竜「若い娘を生け贄に捧げよ」(139)

竜「毎月、第一月曜日に捧げよ」

竜「それも二次成長が始まる前の瑞々しい娘を、だ。我は高貴なる竜の一族。汚れなき無垢な娘しか食わぬのでな」

竜「とはいえ我はロリコンではない。園児や小学生低学年は範疇外である事、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

竜「…なんだその目は。ロリコンではないと言っておるだろうが」

竜「だから、違うって。違います。あんまりしつこいと村にブレス放つけど?」

竜「…すまぬ、いささか感情的になってしまったようだ。我とあろう者が自分を律する事ができぬとは…反省せねばなるまい」

竜「この話、貴様等村の人間にとって悪くはあるまい?毎月一人を差し出せば村が襲われずに済むのだ。我とて無駄に人間と争うつもりは無い。互いの為の契約だと思うが、どうか?」

竜「ふむ、どうしても人間を食べなければならないのか、か…」

竜「我ら魔物は、ただ食事をし栄養をとるだけでは生きていけぬのだ。魔王様より造られた魔導の生物である我らは、何より魔力が必要である」

竜「基本的に、人に魔力は宿らん。だが人間の、それも汚れなき少女の魂は、魔物の体内で魔力に変換されるのだ。ゆえに我ら魔物は人間を襲い食らう」

竜「まぁ確かにゴブリンやスライムのような魔物を食べてもいいんだが…その…ねぇ?」

竜「あんなゲテモノより、可愛い少女の方が、ほら…さぁ?」

竜「…ゴホン。つまりだ、我は月一で少女を食らわねば生きていけぬ、という事だ」

竜「我を哀れむか人間よ…かよわき者を食ろうてまで、生きようとする我を…」

竜「だがな、これは世界の仕組み…理…魔物として我が存在する為の方法なのだ…」

竜「で、あるからして」

竜「来月からヨロシク」

オレノタイヨウガーアーツイーカラー
モリモリ ウォーオ オオーオー

・ ・ ・ ・ ・

~冒険者ギルド、受付~

村長「…ってな事があっただよ。どうか助けてけろー!」

受付「分かりました、急いで依頼書を発行します。ですが竜を相手にできる冒険者がすぐ見つかるかどうか…」

村長「そんなぁ…頼むだよ、おらの娘は若くて綺麗だ…生け贄になんかしたくねぇだ!」

受付「…勇敢な冒険者が来ることをお祈り致します」

村長「あぁ…」

ヘタッ

村長「神様も仏様も…この世にゃねぇのか…ひでぇだよ…おぉぉ…」

その時である。
ギルド受付に近づく女がいた。
づかづかと、乱暴に
いかにも粗暴な振る舞いで
しかも肌の露出が多い鎧を身にまとい
私ぁ歩く猥褻物でござい、といわんばかりの女が。

ドカッ

?「報告に来た」

受付「あ、女騎士さん」

女騎士「どうやらあの巣にはまだオークが隠れているようだ。必要なら言ってくれ」

受付「分かりました、いつもありがとうございます。書類はいつもの通りにまとめておきますね」

女騎士「あぁ、頼む」

村長「あ、あんたは…冒険者か…?」

女騎士「うん?そうだが」

村長「た、頼むだよ!おらの村を助けてけろ!竜を、竜を退治してけろ!」

女騎士「竜、だと…?」

ガシッ
ムナグラ ツカミー

女騎士「おいジジイ、お前は竜がどんな魔物か知って私に退治してくれなどと言っているのか?」

村長「ひぃっ…」

女騎士「あんな巨大で獰猛な魔物と戦えと…それは私に死ねと言っているようなものだぞ?」

受付「ちょっと、女騎士さん…」

女騎士「確かに私は冒険者だ。報酬を目当てに危険な事を請け負うさ…だが何か勘違いしちゃいないか?」

女騎士「こちとら慈善事業やってんじゃあないんだ。お前が死のうが村が焼かれようが知ったこっちゃ無いのさ」

村長「ひぃぃぃぃぃ…」

女騎士「そうだな…報酬を100万G出すなら考えてもいいぞ」

村長「ひゃ、100万G!?」

女騎士「まぁ無理だろうな」

ポイッ
ドスン

村長「ひぎゃっ」

女騎士「物好きな命知らずなら、あるいは助けてくれるかもしれんな。ははははは!」

村長「ぐぅっ…くぅぅぅぅぅ」

受付「女騎士さん…」

女騎士「そんな目で見るな。私は現実を教えてやったまでだ」

受付「ですが…」

女騎士「ここは…ギルドは金が全てだ。冒険者が命を張るのは金の為だけなのだから…」

女騎士(…)

