怖いものだよ、きっと。俺だってそうだったし」

狐娘「そうね。男さんは、それを乗り越えてここまで来た。それだけじゃない。忍びの軍隊が相手でも、私を助けに来てくれた・・・。目に、こんな怪我をしてまで・・・」ソッ

男「そ、そんな大したことじゃないよ///」

狐娘「いいえ。私には、その勇気が羨ましい・・・」 

男「狐娘・・・?」

狐娘「お、男さん。・・・わ、私に、勇気をくれないかしら・・・!///」

男「え? ああ、俺ので良かったらいくらでも」

狐娘「ほ、本当・・・?///」

男「! あ、ああ。もちろん。で、でもどうしたらいいの? また、頭を撫でればいいのかな?」

狐娘「そ、その。この手の中を覗いてくれるかしら?」スッ

男「ての中? その、水を掬うような形をした手のひら、ってこと?」

狐娘「ええ・・・」

男「? 覗くって、覗き込めばいいんだよね?」

狐娘「そうよ・・・」

男「?? まあ、いいけど・・・んむっ!?」ズイッ チュッ…

狐娘「ん、ふ・・・(犬娘、狸娘、狸侍女さん、鬼女さん。ごめんなさいね・・・)」チュク…チュ…

男「!? !!? ぷはっ! き、ききき狐娘!? ななな・・・!?///」アタフタ

狐娘「・・・ふふ。言ったでしょう? 勇気をください、って///」

男「いや、でも、その、えーー?///」

狐娘「ふふ。これで、きっと大丈夫・・・。私は、きっとやっていけるわ」

男「あ、あははー・・・。?」

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

犬娘「・・・!!」ガーン!

狸侍女「・・・」ハァー……

犬娘「ち、ちょっと風に当たろうと外に出たら・・・!」ワナワナ

狸侍女「とんでもない場面に出くわしてしまいましたね・・・」

犬娘「うぅ・・・。狐娘ちゃんは完全に傍観者だと思っていたのに・・・」シクシク

狸侍女「まあまあ。今更一人増えたところで何も変わりませんよ」

犬娘「そうでしょうか・・・」ズーン…

狸侍女「(男様と接吻。心の底から羨ましいです・・・。次は、何とかして私も・・・!///)」ゴゴゴ…!

犬娘「た、狸侍女さんからとんでもない圧力が・・・!?」ビクッ!

ー秋之村・港ー
狸娘「着きましたわね」

鬼女「ここが秋之村か。春陽村と似たような気候で過ごしやすいな」

男「ここに来たのが四日前・・・。たったそれだけなのに、何だか随分と長く過ごしたような気がするなあ」

犬娘「そういえば、まだそれだけしか経ってないんですね・・・」

狐娘「そうね」

狸侍女「今日を含めて五日間ですか・・・。(たったそれだけで、これだけの女性に好意を持たれるとは・・・。男様、恐るべしですね)」

男「っ! ぅあ・・・?」ヨロ…

犬娘「うわ!? お、男さん、傷が!? 早く男さんの治療に行きましょう!」

鬼女「わ、私が運ぼう! 行くぞ!」

狸娘「お、男様、しっかり!!」

ー秋之村・診療所ー
犬医者「ほっほっほ、終わったぞい。まあ、まだ麻酔は抜けんから、暫く目は覚めんがの」ガラガラ

犬娘「先生!」

狸娘「お、男様の傷は!?」

犬医者「ほっほ。肩の刺し傷も、他の細かい切り傷も問題ないわい。化膿もしておらんかったしの。的確な応急処置のおかげじゃの」

狐娘「良かった・・・」

犬医者「ただ、傷痕は残る。消えることは無いわい」

狸侍女「そうですか・・・」

狐娘「そ、それで、目は・・・!?」

鬼女「目は、治ったのか!?」

犬医者「・・・いや。左目はどうにもならん。処置はしたが、眼球を半ばまで傷付けられておる。もうどうにもならんわ」

狐娘「・・・そう、ですか・・・」

鬼女「やはり、駄目だったか・・・」

犬医者「すまんね、助けられず・・・」

狸侍女「いえ。治療、有り難う御座いました」

犬娘「ありがとうございました・・・」

犬医者「それじゃあ、ワシは仕事があるでな」ヒョコヒョコ





狸娘「・・・取り敢えず、お見舞いにいきましょう」

狸侍女「そうですね」ガラガラ

犬娘「あ、私はお父さんとお母さんと大狸さんのお爺さんを呼んできますね」タッタッタ…

鬼女「ああ、すまない。頼む」

男「Zzz… Zzz…」

鬼女「あはは・・・。気持ちよさそうに寝てるな」

狸娘「そうですわね」

狸侍女「(男様の、寝顔・・・///)」

狐娘「あ・・・」

狸娘「やっぱり、目の傷が痛々しいですわね・・・」

狐娘「もう、見えないのよね・・・。私を、助けに来たせいで・・・」スッ ポロポロ

鬼女「き、気にするな狐娘! 男は、傷の一つや二つ、背負って生きるものだ!」

狸侍女「そ、そうです。今の男様も、変わらず格好良くていらっしゃいます」

狸娘「ちょ、ふ、二人とも・・・!」

???「ふふ。二人の言う通りよ。男の子は、傷を持ってる方が格好いいし、強くなるのよ」ガラガラ

???「ワッハッハ! そうじゃ! 一段と男らしくなったのう!」

???「とにかく、無事に帰ってこれて良かったよ」

鬼女「え?」

狐娘「あ・・・」

犬娘「連れて来ました!」

犬父「やあ、狐娘ちゃん。久し振りだね」

犬母「うふふ。美人になって」

狐娘「犬父さん! 犬母さん!」

鬼女「おお。こちらが・・・」

大狸「ワッハッハ! 狸娘、狸侍女! 随分と楽しそうな祭りを過ごしておるのう!」

狸娘「お祖父様!」

狸侍女「主・・・」

鬼女「! お、おお大狸様!?」キラーン!

大狸「む? おお、鬼族の娘っ子か」

鬼女「は、はい! 鬼女と申します!」ザッ!

大狸「よいよい。堅苦しいのは苦手じゃ」

鬼女「は、はい・・・!」

狸娘「相変わらずですのね、鬼女さん・・・」

狸侍女「まあ、すぐには変わらないでしょう」

犬娘「そ、それより、父さん、母さん・・・」

犬父「うん。道中話は聞いていたけど・・・」

犬母「結構大変だったみたいね」

大狸「ワッハッハ! 男も立派な傷をこさえたもんじゃのう!」

狐娘「・・・すいません。私のせいなんです」

大狸「気にするな! お前さんのせいじゃないわい」

狐娘「でも・・・」

大狸「男が自分で選んだ末の結果じゃ。それは男自身の責任であり、他人からの同情など、言ってしまえば邪魔なだけじゃ」

狐娘「・・・」

男「そうだよ、狐娘。気にしないで・・・」

狐娘「え!」

犬娘「お、男さん!」

狸侍女「目が覚めたのですね・・・!」

鬼女「良かった・・・!」

狸娘「ど、どこか具合の悪いところはありますか?」

男「いや、大丈夫だよ。麻酔でちょっとボーッとするくらい・・・」

犬父「やあ男君。四日振りといったところかな」

犬母「うふふ。ちょっと見なかった間に、立派になって」

男「犬父さん。犬母さん・・・」

大狸「ワッハッハ! 忍びを相手によくその程度の怪我で帰って来たのう!」

男「大狸さんまで。何だか、随分と懐かしく感じます・・・」

大狸「ワッハッハ! 何をしんみりとしておる!」

男「い、いえ・・・」

犬父「それより、男君。いくつか話があるんだ」

男「はい。聞かせてください」

犬娘「あ、えっと・・・」

狸娘「私達は・・・」

犬母「あら。一緒に聞いても平気よ? ねえ、あなた?」

犬父「ああ。勿論だ」

大狸「まあ、そんな難しい話しでもないしのう」

鬼女「そ、そうなのですか?」

狸侍女「では、このまま聞かせて頂きます」

大狸「うむ。では、簡単に説明すると・・・」

犬父「男君。あなたは元の世界に帰ることが出来ます」

男「ほ、本当ですか?」

犬母「嘘を言っても仕方ないでしょう」

男「そ、それはそうですけど・・・」

大狸「あの日男が現れたすすき野原の地点を捜索していたらのう。そこの座標に、何と言えばいいのか・・・」

犬父「空間に、穴が開いていたんだよ」

犬娘「穴?」

狸娘「それは・・・?」

犬父「言葉通りの意味だよ」

狸侍女「では、空中にぽっかりと穴が開いていて・・・」

鬼女「男はそこから来たと?」

犬母「まあ、そういうことね」

大狸「大方、男が寝返りをうった時にでも、転がり落ちてきたんじゃろう」ワッハッハ!

