みほ「1日カップル権付き鬼ごっこ、ですか?」 (65)

杏「そ。わたしにとっては最後の学園祭だからさ」

杏「思いっきり盛り上げて最高の一日にしたいんだよね」

杏「だからその目玉企画として、1日カップル権付き鬼ごっこをしたいと思うんだけど」

杏「西住ちゃん、いいかな?」

みほ「会長らしくていい企画だと思いますけど」

みほ「それ、どうしてわたしに聞くんですか?」

杏「うーん。それは撒き餌というか目玉商品というか」

みほ「?」

杏「いや、こっちの話。とにかくおっけーね。じゃ、企画進めとくから」

みほ「はぁ」

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ペコ「ダージリン様、今度の日曜日って空いてますか?」

ダージリン「日曜は父と出かけることになってるわね」

ダージリン「私はあまり気が乗らないのだけど。近頃そういう機会もなかったし」

ダージリン「父はすごく楽しみにしてるみたいだから、付き合ってあげることにしたの」

ダージリン「いわゆる家族サービスってやつね」

ペコ「そうですか……」

ダージリン「でも、珍しいわね。ペコの方から誘ってくれるなんて」

ダージリン「一体どこに行きたかったの?」

ペコ「さっき便りが届いてたんですけど」

ペコ「実は大洗で学園祭があるみたいなんです」

ダージリン「あら、そうなの。たしかにそういう時期ね」

ダージリン「私も先約がなければ行きたかったけど」

ダージリン「でも、今回はやめておくわ」

ペコ「そうですか。残念です」

ペコ「西住さん争奪鬼ごっこ大会もあるみたいで」

ペコ「ダージリン様もよろこんでくださると思ったんですけど」

ダージリン「……ちょっと待ってペコ。今なんて?」

ペコ「西住さん争奪鬼ごっこ大会です」

ペコ「つかまった人はつかまえた人と1日カップルとして過ごさないといけないみたいで」

ペコ「その目玉として西住さんがほら、大きく真ん中に」

ダージリン「真ん中に、というかほとんどみほさんしか写ってないわね、これ」

ペコ「これならわたしでも、ダージリン様を退屈させずに済むと思ったんですけど」

ペコ「予定があるならしょうがないですよね」

ダージリン「……ペコ。至急動かせる人員をありったけかき集めなさい」

ペコ「え?」

ダージリン「大洗に乗り込んでなんとしてでもみほさんをつかまえるのよ!」

ペコ「ええー!?」

エリカ「大洗で、学園祭らしいですよ」

エリカ「なによこれ。あの子ったら浮かれちゃって」

エリカ「優勝したからって調子に乗りすぎじゃないかしら」

エリカ「隊長はもちろん、こんなの行きませんよね?」

まほ「…………」

まほ(みほと一日デート。ふたりで出かけること自体は何度も経験しているが)

まほ(カップルとして過ごすというのは経験が無い)

まほ(みほ「カップルだって。なんか変な感じだね」)

まほ(みほ「え? ひざまくら? しょうがないなぁ」)

まほ(みほ「恥ずかしいけど。は、はい。あーん」)

