おやじが半裸を認めない・第1/4話 (120)

主人公「ねえサンチョ。『はんら』って何?」
サンチョ「は…!?ど、どうしたんですか、帰ってくるなり…」
主人公「村のみんなが、話してるのを聞いたんだ。寒くなってくると、パパスさんが心配になる、あの人いっつも『はんら』だからって。ねえサンチョ、『はんら』って何?寒くなるとお父さん、どうなっちゃうの?」
サンチョ「そ…それは…」

サンチョ(村の連中め…恐れ多くもグランバニア王を半裸だと?いや確かにそうだけども!しかし、坊ちゃんに『はんらっていうのは、半分裸の、ちょっと恥ずかしい姿のことですよ』などとは言えない…!父上を敬愛している坊ちゃんには…!)

主人公「どうしたのサンチョ。顔が変だよ。もしかして、『はんら』ってそんなに大変なことなの…?」
サンチョ「いえ、そうではなくてですね」
主人公「もうすぐ冬になるし…寒くなったら『はんら』がお父さんを困らせるのかも。どうしよう」
サンチョ「あの、坊ちゃん」
主人公「お父さんはどこ?二階にいる?」
サンチョ「いえ、所用で出掛けておられまして…」
主人公「どこに?」
サンチョ「さ、さあ、そこまでは…」
主人公「ぼく、探してくる。お父さんが『はんら』で困ったことになる前に、教えてあげなくちゃ」
サンチョ「いやいやいやいや、いけませんよ坊ちゃん!旦那様がお出かけの間は、家の周りで大人しくしているお約束…あつ!」
バタン
サンチョ「坊ちゃん!お待ちください!」

サンチョ「はあ、はあ…。見失った…幼児の脚力恐るべし…。すまんが、うちの坊ちゃんを見なかったかね」
村人「ああ、ここら一体で聞き込みした後、変な猫連れて、親父さんの匂いを追っていたぞ。洞窟の方に向かって行ってたなあ」

サンチョ(何という捜査能力!これは困ったことになった…。旦那様は今、洞窟の例の部屋で例のことをしている。坊ちゃんに見つかるわけには…)

サンチョ「はあ、はあ…。わ、もう洞窟の入り口にいる!坊ちゃん!お待ちください!」
主人公「あれ、サンチョも来たの?」
サンチョ「旦那さまは、夕方には戻られますから…とりあえず家に帰ってですねっ…」
主人公「でも、ゲレゲレが、お父さんはこの中にいるって」
サンチョ「…ゲレゲレ?このネコ(?)、そんな名前にしたんですか。サンチョはチロルとかの方が…」
主人公「でも、この子を一緒に助けた女の子のね、笑い声がゲレゲレなんだ。ゲレゲレゲレゲレ笑うんだよ」
サンチョ「げらげらではなく…?」
主人公「ゲレゲレ笑うよ」
サンチョ「それはモンスターか何かでは…」
主人公「人間だけど、ゲレゲレ笑うよ」
サンチョ「…」

サンチョ(…いや、ゲレゲレ少女の是非はともかく、いい感じですぞ。このまま会話でごまかして連れ帰ろう…)


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主人公「じゃあ僕、行くね」
サンチョ「ホアッ!?」
主人公「だって、早くお父さんに『はんら』が危ないって教えないと」
サンチョ「ど…洞窟の中は危険ですぞっ」
主人公「だけど、こんな危ない所にお父さんがいて、しかも『はんら』で困ってるかもしれないんだ。がんばって行かなくちゃ」

サンチョ「で…では、サンチョがまず見てまいりましょう。坊ちゃんはここで待っていて下さい」
主人公「でも」
サンチョ「こう見えてサンチョはなかなか強いですから。液状で銀色のモンスターなんかを叩きつぶすの得意ですから」
主人公「そうなの?」
サンチョ「平たいもの打撃愛好心が高じて、自分ちのテーブルも上から叩き過ぎて巨大な卓袱台になっちゃったくらいで…」
主人公「ちゃぶ…?」
サンチョ「あれも今じゃ我が家の家宝ですよ」
主人公「ピクリ」

サンチョ(この年で既に『宝』という言葉に反応するだと…)

主人公「サンチョはそれを、洞窟とかに隠したりしないの?」

サンチョ(取りに行く気だ…!イベントにして、うちの卓袱台を手に入れる気だ!この子の未来が怖い!)

サンチョ「と、とにかく、まず私が見てまいりますから。お家で待っていて下さい」
主人公「えー…」
サンチョ「ねっ」
主人公「一緒に行きたいよ…」

サンチョ(困った…。目を離したらついて来そうだ…)

ボート屋じじい「なんじゃー、どうしたあ」
サンチョ「おお、いいところに!すまんが、坊ちゃんを家まで送ってくれんかね」
ボート屋じじい「時が来るまで、わしはこの扉の前を動かん…。ネバー!」
サンチョ「ぐぬぬ。じゃあ何で声掛けた」
主人公「サンチョ、連れてってよ…」
サンチョ「ダメです!ネバー!」
主人公「ぐぬぬ」

ごわーん
主人公「!?洞窟の中から物音が…」

サンチョ(旦那さま?まずい、今出てこられたら坊ちゃんと鉢合わせてしまう…!旦那さまの長年にわたる『壮絶!もしもの時の隠し部屋大作戦』が水の泡に…!)

サンチョ「坊ちゃんはここで待っていて下さい!絶対について来てはなりませんぞ!」
主人公「あっ、サンチョ」
サンチョ「転がるように進め私の足バーニング!うおおおおお!」

パパス「鉄の胸あてを落としたらすごい音がした…びっくりした…」
サンチョ「だ、だ、旦那さまあぁぁぁ!」
パパス「とりあえずここの宝箱に入れよう…おや、向こう岸にいるのはサンチョじゃないか。どうしたんだそんな脚力バーニングで駆けて来て」
サンチョ「た、大変でございます!すぐそこに坊ちゃんが!実はかくかくしかじかで」
パパス「ぬ、半裸…。こんなに固いものを着こんでいるというのに…」
サンチョ「硬度より表面積の問題でございます」
パパス「表面積など気にしていたら、勝てる戦闘も勝てなくなるではないか。そもそも、私は半裸ではない、せいぜい三分の一裸だ」
サンチョ「それはともかく、このままでは何をやっていたのか相当怪しまれてしまいます」
パパス「壮絶なもしもの時のためにアイテムを隠していた、なんて言えぬしな…。どう誤魔化したものか」
サンチョ「ここにいないことにするのが一番です。旦那さまのことを随分心配していましたし、妙なそぶりを見せたらボート屋のじいさんを倒してでも自分も来ようとしますよ」
パパス「ううむ…」
サンチョ「今洞窟を出ては駄目です。私が何とかして坊ちゃんを家に連れ帰りますから、その隙にこっそりここから抜け出してくださ…」

主人公「おとうさーん」

パパス・サンチョ「!?」

主人公「おとうさん、どこー?サンチョー?」

サンチョ「しまった、やっぱり入ってきた!」
パパス「まずい…!隠れる場所もないというのに!」
サンチョ「どうし…あ、手に持ってらっしゃるのはなんですか?」
パパス「宝箱に隠すために持って来た、ステテコパンツとただの布だ。もしもの時、あの子がようやくここへたどり着いたときに、宝箱の中身がこれらではあんまりかなと思ってやめたのだ」
サンチョ「それを使って変装してください!布を巻いて…ステテコパンツかぶって顔を隠して!」
パパス「な…?」
サンチョ「で、そこにいて下さい!坊ちゃんはわたしが何とか足止めを!万一気付かれても、あそこにいるのは変わったモンスターだと説明します!」
パパス「う…うむ!」

パパス「く…。機動性を失うような姿は避けたいが…この際仕方あるまい。布を体に…うむ、いい感じに鎧が隠れるぞ。朽ち果てる寸前のてるてるぼうずのようだ。次に、ステテコパンツをかぶって顔を…よいしょ。おお、すっぽり入るな」

スライムが現れた!

パパス「ぬお、このタイミングでか?パンツで何も見えんと言うのに…!ど、どこだ、一度脱がねば…」
ぐちゃ
パパス「何か踏んだ!すべる!ぬわっ」
ずるどしん
パパス「く…。スライムを踏んでしまったか…。ともあれ倒したようだ…ん?これは…両腕が、頭と同じ場所に…片足を入れるスペースに両腕と頭が入ってしまった…!バンザイしたまま身動きがとれん!」

パパス「いくら力を掛けても破れない…。いざとなれば鉄格子くらいバーンと飛ばせる自信のある私の力を持ってしてもか。何と丈夫なのだステテコパンツ…。何を守るためにこれ程…ぐぬぬ、これでは何も見えん上に、両手も使え…ぬわっ」
ドガッ

パパス「!?何かにはまった…!これは…宝箱か!宝箱に体育座りでぎちぎちにはまってしまった!ぬ、抜けん!」
ガタガタ
パパス「駄目だ、ビクともせんぞ…。ううむ、何とかせねば」
ガタガタ

サンチョ「坊ちゃん、ストップ、ストーップ!」
主人公「あ、サンチョ。おとうさんは?」
サンチョ「来てはなりませんと言ったでしょう!やはりここにはいらっしゃらなかったですよ。そのネコ(?)が匂いを間違えたのでしょう」
主人公「そうかなぁ…。―えっ!?」
サンチョ「急に固まって、どうされました?坊ちゃん」
主人公「後ろ!向こう岸に、何かいるよサンチョ!」

サンチョ(ああ、旦那さまか…上手く変装できたかな)

サンチョ「きっとモンスターでしょう。さあ、戦闘になる前にこの場を離れましょう」
主人公「でも、あんなモンスター見たことないよ。ステテコパンツから真上に手が生えてて、宝箱ごとガタガタ動いて移動してる、汚いてるてる坊主みたいなやつだよ。サンチョも見てみて」

サンチョ(手?宝箱?おかしなオプションが増えてますな…)

主人公「ほら、あそこ」
サンチョ「どれどれ…。!?え、ええ~!?本当に、ステテコパンツから両手が真上に出てて、宝箱に嵌ったてるてるぼうずみたいのが不気味に移動してる!ちょっと目を離した隙に何があったの!?」
ガタガタ…ガタガタ…
主人公「こっちに来るよ…」
サンチョ「だ、大丈夫ですよ、間に川がありますから…」

サンチョ(旦那さま…それ以上動くと、落ちる、川に落ち…)

ガタガタ…ドッボオォォン!
パパス「ぬわーーーー!!!」
主人公・サンチョ「うわーーー!」

村人「洞窟から悲鳴が聞こえたけど…。何かあったのな」
村人「もしかして、誰かモンスターに襲われてるのか?」
村人「パパスさんとこのぼうやと丸い人が中に入ってったらしいぞ」
村人「何!大変じゃないか。誰か見張りの兵士呼んでこいよ」

パパス(しまった!川に落ちた!このままでは溺れるゴボゴボ…!!ぬっ、ぬおおおお!)
バリン!
パパス(しめた!両足が宝箱を突き抜けた!これで手が使えなくてもバタ足で泳ぐことが可能!いざ水面へ…!)
ザバッ
パパス(なっ…水上に顔を出しても、濡れたパンツが口に張り付いて…息が、できないだとうっ!!!)

サンチョ「ほ…水面に上がってきた…。でもあれ、もがいてる?そうか、顔を覆うパンツが濡れているせいで息が…!!!」
主人公「初めて見た。あれが、不思議な踊り?」
サンチョ「坊ちゃんの前だが、このままでは…ええい、今行きますぞお!」
主人公「?どうしたの?」
サンチョ「助けねば…濡れたパンツでは、息ができんのです!」
主人公「助ける?あいつ、濡れてると困るの?乾かすの?ぼく、バギ使えるよ。バギするね」
サンチョ「えっ」

村人(薬屋)「よし、俺が助けに行く!あの子には、岩に挟まれてるところを助けてもらったんだ!」
村人「大丈夫か、薬屋の人…」
村人(薬屋)「いっくぞお!待ってろよぼうやぁぁぁ」

バッシャアアアン!

村人「何だ!?水柱!?」
村人「水と一緒に何か飛んで来たぞ!危ない!薬屋の人!」

ドッゴン!
村人(薬屋)「うぎゃああああ」
村人たち「薬屋のひとぉぉぉぉぉ!!!」

村人「何が飛んできたんだ?人か?モンスターか?」
村人「あ、飛んできた奴が起き上がるぞ!」

パパス「コー…フー…コー…フー…」

村人たち「モンスターだ!!!」
村人「宝箱を履いた、ステテコモンスターだ!」
兵士「何の騒ぎ…あああモンスターだ!」

パパス(バギ的な風に飛ばされたおかげで水から出られた…。しかい…息は苦しいままだ…吸えない、吐けない…くっ、意識が…)

兵士「村を守る立場として、見過ごすわけにはいかん!モンスター、覚悟ぉぉ!」
村人「危ない!モンスターが倒れてくる!」

ドッゴン!
兵士「うぎゃああああ!!!」
村人たち「兵士のひとぉぉぉぉぉ!!」

パパス(足がふらついて倒れてしまった…。呼吸だ、とにかく呼吸をせねば…。ひっひっふー、ひっひっふー)

村人「た、大変だ…兵士までも」
村人「どうしてこんな時にパパスさんはいないんだ」
村人「そんなことを言っても仕方がない、倒すのが無理でも、何とかして洞窟へ帰ってもらおう」
村人「ああ、みんなでそう促してみよう。こう、威嚇する感じで、ギラ出してる魔導師のポーズでだな…」

村人たち「ドウクツヘ、カエレ。ドウクツヘ、カエレ。ドウクツヘ、カエレ」

サンチョ「はあ、はあ、こっちに飛んだと思ったが」
主人公「あ、いたよサンチョ。あそこ、洞窟の外」
サンチョ「おお、だん…いや、モンスターと…村人!?」

パパス「コー…フー…コー…フー…」
村人たち「ドウクツヘ、カエレ。ドウクツヘ、カエレ。ドウクツヘ、カエレ」

サンチョ(どういうことだ!?見た感じ完全に暗黒面に堕ちてしまった旦那さまに、ギラのポーズした村人たちがにじり寄っている!事態が更に混乱して、もはや着地点が見えない!)

