【モバマスSS】 ふたりごはん (30)

スーパーで買った食材を片手に、事務所へと急ぐ

ちょっと前まで暑いと思っていたのにこの寒さ……

風がひゅうっと吹くたびに体が震えてしまう

ああ、寒い寒い

こんな日は体が温まるものでも食べようじゃないか

さてと、今日買った食材でどんなものを作るか考える

食べることも楽しいけれど、レシピを考えるときも同じくらい楽しいもんだ

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「戻りました」

今日はちひろさんも定時で帰宅

後は数人のアイドルが戻ってくるまで時間がある

こういう日は決まって、料理をつくることにしている

あ、もちろん俺の仕事も終わらせている、社畜ですから……

それはさておき、調理に取り掛かるとしようか

うちの給湯室はもう台所と言っても過言ではないほど調理器具が充実している

コンロも二口あるし、流しも広い、ここを勝手に使って良いのだから何と素晴らしいことか

ジャケットを脱ぎ、エプロンをかける

スーパーの袋を漁っていると、事務所のドアが開いた

「お疲れ様です。って、プロデューサーさん?」

入って来るやいなや、目をぱちくりとさせる奈緒

「お疲れ様、奈緒」

「どうしたの? エプロンなんてつけて」

そうか、奈緒はまだ知らないんだったか

「腹減ったからさ、飯作ろうと思って」

俺がそう言うと、少し驚いた顔の奈緒が

「プロデューサーさんが料理かぁ、何か意外だな」

どんな話題の中でも料理ネタは出さないからなぁ

それに、男ってあまり料理しないもんだと思われるのも仕方ない

あ……ティンときた!

「奈緒」

一歩にじり寄る

「な、なんだよ?」

奈緒がおろおろしたような顔で後ずさる

「大事な話があるんだ」

もう一歩

「ちょっと、待てって! あ……」

奈緒の後ろにはもう壁しかない

さて、これでもう逃げられないね

「なぁ、奈緒」

奈緒の体がびくりと跳ねて、顔を逸らした

「は、早く要件を言えよ……」

何で顔赤くしてんの? まぁ良いけど

俺はエプロンを差し出しながら

「一緒に料理しないか?」

結論を言おう

奈緒にはオッケーをもらえたが、手痛いカウンダ―をもらった

もちろん物理的に

「いてっ! 奈緒、悪かったって」

「うるせー! アタシのドキドキを返せ!!」

ぷるぷると震えながら、俺を叩いてくる奈緒

地味に痛いから困る……

どうしたものかと思っていると

くぅ

と、控えめな音が鳴った

そして、ぴたりと止む奈緒の攻撃

「あ……」

「腹減ったな! 俺もう腹ペコだからさっさと作ろうか」

女の子に恥かかすのも可哀想だ、ここはフォローしておこう

「こんな時だけ気が利くんだから」



「なぁ」

「よーし! まずは手を洗おうな」

料理をする前に手を洗う、これ基本だよね

「なぁってば」

「あ、ハンドソープも買っておかなきゃな」

「聞けよ!」

フリルがふんだんにあしらわれた可愛いエプロンを付けた奈緒が抗議してきた

「なんだよ、エプロン姿も可愛いじゃないか」

まるで若奥様みたいじゃないか

「なっ……別に可愛いのとか興味ないし」

ぱしゃり

素早くスマホのカメラを起動してタップした

「その表情頂き。ほら、奈緒も手を洗って」

「何撮ってんだよ!? ……ほんっとマイペースだね、プロデューサーさんは」

気ぃ張りっぱなしは疲れちゃうからな

2人とも手洗いが終わり、いよいよ料理開始といこう

「それで、何を作るの?」

材料を見つつ、奈緒が質問してくる

「今日は簡単ミネストローネだ」

「ミネストローネ? サイゼにあるやつ?」

「それだね、トマトを使った野菜スープみたいなものと思ってくれ」

定義があやふやだし、色々なレシピがあるけれど

あくまで俺が作る簡単なトマトスープかな

「まず、初めにベーコンを切ってもらう」

さて、奈緒がどこまでやれるか見せてもらおうじゃないか

「あんま期待すんなよ?」

とは言っているものの、ちゃんと猫の手だし、変に力も入っていない

「上手だな、じゃあこの鍋の中に入れてくれ」

ちょっとオリーブオイルを入れた鍋で弱火で炒める

その間に、どんどん野菜をカットしてもらおう

ニンジン、玉ねぎ、セロリにズッキーニ、そして最後にキャベツ

「どのくらいの大きさで切ればいいの?」

「キャベツ以外はサイコロより少し大きいくらいで頼む」

「わかった」

とんとんと心地よいリズムで包丁の音が響く

……料理してる女の子って良いよね!

