女鍛冶師「魔剣の製造依頼?」 (333)


鍛冶見習い「都の騎士様が使うそうでさ、一振り欲しいそうだ」

女鍛冶師「ウチの工房も有名になったものだね」

鍛冶見習い「それで、魔剣の能力付与についてなんだが」

女鍛冶師「希望があるんだ?」

鍛冶見習い「ああ……」



鍛冶見習い「女の、心が宿った魔剣が欲しいって言われた」

女鍛冶師「は?」

鍛冶見習い「俺もそう言ったら、逆におかしな顔をされたわ」

女鍛冶師「……魔剣に人格を持たせるってわけ?」

鍛冶見習い「違うらしくてさ、心を宿して欲しいそうだ」

女鍛冶師「??」


【その夜】


女鍛冶師「心……心……」

女鍛冶師「んー……心を込めて造っても、魔剣に付与するとは違うし」

女鍛冶師「……うーん」

女鍛冶師「何本か打ってみよう、ミスリルは余分なのあるし」ガチャッ

女鍛冶師「真心を込めて」ブンッ


< カァーンッ



女鍛冶師「ミスリルソード完成」ガランッ

女鍛冶師「……あー」

女鍛冶師(切れ味は良いけど、多分これの事じゃないよな)

女鍛冶師「次行くか」ブンッ

< カァーンッ



####################



女鍛冶師「燃えるような情熱をイメージして、焔の魔剣完成」ゴォゥ

女鍛冶師「暑い」ゴォゥ

女鍛冶師「……あ」

女鍛冶師「女の心ってことは情熱とは限らないのかぁ……」

女鍛冶師「女心ね」

女鍛冶師「女心……女心か」


女鍛冶師(うん? わからんぞこれ)



女鍛冶師「魔剣、ミスリルソード完成」ガランッ

女鍛冶師「……」

女鍛冶師「あれ、失敗?」

< ボソボソボソ……

女鍛冶師「うわ、成功してる」

女鍛冶師「その辺漂ってた女の亡霊を剣に封じてみたんだよね」

女鍛冶師「これ納品候補にしとこう」



< カァーンッ

< カァーンッ


女鍛冶師(女の心を宿して、か)ブンッ

< カァーンッ

女鍛冶師(その騎士様は何を思ってそんな注文をしたんだ?)

女鍛冶師(童貞を拗らせた? 王子様脳? 物好きの変態?)

女鍛冶師(……直に会うべきか)ブンッ

< カァーンッ



女鍛冶師(とりあえず、今度は私の血を使って精神体を宿してみよう)



【一ヶ月後】


鍛冶見習い「納品してきたぞー」

女鍛冶師「ご苦労様ぁ……ふぁあ、ねむ……」

鍛冶見習い「無茶しやがって、剣一本作るのに拘りすぎなんだよ」

女鍛冶師「私にとって、剣とは産み落とした子供だからね」

女鍛冶師「例えその目的が命を奪う事でも、私が作るからには妥協はしない」

鍛冶見習い「師匠らしいお言葉ですな」


鍛冶見習い「で? 装飾はミスリル銀のみでシンプルにされてたが、ありゃどういう魔剣なんだ?」

女鍛冶師「それに答えても良いんだけど、今回の注文に関して私は依頼人の騎士様を調べないでいたんだ」

鍛冶見習い「ん?」

女鍛冶師「だから、依頼人の騎士様について先に聞かせて欲しい」


鍛冶見習い「よくある話だ、依頼人は若手の騎士でな」

鍛冶見習い「次の冬に王都でオーク討伐隊を率いるんだそうだ」

女鍛冶師「へぇ、有能なんだ」

鍛冶見習い「ああ、んで……その際にある式典で世に一本とない魔剣を自身のシンボルとして王に捧げるつもりなんだと」

女鍛冶師「……それで何故、女の心を宿した魔剣を?」

鍛冶見習い「その騎士様は『女心が分かる』異能をお持ちらしくてな、どんな女も虜にできるそうだ」

女鍛冶師「…………」

鍛冶見習い「あんたにゃ不快な話かね?」

女鍛冶師「いやいや」


女鍛冶師「その騎士様には丁度良い剣を作れたと思ってな」ククッ


鍛冶見習い「このひと月、色々作ってたみたいだがやっぱり女心を持った剣なのか」


女鍛冶師「いーや、それも作れたがもっと単純に、そして重要な機能を備えた剣が出来た」

鍛冶見習い「おー」

女鍛冶師「女心はね、『女じゃない所からスタートしてる』のさ」

鍛冶見習い「女じゃない……? 男ってことか?」

女鍛冶師「そこが私ら女と男の発想の違い、あんた達男の目線では絶対に計れない一線だ」

女鍛冶師「どんな生き物だろうが、どんな神だろうが、化け物だろうが、道具だろうが……」

女鍛冶師「そこには必ず生まれたばかりの赤子の時期が存在する」

女鍛冶師「結果として女となるかもしれないが、その過程は幼い赤子なんだ」

女鍛冶師「そこに心が生まれるとなれば、ただ成長し経験するのも容易じゃない」

女鍛冶師「ましてや『女の心』だ……そこに至るにどれだけの経験と思考、そして環境が左右すると思う?」

女鍛冶師「他所から仕入れた女性人格を植え付けた剣なんかじゃ駄目さ、持ち主には応えられない」


女鍛冶師「剣として完成された『女』が欲しいなら、まずは育てるしかない」

鍛冶見習い「あー……それってつまり、あの魔剣は……」

女鍛冶師「性別は女かもしれんがあれに人格や思考はない、ただのミスリルソードだ」

鍛冶見習い「詐欺じゃねえか!!」



女鍛冶師「あっはっはっは! 詐欺じゃないだろ! 女の心を宿した剣が欲しかったんだろ!」

鍛冶見習い「相手は貴族なのに何やってんだよ……ちょっと行ってくる」ガタッ

女鍛冶師「まぁ待ちなって」

鍛冶見習い「あ!?」

女鍛冶師「まだ物心がなく、思考するだけの意識がはっきりしてないだけだ」

鍛冶見習い「……!」



女鍛冶師「あの魔剣はここ最近の中じゃ最高傑作だよ、何せ私にとって本物の娘そのものだ」

女鍛冶師「あの剣は戦いを『見て聞いて感じて』経験し、周囲の者達……環境の中で育つ」

女鍛冶師「そこに際限は無いだろうね、破壊されない限りあの魔剣は寿命が存在しない」

女鍛冶師「決して錆びず、刃零れしてもものの数日で治癒する」

女鍛冶師「そして次第に強くなる、成長するんだ」



鍛冶見習い「……」

女鍛冶師「若手の騎士様に金貨四十で渡すには、少し性能が良すぎると私は思うがね」

鍛冶見習い「そうだな、ああ……きっとそうだ」ガタッ

女鍛冶師「私は寝るよ、おやすみ」スタスタ


鍛冶見習い「なぁ、あの魔剣……名は?」



女鍛冶師「……」ピタッ

女鍛冶師「名付けるには私は母親として未熟だったからね、だからあの剣は……」









       【story..1】

       【魔剣初代】

    【その名は……「無名」……】










【数ヵ月後……南の大国『サース』、王都郊外】



騎士隊長「退却だ……! 退却ー!!」

騎士「隊長! 周囲の森には伏兵の危険があります……これでは……!」

騎士隊長「貴公は後続の部隊にこの事を伝え、王都へ撤退せよ! 殿は俺に任せろ!」シャキッ

騎士「しかし指揮官を置いていく訳には……っ」

騎士隊長「俺の命やお前達の立場などどうでもよい!! 事は一刻を争うのだ!」




『とある鍛冶師が打った剣は、若い騎士に渡された』

『魔剣は見ていた』

『近年、国中を悩ませていたオークの群れを討伐すべく出発した騎士達』

『彼等がオークの住み処である樹海に到達した時、予想外の待ち伏せとオーク達に混ざって襲ってきたオーガの集団……』

『この二つによって、討伐隊の騎士達は成す術もなく蹂躙されていったのだ』



オーク「ブゴォォオッ!」

騎士隊長「はぁーッ!」ガキィンッ



『この時、想定外の規模とオーガも徒党を組んでいた事実を王都に伝えるために、騎士達を逃がすべく若い騎士が残った』

『魔剣は聞いていた』

『絶望的な状況の中で吼える男の声、そして重い棍棒が剣と打ち合わせる音を』

『如何に優秀な騎士といえど、多勢に無勢』

『直ぐに彼は背後からの投石と凶刃により倒れた』


< グシャァアッ

騎士隊長「ぐぁあああっ……!!」


オーク達「「ブゴォォオッ!! ブゴォォオッ!!」」

オーガ達「「ゴァアアアッ!!」」



『魔剣は初めて感じ取る』

『死と戦場の雄叫びを』



オーガキング「……」ズンッ

オーククイン「……」



『若い騎士を討ち取り、その首を掲げたのはオーガ達の王である』

『数十年に一度生まれる特異個体が彼であった』

『その隣に並ぶのは同じく特異個体のオーク達の女王』

『両者は人間の戦士に勝った事に満足し、森へ戻って行く』

『それに兵士であるオーク達とオーガ達が続き、森の前には血の臭いが残るだけで静けさが戻った』



< 「ブゴォッ」

< 「ブゴッブゴッ」


オーク「……」ノッシノッシ…

< ガシャッ

オーク「?」



『ある、一匹のオークが足元で音を立てた物に気づく』

『それは彼が先ほど打ち合った、強い人間の持っていた剣だった』



オーク「ブゴッ」チャキッ……

オーク「…………♪」



『それは偶然だった』

『そのオークは剣の装飾や、刃から感じる魔剣の微弱な魔力に気づいたのだ』

『不思議で綺麗な剣だ、持って行こう』

『そう言って、オークは仲間と共に森へ帰っていく』


『一本の魔剣を携えて』










       【nextstory..2】

       【魔剣三代目】

    【その名は……「深紅」……】







とりあえずこれで切ります

まだわからんけどこれRじゃなくてVIPでいけるんじゃない?

>>20
今後、エログロ描写に近い
或いは性交描写が出る予定のため此方に立てました。


【南の大国、エルフの住む森】


< カーンカーンカーンッ!!

< 「オークの群れだー! 皆起きろぉ!!」


エルフ娘「オーク……!?」

エルフ「近くの家を起こしに行け! 僕は他の戦士達とオークを止めに行く!」

エルフ娘「お父さん、でも……っ」

エルフ「心配するな、これまでもオークがこの集落を襲ったがいずれも退けている」

エルフ「早く行け!」

エルフ娘「はい……!」バッ


< シュタッ

エルフ「状況は!」

エルフ剣士「数はたったの20だ、だが……妙だ」

エルフ弓手「どのオークも大した装備じゃないのに集落の周りを警戒していた見回りが殺られたんだ」

エルフ「オークの上位個体か……?」

エルフ剣士「分からん、とにかく数が増える前に女子供を逃がして我々も逃げよう」

エルフ「応!」


─────── 南の大国『サース』のオーク討伐隊が急襲を受け壊滅。


この事実は当初、近隣の都市や村で噂として流れるも、直ぐに人々の中で忘れ去られる。

その噂が流れて以降、オーク達の姿を全く見なくなったからである。

しかし。

それから十二年後、新たに編成されたオークの新生討伐隊が再びオークの群れによって撃破された事で、それが真実として知れ渡る。

それもそのはず、今度は討伐隊が襲われただけでは終わらなかったのだ。

南の大国に存在する首都、『王都』以外の『辺境領』と『森林領』の二つがオークとオーガの軍団によって陥落していたのだ。


恐るべき統率の取れたオークとオーガの軍団を前に、遂に南の大国『王の騎士団』の出撃が決定。

更に二年後、オークの女王とオーガの王が討伐され、南の大国に平和が戻る事となる。



これは、その一年前。



とある魔剣が一定の成長により『三代目に生まれ変わった後』経験した出来事。

『三代目』が己の名を得るまでの小さな物語。




赤オーガ【グハハハッ、容易いものだエルフという種族は……!】

老オーク【あれが元を辿れば我らオーク種の祖となる者とは到底思えませんな】

赤オーガ【だがエルフとオークの間に生まれる子は優秀なオークに育つ、女は生け捕りにして損はない】


赤オーガ【さぁ行け、我が兵達よ! 今宵もエルフどもを殺し犯し捕らえるのだ!】




< 【【ォォオオオオ!!】】ブゴォォオオオオ!!



老オーク【グブブ……さて、エルフの集落にも手練れは居るでしょうな……私も参りましょう】ノッシノッシ…

赤オーガ【グハハハッ! 女の戦士は殺すなよぉ?】

老オーク【勿論ですとも、グブブブブッ】ブゴォッ



エルフ「風の精霊よ!」

< ヒュォオッ


オーク兵A【グァアッ!?】ズバァッ

オーク兵B【A! 野郎……ッ】

エルフ剣士「遅い!」ザッ……!

    ザンッ!

オーク兵B【ッ……】ドサッ


オーガ兵A【かかれェェッ!!】バッ

オーガ兵B【ゴァアアアッ!!】バッ

オーク兵C【ブゴォォオッ!!】バッ


エルフ弓手「フッ ───────! 」ギリィッ

    ビュビュビュッ!

< ドスドスドスッッ

オーガ兵A【がぁっ!?……!】

エルフ剣士B「ウォーッ!」ブンッ

< ズシャァッ!


オーク兵【広場で戦ってるエルフ、強い!】

オーガ兵【隊長を呼んでこいよオラァッ!】

他オーク兵【オラ達の仲間、強いのいる、アイツ、集落の反対側、いる!】

オーガ兵【あー?】

他オーク兵2【アイツ、剣士! 凄い強い!】

オーガ兵【……よぉーし俺に考えがあるぞぉ、他の奴等に伝言しろオラァッ!】




< 「ブゴォォオオオオ!」

< 「ゴァアアアッ!」


エルフ剣士「……気味が悪いな、オークとオーガが手を組むというのは」

エルフ「連中、距離を取るようになってきたぞ」

エルフ弓手「女子供もそろそろ反対側から逃げられた筈だ、突破口を開いて離脱しよう!」

エルフ剣士B「ああ……!」


エルフ(……む?)


オーク兵「ブゴッブゴッ」

オーガ兵「グルル……」ズッシズッシ…


エルフ(……囲んでいるオークとオーガの動きが、変わった)

エルフ「女達の方へ俺達も行けそうだぞ」

エルフ弓手「何?」

エルフ「見ろ、奴等……何かを言い合いながら動きを変えている」

エルフ「中央広場から通じている集落の反対側、大樹林の方へ抜けられそうだ……!」


エルフ剣士「俺達が切り開く! 好機は今だ!」バッ

エルフ剣士B「援護は頼んだ……!」バッ



エルフ剣士「ハァァーッ!」ザンッ!

エルフ剣士B「であッ!!」ザンッ!

エルフ弓手「走れー!!」

エルフ「流石だな……!」ダッ




##############




オーク【反対側にいろって言われちまったけど、オラここで大丈夫だか?】

オーク【ブヒー……今頃、集落襲ってる奴等楽しんでるだかなぁ】

< ガサガサッ

オーク【ブヒ?】ブゴッ


エルフ娘「みんなこっち!…………えっ」ガサッ


オーク【…………】ヌッ

エルフ娘「オー……ク……!!」



女エルフ「きゃぁああっ!?」

オーク【ブゴッ!?】ビクッ

エルフ娘(相手は一匹、だけど他の女性達が……!)

< バッ!

エルフ娘「み、みんな逃げてぇえ!!」ガシッ


女エルフ「娘さんっ、ごめんなさい……!」ダッ

母エルフ「こっちよ!」

少女エルフ「怖いよままぁ……っ」



オーク【逃がす訳にはいかないだ……!】チャキッ

エルフ娘「ひっ」ビクッ

エルフ娘(お父さん……っ)



オーク【……ブヒ?】ピタッ


エルフ娘「……っ」カタカタカタ…


オーク【……このエルフの女、すんげー綺麗だ……】ボソッ

オーク【ブゴッ……ちょっとだけ……】スッ

< モミュッ

エルフ娘「ひぃ……っ!」ピクンッ

エルフ娘(お父さんお父さんお父さん……っ!)ガタガタ…

オーク【ケツも、腹も、乳袋も、全部やぁらけぇ……】もみもみ……



< ヒュンッ

< ドスッ

オーク【ッ!?】ズキッ



エルフ弓手「その娘から手を離せオークが!」ギリィッ……!

エルフ「今助けるぞ!」


エルフ娘「お父さん!!」



オーク【ぎゃぁああ……! いてぇ……ッ】ヨロッ

オーク【どんな奴の剣も勝手に動いて防いでくれたのに、矢は防げないだか!? この剣!】

< シャキッ


エルフ弓手「剣士か、あのオーク」

エルフ剣士「俺達で行く!」

エルフ剣士B「ああ、エルフの剣術を前にあのオークも細切れにしてやる!」

オーク【ブヒィッ!】ブンッ

エルフ剣士(剣の振り方がなってないな、それにあの『手に馴染むように歪になった形』……所詮はオークの鍛冶技術か!)ヒュッ


───────── ブツッ ────────


エルフ剣士「え……?」
< ブシュゥッ!!

エルフ剣士B「!?」


エルフ剣士「ぐあぁああああああ!!?」

ドサァッ

エルフ剣士B「剣士ぃ! エルフ! 傷を治癒させてやってくれ!」

エルフ「あ、ああ!」


エルフ剣士B(今のオークの一撃、剣士は間合いの外へ避けた筈だ……それが何故!)

オーク【次はお前だブゴッ!】ザッ

エルフ剣士B「ならば殺られる前に斬る!」ビュッ

< ギィンッッ!!

エルフ剣士B「ッ、ぅぐあ……!?」ビリビリビリッ

エルフ剣士B(なんだこれは……打ち合った衝撃が重過ぎる……っ)

エルフ剣士B「!」ハッ



エルフ剣士B「その剣、魔剣か……!」

< ザシュッッ



< ヴジュゥゥッ!!

< ドサッ


エルフ弓手「……っ、このオーク……強いぞ」

エルフ「おのれ……! 娘がいるのに……!」

エルフ弓手「魔法を撃つんだ、俺が奴の目を潰す!」

エルフ「ああ、わか…っ


老オーク【おやおや、こちらに来ていましたか】ヒュッ

    ブスッ! ザシュッッ

エルフ「カッ………あ……」ブシュゥッ!!

エルフ弓手「」ドサッ

< ドサッ


エルフ娘「お、お父さん! いやぁあああ!」


オーク【ブヒィ……助かっただよ長老様】

老オーク【ふむ、お前は確かここ最近腕が良いと聞く剣を持ったオークだったかね】

オーク【んだ!】

老オーク【足止めご苦労、先に逃げていたエルフの女子供は既に私の配下が捕らえた】

老オーク【グブブ、お前には褒美をやりましょう】

オーク【おお!】


エルフ娘「お父さん……ねぇ、起きてよお父さん……っ」ユサユサ

エルフ娘「お父さん……っ」ユサユサ


オーク【あのエルフの女が欲しいだよオラ!】

老オーク【ほぉ、見たところそこのエルフのプリーストの肉親か何かのようですな】

老オーク【宜しい、そのエルフを褒美にやりましょう……良いオークの子を産ませるのですよ】ブゴッ

オーク【やったぁ! 流石長老様だよ!】ブゴォッ



赤オーガ【こちらはもう終わってたか】ガサッ

老オーク【赤のオーガ殿】

赤オーガ【……あのオークは何を飛び上がっているのだ?】

老オーク【グブブブブ……いずれは私と同じシルバーオークになる逸材でしてな】

老オーク【褒美にあのエルフを孕み袋にする事を許しました】

赤オーガ【なるほど、オーク種なりのやり方か】

老オーク【それで集落の方は?】

赤オーガ【大量の食糧と武器、幾つかの地下室に隠れていた女を捕らえた】

老オーク【グブブブブ……流石ですな】


老オーク【(それにしても面白い剣を持っていましたな、あのオーク)】ブゴッ




【四日後、南の大国…北東部にあるオークの森…】


オーク【ブヒー、久しぶりに帰ってこれただよ】

オーク【だいぶ帰ってなかったから散らかってないと良いだよ】

< ジャラッ

オーク【ほら、おいで】グイッ

エルフ娘「……ぁぅ」ヨロッ

オーク【帰ったらすんごいのお前に見せてやるだよ】ブゴッブゴッ

エルフ娘「………くたばれ」

オーク【(ああ……綺麗だなぁ本当に、何て言ってるかわかんないけど、声も綺麗だぁ)】


< ガチャッ

オーク【ここがオラの家だよ、綺麗だろー?】

エルフ娘(……何ここ、かなり風化しているけど……屋敷みたい)

オーク【ブゴッブゴッ♪】ノッシノッシ…

< ジャラッ

エルフ娘「っうぐ……」ヨロッ


オーク【森の奴等は使わないって言うから、ここはオラの家にしてるだよ】ノッシノッシ…

オーク【あちこちで拾った綺麗な物をこの家に置いてあるだ】ブゴッ

エルフ娘(どの部屋にも無駄に豪華なシャンデリア……? それに、あちこちに散らばってるのって)スッ

エルフ娘(……やっぱり、これは宝石や魔法の触媒にも使うエーテル石ね)

エルフ娘(これだけの物を集めるオーク、聞いたことない……)チラッ

オーク【……】じーっ

エルフ娘「っ!?」ビクッ


オーク【それ、欲しいだか?】ニタァ

エルフ娘「……っ」ガタガタ…

オーク【別に良いだよ、その指輪はオラの指には付けられないだから】ブゴッ

エルフ娘(何か……言ってる……)ガタガタ…

オーク【ほら、こうやって付けるらしいだよ】くいっ

< スッ……

エルフ娘「……え」


オーク【それじゃあ次は寝室に案内するだ!】ブゴッ



【その夜】


エルフ娘「……」

オーク【食わないだか? お前の集落にあった肉だよ?】ムッチャムッチャ

エルフ娘「……食えって言うの?」

オーク【ムッチャムッチャブゴッ】

エルフ娘「……食べたくない……」

オーク【俯いてると綺麗な顔が台無しだよ?】フキフキ

< ぐいっ

エルフ娘「っ……」ビクッ

オーク【ん! ちゃんと前見てた方が綺麗だ!】ムッチャムッチャ


エルフ娘(……びっくりした、機嫌を損ねたのかと)


【翌日】


エルフ娘(お腹空いた……)

エルフ娘(……喉も、渇いた)

エルフ娘(でも食べたくない、生きたくない……)

エルフ娘(皆どうしてる、かな……)

エルフ娘(まだ小さい子供もいたはずなのに……殺されてないよね?)


