残念転生 (23)


目が覚めると俺は見覚えのない不思議な空間にいた。

あれ? 俺は家のベットに寝たはずじゃなかったっけ?

俺「ここは……?」

???「ここは転生の間です」

俺「誰だ!?」

女神「私は女神、あなたを導く者」

俺「女神?」

って、ことはまさか……!!

女神「真に残念ながら、あなたは新しい世界で生を受けることになりました」

俺「おっしゃああぁぁぁぁあああああ!!!!!」

女神「え?」

苦節20年。彼女は出来ず、友達もいない俺の人生にようやく春が訪れました。

長く暗いトンネルでしたが、息子はようやく光を浴びます! 

お父さんお母さん、生んでくれてありがとう!



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女神「な、なぜか気にならないのですか!?」

俺「どうせ、間違って殺した、とでも言うんでしょ?」

女神「……そのとおりです」

俺「ああ、そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいよ。元の世界に未練なんてないし」

これから俺の時代が始まるんだ。むしろお礼を言いたいぐらい。

女神「ただ生き返らせるだけではなんですので、何か一つ、あなたの望むことを叶えましょう」

女神「あなたは何を」

俺「チート! 俺をチートにしてくれ!」

女神「……もうちょっと悩むものだと思いますが、本当にいいのですか?」

俺「もちろん!」

異世界転生といったらチート以外にありえない。

普段の自分ではできないことをやる爽快感。それが転生の醍醐味ってもんだ。

女神「……そこまで望むなら構いません。いいでしょう、あなたを『ちーと』とやらに致しましょう」

女神「ところで、『ちーと』とはどのようなものなのですか?」

俺「…………すごく強い」

女神「もうちょっと具体的にお願いします」

チート、か。改めて考えてみるとチートってなんだろう。いや、言葉の由来とか意味じゃなくて、俺が考えているチートってやつ。

俺「他の人よりも身体的にすごく強くて、窮地に陥っても作戦を練って乗り越える事ができる、ってとこかな」

女神「なるほど、他の生物よりもはるかに強く、知恵も知識も豊富というわけですね。わかりました」


女神はそう言うと、俺に向かって手を振りかざす。

そこで俺の記憶は途絶えた。

次に目が覚めた時、俺は空を見上げていた。

俺「ここが新しい世界か」

体を起こし周囲を見る。辺りには大量の木々と無造作に生えている草。どうみても人の手が介在している様子はない。

いいな、転生にはもってこいの場所だ。

王国の騎士団でも倒せない凶悪モンスターを退治する俺。
山賊に襲われている村に颯爽と現れる俺。
知らず知らずのうちに神聖な場所に入り込んで、問題を起こしてしまう俺。

うん、妄想が広がる。

???「ャーーーー」

むっ! 女の子の悲鳴! 俺のハーレム生活の第一号か!?

俺はすぐさま声が聞こえた方に走った。 

景色が高速で後ろに流れていく! 体が軽い! まるで羽のようだ!


俺「―――って、なるだろ普通!!」ハァハァ


日頃の運動不足がたたり、数百メートル全力疾走しただけで乱れる俺の呼吸。

運動は登校するとき自転車に乗るぐらいで、そんなに得意な方じゃない。

でもおかしい。俺は確かにチートにしてくれって頼んだはずなのに。

俺「実は……なってない、とか?」

いやいや、きっと俺には特別な特殊能力があるんだ。時間を操れるとか、人の心を読めるとか。

脳内に広がる不安を懸命に振り払い、俺は声のした方に歩き始めた。



俺「見つけた!」

十数秒後、俺はようやくおびえた女の子の姿を捉えた。そこらに落ちてたであろう木の棒を持って、目の前の何かを必死で追い払っているようだ。

何を追っ払っているんだろう。茂みが邪魔でよく見えない。

……虎やオオカミだったらどうしよう。本当に勝てるのかな。

女の子「お願い! 来ないで!」

っ! 考えている時間なんてない! なんだろうと助ける! それが勇者だ!!

俺「待て! 俺があい……て…………だ?」

最後の力を振り絞って動くネジまき人形のように、俺の口は停止した。

俺「……猫?」

たった3匹。威嚇もせずただいるだけ。とてもかわいい。

女の子「助けてください!」

そんな人畜無害そうな動物を女の子は涙目でこれでもかというぐらいに必死で追い払っている。

……おそらく本気なんだろう、演技のことなど全く分からないが。

しっし、と追い払うと、猫は一目散に逃げていった。

俺「大丈夫ですか?」

女の子「助けていただき、ありがとうございます」

俺「いやぁ、男として困ってる女性を助けるのは当然のことだから」

女の子「助けてくれたお礼をしたいので、村まで一緒に来てくれませんか?」

俺「いいよ!」

やったね。ハーレム要因一人目ゲット!