狐娘「でも、どうして人間の世界に繋がる穴が?」

狸侍女「今までに前例はあったのですか?」

犬父「多分、紫苑祭の時期には毎回開いていたんだと思う。でも、確認されたのは回が初めてだ」

大狸「それに、もう二度と無いやもしれん」

男「え?」

狐娘「に、二度と無いって・・・」

犬父「まあ聞いてくれ。今回の件は、紫苑祭の時期に高まる月の力が原因だと僕は考えている」

大狸「つまり、毎年この時期に高まる月の力、まあ妖力が結界内に満ち、この世界が破裂しないように、この世界のどこかに小さな穴を開けて、少しずつ容量を超えた分の妖力をにがしていたんじゃろうて」

犬母「妖力が多くなりすぎて結界が壊れると、人間の世界と隔てている壁がなくなってしまうでしょう?」

男「もしそうなったら・・・」

犬父「うん。また、人間と妖族との間で戦争が起きるかも知れない」

狐娘「そんなことに・・・」

鬼女「結界による、一種の自衛機能みたいなものか・・・」

大狸「そうなるの」

犬父「まあ、あくまで仮説なんだけどね」

狸娘「そ、それで、もう二度と無い、というのは?」

犬父「その件に関しても、仮説になるんだけど・・・」

大狸「恐らく、結界に開く穴の位置は決まっておらん」

犬娘「つまり?」

犬父「また来年開く穴が、今年と同じように男君に繋がっているとは限らない」

犬母「穴が開く位置の候補は、この世界の全域になるの」

大狸「今年は秋之村のすすき野原のあの位置じゃったが、来年は農業区かも知れん」

男「その理論で言えば、秋之村ですら無い可能性も充分にあると?」

犬父「その通りだ」

犬母「今まで確認されなかったのも、この世界の、例えば魔海の中や、海の上、空の上とか、色んな場所に穴が開いたからだと思うわ」

狸侍女「それでは、今回の件は奇跡としか言いようがありませんね」

大狸「全くよ! 男、お主は本当に面白いのう!」

男「あ、あはは・・・」

犬娘「それで、男さんが帰れるっていうのは・・・」

犬父「うん。恐らく穴は、この祭りの期間中はずっと開いていると思われる」

犬母「だから、明日の夜までに穴を潜れば、そのまま男君は元いた世界に帰ることが出来るわ」

狸娘「もうすぐではありませんか!」

狐娘「明日が最終日ですものね・・・」

犬娘「そ、そんなあ・・・」

男「明日の、夜・・・」

大狸「まあ、少し酷な言い方をすれば、本来儂らと関わることなど無かったはずじゃ。今回の件があくまで異例の事態。夢か何かだと思えば、元の暮らしに戻るだけで不都合はあるまいよ」

男「そう、ですね・・・」

狸侍女「男様・・・」

鬼女「男・・・」

犬父「もちろん、もしもこの世界に留まりたいと言うのなら、僕たちが協力しよう」

犬母「うふふ。私達の家にそのまま暮らして貰っても全然構わないんだからね? そうだ、いっそ犬娘の婿に・・・んむっ?」

犬娘「おかーさーーん!?///」ガバッ!

大狸「ワッハッハ! 儂の所に来ても構わんしのう! 狸娘と狸侍女、まとめて娶ってもいいじゃろうて!」

狸娘「お祖父様! こんな所で何を!///」

狸侍女「(男様と夫婦に・・・///)」ポッ///

狐娘「な、なら、私もこれから一人で暮らすのは寂しいから、男さんに一緒にいて欲しい、です・・・///」

鬼女「む。お、男は私がめんどうを見てやろう! 春陽村では私は鬼族の時期当主として、一族を繁栄させねばならん! 私の夫になって、私をさ、支えて欲しい・・・!///」

