【ガルパン】梓「私の命の恩人」 (136)

キャラ崩壊注意
百合描写注意





その日の練習試合は、熾烈を極めました



4対4に別れてのチーム戦、こちらの隊長は私、ウサギさんチームのリーダー兼車長の澤梓が務めます

対する相手チームの隊長は、大洗の隊員を一手に引き受けてきた、本世代を代表する選手の1人・西住隊長です

その西住隊長があんこう、カメさん、アヒルさん、レオポンさんを率いるというのだから、たまったものじゃありません

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私たちは相談し、1つの結論に至ります

それは『超速攻』でした

相手チームはアヒルさんチームとカメさんチームを擁しているため『偵察からの反撃という戦法を取るのではないか?』と推察されたためです

机上の空論であることは分かっていましたが、この時の私たちに、代案があがりません

結局この案は採用、開始の合図と同時に全車全速力で戦場を駆け抜け、一気に敵陣地へと飛び込みました

結果論ですが、この読みはドンピシャでした

西住隊長は、こちらの動きを確認した後に、各車に指示を出そうと考えていたようです

また私たちが、ヘッツァーと八九の視界に入らなかった、という幸運も手伝いました

これにより、各車の細かな指示を出される前に、全8両の戦車が一堂に会したんです

しかし、流石は西住隊長――いえ、大洗の隊員たちです

簡単な連絡だけ済ますと、すぐさま反撃してきました

攻めのヘッツァー、守りのPティーガー、Ⅳ号は戦況把握でサポートし、フラッグ車だった八九はとにかく逃げ回る……

時間を考えると、西住隊長から具体的な指示は出なかったはずなのに、です

それはつまり、およそ最適と思われる布陣を、各車長が判断し実行したということで、あらためて大洗の戦車道の怖さを実感しました

でも、私たちも彼女たちと同じ仲間であり、そして最大のライバルです

B1が撹乱を買って出てくれ、その背後にチヌの高速装填射撃と、離れた場所から三凸のスナイパーでサポートし、フラッグ車のM3Leeでフラッグ車を追いかけ回します

至近距離で8台もの戦車が入り乱れる、という特殊な状況にも関わらず、車内の仲間たちは真剣に、でも楽しそうに戦いました

そして現在――



私たちは、お互いフラッグ車を残すのみ、という状況で、八九と1対1の攻防を繰り広げています

砲弾が前後左右から飛び交うことになった今回の戦場は、『昼飯の角度』と『晩飯の角度』の大切さを、嫌というほど学びました

特に、防御に難のある桂利奈にとって、今回の試合は、とても有意義なものだったと思います

ただ、ここでゆっくりしている訳にもいきません

何せ相手は、大洗学園戦車道最高錬度のアヒルさんチームです

しかもこちらはいくつか砲弾を受け、八九の一撃でも沈みかねない、まさに崖っぷち状態ですから

それでも私たちは怯みません

この戦車道で、真正面から立ち向かっていくことの怖さと、それを乗り越える楽しさを覚えたから

2両の戦車は森を抜け、茶色い地面の露出した崖に辿り着きました

そこは私たちが、相手車両を追い込む場所として目星をつけていた場所です

高速でここに来た戦車は、崖に落ちまいと急ブレーキをかける必要があります

それはまさに、最後の一撃を与えるに相応しい、私たち渾身のキルゾーンです

私の指示に従い、桂利奈が八九を誘導したことで、このチャンスがやって来ました



「これが最後だよ!」



キューポラから乗り出す体を、少しだけ車内におさめながらの一喝

覆帯とエンジンの音にも負けない声が、車内から響いた気がしました

敵車両に視線を向けながら、ふと車内に視線を落とします

そこには私と一緒に戦ってくれる、頼れる仲間の姿が見えました



桂利奈。体一杯使って、私たちを戦場へ運んでくれてありがとう

優季。通信と兼任なのに、今日は全身使っての装填、お疲れ様

あや。副砲なのに主砲みたいに活躍してるね、あとちょっとだからね

紗希。延々と装填し続けてくれてありがとう、本当に助かったよ

あゆみ。最後のこの一撃を、私たちの祝砲にしようか



キューポラのへりを両手で握りしめ、私は最後の勝負に挑みます……!

桂利奈「えっ……?」



そんな私たちの気合いに陰りが見えたのは、まさにその直後でした

ブレーキをかけるべき場面で、八九は加速したんです

操縦手が呆気に取られたのも、無理はありません



梓(ここで加速なんて……どういうこと……!?)



車内が一気に緊張に包まれたのが分かりました

でも、ここで止まるわけにもいきません

より確実な一撃のため、静止射撃体勢にうつるため、一気にブレーキをかけました

でも、次の瞬間――



梓「あっ――!」



私たちの誰もが、言葉を失いました

崖へ向けて加速した八九が、右覆帯をすぐそばの落石と衝突させ、車体を大きく左へ傾けたんです

左覆帯を豪快に吹き飛ばしながら、速度はそのままに、まるでその場でグルリと回転するように





――気付いた瞬間、八九の砲は、私たちをギロリと睨んでいました

あや「あ、えぇ?!」

優季「何~今のぉ?!」

あゆみ「そんなのアリ?!」



車内に響く隊員の叫び声

その時、私の頭は真っ白になっていました

追う者が追われる者へ、有利な状況が一転して不利な状況へ

そんな事態の変化に、思考がおいてけぼりをくらったからです





事実、これ以降の私はまさにお荷物同然で、何の役割も果たせませんでした

こんなに悔しい気持ちになったのは、聖グロリアーナとの試合で逃げ出した、あの時以来かも知れません

桂利奈「回すよ!!」



操縦手の掛け声と同時に、わずかに右へと回転する車体

恐らく右覆帯を停止させたんだと思います

残された左覆帯だけで前へ進んだことで、敵車両の砲に対して、昼飯の角度を形成したM3Lee

その直後、八九の放った弾は、装甲によって弾かれました

今日の試合で散々することになった技術が、ついに華を咲かせた瞬間です

桂利奈「あいぃぃー!!」



尚も崖へ向けて走り続ける車体は、操縦手の手腕により、今度は左へ強く回転し始めました

こちらから見て敵車両の右側を通り抜けようとするコース取りなので、この調整は当然です

素早く撃破できるよう、予め砲を動かす副砲と、良い角度が来るまでジッと待ち続ける主砲

性質の違いが表れているなぁと、頭の片隅で思いました

あや「くらえー!」



引き金が引かれたのは、あやの副砲です

あまり動かせない主砲よりも自由がきくため、先に照準で捉えられました

でも、そう簡単に諦めないのが、アヒルさんチームというもの

さっきの発射の直後から、わずかに移動をしていました

その動きによって弾は、車体の角を僅かに削るだけで、明後日の方向へ弾かれます

はは……

あや、悔しい顔してるだろうなぁ……

でもね、あやは正しいことをしたんだよ?

