モバP「ファイヤーボンバーバーニング」 (78)



D「さぁーさ、Pさん! 次行きましょ、次っ!」

D「何にしましょーかね? ラーメンいっちゃいます?」

D「あでもラーメンはまだ早いっすよね! 〆ですもんね!」

P「いや、あの……うっぷ」

D「それともアレすか? やっぱ女のコがいた方がいいっすかね?」

D「自分そういう店も詳しいっすよ! ちょっと待っててくださいね、この近くに――」

P「いえ、すいません」

P「今日はそろそろお暇しようかと……」


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D「は?」

D「いやいやまだ二軒回っただけっすよ?」

D「いつもはもっと付き合ってくれるじゃないすか、なんだつれないなー」

P「明日早いんです、終電もありますし――」

D「ぶははっ! 終電! いや、面白いなーPさんは!」

P「え?」

D「まあまあいざとなったらタクシーでも何でも呼べばいいじゃないっすか!」

D「そんなん気にしてたらプロデューサー業なんて勤まらないっすよ!」

D「むしろこっちが本分ですって! 言うでしょ? 飲みニケーションって」

P「飲みニ……?」


D「そ、プロデューサー業は人脈が命!」

D「接待してコネ作ってナンボの世界っすからね!」

D「飲みニケーションの一つや二つできないとやっていけないっすよね! わかってますわかってます!」

P「はあ……」

D「いやほんと大変っすよね! 俺同情しちゃいますわ!」

D「しゃーない! いいっすよ! そういうことならとことん付き合いますわ!」

P「は?」

D「Pさんのコミュ力向上のためにね! 不肖私めが朝までレクチャーしてあげますよ!」

P「え?」

D「そうとわかれば善は急げ! さぁさ、行きましょ行きましょ!」グイグイ

P「ちょ、あの、あんま揺らさないでください。行きます、行きますから」

P「うえっぷ……はぁ」

P「いいのかな、俺こんなことしてて……」

D「なーにいってんすか! いいんすよこれで!」

D「短い人生、楽しんだもん勝ちですって!!」




――――
――翌朝



P「う……」

P「だめだこれ、予想外に残って――ん?」


ドドドドドド……


茜「ぶぁあああーーーーにんぐっ!!」

茜「Pさんっ!! おはようございまああああーーーっ!」


ドガシャーーン!!


P「おはよう、茜」



ガバッ!