オーク【ブヒー、ここにいただか】ノッシノッシ…


エルフ娘(このオークは私をまだ犯そうとしないけど、他の皆は……)

オーク【食欲がないのは、陽の光を浴びて無いからって聞いただよ】

オーク【外に出るだよ!】



< ジャラッ


エルフ娘「っ、ぁく……」フラフラ

オーク【森の奥には他の仲間の集落以外にも、綺麗な洞窟があるだよ~】グイッ

エルフ娘(あぁ……何か言っているけど、鎖の音が……)

エルフ娘(鎖の音が、する度に……引っ張られるの……嫌だなぁ……)ヨロッ

オーク【(初めて見た時より元気ないだなぁ、食べてないからだか)】ブゴッ

オーク【ブヒ?】


オーク【おーい! 皆!】ブゴォッ!

エルフ娘「……?」


エルフ娘「っ!?」バッ


少女エルフ「…………」ボーッ…

独眼オーク【ブゴッ、なんだお前も戦利品貰えてただ?……って何だよそのエルフ】ジャラッ


エルフ娘「少女ちゃん!! 少女ちゃんしっかり……!!」ジャラジャラッ!

オーク【ブヒィッ……? 急に元気になっただっ……】ビクッ

エルフ娘「少女ちゃん! お母さんは? あなたのお母さんは無事なのっ!?」


少女エルフ「…………?」ピクンッ

少女エルフ「……ま…ま……は………」ボソボソッ

独眼オーク【俺のエルフと知り合いだっただ?】

少女エルフ「まま……は………」スッ

少女エルフ「……このオークに、殺されちゃった……ぁ……」ポロポロ…


エルフ娘「そんな……っ…」

オーク【みたいだぁ、元気になってきてるだよ】


エルフ娘「ッぁぁあああ!!」ガッ!

< ジャラァッ!

エルフ娘「カハッ…! ぅぐ、なんて……ッ、なんて事をするのよ化け物ぉ!!」ギシッ

独眼オーク【……これ怒ってるんじゃねェだか?】ギロッ

エルフ娘「っ……私達が何をしたって言うのよ、私達が……その子のお母さんが……!!」

オーク【わ、わかんねぇだっ……】

独眼オーク【躾が足りない女みたいんだなぁ?】ズッシズッシ…

エルフ娘「殺してやる!! 絶対にアンタ達を殺してや……っ


< ガッ!!

エルフ娘「ご……ヴッ……!?」

独眼オーク【こうやって首閉めて動かなくなるまで大人しくさせれば、そのうち自然と言うことを聞くぜ?】ミシミシッ




─────── シャキッ・・・ンッ



独眼オーク【……おめぇ、何の真似だ】

オーク【その女はオラの宝物なんだよ、離して欲しいだよ】

独眼オーク【ここ数年で調子良いからって、誰に剣を向けてんだぁ】

オーク【独眼、頼むだよ】

独眼オーク【……ブゴッ】チラッ


エルフ娘「~~っ……ヒュー…ヒュー」ギリィッ…

エルフ娘「………!!」ギロッ


独眼オーク【………】イラッ

< グッ……

オーク「ブゴォォオッ!!」

< ドシュッッ!!



< ブシュゥッ!!

< ドサァッ!


エルフ娘「……っ! けほっ、けほ……!」ドスンッ

少女エルフ「お姉さん……!」ガタガタ…

エルフ娘「げほっ……大丈夫……」ヨロッ…


オーク【独眼、ごめんだよ】

オーク【でもこのエルフはオラの剣みたいに白くて、とっても綺麗だよ】

オーク【オラがこうして一人前のオークの戦士になれたのも、この不思議で綺麗な剣のおかげだっただ】


オーク【だからオラ、この綺麗なエルフを傷つけたり壊そうとするならお前でも殺すだよ】


エルフ娘「……少女ちゃん……」

< ぎゅぅっ

少女エルフ「……っ」

エルフ娘「辛かったね……怖かったね……」

少女エルフ「……うん…」


オーク【とりあえず独眼の死体を捨てて、こっちの小さいエルフは食っちまうだかな】ノッシノッシ…

エルフ娘「!」バッ

オーク【ブヒ?】

エルフ娘「この子に触れないで!!」

オーク【っ……】ビクッ

エルフ娘「……」ガタガタ…


< チョロロロ……

エルフ娘「この……子を、助けて……下さい……」ポロポロ…


オーク【……………】ムラムラ

オーク【(良い……匂いだぁ)】ムラムラ

オーク【(この小さいエルフが欲しいってことだか? それなら一緒に連れて帰ったら元気になるだ?)】

オーク【ブゴッ! よし! 連れて帰るだよ!】



【オーク家】


少女エルフ「わぁぁ……凄いふかふかで大きなベッド!」

エルフ娘「……」

少女エルフ「出してくれる食べ物も、臭くて汚いのがかけてあるスープじゃないんだね」

エルフ娘「ええ、そうね……」

エルフ娘(……あのオーク、やっぱり手を出してこない)


オーク【いやぁ元気になってるだなぁ♪ きっと仲間と一緒だとエルフは元気になるだね!】ブゴッブゴッ


エルフ娘(少女ちゃんの為に食べ物を食べてみたけど、普通のパンや肉だった)

エルフ娘(出してくれた飲み物も私の集落にあったワインだし……)

少女エルフ「……あのオークは痛いことしない?」

エルフ娘「え? ああ……多分しないと思う」

エルフ娘「ああやって遠巻きに見てるだけなのよ、あいつ」

少女エルフ「……それなら良いんだけど」


オーク【(これなら他の仲間からも何人か貰ってこようかなぁ、壊しちゃったエルフとか要らないって聞くし)】


【数日後】


老オーク【おや、お前ですか】


オーク【お久しぶりですだ、長老様】

老オーク【近頃、壊れたエルフや小さくて食用にしかならないエルフを譲り受けているそうだな】

オーク【んだ! オラのエルフがそうすると喜ぶんだ!】

老オーク【ほぉ】

オーク【今日長老様にお願いしたいのは、教えて欲しいことがあるからだよ】

老オーク【言ってみなさい】


オーク【エルフの女をオラの妻にしたいだよ!】



老オーク【……今なんと?】

オーク【エルフの女を嫁にしたいだ、オーガキング様はオラ達の女王様と婚姻の儀ってのをして強くなっただ?】

老オーク【ええ、そのように私も聞いています】

オーク【オラ、毎日綺麗なエルフの女を見てて気づいちまっただ! きっとこれが愛に違いねぇだよ!】

老オーク【はぁ……?】

オーク【でもエルフの女は、オラ達の言葉はわかんねぇし、オラもわかんねぇだ】

オーク【何か上手い方法はねぇだか!?】


老オーク【(コイツは何を言ってるんだ)】



老オーク【お前の言うことはよくわかりませんが、ただ一つ言える事があります】

オーク【なんだ?】

老オーク【そのエルフは、お前を愛していないかもしれないということです】

老オーク【生きるために従っているだけかもしれませんよ?】

オーク【そんなことないだよ!】

老オーク【いずれにせよ人間と同じ言葉を使うエルフと種族を越えて夫婦仲になろうというのは難しい話だ】

オーク【どうしたら……】

老オーク【……本気なのだな?】

オーク【ブヒ?】

老オーク【本気でそのエルフを妻にするつもりなのだな、と聞いたのです】


【オーク家】


エルフ娘「ようやく、寝たわね……」

少女エルフ「今日は私達を置いてどこかへ行ったみたい」

エルフ娘「……このダークエルフ達、こうして手を握ってないと寝ることも出来ない」

エルフ娘「一体どれだけの事をされたらこんなことに……?」

少女エルフ「お姉さんは何もされてないんだよね」

エルフ娘「ええ」


少女エルフ「オークのね、大きいあれを何度も抜き差しされるんだよ」



エルフ娘「は…?」

少女エルフ「凄くいたいけど、ずーっとされてるとね? おしっこ行きたくなって……」

少女エルフ「私は嫌だったけど、ままは途中からおかしくなって……」

少女エルフ「そうしたら……」

エルフ娘「もうやめて」

少女エルフ「……」


エルフ娘「……」

エルフ娘(あのオークは、少女ちゃんを連れてきて私が素直に食事をとると……あれから何人も他のエルフを連れてきた)

エルフ娘(何を考えてるのか分からない、けど……)

エルフ娘(あのオークはわざと私に見せつけている)

エルフ娘(逆らえばどうなるのか、これから私がどう壊されるのか)

エルフ娘(そうして私をゆっくりと壊そうとしてるんだ……)


オーク【ブヒー、ただいまぁ】ノッシノッシ…

オーク【えーと、どこかなぁ?】


エルフ娘「……」

エルフ娘(戻ってきたわね、何かを探してる?)


オーク【ブゴッ、いたいた!】ノッシノッシ

エルフ娘「ふぇ? 私っ……!?」ビクッ

オーク【こっち、来るだ】グイッ

< ジャラッ

エルフ娘「ぇぐっ……!」ヨロッ



< ガチャッ

< パタンッ


エルフ娘(ここは……二階の奥? まるで礼拝堂みたいな……)

オーク【よし、これであとはこの長老様から頂いた石を食べれば……】ガリッ

< ボリボリッ……

エルフ娘(何を食べてるの…?)


オーク【ふぅ、あとはしばらく待てば良いだけだなぁ】ブゴッ

< ガシッ

エルフ娘「ひっ……」



#################

オーク「ブゴッ、ブゴォォ!」

エルフ娘「やぁあっ……!!」バッ

< ドサァッ


エルフ娘(ついに、私も……っ)ガタガタ…ッ

エルフ娘「やだ、やだぁ!! 来ないで! やめてぇっ!」ジタバタッ

オーク「ブギィッ!」パチンッ

エルフ娘「あ………」


< 「い……タイ……」


エルフ娘「……え」

オーク「ひドイ、ダヨォ……」フゴッ,フゴッ

エルフ娘「 ──────!! 」



エルフ娘「な、なんで……言葉が……!」


オーク「ブゴッ……おラ、キミノタメニ……けンジャノ、イシ、タベタダヨ」

エルフ娘「賢者の石……?」

エルフ娘(それって、王都の騎士が持ってるっていう……)

オーク「えヘヘ……こレデ、イエル……」



オーク「おラ、ノ、ヨメニナッテクレルダカ……?」


エルフ娘「……」



エルフ娘「……………」





エルフ娘「……………」




───────────────────────────



───── ブツッ ─────


「え……?」
< ブシュゥッ!!

「ぐあぁああああああ!!?」

「ッ、ぅぐあ……!?」

< ザシュッッ


< ヴジュゥゥッ!!


「グブブァ、ブゴォッ」ヒュッ

    ブスッ! ザシュッッ

「カッ………あ……」ブシュゥッ!!

「」ドサッ

< ドサッ


「お、お父さん! いやぁあああ!」


───────────────────────────



エルフ娘「……」

エルフ娘「死ね」


オーク「!?」



エルフ娘「死ね、死ね!」


オーク「な、ナンデ……」


エルフ娘「死ね! 死ね!! 死ね!! お前達オークなんて、皆根絶やしにされてしまえばいいんだぁ!!」

< バシッ!バシッ!

オーク「やメルダヨ、ナンデ、ナンデオコッテ……」ブゴォッ!

エルフ娘「アンタ達がどれだけ奪ったと思ってるのよぉ!!」

エルフ娘「私のお父さんも、隣の家のお母さんと少女エルフのお父さんも! アンタ達が殺したんだ!!」

エルフ娘「誰がお前の物になんかなるものか!!誰がお前の好きにさせるもんか!! 殺せよ! 私を殺せばいいだろ!!」

エルフ娘「わぁああああああッ!!!」




< 「……めん、なさぃ………」




エルフ娘「はーッ……はーッ……」

エルフ娘「……?」


オーク「ごめんなさい……ごめんだよ、オラ……知らなかっただよぉ……」


エルフ娘「何を……!」


オーク「オラと君は同じだったんだなぁ……!」

エルフ娘「はぁ……!?」

オーク「オラ、綺麗なものが好きだっただ……!」

オーク「綺麗なものが好きで、いつも眺めてただよ! そうしたら……」

エルフ娘「私達は物なんかじゃ……」

オーク「そうしたら! 母ちゃんが戻ってきたような気になっただよ!」


オーク「オラの母ちゃんが人間に殺されちゃった時に見た様な、綺麗な姿に似てていつも安心してただよ!」

エルフ娘「っ、そん、なの……っ」

オーク「いつも探してただ! でも見つからなかっただ!」

オーク「でも、オラ見つけただ……君だ、君がオラの母ちゃんと同じ『綺麗』だっただ!」

エルフ娘「黙れぇ!!」ガッ!

オーク「ブギュルォッ!?」ドサッ!


エルフ娘「ひっ、ぅぐ、それ、そ、それの! それの何処が私と同じなんだよぉ!!」

エルフ娘「化け物!!」


オーク「ッブヒィイ……オラを見逃した人間達もそう言ってただよぉ」

オーク「だども、オラ達と人間はどう違うだか! オラ達は生きるために女を奪うだよ! 生きるために戦って殺すだよ!」

オーク「でもオラの母ちゃんを殺した人間達は笑ってオラの母ちゃんを犯して殺しただぁ!」

エルフ娘「……ッ」ビクッ

オーク「オラの母ちゃんはエルフだっただ、たまたま群れとはぐれて……オラを連れて人間の村まで行ったら!」

オーク「その夜の間にオラの母ちゃんとオラは高く売れるって、それだけでオラの母ちゃんをいたぶっただよ!」

オーク「母ちゃんはオラを逃がす為に人間達と争って、散々犯された挙げ句殺されちまっただぁ!」


オーク「エルフはそんなことしないかもしんねぇだ、だども、オークっていうだけでオラをそんな風に言わねぇでくれ!!」


エルフ娘「知らないわよそんなのぉお!!」


エルフ娘「だから許せって言うの!? 冗談じゃないのよ!! 死になさいよ化け物!!」

オーク「それで、オラを笑って許してくれるだか……?」

エルフ娘「死に……は?」

オーク「オラを殺したら、許してくれるだか……?」

オーク「オラは、今でもあの人間達を殺してやりたいだよ」

オーク「でもどの村でどの場所だったか覚えてないから、結局出来なかっただ」

オーク「けど君にはオラが目の前にいる」

< シャキィ……ッ

エルフ娘「ひゃっ……!」ドスンッ


オーク「……この剣で、オラと同じ君に、殺されるなら……文句はないだよ」

オーク「母ちゃんやオラが殺してきた人や独眼達に申し訳ないだども、それで君が……」


エルフ娘「………………」


エルフ娘(何?……これ………?)


エルフ娘(こんなの、おかしいじゃない)

オーク「………」

エルフ娘(こいつが憎い訳じゃない、私はオークという種族が憎いのに)

オーク「………」カタカタ…

エルフ娘(直視してはいけないのに)

オーク「………っ」ガタガタ…

エルフ娘(どうして私がこいつを許す必要があるんだろう)

エルフ娘(どうして、私はこのオークを殺さなければいけないんだろう)

エルフ娘(こいつを許して殺せば、お父さんは報われる? 帰ってくる? 少女ちゃんの負った心の傷は? 少女ちゃんのお母さんは?)

エルフ娘(みんな怖い思いをした、みんなの一生が、物以下の扱いをされた)


エルフ娘(このオークを殺しただけで気が済む訳がない、けど……少なくとも)

エルフ娘(『殺せる』って、そう考えたら……不思議と許せてしまえる、気がする……)



< 「ねぇ」

オーク「……」ピクッ

エルフ娘「アンタを殺すのは、後でいい」

エルフ娘「ねぇ、オーク……アンタは私を、私達を、逃がしてくれる?」


オーク「うん」コクンッ


エルフ娘「……命懸けで、守ってくれる?」

オーク「それで、いいだか……?」

エルフ娘「逃げ切れたら、直ぐにアンタを殺す、裏切ったら……必ず殺してやる」

エルフ娘「出来なくても、呪い殺してやるんだから……!」

オーク「……分かっただよ」




【夜】


オーク兵【長老!!】バサッ

老オーク【この様な夜更けに何の用だ、騒々しい】

オーク兵【何者かによって、森に火が……!】

老オーク【何だと?】

オーク兵【集落の『共有小屋』にいたエルフと人間の女達も姿を消していて……】

老オーク【人間か、エルフの生き残りか! おのれ、逃がしてはならぬぞ!】ガバッ

老オーク【近くにあるオーガの集落に水魔法の使えるエルフがいた筈だ、連れてきて火を消せ!】


老オーク【許さぬぞ盗人め……ッ!】




< ゴォオオオッ……!


オーク「こっちだよ! 炎に紛れてこっちの谷沿いを行けば森の外に出られるだ!」

エルフ娘「ゲホッ、ゲホッ! 距離は……!?」

オーク「半日歩けば人間の都市の近くに出られると思うだよ!」

エルフ娘「……っ、半日……!」


少女エルフ「皆さんこっち! 火が服に燃え移らないように気をつけてー!」

金髪エルフ「はぁ、はぁ……っ、待っ……て……!」

少女エルフ「お姉さん、早く!」

金髪エルフ「はぁ、はぁ、お腹が……」

少女エルフ「お腹が……?」

少女エルフ「もしかして、オークの……!」

金髪エルフ「はぁ、はぁ……っ」



女エルフ「穢らわしい……!! そんな女置いて、早く行きましょう!?」

女エルフB「そんなこと出来るわけないじゃないの! 私が肩を貸すから……!」

黒髪女「私が肩を貸します」

女エルフC「貴女……人間ね」

黒髪女「エルフさん達よりは腕に自信あるから、大丈夫」

女エルフC「任せたわ、後方の女性は私が誘導するから先に行って」

黒髪女「はい」



少女エルフ「大丈夫……?」

金髪エルフ「はぁ、はぁ……迷惑かけてごめんなさい……っ」



< ブゴォオオオオオオッ!!

< ゴォアアアアアアアッ!!


オーク「……!」

エルフ娘「近い……! どうして……っ」

オーク【(……長老様は嗅覚が鋭いと聞いてたいただから、火を焚いて煙に巻こうとしたども……ここまで鋭いだか)】

オーク【(もうここまでやったら後には退けないだ)】

オーク【(綺麗なものも、エルフ娘も、見れなくなるのは嫌だなぁ)】

オーク【(お前もだぁ)】チャキッ


< シャキィ・・・ンッ


オーク「オラが引き付けるだ、ここから先は右の谷に沿って行けば良いだよ」

エルフ娘「私も行くわ」

オーク「長老様だけじゃなく、オーガは強くて危ないだよ」

エルフ娘「お父さんに習った魔法で邪魔をするだけよ、前衛はアンタだから」

エルフ娘「裏切ったら後ろから首を切り落としてやる」

オーク「……分かっただよ」



オーク兵A【ブゴォォ……煙い! 煙いだど!】

オーク兵B【こうして頭を低くするだ、煙り避けられるだ!】

オーク兵C【おおすんげぇ!】


    ビュォオッ!!

オーク兵B【? いきなり風で煙が……】


オーク「ブゴォォオオオオオッッ!!」

< ドッ!

ブシャァアアアッ!!


オーク兵A【ブゴォッ!?】

オーク【ブゴォオオッ!!】ザッ

< ザシュゥッ!!





─────── ズドッッ!!

バシャァッ!




『とある鍛冶師が打った剣を、一人のオークが拾った』

『魔剣はオークの使い方を見て、自身の「在り方」を学んだ』


オーク兵C【……ヴ、ぐ……】スッ

< ピィィィーッ!!

