女「────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」 (328)

代行 ID:dTN/iaKg0!

俺に粘着してる昼夜逆転した哀れで惨めで愚かな人生終了した底辺低脳無職の基地外の中卒ニートのストーカーの廃人の自宅警備員の精神異常者の性格破綻者の日雇い派遣の変質者の糞馬鹿はIDを変えまくるので要注意っす

!でスレ立てられないのかよ

お残しは許しまへんでー!!

女「お、おはよう」

男「……」

女「最近すこし、あ、暑くなってきたよね。実家のお庭の向日葵は元気みたいなんだけど、……私は夏って、少し苦手かも」

男「……」

女「あ、でも庭に向日葵があるって変、かなぁ? そんなことない、よね? 別に……へへ」

女「お父さんがね、園芸が趣味なの。あ、で、でもでも園芸って行っても、向日葵くらいしか、ないんだけどね」

男「……そうか」

女「う、うん! その影響でね、私も、鉢植えで作るミニ向日葵を栽培してるんだけど、小さくて可愛いの。一生懸命育ててると、ね、植物にも愛着がわくんだよ」

女「向日葵、もし興味があったら言ってね。小さいから学校にも持ってこれると思うんだ。もも、もちろん、うちに見に来てくれてもいいし!」

男「……」

女「いまは、ひ、一人暮らしだけど、あの、でも、あなたなら歓迎するし……ね……へへ……」

女「……あ……そ、それじゃ、私今日日直だから、そろそろ自分のクラスに戻る、ね」

男「……ああ」

代行頼んでまでやんのかよwwwwwさすがSS作者()

***

女「あの……、今日も、お昼ご飯、ここで一緒に食べてもいい?」

男「……」

女「私はここで、た、食べたいなぁ、なんて……へへ……」

男「……」

女「別に邪魔したいわけじゃなくて、ただ、もう少し仲良くなれたらって、思ったんだけど……」

女「私は、こ、後輩として、先輩とは仲良くしたいし……あ、もももちろん先輩に限るってわけじゃないんだけど!」

女「あの……駄目かな……」

男「……」

男「……好きにすればいいんじゃないか」

女「あ、……う、うん! す、好きにするね! 」

男「……」

なんなんだこの向日葵押しの女は
ヒマワリ教にでも入信してんのか?

女「あの、今日もね、お弁当、私が自分で作ったの」

男「……」

女「あ、その、お口に合うかどうか分からないけど、もし好きなおかずがあったら遠慮せずに食べてくれていいから」

男「……いや、べつにいい」

女「あ……、うん、そうだよね……ごめんね……」

男「……」

男「……煮浸し好きだろ。食べるか?」

女「……」

男「……ん?」

男「……どうした、欲しいのか?」

女「えっ、あ、違うの! いや、ううん……違わなくて……」

女「ほ、欲しい……かな」

男「じゃあ、やるよ」

女「あ、う、うん……ありがとう……へへ」

そっとじ

続けて

***

先生「さて、先週はどこまで話してくれたんだっけ?」

男「……確か、両親が死んだところまで、だったと思います」

先生「ああ、そうだった。君の気分が優れないようだったから、カウンセリングを早めに中止したんだったね」

男「すみませんでした」

先生「いや、別に謝ることじゃないさ。気長にゆっくりやっていこう」

男「はい」

先生「今日は、君が養父母のお宅に引き取られたところから、話してくれるかい?」

男「それは、話さないとだめですか?」

先生「ふむ……質問を質問で返すようで悪いが、なにか、話しづらいことでもあるのかな?」

男「いえ……そういうわけでは……」

先生「どうしても言いたくないことを無理に話す必要はないよ。ただ、ここで聞いた話は決して口外しないと僕は約束する」

先生「そして、自分の抱える問題を解決したいなら、自分の内にある見つめたくない部分にこそ、目を向けないといけない」

先生「たとえそれが、辛いことであっても……いや、辛いことであるからこそ尚更に、ね?」

男「……はい」

男「父と母が死んだあと、俺は叔父さんの家に引き取られました」

男「叔父さん夫妻は……こう言ってはなんですが、その……最低の人種でした」

男「今になって思えば、俺を引き取ったのも俺の両親の遺産目当てだったんでしょう」

先生「ふむ。最低……というと?」

男「叔父さんたちは実の娘……つまり俺の元従妹であり、今は妹であるあいつを、その、虐待していたんです」

男「俺も、叔父さんの家で生活し始めた初日から虐められました」

男「食事は三~四日に一食だけ。当時は学校の給食が生命線でした。余ったパンとかをこっそり持って帰って、妹と分け合ってましたね」

先生「……」

男「風呂も三日に一回程度。冬はまだマシなんですが夏は辛かったです」

男「濡れタオルで身体を拭こうにも、家でそれをしてるのが見つかるとなぜか癇に障るらしくて暴行を受けるので……」

男「俺も妹も、しかたなく学校のトイレで身体を拭いてました」

先生「暴行……。暴力を受けることは頻繁に?」

男「殴られたり蹴られたりなんて日常茶飯事でしたよ」

男「俺は殴られるのが一番怖かったですけど、妹は殴られることよりも罵倒されることを恐れていたように見えました」

男「特に、母親から『あんたはうちの子じゃない』とか『あんたなんて産まなければよかった』とか」

先生「それは、ひどいね……」

男「いや、あんなテンプレみたいな台詞を言う親って実際いるもんなんですね」

男「……でも、妹はそんな言葉の一つ一つに深く傷ついてました」

男「殴られても取り乱さずにじっと耐える、強い奴なんですが……」

男「罵倒されると、嗚咽をこらえながらぽろぽろって……涙を流すんです」

先生「……」

先生「それは……、とても辛かっただろうね」

先生「誰か、他の大人に助けを求めたりはしなかったのかい?」

男「当時はまだほんのガキでしたし、叔父さんたちは、俺たち二人にとって絶対的な存在で……」

男「とにかくもう、すごく怖くて、誰かに助けを求めるって発想さえ持てなかったんです」

先生「なるほど……さぞ苦しい日々だったろう」

男「そんな顔をしないでください。……別に、先生のせいってわけじゃないでしょう?」

先生「…………、そう、か」

男「……」

男「……まぁ、俺の方はまだよかったんですよ」

男「妹の方が……ずっと辛い。あいつは実の両親にひどく虐められて、あんなになって……」

先生「……」

先生「……失語症、だね?」

男「ええ……ここに来て、ようやく両親のもとを離れて安心だと思った矢先に、急に声が出なくなりました」

男「あいつがいま十六歳ですから……九つのときから七年間、今に至るまで一言も声を出せないままです」

先生「可能であれば彼女のカウンセリングも請け負いたいところなんだが……」

先生「失語症となると言語聴覚士などの専門の方々にお任せするのが最善なんだ」

男「ええ……それは園長先生からも伺っています」

先生「ただね、このカウンセリングを通して、君がもし今よりも前向きに生活を送れるようになれば、それはきっと妹さんのためにもなると思うんだ」

男「あいつの、ため……ですか?」

先生「うん。物理的にも心理的にも、妹さんに一番近い位置にいるのは間違いなく君だ」

先生「君の気持ちがより良い方向に向けば、それはきっと妹さんにとっても良い影響をもたらすと思う」

先生「だから、このカウンセリングは、君自身のためということはもちろんだが、妹さんのためにもなると、僕は信じている」

先生「一緒に、真摯に取り組んでいこう」

男「……はい」

先生「うん。それじゃあ、次回はいつも通り、翌週の────」

いもぺろしえん

IDどうなってんの?

つまんない
死んで

***

────── 獣が、身の内に棲んでいる

その想像は生理的機構に影響をもたらし、物理的な圧迫感を伴いつつ体内を駆け巡って、出口を求めて弾けそうになる

内圧は苦痛となり、苦痛は呻き声となって口から漏れ出ていく

心と身体の間に因果関係が存在するか否かという問題は解決しがたい哲学的討究の議題だというが、

そんな思索を経由するまでもなく、いま自分の心は、自分の身体を間違いなく苛んでいる

自分が求めているものはたったの一つ…………そう、安寧だ

かつての安寧を自らに取り戻すという方途、しかしそのためには為さねばならないことがある

それは、疾病の回復のために病巣の除去が不可欠であるように、自身に苦悩をもたらす存在を除去するということに他ならない

「だが、しかし」…………一抹の躊躇いが認識に撒かれる

瞳を閉じ、霞む意識を総動員してようやくもたらされる理性の檻

自分はまだきっと大丈夫……そう確信して、ようやく想像の束縛から解放され、落ち着きを取り戻した

…………手は、未だ震えていた

***

男「帰ってたのか」

妹 ── おかえりなさい!

