【デレマス】のぼる棟方さん (63)

*初投稿です。慣れるまでは短く区切って投稿します。



「アイドルに興味はありませんか?」

そう言ってあたしに名刺を差し出してきたスーツ姿の男性は、上京して間もなく346プロ所属のアイドル候補生となったあたしの担当プロデューサーになった。


両親の反対を押し切り、無茶を通してまでアイドルになった理由は、アイドルになったら『女の子といっぱいお友達になれそう』だったからだ。家族のことはみんな大好きだし、離れて暮らすのは寂しいけど、実家の青森には同世代の女の子との触れ合いが壊滅的に少なかった……。

同級生四人だけとか何の冗談なの。

その数少ない同級生の一人から『お山の求道者(へんたい)』と呼ばれ忌み嫌われていた、あたしことーー棟方愛海(むなかたあつみ)が新たなる天地を求めて誘われたのは、大都会、東京だった。

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日本の首都といえば、東京だ。東京といえば、東京バナナのイメージ。東京バナナといえば、美味しくてやわらかーい。美味しくてやわらかーいといえば、女の子のお山(ハートマーク)。

女の子のお山(ハートマーク)といえばーー登りたくなるのが心情ってもんでしょ!

連想ゲームでテンション上がってキター!

美少女登山家、棟方愛海ちゃんによるウハウハ!アイドルお山パラダイス!!な毎日がこれから始まるんだね!ウヒヒヒヒヒッ!



そうしてーー苦渋の決断の末、あたしはアイドルになることを決めた。

それは桜が舞う季節、あたしが中学三年生になった頃だった。



「まずはご自分の置かれている立場を再確認して引き続きアイドル活動に励みましょう」

そう言ってあたしに説明を始めたスーツ姿の厳つい見た目の男性は、346プロ所属のアイドル候補生となって一ヶ月が経ったあたしの担当プロデューサーだった。

346プロこと『美城プロダクション』は東京にある芸能事務所であり、そのアイドル部門に所属するアイドルタレント(候補生)の一人が貴女ーー棟方愛海さんで、私は貴女のアイドル活動全般を全面的にサポートする担当プロデューサー……

って、知ってるよ!もう何回も聞いたよその話!耳が痛いよ!耳タコだよ!わたしの記憶力を少しは信じてよ!?

休日の朝から夕方のこの時間まで、適度に休憩を挟みつつもみっちり続いたキツいとしか形容のしようがないレッスン終わりだったのもあってか、わたしは頬を膨らませて、腕も組み、胡乱な目をしてプロデューサーを睨んだ。


鈍感なプロデューサーでも気づくように分かりやすく不満を表してみた。激おこプンプン丸状態なんだからね!

わたしの不満を受けて少しは反省したのかプロデューサーがおもむろに首筋に手をやった。考え事や困ったときがあったりした時にプロデューサーはよく首筋を手で触るクセがあることを、わたしは知っていた。


「……ですが、棟方さん」

だけど、プロデューサーは首筋に手を当てながらも、毅然とした態度だった。


「貴女にはアイドルとしての自覚が余りにも足りません」



「……ごめんなさい……プロデューサーさん……」

そうだった。言われて気づかざるを得なかった。本当に反省すべきはわたしのほうだった。今日に至るまで、自分でも省みる点が多すぎて謝る気なんてまるでなかったのに謝罪の言葉が自然と口に出ているほどには、アイドルとして不出来で不甲斐ない自分がいた。

思い返すとアイドル候補生として受けたレッスン初日から失敗続きだった。初日から寝坊で二時間遅刻してトレーナーさんとプロデューサーさんに開幕叱られて泣きそうになった。その後、わたしと同時期に入ったであろうアイドル候補生の(全員チョー可愛い!)女の子たちとの初顔合わせの大事な挨拶では、せっかく遅刻をしたのだからとそれをネタしたら見事にダダ滑り、またトレーナーさんに叱られて……と、この一ヶ月で何回トレーナーさんに叱られたか数えても数え切れないくらいだ。

眠いので投稿はとりあえずここまで。
続きは明日の夜にします



ダンスレッスンとヴォーカルレッスンは、始まって早々にわたし一人だけ体力向上レッスンと称して、その内容が一部変更になったし(鬼コーチならぬ鬼トレーナー命名)。

早朝のラジオ体操という健康的な運動から始まるそのレッスンは、鬼コーチと一緒に声を出しながらの外周ランニング(なんの苦行だ)に続き、鬼コーチの一存でそれが終わると、今度は室内のレッスンルームに移動して腕立て伏せや腹筋、その他諸々の筋トレ、流れで体幹とやらを鍛えるトレーニングもするんだ。

途中で休憩を何回も挟むとはいえ、この時点でわたしは既に半泣きでダウン目前のボクサーのように前後左右に、フラッフラッ、している。

その後の、休日はいつも夕方まで行われる各種通常レッスンは、貧弱ひ弱な一介の女子中学生でしかないわたしにとって、いかにキツいレッスンなのかお分かりいただけたと思う。

毎夜、女子寮の枕を濡らしているのだよ……



『いい加減、身体が慣れてくれないとそろそろアイドル辞めるレベル』とかツイッターの匿名読み専アカウントに気づいたら愚痴ツイートしてるレベルには、色々しんどいし、辛いし、泣けるし、今もその状況は変わらない。

あと、すごく重要なことなんだけどーー当初期待していたほど、アイドルのお山に登れてないんだけど!眺めるだけじゃ満足できないよ!寂しいよ!アイドルになる前は自由に登れてた地元の女友達のお山が恋しいよ!

……もうなんでもいいから登りたいよ……ここはお山の求道者が長き旅路の果てにたどり着いた桃源郷のはずではなかったの……?桃色天国は何処へ……?