女騎士(そうさ、金ではなく正義感で助けてくれる奴なんかいない)

女騎士(もしそんな奴がいたら、何故あの時私を助けてくれなかった…)

女騎士(このジジイと同じ無力な者が泣きついても、誰も助けてはくれなかった)

女騎士(そうだ、それがこの世界だ)

女騎士(だから、このジジイの村が竜に襲われても…仕方がない事だ…)

女騎士「ではまた明日来る」

受付「あ、はい…」

テクテクテク
バタン

受付「…」

受付「女騎士さん…」

・ ・ ・ ・ ・

~村、村長の家~

村長「うぅう…」

嫁「どうすんだい、このままあの竜のいいなりになるつもりかい!?」

村長「そうは言うがよ、冒険者に頼みでもしなけりゃ、竜なんてどうにもならないだよ」

嫁「ならその冒険者様はどうしたんだい、あんたはそれを連れてくる為にギルドに行ったんだろ!?」

村長「それはさっきも話しただよ…竜を相手にする冒険者なんてそうそう見つからないだよ」

嫁「まったく言い訳ばかり…情けない男だねあんたは!」

村長「…」

村長(好き勝手言いなさる…)

嫁「あぁ…いったいどうなるんだい、この村は…私の娘は…」

ガチャリ

?「ふぁ~あ、うるさいなぁ。目が覚めたじゃん」

妻「娘…」

村長「おめぇ、部屋でいなきゃ駄目じゃねぇか、竜が来るかもしれねぇだぞ!」

娘「はぁ?来月の第一月曜日まで大丈夫って話だろ、いちいちうるせーんだよジジイ!」

ブンッ
ボグッ

村長「ぎゃっ!」

村長(き、強烈なローキック…今のでおらの右足は折れただ…)

娘「もういっちょ!」

ブンッ
ボグッ

村長「あぐぁっ!」

村長(間髪入れずに膝への前蹴り…今のでおらの膝は破壊されただ…)

ガクッ

村長「む、娘…何するだよ…父親になんて仕打ちだぁ…」

娘「けっ、うるせージジイ!」

プッ ペチャッ

村長「親の顔に唾を吐き捨てるのが娘のやる事だか!」

娘「だぁぁもう!うるせーってンだろうがよぉ!」

ガシッ アイアンクロー

村長「ひぎっ…!」

ミシミシミシ

村長「頭蓋骨が…頭蓋骨が割れる!」

娘「娘、娘って…私は一度だってあんたを親だなんて思ったことは無ぇよ!」

ミシミシミシ

娘「私がオークの群に襲われた時、あんたは何をしていた…泣きながら助けを求めていた私に…何をしてくれた…?」

ミシミシミシ

娘「何匹ものオークに輪姦され絶望した私に…何をしてくれた…何も、何もしてくれなかったじゃないか…なのに、今更!父親の真似事を!どの面を下げて!やるっていうんだ、あんたは!」

ミシミシミシ

妻「止めなさい娘、それ以上はいけない!」

娘「ババア…ちっ」

ポイッ
ドスン

村長「ひゃんっ」

娘「この先あんたらと過ごすより、いっそ竜に食われる方がよっぽどマシだ…」

村長「なっ…」

娘「あぁ、そうさ…決めた。私は食われる。食われてやる…竜に…食われてやる!最初の生け贄は、私だ!ははははは、ははははははははは!」

村長「む、娘…ど、どうしてこうなっただ…」

ガクッ

村長「おおお…お、おおおおお…」

・ ・ ・ ・ ・

それからなんやかんやあって
次の第一月曜日になった。

娘「…」

村長「…」

妻「…」

村長(とうとうこの日が来てしまっただ…おらは、自分の娘を生け贄にしてまで村を守ろうとしている…愚かな父親だぁ…(^_^;)

娘「ふん、なんて顔してんだよ…私がこの身を犠牲にして村を救ってやるっていうんだ。ちったぁ誇らしげにしたらどうだよ」

嫁「娘…」

村長「だども…また来月には新たな生け贄が必要になるだ…何より、おらは自分の娘をっ…ぐぅっ…」

娘「…」

娘「…」

娘(ふん、最後まで父親面か…こいつらとおさらばできるから、もっとスッキリすると思っていたけど…案外モヤモヤするもんだな)

