照「責任とって欲しい」 (53)


京太郎「話って何ですか?照さん」

照「まあ座って」

京太郎「そう言えば今日の試合、見事でしたね。ネットでも話題になってますよ。宮永プロ、5冠達成、小鍛治健夜以来の快挙!年内8冠達成か?って」

照「ありがとう」

京太郎「そうそう、お土産に銀座寄って照さんの好きなサクサクバニラシュークリーム買ってきました。並びましたよ、も~」

照「いや、今はいい」

京太郎「えっ」

タイトル戦が終わった後、照さんのマンションに呼び出された時は久しぶりに彼女と甘い一時を過ごせると胸を踊らせていた。

でも、玄関で会うなり大事な話があると言われ、嫌な予感がした。



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照「京ちゃん。私達付き合ってどのくらいたつかな?」

京太郎「いやだなあ、先月3ヶ月のお祝いしましたよね。照さんもオフだったし、一緒に熊本まで出かけてスイーツ巡りを」

照「あのね、京ちゃん……実は遅れてるの」

京太郎「はい?」

照「生理が、遅れているの」

京太郎「はいいい!??」

京太郎「ってなーんだ、そんな事ですか……きっとストレスですよ、ほらタイトル戦って一半荘フルマラソン30回分エネルギー使うって言うじゃないですか?特に照さんの戦い方なら……今までだって何度もあるでしょ?というかピル飲んでませんでしたっけ?プロは皆飲んでるってこーこちゃんのラジオで」

照「おもちが育たないって淡が昔言ってたから飲んでない」

京太郎「……でも、ストレス」

照「かもしれない」

少しの沈黙の後、照さんが懐から体温計のようなものを取り出した。


照「でも、思い当たる節がありすぎる。まだ検査してないけど、これからこれで調べようと思う。出来てるか、出来てないか」

京太郎「……ゴクッ」

照「もし、出来てたら京ちゃんにはーー責任とって欲しいーー」

照「話はそれだけ。シュークリーム食べよ?」

頭が真っ白になった。

十中八九、出来ているーー宮永照は確信しているからこそ、こんな話を切り出してきたんだーー

責任?養え?いや、俺の年収は彼女のファイトマネーより遥かに安いからそれはない(男としては悲しい現実だが)。

従って慰謝料とか、そういう話ではないのは間違いない。少なくとも金じゃあない。となると考えられるのはーー

親への挨拶→入籍→マスコミ殺到→記者会見→結婚式→出産→育児!

京太郎「自由が死ぬ。アメリカはもう終わりだ……自由主義、民主主義の敗北だぁ」

照「もぐもぐ……やっぱり美味しい」

照「で、京ちゃん。食べ終わったら、トイレで検査してくるから」

京太郎「ちょっと照さん」

照「何?」

↓1
1. 少し覚悟する時間をくれませんか?
2. 責任はとれませーん!
3. 自由

京太郎「さっきは取り乱してすみません」

照「ん」

京太郎「俺も男だ。先に言わせて下さい。結果を見てから、その結果で捨て牌を選ぶ、それは出来ません」

ーーそう、人生は選択の連続。何かを得るために何かを捨てなければいけない。

宮永照と歩む人生という満貫手を、己のちっぽけな自由という役が付くかもわからない手でフイにする?

そして男なら言わねばならない。

京太郎「先に言います。照さん。俺はあなたと生きたい。だから結婚して下さい」

照「京ちゃんっ……」ポロポロ

照「私、不安で一杯だったっ……もし出来ちゃってたら……そのせいで京ちゃんに捨てられちゃったら……っ!」

京太郎「照さん、愛してます」ギュッ

俺は優しく彼女を抱きしめた。彼女から高原に咲く、花の香りがした。

ふと、あいつの顔が思い浮かんだ。背筋がゾッと凍った。

その後で、照さんの甘いシャンプーの香りでふと我に帰った。

照「じゃあ京ちゃん……調べてくるから。ありがとう……先に言ってくれて。もう不安はない」

照さんは潤んだ目を擦って小走りに部屋を出た。

京太郎(勢いでプロポーズしちまったが……まあ、責任取るってこういうことだろ)


京太郎「遅いな……照さん」カタカタ

京太郎「もう15分……シュークリームでお腹壊してるんじゃあ」

照「おまたせ」

京太郎(結果は……?相変わらずのポーカーフェイス……読めない)