茜「はいっ! Pさん、おはようございますっ!」

茜「快晴! 快適! いい陽気! 今日は本当、いい天気ですねっ!」

茜「思わず走り出したくなってしまいますね! 走り出したくなってきませんか!?」

P「ごめん、体調悪くて走れそうもない」

P「茜、今日は早朝レッスンだろ? いいよ先に行ってて」

P「俺、トレーナーさんと打ち合わせあるからさ、その後で見に行くよ」

茜「はい! わっかりました!」

茜「それではまた後ほど! 失礼しますっ! うおおおっ!!」

茜「ぼんばーーーっ!!」


ドドドドドド……


P「足下気をつけてなー」

P「……元気だな、本当」


―――
――


P「……十曲?」

マス「うむ」

P「一週間でですか?」

マス「そうだ」

マス「次のライブまでに全曲マスターさせる」


P「キツくないですか?」

マス「曲自体は三人とも知っているものだよ」

マス「観客の前で演ったこともある」

マス「ただ振り付けが変わるだけだ、心配には及ばない」

P「しかし、一週間はあまりに――」

マス「短い、と?」

P「そう思います」

P「ポジパも忙しいですし、全体練習の時間も限られてる」

P「今日だって朝しか集まれないからって、早朝レッスンしてるわけで」

P「できればもうちょい余裕を持ってですね……」

マス「ふむ」

マス「私には長いくらいに見えるがね」

マス「どうやらP殿は自身のアイドルを過小評価しているようだ」


P「過小……そうかな?」

マス「P殿、若者の吸収力を侮ってはいけないよ」

マス「一を聞いて十を知るという言葉があるだろう」

マス「あのくらいの年の子はみんなそうさ」

マス「三日も経てば見違えるし、一週間もすれば別人になる」

P「確かに若い時は何でもすぐに覚えられましたけど……」

マス「だろう? 今の私たちと比較するから駄目なんだ」

マス「我々とは密度が違うんだよ、時間の密度がね」


P「時間の密度、ですか」

マス「そう、だから私は一週間でも長いくらいだと思っている」

マス「五日、いやそれこそ三日でいいんじゃないか?」

マス「どうだろうP殿、三日で全曲マスターというのは」

P「いやいやいや」

P「流石にそれはやめてあげてください、藍子とかぶっ倒れちゃいますよ」

マス「そうか? ふふ、全くP殿は過保護だな」

P「マストレさんはスパルタ過ぎますって……」


ヴー ヴー


P「ん? 俺のスマホか」

P「すいません、ちょっと失礼します」


P「はい、もしもし」

P「あ、Dさんですか。はい、はい、昨日はどうも」

P「そうですね、また誘っていただければ……え? 明後日?」

マス「……」

P「いえ、そんな、予定確認してみますね、え?」

P「あ、ちょ、Dさん、Dさん?」

P「……切れた」

P「まいったな、もう」

マス「P殿もご多忙なようで、なによりだ」

P「はは、いや、まあこれも――」

マス「仕事のうち、と?」

P「……」

マス「まあいい、私は口出しできる立場にないからな」

マス「そのかわり、彼女たちのレッスンは任せてもらおう」

マス「必ず一週間で形にしてみせるよ」

P「……わかりました、よろしくお願いします」


――――
――夕刻


P「……二日酔い、治らんな」

P「明後日はまた飲み会らしいし」

P「はよ帰って寝――」


ドドドドドド……


茜「Pさーーーんっ!!」


ドゴォッ!!


P「ごふっ」


茜「今お帰りですかっ!! よ、よければっ!!」

茜「よければ私と一緒に、一緒に!」

茜「一緒にっ! 帰り! ませんかっ!!」

P「」

茜「Pさんっ?」

P「おう、大丈夫、帰る、帰ろう」

P「でもちょっと待ってな、あの、息が、げほっ……いいタックルだよ、本当」

茜「ホントですか! ありがとうございますっ!」

茜「きたえてますからね! これもトレーニングのたまものですっ!」

P「何本か持って行かれたかと思った」



―――
――


茜「1、2、3、4……」タッタッタ…

茜「1、2、3……ターンッ!」クルッ

P「おー」パチパチ

P「すごい、それ今日覚えたやつ?」

P「完璧じゃん」


茜「いえいえっ! まだまだです!!」

茜「ここでこう、テンポを落とさなくてはならないのですが……」

茜「これが苦手でして、ほっほっ……ほあっ!」タッタッタタッ

P「あー」

P「ちょっと速いかな」

茜「うー! なかなかうまく行きませんねっ!」

茜「こういうのは未央ちゃんが上手なんですよっ! ぱぱぱっとこう、鮮やかなんですっ!」

P「ほお」

茜「明日お二人に教えてもらいましょうっ!!」

茜「そのためにも今日は復習、復習ですっ! やるぞーっ!」


P「帰ってからも自主練か」

P「悪いな、こんな過密スケジュールで」

茜「いいえっ! なんてことありませんっ!」

茜「私今、燃えていますからっ!!」

P「燃えてる?」

茜「はい! 燃えているときは疲れなんて感じませんっ!」

茜「次から次へとパワーが溢れてきて、常に全力でいられるんです!」

P「へえ」

P「アドレナリンでも出てるんだろうか」

茜「それだけじゃないんですよ! バーニング時にはですね……」

P(バーニング時?)