だって……ほら

弾の衝撃を受けて、八九の装填が僅かに遅れたこと、分かる?

その僅かな時間に、あゆみの主砲が――





あゆみ「いっけぇぇ!!」










彼女の放った最後の一撃の結末を、私たちは見ることが出来ませんでした

なぜなら、同時に放たれた八九の弾が、M3Leeの正面に突き刺さったから

走行中だった車体が操作不能に陥り、高速回転しながら、崖の奥底に向かって落下してしまったから――

梓「ぁ」



その時の私が辛うじて口に出た言葉が、その一言でした

砲弾を受けて回転を強める車体の動きに、隊員全員必死で抵抗していました

誰もがそばの壁面や椅子を掴み、遠心力に耐えるしかありません

いまだに回らない頭のままだった私も、両手でキューポラの縁を握る力を強め、体を支えていました

でも、私に出来る抵抗は、ここまでです

車体が崖へ落ちようとした瞬間、私の体は車外――真上へと吹き飛ばされました

それは、一度も体験したことの無い力でした

まさか自分の体が、車外に向けて飛び出すなんて、考えたこともありませんでした

こうなってしまうと、両手の握力も焼け石に水です

床を踏みしめる力なんて、まるで意味がありません

そして何より、頭が回らずにいるため、何の防御姿勢も取れていなかったんです

戦車から体を放り出され、自由落下する私の体

お腹の中で無重力を感じつつ、恐怖も寒気も一切ないまま、自分の死を感じていました

そんな私が、最期に考えていた、たった一言――









『ごめんなさい――』


























梓「っ――?!」ズキッ



その時です

足首への強く鈍い痛みで、私は意識を取り戻しました

そこで私は、自分の状況をようやく理解したんです

自由落下する体、真下に見える地面、車内からこぼれた体……









梓(やだ……絶対死にたくない……!!)ゾクッ...

死にたくない――

そう願った私の体は、空中に投げ出されていたにも関わらず、柔軟に動きました

とにかく体を丸め、衝撃に耐えようとしたんです

それが正しいかどうか考えている余裕なんて、あるわけありません

ただ、身を守ることだけを考え、本能的に体を動かしただけでした

すると、不思議なことが起こりました

丸まる動きをすると同時に、私の体が、すっぽりとキューポラの中におさまったんです!

自分の体に何が起こっているのか、まるで分かりませんでした

でも今は、余計なことを考えている暇なんてありません

無我夢中で鉄の蓋を掴み、大急ぎでキューポラを閉じました

轟音とともに、私の体がその蓋へと叩きつけられたのは、その直後です

どうやら間一髪で、私は車内へ避難できたみたいでした

そのまま車体にしがみつき、隊員が放り出されないよう、必死で体を強張らせ続けます

車体からやってくる衝撃、上も下も分からずただただ耐えるしかない恐怖、隊員たちの叫び声と呻き声――





何も出来ない私は、M3のキューポラの蓋となって、それらがおさまるのをひたすら待ちました

……









ふと、周りがシンと静まり返っていることに気付きました

体を打ち付ける揺れも、今はすっかりおさまっています



梓「……ねぇ」



必死に絞り出した言葉は、自分でも聞き取れるか分からないほどの、弱々しいものでした

でも、私たちにとっては、それで十分です

優季「桂利奈ちゃぁん……あやちゃぁん……生きてるぅ……?」ムクリ

桂利奈「あぁ……なんとかなぁ……」ムクリ

あや「上から来るぞ……気を付けろぉ……」ヌゥ

桂利奈「わっ! 右から来た!?」ビクッ

あゆみ「いてて……私は無事だよ……」ガサゴソ

あゆみ「……うん、紗希も無事みたい」

紗希「……」ヒョコリ



私の言葉を合図に、皆が口を開きました

あの地獄のような状況から、全員が帰還を果たした瞬間です

??『ウサギさんチーム、無事ですか!?』ガンガンッ!



その時、私のすぐ隣のキューポラの蓋が、ガンガンと叩かれました

え、キューポラが隣?

……あぁ、そうか。戦車が横に倒れてるんだ……



あゆみ「梓ぁ……開けてあげてぇ……」

梓「分かっ……たぁ……」ガチャリ



蓋を開けると、そこには西住隊長がいました

何か大きな声で喋りかけているけれど、どっと疲れが出てきた私たちは、誰も聞き取ることが出来ず――

梓「あの……どっちの、勝ちですか……?」ゼェ...ハァ...





以降、私は卒業するまでずっと、この言葉で弄られることとなりました

夕方――



チーム全員が車外へ出たとき、自分たちの境遇をようやく理解しました

2つの砲は根本からひしゃげ、キューポラ付近の装甲はボコボコで原型を留めておらず、左右の転輪はほとんどが弾け飛び……

ハッキリ言って、中に女の子が6人もいるとはとても思えない、巨大な鉄屑と化していたんです

そこで私たちはやっと、戦車道メンバー全員が私たちを取り囲んでいる理由に気付きました

そりゃそうだよね……

こんなの見たら、全員死んだんじゃないかって考えるよね

特に西住隊長はわんわん泣いちゃって、私たちを1人ずつ抱き締めて……

かれこれ30分近くは泣き続けていたと思います



梓「安心してください、西住隊長」

梓「ウサギさんチーム6名、無事に帰ってきました」

梓「西住隊長の教えを守って、誰1人、車外へ出なかったからです」

みほ「うん……ぐすっ……そうだね、ありがとう……」グスグス



感極まった西住隊長に全力で抱き締められ、危うく窒息しそうになるところでした

意識が飛びそうになりながら私は、『これだけ涙を流してくれるから皆、西住隊長に着いていくんだなぁ』と実感しました

……

あっ、違います

一番泣いていたのは、河嶋先輩でした

気付いたときには泣いていて、その後も泣いていて、終わる頃でも泣いていたから、間違いありません

でも、そんな河嶋先輩だからこそ、皆に愛されているんです

……ホントですよ?