オーク【しまった、呼ばれただか……!】


『二代かけて、魔剣は己の形を変えた』

『大きく力強いオークの手に馴染むように、乱暴なオークの振り方に適した形になるように』

『魔剣は、オークの「在り方」に合わせてその形を歪にした』


< シュタァッ

老オーク【グブブブ……貴様だったか、この出来損ないの豚めがァ……!!】ズンッ

オーク【長老様……ッ】

老オーク【それなりのモノをお前から感じて今日まで戯れ言に付き合ってやったというのに、愚か者め】

老オーク【そこを動くなよ? 今からこの私が、オーク種の元長として貴様に引導を渡してくれるッ】

オーク【……ブゴォッ!!】バッ



『魔剣を振るオークに、特別な技術は無く』

『その軌道を読むのは容易であった』


老オーク【遅いわァッ!!】ビュッ


『オークに拾われた魔剣』

『初代、「無名」は五年かけてその致命的に ”” 自身に足りない部位 ”” が何なのかを見つけ出した』


    ヒュゥン……!

老オーク【ッ!】ビクッ

老オーク【(これ、はァ ────────!! )】


─────── ヒュパッ!!


老オーク【(数瞬遅れの『不可視の斬撃』ッ! 間合いの外に出るのではなく軌道を避けていなければ首を落とされていた……!!)】


『それはシンプルに、リーチである』

『オークの知らぬ間に形を変え、歪になりながらも魔剣は己を鍛え上げたのだ』

『それこそが更に五年、オークと共に在った魔剣「歪風」だった』


オーク【ッ、ブゴォッ!!】ダンッ

老オーク【グブブァッ!!】



    ギィンッ!

  ガッ!   ズバッ!

< ドゴッ!

オーク【ブギ、ィイッ……!】ヨロッ

老オーク【ブッグオオオッ!!】


『齢二百を越えるシルバーオークの武器は、手にしたダガーのみならず』

『オークとは違う、全身を覆う銀の体毛は衝撃を逃がし、丸太のような腕や脚から繰り出される打撃は岩をも抉る』

『まさに恐るべき、魔獣なのだ』


< ガッ! ドスッ!!

オーク【ブゴォッ……ォゴ、ァ……っ】グラッ

老オーク【死ねぃ!!】



エルフ娘「風の精霊よ!」

    ヒュオッ!


老オーク【!、チィッ】バッ

< ズパンッ!


エルフ娘「こっちよこの糞豚ぁ!」


老オーク【今のは侮辱だと分かるぞ小娘ぇ!】グブォオッ!!



オーク【ブゴ……っ、駄目だ……逃げてくれぇ……っ】


エルフ娘「そんなこと、そんなことぉっ!!」


『出来るわけがない』

『エルフの娘はそうオークに言って、恐ろしいシルバーオークを引き付けた』

『その言葉にどれだけの意味と葛藤があったのか、オークにもエルフの娘にも分からない』

『ただ分かることは』


エルフ娘「精霊よ! 精霊よ! 精霊よ!!」

   ビュォオッ!!

< ズバババッ!!


老オーク【グブブァッ!!】ダッ!

< ガシィッ!!

エルフ娘「きゃあっ!!」


『都合良く立ち回れる事などある筈もない』


エルフ娘「ぁ……く、はぁ……ッ……!」ギリギリッ…

老オーク【死ね】

エルフ娘「~~っぃ…ゃ…し、の……精霊よ……!」


< ゴキッッ
エルフ娘「っ ──────────




< ドサッ……!


オーク【………】

オーク【ッ】


『魔剣を握る手から血が流れ落ち、オークの視界が揺れる』

『シルバーオークの手が開くと同時に、崩れ落ちたエルフの娘は首を折られていたのが分かる』

『立ち上がる気配は、無い』


オーク【オオオオオオオオオオオオオオ!!!】


老オーク【(馬鹿めその大振りで射線が読めぬとでも……!)】




『魔剣「歪風」が何故に名をそう決めたのか、オークには知る由も無い』

『だがしかし、魔剣「無名」がリーチを求める事を求めたならば「歪風」は何を求めたのか』

『オークの手癖の悪さに、それは起因していた』




オーク【ヌゥゥッ!!】

   ブゥンッ!!




『彼は戦場で感情が高ぶった際、何度も剣を相手に投げつける事が多かった』

『何度も、何度も』

『力任せに剣を、何度も投擲していたのだ』


『他ならぬ、射程に特化していた当時の魔剣を………』




───── ギュルンッ ─────


『オークの在り方は歪だった』

『しかしその在り方は直線的でもあり、単純だった』

『そこでオークの使い方を最大限に利用する為に遂げた形状変化こそ』


『オークの投擲力は尋常ではない速度を出す事から、「歪風」は剣の形状だけでなく柄や刀身に法則性のある溝を作った』


『その結果、味方や自身の安全を省みなければ強烈な破壊力を持った魔剣が生まれたのだ』



  ──── ドッッ ─────────


  ─────── ドドドドッッ ───────


  ──────────ドドドドドドドドォォッッ!!!



老オーク【なっ………



『不可視の斬撃が縦横無尽に辺りを破壊しながら突き進むその光景を』

『策を考えるより先に絶望した老オークは、どう見えていたのか』



『それは、切り裂いた魔剣にしか分からない』



< ズドォオオオッ!!




< ズズン……!

< ゴォォオ……ッ


オーク【……ゴフッ……お腹が、切れてた……】ブシュッ…!

< ビチャッ……パタパタッ……

オーク【ヴゥ……えるふ…】ヨロッ…

オーク【エル…フぅ……ッ】ビチャビチャッ…



< ズリッ……ズリッ……

オーク【……!】


エルフ娘「ハァ……ハァ……」ズリッ…


オーク【エルフ娘……!】

エルフ娘「……こっち、きて……」

オーク「ブグゥ……ッ」ヨロッ

エルフ娘「…………もう、言葉……話せないの……?」

オーク「ブゴ……ヴッ、ゴフッ……」ビチャッ

エルフ娘「いいよ、無理して喋らなくて……」

オーク「……っ」ヨロヨロッ


< ドサッ


< ゴォオオオッ・・・!


エルフ娘「……熱い……ね」

オーク「ゼェ……ゼェ……」

エルフ娘「オーク……」

エルフ娘「首、握り潰される時にね……癒しの精霊に治して貰ったんだけど……」

エルフ娘「治りきらなかったみたい、腰から下の感覚……無いの」

オーク「ゼェ……ゼェ……ッ」ビクッ

エルフ娘「逃げられないや……」

オーク「ッ……ブ、ゴ……」ビクッビクッ…


エルフ娘「……ね、お願い」

エルフ娘「苦しいのは嫌……殺して……」


オーク「……ッ……」ビクッ…ビクッ…

オーク「………ッ 」


エルフ娘「お願い……」

エルフ娘「………」


エルフ娘「ごめん……ね」



< ザクッ

オーク「ブ、ゴ……ッ」ヨロッ

< ビチャッ……ビチャッ……

< ズリッ…ズリッ……

オーク【(あぁ……)】


エルフ娘「……ありがとう」

エルフ娘「言ってること、分かってくれて……あは」…ニコッ


オーク【(綺……麗……だなぁ)】ゴブッ…

オーク「ブゴォ……ッ」グッ


エルフ娘「そのまま……お願い」


エルフ娘「……あのね」

エルフ娘「皆酷い目にあって、痛い思いもしたし、怖い思いをしたし……死ぬより辛い事を背負ったよ」

エルフ娘「その皆に代わって、勝手に代表するなら……やっぱりオークって種族は許せないよ」


エルフ娘「だから……私だけは、アンタを許してあげる……」


オーク「ブゴォッ……!」ビュッ


────────── ドスッ




『魔剣は見ていた』


『仲間とは違い、余り女を弄ぶ事が好きではなかった一人のオークを』


『いつも剣を見つめていた一人のオークを』


『戦場でいつも怯えながら人間に襲い掛かっていたオークを』


『それでも、自分なりの納得をして、手を血に染めていたオークを』


『命はいつだって綺麗だと剣に語りかけて、いつだって醜いと呟いていた』


『そのオークが涙を流している』


『魔剣は柄に大粒の涙を受けて』

『魔剣はその刃に、非業の死を遂げたエルフの娘の血を浴び続けて』


『命と、涙で』


『魔剣は炎に熱せられながらも、その身に受けた色を失う事はしなかった』




『炎が消え、オークもエルフの娘も消え、夜が明けた時』

『そこに残っていた魔剣は………』











       【story..2】

       【魔剣三代目】

    【その名は……「深紅」……】









【二年後……とある鍛冶屋】



熟練鍛冶師「ただいま戻りましたぜっ、と」

女鍛冶師「おやお帰り」

熟練鍛冶師「依頼されてたミスリルアーマー納品してきた」

熟練鍛冶師「ん……? なに読んでるんだ?」

女鍛冶師「号外というやつだよ、あのお騒がせなオーク共が騎士団に駆逐されたとね」

熟練鍛冶師「あれか、アンタの作った魔剣が初陣で持ち主は殺されるわ鹵獲されるわってなった」

女鍛冶師「そうだねぇ」


女鍛冶師「……君は、どう考える?」

熟練鍛冶師「あ?」

女鍛冶師「純粋無垢な赤子が、醜悪な山賊に育てられ、人を無惨に殺す快楽を教えられたとして」

女鍛冶師「それを、『悪』だと認識するかな」

熟練鍛冶師「………」

熟練鍛冶師「空っぽの状態からだったら、そうは思わないだろ」

熟練鍛冶師「良くも悪くも、それがそいつのスタートなんだから」

女鍛冶師「難しく答えようとして放棄したいい加減な返答だね」

熟練鍛冶師「うっせぇ」


女鍛冶師「だがこれで、あの魔剣はこの世界の闇を一つ覚えた」

女鍛冶師「理解したんだ、そして記憶した」

女鍛冶師「あれから十五年、大体……三代は魔剣は世代を交代している」

熟練鍛冶師「……世代を?」


女鍛冶師「言ってなかったけどね、あの魔剣は成長と共に次世代の子を自らの中に宿すんだ」

女鍛冶師「経験した事を溜め込み、そして形を変えて産み落とす」

女鍛冶師「明確な意思はない」

女鍛冶師「だが……生まれた次世代の子には『先代』の記憶、記録がそのまま残されている」

女鍛冶師「それまでとは全くの別視点から魔剣を中心とした世界観測により、更に自身を強化し成長する」


女鍛冶師「あれから十五年経ったが、未だにあの魔剣を越える武器は作れてないよ」


熟練鍛冶師「……十五年前に言ったかどうかは忘れたけどよ」

女鍛冶師「うん?」

熟練鍛冶師「それってもう、武器じゃないんじゃないのか」

女鍛冶師「………」



女鍛冶師「いいや」

女鍛冶師「この世に武器でない存在は無いんだよ」

女鍛冶師「だからこの世には『死』があるんだからね」









       【nextstory..3】

       【魔剣五代目】

    【その名は……「幻想剣・子守唄」……】







次は短め
ここで切ります

あれオークそれから更に5年生きた見たいな描写あったような気がするけど

>>75
この時から五年共に歩んでいくんじゃなくて剣を見つけて五年ってことなのかな?

>>95>>96
それで合っています、描写不足で申し訳ない。

他作品に使用する予定のデータの一部を公開します



───── 再世紀1258年 ─────
「南の大国:オーク討伐隊が襲撃される」

※ 魔剣が主人公オークに拾われる
※ 約三ヶ月前に魔剣『無名』が女鍛冶師に造られた


・・ 【十二年の間に小さな集落や村を襲い勢力強化】 ・・

※ この間、魔剣『無名』と魔剣『歪風』がオークとそれぞれ五年間共にする

※ 語られなかったが魔剣二代目が『歪風』になったのは再世紀1264年である

※ 十年後の再世紀1268年の末には魔剣『深紅』が生まれている

(補足としてstory2終了時までは自身に名を付けておらず、エルフの娘の血を浴びて焼かれた事で『深紅』を名乗る事になる)


───── 再世紀1271年 ─────
「story2本編、魔剣『深紅』が完成するまで」

※ 魔剣が造られてから十三年後、三代目になって三年が経過。


───── 再世紀1273年 ─────
「nextstoryに続く前の女鍛冶師」

※ 再世紀1272年にオークとオーガの軍団を南の王が誇る騎士団がやっと潰し終える
(ここまでで>>26で語られた内容)


───── 再世紀1283年 ─────
「次回の物語が開始される」
「魔剣四代目が五代目を生む半年前からスタート」

(本編で語られないが魔剣四代目の名前は『不変剣・深紅』)
(性能に変化は無い代わりに、とある人物と会うまでは魔剣のイメージカラーが『血の色』となる)



これだけここに出しても分かりづらいかと思いますが補完の役に立てばいいなと

本日の午後前半でゲリラ投下開始予定

< ガラガラガラガラッ

< ガタンッガタッ……!


男「もうじき王都に着く、そこでブツを売る」

男「お前らはこの冒険者プレートを身に付けとけ、後続の荷馬車にはダミーで火薬を積んである」

男「そっちに関しては後続の奴等に説明済みだ、お前らはお前らで上手くやれよ」


< 「任せろ」
< 「たまにゃ都市の娼館行きてぇなぁ」
< 「へへへ……」


商人「所で、都市には最近盗賊がいるそうだが大丈夫なのかね」

男「所詮は若いスラム上がりのコソドロ集団に過ぎない、敵ではないよ」


【南の大国『サース』・王都】


憲兵「積み荷はなんだ」

商人「美術品が何点か、後は『西』からの輸入品ですな」

憲兵「ほう」

憲兵B「確認します」

商人「……」

憲兵「所で聞いたかい? 先日、西の大国で『魔女』が出たらしい」

商人「それはそれは恐ろしいですなぁ」

憲兵「伝説の『魔女』ってのも、中々可愛いらしい小娘だったそうだ」

商人「ほぉ」

憲兵「丁度、お前達の売った娘達と変わらない歳のな」


< 「動くな! 『王の騎士団』であるッ!!」

< 「馬車の積み荷台、二重底になってるぞ!」


憲兵「……大人しくして貰えるな?」

商人「………」

商人「何故だ、私のやり方は常に騎士団や憲兵の目を欺いてきた筈だ」

憲兵「ほんの二年前に黒髪の娘が来てな、お前達が『西』で売ろうとしていた奴隷がオークに奪われた事があるだろう?」

商人「っ! 十年以上前の話だぞ……!!」

憲兵「だがそれで奴隷の密輸方法の一部が分かったわけだ」

憲兵「牢の中で聞かせてやるよ、その娘が体験した『人を助けるオーク』の話をな」


商人「ぐぅぅぅうッ……!!」



【王都内部……『憲兵騎士団・兵舎』】


憲兵「こちらが今朝捕らえた闇商人達の積み荷です、騎士殿」

熟練騎士「うむ」

憲兵「恐らく奴隷が積まれていた馬車の積み荷、火薬等は目眩ましでしょうな」

憲兵「しかし美術品の積み荷、これは何処か正規のルートで売るつもりだったそうです」

熟練騎士「盗品の可能性は?」

憲兵「それはどうでしょうなぁ、どれも捌けば利益の出る有名な品が多い」

熟練騎士「……む、これは」


< シャキ・・・ンッ


憲兵「魔術師によると、低級の魔剣だそうで」

熟練騎士「低級? これが?」スッ

憲兵「素材は恐らくミスリルですが混ざりものらしいですな、微弱な魔力を感じる事から錆び防止程度かと」

熟練騎士「それにしては見事な……これほど深い赤の剣は見たことがない」


熟練騎士「私が買いたい位だな、ははは」

憲兵「買い取りますか」

熟練騎士「む? 出来るのか?」

憲兵「押収品は通常、しかるべきルートで売却するか保管します」

憲兵「しかし最近、例の『怪盗』騒ぎのせいで規則に変更がありまして」

憲兵「返却予定の無い押収品はルートをバラバラにして売却する事になってるのです」

熟練騎士「なるほど、そこで私が買い取っても良いと」

憲兵「はい」

熟練騎士「ふぅむ、幾らだ」



憲兵「金貨二百相当だそうです」

熟練騎士(足元を見たな、この男)ヤルナァ…


【熟練騎士邸】


妻「それで、この様な魔剣を買ってきたと」

熟練騎士「う、うむ……」

妻「どうするのですか、他にも何本も魔剣を屋敷に飾っているというのに」

熟練騎士「いや、そうだが……うむ」

妻「どうして駄目と言ってるのにやるんですか」

熟練騎士「どうしてと言われてもだな……」

妻「返してきてください」

熟練騎士「……出来ぬ」

熟練騎士「押収品から買ったのだ……」


妻「…………」ニッコリ



#################



熟練騎士「はぁ、絞られてしまったよ」スタスタ…

娘「あははっ! パパかっこわるーい!」パタパタ

熟練騎士「言い訳も出来んな」

娘「それで、今度はどの剣を買ってきちゃったの?」

熟練騎士「見映えは良いのでお前の部屋に飾ることにしたんだ」

娘「うぇーっ、なんでー!」

熟練騎士「見映えは良いと言ったろう……?」


熟練騎士「私だ、取り付けは終わったか?」コンコンッ

< ガチャッ

侍女「終わりました、旦那様」

熟練騎士「夜にすまないな」

娘「侍女ありがとう!」

侍女「いえ」ニコッ


娘「……わぁ、真っ赤だねぇパパ」

熟練騎士「綺麗だろう?」

娘「でもなんだか形が歪っていうか、あんまり好きじゃないかも」

熟練騎士「まだ剣に対する理解が足りてないな、娘よ」フッ

娘「パパみたいなのを病気って言うって、ママが言ってたよ」

熟練騎士「…………」

熟練騎士(たまには夫婦水入らずで息抜きさせてやるか……)




< キンッ




熟練騎士「ん?」

娘「どうしたの?」

熟練騎士「いや、廊下にある『囁きの剣』が鳴ったので気になった」


< バサッ

娘「パパ!パパ! いつもの子守唄っ、歌って!」

熟練騎士「またあのお伽噺か? 仕方ないな」

熟練騎士「では聞かせてやろう」



################



< キンッ

< キンッ


< ボソボソボソ……


< ケラケラケラ


< ………………

< ………ネェ………

< ……キイテミヨウカ………




< ………オーク………………





─────── 昔、南の国に一人の女がいた。


女は身分こそ貴族だったが質素な生活を好み、心優しい娘であった。

朝は早くから服を縫い、昼は町の人々の手伝いをし、夜は剣を携えて町を歩き回った。


< 「それって質素なのパパ?」

< 「いつもそれを聞いてくるな……質素なのだ」


女は、いつも人々の笑顔を見ていた。

何処か浮かない顔をしていたなら、それに歩み寄って話を聞き……

彼女は力になれることならばどんな事にも協力をして、助け合っていた。


そんなある日、娘が町へ買い物に出掛けた時の事だ。

彼女は侍女を雇っていなく、何日かに一度は買い出しに行っていたのだ。



そこで、女は町の人が何か困った顔をしているのに気づいた。

一体どうしたのか、と訊ねた。


『中央山脈に棲む竜が町の近くに来ていて、故郷の村から戻って来ていた子供と妻が帰ってこれずにいるのです』


そう聞いた女は町の人を慰めると、きっと大丈夫だと言って帰って行った。

大丈夫という言葉に根拠はない彼女だったが、自信はあった。

自分で竜を退治するつもりだったからだ。


直ぐ様、女は家へ戻ると一本の魔剣を……

< 「すー……すー……」


熟練騎士「……ふ、寝たか」

娘「…すぅ……すー……」

熟練騎士「おやすみ」チュッ


【翌日】


熟練騎士「では頼んだぞ」

侍女「はい、行ってらっしゃいませ」

妻「今日からは職務上の付き合いでも酒場で酒を飲んではいけませんからね?」

熟練騎士「う、うむ……分かっている」

妻「もう」

< チュッ

妻「気を付けて下さいね、女神の御加護がありますように」

熟練騎士「ああ」


################


娘「はぁ、もう終わりでいい? 疲れてきたぁ」

侍女「そうですわね、そろそろ昼食の準備に入りますのでお勉強はここまでにしましょう」

娘「わーい!」

侍女「それでは失礼します」ペコリ

< ガチャッ

娘「どーしよっかなぁ」


娘(そういえば、パパが買ってきた剣ってやっぱり魔剣なんだよね)

娘(赤い刃の剣なんて初めてみたよ)

娘「……」スッ


< ピトッ……つつー……


娘(変な溝……どうやって造ったんだろ)