嫁「…どうしてこうなった」

村長「嫁…」

嫁「それもこれも、あんたが冒険者を連れてこなかったからだよ!この役立たず!なにが村長だい!肝心な時には何もできないお飾り村長が!」

ブンッ バシィッ
ビンタ

村長「くっ…」

娘(今更何を…自分もその役立たずである事を棚にあげて…人任せで何もしない分、一番たちが悪いんだよ、このババアは)

嫁「この!この!この!」

ブンッバシィッブンッバシィッブンッバシィッ
ブンシャカブンシャカブンシャカ

娘(!?)

ブンシャカブンシャカ

ビガッ ビガッ

村長「このBGM…りゅ、竜だ!竜が来ただよ!」

ブンシャカ ビガッ

ガ ン バ ン ベ !

竜「くぉぉぉぉぉん!」

嫁「あ、あぁ 来た…」

娘「さて、じゃあ、まぁ…行くわ」

村長「む、娘…」

娘「ま、これでとりあえず1ヶ月は大丈夫な訳だし。その間にちゃんと冒険者でも雇いなよ」

テクテク

娘「…」

ガチャリ バタン

村長「あぁ…娘…娘が…行っちまっだだぁ…あぁあ…」

ブルブルブル

村長「あああああああああああああ!」

ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!
ブツチチブブブチチチチブリリィリブブブブゥゥゥゥッッッ!