主人公「宝箱から足が生えてる。さっきはなかったのに。あれが、進化の秘宝?」
サンチョ「いや、殿下の奇行です…」
村人「ドウクツヘ、カエレ…あっ、パパスさんのぼうやと、丸い人!無事だったか!」
村人「あのモンスターを洞窟に返すんだ!手伝ってくれ!」
主人公「でも、あのモンスター、BGMも変わらないし、敵じゃないと思うんだ…。ねえ、サンチョ。乾けばいいだけなんでしょ?」
サンチョ「…はっ、呆然としている場合ではない、このままでは窒息…!そうです坊ちゃん、一刻も早くアレを乾かさなくては」
主人公「バギするね」
サンチョ「あ、それはちょっと、坊ちゃ…」

ヒュルルドーン…ボチャン

村人「おお!上手いこと、洞窟の中に吹き飛んで行った!」
主人公「今度こそ乾いたかな」
サンチョ「ぼ、坊ちゃん!バギはですね、乾燥機の風とは違うんです!あああ旦那さま…」
村人「やれやれ、とりあえず洞窟に戻ったけど、また来たら怖いなあ。パパスさんが戻ったら、頼んでみようか」
村人「…おい、川見てみろ。洞窟の中から何か流れてくるぞ」
主人公「あ、さっきのモンスターの宝箱」
サンチョ「…の残骸ですな。ただの布に、ステテコパンツも…て、ことは、旦那さまは…」
主人公「あっ、おとうさん!おとうさんが流れてきた!」
サンチョ「だだだ旦那さまアア!!!」
村人「早く、水から上げるぞ!パパスさんしっかり!」
村人「これは…。パパスさんほどの人が、傷だらけじゃないか。それにこの、一緒に流れてきたモンスターの残骸…まさか」

サンチョ(オウチ!やめて!二つを結びつけるのはやめて!)

村人「パパスさんが、あのモンスターを倒してくれたんだ!」
村人「ありがとうパパスさん!」

サンチョ(ああ…バカが住む村で良かった…!)

主人公「おとうさん、大丈夫?おとうさん」
パパス「む…ここは」
主人公「どうしたの、傷だらけだよ。あいつにやられたの?」
パパス「バギ的なもので水面に叩きつけられたら色々剝がれた…」
主人公「?バギ?」
サンチョ「ヘイ坊ちゃん!旦那さまは大変お疲れのようですし、怪我もなさってますからっ…!とにかく家に運びましょう、ね!」
村人「ありがとうパパスさん、俺らのためにこんな…」
パパス「なんだかわからんが、礼には及ばんよ…。ああ、パンツ越しで無い空気がうまい…」
村人「何を変態仮面みたいなこと言ってるんだいパパスさん。全く、こんな時でも愉快な人だなあハッハッハ」
村人「冗談はともかく、帰って手当てした方がいいぞ。体も温めないと。こんな気温で川から出て、半裸では心配だよ」
主人公「はんら…!」
村人「よし、みんなで送ろう。わーっしょい、わーっしょい」

帰宅

主人公「サンチョ、入っていい?」
サンチョ「おや坊ちゃん。どうぞ。旦那様、坊ちゃんが来ましたよ」
主人公「おとうさん…」
パパス「サンチョに話は聞いた。わたしを探しに洞窟まできたそうだな…」
主人公「おとうさんは、あいつと闘うために洞窟にいたんだね」
パパス「今思い返しても恐ろしい戦いであったな…」
主人公「怪我は、大丈夫?」
パパス「両肩を脱臼して股関節も傷めて全身をバギ的なもので切り刻まれた感じになったが、回復もかけたしもう大丈夫だ」
主人公「…」

パパス「どうした、そんな暗い顔をして」
主人公「…あんなに強いおとうさんが、どうして?『はんら』?やっぱり、『はんら』のせいなの?ぼくが教えに行くのが遅れたから…」
サンチョ「いいえ、坊ちゃんは悪くありませんよ。サンチョが初めからきちんとお伝えしていれば良かったんです…。まさかこんな恐ろしい事態になるとは…」

サンチョ(ホントに、何がどうなってああなったのか、未だにわかりませんよ…)

パパス「息子よ…。『はんら』とは、体の半分が肌色ということだ…。そして父は『はんら』ではない…。せいぜい三分の一だ…。三分の一くらいはセーフなのだ…」
主人公「じゃあ、おとうさんは『はんら』で困ることはないんだね?よかった…。でも、だったら、どうしてこんな風に」
パパス「私の心が弱かったためだ…。服装は機動性が一番、そのポリシーを一時でも曲げるべきではなかった…」
主人公「おとうさんは、そのポッキーっていうのを曲げたり伸ばしたりしちゃったの?」
パパス「そうだ。曲げたり伸ばしたりチョウチョ結びにしたりしたのだ」
主人公「…それは、いけないことなの?」
パパス「今回の件は、良い薬となった。よいか息子よ。服装は、動きやすさを重視しろ。見た目などは二の次だ。命あってのことなのだから…ゴホッ」
サンチョ「旦那さま、御無理はなさらず…」

主人公「…ごめんなさい、僕があの時、迷わずにあいつを攻撃してれば良かったんだ。でも、BGMも変わらないし、戦わないで済むかもって思って…乾かすことしか考えなくって。ごめんなさい」
パパス「…謝ることは無い。お前は正しいことをしたのだ。たとえ相手がモンスターであっても、無為な戦いはすべきではない。戦う以外の道があるなら、迷わずそちらを選べ」
主人公「…うん」
パパス「それに、もしお前がいなければ、父は今頃恥辱にまみれ、自分が入るための穴をマグマまで掘り進めていたかもしれん…」
主人公「星が爆発するね」
パパス「何にしても、お前が心配したり、後悔するようなことは何もない。安心して寝なさい」
主人公「はあい」

サンチョ(翌日、旦那様は全快し、いつもの穏やかな日々が戻りました。…しかし、この事件が、後にグランバニアに暗い影を落とし、更に世界の命運を大きく左右することになろうとは、この時の私には知る由も無かったのです…)

親父が半裸を認めない・第1/4話・完

続く

サンチョは好きですが「サンチョの人」と呼ばれるほどには
未だサンチョにのめり込んでいないです
そういう方がいらしたのですね 自分もいつか手に入れてみたいです
「サンチョの人」の称号を

それでは名前を「別のサンチョの人」略して「別っチョ」に変えて続きます

おやじが半裸を認めない・第2/4話

娘「…サンチョ。わたし、お父さんに言う」
サンチョ「し、しかし…」
娘「このままじゃ皆にとって…お父さんにだって、よくないもん。今日こそ、ちゃんと言う!」

勇者「どうしたの?おっきな声だして」
娘「わたし、決めたの!お父さんに言うって」
勇者「何を?」
娘「パンチラ、やめてって!」
勇者「Oh…」

勇者「ねえ、やめようよ。お父さんかわいそうだよ」
娘「本人より周囲の方がずっとかわいそう!あっピピン、お父さん見なかった?」
ピピン「それが、さっきそこで装備を買ってらしたんですが」
サンチョ「装備?まだ買うものがありましたかな…で?」
ピピン「会計してるところを、城の人に見られてしまって…」
勇者「…あの、ダイナミックな会計方法を見られたの…?」
サンチョ「買い物を見られて、それがどうかしたのですか?」
勇者「うん…。ほら、お父さんって、合計金額わからない時、カウンターの上にお金全部出して、必要な分を店の人に取ってもらう『必殺:笑顔で全投げお会計』をするでしょ」
サンチョ「にこにこしながら全額ぶちまける、アレですな。…ああ、それで」
ピピン「算数ができないことがバレて、勉強部屋に引っ張って行かれました…」
サンチョ「坊ちゃん…」

娘「算数ができないくらい、いいのに。お利口さんなわたしたちが一緒にいるんだし」
サンチョ「字も読めない頃から奴隷生活の放浪生活ですからなあ。無教養も致し方なし…いや、無教養と言うのはあんまり不憫なので、野生の陛下と呼びましょう」
ピピン「この間も、食卓に着くなりフィンガーボールの水をごくごく飲んで、すごい怒られてましたもんね…野生の陛下」
勇者「みんな意地悪だよ、野生のお父さんに悪気はないのに。…ねえ、だからさ、アレだって悪気ないんだよ?」
娘「…悪気はなくても、アレだけはだめ。わたし、気持ちは変わらない。お父さんに言う!」
ピピン「何の話ですか?」
勇者「…お父さんの、パンチラのことだよ…」
ピピン「Oh…」

勇者「待ってよ。やめようったら。気にしなければいいだけだよ」
娘「もう、そういう段階じゃないの。あ、いたお父さん!庭で遊んでる」
勇者「逃げてお父さんっ…!」
娘「…あれ?知らないモンスターが増えてる」
勇者「え?ホントだ!またボクらに黙ってこっそり出かけてイベントこなして、モンスターひっかけてきたんだ…!一緒に行くって言ったのに!ぐぬぬ」
娘「それで新しく装備買ってたんだね」
勇者「ちょと見ない間に馬車が弾け飛ばんばかりのムキムキモンスター目白押し…!ムキムキエレキトリカルパレードだよ!モンスターだけで最強パーティが完成しつつある…!」
娘「しばらくいないと思ったら、魔法の絨毯とかマグマの杖とか持って帰って来てるもんね。わたしたち、かなりのイベントを素通りしちゃってる気がするの」
勇者「ううう放浪親父マジ許すまじ!このパンチラ野郎!」
娘「いい感じに双子の片割れが父への怒りを燃え上がらせた。よぉし、行ってくるね!応援してて!」

主人公「それ、それ。キラーパンサーと猫じゃらしで遊ぶのは楽しいなあ。腕ごと持って行かれそうだ」
娘「お父さん!」
主人公「やあ、一緒に遊ぶ?」
娘「お勉強終わったの?」
主人公「うん。掛け算という言葉を生まれて初めて聞いたよ」
娘「お父さんに掛け算を…。足し算だって、指を使わないとできないのに…」
主人公「くくというのを書かされたよ。覚えないといけないらしい。ほら」
娘「呪いがかかったみたいな下手な字で、九九が書いてある…。どうしよう…同情心が湧いてきてくじけそう…」
主人公「どうしたの?」
娘「ううん、決めたんだ!進めわたし!お父さん、お話があるの」
主人公「うん、聞くよ。話して?」
娘「…履いて」
主人公「腹いて?」
娘「ズボンとか、履いて」
主人公「?」
娘「パンチラするから、何か履いて!」
主人公「…ほげ?」

娘「父親が『ほげ』とか言い出した…。でも、負けるもんか!お父さん、パンチラをやめて!」
主人公「ぱ、ぱ、パンチラ…?」
娘「お父さん、裾短いのに、戦闘中ガバガバ動くから、猛烈にパンチラするの!ステテコパンツのステがテコするの!気まずいどころの話じゃないの!お願いだから何か履いて!」
主人公「で、でも、この方が動きやすいし…。見えるくらい、そんな大したことじゃあ…」
娘「王様がパンチラする国はすごく困るってみんなが悩んでるの!わたしもこの間知らないおばあさんに、『お城のパンチラ様は元気かい』って聞かれたし、このままじゃグランバニアが、グランパンチラになっちゃうの!」
主人公「国名が変わるほどに?」
娘「だから、履いて!」

サンチョ(おいたわしや坊ちゃん…。こうして物陰から眺めるばかりで、お助けしないサンチョをお許しください…。しかし、国王♂がパンチラする国は、マジ勘弁です…)

娘「大体お父さん、マント取ったら布巻いてあるだけで、ほぼ半裸じゃない!もうちょっと何か着ないといけないんだよ!」
主人公「は…ハンラ!?」
娘「そう、半裸!」
主人公「ほげら…」

娘「ほげほげ言っても止めないから…!お父さんは、半裸!」
主人公「半裸じゃないよ、三分の一裸くらいだよ。これはセーフ…」
娘「OUT!」
主人公「嫌に正確な発音で…」
娘「完全にOUT!もう半歩でDEATH!」
主人公「でも、お父さんのお父さんなんか、もっと肌色が多かったんだよ?」

サンチョ(確かに旦那様は半裸でしたが…。下は、きちんと履いておりましたぞ…)

娘「よそはよそ!うちはうちでしょ!」
主人公「これが一番動きやすいのに…」
娘「お父さんは、赤ん坊の頃に行き別れた父親と八年ぶりに再開したら、異様に若い上に半裸でパンチラする人だった年頃の娘の気持ちがわかってないの!」
主人公「だってお父さん、年頃の娘じゃないから…」
娘「人に迷惑かけるお父さん、嫌い!」
主人公「……カハァ……」

サンチョ(勝負ありましたな…坊ちゃん…)

娘(ついにほげとも言わなくなっちゃった…。どうしよう、言いすぎたかな…)

娘「あの、わたし…」
主人公「…わかった…」
娘「え…?」
主人公「フンドシにする…」
娘「!?」
主人公「ステテコパンツは丈が長いから、すぐ裾からはみ出しちゃうんだ。フンドシなら、見えない」

サンチョ(見えますぞ!もっと困る部分がダイレクトに見えますぞ!)