妹 ── 今日はどうだったの?

男「いつも通り。お茶飲んで、話をして、来週の約束しただけ」

妹 ── 大丈夫?

男「別に心配いらないよ。そっちの方はどうだったんだ?」

妹 ── こっちもいつも通りだよ

男「そっか。まぁ自分のペースで取り組めばいいさ。……と言いつつ、今年で俺たちがここに来てもう七年になるんだよな」

妹 ── そうだね。……ごめん

男「別に謝ることはないって。七年で喋れるようにならないなら、さらにもう七年頑張ってみろよ。気長に頑張れ、気長に」

妹(こくり)

妹 ── ねえ、お兄ちゃん

男「なんだ?」

妹 ── どうして今になって、カウンセリング受ける気になったの? あんなに受けるの嫌がってたじゃない

男「まぁ……あの当時はほら。ボロを出すわけにはいかなかったろ?」

妹 ── でもそれは今だってそうじゃない

男「そうだけど……あれだよ。まだまだ思春期だし、色々と悩みも多いわけで」

妹 ── ……もう、人の気もしらないで冗談ばっかり

妹 ── 私がどれだけ真剣にお兄ちゃんの心配してるかなんて、ちっとも分かってないんだ。馬鹿!

男 ── 馬鹿って言うやつが馬鹿なんです~

妹 ── 手話で悪口言い返すのやめてっていつも言ってるでしょ!

男「はは。おかげで手話のスラングにはずいぶん精通したよ」

妹 ── もう……ホント馬鹿……

男「今日はなんか疲れたよ……もう寝るわ」

妹 ── ご飯は?

男「さっき作り置きのやつ、食ってきた」

妹 ── そっか。じゃあ私も寝る

男「いいのか? まだけっこう早い時間帯だけど」

妹 ── お兄ちゃんと一緒じゃないと眠れないし、いいの

男「そっか。じゃあ来いよ」

妹(こくり)

男「……」

男「……なぁ、シングルベッドに二人ってのは、そろそろきつくないか?」

妹 ── ごめん。迷惑だった、かな?

男「ああ、いや。そうじゃないなんだ」

男「ただほら、お互い身体も大きくなったし、ダブルベッドでも買った方がいいんじゃないか」

男「園長先生に頼むのはさすがに気が引けるから、バイトでもしようかと思うんだけど」

妹(ぷるぷる)

