みほ「干し芋ですか?」 (34)


杏「そ。大洗名物。西住ちゃんも食べる? おいしいよ」モキュモキュ

みほ「なんのお芋なんですか?」

杏「え?」

みほ「え?」

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杏「……芋は芋でしょ」

みほ「えっと、お芋にも色々ありますよね。あ! もしかして安納芋とか――」

桃「今は芋の話をしてる場合じゃない! 戦車道選択の件、よく考えとくように!」

みほ「あぅ」


~~~~~


みほ「――ってことが昔あって」

華「懐かしいですね」

沙織「えっ? みぽりんは干し芋が何のお芋か知らないって話?」

みほ「う、うん。ね、あれってなんのお芋なの?」

華「サツマイモですよ。特に『紅はるか』と呼ばれる品種です」

沙織「焼き芋にするとね、ホクホク感たっぷりのままとっても甘いんだよー」

麻子「問題はそこじゃないな」

沙織「へ?」

優花里「先ほどのお話から察すると、会長殿自身もなんの芋かわかってなさそうでしたが」

みほ「やっぱりそう思う?」


沙織「いやいや、ゆかりん! あれだけ毎日干し芋食べてる会長が、実は何食べてるか知らないなんてことはないでしょ!」

華「そうですよ。あの情報通の会長さんに限ってそんなこと」

優花里「そ、そうでありますね! わたしの思い過ごしでした、今のは聞かなかったことに」

麻子「いや、わたしは秋山さんの推測は正しいと思う」

沙織「ええ!?」


麻子「実際、あの袋の中の干し芋は、何の芋か分からないようにしてたんじゃないか?」

みほ「それって、どういう……」

麻子「確かに大洗の干し芋はおいしい。わたしだって好きだ。が」

麻子「同じ味の物を毎日食えと言われたら無理だ。あの量ならすぐに飽きる」

沙織「それは、確かに」

華「そうでしょうか?」

沙織「華はね、お花に例えて考えてみるといいよ」

華「……どんな花でも、美しいままであり続けることはありませんね」

麻子「だから、広報か副会長にでも頼んで、中身を替えてもらっていたのではないか?」

沙織「なるほど! 色んな味を楽しめるように!」


麻子「この場合芋でなくてもいいな。見た目さえそれっぽければ」

沙織「マンゴーのドライフルーツとかかな。ニオイもそんなにキツくないのなら干し芋かどうか遠くからじゃわかんないかも」

みほ「でも、それだとどうしてわざわざ大洗のお芋の袋に入れ替えてたの? っていう疑問が出てくるような」

麻子「それはあれだ。会長には愛国心ならぬ愛大洗心が求められていた」

華「地元愛というものですね」

麻子「それを周囲にアピールするための作戦だったんだろう。簡単にわかりやすく大洗への愛着心を示せる」


優花里「つまり我らの士気を揚げようとする考えがあったのですね! さすが会長殿です!」

みほ「たしかにわたし、転校してきたばっかりの時でも、会長って大洗のことが大好きなんだなぁって思ってた」

沙織「でも、それならもう必要ないんじゃない? こうして大洗女子学園は2度も救われたわけだし」

華「今でももぐもぐと食べてますね」

麻子「一度やりだした手前、引っ込みがつかないんじゃないか?」


みほ「で、でも、本当にお芋が好きで、毎日食べてる可能性もあるよね?」

みほ「わたしはね、毎日コンビニに行っても全然飽きないし、毎日ボコのアニメを見てもね、たとえ同じ話のループでも大丈夫だよ?」

みほ「本当に好きなものって、毎日でも接していたいものじゃないかな?」

優花里「そ、そうですよ! わたしも毎日と言わず毎秒戦車に接触していたいですぅ!」

沙織「いやいや、みぽりんにゆかりん。食べ物は別だよ?」

沙織「たとえ愛する彼の大好物がカレーだからって、1週間3食同じ味のカレーを出したら嫌われるからね?」

みほ「そ、そうなのっ!? だからお姉ちゃんあの時……」ブツブツ

