千歌「GANTZ?」 (353)

プロローグ
~某日とある東京のマンションの一室~

???「………100点」


マンションの一室に置いてある黒い球体。そこには私の顔写真、名前と100点という表示。ここまで稼ぐのにどれだけの時間と犠牲を払ったことだろうか…
画面が切り替わりそこには100点を獲得した者が選べる3つの特典が提示された。


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1477559947

ラブライブ! × GANTZのパロです。
原作の武器等の設定とは多少異なります。

やっと…やっとこの戦いから解放される。今までの怖くて、痛くて、悲しい記憶が走馬灯のように流れていった。


???「お疲れ様…その年でよくここまで来たね。後のメンバーは……私が何とかするから心配しないで!」

???「リーダー…ホントにいいんですか?」


そう……今回のミッションで8人もの犠牲を払ったのだ。
全員リーダーととても親しかったメンバーだけにショックも大きい。
私が抜ければ…リーダーは一人で戦わなくてはならない。
それでも彼女は


???「大丈夫っ! 今までみんなに助けられてばっかりだったんだもん……今度は私の番。あなたにはあなたの人生があるんだから!……ファイトだよ!」

もう…こんな時に無理して明るく振る舞わなくてもいいのに。
でも、そんなリーダーが背中を押してくれるんだ…なら私の答えは――


???「1番…私を解放してっ!」





一章
~3年後、内浦~

千歌「明日はついに入学式かぁ~、先輩って呼ばれるんだね!」

曜『そうだね! …まあ千歌ちゃんは部活やってないから呼ばれる機会は少ないんじゃないかな?』

千歌「うぅ…そうだよね…やっぱり部活に入らないとダメだよねぇ……」


入学式を翌日に控えた夜、私と曜ちゃんは電話でおしゃべりをしていた。そう…それはいつも通りの会話だった。


千歌「部活かぁ…入りたい部が無いからどうしようもないんだよね」

曜『入りたい部活が無いんだったら作っちゃえばいいんじゃない?千歌ちゃんがやるんだったら私も……っ!?』ゾクゾク

千歌「?? どうしたの曜ちゃn」

曜『ごめん千歌ちゃん!! 急用思い出しちゃった!!! もう切るね!』


まただ…高校生になってから時期は一定じゃないけど、夜におしゃべりしたり出掛けたりしてると突然用事を思い出して終わらせようとするようになった。


千歌「もうまたぁ~用事があるなら仕方ないけど…じゃあまた明日ね」

曜『……うん、また明日。明日…絶対会いに行くからねっ!』


そしてこんな時は必ず…必ず曜ちゃんは悲しそうに、でも覚悟を決めたような口調で会話を終わらせる。
今回もそうだった。

……ただ今回違っていたのは、翌朝待ち合わせの時間を過ぎても
曜ちゃんが来ることは無かった――

――――――
――――
――

果南「曜が行方不明になってからもう3日たったんだよね…少しは落ち着いた?」


私は幼馴染で3年生の果南ちゃんの家にいた。
曜ちゃんがいなくなったあの日、警察や学校総出で探したけど手がかりは一つも見つからなかった。
今も捜索は続いているけどこのまま何も見つからなければ捜索は打ち切られてしまうらしい…


千歌「曜ちゃん…本当にどこに行っちゃったんだろう……」

果南「…電話では急用だって言ってたんでしょ? ならまだその用事が済んでないから帰って来ないんじゃないかな?」

千歌「連絡も無しに? そんなの絶対おかしいよ! …それに曜ちゃん明日絶対会うって言ってたんだもん…」

果南「千歌……」

千歌「今日も曜ちゃんを探しに行こうよ! もしかしたら…今日なら……」

果南「千歌…大丈夫だよ、私が必ず…どれだけ時間がかかっても曜を連れ戻すからさ……千歌は安心して待ってなよ」

千歌「……果南ちゃん?」


私はこの時、曜ちゃんとの最後の会話と同じ感覚を覚えた。
もしかして果南ちゃんも突然いなくなってしまうんじゃ…そんな気持ちが顔に出ていたことに気付いた果南ちゃんは優しい表情で


果南「そんな顔しないの。心配しなくても大丈夫だよ! 私は“強い”からね?」



果南ちゃんの家か帰る頃にはすっかり日が暮れていた。
果南ちゃんはああ言っていたけどやっぱり曜ちゃんを早く見つけたい…


千歌「今日はどこを探そうかな…時間も遅いしあんまり遠くまで行けないけど、明日は休みだし……うーん」

???「……あなたがタカミ チカさん?」


考え事をしながら歩いていた私の前に誰かが立っていた。
右手を後ろに隠し、フードを深く被っていて顔はよく分からないけど身長や体つき、声色か考えて女の子だということはわかった。


千歌「確かに私の名前はそうですけど…どちら様ですか?」


私は答えるがその子は何も反応しない。
早く行きたいんだけどな~なんて思っていた私はそのまま立ち去ろうとその子とすれ違おうとしたまさにその時、


ザクッ――!


腹部に鋭い痛みを感じた。

千歌「えっ…はっ? ……えっ………?」


あまりにも突然の事で何が起こったのか直ぐに理解できなかったが、痛みのする方に目をやるとそこにはその子の右手と握られていた包丁が深々と刺さっていた。
包丁を引き抜かれると私の体を巡っていた赤い液体が滝のように溢れ出し、崩れるようにその場に倒れた。


千歌(…よ…う……ちゃん…果………南…ちゃん……)


薄れゆく意識の中、二人との思いでが頭の中を駆け巡った。
そんな私が最後に目にしたものは綺麗な長い赤髪をした女の子の泣き顔と「ごめんなさい」という言葉だった。
そして、私の意識は冷たくて暗い闇へと落ちていった――



――――――
――――
――

千歌「――――イヤアア!!!??」


再び私が目を覚ましたのは見知らぬ部屋の一室だった。


千歌(えっ!? えっ?? 私っ…道で刺されて?? お腹からいっぱい…でも生きて……なんでっ?)


何が起こったのか私には全く理解できなかった。


千歌(誰かが救急車を呼んでくれたの? でもここって病院じゃ…ないよね??)

???「な…何で……何で千歌がここにいるの!!!??」


絶賛混乱中の私の両肩を力強く抑えながら酷く動揺した口調でいきなり問い詰めれれた。
――その人物は私がよく知ってる人物であった。


千歌「果南ちゃん!!?」




――私は果南ちゃんと別れた後、つまりこの部屋で目覚める直前に何が起きたのかを説明した。


果南「―――なるほどね。じゃあ千歌はその子に刺されて死んだからこの部屋に来たって事だね」

千歌「えっ? でも私こうして生きてるよ?? 心臓も動いてるし足もあるよ」

果南「違うんだよ千歌…この部屋に来たってことはみんな一度死んでるんだよ。…もちろん私もね?」


理解……出来なかった。


果南「私は半年くらい前に、ダイビング中の事故でね?あのときの私も今の千歌と同じ反応だったな~。でもね……」

千歌「ちょっと待って!? ホントにみんな死んでるの!!? ここにいる全員!?」


見渡すとこの部屋には私と果南ちゃんの他に3人の女の子がいたのだ。
一人は隅っこで膝を抱えてすすり泣いていて、一人はブツブツ独り言を言いながら部屋を行ったり来たり、
そしてもう一人はとても落ち着いた様子でいて、グレーのパーカーを着たとても可愛らしい子で下に黒いぴちぴちした服を着ている。


千歌(よく見ると果南ちゃんも同じもの着てるな…)


果南「そうだよ…他の“二人”にはもう状況は説明したんだけど…まあそう簡単には受け入れられないよね」

果南「…それと、もう隠してる必要が無くなったから言うけど実はね、よ……」

黒い球『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』

5人「「「「「!!?」」」」」

突然部屋の端にあった黒い球からラジオ体操? の音楽が流れ始めた。
この部屋に来てから理解できないことが多すぎる…


果南「そっか、今回はこれで全員なんだね」

千歌「どういうこと? 毎回違う人が集まるの??」

果南「ちょっと違うね。前回生き残ったメンバーに毎回新しい人が集められるんだよ。集まる人数は日によって違う。今回は結構少ないかな…」


果南ちゃんが説明し終わると同時に黒い球から流れていた音楽も終わり表面に文字と機械的な音声が流れ始めた。


黒い球『てめえ達の命は、
無くなりました。

新しい命を
どう使おうと
私の勝手です。

という理屈なわけだす。』

千歌「なに…これ……?」

果南「この球はGANTZ(ガンツ)っていうの。」

千歌「ガンツ?」


また表示が切り替わった


GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
こだいぎょ星人 特徴:少し強い、生臭い 好きなもの:人間 口くせ:ぎょぎょぎょ』


果南「そう。私より前に居た人がそう呼んでたんだ。……っと、そこの君!危ないから一旦こっちに来て!」


隅っこに座っていた子に果南ちゃんは注意した。
何が起こるんだろうと思っていたら突然ガシャン!とガンツの両端が勢いよく開いた。


千歌「これは…銃なの? おもちゃみたい」

果南「使い方はあとで説明するから! 初参加のみんなはこの球から自分の名前の書いてあるケースを持って!」


果南ちゃんの指示通りケースを探すと、「みかん星人」と書かれたケースを見つけた。


千歌(多分これだよね?他のは私要素無いし…)

果南「みんな見つけた? なら…」


果南ちゃんが言い終わる前に一人の女の子が悲鳴をあげた。
驚いてその子を見ると両腕が徐々に無くなっていった。
そして一人また一人と体が徐々に消えてく。


果南「っ!! もう転送が始まった! 千歌! 早くケースに入ってる服を着てっ!!!」

千歌「ちょ…え? 待ってよ! わけわかんないよ!!!」


そうこうしてるうちに窓ガラスを見ると私も頭の先が無くなり始めている。


果南「千歌お願い!! 早く着替えて!!」


すでに果南ちゃんは口とお腹しか残っておらず、他の人はすでに消えてしまった。
パニックになりながらも言われた通り着替え終わった頃には、手足の消失も始まっていて頭もおでこまで消えていた。
消失が目まで達したとき私は見覚えのある場所に自分が立っていることに気が付いた。


千歌「ここは…沼津港?」



そこは店もすべて閉まった誰もいない夜の沼津港だった。

~沼津港 夜~

パーカーの子「へー、この子はちゃんとスーツ着たんだね。あの二人とは大違いだよ」

果南「んな!? 何でスーツ着てないの!!? それにもう一人の子は…」

泣いていた子「ひぃ! あの時…び…びっくりしちゃって…それで落として……もう一人は家が近いって…」

果南「くっ! 早く連れ戻さなきゃ!!」

パーカーの子「ほっときなよ果南さん! 説明はしたんだよ? そこまで世話する必要はないはずよ」

果南「でも…」

千歌「あの…果南ちゃん?」

果南「ん? あぁごめんね…説明しなきゃだよね」


そう言って果南ちゃんは手首に付いていた小さな機械を操作した。
すると画面には沼津港周辺の3Dマップが表示された。


果南「いい? 青い丸で表示されてるのが私で敵が現れると赤い丸が表示されるの」

千歌「敵?私たちこれから戦うの??」

果南「あー…うん、そうだよ。戦うんだよ…でも今回千歌は戦わなくていいよ?」

千歌「えっ、なんで?」

果南「だって千歌は今回が初めてだし…それにあんまり運動神経がいいイメージもないし…」

パーカーの子「つまり戦いに参加しても足手まといってことよ」

果南「ちょっと! そこまでは言ってないでしょ!?」

千歌「あはは…そうだよね~」

パーカーの子「まあ、囮とかには役に立つんじゃない?」

果南「………」ギロッ

パーカーの子「ははっ、……ジョーダンよ」

果南「はぁ…でも千歌も一応武器は持っておいてね」

千歌「? これってあの部屋にあったおもちゃの銃??」

果南「“おもちゃ”なんかじゃないよ? これはね」

パーカーの子「――果南さん」


さっきまでのおちゃらけた話し方とはうって変わった声で名前を呼び、真剣な眼差しで先ほどの機械を見ている。


果南「…レーダーに映ったんだね。二人は物陰に隠れてて!」


私たちは少し離れた所に身を隠した。スーツを着ている私にも果南ちゃんが持っていたレーダーが付いていたので操作してみると、複数の赤い丸が表示されていた。


千歌「敵だ…奥の方にいるんだよね??」


辺りは真っ暗、街灯の光だけが頼りなので遠くのものはハッキリと見えない。
…でもわかる。
100m先にいるのは決して人ではない何かである。
徐々に近づいてくるそれは、大きなサメのような外見で人間の手足のようなものが付いている。
50mを切ったところで、奴が手に何か持っているのがわかった。
隣の子は目が悪いみたいで分からないみたいだけど、私には分かった。…正直分かりたくなかった……


千歌(さっき部屋にいた子の頭だ……)ゾワッ


街灯に照らされた奴らは皆口元が真っ赤になっていた。間違い…あの子を食べたのだ。


千歌(二人とも……本当に大丈夫なのかな……)ブルブル

~数分前~

果南「……二人ともちゃんと隠れたみたいだね」

パーカーの子「…フゥー……フゥー……フゥー……」ブルブル

果南「……まったく、あなたもまだ“新入り”なんだからカッコつけなくてもいいのに」

パーカーの子「そうだけどっ! ……それでもあの二人と違って私は一回経験してるんだから……安心させる義務というか、責任というか――」

果南「……やっぱ“善い子”だね?」

パーカーの子「うっさい!! そもそもなんで前回から3日でもう次のミッションなの!?話がちがうじゃない!!」

果南「そんなの知らないよ……私だってこんな短期間に次が来たこと無かったし……」

パーカーの子「何よ……それ」

果南「――でも、好都合だよね?」ニヤ

パーカーの子「は??」

果南「こんな短期間でミッションが続けば100点まであっという間だってこと」

パーカーの子「ちょ……本気で言ってるの!? あんの繰り返してたらいくら果南さんでも……」

果南「――大丈夫だよ、私は強いからね?」ニコ

パーカーの子「……果南さん」

果南「……っと、おしゃべりはここまで。敵も大分近づいてきたね。数は5……6体だから一人頭3体だね」

パーカーの子「えぇ!? 一人で3体も相手するの!?」

果南「文句言わない!! ほら構えて!!」カチャ


サメの姿をした6体の星人が果南たちに一斉に襲い掛かってきた―――




星人との距離が10mを切ったタイミングで果南は構えていたハンディサイズの太い円筒形の銃を二発発射した。
しかし、星人に変化は無く勢いそのまま果南目がけてその鋭い牙で噛みつこうとしていた。


千歌(――果南ちゃん!!)


果南は全く動じない。
星人が噛みつこうとしたその瞬間


バンッ――!


星人の頭と胴体が突然破裂した。
付近の星人もその現象に驚いている。


果南「もう一体っ!!」


ギョーンという独特な発砲音と共に見えない弾丸を発射する。
しかし、星人は素早く横へかわす。


果南「へー、魚なのに陸でも意外と速いんだね……」


果南と二体となった星人は一定の間合いのまま睨み合った。

その一方


パーカーの子「くっ……この!この!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


パーカーの子も銃の連射で応戦している。
が、全く当たらない。
三発目を発射したところで発砲音がしなくなった。
その隙を見逃すはずもなく――


ドゴッ――!


パーカーの子「ぅぐあっ……!!」


体当たり攻撃をまともに食らった。
衝撃でノーバウンドで数メートルも飛ぶほどである。
並の人間、ましてや女の子なら無事なはずがない。
……だが――


パーカーの子「このっ! 油断した!!」


なんとすぐに立ち上がり銃を構えた。
無傷だったのだ。
あんなに吹っ飛んだのにも関わらず。


千歌(この黒い服のおかげ……なのかな?)


千歌は無意識のうちに自分が着ているスーツに目を向けた。
――いくら隠れているとはいえ、戦闘中に敵から目を離すことは命取りになる。


果南「――!? 千歌!! 避けてぇぇぇ!!!!!」


スパッ――


千歌(……えっ?)


遮蔽物ごと少女が真っ二つに引き裂かれた―――




~数十秒前~

果南(参ったな……今回の星人は思った以上に賢いみたい……)


銃を構えたまま近づくと、星人も後退して距離を保ってくる。


果南(この銃の射程がだいたいバレちゃってるね……こんなことなら“大きい方”も持ってくるべきだった)


星人の一体の頬が急激に膨らんだ。


果南(んな!? 何か来る!!!)


星人は自分の足元に口からビームのようなのを発射した。
そのまま果南目がけて振り上げる。


果南(マズッ!? ギリギリ避けられるか!!!?)

紙一重で回避。
しかし、この延長線上に何があるのかを思い出した果南は青ざめた。


果南(まずいっ! この方向は!!)




果南「――!? 千歌!! 避けてぇぇぇ!!!!!」


果南の叫びも空しく星人の攻撃は二人のいる遮蔽物を切り裂いた――




―――千歌には何が起きたのか分からなかった。
誰かが叫んだと思ったらいきなり真っ二つにされたのだ。
隣にいた女の子がやられた。
辺りの赤い水溜りと無残な姿になり果てたその子を認識とき、直感で分かってしまった。
“次は私の番”だと


パーカーの子「ヤバッ! 一体そっち向かった!!」

果南「!? こっちも手一杯だよ!?」


そんな千歌に向かって猛スピードで襲い掛かて来る――


千歌(ちょっと!? コッチ来てる!!?)


千歌の手には先ほど果南から渡された武器がある。
しかし、まだ使い方は教わっていなかった。




果南(早くこいつらを倒さないと! でも……)ギョーン!ギョーン!ギョーン!

パーカーの子(連携が凄い! 進路が完全に塞がれる!!)ギョーン!ギョーン!


まだ戦いなれしていない人が目の前の敵以外を考えれば、隙が生れる。
敵の片方の予備動作を完全に見落とした。


スパッ――!


パーカーの子の右肘から下がボトッと落ちた。


パーカーの子「っっっうあぁぁあああぁぁあああ!!!!!!!」


あまりの激痛でその場にうずくまる。
傷口からの激しい出血。

敵はとどめを刺そうと再びビーム攻撃の予備動作に入る。


果南「このっ!!」バキッ!


間一髪、果南の右ストレートが決まりビームは明後日の方向へ。
怪我人を抱え距離を取る。


果南(やっぱりあの攻撃はスーツで守れない……このままじゃこの子が死んじゃう)

果南(千歌……!?千歌はどうなった!!?)――


――とっさに銃を構えた千歌は今までの動揺がウソのように無くなっていた。


千歌(引き金は二つ……上を押し込んで起動、下も押し込めば発射……三発連射するとエネルギーチャージが始まって撃てなくなる………射程は――)ブツブツブツ

千歌(――スーツを着ていれば素手でも奴を倒せる……射程がバレてるから銃じゃ難しいから………)ブツブツブツブツ


不思議な感覚だった。
このままじゃヤラレル、戦わなくっちゃダメなんだと自覚してから明らかに“何か”が変わった。
――いや違う、変わっただけで初めて扱う物の使い方が分かるか?
自分がなぜ武器の使い方が分かっていたのか、今の千歌は疑問にすら思っていなかった。
生き残る為。
目の前の敵をどう排除するかで頭がいっぱいだったのだ。

星人はビームの予備動作に入る。
もちろん銃の射程外。

千歌は――。


千歌「いっっっけええええぇぇ!!!」


構えていた銃を思い切り投げつけた。

普通の女の子の肩なら大したことは無い。
……が、スーツの力が加われば?

銃は星人の目に直撃した。
うめき声と共に大きく怯む。

千歌はそのまま間合いをつめ――


ギョーン!ギョーン!ギョーン!――


突き刺さったまま引き金を引いた。

若干のタイムラグの後、星人は内側から三回破裂した。




果南「―――……千歌」


星人の返り血で染まった千歌の姿は、果南が見てきた千歌とはまるで違って映った。
その姿はまるで。
散っていったかつての仲間の姿と被ったのだ――


果南(千歌……あなたは一体………)

千歌「っ!? 果南ちゃん!! その子は!!!?」


こっちに気が付いた千歌はいつもの千歌だった。


果南(まあ、かなり特殊な環境だけど……これはいつも通りの千歌かな?)

千歌「果南ちゃん!! 腕が!!! 早く病院に連れて行かないと!」

果南「落ち着いて千歌。大丈夫だから」

千歌「大丈夫って……腕が無くなってるんだよ!?」

果南「あのね、このミッションを終わらせれば……つまり敵を全滅させればあの部屋に帰れるの」

千歌「……帰れる?」

果南「そう。その時に“生きて”さえいればどんな大ケガをしてても治る」

果南「……ただ、この子の出血が止まらない。このままじゃ死んじゃう」

千歌「だったら……やることは一つだね?」

果南「そう…残り三体の星人を私たちで倒すしかない」――




果南が二体、千歌が一体倒し残りは三体となった。
千歌の奇策はすでに見られていのでもう使えない。
距離を開けるとスーツを貫通するビーム攻撃がくる。
となれば……

果南「素手の格闘戦しか無いよね?」

千歌「うぅ……生き物を殴ったことないよぉ」

果南「千歌……さっき銃で倒したじゃん? 殴るよりよっぽど過激なことだと思うよ?」

千歌「そうだけど……」

果南「……まさか初回から千歌と共闘するなんて思ってなかったよ」

果南「――覚悟はできてる?」

千歌「……もちろんだよっ!」


傷ついた仲間を救うため。
再びあの日常に変えるため。
二人の少女は立ち向かう―――



―――星人はパワーこそないものの、素早い動きでこちらの攻撃をかわす。
そして確実に二人のスーツにダメージを与えていく。


千歌「っうう! 全然攻撃が当たらないよ!?」シュッシュッ

果南「……仕方ない、千歌! 合図したら思いっきり上に飛んで!!」


千歌「!? わ…わかった!!」


どうやら果南には策があるようだ。


千歌(よくわからないけど、果南ちゃんに任せるしか無いよねっ!)


敵の攻撃を防ぎながら時を待つ。
果南にはまだ敵に使用していない武器がある。
それは果南が最も使いこなせる武器であったが……。


果南(チャンスは一瞬、パンチが当たらない以上“この武器”も無理。最低でも一体は仕留める!!)


青く光っていたスーツが点滅し始める。
スーツの耐久が限界まで近づいているのだ。
早くしないとヤラレル……

――その瞬間、果南の正面に星人三体が並んだ。
チャンスが、来た―――


果南「――飛べ!! 千歌!!!」


果南は腰に付けていたブレード展開し、水平に薙ぎ払った。


スパッ――!!


――三体の星人の上半身と下半身は切り裂かれた。




合図を聞いた千歌は力の限り上に飛んだ。
着地したときには星人は皆切られてバラバラに転がっていた。


千歌「それって……剣?」

果南「うーん、形状的に刀だとおもうな?切れ味が凄いから倒せるのは分かってたけど……私の剣術じゃ当たらないと思ったからね。チャンスを待ってたんだよ」

千歌「もう……ダメだとおもったよぉ」グスッ

果南「はは、ゴメンゴメン。でもまとめて倒せたからいいでしょ?」

千歌「まあね……これならあの子も助かるね!」

果南「そうだね! もうすぐ部屋に転送されるはずだけど――!?」





―――前にも言ったが戦闘中に敵から目を離すのは命取りである。
腰から下を切り落としただけではすぐには死なない。

不運にもまだ絶命していない星人は千歌の方向に上半身が向いていた。
一矢報いるため最後の力を振り絞り、ビームを放った―――




―――それは反射的だった。
千歌の後ろにいた星人が攻撃するのが目にはいった。
このままでは千歌がやられる。

千歌を横に押しのける事は出来た。

ただ、千歌に向けられた攻撃は……果南の心臓を貫いた―――



千歌(――……えっ?)


果南の胸を何かが貫き、崩れるように倒れる。


千歌「か……な……イヤ………イヤアアアアアァァ!!!!!」


星人は追撃する力はもう残っていなかった。
千歌は必至で呼び起こす。


千歌「いやだよ!! 果南ちゃん!!! しっかりして!!!!!」

果南「………ち……か、よか……った………」ドクドク

千歌「っっ!? そうだ……もうすぐ戻れるんだよ!!戻れば治るんだよね!!?」

果南「はは……千歌……きい………て……」

千歌「もうしゃべらないで!!」


果南の体がどんどん冷たくなっていく。
目の焦点も合っていない……


果南「あの………ね……よ………う……も………ひゃく……て……――」


――そのまま果南は動かなくなった。
うっすらと目を開けたまま……
その瞳孔は大きく開いていた。


千歌「うそ……うそでしょ!? 起きて!! 起きてよ!!」ボロボロ

果南「………」


転送が始まった。
泣きじゃくりながら果南に呼びかけ続ける。
まだ生きているはず。
まだ間に合う。
千歌は叫び続ける――

――だが、その日果南が転送されることは無かったのだった。
千歌は

また


大切な人を



失った……



――――――
――――
――
~GANTZの部屋~

パーカーの子「………果南さんは?」

千歌「うぅ……果南……ちゃん………」ボロボロ


あの部屋に戻って来られたのは二人だけ。
千歌の様子を見て、彼女も察するのは容易だった。


パーカーの子「っあのバカ! あとちょっとで100点だったのに!! 死んじゃったら意味ないじゃない……」

千歌「ぐすっ……100点?」


チン! という昔の電子レンジの音がGANTZからした。

今までの制限時間の表示が消え、新たな文字が浮かんだ。


GANTZ『それぢは、ちいてんを
はじぬる』

パーカーの子「今回のミッションの採点が始まるのよ。」

千歌「採点?」

パーカーの子「そう。倒した敵の数と強さに応じた点数が貰える……らしい」


GANTZ『堕天使(笑)
0点
TOTAL 10点』

パーカーの子「ほらね? 今回は誰も倒せなかったから0点」

GANTZ『ミカン星人
10点』

千歌(10点……私は一体倒したんだもんね……)

パーカーの子「あの星人10点だったのね……今回生き残ってれば100点だったのに!!」

千歌「ねえ、この点数って何なの? 100点取るとどーなるの??」

パーカーの子「えーっと……果南さんが言うには……いや、見てもらった方が早いか」

パーカーの子「ガンツ! 100点メニューを見せて」


その子の呼びかけで再び表示が切り替わる。


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する


パーカーの子「今日みたいなミッションをこなして100点を取ると、この中から一つ選べるらしいの。……実際に見たこと無いからホントか分からないけど」

千歌「一番を選べば……もうあんな戦いをしなくてもいいって事だよね?」

パーカーの子「そうでしょうね……果南さんは三番を選ぼうとしてたけど」

千歌「!? そっか!! 私が100点を取れば果南ちゃんは生き返るんだね!!」


―生き返る。
また果南に会える。
ほんの僅かだが希望があった。


千歌「果南ちゃんは……誰を生き返らせようとしたの?」

パーカーの子「あぁ、あなたは知るはず無いか。多分、前回までリーダーをやってた人だと思う。」

千歌「え? 果南ちゃんがずっとリーダーだったんじゃ無いんだ」

パーカーの子「私も3日前の前回が初めてだったからよく分からなかったけど……果南さんもその人の指示に従ってたから多分そう」

パーカーの子「その人も普通の女の子だったのに滅茶苦茶強かったな……」

千歌「ならなんで……」

パーカーの子「果南さんをかばったのよ……即死だったわ」

千歌「そんな……」

パーカーの子「果南さんもかなりショックだったみたいでね……『私のせいで大切な幼馴染の親友を死なせてた』って言っていたわ」

千歌「大切な幼馴染の……親友??」


―千歌は何かが引っかかった。
3日前……親友の失踪……この部屋………前リーダーの死……果南ちゃんの幼馴染……

ほとんど分かっている自覚はあった。
しかし……聞かずにはいられなかった。


千歌「――前のリーダーの名前って……分かる?」

パーカーの子「えぇ、確か――



“曜ちゃん”って呼ばれてたわ?」

――千歌は今までの曜の妙な異変の原因がやっとわかった。


千歌(曜ちゃん……一年前からこんな戦いに参加してたんだね。いつ死んじゃうか分からないこんな夜を何度も――)



――曜との最後の電話に込められた思い。
絶対に明日千歌ちゃんに会う。
千歌ちゃんとおしゃべりをする。
千歌ちゃんと遊ぶ。
千歌ちゃんと……


どんな事を思っていたか、全部は分からない。
でも、あの夜。
曜は確かにここにいた。
姿は無いけれど、確かに曜を見つけた――




涙は出なかった。


自分がどうするべきか。



その答えが見つかった――




パーカーの子「そういえば、私たち自己紹介がまだだったわね?」

千歌「え?あぁそうだったね!すっかり忘れてたよ……」アハハ

千歌「私は高海 千歌。浦の星女学院の二年生だよ!!」

パーカーの子「えぇ!? 同じ学校の先輩だったの!!?この学校の生徒率たっかいわね……」

パーカーの子「私も今年、浦の星に入学したの」

千歌「そうなの? 後輩なんだぁ」

パーカーの子「まぁそうなるわね。名前は―――」




善子「―――津島 善子よ」



第一章 完

二章
――
――――
――――――


???(私が……私が何をしたっていうの?)



フードを深く被り右手には包丁
左手には―――小さな黒い球


黒い球には“タカミ チカ”とこの名前であろう顔の表示

さらに、その人物の殺害が指示されていた


こんな指示に従う人間はまずいない

報酬も無ければ、恨みもない

ましてや彼女は自分が“全く知らない”人間である



それでも彼女はタカミ チカの殺害を実行する。


――家族を人質にされているからだ



彼女はまだ知らない

これから自分が殺める人間と“再びあの戦場”に戻ることを―――




~初ミッションから二日後 教室~

千歌(自己紹介が終わった後、私たちは一旦家に帰ることにした)

千歌(善子ちゃんに聞きたい事は山ほどあったけど、善子ちゃんもかなり疲れていてそれどころじゃ無かったんだ。まぁ……当然だよね?)

千歌(部屋を出るとそこは、沼津駅の近くにある高層マンションの一室だったんだ)

千歌(善子ちゃんの家は割と近くにあるみたいだけど……まだ夜明け前だったから当然バスは無く、私は走って帰る羽目に)

千歌(内浦まで普通だったら徒歩で三時間はかかるけど……スーツの力を使ったら三十分もしなかったよ。凄いねこの服)

千歌(家に着いたら美渡姉に思いっきり殴られたよ……スーツ着てるから美渡姉の方が凄く痛かっただろうな)

千歌(『あんたいままでどこに行ってたんだ!!』『私たちがどれだけ心配したかっ!!!』って泣きながら怒鳴られてね……)

千歌(私はこの時になってやっと自覚したんだ。『――私は帰って来られた』ってね)

千歌(そしたら今までの緊張から解放されて……そりゃワンワン泣いたよね。騒ぎを聞きつけた志満姉も一緒になってさ……)

千歌(二人には詳しい事情は話せなかったけど、曜ちゃんを探してたって言って納得してもらった。……ウソじゃないもんね?)

千歌(――そして今日は休みが明けた月曜日、私は教室にいるんだけど……)




千歌「――転校生?」

クラスメイトA「そうなの!なんでも東京の学校から来る子らしくてさ」

クラスメイトB「本当はもう少し早かったらしいんだけど、ほら……曜ちゃんの件でちょっとごたごたしたでしょ?」

クラスメイトA「曜ちゃん……どこに行っちゃったんだろうね………なんでも三年生のクラスでも一人行方不明になったみたいだよ?」

クラスメイトB「うちの学校だけじゃなくて全国的みたいだよ?ただ人数はそこまで多くないみたい」

千歌「………」


先生「はーい全員席につけー」ガラガラ



先生「何人かは知ってると思うが、このクラスに新しいメンバーが加わる。入っておいで」


先生の呼びかけで、扉から一人の女の子が入ってきた

長く綺麗な赤っぽい髪に少しつり目をしている。
多くの人は彼女を見れば綺麗な人だと感じるだろう


梨子「音の木坂学院から来ました、桜内 梨子です。よろしくお願いします――」




―――放課後

千歌(綺麗な子だったな~)


千歌の率直な感想だった。
休み時間になれば彼女の周りには多くの人が集まった。
転校生、それも東京からとくれば聞きたいことは沢山ある。

千歌(でも、なんで私が話しかけた時あんなに驚いたんだろう??)


千歌が話しかけた時……正確には千歌の顔を見た時、梨子は激しく動揺した


――まるで、いないはずの人間が目の前に立っている
そんな反応だった

おかしな反応をしたのは一瞬だけで、その後は何気ない会話をした


千歌(私が誰かに似てたのかなー?驚かれたのはちょっとショックだったなぁ)


そんな事を考えながら廊下を歩いていると――



???「あなたがタカミ チカさん……?」



背後から声をかけられたとき
―――体が冷たくなる感覚がした


あの時と同じだ……誰かに刺されたあの時と!!

嫌な汗をかきながら恐る恐る
振り返る――




ダイヤ「わたくしは、生徒会長の黒澤 ダイヤと申します。あなたは果南さんのご友人の高海 千歌さんですよね?」


千歌「あ……あぁはい!そうです私が高海 千歌です!!」

ダイヤ「??それはわかりました。では、わたくしの質問に答えてくださいます?」

千歌「はい?何ですか??」

ダイヤ「――果南さんが行方不明になっているのはご存知ですよね?」

千歌「っ!!……はい、“今朝”聞きました」

ダイヤ「今朝……ですか。なら最後にあったのはいつ頃ですか?」

千歌「先週の金曜日の夕方です。果南ちゃん家で話してました」

ダイヤ「金曜の夕方……ですか」

千歌「……探してるんですか?」

ダイヤ「当たり前ですわ!!わたくしの学校で、もう二人も行方不明になっているのですよ!?」

ダイヤ「黒澤家として……いや、生徒会長としても必ずお二人を探し出してみせますわ!!」



――できっこない。
事情を知っている千歌にとってダイヤの宣言はとても無意味なものだった



千歌「そうですね……頑張って下さいね」


軽く頭を下げ、ダイヤのもとから去った

後ろから何か言っていたようだが
千歌の耳には届かなかった―――




善子「―――遅かったわね?」


千歌は学校からそのまま善子の家に向かった。

あの時に聞けなかった事を全部話してもらうつもりだ。



千歌「いやー、ちょっと色々あってバスに乗り遅れちゃってさ」アハハ

善子「まあいいわ、んで?何から聞きたいですか?」

千歌「……あの部屋について全部」

善子「え……ざっくりしすぎじゃないですか!?」

千歌「だってさ!何から聞いたらいいか分からないんだもん!!」

善子「……仕方ないわね、だったらこのノートを見ながら順に話しますね?」

千歌「?なあに、そのノート??」

善子「前に果南さんから受け取ったの。このノートには部屋でのルールとか武器の使い方なんかがまとめてあるわ」

善子「私もしっかり読む時間が無かったから……ホント、無理してでも読むべきだった……」

千歌「善子ちゃん……」

善子「今さら言っても仕方ないか……いい?大前提としてあの部屋に転送されるのは完全に不定期よ。今もスーツはちゃんと持ってる?」

千歌「もちろんだよ!ちゃんと着てきた」

善子「いいわ。不定期といっても、転送される時間帯は必ず夜だから今日みたいに夜まで家に帰れない時はスーツだけでも持ち歩いて下さいね」

千歌「うん。このスーツにはかなり助けられたからね……着てなかったら生き残れなかったよ」

善子「スーツの重要性については説明の必要は無さそうね。次は武器についてだけど―――」



果南が残したノートを頼りにあの戦いで生き残る方法を話し合った

――気がつくと辺りはすっかり暗くなっていた

善子「結構話し込んじゃったわね……バスも終わっちゃったんじゃない?」

千歌「大丈夫だよ!このスーツなら走って帰れるからね!」ニコ

善子「ならいいけど……あんまり見られないようにしなさいよ?」

千歌「わかってるって!じゃあ善子ちゃん……また明日ね」

善子「……えぇ、また明日」



幸運にもしばらくの間、つぎのミッションが来ることは無かった―――





――
―――少女は部屋の隅でうずくまっていた
机にはあの子を殺めた包丁
そして小さな黒い球が置いてある


???(なんで高海さんが生きてるの!?確かにあの時……それに黒い球にもミッション完了って………)


――黒い球から音声が流れだした


ミニガンツ『次はこの方をたおしてくだちい。
クロサワ ダイア
クロサワ ルビィ
期限:明日の夕方
場所:生徒会室』―――





千歌(今日の桜内さん……なんか元気ないな)


善子との最初の会議から半月が過ぎた
あの後も定期的に集まり、武器やスーツの訓練をしていた

いつあの部屋に呼び戻されるのか……
びくびくしながらの生活


――という事無く、クラスメイトや善子と普通の学校生活を送っていた
転校生ともそこそこ打ち解けていったのだが……

今日はいつもと違い、明らかに様子がおかしい


千歌(なんかずっとうつむいてるし、話しかけても“何でもない”としか言ってくれないんだもんなー)

千歌(結構仲良くなれたつもりだったけど……そろそろもっと踏み込んで名前で呼んでみようかな?)



千歌「梨子ちゃん!お昼一緒に食べない?」

梨子「―っ!?ビクッ……ご……ごめんなさい。今日は一人にさせて………」

千歌「あー……うん、わかった。また今度誘うね」


梨子はそのまま教室からどこかへ行ってしまった


昼休みが終わる頃には戻ったが、相変わらず暗い表情のまま。
放課後になると誰よりも早く教室から出て行った。


千歌(ヘンな梨子ちゃんだったなー、悩みがあるなら相談してくれてもいいのに)ムスゥ

クラスメイトA「おーい千歌ちゃん、廊下で一年生が呼んでるよ!」

千歌「あ!善子ちゃんだね!!今行くねー」





――
―――

黒澤 ダイヤは生徒会長である
基本的な業務は一人でこなすことが多く、帰りは遅くなる事が多い。
普段なら帰りも一人

だが、今日は妹のルビィが一緒にいた
帰りに二人で買い物をする約束をしているからだ
姉妹の仲の良さは知り合いの中では周知の事で
特に珍しいことではない

ほとんどの生徒は下校しており、校内にはおそらくこの姉妹しかいない


――はずだった
生徒会室の扉の前に深くフードを被った少女が立ちすくんでいる。
右手には先日、千歌の血液をたっぷりと吸わせた包丁が握られていた。



???(教室は全部確認して誰もいなかった。この時間帯なら見回りの先生もしばらく来ない……)ブルブル

???(前回は海に沈めたけど、二人の遺体を運ぶのは難しい……一旦ロッカーに隠して夜に移動させるしかない……)ガタガタ


部屋からは姉妹の楽しそうな笑い声が聞こえる
これから自分たちがどうなるのかも知らずに



???(………よし)



包丁を強く握りしめ、少女は扉を開けた―――





―――千歌は教室まで迎えに来た善子と一緒にいつものようにバスに乗っていた

千歌「そういえば善子ちゃん、いつも私を教室まで迎えに来てくれるね?」

善子「何よ?ダメなわけ?」ムスゥ

千歌「そうじゃなくて、ほら……クラスのお友達はいいのかなー……なんて?」

善子「………私に友達がいない、みたいな言い方ね!!」プンプン

善子「私にだってね!ルビィとずら丸っていうリトルデーモンがいるのよ!!」

千歌「リトル……その子達は友達じゃないの??」

善子「いや……まあ、うん友達です………」

千歌「ならふつーに友達って言えばいいじゃん!善子ちゃんたまによく分からない言い方すくよねー」ジトッ

善子「ぐぬぬ……まだ中学の癖が残ってるのよ……」

千歌「でもさー……だったら何でその子と帰らないのさ?」

善子「……わかるでしょ?私たちがどんな立場なのか」

千歌「………」

善子「あんまり親しくしちゃうと……もしもの時悲しませちゃうから」

善子「だからさ……千歌さんが……同じ立場の人が近くにいてくれてホントに助かってる」

千歌「善子ちゃん……」

善子「―――雰囲気悪くしちゃったわね。そういえば一昨日、駅の近くに新しい雑貨屋がオープンしたんだけど……!?」ゾクゾク

千歌「!?ゾクゾク――善子ちゃん!これって!!」

善子「えぇ……この寒気が来たってことは、もうすぐ転送が始まるわ」




――――――
――――
――


???「ハァー……ハァー………ハァー」ガクガクガク

先ほどまで姉妹が楽しく会話をしていた生徒会室は

辺り一面

真っ赤に染められていた――


二人を仕留めるのに五秒もかからなかった
部屋に入ると同時に
近くに座っていたルビィの喉を一突き

間髪入れず、状況を理解し切れないダイヤの元に駆け寄り
頸動脈を切り裂いた

床に倒れたダイヤは

首から大量の血を流しながらも
最後の力を振り絞り

ルビィの元へ……



弱々しく這って進むダイヤ。

既に絶命したルビィの手に届いたダイヤは

安心した表情のまま



動かなくなった――




???「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ………」


これで三人の人間を殺めてしまった
人の命だ
軽いはずがない

得体のしれない感覚が彼女を蝕む




???「―――何をしてるずら?」


この日、出掛ける約束をしていたのは姉妹だけでは無かった
確かに“教室”には誰もいなかった

約束をしていたもう一人は
図書室にいたのだ


目撃された事実を認識した少女の体は
自分にとって“最善の行動”へと
考えるより先に移していた―――





―――転送の前兆を感じた二人はすぐにバスから降り、人気の少ない場所に入っていった

善子「いい?あの寒気を感じてたら、すぐに準備をしなさい?」

善子「しばらくすると突然動け無くなって転送が始まるからね」

千歌「わかってる!今日もスーツは下に着てきたっ!!」

善子「ならいいわ。……でもおかしいわね。まだ夕方だってのに転送が始まるなんて……」

千歌「確かに……ノートにも転送は夜のみって書いてあったもんね」

善子「………転送が始まったわ」




千歌と善子の体が徐々に消えていく
少女達は再び
生き残りをかけたミッションへ送られた――




~GANTZの部屋~

転送された部屋にはすでに3人の女の子がいた
幸か不幸か、この戦いに巻き込まれてしまったのだ


千歌(それにしても……女の子しかメンバーが増えないなー)

新人A「うぅ……おねぇちゃん……」ブルブル

新人B「……大丈夫よ。お姉ちゃんがずっと傍にいますから」ヨシヨシ

新人C「ほえー、この黒い球はなんずらかー?」ペシペシ


千歌(……なんか一人だけ適応力が高いというか、緊張感が無い子がいるな)アハハ

千歌(それにあの人……どこかで会ったような??)