男「いらないのか? どうして」

妹 ── だって、狭い方がくっつけるから

男「恥ずかしいこと言うなよ」

妹 ── くっついて見張っていないと……危険だから

男「……え?」

妹 ── おやすみ、お兄ちゃん

男「……おい」

妹 ── ……

男「……ったく。おやすみ……」

ほしゅ

***

女「あの、ね、煮浸しが好きだって言ってたでしょ? 今日はね、茄子の煮浸しを作ってみたの。良かったら、その、ど、どうぞ……」

男「……」

男「……煮浸しが好きなのはお前の方なんじゃないのか?」

女「え、え? 私?」

男「先週俺にねだらなかったか?」

女「え、そんな、私は……」

男「違ったのか?」

女「あ、う、ううん、違わないよ。小松菜の煮浸しとか、ほうれん草の煮浸しとか、美味しい、よね……へへ」

男「そうか……」

男「一個もらうぞ」

女「あ、うん! 一個と言わず! 二つでも三つでも! ど、どうぞ! どうぞ!」

男「……うまいな」

女「あ、……へへ。……へへへっ」

女「あ、あの、甘めの味付けが好き、なんだよね? 色々レシピ見て、がが頑張ってみた、の……へへ」

男「……」

女「……へへ……へ……」

男「どうして知ってる」

女「……へ?」

男「どうして、甘めの味付けが好きだって知ってるんだ」

女「あ、そ、れは……あの……」

男「……」

女「あの、……し、知り合いの人に聞いたの。こ、好みの味付けとか、……その」

男「……何のために」

女「あの、な、な、なな仲良く! 仲良く、なりたく、て……」

男「……」

女「あの……」

男「……気持ちが悪いやつだな」

女「あ……」

男「知らないところで、こそこそと嗅ぎ回るようなことをするな」

女「あ……あ……、ご、ごめ……ごめ、んなさい……」

男「……」

女「……」

男「ちなみに言っておくが、俺は特に甘めの味付けの方が好きってわけじゃない」

女「え、そ、そうなの……? じ、じゃあ、味付け変えた方がいい……のかな」

男「……」

男「いや、このままでいい。そうしたいんだろ?」

女「うん……ごめん……」

男「謝るな、最初から変える気なんてないくせに……」

女「……」

男「……ん?」

猫「なーーう”」

男「中庭に迷い込んできたのか?」

猫「な"~~~う"」

女「あっ、きゃっ。あ……、へへ……かわいい……」

男「人間に馴れ馴れしく近づくこの野性味の欠如っぷりから想像するに、……飼い猫かな」

女「ほ~ら、ごろごろ~」

猫「に”ゃ~~~う”ぅ”」

女「へへへ……えへへへっ……」

男「……」

女「お魚食べるかなぁ。はい、どうぞ」

猫「はぐッ はぐはぐッ」

女「わっ、ちょ、ちょっと落ち着いて? ね? ゆっくり食べて?」

猫「はぐはぐッ はぐはぐッ」

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つ④

男基地外過ぎ死ね

男「……」

女「へへ……か、かわいいなぁ……へへ……」

男「おい」

女「え!? はい、何でしょうか!」

男「お前じゃない。猫に言ったんだ。おい、卵焼き食べるか」

猫「……な"~う" はぐはぐッ」

男「何でも食うな、こいつ。……はは……よしよし」

猫「な"~う"ぅ"~」

女「……えへへ……や、優しいんだね」

男「あ"?」

女「ご、ごめんなさい! なんでもないです!」

猫「な"~ご~」

***

先生「やあ、こんにちは。何か変わりはないかい?」

男「ええ、特には」

先生「結構。それじゃ早速だが、先週の続きから話してもらおうかな」

男「……養父母の虐待の件まで、お話ししたんでしたね」

男「大まかなあらましは、先生も当然ご存知だと思いますが……」

先生「うん。確かに聞いている。事故、があったんだよね?」

男「はい。家族四人で乗ってた車が、高速道路で……。叔父の余所見運転が原因だったようです」

男「シートベルトをつけていた俺と妹だけは助かりましたが、叔父さん夫妻は亡くなりました」

男「即死、……だったようです」

先生「……そして、その事故のあと、この児童養護施設に引き取られたんだね」

男「はい。もう七年も前のことになります」

先生「その、これはあくまで一応の、確認のために聞くだけなんだけれども」

先生「……この施設でいじめにあったりとかは?」

男「あぁ、いえ、それは本当にありませんでした。あの家に比べれば、ここは天国みたいに居心地がよくて……」

男「あのままあの家にいたら、俺たちは殺されていたか、気でも狂っていたかもしれません」

男「園長先生を初め、施設職員の方々は皆いい人ばかりで、本当に感謝しているんです」

先生「それじゃあ、施設の日々は安穏としたものだった、と」

男「ええ。何事もなく、というのはさすがに大袈裟かもしれませんが」

男「でも、落ち着いて過ごせたのは確かです」

先生「そうか……なるほど」

先生「おかげさまで、君の過去がずいぶんと見えてきた気がするよ」

男「先生が予め知っていたことに比べて、そんなに真新しい情報があったとは思えませんが……」

先生「いやいや、そんなことはないさ」

先生「僕はね、君が、これまでの君自身の人生をどう受け止めているのか、ということを知りたかったんだ」

先生「だから、決して無駄なんかじゃない」

男「はぁ……」

先生「さて……ではそろそろ、本題に入ろうか」

先生「君は七年前、十一歳の時にこの施設に引き取られてきたときに、施設職員の方々からカウンセリングを受けることを強く推奨されたね」

男「ええ」

先生「虐待を受けて傷つかない子どもなんていない。だから、職員の方々の対応は至極最もなものだったと思うよ」

先生「カウンセリングを受けさせるべきだと誰だって考えるはずだ」

先生「しかし、君はそれを頑に拒んだ。そして、七年たった今になって、改めてカウンセリングを受けることを希望した」

先生「どうしてそんなふうに心変わりしたのか、聞かせてもらえるかい?」

男「……」

男「それは……」

男「……それは、妹のことが、きっかけなんです」

先生「妹……。その妹というのは、つまり彼女のことだよね?」

男「ええ、そうです。その妹のことです。そのことで相談したいことができて……」

先生「ふむ……そうか。何にせよ、自発的にカウンセリングを受けようという気になったのは良い傾向だ」

先生「それで、その具体的な相談内容というのは?」

男「以前にも簡単にお話ししたと思いますが、その、妹は……俺に依存する傾向があるようなんです」

先生「依存、か……続けて」

男「妹は、なにか……俺との深い繋がりを、いつまでも保っていたいようなんです」

男「でも、俺はそんな妹の気持ちを受け止めるのが……怖いんです」

先生「怖い?」

男「……はい」

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さる対策しとくか

男「俺は、その、……これも虐待された影響ってことなのか何なのかは分かりませんが、自分に自信が持てなくて」

男「最近では、彼女にどう接すべきなのか、あるいはどう接したいのか、自分でもよく分からないんです」

男「俺みたいなやつが、妹の純粋な気持ちを、受け止める資格があるんだろうかって」

男「俺があいつに触れたら……穢してしまうんじゃないか……って、怖くて」

先生「……君は、彼女に、優しくする自信がないのかな?」

男「いえ、それは……。いえ、分かりません」

先生「ふむ……」

男「あいつはきっと俺に、何か純粋な繋がり、というか……絆、のようなものを求めているんじゃないか、と思うんです」

男「毎日毎日そんな屈託のない視線を向けられて、俺はどうすべきか分からなくて、耐えられなくなってきて……」

先生「なるほど。それで自らカウンセリングを受ける気になった、と」

どこの国から書いてんだよ?wwww

いもかわぺろりしえん

先生「彼女の気持ちを受け止める資格がない、……か」

先生「僕には、君が彼女のお兄さんであること、それ自体が、君たちの間で絆を結ぶのに十分な資格ではないかと思うのだけど……」

先生「それでは駄目なのかな」

男「……わかりません」

男「確かに家族であるってことは、お互いに心の大切な部分を交わし合うのに、十分な資格のようにも思えます」

男「でも……あいつは、本当の家族である、実の両親に虐待を受けたんですよ?」

先生「……そうか」

男「家族であることが重要だとしても……家族だからといって、必ずしも絆が結べるわけではないと思います」

先生「……そうだね。うん、わかった。次の時間までに、私も少し考えてくるとしよう」

先生「この問題についてはお互い宿題にする。それでいいかな?」

男「はい……」

***

────── 痒痛は表情に出さない

苦しみもまた、悦楽の前段階に過ぎないと見なせるから

果てにある結末に身悶えするほどの喜悦があるならば、この懊歎ですらきっと愉しめるはずだ

そこまでの思考に至って、ふと、自身の変容ぶりに気づく

自分はそれに耐えることを放棄し始めている────

理性は獣性を押しとどめようとしながら、他方で、全く異なる方向からある疑問を顕示する

果たして自分には、それを成し遂げる資格など無いのだろうか……と

問いの迂遠さに比べて、回答は一瞬だった

────いいやそんなことはない、自分こそが有資格者だ

理性の後押しは、自身を勇気づけ、その本性を速やかに変貌させていった

だが、……当人自身気づいてはいなかった

自らが理性だと判じていたものは、その実、化けの皮をかぶった欲動に過ぎなかったということを

***

妹 ── おかえりなさい、お兄ちゃん!

男「ああ。ただいま」

妹(ぎゅうっ)

男「おい、あんまりくっつくなって。ただでさえ暑いんだから」

妹(にこにこ)

男「しょうがないやつだな、お前は」

妹 ── 今日はどうだったの?

男「別にいつも通り。そっちは?」

妹 ── こっちもいつも通り。いつも通り無駄口をきかずに物静かに過ごしたよ

男「自虐ネタはやめろっての。だいたい手話で話しまくってるんだから、お前は物静かではあるけど『目にうるさい』奴だよ」

妹 ── うまいこと言ったねぇお兄ちゃん!

男「お前に褒められてもなぁ」

お兄ちゃん…

男「飯はもう食ったのか?」

妹 ── 肉じゃがだった! んまかったよ?

男「そっか。俺も食ってくるわ」

妹 ── 待ってるからお風呂いっしょに入ろ!

男「待たなくていいから、一人で入れよ」

妹 ── そこはせめて、先にシャワー浴びてこいよ、とかじゃないの?

男「いや、女子組の方が風呂の時間帯先だから。いつもお前の方が先にシャワー浴びてんじゃん」

妹 ── もう、ノリ悪いなぁ

男「いちいちお前のテンションに付き合ってられないっての。じゃあな」

妹 ── あ、そうだ。ねえお兄ちゃん

男「ん、なんだ?」

妹 ── ……こんな夜遅くまで、どこ行ってたの?

妹 ── ……カウンセリングの時間、もうずっと前に終わってたはずだよね?

男「……」

妹 ── 最近、夜遅くなること多いみたいだけど、門限過ぎるなら予め言ってくれって、園長先生が言ってた

妹 ── あと、食事はできるだけ皆で食べましょうって

男「……そっか。園長先生には謝っておくよ。これからは連絡するって」

妹 ── これからは夜遅くならないようにする、じゃないんだ?

男「……」

男「……別におかしなことしてるわけじゃない」

妹 ── 本当に?

男「疑うなよ。……そういえばお前、この間も何か変なこと言ってたな。『見張る』とか『危険だ』とか、わけのわからない……」

妹 ── 見張ってるよ。お兄ちゃん、ほっとけないもん

男「なに、言って……」

妹 ── ほらほら! 早くご飯食べてきたら?

男「……あ、ああ。行ってくる」

ヤンデレ好きじゃないんだけどな…
私怨

***

女「き、今日はね、ちょっと多めに、色々つくってきたの」

男「……」

女「その、こそこそされるのは嫌だって言ってたから、あの、直接食べてもらって、好みとか色々、あの、知れたらなぁって思って……」

男「……」

女「の、残してもいいから! あ、というか、多すぎてきっと残ると思うし、あ、でもそれは別にいいの……」

男「……」

男「……これは?」

女「そ、それは隠元豆の天ぷら!」

男「ふぅん。一個もらうぞ」

女「ど、どうぞ! 一個とは言わず、三つでも四つでも! お弁当箱まるごとでも!」

男「……それだとお前の昼食がなくなるだろうが」

女「あ、う、うんそうだね……へへ……」

男「……うまい」

女「そ、そう? ……できれば揚げたてを食べて欲しかったんだけど、お、お弁当だし、しょうがないよね」

男「……これももらっていいか?」

女「う、うん。それはね、ゴーヤのお漬物だよ」

男「うまいな」

女「あ……ありがとう……へへ……」

男「なぜお前が礼を言うんだ」

女「え、な、なんでだろう……ご、ごめんなさい……」

男「どうして謝る」

女「え、え? あ、え、いや……ごめんなさい……」

男「……」

男「……料理、得意なんだな」

女「え、そ、そんなことないよ……へへ……へへへへっ……」

男「……」

男「お前も食えよ、ほら」

女「……」

男「……」

男「……お気に召さないか。悪い」

女「え、いや、気にしないで! うん、気にしないでいいから! ……へへ」

男「……そういえば、今日はポチが来ないな」

女「あ、はは……猫にポチって名前……未だに慣れない、な……」

男「このところ毎日来てたのに、どうかしたのか」

女「そう、だね……どこかで別の人にご飯もらってるのかなぁ」

男「……」

男「……ん?」

男「あれ……、なんか……」

女「う、うん……今の、気のせいかな」

男「ちょっと聞いてくる」

男「あの、すみません」

事務員「ん? なんだい?」

男「その、見間違いかもしれませんが……今、なんか、猫をその袋の中にいれてませんでした?」

事務員「ああ、そうなんだよ。猫の死体を片付けてくれって教員の方から連絡が入ってね」

男「……すみません、その猫、ちょっと見せて頂いても構いませんか?」

事務員「ああ、別に構わないけど……」

男「……」

男「……やっぱり」

事務員「知ってる猫かい?」

男「ええ、よく餌をやってました」

事務員「そうかぁ……この猫、学園に住み着いていたんだよ」

男「よく見かけるとは思っていましたが、学園の敷地内に住んでたんですね……」

事務員「うん。この学園は、ほら、大らかな校風だろう?」

事務員「生徒たちが餌をやってるのを、先生方も見てみないふりをして黙認していたようなんだ」

い、妹か…?(´・ω・`)