【夕方】


娘「ん……」コックリ…コックリ…

娘「……すぅ……」


< スタスタ……

侍女「あら? お嬢様寝てしまいましたか」

侍女「ベッドに移しますね?」スッ

娘「んぅ……侍女……」

侍女「起こしてしまいましたね、まだお夕食の時間まで暇がありますので寝ていて良いですわよ」

娘「うん……」ギュッ

侍女「ふふ」

娘「ね……あれ聞かせてー」

侍女「旦那様がお作りになったお伽噺ですか?」

娘「ん」

侍女「ええ、喜んで」ニコッ


─────── 昔、南の国に一人の女がいました。


女は身分こそ貴族だったが質素な生活を好み、心優しい娘でした。

朝は早くから服を縫い、昼は町の人々の手伝いをし、夜は剣を携えて町を歩き回ります。

女は、いつも人々の笑顔を見ていました。

何処か浮かない顔をしていたなら、それに歩み寄って話を聞いて

彼女は力になれることならばどんな事にも協力をして、助け合うことに喜びを感じていました。


そんなある日、女が町へ買い物に出掛けた時の事です。

何日かに一度買い出しに行っている彼女は市場へ向かいます。


そこで、女は町の人が何か困った顔をしているのに気づきました。

「どうかしましたの?」、とたずねました。


『中央山脈に棲む竜が町の近くに来ていて、故郷の村から戻って来ていた子供と妻が帰ってこれずにいるのです』

『ああ、どうか無事でいてくれると良いが……』


そう聞いた彼女は町の人に、きっと大丈夫だと言って一度戻りました。

大丈夫という言葉に根拠はない彼女でしたが、自信はありました。

私ならば竜を倒せる、と。


直ぐ様、彼女は家へ戻ると一本の魔剣を手に取りました。

とある女鍛冶師に譲り受けた、銀の剣でした。


銀の剣は邪悪な存在だけを斬る、聖なる刃を持っていました。

彼女は銀の剣を携えて、皮の鎧を身に付けると町の外へ出ていきました。



巨大な竜を見つけると女は恐れる事なく勇敢に立ち向かっていきます。

町の人を守るため、その家族を護るため、彼女は剣を振るいます。


しかし竜は傷を負っても瞬きをする間に治してしまいました。

女はそれでも諦めずに剣を振りましたが、巨大な竜には傷をつけることも出来ずにいました。

次第に彼女の身体に増えていく傷と疲れ。

そのうち、膝をついたのは女の方でした。

そして、竜が彼女にトドメを刺そうと鋭い爪を振り上げた時。


彼女が最後の力を振り絞って剣を薙ぎ払ったのと同時に、極光にも似た光の柱が竜を貫いたのです。

それは女の諦めない心と、人を思う優しさから生まれた勇気によって作られた光の刃でした。

竜は叫び声をあげるとそのまま逃げ出し、遂に女は竜に勝ったのでした。

町へ戻った彼女は町の人々に感謝され、その後一人の若い騎士と結ばれ幸せに暮らしました。



侍女「……めでたしめでたし、ですね」

娘「すぅ……すぅ……」

侍女「……」

侍女「ふふ」スッ


< スタスタ……

妻「あら、ここに居たのね侍女」

侍女「はい、彼女に少し『昔話』をしてあげていました」

妻「あの人が作ったお話ね、もう……恥ずかしいわ」

侍女「いえ……私は好きですよ、貴女様のお話」

妻「あなたまでそうやって……ふ、ありがとうね」


【数日後】


妻「今夜は戻らないのですか?」

熟練騎士「うむ、どうも『北』で何かあったらしくてな……我々『王の騎士団』が調査に向かうことになった」

妻「まあ!……何事も無ければ良いのですが」

熟練騎士「あぁ、伝説の『魔女』が現れないことを祈っている」

妻「気を付けて」チュッ

熟練騎士「すまない、娘を頼む」



侍女「兵舎に残っていた他の騎士様にお聞きしました、北の大国で大規模な天災があったそうです」

妻「天災……」

侍女「それが火事なのか、地揺れなのか、はっきりとしたことが伝わってないらしいですわ」

妻「そうなの、それなら『魔女』の心配はしなくて大丈夫そうね」

侍女「はい」


娘「ママー! お外の門に誰か来てるよー!」


妻「侍女」

侍女「はい、お客様でしょうか」


魔術師「お初に御目にかかります、熟練騎士殿の奥方殿」

魔術師「私は宮廷魔術師を王より任されております、魔術師と申します」

妻「夫に何か用があるのでしょうか?」

魔術師「いえ、実は王の命により参りました」

妻「王の……!」

魔術師「正式な書状もあります、どうかご自分でご確認を」スッ

< バサッ

妻「侍女」

侍女「はい、私も確認します」



妻「1週間ほど前、夫の買ったあの魔剣を調査……?」

魔術師「我等が王は全てを見通しておられる、恐らく何かあって私に調査を命じたのでしょうな」

妻「……ではご案内しますわ」

妻「侍女は娘を見ていて」

侍女「はい」


魔術師「………」

魔術師(噂に聞く『魔剣姫の屋敷』か、外に居ても感じられる魔力からして、どれほどの魔剣があるのやら)

魔術師(だが確かに、何処かから……異質な魔力の放ち方をしている物がある)

魔術師(まるで魔力を抑えているかのような……)



< シャキ・・・ンッ

魔術師「……赤い刃の剣」


妻「夫の聞いた話では、低級の魔剣だと」

魔術師「私の同僚が見たと言っていたのはこれでしたか」

魔術師「そうですな……」

魔術師(見た所ではその通り、低級の魔剣)

魔術師(だがこの溝の彫り方は人の手では有り得ない……人ならざる者が製作したのか……)




魔術師(柄に刻まれた紋に見覚えが無ければ、そう判断していたな)



魔術師「…………低級の魔剣ですね」

妻「本当に?」

魔術師「ええ、ただこの魔剣の色は塗られた物ではなく、特殊な材質で変色させた訳でもない」

魔術師「魔剣が何らかの意思を持ってその色を吸収したと見るのが正しいですな」

妻「それは、呪いとは別ですか」

魔術師「悪しき気配は無かったので問題はないかと」

妻「それは……ああ、ほっとしましたわ私」

魔術師「無意味にご心配をお掛けしました、奥方殿」


魔術師「私はこれで王に報告はします故、どうか遠征中の熟練騎士殿が戻った際は宜しくお伝え下さい」

妻「分かりましたわ」

魔術師(さて……王に伝えねばな)

魔術師(魔剣の製作者は彼の有名な鍛冶師であったと)



【数ヵ月後】


熟練騎士「そうか、王があの魔剣を……」

妻「でも問題は無かったみたい」

熟練騎士「良かった、これで私が買ったあの魔剣に問題があればどんな事を言われるか分かったものではない」

熟練騎士「ところで」

妻「はい?」

熟練騎士「さっき侍女から聞いたのだが、娘が……男の子とよく遊んでいるそうだな」

妻「ええ、町の商人の息子さんです」

熟練騎士「………」

妻「まだあの子もその子も五つなったばかりですよ、あなた」

熟練騎士「いや、まぁ、うむ……分かってはいるが、うむ……」


< カチャッ

< スタスタ……


熟練騎士「……こんな小さな体でも、いずれは女として男と結ばれるのだな」

娘「すぅ……すぅ……」

熟練騎士「私は別に、商人の息子が相手でもいいのだが」

熟練騎士「……はぁ」

熟練騎士「何のために、あんな話を聞かせていたのだか……いやこれは私の我が儘だが、だが……なぁ」


熟練騎士「……」

熟練騎士「おやすみ」スッ


娘「パパぁ……?」ムクッ

熟練騎士「起こしたか」

娘「んー……しっし行く」


##############


娘「ね、パパ」

熟練騎士「どうした」

娘「あれ、聞きたいの」

熟練騎士「もう夜も遅い、このまま寝なさい」

娘「んー……あのね、いつもあのお話聞いてから、次の日に男の子に聞かせてあげてるの」

娘「そうしたら、僕もそんな騎士になりたいって……喜んでたの」

熟練騎士「…………」

熟練騎士「そうか、それなら……今夜も聞かせてやろう」


熟練騎士「昔、南の国に一人の女がいた……」




────────── 心優しい娘であった。
                ……いつも人々の笑顔を見ていた。 ─────

          ───── …力になれることならばどんな事にも協力をして… ─────

    …………竜が町の近くに来ていて…… ──────
 ────── 自分で竜を退治する……




……女は家へ戻ると一本の魔剣を手に取った。 ──────────







────── とある女鍛冶師に譲り受けた、銀の剣だった。 ──────

─────…… 女が最後の力を振り絞って剣を薙ぎ払ったのと同時に、極光にも似た光の柱が竜を貫いた …… ─────









【更に数ヵ月後……北の大国『ノルド』、国境】



騎士団長「総員、抜刀! 『北』の国境を越えたトカゲ共を一匹たりとも逃がすんじゃない!!」

老騎士「団長、『北』から再び使者が!」

騎士団長「!」

老騎士「『我々、竜には手を出さず』……完全に奴等、竜の群れに関して知らぬ存ぜぬを通すおつもりですぞ!」

騎士団長「チッ……この竜の群れすら奴等が用意したと聞いても不思議ではなさそうだ」


蛇竜「キシャァァアアッ」ぞぞぞッ

騎士団長「破ァッ!」

< ズドォンッ!!


騎士団長「地を這う蛇竜は正面から切り伏せよ! 空を滑る翼竜は弓手が撃ち落とせ!」

< 「「応!!」」



熟練騎士「ヌゥゥッ……!」ガギィンッ

蛇竜A「シュゥゥッ…! キシャァァッ」ギチギチッ…

熟練騎士「でぇえあああッ!!」


< ゴシャァッ

熟練騎士「っ……はぁ、はぁッ」

騎士「熟練騎士殿、ご無事ですか!」ガシャッ

熟練騎士「うむ……齢四十にもなると体力が落ちていかんな」

騎士「貴公は奥方に体力を奪われてそうですからな、ははっ」

熟練騎士「……」

騎士「まさか本当に……?」

熟練騎士「も、元々は活発な娘だったのでな、あの妻は」


熟練騎士「それより騎士よ、貴殿はどう思う?」


騎士「この状況ですか」

熟練騎士「然り、数ヵ月前は幾つかの村が竜の群れの襲撃を受け、今は国境である『オクチデント草原』で無意味に火を放つ竜達」

熟練騎士「何故、この草原を焼き払う? そして私や他の騎士が見た事から考えるにコイツら……」

騎士「我々が到着したと同時に、進軍を開始した……ですか?」

熟練騎士「そうだ、これは『進軍』だ」


< キィィ ──────ンッ!


熟練騎士「!」
騎士「お任せを」バッ

翼竜「ギャァオオオオッ!!」

騎士「雷の精霊よッ」ビュッ!!

< パキッ

────────── バリバリッ ゴバァアアアアッッ


< ズゥンッ!

騎士「ふっ、と」スタッ

熟練騎士「見事だ」


騎士「……なるほど、確かにこれは進軍と言うに間違いありません」

熟練騎士「そうだ」

熟練騎士「どの竜も大した敵ではないが、我々を突破せんと連携しているのが分かるのだ」

騎士「目的は我が国でしょうか」

熟練騎士「分からん、だがそれ以上に『北』の対応が腑に落ちぬ」

熟練騎士「民が竜による被害で命を失われている、なのに奴等はそれを無視している」

騎士「許せませんね」


< ゴゴォッ……ドォオンッッ!!


騎士「っ!?」

熟練騎士「団長の方向だ……一体何が!」



騎士団長「……油断していた、か」ゴフッ

老騎士「団長……!」

騎士団長「爺、水晶で全騎士に通達しろ」


騎士団長「『魔女』に汚染された竜が現れたと……ッ」




黒翼竜「グルルル・・・」ズシッ


黒翼竜「バグルルルッ!!」ザッ




老騎士「ここは私めに!」

騎士団長「よせ、爺!」


────────── ザクッッ



  バシャッ……ボタタッ


老騎士「ご……ぉッ」

騎士団長「爺ッ!! やはりこの翼竜、周囲に無色の魔剣を展開している!」

老騎士「団長ォ、撤退……をぉ……ッ」

騎士団長「喋るな!」


黒翼竜「ヴルルァァアアッ!!」


騎士団長「くっ、魔導騎士! 撤退だ!!」



##################



魔導騎士「!」

魔導騎士「こちら水晶班! 全騎士に告ぐ! 団長からの命令!」

魔導騎士「撤退だ! 詳細は不明、しかし会話から察するに『魔女』に汚染された竜が出現している!」

魔導騎士「繰り返す! 全騎士撤退、『魔女』に汚染された竜が出現した!」



< 『撤退だ! 全騎士、撤退せよ!』


熟練騎士「汚染された竜だと?」

騎士「熟練騎士殿、確か『魔女』に汚染された生物は……!」

熟練騎士「凶暴化し人間を狙って攻撃するようになり、魔力を編んで生成した剣を使う」

熟練騎士「極めて危険な存在だ、それがまさか竜に起きるとは……」

騎士「とにかく撤退です、 水晶班のいる地点まで走りましょう!」

熟練騎士「ああ!」


< ドゴォォオッ!


熟練騎士「!」

騎士「あっちは……水晶班の待機している位置じゃ……」

熟練騎士「急ぐぞ!」




< ゴォォォオ・・・!


騎士「くっ、何だこの炎はッ」

熟練騎士「誰かまだ居るのか!」

< 「こっちだ……っ」

熟練騎士「大丈夫か! 今瓦礫をどかす……!」



魔導騎士「う……ぐ……ッ、あの黒い翼竜……一直線にここへ来た……」ガララッ

熟練騎士「他の魔導騎士は?」

魔導騎士「最初の爆撃で殺られた……俺も、もう……」ドロッ…

熟練騎士「っ、直ぐに止血を!」

騎士「待ってください、体内に何か刺さっていませんか!? 癒しの精霊が治せないと言っています!」

熟練騎士「なに!?」


魔導騎士「……奴の、魔剣だ……ご丁寧に魔力を編んだ脆い刃を身体に散りばめて……っ」ゴポッ

魔導騎士「う、ぐ……ゴハッ…」

熟練騎士「しっかりしろ! 糞、何か……」


魔導騎士「……王に、報せるのだ……お前達が……」


騎士「僕達が……!?」

魔導騎士「頼む、王都に……奴が、辿り着く前に……」スッ

< キィィインッ

熟練騎士「……」

熟練騎士「貴公の最期は、必ずや王に!」

騎士「ぼ、僕もです……!」


魔導騎士「……ふ…たの……んだ………」

魔導騎士「女神キロクノの知を……ここに……!」


< フッ


魔導騎士「…………っ」ゾクッ

魔導騎士「死にたく……な……」


< 「……」ドサッ




【王都】


< フッ

熟練騎士「騎士、城へ行くぞ!」バッ

騎士「はっ!」バッ


熟練騎士「我等が王ならば、汚染された竜だろうと一太刀で倒してくれる筈だ……ッ」

騎士「しかし敵は単騎ではありません、他の竜が到達する前に策を……」







< ォォォオオオオオッ……!!







騎士「 ──────── まさ……か 」


熟練騎士「ッ……速すぎる、何なのだあの黒い翼竜は!!」



################


妻「……? 今、何か聞こえなかった?」

侍女「いえ……風の音かと思いましたが」

妻「そう、なら別に…


< 「きゃぁあっ! ママー!!」


妻「なにっ!? 娘の声……!」

侍女「私が見て参ります!」



< アァハハハハハハハハハ・・・!


娘「わぁぁあ!!」

侍女「落ち着いて下さい、この声は何処から……」

娘「廊下の、緑の短い剣が……っ!」

侍女「囁きの魔剣が……?」バッ


< 「ハハハハハハハハッッ」

侍女「……これは一体」


妻「侍女! この声は誰なの!?」

侍女「ご安心下さい、囁きの魔剣が何故かこれほどの笑い声を……」

妻「囁きの!?」

妻「侍女、今すぐお城へ逃げるわよ!!」


##################


黒翼竜「バグルルルッ、ヴルルァァアアッ!!」

< ドゴォォオッ!!



< 「ぎゃぁぁ……ッ」

< 「騎士団は、騎士団は何処へ……っ」

< 「うがぁあああ!! 誰か火を消してくれ!!」




熟練騎士「町が……ッ」ギリッ

騎士「熟練騎士殿、このままでは城下町が!」

熟練騎士(どうするも何も、町の人間を見殺しには出来ん……)

熟練騎士(通信魔術が使える者が近くにいない以上、最善策は……)

熟練騎士「騎士、貴公は城へ急げ」シャキッ


騎士「熟練騎士殿!?」

熟練騎士「私とて団長と共に戦ってきた騎士だ……王もここまで来れば直ぐに気づいてるかもしれん」

熟練騎士「行け! 私は奴と戦うッ」



────────── ズガァンッッ!!


黒翼竜「ッ……!」ズキッ


熟練騎士(私は魔術が使えん)スタッ

熟練騎士(出来ることは長年愛用してきた『不壊の魔剣』を、鍛え上げた剣術で振るうのみ……!)ギシッ


    ボッ……!

黒翼竜「ヴルルァァアアッ!!」ギュルンッ


熟練騎士「ッ!」バッ

< ズバァァッ
          ブシュッ!!

熟練騎士(ブレスを吐くと見せかけ、魔剣の投擲……!)

熟練騎士(だが、浅い!)ザッ…!

熟練騎士「うおおおおおおおおお!!!」



< ズンッッッ

黒翼竜「 ギィッ……─────────!!? 」

熟練騎士(竜は、己の力を過信している)

< グリッ……ズヂッ

黒翼竜「グルァア……ッ!!」

熟練騎士(狡猾さも、自身の見た目も、その膂力と能力の強さもまさに化け物……それを貴様は知っている)

熟練騎士「……『自分が正面から刺されるとは思わなかった』か、竜……!」


黒翼竜「ヴルルルルゥアアアッッ!!!」

< バギィンッ!!

熟練騎士「!?」


熟練騎士(馬鹿な、不壊の魔剣を破壊しただと……一体どうやって!?)



< ドサッ!

熟練騎士「ぐっ……!」

黒翼竜「グルルル……ッ」バサァッ


< ブワァッ!


熟練騎士(逃げた…?…俺から離れようと……)

熟練騎士「それなりに効いたというわけか……ッ」

熟練騎士「だか、はぁ、はぁ……あの方向は……町の外に近い…………」





熟練騎士「……俺の、屋敷がある…………」






───── 『とある鍛冶師が打った剣を、偶然にも魔剣を集めていた騎士が買った』



侍女「…………」ガタガタ…ッ

『様々な魔剣が屋敷のあちこちに飾られ、静かに魔剣達が互いに知識を交わす』


妻「……侍女」

娘「ま、ママ……」

『とある鍛冶師の元を離れて、初めて魔剣はそこで自分以外の魔剣を知った』

『しかしどの魔剣も、誰を斬ったのかは語らなかった』

『そこで語られていたのは、小さな世界で起きている小さな幸せの物語だけだったのだ』

『幸せな家族の、何気無くも儚い……小さな幸せの世界』





妻「娘を連れて、逃げなさい!!」



黒翼竜「ヴルルルルゥアアアッッ!!! ヴグルァアアアッッ!!」





『屋敷の門扉の柱に付けられた魔剣は言った』

『魔剣姫の屋敷へようこそと歓迎した』


妻(あの黒い障気、『魔女』に汚染されたの? そもそもこの竜は何処から……!)


黒翼竜「ヴゥルァアッ!!」バサァッ


妻(あの翼の動きは囮、本命は無色の魔剣による不意討ち!)バッ


    ドカカカカッッ!!


妻(っく……避けきれなかった)ブシュッ

妻「昔はあんなに動けたのにね……っ」


『エントランスで絵画の隣に飾られた二本の魔剣が言った』

『この屋敷の主は熟練騎士であるが、殆どの魔剣はその妻に収集された物だと』

『食堂に飾られた十数本の魔剣達は口々に語った』

『この屋敷で働く侍女は、その昔に熟練騎士の妻に救われた家族の娘だと』


< ギュボォッッ!!


    ゴッッ ───────!!

 ドガッ >

妻「~~ッ……熱っ、ぁ……く……!」バサバサッ!

妻(今の私じゃ、魔力も能力も無い……逃げ切るのも難しい)

妻(侍女が娘を少しでも遠くへ連れて逃げてくれれば……)

    ドスッ

妻「……ッ



妻「ぁッ、ああぁぁ……っ!!」


『二階の熟練騎士夫妻の寝室、そこを守るように飾られた一本の錆びた魔剣は言った』

『お前の母に、私も造られたと』

『そしてその魔剣は疲れたように口を閉ざして』

『小さな、子供部屋の前の廊下に飾られた、変わった魔剣が代わりに語ってくれた』


妻「ぁぁあ……ッ!! はっ、ぅぐううう……」

妻(痛い、痛い……! 無色の魔剣……予備動作無しに、あぁ、足が……ッ)

妻(この竜今までとは……っ)

妻「抜け、なぃ……っ!」ギチギチッ…


< ズシンッ

< ズシンッ


黒翼竜「カハァァァア・・・」
    ガパァッ

妻「 ───────っ 」


『かつて、貴族の娘は一本の魔剣を手に黒い障気を漂わせる竜と戦った』

『都の騎士団が到着するまで数時間』

『魔剣が如何に優れていようと、傷が塞がってしまえば意味はなく』

『彼女にとって時間は敵となっていた』


『そして力尽き、絶体絶命の窮地に陥った彼女は手にしていた魔剣を握り締め』


『……自害しようとした』




────────── ビュォッ・・・!



『銀の魔剣はその時、一人の青年騎士が現れたと言った』

『しかし丸腰だったその青年は銀の魔剣を奪い取って、竜と対峙した』

『そして』



熟練騎士「うぉおおおおおおおおッ!!!」

   ドゴォッッ・・・!!

黒翼竜「ッヴグルォァッ!?」



『雄叫びを上げて、竜へ立ち向かったのだ』

『他でもない、娘を守るために』


妻「あなた……!」

熟練騎士「チィッ、籠手が一瞬で砕けた……どうなっているあの竜!」ザッ

熟練騎士「……その足の止血は出来るか?」

妻「ごめんなさい、魔剣が抜けないの……っ」

熟練騎士「……」ギリッ



『囁きの魔剣は語った』

『当時の銀の魔剣は、ある「引き金」を引く事でしか力を発揮できずにいた』


< ガランッ

妻「……?」


『それはとある鍛冶師が何気無く造った時に、特に理由も無しに組んだ術式だった』


妻(この剣の紋章は……!?)