・ ・ ・ ・ ・

竜「くぉぉぉぉぉん!」

バサッ バサッ

竜「さぁ人間共よ、第一月曜日が来たぞ。生け贄を差し出すか、村が焼かれるか…答えを訊こうか!」

テクテク

竜「ん?」

娘「私が答えだよ」

竜「…」

娘「さぁ、とっとと連れて行くなり食うなりしなよ!」

竜「…いやいやいや」

タメイキ ハァー

竜「お前、ババアやんけ」

娘「はぁ?私はまだピッチピチの17歳だっつーの!」

竜「…」

タメイキ ハァー

竜「違う違う、そうじゃ、そうじゃない。我が所望してるのは若い娘な」

娘「17歳つったらじゅうぶん若いだろ」

竜「馬鹿かオメー。我からしたらクッソババアだ、んなもん」
娘「ロリコンかよ」

竜「いかにも!もう取り繕うの止め!我はロリコン!是非も無し!」

娘「うわぁ」

ドンビキ

竜「はい来たー。人の趣味嗜好を理解しない奴。誰だって好みとか性癖とか、人には言いづらいものがあるだろうが」

娘「あんたは竜だけどね」

竜「細かいな。とにかくだ、我はもっと若い娘を所望する。一歩も引かん、引かんからな」

娘「確固たる意志を持ったロリコンだな。今月は私で我慢してくれよ」

竜「やーだー!若い娘!若い娘じゃなきゃ、やーだー!」

バサバサ

娘「駄々をこねて翼をはためかせるんじゃあないよ!」

竜「我がこの日をどれだけ楽しみにしていたか分かるか!?日課のオナニーを禁じ、酒もタバコも禁じ、夜更かしせず早寝早起きを心がけた!全ては今日という日の為に、だ!」

娘「お、おぅ」

竜「健全で清らかな体になって、若い娘を受け入れたかったのだ…なのに!これではあんまりじゃあないか!あんまりじゃあ、ないか…」

ウルッ

娘「竜、お前泣いているのか…」

竜「ぐぅっ…我は恥ずかしい。あんなにウキウキしていた自分が…過去最高に浮かれていた自分に…腹がっ、たつ!」

バサバサ

竜「我は怒った。そう…これが逆鱗に触れた、というやつだ!」

バサバサ ゴウゴウ

竜「ちんけな村ごと、貴様のようなババアは吹き飛ばしてくれようぞ!」

バヒュー

竜「ははは!家が吹き飛んだぞ!」

バリバリバリ バヒュー

竜「ははは!二件、三件、まだまだ飛んでいくのだろうな!」

バヒュー バヒュー

娘「や、止めろ!」

竜「止めろ?止める理由も意味もない。このまま全ての家を吹き飛ばしたあとは、我がブレスで綺麗に焼き払ってやろう、ははははは!」

バヒュー

村人達「あれー」

村人達「うわー」

村人達「助けてー」

バヒュー

竜「見よ、若い娘を差し出していれば、あの人間達は死なずに済んだのだ。貴様がババアであるばかりに、死ぬのだ、奴らは」

娘「くっ…」

ダダッ

村長「や、やめるだ!」

娘「っ、ジジイ!何しにでてきた!」

竜「ほう、村長が今頃来たか…あれほど若い娘を差し出せと言ったのに…この村が滅ぶ道を選んだか、愚か者め!」

村長「た、確かにおらは愚か者だ…だども、おらは!」

ダダダッ

竜「なんだ、かよわき人間が私に刃向かうか…だが武器も持たず何ができる!」

村長「…」

村長「負けるな…僕らの…ムテキナイン…」

娘「!」

娘(この歌は…)

・ ・ ・ ・ ・

『まけるなーぼくらのーむてきないんー』

『なんだぁその間抜けな歌は?』

『しらないのパパ?せいぎのみかた、ムテキナインだよ!』

『さぁ、知らねぇだ』

『わたしねー、おおきくなったらムテキナインのムテキピンクになるんだ!』

『ほー、だったらおらはワタナベ司令官にならねぇとなぁ』

『あーっ、しってるんじゃん!』

『ははは、正義の味方か…いい目標だ。その気持ち、忘れず持ち続けるだぞ』

『うんっ!』

・ ・ ・ ・ ・

娘「正義の…味方…」

バサバサ
ビシッ バシッ

村長「ぐぅっ、すごい風圧だ。それに石が飛んできて…だども、おらは!」

ジリジリ

竜「な、何なのだ貴様は…何故我に向かってくる!飛び交う石つぶてで、貴様の体はボロボロではないか!」

ニヤリ

村長「何故…?『誰かを助けるのに、理由がいるかよ!』」

娘「あの台詞…ムテキナイン最終回のムテキレッドの!」

竜「ぬぉぉぉ!貴様は!危険だ!今!ここで我が滅する!」

スゥー

娘「竜が息を…あれはブレスの予備動作!危険だ!ジジ…父さん!」

村長「…父さんと、久しぶりに呼んでくれただな…あの世に行くにゃあ、いぃ土産ができたぁ」

ニコッ

娘「父さ…」

ダダダッ

村長「うぉぉぉぉぉ!」

竜「馬鹿め、一直線に来おって!ブレスで骨まで消し炭にしてやる!」

※竜は独特の発声法なのでブレスの予備動作中でも喋る事ができるのだ!

村長「いんや、消し炭になるのは、おめぇの方だぁ…!」

フク バサー

村長の体には何か宝石のような物が巻き付けられていた。

娘「あ、あれは…!」

村長「この村はかつて魔法石が採れる事で有名だっただよ…これは村の最後の、とっておきさぁ…!」

ガシッ

竜「むうっ、下等生物が我に抱きつくなど!」

村長「さぁ、一緒に行くだよ…この石に封じられているのは分解魔法…あたりには被害を出さず、おめぇとおらだけを綺麗さっぱり消し去ってくれるだよ!」

竜「ぬぁぁ!?」

村長「あとは魔法石を発動させるだけだ」

竜「ぬぅぅ、離れよ、離れよ!」

ブンッ

村長「離れねぇだよ…死んでも離れねぇだよ!」

娘「父さん!」

村長「じゃあな娘…なぁに、村はこんなになっちまったが生きてりゃ…なんとかなるさぁ」

娘「…」

村長「さて、こいつで本当にあばよだ!」

ピシッ

村長「魔法石よ、その内なる呪法を解き放て!この身と共に悪しき魔を消し去れ!」

パーパッパラー

・ ・ ・ ・ ・

こうして竜は大量の魔法石により分解され消えた。
村、村人、村長。
その犠牲は大きいものであったが
ともかく娘は生き残った。



そう、竜はこの世から消え去ったのだ!