善子「―――………ルビィ? ずら丸?」ブルブル


善子の顔は青ざめていた


ルビィ「善子ちゃん!? いつの間に来たの!??」

花丸「もう善子ちゃん! 私の名前は“花丸”ずらっ!」ジトッ

花丸「でも、善子ちゃんにルビィちゃんも来たってことは……この部屋は秘密基地か何かなの?」



善子「そんな……だって……なんでよ………」

千歌「よ……善子ちゃん? この二人ってさっき話してたクラスメイトだよ……ね?」


新人B「――高海さん? やっぱり高海さんですわね?」

千歌「え!? せ……生徒会長!!? 会長も来ちゃったんですか!!」

ダイヤ「ダイヤでいいですわ……。 どうやらお二人は何か知っていらっしゃるのですね?」

千歌「ほぇ? あぁ……はい。 ダイヤさん達よりは知っています……」

ダイヤ「でしたら今すぐ! 今すぐ状況を詳しく説明して下さい!!!」


ダイヤが激しい口調で千歌に問いただしたと同時に
GANTZから前回同様、ラジオ体操の音楽が流れ始めた


ダイヤ「……何ですの? このふざけた音楽は??」イライラ

千歌「ごめんなさいダイヤさん……。時間が無いので詳しくは説明できません」

ダイヤ「は?」


千歌「この音楽が終わったら黒い球が開きます。 中には武器とスーツが入っています―――」

ダイヤ「ちょっ……――」

千歌「スーツは自分の名前、それか関係のある単語が書かれたケースに入っているのを着てください――」

ダイヤ「ちょっとま……――」

千歌「少し経つと外へ転送が始まりますが、絶対にその場から移動しないでください。 あと」

ダイヤ「ちょっと待ってください!! 一度に色々言われてもわかりません!!!」

千歌「とにかく! 何がなんでもスーツだけは着てください!! 今回は生き残ることだけを考えればいいんです!!」


ダイヤ「生き残る……? それって一体……」


GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
ひょうほん星人 特徴:きもい 好きなもの:かがく 口くせ:ごごご』


ガシャン―――!


勢いよく両端開き、武器が現れた


ルビィ「ピギィィ!? び……びっくりした……」

花丸「おぉーー、未来ずらぁ」キラキラ



いままで黙っていた善子が激怒した



善子「いい加減にしなさいよずら丸!! あんた自分の状況分かってんの!!?」

花丸「ずらっ!? よ…善子ちゃん……?」ビクッ

善子「やけにテンション高いけど、ピクニックに行くのとはわけが違うのよ!!? そんな浮かれた気持ちでいたら気持ちでいたら絶対に死んじゃう!!!」

善子「なんでよ……なんであんた達この……ヒック……こんな部屋なんかに……」


花丸「………マルにはよく分からないけど……ごめんね?」

善子「……バカ、分かってないのに謝ってんじゃないわよぉ……」グスッ



千歌「―――……時間がありません。三人は早くスーツに着替えてください。善子ちゃん、準備するよ」

善子「グスッ……ええ、分かったわ」



全員の準備が完了したのと同時、順々に転送が始まった―――





――
――――
――――――完全に誤算だった
まさか近くにまだ生徒が残っていたなんて

口封じの為、反射的に息の根を止めてしまった
が、この子の殺害はあの黒い球の指示では無い

動揺した彼女は、思わず部屋から飛び出した


???(ナンデナンデナンデ………誰もいないはずだったのに!? そもそもコロス必要は無かった!! 顔は見られて無かったんだ――いやもしかしたら―――証拠は残せない―――あれは仕方ない――ワタシハ、ワルクナイ……そう、悪くない)ブツブツブツ

???(―――戻って処理しなきゃ)



これは彼女の才能なのだろう

凄まじい罪悪感に襲われようとも
想定外の事態に陥ったとしても

すぐさま、次に何をすべきか瞬時に判断し
冷静かつ大胆な行動へ移せるのだ


???(隠す遺体が三人に増えただけ。リスクは多少高くなったけど問題無い……)



急いで生徒会室へ戻った
相変わらず辺り一面血で染まっていたが――


???「……えっ?」


ついさっきまでそこにあった遺体が忽然と消えていたのだ―――





~沼津市内 某高校 特別棟三階 廊下~


ルビィ「ここって……学校?」

ダイヤ「ええ……ただ、浦女ではないようですね」

花丸「外に出られたならこのまま帰れるんじゃないかな?」

善子「ダメよ。今回はこの学校の敷地が範囲だから、その外に出ると死ぬわよ」


レーダーで今回の範囲を確認した善子は三人に警告する。


千歌「ちょっとマズくない? この時間帯だとまだ生徒が残ってるんじゃ……」

善子「かもね。 まあ、向こうからは私たちは見てないから大丈夫だと思うわよ?」

ダイヤ「見えない?」

善子「そうよ。 ただこっちからは干渉出来るから人がいても無闇に触れないようにしなさいよ?」


ルビィ「あの……これから私たちは何をするんですか?」ビクビク

千歌「簡単に言えばサバイバルゲームをするんだよ。 出てくる敵を全員倒せばゲームクリア。 逆に全員やられたり、時間内に倒し切れなかったらゲームオーバー……」

花丸「ゲームオーバーになったら……マルたちは――」

善子「勿論死ぬわよ? 今度こそ本当にね」

花丸「え? マルは死んでるの??」

善子「………まさかそこから理解してなかったとはね」ヤレヤレ

千歌「あははは……」



ダイヤ「!? 何か来ましたは!!?」


ダイヤの声に千歌と善子はすぐに銃を構え臨戦態勢に入った
その先には、頭部の無いヒト型の骸骨か立っていた

数は……廊下の曲がり角や教室の中から現れどんどん増えていく


花丸「うわぁ! 後ろからも来てるずらぁ!!」


千歌「この数じゃ小さいXガンじゃ厳しそうだね?」

善子「私のデカいやつなら大丈夫よ! 後ろの方は任せてっ!!」



『Xガン』、果南が残してくれた本にはイラストと共にそう命名されたこの銃にはハンディサイズタイプと大型のXショットガンがある。
どちらも着弾した部位を内部から爆発させる

発射してから効果が出るまでタイムラグがあるが、二つの大きな違いは威力と射程距離、それに弾切れの有無である。

ハンディサイズのXガンは小回りが利き、扱いやすい反面
射程が短く三発連射するとエネルギー切れとなり、チャージの為に一定時間使えなくなる

ショットガンタイプは大きく近接戦には向かないが、遠距離からの狙撃も可能で威力も高く、フォアグリップのスライドを引くことで瞬時にチャージが完了し連射が可能となっている。


善子とダイヤはこのXショットガンを部屋から持ってきていた



しかし千歌はダイヤからその銃を受け取らず、構えていたXガンを右大腿部のホルスターに収める。

そして逆側のホルスターにある柄と鍔の部分しかない刀に手をかけた


果南により『ガンツソード』と命名されたこの武器は通常はグリップ部分のみであるが、スイッチを押すことで伸縮自在の刀身が出現する。
その形状は日本刀に近く切れ味は鉄をも切り裂く



千歌は刀身を程よい長さまで伸ばし、体の正面に構えた


千歌「―――さあ、行くよっ!!」





――――――
――――
――
ルビィ「す……凄い………」

花丸「あれがホントに喜子ちゃんなの……?」



善子は迫りくる敵の群れを次々に狙撃していく
時々撃ち漏らしがあるものの、格闘による近接攻撃により対処している

千歌との訓練により前回までと明らかに動きが良くなっていることは
善子自身も自覚していた


善子(大丈夫……数は多いけど、前の敵よりは随分動きが遅い! 落ち着いて戦えば勝てる!)ギョーン!ギョーン!ギョーン!


善子側の敵の数も残り僅かになり殲滅まであと少しとなった




ダイヤ「………」


千歌の戦いを見ていたダイヤは唖然としていた

目の前にはバラバラになった骨の残骸と千歌の後ろ姿が映っていた


一瞬……まさに一瞬の出来事であった

武器を構えた千歌が敵陣に切りかかったと思えば
次々と敵が倒れていった


敵からの攻撃は一切食らわず、一撃で敵を行動不能にしていく

数十体はいた敵の群れは千歌の前では無力であった



ダイヤ(――千歌さん……あなたは一体……)


千歌「善子ちゃん! そっちはどうなった!?」

善子「あと少しっ!ギョーン!……よし、全部倒したわ!」

千歌「ふぅ……これでひと段落だね」

ルビィ「これで終わったの?」

善子「まだよ。ガンツにあったあの星人を倒せてない」

花丸「がんつ??」

千歌「部屋にあった黒い球の名前だよ。 あの写真の敵が今回のミッションのボスみたいなものだと思う」


善子「レーダーだと下の階に居るみたいね……三人はここにいてもらう?」

千歌「いや、一緒に来てもらおう。 これで最後じゃないかもしれないからね」



周囲に警戒しつつ、五人は敵がいる下のフロアへ向かった






~二階 生物実験室前~

善子「レーダーによるとこの中ね」

ダイヤ「生物室……ですか」

千歌「どんな敵か分かりません……三人は私たちの後ろにいてください」


三人は無言で頷く
千歌と善子は目で合図を送ってから静かにドアを開けた



中に入ると、実験室の後ろによくある人体模型が立っていた。
言うまでもない、写真の敵である……


善子「……私が狙撃するわ。 外した時はすぐに切りかかって…」

千歌「わかった。 準備しとく……」カチャッ


善子は銃の標準を敵に向ける

トリガーにかける指はブルブルと震えている

大きく息を吐き、トリガーにかけた指に力を加えた直後――


――星人は素早く横に動いた……




善子が撃った弾丸は先ほど星人がいた壁に当たり、大きな穴を開けた



千歌は星人が回避した刹那
地面を勢いよく蹴り、星人との距離を詰める――


スパッ――!


千歌の斬撃が敵の左腕を切り落とす
――が、敵は構わず後ろの四人へ襲い掛かった



銃を外したショックと千歌が仕留めそこなった驚きで善子は硬直している

星人は残った右腕で善子と花丸を吹き飛ばす


バキッ―!


善子は勢いそのまま窓ガラスを突き破り外へ、花丸は実験室の机に叩きつけられた

衝撃で机は大破、花丸は自身に何が起こったか分からないでいた



花丸(あ……れ……? 痛くない??)


花丸はスーツの自動防御により無傷である



しかし星人の攻撃は止まらない

口から得体のしれない液体を
ルビィに吹きかけた――



ダイヤ「――! ルビィ!!!」ドン


ダイヤはルビィを押しのけ、液体の直撃を防いだ


――液体の一部がダイヤの左腕と右足にかかった瞬間
瞬く間に触れた部分からみるみる溶けていったのだ


ルビィ「っ!!? おねぇちゃん!!!?」

ダイヤ「あアあァァあっ!!! くうぅぅううウヴヴぅぅ!!!」


ダイヤは今までに味わったことのない痛みにのたうち回っている
星人が止めを刺そうともう一度液体を口に溜める


ギョーン――!!


奇妙な発砲音が教室に響く――
不思議に思った星人は音のする方向を向くと

千歌がXガンを構えていた


バンッ――!


星人の頭がはじけ飛ぶ――




千歌「ルビィちゃん!! 花丸ちゃん!! 無事!!!?」

ルビィ「千歌さん!!! おねぇちゃんが!! おねぇちゃんがぁ!!!!」

千歌「……よかった。 まだ生きてる」フゥ


千歌がダイヤの生存を確認すると転送が始まった

今回のミッション
誰一人死者を出さずに生還する事ができたのだ――






~GANTZの部屋~

ダイヤ「……わたくしは…確かルビィをかばて手足が……」

千歌「ミッションが終わった時に生きていれば、どんな大ケガをしても元通りになるんですよ」

ルビィ「グスッ……よかった、よかったよぉ……」ポロポロ


善子「うう、私がしっかり当ててれば……」

花丸「善子ちゃんも大丈夫だった? 窓から落っこちてたけど……」

善子「ピンピンしてたわ! スーツ着てなきゃ大ケガだったけどね」

花丸「やっぱり私が無事だったのもこの服のおかげたったずらかー」ペチペチ


千歌「ほら、採点が始まるよ」



いつの間にかガンツの表示が切り替わり採点画面となっていた。

GANTZ『硬度10
0点』


ダイヤ「……は?」イラ



GANTZ『ずら丸
0点』


花丸「だから花丸ずらー……」



GANTZ『ピギィ
0点』


ルビィ「擬音語……」



GANTZ『堕天使(笑)
22点
TOTAL 32点』



善子「ふぅ……まあまあって感じね?」



GANTZ『ちかっち
42点
TOTAL 52点』



善子「うお!? 42点とか……凄すぎじゃない?」

ダイヤ「そもそも……この点数てなんですの? そろそろキチンと説明して頂けますわよね?」


千歌「……そうだね。 ここじゃなんだから、一旦私の家に行こうか」





――
――――
――――――
彼女は生徒会室の清掃を済ませていた
遺体が消えていた事が気がかりだが、無いものは仕方ない
むしろ運ぶ手間が省けたと思えばいいと考えていた


???(もう……帰りましょう………)


さすがの彼女も疲弊しきっていた
また明日も“いつも通りの自分”を演じるためには
休養が必要である

使用した雑巾をカバンにしまい、生徒会室を後にした



――そんな彼女をずっと監視していた人物の存在に最後まで気が付く事はなかったのである





~千歌の部屋~

千歌「―――説明はこんな感じかな……」


千歌はダイヤ、ルビィ、花丸に自分達があの部屋で経験した事など
知っていることを全て説明した。

話を聞き終わった彼女たちの雰囲気はとても暗く重いものとなっていた。


ルビィ「……ルビィたちはホントに一回死んじゃったんだね?」

善子「ええ……あの部屋に来たってことは間違いないわ」

花丸「………あの時、善子ちゃんが言ってた意味……わかったよ」グスッ

善子「ずら丸……」


ダイヤ「あの部屋から解放されるには、星人を倒して100点を取る以外に方法は無いのですね?」

千歌「……おそらく」

ダイヤ「行方不明になったお二人もあの部屋で……」

千歌「………はい」


ダイヤ「……覚悟はできましたわ。千歌さん、善子さん、私に戦い方を教えてください!」

千歌「ダイヤさん?」

ダイヤ「戦いが回避出来ない以上、生き残るすべを身に着けることは必然」

ダイヤ「――皆さんと一緒にあの部屋から出たいのです!!」

ルビィ「ルビィも!! 見てるだけじゃ出られないなら……!」

花丸「……マルもお願いします」ペコ


善子「みんな……」

千歌「――もちろんだよ!! 全員であの部屋から解放されよう!!」






~同日 同刻 浦の星女学院 理事長室~
浦の星女学院の理事長に就任している人間は全国的にも類を見ない学生である
しかも自身もその学校の三年生に所属している

本来なら彼女もこの時間帯は自宅に帰っているのだが
家ではできない調べものをする為に理事長室に残っている

ノートパソコンのディスプレイには複数のウェブサイトのページが表示されている


内容は
『最近発生している行方不明事件』『沼津市内で多発している建物の破壊事件』
『5年前に発生した高速道路でのバス爆破事故』『大人気スクールアイドルに関する都市伝説』『謎の部屋にある黒い球』――
などなど様々である


???「……やっと分かってきたわ」


彼女はパソコンを閉じ、窓の方を向いた


???「近いうちに関係者へ話を聞く必要がありますネ……まあ、全部は答えてもらえないでしょうけど――」


彼女が核心に辿り着くのに時間はかからないだろう
“決定的な瞬間”を生徒会室で目撃したのだから


???「――もうすぐ見つけてあげるわ……果南っ♪」




―――三章へ

三章

部屋に帰った彼女はそのまま自室のベッドへ倒れこんだ。
制服から着替えたり晩御飯を食べたりする気力はすでに残っていなかった……
そのまま彼女は夢の中へ――


――奇妙な夢だった。
彼女は夜の街に立っていた。

自分の容姿は今より少し幼い
……中学二年生くらいだろうか?


周りには自分より年上だと思われる女性が九人……
全員同じ黒い独特なスーツを身にまとっていた。



全く覚えがないはずのこの光景に
彼女は懐かしさを感じていた。


夢の中の女性が彼女に話しかけてきた。
何を言っているのかほとんど聞き取れなかった
彼女は一体何と言っていたのだろう





――――――
――――
――


千歌(ダイヤさん、ルビィちゃん、花丸ちゃんが参戦してから一か月以上が過ぎた)

千歌(その間にあの部屋に一回呼び戻され、追加メンバーもいなかったけど、幸いなことに犠牲者は出なかったのだ)

千歌(訓練のおかげでダイヤさん達もそれなりに点数を稼げるまでに戦えるようになったのだ!)

千歌(ダイヤさんはもう一人でも十分戦えると思うけど……ルビィちゃんと花丸ちゃんは危なっかしい場面が多くてひやひやするよ……)

千歌(けどルビィちゃんはダイヤさんが、花丸ちゃんは善子ちゃんがフォローしてくれているから大丈夫かな?)


千歌(今では普通の学校生活を送りながら、週に三回は夜に学校近くの森に集まって戦闘訓練をしている。なんだか部活動みたいだったよ!)



千歌(――今は昼休み、みんなで一緒にお弁当を食べているんだけど……)




千歌「――ダイヤさんが理事長に呼び出された?」

善子「確か……小原家の人だよね? 家がホテルを経営してる学生理事長の」モグモグ

ルビィ「そうだよ。『鞠莉さんに呼ばれたから先に生徒会室に行ってなさい』って言われたんだけど……」

千歌「けど?」

ルビィ「なんだかその時の顔が……とても怖かったんです……」

花丸「ダイヤさんの怖い顔かぁ、あまり見たくないずらねー」

千歌「あはは…怒ると凄く怖いもんね」


善子「……大丈夫なんでしょうね? うっかりあの部屋のことを話したりしたら、もれなくあの世行きよ?」



果南のノートによれば、あの部屋についての話を他人に漏らしたり、武器を目撃されるのはタブー

基準は分からないが、ガンツに発覚すると即抹殺されるらしい。



花丸「それは無いんじゃないかなー? あのダイヤさんだよ?」

ルビィ「そうだよ。それにあの部屋の話題が出る事なんてそうそう無いよ」

千歌「でもダイヤさん以外に抜けてるところあるからなー。この前の訓練だって、Xガンは二つのトリガーを引かなきゃダメなのに、上側しか引いてなくってさ――」



ダイヤ『あら? なんで撃てませんのぉぉぉ!!!?』カチカチカチ



善子「――確かそのまま地面に叩きつけてたよね? さすがにあれは無いわ~」ケラケラ

ルビィ「普段武器は使ってないからね……ド忘れしちゃったんだよ」アワアワ

花丸「実践だったら命取りずら」モグモグ

善子「ずら丸だって人のこと言える? 崖から飛び移る訓練の時『無理ずらぁぁ!! 怖いずらぁぁ!!』って言ってずっと泣きわめいてたじゃない?」ニヤニヤ

花丸「んな……/// あれは初めてだったから/// そもそもあんな高さなんだから怖いのは当然ずら!!」

千歌「でもルビィちゃんは大丈夫だったよね?」

ルビィ「何度も落っこちてましたからね……さすがにもう馴れました」ズーン

善子「つまりあんたはルビィよりビビりって事よ」ニヤニヤ

花丸「むぅ……善子ちゃんのばか」プイ



ガラガラ――



ダイヤ「戻りましたわ……」

千歌「お帰りなさい! 結構早かったですね」

善子「先に食べ始めてるわよー。ダイヤさんも早く食べましょ?」

ダイヤ「……千歌さん、鞠莉さんが、理事長がお呼びです。放課後に理事長室に向かってください」

ルビィ「次は千歌さんがお呼びだし?」

善子「なんか悪いことでもしたんじゃない? 理事長呼ばれるなんて」

花丸「善子ちゃんが言える事じゃないずら。むしろなんで呼び出されないのか不思議なくらいずらよ」ジトー


千歌「別に何もしてないんだけどなー? なんだろう??」

ダイヤ「分かりません……ただ気を付けてください」

千歌「?」


ダイヤ「“あんな顔”をした鞠莉さんはだいたい予想も付かないことを言いますから―――」





~放課後 理事長室前~

千歌(うぅ……ダイヤさんがあんな事言うから緊張するよぉ……)


早く話を済ませて帰りたい千歌はすぐに理事長室の扉をノックした。
中から『どうぞ~』という何とも明るい声が聞こえたので部屋に入る。


鞠莉「チャオ♪ 初めまして高海さん。いや、親しみを込めて“ちかっち”って呼ばせてもらうわ!」

千歌「はぁ……」


鞠莉はニコニコしながら千歌に話しかける。


鞠莉「いや~前からちかっちとはお話ししたかったのヨ。突然呼び出してゴメンなさい」

千歌「それはいいんですが……要件は何ですか?」


鞠莉「……そうね、勿体ぶっても仕方ないから単刀直入で聞くわね?」


今までの雰囲気とは一変
真剣な眼差しで千歌の眼を見つめる。




鞠莉「―――ガンツって知ってる?」







―――千歌には鞠莉が発した言葉を理解するのに時間がかかった。
なぜ彼女からその言葉が出てきたのか?
まさか……ダイヤさんが――


鞠莉「……“どうして知っているのか”って顔をしているわね? 取り敢えず、私が今まで調べて得た情報を元に話を続けるわ」

鞠莉「あぁ、ちかっちは“何も”答える必要は無いわヨ? まあ、答えられる事は答えてもらえると助かるけど」

千歌「………」


鞠莉は話を続ける


鞠莉「最近、沼津市内で謎の破壊事件が多発していることは知っている?」

千歌「……ハイ。テレビのニュースでよく流れていますから」

鞠莉「そうね。ここ最近なら『沼津港』と『市内の高校』なんかが特に被害が大きいわネ」



どちらの場所も千歌が戦闘慣れしていなかった時期の戦場である。



鞠莉「この他にも被害の規模は小さいけど、道や民家の壁なんかが何者かによって壊されている場所が多く存在している……」

鞠莉「実はね――沼津市内だけじゃなくてこのような破壊事件が全国的に起きているのよ。そして、そんな破壊事件の前日には必ず行方不明事件も発生している……」

千歌(全国? 私たちと似たようなことをしている人が他にも……?)


鞠莉「これには諸説あってね……破壊に関してはただのイタズラ、同時に行方不明者が発生しているのも偶然。私も最初はそう思っていたわ……」

鞠莉「――ネットでこのサイトを見つけるまではネ♪」



鞠莉は机の上にあるノートパソコンの画面を千歌に見せる。
そこに書かれていたのは――


千歌(『謎の部屋にある黒い球~GANTZ~』っ!?)



そのページには、あの部屋での出来事が大まかに書かれていた。

外部に漏らせば死んでしまうルールのはずなのに。




鞠莉「『死んだ人間が謎の黒い球のある部屋に連れていかれ、黒いスーツを身にまとい、怪物と戦いを強いられる』――誰が書いたか分からないけど、普通に考えればこんなのはただの妄想……」

鞠莉「でもこのサイトのリンクに五年前と三年前に起きた事件が貼られていてね、この妄想に信憑性を持たせているの」



鞠莉はページをスクロールさせリンク先のURLをクリックした。

そこには東京の高速道路で発生したバスの爆発事故の記事の抜粋と
とあるスクールアイドルの都市伝説が載っていた。



鞠莉「この事故は乗客40人を乗せた静岡行きの高速バスが居眠り運転をしていた大型トラックと衝突し炎上、その火が漏れ出したガソリンに引火して爆発。運転手も乗客全員が死亡した大事故よ……」

鞠莉「ただね……消火した後にバスの中の乗客人数を確認すると、確かに乗っていたはずの乗客の遺体が何人か無くなっていたのよ」

千歌「遺体が……無くなった?」

鞠莉「そう。百歩譲って炎で完全に炭になったと仮定しても……消えた遺体は9人。明らかに多すぎる」

鞠莉「さらにこの消えた9人はちょっとした有名人でね、『ラブライブ』って言うスクールアイドゥの全国大会で優勝したグループメンバーだったから事故発生直後のニュースではかなり大きく取り上げられていたのヨ」

千歌「スクールアイドル……」


鞠莉「―――グループ名はμ’s(ミューズ)。音の木坂学院のスクールアイドゥデース」







――
――――
――――――
彼女は徐々に思い出す。
夢で見た光景は紛れもなく自分が過去に経験したことだと。

自身が誰と出会い
あの場所で何をしていたのか。

もうじき全てを思い出すだろう―――



――――――
――――
――



千歌「ミューズですか? メンバーの顔と名前は知っていますが……」

鞠莉「当時はかなり話題になっていたみたいよ? あのバスに乗っていた彼女達全員のあるはずの遺体が消えたんですもの」

鞠莉「――そして翌日の早朝、9人とも何事も無かったようにそれぞれの自宅に帰っているのよ」


千歌「ただバスに乗っていなかっただけじゃ……?」

鞠莉「いいえ。バスの乗客リストにも停留所近くの防犯カメラにも、確かにミューズのメンバーは爆発したバスに乗っていた」

鞠莉「なら仮にバスに乗っていなかったとしても、彼女達は早朝まで一体何処にいたのかしら?」


千歌「……だとしても、これだけではその妄想話が本物だって言うには無理があると思います」

鞠莉「その通り。この記事だけではまだ足りない……最も重要なのは、都市伝説の方の記事ヨ」



鞠莉はもう一つの記事までページをスクロールした。



鞠莉「これは三年前に新宿で起きた大規模な虐殺事件に関する記事よ。かなりの大事件だったから覚えているでしょ?」


千歌「……? こんな事件ありましたか??」

鞠莉「あら? 覚えていないの……まあいいわ。この事件は突如現れた人型の化け物がそこにいた大勢の通行人を無差別に殺害していった。ここ最近で発生した事件の中でも最悪な事件ヨ」

千歌(そんな大事件があったんだ……何で私は覚えてないんだろう??)


鞠莉「警察や自衛隊も出動して化け物を倒そうとしたのだけど、全員返り討ちにあって止めることは出来なかった」

鞠莉「――そんな時にこの人たちが現れたの」




鞠莉は一枚の写真を千歌に見せた。

――その写真には10人の女の子が千歌達と似たような黒い格好、武器を持ち
化け物と戦っていたのだ。



写真は拡大加工したもので全員の顔はハッキリとは分からなかったが
先頭に立っていた人の顔だけは何とか判別できた。

オレンジ色の髪色に片側だけをリボンで結んだ独特な髪形の女の子。
それは千歌も知っている人物であった……




鞠莉「――高坂 穂乃果さん、μ’sのリーダーだった人よ。本人はこの写真について否定したみたいだけどネ」

千歌(この顔に髪形、間違いなく穂乃果さんだ……本当にμ’sも同じ経験を?)


鞠莉「判別できない人も髪形や人数から考えて恐らくμ’sのメンバーがでしょうネ。バスの事故以来、メンバーが夜になると一時的に行方不明になったことが多々あったみたいだし、この時もそうだった。これら全てが事実だとするなら……」




鞠莉「――メンバーはバスの事故で死亡し、あの部屋の住人となった。と考えられない?」




千歌「……」


鞠莉「そ・し・て、同じような部屋が日本中に存在し、それが沼津市内にもあるとするならば、行方不明のまま見つからない子の手がかりが見つかると思わない?」


千歌「仮に……仮にそんな部屋が存在したとして、何で私にそれを聞くんですか?」



この質問に鞠莉はニヤリと笑い


鞠莉「――だってちかっち、少し前に行方不明になったわよネ?」




千歌「んな!? どうして!?」

鞠莉「小原家の情報網は伊達じゃないのよ♪ この学校で行方不明になったことのある生徒には“全員”話を聞いているの」


鞠莉「ただ、全員最初の質問の反応で分かるし人数も大していなかったから時間はそれほどかからなかったわ~♪」


千歌「……昼休みにダイヤさんを呼び出したのも?」

鞠莉「ウーン……ダイヤのは少し違うかな?」

千歌「え?」

鞠莉「ダイヤの場合、質問するまでも無かったわ! ちなみに、ちかっち以外のメンバーは既に三人検討は付いているのよ?」

千歌「っ!?」

鞠莉「ああ……ちかっちが“あの部屋のメンバー”だとも決まったわけでも無いし、そもそも“まだ”あの部屋があるとは確定したわけでも無かったわネ」アハハ

千歌(どうして知ってるの!? もしかして訓練を見られた? でも…だったらこんな回りくどい話はしないか)ブツブツ


鞠莉「取り敢えず、話は以上デース」

千歌「え? 終わりですか?」

鞠莉「ええ。こっちはいろいろ話したけど、ちかっちは何も話せないみたいだし…まあリアクションでどの位合ってるか分かったけどね」ニヤリ

鞠莉「時間を取らせてごめんなさいネ! 戻っていいわよ~~」フリフリ


千歌「……失礼します」


千歌は理事長室から出ようとした。
その直前――



鞠莉「――果南が今いないのは、やっぱり“そういう”ことなの?」



弱々しい声で千歌に質問してきた。
千歌は一瞬足を止めたがその質問に答えることは無く
そのまま部屋を後にした――




千歌(結構ガンツのことバレてたけど、死んでないって事はセーフなんだとね?)


部屋からでた千歌は自分がガンツに抹殺されなかったことに安堵していた。
μ’sが昔、自分達同じ戦いを強いられていたことには驚いたが、

正直言って今の千歌達には関係のない事だった。


千歌「穂乃果さんみたいな経験者が仲間だったら心強いけど、三年前の話じゃなー……とっくに100点取って解放されてるか、やられてメモリー内だもんね」ウーン


千歌(そもそもなんで私はあの事件を覚えてないんだろう? 三年前でしかも大事件だったらいくら私でも覚えてるはずだよね??)

千歌(――あれ?? よく考えたら三年前の私って何やってたんだっけ?)



中学二年生の学校での思い出、世間のニュースなどなど

いくら思い出そうとしても全く分からない。

まるでその時の記憶がすっぽり無くなってしまっている

必死に思い出そうとしていると…



梨子「千歌さん? こんなところで何してるの?」

千歌「梨子ちゃん! いやー、理事長に呼び出されててさ…」

梨子「理事長に? 何か悪いことでもしたんだ」ジトッ

千歌「ち、違うよぉ!アセアセ 単純に“おしゃべり”がしたかっただけみたい。ほら、理事長もこの学校の生徒だし?」


梨子「ふーん……なら理事長は今部屋にいるのね?」

千歌「うん。ついさっきまで話してたからいると思うよ?」

梨子「ならいいわ。わたしも理事長に用事があるから……」

千歌「梨子ちゃんも? 意外だねぇ……何悪い事したの?」ニヤニヤ

梨子「“わたし”が理事長に用があるの! 千歌ちゃんと一緒にしないで」プンプン

千歌「私だって悪い事なんてしてないもん! まあいいや。早く終わるなら待ってるよ? 一緒に帰ろうよ!」

梨子「うーん……止めておく。結構時間が掛かるから先に帰ってて?」

千歌「そっかぁ。残念」ガッカリ

梨子「ごめんなさい……また誘ってね?」

千歌「うん! また明日ね! 梨子ちゃん!!」

梨子「えぇ、また明日……」フリフリ



――――――
――――
――

鞠莉「――どうやら、あの部屋は本当に実在しているようね」

鞠莉「ちかっちには話さなかったけど、学校で私見ちゃったのよねー……。その前からあの部屋の事は結構調べていたけれど、自分の中で決定的なものが欲しかったところで“あれ”を目撃出来たのは――」


ゴソゴソ――


扉の前で何か物音がする。
鞠莉にはこれが何なのか、おおよその検討は付いていた。

ただ、確証は無かった。

気のせい、考えすぎ、痛い妄想
そんな事が頭の中を巡っていたが万が一この後、自分が考える展開になった場合
最悪、聞きたい事を聞けないままこの世を去ることになる。


鞠莉「――中に入って来なさい。私は逃げなから安心しなさい?」



――ガラガラ

しばらくの沈黙の後、扉から少女が入ってきた。
千歌やダイヤ達を殺害したときと同じ服装に凶器を携えて……



鞠莉(……来ちゃったか。覚悟はしてたケド)

鞠莉「聞いてもいいかしら? 私がこれから殺されるのは、あの現場を見ちゃったから?」

???「!? 見たんですか!!?」

鞠莉「あら? ち……違うの?? ちょっと予想外」


???「あの現場を見たのに……なんで通報しなかったんですか?」

鞠莉「そうねぇ…最初は通報しようと思ったんだけど、あの現場で不思議なものを見たの」

???「不思議なもの?」

鞠莉「そうよ、――あなたが殺したダイヤ達の死体が消えていったのよ。まるでどこかに転送されるよな、そんな感じの消え方だった」


鞠莉は千歌に見せた写真をともう一枚別の写真を彼女に見せた。

千歌に見せたものとは異なり被写体が二人だけであった。
一人は高坂 穂乃果の後ろ姿
もう一人は―――




鞠莉「これ、あなたよね? 桜内 梨子さん―――」


今より顔が少し幼くて髪も短いが、確かにそれは梨子の姿だった。



梨子「――あなたも“元”あの部屋の住人だったんですか?」

鞠莉「いいえ。“元”って事は今はもう違うのね?」

梨子「私も……つい最近まで全く覚えていなかったんです。東京でも普通に暮らしていたんですが、内浦に引っ越してきたその日にポストにこんな球が入っていたんです」


梨子はポケットから小さな黒い球を取り出し、鞠莉に見せた。
そこには『オハラ マリ』の殺害命令が表示されていた。


梨子「最初に千歌ちゃんの殺害を命令されました。その時は引っ越してきたばかりだったし、ただのイタズラだと思って無視していたんです」

梨子「――次の日、母が腕の骨を折るケガをしたんです。原因が転倒とか事故とかでは無くて……私と話している最中にいきなり折れたんです」

鞠莉「………」

梨子「何が起きたのか分からなかった……そんな時この球がしゃべったの――
『指示に従わないなら次は殺す』ってね………」

梨子「それから命令された通り……千歌ちゃんを……」


鞠莉「ダイヤ達をやったのも命令で?」

梨子「そうです。でも千歌ちゃんもダイヤさん達も次の日学校に登校してきた時は驚きました……黒い球にはミッション完了の文字があったのに」

梨子「その頃から……同じ夢を見るようになった…ちょうどその写真みたいな場所のね?」

鞠莉「ならやっぱりこの写真に写っているのは……」


梨子「ええ、確かに私よ。その写真を見たおかげで全部思い出せた……」フー


大きく息を吐く

梨子は悲しそうな目で鞠莉を見つめた。

梨子「――鞠莉さんには申し訳ないけど、これからあなたを殺さなければいけません」

鞠莉「……でしょうね? じゃなきゃあなたは家族を失うんですもの」

梨子「安心してください、十中八九あの部屋に転送されるはずですから……出来るだけ痛みが無いようにやります」

鞠莉「転送されなくちゃ困るわ~、きっとあの部屋に果南がどうなったかの手がかりがあるはずですもの。確実に送ってもらうわよ?」

梨子「フフ…おかしな人ですね」


梨子は握りしめていた包丁を鞠莉へ―――




――――――
――――
――

ダイヤ「――千歌さんを待たなくてよかったんですかね?」


ダイヤ達四人は沼津のカフェにいた。
この前善子が千歌に紹介しようとした店であの後、定期的に通うようになっていた。


善子「仕方ないじゃない? どれだけ時間が掛かるか分からなかったし、先に行ってて~とも言われたしね~」モグモグ

ルビィ「メールも送ってるし、終わり次第きっとこっちに来るはずだよね」ハムハム

花丸「心配する必要はないずらー」ズズズ

ダイヤ「……鞠莉さんとどんな話をしたのか、非常に気になりますわ」ムムム

善子「そんなの千歌さんが帰ってくればすぐに分かる事じゃない? こっちから聞かなくたって千歌さんから話してくれるわよ……多分」

花丸「善子ちゃん、自信がないからって最後に『多分』って付けるのは卑怯ずら!」

善子「卑怯って……」ヤレヤレ

いつも通りの日常、ありきたりな放課後、ごく普通の会話
そんなひと時は一瞬にして変貌する―――



ゾクゾク――!



全員は独特な寒気を感じた

再びあの部屋に転送される日が来たのだ



善子「……そろそろだとは思っていたけど、今回は夕方なのね」

ダイヤ「本来なら前回みたいに夜中に呼びだされるはずなんですよね?」

善子「そのはずなんだけど……まあいいわ、取り敢えず準備しましょう」



四人は会計を済ませ、人の目が少ない路地裏へ移動

数分後、順番に転送が始まった―――





~GANTZの部屋~

千歌「おっ、みんな来たね~」


ダイヤ達より先に千歌が部屋にいた。
制服は畳んで隅に置いてあり、スーツの着替えを済ませている。


ダイヤ「またこの日が来てしまったのですね……」ハーッ

ルビィ「分かってはいたけど、やっぱり馴れないよ……」

善子「いい加減受け入れなさい? 嫌ならさっさと100点取るしか無いんだから」

花丸「……ちょっと言い方が冷たいずら」ムスッ

善子「何よ? 事実なんだから仕方ないでしょ?」カチン


千歌「まあまあ二人ともケンカしないの! そんなことより早く着替えなくっちゃ」

千歌が仲裁に入るがまだ善子と花丸は睨み合っている

そんな中、ガンツから新たな人間の転送が始まっていた


ルビィ「あれ? 誰か転送されてきてるよ??」

千歌「ホントだ……前回は追加されなかった新メンバーだね」

善子「聞き分けのいい子だといいわねー、変な人だと最悪ですもの」

花丸「知り合いだったら……ちょっとショックだな」


胴体の転送が完了――


ダイヤ「この服装は……」

善子「また浦女の生徒!? ちょっと多すぎでしょ」ドン引き

千歌(あれ? なんか見覚えが??)