大狸「おお! 男、お主随分とモテるのう!」

犬父「これはこれは・・・」

犬母「うふふ。もう皆まとめてお嫁さんになっちゃえばいいんじゃないかしら?」

女衆『ええ!?///』

大狸「それはいい! どうじゃ男! ・・・男?」

男「・・・・・・」

犬母「男君?」

男「・・・え? あ、はい? す、すいません、ちょっと考え込んでて。 何ですか?」

女衆『・・・』

犬父「・・・いや、何でもないよ。取り敢えず、明日の夕方までに、帰るかどうかを決めておいてくれ」

犬母「今いきなり決めろ、って言っても無理でしょうしね」

大狸「まあ、怪我もある。今日の所は、ゆっくり休め」

男「は、はい」

犬父「男君。もし君が、『残る』という判断を下した場合は、僕たちが全力で君を支援する。それだけは覚えておいてくれ」

犬母「ふふ。男君可愛いですもの。応援したくなっちゃうわ」

大狸「無論、儂も協力するでな!」

男「皆さん・・・。ありがとうございます」

大狸「よいよい。ではの」ノッシノッシ

犬父「ゆっくり休んでくれ」ガラガラ

犬母「うふふ。また明日ね」スタスタ

ガラガラ ピシャッ

男「明日まで、か・・・」

女衆『じとー・・・』

男「? あ、あれ? 皆どうしたの?」

犬娘「・・・はー・・・」

狐娘「これですものね・・・」

狸娘「私達の一番大事な話を・・・」

狸侍女「まあ、確かにこれは・・・」

鬼女「酷いぞ、男!」

男「ご、ごめんなさい・・・?」

女衆『全くもう・・・』

男「え、えー・・・?」

狸侍女「さて。そろそろ面会時間も過ぎますし、帰りましょうか」

狸娘「そうですわね」

犬娘「あ、皆さん、今日はうちに泊まっていってください。父さんと母さんには伝えてありますから!」

鬼女「本当か? それは助かる」

狐娘「それじゃあ、お言葉に甘えましょうか」

狸侍女「それでは、男様。今日のところは失礼致します」

男「あ、はい。おやすみなさい」

犬娘「おやすみなさい、男さん!」ガラガラ

狐娘「明日の朝、また来るわね」

狸娘「今日はゆっくりお休みになってくださいな」

鬼女「では、また明日!」

ガラガラ ピシャッ

男「・・・」

男「・・・帰るか残るか、か・・・」

男「くぁ・・・ぁふ・・・。まあ、明日考えよう・・・」Zzz…Zzz…

ー秋之村・居住区 中央通りー
鬼女「それにしても、明日で紫苑祭も終わりか」

犬娘「お祭りの時期って楽しいから、時間が経つのがとても早く感じます」

狸娘「そうですわね。この五日間、あっという間でしたわ」

狐娘「そうね・・・。ふふ、色々あり過ぎて、三日前の初日が、もっと前に感じるわ」

狸侍女「今年の紫苑祭は、内容がかなり充実していましたからね」

犬娘「やっぱり、男さんが来てくれたからですよねー・・・///」

狸娘「そうですわね・・・」

狐娘「やっぱり、男さんは帰っちゃうのかしら・・・?」

狸侍女「そうですね。その可能性が一番高いでしょう」

鬼女「まあ、自分が生まれ育った世界に帰りたいのは当然だろうしな」

犬娘「そうですよねえ・・・」

鬼女「! そうだ。逆に考えればいいのではないか?」

狸娘「と言いますと?」

鬼女「男が残るかどうかではなく、私達が残るかどうか、ということだ!」

狐娘「つまり・・・」

狸侍女「わたくし達が、人間の世界に行くと?」

鬼女「うむ!」

犬娘「えぇー!?」

狐娘「その考えは無かったわね」

狸侍女「人間の、世界に・・・」

鬼女「我ながらいい考えだと思うのだが」

狸娘「で、でも、人間の世界に行って、それでどうしますの?」

鬼女「む? どう、とは?」

狸娘「いえ、単純に生活をどうするのか、ということですわ」

鬼女「む・・・」

犬娘「確かに、いきなり男さんにお世話になります! っていう訳にもいきませんし・・・」

狐娘「それに、前に男さんに聞いたけど、物価はここの約10倍。今の貯金じゃ、まず無理だわ」

鬼女「むむ・・・!」

狸侍女「そもそも、ここでの暮らしを捨てるにしても、今日明日でいきなり捨てる訳にもいきませんし」

鬼女「だ、駄目だったか・・・」ガックリ

犬娘「でも、いつかは人間の世界に行ってみたいです」

狐娘「そうね。男さんが生まれ、育った世界」

狸娘「どんなものか、見てみたいですわ」

鬼女「そ、そうだな・・・」

狸侍女「しかし、仮に来年の穴を狙おうにも、まず穴が現れる場所すら分からないのでは、行きようがありませんね」

鬼女「や、やはり、無理矢理にでも明日に・・・!」

狐娘「・・・そうするしか、ないのかしらね・・・」

犬娘「あ。皆さん、うちが見えました。お話はまた、後にしましょう」

狸侍女「そうですね。一度落ち着いてから、また」

鬼女「おお。大きい家だな」

狸娘「あら、あそこ・・・」

犬母「あら。皆、いらっしゃい」

狐娘「犬母さん。お邪魔します」

犬娘「お母さんただいま!」

狸娘「こんばんは。お邪魔しますわ」

犬母「うふふ。可愛いお客さんね。ゆっくりしていってね」

鬼女「お邪魔します! 犬母殿!」

狸侍女「こんばんは。御世話になります」

犬母「あらあら。こちらは綺麗なお姉さん方だこと。犬娘もこうなるはずだったのにねえ・・・」

鬼女「え、ええ?///」

狸侍女「お褒めいただき、有り難う御座います」

犬娘「ちょ、お母さん!? まだこれからだよ私! 諦めるの早いよ!」

犬母「何言ってるのよ。私があなたくらいの歳の頃は、もう少しいい体してたわよ」

犬娘「・・・何か、親のそういう話は聞きたくないような・・・」

狐娘「相変わらず面白いお母さんね」

狸娘「ええ。個性的ですわ」

犬母「あら、ありがと」ウフフ

犬母「さ、立ち話も何だから、上がって上がって」

犬娘「それじゃあ皆さん、私の部屋に行きましょうか」

狐娘「お邪魔するわね」

狸娘「わ、玄関も広いですわね」

鬼女「おおー・・・。旅館みたいだ」

狸侍女「犬母様、台所をお借りしてもよろしいでしょうか? 御茶を淹れようと思いまして」

犬母「ええ、もちろん構わないわよ。でも、あなたもお客様なんだから、私が淹れて持って行くわよ?」

狸侍女「いえ、侍女として、このくらいはやらなければ。御茶っ葉は持参の物がありますので、お湯と湯飲みだけお貸しいただけますか?」

犬母「そういうことなら。台所に入って左の戸棚に入っているから、それを適当に使ってちょうだい」

狸侍女「はい。有り難う御座います。犬娘様・・・」

犬娘「はい、私達は先に行ってますね。部屋は二階の突き当たりですから」

タン タン タン タン…

狸侍女「犬母様も、ご一緒にいかがですか?」

犬母「いえいえ、いらないわ。今、うちの人と大狸様がお酒を飲み始めちゃったから、そっちの相手をしないといけないし」

狸侍女「・・・主がご迷惑をお掛けしまして、申し訳御座いません・・・」

犬母「いいのよ、気にしないで? もちろん、私も飲むしね。そ・れ・よ・り」

狸侍女「はい?」

犬母「明日の夜までに男君をどうやってモノにするか、皆としっかり決めなさいな」

狸侍女「はいっ!?///」

犬母「うふふ。さっき男君の病室で言った、『皆でお嫁さんに』っていうの、別に冗談で言った訳じゃないのよ?」

狸侍女「な、ななな///」

犬母「ふふ。そろそろ私は行くけど、しっかりね? ああいう鈍い男の子は、無理矢理にでも攻めないと駄目なんだから。頑張りなさいな」ポンポン スタスタ

狸侍女「は、はあ・・・」

狸侍女「・・・み、皆で、男様のお嫁に・・・///」ポー…

狸侍女「(わ、悪くない・・・かも・・・?)///」

狸侍女「・・・はっ! お、御茶を淹れなければ!」スタスタスタ

ー犬娘の部屋ー
スッ

狸侍女「失礼します。御茶をお持ちいたしました」

犬娘「あ、狸侍女さん。ありがとうございます」

鬼女「ありがとう」

狸侍女「いえ、このくらい」

狐娘「頂きます」

狸娘「ありがとう、狸侍女」

狸侍女「はい、どうぞ。ところで、何かお話しをされていたようですが?」

狐娘「え、ええ。そのー・・・」

犬娘「やっぱり、男さんの事で・・・」

狸侍女「ああ、成る程・・・」

鬼女「ああ。それで、その前に改めて皆と確認していたのだが・・・」 

狸娘「狸侍女。あ、あなたも、男さんのことが、す、好きですか?」

狸侍女「はい。お慕い申し上げております。あの方に一生を捧げ、添い遂げたく思っております」

犬娘「わー・・・///」

狐娘「す、すごいわね・・・///」

鬼女「やはり、こうなると・・・」

狸娘「誰かが諦めなければいけませんわね」

犬娘「でも・・・」

全員『・・・・・・』

狐娘「当然、諦める人なんかいないわよね」

狸侍女「そうですね」

狐娘「じゃあ、やっぱり男さんに直接聞くしか・・・」

犬娘「そうだね」

狸娘「・・・でも」

鬼女「どうした?」

狸娘「でも、そもそも男様はここに残ってくださるのでしょうか?」

犬娘「あ・・・」

狐娘「確かにね。でも、帰ってしまうなら、全員振られちゃった、ってことかしらね」

鬼女「むぅ・・・」

犬娘「あぅ・・・」

狸娘「そうなりますわね・・・」

狸侍女「全ては、明日の男様の決断次第、ですね」

大狸「何をしんみりとしておる小娘共お!」スパァン!

犬娘「きゃんっ!?」ビクウ!

狸侍女「あ、主?」

鬼女「ま、全く気配がしなかった・・・!」

大狸「ワッハッハ! 修行が足りんの! それよりじゃ!」

狐娘「は、はい」

狸娘「何ですのお祖父様? いきなり」

大狸「お主らつまらんのうーー!」

犬娘「へ?」

大狸「何じゃさっきから聞いていれば消極的なことばかりグダグダと抜かしおって!」

狐娘「で、でも・・・」

大狸「よいか!? 本気で好きなら、無理矢理にでも引き留めるくらい言わんかい!/////」ダンッ!

狸娘「ひい!」

狸侍女「主・・・。酔っ払っていらっしゃいますね?」

大狸「いいから話を聞かんかい・・・!/////」ジロリ

狸侍女「! は、はい・・・」

狸娘「狸侍女が負けた!?」

鬼女「な、なんて威圧だ・・・」

大狸「まったく。よいか!? お主ら、男のことがすきなんじゃろう!? だったら、引き留めようとか、いっそ人間界についていこうとか、それくらい言ってみんかい!/////」グビグビ

狐娘「で、でも大狸様? 人間の世界の物価はここの約十倍。とてもじゃありませんけど、生活なんて出来ないです」

鬼女「そ、それに、男を引き留めるにしても、男が帰りたがっていたなら、酷ではありませんか?」

大狸「やかぁしい! 金なら出してやるわい! それに、どうせ男の嫁になるんじゃ! 向こうに帰りたいと男が言うのなら、向こうで養ってもらえばよかろう!/////」ヒック!

犬娘「お、男さんのお嫁さんになって・・・」

狐娘「養ってもらう、ってことは・・・」

狸娘「専業主婦、ですわね・・・」

鬼女「わ、悪くはないな・・・」

狸侍女「・・・」

ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーー

男『ただいまー』

狸侍女『お帰りなさいませ、男様』スタスタ ペコリ

男『こら、俺の呼び方。違うだろう?』ピシッ

狸侍女『あう。も、申し訳御座いません』

男『俺のことは何て呼ぶんだっけ?』

狸侍女『は、はい。あ、あ、あな・・・///』

男『ほら、恥ずかしがるなよ・・・』スッ

狸侍女『ーーーーっ! あ、あな、た・・・!///』カアァー///

男『はは。良く出来ました』チュッ

狸侍女『ふむっ! ・・・ん、ちゅ、んふ・・・っ///』

男『ん!? ・・・ぷはっ! おいおい、今日は一段と激しいな? 危うく窒息するところだったぞ』

狸侍女『! も、申し訳御座いません。その、つい嬉しくなって・・・///』

男『全く。本当に可愛いな、狸侍女は・・・』ナデナデ

狸侍女『///』

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

大狸「狸侍女! 話聞いとんのか!?」

狸侍女「・・・はっ!? は、はい。続けてください」

大狸「本当に大丈夫か? お主・・・」

大狸「ともかく、じゃ。男がどんな選択をしても、食らいつくくらいの意地は見せるのじゃぞ! その方が面白いからのう! なに、どうせ男も何かしら考えているじゃろうて!」ドスドス



鬼女「嵐のようだったな・・・」

犬娘「面白いから、とかすごいこと言っていきましたしね・・・」

狸娘「なんか、申し訳ないですわ・・・」

狐娘「でも、私はおかげで吹っ切れたわ」

狸侍女「そうですね。わたくしもです」

鬼女「ふふ。確かにな」

犬娘「明日の、男さんの決断がどんなものでも・・・」

狸娘「食らいついてみせますわ!」グッ!

