市原仁奈「飛鳥おねーさんのきもちになるですよ!」 (16)

夕方 事務所の屋上


飛鳥「ふう……」

仁奈「ふう……」

飛鳥「今日の夕焼け空は、雲が多いな」

仁奈「雲が多いですなー」

飛鳥「昼から夜へのセカイの移ろいを、曖昧に覆い隠そうとしているかのようだ」

仁奈「曖昧ですなー」

仁奈「へくちっ」

飛鳥「………」

飛鳥「上着、羽織るといい」

仁奈「いいですか?」

飛鳥「あぁ」

仁奈「あったけーですよ」

飛鳥「……あぁ」


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飛鳥「けれど、紅く染まる彼らを眺めるのもまた一興か」

仁奈「また一休ですよ」

飛鳥「一興」

仁奈「い……一興」

飛鳥「イグザクトリィ。一興とは『楽しみ』という意味さ」

仁奈「おおー。飛鳥おねーさんはむずかしい言葉を知っていやがりますね!」

飛鳥「さほど難しくもないさ。キミが中学に上がるころには、自然と頭に入っているだろう」

仁奈「仁奈が中学生になったら、飛鳥おねーさんは……」

飛鳥「高校3年生かな。いろいろと面倒な時期だ」

仁奈「面倒でごぜーますか」

飛鳥「あぁ。もっとも、実際にその時が来るまでは理解らないだろうけどね」

仁奈「わからねーですよ」

飛鳥「理解る」

仁奈「理解らねーですよ」

飛鳥「イグザクトリィ」


梨沙「イグザクトリィ、じゃないわよ。仁奈に変な言い回し教えて」

仁奈「あ、梨沙おねーさん!」

飛鳥「やぁ」

梨沙「ふたりして屋上でぼーっとして……何してるの?」

飛鳥「ただ眺めていただけさ。夕焼けをね」

仁奈「仁奈もですよ」

梨沙「ふーん。飛鳥はいつものこととして、仁奈がおとなしくしてるなんて珍しいじゃない」

仁奈「今は飛鳥おねーさんのきもちになってるですよ!」

梨沙「飛鳥の気持ち?」

飛鳥「彼女のいつものアレさ。今日はボクがターゲットらしい」

飛鳥「まずは形から入りたいのか、さっきから隣にくっついているんだ」

仁奈「ふっ……トライアングルを眺めるのさ、でごぜーます」

飛鳥「おそらくトワイライト……薄暮と言いたいんだろうね」

梨沙「トロイメライ?」

飛鳥「トワイライト。むしろよくトロイメライを知っていたね」

梨沙「この前音楽の授業で習ったのよ」

仁奈「トロンボーンなら知ってるですよ」

梨沙「ああ、あの棒がついてるラッパみたいなやつでしょ?」

仁奈「仁奈も吹いてみてーです」

梨沙「アタシもー」

飛鳥「キミたち、L.M.B.G(リトルマーチングバンドガールズ)の一員だろう。そのうち触れる機会もあるかもしれないね」

仁奈「おお! 楽しみだー♪」

梨沙「その時が来たら、アタシがセクシーで華麗なメロディーを奏でてあげるわ!」

飛鳥「できるの?」

梨沙「大丈夫よ。アタシ、やろうと思えばなんでもできるもん!」

仁奈「仁奈もがんばるですよ!」

梨沙「飛鳥も、トロンボーン吹きたいならLMBG来てもいいのよ?」

仁奈「飛鳥おねーさんも来るですか!」

飛鳥「いや、ああいう恰好はボクには……」

仁奈「こねーですか……」

飛鳥「………」

飛鳥「いや、まあ……時と場合によるだろうね。入らないとは決まっていない」

仁奈「やったー!」

飛鳥「入るとも決まってないんだが」フフ

梨沙「じーーー」

飛鳥「……なに?」

梨沙「飛鳥ってさ……年下に結構弱いわよね」

飛鳥「そんなことはない」プイ

梨沙「アタシにも優しくしていいのよ?」ニヤニヤ

飛鳥「断る」

梨沙「むー、不公平よ!」

飛鳥「キミは日ごろから自分がオトナのレディーだと言っているじゃないか。だから仁奈とは違う」

梨沙「うっ……」

飛鳥「ふふっ」

梨沙「あー、バカにしてるわね!」

仁奈「ふたりとも、ケンカはよくねーですよ」

心「あれはじゃれてるだけだから気にしなくていいの☆」

仁奈「あ、はぁとおねーさん!」

心「いやー、ほっとくとあの二人はすぐいちゃつくから」

飛鳥・梨沙「いちゃついてない!」

心「おおう、息ぴったり」