俺「……」テクテク

女の子「……」テクテク

……気まずい。さっきから会話がない。

女の子はさっきからずっと下を向きっぱなしで歩いている。話しかけてくれる様子はないし、かといって俺から話を振る技量はない。

まいったなぁ、あんまりこういう空気には慣れてないのに。

女の子「……あの」

俺「は、はい!」

女の子「……すいません。もうちょっとゆっくり歩いてくれますか」

俺「あ、はい」

会話終了。……元の世界でもこんなふうだったなぁ。

さて、もうちょっとゆっくり、か。ゆっくりって言っても、これでもかなり遅く歩いて


―――――あっ



男が天使にお願いをしました。『私の車を世界で一番速くしてくれ』
天使は『わかった』といい、彼の車を世界で一番速くしました。
しかし、男が車に乗ると、速さは変わっていませんでした。

さて何故でしょう?



他の車を彼の車より遅くした。


村と呼ばれる場所にくると、そこは洞窟を住居にしている人々の集まりだった。

電気や水道はもちろん、畑や田んぼも見当たらない。それどころか、人もあまりいないようだ。

女の子「人がいないことがそんなに不思議ですか?」

俺「え?」

女の子「ふふ、顔に出ていましたよ」

女の子「今はみんな食べ物を取りに行ってるんです。普段はもっと人が大勢の人がいるんですよ」

そうか、こういう生活だと自給自足が基本か。

俺「あれ? あそこの果実は採らないの?」

すぐ近くの木に、良さそうな実がいくつも生っている。色鮮やかでとても美味しそうだ。

俺「毒でもあるの?」

女の子「いえ、毒はないのですが、高いところにあってとれないんです」

俺「え? 採れるでしょ?」

実まで3メートルもないと思う。

女の子「村で一番背の高い人も届かなかったんです。あなたも背が高い方ですけど、無理だと思いますよ」

俺「肩車すれば届くよ」

女の子「……かたぐるま? なんですかそれは?」



女の子「やはり届きませんよ」

俺「これを使ってください」

女の子「これは……木の棒ですか? なぜこんなものを?」

俺「それで叩いて」

女の子「えいっ! わっ! 採れました!」

女の子「これで遠くまで食べ物を取りにいかなくてすみます!」

俺「あ、あはは……よかったね……」



……はぁ、元の世界に帰りたい。


村長「おお、帰ったか――――その方は?」

女の子「森でフシャーに襲われている所を助けてもらったの」

フシャー? ああ、あのネコか。

村長「そうでしたか。娘を助けていただきありがとうございます。私はこの村で村長をしております」

俺「そうですか」

女の子「あのね、お父さん。この人すごいの! 高い所(3メートル)にある実の取り方(肩車)を知ってるんだよ!」

村長「なに!? 高い所にある実とはプルアの実か!? まさかあんな高い所(棒を使えば届く)の実が届くとは……!!」

女の子「しかもフシャー(猫)を三匹も追い払えるの」

村長「なに!? あの凶暴なフシャー(可愛い猫)をか!?」

……凄くバカにされてる気がする。

村長「……この御方なら、もしかして……」

あっ、まずい。これ何か頼まれるパターンだ。

俺「じゃあ、俺はこのへんで」

村長「待ってください旅の御方。実はお願いがあるのです」

俺「はぁ」

なぜだろう、あれほど望んでいた厄介ごとが本当に嫌になってきた。

俺「なんですか」

村長「実は、遠くの山に魔王がいるのです」

俺「ええっ!? 本当ですか!?」

やっべ、すげぇ嬉しい。

村長「我が村でも被害が」

俺「いいでしょう! 俺がすぐにでも倒しに行きましょう!」

村長「おお、行ってくださるのですか」

俺「はい!」




魔王の力で異世界に飛ばしてもらわないと!



その後、なんやかんやあるわけもなく、数日かけて魔王が住むという山に乗り込んだ。



俺「エターナル・ブリザード!」

魔「ふはははは。勇者よ、我のダークバリアにそんなものが効くか!」

姫「頑張って、世界の平和はあなたにかかってるの」

俺「皆の力が俺に集まってくる!」

魔「な、なんだこの力は!?」

俺「くらえ魔王! ミラクルゴールデンスラッシュ!」

魔「ごふっ!? ……我を倒すとは見事だ、勇者よ。だが、第二第三の魔王がお前を――――」


ドーーーーーーーーーーーーン


姫「これでもう悲劇は起こらないのね」

俺「帰ろう。皆が待っている」



~HAPPY END~



↑理想

↓現実



俺「おりゃ」パンチ

魔王「ぐはぁぁぁあああああ!!!!!! やられたぁぁぁあああ!!!」


達成感は微塵もなかった。


「「「勇者様ばんざい!!」」」


魔王を倒して村に帰ってきた俺を皆が盛大にお祝いしてくれた。

大きな葉っぱを皿代わりにして、果物だけじゃなく肉や魚が豪勢に並ぶ。ただし、肉や魚も切っただけで火を通した形跡はない。所謂、生の状態である。

魔王を倒した勇者が食中毒で死ぬって、どんな笑い話だ。

俺は食っても大丈夫そうな果物だけを腹いっぱいに詰め込むことにした。



俺「食べたぁ~」

女の子「勇者様、ご満足いただけましたか?」

俺「すげぇ美味かった!」

女の子「そうですか。それはよかったです」

俺「……ふぁ。食べたらなんだか眠くなってきたよ」

女の子「もうお眠りになりますか?」

俺「そうしよっかな」

女の子「では寝床までお連れします」

俺「うん、ありがとう」

女の子「それと、勇者様が快眠できるように私が添い寝しますね」

俺「……まじで?」



そうだ、俺にはまだ女の子とイチャラブっていう夢が残ってたんだ!