犬母「あらあら。いい感じに話がまとまったみたいねー」

犬娘「お母さん!」

犬母「うふふ。話は聞いたけど、皆覚悟は出来てるみたいね」

狐娘「はい」

狸娘「大丈夫ですわ」

犬母「そう。頑張るのよ? ああいう鈍い男の子には、攻め込むしかないんだからね」スタスタ

鬼女「・・・よし。あとは、明日を待つの身か」

狸侍女「そうですね。今夜は、そろそろ寝ましょうか」

犬娘「そうですね」

ー数分後ー

狐娘「それじゃあ皆、お休みなさい」

犬娘「おやすm・・・」Zzz

狸娘「お休みなさい・・・」Zzz

鬼女「うむ。また、明日・・・ ウトウト

狸侍女「お休みなさいませ」

ー紫苑祭最終日 秋之村・診療所ー
犬医者「いや大したもんじゃのう。まさか一晩でここまで回復するとは思わなんだ」

男「先生の治療のおかげですよ。どうもありがとうございました」

犬医者「ほっほ。なに、ワシは当たり前のことをしたまでじゃよ」

犬父「やあ男君、おはよう。体調は良さそうだね」

男「あ、犬父さん。おはようございます。ええ、まだ全快とはいきませんけど、それなりには」

犬父「それは良かった。・・・それで、どうするかは決めたかい?」

男「・・・はい。決めました」

犬父「そうか。では・・・?」

男「俺は?・・・・・・」



ー診療所内・廊下ー
犬娘「(お、男さん・・・)」

狐娘「(まさか、迎えに来たらすぐに結論を聞くことになるなんて・・・)」

狸娘「(あ、あの、今から中に入れば、まだ聞かなくて済むのでは?)」

狸侍女「(しかし、どの道分かることですから、機会を延ばしても、あまり意味はないかと。それに・・・)」

鬼女「(何か、この空気は入りづらいことこの上ない・・・!)」

狸娘「(そ、それはそうですけど。心の準備が・・・!)」

犬娘「(あ、男さんが何か言いますよ!)」

女衆『(・・・!)』

男「俺、ここに残りたいです」

女衆『・・・!!』

犬父「・・・うん」

男「俺、ここが大好きです。皆優しくて、賑やかで、見るもの全てが新鮮で。この五日間、とても楽しかったんです」

犬娘『男さん・・・』

狐娘『そんな風に思っていてくれたのね・・・』

狸娘『嬉しいですわ・・・!』

狸侍女『しかし・・・』

鬼女『うむ。人間の世界でのことはどうするのだろうか?』

犬父「でも、男君。君は、人間の世界での生活はどうするんだい? 今まで決して短くはない時間を過ごしてきたんだ。いきなり君がいなくなっては、向こうで大変な騒ぎが起きるんじゃないのかな?」

男「かもしれません。でも、俺はもう決めたんです。ここで暮らして、いつかきっと、ここと人間の世界を自由に行き来することが出来るようにしてみせます」

犬父「はは。そうか」

男「はい。それに、だ、大事な妖(ひと)達がいますから・・・」ポリポリ

女衆『!!』

犬父「ほう? まさか、本当に全員を嫁にするのかい?」ニヤニヤ

男「ええ!? い、いや、そんなことは・・・///」

犬父「では、1人に心を決めていると?」

女衆『!!?』

男「え!? い、いや、それはそのう・・・」ゴニョゴニョ




女衆『・・・・・・っ!』ゴクリ

犬娘『そ、そうなんでしょか?』

狸娘『あの様子からじゃ分かりませんわ』

狐娘『でも、多分1人、なんじゃないかしら?』

鬼女『い、いったい誰が!?』

狸侍女『どうでょうか・・・』




男「・・・正直なところ、よく分からないです。誰かに告白されるなんて初めてで・・・」

犬父「でも、だからといってそれをそのまま伝えて『答えを待って欲しい』なんて言ったら駄目だからね?」

男「や、やっぱりそうですよね・・・」

犬父「うん。男なら、ちゃんと決めておかないと」



犬娘『お父さんありがとう!』

狐娘『男さん、返事を延ばす気だったのね・・・』

狸娘『男様らしいですし、しっかり考えてく他猿のは嬉しいですけど・・・』

狸侍女『ええ。やはりちゃんと答えて頂きたいものです』

鬼女『さて、男はどうするのか・・・』



男「俺は・・・。俺が好きなのは・・・!」

犬父「うんうん」



女衆『・・・・・・!』



男「ほ、本人に直接伝えますよ! 犬父さんにはその後でまた!」

犬父「ええ? いいじゃないか。聞かせてくれよ」

男「いえ。やっぱり、最初は、本人に聞いて貰いたいから」



女衆『(本人!? ということはやっぱり、この中の誰か1人!?)』



犬父「そうか。そうだね、それがいいだろう」

男「はい!」

犬父「さて、じゃあ家で朝ご飯を食べよう。皆ももう起きているはずだよ」

男「あ、じゃあ、お言葉に甘えて」



女衆『・・・!』

鬼女『て、撤退!』

コソコソ コソコソ

ガラガラ

犬父「さ、行こうか」

男「はい」

スタスタ

ー秋之村・犬娘の屋敷ー
犬父「ただいまー」

男「お邪魔します」

犬母「あら、お帰りなさいあなた。男君も。その様子だと、答えは出たのかしら?」

男「え、ええ。まあ・・・」

犬母「うふふ。あの娘達も気になっているでしょうし、早く伝えてあげなさいね」

男「は、はい・・・」

犬父「さ、それじゃあ朝食にしようか」

犬母「もう皆もいるわよ」

ー犬娘の屋敷・客間ー
男「あ、皆。おはよう」

犬娘「! お、おはようございます、男さん」

狐娘「か、体はもう平気なの?」

男「うん。何とかね」

狸娘「よ、良かったですわね」

狸侍女「え、ええ。大事なくて何よりです」

鬼女「う、うむ。良かったな!」

男「?? ありがとうございます」

犬父「(母さん、もしかして?)」

犬母「(ええ。この娘達ったら、あなたと男君の話、聞いていたみたいよ?)」クスクス

犬父「(それはそれは・・・)」

犬母「(うふふ。面白いわ、本当に)」

女衆『あ、あはははは』

男「???」

犬母「さて、それじゃあ朝ご飯にしましょうか」

犬父「そうだね。皆、座ってくれ」

犬娘「はーい」

狸娘「今日は朝早かったので、お腹が空きましたわ」

男「あれ? 今日は早起きしたの?」

狸娘「え!? あ、いや、その・・・!」ワタワタ

狸侍女「わたくしが早く目が覚めてしまったので、お嬢様と朝の散歩をしていたのです」

男「あ、そうなんですか。それじゃあお腹空くよね」

狸娘「え、ええ、そうですわ・・・」

犬母「男くーん。ちょっと手伝ってくれるかしらー?」

男「あ、はーい」スタスタ

鬼女「危なかったな、狸娘」

狸娘「そうですわね。ありがとう、狸侍女」

狸侍女「いえ。お気になさらず」



ー犬娘の屋敷・台所ー
犬母「あ、ごめんなさいね、男君。そこの棚の上から、大皿を取ってもらえるかしら?」

男「あ、はい。これですか?」ガタガタ スッ

犬母「ええ、ありがとう。・・・それで、男君。一体誰と結婚するのかしら?」

男「ぅえ!? け、結婚ですか・・・?」

犬母「ええ。もう、決めているんでしょう? これから先、誰と生きていくか」

男「・・・ええ、まあ///」

犬母「うふふ。真っ赤になっちゃって。それで? 誰なのかしら? もちろん、うちの娘だと一番嬉しいのだけれど」

男「・・・犬父さんにも言ったんですけど、やっぱり、最初は本人に伝えたいんです。犬母さんには、その後で」

犬母「あら。随分と可愛いことを言うわね。そんなことを言ってもらえる娘が羨ましいわー」

男「あ、あはは・・・。あ、じゃあ先に置いてある料理、持って行っちゃいますね」

犬母「ええ、お願い。うふふ、しっかりね?」

男「は、はい///」



男「(そうだ。決めたんだ。俺は、やっぱりあの妖(ひと)が・・・)」


Please Choice root!
1.犬娘

2.狐娘

3.狸娘

4.狸侍女

5.鬼女

6.やっぱり誰かなんて選べない!(ハーレムor皆友達)