男「昨日の昼までは元気だったようですけど、どうして急に死んでしまったんでしょうか」

事務員「うーん……」

男「何かご存知なんですか?」

事務員「余り周りに言いふらさないでくれよ? その、猫の遺体のそばに、食べかけのお団子のようなものが転がっていたんだ」

男「それって……」

事務員「うん。毒団子、かもしれないなぁ。ホウ酸とかを練り込んだものを……いや、もちろん真相は分らないんだけども」

男「誰が、そんな……」

事務員「君みたいに動物好きな人間ばかりじゃないってことさ。気まぐれに可愛がる人もいれば、気まぐれに傷つける人もいる、ってことじゃないかな」

男「……」

男「この猫、どうするんです?」

事務員「動物の死体は、基本的に飼い主や土地の所有者に処理責任があるんだ。私も仕事だしね、焼却炉に入れて処分するところだよ」

事務員「もちろん役所に連絡するという手もあるんだが……その場合は有料になるし、結局は、清掃業者によってゴミとして処理されることになるから同じことだね」

男「ゴミ……」

女「そんなの絶対に駄目です!」

男「お前、いつからそこに……」

女「ゴミとして処分するなんて駄目です! そ、そんなの、そんなのポチがあまりに可哀想……ひッぐ……」

男「おい、泣くなって」

女「ひッく……だ、だって、……ひぐッ……だってぇ……」

事務員「ん……」

男「あの、その猫、俺たちに任せてもらえませんか?」

事務員「任せるって……どうするんだい?」

男「一週間程度ですけど、一応餌をやってた者の責任として墓くらい作ってやりたいんです」

事務員「そうか、……分かった。それじゃあ後は任せてもいいね?」

男「ええ。ありがとうございます」

事務員「いや、こちらこそ礼を言うよ。ありがとう」

女「ひぐッ……ひッく……」

***

男「ふぅ。これでいいかな」

女「うん……」

男「学園の敷地を勝手に掘って、勝手に墓なんて作って……怒られないよな?」

女「うん……」

男「まぁでもこれで、あいつも心置きなく成仏できるだろ」

女「うん……」

男「おい、いい加減その辛気臭い顔をなんとかしろ」

女「ごめんなさい……」

男「……」

女「……」

男「別れは、……辛いか?」

女「……え」

しえん

男「別れは辛いか?」

女「……」

女「うん。辛い……辛かった」

男「そうか」

女「そしてきっと、これからも……」

男「……そうか」

女「うん」

男「……」

女「……」

男「俺は」

女「?」

男「俺は、……ハンバーグが好きだ」

女「え……」

男「だから、ハンバーグ。俺の好物」

女「……」

男「子供っぽいって笑いたきゃ、笑えよ」

女「あ……」

女「う、ううん! ハンバーグ、好きなんだ」

男「ああ」

女「そっかぁ……へへ……ぐすッ……そうかぁ……」

男「……」

女「ありがとう……へへ……」

男「どうしてお前が礼を言うんだ」

女「うん……そうだね。でも、ありがとう」

女「ありがとね……」

***

────── 酷薄という概念もまた、ひとの感傷による産物に過ぎない

例えば、苦しみ抜いて死んだあの猫……

学園のとある男子生徒が、人目を避けるように猫に団子状のものを与えていた場面を見たのは偶然だった

彼がそのような行動をするに至った理由は分からないが……個人的鬱憤を発散するために気紛れに殺した、という所だろうか

気紛れ、遊び。生き物を殺す理由なんてのはその程度で十分なのだ

肉食獣は、弱った獲物を子供に与えて『遊ばせ』るし、子供はその遊戯を通して狩りを学ぶ

狩りを必要としなくなった我々には生き物で『遊ぶ』理由がない、と?