と、思われた。
誰もが、思っていた。

村長が使った魔法石の中には
まじりものが、あった。
それはとても珍しく
村長もそんな物がまさかあるなどと思いもしなかった。
その魔法石に封じられていたのは

『転生』

死んだ者の魂を再びこの世に呼び戻す
禁忌の魔法。

その転生魔法は
同時に発動した分解魔法と
あと、なんやかんやでいろいろあって
なんか、まじヤバい。


竜の魂は転生した。
人間の女として、過去転生した。


なんやかんやで成長して
冒険者となった。

かつて竜であった、それは
今ではこう呼ばれている

『女騎士』

と。

その夢に出てくる、少女と魔物は
どちらもうつろな目をしていた。

少女は終わらぬ陵辱に絶望し
その瞳は黒く沈んでいた。
魔物はその強大な力ゆえに孤立し
その瞳は鈍くくすんでいた。

なぜだか分からないが
その夢をみると胸が痛んだ。
女騎士は、それが不思議であった。

あぁ
この胸の痛みの理由を知りたい。
いつしか女騎士はその生き方に意味を持つようになった。

今宵これより始まりまする物語は
そんな女騎士の不思議な旅の記録でございます…

ズカズカズカ

女騎士「…」

受付「あっ、女騎士さん」

女騎士「新しい依頼を確認したい」

受付「はい、ええと…そうですね、二件の依頼が追加されています」

女騎士「内容を」

受付「ひとつはオークの駆除、もうひとつは逃走したエルフの捕獲です」

女騎士「エルフ…捕獲、か…」

ヒソッ

受付「この依頼は避けた方がいいかと。ある国の大臣が極秘で依頼してきたいわく付きですので…」

女騎士「ふむ…国単位の依頼となると、確かにやっかい事になりそうではあるな」

受付(あっ、興味持ってる顔だ…まずったなぁ…)

女騎士「いいひつまぶしになりそうだ」

ひつまぶし「呼んだ?」

女騎士「呼んでない」

受付「とっとと失せろ、ベイビー」

ひつまぶし「さよか…」

女騎士「いい暇つぶしになりそうだ」

ニヤッ

受付(あぁ…ザ・シェフみたいな笑い方してる…)

女騎士「エルフ捕獲の依頼、受けよう。細かい手続きはいつも通り任せる」

受付「はぁい…完了したら呼びます…」

女騎士「任せた」


なんやかんや。

受付「女さん、女騎士さーん」

女騎士「ぬうっ、名字の後にフルネームで呼ぶ病院のアレで呼ぶんじゃあない!」

受付「はーい。ささっ、手続きは終わりました。資料をお渡ししますね。あと、今回は依頼者が依頼者なので、直接連絡は取らずに、ギルドを介して下さいね」

女騎士「分かった」

女騎士「ではまたな」

ズカズカズカ

受付「はい、また」

受付「…」

受付(はぁ、女騎士ったら…厄介事が好きなんだから)

受付(でも、何だか嫌な予感がする…エルフは人間との関わりを嫌う種族。それが逃げ出す、なんて事は、恐らく…)