娘「そうなの?」
主人公「うん。お父さん、フンドシにするよ。ちょっとお尻がスースーするから苦手だったけど、動きにくくなるわけじゃないし」
娘「本当にいいの?」
主人公「うん。ごめんね、今まで嫌な思いさせて」
娘「…お父さん…。わたしも、ごめんなさい。意地悪いっぱい言って。本当は、お父さんのこと大好き」
主人公「…よかった」

サンチョ(ちっともよくない!娘と父の親子愛の行き着く先がフンドシルート…?そもそもフンドシルートなんてどこから出てきたの?宇宙?宇宙から来た?)

勇者「…ボクだって、お父さん大好きだもん!」がしっ
主人公「あれ、どこにいたの?」
娘「物陰でわたしを応援しててくれたの。お父さんがまた黙って出かけたから、怒ってるんだよ」
主人公「怒ってるのかい?」
勇者「怒ってるの!だから、次に出掛ける時は、ちゃんと連れて行ってよ!」
主人公「ううん…でも、危ないし…怖い思いもするよ?」
勇者「怖いのは嫌だけど、お父さんだけ危ない目に会う方がもっと嫌だよ。だから、お母さん助けに行くのも、一緒に行かせて。さもないと親父マジ許すまじ貴様の未来はDEATH!になっちゃうんだからね!」
主人公「じゃあ、妖精の国は一緒に行こう。どうもあそこ、お父さんだけじゃダメみたいで」
勇者「…既に一度、単独で行った気配…」
娘「とにかく、みんな言いたいことが言えてよかったね。お父さんがパンチラしなくなったら、サンチョたちも喜んでくれるよ」
主人公「サンチョ?」
娘「サンチョも、ピピンも、オジロンさんも…むしろ城中の人が頭を悩ませてたんだから」
主人公「じゃあこれから、迷惑かけたみんなにもフンドシ宣言してくるよ」
勇者「フンドシ宣言?ボクも行く!」
娘「うふふよかった。きっと喜ぶね」

サンチョ(だからよくないですよ。一人として喜ばないですよ。何フンドシ宣言って。天国の旦那さま、残念ながら子孫が全員ちょっとアレですぞ!)

主人公「とりあえず、サンチョはどこかなあ」
勇者「あそこの茂みに隠れてるよ」

サンチョ(ヒイイ普通にバラされた…)

主人公「サンチョ、あの、ちょっと話があるんだけど」

サンチョ(く…来る…。陛下がフンドシ宣言をしに、私の所へ来る…。ヒィィ~)

主人公「あ、いたサンチョ」
サンチョ「や…どうも…」

ポン

サンチョ(にこにこしながら肩に手を置かれた…。来る…ふんどし宣言が…)

主人公「ふんどし!」
サンチョ「ああ…宣言された…」


サンチョ(こうしてステテコパンツからフンドシに乗り換えた坊ちゃんでしたが…。後にその事実が、世界を大きく動かすあの場で明かされ、なんだか恥ずかしい感じになるとは、この時の私には知る由もなかったのです…)

親父が半裸を認めない・第2/4話・完

おやじが半裸を認めない・第3/4話

ピピン「…サンチョさん。ちょっと、いいですか?」
サンチョ「おや、ピピンに、オジロン様。わざわざ家まで来て、どうしたんですか?」
オジロン「ちょっと相談があるんだが。これがまた城内では話しにくい内容で…」
サンチョ「…うちの、野生の陛下のことですか」
オジロン「よくわかったな。エスパーサンチョ」
サンチョ「いや、わかりますよ。狭い家ですが、どうぞ中へ。そこの卓袱台にお座りください」
ピピン「卓袱台?この巨大な平たいテーブルがそうなんですか。これはけっこう珍しいもので?」
サンチョ「まあ、そうですな」
ピピン「どうりで。前にサンチョさんが留守のとき、陛下と一緒にこの家に来たんですが、これに何回も『しらべる』をやっていたから、貴重なものなのかと…」
サンチョ「持ち出す気だったのか…。何なのあの陛下、カンダタの一種?」

サンチョ「それで、どうしたんですか?ようやくビアンカ様も戻られて、国中バッチコイな雰囲気だというのに。何か問題が?」
オジロン「うむ…」
サンチョ「…言いにくいことですか」
オジロン「…う、うむ」
サンチョ「このサンチョ、体は丸く腹は黒く口は固いですぞ。どうぞなんなりと」
オジロン「え…エッチな下着が、あるだろう?」

サンチョ(ええ~…。ヒゲの中年男性が顔を赤らめながらエッチな下着とか言い出した…)

オジロン「そ、そのエ…エッティな下着をだな…下着を…」

サンチョ(ハアハアしちゃってる…。もう嫌だ逃げたい…このままこのおじさんを突き飛ばしてカジノに行ってしまいたい…)

サンチョ「エ…エッチな下着が、なんですかな…?」
オジロン「エ…エ…エッティ…エティ」
ピピン「ええとですね、陛下が朝からずっと、部屋で正座してエッチな下着を見つめてるんです」
サンチョ「…?それが?」
オジロン「…それが問題なのだ」
サンチョ「問題ないじゃありませんか。陛下だって体はハタチそこそこのピチピチ男子なんですから、ああいうのを見てウキウキドキドキしたって別に…」
ピピン「そういう感じじゃないんですよ。すごい困った顔で、じっと考え込んでて…」
サンチョ「じゃあ…。ああそうだ。あの下着は確か、ビアンカ様をお助けする前に、宝箱か何かから出てきた奴でしたな。どうやって渡したものか、悩んでいるのではないですか?鎧とはいえ、男性が女性に渡すには少々恥ずかしいというか、照れるというか…」
ピピン「そんなの、あの人なら普通にニコニコして『はいあげる』って渡しちゃいますよ。その手の神経切れてますから」
サンチョ「しかし、ならば一体何故、エッチな下着とにらめっこを…」
オジロン「…それで、思い出したのだ。例のパンチラ騒動から、ふんどし宣言に至るまでのことを」
サンチョ「ああ、そんなこともありましたな。それが」
ピピン「もしかしてって、閃いちゃったんです…」
サンチョ「何を?」
ピピン「陛下、あれ履くつもりなんじゃって」
サンチョ「ホ…ホアァァァァ!!??」

サンチョ「な…ななな何故…!」
ピピン「ステテコパンツじゃ丈が長くてパンチラするから、お尻が寒いのを我慢してフンドシにする…そういうことだったんですよね?」
サンチョ「そう、そうだけども…はっ!まさか」
ビアンカ「女性用パンツは、丈が短いしお尻にも布があるんですよ。陛下の悩みが全て解消される…」
サンチョ「いや…!いや、だからって、そんな!男と女は体のつくりが違うのですぞ!アレがうまく収まるかどうかは…」
オジロン「だからこそ、履いて試してみようか悩んでいるのではあるまいか…」
サンチョ「そ、そんなアホの子でしたっけ!?」
オジロン「疑いたくなるくらい、ずっと考え込んでいるのだ。頼むサンチョ、一緒に来てくれ。グランバニアが変態サファリパークになることは、何としても避けねばならん」
サンチョ「わかりました…。あ、一つだけ用事を済ませてからでいいですか。すぐ行きますから」
オジロン「用事?急ぎか?そうでないなら後回しに…」
サンチョ「卓袱台を城の倉庫に隠したいんです…。このままでは確実に坊ちゃんに奪われる…」
オジロン「…手伝おう」
ピピン「…手伝います」

娘「ねえ、どうしてお父さんの部屋の前にテントを張ってるの?」
勇者「もう絶対置いて行かれないように、お父さんを朝から晩まで全身全霊でストーキングすることにしたんだ」
娘「そこまで追い詰められたんだね…」
勇者「だって、馬車の中見た?またガチムチが増えてるよ。一匹一匹が魔王みたいだったよ。ボクら下手すると最終決戦にも置いて行かれちゃう…」
娘「Oh…王だけにOh…」


娘「その困ったOhさまは部屋の中?昨日やった、どっちが先に四つ葉のクローバーを一万枚見つけるか競争の続き、したいんだけど…」
勇者「それで、庭が一面ハゲ散らかってたんだ…」
娘「それぞれ8千枚ずつ見つけたんだよ。今のところ互角なの」
勇者「うーん、遊んでくれるかなぁ。お父さん、今日は朝からずっと考え込んでるんだ。ほら、ボクが作った覗き穴から見てごらんよ」
娘「わあ…壁に目立たない覗き穴が…。結構本格的なストーカーしてるんだね」
勇者「ストーカーという名の勇者だよ」
娘「あ、お父さん見えた…ホントだ。何か悩んでる。手に持ってる、あの装備が気になるみたい」
勇者「お母さん用にとっておいたやつだよね。どうして渡さないのかなぁ」

ピピン「おや、陛下の部屋の前に人影が」
オジロン「うっ!何てことだ、子供たちが父親の変態っぷりを見守っている…」
サンチョ「み、見てはなりませんぞお二人とも!」
勇者「みんな、そんなに慌ててどうしたの?」
オジロン「お、大人の事情でな…。勇者よ、ちょっとその覗き穴を貸してくれんか。おいサンチョ、ここから見てみろ」
サンチョ「どれ、勇者様ちょっと失礼…。おお…いつもぼんやりしている坊ちゃんが、どう見ても思考中だ。それにしても何ですかなこの穴は」
勇者「僕のストーキング用だよ。穴から毒蛇を入れれば密室殺人にも使える代物だよ」
サンチョ「置いて行かれ続けたフラストレーションが勇者様を腐れ外道に堕してしまった…。怨みますよ坊ちゃん…」
勇者「それにしてもお父さん、ずっと何考えてるんだろうね」
娘「ね。お母さんの装備をどうする気なのかな?」

サンチョ「…履くつもりですな」

娘・勇者「えええええええ!?」
サンチョ「ご安心ください、幼少よりお仕えした世話係として、サンチョ、止めてまいります!」

バターン
サンチョ「坊ちゃん!」
主人公「サンチョ?どうしたの鼻息がすごいよ…」
サンチョ「何を悩んでおられるか、このサンチョに正直に申して下さい!今ならまだ引き返せるのです!」
主人公「?」
サンチョ「坊ちゃんがその…エ、エッチな下着で悩んでいることくらい、サンチョはお見通しですぞ!」
主人公「えっすごい」
サンチョ「いいですか、それはダメです!やっちゃいけないことです!どうしてもっていうなら、サンチョがオルテガパンツを買ってあげますから!」
主人公「オルテガパンツ?それなら、ビアンカも履けるのかな…」
サンチョ「履けまッせん!!!ビアンカ様には履けまッせん!!!どうしてそんなアホなこと言うの!」
主人公「履けないのか…。どっちにしても、問題は上の方だしなあ…」
サンチョ「上?何の話ですか?」
主人公「だから、この下着。下は大丈夫だと思うんだけど。上が違うんだよ…」
サンチョ「違う…?」
主人公「ビアンカのと違う…」

ビアンカ「あらみんな、入口で何をしているの?部屋に入ればいいのに」
ピピン「うわ!ビアンカ様!い、今ちょっと…修羅場でですね…」
勇者「お父さんがね、お母さんにあげる装備で困ったことになってるみたい」
ビアンカ「私にくれる装備?何だろ…」
娘「あれだよ、ええと、えっちなしたぎ」
ビアンカ「!?」
勇者「お父さん、履くんだって」
ビアンカ「!?」
ピピン「それを今みんなで見守っています」
ビアンカ「どうしよう…。嫁いだ国が変態サファリパークだった…」
娘「あれ、でも様子がおかしいよ。なんか、お母さんと違うとか言ってる…」
ビアンカ「もう…。どうせあの人のことだから、神経の千切れた勘違いをしてるんだわ。二人とも心配しなくて大丈夫。お父さんはちょっと苛烈なバカなだけよ。お母さんが頃会いに突入して間違いを正すわ」

サンチョ「…ち、違うとは?」
主人公「これって、女性用の装備だよね。そんなに特殊な物じゃないし、女の人なら問題なく着けられるはずなんだ。でも、これ、ビアンカにはぶかぶかだと思う」
サンチョ「…は?」
主人公「下は普通に履けると思うけど、上は…おっぱいが足りない」
サンチョ「ホワァ?」
主人公「どう考えても、おっぱいが足りないんだ。ぶかぶかで装備できないよ。女性全般用なのに、どうしてだろう。もしかしたら不良品か呪われてるのか…」
サンチョ「ぼ、坊ちゃん…マジで言ってるんですか…?」
主人公「でも、貧乏が長かったから物は大事にしたいんだ。使えるなら使いたいし、どうしようかと悩んでいたら随分時間がたっちゃったよ」

サンチョ(いや…いやいやいや!女の人がみんな同じ体型してるわけじゃないでしょ!胸とか個人で全然ちがうでしょ!初めて女の裸見て『うちのエロ本と違う!』とか言い出す童貞かこの陛下!てかこんなビアンカ様貧乳宣言、本人に聞かれたら…)

ギイイイイ…

サンチョ(はっ…!背後から…殺気…!)