結局、試合は私たちのチームの勝利でした

八九の方が、先にフラッグが上がったそうです

勝利にテンションが上がる私たちと対照的に、皆はハラハラした表情を見せるのが、何だかおかしく感じました

この後は、試合の分析をする時間でしたけど、一度診てもらった方が良いという意見を受け、私たち6人は保健室へ運ばれることになりました

保健室――



梓「……」

桂利奈「……」

優季「……」

あや「……」

あゆみ「……」

紗希「……」

桂利奈「……なんか疲れたね……」

あや「緊張しっぱなしで、へとへと……」

優季「なんだかぁ、あっという間の出来事だったねぇ……」

あゆみ「ふわぁ……あぁ……このまま寝ちゃいたい」

紗希「……」

優季「さすがに身体中が痛いよぉ」ナデナデ

あゆみ「崖から転落したからねぇ」

あや「でもさ、やっぱり特殊カーボンってスゴいよね」

あや「打ち身や青アザが出来る程度にまで、衝撃を抑えられたんだって」

桂利奈「カーボンって凄い……」

梓「もうカーボンなしじゃ考えられないね」

あや「『No カーボン, No 戦車道』……なんちゃって」

優季「あや……頭をぶつけて、本当のバカの子に……!」ウルッ

あや「合ってるのにバカ扱いされた?!」

梓「ん……」モゾモゾ



メンバーの言葉に耳を傾けながら、私は上体を起こします



あゆみ「梓、大丈夫? アザ、痛む?」

梓「痛いのは痛いけど、私は平気だから」

優季「そのアザ、怖いねぇ」

梓「……」



私の命を救った、右足首への痛み――

保健室へ到着した時に患部を見せた瞬間、保健の先生が悲鳴をあげました

驚いて視線を向けると、そこには――






明らかに人の掌が

私の足首を握りしめるような形で

赤黒いアザがはっきりと浮き上がっていました




あゆみ「私じゃないよ? 車内にしがみつくので、精一杯だったから……」

あや「わ、私だって……!」

桂利奈「そもそも手が届かないよー!」

優季「私も違う……」

紗希「……」

あゆみ「紗希も違うみたいだし……」

あや「まさか……戦車に取りつく、怨霊が……!?」

優季「バカだなぁあやは(真顔)」

あや「ちょ、その顔はやめて!?」

思い思いの言葉を口にする皆

どうやら、アザに恐怖を感じているみたい



でも、私は知っています

この掌の持ち主が、車外へ放り出される私を守り続けていたことを

皆を心配させまいと、その事を話していないから、こんなに印象に差が出ているみたい……



梓「大丈夫だよ。幽霊なら、今日に限って出てくる理由は無いし」

梓「どうせ、ひっくり返ってる間に、偶然掌に見えるぶつけかたをしたんだけだから」

あや「そうだと良いんだけど……」



とにかく私は、皆を説得させ、気にしないよう強く言っておいた

あやはまだ気にしていたけれど、彼女ならそのうち忘れると思う

梓「とりあえず、明日から2日間はお休みだって」

あや「本当なら、今日の反省点とか課題とか、確認したかったけど……」

あゆみ「この痛みじゃ、ちょっと厳しいもんね」

あや「あーあ、優季ちゃんみたいに、装填手になれば良かったなぁ……」

桂利奈「なんで?」

あや「だってさ、車内で砲弾持ち運ぶわけだから、筋力あるでしょ?」

あや「その筋肉で体を守ったから、一番ピンピンしてるんだって思うとねー」

あや「それさえあれば、この青アザのいくつかは防げたハズなんだけどなー」

優季「あれぇ? あやは私のこと『筋肉だるま』って言いたいんだぁ……?」ニッコリ

あや「え゛、いやそこまで言ってn――」

優季「私、そんなに筋肉ついてないからぁ……ほら試してみるねぇ……?」ミシミシミシミシ

あや「ほぎゃー!? ごめんなさいー!! 装填手の握力で患部握らないでー!!」ビクンビクンッ

あゆみ「あやはバカだなぁ……」

あや「今は本当にそう思いますー!!」ビクンビクンッ

桂利奈「紗希ちゃんも、大丈夫?」

桂利奈「私はつかまるところ多いから、無事な方だったけど……」

紗希「……」アザダラケ

桂利奈「紗希ちゃんのいるところ、掴まるところ少ないもんね」

桂利奈「本当は私も、もっと無事なハズだったんだけど、空きが無くて……」

紗希「……?」

桂利奈「あっ、今の無し! 聞かなかったことで!」

紗希「……」

桂利奈「ふぅ~……ありがと~!」

梓(このあと、ガレージに戻って確認しよう……)

梓(私の勘が正しければ、きっと――!)