違う────獣の子は、遊びに際して、『これは狩りの練習だ』などという目的をもって臨んだりはしない

遊びは遊びそのものが目的なのだから

いきものあそびに理由などいらない、それは全く残酷ですらないのだ

自分は、今回の件に学ばねばならない

酷薄さもまた、ひとの感傷の産物に過ぎないと────

>>60
君のおかげで頑張れるよありがとう ;-)
これから先かなり長いがどうか眠たくなるまで付き合ってくれ

うるさいとっとと書け

黙って書けないのかハゲ
文才もないし早く落とせ

***

先生「先ほど施設の前で、偶然君の妹に……、ふふ、彼女に会ったよ」

男「え……施設の外に? あいつ一体何を……」

先生「話をしたのは本当に久しぶりだったのだけれど、……いや、とても朗らかな、いい女の子に育ったのだね彼女は」

男「朗らか……ですか?」

先生「おや、認識の相違があるのかな?」

先生「ふふ……まぁいい。それでは、早速だけど先週の話の続きを再開しようか」

男「はい、……俺があいつと絆を結ぶ資格がない、という話でした」

先生「うん、そうだ。でもそのためにはまず、そもそも『絆』というものに対する共通見解に至る必要があると思わないかい?」

男「そうですね」

先生「月並みな意見で大変恐縮だが、僕はこう考えている」

先生「『絆』というのは、人と人とがお互いを大切に想い合うときに、そこに確かにあると感じられる心理的な繋がり、のようなもののことを言うんじゃないか、とね」

男「……」

先生「はは……まぁ、いささか抽象的に過ぎる説明になってしまうが、でもそれは仕方がない」

先生「絆というものを手にとって出してみせる、と言うわけにもいかないだろう?」

男「……はい」

先生「ただ、曖昧な定義ながらも、ここには一つ重要なポイントが隠れていると思うんだ」

先生「それはね、『お互いを想い合う』という点だよ」

先生「一方通行の関係では、絆は結べない。……君の叔父さん夫妻とその娘であるあの子は、きっと、一方通行の関係だったんだろうね」

男「……はい。そう思います」

先生「君の妹……彼女は、君との間に何か純粋な繋がりのようなものを欲している」

先生「しかし君は、そんな繋がりを結ぶだけの資格が自分にはないと、そう考えている」

先生「これもまた、一方通行の関係、だね」

男「……」

先生「君は、彼女のことを大切に想っていないのかい?」

男「いえ、そんなことはない……と思います」

先生「そうだろうね。君が彼女を大切に想う気持ちは、よく伝わってくる」

先生「しかし同時に、君には、彼女を大切にすべきではないという想いが……」

先生「……いや、本当のところは、大切にしたくてもできない、何らかの『事情』がある」

先生「違うかな?」

男「……」

先生「僕の見立て違いであれば謝ろう。……でも君は、きっと僕に何か大切なことを隠している」

先生「何を隠しているのか、話してはくれないかな?」

男「……」

先生「……」

しえん
でももう寝るから朝まで残っててくれ

先生「……」

男「……」

先生「……『人と人とが大切に想い合う』。この『大切に』という部分には様々な感情が含まれ得ると思うんだ」

先生「例えばそれは、家族の情愛であったり、恋人同士の間の愛慕であったり、友人同士の間の友情であったり」

先生「……カウンセラーとクライアントの間の信頼関係であったり、ね?」

男「それは……」

先生「何度も言っているが、ここでの会話は決して口外しないよ?」

男「……」

先生「僕は、心から君の助けになりたいと思っているんだ。その気持ちに嘘はない」

先生「そして、君が僕を信頼してくれるなら、それはきっと、僕達の間の『絆』ってことになるんじゃないかな」

男「……でも」

先生「?」

男「でもそれは、カウンセラーとしてのテクニックでしょう?」

先生「……え?」

おい続き
早く

男「『カウンセラーはクライアントに、ノンディレクティブかつサポーティブにかかわる』」

男「『赤の他人でありつつも、心の底からの深い共感を持って』……それが原則なんでしょう」

先生「……」

先生「ふふ、まいったな。カウンセラーの仕事について調べたのかい?」

男「少しだけ、ですが」

先生「……確かに君の言う通りだ」

先生「カウンセラーである僕は、君に『ああしろ、こうしろ』と強い指示を出したりはしない」

先生「あくまでも、君の問題を解決するのは君自身だ。私ができるのは、君の問題整理や、問題解決の手助けでしかない」

先生「僕が君の手助けをするに当たって、君に心からの共感を持たねばならない」

先生「しかし同時に、第三者としての冷静な視点も忘れてはならない。……うん、君が調べたとおりで間違いないね」

男「……」

先生「……相手の裏を探らないと、人を信頼できないんだね、君は」

男「……ッ」

先生「……でもね。君は重要なことを二つ、忘れている」

男「……」

先生「第一に、僕は仕事で……つまり、お金をもらって、君のカウンセリングを請け負っているわけじゃない、ということ」

先生「君も知っての通り、僕もこの養護施設の出身だ。そしてそれ故に、昔から、君のようにどこか心の隅に暗いものを抱えた子どもたちを見てきた」

先生「当時の僕は、彼らを助けてあげられる術なんてもっていなくて、歯噛みして見ているしかなかった」

先生「そんな苦い経験を経てね、この施設のOBの一人として、後輩たちの助けになりたいと心の底から思って、僕はここにいるんだ」

男「……」

先生「そしてもう一つの点。こちらの方がより重要なことだと思うんだけどね?」

先生「君は、自らカウンセリングを希望した、ということ」

男「それ……は……」

先生「……誰かの助けが、欲しかったんじゃないかい?」

先生「自分一人では抱えきれない心の悩みが、あったんじゃないのかな」

男「……」

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|ω・`)つ④

先生「話してくれないかい?」

先生「僕に何ができるとも限らない。でも、君の力になりたいと思っている。それは本当の気持ちなんだ」

男「……」

男「……本当に、……誰にも?」

先生「約束する」

男「……」

先生「……」

男「……………………俺、は……」

先生「うん」

男「俺は……、……ッッ」

男「……俺…………、お、俺は、」

先生「……」



男「俺は……ッ、────────人殺し、なんです」

いいだろう続けなさい

はよ

***

妹 ── おかえりなさい!

男「ただいま」

妹 ── 今日はね、私がお夕飯作ったんだよ! いま仕上げちゃうね~

男「お前が? どういう風の吹き回しだよ」

妹 ── お兄ちゃん、最近帰ってくるの遅いでしょ? 一緒に食事できなくて、園長先生いつも悲しそうな顔してるんだよ

男「……それは、すまん」

妹 ── だからね、私が料理を練習してお兄ちゃんに食べさせてあげたいってことにしたの

妹 ── そうすれば、みんなと別々に食事をするのにも不自然じゃないし、園長先生の気も少しは休まるかなって

男「そっか。……色々気を回してくれてありがとな」

妹 ── いいよいいよ! お兄ちゃんの尻拭いは妹の役目だよ!

男「そうか……」

男「で……この黒焦げの物体はなんだ?」

妹 ── ハンバーグだよ!

男「ハンバーグ……。え? ハンバーグ、これが?」

妹 ── なに? なんか文句あるの? 昔からハンバーグ好きだったじゃない

男「いや、確かに好きだけど……これ、食わなきゃだめか?」

妹 ── ひっど~い! 妹が愛情込めて作った手料理を食べられないって言うの!?

男「あぁ、いや……そういうわけじゃ」

妹 ── きちんと完食しないと、今日は一緒に寝てあげないんだから!

男「いや、暑苦しいし、俺はむしろ一人で寝たいんだけど……」

妹 ── いいから食べてよ! 食べてったら食べて!

男「わ、分かったから、そう急かすなって」

いもにゃんきゃわわしえん

男「……」

妹 ── どう? どう?

男「……まずい」

妹 ── えぇッ!? 妹がお兄ちゃんのために作った料理が美味しくないわけないじゃない!

男「お前食ってみろよ」

妹 ── 私は味見でおなかいっぱいだからいいの

男「……はぁ」

妹 ── ……は、…………に

男「え? いまの手話、速すぎてよく分かんなかったんだけど」

妹 ── なんでもない

男「……まぁ、まずいけどせっかく作ってくれたもんだし、全部食うよ」

妹 ── ありがとう、お兄ちゃん!

男「でも次からは、できれば園長先生に監督してもらえるとありがたいなぁ」

妹 ── 贅沢言わないの! 馬鹿!

妹 ── そういえばお兄ちゃん

男「なんだ?」

妹 ── 今日ね、何か変な人が施設の前をうろうろしてたって

男「……はぁ? 何だそりゃ」

妹 ── おチビちゃんたちの一人が見かけたんだって

妹 ── 後で私が様子を見にいった時には誰もいなかったから、よく分かんないけど

男「おい。不審者がいると分かって、のこのこ顔出す奴がいるか」

妹 ── だってぇ

男「次からは園長先生とか職員の誰かに伝えるか、誰もいなきゃ警察に連絡しろ。いいな?」

妹 ── うん。ごめんね

男「わかればいい」

男「不審者か……そういえば」

妹 ── なぁに?