ビアンカ「…世の中にはね…パットとか、寄せて上げる技術とか、そういったものがあるから…おっぱいが足りなくても心配には及ばないのよ…?」

サンチョ(ヒ…ヒイイイイ!ビアンカ様ぁぁぁ!)

主人公「やあ、いいところに。じゃあビアンカもこれ装備できるんだ?胸の所ガバガバになっちゃわない?」
ビアンカ「着けられますとも。着けてみせようじゃないの。スライム詰め込んででも着こなして見せるわよゲレゲレゲレゲレ…」
サンチョ「な…何この音?笑い声?」
主人公「なんだ、よかった。無駄に悩んじゃったな…」
ビアンカ「ただその前にちょっと、一緒に来てもらえるかしら…?」
ガシッ
主人公「……」

サンチョ(ようやく空気がおかしいことに気が付いたようですな…。しかし、時既に遅しです、坊ちゃん…)

ビアンカ「城の外でお話しましょうか…ゲレゲレゲレ…サンチョ、子供たちをお願いね」
サンチョ「は、はい…!」
主人公「サ…サンチョ、僕の事もお願いしたいんだけど…」

サンチョ(…こっち見ないで!もう無理だから!)

ビアンカ「ゲレゲレゲレゲレ…」

勇者「お母さんがメラゾーマ的なもので黒焦げになったと思われるお父さんを抱えて帰ってきたけど、何があったんだろ…」
娘「ねえサンチョ、お父さん、どうして燃えたの?」
サンチョ「…最悪の事態、変態サファリパークは免れたのです。むしろ、これで良かったのですよ」
勇者「お父さん、お母さんの装備なんか履かなかったもんね」
サンチョ「坊ちゃんは、ビアンカさまのこと(というかおっぱいサイズ)を心配していただけだったんですよ。余計な邪推をしてしまいましたが、やはりあの方はそんなにアホな子ではなかった…。いや結構アホな子だったか…。どちらにしても、変態ではなかった」
勇者「よかったね。お母さんは常識人だってみんな言うし、お父さんは変態じゃなかったし。ボクも安心してストーキングを続けられるよ」

サンチョ(…ではこのストーキング遺伝子はどこから…)

サンチョ「まあ、誤解の全ては坊ちゃんの半裸が招いたこと。半裸は時に、不幸を呼び込むのです」
娘「そうなの?どうしよう、もっと悪いことが起こったら…」
サンチョ「はっはっは。一国の国王が燃やされたのですぞ?これ以上の災厄が降りかかることなどありえませんよ…」

オジロン「おおサンチョ、ここにいたか!探したぞ」
サンチョ「どうされました」
オジロン「…言いにくいんだが…」
サンチョ「?何かあったのですか?」
オジロン「落ち着いて聞いてくれ…。お前の家が、全焼した…」
サンチョ「…ホァッ!?」

オジロン「怒りのメラゾーマに襲われた陛下が、お前の家に逃げ込んだらしくてな…。ついには、家ごと…」

サンチョ「はああああぁぁぁ!?」

娘「どういうこと…?これも、半裸のせい?」
勇者「半裸が、サンチョの家を焼いたの?」
オジロン「焼きに焼かれて、全焼だ…」
サンチョ「ホアアアアアア!!!!!」

主人公「熱かった…怖かった…。なんだかわからないけど、ごめんねビアンカ…」
ビアンカ「私もカッとなっちゃって…。ごめんなさい。あなたに悪気がないのはいつものことなのに。あの装備、もらうね。ちゃんと着る」
主人公「そっか。取っておいて良かったよ」
ビアンカ「ところで、その背中に担いでる、おっきい平たいものは何?」
主人公「お城の倉庫にあったんだ。部屋に置こうかなって思って」
ビアンカ「ふうん…。でも、どこかで見たことあるような…」

オジロン「し、しかしだな、不幸中の幸い、倉庫に移しておいた卓袱台だけは無事ではないか。家はすぐに再建するから、あれを心の支えに耐えてくれ…」
ピピン「それなんですが…。先ほど陛下に発見され、担いで持っていかれました…」
サンチョ「おおおおお…結局ヤツの思う壺だぁぁドチクショウ…」
オジロン「サ…サンチョが血の涙を…」
勇者「大変だ、お父さんに返すように言わなくっちゃ!おとうさーん!サンチョが魔王になっちゃうよお!」

サンチョ(こうして取り返した卓袱台が、最後の最後にあんな恐ろしい悲劇を呼ぶとは、この時の私には知る由もなかったのですチクショウ…)

親父が半裸を認めない・第3/4話・完

おやじが半裸を認めない・4/4最終話

お父さん 伝説の勇者って ボクのことなんでしょ。
いこうよ! いって 悪いヤツを やっつけようよ!
ボクは そのために 生まれてきたと 思うんだ!

オジロン「魔王を倒した祝賀パーティーで連日ヒャッハーしていたが…。もうそろそろ正常運転に戻した方がよいかな」
サンチョ「そうですね。流石に飲み過ぎて、二分に一回トイレに行くようになっちゃいましたし」
オジロン「それは病院に行け。あれ?そういえば国王は?」
サンチョ「そういえばずいぶん姿を見てないような…」
オジロン「庶民に紛れてるんじゃないか?あの可哀想ないでたちだから」
サンチョ「でも、本当にいなくないですか。ちょっとそこらの皆にもきいてみましょう。おーい勇者様、ピピン」
勇者「え?お父さんが何日もいない?…あ、マジでいない!」
ピピン「そんなぁ、国王の不在に何日も気づかないわけ…あ、マジでいない!」
オジロン「最後に見たのいつだ?かなり前のような…」
ピピン「下手すると一週間くらい経ってるかも…」
勇者「もう全部終わったから、ボクもストーキングを怠ってたよ…。どうしよう、どこに行っちゃったんだろうお父さん」
サンチョ「なんてことだ…でもちょっと失礼!サンチョ、トイレに行って参ります!」
ジャー

オジロン「ううぬ。捜索隊を出すか」
サンチョ「どうしましょう、またどこかで奴隷やってたり、石やってたりしたら…」
ピピン「敵の大将は叩きましたし、そんな心配はないと思いますけど…」
サンチョ「いやいや、坊ちゃんは不幸に慣れ過ぎて鈍いですからな。ぼんやりしている間にそういうことになっているかもしれませんぞ。あ失礼、サンチョ、トイレに行って参ります…」ジャー
ピピン「…ありえるなあ。今頃、バカ正直に不幸にハマっていたりして…それで、人知れずお亡くなりに…とか…」
勇者「えっ、お父さん、バカなせいで死ぬの?」
オジロン「勇者よ。時に人は、馬鹿すぎると、死ぬのだ」
勇者「おとうさぁぁぁぁん!!!」

主人公「あれ、どうしたのみんな集まって」
サンチョ(トイレ帰り)・オジロン・ピピン「あっ!」
勇者「お父さん!良かった」がしっ「うっ!むせかえるような農業のにおい!」
主人公「ただいまー」
サンチョ「坊ちゃん、一体どこへ行っていたのですか!」
主人公「街で飲み食いしていたら、日雇労働者と間違われて、気が付いたら遠くの村で牛の世話をさせられて…帰してもらえなくて」
ピピン「ほらやっぱり!」
勇者(やっぱりバカなんだ…お父さん…でも)
勇者「バカでもいい!生きててくれれば!」がしっ

主人公(息子に突然バカと言われた…。これが反抗期か…。ビアンカに言ってお赤飯を炊いてもらおう)

オジロン「なんにしても国王が勝手に長期間国を空けるようではいかん!突然牛を飼ったりしてはいかん!」
主人公「ごめんなさい、叔父ロンさん」
オジロン「『叔父のオジロン』をまとめて言うのはやめなさい!」
サンチョ「心配したんですぞ!あ、また尿意…」
主人公「悪かったよ。でも、帰りに妖精の国に寄って…ほらサンチョ」
サンチョ「お、おみやげなどでは私の怒りと尿意は…?!このロケットは!」
主人公「覚えてる?父さんのだよ」
サンチョ「しかし、中は空だったはず…何故、王妃様の肖像画が」
主人公「やっと父さんの願いを叶えられたよ。サンチョにも見て欲しくって」
サンチョ「くっ…バカでもいい!嬉しい、サンチョは嬉しいですぞ!ではトイレに行って参ります!」
ジャー

主人公(家臣に涙目でバカと言われた…。これは何色の飯を炊けばいいんだろう…ビアンカに聞いてみよう)

オジロン「とりあえずは帰ってきてくれてよかったが…またいつ消えるかわからんな」
ピピン「勇者様に連行してもらってビアンカ様に引き渡したので、当分は大丈夫だと思いますが」
サンチョ「いや、気を抜いては痛い目を見ます。旦那さまの放浪と逝去しかり、続く坊ちゃんの放浪と石化しかり、我々は何度も思い知ったはずですぞ」
オジロン「うむ。魔王も倒したことだし、いいかげん腰を据えてもらわねば。直ちに放浪癖のある甲斐性なし親父脱走阻止マニュアルを作成しよう」
ピピン「と言っても…あんな戦闘力の人をどうやって止めるんですか」
オジロン「とりあえず、城内では装備を付けさせないようにしよう。あの人、装備外すと雑魚並みに身の守り落ちるから」
ピピン「マント外すと半裸ですしね」
オジロン「よし、早速王妃と双子に協力を仰いで来よう」

ピピン「そういうわけで、基本半裸でお願いします」
ビアンカ「ええ、わかったわ。ちょうど今お風呂に放り込んだところだから、今のうちに装備一式を隠しちゃいましょう」
勇者「装備一式を宝箱に入れて庭の土に埋めてその上に大岩を置いて来たよ。マグマの杖を使わないと見つけられないよ。そのマグマの杖は洞窟の最奥の宝箱の更に下に隠したよ」
サンチョ「さすがです勇者様」
ビアンカ「娘の方は、お城の侍女達と城下に行って遊んでるわ。帰ってきたらあの子にも事情を話して協力してもらいましょう」

バタン
主人公「ああ、さっぱりした。体から牛成分が流れ落ちたよ。…あれ、叔父ロンさんたち、今度はどうしたんですか」
オジロン「我々はこうして一同に会しているがこれと言って理由は無いから気にしなくていいぞ」
主人公「そうですか。ところで、僕の装備が一切合財無いんだけど…どこにいったのかなあ」
ビアンカ「一切合財、洗濯よ」
主人公「一切合財、洗濯か」

勇者(ごめんお父さん…。本当は一切合財、僕が宝箱に入れて庭の土に埋めてその上に大岩を置いて来たんだ…。マグマの杖を使わないと見つけられないんだ…。そのマグマの杖は洞窟の最奥の宝箱の更に下に隠したんだ…)

ガチャ
娘「ただいま~。あっお父さん久しぶり!また半裸!」
主人公「半裸じゃないよ。三分の一が裸だよ。まあとにかくおかえり」
娘「えへへ~ただいまっ。お父さ~ん」たったったっ がしっ

フル装備の娘が装備無し主人公の股間に突撃した!
会心の一撃!