全身の転送が完了した。



???「――どうやら無事にこの部屋に来られたみたいデース♪」


後ろ姿なので顔はまだ分からないが

派手な金髪に片側に輪っかのある独特な髪形をした彼女は

まさしく千歌が先ほどまで会話をしていた人物だった



千歌「ま……鞠莉さん!!? 来ちゃったんですか!?」


千歌の声に反応し、振り返った鞠莉は満面の笑みを浮かべた


鞠莉「シャイニー☆彡 来ちゃったわ!」ニコ





千歌が驚くのは当然だが、意外にもクラスメイトのダイヤは冷静だった。


ダイヤ「やはり来たのですね……つまりあなたは――」

鞠莉「そうよ。私はあなたに話したように殺されたのよ」

千歌「話したようにって……どういう意味ですか?」



ダイヤ「わたくしがこの部屋に来る前、どのように死んだのかは以前話しましたわよね?」

千歌「はい。生徒会室で……殺されたんですよね………」

ダイヤ「ええ、その時の私達の死体と殺した犯人を鞠莉さんが目撃したようで……その事で近いうちに自分の身に何が起こるか分からないと話されたばかりだったのです」

鞠莉「そうそう♪ ちかっちとはさっきまでこの部屋について色々話してたのよね~。まさか本当にこんな部屋があるなんて驚きだわ」キャッキャッ

ルビィ「え……この部屋がある事を知ってたんですか!?」

善子「さすが小原家……」

花丸「――また誰か転送されてきてるずら」


花丸が気付いた頃には、ほとんど転送が完了していた


善子「ん? 随分赤い斑点の多い服着てる子ね……って下にまた浦女の制服着てるじゃない!」

千歌「ちょっと待ってよ……この服装は!?」ゾッ

ダイヤ「んな!? なんでここにいるのです!!!?」



転送が完了したその子は血まみれのパーカーを着ており

フードは顔が見えたいほど深く被っていた。


見間違えるはずがない

間違いなくこいつは、千歌やダイヤ達を殺害した殺人鬼だった。




千歌とダイヤが身構える中
意外にもその殺人鬼に襲い掛かったのは花丸だった


素早く殺人鬼に接近

胸倉をつかみ、そのまま足が付かない高さまで持ち上げた。


ミシミシと音を立てながら首元を締め上げる花丸は激怒していた。
花丸「お前が……お前がルビィちゃん達を!! ……お前がぁ!!!」


温厚そうな彼女からは想像もつかない恐ろしい表情で殺人鬼を締め上げる。



???「があ……ぐうぅ……あがあぁ……」ギチギチ


必死に抵抗する

しかし、スーツの力もあり凄まじい力で首元を締め上げられ

徐々にその抵抗も弱くなっていく



鞠莉「――す……ストップ! ストップ! 一回落ち着いて!!」

花丸「ずら!?」


鞠莉の制止により花丸は我に返る
そのまま手を放して解放する。


ドサッ!――


床に落とされ、そのままうずくまる

???「ゴホッゴホッ――ま……鞠莉さん、止めなくていいんです。私はそれだけの事を彼女達にしたのですから……」


落下の衝撃でフードが外れていた

その顔に千歌は驚愕する


千歌「ええ!? り……梨子ちゃん? 梨子ちゃんだよね!?」

鞠莉「そうよ。この子はちかっちのクラスメイトの桜内 梨子さんデース……驚いた?」

千歌「驚くも何も……じゃあ梨子ちゃんが……え?」アセアセ

梨子「……きちんと説明します」


梨子はもう一度なぜ千歌達を殺さなければならなかったのか、自分は何者なのか

鞠莉に話した事情を説明した――





梨子の説明が終わり、各々は梨子に対し複雑な思いを抱いていた


ダイヤ「―――事情は分かりましたが……」

花丸「納得いかない! もしかしたらマルはあのまま死んじゃってたかもしれなかったてことでしょ!?」

梨子「ええ…だから花丸さんには本当に悪い事したと思ってる」

花丸「っ!? このっ―――」


思わず掴み掛ろうとするが


善子「止めなさい花丸。今この人に死なれちゃ困るわ」

鞠莉「100点達成の実力者を失うのはデメリットしかないものね?」

ルビィ「そうだよ花丸ちゃん! ルビィだって梨子さんと同じ立場だったら……同じ事をしてたかもしれない…」

花丸「ルビィちゃん……」



善子「そもそも、なんで“このメンバー”だったんでしょうね? 私は事故でこの部屋に来たけど、経験者が欲しいだけなら梨子さんだけ転送すれば良かったのに……」


鞠莉「確かに……花丸さんは善子さんと同じ理由と考えても、ガンツに指示されたちかっち達はなんで選ばれたのか」

ダイヤ「………」

千歌「………」



――心当たりはあった。

初めて戦った時の違和感

最近見る夢

もしかしたら自分も昔は……


そんな考えもガンツから流れる音楽によってかき消された。




GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
うちっちー星人 特徴:つよい 好きなもの:海 肉 口くせ:しゅーしゅー』


鞠莉「オウ……まさかあのうちっちーが星人だったなんて」

ダイヤ「そんな事よりさっさと着替えなさい? この部屋の事を知ってるなら手助けは必要ないでしょ?」

鞠莉「もう! ダイヤったら冷たいんだから!!」プンプン


千歌「梨子ちゃんも着替えよ? スーツとか武器の使い方は覚えてる?」

梨子「ええ、覚えているわ。戦力にはなると思うから安心して?」

花丸「……なってくれなきゃ困るずら」

千歌「花丸ちゃん! 気持ちは分かるけどさ……」アセアセ

花丸「………」プイッ


梨子「いいの千歌ちゃん。悪いのは私だから……」




不安要素を残しながら

戦場への転送が始まったのだ――





~静岡駅東口前~


鞠莉「随分と遠いところに転送されたわね」キョロキョロ

ダイヤ「ちょっと……かなりマズいんじゃありませんか?」ゾッ

善子「? 私達の姿は見えて無いんだから大丈夫よ」

ダイヤ「そうじゃありません!! こんな大勢の人がいるこんな場所で戦ってみなさい、何人の犠牲がでるか!?」


花丸「でもマル達から教えることも出来ないし……」

鞠莉「仕方ないでしょ? 出来るだけ被害が無いように素早く倒しまショーウ」ガチャ

千歌「レーダーを見る限り、今回は広範囲に星人が散らばってるみたい。ひとまず3グループに分かれよう」


鞠莉「なら、私はダイヤと!」ダキッ

ダイヤ「くっつかないでください!」グイグイ

ルビィ「る……ルビィもおねえちゃんと…」


善子「ならずら丸、行くわよ」

花丸「ずら!」


梨子「千歌さんも善子さん達のグループに加わって?」

善子「え? 何でよ??」

梨子「私は…ほら経験者だし、ひとりでも大丈夫だから」

ダイヤ「梨子さん……しかし」



千歌「――ダメ、梨子ちゃんは私と来て」ガシッ

梨子「千歌ちゃん? でも……」

千歌「ここでは私の、リーダーの指示に従ってもらうよ。勝手な行動は許さない」

梨子「………」


花丸「あれ? いつから千歌さんがリーダーになったずら??」

千歌「ほぇ?」

ダイヤ「確かに、経歴で言えば善子さんの方が長いわけですし……まあ、かと言って善子さんはリーダーの器ではありませんけど」ヤレヤレ

善子「さりげなく悪口言わないでよ!」




最終的に梨子は千歌とペアを組み、敵の密集地へそれぞれ向かった



~チームA 新静岡駅前~

ダイヤ「レーダーだとこの辺りに密集しているはずですが」


<ガヤガヤ


ルビィ「普通の人しかいないよ?」

鞠莉「でも、あれがそうなんでしょ?」



鞠莉が指をさす先にはスーツを着た男性がいた

どう見ても帰宅途中のサラリーマンであるこの人間が星人なのか?


間違えたでは済まされない

慎重な行動を求められる場面だが

鞠莉はためらいもなくXガンの引き金を引いた



ダイヤ「何してるんですの!?」

鞠莉「だってレーダーは星人だっていってるんでしょ? 先手必勝よ!」



サラリーマン頭が破裂した


本来、ガンツの住人と同様に星人も一般人には認識できない

彼が星人の場合その法則に従い、彼の死はダイヤ達以外には認知されない



通行人「!? ひぃぃ!!」

通行人「いきなり頭が破裂したぞ!?」

通行人「誰か警察呼んで!!!」


ルビィ「え? なんで見えてるの?」アセアセ

ダイヤ「どうやら一般人も星人の方は見えているようですね」



一般人が星人の死に驚く中

見えないはずのダイヤ達を無言で凝視する者がいる

一人二人では無い

その数、十人以上
さらに数は増えている

その見た目はみるみる変異し、上半身が異常なまでに筋肉が膨張した

半魚人のような姿となった


突如、化け物が大量に出現し何も知らない通行人はさらにパニックとなる


半魚人はそんな通行人へ攻撃を開始した



ダイヤ「ちょっ!? なんで!?」ゾワッ

鞠莉「どうでもいいでしょ! 早く倒さないと!!」ギョーン!ギョーン!





~チームB 伊勢丹周辺~

善子「こいつら! 無差別に攻撃しすぎじゃない!? それに数も多すぎ!!」ギョーン!ギョーン!

花丸「マルの腕じゃ誤射しちゃうよ!」アワアワ

善子「何でもいいから倒しなさい! このままじゃ犠牲が増える!!」



星人は手の平から水滴を飛ばして攻撃してくる
その速さは拳銃の弾丸に匹敵し生き物の体を容易に貫く

最悪なことに精度が悪い為、周囲の通行人に被弾し

辺りは激痛に苦しむ人であふれ返っていた


二人もXガンで応戦するが
人が多すぎるので思うように狙いが定まらない

星人の何体かは二人を無視し通行人を襲い続けている



善子「――どうすればいいっての!?」




~チームC 江川町通り~

当然こちらも逃げ惑う人で大パニックだった

Xガンでの攻撃は適さないと判断した千歌はガンツソードで星人の殲滅を試みた


梨子も同様に戦っているが――


千歌(――梨子ちゃん凄いな、久しぶりの戦闘のはずなのに私より強いかも…)



梨子は完璧に星人の動きを見切っていた

一瞬の隙を見逃さず

確実に仕留めていく


恐怖など微塵も感じないその戦いぶりに千歌は驚愕していたが
そんな梨子に対し安心感を覚えると同時に危うさも感じていた


千歌(確かにこれなら一人でも大丈夫そうだけど…なんだかそれはダメな気がする……)



梨子「千歌ちゃん! こっちは全部片付いたよ!」ズバッ

千歌「こっちも終わった! 次の場所に急ごう」






――――――
――――
――


ミッション開始から一時間が経とうとしていた
新静岡駅前は静寂に包まれていた

周辺には多くの通行人と星人が倒れている


そんな中、半魚人の怪物と黒いスーツを身にまとった“二人”の少女が睨み合っていた


この半魚人は他の個体と異なり、スピードに特化していた
逃げ惑う通行人をこの個体が最も多く虐殺したのは言うまでもない

しかし犠牲になったのは通行人だけでは無い



ルビィ「ヒュー……ヒュー……ヒュー……」ブルブル


ダイヤと鞠莉が他の雑魚を相手にしている間、運悪くルビィがこの個体のターゲットにされていた

ルビィでは相手になるハズもなく、二人が気付いた時にはルビィはこの怪物により倒されていた

顔面は血まみれ、左腕はねじ曲がった姿で倒れており
はたから見たら生きているかも分からなかった



ダイヤ「このっ!! よくもルビィを!!!」グワッ

鞠莉「落ち着きなさい。無暗に突っ込んでもルビィの二の舞になるわ」ガシッ

ダイヤ「しかし! 奴を倒さなければルビィが!!」

鞠莉「二人で同時に撃っても当たらない程のスピードよ? 接近したところで袋叩きにされるのがオチよ」


鞠莉「それにダイヤ、あいつの動きを目で追えてなかったでしょ?」

ダイヤ「……やけに冷静ですね? まさかこのまま逃げるなんて言いませんよね?」ギロ


鞠莉「笑えないジョークね。ダイヤが逃げるって言ったって私は戦う」



鞠莉は手に持っていたXショットガンを捨て怪物の方へ足を進める
その手は力強く握りしめられていた


鞠莉「親友の大切な妹をあんな姿にしたあいつを……絶対に許さない」

ダイヤ「鞠莉さん…?」


鞠莉「――私がぶん殴る!!」





――合図は無かった


怪物は右へ、左へ、前へ、後ろへ

人間の反応速度を遥かに超えるスピードで鞠莉を囲むように移動する



ダイヤ(っ!? こんなのどうやって!?)



ダイヤには全く捉えれれない

恐らく相手がダイヤだったとしてもルビィと同じ結果となるだろう

ましてや今回初参加の鞠莉が相手になるはずがない

ダイヤは鞠莉を一人で向かわせた事を今になって後悔する


だがもう遅い
怪物は鞠莉の背後から頭部目がけて襲い掛かる――



ゴキャ――!!



何かが潰れる音が響く


だが、鞠莉の頭が潰れた訳ではない

彼女の肘が怪物の顔面を完璧に捉えていた


鞠莉にとって軽い肘打ちであったが
星人のスピードが相まって
その破壊力は絶大であった


勢いそのまま空中で半回転し仰向けに倒れる



鞠莉は力強く握りしめた拳を

倒れた怪物の顔面に叩きつけた――!



グシャ――!



アスファルトに穴を開ける程の威力
怪物の頭部は完全に潰れた




ダイヤ「……あの動きが見えていたのですか?」

鞠莉「いいえ。全く見えなかった」

ダイヤ「んな!? だったらなんで!?」


鞠莉「パパの知り合いに武道の達人がいてね、教えてくれたの。『速い敵は点では無く線で捉えろ』ってね♪」

ダイヤ「えぇ……」



急いでルビィのもとへ

意識はあるが余りにも酷いケガである
本来なら後遺症が残ってもおかしくない


鞠莉「これ……本当に治るの?」

ダイヤ「わたくしの腕が溶けた時も治りましたから大丈夫だと……」


鞠莉「頭を打ってるかもしれないから動かすのはダメそうね…ダイヤはここでルビィと待っていて? 私はちかっち達と合流する」

ダイヤ「その方が良さそうですね……頼みましたよ?」


鞠莉「任せて♪ パパッと終わらせて、みんなで一緒に帰りましょ!」ニコッ





~同刻 チームB~


善子「――避けなさいずら丸!」


先ほどまで花丸がいた場所に止めてあった車がグシャリと潰れた
上から3mを超える星人が落ちてきたのだ

今までの雑魚より更に筋肉質な体つき

鞠莉が戦ったのがスピード特化ならば
こちらパワー特化だろう



花丸「危ないずらね!!」ギョーン!ギョーン!



すかさずXガンを発射する

今まで同様に内部から破裂し倒せるはずだった


しかし、当たった個所が風船のように膨らむだけで
すぐさま元通りになった


花丸「き……効いてない!?」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

善子「とにかく撃ち続けて!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



頭、腕、胴、足
様々な部位に打ち込むがどこも効き目が無い

星人も善子との距離を詰め、殴りかかる


身をかがめて回避


――バキン!


背後にあった標識が星人の拳により吹き飛んだ
善子はゾッとしたが、星人の胴体目がけて殴りつける

――効き目は無かった


善子(うそ……でしょ? 硬すぎでしょ!?)


この動揺が回避を遅らせた
星人の拳が善子の腹部に直撃した



善子「カ……ハッ……!」ミシミシ


スーツの防御力を上回る衝撃が善子を襲う
後方へ吹き飛び、後ろにあった店の壁を突き破っていった


花丸「善子ちゃん!!」


――返事は無い
星人はターゲットを花丸に切り替えた



花丸「………」


不思議と恐怖は無かった

大丈夫、一人でも戦える


その為に訓練してきたのだから



花丸「――かかってくるずらぁ!!!」








~数分前 チームC~

既に周辺の星人は全て倒しており
救急隊や警察による怪我人の搬送等が始まっていた


千歌「この辺はもう大丈夫そうだね。次の場所に行こう!」


レーダーを見ながら次の場所を探す千歌だが



梨子「……国木田さんの所に行きましょう」

千歌「? もう星人の数は少ないから大丈夫なんじゃない?」

梨子「なんだか行かなきゃダメな気がするの……胸騒ぎがする」


千歌「……わかった。急いで向かおう!」





――――――
――――
――


善子「う……うーん……」


善子は瓦礫の山となった店の中で目を覚ました

かなりの衝撃ではあったがスーツはまだ壊れていない


善子(どのくらい気絶してたの……?)


時間にして1分も経ってはいなかった

銃の発砲音が聞こえない
戦闘は終わったのだろうか?




――ズドン! ――ズドン! ――ズドン!



奇妙な地響きが聞こえる
まるで何かを叩きつけているような音だった

善子「ずら丸は…どうなったの?」


痛む腹部を抑えながら善子は店から出る


外には先ほどの星人の後ろ姿があった
―――誰かに馬乗りになっている後ろ姿だ


その人物に何度も何度も何度も
その拳を叩きつけている



善子(ずら丸は逃げたの?)


――違う


善子(千歌さんに助けを呼びに行ったのよね…?)


――違う


善子(そうに決まってる。間違い……ないわ)


――違う




受け入れるわけにはいかなかった

認めたくなかった



でも、見間違えでは無かった

一目で分かってしまった


――奴の股下から見える黒いスーツの足が一体誰なのか






善子「―――あ………あああぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


効き目が無いのは分かっている
とにかく奴の攻撃を止める

たとえそれが無味だったとしても


善子の攻撃に気付いた星人は攻撃を中断
直ちに襲い掛かってくる


パワーはあるがスピードはそれほどでは無い

捕まったら死
一定の距離を空け、撃ち続ける



――バンッ!



十数発撃ち込んだところでやっと胴体が破裂
星人は完全に動かなくなった



善子は星人が殴り続けていた場所に向かった


――そこには人間だったモノが倒れていた

腰から上は原型を留めていない
個人を判別するのが不可能な程に

それは肉塊と化していた




しかし、善子には分かる
この亡骸が“国木田 花丸”だという事が



善子「――何してるの? 早く起きなさいよ…」

善子「まだ……ミッション中なのよ? そ…そんな所で、ね……寝てる場合じゃないでしょ?」ポロッ




梨子「――津島さん……」


梨子と千歌、少し遅れて鞠莉が合流した


千歌「………」

善子「あ…千歌さん、千歌さんからも言ってよ……ずら丸ったら返事……しないんだよ」ヒックッ

善子「あぁそっか、ここに倒れてるのは……ずら丸じゃないんだ。だって……こんなの……あんまりじゃない」ポロポロ


梨子「――早く終わらせましょう。死を惜しんでいる時間は無いわ」

善子「……何ですって?」ギロ

千歌「梨子ちゃん!?」



心無い梨子の発言に善子の怒りは爆発した



善子「そもそもあんたが!! あんたのせいでずら丸がこんな戦いに巻き込まれたんじゃない!!! それなのに惜しんでる時間は無いだって? ふざけるな!!!」

梨子「………っ」

鞠莉「落ち着きなさい。りこっちの言っている事は正しいわ」

善子「ああ!!?」ギロッ

鞠莉「ルビィが瀕死の重傷を負っているの。急がないとそのまま死んでしまうわ」

善子「!? なんですって!!?」


鞠莉「花丸の事は…確かにショックだけど、あなたはまだ助かる大切な友達を見捨てるつもり?」

善子「………」


千歌「――行こうか。残るはボスだけだよ」





~静岡駅前~

星人による大量無差別殺人により、駅前は警察や機動隊が多く出動していた

千歌達によりほとんどの星人は殲滅されており事態は終息に向かっていたかのように見えた


機動隊員A「おい、あそこにいる着ぐるみは何だ?」

機動隊員B「あれって……“うちっちー”じゃないですか?」

機動隊員A「なんだと? あの水族館のマスコットキャラのか? なんでそんなのがここにいるんだよ」



突如道の中央にうちっちーの姿が現れた
勿論ただのうちっちーではないが、彼らが知る由もない



機動隊員A「そこのお前! こんな状況でふざけた格好をしてるんじゃない!」

うちっちー?「………」

機動隊員A「無視するつも――」


グシャリと何かが潰された

隊員Aの頭が握り潰されたのだ


その姿はすでにうちっちーの原型は留めておらず、完全に化け物と化していた


機動隊員B「この!? 化け物がぁ!!!」バババババ



装備していたマシンガンを撃ち尽くした
しかし弾丸は星人の皮膚を少し傷を付けただけでダメージは皆無

星人による虐殺が始まる――









――――――
――――
――

ルビィ「……お…ねぇちゃん……」

ダイヤ「気が付きましたか。どこが痛みますか?」

ルビィ「左腕が……凄く…痛い。頭も……ガンガンする」ハァハァ

ダイヤ「っ! お姉ちゃんが側にいながら妹をこんな目に合わせるなんて……!」ギリッ


ルビィ「ごめん……なさい……ルビィが…弱いから……」ハァハァ



――ゴソゴソ



ダイヤの目の前で何かが立ち上がった


ダイヤ「――頭部を潰すだけじゃ倒せないとは」


鞠莉によって倒したはずの星人が再び立ち上がったのだ

先ほどとは違い動きがぎこちないが

ダイヤの方へ向かってくる


ダイヤ「ルビィ、少しだけ待っていて下さい。すぐに戻ります」スクッ

ルビィ「……おねぇ…ちゃん?」

ダイヤ「安心してください。何も心配しなくていいのですよ?」ニコ



動きを見切れた鞠莉はいない

頼れる仲間も側にいない

大切な妹を守るため


姉はその拳を握りしめる――





~同刻 静岡駅前~

千歌達が到着した時には決着がついていた

機動隊と警察は壊滅
生き残りも完全に戦意を失っていた



梨子「――私が切り込む。バックアップお願い!」ダッ

千歌「ちょっ!? 待って!」


千歌の制止を無視し単独で切り込む
星人も気配に気づき応戦している


鞠莉「私たちも行くよ!」

千歌「分かってる!」カチャ

千歌と梨子はガンツソードを展開し、鞠莉は素手で殴りこむ



星人の動きは今までの雑魚とは別格だった

スピード、パワー共に特化型ほどでは無いが
それに近いものを持っていた

千歌と梨子の斬撃や鞠莉の打撃は全てかわされる


逆に星人の攻撃は確実にヒットし
ダメージは蓄積されていく


鞠莉「――っ!!」バキッ


鞠莉の拳が星人の右足にヒット
すかさず胴体、顔と連打

が、顔面への攻撃で腕を捕らえられる



――パキン!



まるで木の枝のように鞠莉の腕をへし折った


鞠莉「っ!!? あがああぁぁああ!!!!?」


女の子が耐えられる痛みではない

鞠莉はそのまま投げ飛ばされ近くの店に突っ込む



千歌(鞠莉さんがやられた!? 掴まれてもアウトなの!!?)ヒュン!ヒュン!


千歌の顔面を星人の指先がかする

掴まれたら死
その恐怖心が千歌の動きを鈍らせる

不意のヘッドバットが千歌を襲う


千歌「ぐはっ!?」グラッ



致命的な隙だった

星人の手は千歌の頭を捕らえた――





――――――
――――
――

ダイヤ「くっ! 速すぎます!!」ドゴッドゴッドゴッ


ダイヤはスピード特化の星人と戦っているが
鞠莉が言っていた通り、袋叩きにされていた


ダイヤ(先ほどよりスピードは落ちていますが……わたくしの反射神経では!)


ぐずぐずしているとスーツの耐久限界が来てしまう
それはダイヤの死を意味する

自力で乗り切るしか方法は無い


ダイヤ(――『点では無く、線で捉える』、でしたね)

ダイヤ(奴の動きは直線的、方向転換の際に一瞬だけ制止する。そこから次の動きを予測するには……)


ダイヤ(つま先の方向に全神経を集中させる!!)



スーツの耐久的にも次の一撃で壊れる
一か八か、全神経を集中させる




ダイヤの正面で一瞬の制止後――

つま先はダイヤの方向を向いていた


ダイヤ「!! はああっ!!!」


方向が分かれば後は簡単だった

軌道に合わせて拳を突き立てる


ダイヤの拳は星人の腹部を貫いた
同時にスーツも壊れ、メキメキと鈍い音たてながら
突き立てた腕の骨が砕かれる


ダイヤ「痛っ……! ギリギリでしたわね」フー


激痛に耐えながらも
ホルスターからXガンを抜き取り
今度こそ止めを刺す


星人「ガガ……ゴガ………」

ダイヤ「ふっ……冥土の土産に一言申しますわ」


ダイヤは星人を背に、ルビィのもとへ歩みを進める



ダイヤ「―――黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ。覚えておきなさい」



バンッ! という音がダイヤの後ろで響いた




――――――
――――
――

千歌の頭を星人が捉える

千歌(――やばっ!? 死……!)



――スパッ!



ギリギリのタイミングで梨子が星人の腕を切り落とす
解放された千歌は一旦距離をとる


梨子「千歌ちゃん大丈夫!?」

千歌「ハァ……ハァ…大丈夫。ありがとう」



度重なるダメージで二人のスーツも限界が近い


梨子「これ以上はもう食らえない。時間的にも決着をつけよう」スチャ

千歌「そうだね……行くよ!!」



――二人同時に切りかかる

タイミングは完璧
回避は不可能だった


星人は切り落とされた片腕で千歌を薙ぎ払う


千歌「んな!?」バキッ


梨子の斬撃をもう片方の腕で軌道をずらし致命傷を避ける

体勢を崩した梨子を足で地面に叩きつけ
腹部を踏み潰す


――グチャ!


梨子「ぶはぁ!!」ベチャベチャ


スーツは壊れ、内臓は完全に破裂した
――致命傷である


千歌「!? 梨子ちゃん!!?」


千歌も助けに入ろうとするが
瓦礫の破片が足に刺さり動けない

千歌「いや! 梨子ちゃん!!!」



星人は勝ち誇った顔で梨子を見下す

鞠莉も千歌も梨子も
チーム屈指の戦闘力を持つ三人を倒したのだ
邪魔するものはもういない


星人の勝利―――







―――梨子は不敵な笑みを浮かべた

梨子(――今よ……津島さん!!)





――――――
――――
――


梨子『津島さん、ちょっといいかしら?』

善子『……何ですか?』ギロッ

梨子『津島さんには遠距離からの狙撃をお願いしたいの』

善子『はあ? 狙撃なんて出来ないわよ。弾速が遅すぎて当たらない』

梨子『止まっている的なら…問題ないよね?』

善子『それなら大丈夫だけど…止められるくらいならあなた達で仕留められるでしょ?』


梨子『もし、三人ともスーツが壊れてどうしようもない状況になったら、私が何としてでも奴を止める。そしたら、あなたは転送が始まるまで奴を撃ち続けてね―――』




――――――
――――
――

~建物 屋上~

善子「終われぇぇぇぇ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!


善子(梨子の捨て身の作戦を無駄にする訳にはいかない! 気に入らない人だけど…でもあんたにはまだまだ言いたい事があるのよ!! 勝手に死なせないんだから!!)ギョーン!ギョーン!


善子によるXショットガンによる遠距離狙撃は酷いものだった
ほとんどが道や建物に被弾

梨子や千歌の真横に当たったものもある

しかし一発、たった一発だけ当たればいい
幸運にも最初に放った一発が星人の頭を見事に被弾

頭部は破裂
完全に息の根を止めた



最後の星人を倒したことで
部屋への転送が始まった――





~GANTZの部屋~

ルビィ「おねぇちゃん! みんな帰って来たよ!!」

善子「ルビィ! よかった……間に合ったのね」

ルビィ「うん……おねぇちゃんと鞠莉さんが助けてくれたの。その時のおねぇちゃんの決めゼリフがカッコよくて――」

ダイヤ「んん!? 余計な事を言わなくていいです!」アセアセ

鞠莉「ほほーう、相当痛いセリフを言っちゃったんでしょうね」ニヤニヤ

ダイヤ「やかましいですわ!! そもそも鞠莉さんがキチンと仕留めないから――」ガミガミ



梨子「私……生き残ったのね」

善子「全く、何としてでも止めるって言ってたけど…もっと他の手は無かったわけ?」

梨子「まあ…私がどうなろうと別に構わないと思ってるし、津島さんだってそうでしょ? 私があなたの友人を巻き込んでしまったから……」

善子「確かに事情はどうあれ、ずら丸達を巻き込んだ事は許せない。でもね……あなただってもうこの部屋の住人でしょ? “リーダー”の方針で住人はもれなく大切な仲間なの」

梨子「仲間……」

善子「仲間が傷つく姿なんて見たくないの。自分の事はどうでもいいなんて言わないで」

梨子「うん……」

善子「それに、ずら丸達がこの部屋から解放されるまでサポートしてもらわないとね。責任とってきちんと生き残りなさい! ……梨子さん」プイッ

梨子「そうね、分かったわ……善子ちゃん」





ルビィ「――そういえば、花丸ちゃんは? まだ帰って来ないけど……」キョロキョロ

善子「っ!?」

千歌「………」

ダイヤ「確かに遅いですわね。他のメンバーはもう揃っているのに」



――チ~ン♪



ガンツから終了を知らせるベルの音がなった
“全員”の転送が済んだのだ


ルビィ「え……待ってよ。花丸ちゃんがまだだよ? なんで終わっちゃうの?」ポロッ

ダイヤ「そういう事……ですか」

ルビィ「どういう意味? なんで……なんで花丸ちゃんが……」ポロポロ


GANTZ『小原家
29点』


千歌「今回は星人の数が多かったから100点までいったメンバーも多いかもね」

鞠莉「100点になると解放されるんだったわね?」

千歌「そうです。自分の自由を諦めれば……死んだメンバを再生できる」




GANTZ『ピギィ 14点 TOTAL 19点』


鞠莉「再生……果南にもう一度会える……」

ダイヤ「………」



GANTZ『堕天使(笑)45点 TOTAL 102点』



鞠莉「オウ!! 100点越えですネ!!」

ルビィ「善子ちゃん……自由になれるんだね」


善子「………」


画面が切り替わる


100点メニュー
1. 記憶を消されて解放される
2. より強力な武器を与えられる
3. メモリーの中から人間を再生する



善子(私はこの部屋から解放される為に戦ってきた。いつ死ぬか分からない戦いはもう続けたくないよ……でも――)


千歌「――……一番だよ、善子ちゃん」

善子「!?」

千歌「花丸ちゃんを再生するか迷ってるんだよね? 多分私も100点を超えてるはずだし、もし違っても次のミッションで達成してみせる」

千歌「私が必ず花丸ちゃんを再生させるから安心して」ニコ

ルビィ「ダメだよ! 千歌さんには生き返ってほしい人がいるんでしょ!? 花丸ちゃんはルビィが生き返らせてみせる。だから善子ちゃんには自由になって欲しい」

鞠莉「どうする? 善子ちゃん」


善子「……ふふふ」

ルビィ「?」


善子「ルビィが100点までいくのに、どれだけ時間が掛かるのよ? 仮にずら丸を再生できてもあんたが解放されるまでにそこから一年は必要でしょうね?」

ルビィ「うりゅぅ……」シュン

善子「千歌さんだって次回も生き残っている保障はどこにもない。現に今回だって危なかったわけだし」

千歌「ぐぬぬ……」

善子「だからさ……私の答えは決まってる」フー





善子「――三番、ずら丸を……国木田 花丸を再生しなさい!!」




――ジジジジ



善子の選択を聞き入れたガンツは
転送時に放出されるレーザー光線を照射する

レーザーは徐々に人を形成していく


―――そして




花丸「―――ずら? なんで二人とも泣いてるの??」



ルビィ「うあぁぁぁん!! よかった!! 良かったよぉぉ!!」ダキッ

花丸「ルビィちゃん!? 何があったの!?」アセアセ


善子「ずら丸、あなたどこまで覚えているの?」グスッ

花丸「えーっと、善子ちゃんが吹き飛ばされて…一人で戦おうと決心した後……あれ? その後は覚えてないよ??」

善子「そう……」



GANTZ『堕天使(笑) 2点』


GANTZ『ずら丸 0点』



花丸「え? 0点?? 善子ちゃんも2点になってるよ?」


ダイヤ「花丸さんは今回のミッションで死んでしまったのです。100点を取った善子さんが自らの自由と引き換えにあなたを再生させたのですよ」

花丸「!? 善子ちゃん……なんで」

善子「別に……あんたを今再生しないとルビィが解放されるまで数年はかかるから仕方なく選んだまでよ!」

ルビィ「さっきより期間が長くなってる!?」ガーン

花丸「そっか……マルは死んじゃったのか……善子ちゃん、ありがとうね」ニコ

善子「っ!?ウルッ つ……次は無いんだからね!!」プイ



本当に死んだメンバーが再生された

これほど嬉しいことは他に無い
採点待ちのメンバーも内心そわそわしていた



ダイヤ「次はわたくしですわね」



GANTZ『硬度10 35点 TOTAL 101点』



ルビィ「おねぇちゃんも100点だ!!」

善子「どうするつもり?」

ダイヤ「わたくしはどうするか始めから決めています。ルビィが解放されるまではこの部屋に居続けるつもりですから」


梨子「なら、二番を選ぶんですか?」

ダイヤ「いいえ。鞠莉さんには悪いですが――」






ダイヤ「――三番。松浦 果南さんを再生しなさい!!」



――ジジジジ



果南「――……? どうなってるの……千歌は?」


千歌「か……果南ちゃん!」ポロポロ

ダイヤ「全く……勝手にいなくなるんじゃありません。どれだけ必死に探したと思っているのですか!!」

鞠莉「もう! 私が再生しようと思ったのにぃ!! これから何を理由に戦えばいいのよ」プンプン


果南「ちょっ……なんで二人がこんな所にいるの!?」ゾッ

千歌「果南ちゃんが死んじゃってから結構時間がたったんだよ。その間に色々あってメンバーも増えたんだ」

善子「ベテランが全員いなくなった時は……ホント終わったと思ったんだから!!」

果南「千歌…善子……ごめんね? 私がもっと強ければ…」


鞠莉「果南は一人で頑張り過ぎなのよ。ちかっちも善子も誰かを守るだけの力を既に持っているわ」

果南「そうだね……仲間も多くなったみたいだし、私が死んじゃってた間にずいぶん成長したね」ニコ

善子「当然よ! 私だって100点を取るまで強くなったんだから!!」ブイ

果南「ふふ、ならこれからは善子に守ってもらおうかな?」



ガンツの画面が切り替わり採点が再開される




GANTZ『ちかっち 45点 TOTAL 112点』



千歌(ついに……ついに100点を超えた)

果南「おお、千歌も100点越えか!」

花丸「おめでとうございます!」

鞠莉「ま、当然っちゃ当然の結果よね」


善子「……やったわね、千歌さん」

ダイヤ「これであなたの願いも……」


最初は自分をかばって死んだ果南を生き返らせる為だった

もう一人の親友もここで死んだ事を知ってからは

二人を生き返らせると誓った


果南が仲間によって再生された今

千歌の選択は決まっていた――




千歌「――曜ちゃんを、渡辺 曜を再生してください」




――
――――
――――――

(あれ……なんで倒れてるんだっけ?)

果南『曜! しっかりして!! こんなところで死ぬわけにはいかないでしょ!!?』

善子『果南さん! まだ襲ってきます!!』ギョーン!ギョーン!


(ああ……そうだ、果南ちゃんをかばったんだっけ)

果南『くっ! 血が止まらない!! お願いだから目を開けて!!』

(よかった……果南ちゃんは無事だったんだね)


(――声も出ないし、体も動かないや。転送まで…間に合いそうもないか)




(もうすぐ100点だったのになぁ…うまくいかないもんだね)





(千歌ちゃん……ごめんね。明日…一緒に登校できそうに無いや……)






(千歌ちゃん…きっと心配するだろうな……)








(――――ずっと一緒に………いたかったな)










――
――――
――――――



―――ジジジジ




「う……うぅ……」ポロポロ


(――あれ? ここは……あの部屋だ。間に合ったの?)


「久しぶりね。曜さん……」

「また会えて嬉しいよ」

「この方が千歌さんの親友ですか」

「すごく……可愛いです!」

「ずらぁ~」


(果南ちゃんに善子ちゃん……残りのメンバーは知らないぞ?? どうなってるの?)




「――もう……もう二度と会えないんじゃないかって……凄く怖かった」ポロポロ


(え? この声って……まさか―――)







曜「―――千歌……ちゃん?」

曜「どうして……どうして千歌ちゃんが“また”この部屋にいるの!?」




千歌「………」グスッ

梨子「――え?」



千歌「曜ちゃんお帰り……そして―――“ただいま”」ニコ





―――四章へ

今回はここまでです。

コメントありがとうございます!
とても励みになります

ラブライブ×GANTZのss作品で完結したものが見当たらなかったので
頑張って完結まで書き上げたいです

四章


静岡駅周辺で発生した無差別大量死傷事件
死傷者は今現在判明しているだけでも100人を超え
三年前の新宿の事件に次ぐ被害である

どの局のチャンネルもこの事件の概要や速報で持ち切りである



「おねーちゃん! 明日の仕込み始めるよー。早く来てよ!」



妹の呼び出しを聞き、居間のテレビでニュースを見ていた彼女は電源を切る


この事件の犯人が誰なのか
事態を終息させたのが一体誰なのか

彼女には見当がついていた



???「静岡チームも中々やるね。結構強い人が多いのかな?」



新宿の事件を経験した彼女にとって被害規模から犯人
いや、星人がどれほど強いか分かっていた

家族も多くの知り合いも
彼女が長年ある戦いに参加していることを知らない



「もう! 早くしてよーー!!」


「―――今行くよーー!」


サイドテールのその彼女は妹のいる調理場へ向かった――





――――――
――――
――

千歌(あの戦いの翌日、内浦は大騒ぎになった)

千歌(行方不明だった曜ちゃんと果南ちゃんが帰ってきたのだ。警察や先生に呼び出されて凄く忙しそうだったな)

千歌(今は放課後。今日はもう学校には来ないと思ったんだけど――)



曜「うぅ……めちゃくちゃ疲れたぁ」ガラガラ


千歌「曜ちゃん!」

梨子「お疲れ様。放課後だからもう来ないと思いましたよ?」

曜「あはは……ちょうど近くまできたからね。待っててくれてありがとう」

千歌「なんで梨子ちゃん、曜ちゃんに敬語なの? 同じクラスメイトなんだから普通にしゃべろうよ!」

曜「そうだよ! 千歌ちゃんの友達なら私の友達だよ?」ニコニコ


梨子「そ……そう? なら普通にしゃべります……しゃべるね?」

曜「その調子! よろしくね梨子ちゃん♪」



果南「お? 三人揃ってるね」ガラガラ

曜「あれ? 果南ちゃんももう終わったんだね」

果南「まあね。誤魔化すのにホント苦労したよ」アハハ

千歌「確かに……二人ともどうやって説明したの?」


曜「うーん…旅に出てたってゴリ押した」

千歌「えー、それは無いでしょ」ジトッ

果南「正しくは“覚えてない”でゴリ押したんだよね」



ダイヤ「――ここにいましたか」

鞠莉「オウ! 曜ちゃん、シャイニー☆彡」

善子「なんだ、結局学校で揃っちゃうのね」


気が付くと教室に部屋のメンバーが全員揃っていた

千歌「――なんか不思議な感覚だな」

ルビィ「千歌さん?」

千歌「だって最初は作戦会議も訓練も善子ちゃんと二人だけだったのに、今は9人もいるんだよ?」

善子「……仲間が多いとやっぱり心強いものね」


曜「私と果南ちゃんが復活したからにはもう大丈夫だよ! 大船に乗ったつもりでいてね」エッヘン

花丸「うーん……大船かぁ…」

果南「最近まで死んでた人に言われてもね…説得力が無いよ?」苦笑

曜「ぐふぅ……ごもっともです……」ズーン

千歌「アハハ……そろそろ行こうか」






~黒澤家~

ダイヤ「――早速ですが昨日の事について話して頂けますか?」


今回集まったのは千歌が曜に対して“ただいま”と言ったことについてである
今後の戦いに関して影響がある訳では無いが、その言葉の意味について
やはり全員気になるものがあった