仁奈「仲良しでいやがりますね! 仁奈もまぜてくだせー!」ダーイブ

飛鳥「うわっ……とと」キャッチ

梨沙「甘えん坊ね、仁奈は」

心「はぁとも飛び込んでいい?」

梨沙「歳考えなさいよ」

心「スウィーティーじゃないツッコミ……」

屋内に戻った後


梨沙「ちょっと冷えちゃったから、あったかい飲み物のみたーい!」

P「おかえり。ココアならあるけど」

梨沙「飲む!」

心「はぁとも☆」

仁奈「仁奈も!」

飛鳥「ボクもいただこうか」

梨沙「ふー、ふー」

梨沙「………」ゴクゴク

梨沙「ふう、身体があったまるわ♪」

心「あ゛ぁ~~生き返る~~」

梨沙「なんて声出してるのよ」

飛鳥「ふー、ふー」

仁奈「飛鳥おねーさん、まだ飲まねーですか?」

飛鳥「もう少し……いや、そろそろいいか」

飛鳥「………」チビチビ

飛鳥「あちっ」

心「かわいい☆」

飛鳥「かわいくない……」

梨沙「猫舌?」

仁奈「猫? 猫のきもちになるですか?」

仁奈「今日はコアラのきぐるみしかもってきてねーです」

梨沙「コアラ? いいじゃない、かわいいわよね」

仁奈「うーん……実は、本物のコアラにあったことねーですよ」

梨沙「そうなの?」

心「梨沙ちゃんと飛鳥ちゃんは、オーストラリアで見たことあるんだよね♪」

梨沙「うん。ハグされちゃった♪」

飛鳥「エクステを引っ張られた」

仁奈「仁奈もコアラにあいてーですよ」

心「はぁとも一度くらいリアルで見てみたいなあ……いっそ、みんなでコアラのいる動物園行っちゃう?」

仁奈「おおー!」

梨沙「動物園か……いいわね! 行きましょ!」

P「あれ? 仁奈、今度のお休みは遊園地に行きたいって言ってなかったか」

仁奈「あっ」

心「あー、遊園地。遊園地もいいなあ♪」

仁奈「飛鳥おねーさんはどっちがいいでごぜーますか」

飛鳥「ふむ……ボクは別に、どちらでも」

梨沙「遊園地に行くなら、ジェットコースター制覇したいわね!」

飛鳥「動物園にしよう」

心「切り替えはやっ!」

仁奈「動物園に行ったら、いろんなどうぶつのきもちになるんだー♪」

心「仁奈ちゃんはいろんなもののきもちになるのが本当に大好きなんだね♪」

仁奈「大好きですよ!」

飛鳥「誰もが全てを理解れやしない……けれど、それでも理解しようとあがく行為には、きっと意味がある。ボクはそう考える」

梨沙「たぶん、仁奈はそこまで考えてないと思うけどね」

仁奈「飛鳥おねーさんも、みんなのきもちになりたいですか?」

飛鳥「え?」

仁奈「それなら……ほら! 猫の手ですよ! これをつけて、仁奈と一緒に踊ってくだせー!」

飛鳥「一緒にって……どこで?」

仁奈「次のライブで!」

飛鳥「……いや、それは少し……いや、かなり問題が」

仁奈「わくわく」

飛鳥「………」

仁奈「キラキラキラ」

飛鳥「………」



飛鳥「……検討だけ、しておく」

梨沙「やっぱり仁奈には甘いんだから」

心「まあ、誰だってあんなキラキラした視線向けられたら断れないって♪」

P「余談だが、後日猫の手をつけて仁奈と一緒にステージで踊ったときの飛鳥は、案外ノリノリだったということをここに記しておく」


おしまい

おまけ


飛鳥「………」

雪美「………」

ペロ「………」

飛鳥「……なに?」

雪美「猫の手……ペロと同じ……」

雪美「これをつけて……私と一緒に……踊って……」

飛鳥(まさかの二度目か……!?)


おまけおわり

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
SSAで飛鳥がみんなのきもちになっていたので書きました。かわいかった

シリーズ前作:佐藤心「バッセン行くぞ☆」 二宮飛鳥「打てる気がしない」

その他過去作
水本ゆかり「お誕生日のわがまま」
モバP「甘えるいずみん」
モバP「しるぶぷれーなお隣さん」

などもよろしくお願いします

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