【艦これ】期待と現実 (36)


鬼怒「ついに鬼怒が改装かぁ」

提督「あぁ、待たせてしまったな。ずいぶん時間がかかったが漸く、だ」

鬼怒「えへへ…鬼怒は本当に嬉しいよぉ。一体どんな風になるんだろう?」

提督「ずーーっと待ってたもんな。いやぁ俺も感慨深い」

鬼怒「長良達もお祝いしてくれるって準備してるんだよ。ドキドキしちゃうねぇ」


この度大本営から鬼怒改二の発表があり、ついにこの鎮守府でも鬼怒の改装を行うことになった。
長らく待ちわびた待望の改二とあって、改装が決まってから鬼怒ははしゃぎっぱなしである。


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鬼怒「これも訓練の賜物だよね!これからまた鬼怒の大活躍みせちゃうよっ!」

提督「長いこと戦闘に出してやれず資材集めの遠征ばかりだったものな。改装が済んだらまた大暴れさせてやろう」

鬼怒「パナイ、マジパナイ!ねぇ、提督は鬼怒がどんな風になればいいと思う?」

提督「なぁに、たとえどう強化されようと弱くなることはあるまい。お前の新しい力、俺も期待しているぞ」

提督の言葉を聞き先立って改装がなされてきた軽巡の仲間たちの雄姿に思いを馳せる。
かなり早い時期に改二が実装され、重巡にも匹敵しうる火力を得た川内型。癖の強い性格をした姉妹だが、どれもとても優秀な艦であり、特に神通の戦闘力は折り紙付きだ。

長良型で最初に改二になり、対空・対潜に比類なき強さを見せる五十鈴。単純な火力の強化ではなく運用には提督の技量が問われるが、上手く扱えば様々な場面で大活躍を見せてくれる。


軽巡から雷巡へと艦種が変わり、絶大な雷撃性能を備えるに至った球磨型の北上、大井、木曾。この三人の登場により戦局は大きく変わり、最早彼女ら無しで強敵に挑むことは非常識となっている。

そしてひとつ前に改二改装がなされた長良型の阿武隈。艦種を変えないままにそれまで雷巡等一部の艦娘しか使用できなかった『甲標的』を運用可能にし、軽巡の新たな可能性を感じさせてくれた。


自分はどんな方面に強化されるのだろうか。鬼怒は期待に胸を膨らませる。
厳しい訓練の日々もこの日のため。これからは新たな力を得てまた前線で活躍するのだ。

ヨウイガデキマシタ

提督「おっ、妖精さんがよんでいるぞ。行ってこい鬼怒」

鬼怒「うん、じゃあまた後でね。新しい鬼怒、期待して待っててよ!」

そう答えると鬼怒は元気よく工廠の中へと駆け込んで行く。
期待に満ちた瞳を大きくキラキラと輝かせながら。
・・・・・
・・・・
・・・
・・


提督「ううむ、落ち着かないな。鬼怒の改装はまだ終わらないのか?」

大淀「もうじきですって。そんなにソワソワしてたら笑われますよ」

鬼怒が工廠に入り二時間ほどが経過している。
提督は待ちきれないようで執務も手に付かずさっきから部屋の中を行ったり来たりしている。

提督「なんか失敗とか起こってないよな?確認しに行った方が…」

大淀「もう五回も見に行ってるでしょう。いいから静かに座って待ってて下さい」メッ


提督「ううむ、落ち着かないな。鬼怒の改装はまだ終わらないのか?」

大淀「もうじきですって。そんなにソワソワしてたら笑われますよ」

鬼怒が工廠に入り二時間ほどが経過している。
提督は待ちきれないようで執務も手に付かずさっきから部屋の中を行ったり来たりしている。

提督「なんか失敗とか起こってないよな?確認しに行った方が…」

大淀「もう五回も見に行ってるでしょう。いいから静かに座って待ってて下さい」メッ


提督「しかしいつになったら…」

大淀「もう、出産待ちのお父さんですか」

提督「まさにそんな気分だ」

大淀との会話もどこか上の空だ。
やはりもう一度見に行こうかと席を立とうとしたところ、執務室の扉がノックされる。


コンコン

「鬼怒、改二改装ただいま完了です。改二のお披露目と報告に来ました!」

提督「来たか…!」ガタッ

扉の外から自信に満ちた声が聞こえてくる。
さっきまでの情けない姿はどこへやら、提督は襟を直し姿勢を正す。

提督「よし、入れ」

「はい、失礼します!」

元気な返事とともに、扉を開け来訪者が入室してくる。


そこには凛々しく生まれ変わった鬼怒の姿があった。

提督「ふおぉぉぉぉぉ…………。ふつくしい…」

大淀「あら、とても素敵です。格好良くなりましたね」

鬼怒「へへへ…、どうだーパワーアップした鬼怒さんだぞー?」

少し恥ずかしそうにしながらも普段の元気の良さは変わらない。よく姿が見えるようにと鬼怒はくるりと一回転する。


衣装は同型艦の阿武隈と同じもので、黒がベースのセーラー服だ。セーラー服であるという点は改装前と同じだが、前とは違って落ち着いた雰囲気と大人びた印象を受ける。
期待に膨らませていた胸は物理的にも膨らんだようで、改装前より一回り大きくなっている。頭身も伸び、以前は学生っぽかった見た目もずいぶんと女性らしく成長した感じだ。
装備には機銃と高角砲が追加されており、鬼怒が前々から主張していたように対空性能の強化がなされたようである。