生徒会室――



麻子「……」リモコンソウサ

麻子「ここだ」モニターユビサシ

華「これってやっぱり……!」

麻子「あぁ、間違いないな」

麻子「転落時、澤さんは一度、車外へ放り出されている」

桃「なっ――!?」

ねこにゃー「ヒエッ」

そど子「試合の分析中に、まさかこんな映像が撮影されているなんて……」

みほ「澤さん……!」

カエサル「だが彼女は確かに、車内から出てきたぞ?!」

みほ「麻子さん、このあとの映像をスローで再生し続けてください」

みほ「この直後に、何かが起こったはずです」

麻子「了解」リモコンピピッ

杏「まさか、こんなことになるとはねぇ……」

みほ「……」ジー

みほ「……え?」

みほ「ストップ!」

麻子「……」ピッ

全員「「……」」

ナカジマ「車内に……戻ってるねぇ」

桃「バカな!? そんな動きがあるものか!!」

みどり子「でも実際に、こうして車内に戻ってるでしょ!」

みどり子「信じられないけど、戦車より早く飛び出て、戦車よりも遅く落ちたんじゃないの?」

沙織「こんな現象って、本当にあるの?」

みほ「ううん、聞いたこと無いよ……」

麻子「……」

麻子「ちょっと調べさせてくれ」イチジテイシ

麻子「……」ガサガサ

みどり子「何よ、モニターに紙を置いたら、見えないじゃない!」

麻子「……各フレームごとの戦車と澤さんの位置を、紙に全て写しとってみよう」カキカキ

麻子「これは定点カメラだから、位置と時間を正確に測定している」ピッピッ

麻子「だから、彼女の動きが自然界にあり得るものか、簡単だが計算できるだろう」カキカキ

優花里「さすが学年首席!」

みほ「麻子さん、お願いします」

麻子「任された」カキカキ

ナカジマ「そういえば、最後の八九の180度ターン、凄かったね!」

典子「河西が機転を利かせてくれたんだ」

典子「あのまま急ブレーキをかけたら、転落は防げても、背後から砲弾を浴びちゃうと思って」

みほ「私も、あの動きは初めて見ました」

杏「西住ちゃんも初めてってことは、結構凄いことしちゃったんじゃない?」

みほ「今度、戦車道学会で発表しますか?」

典子「ちょっと待って何それ知らない」

杏「戦車道での操作技術や修繕改良技術を発表しあう学会だよ」

桃「現在、島田流の家元が会長を務めているそうだ」

典子「うーん……一度チームで話し合ってみる」

みほ「決めたら私に連絡くださいね?」

麻子「……なんだこれは?」

カエサル「分かったのか?!」

麻子「綺麗な放物線を描く戦車に対して、彼女の動きは不規則だ」

麻子「……いや、規則は一応ある」

みどり子「回りくどいこと言わずに、さっさと言いなさいよ!」

麻子「落ち着けそど子」

みどり子「園みどり子!!」

麻子「まず、全身が車外へ出るまでは、彼女も放物線を描いて飛んでいる」

みどり子「無視しないでちょうだい!」

麻子「その直後、車内方向に向かって、不規則な速度で補正が入っていて……」

麻子「全身が入った後はまた車外方向に補正が入り……」

麻子「再び車内方向への補正と同時に、キューポラの蓋が閉まった」

優花里「後半の出入りは、蓋を閉めるためでしょうから……つまり最初の動きは……!」

麻子「あぁ、これでハッキリした」



麻子「M3Leeの内部に、彼女を救った人物がいる」

華「えっ……!?」

桃「あの僅かな時間で……だと?!」

麻子「確かに、物理的時間的余裕はあまりに限られている」

麻子「だが、そう考えた方が辻褄が合うんだ」

麻子「自分でも、相当の無茶苦茶を言っている自覚はあるけどな……」

ナカジマ「でもそれって、反射神経凄いよね?」

麻子「戦車が投げ出され、自分の身も危うい中、1秒にも満たない時間で、それをやってのけたことになるな……」

みどり子「無理よ!! 絶対無理!!」

ねこにゃー「でも、実際に起こったことだし……」

優花里「どう思いますか、西住殿?」

みほ「うん……」

みほ「たった1つだけ……思い当たる節が……」

カエサル「何だと?!」ガタッ

柚子「それって一体……!?」

みほ「んー……でも、これは……」

桃「西住!! 早く言わんかっ!!」

みほ「んー……」

みほ「沙織さん、ちょっと部屋の端へ……」チョイチョイ

沙織「……え、私?!」

みほ「言って良いかどうか、沙織さんに判断を仰ぎたいと思います」

沙織「でも……私に分かるかなぁ……?」

みほ「大丈夫です」

<つまり……ゴニョゴニョ

<それって……ゴニョゴニョ





沙織「あぁ~そうなんだぁ~へぇ~!!」ニマニマ

華「え……これは、どういう反応なのでしょうか……?」

沙織「どうせバレるだろうし、言って良いと思うよ?」

みほ「分かった、ありがとう」

典子「それで、どういうこと?」

みどり子「い、嫌よ? 怖い話だったら……」

沙織「ううん、大丈夫!」

沙織「これはね、とっても素敵なことなの!」

ガレージ――



スズキ「それじゃ、鍵は教員室に返しておいてね?」ノ

ツチヤ「またねー」ノ

ホシノ「気分が悪くなったら、すぐ言うんだぞ?」ノ

梓「はい、気を付けます!」ノ



梓「……ふぅ」

梓「よし! 調べようっと……」タッタッタッ

梓「M3Lee……うわぁ、ボロボロだぁ……」

梓(とにかく、あの時いた場所に座ろう……)ヨジノボリ

梓「……」ガチャン



私はハッチを開き、いつもの場所に立ちました

見慣れた景色のはずなのに、車体の損傷のせいか、いつもと違う戦車に乗ってる気分がします



梓「私はここに立っていた……」

梓「あの時の皆の位置は……」

梓「……」

梓「うん! やっぱり間違いない!」

梓「……」ピッピッ

梓「……」プルルルル...

梓「……あ、もしもし」

梓「ゴメンね? もう帰宅したのに……」

梓「大事な話があるから、ガレージまで来てくれるかな?」

梓「……大丈夫、来てくれるまで帰らないから」

梓「それじゃ、後で」ピッ

梓「……」フゥ

梓「絶対に聞き出してみせる……!」ギュ...

しばらくして――



ガララ...