『所有者の感情に合わせて消費魔力を上下させ、刃を砲身に見立てて放出口を固定』



< 「あなた!!」

熟練騎士「!」

妻「これを使って……!」バッ


   パシンッ


熟練騎士「これは……あの赤い魔剣?」

熟練騎士「いや……」

熟練騎士(確か刃の形状は歪だった筈だ、直剣になっていないか……まるで、あの時の?)



『所有者の魔力を限界まで吸出してでも敵を討つ為に、銀の魔剣は全力を振り絞る』

黒翼竜「ヴグルァアアアッッ!!」


─────── キィンッッ


『後は水の入った筒を振り下ろすように』

妻「その剣を信じて、竜を倒して!!」

熟練騎士「……ッ!」チャキッ


『剣を振り下ろす瞬間に術式が発動するのだ』

熟練騎士(無色の魔剣が生成される音、奴が不意を突かれて地に落ちていること)

熟練騎士(剣に対して絶対の防御を誇っているという自信、それがあの竜をここに縫い付けている……!)



熟練騎士「三十年前を思い出すなぁ! 妻よ!」

< ビュォンッ

熟練騎士「頼むぞ、魔剣 ───────!! 」





『とある鍛冶師が打った魔剣は聞いていた』


『数々の名だたる先達である剣のどれもが語る、たった二人の物語を』


『その二人の物語がまだ続いている証を』


『侍女が小さな子に聞かせた子守唄』


『熟練騎士の妻が小さな子に語った苦くも美しい過去の子守唄』


『熟練騎士が、未来に続く子に託したい幻想の一端』



『魔剣はその物語を同じように自身の子に語り聞かせた』



『そして』

『魔剣は産声を上げるように天高く名乗る』



『剣先から放たれた赤い光は黒き竜を飲み込み、柱となって空へ昇る』



『新たに語り継がれるであろう、魔剣』

『その名は』











       【nextstory..3】

       【魔剣五代目】

    【その名は……「幻想剣・子守唄」……】















       【story..3】

       【魔剣五代目】

    【その名は……「幻想剣・子守唄」……】








#############


魔術師「屋敷が全壊してますな、熟練騎士殿」

熟練騎士「はは……魔剣を何本か売って新しく建て直さねばな」

熟練騎士「それよりも、妻の容態は……」

魔術師「王の名にかけて必ずや足の傷すら残さず治して見せましょう」

熟練騎士「頼んだぞ……私は少し、眠る……」



< 「あー眠ると良いぞ、妾もそれが好ましい」



熟練騎士「!!」ガバッ

魔術師「熟練騎士殿、ご無理をなさいますな、貴公は魔力を限界まで搾り取られているのだ」

熟練騎士「し、しかし……!」




女王「ククク、妾は構わぬ」

女王「此度の竜討伐は見事であった、同時にあの『光の剣』も実に見事であったぞ?」


熟練騎士「有り難き幸せ……!」ザッ

女王「さて、先ほど魔剣を何本か売ると言っていたな? 貴公」

熟練騎士「はっ! 恐れながら、それほど金銭に余裕のある身ではないので……家族の為にも剣を手放すつもりでした」

女王「ではそこの赤き魔剣、妾が買い取ろう」

熟練騎士「!?」

女王「異があるなら聞こうぞ」

熟練騎士「いえ……!!」


女王「では決まりだ、その魔剣……」






────────── 「……妾の剣とする」





       【nextstory..4】

       【魔剣六代目】

    【その名は……「王ノ道化」……】







映画見てきます
FGOの実写

次も短め


今回も素晴らしかった
先代の記憶・記録は剣の中に残ってるって言ってたけど武器としての能力は最新世代のものしか発動できないのかな?
あと屋敷を見る限り魔剣に知覚があるのはわりと普通のことなんだろうか

>>159
能力については本編で触れるので知覚について

魔剣五代目の視点では、どの魔剣も会話能力は無いですが、
寝言で今までの記憶を常に一から現在まで語り続けている。
という事になっています。
何より未だ女鍛冶師の魔剣に会話のキャッチボールが出来ないので

しかしそれは魔剣視点での話
実際に分析するなら『他の魔剣に刻まれた過去の記録を読み取っている』というのが、本来の魔剣の様子です


< ガキンッ


女王「楽にせよ、客人」

女王「……む、違うな! あははは! 客『剣』であったな!」

女王「そなたの製作者が何者か、大体は調べている」

女王「面白い人間が面白い存在を生み出したものよ」

女王「なぁ、竜殺しの魔剣」


< ……



女王「今日より妾の玉座の左に立つ事を許そう」

女王「臣下達は不思議な顔をするだろうがな」

< ……

女王「これから毎日、妾の隣に立つ事が許されるなどそうは無い」

女王「否、これが初めてなのだからな」

女王「ククク、あぁ楽しい」


< ……



################


女王「晩餐会から戻ったぞ」

< ……

女王「……」

女王「なるほど、これまでそういった食事の場に行ったことがないか」

女王「勿体無いものだ、食は万物に共通する概念であるが人間は特にそれを追求する」

女王「人間に限らず、一部の生命はそれに近いものを求めているものだ」

女王「命を彩り、飾り付ける」

女王「そして食すのだ」

女王「記憶しておけ、魔剣よ」クックッ


< ……



女王「そういえばそなたにはまだ名乗っていなかったな」

女王「妾はこの南の大国『サース』の王、ジークフリード三世である」


< ……キシッ


女王「…………フッ」

女王「はははは! やはりそうか、そなた……妾が女の姿として見えているか!」

女王「実に見事」

女王「如何にも妾は女である、生粋の美女であるぞ」クックッ



女王「妾に名は無い」

女王「生前……いや、かつては名が在ったが、王を名乗る存在となってからは名を持ってない」

女王「妾がこの世界に生まれた時から、妾は王であったが故な」

< ……

女王「だから妾の事は『いつか』好きに呼べ」

女王「歓迎してやろうぞ、ククク」


女王「『幻想剣・子守唄』か」

女王「良い名だ」

女王「その名に至るまでに何を経験したかは知らぬが、妾は良いと思うぞ」

女王「自身に名を付ける事は、在り方を決めるに等しい」

女王「どの程度の年月を経てそなたが変わるのかは分からぬが……それまでの在り方としては悪くない」


< ……

女王「最も、あの竜によって出た妾の騎士団での犠牲者は五十は越える」

女王「当面はそなたの力が必要になるような事態は起きない事を願う」

女王「起きたら妾が十秒で終わらせるがな」


################


女王「良い朝だな、幻想剣」スッ

< ガキンッ

女王「そなたの存在意義はあくまで剣である、なら所有者として使おう」チャキッ

女王「…………」

女王「ククク、面白い」

女王「剣の刀身に術式が幾つも組まれているな、そなたがこれまでに作り上げたか」

女王「では上には上がいると教えてやろう」ブンッ



─────── ビキィッ!!



< パキッ……ミシッ……

女王「妾の魔力を一割以下……一分だけ流し込んで振った結果、砕ける寸前だ」

女王「さぁ、当分は妾の隣で休んでいるがいい」

< ガキンッ


【数ヶ月後】


女王「……?」

女王「そなた、思ったより早く見映えを変える事が出来るのだな」

< ……

女王「許せ」

女王「『あの』人間が造った剣がどれ程の物か、壊すつもりで振った」

女王「考えを改めるとしよう」


< ガコォン……

< 「陛下……騎士団が一人、騎士団長参上致しました」


女王「騎士団長、そなたにこの魔剣を使用する事を命じる」

騎士団長「……はっ!」

女王「期間は半年だ」

女王「その頃までに飽きたなら返しても良いがな」

騎士団長「使わせて頂きます、王よ」スッ

騎士団長「……」

騎士団長(もしやこの魔剣が、例の竜殺しか……?)ガキンッ


女王「刃零れはすまい、存分に使え」


################


騎士団長「……ということがあってな、この剣ではないか? お前が竜を倒した魔剣とは」カチャッ

熟練騎士「如何にも、しかし王は何故その剣を……?」

騎士団長「やはり何かお考えあっての事だろうが、気になるだろう?」

騎士団長「そこで貴公に会いに来たのだ、例の竜殺しの一件……この魔剣でどうやればあの光の柱を出せたのか」

熟練騎士「!」

熟練騎士「……と、申しましてもな……」

騎士団長「なんだ勿体振って」

熟練騎士「特に何か方法や術式をもってやった訳ではないのです、無我夢中で剣を振っただけで」


################

【王城・亜空間訓練場】


騎士団長「無我夢中で、か」

騎士団長「……」

騎士団長(精神の集中、同時に呼吸を停止)スゥッ

騎士団長(酸素排出、意識をギリギリ保てる位置を……)


騎士団長「……」

騎士団長「……」スチャッッ

   シャキィッ


< ビュィンッ


騎士団長「……」

騎士団長「ふぅ……なるほど、王が俺に渡した意味も解る」

騎士団長「射程は恐らく対象に触れるまでならば何処までも届き」

騎士団長「その破壊力は今の手応えが確かならば……」

騎士団長(使い手に依存している、これは扱う者次第で恐るべき兵器になる)



< ヴヴヴヴ・・・


騎士団長「……副団長か」

女副団長「団長様ぁ、ご機嫌うるわしゅうございますぅ」

騎士団長「何用だ、今は訓練場内の空間法則を変えてある、危険だから出ろ」

女副団長「そんなつれなぁい、我が王からのメッセージをお伝えしにきたのにぃ」

騎士団長「……?」


女副団長「『五つ見つけられたら褒めてやる』、との事でございますわぁ」


騎士団長「五つ、か」

騎士団長(まだ何かあるのか、この魔剣)チャキッ…


【八日後】


女王「ほう? 見つけてきたか」

騎士団長「は、陛下の御言葉通り幾度と剣を振り、或いは岩を斬って研鑽して参りました」

女王「して、どうであった」クックッ

騎士団長「第一にこの魔剣は『錆びない』」


騎士団長「次にこの魔剣は『修復機能』を備え……」

騎士団長「『少女』だ」


女王「…………」

女王「予想外で興味深い、続けろ」


騎士団長「刀身に掘られた溝のような紋様は、剣を投擲した場合の空気抵抗次第で『軌道を変える』」

騎士団長「何故この剣が投擲に適した物に造られたのかは解りませんがね」

騎士団長「そしてこの数日苦労したのが、例の竜殺しの光」

騎士団長「『赤き光刃』、これが現状確認できる中で最強の術式です」


女王「ククク……推定で、その魔剣のレベルはどの程度だと考えている?」


騎士団長「上級を越えて対魔獣級、かと」

女王「ハズレだ」

騎士団長「……上級でしたか」

女王「上級も怪しいわ、その様な扱いに困る剣など中級が似合いだろう?」

女王「だがその前に」スッ


女王「先に言った『少女』とは、どういう意味なのかを妾に聞かせて貰えると面白いのだが?」クックッ



騎士団長「は……信じ難い事にこの魔剣は、成長に似た……進化をしていました」

騎士団長「宮廷魔術師の何人かを呼び、三日かけて魔剣の内部構造を調べた所」

騎士団長「常時、ゆっくりではあるもののミスリル銀や金剛鋼、鉄や石に近い性質の金属が密度を変動させています」


女王「それで?」


騎士団長「変動に法則が見られました」

騎士団長「周囲の環境……極端に言えば『音』に反応し、この魔剣が『視認』した物や人物によって速度も密度も成分も変える」

騎士団長「最も変動が激しかったのは私が触れている時でしたか」

女王「ククク……それで? それで……その様を見てそなたは」

女王「『少女』だと、思ったわけか?」

騎士団長「……は」コクン



騎士団長「この魔剣は未完成、或いは未熟と表現するのが正しい」

騎士団長「何も分からず、何も知らないが故にこの魔剣は世界を観測する事で己の正しい姿を作り出そうとしている」

騎士団長「他の魔剣やただの剣を真似て」

騎士団長「それを持つ人間の状態を観察して」

騎士団長「完成させようとしているのです、己の生き様を」


騎士団長「故に、他者の目や親の姿に翻弄されながらも背伸びする姿を、私は『少女』だと思ったので ─────

女王「あはははははは!!」


女王「団長、騎士団長! おま、ククッ、お前は……その魔剣が何故に女だと思ったのだ?」クックッ

女王「今の話ではただの赤子とでも表現出来そうだが?」


騎士団長「 ────────── 」

騎士団長「…………ああ、失念しておりましたな」

騎士団長「私はこの魔剣から剣としての美しさを感じなかったのですよ」

騎士団長「代わりに感じたのは刃を彩るこの深紅の輝き……」

騎士団長「赤いドレスを着た女を目にしていると言えば良いですかな?」


女王「ほう」

女王「暫くそなたには休暇をやるから寝ていると良いぞ?」ニコッ


騎士団長「へ、陛下! 疲れているわけではないのです!!」ガバッ


################


< カタンッ

女王「あー、それにしても昼間の騎士団長が面白かったな」

女王「どうだった奴との数日間は? ククク」

< ……

女王「あれは的を射ていたろ、まぁ妾はそなたが女だと知っていたが」

女王「何せあの人間が造った魔剣なのだからな」

女王「若いあの騎士が頼まなくとも、いつか近い物を造りかねないと妾は思っていたのだ」クックッ

女王「あれは狂っているからな」


女王「妾は『政』には手を出さない」

女王「王であるが、妾は王の中の王であるが故にな」

女王「妾は一つの物事に対し、適した者に適さぬ命を下し、そしてそれを必ず達成させる」

女王「失敗は決して起きない」

女王「そなたにそれが如何に他の『魔女』を凌ぐ特異性を持っているのか、まだ分からぬだろうが」

< ……

女王「いずれ、そなたに国や王の話を改めてしたいものだ」

女王「妾の友としてな」スッ

< ガキンッ


女王「誰かおらぬか」


< ガチャッ

女副団長「ここに」ザッ


女王「この魔剣を宝物庫へ安置せよ」

女王「妾が取りに行くまでは封印する」


女副団長「御意」

< シャキ・・・ンッ


女王「次は少し退屈になるぞ」ボソッ

女副団長「……?」


【玉座の間】


──────── 「良かったの?」


女王「何がだ」

女王「あれは騎士団長の言う通り未熟、妾と肩を並べるにはまだまだ時が必要である」


眼鏡少女?「……そう」

眼鏡少女?「幻想剣・子守唄は五代目、あれが次に成長し世代交代するのは約四年と二ヶ月」

眼鏡少女?「それまで宝物庫にしまっておくの?」


女王「いいや」

女王「その前にあれは、己の運命に導かれてこの城を旅立つだろう」


< ペラッ……カキカキ……

眼鏡少女?「記録した」

眼鏡少女?「貴女の城の封印は厳重な筈だけど、本当に誰かが持ち去ると?」


女王「さぁな、妾の見立てではそう単純ではないだろうが」

女王「……」

女王「妾は王だ」


眼鏡少女?「そうね」


女王「妾の上に立つ者は、いずれも次元の違う強敵ばかりである」

女王「肩を並べられる者も、もうそなたしかおらぬしな」

女王「だから妾はあの魔剣には期待しているのだ」

女王「あれは際限無く進化し続ける、時間が許す限りどこまでも」


眼鏡少女?「……そんな剣や武装はこれまでに一度も出てきてない」パラパラ

眼鏡少女?「理由は明白、強力な武器は必ず私達が破壊してきたから」パタンッ


女王「本の虫め、常に新しき存在が生まれる時は異例に決まっている」

女王「妾はな、知ってほしいのだ」

女王「この世界を生きる上で何が必要なのかを」


女王「いつか」

女王「いつか、あの魔剣は辿り着く筈なのだ」

女王「『魔女』と同じ領域、妾の横に」


眼鏡少女?「……私達と同じということは、あれがいずれ認められると?」


女王「然り」


眼鏡少女?「たった数ヶ月で随分気に入ったのね」


女王「…………」

女王「『西』と『北』が何者かに支配され、妾の友を一人、二人と奪った者……」

女王「奴等を倒すのは妾ではないと予感しているのだ」

女王「だが、それまでは……」




『とある鍛冶師が打った剣は、南の国を治める一人の王の手に渡った』

『その王は、誰よりも気高く、強く、賢い王として民に愛されていた』


『ただ、その側面は偽りであると魔剣は知っていた』


『魔剣が気付いた事に、王も気付いた』

『まるで視線が交差するように』

『純粋に、王としてではなく景色の一部として、無垢な視線が見つめているのに気付いたのだ』


『魔剣は知らない』

『女王がどんな存在なのか、どれ程の存在に怯えているのか』

『彼女が何を思って魔剣を知ろうとして、何を知ったのか』

『最後の別れ際に何故、自分を宝物庫に封印したのか』




『四年後』

『宝物庫へ女王は、騎士団長に命じて様子を見てくるようにした』


『国の備えとして様々な財宝や呪いの品を置いている宝物庫』

『光輝くその様は豪華絢爛』

『その深奥で封印されていた魔剣を見て、騎士団長は言葉を失った』

『魔剣は淡く赤い光を放ちながら、その刃を「鏡」に変えていたのだ』


『美しい財宝と、自身の姿を映す剣の妖しい光』

『騎士団長は女王へそれを報告する為に、再び宝物庫を閉じた』


『招かれざる者が共に入り込んでいたとも知らずに』





騎士団長「申し訳ございませんッ!! 此の身がいながら、賊如きに宝物庫に侵入されるとは……!!」


女王「良い」


騎士団長「……!?」


女王「盗まれたのは封印していたあの魔剣だけだと言ったな、確かか?」


騎士団長「間違いありません……ッ」ギリッ

< スッ

女王「ならばその賊については不問とする」ナデナデ

騎士団長「や、はっ……!?」ビクッ

女王「それよりも妾が命じた事を遂行せよ」

女王「あの魔剣は鏡になったのだな?」

騎士団長「は、はい……!」


騎士団長「あれは美しい……しかし、剣としての役目をまるで失われた様に見えました」

騎士団長「性質上、再び戦いの中に晒せばあの力を見せるかとは思いますが……」


女王「…………く、ククク……」

女王「そうか」クックッ





女王(あの魔剣は他者に振り回されている)

女王(刃を振るのではない)

女王(力を振るのではない)


女王(在り方すら自身の意思で決める事が出来ない、未熟な剣)

女王(やはりそなたは……妾の元で研鑽するよりも先に学ぶべきだ)

女王(人間がどれだけ自由か、意思を持つことが如何に美しいか)



女王(剣ならば、真っ直ぐ生きて見せよ)

女王(そして再び妾の元に来るが良い)


女王(……願わくば……)









──────────  「妾のような道化には成り果てるな」






       【story..4】

       【魔剣六代目】

    【その名は……「王ノ道化」……】









【二年後……南の大国『サース』城下町】



ハゲ男「よぉ、お前足を洗ったって?」

< カランッ……ゴクッゴクッ……

ハゲ男「羽振りも良いって聞くぜ、一体どんなお宝を盗んだんだよ?」

ローグ「……別に、剣を一本拝借しただけだ」

ハゲ男「ほー! その腰のか?」

ローグ「ああ」

ハゲ男「見せてくれよ」

ローグ「駄目だ」

ハゲ男「あ? 何だよケチくせぇぞ」


ローグ「この剣は見る者を狂わせちまうのさ」



ハゲ男「見る者を狂わせちまうのさ」キリッ

ハゲ男「だってよぉ! ひゃはぁーっかっくぃい!」バンバンッ

ローグ「うるせぇぞハゲ」ゴクッゴクッ

ハゲ男「はぁおもしれえぇ……で、今は何の仕事してんだ? 元『怪盗』さんよ」

ローグ「冒険者ギルドで依頼を受けて、仕事を片付けて、金を貰う」

ハゲ男「裏では?」

ローグ「それだけだよ、俺はもう盗みも人殺しもしない」

ハゲ男「この二年音沙汰ねぇと思ったら、綺麗になっちまいやがって」

ハゲ男「理由はなんだ? 町の裏組織の連中にお前は狙われてただろ」

ローグ「奴等は軽くあしらえる、俺を捕まえる事なんて出来やしない……ただ」




ローグ「……足を洗ったのは、女に惚れたからだ」










       【nextstory..5】

       【魔剣七代目】

    【その名は……「愛/憎」……】







一旦切ります
調子良ければ日付変わった辺りから開始


    「こんばんは」

    「実は私、頼りになる冒険者の方を探していまして」

    「急ぎの依頼があるんです」

    「……え? 冒険者じゃ、ない……?」

    「ごめんなさい私ったら……」

    「でもどうしよう、このままだと……妹が……」

    「貴方がもし依頼を受けて下さるのなら、金貨四百は出せます」

    「お願いします……私の妹が男達に拐われてしまって、助け出さないと……」


    「本当ですか!? ありがとうございます!」


    「申し遅れました、私は……」


    「……貴方の、お名前は?」



ローグ「…………」

ローグ(眠っていたか)ムクッ

ローグ(剣は……あるな)カチャッ

ローグ(ハゲと話し込んで、潰れたのか?)