沙織「えっ?」

みほ「あ、いや、えっと……」


麻子「健康上も良くないしな。ただでさえ間食なのに、同じものばかり食べると他の食べるべきものを減らすことに繋がる」

沙織「それ夜型人間の麻子が言うー?」

優花里「うぅ、そういえば子供の頃、毎日駄菓子屋へ出かけていたら怒られたことがありました」

みほ「へえ。優花里さん、そんなことしてたんだ」

優花里「はい! 駄菓子屋においてあった戦車のプラモの箱を眺めに!」

みほ「ふふっ、優花里さんらしい」

優花里「まあ、隣に置いてある駄菓子の誘惑に勝てたことは一度としてありませんでしたが」エヘヘ


みほ「でも、麻子さんの推理が正しいとしても、わたしがお芋の種類を聞いた時に嘘をつけばよかったんじゃ?」

麻子「あの生徒会が嘘をつくことを嫌っているということは、西住さんがよく知っているだろう」

みほ「……そう言えばそうだった。廃校のことを黙ってた時も、嘘はつかないようにしてたんだ」

優花里「つまり、会長殿は無理をしている、と」

沙織「無理は体に毒だよ」

麻子「もはや変なプライドを貫く意味も無いのに、だ。無理を止めさせるべきだろう」

華「確かにそうですが、隠し通したくてやっているのでしたら、わざわざ暴くようなことをするのもどうかと」

麻子「なら、一度本人から話を聞いてみるか」

<生徒会室>


柚子「皆さん、いらっしゃーい。ゆっくりしていってね~」

杏「かぁしま、みんなに茶。あと干し芋ね」

桃「はっ 」

みほ「あ、ありがとうございます」

杏「それで、どったの?」

優花里「あ、いえ。実は用件というほどのものではなくですね」

沙織「ちょっと生徒会の皆さんとおしゃべりしたいなーって」

桃「はあ? ここは仕事場であって遊戯室では無いのだが」

杏「まあまあ、接客応対も仕事のうちだよ。たまにはいいんじゃない?」

桃「会長がそうおっしゃるなら」


桃「ほら、茶だ。熱いから気をつけろ」スッ コトッ コトッ

優花里「あ、どうも」

沙織「久しぶりに干し芋食べるけど、おいしいねこれ」

華「ええ。とっても優しい甘みがします」

麻子「これ、おばあも好きなんだ。会長ほどじゃないが」

みほ「やっぱりこれ、大洗の有名な特産品なんですね」


杏「…………」


麻子(西住さん、例の質問を)ヒソヒソ

みほ(う、うん)ヒソヒソ


みほ「あの、会長。このお芋って、なんて言うお芋なんですか?」

杏「へ? そりゃ、サツマイモに決まってるじゃん」

みほ「あ、いえ。そうではなくて、サツマイモの中でもなんていう品種なのかなって」

麻子「そう言えば西住さんは鹿児島の隣、熊本の出身だったな。芋にはうるさいのだろう」

沙織「あんまり関係ないと思うけど」


柚子「会長?」

杏「あ、いや。もちろん紅はるかだよ。なんで?」

みほ「え? なんでって?」

杏「あ、えっと、どうしてそんなこと、今聞いたのかなって」


みほ(これはひょっとすると……)

麻子(あたりだな)


麻子「なあ、会長……いや、角谷さん」

麻子「この芋、本当に大洗の芋か?」

杏「…………」

桃「お、おい! 冷泉、お前口の聞き方を――」

麻子「おばあの買ってきた芋の味と違う」

桃「うっ!?」

柚子「桃ちゃん、そこで動揺するー?」

麻子「ちなみに嘘だぞ。干し芋の味の違いなんかよく覚えていないしわからん」

桃「こいつ……っ!」

麻子「で、どうなんだ」


杏「……なんで気づいたのかも、どうしてわざわざ言いにきたのかもよくわかんないけど」

杏「さすがあんこうチームだねぇ。こりゃあ一本取られたよ」ハハ

杏「いいよ、わかった。みんなには聞く権利がある」

柚子「か、会長。……いいんですか?」

華「無理にお話ししていただかなくとも……」

杏「まあ、そんなに必死に隠すような話でも無いしね」