まほ「……行こう」

エリカ「え?」

まほ「なにをしている。すぐに出発の準備だ」

エリカ「は、はい! 隊長!」

こうして、


アリサ「学園祭みたいですよ」

ケイ「ワオ! すっごく楽しそうじゃない!」


各地から、


カルパッチョ「ドゥーチェ、大洗の学園祭に行きたいんですけど」

ペパロニ「へー。なんか楽しそうっすよ! ねえさん!」

アンチョビ「よし! じゃあみんなで行くか!」


数々の精鋭たちが、


カチューシャ「ノンナ! ミホーシャをつかまえるのは?」

ノンナ「カチューシャ様です。プラウダの名にかけて」


大洗に集結した。

学園祭当日――


ダージリン「こちらダージリン。A班。そちらの首尾はどう?」

ルクリリ『ターゲット未だ発見できてません』

ダージリン「B班、北校舎の方はどうだったかしら?」

ローズヒップ『全力で捜索中ですわ!』

ダージリン「……妙ね。ここまで見つからないものかしら」

アッサム「何者かが匿っているのでは?」

ダージリン「おそらくね。大洗側も、開始早々にみほさんがつかまるのは避けたいはずだから」

アッサム「それに、どこかから妨害を受けてる気配もあります」

ダージリン「この手口は多分、プラウダね」

ダージリン「あら。噂をすれば」

カチューシャ「あれ、ダージリンじゃない。あなたたちも来てたの」

ダージリン「ええ。みほさんとデートするためだもの」

ダージリン「いつも言ってるでしょう。恋と戦争には手段を選ばないって」

ダージリン「まあ、それはあなたたちも同じみたいだけど」

カチューシャ「カチューシャにはなに言ってるかわからないけど」

カチューシャ「手段を選ばないのはプラウダも同じってことだけは言っておくわ」

カチューシャ「ミホーシャは絶対わたしのものにするんだから」

カチューシャ「そうよね、ノンナ」

ノンナ「はい」

カチューシャ「じゃ、そういうことだから」

ダージリン「ええ。良い勝負をしましょう」

ペコ「…………」

ペコ(ダージリン様も半年後には卒業)

ペコ(このままじゃダメだって)

ペコ(勇気を出して誘ってみたのですが)

ペコ(なんだか大変なことに)

ダージリン「ローズヒップ! 迷子にはならないようにとあれほど」

ダージリン「わかったわ。合流地点を指示するから待機するように」

ペコ(……ダージリン様とふたりで来たかったなぁ)

ダージリン「まったく」

ダージリン「あれ、ペコ? 私の顔になにかついてる?」

ペコ「い、いえ、なんでもないです。ダージリン様」

ダージリン「そう?」

コンマ:65
結果:侍の勝ち
今のうちに言っておきます、最初に3合制した方が勝ちです

侍「……見切ったぁっ!!」(カッ!!

妹「なっ…!?」

ズバァッ!!

妹「きゃああっっ!!!」<ズシャアッ!!!

実況『侍選手のイアイ!!なんという速度だ妹選手手も足も出ないかぁ!?』

妹「く…っ!予想以上に速い…!!」

侍「致命傷にはならなかったが…まずは一本、と言ったところか」

妹「…調子に乗らないでよね、今のでどんな剣か大体わかったわ」

侍「解ったところで対抗できる剣ではないでござる!!」

妹「それはどうかしら…!?」

↓1、2
2合分技能差判定

同時刻、プール脇の物陰――

優花里(えーと。つけられてはないようですね。よし)

優花里「秋山優花里、偵察より帰還しました」

??「合い言葉は?」

優花里「え? いや、どう見てもわたしじゃないですか」

??「至急返答されたし。無い場合は敵とみなします」

優花里「わかりました。言います、言いますから」

優花里「西住殿の生理周期は――」

??「入ってください」

優花里「ふー。驚かせないでくださいよ、澤殿」

梓「すいません。でも、万全を期す必要がありますから」

優花里「まあ、プラウダグロリアーナあたりならそういう搦め手もあり得ますからね」

梓「サンダースもかなりの人員を動員してるみたいですね」

優花里「継続と知波単もいましたよ。ただ、そのあたりはお遊び感覚なところがありますから」

梓「警戒すべきはプラウダとグロリアーナ」

優花里「そうなりますね」

優花里「西住殿は奥ですか?」

梓「はい。わたしはここで見張りを続けますから」

優花里「お願いしますね。澤殿だけが頼りですよ」

梓「任せてください。それより、報酬の西住隊長経血付きパンツの方は」

優花里「ぬかりありません。期待以上のものと思っていいですよ」

梓「楽しみにしています」

優花里(澤殿がこちらについてくれたのは大きかったですね)

優花里(…………)

優花里(さて)

