水本ゆかり「お誕生日のわがまま」 (23)

ゆかり「レッスン、終わりました」

P「お疲れさま。どうだ、新曲の振りつけの進み具合は」

ゆかり「まだまだ、完成には程遠いですけれど……今日は、難関だったサビの前のステップがうまくいきました」

P「おお、やったな!」

ゆかり「やりましたっ」

ゆかり「トレーナーさんにも、褒めてもらえたんですよ?」

P「そうかあ。でもあの人厳しいから、すぐに『だが、まだまだこれからだぞ!』とか言ってたんじゃないか?」

ゆかり「ふふ、正解です」

P「やっぱりな」

ゆかり「………」

ゆかり「あの、Pさん」

P「ん?」

ゆかり「Pさんも……褒めてくれますか?」

P「ああ。偉いぞ、ゆかり」

ゆかり「ありがとうございます。うれしいです♪」ニコニコ

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P「オレンジジュースでも飲む? 冷蔵庫に残ってるけど」

ゆかり「あ、いただきます」

P「わかった。とってくるよ」

ゆかり「お願いします………ところで、Pさん」

P「ん?」

ゆかり「今日は、何日でしょうか」

P「今日? 10月17日だけど」

ゆかり「そうでしたか。ええと、それでは、明日は」

P「10月18日だな」

ゆかり「そ、そうですね」モゾモゾ

ゆかり「ええと……10月18日という日に、何か心当たりは……」ソワソワ

P「んー? 18日……うーん」

ゆかり「そわそわ」

P「あー……何かあったかもしれないな。もう少しで思い出せそうなんだけど」

ゆかり「!」ドキドキ

ゆかり「ひ、ヒントはですね。誰かにとって特別な日です」

P「特別な日……あー、そういえば誰かの誕生日だったかも」

ゆかり「!!」

P「誰だったかなー」

ゆかり「た、たぶん『ゆ』から始まる人の誕生日かと……」

P「ゆ……ゆ……うーむ」

ゆかり「………」ソワソワドキドキ

P「………」


P「……ぷっ」

ゆかり「……あっ」

ゆかり「Pさん……最初から、知っていましたね」ジトー

P「はは、ごめんごめん。ちょっとからかいたくなって」

P「明日はゆかりの誕生日だもんな。ちゃんと覚えてるよ」

ゆかり「……覚えていてくださったことはうれしいですけど」

P「けど?」

ゆかり「……いじわる」ムー

P(キュンときてしまった)

ゆかり「Pさんは、時々子どもっぽいです」

P「自覚はある」

ゆかり「ですから……頭、なでなでします」

P「なぜそうなる」

ゆかり「小さい子には、なでなでするものですから」

P「なるほど……でも、実際はただなでたいだけだろう」

ゆかり「実は、そうです」

P「まあ、どっちでもいいけどな」

ゆかり「うふふ♪」

ゆかり「なでなで」

P「前もされたけど……10以上年下の女の子に頭を撫でられるのは、慣れないな」

ゆかり「私は好きです。Pさんの頭、なで心地が良いので」

P「一応褒められているんだろうけど、なんだか複雑だ」

ゆかり「あら。ここ、髪が薄くなっているような」

P「え、マジか!?」

ゆかり「冗談です♪」

P「ゆかり~……」

ゆかり「さっきのお返しですよ。ふふっ」

P「明日、何かしてほしいこととかあるか」

ゆかり「してほしいこと、ですか?」

P「せっかくの誕生日なんだ。何かお願いを聞いてあげないとな」

P「ゆかりはいつも素直でいい子だし、たまにはわがままを言ってくれてもいいんだぞ」

ゆかり「お願い……わがまま、ですか」

ゆかり「ちょっと、考えさせてください」

P「ああ、もちろん」

ゆかり「では」

ゆかり「………んー」

ゆかり「んー………」

ゆかり「うーん………」

P「めちゃくちゃ真剣に悩んでるな……本当、真面目だ」

ゆかり「決まりました」

P「お、なんだ?」

ゆかり「お願いはですね……」




ゆかり「――明日、私とデートをしてくれませんか?」

翌日


P(デートといっても、今日は平日だからゆかりは学校がある)

P(だから、学校から事務所までの道をお供することだけをお願いされたのだが……はたして、それはデートと呼べるものなのだろうか)

P「待ち合わせ場所は、公園の噴水前……お」


ゆかり「………」ソワソワ


P(もう来てるな。なぜか『気持ち遅めに来てください』って頼まれたんだけど……)


ゆかり「………」イジイジ


P(前髪をいじったり、制服を整えたり忙しそうだな……もう、声をかけても大丈夫かな)