村長「おや、勇者様。お休みですか?」

俺「はい」

女の子「私が寝床まで連れてくからね」

村長「そうか、失礼のないようにな」

女の子「じゃあ行きましょう勇者様」

俺「うん」

村長「そうだ勇者様」

俺「……なんですか、もう眠りたいんですけど」

これから人生のボーナスゲームだっていうのに、邪魔すんなよお義父さん!!

村長「親の私が言うのもなんですが―――――娘はかなり上手ですよ」



……………は?


村長「村で一番上手だと思っております」

女の子「もう、恥ずかしいよ」

女の子「それに、今日はただ隣で眠るだけなんだからしないよ」

村長「そうか、それは残念だな」

俺「ちょちょちょ、ちょっと待って!」

女の子「どうしました?」

俺「一番上手とか、今日はしないとか、何の話?」

いやいや、俺の勘違いだってことはわかってる。一番上手っていうのは膝枕とか子守唄ってオチに違いない。そう、この子はまだ若くして快眠方法を極めた天才で、生まれた時から神童と呼ばれていたんだ。その才能を見込まれて、魔王から一番近いこの村に引き取られ

女の子「子づくりですよ」

俺「……」

村長「おや、勇者様。ご存じないのですか?」

娘「待って、勇者様はまだなのかもしれないよ?」

村長「そうなのですか?」

俺「」コクリ

村長「なんと!? この村では10歳からしはじめますよ!?」

村長「いや、それだけ強い勇者様の事だ。きっと、幼き頃から自らを鍛え上げたに違いない。ならば、子を作らなかったことも納得がいく」

女の子「初めては親が務めるんです」

村長「何も知らないままで行ったら、相手方に失礼ですから」

女の子「うんうん」

村長「娘は筋がいいようで、毎晩のように男性からお呼ばれされるんですよ」

女の子「この前、3人から誘われたときは厳しかったなぁ」



……そっか……風習……俺だけの嫁じゃ……ないんだ……



俺「あれ? ここは……」

女神「ようやく目覚めましたか」

俺「女神!? なんでまた!?」

女神「『ちーと』とやらになれたかの確認です。私はアフターケアも万全ですから」

女神「それで、『ちーと』とやらはあの状態でよかったのですか?」

俺「だいぶ違う」

女神「おや? 主にどのあたりが違うのですか?」

俺「周りを下げるんじゃなくて、俺を優秀にしてくれ」

女神「あなたを優秀に?」

俺「そう。あと、優秀になるのは体だけでいいや。知恵とか知識は別に優秀じゃなくてもいい」

よくよく考えれば、敵の狡猾な罠に嵌った俺が圧倒的な力で罠をぶち破る、という展開も王道で胸が熱くなる。

女神「なら、他の住人はどういたしますか?」

俺「身体能力は元の世界のアスリートぐらい強くてもいいよ。甲冑とかを着ても平気で何キロも走れるくらい。でも、俺はそれより遥かに強い。あとできれば特殊能力も欲しい」

俺「それと、さっきの世界は止めてくれ。もっと文明も発達していて、一夫多妻制の所でお願い」

女神「……今回はやけに具体的ですね」

俺「まぁね」

女神「わかりました。ではそのように致します」



女神はまた手を振りかざす。

今度こそは、と願いを込めて俺は意識を手放した。


次に意識が戻ると、俺は草原に立っていた。

360°全てを地平線に囲まれ、遠くには巨大な山がそびえたつ。

俺「今度こそはいい生活を送るぞ!」

ガラガラガラガラ

俺「ん? なんの音だ?」

???「待てやごらぁぁああああ!!!」

???「キャァァァアアアアッ!!」

俺「おおっ馬車だ! しっかりとした文化があって安心―――って違う! 早く助けないと!」

俺は襲われてる馬車を助けようと駆け出した。

景色が光速で後ろに流れていく! 体が軽い! まるで羽のようだ!



……そう、"高速"ではなく"光速"だった。




一歩目を踏み出すために踏ん張った後ろ足が地面を砕き、その勢いで飛び出した俺の体は音速を遥かに超えるスピードで数百メートル離れた所を走っていた馬車を突き破った。

なにこれ!? 速すぎないか!?

???「ぐはぁぁぁあああ!!!」

急停止した俺にようやく叫び声が追いついた。

まずい! 殺した!?

被害を確認するためにすぐに後ろを振り向く。
振り返るとその衝撃で俺の目の前に竜巻が発生。無事に逃げていた馬車も含めて、竜巻は文字通り全てを吸い込み、遠くへ向かっていく。

竜巻が通った後は草一本残らず、俺はそれを呆然と見守る事しかできなかった。



……やりすぎだよ駄女神。

終わり。

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