魔王「世界の半分をお前にやろう」勇者「じゃあ分け方を考えるか」 (30)

魔王「分け方?」

勇者「ああ、このたび俺たちは人と魔族の歴史的和解を成し遂げた」

勇者「俺とお前が世界を半分ずつ統治する、という約束を交わしたことによってな」

魔王「うむ、だからこそワシもさらっていた姫をそちらに返したのだ」

勇者「だが、話はこれで終わったわけじゃない」

勇者「世界をどう分けるかをきちんと決めておかないと、後々また揉めることになる」

魔王「まあ、たしかにそうだが……」

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魔王「単純にこの星に一本の線を引いてこっちはワシで、そっちは勇者ね、ではいかんのか?」

勇者「ダメに決まってるだろ」

勇者「線の引き方によっては、えらく不公平な二等分になることも考えられる」

勇者「たとえば俺の方は陸が多いのに、お前の方は海ばっかりとか」

魔王「ああ、それは困る。ワシ泳げないし」

勇者「それに、今回の分割は今現存してる国や町はそのままにして俺らが上に立つって方針なんだから」

勇者「そこを一本の線で分けるようなことをすると、住んでる人達にしてもメチャクチャ不便になるぞ」

勇者「同じ町に住んでるのに、勇者領地と魔王領地に分かれたりしたら大変だろ」

魔王「たしかに……いらぬ反発を買いかねんな」

勇者「だからさ、各大陸や島ごとに二等分するってのはどうだ?」

勇者「そうすれば、均等に陸地を分けることができる」

魔王「なるほど」

魔王「だが、島全体で一つの国家を成している国はどうするのだ?」

勇者「あっ、そういえば……」

勇者「それを二つに分けると、結局さっきの方法のような問題が生じてしまうではないか」

勇者「うーむ、たしかに……」

魔王「いっそ、人口で分けるというのはどうだ?」

勇者「人口で……?」

魔王「たとえば、A国が人口100万人、B国が人口30万人、C国が人口70万人だとしよう」

魔王「その場合、A国は勇者領地、B国とC国は魔王領地、という具合に分けるのだ」

勇者「……」

魔王「?」

勇者「実にいいにくいんだが……」

魔王「え、なになに?」

勇者「世界中の全人口はおよそ3億人といわれている」

魔王「ほう」

勇者「そのうち、1億7千万人は……最大の国家ラージ王国の国民なんだ」

魔王「なにぃ!? 過半数超えてるのか!」

魔王「それでは、ワシの方法は使えない!」

勇者「それに今のはあくまで人間だけの人口だ。魔族の人口分布も考慮しなくちゃいけない」

勇者「お前、魔族の人口をちゃんと把握してるのか?」

魔王「……全然」

勇者「全然!? お前、王だろ!?」

魔王「だってしょうがないだろ! スライムとか勝手に分裂するし、数え方分からん奴も多いし……」

勇者「つまり、この方法もダメだってことだな」

勇者「じゃあ、こういうのはどうだ?」

勇者「地域や地方ごとにポイントをつけていくんだよ」

魔王「ポイント?」

勇者「ここは森林が多いから50ポイント、鉱石があるから30ポイント、砂漠だから10ポイント、ってな具合に」

勇者「で、勇者領地と魔王領地のポイントが同じになるよう振り分ければ……完璧だ!」

魔王「……あのさ」

勇者「ん?」

魔王「そのポイントの基準はどうやって決めるのだ?」

勇者「あ」

魔王「多分その話し合いだけで、数ヶ月……いやもっとかかるぞ」

魔王「そんなにチンタラやってたら、人間からも魔族からも不満が出るだろう」

勇者「ううむ……」

魔王「それにポイントが同じになるよう振り分けたとして」

魔王「振り分け方によっては世界地図がかなりカオスなことになるぞ」

魔王「勇者領と魔王領が混ざり合って、飛び地があちこちにできるような事態になりかねない」

勇者「この方法も現実的じゃないな……」

魔王「ならいっそ、ワシとお前でダブル君主になるってのはどうだ?」

魔王「二人で世界の帝王として君臨すれば、分かりやすい!」

勇者「たしかに分かりやすいけど、そううまくいくかな?」

勇者「もし、俺たちの間で政策かなんかの行き違いが生まれたらどうする?」

魔王「そしたら話し合いで――」

勇者「俺はもし自分の領地ができたら、剣の教育を強化するつもりなんだが、どう思う?」

魔王「ダメダメ! 絶対ダメ! 魔法教育を盛んにすべき! 剣の教育なんか二の次でいい!」

勇者「……な?」

魔王「なるほど……」

勇者「一休みするか……」

魔王「世界を半分に分けるって難しいんだな」

勇者「ああ」

勇者「なんたって世界だもん。ケーキを切り分けるようにはいかないよ」

魔王「だなー」

勇者「ていうか、そもそも世界ってなんなんだろうな?」

魔王「そりゃあ……この大陸全体だろう?」

勇者「でも、大陸だけじゃなく海だって世界だし、空だって世界だ」

勇者「いや……空で光ってる無数の星にもそれぞれ世界があるんだ」

魔王「光ってない星にも世界はあるだろうしな」

勇者「はぁ~……世界って広いな」

魔王「広いなぁ」

勇者「もし、全ての世界を統べる神なんてのがいるとしたら」

勇者「俺たちなんてホント、ケーキをどう分けるか争ってるようなみみっちい二人組に過ぎないんだろうな」

魔王「ケーキなんてものではあるまい」

魔王「せいぜいイチゴだろう」

魔王「ワシらはケーキに乗った一個のイチゴをどう二等分するか、やり合っているのだ」

勇者「イチゴか……」

魔王「イチゴさ……」

勇者「なんか……空しくなってきたな」

魔王「ああ」

勇者「どうする? 世界を半分にする話」

魔王「このままにしとくわけにもいかんし、いっそ姫に意見を仰ぐというのはどうだ?」

魔王「彼女は人類はもちろん、魔族にも理解があるし、いいアドバイスをしてくれるかもしれん」

勇者「そうだな、そうしよう!」

姫「え……イチゴ?」

勇者「うん、ショートケーキの上にあるイチゴ……姫ならどう分ける?」

魔王(さすがに世界をどうするか、と聞くのはマズイからな)

姫「そうねえ……他の誰かにあげちゃう!」

勇者「へ?」

魔王「どして?」

姫「だってイチゴを二つに切り分けるって難しいし、かといって相手にあげるのも負けた気分するし」

姫「なら第三者にあげちゃった方が早いんじゃない?」

勇者&魔王「……」

勇者&魔王「これだ!!!」

それからというもの――



女王「私が勇者様と魔王から全世界を委託された姫……女王よ!」

女王「これからは私が人と魔を統べるのよ!」

女王「オーッホッホッホッホッホッホ!」



高飛車さとは裏腹に、女王は人にも魔族にも平等に接し、善政を敷き、

人と魔族が真の共存をなす『人魔時代』を現出することになる。



さて、勇者と魔王はというと――

魔王「採れたかーっ!」

勇者「ああ、いっぱい採れたっ!」

魔王「苦労したかいがあって、ワシらのイチゴは豊作だな!」

勇者「ああ!」

勇者「今や女王となった姫にいくらか献上した後は、たっぷり売って、どっさり大儲けだ!」

魔王「売上金はどうする?」

勇者「そりゃもちろん……半分ずつ分けるに決まってるだろ」







おわり

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