P「おーい、ゆかり」

ゆかり「あっ……Pさん。約束通り、来てくれたんですね」

P「破るわけにはいかないからな。でも、どうしてここを待ち合わせに? 校門まで迎えに行ったのに」

ゆかり「ありがとうございます。でも、ここがよかったんです」

P「どうして」

ゆかり「だって……公園の噴水前といえば、デートの待ち合わせ場所の定番ですから」

ゆかり「一度、体験してみたかったんです。この場所で、デートの相手の方を待つ気持ちを」

ゆかり「まだかな、まだかな……そう思いながら、身だしなみをチェックして。その人のことを考えながら、ドキドキして」

ゆかり「そんな、女の子らしい気持ちを味わってみたかったんです」

P「だから、わざわざ遅めに来てほしいと言ったのか」

ゆかり「はい。わがままを聞いてくださって、ありがとうございます」ペコリ

P「このくらい、わがままにも入らないよ」

ゆかり「そうでしょうか」

P「そうなんだ」

ゆかり「そうなんですか」

P「………」

P「ははっ」

ゆかり「ふふっ」

P「行こうか。デート」

ゆかり「はい♪」

P「今日は少し肌寒いな」

ゆかり「そうですね。今月の初めくらいから、秋らしい気候になってきたと思います」

P「だな。風邪とかひかないように、気をつけるんだぞ」

ゆかり「はい……きゃっ」

びゅーーっ

P「今日は風も強いな」

ゆかり「少しびっくりしてしまいました……」ブルッ

P「大丈夫か?」

ゆかり「大丈夫です。今の風が、特別冷たかっただけですから」

ゆかり「明日からは、手袋を持ってきてもいいかもしれませんね」

P「持ち運んでおけば、寒い時に身に着けられるからな。いいんじゃないか」

P「今、手がかじかんだりとかは?」

ゆかり「そこまではいきませんけど……結構、冷たいかも」

P「結構、か」

ゆかり「はい」

ゆかり「………」


ゆかり「えいっ」ピトッ

P「おわっ!?」

P(いきなり頬にゆかりの手のひらが当てられて、冷たさと驚きで素っ頓狂な声をあげてしまった)

ゆかり「これくらい、冷たいです」

P「わざわざ頬に触れなくてもわかるのに」

ゆかり「うふふ♪」

P「まあ、それは置いといて。手、冷たいな」

ゆかり「やっぱり、そうでしょうか」

P「ああ。だから」


ぎゅっ


ゆかり「あっ……」

P「手を繋いだら、少しはマシになるかもしれないな」

ゆかり「あ、ありがとうございます」

ゆかり「ちょっと、恥ずかしいですね……照れてしまいます」

P「いやだったか」

ゆかり「いいえ」

ゆかり「恥ずかしいけれど……温かいです」ニコッ

P「そうか」

P(ゆかりの頬が赤いのは、寒さのせいか、あるいは……)

ゆかり「こうして歩いていると、本当にデートみたいです」

P「みたいじゃなくて、本物のデートをする約束じゃなかったか」

ゆかり「あ……そうでした」

P「ゆかりはたまに天然が出るな」

ゆかり「ふふ、おかしいですね」

ゆかり「ねえ、Pさん」

P「うん?」

ゆかり「私達……恋人に、見えるでしょうか」

P「んー……見えるとしたら、兄妹じゃないか? 俺はスーツで、ゆかりは制服だから」

ゆかり「なるほど。次は、恋人に見えるように頑張りますね」

P「次もあるのか」

ゆかり「ダメ、ですか?」

P「……いや、ダメじゃない」

ゆかり「ふふっ、ありがとうございます♪」

P(今の上目遣いは、ドキドキした)

P(なんの計算もなしにこれをやってくるから、彼女は恐ろしい)

P「あ。ホットドッグの屋台が出てるな」

ゆかり「ホットドッグ、ですか?」

P「ほら、あそこ。スーパーの近く」

ゆかり「ええと……あ、本当ですね」

P「せっかくだし、食べていこうか」

ゆかり「でも、下校中に買い食いはあまりよくないと……」

P「今日ぐらいはいいんじゃないか? 俺が許すから」

ゆかり「………」

ゆかり「それなら……今日は少しだけ、悪い子になってしまおうかしら」フフッ

P「ちょっとだけ、な。俺のおごりだ」

ゆかり「ありがとうございます♪」

ゆかり「わあ、おいしそうですね」

P「ベンチも確保できたし、早速食べようか」

ゆかり「いただきます」

ゆかり「はふっ……ん……ふぅ……」

P「………」

ゆかり「あむっ………どうか、しましたか?」

P「いや、なんでもない」

P(息遣いが妙に艶めかしい)