梓「こっちだよ」ノ

梓「本当にゴメンね、こんな時間に来させちゃって」

梓「でも、それだけ大事な話だから……」

梓「……うん、ありがとう」

梓「私ね……誰かに助けられたの」

梓「あの足首のアザは、その時出来たアザなんだ」

梓「それが誰なのか、あのときは分からなかったけれど……」

梓「今なら分かる……ううん、あなたしかいないの」

梓「まずこのアザだけど……これ、左手なんだ」

梓「ほら、親指の位置で分かるでしょ?」

梓「しかもその親指は、すね側についてるの」

梓「そしてこれが、右足首についてるってことは……」

梓「私の足元に、しかも右側にいた子ってことだよね?」

梓「……これってね、1人しかいないの」

梓「このハッキリついたアザが、あなたしかいないって証明してるんだよ」

梓「だからこそ、こうして来てくれたんだよね?」

梓「そうでしょ?」









梓「紗希」

紗希「……」

生徒会室――



桃「丸山が!?」ガタッ

麻子「画面に映っていないのが右足首だけ、しかも澤さんの体は、僅かに右側へ寄るように動いている……」

麻子「M3Leeで、この周辺に座っているのは丸山さん、ただ1人だ」

典子「これが映像解析ってやつか……!」ゴクリ

ガレージ――



梓「それに、一度車内から放り出された私を、いくら空中とはいえ、片手で引っ張れるだけの力がないと、うまくはいかないよ」

梓「その点、紗希は専任装填手で、ウサギさんチームの中でも握力強い方でしょ?」

梓「アザがこんなにクッキリついているのは、私を離すまいと、全力で掴んだ証拠」

梓「おかげで私は、無事車内に戻ることができたんだ」

梓「……紗希、本当にありがとう」

紗希「……」

生徒会室――



みどり子「だけど、一番難解な謎が残ったままじゃない!」

みどり子「確かに装填手の丸山さんなら、澤さんを車内へ戻すことが出来ると思うわ」

みどり子「でもあの時は、回転と砲弾の攻撃で、滅茶苦茶に揺さぶられている最中なのよ?」

みどり子「そんな状況で、車長が放り出されるのに気付いたとしても、間に合うわけがないわ!」

沙織「そうなんです! そこがポイントなんですよ!」

みどり子「ポイント?」

沙織「発想を逆転させてください!」

沙織「つまり『どうやって間に合わせたのか』じゃなくて『どんな状況なら間に合うか』で考えるんです!」

ガレージ――



梓「まぁ、疑問が1つ出るよね?」

梓「あの状況で『どうやって紗希は、私を助けられたのかな?』って」

梓「でも、これもすぐに分かったよ」

梓「『私なら、どうやったらこの方法で、車長を守れるかな?』」

梓「そう考えると、方法が1つしか無いって気付いたの」

梓「答えは、すごく簡単だったんだ」

梓「紗希は『私の危機に気付いて助けた』わけじゃなくて――」









梓「『私がいつ車外に放り出されても大丈夫なように、ずっと待機し続けていた』――」

梓「……そうだよね?」

紗希「……」

生徒会室――



カエサル「ずっと……だって?!」

沙織「うん!」

沙織「だってもう、それしか方法が無いでしょ?」

沙織「最後の弾を装填し終えた紗希ちゃんは、自分の仕事が終わったことを確信したの」

桃「それはどうしてだ?」

沙織「あの状況で2発目を発射する余裕が無いって、気付いたんだと思う」

沙織「紗希ちゃんってボーっとしてること多いけど、とても賢い子だから」

杏「んで、その後は?」

沙織「その後すぐ来る衝撃に備えて、右手で自分の体を支えられるよう、車内にしがみついて……」

沙織「それでいて、すぐに梓ちゃんを助けられるよう、左手や両足を調整していたの」

沙織「後は、梓ちゃんの様子がおかしいと思った瞬間に腕を伸ばして、彼女を助けるだけ」

沙織「ね? 簡単でしょ?」

杏「簡単に言うねぇ……」

ナカジマ「トリックは分かったけど、動機が分からないね」

ナカジマ「仲間を助けるため、と言われたら反論出来ないけど……」

ナカジマ「彼女の行動には、勝利や仲間意識とは全く違う、別の意志を感じるよ」

沙織「実はその点で、みぽりんから相談されたワケなんだけど……」

沙織「みぽりんの言ったこと……多分合ってるよ」

典子「それは一体?!」

桃「ええい! 焦らさずさっさと言え!」

沙織「つまり、紗希ちゃんは――」

ガレージ――



梓「それでね? ここからが本題なんだけど……」

梓「紗希の方法は、よっぽど私を目で追いかけ回さない限り、うまくいかないよね?」

紗希「……」

梓「それに、あのタイミングで片手になったってことは、紗希はほとんど、自分の体を守れなかったはずだよね」

梓「保健室でアザが多いって言われてたのは、そのせいでしょ?」

紗希「……」

梓「あの時は、車内で振り回されて、自分のことで精一杯だったはずなのに……」

梓「そこまでして私を助けようとしてくれた理由が、気になって……」

紗希「……」

梓「それでね……もしかしてなんだけど……」

梓「うぅ……やっぱり言いにくい……」

梓「あっ、気に障ったらすぐ謝るからね?」

梓「いや、もしかしたら違うかも知れないんだけど……」

梓「その……紗希って……」










梓「私のこと……好きなの……?」

紗希「……」









紗希「……///」

梓「……///」

生徒会室――



麻子「つまり……丸山さんが、澤さんを……愛しているだと?!」

沙織「うん、絶対これだよ!」

典子「これは……意外すぎるなぁ……」

みほ「……戦場で戦った戦車乗りには、同性愛者が多かった、という話を聞いたことがあります」

そど子「どこでよ?!」

みほ「学会で」

そど子「そ、そう……」

ねこにゃー「学会って凄い……」

みほ「戦場という特殊な環境と、戦車という閉鎖空間、そして仲間たちとの密着した時間の多さから、隊員同士の恋愛へ発展したらしいです」

みほ「だから正確には、同性愛者が多いというよりは、同性愛者になる者が多い、だと思いますけれど」

杏「それが今回は、丸山ちゃんだったってワケ?」

みほ「はい」

ねこにゃー「全ては愛する人のため……か」

桃「むぅ……これは一体、どうすれば良いのか……!?」

杏「何もしなくて良いんじゃない?」

桃「会長!?」

そど子「何も無しってわけにはいかないわ! この件は、風紀委員として黙っていられないもの!」

杏「でもねぇ、まだ仮説段階だしねぇ~?」

桃「う゛」

そど子「そ、そういえばそうだったわ……」

杏「良いじゃん、丸山ちゃんは澤ちゃんを助けた……それだけなんだから」

そど子「……会長がそう言うんだから、きっとそうなんでしょうね」

麻子「随分あっさり引き下がるんだな、そど子?」

そど子「うるさいわね、れま子!」

麻子「そうだ、れま子はうるさいんだぞ、そど子」ニヤニヤ

そど子「もう! ああ言えばこう言うんだから!」

桃「おい、夫婦漫才はそこで終わりだ」

麻子「はーい」

そど子「ちょっと、誰が夫婦よ!?」カァ///

ナカジマ「まぁまぁ。今は話し合いの途中だから……ね?」

そど子「わ……分かったわ」

桃「それでは西住、会議を再開しよう」

みほ「分かりました」

みほ「えー……これが、本日の試合の記録映像でした」

みほ「以上を参考に、総評に入ります」

みほ「まず、立ち上がりの戦況ですが――」

ガレージ――



夕日もほとんど沈み、真っ暗になりつつある大洗女子学園

愛車であるM3Leeの車内で、私と私の友達・紗希は、顔を真っ赤にしていました



梓「そ、そっか……///」

紗希「……///」

梓「そんなに、大好き、だったんだ///」

紗希「……///」

梓「そっかぁ……アハハ……///」

紗希「……///」

エンジンも冷え切り、ひんやりとする車体に腰掛けている私の体は、徐々に冷えていくはずでした

なのに、私の心臓というエンジンは鼓動を強め、まるで湯気でもたちのぼるかと思うくらい、ポカポカと熱を帯びていきます

うぅ、どうしてこんなことになるのかな?

……いえ、その理由は明確でした

紗希の視線が、気持ちが、右足首で痛むアザが、私への強い想いを物語っていたからです

身の危険を顧みず、体を張って私を守ってくれたなんて、並大抵の気持ちじゃ無いから……

梓「でも……ね? 私は、あんまり身に覚えが無いというか……」

梓「どうして私なのかなっていうか……他に素敵な子なんて、もっといるというか……」

梓「あ、あゆみとかどう? 背も高くて格好いいs――!」



その瞬間、まるでメデューサに石にされたかのように、私の体は動けなくなりました

だって、私を見る紗希の目が、見たことないくらい怖かったから

こんなに怒る紗希なんて、初めて見たから――

梓「きゃっ!?」



紗希に突然乗りかかられ、私は車内に寝転ぶ形で倒れました

仰向けに寝転がる私と、私に馬乗りになる紗希

彼女の目は鋭く、何かに突き刺されたような気分になりました



梓「あの……ゴメンね? 怒らせちゃった……?」

梓「私ね、今までこんな風に言われたこと無いから……自信が無いというか……」アセアセ

梓「別に私、紗希の気持ちを蔑ろにしたかったわけじゃなくて……!」



精一杯の気持ちをなんとか言葉にして、紗希に伝えようとします

そんな私の言葉が通じたのか、紗希はフッと目じりを下げ……



涙を流し始めました

梓「紗希……」



紗希に馬乗りにされながら、私は彼女の言葉に耳を傾けました

私が、初めて会ったときから(友達として)気になる人だったこと……

私が、いつもチームを導いてきたこと……

私が、車長としての風格がでて、格好良くなったこと……

私が、前に出ない(と自己評価している)紗希に、いつも優しく接してくれていること……

私が、紗希を褒めるとき、素敵な笑顔を見せていること……

そして、その笑顔に、いつも心ときめいていること――

梓「そっか……」

梓「私のこと、そんなに見てくれてたんだね?」

紗希「……」



考えもしなかった、友達の告白

それは一筋の光となって、私の心を照らし始めました

車長として、隊長や隊員たちと練習や試合をする日々の中で私は、自分の実力が足りているか、不安で仕方なくなる時がありました

そしてそれは、多かれ少なかれ、今も続いています

今日の試合だって、自分の判断が正しかったのか、悩む点がたくさんありました

そしてそれが、同乗する皆に迷惑をかけてしまったんじゃないかって、どうしても気になります

でも、今はそんな気持ちになれません

私と一緒にいて良かったと、心から伝えてくれた紗希を見るうちに、悩みに潰されそうな自分が小さく見えたんです

もちろん勝敗は大事、でも仲間の気持ちも大事

『澤梓が良い』と思ってくれている紗希が、ここに確かにいる

たったそれだけが、どんなに私の心を今救ってくれているか……!