千歌「えーと……何と言えばいいのか――」

曜「それについては私が説明します。千歌ちゃんはほとんど覚えて無いと思うから…」


曜「――千歌ちゃんは元々あの部屋の住人だったんです。この中では一番ベテランになりますね」


果南「私が初めて参加した時にはもう曜がいたけど、それよりも前にいたんだね」

曜「私は一年前、ちょうど中学を卒業した春休み中に事故に遭ってあの部屋に…」

曜「メンバーは私を含めて6人、その中に千歌ちゃんはいました」

曜「千歌ちゃんは中学二年生の時から参加してるって言ってました」


鞠莉「なるほど、だから三年前の事件を覚えてなかったのね」

梨子「解放される際、記憶は全て消されるものね」

曜「その時の千歌ちゃんは…それはもう強かったですよ? チームのリーダー的存在で……今まで私が知ってた千歌ちゃんとは別人でした」

曜「その時のミッションで100点を取った千歌ちゃんは一番を選んで解放されたんです」


善子「意外ね。千歌さんの性格なら曜さんが解放されるまで一緒にいると思ったのに」

曜「千歌ちゃんも最初はそうしようとしてたよ? でもこんな戦いをもう繰り返して欲しくなかったから私が無理やり選ばせたの」

曜「だから再生されて時、目の前に千歌ちゃんがいたのは本当に驚いたよ……」


果南「千歌があの時、武器の使い方が分かってたのも昔の感覚を体が覚えてたからなんだね」

千歌「武器を握ったら不思議と分かったんだ」

千歌「思い出したのは鞠莉さんの話を聞いたときだよ。新宿の事件を全く覚えて無かったから変に思って……いろいろ考えてたら少しだけ思い出したんだよ」




梨子「ねえ、千歌ちゃんが参加していたときのメンバーに黒澤姉妹や鞠莉さんはいなかった?」

千歌「うーん……思い出したのは昔あの部屋にいた事とメンバーに曜ちゃんがいた事だけだからな」ウーン

曜「私が来たとき、ダイヤさん達はメンバーにいなかったよ?」

梨子「そう……」

ダイヤ「千歌さんが指名されたのはあの部屋の卒業生だったからのようですが、私達の場合が説明できませんね……」


果南「指名?」

ダイヤ「善子さん以降のメンバーはガンツに指名されてあの部屋に転送されたんです。まあ花丸さんは違いますけど」

曜「ガンツに? でもそれって……」


梨子「――私が殺したの。家族を人質にとられてね……」

果南「!?」


梨子「私も昔似たような部屋のメンバーだった。場所は東京だったけどね」

曜「東京にもあるんだ…」



千歌「あのさ、東京チームには穂乃果さんがいたんだよね?」

ルビィ「穂乃果さん!? あのミューズの!?」グワッ

ダイヤ「本当なのですか!?」グワッ

梨子「うえぇっ!?」

花丸「二人ともミューズの大ファンだからね~」

千歌「この前調べたんだけど、今は実家の和菓子屋を継いでる。だからお店に行けば会えるはずだよね」

曜「会いに行ってどうするの?」

千歌「えーと……どうするって訳でもないんだけど、今後のミッションについて何かアドバイスをもらえないかなー……なんて」

梨子「確かに長年戦ってた人から話を聞けたら参考になりそうだけど…」ウーン

鞠莉「戦っていたのは三年も前よ? 今生きていたとしてもとっくに100点取って解放されてるでしょ」

千歌「私もそう思ったけどさ……私や梨子ちゃんみたいにもう一度呼び出されてるかもしれないし」

果南「でもどうやって確認するの? もし違ったらガンツに消されるんだよ?」


千歌「そこは大丈夫。でも…もしもの時の為に聞きに行くのは私一人で行くね」


ルビィ「ええ? 一人で行くんですか!?」

ダイヤ「……ガンツの判断基準が分からない以上、全員で聞きに行って違った場合、最悪全滅する可能性があるというわけですね?」

善子「それはちょっとリスク高いわね……」


花丸「でも、話をしに行くなら桜内さんがいいんじゃないかな? 昔同じメンバーなら顔を見た時の反応で分かるんじゃないかな?」


千歌「そうだね……でもいいや。一人で行くよ」

曜「………」


千歌「明後日が休みだからその日に行くね」

果南「まあ、気を付けて行ってきなよ?」

梨子「………」




――――――
――――
――

~翌日 浦女~

梨子「――こんな所に呼び出してどうしたの?」

曜「ごめんね? 昼休みに屋上まで来てもらってさ」アハハ…


梨子「それで? 場所を変えたってことは千歌ちゃん関連の事でしょ?」

曜「……昨日の千歌ちゃん、どうして梨子ちゃんを連れて行こうとしなかったと思う?」

梨子「………」

曜「花丸ちゃんの言う通り梨子ちゃんを連れていけば、ほぼノーリスクで有無が確かめられるよね?」

梨子「そうね……いくら何でも不自然だった」

曜「今朝聞いてみたんだけどさ、わざわざ数人で行く必要は無いとか、交通費が勿体無いとか無難な事しか答えてくれなかった」

曜「梨子ちゃんだったら何か分かるかと思ったんだけど……どう?」

梨子「普通に考えれば私に聞かれたくない事を聞くってことだもんね…」

梨子「あれから色々考えてみたんだけど…心当たりが全く無いのよ」ウーン

曜「そっか~…考えすぎなのかな??」ムムムッ



千歌「ああ! 二人ともこんな所にいた」ガチャ

曜「千歌ちゃん!?」

千歌「ひどいよ! 気づいたら二人ともいなくなってるんだもん!」プンプン

梨子「ご…ごめんなさい」アセアセ

千歌「――まあいいや、お昼食べよ!」



結局、千歌が何故誰も連れて行こうとしなかったのか
梨子と曜は分からないまま昼休みが終わってしまった

――当然である
千歌はウソをついている

そもそもいくら議論したところで
分かるハズがないのだから――






~放課後 松月~

花丸「んん~~美味しいずらぁ」ウットリ

善子「よくもまぁ毎回食べる量が多いわね…太ったんじゃない?」ジトッ

花丸「いつもの訓練で動いてるから大丈夫ですぅー」モグモグ

ルビィ「でも……授業終わってすぐにのっぽパン食べて、それからロールケーキも食べるのはちょっと多いんじゃ……」

花丸「むぅ、ルビィちゃんまでマルが太ったって言いたいずらか?」ムスッ

善子「まあ、後で困るのずら丸なわけだし~? 体重計に乗った時に『ウソずら~~!?』って絶叫しないことね」ニヤニヤ

花丸「ああ! なんか今の言い方、ちょっと馬鹿にしたね!」プンプン

ルビィ「ふふ…アハハハハ」

花丸「もう! 笑い過ぎだよ~」

ルビィ「アハハ……ごめんごめん。何だか幸せだなって思っちゃってさ」

善子「?」

ルビィ「だってね、いつ死んじゃうか分からない戦いを繰り返してるのに、こんな風に大好きな友達と楽しく過ごせるんだもん。これ以上の幸せは無いよ…」


善子「…普通の女子高生でこのやり取りに幸せを感じる子は稀でしょうね」

花丸「あんな部屋が無ければもっとよかったのに……」



善子「それは困るわ」モグモグ

ルビィ「ええ!? 善子ちゃんはあの部屋好きなの?」

善子「違うわよ。二人と違って私の場合、普通に事故で死んでるからあの部屋が無かったら今こうしてあなた達に会えてないの」

花丸「そっか……」


善子「それに……千歌さんや梨子さんの話じゃ、解放される時に消される記憶は部屋に初めて参加した時から解放されるまでの範囲みたいじゃない?」

善子「そうなると…みんなと一緒に過ごしてきた記憶も消されちゃう……そんな目に遭うくらいなら私はずっと戦い続ける覚悟よ」

ルビィ「善子ちゃん……」


花丸「……善子ちゃんはおバカさんなの?」

善子「はあぁ!?」

花丸「忘れるのが分かっているなら、ノートにメモを取るとかいくらでもやり方はあるでしょ?」ハァー…

善子「あ……その手があった」

花丸「――それに、記憶が無くなったって私達ならまた友達になれる。そこから思い出も新しく作り直せばいいずら♪」


善子「……そうね。なら花丸達にはキチンと迎えに来てもらわないとね。全部忘れちゃったら多分私から話しかけるなんて性格的に無理だと思うし」フフ

花丸「了解ずら!」ニコッ



ルビィ「よーし! 今日は追加でもう一個プリン食べちゃお」

花丸「マルも食べるー!」ワーイ

善子「ちょっ…あんたは流石に控えなさいよ……」






~同刻 生徒会室~

果南「――だあぁ! 課題が多すぎるよぉ……」グデーン

ダイヤ「仕方ないでしょ? 三か月近くも休んでいたのですから。遅れを取り戻す為にもしっかりやってもらわねばなりません」

果南「わかってるけどさー…でも少し休憩してもいいよね? 何だかんだ一時間近くやってたし」

ダイヤ「たかがその程度で休憩? 片腹痛いですわ!」グワッ

鞠莉「まあまあ、別に今日中に終わらせなきゃいけないものでも無いんだしー、そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」

果南「ほらー! 鞠莉理事長もこう言ってるわけだしー」ブーブー

ダイヤ「くっ…! 仕方ありませんね」ぐぬぬ……


鞠莉「というわけで、二人にはおやつのプリンを持ってきましたー♪」

果南「おお! ありがとう鞠莉!」ニコッ

ダイヤ「これは…とてもおいしそうですわね」キラキラ

鞠莉「ふふーん! かなりいい店のプリンだもの?」ドヤァ




ダイヤ「ふう……満足ですわ~」ウットリ

果南「ホントに美味しかったよ!」

鞠莉「……よかったわ、本当に」

ダイヤ「? 鞠莉さん?」

鞠莉「果南が突然いなくなった時は…もうどうしていいか分からなかった。どれだけ調べても決定的な手がかりが見つからないんですもの」

ダイヤ「――まさか、奇妙な部屋でつい最近まで死んでたなんて思ってもみませんでした」ヤレヤレ

果南「あ…あはは……申し訳ない」


果南「――思ったんだけど、今まで死んでた私が奇跡の蘇生を遂げたのに二人とも意外と冷静じゃない?」

ダイヤ「そうですか?」キョトン

鞠莉「な~に? もしかして果南は私達に感動的で情熱的な反応をしてほしかったの?」ニヤニヤ

果南「……///」テレッ



ダイヤ「冷静と言えば、千歌さんの反応も意外と冷静でしたね?」

鞠莉「そう? 私達と違って涙も流していたじゃない」

果南「そうだ…私は泣いてすらもらえなかったんだ……」ズーン

果南「…まあ確かに意外だったな。千歌にとって曜は家族みたいなものだから再生されたときにもっと取り乱してもおかしくないよね」ウーム

鞠莉「それに、やっと会えたっていうのに最初の休日に一人で東京に行く? 私だったら一日中果南と過ごすわ~」

ダイヤ「どのような心境なんでしょうね……?」






~同刻 千歌の部屋~

曜「うだあぁぁぁ!! 終わらない! この量は終わらないよおぉぉ!!」ウガー

千歌「曜ちゃんうるさーい。愚痴っても何も変わらないよ」ペラッペラッ

梨子「そうよー早く今日の目標まで終わらせないと」ポチポチ

曜「へいお二人さん、漫画読んだりスマホいじったりしてるなら手伝ってくれてもいいんじゃない?」

千歌「えー、今いいところだから後でねーー」ゴロゴロ

梨子「まあ…その課題は曜ちゃんの為のものだからね」アハハ…

曜「ぐぬぬ…ごもっともです」


千歌「でもさー、二人とも今日泊まっていくんでしょ? だったらもう終わっていいんじゃない?」ゴロン

曜「確かに!」グワッ

梨子「はいはい、後もう少しなんだから終わらせよ?」

曜「むぅ…」ストン






曜「――よっしゃ終わったぁ!!」

梨子「お疲れさま。千歌ちゃん終わったみt……」


千歌「………zzz」


曜「ありゃ、寝ちゃったか……」ナデナデ

梨子「……こんなに可愛い寝顔の子があんなに強いんだから驚きね」



曜「そういえば梨子ちゃんは私と入れ替わりで転校してきたんだよね! 私がいなかった頃の話が聞きたいな!」

梨子「そうねー…多分私より善子ちゃんの方が色々知ってると思うんだけど――」





――――――
――――
――


千歌(――あれ? ここはどこ? 真っ暗でわかんないよ??)


『―目とも――――る……出―も多―』『い―――下が――! 時――――わ!!』『――かりして!! ――ない――歌ちゃん!!』


千歌(何…なんて言ってるの? 体も動かないし……どうなってるの?)



――――――
――――
――

千歌「―――はっ!?」ガバッ


千歌「ここって……ガンツの部屋」キョロキョロ

千歌「制服が畳んであるって事は…私はミッションが終わって帰ってきたってことだよね?」

千歌「ミッション中の記憶が無い…何と戦ってたんだっけ?」



――チン!


GANTZ『それぢは、ちいてんをはじぬる』



千歌「―――――……は?」


ガンツは採点を始めようとする
しかしこの部屋に帰ってきたのは千歌だけである

これが意味するものはたった一つである――



千歌「ちょっと待ってよ……みんなは? みんながまだ帰ってきてないじゃん!!」

千歌「――私だけ……私だけ生き残ったの?」ゾッ



ガンツは答えない
この球にそんな機能が備わっていないことは重々承知している

しかし、ガンツは普段とは異なる表示を出してきた


GANTZ『選んでくだちい
1. 記憶を消して解放される
2. このまま戦い続ける』




――――――
――――
――


千歌「――――……っ!?」パチッ

曜「お? 千歌ちゃんやっと起きたね」

梨子「途中で少しうなされていたけど、怖い夢でもみていたの?」


千歌「え? 夢? うーん……見ていたような見ていなかったような」ムムムッ

曜「お姉さんがご飯出来たって呼んでたよ!」

千歌「あ…なら行こうか」



このまま夢の内容を思い出すことは無く
三人は一夜を過ごした


翌日
千歌は二人に見送られながら
朝の早い時間の電車で東京、穂乃果がいる“穂むら”へ向かった





~正午前 穂むら前~


千歌「――……ここだね。このお店に穂乃果さんがいる」


入口の戸に手をかけるが千歌にとってそれは容易な事ではない
千歌には予感がしていた

もしこの店に本人がいて尚且つガンツの事を知っているならば
千歌にとって今後を左右する話を聞く事になる予感が

彼女の“記憶”がそう告げる



千歌(覚悟は……できてる)ガラガラ



店員「! いらっしゃいませ!」



店に入るとそこには可愛らしい女性の店員が迎えてくれた
顔を確認するがどうやら穂乃果ではない



千歌「あの…このお店に“高坂 穂乃果”さんはいらっしゃいますか?」

店員「穂乃果ですか? 少々お待ちください」


店員「おねーちゃん!! お客さんだよーー!」



店員は店の奥に向かって呼び出す

『今行く』という声が帰ってきてからしばらくすると
彼女が姿を現した



鞠莉から見せられた写真やスクールアイドル時代とは違い
トレードマークであるあの髪形はしておらず
髪も少し伸びている

何より活発的で元気全開な雰囲気だった当時とは一変
落ち着きのある大人の女性へと変わっていた




穂乃果「一体誰が来たって――!?」



千歌の顔を見た穂乃果は驚愕していた

千歌にとってこの反応は
穂乃果がガンツの事を
少なくともあの日のから今日までの記憶が確かにあるという
何よりの証拠であった



千歌「……“お久しぶり”です。穂乃果さん」





~穂乃果の自室~

穂乃果「――何年ぶりだっけ?」

千歌「新宿のミッション以来ですから…三年ぶりくらいですね」


穂乃果「あの時はまだ中学生だったんだよね……それがまあ立派に成長したね」ジロジロ

穂乃果「それに…“いい目”になったね。それなりの修羅場も仲間の死も経験してる」

千歌「…復帰したのは割と最近ですけど…昔よりも厳しいミッションばかりでしたからね」



穂乃果「それで? 何しにわざわざ私の所まで来たの?」

千歌「………」



千歌はメンバーに黙っていたことがあった
思い出した内容は一部ではない
本当は今まで消されていた内容の全てを思い出していたのだ

梨子は覚えていないが
あのミッションには千歌達のチームも参加していたのだ

その時、千歌はある質問を穂乃果にしていた
穂乃果はその質問に対し
「それを知る必要は無い、聞けばあなたは一生戦うことになる」
と答えていた



千歌「――あの時の質問の答えを聞きに来ました」





千歌「何故、私達は星人との戦いを強いられているのですか?」



穂乃果は千歌の眼を真っすぐに見つめる


穂乃果「覚悟は…出来ているみたいだね? なら…どこから話そうかな」ウーン



穂乃果「――あの黒い球が日本中に存在していることは知ってる?」

千歌「見た事はありませんが…沼津と東京にもあるくらいですから、予想はしていました」



穂乃果「なら、日本だけじゃなくて世界中に存在しているのは?」

千歌「!? 本当ですか!?」

穂乃果「長い事ミッションに参加してると他のチームと合同で戦うこともあるんだけど、アメリカや中国、ドイツのチームと一緒になったことがあるの」

穂乃果「ドイツのチームに黒い球に詳しい…いや、開発関係者がいてね。いろいろ教えてもらったんだ」

千歌「開発…あれって人間が作った技術なんですか!?」



穂乃果「そう。あの球や武器はドイツのとある企業が開発したもの。なんでも宇宙から設計に関する情報が送られてきたそうだよ」

千歌「宇宙…なら私達が今まで戦ってきた星人って……」

穂乃果「紛れもない、本物の宇宙人だよ。かなり前から地球に住んでいたみたい」


千歌「なら…私達はその宇宙人に侵略されない為に戦っているって事なんですか?」

穂乃果「違うよ。この戦いはあくまでも予行練習、訓練に過ぎないの」

千歌「あれが……訓練?」

穂乃果「近い将来、全人類を巻き込んだ大きな事件が起こるの。それが戦争なのか災害なのか、はたまた宇宙からの侵略なのか……」



穂乃果「彼らはこの日を『カタストロフィ』と呼んでいた」


千歌「…そのカタストロフィはいつ頃に来るの?」

穂乃果「残念ながら分からないの…明日かもしれないし一週間後、来年かはたまた数十年後かも」



千歌「そんな……」


穂乃果「でもね、これは最近知った事なんだ。あの時に話そうとした内容とは違うの」

穂乃果「――カタストロフィなんかより現実的でこれから起こる可能性が高い事実だよ」




――――――
――――
――

曜「そーいえばさ、梨子ちゃんもあの部屋で昔戦っていたんだよね? どんな星人がいたの?」

梨子「ええーと…実は思い出したって言っても、あの部屋にいた事とメンバーに穂乃果さんがいた事しか思い出せてないのよ。後は戦い方くらいしか……」

曜「そっか……沼津では魚っぽい星人が多いんだよね。だから東京ではどんなのが現れるか気になったんだけどなー」

梨子「確かに。千歌ちゃんもそんな事言ってた」

曜「あーあ、なんで私達を連れて行かなかったのかなー? 私達もこれから向かっちゃう?」

梨子「…見送ったばかりだしこれから準備すれば……」

曜「…やっぱ止めようか。きっと理由があるんだろうし…今日は梨子ちゃんとの親睦を深める日にするよ♪」

梨子「そうね。私も曜ちゃんと仲良くなりたいな!」ニコッ





――――――
――――
――


千歌「どういうことですか?」

穂乃果「“戦いを強いられている理由”に関してはさっきの話が有力。でもあの時はまだ違ったの」



穂乃果「千歌ちゃんが初めて部屋に来たとき、どうやって生き残った?」

千歌「それは…私より前から参加していた人から色々教えてもらって……」


穂乃果「――なら、その前から参加していた人は誰に教えてもらったの?」

千歌「そ……それは…あれ?」ムムムッ


穂乃果「つまりあの部屋には必ず一人は経験者がいるようになっているの」

穂乃果「その人数が下回りそうになると、解放されたメンバーに小さい黒い球が送られて、指定された人間を抹殺させる。全員の抹殺が完了すると持ち主も部屋へ転送させられる」


千歌「ターゲットにされる基準とかはあるんですか?」

穂乃果「話によれば、元メンバーや現メンバーのモチベーションを上げる人、知り過ぎた人なんかが該当するかな?」


千歌(ダイヤさんや鞠莉さんが選ばれたのはそういう理由なんだね)


穂乃果「このルールを覚えていてね? あの部屋では、不定期に緊急ミッションが実施されるの。頻度はかなり少なくて私もまだ二回しか経験していない」



千歌「普通のミッションとは何が違うんですか?」

穂乃果「まず敵がかなり強い。油断したら一瞬でやられる程にね。それをクリアすれば倒した人だけでなく生き残った人もとある二択を迫られるの」

穂乃果「“解放”か“残留”の二択をね」


千歌「緊急ミッションをクリアすれば全員が解放されるんですね! ならこの先も生き残ってさえいれば……」



穂乃果「でもね、黒い球に選ばれた一人の人間は強制的に残されるの。強制ミッション後は100点メニューからも一番が無くなっている」

千歌「え……つまり…一生戦い続けなきゃダメって事?」

穂乃果「そうなるね。死ぬかカタストロフィを迎えるまではあの戦いを繰り返す羽目になる」


千歌「………」

穂乃果「選ばれる基準は分からない。でも必ず一人は残される。この一人が生き残っている限り解放者からの再招集は無くなるよ」





千歌「…どうして当時は教えてくれなかったのですか?」


穂乃果「……あの時の千歌ちゃん、正義感が凄く強かったからね…誰かがやらなきゃダメなら自分がやるって感じだった。まだ中学生なのに死ぬまで戦いに参加する選択を選んでほしく無かった」

穂乃果「でも今は違う。一生を左右する選択はもう出来るはずだと思う…私がそうだったようにね?」



千歌「――私は…」

穂乃果「今決める必要は無いよ。もしかしたら緊急ミッションを経験しないまま解放される事だってあり得るからね。ただ頭の隅っこには置いておいてほしい」




穂乃果「――重い話はここまで。せっかく沼津か来てくれたんだから穂むらの和菓子をごちそうするよ!」ニコッ

穂乃果「雪穂―! 和菓子の在庫ってどのくらい残ってる?」ガラガラ


千歌「ふふ…大人な女性になったと感じたのは気のせいだったかな?」クスッ


千歌(緊急ミッションか…この話をみんなが知ったらどうするんだろう?)



解放を求めて戦っている人にとって必ず誰かが残らなくてはならないこの事実は
とても酷な選択となる

どのような順番で選択を迫られるのか
もし、どちらも解放を望むメンバーが最後の二人に残ってしまったら?

いくら仲が良くても争いが生れるだろう
罪悪感に襲われる者もいるはず


伝えるべきか否か
この選択は今後を左右する――





穂乃果「お待たせ! 取り敢えず“ほむまん”持ってきたよ」ドサッ

千歌「こんなに沢山! いただきま――!?」ゾクゾク



穂乃果「え? まさか…」


千歌「呼び出しみたいです…まだ数日しかたってないのに」ブツブツ


穂乃果「このタイミングなら残党狩りだと思う。前回の星人並の強敵は現れないとは思うけど油断はしないでね?」

穂乃果「お饅頭は箱に詰めておくから持って行ってね」

千歌「あ…ありがとうございます」アハハ…



千歌「帰りの交通費が浮いて良かったです。高校生にはちょっと痛い出費だったので」

穂乃果「あはは。ずいぶん前向きだね? さっきも言ったけど油断はしないでね」



――ジジジジ



千歌「転送始まりましたね……今日はありがとうございました」

穂乃果「うん。またね」フリフリ





――――――
――――
――


千歌(穂乃果さんに会いに行ってから一か月が過ぎました)

千歌(あの後ミッションは穂乃果さんの言っていた通り、まさしく残党狩りだったね。曜ちゃんと果南ちゃんの復帰戦のつもりで大体の星人の相手をしてもらったんだけど……)

千歌(二人は『リハビリどころか準備運動にもならなかった』って言ってたよ…どんだけ強いんだよ)アハハ…


千歌(穂乃果さんから聞いた話はみんなにしていない。緊急ミッションが来る前に100点を取ってもらうことにした。カタストロフィの方も…いつ来るかも分からない事を話すのは良くないと思ったからこっちも話してないよ)


千歌(今日は放課後に生徒会室に全員集まってるんだけど――)





曜「――ねえ千歌ちゃん、やっぱり何か隠してない?」

千歌「と……突然どうしたの?」ギクッ

曜「だって、東京から帰ってきてからずっと考え事してるじゃん? 表情だって暗い事が多いし……何かあったとしか思えない」

ダイヤ「前回も戦闘中、それに最近の訓練中だってボーっとしている事がありましたものね」

花丸「穂乃果さんから…本当は何を聞かされたの?」



千歌「前にも言ったけど、ガンツが日本だけじゃなくて世界中にあって宇宙人の侵略を防ぐために戦ってる事だけだよ?」アセアセ


鞠莉「………」


果南「ならさ、最近の異変はどういう事なの?」

千歌「それは…体調があまり良くないだけだよ。仲間が増えて気が抜けちゃったんだと思う。ごめんね?」


梨子「ホントに体調の問題なんだね?」ジーッ

千歌「……そうだよ」

ダイヤ「そうですか…どうやら私達の思い過ごしだったようですね」



ルビィ「じゃあさ! 今日はみんなで松月行かない? 今までみんな揃って行ったことないし……どうかな?」

花丸「行こう! 絶対に行くべきずら!」キラキラ

千歌「それじゃ、準備してみんなで行こうか」






善子「――ちょっといい?」

千歌「ん? どうしたの??」



善子「千歌さんが“何でもない”って言うならそれを信じるわ」

善子「この際だからはっきりと言うけど、私は千歌さんの判断なら絶対に従う。囮になれって言われればそうするし、死ねって言えば迷わず死ぬ」


千歌「ちょっ!? 本気で言ってるの?」

善子「……ちょっと盛った。流石に死ねって言われても死なない。ただね…千歌さんがあの部屋にいる限り私も一緒に戦うつもりでいるって事だけは伝えておく」


千歌「なら…次に100点取ったら私は一番を選ばないとね」フフフ

善子「頼んだわよ! 二番なんて選ばないでよね!!」



曜「二人ともー! 早くしないと置いて行っちゃうよーー!!」オーイ


千歌「……行こっか?」

善子「ええ」ニコッ





~夜 千歌自室~

千歌「やっぱ話すべきだったかなー」ウーン



千歌はベッドの上で寝転ぶ
松月で曜と果南の復帰を祝ったプチパーティーも終わり
9人の絆はより深まっただろう
……梨子と花丸はまだ溝があるが
これから仲良くなって欲しいと願う


この関係を崩したくは無い
失うわけにはいかないのだ


千歌「――なら、私は……」



――ゾクゾク!



千歌「……来たね。そろそろだと思ってたよ」



転送が始まる前にいつものスーツに着替え
準備は整った

各メンバーがあの部屋へ転送されてゆく――






~GANTZの部屋~

果南「千歌も来たね。これでいつものメンバーが揃ったけど…」

ダイヤ「今回も追加メンバーはいないようですね」


曜「まあ、9人もいれば十分だよ。あんまり多いと点数も稼げないし」グイグイ


準備運動をする曜と果南
落ち着きなく部屋をウロウロするルビィ
腕を組んで壁に寄りかかり目をつぶっている善子

それぞれが緊張をほぐすため何かしらやっている


そして、ガンツからいつものように音楽が流れ
今回のターゲットが表示された




GANTZ『てめえ達は今から
この方をヤッつけてに行って下ちい
天狗星人 特徴:つよい 好きなもの:うちわ 血 口くせ:ほーほー』



果南「今回は結構強そうな見た目だね」

千歌「関係ないよ。いつものように油断しないように戦おう」


ダイヤ「分かっているとは思いますが、危ないと思ったらすぐに下がりなさい! 決して一人で戦おうとはしない事。いいですね?」

花丸「了解ずら!」



――ジジジジ




転送が始まる――





~???~

曜「――ここは……どこだ?」


曜が転送された場所は見覚えのない場所であった
少なくとも内浦でも沼津でも無い
高い建物がたくさんある


千歌「――…うそ……ここって…」




気が付くと千歌も転送されていた
何かの看板を見て驚いている

しかし、他のメンバーが見当たらない
いつも全員同じ場所に転送されるはずなのに…


曜「千歌ちゃん? ここがどこだか分かるの?」



曜も千歌が見ている看板に目を向けた

その大きな黄色い看板には赤い色で『ラジオ会館』と書かれていた



千歌「――ここは…秋葉原なの?」






~秋葉原 神田明神~

善子「あれ? 鞠莉さんだけ?」

鞠莉「どういう事? みんなとは別々の場所に転送されたの?」


善子「そんな…今までそんな事なかったのに……」ゾッ

鞠莉「見た所…ここは神田明神ね。まさか静岡県から遠征するなんてね」



善子「……鞠莉さん」カチャ

鞠莉「……ええ」



もう既に二人は気が付いている
周囲には大量の星人が潜んでいる事に…



鞠莉「――二人で乗り切るしかないって事ね♪」グググッ


鞠莉は拳を強く握りしめる――





~音の木坂学院 教室棟三階~

ダイヤ「ルビィ! 構えなさい!!」カチャ

ルビィ「おねぇちゃん! この数を二人で相手するの!?」



黒澤姉妹も星人と対峙していた
人型や猛獣型の妖怪のような星人であった



ダイヤ「まずは…退路を作ります!!」ギョーン!ギョーン!






~UTX高校前~

花丸「――どうして桜内さんと二人だけなんですか」ムスッ

梨子(…非常に気まずい! どうして仲の悪い二人を一緒にしたのよガンツ!!)ダラダラ


梨子「そう言われてもね――っ!?」ゾワッ



梨子は花丸の背後から何かが振り下ろされようとしているのに気付いた

間一髪、花丸を突き飛ばす
気付くのがあと一瞬遅れていたら真っ二つにされていただろう



花丸「え? えぇ??」ドクンッドクンッ

梨子「文句は後で言って! もう囲まれてる!!」シュッ!



ガンツソードを構える梨子の目の前のには
両手に鎌を付けたヘビのような怪物が二匹

それが前後に現れたのだ――






~中央通り 末広町駅付近~

果南「――参ったなぁ…私だけか」ポリポリ


果南は大通りのど真ん中に転送されていた
しかもそこには大小様々な妖怪星人が退路を妨げるように居座っている
客観的に見ても一人で何とかできる数ではなかった

しかし、なぜか果南は不敵な笑みを浮かべていたのだ――



果南「うーん、少し大変そうだけど…“リハビリ”には十分かな?」ニヤッ



ソードを展開しゆっくりと軍勢へ歩みを進める

星人は果南から発せられえる独特な雰囲気に圧倒されていた




果南「――かかって来なよ? 来ないならこっちから行くよ!!」ガッ!




それぞれの場所へ、イレギュラーに転送された彼女達の
生き残りをかけた戦いが始まる――





――――――
――――
――

~ガンツの部屋~

とあるマンションの一室
この部屋にも黒い球が置かれている

ただし、ここは沼津ではない
東京である


ここでも今夜、星人討伐のミッションが開始されようとしていた

メンバーの召集は完了済みでターゲットの表示もされていた


???「天狗星人か……強そうだね」



ここには千歌達同様、9人の女性がいた
彼女達の中には千歌達の部屋には無い
黒い大きな武器を携えている者もいる

すでに準備はできていた



――ジジジジ



???「――さあ、行こうか」


9人の転送が始まった――





―――五章へ

今回はここまで

テンポ重視で書いていますが…
早すぎですかね?

ありがとうございます!

続きはまだ制作途中なのでもう暫くお待ちください

昔の話が色々出てきたので一章より前の時系列を一応確認



五年前:ミューズを乗せたバスが事故に遭い東京のガンツの部屋へ

?年前:梨子が東京チームへ参加

三年前:千歌(当時中学二年)が沼津(静岡)チームに参加する
    
    新宿のミッションで東京チームは穂乃果、梨子以外全滅
    100点を獲得した梨子はここで解放を選択
    (このミッションは沼津チームと合同で行われており、千歌も参加)

一年前:曜(当時高校入学前)が沼津チームへ参加
    この時のミッションで100点を獲得した千歌は解放を選択

半年前:果南が沼津チームへ参加
    
三日前:善子が参加(この時のミッションで曜が死亡)
   

現在(一章):千歌が再び沼津チームへ参加



こんな感じの設定で話を進めております

曜と梨子の件、やっぱり違和感ありますよね?
これに関しては補完するつもりです

……忘れていたらすいません

五章

ガンツのミッションは基本的に人の少ない場所で夜に行われる
一般人への被害を最小限に抑えるためだが
星人の行動によっては夕方から始まったり夜でも人が多い街中になったりもする

時刻は夜8時、平日とはいえ秋葉原には多くの人が往来していた
そんな中、大量の星人出現
千歌達が転送された時にはすでに多数の死者が出ていた
警察や自衛隊も出動しているが事態は未だ終息していない




――
――――
――――――


千歌「こいつら! 一体ずつがかなり強い!!」キンッ! キンッ!


二人の前には四体の星人が立ちはだかっていた
大きさが3m弱で金棒を持っているのが二体
何も持っていないのが一体
その後ろに4mを超える星人があぐらをかいて座っている

全員鬼のような見た目であった


鬼の一体が雄叫びをあげながら千歌目がけて金棒を振り下ろす

――バックステップで回避
振り下ろされた場所には大穴が空いた


追撃を加えようとした鬼だが、曜の放ったYガンにより拘束された



ガンツの武器にはXガン、ガンツソードのような殺傷武器の他に
捕獲用の武器であるYガンが配備されている
3つの砲身がYの字に配置された外観をしているこの銃は
上下のトリガーを引くことで銃口から実弾式のアンカーボルトを発射する
目標付近でワイヤーを実体化させ対象を束縛
アンカーは地面や建物に固定することで拘束する
その後、上トリガーを引くことで星人を上へ転送する事ができる

曜はこのYガンを多用している



曜「よし捕らえた! これで……」


上トリガーを引こうとするが側方からの鬼の攻撃により妨害される
その隙に武器を持っているもう一体の鬼がアンカーを破壊し
拘束が解除される


千歌「この星人……沼津港で戦ったのに似てる。ちゃんと連携がとれている」

曜「だったらこっちも連携して戦うまで! 幼馴染の力の見せどころだね」ニヤ


千歌「――よし、曜ちゃんはその銃で動きを止めて! すぐに私が仕留める!!」

曜「任せて!!」カチャ




~~~~~~


鞠莉「――ったく、しつけのなってないワンちゃんね!」バキッ!

善子「速いなもう!」ギョーン!ギョーン!


神田明神の境内には数十匹のオオカミ型の星人が出現
全方位から絶妙なタイミングで襲ってくるので
決定的なダメージを与えられないでいた

二人は背中合わせで対峙している


鞠莉「善子! 何匹倒した!?」

善子「まだ一体も! 速すぎて当たんないのよ」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




一匹一匹はそれほど強くは無い
一対一なら戦闘力の劣る花丸でも容易に倒せる

だが基本的に戦いは数が多い方が有利
徐々に二人を追い詰める


――不意に星人が善子の手首に噛みついた
弱いとはいえスーツを着ていなければ噛み千切られていただろう



――パキン!



何かが割れる音がした



――スーツの耐久性能には限界がある
一定量以上のダメージを受けるとスーツ各部にあるレンズ状のメーターから
ゲル状の物質が漏出し、全ての機能を失う

しかし、メーター自体を破壊された場合
受けたダメージに関係なくその部位のスーツの機能が無くなる


星人の牙は偶然にも手首にあるメーターを貫き
善子の手首を噛み砕いた




善子「―――っ!? がああああぁぁぁああ!!!?」ギョーン!ギョーン!

反射的に撃ったXガンは星人に直撃
爆発四散した



善子の手首の骨は完全に砕かれ
辛うじて一部の皮膚だけで繋がっていた

当然、女子高生が耐えられる痛みのハズが無いが
一度腕を切り落とされた善子は何とか意識を保っていた


善子「ふー……ふー……」ドバドバ

鞠莉「無事なの!? 善子!!?」


うずくまっている善子のケガを見て鞠莉は絶句する



鞠莉(出血がひどすぎる…このまま戦わせれば失血死しちゃう)


考えている間も星人は攻撃を仕掛けようとしている
迷っている場合ではない


鞠莉「――ごめん! 善子!」バキッ



鞠莉は善子を本殿まで蹴り飛ばした
一旦引かせるためとはいえ、今の一撃で今度こそ手首が千切れてしまった事に
罪悪感を覚える鞠莉



鞠莉「さて……正念場ってやつかな?」



善子によりやっと一匹倒したが
まだまだ数は多い


再び全方位から襲い掛かってくる――




~~~~~~


梨子「ハァー……ハァー…」ポタッ ポタッ


四体いた星人も梨子により半分に減っていた
ただ、その代償に左ひじを骨折していた

指先から血が滴る



花丸「さ…桜内さん……」ブルブル

梨子「ハァー……国木田さん、ちょっと一人でこの二体を倒すのは厳しそう。何とかして退路を作るから助けを呼んで欲しい」


花丸「え!? そんなケガなのに一人で戦うなんて無理だよ!」

梨子「…大丈夫、時間稼ぎなら……できる」ハァーハァー



実際には二人で戦っていない
花丸には下がるように命令し、梨子一人で戦っていた

花丸では相手にならないことを直感で分かっていたからだ



花丸「私だって…私だって戦えます! だから――」


梨子「黙って指示に従いなさい!! あなたじゃ無理なの、一瞬で殺されるの!!」

花丸「っ!?」ビクッ


梨子「…もう国木田さんを死なせるわけにはいかない。あなたをこの地獄から守り切る事が巻き込んでしまった私の責任であり使命なの」

梨子「その為なら……私の命だって賭ける覚悟よ」ハァーハァー



梨子は脅されていたとはいえ、自分の手で殺めてしまったメンバーに対し
強い罪悪感を持っていた
彼女達が生き残る為なら危険な囮役でも即死級の攻撃でも身を挺して庇うことも
命を捨てる覚悟があった

特に花丸は一度死なせてしまっている
これ以上繰り返すわけにはいかなかった




――星人が鎌を振りおろす

ガンツソードで防ぐが片手ではパワー不足だ
刀ごと近くの手すりに叩きつけられる


花丸「梨子さん!!」

梨子「――早く行きなさい……国木田 花丸!!!」グワッ





~~~~~~


ルビィ「――しっかりして!! 目を覚ましておねぇちゃん!!」


アルパカ小屋の裏側に二人は身を隠していた
頭から血を流し、意識は朦朧としているのはダイヤだった
スーツはすでに壊れている


退路を確保しつつ逃げながら戦っていた二人だったが
校舎に生徒が残っているのを見つけてしまったのだ

救出に向かったダイヤ
しかしその生徒は星人が化けていた偽物であった
不意の攻撃に受け、ダイヤは頭部に大きなダメージを受けたのだ

ルビィにより何とかその星人を撃破、ダイヤを救出し
今の場所まで逃げてきた



ダイヤ「……申し訳…ありません……完全に…油断しました……」ハァーハァー

ルビィ「おねぇちゃんは悪くない! 誰でも助けに行った、星人が卑怯だっただけだよ!」ポロポロ


ダイヤ「どうですかね……きちんとレーダーを見ていれば…」



星人はまだまだ残っている
頭をケガしている以上この場を動かすわけにはいかない

残された選択肢は
助けが来るまでここで待つ
ここの星人を全て倒す
後は……


ダイヤ「ルビィ……逃げなさい」

ルビィ「……え?」

ダイヤ「わたくしも…少し休んだら追います……ここに二人でいても仕方ありません」



ダイヤは分かっていた
この量の星人ではここが見つかるのも時間の問題

ここにいたら二人とも助からない
今のダイヤがルビィを守るために出来ることは
一刻も早くこの場から逃がす事だけであった



ダイヤ「心配しないで……必ず追いつきますから…」ニコッ


ルビィ「―――嫌だ、絶対に置いていかないよ」

ダイヤ「!? ル……ビィ?」


ルビィ「私だって見れば分かるよ…今のおねぇちゃんのケガは休んだくらいじゃ良くならない事くらい」

ダイヤ「っ!! でしたら、どうしてこんな事を言っているかも…理解しているでしょ!?」

ルビィ「うん……おねぇちゃんはルビィを逃がす為に自分を犠牲にしようとしてるんだよね?」


ダイヤ「なら―――」

ルビィ「でも、そんな事されて生き残っても嬉しくないよ」



ダイヤ「…仮にここで死んでも……100点を取れば生き返る」ハァーハァー

ルビィ「このミッションで全滅したら? それにおねぇちゃんを生き返らせてくれる人がこの先必ずしも生き残るとは限らない」

ルビィ「それに……もうおねぇちゃんが死ぬのはもう二度と見たくない」



ルビィの目がいつもとは違う事にダイヤは気が付いた
自信が無くおどおどとした目つきでは無く
戦う覚悟を決めた…あの時の鞠莉と同じ目をしていたのだ



ルビィ「――『黒澤家にふさわしいのは常に勝利のみ』」

ダイヤ「!?」

ルビィ「私だって黒澤家の人間だよ。いつまでも負け続けるわけにも、守られるだけの自分でいるわけにもいかない……」

ダイヤ「………」


ルビィ「――今度は私がおねぇちゃんを守る番。おねぇちゃんはここで待っててね」ニコッ



――ダメだ
このままルビィを行かせるわけにはいかない

ダイヤは引き留めようとするが
もう声を出すだけの気力は残っていなかった

意識を失う前に見たものは
戦場へ向かう大切な妹の後ろ姿だった






~~~~~~

辺り一面穴だらけになっていた
道も壁も止まっていたトラックも

千歌と曜が戦っている大型の星人によって開けられた穴である


二人のコンビネーションにより
三体の鬼星人の討伐、捕獲が完了済みである

最後に残った後ろの星人との戦闘に入っているが……


ガンツソードで切り付けるが余りの硬さに折れてしまう
Yガンでの拘束を試みるも、自力でワイヤーを引きちぎる
Xガンによる攻撃もダメージが薄い



千歌「まずいよ…攻撃が全然通じない」ゾワッ

曜「動きはそこまで早くない! とにかく手足を攻撃して逃げられないようにしよう!」



このタイプの星人は捕獲し転送するのが一番良いのは分かっていた
しかし撃っても撃っても
手足が落ちる事は無い




――ドゴ!



星人の拳が曜の腹部に直撃し後方へ吹き飛ばされる
建物を突き破り、かなり遠くまで飛ばされたようだ
曜の安否が確認できない

しかし、そんな事を星人は許さない
続けて千歌へ腕を薙ぎ払う

刀を盾にして防ぎ、踏ん張るが――


千歌「っ!!? 重い!?」グググ


スーツのパワーではこの星人と渡り合う事は出来なかった
側方の壁に叩きつけられる



千歌「――かはっ…」バタン


うつ伏せに倒れる千歌のもとへ
星人はゆっくりと近づく

早く逃げなくては……
しかし、想像以上のダメージにより思うように動かない



千歌(このっ! 動け! 動いてよ!!!)グググ


千歌は星人を睨み付けるが
その背後の景色が目に入り絶望する…

先ほど倒した星人と同じ姿をしたものが
続々と現れていたのだ




千歌(何で…何で今回に限ってバラバラに転送したの……? こんなの……無理だよぉ)ポロポロ



泣くなというのが
絶望するなというのが無理な話である

いくら戦いに慣れ始めたとはいえ、彼女達はまだ高校生だ
死の恐怖には抗えない

千歌にはもう立ち上がる気力は残っていなかった



千歌(ごめんね…みんな……もう疲れちゃったよ……)グタッ



星人はもう千歌の目の前まで近づいていた
あと数歩で拳が届く



――ズドン! ――ズドン!



圧倒的な――――――が
―――――を上から押しつぶした

データ消えちゃったのでキリのいい所まで

明日の夜には書き直して投稿します






――
――――
――――――


人生は普通で満ち溢れている

朝寝坊した日、曲がり角で運命の人とぶつかる事は無い
強敵を前にして突然新しい力が目覚める事は無い
正義が悪に負けることなんてざらにあるし
主人公補正なんてものも無ければ
絶体絶命のピンチにライバルが助けに来るなんて事も無い

どんなに良い人間も
どんなに良い仲間に恵まれていても
死ぬときは案外あっさり死んでしまうものだ

私は少年漫画のような王道展開より
こういう現実味を帯びた邪道な展開の方が好みだ




――でも、彼女たちの人生は普通だろうか?
死んだと思ったら勝手に再生されて
訳のわからない宇宙人と殺し合いを強いられる

いくらなんでも可哀想だとは思わない?


そんな彼女たちをもし手を伸ばせば助けられるなら
こんな捻くれた私だって迷わず助けるよ




ああ、ちなみに王道な展開が嫌いなわけじゃないよ?
正義の味方には今でも憧れているし
あの熱い展開はやっぱり癖になるもんね!








――ねえ知ってる?
ヒーローは遅れてやってくるんだよ――






――圧倒的な見えない何かが
星人の全てを上から押しつぶした




千歌には何が起きたのか分からなかった

星人がいた場所は大きな円柱状に削り取られた穴が二つ出来ていて
底に血の海が出来ていた


――目の前に黒いモノホイールバイクが止まった

千歌達の部屋にもあったバイクだったが
誰も運転できないので今まで使用しなかった


千歌(今回は誰かが持ってきたの……?)