同僚アイドル達には、露骨に避けられてるし……

三日前くらいに、すごく意地悪なことを言われて腹が立ったから衝動的にその小さなお山を鷲づかみ登頂(*キケンなので絶対にしないように)したらギャン泣きされたアイドル候補生Kさんに嫌われるのならまぁわかるけど、他の女の子達には特に何もしてないよわたし!?

多分……恐らく……メイビー……ほんのちょっとだけ上半身のスキンシップが激しかったこともあったような、なかったような!?よく分かんないや!覚えてないからノットギルティ!



……話がだいぶ逸れてしまったから戻すけど、プロデューサーさんの言うとおり、確かにアイドルとしての自覚なんてもの、あたしには今もない。

あたしは、女の子なら誰もが一度は憧れる『アイドル』。

ド新人のアイドル候補生だけど、アイドル活動という名のトレーニングとか毎日それなりに頑張っている。宣材写真の撮影の時なんかも、慣れない作り笑顔で何回も撮り直したけど、最終的にはオッケーを貰って少し嬉しかった。


……でも、でもね。

あたしは自分のアイドル活動を誇れないんだ。

誰にも自慢できない。

家族にすらまだ何も報告してない。

例えばの話、学校の友達相手に「あたしって実はアイドルやってるんだ!よかったら今週末のライブ観に来てねっ!」なんてアイドルらしく可愛く宣伝することもできないだろう。


アイドルとしての自覚が足らないから?胸を張れないのかな?本気で取り組んでないから?誰にも何も言えないのかな?

プロデューサーさんに問われるまでもなく、自分の中でとっくに答えはとっくに出ていた。


アイドルでいる自分が好きじゃないからだ。

好きじゃないことを一生懸命頑張れるはずがなかった。



「愛海ちゃんも注文しますか?裏メニューの『346アイドル定食』。時価ですけど、大体千円以下でご希望の料理が食べれますよ」

「……え?よく分からないんだけど、裏メニューはバラ寿司なんじゃないの?」

つまりどういうことだってばっ。


「えぇーと、バラ寿司自体 は、悠貴ちゃんが『346アイドル定食』を頼まれた際に大好物を希望したことで裏メニューに登録されてある『おかやまバラ寿司』のことですね、多分」


「地元の郷土料理なんだよっ!美味しいよっ!後で少し分けてあげるからねっ!」

悠貴ちゃんが『おかやまバラ寿司』について嬉しそうに語っているけど正直全く耳に入ってこなかった。本能が『346アイドル定食』という怪しい裏メニューの理解を拒んでいた。

でも、知らなきゃ話が前に進まないんだよなぁ……気が進まないけど、なんかあたしも頼む流れになってるし……


つまりだ。ウサミンから断片的に聞いた『346アイドル定食』とやらの内容を纏めると、


「裏メニューの『346アイドル定食』っていうのは、自分が希望した料理なら時価で何でも作ってくれるってこと?」


「概ね、その理解で正しいです。情報を補足するなら、アイドルの方限定で、大好物の一品を登録して提供する、という内容の裏メニューですね」


「……考えた人はバカなの?」

失礼を承知で言わざるを得なかった。

そんな中学生のあたしでも分かるようなお店の利益や手間暇を度外視した裏メニュー……あたしなら絶対に作らない。

だって、アイドルしか得してないじゃん。


「あはは……そうなんですよ」

ウサミンは大らかに笑うように言った。


「ウチの店長……筋金入りのアイドルバカですから」



「ウチの店長……筋金入りのアイドルバカですから」

アイドルバカって……要するに、アイドルの熱烈的なファンってことだよね?だとすると、一体誰の?


「ふふっ、店長のお話はまた次の機会にしましょう。お二人のお昼休憩の時間も残り少ないでしょうし。さぁ、ご注文はいかがなさいます?」


「……『346アイドル定食』で」

しばらくして悠貴ちゃんと一緒に食べた『ひっつみ』は故郷で食べたママの味つけを思い出すようで……たんげうめぇかった。

頼んでもないのに白飯が付いてきたのも嬉しかった。何回かおかわりもしてしまった。箸が止まらなかった。悠貴ちゃんの頼んだバラ寿司も絶品だったし。おまけに、驚くほど安かった。


食事終わりにレッスンルームへと歩きながら、悠貴ちゃんとまた一緒に食べに来ようねと約束した。

素敵な店員さんと店長さんが営む、少し不思議で素敵なカフェに。ランチを食べに行こうと。

本気でやったら今日だった。
次回更新は……明々後日で(本気

いよいよ選ばれし七人のアイドル候補生のうちの一人、アイドルKさんのエントリーだぁ!



自前のお山に登ると、途中で必ず『賢者タイム』が訪れて煩悩が退散するので、この方法は諦めるしかなかった。

かといって、妄想で欲求解消しようにも、時と場所を選ばなければ上手く没入できないので色々と不自由だ。


常に欲求不満な毎日。両指を持て余す女子寮生活。

周りにはとびきり可愛いアイドルの女の子たちがたくさんいるのにその中の一人も手が出せないなんて……やわらかいお山に登れないなんて……


自分の生き方を曲げて……周りに気を使って……好きなことを好きだと言えないままアイドルであり続けるなんて……

そんなのイヤだっ!あたしはお山登りとアイドルのお仕事を両立させてみせるんだ!絶対に!


絶対!絶対!絶対!絶対!

絶対特権主張しますっ!(やわらかおっ◯い揉みまくりますっ!


よしっ。あとで各方面からしこたま怒られる覚悟が完了したところで……いざ行かん。


「気の弱そうな女の子を見つけて絶対特権主張するぞーっ!オーッ!」

……エタりはしないさ(フッ

次回更新は明後日だよっ♪

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