照「あのね」

↓1 コンマ
偶数:陽性
奇数:陰性


照「出来てた」

照さんは、俺と付き合い始めてから一番ステキな笑顔で+が出た検査キットを差し出した。

京太郎「お、俺の赤ちゃんが……」

照「うん」

~~~~

照「ハァ、ハァ、ハァ……」

照「あっ、激しくしないで」

京太郎(付き合ってから4ヶ月くらいで……まあ会う度に生でシてたらそうなるのか)

京太郎(それにしても宮永照を孕ませちまうとは)

京太郎(もうコイツは俺の女なんだなあ)

照「ああぁ~~」

その晩、照さんは今までにないくらい俺に身を預け、善がり、果てた。

一通り済んだ後、幸せそうに俺の胸に寄りかかる照さんの髪を撫でながら、俺は男としての征服感に満たされた。

京太郎「なあ照」

照「何?」

京太郎「こんな俺で良かったの?麻雀だって弱っちいし、金も地位もねーし、顔だって良くないしさ。照さんならもっといい男……沢山いるだろ」

照「いいの。京ちゃんで」

京太郎「はぁ……不思議な縁だな」


照「来週の王位戦終わったら少しまたオフだから、長野に帰ろ?京ちゃんのお父さん、お母さんに紹介してよ」

京太郎「ああ、そうだな。びっくりするだろうな、ウチの両親も……オヤジが心臓麻痺にならんか心配だ」

照「怖くない?京ちゃんのお父さん」

京太郎「女にゃめっぽう甘いオヤジだから大丈夫。でも先に俺が照のご両親に」

照「いないから」

京太郎「へ?」

照「いないから……そっちは心配しないで」

京太郎「……」

↓1
1. 詳しく教えてくれよ
2. 咲になんて説明しようかね


京太郎「今までは敢えて聞かなかったけど……教えてくれ照」

照「……」

京太郎「大事なことだ」

照さんは何かを恐れるように、俺の腕の中で震えていた。

宮永家の謎。

俺が高校生の頃、一人の記者がいた。

西田手記ーー麻雀記者の間では有名な話し。都市伝説の一種だった。

中身は知らない。喫煙所でベテラン記者が最近こんな話をしていたーー

 宮永が勝つと思い出しちまう。嫌でも昔の話し。俺、西田さんと仕事してた事あってよ。
 あの姉妹は呪われてるんだってよ。西田さんはそれだけ言い残してぱったり消えちまった。
 巷じゃ西田手記なんて噂もあるがーーおい、新入り。長生きしたきゃ裏にゃ手、出すなよ……
 西田さんはいい人だったんだがなあ

照「京ちゃん……ごめん」

京太郎「て、照さん」

照「今日は……今日だけは幸せなことだけ考えさせて」

そう言うと、それっきりお互い何も言葉は交わさなかった。

朝が来るまで目が爛々として眠れやしなかった。


京太郎「照さん、食べ過ぎじゃ」

照「栄養が必要。次のタイトル戦のためにも、お腹の子のためにも」モグモグ

京太郎(赤阪の有名店で買ってきたケーキ12個全部平らげて尚満たされないのか…)

照「京ちゃん、もうないの?」

京太郎「ありませんよ!冷蔵庫ももう空です」

照「買ってきて。あと3000kcal必要」


京太郎「はぁ~ホントよく食べるなあ、あの人」

京太郎「その割に脂肪はあるべきところにないんだよ……」ガッカリ

照さんが王位戦を制して6冠を達成し、俺の両親に紹介した後、俺達は同棲というのを始めた。

まだ籍はいれていない。そこは照さんの仕事との兼ね合いもあるので時期を見計らっているところだ。

1ヶ月後の牌王戦まで照さんは実質オフ。タイトル戦は基本的にプロリーグのオフシーズンに行われるからだ。

京太郎「色々課題は山積みだぜ……妊娠、出産とかプロチームで許されるのか……?うーん……」


照さんは試合のない日は一日中部屋でゴロゴロしている。本を読んだり、たまに他の選手の対局動画を見て勉強してるけどほとんど食っちゃ寝だ。

家事はもっぱら俺の仕事。一応俺も麻雀雑誌のフリーのライターの仕事があるんだけど……

京太郎「照さーん、晩御飯ですよー」

照「むにゃむにゃ……カレー?辛いのは駄目って」

京太郎「照さんに合わせて超甘口にしてみました~」

照「それじゃあいただきます……もぐもぐ、ん。甘い」

京太郎「ココナッツカレーです。ココナッツペーストで出来るだけ辛い香辛料は控えめに……チョコレートやリンゴやらを入れてみました」

照「うん、これなら毎日食べられる」もぐもぐ

京太郎(激甘でコッチは吐きそうです。照さん偏食家だから合わせるとキツイんだよなあ……)

京太郎(昨日普通の肉じゃが作ったら、無言で砂糖ぶっかけて食べられた時はキレかけたけど)

京太郎(まあ喜んでる顔が一番だな)

照「でもやっぱり甘さが足りない」砂糖ドバー

京太郎「……」ピクピク

照「そう言えば京ちゃんに紹介したい人がいるんだけど会ってくれる?」もぐもぐ

京太郎(家族かなあ……結局、あの日から触れずじまいだけど)

照「↓1と今度会うから、その時に紹介する」

↓1
1. 菫
2. すこやん
3. 自由


~~都内の三ツ星レストラン~~

照「菫、久しぶりだね」