・ ・ ・ ・ ・

~そのころ、とある森にて~

ひつまぶし「はぁ…今日も誰にも食べてもらえなかったぶし…」

ションボリ

ひつまぶし「僕の存在価値は食べてもらう事ぶし。それさえ奪われたら生きている意味など…」

ガサッ

ひつまぶし「っ気配!?」

?「あ…」

ひつまぶし「?」

ブルブル

?「あ、う…」

ひつまぶし「君は誰ぶし?」

?「わ、私は…エルフ…」

ブルブル

ひつまぶし「ひどく震えているぶし、とりあえずこの温かい出汁を飲むぶしよ」

エルフ「出汁…?」

ひつまぶし「上質の昆布のみを使った美味しい出汁ぶし。体が温まるぶしよ」

エルフ「あ、ありがとう…ございます」

ホカァ…

エルフ「んくっ…」

エルフ「美味しい…です。それに、温かい…」

ひつまぶし「よかったぶし」

エルフ「ありがとうございます。ここ数日何も飲まず食わずだったから…本当に助かりました」

ひつまぶし「事情は分からないけど、大変そうぶしね。僕にできる事はこれくらいしかないから、好きなだけ出汁を飲むといいぶしよ」

エルフ「はい、ありがとうございます…」

ジーッ

ひつまぶし「?」

エルフ「…」

ゴクッ
ジュルリ

ひつまぶし「どうしたぶしエルフさん、よだれが出てるぶしよ」

エルフ「あら、私ったらはしたない…」

ジーッ

ひつまぶし「何だか視線が怖いぶし…」

エルフ「…」

ジリジリ

ひつまぶし「何故無言で近づくぶしか?」

エルフ「…」

ジリジリ
ジュルリ

エルフ「…」

ひつまぶし「ま、まさかエルフさん…僕を…」

エルフ「…」

エルフ「…!」

ダダッ

ひつまぶし「ちいっ!」

サッ

ひつまぶし「いきなり襲うなんて酷いぶしね」

エルフ「ごめんなさい、でも私…空腹で…もういっぱいいっぱいな、の…!」

ハァハァ

ひつまぶし「彼岸島みたいな荒い息づかいしやがって…極度の空腹に、いきなり僕みたいな高カロリーのものを食べたらよくないぶしよ!」

エルフ「でしょうね。弱った胃腸では消化が不完全になるわ…でも、もう無理、私、早く何か食べないと…気が狂いそうなの!」

ハァハァ

エルフ「だから、ね…?」

シュイン

ひつまぶし「なっ、消え…!?」

シュイン ガシッ

ひつまぶし「ぐぬっ!」

エルフ「うふふ、つぅかまぁえたぁぁぁ…」

ジュルリ

ひつまぶし「ちいっ、捕まったぶし!」

エルフ「あぁ…おいしそう…」

フワッ

エルフ「ふっくら鰻とつやつやご飯…いい具合に混ざっているわ…」

ガサゴソ

エルフ「確か、まずはそのまま食べるのよね…」

パクッ

エルフ「んっ…くっ…」

ゴクン

エルフ「ふわぁぁぁ…おい、しい…」

ひつまぶし「くっ、どうなっても知らないぶしよ!」

サッ

エルフ「と、言いつつ薬味を差し出すんですね…」

ひつまぶし「こうなったらもう、美味しく食べてもらうしかないぶしからね」

エルフ「ネギ、わさび、刻み海苔…それにこの赤いのは…?」

ひつまぶし「カリカリ梅を細かくしたものぶし。それは僕が考え出したオリジナルぶしよ」

エルフ「へぇ…」

ひつまぶし「鰻と梅干しは食べ合わせと思われがちぶしが、これが案外いけるぶしよ。梅のさっぱり感が鰻のしつこさを消す役割をするぶし」

エルフ「じゅるり…そんな話を聞かされたら、もうっ…!」

ヤクミ ファサー

エルフ「では、早速…」

ガツガツ

エルフ「!」

ガツガツ

エルフ「これは…薬味を入れる事で、味わいが複雑で重厚に!」

ガツガツ

エルフ「ネギとわさびのツンとしたアクセントが鰻のうまさを引き立てて…そこに海苔の風味、梅の触感が加わり…これは…口の中がオーケストラを奏でるがごとく!」

ガツガツ

ひつまぶし「いい食べっぷりぶし」

エルフ「ふぅ…ふぅ…」

ひつまぶし「では、最後にこの出汁をかけて…かきこむぶしぃぃぃ!」

エルフ「あっ、いいっす。満腹っす」

ひつまぶし「んなぁぁぁ!?」

ガーン

ひつまぶし「もう…食べては、もらえないぶしか?」

エルフ「無理っす、腹破裂するっす」

ひつまぶし「そんな…ここまできて…最後のお楽しみを楽しまないなんて!」

エルフ「もう満足したっす」

ひつまぶし「なんて…なんて日だ!」

コトゥーゲ…

エルフ「お腹いっぱいになったら眠くなってきましzzz…」

寝た。

エルフ「zzz…」

ひつまぶし「くそっこのアマ!さんざん食って寝やがった!ファッキン!Fuckin' Jap!」

エルフ「!」

ムクリ

バキュン バキュン バキュン

エルフ「ファッキンジャップくらい分かるよバカ野郎」

こうしてひつまぶしは銃殺された。

エルフ「…」

ガチャガチャ

エルフ「またやってしまいました…カッとなったら銃を撃つ…それが嫌だから逃げ出してきたのに…」

エルフ「忌々しい人間の所業は…私をどこまで苦しめるの…!」

・ ・ ・ ・ ・

エルフはとある国の研究機関に捕らえられ、改造された。
その研究機関はエルフの脳をいじくり回し
銃による暗殺術をたたき込んだ。
普段は魔法を使い、魔力が切れたら銃にシフトする。
そんな魔導兵器を作り出したのだ。

エルフ「故郷も家族も覚えていない…きっと記憶を消されたに違いない…」

エルフ「なら今の私は…一体…?魔法と銃の扱いに長けた…ただのエルフ…いえ、魔導兵器…?」

ガクガク

エルフ「ああ…」

ブルッ
チョロ…

エルフ「あ゛、あ゛、あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!アーーーーー!」

ジョバババババ!
押し寄せる尿の波!
AH―――――!
HA―――――!