茜「いつもよりご飯がおいしくなるんですっ!」

茜「さらにっ! 夜もぐっすり眠れるようになるんですよ!!」

茜「すごい! これってすごくないですか!?」

P「すごい」


P「快眠、快食、疲れ知らずってわけだ」

P「うらやましいな。俺もあやかりたい」

P「特に最近寝不足だからな」

茜「Pさんも熱くなればいいんです!」

茜「一緒にバーニング、しましょう!!」

P「バーニング、したいな」

P「どうすればいいんだろうな」

茜「? どうすれば、ですか?」

P「うん、どうすれば熱くなれる?」

P「どうやったら茜みたいになれるだろう」


茜「なんだ、そんなことですか!!」

茜「簡単ですよ! 己の信念に従えばいいのです!!」

P「信念?」

茜「はい! 魂の赴くまま、自分を偽らなければいいのです!!」

茜「私はこれが好き! こうしたい! こうなりたい! と全力で叫べばよいのです!」

茜「そうすれば自ずとハートに火が点いて、勢いよく燃え上がりますよ!!」

P「なるほど」

P「それができたら、どんなに楽なことだろうな」

茜「えっ?」

P「いや、なんでもない」

P「……ところで、こんなとこまで来ちゃったけど、大丈夫か?」

茜「へっ?」

P「茜、帰り道そっちじゃなかった?」

P「このまま行くと駅だけど……」


茜「あ……ああっ! うっかりしてました!!」

茜「すみません、Pさんっ!! 私、こっちでした!!」

茜「あのっ! 今日は本当にありがとうございました!」

P「おう、練習頑張ってな」

P「あんまりマストレさんが無理言うようだったら相談してくれ」

P「こっちでどうにか対応するから」

茜「はいっ!! それではまた明日!」

茜「失礼しますっ!! うぉぉぉっ、ぼんばーー!!」


ダダダダダッ……


P「転ぶなよー」

P「……もう見えなくなった」

P「はぁ」

P「明日も仕事か、それに明後日は……」

P「……信念、信念か」

P「そんなもんがあるのかな、俺に」



―――
―――――



D「Pさんだってうすうす感づいてんでしょーっ!」

D「うちらの人生、もう大勢決してんですわ!」

D「今さらマジになったところで、なにも変わりゃしないんすわ!!」

D「この下らない現実に乾杯しましょ乾杯っ!!」


P「Dさん、少しペース落としたほうが……」

D「まあまあ聞いてくださいよPちゃん! ね! ホラ座って!!」

P「(Pちゃん?)」

D「なあ、Pちゃん今何年目よ?」

P「何年……、五年目くらいですかね」

D「五年ね! それくらい経ちゃあもう何となく分かってくるっしょ!」

D「自分の立ち位置って奴がさ!」

P「立ち位置?」


D「例えばPちゃんはさあ、将来自分が社長になれると思う?」

P「なんですかいきなり」

D「まあ答えなって」

P「……いや、社長はどうですかね。なれるなれないとか以前に」

P「自分には器じゃないかなって気がします」

D「"器じゃない"! それよそれ! Pちゃんいい言葉知ってるね!!」

P「はあ」

D「そう、もうこの年になると悟っちゃうわけよ!」

D「自分の能力の限界ってやつをさ!」


D「あくせく働いても、八方美人に媚売っても」

D「越えられない壁ってのはやっぱあるわけよ!」

P「……」

D「俺なんかいい例よ? ディレクターまでは速かったのにさあ」

D「そっから十年、今に至るまで何の音沙汰もないわけ!」

D「十年だぜ十年! Pちゃん信じられる?」

P「いえ……」

D「その間どんどん若手に追い抜かれていってよ」

D「あんな小さかったガキが高校に通うまでになっちまった」

D「なんかもうアホらしくなってさあ、ついには気付いちゃったのよね」

D「結局、そうなんだなって」

D「器じゃないやつが必死になったところで、なんも変わりゃしないんだなって」


P「……」

D「まあまだPちゃんは若いかもしんねえけどさ!」

D「二十も後半なら人生、ほぼ決まったようなもんだって!」

D「今から何かになろうなんて考えるだけ無駄無駄!」

D「これから野球選手になろうとか、パイロットになろうとかぜってー無理っしょ?」

D「バカ正直に夢追いかけたって、それこそバカを見るだけっすわ!」

P「そう、ですかね」


D「そぉーよ! そう!」

D「やたら暑苦しい奴とか意識高い奴とかいるけどさ」

D「俺から見たらああいう奴らは人生損してるね! 今を生きてない!」

D「叶わねえ夢追って必死になってよ、後悔するのが目に見えてんのに」

D「いつも言いたくなるね、いい加減現実みなよってさ」

P「……」

D「人間、大人になんなきゃダメよダメ。いつまでも子供じゃないんだって」

D「できないものはできない、無理なものは無理! スパッと割り切らなきゃ!」

D「まったく、そこんとこわかってねえ奴が多すぎんだよな、ほんとによ!」

D「あ、Pちゃんは大丈夫よ! Pちゃんはこっち側だから、こっち側! ぶはは!」

P「……」


D「あ、俺ちょっとトイレ行ってきますんで!」

D「ビール、追加しといてくださいや! ジョッキでね!」

P「あ、はい」

D「こっち側どうし、これからも仲良くやりましょーや! ねっ!!」バシッ!