バイクには二人、運転席と後ろに乗っており
どちらも千歌達と同じ黒いスーツを着ていた

後ろに乗っている人物が倒したようだが
持っている大きな黒い武器に見覚えが無いが

その持ち主の顔は確かに知っている
あの時とは違い、いつものサイドテールをしていた



???「ふー…何とか間に合ったみたいだね……」

穂乃果「……私が倒してくる。ことりちゃんはここで待ててね」ガチャ


千歌「ほ……穂乃果さん………」ポロポロ



千歌は涙する
だが今回は絶望したからではない

音の女神のリーダーは千歌の無事を確認し微笑んだ




穂乃果「―――もう大丈夫。後は任せて」ニコッ






~~~~~~


鞠莉はボロボロだった

二人でギリギリ対処していた敵だ
いくら格闘に優れた鞠莉といえども相手にならなかった


スーツの耐久にはまだ余裕を残しているが
体力の限界が近かった


鞠莉(きっつ!? こいつら手首のレンズを狙ってくるから油断できない!)



疲労による一瞬の隙を付き星人は鞠莉の手足に噛みつく
じりじりとスーツにダメージが入る



鞠莉「このっ! 放しなさい!!」ブンブン


必死に振りほどこうとするが
噛みつく力は相当なもので銃以外では対処出来ない
急がないと鞠莉も、出血中の善子も危ない



――ダン! ダン!



――空から黒スーツを着た二人組が舞い降りた


???「うげ!? 数が多すぎでしょ!? こんなの一人で相手するのは無理ね」

???「あーあ……本堂も境内も滅茶苦茶やん。こりゃ、星人にはた~ぷりお仕置きせなあかなぁ?」



鞠莉(誰!? Xガンの二丁持ちに……あの武器は何?)


にこ「私はあの子に噛みついてる奴を撃つ! 希は周りをお願い!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!

希「了解や!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!


鞠莉に噛みつく星人は爆破
周囲30cmの星人は全て圧死した


鞠莉「うお!? 私ごと巻き込むつもり!?」ゾワッ




~~~~~~

ルビィ「―――まだ増えるの?」



出来るだけダイヤから遠ざける為に戦場を校庭に移し
大小様々な星人の相手をしていた

それなりに訓練や実践を積んできたルビィではあるが
その戦闘力は花丸とほぼ同じ
恐怖を克服したとはいえ劇的に強くなった訳では無い

やっとの思いで倒しても次から次へと新手が現れる
強敵がいないのは不幸中の幸いだが
終わりの見えない戦いはルビィの精神力をごっそりと削り取る


倒した星人は七体
本来なら十分過ぎる成果だが今回に限ってはまだ足りない


ルビィ「まだ…まだ倒れるにはいかない……負けるわけには…」



大型の星人が棍棒は横に薙ぎ払う
予備動作もハッキリあり、速度も速くない



――ドゴッ!



避けるのが容易い攻撃でさえ彼女の脇腹に直撃する

……もう限界だった
誰が見てもルビィはよく戦ったと評価するだろう
倒した星人も普段の実力では倒せない強さだった
諦めても誰も文句は言わないだろう……



ルビィ「――うううぅぅぅ!!!!」グググ



――それでもルビィは立ち上がる



ルビィ「私は…負けない!! おねぇちゃんは……私が守るんだ!!!!」


ルビィの死はそのままダイヤの死に直結する
大好きな姉とこの戦いから解放されるまで
絶対に諦めるわけにはいかない


しかし、もう立っているだけで精一杯

武器を構える事も出来ないルビィに対し
星人は容赦なく襲い掛かる


ルビィ「っ!! うわあああああ!!!」



――スパッ!



無残にも肩から腰にかけて切断される
だがそれはルビィでは無い

ルビィに襲い掛かった星人の一体が何者かに切られた


そのまま後ろに倒れそうになるルビィを誰かが抱える
増援は二人いたのだ
目の前にいる金髪の女性と抱えてくれた女性は
ルビィに優しい声で話しかける



???「…ハラショーよ。貴方の覚悟は痛いほど伝わったわ」

???「たった一人でこの数を……私があなたと同じ年齢の頃だったら逃げ出していたよ」


ルビィ「……え? この声は?? え?」


どちらの声も聞き覚えがあった

聞き間違えだと思ったがそんな事は無い


毎日彼女たちの歌声を聴いているし
姉とライブのDVDも数えきれないほど繰り返し観ていた

今、目の前にはダイヤが憧れていた人物が
後ろにはルビィが憧れていた人物がいるのだ



絵里「花陽、その子は任せたわよ? こいつらは私が始末する」チャキ


花陽「うん! 頼んだよ絵里ちゃん!」





~~~~~~

壁に寄りかかっている梨子の意識は朦朧としていた
スーツはとっくに機能を停止しており戦闘不能になっていた


梨子(どうなったんだっけ? スーツが壊れるギリギリで一匹倒した事まで覚えてる……そうだ…花丸さんは上手く逃げたかな……)


意識が徐々にハッキリとしてくる
頭も段々回るようになってきたところで
一つの疑問が浮かんだ



梨子(――なんで私は生き残ってるの?)


星人は最初四匹いた
少なくとも一匹は確実に残っている
花丸が命令通り逃げてくれたのならとっくに自分は星人に止めを刺されているハズ

生き残っているということは……


完全に意識が覚醒した梨子の目の前では
花丸が残りの星人の攻撃を紙一重でかわし続けていた



梨子「んな!? どうして逃げてないの!!?」ゾワッ


梨子の声に気付いた花丸は一旦星人から離れ
梨子の近くまで来た



花丸「――よかった! 意識が戻ったずらね!!」ハァーハァー

梨子「そんな事はどうでもいいの!! 何でここにいるのか答えなさい!!」


花丸「……梨子さんの命令だったからだよ」

梨子「は?」

花丸「私は梨子さんが大嫌いずら。ルビィちゃんやマルをこんな地獄に突き落とした張本人なんだもん。今でも許せないし、仲良くなるつもりもない」


梨子「だったら、なおさら私なんか置いて逃げるべきでしょ!?」

花丸「……でも、梨子さんも責任を感じている事は伝わった。本当に命がけで守ってくれることも分かった」


花丸「――ただね、命を懸けるのは今じゃない。こんな敵、マル一人でも倒せる」



梨子はどうして花丸が守ろうとしているか理解できなかった
殺したくなるほど憎いはずの自分を何故見捨てないのか

今まで一度も目も合わせた事も無い
訓練中に殺意を感じた事も一回や二回ではなかった


そんな花丸が何故……



梨子(―――そんな事はどうでもいい!! 早く行かなくちゃ!)ググッ



立ち上がろうとするが
足に力が入らない

その間にも花丸は再び星人の方へ向かっていく



梨子「ダメお願い!! お願いだから逃げて!!!」


梨子の叫びは花丸に届く事は無く――







???「―――うにゃああああ!!」バキッ


突如、奇声を上げながら星人の側方から飛び蹴りを食らわせる
謎の少女が現れた


花丸「ずら!?」ビクンッ

梨子(ガンツのスーツを着てる!? 誰なの!?)



茶色い髪でショートカットのその少女も
梨子たちと同様の格好をしていた


???「ヤレヤレ…昔は一人でガンガン点数稼いでた梨子さんもこんなにボロボロになっちゃって……私が死んでた間に弱くなったんじゃない?」クルクル



一人の女性が赤い髪を指で巻きつけながら梨子に近づいてきた



梨子「ま……真姫さん!? どうして……!?」

真姫「久しぶりね梨子さん。まさか、あなたがまたこの戦場にいるなんてね?」


真姫「色々と話したい事はあるけど手当が先ね……凛! 一人で大丈夫そう!?」



凛「うん! サクッと倒すから大丈夫にゃ!!」パシッ!


凛「さて……まずはその鎌から引き千切ろうかな」ニヤリ





~~~~~~

果南「ふー……さすがに疲れたよ~」



一人敵の大群のど真ん中に転送された果南だが
完全に無双状態だった

決して星人が弱かった訳では無い
千歌達が相手をしていた鬼
鞠莉達のオオカミ
ルビィ達の大型妖怪
梨子達のヘビ

それらの個体より若干劣ってはいたものの
ほぼ同等の力と姿をした星人が入り乱れていたのだが
本気を出した果南の相手にはならなかった


大量にいた星人も今や残るは一体だけ
般若面を付けた人型の星人だ
腰には日本刀を携えている



果南(こいつだけ他の星人とは違う……放っているオーラが別格だね)ゾクゾク


ガンツソードを構える果南だが
彼女の直感が警告している

――こいつには勝てないかもしれない



だが逃げるわけにはいかない
こいつを倒さねば仲間に合流出来ないしミッションも成功しない



――覚悟を決める





???「――おや? もうあの星人しか残っていないのですね?」


果南の背後から誰か話しかけてくる
振り向くとそこには綺麗な長い黒髪の女性…
そう、まさしく大和撫子がそこにいた

彼女の両手にはそれぞれガンツソードが握られていた



???「貴方……かなりの実力者ですね。あれだけの星人をたった一人で…穂乃果と同じ強さかもしれませんね?」クスクス

果南「えっと……あなたは私の味方って判断していいの?」

???「ええもちろん。その為に私はここに来たのですから」



海未「――私の名前は園田 海未です。僭越ながら助太刀に参りました」カチャ






~~~~~~

穂乃果「ことりちゃん、千歌ちゃんをお願い」


バイクの運転席に座っていたことりに穂乃果は指示を出す


ことり「千歌ちゃん! 穂乃果ちゃんから聞いてたけど……大きくなったね」ニコ

千歌「ことりさん!? どうして!?」

ことり「驚くよね? あの後、穂乃果ちゃんが“全員”再生してくれたの」



千歌は絶句した
昔、東京チームと合同で参加した新宿でのミッションの際
東京チームは穂乃果と梨子以外は全滅していたのだ

それから約三年
彼女は少なくとも八回は100点を取ったことになる



ことり「…よかった、スーツは壊れていないみたい」


曜「――千歌ちゃん!!」ガラ



建物の穴から吹き飛ばされた曜が戻って来た


千歌「曜ちゃん!! 無事だったんだね!」グスッ

曜「あれ!? その二人は誰なの?」


ことり「はじめまして♪ あなた達の味方だから安心してね」ニコニコ

曜「味方? あ…ここ東京だもんね。東京チームも来てたんだ……ってあの人、一人で戦ってるよ!? 加勢しなきゃ!!」ゾワッ


ことり「大丈夫、今はここで休んでいて」



多数の星人からの攻撃を余裕を持ってかわす
隙を見ては撃つ

穂乃果は未知の武器を使用していた
グリップを間に挟んだ形状の双銃身の黒い大きな銃
Xガン同様タイムラグの後
円柱状に押しつぶす

威力は絶大で
Xガンやガンツソードで倒せなかった星人も一撃、多くとも三撃で仕留める



千歌「あれって…100点の武器なの?」

ことり「そうだよ。新宿のときから持ってたけど、狙いが定まらなくて使えなかったの…そのことで穂乃果ちゃん凄く後悔していたな」

千歌「確かに…あれだけの武器があったなら……」



――ズドン!



最後の一体を倒す
ダメージは一切食らっていない



穂乃果「――この武器で一撃で倒せない敵がいるなんてね……二人はよくこの星人と戦って生き残ったね?」


千歌「いえ…完全にお手上げでした。穂乃果さんが来てくれなければ今頃――」



千歌「……あっ!? 他のみんなは!? バラバラに転送されたんです!! 早く向かわなくちゃ!!」

ことり「慌てなくても大丈夫。そっちにも増援は向かっているよ! みんな強いから問題ないはずだよ」




~~~~~~


希「――よし、ひとまずこれで大丈夫や」キュッ



神田明神に出現した星人を殲滅した三人は本殿に蹴りこまれた善子のもとへ
善子が自身である程度の止血はしていたが希がキチンと手当てする


善子「……ありがとう…助かったわ……」ハァーハァー

にこ「かなり衰弱しているわね…もう少し早く来ていればっ!」ギリッ

善子「いいんです……痛いのは慣れています…から……」



鞠莉「でもまあ、驚きました…まさかあなた方が生きているなんて……」

にこ「何? 私達のこと知ってたの?」

鞠莉「はい。あの部屋について調べていたときに知りました。その…穂乃果さん以外は三年前に……」


にこ「…穂乃果には悪い事をしたと思っているわ……先輩である私達が弱かったせいであの子に負担をかけてしまった…」

希「だから再生してもらったからには、穂乃果ちゃんを守れるくらい強くなる覚悟で今まで戦ってきたんや!」

鞠莉「ふふ……見た所何回か100点を取ったみたいですね」



にこ「―よし、一休みしたら他のメンバーの増援に向かうわよ! まだ鞠莉にも戦ってもらうからね?」


鞠莉「――ええ! もちろん!!」パシンッ



~~~~~~


ダイヤ(……体が…動かない………ルビィは…どうなりましたの?)


「頭――血が!? ―丈夫な――すか!?」アワアワ

「まず――ね……意識がハッ――して――いわ」

「しっ―り―て!! お――ちゃん!!」



ダイヤ(誰…ですの? うまく……聞き取れない)



ダイヤ「……ル…ビィ………?」

ルビィ「おねぇちゃん! 良かった……気が付いた!!」グスッ


ダイヤ「一人で……倒したん……ですか?」

ルビィ「うんうん、絵里さんが助けに来てくれたの!! おねぇちゃんの大好きなエリーチカだよ!!」

絵里「あなたがダイヤさんね? ルビィちゃんから話は聞いたわ。妹にとっても愛されている素敵なお姉さんね?」


ダイヤ「絵里……さん…? あなたが……ルビィを…?」

絵里「私は少し手伝っただけよ。ほとんどの星人はルビィちゃんが倒していたわ。
あなたを守る為に」


ダイヤ「……そう……ですか……」



ダイヤ「ルビィ……気が付かないうちに…ずいぶん強く……なりましたね………安心…しました……」


ルビィ「………」

ダイヤ「…ふぅ……お姉ちゃん……少し……眠いん…です……ちょっとだけ……休んでも………よろしい……ですか……?」

ルビィ「……うん、大丈夫だよ。少し休んでね。しばらくしたらちゃんと起こすから安心して?」


ダイヤ「…少し……目を閉じるだけ…ですから………頼み……ま…し………たよ……」




ダイヤはそう告げて目を閉じた
その寝顔はとても安心しきった
安らかな表情であった




ルビィ「………」

花陽「ルビィちゃん………」


絵里「――レーダーに反応があるわ。こっちに近づいて来る」


ルビィ「……行きましょう。おねぇちゃんが休んでいる間に終わらせます」

絵里「……ええ、そうね。花陽はそこでダイヤさんを守っていてくれる?」


花陽「…はい! 任せてください」ウルッ



ルビィは再び戦場へ向かう

もう涙は流さなかった
覚悟は……とっくに出来ていた






~~~~~~

真姫「見事に折れているわね。一応吊ってあげるから少し我慢しなさい」グイ

梨子「~~~っ!!?ズキンッ あ……ありがとうございます」


真姫「頭もケガをしているみたいだけど、意識もハッキリしているし問題は無さそうね。ただスーツは壊れているから大人しくしている事ね」


梨子「……穂乃果さんはミューズのメンバーを全員再生したんですね?」

真姫「…ええ、最初の方に再生したメンバーも途中で100点を取ったけど…結局は穂乃果が全員再生させたわね」

梨子「穂乃果さん……本当に一人で…」




凛「――真姫ちゃーん! 終わったよ!!」



話している間に凛はもう星人を片付けていた
星人は四肢を千切られており見るも無残な姿となっていた



真姫「……凛、素手で戦うのは構わないけど…もう少しその倒し方は何とかならないの?」

凛「えぇ!? だって鎌は危なかったし…そもそも仕留めるなら首から上を壊せばいいって言ったのは真姫ちゃんだよ?」

真姫「そうだけど……引き千切るってのはどうなの? 正直ドン引き…」

凛「武器で破裂させたり切り落としたりするのとどう違うのさ!?」


花丸「凄くどうでもいいずらぁ……」ヤレヤレ





凛「――…それで、これからどうするにゃ?」

真姫「そうね…私はここで梨子さんと待機してる。レーダーを見て危なそうな場所に増援に向かう。二人はまだ星人が残っている花陽達の場所に向かって」

凛「了解!」ビシッ


梨子「わ…私の事はいいです! 真姫さんも…」

凛「大ケガしてスーツも壊れた人を一人にしておくと思う? いいからここで真姫ちゃんと待っててよ」

真姫「そうね…ここで昔話でもしながら待機している」


凛「そうそう! じゃあ行くよ花丸ちゃん!!」ダッ

花丸「ちょっ!? 待ってほしいずらぁ!!」ダッ



梨子「二人とも行っちゃいましたけど…凛さんは大丈夫なんですか?」

真姫「まあ…頭はそこまで良くないけど、私よりよっぽど強いから問題ないわ……多分」

梨子「あはは…」





――
――――
――――――

ミューズの参戦により戦況は大きく変わった
星人の数も激減している
ミッションももう少しで終わると誰もが思っていた

ただ、増援があるのは千歌達だけではない
本ミッションにおける最重要ターゲットの二体が
秋葉原の街に舞い降りようとしていた――





~~~~~~


穂乃果「――さて、そろそろ二人とも体力も回復したよね?」


千歌「はい! 大丈夫です!!」

曜「同じく!」グッ


穂乃果「さっきは『任せて』って格好つけたけど、あなた達がここに来たって事は今回のミッション、東京チームだけでは足りないってガンツが判断したから。ここからは二人にも手伝ってもらうからね?」



ことり「――敵が近づいて来る! 構えて!!」




――ズシン!




空から星人が落ちてきた
ガンツに表示されていた奴と同じ顔
今回のボスである



天狗「ほほーう……この鬼どもを蹴散らすとはな。中々はやるではないか」ニヤリ



千歌「!? しゃべった!!?」

穂乃果「…中には私達の言葉を理解している星人もいる……そんな星人は例外なくかなり強いよ」



右手に長い棒を持つこの天狗は先ほど倒した鬼とは異なり
やや細身の体つきであった
身長も2m程であり見た目はそれほど強そうでは無い




―――ギョーン! ギョーン!




穂乃果は引き金を引く
今まで多くの星人を倒したこの武器だ
当たればこの天狗も間違いなく死ぬ


――天狗は後ろに下がり攻撃をかわす



天狗「…その武器はもう知っている。隙を作らねば当たらんぞ?」


ことり「そうみたいだね? なら作るまでだよ!!」ダン!



ことりは天狗に向かって一気に距離を詰める
同時にホルスターに収めていた刀を展開、斬り付ける


キン! と金属がぶつかり合う高い音がした
天狗は右手の武器でことりの攻撃を防ぐ

タイミングをずらし千歌も斬りかかるが
それも容易く捌く


曜もYガンで拘束を試みるが当たらない



天狗「“その”武器も、もう知っているぞ! 見える分避けやすい!」



――瞬間
背後にことり、正面に千歌がまわる


ことり 千歌「「―――っ!!!」」シュッ


――同時に斬りつける




天狗「―――甘い」


千歌の斬撃を武器で
ことりの斬撃は素手で受け止めた


――バキッ! ドゴッ!!



そのまま千歌を蹴り飛ばし
ことりの頭を鷲掴みにして地面に叩きつける



千歌「ことりさん!!」


しかし、ことりは抵抗する素振りは見せない
それどころか天狗の足を両手で力いっぱい掴む




―――ギョーン! ギョーン! ギョーン!




穂乃果は再び引き金を引く
近くに、ことりがいるにも関わらず――


千歌「――何やってるんですか!!!??」ゾワッ


千歌は穂乃果の行動に絶句した
あろう事か、ことりごと天狗を始末しようとしたのだ



千歌(ダメ! もう間に合わな……)


曜「―――ギリッ!!」ダンッ!



穂乃果が発砲した瞬間
曜は動きだしていた

天狗を完全に無視し
ことりを強引に引きはがす




――ズドドドン!!



――刹那、天狗は見えない円盤に三度押しつぶされる
曜は直撃を避けられたものの
ことりの左足首は巻き込まれ、削り取られた



曜「っ!? 大丈夫ですかことりさん!?」

ことり「う……うん、大丈夫…」ズキッズキッ



千歌「穂乃果さんどうして!? もう少しで二人とも巻き込まれて死んでたんですよ!?」


穂乃果「――だからどうしたの? ことりちゃんを助けてっていつ頼んだ?」キョトン

千歌「……は?」


穂乃果「ことりちゃんが隙を作ってくれたから私が攻撃した。何か間違っている?」

千歌「…本気で言っているんですか?」


穂乃果「仮に巻き込んで殺しても、私が“再生”すれば問題ないでしょ? あなた達は自分の仲間だけを助ければいい。巻き込んでもそっちメンバーは私が再生できないからね」



曜「このっ!? あんたは自分の仲間を何だと……!!?」


激情し穂乃果に向かおうとする曜をことりは引き留める



ことり「いいの! 私は気にしてないから……」

曜「気にしてない!? あいつはことりさんを“モノ”と同じ扱いをしたんだよ!? なんでそんなに平気な顔をしていられるの!!」


ことり「それは……」




――グググッ




潰されたはずの天狗が再び立ち上がる


天狗「ハアアアア……こりゃ効くな! まさか仲間ごと撃つとは…やるな、女ぁ!!」


千歌「死んでない!? なんてタフなの!?」

穂乃果「………」


天狗「いいや? 確かに死んだぞ? だが一回殺したぐらいで、わしはくたばらん!!」



穂乃果は持っていた武器を放り投げ
手首に装着したコントローラーを操作した



穂乃果「……なら二度と立ち上がらなくなるまで殺してあげるよ」ピッピッピッ


コントローラーに入力したその直後
穂乃果の体に身の丈程の高さで大木のような太さの腕と
フルフェイスのマスクが転送・装備された



曜「あれは……スーツなの?」

穂乃果「千歌ちゃん…天狗の動きを止める事だけ考えて。決定打は私が与える」


千歌「……はい」



天狗「楽しませてもらおうか!! さあ、かかって来なぁ!!!」グワッ!

今回はここまでです



千歌「―――曜ちゃん! そのままことりさんをこの場から離して!」ダッ!



穂乃果と千歌は天狗との距離を詰める
曜は千歌の指示通り、ことりを担いで離れる


先ほど転送された装備によりかなり重厚な姿になった穂乃果だが
その見た目とは裏腹に、未着用時と全く変わらないスピードだった

千歌が天狗の初撃を刀で防ぎ
穂乃果が顔を地面に叩きつける



――ドゴ!!




通常のスーツでは考えられない威力だった
腕に付いたジェット噴射装置により加速されたパンチは
天狗の頭蓋骨をアスファルトごと粉砕する



一瞬の静寂――



しかし、頭部が破壊されたまま立ち上がる天狗
飛び散った頭部の破片が元の場所に集まり再構築されていく



天狗「いいパンチだ! まさか一撃で砕けるとはなぁ!!」


穂乃果「――再生するタイプか…厄介だな!!」ドゴッ! バキッ!



穂乃果は何度も拳を天狗の体に食らわせる

天狗の全身の骨はボロボロとなり
たまらずひざまずく

穂乃果は肘に付いた鋭利な刀で首を落とす
落ちた頭に手の平を向ける

そこには発射口があり対象を削り取る光線が発射される
光線により天狗の頭部は完全に消滅した



千歌(凄いな……私、必要無いじゃん)



千歌の言う通り、圧倒的な強さで天狗を追い詰める穂乃果に対し
加勢はむしろ邪魔になるだろう
穂乃果の方も、もはや千歌は意識の外にあるようだ


しかし、天狗はなおも立ち上がる
消滅した頭部も粉々となった全身の骨も治っている



天狗「面白い装備だな? 多用な武器が内蔵されているようだが……今ので全部か?」

穂乃果「…頭を潰しても消し去ってもダメ……なら全身を消滅させる!」



天狗と穂乃果は再び衝突する――





~~~~~~

学院の校庭ではルビィ、絵里と一体の星人が睨み合っていた
鷲のような風貌をした人型この星人は今回のボスでは無いが
それに近い強さを秘めているのは嫌でも感じ取れた


絵里「――ルビィさん…この星人を二人で倒すのは厳しいわ……増援が来るまで生き残る事だけ考えなさい」

ルビィ「………」ダッ!



絵里の指示を無視しルビィは犬神に突っ込む



――ビュオオォォ!!


辿り着く前に後ろに吹き飛ばされた


星人が手を横に薙ぎ払うことで生み出した風圧だけで
人が吹き飛ばされたのだ

余波で校舎の窓ガラスも全て割れる



絵里「くっ!!? ルビィ! 無事なの!?」

ルビィ「――大丈夫です! あの手には当たらない方がいいですね……」

絵里「…もう勝手に突っ込まない事。戦うなら二人でやる方がいい」

ルビィ「……増援が来るまで逃げるんじゃないんですか?」


絵里「そうしたいけどね……星人は私達を逃がさないでしょうね」



星人は二人に襲い掛かる
ルビィはXガンで応戦するもこのレベルとなると中々当たらない

絵里のガンツソードも全て回避される



「――――っ!!」シュッ!


星人の鋭い突きがルビィに突き刺さる
スーツの防御力により体に穴が開くことは無かったが
耐久値を一気に削り、無力化された

星人はトドメの手刀を繰り出すが絵里により防がれる
ルビィを担ぎ、一旦距離をとる



ルビィ「っ!! すいません……」ギリッ!

絵里「仕方ないわ…一撃でやられなかっただけ運がいい」



星人にはまだダメージは無い
絵里一人では手に余るが……





――ズドドドン!!



突如、星人が押しつぶされた
絵里が振り向くとそこには希達が増援に到着していたのだ



希「間に合ったみたいだね…ケガは無い、えりち?」

絵里「ええ…来てくれて助かったわ……」フゥー


善子「痛っ! とんでもなく痛いわ……」

鞠莉「ここにはルビィがいたのね……他に一緒にいたメンバーはいる?」

ルビィ「………っ」

鞠莉「ん? ルビィ??」


にこ「――にしても凄まじい威力ね? 見事にぺっちゃんこじゃない」スタスタ



にこは無意識の内に倒れた星人に近づいていく
いつもならあの銃を食らったほとんどの星人は死ぬ
希は念を入れて三発撃ち込んでいたので
間違いなく倒したと思っていた


――星人の指先がピクリと動いたのを善子は見逃さなかった


善子「――っ!!? 近づいちゃダメぇぇぇ!!!!?」


にこ「……は?」



善子は叫ぶがもう遅い
星人は右腕を振り上げ鋭い衝撃波を放つ

その威力はスーツの耐久を無視し
にこの左腕と少し離れていた希の右腕を肩から切り落とす




絵里「希!? にこ!!!?」ゾワッ


死んだと思った星人はよろよろと立ち上がる
全身血まみれとなっていたが
その表情は怒りに満ちている

あまりの激痛にうずくまる にこ
星人はもう一度右腕を振り下ろす――




――バキッ!




――凛の拳が星人の右腕をはじき、軌道をずらす
花丸がにこを抱えるのを確認し二人はみんなの所まで下がる



絵里「希! しっかりしなさい!! 今止血する!!」キュッ

希「うぅ……油断したわ……まさか生きてるなんて…」ドバドバ


にこ「全く……助けに来た二人が最初にやられるなんてね……」ハァーハァー

凛「花丸ちゃんも止血お願い!!」



怒り狂った星人は絵里達のもとへ襲い掛かる――






~~~~~~

曜はことりを建物の中に避難させた
消滅した足首の止血を済ませ、急いで戻ろうとする



ことり「――ちょっと待って! 曜ちゃんは誤解してるの!!」

曜「……誤解ですか?」


ことり「…穂乃果ちゃんは仲間を大切にしない人じゃない、むしろ凄く仲間思いな子なの
……」

曜「………」


ことり「昔の穂乃果ちゃんは凄く明るくて笑顔の素敵な子で……ミッションで誰かがケガをするたびに涙を流す優しい子だった」

ことり「でも…あるミッションで穂乃果ちゃん以外のメンバーが全滅したことがあったの……」


ことり「しばらくしてから私は穂乃果ちゃんに再生された。私は泣いて喜んだよ? また大好きな穂乃果ちゃんに会えたんだもん……でも穂乃果ちゃんは表情一つ変えなかった」


ことり「その後に再生したメンバーに対しても同じ……それどころか目つきも冷たくなっていた…」



ことり「――穂乃果ちゃんの心はあの時に壊れちゃったの……大好きだった人達を一度に全員失った悲しみに耐えられなくてね…」


曜「……だったら解放を選べば…部屋での記憶は消されるんでしょ?」

ことり「私達はあの部屋に行く前から友達だった。解放を選んでもメンバーを忘れることはできない……」

ことり「それに……穂乃果ちゃんの100点メニューに一番の選択肢が何故か無くなっていたの」


曜「選択肢が無い!? 人によっては無くなる選択肢があるんですか!?」


ことり「それは分からない……無くなっていたのはまだ穂乃果ちゃんだけだから。……あなたに想像できる? 大切な人を失い、この地獄からの解放も選べない……仲間が死んでは再生を繰り返していた穂乃果ちゃんの気持ちが…」


曜「………」

ことり「全部……私達が悪いの…私達が弱いばっかりに――」



曜「――だとしても、再生されるなら仲間ごと撃っていい理由にはならないし、そもそもそんなの仲間だとは思わない」

曜「穂乃果さんが辛い思いをしていたのは分かった。こんな地獄を五年間も経験していることも知ってる……」


ことり「よ……曜ちゃん?」

曜「本当に心が壊れたのなら今日まで生き残っていないし、そもそも仲間を再生したりしない……」


曜「――仲間ごと撃つように言ったのはあなた達ミューズのメンバーですね?」

ことり「!?」


曜「確かに穂乃果さんは強い、多少の犠牲を払ったとしても確実にミッションが成功するためには戦法として間違ってはいない……あの時は感情的に怒っちゃったけど、昔の穂乃果さんの性格からして最初から抵抗無しに仲間ごと撃つなんて出来るはずが無い」



曜「……本当に壊したのはあなた達だった、違いますか?」

ことり「それは……!」



曜「――まあいいです、私達には関係ないことですから。私は千歌ちゃんの所に行きます。ことりさんは待っていて下さい」

ことり「………」

曜「……穂乃果さんがどう思っているか、しっかり話し合ってください」



曜はそう告げ、建物を後にした







~~~~~~


真姫「――穂乃果から聞いたけど、私が死んだミッションの時に100点取ったらしいわね? あの戦いに生き残ったなんて流石ね」

梨子「…いえ、運が良かっただけです。あの時、皆さんがいなかったら今ここにいません」


真姫「私達もあれから色々あったわ……ずいぶんと長い事戦い続けてる。まあ穂乃果程ではないけどね?」

梨子「…私はあの時解放を選んで本当に良かったんでしょうか? 私が残っていれば……」


真姫「さあね? そもそも解放は穂乃果に勧められたんでしょ? ならあなたが気に病むことでは無い」

梨子「………」



真姫「あなたのチームの千歌ちゃん……少し気にかけた方がいいかもね?」

梨子「どういう意味ですか?」

真姫「あの子この前、穂乃果の所に行ったでしょ? 多分その時に何らかの重大な話を聞いているはずよ?」

真姫「――恐らく、今後あなた達も関係するであろう“何か”をね」


梨子「どうしてそう思うんですか?」

真姫「それは―――!?」ピピピッ



真姫の手首に付いた端末が鳴り出した



梨子「? それは何なの?」

真姫「ああ、ミッション中でも連絡が取れるように作った腕時計型の端末よ。いつも戦闘中に壊れちゃうからあんまり使えないんだけど……」


真姫「……梨子さん、ちょっとここにいて。今から建物の屋上に行ってくる」

梨子「屋上?」


真姫「―――援護要求がきたんでね?」カチャッ





~~~~~~

果南「――いやーー、あなた凄いね! 素人でも分かるくらい綺麗な剣術だったよ!!」

海未「いえ……むしろ、あなたの動きに驚かされました! 本当に我流なのですか?」



果南と海未により刀持ちの星人は倒されていた
海未の剣術と果南の圧倒的な運動神経の前に星人は太刀打ち出来なかった



果南「えへへ……取り敢えずここら一帯の星人は殲滅したけど…どうする?」

海未「……駅の方で大きな音がしていましたね。そちらには穂乃果とことりが向かっていましたが……私は一応そちらに向かいます」

果南「なら私も行くよ! あなたとは相性が良さそうだし」

海未「はい! では行きましょう!」ダッ!






~~~~~~


穂乃果「―――…ハァー……ハァー…ハァー…」


穂乃果は未だ天狗と交戦中であった
もう確実に十数回は殺しているが、その度に再生し立ち上がる
それどころか再生するたびに体はより筋肉質になり
今では出現当初より二回り大きくなっていた



天狗「うーむ……さすがに体力切れか? そろそろ刈り取ってもいいかのぉ?」

穂乃果「刈り取るだって? 散々私に殺されてるくせに……ずいぶんと上から目線じゃない?」イラッ


千歌(あれだけ倒しても復活する……再生制限は無いんだね)



千歌もただ二人の戦闘を見ていた訳では無い
天狗の攻撃パターンや再生速度等
様々な情報を分析し、撃退の手がかりを模索していた



千歌(急所への攻撃も、頭部の完全消滅も無意味……殺傷は無理って事?)



―――ゴシャ!




二人の拳が衝突する
ただ、まだ穂乃果の威力の方が強い
天狗の腕はグシャグシャになり後方に吹き飛ぶ


天狗「ほう! まだ力負けするのか」


穂乃果「――いい加減に倒されてよ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



手の平から光線を連射する
星人はかわす素振りすら見せずに攻撃を食らう

光線は天狗の心臓や顔、腕を貫くがすぐに再生される





天狗「……さて、そろそろ頃合いかのう」



天狗は穂乃果に接近する



穂乃果「何度やったって同じだよ!!」


もう一度拳が激突する
…が、今度は穂乃果が力負けし腕がはじかれる



穂乃果「んな!?」

天狗「ほらほらぁ!! まだ終わらんぞぉぉ!!!」



チャンスとばかりに怒涛のラッシュ繰り出す

穂乃果の装備は通常のスーツより耐久性がはるかに高い
スーツでは一撃で機能が停止する攻撃もこの装備なら
余裕をもって耐えることが出来る

穂乃果も応戦するも徐々に装備の損傷が増す



――バキン!




穂乃果の顔を覆っていたマスクが壊される
その顔には多少の焦りの表情が浮かんでいた



天狗「―――トドメだ」



天狗の渾身のストレートを両腕でガードするも
耐久値の限界を超えた腕は崩壊し
穂乃果は後方の建物に突っ込んだ



千歌「穂乃果さん!!?」


天狗「……さて、次はお前なわけだが…あの女と同じ装備は無いのか?」

千歌「……生憎持ってないんでね。あるのはこれだよ」シュッ!



千歌はガンツソードを構える
天狗は少しがっかりした表情を見せた


天狗「やれやれ…せめて一瞬で倒され――!?」




突如、Yガンによるワイヤーにより拘束される


曜「よし!! このまま……」



しかしそう簡単にはいかない
力を込めた天狗は自力でワイヤーを千切り
拘束から解放される


天狗「ハァ!! 惜しかった――!?」


この一瞬を突き、千歌は天狗の右腕を切り落とす
天狗の蹴りは食らったものの
まだ無事である



曜「ごめん千歌ちゃん!! 少し遅くなった…」

千歌「大丈夫……それよりも穂乃果さんがやられた!」


曜「!? 死んだの!!?」

千歌「分からない……あの装備ごと中のスーツも壊れてた…あいつの本気パンチを食らった終わりだよ!!」


天狗「…さっきいた女か……逃げずに帰ってきたことは誉めてやろう」ニヤリ


曜「それはどうも! 絶対に逃げないから安心し……?」

千歌「――!?」



千歌と曜はある違和感に気付いた
穂乃果が強すぎるが故に見落としていた天狗の特徴
二人は目を合わせる



曜「……千歌ちゃん、あいつって再生する星人なんだよね?」ボソッ

千歌「そうだよ…曜ちゃんも気が付いた?」ボソッ


曜「だよね? なら確かめる必要がありそうだね!」

千歌「うん! 曜ちゃんは足止めお願い!!」ダッ!






~~~~~~


絵里「――さて、どうやって戦いましょうかね……?」シュッ!


鞠莉「銃なんか使わないでぶん殴って倒す!!」パシンッ

凛「あの羽……引き千切ってやるにゃ!!」


絵里「……見事に脳筋しか残ってないわね…」ヤレヤレ



先ほどの攻撃で腕ごと希の持っていた銃は壊されてしまった
三人の両足のホルスターにはガンツソードとXガンが入っており
絵里はガンツソードによる戦闘が得意だが
残りの二人はスーツによる格闘を得意とする


絵里「いい? あいつはかなり動きが早いわ。私の攻撃がかすりもしなかった……手刀による攻撃には気を付け――」



絵里が話し終わる前に二人は飛び出した
腕による攻撃に注意し
足や胴に少しずつダメージを与えていく

遅れて絵里も参戦
星人にとって打撃よりも刀の攻撃の方が致命傷となる
絵里の攻撃が二人の格闘攻撃をより生かす


――星人の裏拳が凛の顔面を捕らえた


凛「――っ!!!?」


大きく吹き飛ばされる凛



鞠莉「―――っ!!」バギッ!


鞠莉は凛を吹き飛ばした方の腕をへし折る

星人は一旦距離をとった




絵里「凛! 無事なの!?」

凛「ぐうぅぅ……大…丈夫……スーツは壊れちゃった…」



これで残るは二人
徐々に追い込まれていく……

――星人は翼を広げ鞠莉と絵里の頭上を越えていく




絵里「え!? なんで!?」ゾワッ

鞠莉「花丸! 善子! 気を付けて!!!」



星人は後ろにいる負傷者を先に仕留める事にした
そもそもこの星人にとって絵里達はどうでもよかった
ターゲットはただ一人
自分に大ダメージを与えた希だけだった



花丸「き…きたずら!!?」

ルビィ「花丸ちゃん! 武器を構えて!!」

希「あいつの狙いは多分うちや!! ケガ人連れて早く逃げて!!!」




「――大丈夫です。任せてください」




背後から声が聞こえてくる
振り返るとそこには――


ルビィ「――花陽さん!?」



花陽は腰のホルスターに手を置いている
まるで居合斬りのような構えで星人を待つ

星人との距離が2mを切ったとき――
星人は花陽から放たれる殺気に気付く



花陽「―――っ!!!!」シュッ!!!



目にも止まらぬスピードで繰り出された花陽の抜刀は
星人の両足を切り落とす
あと一瞬、感じ取るのが遅れていたら胴体が真っ二つにされていただろう

Xガンで追撃するも射程よりもはるか高い所まで飛んでしまった
どうやら上空で回復を待つらしい


鞠莉「あんな高さまで!? どうすんのよ!?」

花陽「………」

絵里「とにかく構えておきなさい! 次こそ仕留めるわ!!」スチャ




花陽「――もう大丈夫です。もう倒しましたよ」

鞠莉「……へ?」キョトン


花陽「10秒…経ちましたから」ニコ



上空で星人の頭部が破裂する音が校庭に響いた――





~~~~~~


真姫「――ふぅ、何とか当たったわね」



真姫はビルの屋上に立っていた
構えていた武器はXショットガンである

以前、善子が遠距離からの狙撃に使用したこの銃は
遮蔽物が無い限り着弾までに時間はかかるが数キロ先まで狙撃が可能である
真姫が立っているこの場所は校庭の上空を飛ぶ星人をギリギリ狙える
ただ一つの場所であった


花陽から連絡を受けた真姫はすぐさま狙撃ポイントに急ぎ
ひたすらその時を待っていたのだ

そして星人の姿がスコープに映った瞬間に狙撃
見事頭を撃ちぬいたのだ



真姫「多分誰かの手柄を横取りした形になったかもしれないけど……ま、いいか」



一仕事終えた真姫は梨子のもとへ戻る――






~~~~~~


絵里「――なるほど、真姫に連絡して狙撃してもらったわけか」フゥー

鞠莉「狙撃!? どっから狙ったっていうの!?」キョロキョロ

花陽「真姫ちゃんは凄いからね! 止まってる“的”なら数キロ先からでも狙い撃ち出来るんだ!」エッヘン


凛「何でかよちんが自慢してるのー?」アハハ

ルビィ「……おねぇちゃんはどうしたんですか? そばにいるって言ってたじゃないですか!」

花陽「ルビィちゃん……あのね――」




再び校庭に星人の群れが出現した
数はどんどん増えていく


絵里「……話は後ね。もうひと踏ん張りよ!!」




~~~~~~

穂乃果(体が……動かない…)


天狗によって吹き飛ばされた穂乃果は全身打撲と両腕の粉砕骨折という重症を負っていた
このミッションで再び戦うのはもう不可能であった


穂乃果(倒されれば倒された分だけ強くなるタイプだったか……多分倒そうとして戦うと一生勝てない)

穂乃果(私達のチームに“あの銃”を持っている人はいない…頼んだよ……千歌ちゃん――)






千歌「―――はああ!!!」ズバッ!