男「いや、お前その見回りに行ったとき、俺のカウンセリングの先生と会ったり、話したりしたか?」

妹 ── 会ってないよ

男「……でも」

妹 ── 会ってない。誰にも

男「本当に?」

妹 ── しつこいなぁ。会ってないって言ってるでしょ。

男「……」

妹 ── ……

男「……分かった。とにかく物騒な感じもするし、気をつけろよ」

妹 ── うん

***

女「き、今日は豆腐ハンバーグだよ」

男「……」

女「お口に合うと、う、嬉しいなぁ……へへ……」

男「お前なぁ……」

女「?」

男「いくらハンバーグが好きだと言ったからって、一週間連続で毎日作ってくるなよ」

女「あ、ご、ごめんね……」

男「煮浸しに至っては三週間連続だし」

女「で……でもでも、昨日はきのこドミグラスソースのハンバーグとセロリの洋風煮浸しだったし、その前はいわしハンバーグとカブの葉の煮浸しだったし、その前は……」

男「あぁ、分かった分かった、もういい」

男「色々なバリエーションを作ってくるのはすごいが、さすがに毎日だと飽きるってことが言いたいだけだ」

女「う、うん……わかったよ。二日に一回くらいにするね!」

男「……せめて三日に一回にしてくれ」

男「……そういえば」

女「?」

男「俺たち三年の国語の授業を受け持ってた先生、事故で一ヶ月入院だとさ」

女「……」

男「普通に車運転してたら、いきなり後ろから追突されたらしくてさ……。二年の授業も持ってるって聞いたから、お前らの方にも影響するだろうなきっと」

女「……へぇ」

男「ん?…………あ。…………あぁ、悪い」

女「いいよ別に謝らなくて。貴方が知ってるのは当然のことなんだし」

女「有名な話でしょ。私の両親が自動車の追突事故で亡くなってるのって」

男「それは……いや」

女「お父さんもお母さんも名の売れた芸能人だったから。ニュースでも連日報道されたし。一昔前の話だけど、私の名前も表に出たわ」

男「……悪かった」

女「別に謝ることじゃないって。貴方の御両親だって亡くなってるでしょ。それと同じこと、じゃない?」

男「……」

男「本当に悪かった、もう、行くわ……」

女「えっ!? ち、ちょっと待って!」

男「……なんだ?」

女「ど、どうして? なにか、気分を害するようなこと、い、言ったかな!?」

男「自分で気づいていないのか? ……お前、尋常じゃない顔付きしてたぞ」

女「え、う、うそ……」

男「喋り方とかもまるで別人みたいに冷たかったし……」

女「あ……」

女「……」

男「……」

男「お前も……『お仲間』ってことかな」

男「俺や妹と同じで、どこか心に暗い部分をもってる」

女「……」

女「……だ、だとしても……ッ」

男「?」

女「ううん、だからこそ、仲良くできるんじゃないかな!?」

男「……」

女「わ、私たちが似てるって言うなら、似てるからこそ、仲良くなれるはずだよ!」

男「……そうとは限らないと思うけど」

女「仲良く、な、なれるよ! 仲良くなりたいの!」

男「……」

女「お、お願い!」

男「……でも」

女「お願いしますッ!!」

男「はぁ……なんでそんなに必死なんだよ」

女「え、え? ……ごめん、聞こえなかった」

男「いや、お前って普段から無駄に身振り手振りが多いよな、って言ったんだ」

女「そ、そうかな?」

男「それ、別に必要ないと思うんだが」

女「え……あ、でも……仲良く、なりたいから……」

男「また、オーバーアクションをとる……」

女「……ぁ、……へへ……」

男「……」

さるさん食らったてすと

つづき

女「で、でも……」

女「ほら! コ、コミュニケーションって言葉だけじゃないじゃない?」

女「仲良くなりたいからこそ、こうやって全身を使って会話をするわけで」

男「俺には慌てふためいて取り乱している無様な姿にしか見えない」

女「うぅ……」

男「まぁいいや。一応礼を言うよ」

女「え?」

男「仲良くなりたいんだろ? その気持ちにだけは感謝する」

男「ありがとうな」

女「あ……。う、うん。うん!」

女「……へへ……へへへへっ……」

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さるめ……(´・ω・`)