主人公「ぐふっ…!」
オジロン・サンチョ・ピピン「陛下あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

娘「ごめん…ごめんね、おとうさん…。おとうさんの装備が一切合切ないことを考慮せずに、いつもの感じで突撃しちゃって…。まさか股間が、そんなにも大ダメージを受ける場所だと思わなくって…」
主人公「ちょっと画面が黄色かったけど、もう大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」
娘「でも…」
ビアンカ「大丈夫よ。さ、ちょっとお母さんの所にいらっしゃい…ヒソヒソ…オヤジ脱走阻止作戦ヒソヒソ…」
娘「わかった!わたし、これからは気をつけるから!心配しないで半裸でいてね、お父さん!」
主人公「え?」
ビアンカ「さあさあ、あなたの股間の快気祝いも兼ねて、お赤飯を炊きましょう。城の人たちはまだ街で宴をしているし、せっかくだからみんなで炊事場に行きましょうよ」
娘「わあい!行く行く!コカン祝い!」
ビアンカ「股間の快気祝いよ」
主人公「反抗期と股間の快気祝いだよ」
勇者「反抗的な股間の怪をお祝いするんだね。楽しみだなあ!」

ピピン「…なんとか丸くおさまりましたね」
サンチョ「とりあえずは、ですな。坊ちゃんの捜索能力を舐めちゃいかんですぞ。信じがたい嗅覚でアイテムを探し当てますからな。装備が見つかるのも時間の問題でしょう」
ピピン「もし、フル装備の国王が脱走を試みたら、どうしたらいいんでしょう」
オジロン「見失いさえしなければ、連れ戻しに行けるからな…。さくせん:サンチョがとにかく後をつける、でいこう」
サンチョ「それは得意です。坊ちゃんの後について行くの、サンチョ大好き」
ピピン「ばれませんかねえ」
サンチョ「大丈夫、しのびあしも使えますからな。このサンチョ、洞窟で口笛吹いてるばっかりの男ではないのですぞムフフ」
オジロン「後をつけて、隙を見てキメラの翼で連れ戻ってくれ。全く、誰だアレにルーラなんか教えたのは。マジむかつく。許さん」

ルーラじじい「ぐふんげふん…遥か彼方から殺気…」

―数日後―

宿のおばさん「今日で宴も終わりだねえ。おや、サンチョさん。こんな時間に…えっ、泊まるのかい?家に帰らないの?」
サンチョ「今夜あたり、来る気がするんですよ…。根無し草親子と幾年も渡り合ってきた私の勘が、今夜だと言っているんです…。膀胱炎もすっかり良くなったし、今夜のサンチョに隙は無い。よし、二階のここなら城の入口がよく見える。この部屋を借りますね」

―深夜―

カランカラン
サンチョ「かかった!城から街に降りてくる階段に張っておいたゴキブリホイホイトラップに、面白いくらい簡単に誰か引っ掛かった!もしや」
ガラ…
サンチョ「階段の下でスライムナイトとメッサーラとベホマスライムとアンクルホーンとゴーレムその他もろもろと一緒にネバネバしているのは…まごうことなきグランバニア王!甘いですね坊ちゃん。見張りの兵士も疲れてうたた寝するこの最終日、この夜を狙ってくるだろうこと、サンチョが見抜けないとお思いですか!」
主人公「まごまご。みんな一緒にネバついた」
サンチョ「ちゃんと装備一式も見つけだして持っているし、どう見ても旅に出る気まんまんですな。しかも坊ちゃん、背中に何やら巨大な円盤状の板を背負っている…。一体どこに何をしに行くのやら…」
主人公「こんなにホイホイなの生まれて初めて…まごまご」
サンチョ「からまっている隙に、馬車に先回りしておこう」

サンチョ「よし、馬車の下に潜り込んだぞ…って、ああ!ルーラだ!ひい!何この風!ちょ…すごい強風ですぞ!しがみついた場所が悪くてモロに風くる!ふ…服が!サンチョの服がああ!!!」
びりびりびりびり

サンチョ「はあ…はあ…。エビルマウンテンらしき場所にたどり着いたが…。なんてことだ、このサンチョ、かなり布地の減ったパンツ一丁…」
スライムナイト「…」
サンチョ「しまった!見つかった!坊ちゃんのモンスターに囲まれている!尾行がばれたか…!」
モンスターたち「ヒソヒソ…エリミネーター…ヒソヒソ…オルテガ…」
サンチョ「!?」
主人公「どうしたの?行くよ~」
スライムナイト「うりゃ」
主人公「え?エリミネーター拾った?だめだよ、もとのところに返して来なさい。それより入口を探さなくちゃ」

サンチョ(え?今のサンチョ、エリミネーターとしてセーフな存在なんですか?)

主人公「この辺かなあ…。あ、あった。みんな、こっち~」

サンチョ(あんな所に隠しダンジョンの入口が?しかし、どうやらこのままばれずに尾行できるようだ…。坊っちゃん、サンチョ胸中複雑ですぞ…)

サンチョ(途中、竜の骨格標本みたいな連中に、「よォ元気?」てされたりした…。超怖かった…。しかし、どうにかこうにかモンスターのフリをしつつ、坊ちゃんを見失わずにここまでこれましたぞ。で…何、ここどこ?道の下、溶岩凄いんだけど…てか、ほんぎゃああ!どうみてもラスボスな奴があそこに浮いている!!)

主人公「あ、あれかな。あれっぽいな」

サンチョ(ち…近寄っちゃダメだってば!何してんですか坊ちゃん!せっかく世界も平和になったのに、アンタ何をつっつく気なの?)

主人公「あの~、こんにちは」

サンチョ(普通に話しかけた…せっかく寝てるっぽかったのに)

エスターク「我が名はエスターク…。倒しに来たのかムニャ。違うなら帰って」

サンチョ(起きちゃった…。でも寝ぼけ眼だ!よかったワッショイ!刺激せずに、そっと帰って坊ちゃん!)

主人公「寝起きにすみません。ちょっとお邪魔しても…あれ、ここが玄関でいいのかな…どこから入れば」
エスターク「ここには玄関とかないのだ。てか何だお前…。何故どいつもこいつも我の寝起きにやってくるのだ…」

サンチョ(ほら!エスタークさん早速機嫌を損ねてる!坊ちゃん早く回れ右!ターンライト!ハリアッ!ハリアッ!頼むから!)

主人公「玄関どころかタンスも壺もなくて、この家はさみしいですね…」

サンチョ(しょんぼりしてないで!ないものはないの!あと、普通はヒトんちの物は勝手に取っちゃいけないんです!ああもう色んな意味で今更ですけども!)

エスターク「突然我を訪ねて来てしょんぼりするとは、マジで何だお前」
主人公「あの、ちょっと用があって。ええと、エスタックさんでしたっけ?」

サンチョ(なんでそんな簡単な言葉間違うの?!)

エスターク「用とはなんだ。やはり我を滅ぼしに来たのか。あと、我が名はエスタークだ。エスタックではない。そんなイブプロフェンが風邪に効きそうな名前ではない」

サンチョ(魔王完全に起きちゃった…。坊ちゃんのこと超見てる…。終わった…グランバニア終わった…むしろ世界終わった)

主人公「エスタークか…また忘れそう…」
エスターク「…おいお前…。そんな恰好でこの地の底までたどり着いたのか」
主人公「?そんな格好って…」
エスターク「その、マントの下は半裸状態で」
主人公「!!!?」

サンチョ(あ…やっぱりあちらの方々も思うんだ…。でもおかげで相手が普通におしゃべりを始めてくれましたぞ!半裸も捨てたもんじゃない!)

主人公「は、半裸じゃない…せいぜい三分の一だよ…」
エスターク「いや、半裸もありえなくはないか。時々いるのだ、勇者のパーティに。ずいぶん前にも、乳ほぼ丸出しでフンドシした半裸女を連れて来た勇者もいたし」
主人公「そんな人と一緒にしないで下さい…」
エスターク「もっと以前には、フンドシ締めた巨大ラッキョウみたいな半裸男に、ありえない威力の正拳突きを繰り出された魔王もいたらしいからな。…ふむ、その流れで行くとお前もフンドシ派か」
主人公「!!!」

サンチョ(思わぬ場所で思わぬことがバレましたな、坊ちゃん…)

エスターク「しかし勇者自らが半裸というのは記憶にない。彼らは皆、鎧を身につけ兜をかぶり、しっかりと全身を防御していたものだが…。今度の勇者は何だ、魔族を舐めているのか。迷子の貧乏羊飼いか。ぞろぞろとモンスター引き連れて」
主人公「だって僕の最強装備、マントと杖だから…。あ、でもほら、盾はあるし、あとなんだっけこれ、おひさまの冠とかなんとか」

サンチョ(太陽の冠でございますよ、坊ちゃん!そうでなくても学芸会みたいな恰好なんだから、せめて装備の名前はカッコ良く!)

主人公「それに僕は、勇者じゃないよ」
エスターク「何?嘘を申せ。ここまで来ておいて」
主人公「本当だよ。伝説の装備は持てないし、魔法も僧侶に毛が生えた位しか使えないよ」
エスターク「いや、このダンジョンの最深部まで到達できた実力者なのだから、ギガデインやら、ミナデインやら…使えるだろう」
主人公「僕のとっておきはバギクロスとパルプンテだし。あ、あと、メガザルができるかな」
エスターク「メガザルって、お前…なんて残念な」
主人公「使いどころに悩むよ。一応主力だから」
エスターク「ありえん…。勇者ではない、剣も持たぬ毛生え僧侶が、この地底まで辿りついて我の前に立ったというのか。ありえん」
主人公「ちゃんと上にいた魔王も倒せたよ。これでも直接攻撃の威力は凄いんだ」
エスターク「直接攻撃…その杖で?」
主人公「うん…なんていうか…主に撲殺」
エスターク「…マジで何だお前」

エスターク「それで。勇者ではないが魔王まで倒したというお前が、今度は我に挑むのか」
主人公「いや、そうじゃなくて、話があってきたんだよ」
エスターク「話だと。この、地底の魔王にか」
主人公「やっぱり魔王だよね。来てよかった」
エスターク「?」
主人公「こないだエビルマウンテンに行ったとき、なんか下にいるなあって思ったんだ。それで、とりあえず今度の週末行ってみようかなって」
エスターク「行楽地でも行くかのように…」
主人公「そうだ、ちょっと失礼。よいしょ」
ドゴオオン
エスターク「何だその、背中から下ろした巨大なものは」
主人公「卓袱台だよ。話をするのに必要かと思って持って来たんだ。重くて重くて、担いで歩いてるだけでHPが減った」
エスターク「お前それ毒くらってるのと変わらん」

サンチョ(担いでいたもの、卓袱台だったの…。大きければ魔王も座れるだろうっていう発想がビンビン伝わってきますぞ…。もう、この人は思考回路がアレだ…)

主人公「寝起きに押しかけてしまったようだから、まずコーヒーを淹れるよ。この辺で火を起こしてもいいかな」
エスターク「いいけども…いやホント何だお前」
主人公「そういえば名乗ってなかった。初めましてグランバニア王です」
エスターク「王?半裸でモンスター連れて魔王を殴り[ピーーー]毛の生えた僧侶のお前がか」

サンチョ(そうやって改めて並べられると、すごい変な人みたい…)

主人公「いや、半裸じゃなくて三分の一くらい…あ、メッサーラ、このヤカンにメラゾーマを頼むよ」
エスターク「ひとんちでメラゾーマはやめろ。宣戦布告か」
主人公「一瞬でお湯が沸くんだけど…」

サンチョ(一瞬で家も燃えますぞ…。サンチョの家は、サンチョの家は…全焼したのです…)

エスターク「出されたメラゾーマは三倍にして返すが、良いか」
主人公「じゃあ下の溶岩を借りるよ。じゃんけんで負けた人がヤカンを垂らそう。みんなおいで。ジャンケンポイ。…ベホマンか。大丈夫?…あっ、やっぱり駄目だ、もらい火した。大変だ、足(?)が全部燃える。ベホマーン」
エスターク「…」

サンチョ(何だろうこの、友達に自分の家族の無防備な日常見られたみたいな気恥かしさ…。もうやだ坊ちゃん早くグランバニア戻って!)

主人公「はい、コーヒー入ったよ。先代グランバニア王直伝、泥の様なコーヒー」
エスターク「まずそうだな」
主人公「まずいよ。走馬灯が見えそうな味がする」
エスターク「何故そんなものを勧める…」
主人公「どうぞ座って。砂糖とミルクは?」
エスターク「座らないとだめか。魔王は浮いているのが基本なのだが」
主人公「腹を割って話すために、こんな大きな卓袱台も持って来たんだし…できたら」
エスターク「ふむ。どうせ暇だ。しばし付き合ってやるか」

サンチョ(おおお…。魔王が、魔王が卓袱台でコーヒーを…。我が家の卓袱台で…って、やっぱりあれうちのだよね!勝手に持ち出されてた!そして魔王が座ってしまった!呪われる…うちの卓袱台絶対呪われる…!)
 
サンチョんちの卓袱台:何か危険なにおいがする。

エスターク「ブフー!」
主人公「わっ」

サンチョ(ヒィィィ!魔王が、うちの卓袱台にコーヒーを吹いた!)

エスターク「まずい。ザキかかっているような味がする」
主人公「だからまずいって言ったじゃないか。父さん直伝のコーヒーは明らかに様子がおかしいんだ。でも、だんだん癖になるんだよ」
エスターク「確かに。どんな味だったか、また一口飲みたくなる…ブフー!」

サンチョんちの卓袱台:何か危険なにおいがする。あとまずいコーヒーと魔王の唾液のにおいがする。

サンチョ(Noooooo!)

エスターク「うむ。まずい。もう一杯。それで、話とはなんだ」
主人公「休戦を持ちかけに来たんだ」

サンチョ(あああ卓袱台…うちの卓袱台…て、え?坊ちゃん、いきなり何言ってんの?)