千歌はもう片方の腕を切り落とそうと刀を振る
しかし天狗は刀の軌道に自らの急所をねじ込んだ

当然、天狗は死ぬが―――



天狗「いかんいかん……つい足を滑らした。死なないと分かっていると動きが雑になる」


すぐさま再生
千歌の与えたダメージは全て治る

だが、今の再生で二人の違和感は確信に変わった



曜「―――千歌ちゃん!!」

千歌「うん! もう大丈夫……次で終わらせるよ!」


天狗「ほほーう…終わらせるか? 言っておくが、今のわしの攻撃を一発でも食らえば即死だが……分かっているのか?」ニヤリ


千歌「…そうだね。また再生させちゃったからより強力になったもんね……でも、当たらなければ問題無いよね?」フフ




天狗は二人との距離を一瞬で詰める
パワーだけでなく当然スピードも強化されている

――が、このスピードは想定内
二人は初撃をかわす


曜は後ろに下がりつつYガンを連射
今の天狗にはすぐさま壊される事は分かっていたが
少しでも動きが止められれば良かった

一発だけ命中
ワイヤーが天狗の体に巻き付く





曜「――そんな!?」ゾワッ



天狗は腕に少し力を込めただけでワイヤーを破壊した
もはや一瞬の足止めにすら役に立たない




天狗「――まずは一人」グワッ!


天狗に斬りかかろうとした千歌の刀を弾き
拳を千歌の腹に叩きこむ――


千歌はそのまま後方に吹き飛んだ



千歌「―――まだだ!!」ビュン!



後ろに飛ばされながらも持っていた刀を天狗の太もも目がけ投げつける



――グサッ!




見事命中、左の太ももを貫通した


天狗「はっ! ギリギリで後ろに飛んで威力を殺したかぁ!! だが、手応えはあったぞ!!!」



天狗の手応えは正しかった
即死は回避したものの、スーツの防御力を大きく上回る攻撃は
千歌の内臓に深刻なダメージを与えていた



千歌「ぐふっ! まだスーツは壊れて無い…まだ戦え――」ボタボタ



――グサ!



――天狗の右足の甲にガンツソードが投げつけられ
深々と突き刺さり地面と固定する
完全に不意攻撃にさすがの天狗も一瞬硬直した

千歌の背後から二人が猛スピードで駆け抜けた





果南・海未「「――――っシュ!!!」」



二人は天狗とすれ違いざまに両腕を切断
勢いそのまま、地面に体を引きずった


果南「――今だ! 撃って曜!!!!」


曜は二人が両腕を切断すると同時に発射していた
もうワイヤーを壊す腕は無い


天狗「!? この女どもがぁぁぁ!!!!」



千歌(穂乃果さんが……すぐにトドメを刺しちゃうから気が付かなかったけど…あいつの再生には特徴があった)ハァーハァー

穂乃果(恐らく…あいつに再生回数に限界は無い。何度だって生き返るだろう……倒すにはYガンによる転送しか方法は残っていなかった)



曜「――あんたが再生出来るのは“死んだ時”だけ。だから邪魔な腕は先に落とさせてもらったよ?」ニヤリ


曜は今度こそYガンの上トリガーを引く
断末魔と共に天狗の転送が始まった



海未「どうやら…役に立てたようですね?」

果南「着いたと途端、凄い形相で腕を斬ってって言われた時は何事かと思ったよ」フー


海未「――っ! 果南! もう一人の仲間の様子が!!?」





曜「――千歌ちゃん! もう倒したよ!! しっかりして!!」

千歌「……ハァー…ゴホッ! よ…曜ちゃん……やった……ね…」ニコ


曜「どうして転送が始まらないの!? 早くしないと千歌ちゃんが!!」ポロポロ

果南「千歌!? そんな……!?」ゾワッ


海未「……すいません、私は穂乃果とことりは……どうなったのですか…?」

千歌「大丈夫です……二人とも無事です……うぅ…」

曜「もうしゃべらないで! ガンツ!! 早く始めてよ!!!」





――ジジジジジ



果南「よし! 始まった!」

曜「!? 千歌ちゃん! 私達は先に帰るね! 待ってるから絶対に帰ってきてね!!!」ポロポロ


千歌「………う……ん」ニコ



手を握っていた曜が転送され
支えを失った千歌の手は力なく地面に落下した――






――
――――
――――――


~ガンツの部屋~


絵里「――今回はかなりの強敵だったわね…まさかZガンで倒せない敵がいるなんてね?」

希「まったくや……武器の過信は命とりやね」

にこ「ハァー…もうあの痛みは味わいたく無いわ…」



花陽「真姫ちゃん! 助けてくれてありがとう!」ニコ

凛「真姫ちゃんお手柄にゃ~」スリスリ

真姫「ウエェェ!? ま……私にかかれば何て事ないわ!」プイ



海未「二人共無事でしたか! 駆け付けた時にいなかったので心配しました…」

穂乃果「そっか……あの二人が倒してくれたんだね」

ことり「………」



曜『――だとしても、再生されるなら仲間ごと撃っていい理由にはならないし、そもそもそんなの仲間だとは思わない』

曜『……穂乃果さんがどう思っているか、しっかり話し合ってください』




ことり「――ねえ、穂乃果ちゃん…」

穂乃果「ん? どうしたの?」



ことり「――私と組んだ時に強い星人と戦う事になったら私ごと撃ってもいいよって提案したよね? あの提案…聞いた時に穂乃果ちゃんはどう思った?」

穂乃果「………」

海未「ことり!? あなたはそんな提案を出していたのですか!?」


穂乃果「――…別に、いい案だと思ったよ? じゃなかったらあの時撃ってないよ」

絵里「ちょっ…撃ったの!? ことりごと!?」

穂乃果「うん。だってことりちゃんが命懸けで作ったチャンスだったんだよ? あそこでためらったら…ただの犬死になってた」

穂乃果「それにもし…もしことりちゃんが私のせいで死んでも私が再生すれば問題ないよね。今までだってそうしてきたわけだし」


希「穂乃果ちゃん……」ゾッ

凛「確かにそうだけど……それって…」

真姫「………」



穂乃果「星人を倒さなきゃミッションは成功しない。その為にはどんな手段を用いても倒すしかないんだよ! ……だからことりちゃんの提案を採用した、それだけだよ」


ことり「……わかった、ならもう一つ聞くね?」



ことり「――穂乃果ちゃんが私に向けて撃った時、どう思った?」


穂乃果「は?」


ことり「私ね…穂乃果ちゃんに再生してもらった時、凄く嬉しかったの。穂乃果ちゃんの為なら、穂乃果ちゃんの役に立つなら自分の命を捧げてもいいと思ってた。だからあんな提案をしたの」

ことり「穂乃果ちゃんの心を壊したのは……私だったんだよ」


穂乃果「な…何を言ってるの? さっき言ったよね? ミッションの為ならどんな手段も……」

ことり「今はミッションとか義務感とか全部考えないで答えてほしい……穂乃果ちゃんの“こころ”を教えて欲しいの」




今まで見た事のない真剣な眼差しで見つめることり


穂乃果「それは……だから…――」


にこ「正直に答えなさい。隠さないで……全部しゃべっちゃいなさい」

真姫「そうよ。穂乃果は自分の気持ちを抑えすぎなの…このままだと本当に壊れて廃人になっちゃうわ!」


穂乃果「…いや……だからね……」


凛「教えてほしいにゃ! 穂乃果ちゃんの本当の気持ちを!!」

花陽「お願い穂乃果ちゃん!!」




穂乃果「………だから……」


希「…私達は仲間でしょ?」

海未「聞かせて下さい……あなたの心を」









穂乃果「―――――――――…いじゃん」







穂乃果「―――撃ちたいなんて思うわけないじゃん!!!」

穂乃果「だってことりちゃんは穂乃果の大切な親友だよ!? 生き返るからって自分の手で殺せるはずが無い!! 他のみんなだってそう! 撃てるはずが無いんだよでも仕方ないじゃん!!! 誰かがやらなきゃいけないんだもん!!倒さなきゃ終わらないんだもん!!! ほかに手が無いならやるしかないんだよ!!! だって穂乃果が……穂乃果がこのメンバーで一番強いんだから!! だから!!! ……だからぁ………」グスッ






穂乃果「――――――――――…穂乃果もう……戦いたくないよぉ……」ポロポロ



ことり「………」

海未「穂乃果……」


絵里「私達は…穂乃果に頼り過ぎていたのかも……ね?」

希「そうやね…何度も100点を取っているから慣れてると思い込んでた」

花陽「穂乃果ちゃんには……お休みが必要だと思う」



凛「あ! 穂乃果ちゃんの採点が始まっているよ!!」




ガンツ『ほのか 75点 TOTAL155点』


100点メニュー
1.記憶を消されて解放される
2.より強力な武器を与えられる
3.メモリーの中から人間を再生する



穂乃果「え? どうして……」


海未「今まで消えていた一番が復活してます! 穂乃果…分かっていますね?」

ことり「一番だよ……穂乃果ちゃんはもう戦わなくていいんだよ…」


にこ「あんたがいなくてもこのメンバーなら大丈夫よ。…長い事地獄に拘束して悪かったわね……」

絵里「私達も今回のミッションで100点を取っているハズだから、穂乃果も一緒に解放されましょ?」


穂乃果「………ふふ、みんな…ありがとう」






穂乃果「―――二番、今すぐに用意しておいてね?」

ことり「穂乃果ちゃん!? どうして二番なの!!?」


穂乃果「……私は戦わなくちゃいけないの…」

真姫「説明してくれるわよね?」


穂乃果「この話をしたら……みんなも一番を選べなくなるかもしれない」

穂乃果「―――その覚悟があるの?」




――静寂が続く
穂乃果は全員がその覚悟があると理解した


穂乃果「わかった……これから話すのは近い将来起こる『カタストロフィ』についてだよ」

今回はここまで
そろそろ一区切りかな……

東京チームは穂乃果、沼津チームは果南が接近戦最強と設定しました
素手の格闘なら凛・鞠莉、射撃なら真姫です

最終章 エピローグ



~GANTZの部屋~


鞠莉「――ふぅー…今回も生き残れたわね♪」

善子「最後の怒涛の星人ラッシュは冷や汗ものだったわ……ケガした手が片方だけで良かった」

花丸「でも! あの数ならもしかしたら100点まで行ったかも!?」



梨子「――花丸さん…無事だったのね」

花丸「あ……梨子さん…戻って来たずらか」


梨子「教えて欲しい! どうしてあの時私を助けたの?」

花丸「……別に…ただの気まぐれだy―――」


善子「ああ、私が頼んだのよ。梨子さんがピンチの時は助けてあげてってね?」

梨子「ど……どうして!?」

善子「前にも言ったでしょ? この部屋に来た人は全員仲間だって。花丸に仲間を見殺しにするような事をして欲しくなかったから言っておいたの」

花丸「……納得は出来なかったけど、確かに生き残るには梨子さんの力は必要だった。マルやルビィちゃんが解放されるまでは責任もって守ってもらうから覚悟するずら!!」プイッ

梨子「花丸さん……」





――ジジジジジ




鞠莉「あら? 果南と曜も帰ってk――」


果南「鞠莉!! 千歌は!!? まだ転送されて無いの!!!?」グワッ

曜「千歌ちゃん!?」ゾワッ


善子「まさか千歌さん……そういえばダイヤさんもいないじゃん!?」

ルビィ「………っ!!」ギリッ


花丸「る……ルビィちゃん?」

ルビィ「お……おねぇちゃんは…少し休んでるだけです…! る、ルビィが絶対に起こしに行くから……だから…!!」ジワッ

鞠莉「う……ウソでしょ…? ダイヤが……」


曜「お願い……お願いだから………帰ってきてよ!!」ポロポロ








――ジジジジジ





「あれ? みんなどうしたの!?」アセアセ

「どうやら……わたくし達が最後だったようですね?」




ルビィ「―――お…おねぇ……!! うわあああああ!!!」ダキッ

ダイヤ「心配かけましたね…よく頑張りました……」ナデナデ

鞠莉「ダイヤったら全く……心配させてもう!!」



曜「千歌ちゃん……良かったぁ…」ペタン

千歌「あはは……凄く心配させちゃったみたいだね?」

曜「本当だよ!! もうダメかと思ったんだからね!?」

果南「まあまあ、みんな無事だったんだからそれでいいじゃない?」




全員の転送が完了し採点が始まった



善子「――私からね?」


GANTZ『堕天使(笑) 95点 TOTAL100点』



善子「そっか……また取れたのね」


ルビィ「おめでとう善子ちゃん!!」

花丸「これで卒業出来るずら!」


善子「ルビィ…ズラ丸……」ジワッ



画面が切り替わる

    100点メニュー
1.記憶を消されて解放される
2.より強力な武器を与えられる
3.メモリーの中から人間を再生する



善子「―――…一番、私を解放しなさい!」



――ジジジジジ



善子の体が足元から転送され始めた



善子「……皆さん! 今まで本当にありがとうございました!! みんなの事は忘れてしまうけど……きっとまた友達になってください!!」ペコ

花丸「当たり前ずら! ……あの時約束したもんね?」ニコ

ルビィ「また教室でね!」


善子「……ええ! 二人とも頼んだわよ!」ウルッ


善子「千歌さん! 最初あなたと二人になった時は正直もうダメだと思っていたわ! でも違った…ここまで来れたのは千歌さんのおかげよ!! ……本当にありがとうございました!!」ポロポロ

千歌「善子ちゃん……こちらこそありがとう! お疲れさま!!」




善子の体の転送は完了した
続いては花丸の採点



GANTZ『ズラ丸 100点 TOTAL101点』




花丸「――…一番をお願いするずら」



転送が始まる



花丸「弱かったマルがここまで来れたのはみんなのおかげです! また仲良くしてくれると嬉しいずら」ニコ

ルビィ「また明日ね! 花丸ちゃん!!」

花丸「うん! ……梨子さん、もしルビィちゃんも今回解放されるなら……もうお役御免ずら。あなたもこんな部屋から解放された方がいいよ」

梨子「……でもそれは…」


花丸「私がいいって言ってるんだからいいの! 次に会う時は……仲のいい友達になりたいずらね?」ジジジジジ

梨子「っ! ……ええ、よろしくね!」ニコ




GANTZ『ピギィ 85点 TOTAL101点』




ルビィ「やった! おねぇちゃんやったよ!! ルビィが100点を超えたんだよ!」

ダイヤ「ふふ……本当に強くなりましたね? お姉ちゃんもすぐに行きますから家で待っていてください」ニコ

ルビィ「うん! みなさんもまた明日、学校で会いましょう!」ジジジジジ






鞠莉「一年生メンバーが全員解放されたわね? あの子達が100点なら私達も大丈夫でしょうね」

ダイヤ「どうでしょうか…私はギリギリの可能性が――」



GANTZ『硬度10  87点 TOTAL100点』



ダイヤ「ふぅー…最後に倒せた星人が高得点で助かりました。姉が100点を取れなかった、なんてカッコ悪すぎですもの」

千歌「お疲れ様です、ダイヤさん…」

ダイヤ「ええ…千歌さんには大変お世話になりました。私達を導いていただき感謝していますわ!」ジジジジジ





GANTZ『小原家 90点 TOTAL119点』



鞠莉「…ま、私は果南に会うためにこの部屋にきたわけだから……目的が達成出来て満足よ♪」

果南「全く…相変わらず鞠莉は無茶するよね」ジトッ

鞠莉「……この部屋のメンバーで過ごした日々はとても楽しかった…今度はこのメンバーで別の活動をしてみたいものね! μ’sみたいなシャイニーなスクールアイドルとかね♪」ジジジジジ




GANTZ『かなん 100点 TOTAL125点』




果南「……あれだけ倒したんだから当然かな? 私もここを卒業かー」

果南「最初に千歌が来たときは本当に驚いた……あの時死んじゃってごめんね。千歌に辛い思いさせちゃってさ…」


千歌「大丈夫だよ! ……果南のあのノートが無かったら生き残れなかった…ありがとうね!!」

果南「そっか…役に立てて良かった!……それじゃ、またね」ジジジジジ






残るは二年生だけとなった
採点は続く




GANTZ『なしこちゃん 85点 TOTAL120点』




千歌「おめでとう梨子ちゃん…今度こそ自由になれるといいね」

梨子「……そうね…」


曜「―――あー…その前に梨子ちゃん、ちょっといいかな?」

梨子「ん? 曜ちゃん?」





曜「―――歯、食いしばれぇぇ!!!!」バキッ!


梨子「――っ!!!?」ドサッ



曜の渾身のストレートパンチが梨子の頬に直撃
スーツを着ているはずの梨子の顔には激痛が走り
鼻血も出ている



千歌「ちょっ!!? 曜ちゃん何やってるの!?」

曜「あぁ~~~~っ!! スッキリしたぁ!!」

梨子「ハァー…ハァー……ハァー…?」ドクドク



曜「千歌ちゃんは気にして無いみたいだから今まで黙っていたけど、せっかくこの部屋から解放されたのにまた連れ戻したあなたを本当は許せなかった…殺してやろうとも思ったよ? 仲良くしないと千歌ちゃんが悲しむから表には出さなかったけどね…」

梨子「……っ!」

曜「でもね……梨子ちゃんが千歌ちゃんを連れ戻してくれなかったら…私はここにいないのも事実。だから今のでチャラにする。いきなり殴ってごめんね?」


梨子「……本当に私は多くのメンバーに嫌われていたのね…覚悟はしてたけどやっぱりショックね…」シュン

曜「花丸ちゃんも言ってたじゃん! 今度は仲のいい友達になろうって! 今ので私も許したんだしもう嫌いじゃないよ?」


梨子「ふふ……ありがとう…曜ちゃんのパンチ、この部屋に来てから一番痛かったわ」ジジジジジ





千歌「曜ちゃん……理由は分かったけど、やり過ぎじゃない? 絶対に奥歯も折れてたよ?」ジトッ

曜「……いや、スーツ着てるから大丈夫だと思って…意外と効いちゃったみたい」アハハ



千歌「――あれだけいたメンバーも二人だけになっちゃったね?」

曜「そうだね……次は私みたい…」




GANTZ『ヨーソロー 91点 TOTAL109点』




曜「そういえば…千歌ちゃんにまだ謝ってないことがあったね?」

千歌「ほぇ? 何かあったっけ??」キョトン



曜「―――…あの日、一緒に登校する約束破っちゃってごめんね?」



千歌「……ぷっ…あはははは!! 何かと思えばそんな事か!」ケラケラ

曜「むっ! そんな事とはひどくない!? 私があの時どんな覚悟で―――」



千歌は曜を抱きしめた
突然のことで曜は驚くがすぐに優しく千歌の体に腕を回す



千歌「――曜ちゃんにまた会えて本当に良かった…もういなくならないでね?」グスッ

曜「……うん、もう千歌ちゃんを悲しませるような事はしないよ…じゃあ、先に待ってるね?」ジジジジジ





――こうして部屋には千歌だけが残った
九人もいたこの部屋も今はガンツと千歌しかいない
これがどういう意味なのか千歌にはもう分かっていた



千歌「……良かった、私の順番が最後で……まあ、今回私はそもそも選べないもんね? そうでしょ? ガンツ」




そして、千歌の採点が始まる





GANTZ『ちかっち 65点 TOTAL78点』




すいません、最後まで上げていたつもりでいました…
あと少しだけ続きます






――
――――
――――――

~四か月後 浦の星女学院~


曜(季節はもう冬、内浦も今のも雪が降りそうなくらい寒い日が続いているよ)

曜(理由は分からないけど、わたくし渡辺曜は高校入学前から今年の夏休み前までの記憶がすっぽり無くなってしまっているのであります…)

曜(なんでも、私は春先に行方不明になっていたり静岡駅や秋葉原で大事件が発生していたりと、とんでもない事が起きていたらしい)

曜(そして、私にはいつの間にか学年をまたいで多くの友達が出来ていたのだ! どうやって友達になったのかはみんな分からないんだけど…細かい事はどうでもいいよね!)

曜(今は授業も終わって放課後になったんだけど……)



善子「――曜さん! リリー! 迎えにきたわよ!!」ガラガラ

梨子「よっちゃん! 廊下を走ってきたわね? ケガしたらどうするの…」ヤレヤレ


花丸「……梨子さんの言う通り…ずら……追いかけるマル達の事も考えて欲しいずらぁ…」ゼェーゼェー

ルビィ「い……息が出来ない……」フューフュー

曜「あはは……みんな走ってきたんだね…」


善子「だってこれからみんなで今日からオープンするカフェに行くのよ!? 楽しみ過ぎて走るなってのが無理なのよ!」ウキウキ

梨子「はいはい、今から準備するから少し待っててね?」

善子「はーやーくー! リリィー!!」


曜「あれ? 果南ちゃん達はどうしたの?」

ルビィ「おねぇちゃんと果南さんは鞠莉さんのお手伝いをしています。少し時間がかかるらしいので先に行っててと言ってました」

梨子「そっか、なら行こうか!」



花丸「――今日も高海さん来ていないんですね?」

曜「……うん」




曜の後ろの千歌の席は夏休み明けからずっと空いていた
夏休み中、一度も連絡が取れなかった千歌は曜達の知らない間に休学届を提出

それ以来、誰一人連絡が取れない状況が続いていた
千歌の家族に尋ねてもダメだった


善子「…曜さんと果南さんの幼馴染なんですよね? どうして突然いなくなったんだろう……」

曜「それが分かればね……何も覚えて無いから困ってるんだよね」

梨子「……早く連絡が欲しいわね…」


曜「――千歌ちゃん……」ボソッ




~夜 曜の自室~

曜はベッドに寝転んでいた
みんなと遊びに行ったのは楽しかったが……
やはり千歌の事が気になってしまった


曜「千歌ちゃん…どうしていなくなったの? ひどいよ……」グスッ



曜にとって千歌は家族同然だった
そんな千歌が行方不明となったのだ、ショックは大きい



――ゴトッ



曜「――ん? 何の音?」



机の方から何かが落ちた音がした
目を向けると、そこには見覚えのない物が置いてあったのだ

それは過去に梨子の家に送り付けられたものと同じ物なのだが
当然、曜はこれが一体何なのか知る由も無かった――





曜「――――この黒い球は……なに?」







――
――――
――――――

~某日とあるマンションの一室~



――ジジジジジ



「――お! 新しいメンバーだね? ああ、取り敢えず落ち着いてよ!」


「――うん、ここは天国でも地獄でも……いや、どちらかと言えば地獄なのか…とにかく、まだあなたは死んでは無いよ」


「――うーん…ちょっと違うかな? 正確にはまだ生き返ったわけでは無いよ。その一歩手前って感じだね」


「信じられないと思うけど、これから私達は宇宙人と戦うの。――あはは…変な事言ってるように聞こえるでしょ? 私も最初はそう思っていたよ」


「しばらくしたら、あそこにある黒い球が開くから自分の名前が書いてあるケースを見つけて? 私が着ているスーツが入っているからこれだけは必ず着て! あなたの命を守ってくれるからさ」


「今回は初めてだから見ているだけでいいよ! まずはこの部屋のルールを覚えてもらわないとね!」ニコ


「――なんでもう着てるのか? それは私がもう何回もこの部屋で戦い続けているからだよ! 自分で言うのもなんだけど、結構強いんだよ!」エッヘン


「――何者って言われても……ただの女子高生だよ? ――もう! 大丈夫だってば!! ……え? 別に怪しんでいるわけじゃないの?? ならいいや」エヘヘ


「あ! まだ名前を聞いていなかったね? あなたの名前は? ――分かった、――ちゃんだね! これからよろしく!!」




「私の名前はね――――――」








千歌「……GANTZ?」 完

ここまで読んで頂きありがとうございます!
原作のキャラの登場やストーリーをなぞる展開等を極力避けて
書いてみたのですが、GANTZの雰囲気は出ていましたでしょうか?
ぜひ、感想や指摘などお願いします


千歌を主人公としたこの作品はここで終わりですが
まだ回収していないものがありましたね…

お久しぶりです
実はこの作品を書くにあたって色々なエンディング案がありました
その中の一つを曜を主人公に変更し、この物語の続編という形で書いてみようと思います

明日から切りのいいところまで書き上げてあげていきます




~10月下旬 夜~


『――もしもし? こんな時間にどうしたの? ――そう…あなたのところにも送り付けられたのね』


『そもそもおかしな話よね…解放されたっていうのに私達だけ全く記憶が消されていないんですもの。完全に自由にさせる気はさらさら無いって事か』


『――ええ、あの子達の記憶は消えている。つい最近梨子と花丸が一緒に出掛けているのを見かけたわ。どうやって知り合ったのかは分からないけど、あの二人が仲良くしているって事はそういう事でしょ?』クスクス


『――そっか、あの部屋に戻るのね…なら私も戻るわ♪ ――そんなに怒らないでよ。親友がもう一度あの地獄に戻ろうとしているのを放っておけると思う? 一人より二人、二人より三人の方がいいに決まっているでしょ』


『――え、知らなかったの? ダイヤにも届いてるのよ。すでに決心はついてるみたい。まあ、今回は何故か梨子の時と違って他人を巻き込まないであの部屋に行けるのだから良心的よね…』


『――それは私にも分からない。ただあの子に何かがあったことは間違いないと思う……それじゃあ、休学届を出したっきり音信不通のちかっちをお迎えに行きましょうか♪』








~12月初旬 昼休み 中庭~


梨子「――あれ? 曜ちゃんその黒い球は何?」

曜「なんか…昨日の夜いつの間にか机の上に置いてあったんだよね。みんな分かる?」

善子「キレイな球ね…魔術の儀式とかに使えそうね!」

花丸「文鎮…にしては丸すぎるね。使い道が全く分からないずら」ムムム



曜はいつの間にか机に置いてあった黒い球をみんなに見せた
梨子、花丸、善子は見当もつかないようだったが…



ルビィ「あ…それ見た事あります」

曜「そうなの!? どこで見た?」


ルビィ「ええっと……確かおねぇちゃんの部屋で見ました! 誰かと電話をしながら手の上でコロコロしてて…電話の相手とその球の話をしている雰囲気でした!」

曜「なるほど…ならダイヤさんに聞いてみればいいって事か!」


梨子「そう言えば三年生達はどうしたの? 最近お昼を一緒に食べられてないけど…」


ルビィ「鞠莉さんは理事長のお仕事で忙しいみたいで…おねぇちゃんと果南さんは新生徒会長と書類の作成お手伝いをしています」

善子「あの生徒会長、ダイヤさんが選んだのよね? 確かにリーダーシップはあるけど…ちょっとポンコツな所が多いわよね」ヤレヤレ

曜「まあ……隣のクラスあの子だからね…大目に見てよ」アハハ…





花丸「ねえねえ、今日のニュースはみんな見た? あの三津シーパラダイスであった事件」

梨子「ああ見たよー。昨日の夜に水族館にいた生き物が何匹か殺されちゃったんだよね……イルカも全滅したみたいだし…酷いことする人がこの内浦にいるなんてね」

善子「建物も結構壊されたから営業再開まで時間かかりそうね。下手したらこのまま潰れるんじゃない?」

ルビィ「それは大丈夫みたいだよ。鞠莉さんの家が全面的に援助するから直ぐに再開するって言ってたよ!」

曜「流石だね……いくらかかったんだろう?」ムムム



梨子「そろそろ昼休みも終わる時間ね。放課後はどうする?」

花丸「マルは昨日本を買っちゃったからお小遣いが尽きちゃって…今月は厳しいずらぁ」ズーン

ルビィ「同じく……」

善子「私も今日はまっすぐ帰るわ」

梨子「そっか、仕方ないね」




――キーンコーンカーンコーン




曜「おっと予冷だ。早く戻ろっか!」



その日は三年生と一度も会うことなく放課後になり
各々真っすぐ帰宅した


――――――
――――
――



~夜 曜自室~


夕食を済ませ、自室に戻った曜
すると、スマホが鳴り出した
画面を確認すると相手はルビィであった



曜「――もしもし? どうしたの?」

ルビィ『あ、曜さん夜遅くにごめんなさい…あの、曜さんの家におねぇちゃんいませんか?』

曜『ダイヤさん? 来て無いけど…何かあったの?』

ルビィ『そうですか…晩御飯を食べた後に突然いなくなっちゃって……鞠莉さんや果南さんにも連絡したんですけど、二人とも電話に出てくれないんです』

曜「その二人も連絡が取れないって…ちょっと心配だね」

ルビィ『はい…もう何回か電話してみます。曜さんも何か分かったら連絡お願いいします』

曜「分かったよ。私も近くを探して――」

ルビィ『い…いえ大丈夫ですアセアセ こんな夜遅くに外に出ちゃ危ないですよ! 曜さんの家に来たら教えてください。外に出ちゃダメですよ?』

曜「そ……そっか、出ないから安心して? それじゃまたね」

ルビィ『はい、また明日です――』プツン




それっきりルビィから連絡がくることは無かった
ダイヤの安否が気になった曜はその晩一睡も出来ず朝を迎えた

翌朝、学校に行く準備をしているとダイヤからメールが届いた
内容は「心配をかけて申し訳ないです」という簡単なものであった


曜「――それだけ? こっちは眠れないほど心配してたのに…会ったら一言言わないとね……」ゴゴゴ



曜はダイヤに今日の昼休みに屋上に来るよう返信し
学校へ向かった




――――――
――――
――


昼休み屋上には約束通りにダイヤは来ていた
ただそこには何故か鞠莉と果南の姿もあった
連絡の取れなかったメンバーが全員いたので曜にとっても好都合だった


ダイヤ「――何の用ですの?」

曜「…昨日の夜遅くはどこに行っていたんですか?」

ダイヤ「……鞠莉さんの自宅に行っていたんです。ルビィに連絡したつもりが忘れていたようで皆さんにはご心配おかけしたと思っていますわ」

曜「その鞠莉さんとも連絡が取れなかったのは?」


鞠莉「それは近くにスマホが無かったのよ。ごめんなさいね?」

曜「………」



曜は三人から得体の知れない圧力を感じた
言葉にはしていないが、それぞれの表情や口調から
まるで「これ以上何も聞くな」と言っているようだった



曜「んー…何か納得いかないんだけど…まあいいや。ダイヤさんに他に聞きたい事があるんです」

ダイヤ「ああ、そう言えばルビィもそんな事を言っていましたね。何ですか?」



曜「――この黒い球って何だか分かります? ダイヤさんも同じようなモノを持っているんですよね?」



ポケットから例の黒い球を取り出し、三人に見せる
――その瞬間、三人の顔が青ざめた



果南「そ…それ!? どうして持ってるの!?」グワッ

曜「え!? いや…一昨日部屋も机の上にいつの間にかあったんだけど、果南ちゃんも持ってるの?」



先ほどまでの雰囲気とは一変
三人とも激しく動揺したのだ
果南の取り乱し方は正直異常だった



鞠莉「果南、落ち着いて……曜、この黒い球に何かおかしな事って起きなかった?」


曜「おかしな事? 特に何も無いよ。…なんか三人とも持ってるみたいだけど、何なの?」


ダイヤ「……それは――」




――ギャアアアアアァ!!!!



――突如、校内に悲鳴が響く
誰かとふざけている時のものでは無い
身の危険を感じた時に発せられるタイプの悲鳴であった



果南「!? 今のは何!!?」ゾワッ

ダイヤ「中庭の方で聞こえましたが…――っ!? あれは昨日の星人ではありませんか!」

果南「どうして…昨日のミッションでは全滅させたじゃん!」

鞠莉「そんな事は後でいい!! 二人ともスーツは――……!?」ゾクゾクッ

ダイヤ「ウソ…でしょ? こんな時間に呼び出し……!? スーツを取りに行きます!」ダッ




曜「え……えっ? 何が起きているの?」アセアセ

果南「ごめん説明する時間がない! 曜はみんなを連れて早くこの場から逃げて!!」

曜「逃げる? 意味がわか――……果南ちゃん!?」



曜の目の前で果南の頭が徐々に消えて行く
隣にいた鞠莉も同様にだ



鞠莉「早くない!? 転送前に倒すなって事!!?」ジジジジジ

果南「ダイヤは間に合ったのかな……」ジジジジジ



――完全に無意識だった
幼馴染がいきなり消えていく様を見ていた曜は
果南の体に触れたのだ

その瞬間、曜にも果南達と同様の変化が始まったのだ



曜「うお!? 私も消えてる!?」ジジジジジ

果南「何してるの! 早く離して!!」

曜「そんな事言ったって…体が動かないよ!」



――――――
――――
――



~GANTZの部屋~



ダイヤ「――…申し訳ありません、間に合いませんでした」ズーン

鞠莉「仕方ないわよ…知らせから転送までほとんど間隔が無かったもの。今回は曜ちゃんと一緒見学ね」


曜「あれ? どこ、ここ……?」キョロキョロ

鞠莉「ああ、ここは……」




果南「――さっさと学校に転送しろ!! あれが今回のターゲット何でしょ!!?」ドゴッ

曜「!?」ビクッ



果南は部屋の奥にある黒い球を殴りつけていた
今の曜にはこの球が何なのか
何故、果南がこの球に怒りをぶつけているのか分からなかった



鞠莉「――果南、落ち着いてってば」

果南「落ち着け? こうしている間にも学校では犠牲者が増えてるんだよ! 殺されてる子もいるかもしれない!! あの子達だって危ないんだよ!!」イライラ

鞠莉「………」


曜「か…かなn」


果南「むしろ鞠莉がこんなに落ち着いている方が不思議だよ! 仮にもあの学校の理事長でしょ? 生徒に対して何も思わないわけ!?」



――パシン!



ダイヤは果南の頬をビンタした
突然の事で鞠莉も叩かれた果南も呆気にとられる

ダイヤは落ち着いた低いトーンで果南を問いただす



ダイヤ「果南、いい加減にしなさい…あなただって鞠莉の気持ぐらい簡単に分かるはずです。鞠莉の学校やメンバーに対する想いはあなたと同じかそれ以上のはずです」

果南「………っ!?」ヒリヒリ

ダイヤ「それに、冷静さを欠いた今のあなたがこのままミッションが始まれば命を落とす可能性が高い。今までの点数のほとんどを果南さんに託しているのですよ?」


鞠莉「……今回はダイヤが戦えない。脳筋バカの二人で全員倒すんだから、迅速に終わらせる為にもいつも通りの果南に戻ってもらわなくちゃダメなの」

鞠莉「いい? この中で果南が一番強い。だから貴方にはみんなの命を多く救って欲しいの…浦女の理事長としてお願い……」



ダイヤのビンタで冷静になった果南は鞠莉を見つめる
そして、自分がいかに愚かな発言をしたのか痛感した



果南「……ふぅ、ダイヤの言う通り、ちゃんと鞠莉の顔見れば“どう思っているか”なんてすぐ分かるね」


ダイヤ「果南さん……」



果南「――…もう大丈夫、二人ともありがとう」




GANTZ『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』


曜「何? ラジオ体操??」

果南「…曜、今は説明している時間が無いの。これからこの球から武器とスーツが出てくるからスーツは必ず着てね」




果南の言っていた通り、音楽が鳴り終わった後に画面が切り替わり
球が勢いよく開いた

果南は慣れた手つきで黒い球から
武器とアタッシュケースを曜の前に持て来た



果南「この中にあるスーツに今すぐ着替えてね。武器はこれ、確か曜はYガンをよく使ってたよね?」

曜(“よく使ってた”? 何を言ってるの…)


ダイヤ「やはり昨日の星人ですね…昨日あの場にいなかった残党が暴れているというわけですか」

鞠莉「ダイヤもXガンだけでも持って行ってね?」

ダイヤ「当然持ってきます。…ただ小さいものしか使えませんね。他のはスーツのアシスト無しで扱うには少々重すぎますし……」


曜「何? 武器とかスーツが守るとか……これから戦いにでも行くの? いい加減きちんと説明してよ!!」イライラ


ダイヤ「……これから別の場所に転送されます。先ほど二人が言ったように、わたくしは今回戦えないので転送先で説明いたします」



果南「――転送が始まったね。鞠莉、頼んだよ!」ジジジジジ

鞠莉「ええ!」ジジジジジ




~~~~~~


曜「――あれ? 外に出てきたよ…本当に転送なんて出来るんだね」



曜達は見覚えのある場所に転送されて来た
目の前には校門があるので学校の前であるのは間違いない
ただ――


鞠莉「――ここ…浦女じゃ……無い!?」ゾワッ


果南「どうして!? 浦女にいたのもあの星人だったじゃん!」


曜「ここ沼津市の高校だよね? ならここから浦女に向かえば…」

果南「ミッションのエリア外には出られない…ここにいる敵を全員倒さないとダメなの!」


ダイヤ「…どうやら多少リスクが高くてもわたくし達も戦う必要がありますわね」カチャ

ダイヤ「曜さんもお願いします! 武器の説明などは戦いながら説明します!」


曜「…よく分からないけど、緊急事態なのは分かった!」


果南「私達は数の多い校舎内の星人を倒す! 二人は校庭や中庭の星人をお願い!」

鞠莉「曜とダイヤは絶対に無理しないでね! 特にダイヤ!!」ビシッ




二人はこう言い残して校舎内に向かった
何が起きているか、ほとんど把握できていない曜だが
今、何をすべきかは理解していた




曜「――待ってて…みんな!」


今回はここまでです

コメントありがとうございます!

今日も上げていきます

――
――――
――――――


~三人が転送される少し前 中庭~


花丸「――今日も三年生はいないの?」

ルビィ「うん…昨日の夜おねぇちゃんがいなくなったって言ったでしょ? その事で曜さんに呼び出されたんだって」

花丸「ああ……昨日の事ね。結局、鞠莉さんの家に行ってたんでしょ? 全く迷惑な話ずら」モグモグ

ルビィ「あはは…心配かけてごめんね?」




善子「――遅くなったわね?」ストン

花丸「善子ちゃん! 話は無事済んだんだね」モグモグ

善子「ええ……授業中に少しくらい寝てたくらいでわざわざ昼休みに呼び出す? 本当にめんどくさい」プンプン


ルビィ「今日のあの先生の機嫌、凄く悪かったもんね。運が悪かったんだよ」






生徒A「――ねえ、あそこにいるの何?」

生徒B「人……じゃないね。着ぐるみ?」




この二人が話しているのは
いつの間にか中庭に現れた生き物のことだった

どう見ても人では無いがその生き物は
二足歩行おしており、イルカのような外見をしていた
パッと見ではクオリティの高い着ぐるみであった



ルビィ「あれ? さっきまでいなかったよね? 今日って校内でイベントでもあったっけ…」

花丸「うーん…無かったはずだよ」


善子「……っ!」ズキン


花丸「善子ちゃん? どうしたの、頭痛いずらか?」

善子「ちょっとね……さっきまでは何とも無かったんだけど…」ズキン…ズキン

ルビィ「大丈夫? 保健室行こうか」

善子「ええ、そうすr……」



三人が保健室に向かおうとした瞬間
先ほどの生徒の一人が悲鳴を上げた

すぐさまその方向を見ると
着ぐるみと生徒が血まみれになっていた
叫んだ生徒の足元には誰か倒れている
ここからでは生きているのかどうか分からない




花丸「――……え? 何が……?」

善子「ぐっ…ぐうううぅぅ!!!」ズキズキズキ



頭が割れるような凄まじい激痛に善子は頭を抱えてその場にうずくまる

その間にも着ぐるみは叫んだ生徒にも襲い掛かり
周囲は大パニックとなっていた



ルビィ「善子ちゃん!? しっかりして!! 早く逃げるよ!」

善子「ぐううぅ…私は……いい…二人は逃げて……」ズキズキズキ

花丸「何言ってるの!? ルビィちゃん、手を貸して! 担いで逃げるずら!!」



二人は両側から善子の体を持ち上げる
しかし、着ぐるみは周囲の生徒を全て倒していた
中庭に残っているのはもう善子達のみである
つまり――



善子「――…ルビィ!!」ドン



着ぐるみがルビィに襲い掛かってくる事を察知した善子は
ルビィを押し飛ばす
反動で三人とも倒れるが、間一髪で着ぐるみの攻撃を回避した



善子「は……早く…にげ……」ガクン

花丸「善子ちゃん!? しっかりして!!」ユサユサ



着ぐるみ…星人は腕から生えたヒレで多くの生徒を切り裂いていた
そのヒレを大きく振り上げる



ルビィ「善子ちゃん、花丸ちゃん!! 危ない!!」グワッ

花丸「――っ!?」




――ズシャ!




無残にもその首は鋭い刃物により
切り落とされた――




~~~~~~

~校内~


梨子「――何? さっきから凄い悲鳴が続いているけど…」キョロキョロ



曜を探しに廊下をウロウロしていた梨子
そんな梨子にクラスメイトが真っ青な顔で駆け付けた



クラスメイトA「梨子ちゃん! 不審者が出たらしい!! 中庭でも校内でも何人も襲われてる!! ここにいたらヤバイ!!」ゾワッ

梨子「不審者?」

クラスメイトA「そう! だから梨子ちゃんも――」


梨子「曜ちゃんは? 曜ちゃんを見なかった!?」

クラスメイトA「えっ……確か屋上の方に行ってたのを見たけど…」

梨子「屋上ね? ありがとう!」ダッ



走り出した梨子にクラスメイトは何か叫んでいたが梨子には届かなかった
早く曜にこの事を伝えなければならない
その一心で階段へ走る



梨子(左に曲がれば階段! 曜ちゃん――…!?)