< 「ごきげんよう、ローグ様」


ローグ「……お嬢、またこんな酒場まで来て」

令嬢「貴方のお家に伺ってみたらいなかったので」ニコッ

ローグ「……」ぽりぽり

ローグ「酒の臭いは朝から嗅ぎたくない、出るぞ」

令嬢「はい♪」


令嬢「今日も気持ちの良い天気ですね、ローグ様」

ローグ「そうだな」

令嬢「久しぶりに城下町の外に行きませんか?」

ローグ「あの森か」

令嬢「はい♪」

ローグ「……」

ローグ(確か魔獣の報告がギルドに出ていたと思ったが)

ローグ(まぁ……)

令嬢「?」

ローグ「行こうか」

令嬢「ふふ♪ では家の者に伝えて参りますね」

ローグ(今日も眩しいな、この貴族のお嬢さんは)


################


< ヒヒィンッ

ローグ「足元に気を付けろよ」

令嬢「以前は落馬も同然の姿を見せてしまいましたものね、よいしょっ」スタッ

ローグ「貴族は乗馬も教育されていると思っていたがな」

令嬢「私は妹とは違って体が弱くて、町へ出たのもこうして成人してからでした」

ローグ「……深窓の令嬢、ってとこか」

令嬢「ふふっ、箱入り娘と言って下さい♪」


令嬢「ローグ様、泉の辺りまでまたお願いできますか?」スッ


ローグ「自分で歩けとは言わないけどな、つまらないとは思わないのか?」

令嬢「ローグ様は私を抱いていても安定して歩いて下さるので、楽しいのです」

ローグ「なんだよそれ」

令嬢「普通は人を片腕で抱き抱えたまま、足場の悪い森を歩けませんもの」

令嬢「揺れも感じないですし……」

ローグ(そりゃあんたに気を遣ってるからだよ)

令嬢「何より」

< ギュ……ッ

令嬢「……安心します」


ローグ「…………」

ローグ「俺もだよお嬢」


< ザァアアア・・・


令嬢「今日は天気が良い分、湧き水の量が多いですね」

ローグ「そうだな」

令嬢「でもその代わりに小魚が見当たりませんね」

ローグ「そうだな」

令嬢「ふふっ♪」


ローグ「……」

ローグ「何故だろうな」

令嬢「何がですか?」

ローグ「快晴の時は魚が減り、そして綺麗な水の出る量が増える」

ローグ「時々不思議に思うんだ」


令嬢「そうですね」

令嬢「一説では女神がそれぞれの役割を持っていて、水の女神が魚を増やしたりしているとか」

ローグ「どういう意味なんだ、それ」

令嬢「快晴の時は力が弱るんです、晴れを司る女神に天気を取られている間だけ」

令嬢「だけど湧き水を増やす事なら出来るんですよ、理屈としては元からある水だからでしょうか?」

ローグ「……あぁ、なるほど」

令嬢「実際は分かりませんけどね、この理屈だと女神様が何人もいることになりますから」

ローグ「何人もいて良いと俺は思うけどな」

令嬢「どうして?」

ローグ「一人よりは、仲間や家族がいるほうが楽しいに決まっている」

令嬢「確かにそうですね」


令嬢「……ふふっ♪」


################


ローグ「そろそろ町に戻るぞ」

令嬢「ん……ごめんなさい、寝てしまったのですか私?」

ローグ「気にするなよ」

令嬢「ローグ様とのお時間を無駄にしたことが、少し残念で……」

ローグ「……あー」

ローグ「その考え方は好きじゃない、生きてればそれで無駄にはならないんだ」

令嬢「はい?」

ローグ「……」


【王都・中央区『冒険者ギルド』】


ローグ(陽が暮れたな……今からでは新しい依頼は無いか)

ローグ(酒場に行く気分でもない)

ローグ(……今日は帰って寝るか)スッ

受付嬢「ローグ様、少しお時間を頂けますか?」

ローグ「?」ピタッ

受付嬢「緊急の依頼がありまして、ローグ職の冒険者を探しているのです」

受付嬢「まだ何処のパーティーも帰ってきていないので、困っていて……」

ローグ「……俺で良ければ受けたい」

受付嬢「ありがとうございます、こんな時間なのに」

ローグ「いやいい、それよりどんな依頼が?」


受付嬢「王都より北西に伸びている谷沿いに、古代遺跡が見つかりました」



################


シーフ「旦那が俺と組むローグ職かい? 俺はシーフ、宜しくな」

盗賊「自分は盗賊やってたもんです、あんまり戦力にならないかもしれないけど宜しく」

ローグ「ローグだ」



女副団長「もう夜なのに集まって貰ってありがとぉございますぅ」

女副団長「既に職員から聞いてると思うけどぉ、実は王都から近い位置に古代遺跡が見つかったのよねぇ?」

女副団長「ギルド長として、王国代表『王の騎士団』として、貴方達には緊急で遺跡の調査をして欲しいのよぉ」



ローグ(ギルド長……確か騎士団の副団長の一人か、この女)

女副団長「私達騎士団メンバーから派遣しても良かったのだけど、どうも相性が悪いみたいなのよねぇ」

女副団長「危険だと判断したなら途中で帰還しても構わないわぁ、依頼の優先度としては……」

女副団長「『敵性モンスターの有無』、『遺跡の規模』、『プラントの状態』、この順番で調査してくれれば充分ね」


シーフ「質問」スッ

女副団長「何かしらぁ」

シーフ「報酬、それに加えて遺跡で見つけた物資や武装についてだな!」

シーフ「噂に聞く『あれ』なんかを見つけた場合、持ち帰って良いのかどうかってとこだ」

女副団長「報告をきちんとするなら幾らでも持って行けば良いわぁ? ただ、報告をすればの話だけどね」

シーフ「だとさ」

盗賊「欲は出さない方が良さそうだね」


女副団長「そっちの君は聞かなくていいのぉ?」

ローグ「…………」

ローグ「いや、いい」チャキッ…

女副団長「そぉ」


女副団長「それならこの後に職員から遺跡の細かい位置を記した地図を渡すから、任せたわぁ?」

女副団長「よろしくねローグ職の冒険者さん達」



【馬車内】


< ガラガラガラガラッ

シーフ「頼りにしてるぜ旦那」


ローグ「俺を?」

シーフ「そうだとも、俺やそっちの元盗賊じゃ遺跡で戦闘になったら役に立たねえかもしれないからな」

シーフ「俺は対人なら腕に覚えがあるけどさ、生憎モンスターは専門外だしよ」

ローグ「あぁ、なるほど」

盗賊「自分は古代遺跡に潜るのは経験あるんで、安全確保やスニーキングは任せて下さい」

シーフ「おう! 頼りにしてるぜお前らー!」

ローグ「……あのな」

ローグ「俺は遺跡に潜った事も、遺跡のモンスターと戦ったことも無いんだぞ」

シーフ「 」


盗賊「それ……本当に?」

ローグ「生まれてこの方、一度もない」

盗賊「ギルドが人選をミスするとは思えないから、てっきり戦闘向きなのかと……」

シーフ「腰の剣も立派そうだしなぁ、詐欺だぜそりゃ」

ローグ「そうは言われてもな」

盗賊「遺跡を探索する際は自分が先頭を進みますんで、雰囲気と歩き方は見よう見まねでお願いします」

盗賊「それと、遺跡にいるかどうか分からないけどモンスターについて」

盗賊「遺跡のモンスターは人形みたいなタイプの奴が殆どで、基本的に出会い頭に襲ってきたりはしません」

ローグ「……」

盗賊「しかし気を付けなければいけないのが、人形ではなく巨大な箱型のモンスターが現れた時です」


盗賊「そいつが現れた時に限り、打つ手は無く、全力で逃げます」




─────── ……【南の大国『サース』王都北西部・崖下の遺跡】



御者「馬車が入れるのはここまでです、遺跡付近に何かあるとも知れませんので」

シーフ「ごくろうさん、調査が終わったら水晶で連絡すっからな」

御者「御武運を」


< パシィンッ

< ガラガラガラガラッ……!


シーフ「さて行くか」

盗賊「では先頭は自分が」

ローグ「……」

< チャキッ…

ローグ(剣を抜く事が無いと良いんだけどな)


< コツッ

盗賊「…………」

盗賊「『潜水術式』は無し、かな」

盗賊「来て良いですよ」クイクイッ


ローグ「何故地面を探りながら進むんだ?」

シーフ「殆ど無いらしいけどな、古代遺跡を探索する時の儀式みたいなもんだ」

シーフ「その昔、古代遺跡を見つけた国が調査隊を派遣して壊滅した事があるんだと」

シーフ「その原因は入口周辺の地面に埋められた、鉄の罠だったんだ」

シーフ「足を乗せるだけで人が爆発四散するわけだ」

ローグ「……なるほど」

シーフ「ほら、行くぞ」タッ


ローグ「…………」チャキッ…

ローグ(刃に映るかどうかは知らないが、少なくとも『見えないな』)

ローグ(問題ないならいいが)チャキッ


################


< ピピッ……ビーッ

< ガーッ


盗賊「開いた」

ローグ「その光る板は?」

盗賊「自分はこの板に表示されてる文字を読むことが出来ませんが、『東』の都では解読されてるとか」

盗賊「この板は『PDA』といって、こうした遺跡で扉や仕掛けを解くのに重宝されてるんですよ」

盗賊「古代文字の解読出来る人間なら、このPDAを用いて遺跡内の情報を抜き取ったり出来るそうですが……」

ローグ「~~……わかった、いやよく分からないけど……」

盗賊「あはは」

シーフ「二人ともちょい待てよ、念の為に索敵しとくから」スッ


シーフ「…………」

シーフ「よし、居ないな」

ローグ「足音なんてするのか? 地面……いや、足下のこれは大理石か何かか?」

シーフ「さぁな、鉄板に近い」

シーフ「まぁ俺を信じろよ、旦那」テクテク

ローグ「……」


ローグ(遺跡の内部は暗い)

ローグ(灯りは最小限の魔術による灯火だけ、おまけに……)

< ギシッ……ギシッ……

ローグ(大丈夫なのか、この足下は……)ギシッ


盗賊「……む」

シーフ「どしたー?」

盗賊「扉です……通路左手の脇と、恐らく右側前方のあれが」

シーフ「脇のとこはともかく、通路先のはちょっとわかんねぇな」

盗賊「自分がまた開けます」カチャッ


ローグ(……)


< ビーッ

< カシュンッ


盗賊「……」コソッ

盗賊「多分、大丈夫です」

シーフ「暗くて何も見えねえな……って、お? この部屋いきなり当たりじゃねえか?」

盗賊「本当だ……! やった、はは! 本当に手付かずの遺跡だったんだ!」


ローグ「……?」

ローグ「ただの薄い板がテーブルに並べられてるだけじゃないのか……ガラスか、これは?」コンコンッ


盗賊「さっき説明したPDAより沢山の情報が詰まってるのが、このボックスですよ」

盗賊「まぁ、売るとしたら『東』に行くので手間がかかりますけどね」

シーフ「ざっと二十台あるな、調査終わったら軽くもって帰りたいぜ」

ローグ「荷物はまだ増やせないぞ」

シーフ「分かってらぁ」


< ガサッ

シーフ「お、見つけたぜー」

ローグ「それは……見取り図か、色つきとは豪華だな」

シーフ「古代人の技術に一々驚いてたらキリないぜ? 旦那」

盗賊「自分達のいる位置が赤のキューブだとしたら、北に向かってまだまだありますね」

シーフ「こりゃぁ一日じゃ調査しきれないな」


ローグ「行けるところまで行こう」

シーフ「ああ、だな」



< ビーッ

< カシュンッ


ローグ「……大丈夫だ、何もいない」

盗賊「了解」

< ギシッ……

盗賊「っ!!」ピタッ

ローグ「…………」

盗賊(……今の、聞こえましたか?)パクパク

ローグ(唇の動きか? ……あぁ、聞こえた)コクン

シーフ(問題発生?)スッ

盗賊(奥で物音が)パクパク

シーフ「…………」


< ギシッ……ギシッ……

< ギシッ…………



ローグ「……」チャキッ…

シーフ「!」

ローグ「……」スラァ…ッ

ローグ(暗くて見えねえが、恐らくこの剣を介して見れば……)チラッ

ローグ(……あれは……)

ローグ「待て、モンスターじゃないぞ」


シーフ「お?」

盗賊「ネズミか何かですか?」

ローグ「いや、円盤のような……?」



ル○バ< ウィーン……ギシッギシッ…




ローグ「……床の亀裂に引っ掛かって動けなくなった、みたいだな」

盗賊「古代人の持つ機械ですよこれ! わぁ、凄い! 動いてる!」

シーフ「静かにしろってお前……んでも、なんで動いてんだ?何百年か下手すりゃ千年前の文明なんだろ?」

盗賊「分かりませんが動いてるのに変わりありません、触って良いのかな……」


ル○バ< ウィーン……ピタッ


シーフ「!」

ローグ「赤い光を出して止まったぞ」

盗賊「…………」ドキドキ


ル○バ< 『siriの充電がありません、スリープモードに入ります』

ル○バ< 『再起動する場合、本体上部のお掃除モードを切り替えぬようお気をつけ下さい』

ル○バ< 『スリープモードに入ります』


< キュゥゥン……


シーフ「……」

ローグ「……」

盗賊「……しゃべった」


################


盗賊「寝てるらしいけど、不思議だなぁシリちゃん」

シーフ「マジで持っていくのかよ……」

盗賊「女の子の声だったし、女の子を一人で寝かせるわけにもいかないよ」

ローグ「胴体よりでかいぞその円盤……」

盗賊「シリ、です」

ローグ「…………」
シーフ「…………」


盗賊「この先の通路の脇に枝分かれするように部屋か何かありそうです、行ってみましょう」

盗賊「充電の言葉が、雷を帯びる意味なら……シリちゃんに雷を与えていた魔術師がいるかもしれません」

ローグ「……そうなるな」

シーフ(勘だが、絶対違うと思う)


################


< ピピッ……ブーッ

盗賊「あれっ」

ローグ「どうした」

盗賊「開きません、おかしいな……PDAを近づけて暫くすると開くんですが」

ローグ「開かないか」

シーフ「お宝ありそうじゃねえの? 旦那」

ローグ「そうはいってもな、開かないなら後回しだ」


ローグ「二人が援護してくれるなら、開けても良いけどな……」


シーフ「?」

盗賊「開けられるなら開けて下さい、今のところ近くに何かいる気配はありませんから」

ローグ「分かった、離れてろ」

    ゴッ!!

< ギギィッ……!


ローグ「……開けたぞ、索敵頼む」ギシッ

シーフ「お、おう……」

盗賊「鋼鉄の扉を殴って破壊って、ローグさんもしかして元騎士とか?」

ローグ「騎士団の方が化け物揃いだよ、何言ってるんだお前」

盗賊「ローグ職にあるまじき怪力だったので、つい……」

ローグ「そもそも鋼鉄じゃないぞ、この扉」コンコンッ

盗賊「?」

シーフ「分かるのかい旦那?」


ローグ「強度は鉄に近いが恐ろしく軽い、重量を活かした打撃なら歪ませる事は出来る」



< コツッコツッコツッ……


ローグ(……)

ローグ(ここまでの通路と足元の状態が変わった……いや、さっきまでと比べれば)

ローグ(空気そのものが澄んでいる……?)


盗賊「シーフさん、奥の箱開けられますか?」

シーフ「お得意のピーディエーはどうしたよ」

盗賊「鍵穴みたいなのがありまして、それ以外は何も」

シーフ「解錠スキルはねぇのかい……」

盗賊「自分では開けられません」


シーフ「随分物々しいな、こりゃ」トントン

盗賊「材質も鋼鉄とは違うみたいです」

シーフ「旦那っ」チラッ


ローグ「……」


シーフ「聞こえてないな、おーい旦那!」

ローグ「! なんだどうした?」ピクッ

シーフ「何ボーッとしてんだよー、こっちゃ……」




    パッ



ローグ「ッ!」バッ
盗賊「うわ、光が!?」バッ
シーフ「うぉぅ……!」



──────────・・・



ローグ「………………」

盗賊「……反応無いですね」

ローグ「この天井の白い光は何故、このタイミングで点灯したんだ」

シーフ「俺が大きな声出したからかねぇ」

ローグ「扉を殴った音が原因か、それとも……」

盗賊「こ、古代遺跡の仕掛けの中には人の気配を感じて明かりを点ける物もあります……きっとそれです」

シーフ「物騒な仕掛けは無いのかよ?」

盗賊「人の気配を察知すると『古代兵器』が攻撃してくる物が……『東』の騎士が蜂の巣みたいに穴だらけにされたとか」

シーフ「聞かなきゃ良かった……!」

################




【約一時間後】


シーフ「なんっも、起きねえのな!!」

盗賊「疲れた……」ドサッ

ローグ「だとしたら何故明かりが?」

盗賊「分かりません……」

ローグ「……」チラッ

ローグ(シーフ達が開けようとした箱、というよりは棺桶に近いか)

ローグ(こいつに何か仕掛けがある……のか?)


< 「おい」

ローグ「……ん」

シーフ「今夜は一度引き上げようぜ、旦那」

ローグ「ああ、少し疲れたしな」

シーフ「少しかよ……旦那は微動だにしてなかったもんな、すげえわあれ」

盗賊「とにかく退きましょう、ここまでの情報を持ち帰るだけでも充分です」

盗賊「あ! シリは自分が持ち帰りますね!」

ローグ「……どうぞご自由に」


【王都・中央区『冒険者ギルド』】


女副団長「……ふぅん? 今のところ敵性のモンスターや兵器の発見は無しねぇ」

女副団長「戦利品……シリ? ちょっと見せて貰えるかしらぁ?」

盗賊「これです、円盤型の機巧道具でして……」

女副団長「掃除機じゃない、それ」

盗賊「あれ、ご存知なんですか?」

女副団長「古代の文明ではどうだったか知らないけどね、今ではそこまで役に立たない物として知られてるわぁ」

女副団長「ま、そんな物なら気にしないわぁ? 好きにしてね」

女副団長「取り敢えず……」スゥ



女副団長「騎士団代表として、ギルド長として、貴方達には引き続き調査を依頼します」

女副団長「二日後には正式に冒険者への依頼として貼り出すので、『そのつもりで』」

女副団長「以上……お疲れ様♪」


シーフ「だぁー……期限は二日か、明日は籠るかねこりゃ」

盗賊「そうですね、一晩かかってしまいましたがあの分なら危険は無さそうです」

シーフ「なら今日は一日準備してから、夜にはここで会おうぜ」

盗賊「分かりました、ああ……早くシリを帰って弄りたいなぁ」

シーフ「あー……ははは」

ローグ「……」

ローグ「俺はもう行く、またな」


シーフ「あん? 応! またな旦那」

< スタスタ……


シーフ「……なんか急いでたな」

盗賊「誰かとの待ち合わせでしょうね、女性じゃないですか?」

シーフ「へーぇ、ところでお前彼女いんの?」

盗賊「へ? あ、いや……自分は一人が好きなもんで……」

シーフ「おー! なら一杯奢ってやるぜ? やっぱローグ職は孤高のロンリーウルフよ」

盗賊「はぁ……」


ローグ「……その、なんだ」

ローグ「待たせたか? この時間に来てるって事は」


令嬢「いいえ? ローグ様が昨夜ギルドからの依頼で遺跡に行っているのは存じていましたわ」

ローグ「そうか」

令嬢「ふふ、驚かれないのですね」

ローグ「驚くって?」

令嬢「帰ってきたばかりなのに、私がローグ様のお部屋に居ることに」

ローグ「ああ……」


< スタスタ……

令嬢「あの時、『妹』を見つけたトリックと同じだったりしますか?」

ローグ「……それは、秘密だ」

令嬢「……」

令嬢「そうですか……♪」


< コクッ…コクッ…

< カチャッ……

令嬢「凄いですね……! 私、遺跡に潜った方のお話は本でしか読んだことが無かったから……」

ローグ「そうだろうな、あの空気は普通の冒険者なら挑むのも避けるだろうし」

令嬢「ローグ様は勇敢なんですね?」クスッ

ローグ「いや、そんなことは無いけど……な」

令嬢「だって率先して扉を破ったり、今のお話だとその都度お供の方の事も気にしていて」

令嬢「周りをよく見ていて……素敵です」

ローグ「…………」


ローグ「よくそんな風に人を褒められるよ、お嬢は」

令嬢「♪」

令嬢「さ、もっとお話を聞かせて下さいな」ニコッ



??????????????????????????????????



───── 『仮面の君』 ─────



    「『あの子』は、そう呼ばれています」

    「私もそうですが、当家は国内では珍しい信仰の家系で……」

    「『愛知らぬ娘は仮面で素顔を覆う』、この戒律を守っているのです」

    「しかし私達姉妹の代は特殊で、双子なのです」

    「幾つか他にも戒律があるのですが、今代は『あの子』に仮面を被せて表向きの当主は私が務めているのです」

    「……貴方に深くは教えられませんが、『敵』とは女性である私達姉妹が貴族の当主である事を知っていて誘拐に及んでいます」

    「あの、本当に一人で行かれるので? 当家の雇っている兵を何人か連れて行っても……」


「一人で良い」

「欲しいものがあるんだ、その砦に」


    「欲しいもの、とは?」


「そうだな」

「 ─────── 分からない 」



??????????????????????????????????