SSでさるくらってんのもなんか懐かしいな

***

男「先週はすみませんでした。急に気分が悪くなって」

先生「いや、気にする必要はないさ。時間はあるんだ。ゆっくりやっていこう」

男「はい」

先生「さて……君は殺人を犯したと言ったね。でも僕はまだ、具体的に誰を、というのは聞いていない」

男「……」

先生「……」

先生「……ふむ。それじゃあこれは僕の推測ということになるが」

先生「君が殺したというのは、叔父さん夫妻のことではないのかな? いや、間違っていたらすまないが」

男「……」

男「……はい。そうです」

先生「しかし,叔父さんの車が事故を起こしたのも、本当にあったことだよね?」

男「はい」

先生「それでは、君は、いったい何をしたのかな」

男「……」

男「……賭け、だったんです」

先生「賭け?」

男「叔父さんは体格も大きくて、ガキの俺にはどうやったってかないそうにない存在で……」

男「寝てるときに殺そうと思ったこともあったけど、もし失敗したら、きっとその場で逆に殺されてしまうかもって考えると、怖くて何もできなかった」

男「自分みたいなちっぽけなガキでは、どうしたって普通の方法じゃ殺せない……」

男「当時の俺は、そう、思ったんです」

先生「……」

男「だから、たまたま叔父さんの機嫌がよくて、家族四人でドライブに出かけたとき」

男「高速道路で、時速100km前後のスピードが出てたと思います」

男「助手席に座っていた俺は、横から運転席の側に手を伸ばして、ハンドルを、無理矢理……」

先生「なるほど……」

男「賭け、でした。当然、自分や妹が死ぬ可能性だって十分にあったッ、短絡を起こさずに耐えるべきだったって言う人もいるでしょうッ!でも俺はッッ!!!」

先生「落ち着いて」

先生「僕は君を責めたりなんてしないし、誰にも言わない。大丈夫だから、ね?」

男「……ッ」

男「お、俺は……限界だったんです」

男「傷ついている妹を見るのも、何より、自分自身があの環境に耐えられなかった……」

先生「当時の君の状況を想像すると、それは仕方のないことだったと思うよ」

先生「君はそれ程までに追いつめられていたんだ」

4

男「俺は……俺は、どうしたらいいんでしょうか、先生」

先生「そうだね……でもその前にまず、はっきりと言っておきたいことがある」

先生「この件に関して、僕は、社会正義を振りかざして君に自首を勧めたりするつもりはない」

先生「君のそれは情状酌量の余地が余りある事件だと思うし……ね」

男「……」

先生「もちろん、君自身が自首したいと思うのであれば、話は別だ」

先生「いずれにせよ、この件で君がどんな決断を下そうとも、僕は君の味方であると約束するよ」

男「先生……ッ。あ、ありがとう、ございます……」

先生「ちなみに、警察はただの事故だと断定したんだよね?」

男「……は、はい。後で冷静になって考えれば、もしかしたら何か不審な点もあったんじゃないか、と思うんですが」

男「ハンドルについた指紋とか、動機とか……俺も無我夢中だったし、細部までは思い出せません」

男「結局、何も証拠が残らなかったのか……今となっては分かりませんが、とにかく警察は事故だと断定しました」

男「……俺たちは賭けに勝った」

男「叔父さんたちが死んで、シートベルトを着用していた俺と妹だけが生き残ったんです」

男「……まぁ、そこそこに酷い怪我もしましたが、今はもう、何ともありません」

先生「……なるほど」

先生「だがこれで、君が、彼女と純粋な繋がりをもつ資格がない、と言っていた本当の理由が分かったよ」

先生「そして、七年前にカウンセリングを頑に拒否したという理由もね」

男「……はい。当時は自分の罪が暴かれるのが怖くて、とてもじゃないけど大人に相談なんて、できませんでした」

先生「そうだね。さらに言えば、君は一種の人間不信に陥っていた」

先生「その傾向は今でも見られるようだが」

男「……」

先生「でも今の君には、自分に対する断罪への恐怖よりも、優先すべき問題ができてしまった」

先生「それが、君の妹との……彼女との問題、だったということだね」

男「はい……そう、です」

男「……」

先生「君はきっとこう思っている」

先生「『殺人犯の自分が、果たして、彼女の兄を称するにふさわしい人間だろうか』……と」

男「……はい」

先生「でも、先日少し話をしてみた限りでは、あの子はそんなことを気にするようなタイプには、見えなかったが……」

先生「僕の見立て違いかな?」

男「いえ……確かにあいつは、俺なんかとは違いますから」

男「でも、俺の手は、人殺しの手です」

男「そんな手であいつに触れれば、あいつを……あいつの笑顔を穢してしまいそうで……やっぱり、怖いです……」

先生「……」

先生「我々には、我々の心を悩ませる様々な問題があるが……」

先生「突き詰めれば、そんな多種多様な問題に対する取り組み方は、たったの二種類しかない、とも言える」

男「……それ、は?」

先生「一つは、問題に対する正当な解決方法を探ること」

男「……」

先生「例えば、借金で苦しむ人は、どうすればその悩みから逃れられる?」

男「は、はあ……その、普通にお金を返せばいいのでは?」

先生「その通りだ。お金を返す。これが問題を解決する最善手であって、分かりやすい目標となる」

先生「でも、例えば借金の額が多すぎて、どうしたって返せないような場合にはどうすればいいかな」

男「それは……」

先生「借金という問題を解決したい。でもその問題はどう頑張ったって自分では解決できそうにない。それでは、どうするか」

先生「そこで、もう一つの方法の登場だ」

男「……」

先生「その方法というのはね……問題そのものを、消してしまうことなのさ」

支援

男「問題を、消す……」

先生「そう。真正面から問題を解決するのではなく、問題を解消してしまうこと。これが二番目の方法だ」

男「問題の解消、ですか」

先生「多額の借金の例で言えば、……そうだね、例えば自己破産をするとか」

先生「それから、貸主のもつ借用書を破棄させて借金そのものをなかったことにするとか……」

先生「あるいは、借金そのものでなくとも、借金の取り立てをなくしてしまう、という手もあるね」

先生「例えば、借金取りの追跡の及ばない場所に逃げる。あとはそうだな……」

先生「…………お金の貸主を、殺してしまう、とかね?」

男「貸主を……殺す?」

先生「はは、まぁ最後の例は冗談だよ」

先生「今までの会話の流れを考慮すると、少し不謹慎だったね。すまない」

男「……いえ」

またさるさん食らったてすと
次に書き込み途絶えたらさるさんだと思ってくらさい

先生「君の問題はね、正当な解決方法を探るのが難しいパターンだと思うんだ」

先生「君の悩みの核は、殺人を犯したことの罪悪感にある」

先生「可能であれば、タイムマシンで過去に戻って、過去の自分に殺人を犯させない……なんて解決方法を取りたいところだが」

先生「まぁ現実的に不可能だろう?」

男「ええ、そうですね……」

先生「だからね。ゆっくりじっくりと取り組む必要があると思うんだ」

先生「君の抱える問題である……その罪悪感を、緩和させるために」

先生「そして何よりも、彼女に対して君がもっている忌避感を……少しでも解消に向かわせるために、ね」

先生「安易な解決方法はないと思う」

先生「だからこそ、君の問題を解消するために、これからも時間をかけて一緒に頑張っていこう」

男「……はい」

しえん

***

────── 苦悩をもたらす原因それ自体を排除してしまうこと

それは、確かに短絡的な方法であると詰られるべきかもしれない

しかし、内憂外患を取り除き、自らの生活に静謐を取り戻すために不可欠であるならば……

思索に思索を幾重にも積み上げたが、結論はいつも変わらなかった

その形を漠たるままに置かれていた欲望は、繰り返される合理化の中で、いつしか明確な目標として収束していく

形が決まれば、あとは中身が整えばよい

動機も、目的も、既に十分過ぎるほどに心のうちでは整序されており、必要なものは残すところたったの一つ…………実行する覚悟だけだった

自分はきっと、全く狂ってはいない

少なくとも自分は、その行為には何らかの社会的罰を受ける可能性があることを危惧する程度の理性がある

あるいは、その危険を踏まえた上でなお、自身の身の危険と結果的に手に入れられるものの大きさを天稟にかける程度の理性が

あと必要なのは覚悟だけ、覚悟だけだ、そう、覚悟…………覚悟が──────

異常性の萌芽は思考と現実の乖離によって加速度的に生長するということを、当人が自覚することは終ぞ無かった

支援

***

園長「あら、今日は早かったのね?」

男「園長先生……すみません、この頃帰るのが遅くなってしまって」

園長「いいのよ。男の子だもの……色々事情があるんでしょう? でも危険なことはしないでね」

男「ええ、それはもちろん。施設には迷惑をかけませんから」

園長「こら。迷惑なんていくらでもかけてくれていいのよ。ただ、貴方のことが心配なだけ。ね?」

男「はい……ありがとう、ございます」

園長「私だけじゃないわ。妹ちゃんも色々と気を揉んでるみたいよ」

男「いや……まぁ、その分あいつには色々とフォローも入れてますから」

園長「あ、そのことで……その、少し聞きにくいことなんだけど、あなた達今でもたまに一緒にお風呂に入ってるんでしょう?」

男「ええ」

園長「一緒に寝るのは、その……毎日なのよね?」

男「なにか間違いでも犯すんじゃないか、と?」

とりあえず今のうちに確認したい



くぅ~w疲やりたいだけじゃないよな?

園長「ごめんなさいね……。こんな心配をするなんて、保護者失格かなと思うのだけど……」

男「いえ、心配するのは当然だと思います。あいつは実の妹じゃありませんし、血の繋がりがあるとはいえ……まぁ、従妹ですしね」

園長「ええ……そうね……」

男「でも、その点だけは大丈夫です。俺はあいつを女として見たことは一度もありませんし、これからも絶対にないですから」

園長「そ、そう……?」

男「あいつにも聞いたんでしょう。何て言ってました?」

園長「……その、『お兄ちゃんのことは世界で一番大切だけど、男性として見るなんてあり得ないです』って」

男「はは……あいつらしいですね。でもそれが俺たちの本音ですよ」

男「あいつをどうにかするとか……うわ、やめましょう、想像するだけで鳥肌が立ってきた」

園長「うふふ……そう。でもそれなら安心ね。ごめんなさい変なこと言って」

男「いえ、気にしないでください」

園長「そろそろ食事にするから。今日は貴方の好きなハンバーグよ?」

男「げ……また、ハンバーグですか」

園長「?」

ペースアップ頼むわ

***

妹 ── お兄ちゃん好きッ!

男「お前なぁ……」

妹 ── ちゅきちゅきだいちゅき!

男「あのさぁ、さっき園長先生に釘刺されたばっかりなんだけど……お前、ぶっちゃけ俺に欲情したりしてないよな?」

妹 ── はぁ? なにキモイこと言ってるのお兄ちゃん。キモすぎ

男「いや、それならいいんだ。お前に欲情されても俺だって気持ち悪いし」

妹 ── そういえば園長先生に聞かれたなぁ。お兄ちゃんを男性として見てるのかって

男「俺も聞かれたよ。まったく……あれだ、一緒に風呂入ったり一緒に寝たりするから、ああいう誤解が生まれるんだよ」

妹 ── お風呂も寝るのも、やめないよ。ずっと一緒だから

男「あぁ、分かってるよ。お前は愛情に飢えて昼夜俺の身体を求めている飢えっ子だからなぁ……おまけに根暗な内弁慶」

妹 ── 変な言い方しないでよ、このエロ魔人

男「俺がもしエロ魔人ならお前は今までに100回は犯されてるだろーよ」

妹 ── もう怒った! 今日は一緒に寝てあげないんだから!

男「別にいいけど、お前どこで寝るんだよ」

妹 ── お兄ちゃんのベッドで寝る。お兄ちゃんは床で寝て

男「はぁ? 自分の部屋に戻れって」

妹 ── わがまま言わないで!

男「……」

妹 ── おやすみ!

男「……」

男「……呆れると声も出なくなるってのは、本当のことなんだな」

妹 ── ……

男「……寝るか。お休み」

妹 ── ……

男「……」

妹 ── ……

妹 ── やっぱり私も床で寝るから

男「……おい」

妹 ── おやすみ~

男「……じゃあ俺、ベッド使うわ」

妹 ── なんでそういう意地悪するの!

男「知らんがな」

妹 ── お兄ちゃんの馬鹿! 鈍感! 短小!

男「おい、最後のは訂正を求めるぞ」

妹(ぷりぷり)

男「ぷりぷり怒るなって。ほら寝るぞ。来いよ」

妹 ── うるさい馬鹿! おやすみ!

男「馬鹿と言いつつ、こっちには来るんだな…………ふぅ」

***

女「あ、あのね、トマトが安かったからね、今日はトマトのラザニアにしてみたの」

男「……」

女「たくさん作ってきたから、その……よかったら食べてみてね」

男「……」

女「……」

女「……え、と、もしかしてトマトアレルギー、とか?」

男「いや……その、単なる食わず嫌い、みたいなんだが」

女「す、好き嫌いは、よくないと、お……思うな!」

男「……あ~」

女「その、食べたくても食べられない国の人たちだっているわけだし、その……だから……」

男「ここは飽食の国ニッポンだけどな」

女「でも、……その……」

ビールスレでいじめられた…(´;ω;`)