そこには善子達を襲った星人と同タイプの奴がいたのだ
あの子が叫んだのはこの事を伝える為だった

星人は梨子に襲い掛かって来た――





~~~~~~


果南「――ぅりゃあ!!」スパッ

鞠莉「―――ふっ!!」バキッ!



果南と鞠莉は校内に侵入している星人を次々に倒す
残党狩りに位置する今回のミッションなので星人は大した強さではない

ただ、校内という特殊な環境が星人の撃退するテンポに影響を与える
星人が上下のフロアに多数存在するので、レーダーで確認するも正確な位置を瞬時に判断出来ないのだ


果南「鞠莉! この階の星人はこれだけ!?」

鞠莉「確認する――。よし、今ので最後よ! 後は三階と四階に三体いる!」


果南「よし、鞠莉は三階をお願い!! 私は四階に行く!」ダッ

鞠莉「了解よ!!」ダッ




~~~~~~



~中庭~

ダイヤ「――曜さん! そのまま上トリガーを引いて下さい!!」ギョーン!ギョーン!



ダイヤの指示通りにトリガーを引き、拘束した星人を上へ転送する

中庭には6体の星人が暴れまわっていた
曜とダイヤが着いた時には生徒が至る所に倒れていた

奇襲攻撃によりダイヤが二体、曜が一体撃退している



曜「ダイヤさん! 伏せて!!」ギョーン!

ダイヤ「?!」バッ


ダイヤの背後から襲ってきた星人を察知した曜

その後も次々にYガンのワイヤーを命中させ周囲の全星人を転送する



曜「ふぅー…これで全部だね?」

ダイヤ「…さすが曜さんですね。ブランクあるとは思えない腕でした」


曜「ブランクか…果南ちゃんが渡してくれたこの銃……凄くしっくりきたんだよね。それにあの化け物…襲い掛かってきても全然怖くなかったのも“そういう事”なの?」

ダイヤ「思い出したのですか?」

曜「全部じゃないよ? ただ、戦いながら色々頭の中に流れてきてね…最近までこんな戦いを続けていたって事だけは思い出した」


曜「後で全部話してもらいますからね?」

ダイヤ「もちろんです。校舎に入って果南さん達の増援に行きましょう!」

曜「このスーツ…ジャンプ力も上がっていますよね?」

ダイヤ「その通りですけど…」


曜「――このままジャンプして屋上まで行きます! 担がせてもらいますね」ガシ

ダイヤ「ちょっ、担ぐって肩にですか!? せめて背中に――ピギャアアァァ!!」




~~~~~~


梨子「――ッ!」サッ



星人の攻撃を身を屈めて回避
すぐさま距離をとる



梨子(危なかった! 何なのあの化け物!?)



星人の攻撃は終わらない
すぐさま追撃が来る



梨子「――!? うわっ!」クルン



次の攻撃を右側へ回転するように回避
星人は素早い動きで連続して襲い掛かってくる
梨子はこれを紙一重で回避し続ける


梨子(―――何これ…なんで私は攻撃を回避出来るの? どうすればいいか頭に浮かんでくる……)

梨子(化け物に襲われているのに不思議と落ち着いてる…私にこんな特技があったなんて――くっ!?ズキン 頭が…ズキンズキン)



突然の頭痛により怯んだ隙に星人は梨子へタックル
後方へ少し吹き飛ばされた


梨子(痛い…何なの……頭に流れてくるイメージ……これは…黒い球? この黒い服は…?)ズキン…ズキン



星人は口を大きく開き
梨子の頭を噛みつく――





~~~~~~


屋上まで飛び上がった曜はその光景に絶句した
そこにはいつものようにお弁当を食べていたであろう少女達が倒れていた
ケガの具合はそれぞれ異なるがまだ全員生きているのは確認できた

出入り口付近には今まで倒してきた星人より一回り大きい個体が居座っていた
口元にべっとりと鮮血がへばり付いていた



ダイヤ「曜さん……見た限りこの星人は強いですよ?」

曜「はい…私が陽動を――」



星人は曜目がけて勢いよく突っ込んできた
これまでの個体よりはるかに速いスピードに驚愕する曜
ギリギリでガードする



曜「速い!? ダイヤさん!!」


ダイヤ「この!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




ダイヤと曜は銃を連射するも全く当たらない
曜はなんとか目で追えるものの、ダイヤは徐々に見失う事が多くなっている




ダイヤ「くっ! マズイ!?」ゾワッ

曜「?! ダイヤさん後ろ!!」




――ドゴ!




そのスピードで背後から勢いよく衝突される
スーツ未着用のダイヤの体はミシミシと軋む

星人は衝撃で吹き飛ぶダイヤの腕をつかみ
そのまま投げ飛ばした

――ここは屋上である
投げ飛ばされたダイヤはフェンスの上を越えていった

曜「ダイヤさん!!!!」ゾワッ




真っ逆さまに落下するダイヤを助けに走る曜
しかし、星人の攻撃はやむことは無い
行く手を完全に塞がれる

そのままダイヤの姿は完全に見えなくなってしまった



曜「くそ! 邪魔するな!! ダイヤさんが……ダイヤさんがぁぁ!!!」ギョーン!ギョーン!



撃っても撃っても当たらない
それどころか懐に潜り込まれ、重い一撃を喰らう

以前の曜ならば対処できるはずのタイプの星人だが
4か月のブランクは想像以上に影響していた




曜(ヤバイ…このままじゃジリ貧だよ)ドガッ! ドガッ!




なんとか攻撃をガードする曜

――…そんな時、星人が奇妙な動きをし始めた
曜が何もしていないのに攻撃を回避するような行動をとったのだ

それも何度も何度も



曜「な……何? どうしたの?」ハァハァ




そう、まるで星人は“見えない誰か”と戦っているようだった




――ブシャ!!




星人の体が肩から斜めに切り裂かれ赤い血が噴出した
間違いない、この場にもう一人誰かいる

そんな考えが浮かんだと同時に星人の死体の正面の空間にバチバチと電気が発生した
すると何も見えなかったその場に一人の人間の後ろ姿が現れた

後ろ姿でフードを被っていたので誰だかは分からないが
身長は曜とほぼ同じで体つきから見て女性である事は分かった
右手には星人を斬ったと思われる刀が握られていた



???「……ケガは無い?」

曜「は? あ……はい、おかげさまで。……声が変ですけど、それ地声なんですか?」

???「え? ま…まあ、風邪気味ですね」


曜(何だこの人……妙にたどたどしいぞ? 声も誰かに似ている気がするし)ムムム


???「――さっき落下したダイヤさんなら無事だよ。下で私がしっかり受け止めたからね。大ケガして意識は無かったけど息はしてたから、ミッションが終われば治るはず」

曜「!? ダイヤさん無事なんですね! ……んん? でも何で――」




――ジジジジジ




???「私が倒した星人で最後だったみたいだね。転送が始まったよ」

曜「ホントだ……え? なんであなたの転送が始まらないの?」

???「そりゃ、私はもうそこの部屋の住人じゃないから当然だよ」

曜「じゃあ……あなたは一体……?」



???「――…そうだなー、“通りすがりの普通怪獣”とでも名乗っておこうかな?」クスクス





~~~~~~


~GANTZの部屋~


4人全員が無事転送されてきた
ダイヤは酷く落ち込み、果南はイライラした様子でガンツをゲシゲシと蹴り続け、鞠莉は曜とダイヤが帰還したことに喜んでいる


曜「――…あの人は何だったんだろう」ボソッ

ダイヤ「私とした事が……油断しましたわ」ズーン

曜「ダイヤさん!! 良かった……」ホッ



鞠莉「曜、ダイヤ! 二人とも無事だったのね!!」

果南「ガンツ! 早く採点を始めて!!」イライラ



果南はガンツに催促する
採点まで終わらなければこの部屋から出る事は出来ない
焦るのも無理はない


ダイヤ「曜さん、ご心配かけました……採点が終わり次第すぐに戻ります。曜さんも今のうちに準備しておいてください」

曜「はい! 取り敢えず制服を上から着て…ってどうやって戻るんですか? バス? タクシー? それとも…ヘリコプター??」

鞠莉「うちのヘリが呼べればその方が早いけど…今から呼び出すよりスーツの力で走った方が早く着くわ」

曜「コントローラーのステルス機能を使うんですね! でもダイヤさんは?」

ダイヤ「ステルス使用者に触れていれば問題なく透明になります。以前試したので安心してください」



そうこうしているうちに、ガンツの採点が始まっていた



GANTZ『ヨーソロー 15点』

GANTZ『硬度10 5点 TOTAL21点』

GANTZ『小原家 10点 TOTAL15点』

GANTZ『果南ちゃん 30点 TOTAL88点』



曜「果南ちゃん凄い! 100点まであと少しなんだね」

鞠莉「今までのミッションは出来る限り果南に点数が集まるようにしていたからね。恐らく次には100点まで行きそうね」


果南「――よし! もう終わった! 曜はダイヤをお願い。ダイヤは移動しながらこれまでの経緯を曜に説明してね!」



――――――
――――
――


屋根から屋根、屋上から屋上へジャンプしながら移動する
曜はダイヤを背負い、果南と鞠莉の後を追う



ダイヤ「――…まず、私達がどうしてこの部屋に戻って来たかについて、ですわね」

曜「確かあの部屋に行くには死なないといけないんだよね? でも死ねば確実に行けるわけでも無いんじゃ…?」

ダイヤ「その通りです。本来、死なないとあの部屋には行けません。しかし、生きたまま確実にあの部屋に行く方法があります。梨子さんがあの部屋に来た経緯を覚えていますか?」

曜「梨子ちゃん? ええっと……」


ダイヤ「黒い小さい球から指示された人物を殺害することで命を落とすことなくあの部屋に行くことが可能なのです。曜さんも持っていたあの球です」

曜「――あっ! あの球か……ちょっと待ってよ、それが条件なら――」

ダイヤ「この黒い球が私達三人に送り付けられました。ただ、曜さんに話した指示は出されず“戻る”か“辞退”かの選択を迫られました」


曜「どうして…梨子ちゃんの時より簡単過ぎない?」

ダイヤ「理由は分かりませんが、梨子さんの時とは状況が大きく異なります」

曜「状況?」

ダイヤ「曜さんは4ヶ月前まであの部屋のメンバーでした。100点を取って解放を選択するとそれまでの記憶は消されます」

曜「そうですね…私もついさっきまで忘れてましたし」

ダイヤ「ただ、私達三年生は全員記憶が消されていなかったのです。何故かは全く見当は付きませんが」


曜「記憶が残っていた……でも私は覚えていませんでしたよ?」

ダイヤ「曜さんは恐らく梨子さんと同じ条件であの部屋に呼び出す予定だったのでしょう。
私達の時は球が届いた直後に選択を迫られましたからね。ガンツとしてもあの行き方はイレギュラーだったのでしょう」

曜「……結果的には誰も殺さずに済んでラッキーだったって事ですね」ゾッ



ダイヤ「ここからが私達が部屋に戻った理由です。曜さんはまだ断片的にしか思い出していないようですが、私達が一緒に戦っていた時のメンバーは全員覚えていますか?」

曜「今思い出しているのは…ダイヤさん、鞠莉ちゃん、果南ちゃんと梨子ちゃんですね。梨子ちゃんに関しては今の会話で思い出しました」


ダイヤ「そうですか……他にもメンバーはいました。一年生の花丸さん、善子さん、妹のルビィ、そして……千歌さんです」

曜「……え?」

ダイヤ「私達はあの時全員が100点を取っていたとばかり思っていました…でも千歌さんだけは取っていなかったのです」

曜「どうして……どうしてダイヤさんは知っているの?」

ダイヤ「千歌さんが休学届を理事長に提出した際に鞠莉さんが聞いたのです。どうやら千歌さんは仮に100点を取っても解放は選択しないつもりだったようですが」


曜「そんな…じゃあ千歌ちゃんは今も……――…あれ? 千歌ちゃんはあの部屋に残っているハズじゃ……」

ダイヤ「……私達が戻って来た時には、他にメンバーはいませんでした。つまり千歌さんはもう………」


鞠莉「――…だから果南に点数を集めてちかっちを連れ戻そうってわけ!」



前を走っていた鞠莉がいつの間にか曜の隣まで戻ってきていた
ダイヤの発言を遮るように割って入って来たのは曜を思っての事だろう

曜「鞠莉ちゃん……」

鞠莉「私はちかっちが戦い続ける理由がどうしても知りたいし…曜もこんな大切な事を親友に内緒にされててムカつくでしょ? 今のうちに言いたい事整理して次に会った時にガツンと言ってやって♪」

曜「ふふ……内緒にしてたのは鞠莉さん達も一緒でしょ? ならガツンと文句言ってもいいんですよね?」ニヤッ

鞠莉「あはは……後で聞くわね…」




果南「――…見えた! もうすぐ浦女だよ!!」

曜「凄い数のパトカーと救急車だね……」



いきなり姿を現すと面倒な事になるので少し離れた所でステルスを解除する
校門の前には曜の言う通りパトカーと救急車で埋め尽くされていた



警官「こら! 危ないから関係者以外入ったらダメだ!!」

鞠莉「私達はこの学校の生徒です! もっと言えば私は理事長です!! 関係者なんですから入ります」スタスタ

警官「ちょっ…何をわけのわからない事を!」




――「しっかりして善子ちゃん!」「よっちゃん! 目を覚まして!」「善子ちゃん! 善子ちゃん!!」




ダイヤ「あれは……!? 曜さん! あそこの救急車に向かってください!」

曜「!? みんながいる!! 梨子ちゃーん!!」オーイ


梨子「曜ちゃん!? それに三年生も…良かった無事だったのね」ウルッ


ルビィ「おねぇちゃん! 怖かったよぉ!!」ポロポロ

ダイヤ「ルビィ…! ごめんなさい、すぐに駆け付けられなくて」ダキッ


果南「マル! 善子はどこをケガしたの!? 大丈夫なんだよね!!?」

花丸「わ……分からないよ。いきなり頭が痛くなったみたいで、そのまま気絶しちゃったんだよ…」

梨子「………」


果南「頭痛…みんなはあの星人に襲われなかったの?」

花丸「マル達は中庭で襲われたけど……いきなり怪物の首が切り落とされたよ…」

果南「いきなり?」

ルビィ「花丸ちゃんと善子ちゃんに襲い掛かった瞬間に、スパッて…長い刃物か何かで切ったみたいだった」


梨子「私も廊下で襲われた…その星人は斬られたっていうか破裂したわね……校内に入って来た他の星人もいきなり斬られるか破裂して死んでいたみたい」

ダイヤ「破裂に斬殺……それって――」


花丸「なんか、まるで見えない誰かが戦っていたみたいだったずら」

曜「!?」

花丸「あと、変な声も聞こえたよ。女の人の声で『お前じゃない、私の獲物だ』って」

果南「『私の獲物』か――」


――――――
――――
――



~数日後~


曜(内浦や沼津周辺で発生した星人による高校襲撃事件は死傷者50人以上の大事件となった。テレビのニュースはその話題で持ち切りとなり、内浦は悪い意味で有名になってしまった)

曜(学校はしばらくの間は休校で自宅待機になっている)

曜(病院に運ばれた善子ちゃんは意識を取り戻したけれど、つい最近まで面会謝絶で会うことが出来なかった)

曜(ただ、今日から面会が許されたみたいでみんなでお見舞いに行こうとしたんだけど……鞠莉さんは理事長として今回の事件の対処で忙しく、ダイヤさんと私は何故かそのお手伝いをさせられている)

曜(だからお見舞いには梨子ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃん、ルビィちゃんが行っている。私も行きたかったな……)




~沼津中央病院 病棟~


善子「――…みんなごめんなさい、心配かけたわね」

花丸「頭を押さえながら倒れた時は心臓が止まるかと思ったよ。しかもあの状況だったし…」

ルビィ「目を覚ましてくれて本当に良かったぁ」ウルッ

果南「無事でなによりだったよ」


善子「……あの星人に何人くらいやられたの?」

梨子「正確な人数は分からない…ここに入院いてる同い年の子はだいたい襲われた子だと思う」

花丸「うちのクラスでも何人か亡くなったらしい…」

善子「……そう」



――ジリリリリ、ジリリリリ



果南「あ……ごめん、電話かかって来たからちょっと席外すね?」ガラガラ


ルビィ「そういえば、頭痛の原因って何だったの? 検査して分かったんだよね?」

善子「……」

花丸「善子ちゃん?」



善子「――…あなた達、“ガンツ”って知ってる?」


梨子「!!?」ビクッ

花丸「がんつ? ルビィちゃん知ってるずら??」

ルビィ「知らないよ? それが病名なの?」


善子「……ルビィ、ずら丸、折角来てもらって悪いんだけどリリーと二人にしてもらえる? 果南さんにもそう伝えて欲しい」

花丸「ええ? どうして?」

善子「お願い……後で説明するから」



花丸は善子の目を見つめる
善子から重々しい雰囲気を感じ取り
どうしてもこの場から出なければならない事を理解した


ルビィ「……行こう花丸ちゃん。何か事情があるんだよ」

花丸「………うん」

善子「本当にごめんなさい…」

花丸「絶対話してもらうからね? 約束ずら」ガラガラ



梨子「――…もしかしてとは思っていたけど善子ちゃんも思い出したのね」

善子「ええ、ガンツって単語に反応したのは梨子さんだけだったからあの二人は忘れたままみたいね」

梨子「浦女を襲った星人を倒したのって……ガンツのメンバーだよね?」

善子「ずら丸が見えない何かがいたって言ってたなら多分そうでしょうね…そしてその人物は――」



梨子「千歌ちゃん…って事だよね?」

善子「……あのバカ、どうして解放されなかったのよ! みんなであの部屋から出ようって約束したじゃない…」ギリッ

梨子「会って話を聞くしかないわね。問題はどうやって会うか……」

善子「あの部屋に行くには一回死なないといけないけど…」



梨子「あぁ! 曜ちゃん確か黒い球持っていたよね!?」

善子「あれか! あれなら確実に行けるわね」


梨子「ただ……問題はあれにどうやってターゲットにされて、曜ちゃんに実行してもらうかだよね」

善子「かなり難易度高いわね……どうするか――」






「――――別にそんな事考えなくてもいいんじゃない? なんなら私が殺してあげるよ♪ 運が良ければあの部屋に行けるかもね」クスッ




いつの間にか病室の扉の前に女の子が立っていた
その顔を見た二人の思考は完全に停止した




善子「――は?」


梨子「え? どう……して……?」



――ギョーン! ギョーン! ギョーン!




今回はここまでです。

書き溜めが無くなったのでもう少し書き進めてからまた投稿します
数日お待ちください

これから書いていきます

――
――――
――――――


ルビィ「梨子さんと二人で話したい事って何だろうね?」

花丸「別に何だっていいずら。後で話してくれるって言ってたけど内緒話はなんかモヤモヤするな……痛い!」ドン!

ルビィ「花丸ちゃん!?」



向かいから急ぎ足で歩いてきた人とぶつかってしまった
花丸達と同じくらいの年齢であろうその女の子は
慌てて尻餅をついた花丸に手を伸ばす



女の子「ああ! ごめんなさい。よそ見してたよ…ケガは無い?」

花丸「だ、大丈夫です。こちらこそごめんなさ……い?」

女の子「ん? どうかしたの?」

花丸「いや…何でもないですよ」

女の子「そっか、本当にごめんね? それじゃ」スタスタ


花丸「………」

ルビィ「どうしたの? 知り合いだった?」キョトン

花丸「そうじゃないんだけど……聞き覚えのある声だなって思って」



花丸とぶつかった、白い髪色にアホ毛の生えたその女の子は
足早に歩いて行ったのだ―――

~~~~~~


~沼津中央病院 ロビー~

果南「――だから友達のお見舞いだってば! 昨日も話したでしょ? ――…ハイハイすぐに帰るからさ、じゃあね」ピッ

果南「全く…心配なのは分かるけど、30分で帰れるわけないじゃん。まあ、仕方ないからそろそろ帰るかな」ヤレヤレ



患者A「ん? なんか聞こえない?」

患者B「何が?」

患者A「いや…なんか悲鳴みたいな声が……」


果南(いやいや……物騒な事言わないでよ――)



――キャアアアァァァ!!!!



患者A「!? ほらやっぱり!!」ガタッ

果南(ウソでしょ!? また星人が現れたっていうの!)ゾワッ




果南はもしもの事態に備え既に制服の下にスーツを着用し
鞄の中にはXガンとガンツソードを持ち歩いている


ステルスモードを起動し、武器を構えて悲鳴の聞こえた方向へ急ぐ
曲がり角で一度身を隠して廊下をのぞき込む




――ギョーン!ギョーン!ギョーン!




果南(この音は……Xガン? 一体誰が――…っ!!?)



果南は誰がXガンを使い、何を撃っていたのか理解できなかった

銃の効果により爆発した人物は二人
一人は頭が吹き飛び、判別不可能であった
そしてもう一人は胸部から破裂、間違いなく即死だ

“ツインテールをした赤い髪”の少女はそのまま倒れこむ



女の子「あーあ……せっかく見逃してあげたのにさ、戻って来なければ今日死ぬことは無かったんだけどな~~」


女の子「まさかバッテリー切れでステルスが解除されてたなんてね……いやーうっかりだよ」ニヤニヤ



果南「――……ルビィ…? なら……あれは………マル?」ゾワッ


女の子「……あれ? 病室にいなかったからてっきり帰ったかと思ったよ。――果南ちゃん♪」




~~~~~~


~鞠莉自室~


曜「鞠莉ちゃん、この資料はもう要らないの?」

鞠莉「そうね、一応シュレッターにかけておいて」


ダイヤ「全く……どうしてわたくし達が理事長の仕事を手伝わなくてはならないのですか?」ヤレヤレ

鞠莉「別に一人でも良かったんだけどね、なんか寂しいから呼んじゃった♪」

ダイヤ「………」ピキッ

曜「だったら果南ちゃんを呼ばなかったのは何で?」

鞠莉「まあ……万が一に備えてかな。スーツ持ちが一人でも側にいた方が安全でしょ? それもチーム最強の果南ならね」


ダイヤ「……ミッション外でも星人が暴れる可能性があるのは大問題ですわね。ただ四六時中警戒するのは無理なのでは?」

曜「確かにね…今後の課題だよ」ムムム


鞠莉「それは追々考えましょう。今はこの仕事を片付けましょ~う」キラン

ダイヤ「…一人で出来るんですよね?」ジトッ




――プルルルル、プルルルル




曜「あ、電話だ。ええっと……梨子ちゃん?」ピッ


曜「もしもし? どうしたの?」

梨子『………ハァ……ハァ…曜……ちゃん……?』

曜「梨子ちゃん?」

梨子『……善子…ちゃんが……ハァ……殺され……た…ハァ』

曜「殺された!? 何言ってるの!!?」

鞠莉・ダイヤ「「!?」」


梨子『みんな……が危ない……ハァ だから………ハァ』

曜「直ぐに行く!! 誰がやったの!?」

梨子『……ハァ………ち……ハァ………ビシャ』


曜「もしもし!! もしもし梨子ちゃん!?」

ダイヤ「殺されたってどういう事ですの!? 果南さんはどうしたのですか!?」


鞠莉「――…ダメ、電話が繋がらない。急いで向かった方がいいわね……二人ともスーツは?」

曜「大丈夫だよ!」

ダイヤ「同じく」


鞠莉「よし、すぐにヘリを用意する!! 準備して!」

~~~~~~


女の子「ふふ……さすがに強いね…一対一の近接戦ならあの穂乃果と張り合えるんじゃないかな? ステルスモードで見えないと思ったんだろうけど、私の目には見えるんだな~凄いでしょ」

果南「………」

女の子「戦闘スタイルを二刀流にしたのはいい判断だと思うよ。じゃなければ一瞬で決着がついてたね」

果南「………」

女の子「それにしても遅いなぁ……梨子はちゃんと電話したかな? 何の為に急所を外したと思ってんだよ。……まあ、死んじゃって連絡出来て無かったら明日にでも行けばいいか」

果南「………」

女の子「取り敢えずあと5分は待とうかな。院内の人間は全滅させたし、機動隊が来るまでまだかかるからね~~」

果南「………」

女の子「それまでは果南には私の独り言に付き合ってもらうね! その為に顔はキレイなままにしたんだからさ」ニコニコ

果南「………」





~~~~~~

~沼津 上空 ヘリ内~


鞠莉「いい? 病院に着いたら屋上と正面エントランスの二か所から入るわよ」

曜「私は屋上から入って善子ちゃんの病室に向かう。多分梨子ちゃんもその付近にいると思うから」

ダイヤ「わたくしも屋上から行きますわ」

鞠莉「なら私は正面エントランスね。恐らく院内には星人がいるはずよ。誰かが戦闘を始めたらすぐに向かう事、ケガ人の救助は後回しにする事、いいわね?」



パイロット「お嬢、屋上の真上まで着きましたが……着陸できる場所が…」



鞠莉「ここでいいわ! 飛び降りるよ!!」バッ

パイロット「お嬢!?」


ダイヤ「待ってください!」バッ

曜(梨子ちゃん、果南ちゃん……無事でいて!)バッ




~~~~~~


ダイヤ「私はこのフロアのロビーに行きます。曜さんは病室の方を」

曜「分かりました。……気を付けてくださいね」

ダイヤ「ええ、お互い様にね」



ダイヤと別れた曜は一人で善子のいる病室に向かった
院内は恐ろしく静かだ
人の気配がまるでしない
病室が並ぶ廊下に行くとそこにはおぞましい程の血の海で覆われていた
ある者は頭が、ある者は下半身が破裂したような痕跡が残っている
余りにも惨い死体があちらこちらに倒れていた



曜「……どうして…どうしてこんな事が出来るんだ……」ギリッ



曜は善子の病室の前まで来た
ドアは半開きで中の様子がうかがえたが、生きている人の気配は無い
覚悟を決めてドアを開くが――




曜「―――……あ……ああ…」ポロポロ




ベットの上には首から上が無い善子が、梨子はベットの側面に寄りかかるように倒れていた
梨子の左半身は廊下の遺体同様に破裂しており、足元の血だまりには携帯が浸かっていた



曜「梨子ちゃん!! 善子ちゃん!! なんで……何でよ!!! どうしてさ!!」ポロポロ




「ルビィ!!!!!」




廊下から大声が聞こえた
この声は間違いなくダイヤの声だ


曜「ダイヤさん!? ルビィちゃんにも何かあったの……」ゾワッ



急いでダイヤの元へ向かう
廊下を走り抜けロビーに続く渡り廊下に差し掛かった




曜「――…は?」




曜は目の前の光景が理解できなかった
そこには血塗れになって倒れているルビィ、頭の無い遺体
そして、左手にガンツソード、右手にダイヤの頭を鷲掴みにしている少女が立っていた

ダイヤの体はその少女の足元に転がってる
間違いない、この少女がみんなを殺した犯人だ
ただ、この少女は曜が良く知る……いや、曜にとって最も大切な人物だった





曜「何を……やってるの…? 千歌ちゃん……?」


チカ「あは♪ 遅かったじゃん、よーちゃん」ニコニコ

~~~~~~


~エントランスホール~


鞠莉「ひどい……一体何人が犠牲になったの?」

鞠莉「子どもにご老人まで……虐殺とはまさにこの事ね…」



辺りは鉄のニオイが漂い、ピシャ…ピシャと歩く度に水溜りを踏む様な音が響く
鞠莉は出来るだけ遺体をまたがないように移動し、果南を探す



鞠莉(果南……どこにいるのよ…? 何で見つからないの…)



上のフロアに続く階段に辿り着いた時
胸の中央に刀が突き刺さった少女を発見した

浦女の制服を着たポニーテールの少女の瞳には光は無く
胸に刺さった刀は貫通し壁まで到達していた

その人物が誰なのか、鞠莉には一目で分かってしまった―――




鞠莉「―――…果南…なの?」ドクン…ドクン


鞠莉「ウソよね……果南のはずが無い。だって果南は……果南はあんなにも強いのよ?」ドクンドクン


鞠莉「いやでも……へ? 冗談でしょ? いい加減に目を覚ましてよ果南」ユサユサ



鞠莉は果南を起こそうと揺するが目覚めない
誰が見たって起きるはずが無い
今の鞠莉はそんな当たり前の現実を受け入れる事が出来ない

“松浦 果南の死”という現実を……




鞠莉「いや……イヤアアアアァァァ!!!!!」ボロボロ





~~~~~~


曜はすぐさまYガンを彼女に構える
彼女は灰色のパーカーを着ているが首元や手袋からリング状のメーターが見える
ガンツのスーツを装備しているのは間違いない

Yガンのワイヤー、Xガンの弾はスーツを着用している者には効果が無い
Xガンを当て続けるか、他の手段でスーツを無力化する必要があるのだ




曜(でも、上に服を着ていればワイヤーは無効にされない! もう少し近づいて確実に…)



チカ「――…相変わらずその銃を使うんだね? 星人には有効でも対人にはイマイチだと思うよ?」

曜「っ!? うるさい!! 千歌ちゃんの姿なんかして……悪趣味だよ!!」


チカ「何言ってるのさ? この身体は紛れもない、本物の高海 千歌だよ」ニヤニヤ

曜「適当な事言うな! 千歌ちゃんがこんな事するもんか!!」ギロッ

チカ「はぁ……別に信じ無くてもいいけどさ!!」ブン




彼女は持っていたダイヤの頭部を勢いよく投げつけた
曜はその狂気染みた攻撃にギョッとする
回避出来ないスピードではないが、そのまま直撃してしまう



曜「ぐふ! ダイヤさ――」

チカ「バーカ! 今のは避けるか、弾かなきゃダメでしょ!!」



投げるのと同時に彼女は曜との距離を一瞬で詰めていた
曜の肩から腰を切り落とすように刀を振り下ろす




――ガキン!!




曜はYガンで攻撃を防ぐ
構造上、衝撃に耐えられるはずもなく
Yガンはすでに使い物にならなくなっていた



曜「くっ……よく平気な顔で投げられるね!!」グググ

チカ「甘いね、これは殺し合いだよ? 手段なんか選ぶと思ってるの!!」ドガ!

曜「ぐうわ!!」ドサッ



彼女の蹴りが曜の腹部に直撃し後方へ吹き飛ぶ



チカ「あらら? 動きにキレが無いね~。あの時の方が断然強かったよ」

曜「何のことだよ!」

チカ「やっぱりブランクのせいかな……このままじゃ果南より早く終わりそうだよ」フフ

曜「!? どういう事!! 果南ちゃんをどうした!!」

チカ「どうしたって…そりゃもちろん―――っ!!」パシッ



彼女の後方から頭目がけて一直線に刀が飛んできた
その気配を察知し、片手でキャッチする

彼女の視線の先には今まで見た事の無い、怒りの表情を浮かべた鞠莉の姿があった




鞠莉「――…あんたが……あんたが果南を殺したのか………?」

チカ「そうだよー。でもいいの? そこの曜は信じてくれなかったけど、一応この身体はあんた達の仲間だった千歌の物だけど」ヘラヘラ

鞠莉「……あんたが千歌だろうが誰でも関係ない…よくも果南を……果南を!!」


チカ「おー怖い怖い。ついでに伝えておくけど、そこで倒れてるこれ、あんたの大好きなダイヤちゃんなんだ♪ いや~隙だらけだったから一瞬で終わっちゃったからつまらなかったよー」ケラケラ





鞠莉「言 い た い こ と は そ れ だ け か?」

チカ「……ああ、かかってきなよ」ニヤリ




鞠莉「――――……ブッコロス!!!」ダッ

今回はここまで

元にしている原作が原作なだけに
キャラクターの死亡に関しては許して頂きたいです…

お待たせしました
これから上げていきます

鞠莉は彼女に向かって駆け出した
鞠莉の戦闘スタイルは格闘術だ、基本的に武器は使わない
対する彼女は鞠莉が先ほど投げつけたガンツソードも合せて二刀流
一見鞠莉が不利な状況に見える

彼女は左右の刀を自在に操り鞠莉を攻撃する
剣術について全く知識のない曜でさえ彼女の凄さは感じ取れた

対する鞠莉はその剣筋を見極め、ほとんどの斬撃を回避していた
激情していると思っていたが頭は冷静さを保っている




――バシ!!




鞠莉の回し蹴りが手首に直撃
持っていた刀は弾き飛ばされ、宙を舞った
続けて二発の突きが腹部にヒットする




チカ「おお! 案外やるね」ヒュン!ヒュン!

鞠莉(このまま押し切る! スーツさえ壊せば勝ちよ!!)シュッ!シュッ!




――バキ!




今度は鞠莉の拳が顔面に直撃
彼女は大きく体勢を崩した



鞠莉「よし! もらったぁ!!!」

チカ「………ニヤリ」スゥゥ



鞠莉が畳みかけようとしたその時、彼女の姿が突然消えた



鞠莉「何!? どうして!!?」キョロキョロ



チカ「――…ねえ、スーツの弱点って知ってる?」

鞠莉「!?」

チカ「顎の下と耳の下にあるメーターを四か所同時に壊すと、耐久値に関係なくスーツを無力化出来るんだ。――こんな風にね」




――パキン




鞠莉のスーツのメーターがいきなり破壊された
背後には消えた彼女の姿があった

鞠莉「なん……で…?」ゾワッ

チカ「果南が持ってたコントローラーを使ったんだよ。バッテリーが少なかったから数秒しか使えなかったけど、十分だったね」ニヤニヤ



鞠莉のスーツにある全メーターからゲル状物質が流れ出る
スーツが無力化されたのだ

彼女は鞠莉の背骨に拳を叩きつける
骨が砕ける音が少し離れた曜の耳にも届いた




鞠莉「ぐ、ああああぁぁぁあああ!!!!!?」

チカ「あはははははは!! これでもう半身不随で一生車いす生活だ! 残念だったねぇ!」

曜「鞠莉ちゃん!!」



その場に崩れ落ちる鞠莉
そんな鞠莉の頭を彼女は踏みつける



チカ「ほらほら、抵抗しなくちゃこのまま踏み潰しちゃうよ?」グリグリ

鞠莉「う……ぐうううぅ……」


曜「やめろ!! 今行く――…」

チカ「動くな、動いたら今すぐ踏み潰す」グググ

鞠莉「がああああ!!!」ギリギリ

曜「っ!?」



チカ「くくく…いいうめき声を出してくれるね。“千歌”の心もかなり痛んできてるだろうな」

曜「何を…言っている?」

チカ「苦労したんだよ? “高海 千歌の精神”を殺さず体の主導権を完全に乗っ取るのにさ!! おかげで4か月もかかったよ」

曜「…精神を乗っ取る?」

チカ「そうさ! 私は“チカ”であって“千歌”では無い。同じ景色を見ているが千歌の方は自由に動けない。千歌の意思とは無関係にこんな事をしているわけ!」

チカ「高海 千歌は今どんな気持ちだろうねぇ。無関係の人間や大切なお友達をこの手で何人も殺してさぁ」ニヤニヤ


曜「お前は……一体誰なんだ!? 何の為にこんな事を!!」




チカ「――…復讐だよ。私を、ワシを殺したお前たちをぶっ殺す。覚えているか? あの時、貴様らはワシの腕を切り落としてさっき壊した銃で転送したよなぁ」

曜「!? まさかあんたは…!」



チカ「そうだ。私はあの時の天狗だ――」



――
――――
――――――


千歌(自分の異変に気が付いたのはみんなが解放されて数日経ってからだ。ボーっとする事が多くなって、気が付くと覚えの無い場所に立ちすくんでいる)

千歌(どうやって来たのか道のりは覚えている。しかし、何故来たのかが分からない。まるで自分の意識とは無関係に体が勝手に動いたような…そんな気がした)



千歌(暫くしてまたガンツに呼び出された。追加のメンバーは3人、この部屋のルールを説明して生き残る為に必要な情報は全て伝えた)

千歌(転送が始まった……と思ったら再び部屋に戻って来た。そしてすぐにガンツは私の採点を始めた)

千歌(ミッション中の記憶が全くない。誰が星人を倒したのか、どんな星人だったのか、新しいメンバーが何故一人いないのか…すっぽり抜けていた)




千歌(それからというもの、自分の体が勝手に動く事が多くなった。今はただ町を徘徊するだけ…でも、そのうち自分が何をしでかすか分かったものじゃ無い…)

千歌(私は迷惑がかからないよう夏休みが終わる前に休学届を提出した。鞠莉さんがガンツの事を覚えていたのは驚いたけど…今はそれどころでは無い)



千歌(その日を境に意識と体が別々になる頻度が劇的に多くなった。前までは勝手に動いているときの意識はおぼろげだったけど、今はハッキリわかる)

千歌(私は家に帰らなくなった。正確には帰れなくなった。自分の意思で動けるときに帰ろうとしても体がいう事を聞かないのだ)



千歌(――そんなある日、私はついに取り返しのつかない事をしたのだ)


――――――
――――
――


曜「――どうしてお前が…でもどうやって!?」


チカ「方法なんて聞いてどうする? ただ、高海 千歌の精神が戻る可能性は限りなくゼロに近い事だけは教えておくよ」

曜「……?」

チカ「私の精神を千歌と完璧に融合させた。完全に乗っ取れば可能性を消す事も可能だが……それじゃこいつを苦しめる事が出来ないからねぇ」ニコニコ


曜「外道が…っ!!」ギロッ


チカ「あんたが千歌に出来る事は一つだけ、私の精神ごとこの体の生命活動を停止させる…つまり“高海 千歌を殺す”事だけ。まあ、無理だろうけど」ニヤニヤ



鞠莉「どう…かしらね……? ちかっちは強い…まだ精神が死んで無い……なら、もう一度戻ってくるわ…!」ハァ…ハァ…

チカ「ああ?」ギロッ

曜「鞠莉ちゃん…そうだ! 千歌ちゃんはあんたなんかに絶対に負けない!」



チカ「………」ギョーン!



チカはホルスターから銃を抜き、何の躊躇いもなく鞠莉に向けて発砲した
ヘラヘラしていた時とは一変、ひどく冷徹な顔となっていた



曜「!?」ゾワッ




鞠莉「…え? ……え?」

チカ「ほら、もうすぐ死ぬけど言い残す事は無いの?」


鞠莉「死ぬ? 私が……? い……嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だあああ――!!!!」




――バン!




鞠莉は右足が吹き飛ぶ
傷口からおびただしい量の血吹き出す



鞠莉「あがああああぁぁぁ!!!!」ジタバタ

チカ「くふっ…くはははははは!! いいよ、凄くいい悲鳴だよぉ! いくら100点を取った実力者でも死ぬのは怖いもんねぇ?」ニタァ


曜「鞠莉ちゃん! 貴様ぁぁ!!!」


チカ「この出血量ならほっといても死ぬでしょ。曜ちゃーん、もう動いてもいいからねー」

曜「………っ」ギリギリッ

チカ「どうした? かかって来なよ。早くしないと鞠莉が死んじゃうよ? これ、ミッション外だって事忘れてなーい??」



曜「――…黙れよ」

チカ「ん?」


曜「もうその顔で、声で喋るな」シュ




曜は左足のホルスターからガンツソードを掴み、展開する
チカも鞠莉の頭に乗せていた足を下し、臨戦態勢に入る



チカ「…残るはお前だけだ。私を仕留めたお前には苦しみながら死んでもらうから覚悟しな」

曜「出来るもんならやってみろ……返り討ちにしてやる!!」




――
――――
――――――


「――…千歌さん?」

「本当だ! 千歌さんだよ!」


千歌「あなた達は……新しいメンバーの子だね。久しぶり」

「良かった……前回のミッションの時に来なかったからてっきり亡くなったのかと思いましたよ…」

千歌「…前回? いつの話……?」

「ええ、昨日に2ヶ月ぶりにミッションがありましたよ? ミッションによっては呼び出されないメンバーもいるんですね」



千歌「(あり得ない……ミッションは必ず全員参加のハズ!?)」

千歌「あの……!?(え? 声が出ない!?)」

「ん? どうしました千歌さん??」キョトン


チカ「……ねえ、二人とも今スーツは着てる?」
千歌「(ウソ!? 身体だけじゃなくて声も勝手に!!?)」


「はい…私は今着てますけど……どうかしましたか?」


チカ「そっかそっか~…じゃあさ、そのまま後ろ向いてよ♪」
千歌「(何をするつもりなの…)」

「いいですけど…変な千歌さん」クル



チカ「ええーと、例の吸血鬼の話が正しければ……」




――パキン




「……は?」

チカ「おお! 本当に一瞬でスーツが壊れた。じゃあ、この銃も問題なく効くよね?」カチャ
千歌「(!? ダメだよ!! そんなことしたら!!!)」


「ちょっ……千歌さん…? 冗談…ですよね?」ガクガク

チカ「あは♪ 笑えるギャグでしょ?」ギョーン!ギョーン!
千歌「(だめえええええ!!!!!)」




――ババン!!