これから暫く、ルートを募集します。今日の深夜か、明日の朝にこのスレを開いた時のレスで、一番多かったルートに進行させたいと思います。

書き溜めも何も無く、気の向くままに書いていたので、特にエンディングは考えていませんでしたので・・・。

最後の最後ですいません。どうぞ、よろしくお願いします

Last Chapter ーRoot Harlemー
男「・・・って、駄目だ。犬父さんや犬母さんにはもう決めたって言ったけど、やっぱり誰かなんて選べない・・・」

男「そもそも、俺なんかと結婚するより、こっちの世界の誰かと結婚した方がいいんじゃないのか?」

男「・・・よし、そう伝えよう。皆に、俺なんかより、ずっといい妖(ひと)がいるはずだから、って」スタスタ



ー犬娘の屋敷・客間ー
男「はい、皆お待たせ。朝ご飯だよ」

犬娘「あ、ありがとうございます、男さん」

狸侍女「申し訳御座いません。わたくしが運ぶべきでした」

男「ああ、いいんですよこのくらい。たまには狸侍女さんもゆっくりしていてください」ニコ

狸侍女「あ、有り難う御座います・・・///」

犬母「さ、これでお料理も全部揃ったし。頂きましょうか」

狸娘「はい。ありがとうございますわ」

鬼女「うむ、頂きます!」

狐娘「犬母さんのお料理、久しぶりです」

犬母「うふふ。沢山食べてね」

男「じゃあ、俺も。頂きます」

犬父「頂きます」

犬母「私も食べましょうかね。頂きます」

カチャカチャ モグモグ

ー数十分後ー
全員『御馳走様でした!』

犬母「うふふ。お粗末様でした」

狸侍女「犬母様、片付けはわたくしが・・・」

犬母「あらあら。いいわよ、やっておくから」

狸侍女「しかし・・・」

犬母「それより、今日でお祭りは最後よ?男君達と、お祭りに行ってらっしゃいな」

犬父「そうだね、それがいいよ。男君、皆と一緒にお祭りに行ってくるといい」

男「そうですね。それじゃあ、犬母さん、すいませんけど・・・」

犬母「ええ、行ってらっしゃいな」

犬娘「よーし! それじゃあ、お財布とか準備してこなくちゃ」

狐娘「そうね。行きましょうか」

狸娘「あ、私も!」

鬼女「では、私は着替えてくるとしよう」

狸侍女「? 既に着替えているのでは?」

鬼女「い、いや。折角だから、最終日は浴衣にしようかと思ってな・・・。一応持ってきてはいるのだ」

狐娘「成る程」

犬娘「でも、浴衣って、少し動きづらいですよね」

狸娘「そうですわね。あまり、普段と変わりませんし」

犬母「あら、そんなことないわよ。ねえ、男君?」

男「え? ああ、そうですね。いつもとちょっと違って、新鮮だと思うし。少し見てみたいです、鬼女さんの浴衣姿」

女衆『!!』

鬼女「! そ、そうか。なら、着てくるとしよう///」イソイソ

犬娘「お、お母さん! 私の浴衣どこ!?」
狐娘「あ、犬娘!」

狸娘「あなた、さっきは動きづらいとか言っていたのに!」

犬娘「で、でも、折角だから私も着ようかなー、なんて・・・」

狸娘「むむむ・・・!」

狐娘「ず、ずるいわよ犬娘・・・!」

犬母「ふふ、大丈夫よ。こんなこともあろうかと、一応人数分の浴衣を用意してあるわ」
狐娘「本当ですか!?」

狸娘「か、貸して頂けるのですか!?」

狸侍女「有り難いです」

犬母「勿論、男君の分も用意してあるわ」

男「え、本当ですか? ありがとうございます」

犬母「ふふ、後で着付けしてあげるわね、男君」

男「え!? い、いや、大丈夫ですよ! 1人で出来ます!」

犬母「あらあら。照れなくてもいいのに」クスクス

男「いや、照れとかじゃなくて・・・」

鬼女「な、なら男の着付けは私がしよう! な、慣れているからな! 犬母殿に着付けて頂くのが恥ずかしいなら、私に任せるといい///」

男「はい!?」

犬娘「わ、私がやりますよ! 男さん!」

犬母「あなたは自分でも満足に着れないでしょうに」

犬母「お、お母さん!」

狐娘「し、仕方がないわね。私が着付けてあげてもいいわよ、男さん」

狸娘「う、うぅ・・・。私も、自分で着られませんわ」

狸侍女「お嬢様の着付けは、いつもわたくしがしていましたからね。ですから、男様。わたくしも着付けはして差し上げられますよ?」

男「い、いや、だから自分で着られますって! 何で着られない事が前提なんですか!」

犬母「うふふ。冗談よ、冗談。さ、女の子達は皆こっちにいらっしゃいな。男君は、少し待っていてね?」

男「あ、はい」

犬父「いやあ、モテているねえ、男君」

男「やめてくださいよ、犬父さん・・・」

犬父「あはは。いいじゃないか。あれだけの女の子を物にするなんて、男君は人間の世界でも女誑しだったのかな?」

男「いやいや。向こうじゃ、恋人すらいたことはないですよ」

犬父「おや、それは意外だ」

男「まあ、恋人なんか作っている余裕もありませんでしたしね」

犬父「そうか・・・」

男「あ、そういえば。犬父さん、俺、ここで暮らしていく上で、当然働きたいんですけど、どこかいい職場知りませんかね? それから、安く借りられる家か何かも」

犬父「ふむ。まあ、職ならば、いくつか当てはある。今夜にでもまとめて紹介しよう」

男「ありがとうございます!」

犬父「いや、構わないよ。それから、家は少し難しいからね、暫くはここで暮らすといい」

男「ええ!? いやそんな! 悪いですよ・・・」

犬父「あはは。気にしなくていいとも。勿論、君の住む家が見つかるまでの間だし、家事もある程度は手伝って貰うけれどね」

男「犬父さん・・・。本当にありがとうございます・・・!」

犬父「うんうん。さて、それじゃあ僕は仕事に行くよ。君の来た『穴』の資料を、少しでも多く取っておかないとね」

男「あ。そ、それなら俺も・・・」

犬父「いやいや。さっきも言っただろう? 今日は紫苑祭の最終日だ。彼女達と存分に楽しんで来るといい。それに、答えを伝えなくちゃいけないだろう?」

男「・・・! ・・・はい。ありがとうございます」

犬父「さっきからお礼ばかりだね。気にしなくていいよ。それじゃあ、行ってくる」スタスタ

男「あ、行ってらっしゃい!」

男「・・・」

男「・・・参ったなあ。御世話になりっぱなしだ。ちゃんとこの恩は返さないと」

犬娘「男さーん! お待たせしましたー!」パタパタ

狐娘「あ、こら! 走らないの!」

狸侍女「犬娘様、もし着崩れたりしたら、また着付けをする羽目になってしまいますよ?」

男「あ、皆着替え終わったんだ。おぉ・・・!」

狸娘「ど、どうでしょうか・・・///」

鬼女「に、似合っているか?」

男「ええ。皆似合っていますよ。とても可愛いです」

狐娘「そ、そう。良かった・・・///」

犬娘「えへへ///」

鬼女「う、うむ! そうだろう! 自慢の浴衣を持って来たのだからな!」

狸娘「そうして褒めて貰えると、嬉しいですわ///」

狸侍女「浴衣を着るのなど、何年振りでしょうか・・・」

犬母「うふふ、大丈夫よ。狸侍女ちゃんもとても可愛いわ」

男「ええ、似合っていますよ」

狸侍女「そ、そうですか。有り難う御座います///」

犬母「さて。それじゃあ後は男君ね。はい、これ」スッ

男「あ、どうもありがとうございます」

犬母「いいのよ。それより、本当に着られるのかしら?」

男「ええ、大丈夫ですよ」

犬母「そ。なら、着替えていらっしゃいな」

男「あ、はい。それじゃあ皆、少し待っててね」スタスタ

犬娘「はーい」

狐娘「男さんの浴衣姿かあ・・・」

狸娘「楽しみですわね」

犬母「うふふ、そうね」

鬼女「そういえば犬母殿、何故こんなに浴衣を持っていたのだ?」

狸侍女「服飾関係のお仕事でもされているのですか?」

犬母「ええ、まあね。お手伝い程度だけれど、工房で着物を織っているわ。そのお礼として、何着か頂くのよ」

犬娘「お母さん、針仕事が上手なんですよ」

犬母「娘のあなたには、その才能が受け継がれなくてねえ・・・」ハァ…

狸娘「あら、そうなんですの?」

犬娘「えと、ち、ちょっとだけ苦手なだけで・・・」

狐娘「そういえば、昔私の着物のほつれた部分を直そうとして、真っ二つに裂いたことがあったわね」

犬娘「そ、それは!」

鬼女「・・・それはもう、針仕事とは言わないのでは?」

狸侍女「まるで質の悪い追い剥ぎですね」

犬娘「うぅ・・・」

男「皆、お待たせー。ってあれ? どうしたの? 犬娘」

犬娘「い、いえ、何でも。男さん、早かったですね。・・・わあ」

男「ああ、うん。男物だからかな。結構簡単に着られたよ。・・・って、わあって何? 俺、どこかおかしいかな?」キョロキョロ

犬娘「い、いえ、そんなことは全く!」ブンブン

狐娘「男さん、とてもよく似合ってるわ」

狸娘「はい、よくお似合いですわ」

男「本当に? 良かった」ホッ

鬼女「うん、か、格好良いぞ!」

狸侍女「はい、本当に」

男「ありがとうございます。何か、照れ臭いですね///」

犬母「うふふ。本当に可愛いわね男君は。さ、そろそろ行ってきなさいな。今日が終われば、次の祭りはまた来年。沢山楽しんでいらっしゃい」ヒラヒラ

全員『行ってきます!』

ー秋之村・中央広場ー
男「さて、それじゃあ、色々回ろうか」

犬娘「はい!」

狐娘「そうね。今日は思い切り遊ぶわよ!