鬼怒「提督どう?鬼怒強くなったかな?カッコよくなったかな?」

提督「ああ、とてもいい感じだぞ」

提督は嬉しそうに顔を綻ばせる。

鬼怒も喜びを抑えきれないといった様子で両手を掲げ力こぶを作る。


鬼怒「なんかモリモリ力が湧いてくる気がするよ!早速難関海域に出陣だー!」

提督「待て待て。はやる気持ちもわかるが、まずはステータスや装備を確認してからだ」

鬼怒「えへへへっそうだねっ!なんとなく今なら甲標的とかも使えそうな気がするんだ!」

提督「うむ、確かになんかいけそうな感じがするぞ!」


大淀「そしたら一度確認作業が必要ですね。ここまで足を運んでもらったところ申し訳ありませんがもう一度工廠に戻って明石に見てもらいましょう」

鬼怒「うん、一体どれだけ強くなったのかワクワクするねっ!このドキドキ感マジパナイ!」

大淀「さあ、では行きましょうか」

提督・鬼怒「おー!!!」
・・・・・
・・・・
・・・
・・


明石「よし、じゃあ順番に見ていきましょうね」

鬼怒「ドキドキ」

怪しげな機械を手にした明石が鬼怒の体を入念に調べていく。
特殊な検査器具を使い艦娘の性能を数字に表すことで、見た目だけではわからないパラメーターを測ることができるのだ。


明石「えーっと、まずは耐久と装甲…。うん、丈夫になっています!特に装甲の強化が著しいですね」

鬼怒「ふははははっ!」ドヤアァァ

大淀「胸部装甲、ですかね…」ジトー

提督「ごくり…」


明石「次に索敵、回避、と。…うん、これも上がっています!大淀の索敵には及びませんが、十分一線級です」

大淀「ふふふ…」眼鏡クイッ

鬼怒「ぐぬぬ…」

提督「大丈夫、じゅーぶんじゅーぶん」


明石「そして次はいよいよ大本命!火力と雷装っ…!」

提督・鬼怒「うおおおっ!」

明石「さあ、では確認して行きますよー…って、あらら…?」

提督・鬼怒「?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・


提督「…で、検証の結果…」

鬼怒「うん…」

提督「雷装はアップしたものの火力はダウン。総合的な戦力としては低くなった…」

鬼怒「…」

提督「そのうえ甲標的の運用は不可、と」

鬼怒「ううぅ…」


提督「でも代わりに特殊な防空射撃機構と大発の効果を内包、か」

鬼怒「そ、そうだよ!防空では戦力になるし対潜もとっても高いし…」

提督「鬼怒」

鬼怒「ほ、ほら、これならまた鬼怒もみんなと前線に…」

提督「防空も対潜も五十鈴で事足りるし、大発動艇を積まずともその効果を内蔵しているお前にはもっと相応しい仕事がある…。お前だって解っているだろう?」

鬼怒「あ、あああ…」


提督の表情から全てを察した鬼怒は絶望的な顔をして震えだす。

提督は鬼怒の肩に手を置くと死刑宣告にも等しい言葉を投げかけた。

提督「遠征任務、頑張ろうな?」ニコッ

鬼怒「うわぁぁぁぁぁぁそんなぁぁぁ、やっと遠征ばかりの日々から抜け出せると思ったのにぃぃぃ」


提督「その、まぁ気を落とすな。資材集めだって艦隊決戦に劣らない大事な任務だよ、うん」

本人の予想と違った方向の改装であることは気の毒に思うが、それはそれ。司令官としては感情以上に合理的に艦娘を運用しなければならないのだ。
今後活躍の場を模索していくつもりではあるが、とりあえずのやることはもう決まっている。


提督「というわけで早速だが東京急行行ってこようか?これからも期待しているよ、鬼怒」

鬼怒「うぇぇぇん!!!もう遠征はヤダよおぉぉぉぉぉ………」

鎮守府に鬼怒の悲痛な叫びが響く。
夢と希望に満ちた改二改装は見事に裏切られ、むしろ前以上に遠征に駆り出される結果となった。


そして今日も明日もその先も、死んだ魚のような眼をして鬼怒は資材を運び続ける。今度はいつか来るかもしれない改三に期待をしながら…

・・・・・
・・・・
・・・
・・


天龍「ご愁傷様だぜ…。俺も早く改二をよこせって言ってたけど、あんな風になるんならむしろいらねぇなぁ」

提督「おっ、天龍」肩ポン

天龍「おう提督、どうした?」

提督「遠征お疲れ様。ちょうどお前を探していたんだ」


天龍「ん、また遠征班の編成についてか?」

提督「いや、実はだな、お前に新しい改装計画が持ち上がっていてな…」

天龍「!?」




終わりです。ウチの鬼怒は今日も元気に遠征で走り回っています。

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