スタスタ…

P「はは……」




P「こっち側どうし、か」

P「……」

P「なんでだろ、酔ってるのかな」

P「なんで、茜の顔がちらつくんだろう」



―――――
―――翌朝


P「……」ボー…

P「眠……」

P「ダメだ、ちょっと休――」


ゴスッ


P「ぐおっ」

P「っつう、なん」

P「……だこりゃ? DVD?」

マス「お疲れのようだな、P殿」


P「あ、あれ? マストレさん?」

P「今日、何かありましたっけ」

マス「いや、何も」

マス「ただちょっと面白いものが手に入ったのでね」

P「……? これですか?」

マス「ああ」

マス「彼女たちのこと、褒めてあげるといい」

マス「私自身、これほどとは思わなかった」

P「??」

P「ええと」

P「よくお話が見えてこないんですが……」

マス「そうだろう」

マス「なにせまだ三日しか経っていないからな」

マス「なんだかんだで、一週間はかかると踏んでいたんだがね」

P「三日?」

P「……」

P「……まさか」


マス「言っただろう」

マス「私たちとは時間の密度が違う、とね」



―――――
――


茜「~♪」

茜「~~♪」

P「ご機嫌だな、それに」

P「今日はやけに静かじゃないか」


茜「静か、ですか? そうですかねっ?」

P「そうだよ、いつもはほっといたら走り出しそうなのに」

P「ずいぶんとスローペースだからさ」

茜「えへへっ」

茜「せっかくPさんと一緒に帰れるのですから!」

茜「たまにはゆっくり歩くのもいいかと思いまして!!」

P「なんだ」

P「てっきりレッスン続きで疲れてるのかと」

茜「いえいえ! 全然元気ですよっ!!」

茜「なんならダッシュしましょうか? ダッシュいけますよ!!」

P「ダッシュいいです、ノーダッシュで」

P「まあ、それならゆっくり行こう」

茜「はい!」


茜「~♪」テクテク

P「……」テクテク

茜「~~♪」

P「……」

P「映像、見たよ」

茜「はいっ、えっ?」

P「マストレさんからもらったんだ」

P「昨日の全体練習のやつ」

茜「あっ! リハーサルのときのですね!」

茜「私も見たいですっ! きちんと出来ていましたかねっ!?」

P「驚いたよ」

P「ばっちりだった」


茜「ばっちり! ばっちりでしたか!!」

P「たいしたもんだよ、本当」

P「このままステージに上げても大丈夫そうだ」

茜「ありがとうございます! 嬉しいですっ!!」

茜「でもですね! まだまだ気は抜けませんっ!」

茜「本番で最高のパフォーマンスを見せるためにも!」

茜「極限まで! 完成度を高めなくてはなりませんからっ!!」

茜「よーーっし! 明日からも、燃えていきますよーー!!!」

P「明日からも、か」

P「……」

P「若いってのは、いいよな」


茜「へっ?」

P「体力があってさ」

P「時間があって」

P「何のしがらみもなくて」

P「眩しいよな」

茜「……Pさん?」

P「疑いなくやりたいことがやれて」

P「何にだってがむしゃらになれて」

P「その気になれば、三日でできるようになっちまうんだから」

P「心底羨ましいよ、俺は」

茜「え、えっと、あの……?」

P「……」

P「いや、すまん」

P「何言ってんだ、俺」


茜「あの……?」

P「ごめん、今のは忘れてくれ」

P「ちょっと、なんだ、たぶん疲れてるんだろうな」

茜「……何か、ありましたか?」

P「大丈夫、何でもないよ」

P「少し休めば元に戻るだろう」

茜「本当ですか? 我慢しちゃダメですよ!」

茜「悩みごとがあるなら、何でも私に言ってください!」

茜「私、絶対にPさんのお力になってみせますからっ!!」

P「そりゃ、頼もしい話だ」

P「……」

P「じゃあ、ひとつ、聞いてもらおうかな」

茜「はい! 何でもどうぞ!!」


P「もしも……あのな、もしもの話だぞ」

P「もしも俺が、今道に迷っていると言ったら、どうする?」

茜「道に……ですか?」

P「そう」

P「今まで来た道に自信がもてなくなって」

P「この先どこに行けばいいかもわからなくなって」

P「一人ぼんやり、途方に暮れてると言ったら」

P「そしたら、どうする?」

茜「え、えっ?」

P「わかんないか、まあそれでもいいよ」

P「最後まで聞いてくれるだけでいいんだ」

茜「は、はいっ」


P「昔はな、全然そんなことなかったんだよ」

P「昔はなんていうか、それこそ燃えていたからさ」

P「どこに行けばいいかなんて一目瞭然だったし、何も考えず突っ走っていられた」

P「でもなんでだろな、自分じゃまっすぐ進んでるつもりだったけど」

P「しばらくして、ふと立ち止まってみるとな」

P「違ったんだよ」

茜「……違った?」

P「想像していた景色と、全然違ったんだ」

P「やっちまったなって思ったよ」

P「こんなはずじゃなかったのに、ってさ」

P「でももう、気付いたときには遅すぎたんだよな」

P「今更何をしても、時間は巻き戻せないし」

P「あのころみたいに、充実した時間を過ごすことはできない」

P「そう思うと、途端にあたりが暗くなってな」

P「……何にも見えなくなっちまった」

茜「……」

P「前は俺にも確かにあったはずなのにな」

P「それこそ、信念とか、そういう、何かがさ」


茜「……」

P「……」

P「なんか、ポエムったな」

P「どうも茜の前だと余計なことまで喋っちまう」

P「悪かったな、ちんぷんかんぷんだったろ?」

茜「……」

P「しっかし、茜はすごいよ本当」

P「三日だぞ? 俺この三日間何してたっけな」

P「酒飲んで接待してたことくらいしか覚えて――」

茜「あ、あのっ!!」

P「ん?」

茜「まだ私、答えていません!」

P「えっ?」

茜「まだ私、Pさんの悩みに、答えてないです!!」


P「」

P「いや、答えったって……」

P「俺の話、理解してたのか?」

茜「いいえ! 全然わかりませんでした!!」

P「」

P「まあ、そうよね……」

茜「あ、いえ、あの! わからなかったんですけど!」

茜「でも私、なんて言えばいいかはわかります!」

茜「つまりPさんは、道に迷っているんですよねっ!!」

P「お、おう」

茜「だったら!」


茜「だったら! 私が見つけますよ!!」


P「……は?」

茜「私がPさんを見つけますよ!!」

茜「私がPさんを探し出してみせます!!」

茜「大丈夫です! 私、視力には自信がありますからっ!」

茜「Pさんがどこにいても、きっとすぐに見つかりますよっ!!」

P「いや、しりょ、え?」

茜「そしてPさんに向かってこう叫ぶんです!」

茜「『私はここですよ!!』と!」

茜「『私はここにいます! こっちに来てください!!』と!!」

茜「そうすればPさん、迷わずにすみますよ!!」

P「……茜が?」

P「俺を、呼んでくれるってのか?」

茜「はいっ!」

茜「私がPさんを導いてみせます!!」

茜「そう! あの地平線に輝く夕陽のように!!」

茜「私がPさんの、太陽になってみせます!!!」


P「太陽……」

茜「かつて、Pさんがそうしてくれたように!」

茜「私の未来を照らし、アイドルへの道を作ってくれたように!」

ガシッ!

P「お、わ」

茜「今度は私が、Pさんを照らしてみせます!」

茜「今度は私が、あなたの太陽になります!!」

茜「だから迷ったら、私を探してください!」

茜「私、いつでもここにいますから!」

茜「Pさんの隣に、ずっといますから!!」

茜「Pさんのそばで輝き続けますから!!」


P「茜……」

茜「……」


ギューッ


P「……」

P「あの、手が」

茜「はい?」

P「手がちょっと痛い、かも」


茜「」

茜「あ、ああっ!! し、失礼しましたっ!!」パッ

茜「つつつい力がこもってしまって、というかあああの、すみませんっ!!」

茜「私、なんだか興奮してしまって、その、あの、変なことを……っ!!」

P「……」

P「茜、手めっちゃ熱いな」

茜「あ、えっ?」

P「いや」

P「俺の太陽に、か」

P「……」

茜「Pさん?」

P「……茜」

P「俺は今からでも、燃えることができるだろうか」

P「また昔みたいに、熱くなることができるだろうか?」



茜「! は、はいっ!! もちろんです!!」

茜「消えていたら、また灯せばいいんです!」

茜「絶やさず火をくべてあげればいいんです!」

茜「それがいつだろうと、どこだろうと関係ありません!」

茜「人は誰だって、いつだって、熱くなれるはずですっ!!」


茜「熱くなって、いいはずです!!」


P「……」

P「そうか」

P「そうだよな」

P「遅すぎることなんて、ないよな」

茜「はい!」

P「ありがとう、茜」

P「なんだか心配かけたみたいだな」

茜「えっ」

P「今日、俺の帰りを待っててくれたんだろ?」

P「歩くペースも、合わせてくれたんだよな?」

茜「あ、いいいえ……! それ、は……!」

茜「……あの、気付いて、いましたか?」

P「うん」

P「なんとなくだけどな」


P「でも、もう大丈夫」

P「俺のペースに合わせる必要なんてない」

P「俺も取り戻すからさ、自分の時間を」

茜「……Pさんの時間を、ですか?」

P「そう、燃えていたころの時間を」

P「必死になって生きてたあのときの時間を」

P「だから茜は俺のことなんて気にしなくていい」

P「好きなだけダッシュして先に行っててくれていい」

P「俺、絶対追いつくから」

P「次はきっと見失わないから」

茜「……Pさん」

P「ありがとう、茜のおかげで火がついたよ」

P「茜の手、すげえ熱かったからな」

茜「……はいっ!」


P「さ、茜は帰り道、そっちだよな」

P「じゃあな、今日はいろいろ世話をかけたな」

茜「は、はい、えと!!」

P「ん?」

茜「Pさん! 負けないでください!!」

茜「私、いつも応援していますから!!」

茜「だから、あの!」

茜「ファイヤーです! ボンバーです!!」

茜「バーーーニングッ!! ですよ!!!」

P「うん」

P「また一緒に帰ろう」

P「次は必ず、俺から誘うからさ」

茜「……! は、はいっ! 待っています!」

茜「あ、ああの……! えっと……!!」

茜「そ、そ、それでは!! 失礼しますっ!!」

茜「うおおーーーーー! ぼんばーーーーーーッ!!!!」



ダダダダダダッ……




P「……」

P「……」スッ




prrr…prrr…

ガチャ




P「もしもし」

P「Dさんですか」



P「いえ、違います、飲みの話ではなく」

P「仕事の話をしようと思いまして」

P「……」

P「わかってます、非常識だってことは」

P「でもどうしても今、聞いてもらいたいんです」

P「……」

P「ダメなんです、それじゃ」

P「明日じゃ、ダメなんですよ」



P「あいつら、この一瞬一秒を生きてます」

P「俺みたいに、間延びした時間を送っていない」

P「顔向けできないんです、このままじゃ」

P「俺、あいつらのプロデューサーなんです、だから」

P「あいつらと一緒の時間を過ごさなきゃダメなんです」

P「あいつらと一緒に燃えていなきゃダメなんです」

P「俺、あいつらのプロデューサーなんです、だから」



P「もう一度、みんなのプロデューサーになるんです」




―――
――





ダダダダダッ……




バターン!