決勝戦で、エンストをおこした私たちのために、戦車を飛び越えて駆けつけてくれた西住隊長……

あの時は申し訳なさの気持ちがあったけれど……

まさに今、彼女の伝えたかったことが、私の心と体にすぅっと染み込んでいくのが分かります……

梓「うん、そっか……ありがとう紗希」

紗希「……///」

梓「……あれ、紗希?」

紗希「……///」

梓「ねぇ、どうしたの?」

紗希「……///」









紗希「……///」ハァハァ

梓「さ、紗希……!?」

ゆっくりと、でも確実に、私と紗希の体が密着していきます

彼女の口からは熱っぽい、湿った吐息が漏れていました

元々馬乗りにされていたので、お互いの体が重なりあうのに大した時間は要りません



梓「ぁっ……ちょ、んっ……///」



弄るような手つきで撫で回され、思わず声が出てしまいます

紗希の体は、私以上に熱を帯びていました

まるでマーキングする猫のように、彼女は私と肌を擦り合わせます

なんとか体をどかせようとしても、さすがは装填要員、パワーでは勝てません

だから、2人の目と目があった瞬間に――



梓「紗希!!」



怒りとも取れる叫び声で、私は友人の名を叫びました

ビクリと震えた体が止まった後、紗希の顔はとてもとても悲しいものに変わって……



紗希「――!!」



私の上から飛び上がり、一目散に車内奥へ身を隠す紗希



梓「あいてて……」



ようやく上体を起こした時、車内には悲哀に満ちた、紗希のすすり泣く声が響いていました

そんな彼女の後ろ姿を見ているうちに、私はハッと気付きました





きっと紗希は、この気持ちを一生隠し続けるつもりだったんだ……!

そうじゃなきゃ、保健室で私のアザの話題になった時、名乗り出ていたはず……!

だけど、紗希はしなかった……ううん、出来なかった

話せばきっと、私への想いに気付く子が出てくるから

そうなったら最後、私への想いが止まらなくなると分かっていたから

梓「紗希……」



なのに、よりによって、当の本人である私が気付き、そして指摘してしまった

恋い慕う相手に、気付かれてはいけない愛慕を見破れた紗希は、その気持ちを抑えきれずに――!

梓「――っ」



意を決した私は、紗希の元へ歩み寄ることにしました

怖がらせないよう、足音をなるべく消しながら、ゆっくりと歩きます

戦車の片隅で涙を流す紗希の心情は、私を怒らせたことへの絶望のようでした

一歩一歩、私が近づくたび、その嗚咽は強くなっていきます

梓「紗希……」



私は、そんな彼女の肩を掴み、強引にこちらへ引き寄せると――









紗希「――!」



泣き顔の彼女を、強く抱きしめました

紗希「……!?」



どうも、想像していなかった展開だったみたい

紗希は泣き止んだものの、どうしたら良いか分からず、ただおろおろとするだけです



梓「良いよ、何も言わなくても」



まるで子供をあやすように、私は可能な限り、優しい声で囁きました



梓「ずっと我慢してきたんだよね……頑張ったね」

梓「でも、今日からは隠さなくて良いからね?」

紗希「……っ!」



事態を飲み込めない彼女は、声にならない声で、必死に理解しようと試みます

そんな姿が可愛く見えて、思わずフフッと笑顔になりました

梓「紗希は私の、命の恩人なんだよ?」

梓「だから、紗希の言うことは何でもきいてあげたいな」

紗希「……///」

梓「それに……」

梓「紗希のこと……可愛くて、格好良くて……」

梓「ひ……独り占め……したく、なっちゃった……から……///」

紗希「……!」



いざ口にすると、あまりの恥ずかしさに、また茹蛸になる私の体

でも、これだけ勇気あることを、紗希はたった1人で成し遂げたんだ……!

だから私も、それに全力でぶつかって、応えてあげたい……!

梓「確かに私は、そっちのケはないから、こういうのよく分からないけど……」

梓「でも! でも紗希が、この世界で一番尊い人だってことは、絶対に間違いないから!」

梓「だから……私のこと、夢中にさせてください……///」

紗希「……!!」

紗希「……!!」コクコクコクコク!!

梓「あ、ダメっ、首痛めるよ?」

紗希「……っ」

梓「まだ治ってないんだから、無茶しないで」

梓「私の……こ、ここ……恋、人……なんだ、から……///」

紗希「……///」

梓「ホラ! 紗希もどんどん攻めて!」

梓「私を夢中にさせるんでしょ?」

紗希「……」コクリ

顔を真っ赤にさせながら、決意に満ちた顔を見せる紗希

私の体を抱きしめ、背中にまわした両腕に力を込めてきました

お互いの胸を通じて感じる、お互いの鼓動

そして私の耳元で、その綺麗な声が囁きました……










……愛してる

梓……愛してる///











……あっ

紗希ゴメン






私、もう紗希に夢中になっちゃったみたい///


子犬のように抱きつかれて、愛の言葉を囁かれて、嬉しそうに頬擦りしてきて……

そんなことを紗希にされて嫌な人が、果たしてこの世界にいると思いますか?

いいえ、いません(断言)