チカ「あはははははは! 最高だよぉ!! やっと本人の意識を殺さずに乗っ取ることに成功した! 今、どんな気分だい?」
千歌「(乗っ取る? あなたは誰なの?)」


チカ「ああ……名乗っていなかったね。人間の表し方だと天狗って言えば分かるかな?」
千歌「(秋葉原で戦ったやつか!?)」

チカ「そうそう、あの時君の腹に一撃喰らわせたでしょ? 一緒に精神の一部を流し込んでおいたわけさ。保険を掛けたのは少々癪だったが…ただ死ぬよりはマシだからね」
千歌「(そんな……バカな)」


チカ「ただまぁ…動きがまだぎこちないな。慣れるのにもう少し時間が掛かりそうだ。もう何人か手頃な強さの奴と戦ってみるか」
千歌「(……私の体を奪って何がしたいの?)」

チカ「そうだなー…まずはお前の仲間を全員殺す。仲良く同じ場所で仕留められればベストだね」
千歌「(………っ)」

チカ「次はあの……ゴツイ鎧を着たあの女、ホノカだっけ? あいつもあいつの仲間も殺す」
千歌「(素直にやらせると思う!!?)」


チカ「無駄だよ、もうお前の意思でこの身体を動かすことは出来ないよ。……くそ、この口調は何とかならないか。女っぽい喋り方にも慣れなきゃならんのか」




チカ「――…まあそういう事だから、これからよろしくね♪」ニタァ

今回はここまで
年内終わるか怪しいです…

――――――
――――
――


曜は非常に優れた運動神経を持っている
どのスポーツをやっても人並み以上に出来る
戦闘においてもその才能により数々の星人を撃退してきた

しかし、今回は星人ではなく人間
相手は自分の大切な人と同じ姿をしており、最も使いこなせる武器も破壊されている
仲間も全員戦闘不能で今使える武器は最も不得意なガンツソードのみ
これ程まで最悪な状況は経験がない曜だったが――




チカ「おお! 意外に動きが様になってるじゃん。こいつの記憶によれば、この武器は苦手じゃなかった?」キン!キン!


曜「そうだっけ? 器用さが持ち味なんでね!!」キン!キン!




巧みな剣捌きで翻弄してくるチカの攻撃を何とか防ぐ
そんなチカは曜の動きに見覚えがあった




チカ「……なるほど、果南の動きをイメージしているのか。でもそれじゃ勝てないよ!」

曜「くっ!!」



チカは曜のガンツソードを弾き飛ばした
丸腰となった曜に怒涛の斬撃を繰り出す

スーツの防御機能により斬り落とされはしないものの耐久値はどんどん減っている



チカ「ほらほらぁ!! 壊れちゃうよおお!!!」ドスドスドス

曜「調子に……乗るなああ!!」バキッ!



回し蹴りを手首に直撃させ、チカから刀を落とさせる
先ほど鞠莉がやった事と同じ事をしたのだ
ガンツソードを失った二人は格闘戦に突入した



曜「(鞠莉さんの動きを死ぬ気でイメージしろ! スーツさえ壊せばいいんだから!!)」

チカ「格闘は鞠莉か! 真似だけで勝てると思うなよ!!」バキッ!


曜「ぐっ! この!!」ドゴッ

曜の動きは決して悪くは無い
キレもスピードも以前の曜に匹敵するところまで戻っている
しかし、それでも“高海 千歌”には届かない
自らを普通怪獣と表現していた彼女にはこの世界で輝く圧倒的な才能を持っている
“千歌”はその才能に気付いていなかったのだ
敵を殺す為の最善の動きを彼女は瞬時に判断でき
その為の動きを再現する身体能力があり
行動に移す精神力もあった

潜在的に眠っていた才能はスーツと憑依した天狗が開花させ曜を圧倒する




曜「っ!!!」キュウゥゥゥゥン……


チカ「――…壊れたな」ニヤリ



チカは頭部目がけて蹴りこむ
咄嗟に左腕でガードするも機能を失ったスーツでは防ぎきれない
ボキボキと鈍い音を立てながらそのまま側面の壁に叩きつけられる



曜「がはっ…!(マズ…意識が……)」バタッ

チカ「あーあ、防がなきゃ楽に死ねたのに。でも、衝撃で意識ハッキリしないでしょ?」

曜「が……わた…あが……」

チカ「苦しそうだね。安心してよ、もっと苦しい事になるよー」ニタァ


曜「(動け……お願いだから動いて!!!)」グググ





――ギョーン!ギョーン!ギョーン!




チカ「……は?」キュウゥゥゥゥン…


鞠莉「――へへへ…さっさとトドメを刺さないから……私に撃たれるのよ」ハァハァ

曜「ま……り…ちゃん?」


鞠莉「立ち…なさい……曜! あなたが倒れたら…誰がみんなを……生き返らせるの!?」

曜「く……くううう……」グググ



鞠莉「立て……立てえええええ!!!!」


曜「お…おおおおおおお」グググググ



チカ「うるさい。もう死んじゃえよ」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



鞠莉「……っ(ダイヤ、果南…私もそっちに行くね……)」フフ




――ババン!!




チカ「――黙って寝てればもう少し生きていられたのに…バカな奴だ」

チカ「さて…威勢のいい声出してたけど……」クル



曜「うおおお!!!」ブンッ

チカ「っ!!」バキッ!




曜は残った右手で顔面を思い切り殴りつける
いくら潜在的な身体能力が高いと言っても、それはスーツのアシストが大きい
スーツが壊れた今、基本的な身体能力の高い曜が一枚上手である



曜「お前がぁ! この!! ……どうしてぇ!!!」ドゴ!バキッ!

チカ「ぐふっ! ぐはぁ!」ベチャ



何度も何度も何度も何度も何度も殴りつける
チカの顔は大きく腫れあがり、片目は腫れた瞼で潰れていた
口から歯を吐き出し仰向けに倒れるチカに曜は馬乗りになる

それでも曜は殴り続ける
病院の廊下には肉を打ち付ける鈍い音が響いていた



曜「ハァ…ハァ……どうして…私が……ヒック 千歌ちゃんを殴らなきゃ……」ポロポロ

チカ「ヒュー……ヒュー………」


曜「いい加減……気絶してよぉ!!!」グワッ!




千歌「――…曜ちゃん」


曜「っ!!!?」ピタッ




曜はギリギリで拳を止めた、止めてしまった
名前を呼ぶその声色は間違いなく千歌のものだった


――その隙をチカは待っていた
曜の右目に指を突き刺す
激痛に怯み、悲鳴を上げる暇すら与えずそのまま曜を仰向けに蹴り倒した
さらに右手を踏み潰し使い物にならないものにした




曜「あがっ……あがああああぁぁぁ!!!!」

チカ「フゥー…危なかった……一瞬だけ戻さなかったらあのまま殴り殺されるところだったよ」ハァハァ

チカ「痛っ…これだから人間の体は……まあいい、まずは脚から弾くかな」カチャ


曜「ハァ…ハァ……」

チカ「一応、遺言を聞いておこうかな? 千歌に言いたい事とかあるでしょー?」ニコ


曜「………」

チカ「いいの? 撃っちゃうよ??」

曜「――…ち………」


チカ「はは♪ 聞くわけねぇだろバーカ!!!」ギョーン!ギョーン!



曜「…だろうね。ごめんみんな……私に千歌ちゃんは倒せなかったよ…」




――バン!



――
――――
――――――


千歌「(ねぇ、どうして梨子ちゃん達を助けたの?)」

チカ「ああ? 別にあの場で殺すべきじゃないと思っただけだよ」


チカ「屋上に転送されていた奴が見えた。校内を探しても三年生と曜が見当たらなかったから多分あの部屋に呼ばれたんだろうね」

千歌「(それが理由?)」

チカ「腕を斬り落とした果南、止めを刺した曜にも出来るだけ絶望を与えたいからね…タイミングが重要なんだよ」

千歌「(………)」


チカ「でも安心したよ。最近反応が無かったからてっきり死んじゃったと思った♪ 全員仕留めるまで勝手にくたばらないでよー」

千歌「(必ずお前から私の身体を取り戻して見せるから…)」


チカ「へぇー…ま、頑張ってよ~」ヘラヘラ

――――――
――――
――


曜「ハァー…ハァー……?」

チカ「あ? この距離で……外した?」




チカの放ったXガンは曜の脚を大きく外した床に被弾した
銃を扱った事の無い人でも外す方が難しい至近距離にも関わらず

理由は一つしかない――



チカ「…まさか!? 貴様ぁ!!? グあああああ!!!」

曜「な……なに…どうしたの?」



「ぐううぅううぅ……ハァ、ハァ…よ……曜…ちゃん」

曜「っ!? 千歌ちゃんなの!!?」


千歌「へへ…久しぶり……だね」

曜「やった……天狗に打ち勝ったんだね!!」



千歌「――…違うんだよ。多分戻れるのは一時的だけ…すぐにまた乗っ取られる」

曜「そんな事無い!! 千歌ちゃんなら絶対勝てるよ!」


千歌「私の事は…私が一番よく分かってる。このままもう一度乗っ取られるくらいなら…」カチャ…

曜「待ってよ…何で自分の頭に銃を向けるのさ! 他に方法があるって!! だからっ!!」


千歌「もうこれしか無いんだよ…みんなを殺したこのチカを道ずれにして死ぬしか!!」

曜「嫌だ…お願いだから待って……――」


千歌「………っ」ギョーン!




曜「千歌ちゃん!!? 嫌だ……嫌だああああ!!!」ポロポロ




千歌「ごめんね曜ちゃん………バイバイ」ニコッ




――…直後、千歌の頭部はXガンにより跡形も無くはじけ飛ぶ
曜の意識はそのまま深い深い闇の中に落ちていった

――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――


~???~


「………ちゃん?」

「…おーい、よーうちゃん」



曜「ん…んん……あれ…ここは……教室?」キョロキョロ


千歌「やっと起きた。返事がないから心配したよ?」


曜「……千歌ちゃん? …そっか、私も……」

曜「他のみんなはいないの?」


千歌「うん…ここにはいないよ」

曜「じゃあ、今は千歌ちゃんと二人きりなんだ。なんか二人でいるのも久しぶりだね」

千歌「確かに。前まではみんなと一緒にいる事が多かったもんねー」



曜「――…あのさ、どうしてあの時何も話してくれなかったの? 言ってくれれば私達――」

千歌「残ってくれたんだよね? 多分みんな優しいから同じことを言ってくれると思う」

千歌「でもね、あの部屋には誰か一人は残らないといけない…そういうルールがあるんだよ」

曜「ルール?」


千歌「曜ちゃんにはもう全部伝えるよ。私達があの部屋で戦わされていた本当の理由、この先に起こるカタストロフィについてね――」




――――――――――――




曜「――…そんな事が……だったら尚更話すべきだったじゃん!」


千歌「こんないつ起こるか分からない日の為に残ってなんて言えないよ…解放を目標に戦ってたメンバーの気持ちを考えたらさ」

曜「それは……そうだけど…」


千歌「まあ、こんな事になるんだったら話せばよかったよね……」

曜「………」


千歌「私が弱いばっかりにみんなを…みんなを死なせて……自分で責任が取れないのが本当に悔しいよ……」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「だからね、これは私のワガママなんだけど……曜ちゃんにはみんなをもう一度生き返らせて欲しいの」


曜「え? でも私は……」

千歌「大丈夫、曜ちゃんはまだ生きてる。ここは曜ちゃんの心の中って言うか…夢の中?」ウーン


曜「いやいや…さすがに千歌ちゃんにそんな事出来ないでしょ?」

千歌「ほら、最後の最後で取り返したじゃん? あの時よく分からないけどこの能力の一部が使えるようになんたんだよね。まあ、天狗みたいに乗っ取る事は出来ないけど」

曜「……マジか」


曜「でもだったら、千歌ちゃんも生き返らせれば――」


千歌「それはダメなんだ…」

曜「え? なんでさ!?」

千歌「ガンツはメモリーに保存された人間を再生させるの。メモリー内にいる私は天狗がすでに寄生している…そんな私を再生させたら今回みたいな事を同じことを繰り返すことになる」

曜「でも! 今度は分かってるんだから何とでも対応出来るでしょ!?」

千歌「その場合、強制的に乗っ取られるだけだよ。あいつも言ってたでしょ? 私の精神を殺さずに乗っ取るのに苦労したって」

曜「そんな…だったら千歌ちゃんはもう……」ウルッ

千歌「……ごめんね」



曜「――…ヤダ、だったら私はこのままずっとここにいる! ずっと千歌ちゃんと一緒に…!」

千歌「曜ちゃん……」

曜「だって……だってもう二度と千歌ちゃんに会えないんだよ! そんなの耐えられない……」




千歌「…あのね、この空間を作っているのは私の精神力なの。でも天狗にほとんど食われちゃってるからほとんど残っていないんだ…だからこのまま維持し続ければ、私は完全に消滅しちゃうの」

曜「っ!?」


千歌「それに、私は曜ちゃんにこの先も生きて欲しいと思ってる。見えるところに私はいないけど…ずっと傍にいるからさ」ニコッ


曜「……グス 本当?」ジワッ

千歌「うん! ここはもう無くなるけど、消滅さえしなければ曜ちゃんの心の中にはいるから…もしかしたら夢の中とかなら会えるんじゃないかな?」ヘヘ

曜「…はは、それなら嬉しいな」





曜「ふぅ…もう大丈夫だよ。私はどうすればいいの?」

千歌「――じゃあ…外に出よっか」





~~~~~~



千歌「この校門から出れば、曜ちゃんは目を覚ますよ」

曜「へぇー、校門の外は真っ白だ。まさに異空間って感じだね」



曜「――それじゃ、行くね」

千歌「うん……」




――ジジジジジ




曜「あぁ、転送されるみたいに消えるのか」

千歌「ふふ…なんかデジャヴだね」




千歌「暫くの間は大変だと思う。でも曜ちゃんならきっと大丈夫! 最初に生き返らせるメンバーには悩むとは思うけど…その時は相談に乗るからね!!」

曜「うん」

千歌「家族には詳しく説明しなくていいからね! 遺体もきっと残ってるから私が死んだことは分かるはずだから…」

曜「…うん」


千歌「生き返ったみんなにも私が謝ってたって伝えて欲しい。自分で言うべきなのは分かってるけど出来ないからさ…お願いね?」


曜「……うん」



千歌「――あと…あとはね! えっと……ヒック その…ね!! あ…あれぇ……?」ポロポロ

曜「………うん」


千歌「お…おかしいなぁ……グスッ とっくに覚悟は……出来てたはずなのに…うぅ」


曜「千歌ちゃん…」


千歌「嫌だよぉ……離れたくない…曜ちゃんと……みんなとずっと一緒に居たかったよぉ……!」ポロポロ


曜「ふふ……ちゃんと本心が聞けてよかった」ニコ


千歌「……う、ううっ」ポロポロ



曜「あのね…」


千歌「…曜ちゃん?」


曜「私は千歌ちゃんと出会えて幸せだった! 私と友達になってくれて本当にありがとう」

曜「それと最後はさ…やっぱり千歌ちゃんの泣き顔じゃなくて笑った顔が見たいな」ニコ


千歌「……グスッ、……うん!」ニコ


曜「そうそう! 千歌ちゃんはやっぱり笑顔が可愛いよ♪」


千歌「…へへっ、ありがとう」フフ



曜「あー…私の身体、ほとんど消えちゃったね」

千歌「うん…もう言い残した事は無い?」

曜「そうだねぇ……じゃあ、一言だけ言うね?」


曜「―――大好きだよ、千歌ちゃん……ニコ」ジジジジジ





千歌「……行っちゃったか。最後の一言はずるいなぁ…」グスッ

千歌「ありがとう曜ちゃん…私も大好き」スゥゥゥ…







――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――


曜「――…っ」パチッ


曜母「曜!? 良かった目を覚ましたのね! ……ここが何処か分かる?」

曜「大丈夫……病院だよね。どのくらい眠っていたの?」

曜母「二週間よ。本当に心配したんだから!」ウルウル


曜「ごめんね……私のケガはどうなってるの?」

曜母「……落ち着いて聞いてね?」

曜「…分かってる」



曜母「比較的軽いケガは右手首と頭蓋骨のヒビね」

曜母「ただ…右目の眼球は破裂、左腕は骨折の度合いが酷過ぎるらしくて……後遺症が残るそうよ。飛び込みをやるにはもう厳しいみたい……」

曜「……そっか」フゥ



曜「みんなは……どうなった?」

曜母「……っ」ギリッ


曜「だよね……ごめん分かってた」

曜母「曜……」



曜「あのさ、私が下に来ていた黒い服はどこにある?」

曜母「え? あぁ……あれならここにあるわよ。変な服でボロボロだったけど、一応取っておいたわ」

曜「ありがとう……その服はみんなとお揃いのモノなの。だからさ……今は握らせてほしいな」


曜母「……ええ、しっかり持っていなさい」

曜「へへ…ありがと」ギュッ



曜母「じゃあママはお父さんを呼びに行ってくるわね? 曜ちゃんが目を覚ましたって知らせないと」

曜「うん…またね」




――ガラガラ




曜「……行ったね」

曜「ごめんママ…また勝手に居なくなるけど、すぐに戻るからね――」ジジジジジ



~~~~~~


~GANTZの部屋~


曜「うーん…どれどれ?」ペタペタ

曜「はは、後遺症が残るはずの左腕も潰れた右目もすっかり治ってるや」

曜「でも…意識取り戻してすぐ転送されるなんて……ほんっっとに勝手なんだからさ」



曜「………」キョロキョロ

曜「独りぼっち……なんだよね。分かってはいたけどキツイなぁ…」


曜「でも! やるしかないんだ!! ……そうだよね、千歌ちゃん」ジワツ





――ジジジジジ




曜「っ!?」グシグシ

曜「そうだったね、新しいメンバーの追加があるんだったよ」

曜「先輩がめそめそしていたらダメだね! 新入りを勇気づけなきゃ」




「あれ……ここは…? 私は確かに死んだはずじゃ!?」


曜「お! 新しいメンバーだね? ああ、取り敢えず落ち着いてよ!」


「え? あなたは……て言うかここはどこなの…天国? 私は生きているの??」


曜「うん、ここは天国でも地獄でも……いや、どちらかと言えば地獄なのか…とにかく、まだあなたは死んでは無いよ」


「はあ…でも確かに死んだはず……なら生き返ったの?」


曜「うーん…ちょっと違うかな? 正確にはまだ生き返ったわけでは無いよ。その一歩手前って感じだね」

曜「信じられないと思うけど、これから私達は宇宙人と戦うの」


「…何を言っているの?」


曜「あはは…変な事言ってるように聞こえるでしょ? 私も最初はそう思っていたよ」

曜「暫くしたら、あそこにある黒い球が開くから自分の名前が書いてあるケースを見つけて? 私が着ているスーツが入っているからこれだけは必ず着て! あなたの命を守ってくれるからさ」

曜「今回は初めてだから見ているだけでいいよ! まずはこの部屋のルールを覚えてもらわないとね!」ニコ


「スーツ…あなたの着ているそれの事なの? でも何故もう着てるの?」


曜「なんでもう着てるのか? それは私がもう何回もこの部屋で戦い続けているからだよ! 自分で言うのもなんだけど、結構強いんだよ!」エッヘン


「一体あなたは何者なの?」


曜「何者って言われても……ただの女子高生だよ?」


「………」


曜「もう! 大丈夫だってば!!」


「あ、いや……別にそういう事では」アセアセ


曜「……え? 別に怪しんでいるわけじゃないの?? ならいいや」エヘヘ

曜「あ! まだ名前を聞いていなかったね? あなたの名前は?」


理亞「そう言えば名乗ってませんでした…私の名前は“鹿角 理亞”です」


曜「分かった、理亞ちゃんだね! これからよろしく!!」


曜「私の名前はね、“渡辺 曜”だよ!」

理亞「曜さん、ですか」




――ジジジジジ




曜「今回はまだ追加メンバーがいるんだね、どんな子か――………っ!?」



「曜ちゃん!? 意識を取り戻したのね!」ホッ


「意識不明だとこの部屋に転送されない仕様だったのが助かったわね。流石に重体の曜さんを守りながら戦うのは厳しいからね」ヤレヤレ


理亞「この人達も…曜さんと同じ服を着てますね?」

曜「――…へへっ」グスッ


理亞「曜さん?」


曜「そっか…私はまだ独りぼっちじゃなかったんだね……」


「曜ちゃんには聞きたい事が山ほどあるんだからね?」

「まぁ、取り敢えず今回のミッションを生き残らないとねー」ポキポキ


曜「そうだね……よろしく頼むよ!――…梨子ちゃん、善子ちゃん!」




今回はここまでです
あともう少しだけ続きます

これから夕方まで書く予定です
二人追加キャラが登場しますが
スクフェスをやっている方ならキャラの容姿は分かると思います

――――――
――――
――


~三年後 沼津 マンション屋上~


「――…なーんか、重要な事を任されちゃったね」

「私達二人でマンション周辺の巨人を退けろ、なんて…曜も無茶言うよ」アハハ…


梨子「確かに、まあこのマンションが壊されたら今後が厳しくなりますからね」


「さて、どうしよっか?」


梨子「曜ちゃんからの連絡では巨人の装甲はZガンで無力化出来るそうです」


「なるほど……なら、梨子は飛行ユニットに乗って空からZガンで無力化していってよ」

「私は丸裸になった奴から片っ端からぶった斬っていくからさ」シャキッ


梨子「分かりました。ただし、無理だけはしないでくださいね?」


「分かってるって、じゃあ行こうか――」



~静岡駅周辺~


イザベラ「――…ハァ……ハァ…ハァ」

エマ「もう無理だよ!! 私達じゃ守り切れないって!」




建物の陰に隠れている二人と一般人6人
そして唯一の出口周辺には巨人7体が徘徊している

巨人の持っている銃からは円盤状のカッターが射出される
この武器により多くの人々が斬殺され、スーツ組も一撃で倒されていった
彼女達のチームも何度も100点を取った猛者達が揃っていたが
今はもう二人しかいない




エマ「強かった皆も死んじゃったんだよ!? 誰かを助ける力なんて私達には無いんだよ!!」

イザベラ「ハァ…ハァ……確かにそうかもな」

エマ「だったら――」



イザベラ「それでも…それでも私はこの人達を見捨てたくない」

エマ「っ!? どうして…カッコつける場合じゃ無いでしょ!!?」


イザベラ「今、この人達を救えるのは私達しかいない。救う力を持っているのにそれを使わないわけにはいかない」

イザベラ「誰かがやらなきゃいけない…やるしかないんだ!!」


エマ「…でも」

イザベラ「――…この場は私が囮になる」

エマ「!?」

イザベラ「安心しろ…死ぬつもりなんてさらさら無い。隙をみてすぐに追いかける」ニコ


エマ「そんな事出来るわけないじゃん! そんな約束信じろって言うの!?」

イザベラ「おや? 私が今までウソをついた事があったか?」



レベッカ「だけど……」


イザベラ「――じゃあ、頼んだぞ!」ダッ

エマ「イザベラ!!」




勢いよく飛び出したイザベラ
Xショットガンで内部からダメージを与える
奇襲で一体は倒したが、一斉に銃口を向けられる




イザベラ「おらぁ!! こっちだ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!



四方八方からカッターが飛び交う中、紙一重で避け続ける
当たれば即死
そんな恐怖がイザベラの心を蝕む



イザベラ「(恐れるな!! 私なら出来る! 自分の事くらい信じられなくてどうするんだああ!!)」ギョーン!ギョーン!






――…気を抜いたわけでは無い
カッターの一発がイザベラの右側をかすめた
撃ち返そうと右手に握った銃を構える




イザベラ「――ああ?」




イザベラの右腕は肘から先が無くなっていた
傷口からは血液が噴水のように噴出している

膝から崩れ散るイザベラ
そんな彼女に対しても、巨人は無慈悲にも銃口を向ける




イザベラ「(フッ…、すまんなレベッカ…カッコつけた癖に情けないな……)」




――ズドドドドドドン




イザベラを取り囲んでいた巨人全員が見えない円盤によって押し潰された
突然の現象にイザベラは困惑する




イザベラ「は? これって一体……」


「ふぅ…どうやらギリギリ間に合ったようですね」

善子「すぐに止血するわ! 動かないで待っていて」


イザベラ「あ…あんた達は?」


「わたくし達は沼津チームの者ですわ。貴方は…他県のチームですわね?」


イザベラ「ああ、隣の県から来たが…」


「お姉ちゃん! 巨人が立ち上がったよ!!」

善子「曜さんの言っていた通り、Zガンで装甲は無力化出来たわね」カチャ

「そうですか…貴方は一旦私達の部屋に転送します。ガンツ! 頼みましたわ!!」



イザベラ「え? ……ええ?」ジジジジジ


善子「安心しなさい、もう一人の子にも増援が向かってるわ」

イザベラ「っ!?」ジジジジ…



「――…さてと、気を抜かずに行きますわよ!!」





~~~~~~


エマ「――…もう! どうしてここにもいるのよ!?」ギョーン!ギョーン!




イザベラと別れ、一般人を連れて逃げるレベッカだが
不幸にも逃げた先には大量の猟獣やキマイラが待ち受けていた
一匹一匹は大した強さでは無いが如何せん数が多い
更に丸腰の人間を守りながらとなると状況は極めて厳しい

Xガンとガンツソードで対抗するレベッカだが
徐々に押され始めている




エマ「(ヤバイ…このままじゃ守り切るどころか私も死ぬ! 今ならステルスモードで――)」



イザベラ『それでも…それでも私はこの人達を見捨てたくないっ!――― 今、この人達を救えるのは私達しかいない。救う力を持っているのにそれを使わないわけにはいかない――― 誰かがやらなきゃいけないんだ―― じゃあ、頼んだぞ!』



エマ「――…ああもうっ!! ここで見捨てて生き残ってもイザベラに嫌われるんだったら意味無いんだよぉ!!」

エマ「あんた達もビビッて突っ立ってるだけじゃなくて、生き残る最大限の努力はしなさい!」

エマ「目の前の敵は…全員私が――」






「――シャイニィィィーー!!!」ブウゥゥン!!!




揺らいでいた心に自ら喝を入れ、奮い立たせたレベッカの前に
一台のモノホイールバイクが猛スピードで突っ込んできた
その勢いはそこにいた猟獣とキマイラ数匹をミンチにする程だった




「あら……結構轢いちゃったけど、人は巻き込んで無い…わよね?」ダラダラ

「運転が雑すぎずら! 本来な免停ものだよ!!」ガミガミ

「し、仕方ないじゃない! 急いでたんだしー。そもそも私は免許を持っていないので免停にはなりませーん」ニヤリ

「むむう…なら、無免許運転で実刑判決ずら!」



エマ「んな……いきなり現れた挙句、訳わからない事で言い争うな!」ドッ

エマ「ここにはまだ一般人が……ってあれ?」キョロキョロ


「安心して? 私達が来た時、全員ガンツに安全な場所に転送してもらったから♪」


エマ「ガンツ? 転送??」キョトン


「あれ? あの黒い球の名前なんだけど…正式名称じゃないの?」

エマ「ああ、あの球の事ですか……んん!? あの球の操作が出来るんですか!!?」



「イエ~ス♪ ただ、あなたにはまだ一緒に戦ってもらうわ。力を貸して頂戴」カチャ

「あなたの仲間も無事ずら!」


エマ「ホント!? 良かった…」ホッ




「――それじゃ、さっさと片付けちゃいましょ~う」パシンッ





~千歌実家前の砂浜~



曜「――…やっぱり、空が赤いって何だか変な感じだね」ボーッ

曜「まさか千歌ちゃんの言ってたカタストロフィが異文明との全面戦争だったとはね…巨人との戦闘も楽じゃないよ」チラッ




曜はZガンに座りボーっと空を見上げている
砂浜の周辺や道路には10mを超える異星人や大型の猟獣の遺体が大量に転がっていた

その数、合計20体
彼らの使用する武器は全てスーツの耐久値を無視する程の威力を持っているが、それも当たらなければ意味が無い
以前までの曜ならばこれだけの敵を一人で撃退する事は不可能だっただろう
今までの膨大な戦闘経験が今の曜を支える




聖良「――さすが曜さん、これだけの数も余裕そうですね」フフ

理亞「リーダー……こんな時にボケーっと黄昏ないで下さい」ヤレヤレ


曜「おぉー、二人とも早いね!」

聖良「こっち側の人々は全員、小原家が用意したシェルターに避難させました。何体か巨人が襲ってきましたが私達で撃退したので犠牲者はいません」

理亞「全部任せろって言っていたのに…普通に取りこぼしてるんだもの」ジトー

曜「あはは…申し訳ない」シュン



聖良「曜さんは悪くないですよ。それで、これからどうしますか?」

曜「内浦一帯の巨人は殲滅出来たからね…それに避難も完了した事だし、沼津の方に行こうか」


曜「――ガンツ! 私達を部屋に転送して!」




――ジジジジジ





~~~~~~


~GANTZの部屋~


イザベラ「お! レベッカもこの人達に助けられたんだな。無事で何よりだ」エヘヘ

エマ「ちょっ…あんた右腕!? 何でそんなにお気楽でいるのさ!」

イザベラ「大丈夫だ。この通り輸血もしているし手当はしっかりとやって貰ったからな」

イザベラ「……まあ、生きてるだけ良かった。またレベッカに逢えたことだしな」ニコ


エマ「……バカ」グスッ




イザベラ「――…にしても、この部屋の人達って滅茶苦茶強くないか?」

エマ「確かに、さっきまで一緒に戦っていたけど…安心感って言えばいいのかな? 上手く言えないけど私達のチームには無い強さがあったよ」


イザベラ「まだこのチームのリーダーが戻ってないらしい」

エマ「これ程のメンバーが揃ったチームのリーダーか…一体どんな人なんだろう?」

イザベラ「――…帰って来たみたいだぞ?」





――ジジジジジ




梨子「あ、曜ちゃん! 帰って来たね!」パァ

「ちょっと遅いですよ…心配しました」フゥ

「だから言ったじゃん、心配ないってさ」

「そうそう♪」


「理亞ちゃんと聖良ちゃんもお疲れ!」ニコ

「良かったぁ、これでみんな無事だね」

善子「当たり前でしょ? 私達なんかよりずっと強いんだから。寧ろここでやられていたら困るわ」




内浦から帰って来た曜と鹿角姉妹
部屋には既に仲間達が帰還していた

曜は千歌との約束通り全員を生き返らせた
新たな仲間と共にメンバーの再生、装備の強化を行い
この日に備えて着々と準備をしてきた




曜「ふふ、ただいま…みんなも無事で良かったよ」


果南「この日の為に戦ってきたんだよ? 当然だよ」

梨子「私と果南さんでこのマンション周辺はきっちり死守したよ!」


花丸「見つけた人々は転送したけど…巨人とロボットの増援が来たからガンツから強制転送されちゃったずら」


曜「そっか、私がそう設定したから仕方ないよ」



ルビィ「私達も頑張ったけど…小さい飛行船みたいのにいっぱい連れて行かれちゃった」シュン

善子「倒せる敵は大体やったけど、デカいロボットみたいなのもは無理だった。あれはここにある武器だけじゃ太刀打ち出来ないわね」


理亞「連れて行かれた? あのデカい宇宙船にって事よね?」

ルビィ「うん…全部同じ方向に飛んで行ったから間違いないよ」

聖良「だとしたら、あの宇宙船に潜入する必要がありますね……」


ダイヤ「それなら大丈夫ですわ。先ほど東京チームの穂乃果さんから通信がありました」

曜「穂乃果さんから?」

鞠莉「アメリカチームから宇宙船の地図を貰ったみたいでね、私達にもそれを送ってくれたってワケ」

果南「どの場所に人が連れて行かれたかも分かったよ。ガンツでそこに直接転送も出来るってさ」


ダイヤ「穂乃果さん達は一度救出に向かったそうですよ。…何でも連れ去られ人は血抜きされ食用に加工されているとの事ですわ」ギリッ



理亞「――…どうする、リーダー?」

曜「………」


梨子「…私はいつでも行けるよ」

花丸「ずらっ!」

ルビィ「ルビィ行けますっ!!」グッ

善子「さっさと決めちゃいなさい?」




曜「――…みんなは怖くないの? これから行く場所は敵の本拠地、何が起こるか分からないんだよ?」

果南「そりゃ……当然怖いよ。だよね、鞠莉?」

鞠莉「ええ、“一人”だったら絶対に行かないわ」


ダイヤ「私達には仲間がいます。一人では無理でも、仲間と一緒なら…いえ、このメンバーならどんな困難でも乗り越えられますわ。私達“11人”なら絶対に」


曜「!!」




善子「って言うか、今さら怖いか聞かれてもねー」

花丸「確かに」クスクス

ルビィ「怖い思いは散々してきたからねぇ……」


曜「………」



果南「――…じゃあ、やめる?」

曜「え?」ピクッ

理亞「そうですね、リーダーの判断なら仕方ないですから」チラッ

聖良「! まあ、このデータを他のチームにも流せば誰かがやってくれますよ。無理して私達がやる必要性はありませんからね」

果南「そうそう、だから止め――」

曜「『――やめない!!』……あっ」



果南「ふふふ、久々に“千歌”が出てきたね?」

梨子「全く…最初から決まってるんだったら曜ちゃんの意思で言ってよね」

善子「変なところで優柔不断なのは変わらないんだから」ヤレヤレ

花丸「千歌さんもまだ元気そうで良かったずら♪」



曜「あ、あはは…。ゴホン、変な心配かけてごめんね」

曜「…じゃあ、これから敵の本拠地に潜入しよう。今回は敵との戦闘はほとんど無いと思う。もし遭遇したら“勝つ戦い”では無くて“生き残る戦い”をすること。絶対に無理はしないでね」



鞠莉「無理はするな、だってさ……」チラッ

果南「な、なに?」ジトッ




曜「危ないと思ったらすぐに転送してもらう事。その時間は私が稼ぐ」

善子「はぁ? 無理するなって言っておいてそれは無いでしょ?」

梨子「よっちゃん、曜ちゃんの事はよく分かってるはずよ?」

善子「リリー……」




エマ「――…あ、あの!!」

曜「ん? そう言えばあなた達は…?」

ダイヤ「紹介が遅れましたわね、この方々は富山チームのイザベラさんとエマさんです。静岡で戦闘中だったところに私達が合流、その後私達と一緒にこの部屋に来て頂きました」



曜「なるほどね……どうしたの、エマさん?」

エマ「私も一緒に連れて行ってもらえますか?」

曜「私達と? 富山に帰らなくていいの?」


エマ「あの宇宙船には私の友人がいるんです…自分が非力なばっかりに目の前で連れて行かれました」ギリッ

曜「………」


エマ「一緒に探してくれ、なんて言いません。せめて宇宙船の中にだけでも連れて行ってください…お願いします」


曜「その子は静岡で連れ去られたの?」


エマ「そうです」

曜「…ならまだ間に合うかもね」

曜「エマさんも連れて行こうと思うけど、いい?」



理亞「構わないわー、もう早く行きましょうよリーダー」

聖良「連れ去らわれた方を助ける為にも早く行くべきですね」




再び全員の顔を確認する曜
皆それぞれ違った表情をしているが
恐怖、悲観、不安など負の感情を出した表情の者はいなかった




曜「(ふふ…私にも表情を見るだけで覚悟が出来ているかどうか分かるようになっちゃったわけか)」

曜「――…よし、ガンツ! 今すぐ転送して!!」




――ジジジジジ




転送が始まり、各々身体が足元や頭の先から消え始めた

武器の最終確認をする者
隣の仲間と手を取り合う者
目を閉じ再び精神統一する者
部屋に残る者と会話する者
意味の分からない詠唱を唱える者
それを隣で聞きながら苦笑する者

これから敵の本拠地に向かうとは思えない
緊張感に欠ける雰囲気であった
ただ、曜にはこの雰囲気がとても心地よかった

――…曜は静かに目を閉じた




『――みんな相変わらずだね、高校時代と全然変わらないや』

曜「(千歌ちゃん…久々に出てきてくれたね? 花丸ちゃん達を生き返らせたとき以来だから……2年半ぶり?)」

千歌『えへへ……夢に出るって言ったけど、そこまでの力は残って無かったみたい』

曜「(………)」

千歌『……こうして話せるのも、これで最後になると思う』

曜「(…そっか、だからこのタイミングにしたんだね?)」

千歌『まあね、もう一度曜ちゃんやみんなの顔や声が聴けて良かったよ…』


曜「(なーんか不思議な感じ。今度こそ本当にお別れなのに、また逢える気がする)」

千歌『曜ちゃん……』

曜「(――…あの時、伝えたい事は全部伝えたから……今回は何も言わないよ)」

千歌『分かってる、同じ事言われても感動半減だもんね』



千歌『じゃあ、気を付けてね! 絶対にみんなと一緒に帰ってくるんだよ――』スウゥゥ






曜「―――っ」パチッ




目を開くとそこは巨大な流れるプールのような施設があった
いくつものレーンで区切られており
丸裸にされた人々が激流に流されている

奥の方では胸に穴を空けられ逆さ吊にされた大量の人間が流されていた
今流されている人々がこのままではどうなるのか
誰が見ても明らかであった


既に梨子と善子がZガンを使用し水流の制御装置を破壊
他のメンバーも水中にいる人々の救出に向かっていた




果南「曜! 早く行くよ!!」

梨子「ぼーっとしている暇なんて無いよ!」

善子「頼むわよ、リーダー」




曜「――…うん、今行くよ!」ダッ





千歌「GANTZ?」追加ストーリー ~終~

ここまで読んで頂きありがとうございました

このストーリーは前作で考案していたもう一つのエンディングをベースに作成しました
原案ではラストミッションで千歌以外が全滅
誰か一人しか再生出来ない状況で誰を再生するか…

これをそのまま曜に置き換えて展開しようとしましたが、全く別の話になっちゃいました

カタストロフィ編は物語の着地点が全く思いつかないので
申し訳ないですが書くことは無いと思います

(おまけ)

――
――――
――――――
――――――――
――――――――――
――――――――――――


~ガンツの部屋~




――ジジジジジ




凛「にゃあぁぁ……久々のミッションだね! テンション上がるにゃあ!!」

絵里「り~ん! 元気なのはいいけど、勝手に暴れまわらないでよ」

真姫「そうよ、援護する身にもなりなさいよね」ジトッ

花陽「凛ちゃん……」ハァ…



希「おぉ! にこっちはお仕事無かったんやな。随分ラフな格好で転送されてるやん」ニシシ

にこ「まあね、折角のオフだったのに…ホント迷惑よ!」プンプン



海未「穂乃果、ことり、お久しぶりです」ペコッ

ことり「久しぶり! 元気だったぁ?」

穂乃果「うん、いつもと変わらず元気にやってたよ」

ことり「海未ちゃんは……前よりちょっと変わった?」

海未「ええ、カタストロフィ事を話してもらってから日々の鍛錬にもより真剣に取り組めるようになりましてね…ここで100点をより多く取る為の備えは万全ですよ」ニコ

穂乃果「おぉ…こりゃ、もう私より断然強くなっちゃったんだろうな」アハハ…

海未「どうですかね? 強さには色々ありますから。そうだ、今度手合わせしませんか? 無論、スーツは無しで」

穂乃果「い、いやー…さすがにそれじゃ私に勝ち目が無いなぁ」ビクビク




――ジジジジジ




「――…あれ? もしかして私が最後ですか??」


凛「あ! 普通怪獣ちゃんだ!!」パァ

「ちょっと凛さん! ガンツが付けたあだ名で呼ばないで下さいよぉ」プンプン

花陽「そうだよ、前から嫌がってるでしょ?」

凛「えー…可愛いあだ名だと思うんだけどなぁ」シュン

「あ、いや…そんなに落ち込まないで下さい」アセアセ


にこ「年下困らせてどうすんのよ…」

真姫「気にしなくていいわよー」ヤレヤレ

「は、はぁ…」




絵里「確か今日は…まだ静岡のはずよね?」

「はい、明日の朝に帰る予定でした」

希「そっか~、なら帰りの交通費が浮いてラッキーやな♪」

「え? まあ、そうなりましたね……ん? なんかデジャヴ……」ムムム



ことり「それでどうだった? “年上の同級生”に会って来た感想は?」


「――…そうですね、まさか曜ちゃんが今も戦ってるなんて…それも果南ちゃんも一緒だったのは驚きましたね」

「そう言えば、穂乃果さんから教えてもらったメンバーのほとんどは卒業したみたいでしたよ? あの場にいませんでした」



穂乃果「そうなの? 千歌ちゃんじゃなくて曜ちゃんが残ったって事なのかな……」

「そこまでは分かりませんが…とにかく、曜ちゃんに気付かれなかったのはラッキーでした」フゥ

穂乃果「そうだよ! 仕方のない状況だったとしても、何でステルスを解いちゃうのさ!? 危うくバレちゃうところだったんだよ!?」

「うぅ……ごめんなさいぃ」グスン

海未「まぁ、電話で知らされた時は焦りましたが、バレなくて本当に良かったですね」

ことり「でも災難だったね? お忍びで帰ったのに星人との戦闘に遭遇しちゃうなんてね」


「……でも、曜ちゃんの姿や声が聴けて良かったです。きっと“未来”の千歌とも仲良くやってるはずです」

穂乃果「ねぇ、やっぱり私の事恨んでる?」

「まさか! 穂乃果さんが情けをかけてくれなかったら、今生きていません。法律上存在しない私を養ってくれている穂乃果さんには感謝していますよ」

穂乃果「でも…」


「その時が来たら私から打ち明けます。私の存在は曜ちゃんと“私”にしっかり決めてもらいますから」ニコ

穂乃果「そっか……」



「――…さあ、もうすぐ今夜のミッションが始まります。今回も気合い入れていきましょう!」

穂乃果「……うん! よろしく頼むよ!!――――…“千歌”ちゃん!!!」



千歌「――――はい!」

今度こそ終わり
沼津の高校で曜とダイヤを助けた人物が未回収だったので追加しました

今度は何故こうなったのかをμ'sをサイドの話を書いてみたいですね…
それでは失礼いたします。

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