・ ・ ・ ・ ・

こうしてなんやかんやで
エルフは放尿した。
その様子を森の木陰から見ている人物がいた。

ご存知、女騎士である。

女騎士「…」

女騎士(まさかいきなり見つかるとはな…しかも放尿ときたもんだ)

女騎士(あの尿量ではうかつに近づけない。もう少し機会を伺うとするか)

ガサゴソ

女騎士(携帯していたカロリーメイト的なものを食べるか…この尿臭の中で、な!!!)

ドヤァ

モチュ

女騎士(…)

モチュモチュ

女騎士(尿臭…少なくとも食事中には不向きな臭いだな)

モチュモチュ

女騎士(しかしあのエルフ…どれだけ放尿する気だ…あのままでは脱水症状になってしまうぞ)

女騎士(だがそれにしては肌の潤いが保たれている…いっこうに脱水症状の気配が…見られないな)

女騎士(…)

ハッ

女騎士(そうか…!あのエルフ…自身に保水の魔法を!)

ご名答!
エルフはこの尿撃のさなか
自分に保水の魔法をかけていたのである!
これではもはや、乾く事は無い!
永遠の放尿!

女騎士(無限の…放尿…)



『無限の放尿【アンリミテッドエターナルシッコ】』

女騎士(保水魔法は上級術…ウン・ディーネあたりと契約しなければ使えん…あのエルフの娘、一体…)

とかなんとかやってるうちに
周辺にはいくつか尿湖ができていた。

女騎士(くっ、私とした事が…尿撃にばかり気を取られ尿湖が出来ている事に気付かなかった…!)

尿の溜まったもの、それが尿湖。
強酸性のそれは
靴もズボンも服も
皮膚も肉も臓物も骨も溶かす。
入れば、一瞬で。
上質の砂糖菓子のように
さらり、と。
容赦無く溶かして、溶かす。

女騎士(このままここに隠れていては、いづれ…)

ハッ

女騎士(まさかあの小娘、私に…)

『気付いていますよ?』

女騎士「!?」

エルフ「ふふ、こんなに簡単に背後をとられるなんて、なんて不用心なんでしょうか」

女騎士「くっ、貴様…」

チャッ

エルフ「あら、動かない方がいいですよ。私、ナイフの扱いには慣れていませんから。うっかり喉を突き刺してしまうかも…うふふ…」

女騎士「くっ…」

エルフ「さて、いくつか質問していいでしょうか。まぁ拒否権はありませんが」

女騎士「…いいだろう」

エルフ「まずひとつ、貴方は何者なのですか?」

女騎士「女騎士…冒険者さ」

エルフ「『江戸川コナン…探偵さ』みたいな感じに言われましても。まぁだいたい察しはついていました。今までも私を捕まえようと何人も冒険者が来ましたし」

女騎士「ふ、モテる女は辛いな」

エルフ「まったくです。あ、私同性の方は恋愛対象外ですので、あしからず」

女騎士「そうか、そいつぁ残念」

女騎士「では次。貴方は研究機関からの差し金で来たのですか?」

女騎士「いや、直接は知らない。ギルドを介しての仕事だ」

エルフ「そうですか。なら役に立ちそうにありませんね」

ギユッ

女騎士「おいおい、まさかそのナイフで殺そうってのかい?」

エルフ「はい。研究機関の情報を知らないようですから、用はありませんし」

女騎士「お前…情報を手に入れてどうするんだ」

エルフ「そうですねぇ…このまま逃げ回るのも大変ですし、いっそ乗り込んでブッ潰してやろうかな、と」

女騎士「ほう」

エルフ「私の脳をいじくり回したケジメもつけないとですし、ふふ」

クスクス

女騎士「なかなかにネジのぶっ飛んだ小娘だな…捕まえてギルドに引き渡すには惜しい」

エルフ「あら、一体何を言っているんですか。まさかこの状況を理解していない?まだ私を捕まえるなどと?