梓「さ、紗希っ!!」ドサッ



愛おしさ以上の感情に、今度は紗希を押し倒してしまった私

でも彼女は一切抵抗せず、逆に嬉しそうな表情で……

そんなことされると、ますます感情を抑えきれなくて……

だから、どちらともなく、唇と唇が近付いて――










私たちのファーストキスは

鉄と油と少しの血が混じった味でした








数日後――



桂利奈「おはよー」

あゆみ「おはよう」

優季「おはよぉ」

あや「おはよ……」ガクガク

桂利奈「あれ? どうしたの?」

優季「筋肉痛がまだ治ってないんだって」

桂利奈「えー、私はもう落ち着いたのに?」

優季「私も同じくぅ♪」イエーイ

桂利奈「イエーイ」ハイタッチ

あや「そんなこと言われても、私の青アザの量見たでしょ?」ガクガク

あや「みんなと違って時間がかかるんだから……」ガクガク

あゆみ「数なら、紗希の方が多かったよ?」

あや「じゃあ紗希は、私以上にガクガクなハズよ!」

あや「まるで生まれたての小鹿のように!」

あや「まるで生まれたての小鹿のように!!」

あゆみ「それ、大事なことなんだ……」

優季「あやは体が弱いもんねぇ」

あや「優季ちゃんはあゆみちゃんのおっぱいエアバッグ使ったから平気なだけでしょ!」

桂利奈「そうだよ! そのせいで私、あゆみちゃんのおっぱいエアバッグが使えなかったんだよ!?」

優季「ふふーん♪ あゆみちゃんのおっぱいエアバッグは先着順だもーん♪」

桂利奈「あゆみちゃんのおっぱいエアバッグは私のだよー!」

あや「あっ! 今度は私があゆみちゃんのおっぱいエアバッグ使うって約束したでしょー!?」

桂利奈「知らないもーん、あゆみちゃんのおっぱいエアバッグを独り占めするんだもーん」ピーピー

あや「あー! あゆみちゃんのおっぱいエアバッグ独占禁止法違反ー!」ブーブー





あゆみ「あの、ちょっとみんな……あんまりおっぱい連呼しないで……///」カァァ...





あゆみちゃんのおっぱいエアバッグの参考画像
http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira122722.jpg

梓「あ、みんな、おはよー!」

あゆみ「梓、それに紗希、おはy――」

あや「見てなさい! 紗希の方が私よr――!」

優季「えぇ~、そうかn――」

桂利奈「2人とも、おっはy――!」





梓「皆、体のほうはもう大丈夫?」

紗希「……」

_人人人人人人_
> 恋人つなぎ <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

あゆみ「えっと、あの、梓?」

梓「ん? 何?」

あゆみ「その手は一体……」

梓「手……あぁ、これ?」

紗希「……」

桂利奈「2人とも、今日はすごく仲良しだね?」

優季「あらぁ~、もしかしてソッチに仲良しなのぉ?」ワクワク

桂利奈「『ソッチ』って何?」ハテナ

あや「桂利奈ちゃんは知らなくて良いの!」アワワワ

梓「本当は、学校に着いてから話そうと思ったんだけど……」

梓「実は私たち、付き合うことになりましたー!」

紗希「……」フンス

4人「「……」」









3人「「えぇ~!?」」

桂利奈「??」

あゆみ「なに、え、ウソ!? いつの間に!?」

優季「あらあらぁ~♪」

あや「リアルキマシタワー!?」

梓「ねー、紗希?」ギュッ

紗希「……」フンス

あゆみ「梓が紗希にもたれかかってる!」

あや「まさか……梓ちゃんに彼女ができるなんて……!」

梓「私に彼女? アハハ、違うよぉ!」

あや「え……あっ、そうだよね! 女の子同士だしね!?」

梓「私が彼女だよ?」

あや「そっちかー……」ガクリ

優季「紗希ちゃん、大胆~!」キャッキャ

桂利奈「……ん?」

桂利奈「えっと……??」

桂利奈「どっちかが男の子ってこと???」

あや「そんなワケないでしょ!」

桂利奈「でも、2人が付き合うって言ってるし……(混乱)」

桂利奈「2人は女の子で、でも2人は付き合うってことで……」グルグル...

桂利奈「でも付き合うには、男の子が必要で、あと女の子も必要で……」グルグル...

桂利奈「えーと……うーんと……」グルグル...





桂利奈「かりなわかんない」プシュー

あゆみ「まずい! 桂利奈が熱暴走起こしてる!」

あや「桂利奈ちゃん、考えちゃダメ!」

あや「そうだ! 素数を! 素数を数えて!」

桂利奈「2人は女の子、3人は女の子、5人は女の子、7人は女の子、11人は女の子……」プシュー!

あゆみ「ちゃんと数えて偉いけど意味がない!!」

あや「ちょっと、優季ちゃんも手伝って!」

優季「ねぇねぇ、どっちがタチなのぉ?」ワクワク

あや「宇津木ィ!!」

紗希「……私」ブイ

あや「丸山ァ!!」

梓「もう、紗希ったらぁ///」モジモジ

あや「澤ァ!!」

あゆみ「梓がそっち側だと私の負担がヤバいんだけど!?」

優季「あっそうだ(突然)」

優季「私、女の子同士がキスしてるところ、見てみたいなぁ~」チラッ

梓「え///」

紗希「……」

あや「ちょっと!? ここ外なんだけど!?」

優季「中だったら良いの?」

あや「え?! あ、いや、それは……」

優季「あや……そろそろ自分に正直になろ?」クスクス

あや「……」

あや「見たいです」キリッ

あゆみ「あや!?」

あや「だって本当は興味あるもん!! ネコの梓がいつリバースするか、気になるもん!!」

あゆみ「だから大声で言わなくて良いってば!!」

あや「そういうあゆみちゃんだって、全然興味無いって言うの!?」

あゆみ「すごくあるに決まってるじゃない!!」

あや「じゃあ問題なし!!」

あゆみ「そうだね!!」

桂利奈「えっなにこの流れ」

優季「キ・ッ・ス!」テビョウシ

あや「キ・ッ・ス!」テビョウシ

あゆみ「キ・ッ・ス!」テビョウシ

梓「ちょっと、こんなところでキスなんて――!」

紗希「……」グイッ

梓「ぇ、紗希……///」ドキドキ

優季「紗希ちゃん、かっこいい~♪」

あや「どうしたー嫌じゃなかったのかー!」ヤンヤヤンヤ

あゆみ「その手を振り払ったらどうなんだー!」ヤンヤヤンヤ

梓「う、でも……その……///」ドキドキ

紗希「……」ジッ

梓「ぁぅ……逆らえなぃ……///」モジモジ

あや「やったぜ」

桂利奈「あの、みんな……?」










紗希「ん……」

梓「……?」





3人「「FOOOOOOOOOOOO」」

桂利奈「あわわわ///」

あや「すごい……紗希があんなに積極的になるなんて……!」

あゆみ「キスというよりもう、むしゃぶりついてるよ!」

優季「激し~///」キャー

桂利奈「お、お、女の子同士なのに、キ、キキ、キス……!?」アワワワ///

あゆみ「あの梓がされるがままなんて、滅多に無いねぇ」

優季「梓ちゃんの顔、とろけてるぅ」

あや「あれなのか!? あれが『メスの顔』なのか!?」

桂利奈「え、エッチなのはダメだよー!」アワワ///

優季「……あれぇ?」

あゆみ「おやぁ?」

あや「あれって……まさか……?!」

優季「審判、どうですかぁ?」

あゆみ「ん~……」ジー

あゆみ「うん」

あゆみ「入ってるね! 舌!!」b

優季「キャーキャー///」

あや「入ったー!!」

桂利奈「舌……キスに舌……はわわ///」

優季「分かるかな……あれが大人のキスだよ?」フッ...