P「……俺も食べよう」モグモグ

P「お、うまいな」

ゆかり「おいしいです♪」ハムハム

ゆかり「Pさんのそれ、私のと味付けが違うんですよね」

P「ああ。こっちはカレー風味だから」

ゆかり「いただいてもいいですか?」

P「いいぞ。ほら」

ゆかり「では、いただきます……あ、こっちもおいしいです」

P「だろう?」

ゆかり「はい。では、こちらもお返しに……あーん、です」

P「あーん」パクッ

ゆかり「どうですか?」

P「おいしいぞ」

ゆかり「ふふ、よかったです」

P「………」

ゆかり「………」

P「事務所、着いたな」

ゆかり「はい」

P「今さらだけど、本当にこれだけでよかったのか?」

ゆかり「ええ」

ゆかり「これだけ、なんかじゃありません。私にとっては、十分に楽しい時間でした」

ゆかり「Pさんにとっては、そうではありませんでしたか?」

P「いや、そんなことはない。俺だって楽しかった」

ゆかり「なら、よかったです」

ゆかり「……私、Pさんの隣を歩く時間が欲しかったんです」

P「え?」

ゆかり「Pさんは、たくさんのアイドルの方々をプロデュースしているから……少しだけでいいから、独り占めしたかったんです」

ゆかり「それが、私のわがまま。だから、十分に叶えてもらいました」

P「……そうか」


P「でも、俺はそれだけじゃ満足できないんだ」

ゆかり「え?」

P「まだまだ、祝い足りないと思ってる。だから」


ガチャリ


パーン! パーン!


法子「ゆかりちゃん!」

有香「お誕生日!」

美里「おめでとう♪」

加奈「ございますっ!」


ゆかり「………」ポカーン

P「一応、それなりに部屋の飾りつけを頑張ってみたんだが」

法子「ゆかりちゃんの家、お金持ちだから、もっと豪勢なパーティーとかやるんだろうけど」

有香「気合はバッチリ込めました!」

P「あとこれ、俺からのプレゼント」

P「流れる音楽がゆかり好みだと思ったから……オルゴール、選んできた」

ゆかり「………」

ゆかり「ありがとうございます……私、こんなに……」

ゆかり「こんなに温かくて、うれしくて、ドキドキして……こんなお誕生日、初めてです……」グスッ

加奈「あ、ゆかりちゃん泣いて……」

美里「ダメじゃないPさん。女の子を泣かせるなんて、いけないんだぁ」

P「ええっ!? お、俺が責められるのか?」

法子「ゆかりちゃん! バースデーケーキにドーナツ乗せたほうがいい?」

有香「ケーキは包丁で切りましょうか? あたしの手刀で切りましょうか?」

加奈「そうそう! 私たちもプレゼントを用意してるから、持ってこないと!」


わいわい がやがや


ゆかり「……ふふっ」

ゆかり「皆さん、ありがとうございます」

そして――



P「みんな帰ったな」

ゆかり「今日は、とても楽しかったです。皆さんに感謝ですね」

P「それはよかった。ところで、ゆかりはまだ帰らないのか?」

ゆかり「はい。もう少しだけ、Pさんとお話ししたいから」

ゆかり「いただいたオルゴール、鳴らしてもいいですか?」

P「もちろん」


~~~♪


ゆかり「静かで、優しい音色ですね」

P「気に入ってもらえたなら、うれしい」

ゆかり「うれしいのは、私も同じです。また、Pさんに新しい世界を見せてもらいました」

ゆかり「いつもあなたは、私の知らないことを、想像以上の世界を見せてくれます。そのたびに私は、たくさんのことを感じて、たくさんのことを経験して……」

ゆかり「だから私も、それに応えたい。心から、そう思います。Pさんが用意してくださった舞台で、輝きたいんです」

P「……ゆかりは、いつも頑張ってくれているよ。どんどん課題を克服してくれるから、俺もどんどん新しいものを出していける」

ゆかり「でも、まだまだ足りないものがたくさんあります。与えられた役目を果たすことが精一杯で、自分でやりたいことを決めるまではできません」

ゆかり「いつかは、自分の力で、自分の夢を……自分の舞台を」

ゆかり「いつかは、あなたの奏でる最高の楽器に……あなたのプロデュースする、最高のアイドルに」

P「ゆかりなら、きっとなれるよ」

ゆかり「ありがとうございます」

ゆかり「……Pさん。誕生日のわがまま、もうひとつだけ、いいですか」

P「ああ。なんだ?」

ゆかり「……その時が来るまで。私のこと、ずっと見守っていてください」

P「おお……期間が長いな。また」

ゆかり「私、本当は欲張りですから」

P「知ってる」

ゆかり「うふふ♪」

P「……その願い、叶えられるように頑張るよ」

ゆかり「私も、頑張ります」

P「さ、そろそろ帰ろうか。駅まで送るよ」

ゆかり「はい。……Pさん」

P「ん」

ゆかり「私、また花嫁修業のお仕事がやってみたいです」

P「へえ。理由、聞いてもいいか」

ゆかり「……実は、私にもよくわかっていなくて」

P「なんだそりゃ。相変わらず天然だな」

ゆかり「どうでしょうか?」

P「そうだな――」



おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
ゆかりちゃん誕生日おめでとうございます。もっと甘い感じに書きたかったのですが、微甘くらいに落ち着きました
彼女の貪欲に学んでいこうとする姿勢が好きです


過去作
モバP「ゆかり、何を読んでいるんだ?」
渋谷凛「アイドルの日常」 池袋晶葉「ひとやすみも大切だな」

などもよろしくお願いします

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