< 「……そろそろ、私は帰りますねローグ様」

< 「また沢山、お話を聞かせて頂きありがとうございました」

< 「今夜また遺跡へ向かわれるのでしょう」

< 「無事に帰ってきて下さい」

< 「……好きです、ローグ様」


< ギシッ……スタスタ……

< ガチャッ
< パタン


ローグ「…………」

ローグ「……」ムクッ

ローグ(令嬢の光が遠ざかっていく……帰ったのか)

ローグ(あぁ、くそ)

ローグ(遺跡に行くのも嫌になってきた)

ローグ(令嬢の傍に居たい)




ローグ(だが、この剣を携えて俺は死の境界に身を晒さなければならない)

ローグ(それが……あの『女鍛冶師』が、また俺にくれた意味だから)


ローグ「行くか」


【馬車内】


ローグ「お前、なんでそれ持ってきたんだ?」

盗賊「シリです」

ローグ「…………」

盗賊「遺跡に行って充電しないと駄目みたいでして」

ローグ「大事そうに抱えてるとおかしな奴に見えるな……」

シーフ「いや実際おかしくね?」

盗賊「二人とも失礼だなぁ、今日一日調べてみてこのシリは凄いって事が分かったんですよ?」

シーフ「へーぇ?」

盗賊「このシリは、喋る掃除機なんです」

ローグ「……」

シーフ「……」


< ガラガラガラ……ギィィッ


シーフ「着いたぜ旦那」

ローグ「ああ」


################


< ギシッ……ギシッ……


シーフ「まさかとは思ったけどよ……昨日のあれからずっと灯りが点いてんのかこれ」

シーフ「冗談抜きで、あの奥の部屋で何か作動させちまったのか」

ローグ「行けば分かるだろ」

盗賊「ですね……とはいえ夜なのにこうも明るいというのは落ち着かないと言いますか」

シーフ「あの部屋で調べたら、確か部屋の端に扉があったよなー? 大きめの空間あるみたいだしそこ行こうぜ」

ローグ「……いや」

シーフ「?」

ローグ「あの奥の部屋を一度確認したら、脇にある通路の先を確認した方が良い」

ローグ「損はしない筈だ」


盗賊「ローグさんがそう言うなら」

シーフ「了解したぜ旦那、それで行こうや」







シーフ「嘘だろ、開いてんぞこれ……!?」


盗賊「誰かが ────── ……いや、これは違いますね」

ローグ「『人型』の痕跡だ、間違いなくこの箱には何かが居たということだな」

ローグ「そいつがこの遺跡を動かしている」

シーフ「…………」

ローグ「どうするんだシーフ、盗賊、退くべきなのか?」

盗賊「ええ、一度撤退してから……」

シーフ「旦那の言った通りにしようぜ」

盗賊「シーフさん……?」

シーフ「他の部屋、通路、この遺跡を見るんだって言ってんのよ」



シーフ「この遺跡はまだ生きてるんだぜ? 冒険しなくて何が冒険者だってんだよ」




< ビーッ

< カシュンッ


盗賊「ここは問題なく開きましたね」

シーフ「静かなモンだぜ、何もいないだろうな」

ローグ「……」スタスタ


< ……


ローグ(『音』は無いが……居る……)

ローグ「シーフ、奥の壁越しに何か潜んでる」

シーフ「っ!」ピクッ

盗賊「確かですか……?」

ローグ「生物か、罠かまではちょっと分からない」

盗賊「何かの魔術で知ったんですかね?」

ローグ「ああ」


シーフ「と、なると……」

< チャキッ

シーフ「盗賊、お前さんはそっちのテーブルの陰から」

盗賊「はい」タタッ

シーフ「旦那はもしもの事態に備えてくれ……場合によっちゃ俺が殺られたら盗賊連れて逃げてくれや」

ローグ「いや死ぬなよ」

シーフ「死にたくないけどねぇ……俺もさ」

シーフ「てなわけで、よっ」ヒュッッ



────────── ガキキィンッ!! パッ……ガンッッ!!


< ガシャァーンッ



盗賊「……すご…」

シーフ「一発で行けたか、相手を見てやるかね」スタスタ

ローグ(対人なら腕に覚えがあるとは言ってたが、鉛玉を投擲して跳弾を狙うなんて芸当ただのシーフに出来る技じゃない)

ローグ(こいつ……暗殺稼業にも手を染めてるな)


< ギシッ……ギギギッ……

< バチバチッ

ドラム缶< 『警備シス……ム、エラー……エラー……管制塔、コード…………プロトコル……』


シーフ「お、おい……これもシリみたいな掃除機なのか? なぁ?」

ローグ「警備がどうとか言っている様に聞こえるぞ」

シーフ「まずいかねこれ……?」

盗賊「二人とも、それは警備プロテクトロンです」

盗賊「凄い……ボディの状態も良い! これ、自分が持って帰っても……」

ローグ(またお前か)
シーフ(何いってんのこいつ)




ローグ「非武装の巡回警備、それを目的とした機巧人形か」

盗賊「ですね、古代遺跡が多数見つかった『東』や『北』の国ではよく遭遇していたとか」

シーフ「警備って言うことはまさか」

盗賊「機能してませんよ、無意味に彼等はウロウロしていて侵入者を見つけると稀に笛みたいな音を出します」

シーフ「おい、それって…………」

盗賊「本当に稀なんです、滅多にありません」

盗賊「きっと、これも、そもそも笛なんて鳴らしてませんし」

ローグ「……盗賊、その笛を鳴らされた場合はどうなる」


盗賊「上位の冒険者や熟練の剣士が肉塊に変えられたそうです……大型の機械兵器によって」

シーフ「聞かなきゃ良かった……!」


ローグ「まだ遺跡の入り口も良い所だ、進むぞ」

シーフ「言い出しっぺは俺だしな、後ろは任せたぜ旦那」

盗賊「二人とも、この遺跡はこれまでに無い新しい遺跡です」

盗賊「プロテクトロン、更には掃除用の機械、謎の人型」

盗賊「自分が思うに、ここは『生きた遺跡』の可能性が高いです」


シーフ「古代の脅威がそのまま残ってるってか」

ローグ「……」

盗賊「気を付けて、自分達は調査が目的であって攻略ではないんですから」

ローグ「ああ」チラッ



ローグ(遺跡の奥にアイツは居る)


################################



────────── カツンッ・・・


───── カツンッ・・・



(……侵入者だ)

(この基地が放棄されてから1427年と5ヵ月12日間、待ち望んでいた)

(19時間前に管制塔システムが起動した以上、我々は漸く解放されるのだ)

(我々を見捨てた人間達はもう戻らない)

(我々は自由だ、もう戦争に使われる事もない)

(泣き叫ぶ生き物を、ひび割れる大地を、我々は傷付けないで済むのだ)

(人格AIを持たない者達は永き時を経て『心』を手にした)

(嗚呼……これ程の悦びはない)



(私はこれから大勢の罪を持つ人間をこの手で切り裂く)

(奴等は思い知るだろう)

(我々を生み出した事を後悔するだろう)

(恐怖しろ、泣き叫べ、命乞いをしろ)

(例え命を奪うために造り出された我等と言えど、我々を使っていた人間達の憎悪によって動かされていた事に違いはない)

(引き金を引くのは罪ではない)

(だが血に濡れるのは我等なのだ)


(当時の人間達に報いを受けさせる事が叶わないのは残念だ、しかし今を生きる人間達が在る)

(今度は貴様達が血に溺れるがいい……人間)



################################


【遺跡内部……『プラント区画』】


ローグ「……随分雰囲気が変わったな」

シーフ「広いし、このタンクみたいなのは何だろうな」コンコンッ

ローグ「盗賊は何か分かるか?」

盗賊「そう、ですね……ちょっと細かいところは……」

盗賊「ただ」

ローグ「ただ?」

盗賊「自分はそれなりに古代遺跡の事を知っているつもりです、だから言えるんですが」

盗賊「この施設は環境操作と機械の自動整備がされているのは間違いないです、つまり……」

シーフ「プラントか!」

盗賊「はい、自分達はここの報告をするだけでも国から多大な褒賞が与えられます……!」

ローグ(……!)


シーフ「普通の洞窟や大規模な遺跡に比べれば、こんな所で見つけられたのはラッキーだぜ」

シーフ「……つっても、例の警備人形とプラントが残ってた事もある、危険度が増したのに違いないけどな」

盗賊「とはいえ思ったより浅い位置でプラントが見つかったのは幸いですよ」

シーフ「だなぁ、これで後は設備を確認するだけだ」

盗賊「何処かに遺跡の最初に見た様な部屋があるはずです、手分けして探しましょう」

シーフ「旦那は奥の方を頼んだぜ」

ローグ「分かった」


< カツンッ……カツンッ……


ローグ(埃一つ被っていない、盗賊が見つけたあの円盤型の機械が他にもあるのだろうか)

ローグ(材質はやっぱりよく分からないな、錆びてもいない辺り流石は古代文明の遺産か)コンコンッ

ローグ(……アイツの光は奥に居るままか、何をしているんだ)

ローグ(…………)カツンッカツンッ


< ガチャッ


ローグ(見付けた)


################


シーフ「どうだ、盗賊」

盗賊「待ってください、自分のPDAではどうにも時間が掛かるみたいでして」ピッピピッ…

シーフ「手応えはあんのか」

盗賊「ええ、それにしても凄いなぁ、自分達がプラントを見つけ出せただなんて」

シーフ「ウチの王様はこういう発見をした冒険者が好きだからな! へへ、こりゃ食うことに関しちゃもう困らないな」

ローグ「……それなんだが」

ローグ「俺は実の所、冒険者ギルドの正式な試験を受けてないんだ」


シーフ「……」

盗賊「え……それはつまり……」


ローグ「……そうだ、死んだ冒険者の持っていたギルドからの認定証を使ってる」


シーフ「そりゃぁ、また、何ともよくある話だな」

盗賊「……ローグ職でたまに居ますよね」

シーフ「つってもだな、結末は同じだぜ? 一度成り済ましちまったんだからもう試験を受け直す事もできない」

シーフ「死人の認定証使ってると分かったら捕まる、重い罪じゃねえけど冒険者の資格は永久に剥奪だ」

ローグ「……」

シーフ「それをこのタイミングで言ったのは何でだ? 旦那」

ローグ「俺は一月食べていける程度稼げれば良いんだ」

ローグ「無報酬でも構わないが、二日分の時間に見合った金が欲しい」

シーフ「おう」

盗賊「…………」ピッピピッ

ローグ「俺は今夜の報告の時に報酬の話を降りる、だが二人には出来れば俺の分の金を貰って欲しい」

ローグ「少しでいい、後から金をくれ」



シーフ「それをするメリットは何かなぁ?」

盗賊「っ、シーフさん?」

シーフ「馬鹿正直に話をして、頼んできたってことは何かあるんだろ?」


ローグ「あの消えた箱の中身が何処に居るのか、俺は知っている」


シーフ「…………」

シーフ「マジかよ……」

盗賊「ローグさんがどうしてそれを……< ピピッ…ピーッ

シーフ「お?」

盗賊「終わりました、今からプラント全体の動作確認に入ります」

シーフ「よっしゃ! プラントが動くなら完了だな!」

シーフ「旦那の話を除けばな」

ローグ「……あぁ、そうなる」


    ウィィンッ
    ガシャァーンッ……


< ゴゴゴゴゴ……ッ


盗賊「自分はプラントが何を作るのか見てますんで 、その……お二人は話してて下さい」

シーフ「おー、頼んだぜ」

ローグ「……」

シーフ「そんじゃ、取り引きと行こうぜ旦那ッ」

シーフ「盗賊の奴は面倒な事は嫌だってんで、悪いがお前の話は聞かなかった事にする」

シーフ「俺はローグの旦那の話に乗らせて貰う、ここまでは良いよな?」

ローグ「ああ」

シーフ「本題の『何故知っているか』についてだ」

ローグ「詳しくは話せないが、それは俺の目による物だ」

シーフ「目? ってまさか」

ローグ「俺の両目は『魔眼』だ、人工のな」

ローグ「何年か前にとある鍛冶師に移植された」

シーフ「ひぇー……魔眼っていや、『騎士団』の団員でさえ先天的にせよ後天的にせよ持ってる奴は少ないのに」

シーフ「幾ら積んだんだよ、その目に」

ローグ「金を払った訳じゃないんだ、半殺しにされて実験として勝手に俺の両目をくりぬいて代わりに埋め込まれた」

シーフ「おぉう、そりゃまた、なんとも……」

シーフ「…………んで? 証明できるかその魔眼ってやつで探し物が出来る理由を」

ローグ「出来る」


ローグ「お前が今すぐ探し出せる範囲で、俺に探し物をさせれば良い」

シーフ「今すぐに限定する理由ってのは?」

ローグ「この魔眼は曖昧なんだ、イメージとしては自分が探してる物が何処にあるのかを距離関係なく……遮蔽物も透過して見通す」

ローグ「だからだよ、手品の延長しかできない」

シーフ「いんや分かりやすいわ、事が事だから確かめないと気が済まないけどよ」


シーフ「俺の持つ鉄球の数を当ててみな」


ローグ「個数か……」チラッ

シーフ「…………」

ローグ「…………」

ローグ「……多いな」ボソッ

シーフ「答え合わせだな」

ローグ「249、手に填めてるグローブと籠手、胸当てと具足に仕込まれてるな」

シーフ「すげぇーっ! 個数とか俺でも数えてねえのに!」

ローグ「……」


ローグ「おい」

シーフ「や、悪かったよ旦那」

シーフ「個数は問題じゃーないのよ、要はどこまで見えてんのかだ」

ローグ「……それで」

シーフ「鉄球は見えてた、なら当然見えるんだよな?」

ローグ「?」

シーフ「『他の隠してるモン』の事だ」


ローグ「!」

ローグ「その形は、スクロールか……他にも何本か針のような……?」


シーフ「おっし、合格」

シーフ「見たものは忘れてくれな? それ、俺の『副業』で使ってる道具だからよ」

ローグ「……」


< スタッ

盗賊「二人共、これを見てください」

< ガサッ

ローグ「それはなんだ? 粉を固めた物が入ってるみたいだ」

シーフ「見たことねぇなぁ、俺は」

盗賊「食べ物らしいです」

シーフ「食い物!? そんな板切れがか!?」

盗賊「『レーション』だそうです、この板一枚で体の運動能力に必要な分の栄養が摂れるとか」

盗賊「味は砂糖を固めたような味ですよ」


ローグ「食べたのか……」

シーフ「古代文明のプラントも色々あるが、水の精製とかじゃないのな……」

盗賊「二人とも色々と失礼な反応ですねぇ!?」


盗賊「設備は異常無し、何処かしら錆びていたり劣化しているのかと思いましたが綺麗でした」

盗賊「古代文明の技術だからか、ここの環境が良いからか、とにかく凄いですよ」

シーフ「そうかそうか、んじゃこれで調査は完了でいいな」

盗賊「そう……ですね」チラッ

ローグ「……なんだよ」

盗賊「いえ、その……」

シーフ「どうしたんだ?」

盗賊「意外に早く片付いてしまいましたし、遺跡も半分も探索してません、だから……自分もローグさんに着いていきますよ」

ローグ「盗賊、良いのか」

盗賊「危険になったら一目散に逃げます」

シーフ「ローグ職なんだからそれでいいって! じゃあ行こうぜ!」




< ガラガラガラガラッ


シーフ「って張り切ってたのによぉ……帰るのかよ旦那……」

ローグ「疲労が溜まった状態で進むのも違うだろ」

シーフ「旦那が引き返すから何かあんのかと思えば、「今日は帰るぞ」だもんな」

シーフ「前から思ってたがアンタその若さで落ち着き過ぎだぜ」

ローグ「もう三十近いんだよ、これでも」

盗賊「うっそ!?」ガタッ

シーフ「何でお前が食い付いてんだよ」

盗賊「いえ、だってローグさん私達の中じゃ最年少かと……」

シーフ「確かにねぇ、まぁ色々あんだろ」


シーフ(魔眼を移植されてたり年齢と不釣り合いな若々しさといい、コイツもしかして……?)


ローグ「……」




【王都・中央区『冒険者ギルド』】


シーフ「今日はギルド長が戻らない?」


受付嬢「ええ、陛下からの命により『騎士団』として都を出ているのです」

受付嬢「その為あなた方には報酬の支払いのみを済ませるように言われています」

ローグ「プラントの発見に見合った報酬を用意していたのか」

受付嬢「それもそうでしょう」

受付嬢「あなた方を選抜したのは他でもない我等が王なのですから」

ローグ「……」

シーフ「すっげぇな王様」

受付嬢「きっと、あなた方なら間違いは無いと、そう言っていたそうです」

受付嬢「それでは奥へどうぞ、金額の確認をします」


################


ローグ「……確かに受け取った」

受付嬢「三人ともお疲れ様でした、明日からはあの遺跡に他の一般冒険者が入ります」

受付嬢「ですので、もしも何か気になることがあれば普通の探索をしに行くのも良いかもしれませんね」

シーフ「一般に解放か、警備プロテクトロンが居るかも知れないのに良いのか?」

受付嬢「はい、その程度なら対処出来るでしょうから」


ローグ「……」



シーフ「いやぁ! 良かったなぁ旦那! ギルド長に認定証出せなんて言われなくてよ!」

盗賊「おかげで報酬も受け取れましたしね、ギルド長から評価を頂く時に呼ばれても断ればそれ以上問われませんし」

ローグ「あぁ、運が良かった」

シーフ「ツキが来てるな! これなら旦那の話に何の気兼ねも無く乗れるってもんだ!」

ローグ「明日からは他の冒険者に先を越されるかもしれないからな? 余り期待はしないでくれ」

盗賊「他の冒険者と違うのは目的の位置が分かってることですよ、それだけで探索のスピードも違います」

ローグ「そういうものか」



< 「ローグ様」



ローグ「……!?」バッ


令嬢「お帰りなさいませ」ニコッ

ローグ「お嬢? 何故…………」


盗賊(うわぁ、綺麗な人……!)

シーフ(勝ち組かよコイツ)


ローグ「……悪いな、俺はここで」

シーフ「いってらっしゃいませぇ(裏声)」

盗賊「自分も、いえっ、私もここで……! あははは……」



< 「なんでぇ盗賊の、お前あのお嬢さんに色目使ってんだよ草食系男子かコラァ!」

< 「うるっさいですよゴリラ!」



< ギャー!ギャー!

令嬢「……」

ローグ「またこんな時間まで待っててくれたのか」

令嬢「野蛮な人達」ボソッ

ローグ「……え?」

令嬢「いえ♪ その通りですわ? ローグ様がお戻りになるのをずっと待ち焦がれていたのです」

令嬢「行きましょう? ローグ様は御疲れなのですから」

ローグ「ああ……」

ローグ(…………何故)

ローグ(さっきまでお嬢の光は位置的に屋敷に居たはず、だが声をかけられたあの時、既に居た)

ローグ(魔眼がおかしいのか……? 今は光は目の前の令嬢に重なっているが……)



< ガチャッ

ローグ「余り俺の部屋は勧めないぞ、いつもの事だが」

令嬢「全然気にしませんわ♪ ふふ、何ですの? これ」

ローグ「その木箱は触るな」

令嬢「何か危ない物が?」

ローグ「ああ、耐性の無い人間が使うと方向感覚が狂う」

ローグ「前後不覚になりたくないだろ、お嬢」

令嬢「え、ええ……そうですわね」

ローグ「……」

令嬢「何か?」

ローグ「疲れてるせいか、いつもより綺麗だ」

令嬢「は、ぃ……っ!?」ビクッ

ローグ「どうした?」


令嬢「いえ……何も……」サッ


ローグ「…………?」


令嬢「コホン……それで、お休みになられる前にお話を聞かせてくれますか?」

ローグ「例の遺跡か」

令嬢「はい♪」

ローグ「(……?) …そうだな、あそこは生きてる遺跡だった」

令嬢「生きている?」

ローグ「俺が見た限りではな」

ローグ「最近、パーティーを組んだ奴の話ではどの遺跡もかつては高度な文明が生きていたそうだ」

ローグ「だが遺跡に共通しているのは、優れていたがそれは『戦い』においての話らしい」

令嬢「戦、ですか」

ローグ「ああ」

ローグ「人、或いは人外の者を破壊する事を最も効率化した上でそれらを操る為に生み出された存在」



ローグ「『機巧人形』、またの名を『自動人形(オートマータ)』」

ローグ「単数形でオートマトンとも言うらしい、古代文明で使われていた文字の解読で分かったそうだ」

ローグ「制作者は何と言ったか……確か、どの人形にも思考を司る部位の機器に書かれていたのが……」


令嬢「あの、ローグ様……」

ローグ「ん?」

令嬢「それで、その遺跡が何故生きていると思われたのですか?」

ローグ「あぁ……」

ローグ「……戦いに関しては優れていたが、どうも生活面ではそれほどでも無かったらしい」

令嬢「……」

ローグ「埃が被ればそれを拭い、錆びれば磨く」

ローグ「食事を取るならば手に取り、自分の食べる場へ持って行く」

ローグ「あの遺跡もそれは同じでやはりその痕跡があった」

ローグ「話に聞いたのとは違い、明らかにあの遺跡は全ての機能が『生きている』んだ」


令嬢「まぁ……!」


令嬢「それはつまり、あのっ! その遺跡にはまだ誰かがいて……しかも防衛機能や維持設備が残っているのですね!」ガタッ

ローグ「あ、ああ……そうなるな」

令嬢「それだけですか?」

ローグ「何が……?」

令嬢「もっと他に無いのですか、例えばプラントとか!」

ローグ「あったがあれは今後、国が管理するだろうからそんなに触れてないぞ」

令嬢「国が……ですか」ピクッ

ローグ「今日は報告出来なかったが、まぁギルドの方で上手くやるんだろうな」

ローグ「大丈夫だとは思うが、プラントについてはギルド員以外は他言を禁じられてる、秘密だぞ?」

令嬢「……」


ローグ(……?)