狸娘「いいですわね」

鬼女「うむ。祭りの最後の花火大会もあるし、楽しみだ」

狸侍女「ええ、毎年行われる花火大会は、祭りの締めとして欠かせないものです」

男「へえ、花火もあるんだ」

狐娘「ええ、そして・・・」

犬娘「(秋之村の花火と言えば!)」

狸娘「(共に見た男女は結ばれるとの噂も!)」

鬼女「(よ、よし・・・)お、男!」

男「はい、何ですか?」

鬼女「よ、良かったら、その・・・。わ、私と花火を・・・!///」

狸侍女「男様、花火がよく見える場所を知っております。花火の際は、皆でそちらへ」

男「そうなんですか?助かります。・・・あ、すいません鬼女さん。何でしたっけ?」

鬼女「い、いや、何でもない・・・」

鬼女「(狸侍女、よくも・・・!)」ボソボソ

狸侍女「(流石に、目の前での堂々とした抜け駆けは見過ごせませんよ)」ヒソヒソ

男「? どうしたんですか? 二人とも」

狸侍女「いえ、何でもありません」

鬼女「う、うむ。さあ、行こう!」

男「あ、はい。犬娘、狐娘、狸娘、行こうか」

犬娘「はーい」

狐娘「私、金魚すくいがしたいわ」

狸娘「あ、私も!」

男「あはは。じゃあ、金魚すくいの屋台から回っていこうか」

ー金魚すくい屋ー
男「よっ、と!」パシャッ 

犬娘「わあ! 男さん上手ですね!」

鬼女「ひい、ふう、みい・・・。もう五匹目か」

狐娘「男さん、器用なのね」

男「いやあ、それほどでも」アハハ

河童「兄ちゃん、やるもんだなあ!」

男「いえいえ、まだまだ」

狸娘「私は全然すくえませんわ・・・」

狸侍女「・・・わたくしもです」

鬼女「なんと。狸娘はともかく、狸侍女がとれないとは意外だな」

狸娘「意外性が無くて悪かったですわね!」

狐娘「まあまあ、落ち着いて」ポンポン

犬娘「でも、本当に意外ですね。狸侍女さんなら、今頃はこの水槽の中の金魚をとり尽くしている頃だと思っていたのに」

狸侍女「いえ、金魚すくいに限らず、こういった場での遊戯は、どれも苦手なのです」

男「そうなんですか?」

狸侍女「ええ、こういった遊戯は、侍女としての仕事には関わりのないことでしたので・・・」

狐娘「成る程・・・」

男「じゃあ、丁度いい切っ掛けかもしれませんね!」

狸侍女「え?」

男「この機会に、色々遊びましょうよ。狸侍女さんなら、きっと上手に出来ますよ!」

鬼女「うむ、そうだな。こういった遊びは、中々に楽しいものだぞ」

犬娘「はい! お祭り独特の楽しさがありますね」

狐娘「ええ、他にも沢山あるし、楽しみましょう?」

狸娘「あなたは、今まで私たちのためによく働いてくれましたし、そのくらいは当然ですわね」

男「さ、行きましょう! 他にもまだ、沢山出店はありますよ!」

狸侍女「・・・はい!」

ー数時間後ー
狐娘「なるほど、農業区のこの丘が・・・」

犬娘「花火がよく観える場所ですか!」

狸侍女「ええ、ここは花火会場から少し離れていますので、他の皆様は余り訪れない穴場となっております」

鬼女「成る程な」 

狸娘「でも、よく知っていましたわね、狸侍女」

狸侍女「はい。昨夜、犬母様に教えて頂きました」

犬娘「ここなら、ゆっくり花火を観られますね!」

狐娘「そうね、楽しみだわ」

男「・・・」

鬼女「男? どうかしたのか?」

男「あ、いえ、何でもないですよ。それより、本当に良いところですね。静かだし、落ち着いて観られます」

狸娘「もうそろそろ始まりますわね」

狸侍女「出店で買っておいた食べ物もあります。皆でゆっくり待ちましょう」

犬娘「焼きそばを食べたいです!」

狐娘「あ、私も!」

狸侍女「ちゃんと人数分ありますので、慌てずとも大丈夫ですよ」

男「うん、美味しそうだ。頂きます」

犬娘「いただきまーす!」

狸娘「頂きます」

鬼女「うん、美味しいな」

ズルズル モグモグ

ヒュルルーー……ドパァ…ン!

犬娘「あ! 始まりました!」

狐娘「今年も綺麗ね」

狸娘「わ、大きいのも!」

狸侍女「風流ですね」

鬼女「たーまやー!」

男「うわ、連発!」

ドン! ドドンドン! ドドドンドォン!

男「凄いなあ・・・。とても綺麗だ・・・」

犬娘「(花火に照らされた男さんが・・・)」

狐娘「(普段よりも更に格好良く見える・・・///)」

狸娘「(そういえば、今日中に男様は答えを聞かせてくださるみたいですけど・・・)」

狸侍女「(・・・誰を、選んでくださるのでしょうか)」

鬼女「(・・・)」

ドドォ……ン! ドォ…ン!

男「・・・・・・」

ドォ…ン! ドドォ……ン!

男「・・・皆、聞いて欲しいことがある」

女衆『!!』

男「あの、俺、皆から『好きだ』って言って貰えて、本当に嬉しかった。ありがとう」

女衆『・・・』

男「俺、この祭りの期間中に一人を選ぶって約束していたよね。・・・今、答えを言おうと思う」

犬娘「男さん・・・」

狐娘「・・・はい」

狸娘「・・・」スゥー…ハァーー

狸侍女「宜しく御願いいたします」

鬼女「む、むう・・・///」

男「俺、一生懸命考えたんだ。・・・俺は・・・、」

女衆『・・・!』

男「ごめん! 俺は、誰とも一緒になることは出来ない!」ガバッ!

女衆『・・・え?』

男「ごめん。皆が好きって言ってくれて、俺に考える時間もくれたのに、こんな答えしか出せなくて」

犬娘「男・・・さん・・・」

狐娘「・・・私達では、男さんの隣にいるには相応しくないからかしら・・・?」

狸娘「私達が、人ではないから・・・?」

男「ち、違う! 違うよ、そんな事はない!」

狸侍女「ならば、単純にわたくし達は男様の好みではなかったと?」

鬼女「そ、そうなのか!?

男「そういう訳でも無いです。この答えは、俺自身が問題なんです」

犬娘「え?」

男「俺、ただの人間です。人間の世界でも、何の取り柄もなく、ただ毎日を平凡に過ごしていただけの人間です」

狐娘「そ、それなら、私達だって・・・」ヒュルルーー…ドォ…ン!

男「そうじゃないんだよ」

狸娘「え?」

男「俺、この世界で暮らしていくことに決めたよ。だけど、何の元手もないから、これからの生活は苦労していくことになる。それに誰かを巻き込むなんて、したくないんだ」ヒュウゥー……ドパァ…ン!

狸侍女「・・・」

男「俺は、本当に嬉しかった。ここまで誰かに好意を持って貰ったのなんて、初めてだったから」

鬼女「男・・・」

男「でも、だからこそ、誰も選べない。俺は人間だから、俺と一緒になることで、おかしな噂をされたり、有ること無いこと言われるかも知れない。もし、俺のせいでそんなことになったら、申し訳ないから」

女衆『・・・』ヒュルルーー……ドンッ ドドォ…ン!

男「俺、皆が同じくらい大好きです。だからこそ、俺なんかが選んじゃいけないとも思うから。それに、皆にはきっと、これからもっといい出会いがあると思うから、その妖(ひと)と・・・」

狸侍女「・・・男様」スタスタ

男「はい、何です」バチン!

男「っ!?」

狸侍女「・・・失礼いたしました。どうも寝ぼけていらっしゃるようでしたので、目を覚まさせて頂きました」

男「・・・へ?」

犬娘「・・・私たちは、『男さん』がいいんです」

狐娘「人間とか、そうじゃないとか、そんな事はどうでもいいの」

狸娘「誰に何と言われても、全く気にしませんわ」

鬼女「それに、もっといい妖(ひと)と出会えると言われても、私にはお前より良い男など想像すら出来んぞ」

狸侍女「わたくし達は皆、今ここにいる貴方をこそお慕いしているのです。誰かを選んだが故に選ばれなかったのならばともかく、苦難に巻き込まれるからというだけでは、この想い、揺るぎはしません」

男「皆・・・」

犬娘「男さんは優しいから、誰かを選ぶなんて難しかったですよね・・・。ごめんなさい」

男「そんなこと無いよ。ちゃんと決められなかった俺が悪いんだ・・・」

狐娘「私達は皆、あなたと一緒に生きていく覚悟があるわ。それくらい、男さんのことを好きになったんですもの」

男「・・・うん」

狸娘「ですから、苦難に巻き込まれることや、誰かに後ろ指を指されるかも、なんて事は、気にしなくていいのですわ」

男「・・・うん」

狸侍女「今一度お考えください。その上で、誰とも一緒にはなれないと言うのならば、その時は、わたくし達も一度退きます」

男「あ、一度退くだけなんですね・・・」

鬼女「当然だろう。さっきも言ったはずだ。お前より良い男など想像すら出来んぞ、とな」

男「・・・ありがとうございます」

犬娘「男さん」

狐娘「男さん・・・」

狸娘「男様っ」

狸侍女「・・・男様」

鬼女「男・・・」





男「・・・」

男「・・・これから、沢山苦労も掛けるし、迷惑も沢山掛けると思う。資金だって無いから、当分は辛い生活になる。それでも、俺と一緒になってくれるって言うのなら、俺は・・・」

男「皆、皆だ。全員に俺に付いてきて欲しい!」ヒュルルーー…!! ドドォン! ドンッ ドドォ…ン!

犬娘「つ、つまり・・・///」

狐娘「私達全員を・・・?」

狸娘「だ、大胆ですわ///」

狸侍女「・・・ふふ、男様らしいです」

鬼女「ああ・・・! ある意味、最高の選択だな!」

スタスタ

男「・・・犬娘。これからも、俺の隣で、明るく笑っていてくれ」

犬娘「えへへ・・・。はいっ」

男「狐娘。俺は弱いから、ずっと俺を支えていてくれるか?」

狐娘「ええ、必ず・・・」

男「狸娘、暫くは貧乏暮らしだ。それでも、俺を信じて一緒になってくれるか?」

狸娘「はい・・・!」

男「狸侍女さん。あなたには、今まで以上に助けて貰うことになると思います。それでも、いいですか?」

狸侍女「わたくしはただ、貴方様に付いて行くのみに御座います・・・」

男「鬼女さん。俺が迷ったり、ふらついた時は、俺を叱ってくれますか?」

鬼女「うむ、任せておけ!」



男「・・・皆、ありがとう。俺は、まだまだ半人前だけど、必ず皆を幸せにしてみせる。だから・・・」










男「全員俺と、一緒になってくれ!」

女衆『はいっ!』



              
              ーfinー

これにて、当SSを終わりたいと思います。

初となるSSでしたので、至らぬ点等、多々あったとは思います。お見苦しかったかも知れませんが、何卒、御容赦を・・・。

閲覧してくださった皆様、レスを付けてくださった皆様、励みになりました。有り難う御座いました。

また別の作品れスレでお会いできることを、心より望んでおります。

それでは、お休みなさいませ

ーAnother Chapterー


ー秋之村・とある屋敷ー
子犬娘「おかーさーん! ただいまー!」パタパタ

犬女「あ、お帰り。もうすぐお昼ご飯だからねー」

子犬娘「やったあ! 今日は何ー?」パタパタ

犬女「こら、その前に手を洗っていらっしゃい」

子犬娘「ぶー。分かってるよー」パタパタ

犬女「全くもう・・・」クスッ

ガラガラ

子狐少年『こんにちはー!』

子狸娘『ちはー!』

狸少年『お、お邪魔、します・・・』

鬼少女『お邪魔しまーす!』

犬女「あ、来たね。上がっていいよー!」

子供達『お邪魔しまーす!!』バタバタ

子狐少年「犬女さん、お久しぶりー!」

子狸娘「ぶりー!」

狸少年「あの、その、お久しぶり、です・・・」

鬼少女「うん、お久し振りだー!」

犬女「はい、皆、久し振りだね。元気だった?」

子供達『元気ー!』

犬女「そっかそっか。お母さん達は?」

狸少年「あ、お母さん、は、お土産を買ってくるって・・・」

犬女「あ、そうなんだ。気にしなくてもいいのに」

子狐少年「犬女さん! 子犬娘ちゃんは?」

子狸娘「どこー?」

犬女「ああ、あの子なら・・・」

子犬娘「あー! 皆いらっしゃーい!」パタパタ

鬼少女「おー! 久し振りだー!」ワシワシ

子犬娘「わふっ! やめてようー」アウアウ

子狐少年「子犬娘! 久し振りー!」ダキッ!

子狸娘「ぶりー!」ダキッ!

子犬娘「きゃっ! もうー! ・・・あはは!」

キャッキャッ ワーワー!

犬女「ほらほら、皆、まずは手を洗ってきなさい! そしたら、お昼ご飯だよ!」パンパン!

子供達『はーい!』パタパタ

犬女「ふう。・・・皆、大きくなったなあ・・・」

ガラガラ

鬼女『お邪魔するぞ、犬女ー!』

狐女『こんにちはー!』

狸女『お邪魔しますわ』

狸侍女『お邪魔いたします』

犬女「あ。いらっしゃーい! いいよー!」

ゾロゾロ

狐女「犬女! 久し振りね!」ギュッ!

犬女「わっ! うん、久し振りー」ギュッ

狸侍女「お久し振りです、犬女さん。これ、お土産です」

犬女「わ、有り難う御座います」

狸女「子供達は?」

犬女「うん、さっき着いたよ。もうすぐ戻って来ると思う」

鬼女「そうか、またどこかで道草を食っているんじゃないかと思っていたが、ちゃんと着いたか」

犬女「あはは。でも、もうその位の分別はつくでしょう?」

鬼女「いや、分からんぞ。この前だって・・・」

狐女「まあまあ。愚痴もいいけど、先に居間に行きましょう。一度座りましょうよ」

犬女「あ、そうだね。さ、こっちこっち」

鬼女「む、そうか?」

狸侍女「また後で聞きますよ」

狸女「毎回似たような愚痴ばかりですけどね」

鬼女「そ、そうか?」

キャッキャッ ワイワイ

犬女「ほら来た」

鬼少女「あ、母さん!」ダダッ! ピョン!

鬼女「おお、っと! よしよし、今日は道草を食わずに来れたな?」ポンポン

鬼少女「おう! アタシ、やれば出来る子!」

鬼女「毎日そうだと、有り難いんだがなあ」ポンポン

子狐少年「あ、母上! 母上、僕の分のお土産はありますか
!?」

狐女「ある訳ないでしょう? 全くもう」クスッ

子狐少年「!?」ガーン!

子狸娘「おかーさん、わたし、お腹空いたー!」

狸女「はいはい、もうすぐご飯ですわ。席について待っていなさい」

子狸娘「うんー!」

狸少年「お母さん。僕も、お腹空いちゃった・・・。ご飯、食べよ・・・?」

狸侍女「そうですね。行きましょうか」ナデナデ

狸少年「えへへ・・・。うん・・・!」

子犬娘「じゃあ皆! こっちだよー!」

ワー! タタタタ!

犬女「あはは。皆元気だねー」

狐女「ふふっ、そうね。うるさいくらいだわ」

狸女「まあ、久し振りに会ったんですもの。こうなっても仕方がありませんわ」

狸侍女「はい。こうしてたまに集まるならともかく、全員で住むには狭いからと、普段は皆離れてくらしていますから」

鬼女「まあ、それももうすぐ終わるのだろう?」

犬女「そうですね。この前、あの人が新しいお家の下見もしてきましたし」

狐女「ええ、楽しみね」

子供達『おかーさーん! ごはんー!』

狸女「あの子達は・・・、全くもう・・・」フウ

狸侍女「ふふ。では、ご飯にしましょうか。犬女さん、手伝います」

鬼女「あ、私も手伝おう」

犬女「有り難う御座います。それじゃあ、こっちに・・・」

狐女「それじゃあ、私達は子供達を大人しくさせておくわね」

狸女「ええ、料理を零すのも嫌ですし」

犬女「あ、うん、お願い」

狐女「さ、行きましょう」

狸女「そうですわね」

鬼女「犬女、これは先に運んでもいいのか?」

狸侍女「わたくしは、食器を出しておきますね」

犬女「あ、はい。お願いしまーす」

ー数分後・居間ー
犬女「さて、後は・・・」

狐娘「男さんが帰ってくるのを待つだけね」

子狐少年「! 母上! 父上が来るの!?」

子狸娘「のー!?」

狸女「こら、ちゃんと喋りなさいな!」

狸少年「ほ、本当に・・・?」

鬼女「父さんが来るのかー!?」

狸侍女「ええ、本当ですよ。あの人は、こういう約束は絶対に破らないでしょう?」

子供達『やったー!』

鬼女「すごい喜びようだな」

狸女「まだ幼いんですもの。あまり会えない父に会えるとなれば、喜ぶのも当然ですわ」

狐女「父の多忙を理解はしていても、心は別だものね」

犬女「かく言う私達も、この三ヶ月間は寂しかったですしね」

狸侍女「人間の世界とこちらの世界を繋げる事業。男様は、その中心的存在となっている人です。仕方が無いとはいえ、確かに、寂しいですね」

狸女「人間の世界の町で行われる会議。予定では今日の午前中には終わるはずですが・・・」

ガラガラ

男『ただいまー!』

子供達『!! お帰りなさーーい!』ワアア!

狐女「きゃっ! ・・・もう、あの子達ったら」

鬼女「凄い勢いで行ったな」

子供達『おとーさん!』

男『うおっ!? あはは、皆、ただいま! いい子にしてたか?』

子供達『うんー!』

男『そうかそうか。さ、お父さんを中に入れてくれ』

子供達『こっちー!』

ゾロゾロ

犬女「お帰りなさい、男さん」

狐女「お帰りなさい。お疲れ様でした」

狸女「お帰りなさいませ」

狸侍女「お帰りなさいませ、貴方様・・・」

鬼女「さ、こちらへ来い。疲れただろう、ゆっくり休め」

男「うん。有り難う、皆」

キャッキャッ ワイワイ

犬女「ほら、皆も座って! まずはご飯を食べてからだよ!」パンパン!

子供達『はーい!』

男「ふう・・・。うん、美味しそうだ。それじゃあ皆で・・・」

全員『頂きます!』

ワイワイ カチャカチャ パクパク モグモグ

犬女「そういえば、男さん。お仕事はどうでしたか?」

男「ん? ああ、上手くいっているよ。思いの外、人間界の妖族の受け入れが順調に進んでいてね。このままなら、あと半年もすれば向こうの世界の二都市とこちらを行き来出来るようになりそうだ」

狐女「本当? 凄いじゃない」

狸女「今まで、簡単な貿易くらいでしたけど、実際に人間と妖族が行き来するようになれば、経済効果も、国交の活発化も計れますわね」

子供達『?』キョトン

狸侍女「お父さんの仕事がとても順調だということですよ」

子犬娘「本当?」

子狐少年「よかったね、父上!」

子狸娘「ねー!」

狸少年「うれしい、ね、お父さん・・・」

鬼少女「父さんすごいー!」

男「あはは、有り難う。もっと頑張るからね」

子供達『頑張れー!』

鬼女「うん、本当に良かった。だが・・・」

男「うん。まだ、中には快く思っていない人や、妖族を信用出来ない、って言う人達もいるし、逆に、人間を敵視する妖(ひと)達もいるから、もう少し調整は必要だけどね」

犬女「まあ、いきなり違う種族の人達が手を取り合うのは難しいですよね」

狐女「そうね・・・」

男「そこで、だ。今日の会議で、一つの案が出た」

狸女「それは?」

男「うん。人間と妖族との交流を広めるために、試験的に人間の世界に妖族を住まわせてはどうか、という案が出たんだ」

狸侍女「それは・・・」

鬼女「もしや・・・」

男「うん。俺達が、選ばれた」

犬女「! と、いうことは遂に・・・」

狐女「私達が、男さんの故郷、人間の世界へ?」

男「うん。もちろん、基本的な資金は向こうで出して貰えるし、家の用意もある。今度は、全員が住める広さだよ。少し、大きすぎて向こうの人達には申し訳ないけどね」

狸女「それでは、犬女さんが言っていた下見って・・・」

男「うん、その家だよ」

狸侍女「・・・凄い、ですね・・・」

鬼女「我々全員が暮らせる広さの家を用意して貰っただけでも凄いのに、さらに基本的な資金は出して貰える、だと? 男、お前は一体どんな交渉を・・・」

男「い、いやいや! 悪いことは何もしてないよ! 純粋に、先方の御厚意だよ」

狸女「もう厚意という枠を越えているような・・・」

犬女「そ、それで、その引っ越しはいつ・・・?」

男「あー、うん・・・。一週間後」

狐女「一週間!?」

鬼女「き、急すぎないか?」

子供達『??』ポカン

男「ああ、皆には後で説明するから、まずはご飯を食べちゃいな?」

子供達『はーい!』ムシャムシャ パクパク

狸侍女「しかし、一週間とは・・・」

男「あー、まあ、今後の事も考えて、出来る限り早くしよう、っていう事になったんだ」

狐女「それで、一週間・・・」

男「まあ、確かに急な話だけど、その間は俺も休暇を貰ったからさ。準備とか出来るから。安心してくれ」

狸女「では、今日から暫くは?」

男「うん、ここにいるよ。暫く皆とも会えなかったから、少しでも時間を作りたくてね。大狸さんと犬父さんに無理を言って、休みを貰ってきたよ」

鬼女「そうか! それは良かった!」

子供達『???』ポカーン

狸侍女「お父さんが、沢山遊んでくれるそうですよ」

子供達『ほんとー!?』

男「ああ。お引っ越しの準備もあるけど、時間が空いているときは、一緒に遊べるぞ?」

子供達『やったーー!』ワー!

犬女「あはは。良かったねー、皆」

子供達『うんー!』

カチャカチャ パクパク

犬女「・・・そっかあ。ついに、人間の世界に・・・」

狐女「この数年間、長いようで、短いようで・・・」

狸女「あまり、実感が湧きませんわね」

狸侍女「でも、本当なのですね」

鬼女「ああ。やっと、私達の夢が、動き出したな」

男「うん。人間と妖族が、共に生きてゆける世界へ。この子達の世代では、きっとそうなるように、頑張るよ」

犬女「勿論私達も一緒ですよ?」

狐女「そうね。ずっと一緒だわ」

狸女「ええ。あの日、誓いましたものね」

狸侍女「あなたに、ずっと付いて行くと」

鬼女「ああ。決して離れはしないさ」

男「うん。皆のおかげで、今の俺があるんだ。この子達が、きっと人間と共に暮らせていける世界にしてみせる。・・・だから、皆。これからも、俺に付いてきてくれ!」

女衆『はい・・・!』








この時から更に数年後。男、犬父、大狸等による二世界間を繋ぐ『穴』の仕組みの解明により、両世界間の行き来は簡易となり、貿易や留学から始まった交流は、ついに正式な条約を持って締結された。

テストケースとして、人間界で暮らすことになった男達一家の協力が、国交樹立の大きな手助けとなったのだ。

そして、互いの文化の交流により、両世界はこれまで以上の繁栄を見せた。

二つの世界が、手を取り合い、助け合う世界。

人と妖族とが、手を取り合い、生きていく世界。


その新しい世界を作り上げていった男と、彼を愛し、理想を共にした女達。

彼等が作り上げた、新しい世界。

そこに生きる、彼等の子供達の毎日。

次なる世代を生きる者達の日々。

         
 







         
          それはまた、別のお話し

これにて、終わりたいと思います。

後日談に関しては全くのノープランでしたので、かなり粗末な出来となっておりますが、ご勘弁の程を・・・。

出来ることなら、ヒロインごとのルートと、それに伴うアフターストーリーを個別に纏め上げて書ければ良かったのですが、流石に辛いのでこういった流れにしました。ご了承くださいませ。

改めて、閲覧してくださった皆様と、レスをくださった皆様に謝辞を。

有り難う御座いました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年08月30日 (金) 03:58:44   ID: LExuxF_9

はよう続き

2 :  SS好きの774さん   2014年02月06日 (木) 01:50:12   ID: wie9Ns9T

本当に楽しませて貰いました。

僕はこの作品に出会えて本当に良かったと思います。

魅力あるキャラクターが織り成すドラマにとても引き込まれました。

このお話を書いてくれてありがとうございました。
このお話は僕の心に残り続けると思います。

願うなら、番外編などで彼らの姿がまた観たいと思うところです。

3 :  SS好きの774さん   2014年06月17日 (火) 01:53:52   ID: bM3kS61O

これはいい話

4 :  SS好きの774さん   2015年01月11日 (日) 14:33:04   ID: F0cNRend

読んでいて本当に楽しかったです!

5 :  SS好きの774さん   2017年04月08日 (土) 04:11:29   ID: Nn0jRHFa

出来れば初夜よろ

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