菫「お前はよくテレビに出るから私は全くそんな気がしないんだけどな」

照「お仕事どう?」

菫「まあ、ぼちぼちだ。でも珍しいな。お前から食事に誘うなんて。それもケーキバイキングじゃない」

照「もういい年だし」

菫「ふーん……」ジロジロ

京太郎(照さんは一番の親友に紹介するって……!友達いたんだ!って感動したけど)

京太郎(コイツは俺でも知ってるゾ!弘世財閥の……!)

照「紹介するね。こちら須賀京太郎さん。で、あなた、この人が私の高校からの友達、弘世菫」

京太郎(照さんの真意は掴めない……俺をこんな大物に会わせる意味は……)

↓1 コンマ
菫の好感度


照「実は私達、結婚する」

菫「へ?」

京太郎「はい。実はそういう事で……須賀京太郎といいます。初めまして。照さんからお話はいつも聞いています。今でも大切にしている御友人と」

照「一応、高校時代同じ釜の飯を食った戦友」

菫「弘世菫です。初めまして。照にそんな人がいたなんて…あ、失礼。照、馴れ初めを教えてくれないか?」

照「恥ずかしい。京ちゃんから」

菫「きょ、京ちゃん!?」

京太郎「共通の友人の紹介、といいますか……その……」ゴニョゴニョ

菫「……」

照「京ちゃん、菫に隠し事しなくていい。式の友人代表スピーチを頼む予定だから」

菫「ファッ!?」

京太郎「いや、でも……」

照「妹の紹介で会って、連絡先交換した後1周間で口説かれた。口説き文句は咲より好みだ。」

京太郎「照さんストーップ!!そんな赤裸々な話をしないでくれっ」

照「で、お付き合いして。この前プロポーズされた」

菫「いや、色々聞きたい事があるんだが……まず付き合ってどれくらい?」

照「4ヶ月」

菫「お仕事は何してる人なの?」

照「フリーの麻雀記者……と名乗っている」

菫「さっき妹さんがどうの、って言ってたけど」

京太郎「それは忘れて下さい」

菫「タイトル戦はどうする気だ?これから牌王戦と竜王戦が残っているだろ!あと、それ終わったらプロリーグ!」

照「とりあえず竜王までは獲る。8冠獲ったら区切りつけて子育てに専念しようと思う」

菫「こ、子育てぇ!?」

照「うん。実は今お腹の中に」

菫「おい……照、ちょっと席外してくれ。このお相手の方に色々聞きたいことがあるんだ」

照「駄目。私は黙っているから目の前で」

菫「須賀さん。あなたが照に手を出した事はとやかく言わない。コイツが世間知らずで少し抜けているのは私はよーく知っている」

菫「まだ、早いと思うんだよ、私は。今照は大事な時期だし、もう少しお互いを理解してからでも遅くないと」

菫(それにどうも、私にはお前が照に相応しいとは思えないんだ……これでも人間をみる仕事をしている)

菫(照という純真無垢なサファイアに比べてお前は……おぞましい……お前の魂は……)


菫「便所の裏にこびり付いた垢!」


照「菫、怒ってたね……ごめん、京ちゃん」

京太郎「いいんです、照さん。俺がやっぱ悪かった。ろくな大学も出ずにブラブラしているヒモ男と見られても……仕方ない経歴とナリですから」

照「でも菫も悪い。もう少し言い方がある。祝福もせずに、ずっと私に思い留まるよう説得するなんて」

京太郎「確かに非常識っすよね」

照「安心して、京ちゃん。式の友人代表スピーチは別の人に頼むから……」

京太郎「宛があるんですか?」

照「うん。おいおい紹介する……でも、京ちゃん。先に籍、入れちゃわない?」


一「さて、突然だけどここで二人の物語はおしまい」

一「少しだけその後の話をしようと思う」

一「宮永照は八冠達成後、姿を忽然と消した。」

一「彼女がどこぞの男にホの字になって、籍まで入れていたという事実は一部の関係者しか知らない真実だ」

一「その男が昔、咲ちゃんと何らかの関係があったと知るのはボクのような長野人くらいなものだけど、だからどうしたという話かもしれない」

一「結婚式はあがることなく、2人は消えた」

一「男の白骨体が7年前、栃木と群馬の県境で発見され、少し新聞を賑わせたのを覚えている人はいるだろうか?」

一「生きたまま骨に幾度となく傷が付けられた痕跡から、警察はヤクザの抗争かなにかと認識していたようだけど」

一「上からの命令で捜査はぱったり打ち切られた。」

一「男は責任を取らされた、んだと思う」

一「……話を変えよう」

一「今は夏。ボクは時間を潰しがてら東京でインターハイを観戦しているんだけど、その舞台に一人、宮永姓の選手がいる」

一「ボクが注目している選手の一人。血が彼女を強くするだろう。また人々は思い出すかもしれない。宮永照という最強の女子高生が昔いた事を」

一「そう。繰り返すのさ。廻り続ける……最強の宮永の血は……ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる……」

カン

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