「今、変なこと考えてたでしょ」

ジト目の奈緒がこちらを見ていた

「そんなことないよ? あ、キャベツはざく切りで頼む」

「はぁ、りょーかい」

あぶないあぶない……おっと、キャベツ以外の野菜も鍋に入れて炒めないと

後で煮込むからベーコンの油が野菜に回るくらいでオッケーだ

「はい、キャベツも」

追加のキャベツも鍋に入れ、火を入れる

「もう切るものはないのか?」

「そうだな、あとトマト缶を出しておいてくれるか」

「はいよー」

これにカットトマトと水を入れて野菜が柔らかくなるまで煮る

そうそう、トマト缶の中に残ってるトマトがもったいないから

水をトマト缶の中に入れて、最後まで使い切ろう

分量的にはトマト缶と水が1対1くらいで

「プロデューサーさん、味付けは?」

「シンプルに塩と胡椒だけ」

ローリエやらブイヨンを使うと本格的だけど、今回は簡単にってことで

野菜の味が出るから薄味を意識すると良いかもしれない

「あとさ、これだけでプロデューサーさん足りるの?」

お、良いところに気が付いたな

「ショートパスタを別で茹でてるからさ、それも後入れするよ」

お前も足りないだろ? そう言いかけて止めた

さて、もう野菜も柔らかくなっただろ

味見もばっちりだし、盛り付けしよう

深い皿に茹でたショートパスタを入れて、ミネストローネをたっぷりと注ぐ

ああ、もう一枚用意しないといけないのか

いつもは一人だけれど、今回は賑やかでいいな

「プロデューサーさん、まだー?」

おっと、腹ペコシンデレラがお待ちかねだ

「お待たせ、さぁ食べようか」

「「いただきます」」

2人の声が重なる

ちょっとしたことだけれど、新鮮に感じる

「うん、美味しい!」

一口食べた奈緒が笑顔になる

どれどれ……

「お、良い味だ。奈緒に手伝ってもらったおかげかな?」

おどけて見せると

「ふんっ、ばか……」

ははっ、奈緒はからかい甲斐があるなぁ

「このパスタ、ほら貝みたい」

まじまじと見つめた奈緒が言う

ほら貝と言えばあいつしかいない

「コンキリエなのでしてー」

「芳乃のマネ? 全然似てねーし」

ぐっ、俺のモノマネが受けないなんて……

「おっかしーの、今の録音しておけばよかったな」

「精進します」

くだらない話をして、二人して笑う

誰かの為に作る料理ってのも良いもんだな

「ふぅ、結構量があったのに食べちゃった」

作った側としては嬉しい限りだ

「ほとんど野菜だから、ヘルシーだと思うぞ」

そして、二人でアイコンタクト

「「ごちそうさまでした」」

2人で片づけをして、今は奈緒を送るために車を走らせている

「なぁプロデューサーさん」

「んー、どうした?」

……返事が返ってこない

「おーい、奈緒さんやー」

あれ、寝ちゃったのか?

「気が向いたらまた手伝ってあげなくもないよ」

「なんだそれ」

素直じゃない奈緒がおかしくて吹き出してしまう

「うるせー、ばか」



「また可愛いエプロン用意しておくからさ」

「は、はぁ? 今度は普通のにしておけよ」

くくく、今度はハートがついたピンクのにしてやろうか

まぁ一割冗談だけど……

「俺も今日は楽しかったから、また頼むよ」

「……ん、頼まれた」

奈緒が笑顔で返してくれる

今度は何を作ろうか、奈緒にリクエストしてみても楽しそうだ

不思議ともう寒さは感じない

温かい食べ物で体も心もぽかぽかだ







おしまい

読んでくれた方に感謝を
奈緒が「ちょっと邪魔かな」なんて言って髪を結って料理をする……最高じゃないですか!
眺めるも良し! 一緒に料理するも良し! 悪戯するも良し!

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