優花里「西住殿ー。帰ってきましたよ」

みほ「優花里さん。遅かったから戻ってこないんじゃないかと」

優花里「心配してくれたんですか。大丈夫ですよ。西住殿がいるだけでわたしは無敵です」

みほ「はは……でも、ほんとありがとう。優花里さんがいなかったらわたし……」

優花里「まあ、この包囲網をかいくぐるのは難しかったでしょうね」

みほ「まさかこんなことになるなんて」

みほ「いきなりカップルなんて言われても。女の子同士ってわたしわからないし」

みほ「それに、最近は下着が盗まれたり、出したゴミが荒らされてることがよくあるから」

優花里「怖いですよねー。一体どこの不届き者なんでしょうか」

優花里「でも、安心してください。そんな輩はわたしがやっつけてあげますから」

みほ「ありがとう。ほんと、優花里さんには頭が上がらないよ」

みほ「いち早くわたしをかくまってくれて。こんな隠れ家まで作ってくれて」

優花里「いえいえ。これはうさぎさんチームががんばってくれましたから」

優花里(澤殿の指示による30時間の強制労働)

優花里(さすがのうさぎさんチームも最後の方は屍みたいでしたね)

みほ「あれ、優花里さん? それどうかしたの?」

優花里「ああ。この汚れですか。それはさっき人とぶつかったときに――」

梓「先輩! すぐここを離れましょう」

みほ「どうしたの、梓ちゃん。そんなにあわてて」

優花里「そうですよ、澤殿。発見されたわけでもないのに」

優花里「って澤殿!? どうしたんですか、いきなりわたしの服をまさぐって」

梓「考えすぎだったらいいんですけど」

梓「……あった」

みほ「それは?」

優花里「……発信器、ですね」

本当にすみません見ながらやってたら誤爆してしまいました

優花里「迂闊でした。そうか。ローズヒップさんはおとりで、本命は別に」

梓「起きてしまったことは仕方ありません」

梓「これからのことを考えましょう」

梓「まずは今すぐここを離れて」

??「残念。それは無理ね」

優花里「この声は!」

??「こんな格言を知ってる?」

ダージリン「ほとんどの戦いの勝敗は、最初の一発が撃たれる前にすでに決まっている」

ペコ「ナポレオンですね」

>>17
大丈夫ですよ
ミスは誰にでもあります
お気になさらず

ダージリン「あなたたちは完全に包囲されている」

ダージリン「大人しく投降して、みほさんを差し出しなさい」

みほ「ダージリンさん……」

ダージリン「大丈夫。どこかの誰かと違って、私はみほさんが嫌がることはしないわ」

ダージリン「今日一日、一緒に楽しく過ごしましょう」

優花里「騙されてはダメです、西住殿!」

優花里「どうせ人気のないところに誘い込んで無理矢理とか考えてるに違いありません」

みほ「そ、そうなのかな」

梓「…………」

??「わたしが通るって言ってるの! いいから通しなさい!」

??「ダメですわ! ネズミ一匹通すなってダージリン様が言ってましたの!」

??「いいじゃない、そんなケチケチしないで。折角のフェスティバルなんだから」

??「みんなでぱーっと楽しみましょうよ」

??「……たしかに、お祭りはみんなで楽しむのが一番ですわね」

??「説得されてどうするんです、ローズヒップ」

ダージリン「騒がしくなってきたわね」

ダージリン「早めに決着をつけることにしましょう」

ダージリン「――ッ!? みほさんがいない!?」

優花里「そんな!? 澤殿の姿もありません!」

ペコ「ダージリン様。こんなところに」

ダージリン「……隠し通路」

ダージリン「してやられたわね」

ペパロニ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー! おいしいパスタだよー!」

ペパロニ「おお、そこの彼女! 食べてきな!」

福田「わ、わたしでありますか?」

福田「に、西隊長?」

西「いいんじゃないか。パスタなんてうちでは食べられないわけだし」

福田「は、はい!」

福田「鉄板ナポリタン1つ、お願いするであります!」

西「私の分も頼む」

福田「ああ、すいません! 気がつかなくて」

西「いいんだ。今日は遊びに来てるんだから。気なんて使う必要ない」

福田「ありがとうございます、西隊長」

西「だから隊長と呼ぶ必要も。まあ、その辺はゆっくり慣れてくれればいいか」

西「しかし、すごく賑やかですね」

西「カップルの姿もやけに見かけるような」

ペパロニ「なんかつかまえた人と一日カップルみたいな企画やってるみたいっすよ」

ペパロニ「ほら、うちのカルパッチョも」

カルパッチョ「たかちゃん。ほら、あーん」

カエサル「ひ、ひなちゃん!? 恥ずかしいって」

カルパッチョ「今日はカップルなんだから。これくらい普通でしょ」

カエサル「それはそうだけど」

エルヴィン「照れてるな」

左衛門佐「照れてる、照れてる」

おりょう「照れすぎぜよ」

カエサル「照れてない!」

西(ふむ。カップルか)

西(後輩との距離を詰めるには、そういう趣向も……)

西(よし!)

西「つかまえたぞ、福田」

福田「わ!? いきなりなんでありますか、西隊長!?」

西「これで今日一日、私と福田はカップルだ」

福田「に、西隊長とわたしがでありますか!?」

西「ああ。だから、今日一日隊長と呼ぶのは禁止だ」

福田「そ、そんな……」

西(む。ここまで困惑されるとは)

西(もしかして、私とカップルは嫌なのか?)

西「…………」

西「いや、嫌ならいいんだ。すまない」

福田「嫌なんてとんでもないであります!」

福田「ただ、その、恐れ多くて。わたしなんかでいいのかな、と」

西「そうか?」

西「私はそんな立派なものじゃないし」

西「何より、福田ともっと仲良くなりたいと思ってるよ」

福田「ありがとうございます、西隊長! いや……」

西「ん?」

福田「西……先輩」

西「うん」

ペパロニ「なんかみんな楽しそうっすね。ドゥーチェ」

アンチョビ「そうだな」

ペパロニ「カップルってそんな楽しいもんなんすかね」

アンチョビ「さ、さあ……その辺は経験が無いからわからないが」

アンチョビ「……いいものなんじゃないか。多分」

ペパロニ「そうなんすかねぇ」

アンチョビ「しかし、そんな楽しい日に大変だな」

アンチョビ「みほは」

みほ「……はは」

澤「助かりました。大洗関係の場所は全部マークされてますから」

澤「アンチョビさんがいなければ、と思うとぞっとします」

アンチョビ「いやいや、そんな大したことじゃない」

アンチョビ「屋台の中に匿うくらいお安いご用だ」

みほ「ありがとうございます。梓ちゃんも」

梓「いえ、わたしは当然のことをしているだけですから」

みほ「あ、メール。沙織さんから」

みほ「わたしが隠れられるところ見つけたって書いてあるけど」

みほ「沙織さんと合流するのはダメなんだよね」

梓「はい。沙織先輩は間違いなく敵にマークされていますから」

梓「行けば最後、まず生還は難しいでしょう」

梓「状況は深刻です。あの優花里先輩がミスを犯すくらいです」

梓「わたしたちはあらゆる可能性を考慮して、常に最善の行動を取る必要があります」

みほ「そっか」

みほ「ごめんね、沙織さん」

梓「安心してください。優花里先輩がとっておきの場所を準備してくれてるみたいですから」

梓「準備が整い次第そこへ移動しましょう」

梓「それまで、お願いします。アンチョビさん」

アンチョビ「任せてくれ。といっても、わたしがすることなんて何もないんだがな」

アンチョビ「うちの屋台に隠れてるなんて誰も思わない。まずばれないだろう」

アンチョビ「それこそ言いでもしない限り」

??「ねえ、あなた。この子、見なかった?」

ペパロニ「見たっすよ。っていうかそこにいますけど」

アンチョビ「お前な!」

アンチョビ「それだけは言っちゃいけないってあれほど!」

ペパロニ「あ、そうでしたね。忘れてたっす」

梓「移動します。着いてきてください」

アンチョビ「すまん、みほ! 健闘を祈る!」

みほ「はい! ありがとうございました!」

ルクリリ「こちらA班。校門前でターゲット発見しました。追跡します」

梓「少し早いですが、優花里先輩と合流しましょう」

梓「こっちです」

みほ「うん」

まほ「エリカ。みほはいたか?」

エリカ「いえ。見つけられてないですが」

まほ「そうか」

まほ「あっちだ。あっちにみほがいる気がする」

まほ「行くぞ」

エリカ「待ってください。さらに森に入るんですか?」

まほ「そうだが?」

エリカ「…………」

エリカ(絶対にいないと思うけど)

エリカ(大洗に来て3時間)

エリカ(隊長はずっと人気のない山の中ばかり探している)

エリカ(こんな山奥。迷子どころか遭難しそう」

エリカ(でも、隊長の意見だし……)

エリカ「ま、待ってください! 隊長!」

まほ(みほとカップルか)

まほ「みほ、手袋、忘れたのか?」

みほ「うん。朝、準備にちょっと手間取っちゃって」

みほ「だって、お姉ちゃんとのデートだもん」

みほ「一番かわいいわたしを見てもらいたいし」

まほ「みほ、手を貸して」

みほ「え?」

まほ(そして手をつなぎ)

まほ(つないだ手を私のポケットに)

まほ「こうすればあたたかいだろ?」

みほ「ありがと……」

まほ(うん! すごくいい! 最高だ!)

まほ(おや、人の気配)

まほ「みほか!」

ミカ「惜しい。ちょっと違う」

まほ「みほじゃない!」

まほ「うん? 君はたしか継続の」

まほ「どうしてこんなところに?」

ミカ「風に吹かれて来たのさ」

ミカ「だから、クルミを拾うのについ夢中になって迷子になってしまっただとか」

ミカ「そういう誤解はしないでもらいたいな」

まほ「ふむ。私も、みほを探すのについ夢中になっていただけだし」

まほ「今の場所がどこかはわからないが、迷子というわけではない」

ミカ「なるほど。我々は似た者同士というわけか」

まほ「気が合いそうだ。少し話したいんだがかまわないか?」

ミカ「わたしはかまわないよ」

まほ「よし。エリカ、少し休憩だ!」

まほ「……あれ? エリカがいない」

まほ「まったく。エリカのやつは」

ミカ「迷子かい?」

まほ「ああ。困ったものだ」

ミカ「本当にね。高校生にもなって迷子なんて」

まほ「しっかりしている我々には信じられないな」

ミカ「その通り」

まほ「探してはやりたいが、どこを探せば良いのかわからないしな」

ミカ「奇遇だね。実はわたしも、一緒に来たふたりが迷子なんだ」

ミカ「ここで話ながら、ゆっくり待つことにしようじゃないか」

まほ「そうだな。よかったよ。頼りになりそうな人がいてくれて」

ミカ「わたしもだよ」

エリカ「…………」

エリカ(隊長を見失った……)

エリカ(ここがどこかもさっぱりわからないし)

エリカ(電話は通じないし)

エリカ「どうしてこんなことに……」

エリカ(くよくよしてても仕方ないわね)

エリカ(とにかく、隊長を探しましょう)

エリカ「隊長! 隊長! いませんか!」

エリカ(あれ? 何かしら? あんなところに建物があるわね)

みほ「梓ちゃんが! 梓ちゃんが!」

優花里「ダメです、西住殿!」

優花里「過去を振り返っても、何も生まれません」

みほ「でも、わたしのためにあんな……」

優花里「澤殿は立派でした」

優花里「グロリアーナ、プラウダ、サンダースを一度に敵に回しながら」

優花里「それでも、西住殿を守り抜いたのです」

みほ「でも、そのせいで梓ちゃんは……」

優花里「失ったものより、今は我々の手の中に残っているものを見つめましょう」

優花里「ここであきらめては、澤殿のがんばりを無駄にしてしまいます」

優花里「澤殿がすべてを犠牲にしてまで守りたかったのは」

優花里「西住殿、あなたなんですから」

みほ「うん……」

みほ「わかったよ。優花里さん」

優花里「さて、ここまで来ればもう安心ですよ、西住殿」

みほ「ここは部室棟、だよね」

優花里「はい。昔戦車道の部室として使われてた建物ですね」

みほ「前来たときはもっとボロボロだったような」

優花里「今日のためにこっそり改修したんです」

優花里「自動車部の皆さんに協力していただいたんですけど」

優花里「おかげで、セキュリティは万全ですし」

優花里「遮音性も高くて」




優花里「――悲鳴をあげても外からは聞こえません」

みほ「え?」

優花里「すいません、西住殿」

優花里「わたしとしても手荒なことはしたくなかったんですが」

みほ「そんな……」

みほ「嘘……」

みほ「嘘だよね、優花里さん」

優花里「西住殿が悪いのです」

優花里「わたしだって葛藤しました」

優花里「西住殿の下着やペットボトル」

優花里「リコーダーや体育後の体操服で我慢しようとしました」

優花里「でも、ダメなんです」

優花里「それじゃ、わたしの乾きは満たされない」

優花里「そんなときに出会ったんです」

優花里「同じ悩みを抱えていた澤殿に」

みほ「そんな、梓ちゃんも……」

優花里「澤殿に出会って、わたしの人生は急速に色づき始めました」

優花里「こんなわたしでも受け入れてくれる。わかってくれる」

優花里「そして何より、必要としてくれる」

優花里「そんな人がいるんだって」

優花里「でも、そんな幸せも長くは続きませんでした」

優花里「気付いてしまったのです」

優花里「自分にとって西住殿以上に、澤殿の存在が大きくなっていること」

優花里「そして、西住殿がいる限りこの思いは報われないのだということに」

優花里「だから、わたしは決めました」

優花里「せめて、澤殿の乾きだけでも満たしてあげよう、と」

優花里「わたしは全てを失ってもいい」

優花里「すいません、西住殿」

優花里「悪いのはすべてわたしです」

みほ「やめて……やめて、優花里さん」

優花里「この様子はあのカメラによって記録され、特殊な回線で澤殿の元へ届きます」

優花里「わたしには、この方法しかありませんでした」

優花里「大丈夫。痛くはしませんから」

みほ「助けて! 誰か! 誰か!」



??「ちょっと! なにやってるの、あなたたち!」

優花里「無駄ですよ。どんなに叫んでも外からは――」

優花里「って、え?」

優花里「ええ!? どうして逸見さんがこんなところに!?」

エリカ「それは、その……。ちょっと休ませてもらおうと思って入ったら」

エリカ「あなたたちの声が聞こえてきて」

エリカ「咄嗟にロッカーの中に隠れてしまって出られなくなってただけよ」

優花里「どうしてそんなに真っ赤なんですか?」

エリカ「恥ずかしいからよ! 悪い?」

みほ「ごめん、エリカさん。お願い、助けて」

エリカ「仕方ないわね。状況が状況だし、味方になってあげるわよ」

エリカ「ほら、そこの窓開けられるから。さっさとどこへでも行っちゃいなさい」

優花里「くっ。さすが黒森峰の副隊長。隙が無い」

優花里「でもわたしはあきらめませんよ! 澤殿のためにもわたしは――」

みほ「あの、エリカさん……」

エリカ「どうしたの? 早く行きなさいよ」

みほ「今、カップル権付き鬼ごっこ中なのは知ってる?」

エリカ「ええ。まあ、一応知ってるけど」

みほ「それでね。その……」

みほ「…………」

みほ「えい」

エリカ「な、何? 急に抱きついてきて」

みほ「カップル権付き鬼ごっこでしょ。だから」

みほ「……エリカさん、つかまえたって」

エリカ「はぁ!? なんでわたしと。あなた一体何考えて」

みほ「ごめんね。エリカさんは嫌かもしれないけど」

みほ「一人であの中を逃げるのは無理だって思うし」

みほ「エリカさんなら信頼できそうだなって思ったから」

みほ「それに、大学選抜との試合のときもあんまりエリカさんとお話できなかったでしょ」

みほ「わたし、もっとエリカさんとお話ししたいなってずっと思ってて」

みほ「だから……」

エリカ「…………」

エリカ「ったく。しょうがないわね」

エリカ「別に嫌じゃないわよ。わたしだってあなたと話したいことが」

エリカ「ま、まあ、ちょっとくらいはあるし?」

みほ「エリカさん」

優花里「ゆ、許されませんよ! こんな結末!」

優花里「澤殿のために、わたしは、わたしは……!」

??「もういいんです! 優花里先輩!」

優花里「澤殿……」

梓「わたし、気付いてませんでした」

梓「優花里先輩がそんな風に考えていたなんて」

優花里「ど、どうして?」

優花里「防音設備は完璧のはずなのに」

梓「ああ、わたし、西住隊長に盗聴器付けてますから」

優花里「…………」

みほ「……あ、ほんとだ」

梓「きっとわたしの何気ない言葉で」

梓「優花里先輩は密かに胸を痛めてて」

梓「そのせいで、こんなことをしちゃったんですよね」

優花里「…………」

梓「もういいんです」

梓「こんな欲深いわたしでは、西住隊長にはふさわしくないし、それに」

優花里「……え?」

優花里(気がつくと)

優花里(抱きすくめられていました)

梓「もっと大切な人が近くにいるのに気付きましたから」

優花里「それって……」

梓「はい。優花里先輩です」

梓「だから、これで今日一日」

梓「いえ、もっとずっと。これからずっと」

梓「よろしくお願いしますね、優花里先輩」

優花里「…………」

優花里「は、はい!」

優花里「勿論です!」

ダージリン「残念。一足遅かったみたいね」

カチューシャ「つまんないの。一日ミホーシャを振り回してやろうと思ったのに」

カチューシャ「仕方ないから、ふたりで回るわよ、ノンナ」

ノンナ「はい」

カチューシャ「ミホーシャが後悔するくらい楽しく過ごしてやるんだから」

ケイ「うーん。ミホとカップル、楽しいと思ったんだけどなぁ」

アリサ「しょうがないですよ」

ケイ「よし、じゃあ代わりはアリサに決定!」

アリサ「え? え?」

ケイ「いいでしょ。タカシとデートする予行演習だと思ってさ」

アリサ「……たしかに、来週映画に誘われましたけど」

ケイ「え? ほんと? よかったじゃない」

アリサ「でも、デートとかじゃないですって」

アリサ「たまたまチケットが余ったからって言ってましたし」

ケイ「なに言ってんの。そんなのデートの常套句じゃない」

ケイ「よし、今日は前祝いよ! みんなでアリサを祝福しましょ!」

ケイ「学園艦に残ってるナオミに連絡!」

ケイ「全校放送でこのハッピーなニュースをみんなに届けましょう!」

アリサ「ダメですって! やめてくださいってば!」

まほ「それでな! そのときエリカはこう言ったんだよ」

まほ「フォークがあればハンバーグが食べれる、と」

ミカ「ははは、本当かい? その話?」

まほ「勿論本当だとも」

ミカ「笑いすぎてお腹がねじ切れそうだよ」

ミカ「君の後輩は本当に愉快な人みたいだね」

ミカ「一度、是非話してみたいよ」

まほ「他にもな。この前喫茶店に行ったときなんか」

まほ(こんなに楽しい時間は生まれて初めてかもしれない)

まほ(いつもくすりともしてもらえなかったエリカネタでこんなに笑ってくれる人がいるなんて)

まほ(昨日までの私は知らなかった)

まほ(ずっとこの時間が続けばいいのに)

まほ(……あれ? なにか忘れてるような)

まほ(まあ、いいか)

まほ(今すごく楽しいし)