女騎士「あぁ。悪いが私はな…」

ギロリ

エルフ「!?」

女騎士「喉を切り刻まれたくらいじゃあ、死なない。それに…私には」

ギギギギギ

エルフ「なっ、手が…体が…動かな…!?」

女騎士「こういう便利なモノがあるンでな」

そう言って笑った女騎士の両の眼は
燃えさかる炎のように紅く染まっていた。

女騎士「私の眼はあらゆるものの自由を奪う。本来なら睨みつけた奴にしか効果は無いが、この距離なら…まぁどういう訳か、な」

エルフ「ぐっ…絶対服従の魔眼…?そんなものをもっているのは…魔物…それも最上級の魔物くらいの筈…貴方は…一体…!?」

女騎士「言っただろ、ただの女騎士だとな」

・ ・ ・ ・ ・

こうしてなんやかんやで
エルフは女騎士に捕らえられた。
亀甲縛りされた。

女騎士「すまんな。私はこの縛り方しか知らんのだ」

エルフ「別にいいですよ…」

ギシッ

エルフ「んっ…」

女騎士「さて、お前をギルドに引き渡せば依頼完了だ」

エルフ「はい」

女騎士「これが私の…冒険者の仕事なんでな。恨むなよ」

エルフ「恨む?まさか…ただ私が貴方より弱かっただけの事です」

女騎士「ほう、言うねぇ。ますます引き渡すのが惜しくなってきた」

エルフ「随分気に入って頂けたようですね。ではお礼と言っては何ですが、ひとつ」

ズモモモモ…

女騎士「!?」

エルフ「勝ちを確信した者ほど、脆くて甘い…んですよ?」

プシャァァァ

エルフ「何も尿を股から出す必要は無いんです…私くらいになれば、汗腺からだって!」

プシャァァァ

エルフは体中の汗腺から尿を放った。
強酸性の尿はエルフを縛っていた縄をみるみる溶かしていった。

スルリ シュタッ

エルフ「うふふ…脱出成功、です」

ニヤニヤ

女騎士「くっ…だがな、私にはこれがある…」

キッ

女騎士「ひれ伏せ、魔の者よ!我が『絶対服従の魔眼』の前に!」

エルフ「二度目は無いですよ!」

プシャ

エルフ「尿のカーテン!」

ファサー

エルフ「尿のカーテンはあらゆる干渉から私を守る絶対防壁!どんな高位の魔法や呪術も!自殺電波でさえも!跳ね返す!」

ギクッ

女騎士「跳ね…返す…だと!?」

ファサー

エルフ「尿のカーテンはあらゆる干渉から私を守る絶対防壁!どんな高位の魔法や呪術も!自殺電波でさえも!跳ね返す!」

ギクッ

女騎士「跳ね…返す…だと!?」

キィン

女騎士「ぎいやあああ」

エルフ「魔眼を自身に使えば、魔力が共振し…崩壊する…ふふふ、予想通りです。貴方の両の眼は…もう…くききっ…おしまいですぅ」

キャハハハハ

女騎士「くっ…貴様ぁぁぁぁぁ!」

ボタボタ…

女騎士「くっ…両の眼が破壊された私!」

エルフ「うふふ…魔眼も使えず視力も失った貴方に、もはや私を捕らえる事は不可能です」

女騎士「くそっ…してやられるとはな」

エルフ「では、私はゆっくりと逃げるとします。ご機嫌よう…うふふ…」

テクテク

女騎士「くそっ…くそっ…くそぉぉぉ!」

ジダンダ ジダンダ

女騎士「くそっ!くそっ!くそっ!くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!ぇひぬ゛たぉ!」

ジワ…

女騎士「くそ…糞糞糞糞糞!」

ジワジワ…

エルフ「まったく、見苦しいですわ…」

ジワジワジワ…

エルフ「…?」

ジワァ

エルフ「!?」

それは、禍々しい黒の渦。
女騎士が吐き出した口汚い言葉に引き寄せられた、それは
膨大な魔力を持つ悪しき神。

すなわち、魔神。

?「アグァァァァァ!」

エルフ「な、なんですのこれは…貴方、一体何を呼び寄せたのですか!」

女騎士「…」

エルフ「い、意識を…」

?「アグァァァァァ!」

エルフ「ひいっ、私を見ている…?」

ズモモモモ
ボワン

エルフ「霧が人型に…いえ、この姿は…悪魔…?」

?「ふむ、貴様には我がそう見えるか」

エルフ「ひぃっ」

?「名称など我には無意味、貴様の好きなように呼ぶがいい」

エルフ「じ、じゃあジューダスで」

?「それ以外で」

エルフ「それ以外ですかぁ~」

スマホ ササッ

エルフ「『なんか現れたから安価で名前つける』、っと…」

ササッササッ

エルフ「ふむふむ、なるほど…そうきましたか、ではこれを採用しましょう…」

?(嫌な予感しかしない)

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