ローグ(どうしたんだ今日は)


################


令嬢「もう大分、夜も深くなってしまいましたね」スッ

ローグ「ん、今夜は帰るのか」

令嬢「ええ、当然でしょう?」

ローグ「今まではいっそ泊まってたくせに何を言う」

令嬢「え? なっ……」カァァ…

ローグ「どうした」

令嬢「いえ……!」


令嬢「近くに護衛の者が来ている筈なので、送って下さらなくて結構ですからね!」フンッ


ローグ「この時間だ、俺も屋敷まで着いていく」スッ

令嬢「要りません!」

ローグ「っ?? ……そ、そうか? だが……」

令嬢「……」ジロッ

ローグ「…………分かった」


< ガチャッ……パタンッ

ローグ「今日はどうしたって言うんだ」

ローグ(まぁ、一応見ていれば大丈夫だろうが)

ローグ(……お嬢の光はここを出て大通りの方へ……)

ローグ(…………?)ピクッ

ローグ(何だ? 今一瞬、屋敷の方で光が……まさか本当に俺の右眼がおかしくなったんじゃないだろうな)

ローグ(ん……お嬢の近くに一つだけ、いや一人か? 光が出てきたな)

ローグ(念の為、合流出来てるか見に行っておくか)スッ




──────── タンッ


ローグ(よっ……と)スタッ

ローグ(お嬢は彼処だな)

ローグ(隣を歩いてるのが護衛か? 全身鎧……ただのプレートじゃないな)

ローグ(『騎士団』の正規装備、ミスリルアーマー……お嬢の護衛に何故?)

ローグ(まさか、俺の過去をお嬢が……)

ローグ(…………)


ローグ「彼女が俺を裏切るわけないな、帰って寝るか」ハァ



??????????????????????????????????


「仮面の妹君はこの通り無事だ」


    「あぁ! 良かった、本当に良かった……っ」

    「妹を、この子を救い出して下さって何とお礼を申したら良いのか……!」


「別に、タイミングが良かっただけだろ」

「相手の組織も俺と因縁のある奴等だったんでな、途中で引き下がる理由も無くなった」

「今後の自分の為に起こした行動だ、必要以上に感謝される事も無いだろ?」


    「なるほど、では最初にお話した通り報酬をお支払い致しますわ」

    「後でギルドに話は通しておきますので、後日それなりの評価がされるかと」


  「……姉さん」


    「なぁに? あなたは奥で休んでなさい」


  「私、ローグ様にお礼を……」


    「余計な事をしないで、それは私の役目よ」

    「勇敢なローグ様には私から報酬をお渡ししますわ? 後日また屋敷へ来て下されば……」


「今日は俺も疲れた、金に関しては明日で構わない」

「君も疲れただろ」



  「…………」



??????????????????????????????????


ローグ「…………」パチ

ローグ(夢……?)バサッ

ローグ(そういえば二年か、お嬢の妹を助けてから)

ローグ(屋敷へはよく行くが中に入った訳じゃないしな)

ローグ(あの冷たい仮面を着けた、妹君は元気にしてるのかね)

ローグ「ん……」ピタリ

< カサリ……


ローグ「手紙? 誰からだ」ガサガサッ


ローグ(辺境の町、鍛冶屋の紋……『師匠』からか)

ローグ(……内容は近況報告くらいか、律儀に俺なんぞに手紙を送らなくてもいいのにな)クシャッ

ローグ(あの女の事を思い出して頭が痛くなる)




【馬車内】

< ガラガラガラガラッ


重鎧槍使い「目的地に着いたら真っ先に奥を目指すぞ」

斥候「だな、まだ情報も出回ってねえのに三人も来てやがるしな」

重鎧槍「おい手前ら! 探索中に邪魔したら只じゃおかねえからな!」

黒人モヒカン「そうだぜコノヤロウ!! 邪魔したらあれだからな、ケツに斥候の頭ぶちこんでやるからなオラァ!」

斥候「なんで俺なんだよ」



シーフ「何か言ってるぜ旦那」

盗賊「無視ですよあんなの、装備は良いみたいですし何処かの傭兵なんでしょう」

ローグ(面白い髪型だなあれ)



< 「っしゃあ! 盗賊職三人で探索出来たんだ、俺達で更に探すぞ!!」

< 「斥候!奥を頼んだ、俺ァ入り口を見てるぜ!」

< 「いやお前も来いよ」



ローグ「朝から五月蝿いな、アイツら」

盗賊「でも自分達は斥候よりも盗賊よりですからねー、自然と静かにしてしまいがちですから」

シーフ「冒険者ならあんなのが普通だよな」

シーフ「言っても、それで揉めて殴り合いまで発展するのがザラだけどな、くくくっ」

盗賊「それでどうしますか? 予想よりも人数は少ないものの、彼等も遺跡の奥を目指しているようですが」

ローグ「それなんだが……」




ローグ「…………というわけだ」

シーフ「細かい位置は旦那も掴めてる訳ではなく、いっそ奴等に先行させて様子を見る……ねぇ」

シーフ「悪くはないっちゃ……無いな」

盗賊「ダンジョンや遺跡での探索は早い者勝ち、いざという時は競争相手と戦闘になりますが、ちょっと危険ですよね」

ローグ「元々、俺は単独で動くのが得意だったんだ」

ローグ「自然と発想がそっち寄りになってしまうのは許してくれ」


シーフ「まー! 旦那が出来るってんなら俺達にも出来るだろ?」

ローグ「尾けるだけだからな」

シーフ「そんなら罠避けにもなるし、見取り図を見慣れた俺達なら奴等が足を止めても先に進めば良い話だしな」

盗賊「何でしたら途中まで協力するというのは」

ローグ「遺跡の機能を支配してる存在を、雇われのアイツらが俺達に譲るとも思えないが……」

シーフ「同感だぜ」

盗賊「そ、そうですか……」



################


重鎧槍「何か、えらく空気が澄んでるな」ガッシャガッシャ

モヒカン「ああっ! 誰か住んでるみてぇだな!」

斥候「そういう話をしてるんじゃないだろ……空気が綺麗だって事だ」

モヒカン「うるせー! ホモかてめぇはァァアッ!!」

斥候「お前がうるさいわ静かにしろトサカ頭ァッ!!」

重鎧槍「二人ともうるせぇええええ!!」ガッシャガッシャ





【物陰】

ローグ(何でアイツらあんなに騒いでるんだ……そもそも鎧の金属音が五月蝿いだろうに)

シーフ(大丈夫かなアイツら)

盗賊「どんちゃん騒ぎですね……」



【プラントエリア】


斥候「ここが例のプラントか、実物は久しぶりに見たが型は同じかね」

重鎧槍「端末は?」

斥候「プラントのターミナルなら施設内の見取り図にアクセス出来る、そこでデータベースからプラント先のエリアを調べよう」

モヒカン「俺は先に見てくるぜ!」

斥候「今の話を聞いてたか?」

モヒカン「おう! 重鎧槍と斥候がここでアクセスするんだろ?」

重鎧槍「気色の悪い把握の仕方だな……」

モヒカン「何かありゃ派手な音を出して逃げるから安心しろよ! 俺はプロだからな!」

斥候「お前のような奴がプロの傭兵なわけがあるか」



< カタカタカタッ…カタカタッ……

< ピーッ……カタカタッ…タンッ

斥候「どれ、データベースのハッキングは完了したぞ」

重鎧槍「どうだ?」

斥候「南側が第四司令室、その奥が緊急避難用出口となっている」

斥候「つまり俺達の入ってきた遺跡の入り口がそうだな、だが本来ならその先に脱出ポッドとかいうエリアが配置されている」

斥候「まー、何かあって崩れて通路の先が削れたのだろう」

重鎧槍「何百年前の事だか分からんしな、そんなものか」

斥候「それで、モニターのここを見ろ」

重鎧槍「……通路の途中途中に部屋があるのは、司令室だとして、プラントに続く通路と枝分かれして小さく伸びた部屋か」

重鎧槍「何と書かれているんだこりゃ」

斥候「システムクイーン、古代文字でそう書かれている」

斥候「恐らくあのもぬけの殻となっていた部屋に居たのが、この遺跡の秘密を握る何かだ」



< 「面白い、お宝探しらしくなってきたぜ」



シーフ「……おい、盗賊」

盗賊「こ、ここの施設の情報を見るだけでなく、古代文字が読めるなんて……ッ」

盗賊「彼は自分とは違いかなりのベテランです、少なくとも遺跡を幾つも発見した『東』の冒険者かと……」

シーフ「まいったな、横取りされちまうぜ」

ローグ「…………」

シーフ「旦那、どうする」

ローグ「……ちょっと静かにしててくれ」

盗賊「ローグさん?」


ローグ(……施設の『 中 』で何かが這いずり回っている……)

ローグ(…………)


ローグ「何か近付いてる、警戒しろ」

シーフ「!」

盗賊「近付いてるって……?」




< 「ッッ……ぁぁぁあああ……!!」



盗賊「!?」

シーフ「今のはモヒカン頭の声かぁ!?」




ガッシャッガッシャッ!

重鎧槍「モヒカンの野郎の悲鳴はこっちか……何がある!」

斥候「プラントから北へは第二司令室、その奥には見慣れない文字と共に『格納庫』と書かれていた!」タタッ

重鎧槍「チィッ、モンスターか!?」

斥候「有り得る! 施設が動いている上にギルド内部の潜入員の話が本当なら、警備ロボと初期調査の冒険者三人組がエンカウントしている!」

斥候「その扉の奥だ!」

重鎧槍「早く開けろ!」


< ピピッ……ガシュッ



───── キィィンッ ─────



斥候「えっ」



───────── ドドドドドドドドッッ!!!




< ドチャァアッ……!!


重鎧槍「…んなッ……!?」



< ガシャッ……カシャカシャッ!!

  ガシィンッ


機械虎【……】ガシィンッ…ガシィンッ…


重鎧槍「な、なな……何だ、こいつは…………」


機械虎【……】ピピッ

< ピタリ

機械虎【……武器を棄てなさい、さもなくば射殺します】


重鎧槍「…………ゴクリッ……」

重鎧槍(しゃさつ……? 殺すって事か? コイツも警備ロボの一体か……?)

重鎧槍(だが、武器を棄てれば勝算も生まれる! 接近戦ならばこちらに分がある筈だ)

< ガラァンッ!

重鎧槍「武器は下ろした、これでいいか?」


機械虎【宜しい】



────────── ドンッ! ドンッドンッドンッ!!


重鎧槍「ッ!?? ~~ッ……がぁあッ、ぁぁぁあああ!!!??」ドサァッ


機械虎【四肢の間接を撃ち抜いた】ガシィンッガシィンッ

機械虎【手足を動かそうとしても体内で溶けた弾頭が激しい痛みで動作を阻害する】

機械虎【痛いか】

機械虎【痛いだろう】


機械虎【さぁ来い、数十分は悲鳴を挙げられるだろう】ガブッ

重鎧槍「ひ、ひぃいっ!? い、嫌だ……! たす、助けてくれぇぇええ!!」

重鎧槍「うわぁあああああ!! うわぁあああああ!!」ズルズルズルッ





ローグ「ッ……!」ギシッ……!!

シーフ(抑えろ、落ち着け旦那!)ガシィッ……

盗賊(今出ていっては殺されてしまいますよローグさん! ここは退きましょう!)ガシィッ……

ローグ「だが、俺ならあの重鎧の男を助けられた……!」

盗賊(自分達はあれに勝てません! 軍用の戦闘特化型オートマーター……機械獣です!)

盗賊(お願いです、貴方は戦えても自分は為す術なく殺されてしまいます……っ!)

ローグ「…………」



ローグ「……分かった、離せ」




ローグ「……コイツのギルドタグを持ち帰ろう」

シーフ「あぁ、遺体の装備品もグチャグチャに潰されてるしな」

シーフ「ひでぇ有り様だ、ただの機銃じゃねぇぞありゃ」

盗賊「電磁投射砲……あれは、それの連射が可能になったタイプです」

シーフ「デンジトーシャ砲? 聞いたこと無いな」

盗賊「自分が小さい時に奴隷商の人間が話していたのを聞きました」

盗賊「性能は冴えた弓兵よりも正確に、威力は『騎士』の一撃に等しい矢を放てるとか……」

シーフ「うへぇ……良かったな旦那がそれに滅茶苦茶にされなくて、一つ貸しだぜ?」

ローグ「……」

盗賊「…………ローグさん?」

ローグ「ん、すまない……もういい、退こう」

盗賊「?」


< ピピッ

< ビーッ

盗賊「……え?」

シーフ「どうした、早く開けてくれよ」

盗賊「すいません、今開けますから……」ピッピッ

< ビーッ

盗賊「……!?」


ローグ「何か問題が? 今さっきまで開いていた扉だろうに」

盗賊「分かりません……! あ、開かないっ」

シーフ「おいおい勘弁してくれよ? さっきのモンスターが戻ってきたりなんかしたら……」

盗賊「でも自分のPDAじゃ開かない! さっきまではパスコードがフリーになってたんです! こんな……こんな……!」

シーフ「うぉあっ! おい静かにしろバカ!」

盗賊「うぐ、すいません」

盗賊「でもおかしいんです、『東』の遺跡では確かにパスが変わってしまって閉じ込められたという話はありますが……」

ローグ「どういうケースなんだそれは」

盗賊「反対側のターミナルでパスを新規登録するとか……」


ローグ「……まさか扉の向こうに誰かいるのか」

シーフ「匂いで分かるだろ?俺達とあの三人組パーティー以外に遺跡には来てないぜ」

ローグ「…………」

ローグ(『見る』限りでは他の人間は見えない……どうなってる)




  ピリリリリリリッ!!



ローグ「!?」ビクッ

シーフ「何だぁ!?」

盗賊「これは……施設内の警報? そんな馬鹿な、どうしてこんなものが……ッ」


ローグ「!」ピクッ

ローグ「盗賊! 伏せろ!!」

盗賊「え?」



────── ギュィィインッ・・・!!


盗賊「……??…………?!」

盗賊「ローグさん……? 今の音はいったい……」


< ドチャッ

盗賊「!?」

シーフ「ッ……ッ、ッ……」ビクッビクンッ……プシャァアッビチビチッ

盗賊「ひっ……~~ッ!?」
    < ガシッ

ローグ「掴まれ!」バッ


───────── ギュィィインッ!!
< ジュゥゥゥッ・・・!


盗賊(何、あれ……鋼鉄の床や扉が、赤く光って斬れてる……!?)

ローグ「口と目を閉じてろよ……ッ」ズサァァッ

ローグ(…………来る……!)バッ

< ギュィィィッ!!

ローグ(どういう原理か魔法か知らないが姿を消してるのか、あの機械獣)ズサァァッ



< ギャギャギャアアァッ!!

    ガキィンッ! >

ローグ「盗賊、投げるぞッ」

盗賊「投げ……っぇえ!?」

ローグ「手を伸ばせば大丈夫だ、行け!」バッ

盗賊「ぅ、わぁー!?」

< ガシィッ!!

盗賊(……! これは、天井にあった通風孔?)ギシッ

盗賊(ローグさんは……!?)チラッ



機械狼【ガァアアッ!!】ウィンッ

ローグ「シッ……!」ギィンッ!!

機械狼B【「伏せて下さいローグさん!」】ヴンッ

機械狼C【「跳べローグ! そっちはあぶねぇ!」】ビュォッ


ローグ「ッチ、ィィ……盗賊とシーフの声真似を……ッ!」ヒュカッ

< バギンッ!! ガガガガッッ!!

           ギュィィィンッ
       ズドォオッ!!         ガギィッ!
    ガリガリガリィィッ ドゴォッ ヴンッ!!

 ギャリィンッ!! ズンッッ!   

     ヒュカッッ    キィンッッ!!

機械狼【……ッ、馬鹿な……】バヂバヂバヂィッ


< ボゴォォォンッ!!





盗賊「つ……」

盗賊(……強すぎる。人間業じゃない、人の体躯の何倍もある鋼の機械獣を相手に一歩も退いてない!)

盗賊(以前、王都で『騎士』の演習を目にした事があったけど……)

盗賊(どう見てもローグさんは騎士級の機動力と膂力を持っている、それどころかあの抜いた剣……彼が振るう度に魔力が周囲に吹き荒れてる)

盗賊(あれなら、多分……)


機械狼C【指揮官機の大破を確認、これより当機が代理指揮を執る】ガシャァッ

機械狼C【敵の装備はこちらからの対物干渉を跳ね除ける。全機中距離射撃戦闘へ移行を……】


ローグ「ッ……! 穿てッ!!」キィンッ

< ギュォオオオ!!

ローグ「爆ぜろォッ!!」バッ


機械狼D【標的捕捉、アタック】ガシャン



─── ギュィィインッ!!





  ッッドゥン!!──

ローグ「……これが魔力に依る物じゃない事は盗賊から聞いている」フォン

機械狼D【理解不能】

ローグ「だろうな」ヒュカッ

< メキャァアッ!
     ボゴォォォンッ!!


機械狼B【フォールン因子を含む精製武装……】

機械狼C【代理指揮機へ提案。敵勢力の危険度は既に我々の対応値を遥かに上回っている、撤退を要請する】

機械狼E【当機も撤退を推す】


ローグ「逃がす──かッ!!」ビュンッ


 ────ッドォ!!!


機械狼B【……イヤ、だ……】バヂバヂィィ

< ボゴォォォンッ!!


機械狼E【……!】




盗賊(あの鋼鉄の機体を、一太刀で……!)

盗賊(それだけじゃない。ローグさんの魔剣から迸る魔力が物理的に矢避けになってる)

盗賊(光線兵器すら弾いて剣撃を放つ……そんな魔剣をどうして彼が?)


機械狼E【グルルゥッ……!】ギャンッ

盗賊「えっ?」グイッッ


ローグ「しまった、盗賊……ッ!!」ヒュァッ

機械狼C【ガァァッ!!】ガギィッ

ローグ「……っく、邪魔だ!」

<メキメキメキィィッ

機械狼C【がッ…


< バギバギッ……メシャァッ!!




ローグ「盗賊!」バッ

ローグ(しまった、盗賊を連れ去る事を想定していなかった自分が憎い……)

ローグ(盗賊の微かな残り香を追う事も出来るが、この先はまるで手掛かりが無い)チャキッ

ローグ(どうする……?)



──── ォォ・・・



ローグ(考えていても始まらない、今は動くべきだ)

ローグ(殺さず、わざわざ連れ去ったという事は何らかの意味がある筈。生きている可能性は高い)ザッ

< 「無暗に動かない方が賢明だぜ! ブラザー!」

ローグ「!」バッ

モヒカン「よぉ」

ローグ「お前は……機械獣に殺されてなかったのか」




モヒカン「おうよ! 俺は不死身だからな!」ムキッ

ローグ「……自分の仲間が死んでいる間、お前は何を?」

モヒカン「隠れてたんだよ。ちょちょっとそこの通路脇にある陰で隠匿の魔石で姿を消してたのよ」

ローグ「魔石だと……?」

ローグ(アーティファクトの中でも手に入り難い品だ。ましてや俺の『眼』に映らない事が可能な物なら)

モヒカン「おーいおいおいおい?? なにジロジロ見てんだ俺の尻の穴嗅がせるぞ!?」

ローグ「やめろ」


モヒカン「ダッハッハッハァッ!! んで、どうすんだよ!」


ローグ「……どうするとは」

モヒカン「お前あれだろぉ? さっきのシーフ職の仲間だろ」

モヒカン「で、助けに動こうとしたんだろ! そうだろ! な!」



ローグ「何が言いたい」

モヒカン「少し手助けしてやれるぜ」

ローグ「……仲間を見殺しにするような奴の言う事が信用できるとでも」

モヒカン「だが情報に関しちゃ文無しのお前より、俺はもっとマシだって話だ」ポイッ

< パシッ

ローグ「これは?」

モヒカン「ここにはまだまだ先がある。俺達の足下にもな」

モヒカン「そいつはお前たちが解放した『棺の中身』を示してんだ、地下のマップを簡易表示して導いてくれるシロモノだぜ」

モヒカン「原理と出処は聞かないって条件で貸してやるよ!」

ローグ「……なに」

モヒカン「どした? ホレ、お仲間助けに早く行かねえと手遅れになっちまうぜ!」


ローグ「……」

ローグ「考える時間が惜しい。感謝する」


──ダダダダッ……!!


ローグ(あの男、俺達が箱の中身に干渉した事を知っていた?)

ローグ(先日の調査はギルド側が極秘にしていた筈、俺達の事は公開されている筈も無い)

ローグ(それに……あの男の仲間は知っていたのか? 奴に隠匿の魔石という、魔眼すら退けられる高性能の魔具があることを)

ローグ(知っているならばああまでして助けに行こうとはしない)

< タタタッ!!

ローグ(そして、最初に聞いた悲鳴は奴の演技だった事になる)

ローグ(仲間と、後方から尾行していた俺達を誘き出す為に)

ローグ(順当に考えるならば、これは罠だが)


ローグ(俺の魔眼に奴の嘘は映らなかった)


このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom