お嬢様「回転寿司……初めて入りますわね」 (25)

お嬢様「執事、お腹が空きましたわ。どこかお店に入りましょう」

執事「お言葉ですがお嬢様、この後は3時のおやつの時間です」

執事「おいしいケーキが待っているというのに、今なにかを食べられたら……」

お嬢様「私はお腹が空いた、といってるのよ?」

執事「やれやれ、仕方ありませんね」

執事「しかし、このあたりにお嬢様の舌を満足させられるようなお店は……」

お嬢様「あそこにお寿司屋さんがあるじゃないの」

執事「あれは回転寿司ですよ。いつもお嬢様が行くお店とは違います」

お嬢様「この際、なんでもかまないわ。入りましょう」

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店主「へい、らっしゃい!」

お嬢様「回転寿司……初めて入りますわね」

店主「お好きなお席へどうぞ!」

お嬢様「ここにしましょう」ストンッ

執事「では私は隣へ」ストンッ

お嬢様「どうやって食べるんですの?」

執事「目の前のベルトコンベアの上を、お寿司が回っていますよね」

執事「これを取って食べるんです」

お嬢様「ふうん……」

お嬢様「こう?」スッ

執事「お上手です」パチパチパチ

お嬢様「バカにされてるような気分ですわ」

お嬢様「いただきます」モグッ

お嬢様「……」モグモグ

お嬢様「……」ゴクン

お嬢様「なんていうか、普通ですわね」

お嬢様「回転というからには、もっとエキサイティングなものを期待してましたのに」

執事「回転イコールエキサイティングなんて発想をするお嬢様が悪いのですよ」

お嬢様「そうですわね。あと30皿ほど食べたら、店を出ましょう」



店主「待ちな、お嬢ちゃん」

お嬢様「なにかしら、大将?」

店主「さっきの言葉、聞き捨てならねえな」

店主「なんだったら味わってみるかい……? 超エキサイティングな『真の回転寿司』を……!」

お嬢様「面白そうですわね。ぜひ味わわせてちょうだいな」

店主「ご注文をどうぞ」

お嬢様「じゃあ大将、イカを握ってちょうだい」

店主「あいよ!」

店主「ヘイ、お待ち!」コトッ



ギュルルルルルルルルルル…



お嬢様「こ、これは……ッ!」

執事「寿司ネタ自身が高速で回っていますね」

執事「おそらく一秒あたり3000回転といったところでしょうか」

店主「やるね、兄ちゃん。正解だ」

店主「さあ、この『回転寿司』ッ! ……食えるもんなら食ってみな!」



ギュルルルルルルルルルル…



お嬢様「受けて立ちますわ!」

ギュルルルルルルルルルル…



お嬢様「ここッ!」サッ

バチッ!

お嬢様「ぐっ……!」

店主「……」ニヤッ

お嬢様(生半可に手を伸ばしただけでは、回転に弾かれてしまいますわ!)

お嬢様「だったらァ!!!」グワッ

お嬢様「ぬんっ!」グワシッ

店主「ムリヤリ掴んだ!」

ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「……!」ガリガリガリッ

執事「ほう、お嬢様の手から火花が」

ギュルルルルルルル…

お嬢様「うおおおおおっ!」ガリガリガリッ

店主「回転が……弱まってく……!」

ギュルルル…

お嬢様「止まれッ!」ガリガリッ

シーン…

お嬢様「やりましたわ!」

お嬢様「この勝負、私の勝ちですわね」ポイッ

お嬢様「……」モグモグ ゴクンッ

お嬢様「へえ、なかなかの美味――」

お嬢様「!」ドクンッ…



店主「あいにく……『回転寿司』はここからだぜッ!」

お嬢様「きゃあああああああああっ!?」ギュルルルルルルルルルル…

執事「今度はお嬢様の体が回り始めましたね」

お嬢様「どうなってるの、これ!?」ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「縦回転、横回転、斜め回転と、バラエティ豊かですわ!」ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「遠心力で私の内蔵がシェイクされてますわぁ!」ギュルルルルルルルルルル…



店主「さあさあ、早く回転を止めねえと、体がバラバラになっちまうぜ!」

お嬢様(どうやら時間経過で止まるようなヤワな回転ではなさそうね……)ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「だったらッ!」ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「ふんっ!」バキッ

店主「店のカウンターに右手をめり込ませることで、つっかえさせて回転を止めようってか!」

お嬢様「んぎぎぎぎ……!」ギュルルルルルル…

お嬢様「ぎぎぎ……!」ギュルルル…

お嬢様「ぎいい……!」ギュル…

シーン…

お嬢様「止まった……やりましたわ!」

執事「おめでとうございます、お嬢様」



店主「やるじゃねえか、お嬢ちゃん」

店主「ならばこれならどうだ!!!」ポチッ

グオングオングオングオングオン…



お嬢様「なんなの!?」

執事「どうやら店そのものが回り始めたようですね」

店主「フハハハーッ! どうだッ! この回転はッ!」

店主「この回転の中で、さっきの寿司を食えるかいッ!?」

お嬢様「食ってやりますわ!」



グオングオングオングオングオン…

グオングオングオングオングオン…



お嬢様「膝を落として、やや内股にして、姿勢を安定ッ!」スゥ…

執事「ほう、まるで空手の三戦(サンチン)のような構えですね」

店主「このお嬢ちゃん、今この場で自力で編み出したってのかよ!?」

お嬢様「さあ、いただきますわよ!」

ギュルルルルルルルルルル…

お嬢様「さっと食べて!」パクッ

お嬢様「足腰で自分が回転しないように耐える!」モグモグ

お嬢様「さっと食べて!」パクッ

お嬢様「足腰で自分が回転しないように耐える!」モグモグ

店主「このお嬢ちゃん、完全に回転寿司を見切ってやがる……ッ!」

お嬢様「ごちそうさまでした」ペコッ

店主「へっ……やられたぜ、お嬢ちゃん」

お嬢様「あなたこそ、なかなかでしたわ」

お嬢様「回転寿司をバカにするような発言をして、ごめんなさい」

お嬢様「じゃあ執事、会計を済ませてちょうだい」

執事「かしこまりました」

店主「毎度ありィ!」

お嬢様「……」フラッフラッ

執事「大丈夫ですか、お嬢様? 回転で酔ってしまってるのでは?」

お嬢様「平気ですわ!」フラッフラッ

執事「ならよろしいのですが」

お嬢様「……オエッ」

執事「さあ、3時のおやつが待っています。帰宅しましょう」

お嬢様「ええ……」フラッフラッ

お嬢様「……ウプッ」

執事「本日のおやつはロールケーキです」

お嬢様「!?」ビクッ

お嬢様「ロールだとかローリングだとかは、当分懲り懲りですわぁっ!!!」

執事「じゃあ私が食べます」パクッ







おわり

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