エスターク「休戦だと」
主人公「うん。突然なんだけど、人間と休戦して、地上の魔物を減らしてもらえないかなって。多分、あなたが元締めでしょう?」
エスターク「…はっ」
主人公「うわっ…すごい鼻息。ベホマンが飛ばされた」
エスターク「これが笑わずにいられるか、この半裸。我がどれほど眠っていたのかはわからぬが、その間に人間どもはこうも間が抜けたのか」
主人公「ビアンカはそこが僕のいいところだって言ってくれるよ」
エスターク「休戦?戦いが止むのならそれは、人が魔族に徹底的に蹂躙されるか、時の魔王が人によって倒されるか、そのどちらかにしかありえない。――大体お前」
主人公「うわっ、急に身を乗り出すから、起き上がろうとしてたベホマンの足(?)がこんがらがっちゃった」
エスターク「お前は、何様だ」
主人公「グランバニア国王様だよ」
エスターク「たかだか一国の王が、この我と対等に取引をしようと?」
主人公「一国の王だけど、僕とここにいる仲間達はあなたを倒せるよ」
エスターク「…ほお」

サンチョ(ぼぼぼ坊ちゃん!一体何を仰ってるんです!魔王の空気がピリピリしてるじゃないですか、サンチョ、頻尿が再発しそうですよ…!もう、ちびりそう)

エスターク「我を脅すか。話に乗らなければ滅ぼすと?」
主人公「そうとってもらってもいいよ。あと、顔が近い…」
エスターク「…ふははっ」
主人公「わあっ、至近距離で鼻息…転んだベホマンの足(?)がついに固結びに…」
エスターク「面白い。続きを聞こう」どしん
主人公「あっ、座り直した振動で、固結びのベホマンが転がっていく…ベホマーン!」
エスターク「ベホマンいいからさっさと話さんか!」ベチン

サンチョ(ぶたれた…。勇者の父親が魔王に頭をはたかれた…)

主人公「痛い…」
エスターク「それで。我を滅ぼす力があってなお、そうせずに休戦を望むというのは、どういうことだ」
主人公「だってあなたを倒したら、繰り返しになるんじゃないかと…。しばらくしたらまた魔族が力を付けて、勇者がそれを討つ…」
エスターク「その通りだ」
主人公「それが嫌だから、戦うんじゃなくて休戦をお願いしたいんだよ」
エスターク「ふはっ」
主人公「あ…また…ベホマンが転がる…」
エスターク「お前は、人と魔族がどんなものか、その両方を知らぬのか。常識を知らぬのか。歴史を知らぬのか。それらが生み出す現実を知らぬのか」
主人公「…僕は多分、そういうことをほとんど全部わかっているよ」
エスターク「そうは思えん。だったらこんな馬鹿げたことは言うまいよ」
主人公「僕の父親は目の前で魔族にころされた。母親は魔族に利用され続けて、やっぱり目の前でころされた。僕は魔族に捕まって奴隷として生きて、ようやく抜け出したと思ったら魔族に奥さんを攫われて、二人共石にされた」
エスターク「何だその人生」
主人公「何だと言われても…」

主人公「でも…だから僕は、魔族と人間の間にどんなことが起こるのか、本当に知っていると思うよ」
エスターク「ならば尚更、何を言う。我はお前の生を踏み潰した魔族の長だぞ。休戦などと生ぬるい、斬りかかってきたらどうなのだ」
主人公「カタキだった魔王は、もう、倒した。それでおしまいだ。誰も戻らないし、僕は結局、全部に間に合わなかった」
エスターク「ならば、怒りは他に転嫁され継続するだろう。人間はそういう生き物だ。そしてお前が次に憎むべきは、魔族の王たる我ではないのか」
主人公「カタキも、魔族だから倒したんじゃないんだ。奪ったのがあいつだから、あいつを追ったんだ。だから僕は、あなたのことを何とも思わない」
エスターク「ほお…」
主人公「大きなクワガタかゲンゴロウみたいだなってくらいしか」
エスターク「ほおーう…」バッチコイ

サンチョ(ああ…うちの陛下がまたぶたれている…でも今のは仕方ないですぞ…)

エスターク「けっこう固いな、その変な冠。それで、何だ」
主人公「…最近は、戦うのが辛いんだ。見て、ここにいるモンスターは皆、僕の大事な友達だ。ぼこぼこにやっつけたのに、僕を慕って起き上がって、ついてきてくれた。彼らだけじゃないよ、国に戻れば、もっとたくさんいる」
エスターク「ふむ、確かにお前はモンスターをたらしこむ目をしているな」
主人公「うん。たらしこむことに関しては自信がある」
エスターク「洗ってない犬みたいなニオイもするしな」
主人公「お風呂に入らずに長期間過ごすことに関しても自信がある」

サンチョ(あああ…お世話係だった立場的にそれほんと許せない…。ここから飛び出して坊ちゃんの頭に消臭力をくくり付けたい…トイレ用のやつ…)

エスターク「それで、魔族に情でも湧いたか」
主人公「…戦闘が本当に辛いんだ。彼らと同種のモンスターが出て来たときなんて特にだよ。自分を切ってるみたいだ。前日の朝作った味噌汁を翌日の夜に飲むのと同じくらい、本当に嫌なんだ」
エスターク「その味噌汁は捨てろ」
主人公「僕はできたら、彼らと闘う理由が無くなって欲しい」
エスターク「お前の個人的なわがままを、人間と魔族という大きな土俵に乗せるのか。国民どころか世界を巻き込んで、大した帝王学だな」
主人公「王様だから、それぐらいしてもいいと思う」

サンチョ(あの人…真顔で言ってる…)

エスターク「…」

サンチョ(暴虐無尽な魔族の王黙っちゃったよ…)

エスターク「それならば、お前が戦闘に出向かずに引きこもれば万事丸く収まる気もするのだが…」

サンチョ(代案出してくれた…。なんかすいません)

主人公「そうはいかないよ。僕は勇者の父親だから」
エスターク「何…」
主人公「子供だけ戦わせて、父親が引っ込んでいる訳にはいかないよね」
エスターク「妙な気配の奴だと思ったが、勇者の親ならお前は天空人か」
主人公「天空人は僕の奥さんだよ。そうか、やっぱり勇者って天空の血が必要なんだ」
エスターク「それが奴の造ったルールなのだろうよ。しかし地上の人間どもは、それすらも知らんのか。踊るだけ踊って、哀れなことだな」
主人公「奴ってマスタードラゴン?あの人、そういうルールのことはあんまり詳しく言ってなかったなあ…」
エスターク「天空人でも勇者でもないお前が、奴を直接知っているのか」
主人公「助けたのが縁で、何度か背中に乗せてもらったよ」
エスターク「マスタードラゴンを助けた?…むしろお前が勇者のほうがしっくりくるな」
主人公「あはは、だったらもっと、僕も僕の両親も楽だったんだけどね。でも、ようやく現れた勇者は、僕の息子なんだ。こんなに小さいのに、天空の装備を付けて、ギガデインを放つよ」

サンチョ(こんなに、と手の平でサイズを示してらっしゃいますが…坊ちゃん、それはせいぜいスライムの大きさです。ほら、魔王びっくりしてる。マジで小さいなって言ってる。ああもう、あの輪の中に入って突っ込みたい!それ小さすぎんだろって怒鳴りたい!)

主人公「あんまり小さくて、戦闘に巻き込んでいいのか悩んだよ。できる限り連れて行きたくなかった。でも毎回こっそり置き去りにしてたら、迷彩のテントからスナイパーの眼力でこちらの動向を四六時中探る子になっちゃってね」
エスターク「にこにこして言うな。それは特殊なエージェントだ。なおかつストーカーだ。お前の息子は特殊なストーカーだ」
主人公「それでも、あんな小さい子に戦わせたくなかった。見なかったふりして、勇者だってことも隠してしまおうかと」
エスターク「…さっきから不遜な奴だな」
主人公「だって、子供が命のやり取りをする場所にいるのは、絶対に良くない。ましてや、世界を救うなんてものすごい荷物を背負って戦えというのは、酷だよ」
エスターク「やはりお前の天秤は不遜に傾いているぞ、勇者の父」
主人公「そうだね。僕はそうだ。でも、あの子言うんだよ。お父さん、伝説の勇者ってボクのことなんでしょ、行こうよ、僕はきっとそのために生まれてきたと思うんだって」

主人公「違うよって言えなかった。だって、その通りだから」
エスターク「まあ、その通りだな」
主人公「僕の父は、あの時代の人間の中で最強クラスだったと思うけど、勇者ではなかった。母も、天空人の血を色濃く残した人だったけど、勇者ではなかった。その二つの血を分けた僕も、勇者じゃない」
エスターク「ふうむ。お前はギリギリアウトな感じだな」
主人公「地上で三人の天空人にも出会ったけれど、彼女たちも勇者じゃなかった。天空人のお嫁さんをもらって、生まれた双子の片方が、ようやくあの装備に選ばれたんだ。選ばれた人間は、装備がくれる最強の力を持って、魔王に挑む。伝説のまんまだ。…あの子は、こんなに小さいのに」

サンチョ(ああ、ついに親指と人差し指で『こんなに』とかやり始めた…)

エスターク「本当に小さいな、勇者。マッチ棒くらいだ」

サンチョ(信じるなよお前も)

主人公「あなたは、天空の装備を近くで見たことは?」
エスターク「いい思い出は無いが、少なくとも一度はある。ううむホウレンソウ頭の小僧が頭に浮かんできた…」
主人公「あれね、伝説になるだけあって、すごくいい品なんだ。多分、天から人に与えられた最高のもので、だからこそ使える人間は勇者なんだろうね」
エスターク「ホウレンソウ野郎…頭の長い神官…素肌に鎧着たヒゲオヤジ…なんかだんだん思い出して来たぞ…」
主人公「でも鎧も盾も、傷だらけなんだ。あの子が装備する前から」
エスターク「当然だ!力いっぱいぶん殴ってやったからな!ひとの寝起き襲いおってムキー!!」
カーッ
主人公「!?」

エスターク「はっ…いかん…ちょっと取り乱して息的なものが出てしまった」
主人公「べ、ベホマン!今のでベホマンがやられた!転んだり足が固結びになったりしてダメージが蓄積してたんだ」
エスターク「ゴホン…何でもない、話を続けろ」
主人公「誰かザオリク使える人…いやベホマンか。どうしよう僕はザオラルここのところ成功してないし…。よし、仕方ない、リレミトしてルーラして教会行こう。お邪魔しました!」
エスターク「待たんかァ!!」ばっちん

主人公「痛い…」
エスターク「ここで帰るとかお前…馬鹿にしているのか。蘇生など後でいいだろうが。あまり無礼が過ぎると、グランバニアとやら滅ぼしに行くぞ」
主人公「ひどい…何でそんな魔王みたいなことを…」
エスターク「…お前…」

―しばらくお待ちください―

エスターク「そこ座れ。正座だ。ベホマスライムは脇に置け」
主人公「うう…。画面が黄色くなるくらいグーでぶつなんて…」
エスターク「確かにグーでぶったのはやりすぎだったかもしれん。で、天空装備が、どうしたと」
主人公「…だから、傷だらけで。魔王と戦った誰かが本当にいたんだなあって。もしかしたら、何人も」
エスターク「ホウレンソウ頭の話はやめろ。色々思い出してムキーってなって夜眠れなくなるだろうが」
主人公「あと、その勇者が現れるまでの途方もない犠牲も、きっとあったんだなって。それで」
エスターク「それでどうした。さっきから何が言いたい」
主人公「何だか、腹が立ったんだよ」
エスターク「…ふむ?」

サンチョ(…坊ちゃん、何を言うつもりなのですか…?ちょっと嫌な予感がしますぞ…?)

主人公「伝説と勇者は魔王を倒す道を作ってくれたけれど、残酷だった」
エスターク「お前はそれに、腹が立つと」
主人公「その流れの中でたくさん人がしんだから」
エスターク「ほうほう」

サンチョ(…サンチョもわかっております。坊ちゃんはその渦のど真ん中にいたのでしょう。しかし、坊ちゃん、それ以上は言ってはなりません…。だってそれは、神が)

主人公「本当のところ僕は、あなたじゃなくて、僕たちを伝説に引きずり込む流れの方を、滅ぼしたいんだ」

サンチョ(坊ちゃん…!)

エスターク「ほう、ほう、ほう。面白い」

サンチョ(ああ、魔王が笑っている。あなたは今、魔族の王を喜ばせるようなことを言ったのですぞ…)

エスターク「天に逆らい、魔王と勇者の図式そのものを無くしたいというか」
主人公「だからあなたに、休戦を持ちかけにきた」

サンチョ(駄目です坊ちゃん…!神の目を盗んでするそれは、悪魔の契約ですぞ!)

エスターク「わかって言っておるのか。お前、神を失うぞ」
主人公「それはたぶん平気だなぁ。願ったことはあるけど、そういえば祈ったことは無いんだ」
エスターク「そうは言っても、お前は精霊に愛されているだろう」
主人公「たまたま精霊と仲良くなったからだよ。僕はモンスターとも同じように仲良くなったよ」
エスターク「マスタードラゴンがそれを許すかな。お前の上にいる神とは奴だ。これは奴の作った図式だ。秩序を守るためなら、奴は人だってころすぞ。お前は雷に打たれた勇者の父を知らんのか」
主人公「マスタードラゴンのことは、あなたとの話が終わってから考える」
エスターク「くっく、お前は思ったほど馬鹿ではないな。交渉を、奴ではなくこちらに持ちかけてくるとは」
主人公「当事者同士で話さないと、進まないだろう?」
エスターク「当事者…ククク、駒の自覚があったか、結構」

エスターク「お前、予想以上に面白いな。ではこの魔王も真面目に応えてやろう」
主人公「そうしてもらえると嬉しいよ」

サンチョ(いやいやいやいや、こんな話、もしも天に聞かれたら…。駄目です、そ奴とこれ以上話してはなりません!)

エスターク「もともとはマスタードラゴンが我を疎うて地に封印した、それだけのことだ」
主人公「…すごいんだね、マスラゴン」
エスターク「ベギラゴンみたいに略すな。…だがしかし我の世話係を、奴は同じ地べたに住まうお前らに担わせた。我に対抗できるように、勇者という力をほんの一つだけ遣わしてな。…非力な人間どもに、残酷なことだ」
主人公「…多分、それなりに止むに止まれぬ事情があったとは思うけど…」
エスターク「古い事情などもはや関係ない。結果、人は魔物と凌ぎ合い、バランスが崩れると勇者が現れそれを正す、そんな世界が出来上がったのだ。天の連中は高みの見物でその秩序を見守るだけ、お前ら人間、そして今となっては我らとてただの駒だ。神とはそんなものだ。力があり天にいるだけで、元より誰も救わない」
主人公「…そうだね」

サンチョ(そうだねって…坊ちゃん…!)

主人公「でもそれは当然だよ」
エスターク「当然と言うか」
主人公「だって僕らは、彼らに飼われているわけじゃないからね。何もかも世話して下さいっていうのは、おかしいよ」
エスターク「飼われ、使われているのだ、人間は。今だってそうではないのか。我を封じるほどの力を持ったマスタードラゴンが天にいて、人のお前が我の前に立つ。お前がちを流し、天はそれを見ている」

サンチョ(魔王の言葉に耳を貸してはいけません!マジでダメです坊ちゃん!耳を塞いで立ち去って…おいちゃんの頼み聞いて!)

主人公「…僕もね、マスラゴンや天空城が復活したとき、この人たち自分で魔王倒しに行けばいいのにって思ったよ」

サンチョ(ちょ…坊ちゃん…!)

主人公「マスラゴンを助けて、トロッコから降りられなくて何十年も走り回ってたって言われた時には、ちょっと殴りたくなったよ」

サンチョ(ヒィィ坊ちゃぁんっ!!)

エスターク「あいつトロッコに何十年も乗ってたのか…」
主人公「僕はあのトロッコはむりだったけど。五秒で降りたくなった」
エスターク「そうか。…で」
主人公「子供たちの前で『お父さん、ちんさむだから超降りたい』なんて言えなくて…」
エスターク「で、マスタードラゴンだが」
主人公「でも凄いちんさむだった。もう絶対乗りたくないくらいのちんさむで…痛っ!!な…何故髪をイタタ」
エスターク「いい加減にしろ。それ以上、ちんさむという言葉を口にしたら、このずら長い髪引っ張ってぐるぐる振り回すぞ」

サンチョ(ああ…坊ちゃんが尾を掴まれた犬みたいな可哀想なことになっている…!ビアンカ様に怒られてる時とおんなじ!)

主人公「ふ…振り回されるのは無理…絶対ちんさむにな…」
エスターク「…」

ぶんぶんぐるぐる

―しばらくお待ちください―

主人公「…寒いどころか、凍結してもげるかと思った…」
エスターク「話の続きだ。そこ座れ。正座だ」
主人公「画面が黄色いから、ちょっと回復してからでもいいかな…」
エスターク「後にしろ。まず話せ。結局お前はマスタードラゴンへの信心を失ったのだろう」
主人公「…もともとそんな、信心とか、僕にはわからないよ。ただ、実際に神様に会って、その人が間の抜けたおじさんだったから、これは仕方ないんだなって思ったんだ」
エスターク「仕方ない?何がだ」
主人公「やっぱり自分の力で何とかしないといけないんだなあって」
エスターク「天を見限ったか」
主人公「そうじゃないけど。でも、マスラゴンおじさんは全知全能の神様じゃない、これは僕には重要なことだった」

サンチョ(ついに神をおじさんとか言い出したうちの陛下…)

主人公「神様がただのおじさんなら、完璧な慈悲なんてありえない。きっとあの人も僕らと同じように、自分や自分の周りを一番に守ろうとするだろう?それに救われたいなんて見当違いだ。自分で戦わないと」
エスターク「駒とわかっていてもか」
主人公「空の上の人がどう考えているかなんて、僕たちは気にしなくていいんだよ。だって、勝手に生まれて自分たちで生きてるんだから。僕はこの地上で、僕なりの最善を尽くす。それに神様は関係ないよ」
エスターク「…自覚は無くとも、お前はとうに天など見限っている。マスタードラゴンに信を置かれていながら、ククク、ああ、面白い」
主人公「…笑顔怖…」

サンチョ(駄目だこれ…。どうしよう、このままでは坊ちゃんが雷に打たれてしまう…。お願いです坊ちゃん、もうやめて…)

エスターク「で、お前の言う最善が、駒同士の結託か」
主人公「勇者が魔王を倒さなくていい世界になればいい。マスラゴンだって、それならきっとわかってくれる」
エスターク「だからマスラゴンはやめろ。ベギラゴンくらわすぞ。…仮にだ。我がお前に同意したとして。奴の作った秩序の破壊に、奴が賛同すると?」
主人公「…多分、最初は、勇者は絶対必要で、そうするより他になかったんだよ。でも、時間は流れるし、世界はだんだん変わる。秩序だって変わっていかないといけないよ。反対されたら、そう説明してみる」
エスターク「力を付けた魔王に対し勇者が現れるという流れは、もはや必要ないというのか。魔物に蹂躙され続け、それを打破する勇者の伝説をその身で体験してきたお前が」
主人公「うん。必要ないよ」
エスターク「ほお、言い切るな」
主人公「だって、僕は今回、勇者がいなくてもここまで来れた」
エスターク「…」
主人公「勇者じゃない、天空の装備を一つも持っていない僕だって、地の底のあなたにたどり着けるんだ。僕はここにいる仲間たちを、自分の足で一人一人集めたし、天空の装備に負けない道具だって、地上で手に入れた。上から導く力なんてなくても、僕は出会った人に背中を押されて魔王の前に立ったんだ」
エスターク「…ふむ。確かにお前はここへ来た」
主人公「あなただって。僕がここへ来たとき、刃を向けないのなら見逃すと言った。全てを滅ぼす魔王なのに」
エスターク「…それは、以前のホウレンソウ頭みたいな面倒は避けたかったからだが」
主人公「ほら、時間が経つと魔王でさえ考え方が変わる。あなたは破壊とさつ戮より面倒を避けることを選んで…そして今こうして僕と卓袱台で話している」
エスターク「ふむ」
主人公「『勇者と魔王』以外の道を、人と魔族は持っているよ。住み分けたり、ちょっと交わったりして、そんな風にきっと」
エスターク「…だから、天など構わず駒同士で休戦しろと」
主人公「うん」

サンチョ(でも坊ちゃん、あなたのしたいことはどうしたって、神への冒涜なんですよ…)

エスターク「…お前のそれは、王ならではの博愛か?それとも伝説と生きた者の使命感か」
主人公「?」
エスターク「魔王どころか、神をも恐れぬ行動の源は何かと聞いている」
主人公「そんな大層なことじゃないけど」
エスターク「大層なことだ」
主人公「うーん。だって、僕は魔物使いで、父親なんだ」
エスターク「それだけか」
主人公「それだけだよ。別に、普通だろう?」

主人公「改めて頼むよ。休戦してほしいんだ。お願いします」
エスターク「…」
主人公「あなたが魔物達を退かせなければ、僕の息子は必ずここに来るよ。そしてあなたと闘う。勇者だから。他の道に逸れることを、世界が許さない」
エスターク「…そしてまた繰り返すだけだと、お前は言うのだな」
主人公「うん」
エスターク「そうならない世にしたいと」
主人公「うん。少しずつでもいいから変わりたい。僕の子供たちが生きる次の世代には、きっと、そんな風に」

エスターク「…お前は、若い」
主人公「いや、見た目は8年マイナスだけど、立派な大人なんだよ」
エスターク「我から見れば、赤子のようなものだ。お前の知らないこの世の本性を、我はたくさん知っている」
主人公「…」
エスターク「半裸の王よ。世界は、お前が思うほど簡単ではない。人と魔物の関係も、そこに生じる争いも、複雑に絡まり合って癒着し、奇麗に剝がれるものではないのだ。我はそれを果てしなく眺めてきた」
主人公「…でも」
エスターク「お前より遥かに多くを知る我の言葉だ、聞け。我には、悠久の時続いてきた光と闇の争いが、簡単に収まるとは思えぬ。マスタードラゴンとて同じ思いだろう。我らは互いに、嵌り込んだまま抜け出せぬことを知っている」
主人公「…」
エスターク「お前は若くて、甘い」
主人公「でも…エスなんとかさん…」

サンチョ(結局名前覚えられなかったんですね…)

エスターク「結局名前覚えなかったなお前」

サンチョ(魔王も同じこと思ってた…。しかし、何にしても話は終わりです。悪魔の契約は結ばれず、神への反旗も降ろされる。坊ちゃんには悪いけれど、よかった…)

エスターク「半裸よ。幾年月かが経った後、力を取り戻した我は、マスタードラゴンを討ちに立つだろう。天と我の間にある人間どもは、滅びの縁に追いやられる。そしてマスタードラゴンの庇護の元、忌まわしい伝説が動きだすのだ。その目で見てきたであろう。その、抗えぬ力を」
主人公「…」
エスターク「人間のちだまりから現れた勇者が、我の前で剣を抜く。我が進むか、人がそれを止め戻すかの死闘だ。目を閉じずとも、浮かんでくるようだ。今となっては、何とも自然でありふれた流れではないか」
主人公「…自然でも、僕は嫌だ」
エスターク「嫌だと言って何とかなるなら、我とていつまでも地の底の玉座に甘んじてはおらぬ」
主人公「…」

サンチョ(坊ちゃん…そんな顔をなさらないでください。魔王にぶんぶん振り回されたりもしていましたが、坊ちゃんがグランバニアの国王陛下であること、誇りに思いますぞ…。さあ、帰りましょう)

エスターク「しかし、実に面白かったぞ!半裸」
主人公「?」
エスターク「ここ数百年で一番面白かった。それに…。経験則だけが全てというわけではあるまい」

サンチョ(…あれ?)

エスターク「協定への返答は保留する」
主人公「!?」

主人公「…どうして」
エスターク「数百年もの繰り返し、我とていい加減飽いておるのだ。お前の言葉は幼稚で愚かだが、それ故面白い。復活までの暇潰しには調度よかろう。そういうわけで、チャンスをやる」
主人公「チャンス?」
エスターク「お前は先ほど、自分たちに我を倒せると言ったな。その言葉、偽りないか」
主人公「…ないよ」
エスターク「我を倒すのはこの世を大きく傾けることだ。それほどの実力があると、その度量があると、お前は言うのだな」
主人公「…うん。そうだよ」
エスターク「此度、天が選んだ勇者とそのパーティも、同様か」
主人公「今回はみんなに内緒で来たからモンスターばかり連れてるけど、僕の家族は本当に強い。勇者と、その双子のきょうだいと、天空人だからね。彼らがいれば、絶対に負けない」
エスターク「クックック。言うではないか。では、その全力であれば、どれほどで我を倒せる」
主人公「…どれほど…。どうだろう。20か30ターン以内には」
エスターク「15だ」
主人公「?」
エスターク「消耗戦などくだらん。倒せるというなら、最短で倒してみせよ」

サンチョ(…え?何この流れ…)

エスターク「半裸よ。次は勇者を連れて来い。そして、各々15回の攻撃、その間に見事我を倒せたなら、認めよう。理想を語るだけではない、実力を伴う者たちであると」
主人公「…」
エスターク「その時には、お前に我の答えをやろう。魔物と人とが諍わぬ、次の時代とやらに賭けるか否かの答えを」

サンチョ(こ…これは一体どういう…)

主人公「え…でも、あなたを倒してしまったら、結局…」
エスターク「力を測るのに、全てを掛ける気はない。魂を別に残して待っていてやる」
主人公「魔王っぽいややこしさ…」
エスターク「地底の魔王を舐めるなよ。むしろお前らは、返り討ちに遭うことを心配するがいい。全滅するなら、話はそれまでだ」
主人公「…わかった。そのチャンスというのに、全力で挑むことにするよ」
エスターク「クックック…。待っているぞ。全く、数百年ぶりに面白い…」

主人公「あ…。そうだ。できたら、その」
エスターク「わかっておる。お前が一度ここへ来たこと、息子には言わぬ。素知らぬふりでいてやろう」
主人公「何だか、ありがとう、色々…」
エスターク「礼などいらぬわ、気色悪い。わかったらもう行け。卓袱台その他はきちんと持ち帰れよ。あ、そのまずいコーヒーはそのまま置いていけ。あとでまた飲みたくなる気がする」
主人公「今度これの泥レシピを持ってくるよ。…よいしょ。やっぱり重いな…呪いの卓袱台…」

サンチョ(…ついにあの人自分で呪いとか言った…!なんて言うか…ちくしょう!)

エスターク「ああ…それと、次に来る時は、半裸はよせ。なにか履いてこい」
主人公「だから僕は半裸じゃないよ」
エスターク「マントの下は半裸だろうが」
主人公「三分の一裸くらいだって。これ以上着ると邪魔だし、いいんだよこれで」
エスターク「強情な奴だな」
主人公「動きやすさを重視しろっていうのは、父の遺言なんだ」

サンチョ(…え?)

主人公「それに、戦う以外の道があるなら、迷わずそちらを選べっていうのも、父に言われた言葉だよ。どちらも正論だと僕は思うけど、時々理解されないなぁ」

サンチョ(もしかしてそれ、あの時の…。覚えてらっしゃったんですか、坊ちゃん…。旦那さまが亡くなって、20年以上の月日が流れても…。あの方のお言葉が、今でもあなたの真ん中を流れているのか…。駄目だサンチョ泣きそう…)

主人公「じゃあ、また」
エスターク「さらばだ半裸」
主人公「…家族の前でその呼び方は絶対にしないでよ…」
エスターク「どうしようかな」
主人公「魔王って性格悪…うっ、黄色い画面で卓袱台のダメージは辛い…どうしよう、コレ捨てて行こうかな…」

サンチョ(ちっきしょおぉぉぉぉ!!!)

―数日後―

エスターク「我が名はエスターク…。倒しに来たのかムニャ。違ったら帰って」
勇者「誰が帰るもんか!ボクは勇者だ!お前を倒しに来た!」
エスターク「…ん?誰が勇者だと?」
勇者「ボクだ!」
エスターク「…聞いていたのより全然大きいな…」
勇者「大きい?いつも子供だって驚かれるのに」
エスターク「いや、マッチ棒くらいのサイズだと思っていた…」
主人公「?何故そんな誤解を…」

主人公「えーと、じゃあみんな、ちょっとがんばって15ターン以内で倒そうか」
娘「え、どうして?」
主人公「うん、ほら、嫌なことは早く終わらせた方がいいし」
ビアンカ(何か考えてるわね…すぐわかるわよ。まあいいか、乗ってあげよう)「そうね、わかったわ。がんばりましょうみんな」
勇者・娘「うん!」

ボソッ「やっぱり半裸か…」

ビアンカ「ん?エスターク、今何か言った?」
主人公「何も言ってないと思う!」
勇者「…お父さんが珍しくきっちり断言した…」
ビアンカ「さあさあ、ドラム係の人、ほしふる腕環持った?15ターンだから、始めから全力で行くわよ」
エスターク「くっくっく…。さあ来い半裸」
娘「お父さん、初対面の魔王にまで半裸って言われてる…!」
主人公「…!虫!このクワガタムシ!」
勇者「お父さん落ち着いて!それ以上はボキャブラリーの貧困さを露呈させるだけだよ!」

たたかいのドラム!主人公の攻撃!勇者の攻撃!スライムナイトの攻撃!エスタークの攻撃でアイタタタ!……メラゾーマ!メラゾーマ!……やっぱりベホマスライム死亡!

エスターク「ぐぬぬ、やるな、半裸…!」
勇者「まだ言われてる!」
主人公「だから僕は半裸じゃないよ!いい加減にしてくださいバイキルト撲殺アタック!」

会心の一撃!
12ターンでエスタークを倒した!

勇者「ただいまサンチョ!倒したよ~地底の魔王!」
サンチョ「おお!勇者様!待っておりましたぞ~!坊ちゃんは?皆さんご無事ですか?」
勇者「うん!サンチョのほうがやつれてるね」
サンチョ「サンチョはもう、心配で心配で…。家には戻らず城で皆と祈っていたんですよ。世界と坊ちゃんの行く末が気になって食事も喉を通らず…」
勇者「世界とお父さんの行く末?」
サンチョ「いえ、なんでもありませんよ」

勇者「そういえば、宴の最終日に性懲りもなく抜け出した許すまじ親父が帰ってきた日…サンチョも破れたパンツ一丁で戻ってきたんだよね」
サンチョ「ええ…まあ…」
勇者「あの後、初めてお父さんが、嫌々じゃなく『みんなで一緒に戦いに行こう』って言ってくれたんだ。サンチョはお父さんの後つけてたんでしょ。何があったの?」
サンチョ「まあ…色々…。そんなことより、魔王はどうでした?」
勇者「大変だったんだよ、お父さんが攻撃15ターン以内とか言いだして…。最後の方殆ど意識なかったよ」
サンチョ「いやはや、ご無事で何よりです。ところでその、勇者様の後ろにいる…モンスターみたいな、子供みたいなのはなんです?」
勇者「ああ、プチタークって言うんだ。仲間になったの」
プチターク「プチタークだ」
サンチョ「??見たことのないモンスターですな」
勇者「だって、あのエスタークの息子だもん」
サンチョ「え…エスタークの息子?」
プチターク「そうだ。プチタークだ」
サンチョ「…!?」
勇者「エスターク倒したらすごろく場が開いて…。なんと、景品がこいつだったの!」
サンチョ「…」
勇者「それがね、面白かったんだよ。お父さんって、モンスターはえり好みしないでしょ。なのに、宝箱開けてこいつみたとたん、ちょっと呆けたみたいになって…そのあとすっごい嬉しそうな顔で、こいつのことぎゅーってしたんだよ。僕らにするみたいに」
サンチョ「…ああ…」
プチターク「お前の親父さん、無遠慮な奴だよな。セクハラで訴えるぞ」
勇者「仲間にできてよっぽど嬉しかったんだね」
プチターク「ふん。人間なんかと一緒にいてやるんだから、有り難く思えよな」
勇者「またそう言うこと言う。サンチョ、こいつ本当に生意気なんだよ!…どうしたの、聞いてる?サンチョ」

サンチョ(…成程、これが魔王の答えですか)

勇者「今度ね、プオーン迎えに行くんだ。覚えてる?サラボナの塔に来たすっごい強い奴!仲間にできるって、プチタークが言うんだよ。お父さんなんか、楽しみ過ぎて今すぐ行きたいみたいで。それは困るから、さっきラリホーされてた」
サンチョ「坊ちゃん…」
プチターク「誰かあの親父をしつけろよ…。魔物使い使いみたいなのはいないのか」
勇者「それがお母さんだから心配しないで。ああ、僕も楽しみだなあ。ちゃんと連れて行くって言ってくれたし。どんな奴かなあ、プチタークみたいに生意気かな。でもお父さんならきっと、絶対、そいつとも仲良くなれるよね」
サンチョ「…そうですなぁ」
勇者「…サンチョ、すっごいにこにこしてるね。僕らが帰ってきたのがそんなに嬉しいの?」
サンチョ「今回は特に、嬉しいですなあ。サンチョは昔から、坊ちゃんが喜ぶと、同じくらい嬉しくなるんですよ」
勇者「僕も、お父さんが嬉しいと嬉しいよ。お父さんの好きなものも好きだから、このプチタークのことも好きだよ」
プチターク「…俺は、周囲にラリホーされる親父は嫌だが」
勇者「だって、ねえサンチョ。お父さんはすごいよね」
サンチョ「…偉大な方です。本当にそう思います」
勇者「ねー」
サンチョ「あの方の力で、グランバニアはいい国になります。この国だけじゃなく、世界もきっと良くなりますよ」
勇者「あはは。大袈裟だなあサンチョは」

サンチョ「ふう、やれやれ。久しぶりの我が家だ。せっかく新築してもらったのに、ほとんど帰ってなかった…」
バタン
サンチョ「今日はいいことづくめだったなあ…。あの場で全てを聞いていた私は、感慨もひとしお…しかし、喜び過ぎて疲れた。座ろ座ろ」
どすん
サンチョ「よいしょ、と。ああ、家でこうして卓袱台に座ってるのが一番落ち着…」
デレデレデレデレデレ…

サンチョんちの卓袱台は呪われていた!

サンチョ「な…なにいぃー!!!」

サンチョ「これは…!ナチュラルに座ってしまったが…そういえばいつの間に戻されて…!ホアッ!?なんと、腹にくっついてしまった!」

サンチョは卓袱台を離れることができない!

サンチョ「オオウ…」

カサッ
サンチョ「あ、置き手紙が置いてある!この下手くそな字、間違いなく坊ちゃん…何か呪いを解く方法が…!『借りタよ。返スネ』…それだけかチックショウ!」

サンチョは卓袱台にくっついている!
卓袱台からは、まずいコーヒーの匂いがする!魔王の唾液の匂いがする!

サンチョ「くっ…駄目だ動けない…。卓袱台が腹にびったりくっついている…ええい剝がれろ!えい!えい!」
シュバ!ビリビリビリ
サンチョ「…駄目だ服が剝がれた!なんてことだまたパンツ一丁だ!そしてパンツは卓袱台にびったりくっついている!待てよ、ここで接続しているのなら、無理せずに…。よし、かくなる上は、卓袱台ごと…パンツを、脱ぐ!ほああ!」
ビリビリビリ
サンチョ「パーンツが破けたあ!」

サンチョ「はあ、はあ…とうとう全裸だ…力が尽きそうだ…。しかもこの、旦那さまのコーヒーの、走馬灯が見えそうな匂い…!そこに重ねてのしかかる、魔王のカブトムシっぽい匂い…!ぐ…ぐああ!!!」

もはやサンチョが呪われている!

娘「ねえお母さん、お父さん寝ながらフニャフニャ笑ってるよ」
ビアンカ「今日は嬉しいことがたくさんあったみたいだから。いい夢を見ているんでしょうね」
娘「じゃあ、起こさないようにしないとね。またどっか行っちゃうかもしれないし」
ビアンカ「ふふ、装備をはぎ取ったから大丈夫よ。あやしい動きを見せたら、お母さんが『くきっ』とやってあげる」
娘「わたしもやる~!」
ビアンカ「だから、お父さんと遊びたいのなら起こしたら?四つ葉のクローバー1万枚集め対決、9982枚対9983枚で止まってるんでしょう?摘んだクローバーの山が発酵して、庭で異臭を放ってるわよ」
娘「でも、せっかく幸せな夢を見てるのに」
ビアンカ「いいのよ。だって今は、起きても幸せなんだから」
娘「そうなの?お父さん、そんなに幸せ?」
ビアンカ「今まで見たことないくらい、幸福な顔をしているわ」
娘「うーん…違いがわからないなあ…。お父さん、いっつもにこにこしてるから。ああ、でもこのホッペ、幸せそうかも。えいえい」
ビアンカ「きっと、ようやく色々降ろせたのね。あなたたちのお父さんは、にこにこしながら、勇者ごと世界を背負っていたから」
娘「…うん。そうだね。わかってたよ、わたし」

ビアンカ「あんまりそうやってほっぺをつまむと、ちぎれるわよ」
娘「お父さんがわたしたちを連れて行きたがらない理由も、ちゃんとわかってたの」
ビアンカ「…あらまあ。親の心子知らずなんて言葉、嘘ね」
娘「こんなに大事にされたら、わかるよ。八年もたって知らない人同士になっちゃったのに、一生懸命お父さんになってくれたんだもん。わたしたちにはあんまり見せなかったけど、お母さんのことも、死に物狂いで探してたもん。見すぼらしい半裸で苛烈な天然だけど、わたしお父さんが大好き」
ビアンカ「最後の言葉の後半だけ聞いたら、お父さんきっと喜ぶわ。ほらほら、ホッペが赤くなってきた。そろそろ放してあげなさい」
娘「大好きだから、わたしたち、とっても苦しかったの…」
ビアンカ「?」

娘「お母さん、わたし、知ってたよ。お父さんが、自分と同じ思いさせないようにって、みんなが寝た夜中にこっそり危ない場所に行って、戦いたくないモンスターと戦って、必死に強くなってくれてたこと。お母さんが毎晩寝ないでそれを待ってたこと」
ビアンカ「…まあ…」

娘「戦うときはいつも先頭でみんなを庇って、なのに回復は自分に最後にかけること。どんなに苦しい消耗戦でも、必ずメガザル分のMP残してたことも、知ってるよ」
ビアンカ「…」
娘「本当はお父さんが一番、家族を失くすのを怖がってたことも。魔物に向かうお父さんの背中から、もうこれ以上は嫌なんだって、悲鳴が聞こえてくるの。切なくて、涙が出るの」
ビアンカ「…そう…そうね…。ああ、泣かないで」
娘「終わってほしかった…」
ビアンカ「大丈夫よ、終わったの。だからあなたも泣かないで」
娘「もう、いいんだよね…。お父さん、もう怖いことなんかないんだね」
ビアンカ「そうよ。でもほら、ホッペが痛くて涙目になってるわ。いい加減放してあげて」
娘「駄目なの、今度は嬉しくって涙が出そう」
ビアンカ「うん、嬉しくて、幸せね。今日は何だか、この国中が幸せそうに輝いて見える」

しかしサンチョは呪われている!

「ぐお…もう許さん…許さんぞ…!半裸、半裸、あの半裸ァァァァ!!!」


新たな魔王が誕生しつつ、おやじが半裸を認めない:完

ヒマな日曜日にお付き合いくださって有難うございました。
おやすみなさい。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年11月06日 (日) 01:13:16   ID: QeSC5oID

笑ってたのに最後でつい涙が…。
ドラクエ5がもっと好きになった。
久しぶりにまたやろうかな。

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