あや「桂利奈ちゃん、聞いちゃダメ! 汚れるのは私だけで良いの!」

あゆみ「攻める! 紗希が攻める! しかし梓は無抵抗で受け入れるだけだー!」

??「コラー!! そんなところで何やってるのよ!?」ダダダッ



桂利奈「あ、カモさんのお散歩だー!」

そど子「風紀委員の見回りよ!!」

そど子「澤さん!! 丸山さん!! 早く離れなさい!!」

そど子「こんなの、不純異性交遊よ!!」

あゆむ「いや、2人とも女の子ですけど……」

そど子「えっ?」

そど子「……あ」

優季「女の子同士ならぁ、問題ないですよねぇ?」

あや「そーだそーだー!」

そど子「そ、そうよね……同性なら問題ない」

そど子「……ってならないわよ!?」

そど子「性別はどうあれ、風紀を乱しているのは事実よ!!」

あや「えー! ただキスしてるだけなのにー!」

あゆみ「学生からキスを奪うのかー!」

優季「そうだそうだー!!」

桂利奈「皆そんなにキスしたいの!?」

そど子「学生の本分は勉強! キスは関係ないでしょ!」

優季「違いますー! これはキスの勉強なんですー!」フンフンッ

優季「だから普通のキスとはワケが違うんですー!」フンフンッ

桂利奈「こんなに必死な優季ちゃん初めて見た!」

そど子「キスの勉強なんてあるわけないでしょ!」

そど子「エロい女教師モノじゃあるまいし!」

あや「えっ……先輩、エロい女教師モノとか、知ってるんですか……!?」ドンビキ

そど子「私これでも高3なんだけど!?!?」

そど子「大体、そこまでしてキスシーンを守る必要無いでしょ?!」

あや「ありますー! 大事な理由があるんですー!」

優季「濃厚なキスを私たちに見せつけることで、2人の愛の深さを表現する必要があるんですー!」

あゆみ「その余韻でこのSSが終わるんですー!」

桂利奈「これ、そんなに大事なシーンだったんだ……!?」

そど子「それなら
_人人人人人人人人人人人人人_
> 二人は幸せなキスをして終了 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄
で十分じゃないの!!」

優季「ダメですー! リアルな描写こそがここには必要なんですー!」

優季「そして私たちは、それがちゃんと出来ているかを監視する使命を帯びているんですー!」

そど子「そんな使命、あるわけないわよ!!」

紗希「ん……ちゅ……///」イチャイチャ

梓「ぁむ……紗希ぃ……///」イチャイチャ

そど子「だからそこ止まりなさーい!!」

紗希「……」ス...

梓「ぁ……///」トロン

あや「あ、紗希がキスを止めた」

あゆみ「梓の顔、放送しちゃいけないヤツだよ……深夜でも無理なヤツだよ……」

優季「あぁん、もっと見たかったのにぃ~」ガックリ

桂利奈「優季ちゃん……」

そど子「やっと言うことを聞いてくれたみたいね」

そど子「良い? これからはこういうことをしちゃダメよ?」

紗希「……」フルフル

そど子「なっ……私に逆らうつもり!?」

紗希「……」スッ

そど子「何よこれh――?」

_人人人人人人人人人人人人人人_
> 冷泉麻子の貴重なスマイル写真 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

そど子「……」

そど子「……」ポッケナイナイ

そど子「……」



そど子「丸山さんと澤さんはキスの勉強をしているだけだから」キリッ

あや「買収されてるー!?!?」

あゆみ「どうやって手に入れたの、そんな写真!?」

優季「紗希ちゃん最っ高ぉ!!」

桂利奈「こりゃ廃校になりますわ……」

そど子「でも、分かってるわよね!?」

そど子「私を堕としても、第2、第3の風紀委員が、あなたたちを取り締まるんだから!!」タッタッタッ

あや「逃げた……」

あゆみ「先輩……!」ケイレイ

優季「さっ、早く続きを見なきゃ♪」

桂利奈「優季ちゃんはブレないね(白目)」

あや「優季ちゃんやめて! 桂利奈ちゃんはもう一杯一杯なんだから!!」

あゆみ「とりあえず、2人の仲が良くてホッとしたよ」

あや「仲良すぎる気がするけど……」

梓「……皆、私たちを受け入れてくれるの……?」

優季「もちろん♪ 私は恋する女の子の味方だから♪」

優季「でも……ちゃんと私たちにも構ってね?」

あゆみ「あと、戦車道をおろそかにしないでよ?」

あや「あとあと、勉強もちゃんと頑張らないとダメだからね!」

優季「あやは勉強教えて欲しいだけじゃーん」ニヤニヤ

あや「うるさーい!」

あや「あと、私は優季ちゃんよりも成績良いからね?!」

桂利奈「私も……応援するよ」

桂利奈「本当は、何でこうなったのか、よく分からないけど……」

桂利奈「でも! 2人とも幸せそうだから、きっと良いことなんだと思うの!」

梓「皆……!」グスッ

紗希「……」ジーン...

あや「こんなに良い話なんだから、もっとたくさんの人に知らせるべきだと思うな」

優季「賛成~♪」

あゆみ「まずは戦車道の皆からじゃない?」

桂利奈「そういえば今朝は、戦車の点検があったはずだよね?」

梓「うん、隊長車含めた5台の点検作業があるよ」

あゆみ「もう5台も直ったんだ……」

あや「えっと……戦車の点検は、各車の乗員全員が集まる必要があるから……」

桂利奈「結構集まってるってことだよ!」

あゆみ「じゃあ、教室の前にガレージに行けば良いね」

優季「……私も、女の子を狙おうかなぁ……?」ボソッ

あや「ん、何か言った?」

優季「ううん、なんでもぉ」ニッコリ

あや「?」

紗希「……」

梓「大丈夫」ギュッ

紗希「……!」

梓「今は、私も一緒だから」

紗希「……」

紗希「……///」ギュッ

梓「……///」









あや「ふ、2人だけの世界が……///」

優季「や~ん///」

あゆみ「もう、デバガメはダメだってば///」

桂利奈(なんだろう……2人のキスを見てから、胸の奥が熱い……///)トゥンク...

あゆみ「それじゃ、ガレージに行って――」

優季「武部先輩に報告しよぉ~!」

ウサギさんチーム「「おぉ~!!」」









ガレージにて報告を受けた沙織は

大量の吐血から3分間心肺が停止したが

西住流心肺蘇生術により復活、見事2人を祝福した





終わり

以上です、ありがとうございました

追伸



丸山ちゃんが無限の可能性を秘めすぎててヤバい

>113
今気付いたんですけど、ハートマークが潰れてますね;

↓レスに修正します










紗希「ん……」

梓「……///」





3人「「FOOOOOOOOOOOO」」

桂利奈「あわわわ///」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年11月02日 (水) 09:17:40   ID: usaWpT7V

せっかくだから俺はここにコメントを残すぜっ!
(ありきたりでごめんなさい)

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