~~~~~

みほ(結局、麻子さんの推理は全て当たっていた)


杏「でも別に、干し芋が嫌いってわけじゃないよ? パスタにしたいくらいには好きでさ」

優花里「相当ですよね」

杏「んでも、今更みんなに言うことでもないじゃん? もう癖みたいなもんだし」

柚子「取り寄せシステムもカモフラージュ方法も構築しちゃいましたしね」

杏「卒業までこのままで行こうと思ってたんだけどなぁ」

華「ですが、廃校を免れた今、もう無理する必要はないですよね?」

桃「会長を心配してくれる気持ちは嬉しいが、これは会長がしたくてやっていること」

桃「お前らにどうこう言われる筋合いはない」

麻子「いや、わたしは別に会長のことを心配して進言しにきたわけじゃないぞ」

桃「なに?」


麻子「わたしはだな。会長が、わたしたちのことを」

杏「…………」

麻子「たかが干し芋を食うか食わないかで人を判断するようなやつらだと思っていることが気にくわない」

沙織「ちょっと麻子!」

桃「冷泉! 貴様っ!」ギロッ

優花里「あわわわ……」


麻子「そんな小手先のパフォーマンスなぞなくとも、わたしたちは会長が誰よりも大洗のことを愛しているのだと知っている」

桃「な……」

麻子「そうだろう? 西住さん」

みほ「は、はい。それについてはわたしが責任を持って肯定します」

優花里「隊長のお墨付きが出ましたよ!」

杏「いやあ、照れるね」


杏「……大洗のことを愛している、か」

柚子「会長?」

杏「実を言うと、廃校を宣告された頃は不安だったんだ。わたしは本当に大洗のために全てを捧げられるのかって」

桃「会長……」

杏「戦車道を復活させようと決意した時も、西住ちゃんを無理やり引き込む計画を立てた時も」

杏「楽な方に逃げそうになる自分が怖かった」

沙織「会長だって女の子ですもん! 仕方ないですよ!」

みほ(そっか、会長は逃げなかった人なんだ……)


杏「最初はさ、そんな弱い自分を消し去るために干し芋を食べてたんだ」

杏「大洗の土地で育った芋を。わたしは大洗が大好きなんだって言い聞かせながらね」

杏「まあ、1週間もたなかったよ。さすがに飽きたなーって」ハハ

柚子「好きな干し芋だからって、あれだけたくさん食べてればそうなりますっ」

杏「あの時は焦ってたのかもね。でも、かと言って急に食べるのをやめたらみんなにわたしの本性がバレるかもしれない」

杏「弱い人間が安直な手段に出たって、見破られて、見限られるかもしれない」

華「そんなこと……」


杏「我ながらちっちゃいよねー。あ、身長じゃなくて器の話だよ?」

桃「会長。会長は、誰よりも大きい人です」

杏「……ありがと。ま、大洗の芋じゃなくなった時点で本末転倒なんだけど」

杏「そこから先は冷泉ちゃんの推理通り。会長のわたしが大洗のこと大好きだってアピールする必要があると思ったから」

杏「みんなにも大洗のことを好きでいて欲しかったからさ」

優花里「すべては廃校を阻止するため、だったんですね」


杏「廃校はなんとかなったけど、これからまた文科省の役人がどんないちゃもんをつけてくるかもわからない」

杏「だから、来年度も戦車道で結果を出さなくちゃいけない」

杏「なのに、わたしは今年度までしかココに居られない」

杏「少しでも学園のために何かをしておきたい。そう考えたら、今までのわたしを継続しないといけないと思って」

みほ「そうだったんですね……」


麻子「もちろん、食いたいなら食えばいい。それが単に食欲からくるものだろうと、弱い自分を忘却するためであろうと」

麻子「だが、わたしたちに嘘をついてまで、無理をしてまで食うことはない」

杏「うん、冷泉ちゃんの言うことはもっともだ」

沙織「ってことは!」

杏「これからはわたしらしく、気楽にやらせてもらうとするよ」イヒヒ


柚子「よかったですね会長」

杏「ん」


こうして会長が干し芋を食べる頻度は目に見えて減った。麻子さん、すごい。

だけど、今でも生徒会室に行く度にお茶請けとして干し芋が出されてる。

きっとこのお茶請け干し芋は、来年も再来年も、

大洗女子学園の伝統として引き継がれていくんだろうなぁ。


誰よりも学園を愛し、誰よりも学園を憂えた彼女の、その象徴として・・・


~~~~~


生徒1「干し芋、おいしいですね」

生徒2「でも、どうしていつも干し芋なんですか?」

生徒3「さあ? なんでも大洗の伝統なんだって」

生徒1「へぇー。戦車道の強豪校って変な伝統ばっかりありますね」

生徒2「でも、おいしいからいっか!」





おわり

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