P「はあ、はあ……」

P「間に合った、か?」


マス「間一髪、だね」

P「あ、マストレさんっ」

P「みんなは?」

マス「これからリハーサルだよ」

マス「そろそろ出てくる頃だろう」

P「よかった」ホッ

P「ギリギリだったな」

マス「また、打ち合わせかい?」


P「ええ、まあ」

P「ちょっと長引いちゃってですね」

マス「ふふ、噂には聞いているよ」

マス「TV局に殴り込みをかけたそうじゃないか」

P「へ?」

マス「なんでも、その筋じゃ有名なディレクターを捕まえて」

マス「会議室に閉じ込めて朝まで帰さなかったそうだね」

P「あ、いや」

マス「しかもそれだけでは飽き足らず」

マス「部長クラスまで引っ張り出して一席ぶったとかなんとか……」

P「あの、だいぶ尾ひれがついてるんですが」

マス「だが、あながち間違いでもないんだろう?」

P「……まあ、はい」

マス「ふふ」

マス「……」

P「?」


マス「前に話したろう、時間の密度について」

マス「どうやらあれは少し訂正が必要なようだ」

P「訂正?」

マス「人生には濃淡がある、その考えは変わらない」

マス「無意味に過ぎていくだけの空虚な時間もあれば」

マス「一瞬一瞬が詰め込まれた濃密な時間もあるだろう」

マス「しかし、その模様はそれこそ十人十色らしい」

マス「若くしてピークを迎えてしまうものもいれば、いわゆる晩成型の人間もいる」

マス「……一度挫折した後、また這い上がってくる者もいる」

マス「私はそれに気がつかなかった」

マス「濃い時間は、若者だけの特権ではなかったんだな」

P「……」


マス「いや、唐突にすまない」

マス「最近のP殿を見ていると、何となくそう思えてきてな」

P「いえ」

P「わかる気がします」

マス「差し支えなければ、聞かせてくれないか」

マス「どういう心境の変化なのか」

P「そうですね、それは」

P「きっと――」



??「Pさーーーーーーーーーーんっ!!!」



マス「?」





茜「Pさーーーんっ!! 見えてますかーーっ!!」

ブンブンッ



茜「ここですよーーーっ!!! 私はここですーーーっ!!!」

ブンブンブンッ



茜「日野茜は、ここにいますよーーーっ!!!」





マス「日野か、あきれた視力だな」

マス「最後列だぞ、ここは」

P「……」




茜「Pさんっ! Pさーーーーーーんっ!!!」

ピョンピョン




マス「まったく、本番前に大声出すなといったろうに」

P「……」

マス「……P殿?」

P「はい?」

マス「はい? じゃないだろう」

マス「呼んでいるよ、彼女が」

P「ええ」

P「心境の変化なんて、何にもないんです」

マス「ん?」

P「ただ、茜を、みんなを見れば良かった」

P「それだけで俺もバーニングできたんです」

マス「ばー……?」

P「バーニング状態っていうんです、すごいんですよ」

P「この状態になるとですね」


P「次から次へとパワーが溢れてきて――」



P「いつも、全力でいられるんです」






おまけ

『サポート体制』



藍子「あ、ほら来たよ茜ちゃん」

茜「どどどどうしましょう! なんて言えばいいんですかね!」

未央「そんな緊張しなくても大丈夫だって~」

未央「『偶然ですね! 一緒に帰りませんか!』くらいでいけるいけるっ」

茜「そうでしょうか? でも……」

未央「あーもうっ!」

未央「ぐじぐじ悩むなんてらしくないぞっ!」

未央「当たって相手を砕いていくのが茜ちんでしょ!」

藍子「茜ちゃん、勇気を出して!」

茜「……そうですねっ! ぃよしっ!」

茜「日野茜、突撃しますっ!」

未央「うむ、健闘を祈る!」

藍子「頑張ってー!」

茜「Pさーん! うおおおぉっ!!」

ドドドドド……


……

P「明後日はまた飲み会らしいし」

P「はよ帰って寝……」


ドドドドドド……


茜「Pさーーーんっ!!」


ドゴォッ!!


P「ごふっ」



藍子「あっ」

未央「あっ」


藍子「す、すごい音……」

未央「本当に突撃しちゃうからなー……」

藍子「うずくまってるけど、Pさん、大丈夫かな」

未央「あ、ほら、起きあがったよ。問題なさげ」

藍子「……何か話してるね」

未央「お、おおっ、一緒に帰り始めたっ!」

藍子「やった! 成功ですね!」


未央「いやまあ、大方予想通りの展開なんだけどねー」

未央「あのPさんが茜ちんの誘いを断る訳ないのに」

未央「まったく変なところで乙女なんだから……」

藍子「ふふ、いいじゃないですか」

藍子「茜ちゃんが迷っていたら、私たちが背中を押してあげればいいんです」

藍子「こうしてみんなで、補っていけばいいんですよ」

未央「おっ、あーちゃんいいこと言うね、流石だねー」

藍子「それにほら、見てください。二人の顔」

未央「顔?」

未央「……ありゃりゃ」

未央「Pさん、さっきまでふらふらで死にそうだったのに」

未央「なんともはや、まったく……」

藍子「素敵ですよね。二人とも」



藍子「本当、幸せそう」




終わり


日野茜は私の太陽になってくれたかもしれない女性だ

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