ペパロニ「姉さん、暇っすねー」

アンチョビ「暇だなー」

ペパロニ「こんなに売れるならもっと仕入れとけばよかったっすね」

アンチョビ「まったくだ。P40修理しておつりがくるぞ、これ」

ペパロニ「沙織がネットで宣伝してくれたみたいっすよ」

ペパロニ「アンツィオのパスタは絶品だって」

アンチョビ「会ったらお礼言わなきゃだな」

ペパロニ「言わなきゃっすねー」

ペパロニ「にしても暇っす。姐さん」

ペパロニ「なにか楽しいことしてくださいよ」

アンチョビ「無茶言うな。お前がやれ」

ペパロニ「えー、あたしっすか」

ペパロニ「特にないっすよ、そんなの」

アンチョビ「だったら人に振るな」

ペパロニ「なにか楽しいことねえかなー」

カルパッチョ「ずっと一緒にいようね、たかちゃん」

カエサル「ひ、ひなちゃん。ダメだって。みんな見てるから。そんな」

西「よし、次はあれを食べよう」

福田「了解であります!」

優花里「それで、わたしは西住殿のアキレス腱の形が大好きなんですけど」

梓「わかります! しゃぶりつきたいですよね!」

ペパロニ「……姐さん」

アンチョビ「なんだ?」

ペパロニ「カップルって楽しいんすかね」

アンチョビ「またそれか。お前、さっきも同じこと言ってたぞ」

ペパロニ「あれ、そうでしたっけ」

ペパロニ「そうだ!」

ペパロニ「姐さんとわたしがカップルになればいいんすよ」

アンチョビ「はあ!?」

アンチョビ「なんでそうなる」

ペパロニ「だって楽しいみたいっすよ」

ペパロニ「こういうのもたまにはいいじゃないっすか」

ペパロニ「はい、これで姐さんはあたしの」

アンチョビ「バカ。暑いだろ。くっつくな」

ペパロニ「むー」

ペパロニ「つれないっすねー」

ペパロニ「それとも、嫌っすか。あたしとじゃ」

アンチョビ「なにすねてんだ、お前」

ペパロニ「すねたくもなるっすよ」

ペパロニ「あたしはアンチョビ姐さんがいいのに」

ペパロニ「姐さんはそうじゃないんすね」

アンチョビ「お前なー。また勝手に決めつけて」

アンチョビ「ったく」

アンチョビ「いいよ。行こう」

ペパロニ「ほんとっすか! 姐さん!」

アンチョビ「本当だって。だから暑いだろ! くっつくな!」

みほ「次は、歴史展を案内するね」

エリカ「そういうちゃんとしたのもあるのね」

みほ「歴史好きな子たちがいてね。カバさんチーム、三突に乗ってた子たちなんだけど」

エリカ「ああ、あの格好が独特の」

みほ「わかるんだ」

エリカ「まあ、一度見ればあれはね」

みほ「そっか」

エリカ「…………」

みほ「…………」

みほ「カエサルさんなんてね。ラテン語とイタリア語が読めるんだよ」

エリカ「へえ、すごいのね」

みほ「うん、すごいの」

エリカ「…………」

みほ「…………」

みほ「あの、エリカさん?」

エリカ「なによ」

みほ「あんまり楽しくない、かな」

エリカ「え?」

みほ「ごめんね。わたし、面白い話とかできなくて」

みほ「お姉ちゃんといるときのエリカさんはもっと活き活きした顔してるのに」

みほ「わたしといても、つまらないよね」

エリカ「…………」

エリカ「……あのね」

エリカ「別に話が弾めばいいってもんじゃないでしょ」

エリカ「黙っていても気疲れしない。そういう関係性だっていいじゃない」

エリカ「少なくとも、わたしはそういう間柄だって思ってたんだけど」

みほ「そう、なんだ」

エリカ「なによ、そんなニヤニヤして」

みほ「ううん、なんでも」

みほ「じゃ、次行こ、エリカさん」

エリカ「わかったから。ちょっと落ち着きなさいって」



ダージリン「…………」

ダージリン「落ち着くべきところに落ち着いたという感じかしら」

ペコ「そうなんですかね」

ローズヒップ「そうだ! ダージリン様をつかまえれば、一日カップルですわ!」

アッサム「ローズヒップ。あなたは反省会です。またティーカップ割って」

ローズヒップ「がーんですわ」

ペコ「…………」

ペコ(賑やかで楽しいのも事実だけど)

ペコ(やっぱり、ダージリン様とふたりがよかったなぁ)

ペコ「ダージリン様は西住さんとカップルになりたかったんですよね」

ダージリン「ええ、そうね」

ダージリン「距離的にも離れているし。こういう場でもないと中々仲良くなる機会もないから」

ペコ「そうですよね……」

ダージリン「…………」

ダージリン「でも、実のところを言えば、一番カップルになりたい人は別だったりするのよ」

ペコ「そうなんですか?」

ダージリン「誰だと思う?」

ペコ(ダージリン様はそう言って)

ペコ(いたずらっぽくわたしに微笑む)

ペコ(わたしはなんだかどきどきして)

ペコ(わかりません、と正直に言ったら)

ペコ(ぎゅっと抱きすくめられていて)

ペコ(紅茶の匂いがして)

ペコ(やわらかくて)

ペコ(くらくらして)

ペコ(林檎みたいに真っ赤になったわたしの耳元で)

ペコ(ダージリン様はささやくように言ったのだった)

ダージリン「ペコ。つかまえた」


おわり

以上です
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