男「あー……その、なんだ、好き嫌いって何で駄目なんだろうな?」

女「えぇ……?」

男「いや、これが戦時中とかで食べ物がなくて生きるのにも困る状況であればだ」

男「まぁ『好き嫌いすんな』って発言にも、多少の正当性を認めることができるかもしれんが」

男「少なくとも俺の周辺環境じゃ食うに困るってことは余りないわけで、嫌いなものを食わない権利っていうの? そういうのがあっても……」

女「でで、でもですね、世界的視座に立つならば、飢餓に苦しむ人も、多いわけですよ!」

女「グローバル化が叫ばれる現代社会で、そんな島国根性と言いますかぁ、局地的視点のみでしか物事を考えられないことがぁ、昨今のぉ……!」

男「お前はどこの胡散くさい社会団体を代表する人間なんだよ……」

女「で、でも……その、確かに……どうして好き嫌いが駄目なのか説明しろって言われると、困るけど……」

女「ただ、私は将来自分の子どもには、どんな食べ物でも美味しく食べられる人に育って欲しいなって、そう……思うから……」

男「……」

女「……うぅ」

男「まぁ、あれだ。教育ってのは基本的に、大人が子どもに自分の考えを押し付けることだと思うしな」

女「え?」

男「子どもは大人には逆らえないもんだからさ」

男「情に訴えて優しく指導してやろうが、理詰めで説得するという形だろうが、あるいは……暴力という形だろうが」

男「どんな形態にせよ、どう言い繕おうが、教育には力ある者から弱い者への思考の押し付けという面がある、ということは否定できないだろ」

女「それは……」

男「だから、好きにしたらいいんじゃないのか?」

男「自分の子どもを好き嫌いのない人間に育てたいなら、『好き嫌いは駄目だ』って考えを子どもに押し付けて、刷り込ませればいい」

女「そ、そんな……。そんな言い方しなくても……」

男「ただ、そういった押し付けには、なんというか……きっと、ある種の資格が必要なんじゃないか?」

女「……資格?」

男「ああ、資格だ」

男「今の場合だと、……家族であるってことかな」

男「家族であれば、まぁ『好き嫌いは駄目だ』っていう自分の考えを押し付ける資格だってあるんじゃないか」

女「……」

男「もしかすると、それは親から子どもへの一方的なわがまま、ってことになるのかもしれんが」

男「まぁ子どもは子どもで親にわがままを言うし、お互い様だろ?」

男「家族なら、お互いにわがままを言い合っても許されるんじゃないか」

女「……それ、は」

男「でもさ、お前は家族じゃない、だろ?」

女「……ッ」

男「だから、人にさ、そんな自分のわがままを押し付けちゃ駄目だろ」

女「ッ……ぁ、か……」

女「……かぞ、……」

男「ん?」

女「か、家族じゃ……なくても……ッ」

女「たとえ、家族じゃなくても、……私は人に、好き嫌いは駄目だよって、言うもん!」

男「……」

女「わがままかもしれないけど、でも、好きな人たちには、自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しい!」

男「自己中だな」

女「い、いいもん! ……ッぐす……そう言われたっていい!……ひッぐ……」

男「自己中で周りを振り回して……思い通りにいかないと泣く……」

男「子どもかよ……」

女「お、思い通りに、ひぐッ、い、いかないから、泣いてるんじゃないもん!」

女「ただ、悲しいから……ひッく……ひッ…………泣いてる、……ひぐッ……だけ……」

男「……」

***

男「はぁ……」

先生「おや、ため息なんてついて、どうしたんだい?」

男「あ、先生。こんにちは」

先生「うん、こんにちは。それで何か新しい悩み事かな」

男「……あ、いえ、大したことじゃないので」

先生「はは……とてもそんな風には見えないけどね。何でもいいさ、僕に話してみないかい?」

男「まぁ、その……今日、学園で女の子を泣かせてしまいまして……」

先生「女の子? というと……」

男「いえ、一つ下の学年の後輩なんですけど……ま、まぁ、恥ずかしい話なので詳細は勘弁して頂けると」

先生「ふふ、そうか。それで……どんなことをして泣かせてしまったのかな」

男「好き嫌いのことについて、です」

先生「好き嫌い? って、食べ物の好き嫌いかい?」

男「ええ……」

男「いや、ほんとに些細な諍いなんですが……」

男「その女の子は、他人に『好き嫌いは駄目だ』って言うんですよね」

先生「ふむ……」

男「で、俺が『戦時中でもあるまいし、嫌いなものを食べない権利だってあるだろう』……と」

男「さらに、『好き嫌いは駄目だというのも一種の個人的見解、わがままの類であって、そんなわがままを人に押しつける資格があるとすれば、それは家族くらいじゃないか』って」

先生「はは、それで女の子を泣かせてしまったのかい?」

男「まぁ……はい。改めて確認するとやっぱり下らないというか、こっ恥ずかしいというか……」

先生「いやいや、下らないなんてことはないさ」

先生「その喧嘩は、折しも私達がいま問題にしている、人が人と関わる上での『資格』についての話題に関わることじゃないか」

男「あ……そういえば、そう、ですね……」

先生「というよりもむしろ、君がここ最近、この『資格』の問題について考えを巡らせていたからこそ、思わずそんな物言いになってしまった、のかな」

男「そう言われてみれば……、そう、かもしれません」

先生「それじゃあ、今日はそのことを取っ掛かりにして考えてみようか」

先生「君は、好き嫌いを否定する資格があるのは、家族くらいだ、……そう考えているんだね」

男「はい」

先生「友達同士ではだめなのかな」

男「……いえ、まぁ、改めて考えてみると……必ずしも駄目、というわけではないと思います」

男「軽口で好き嫌いを窘めるくらいなら、別に良いかもしれません」

先生「うん」

男「ただ、よほど深い親友でもなければ……」

男「友人関係で、相手の嗜好や信条に口を出して、それを無理に変えさせようとするのは……その、行き過ぎた行為なのではないか、と」

先生「ふむ……」

先生「……確かに、食べ物に限らず、自分の好みや信じていることに対して、友人といえど口出しされるのは、普通は鬱陶しいと感じるものだろうね」

男「ええ……」

先生「しかし、逆にこんな場合を想像してみたらどうだろう」

先生「自分の友達が、君の嗜好や信条に対して、本音では反対していたとしても、表向きには一切口出ししない……どうかな?」

男「え、それは……」

先生「例えば、未成年である君がタバコを吸っていたとしよう」

先生「しかし、君の友達は誰もそれを止めろと指摘しない。本心では悪い事だと思いつつ」

男「いや、それは法律で罰せられることでしょう!?」

男「友達として指摘することも、指摘されて改めることも当然のことだと思います。話の次元が違いますよ」

先生「ふふ、……果たして本当にそうかな」

先生「少なくとも、いま現に喫煙をしている未成年者たちが、君の今の発言を聞いたらどう思うかな?」

先生「君のその発言に賛同してくれるだろうか」

男「それは……」

先生「きっと誰も、賛同しても改心してもくれないだろう」

先生「そして、君がその女の子にしたのと、同じような反応を返すんじゃないかな」

先生「『関係ないだろ』『人のことは放っておけよ』『お前に何か迷惑かけたかよ』……ってね」

男「……」

先生「『食事の好き嫌いを窘めることには理がない、未成年の喫煙を窘めることには理がある、だから前者は良くて、後者は悪い』」

先生「君は、そんな風に考えているだろう?」

男「……はい」

先生「確かに現代の日本では、大抵の場合、食事の好き嫌いは個人的嗜好に還元される類のもので、もはやそれを悪と断じるだけの社会的背景はないかもしれない」

先生「一方で、未成年の喫煙は、法律に照らせば明らかな罪だと言える」

先生「でもね……そんな『道理に則るか否か』ということは、『そのことを窘めるべきか否か』ということとは、本質的には無関係なのさ」

男「……」

先生「自分が正しければ、相手の嗜好や信条を無理矢理ねじ曲げてもいいのかな」

先生「自分が間違っていれば、相手の嗜好や信条には何も口を出してはいけないのかい?」

男「それは……」

先生「もしかすると君は……『正しさ』に囚われすぎているのかもしれない」

男「え?」

先生「自分がもし正しい人間だったなら、彼女と絆を結ぶことに何の抵抗もない……」

先生「しかし自分は罪を犯したから、彼女に関わる資格はない。過去に手酷い過ちを為した自分が、どの面下げて彼女に関われると言うんだ……ってね」

男「……そう、かもしれません」

先生「……仮に、『好き嫌いは駄目だ』という窘めが、一種のわがままであるとしよう」

先生「それで、どうしてその女の子は、わがままを言ったのかな」

男「それは……」

男「そいつは、『好きな人たちには、自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しい』って、言ってました」

先生「ふふ……素直な子だね。でもきっとそれが、その子の本心なんじゃないかな」

男「……」

先生「人と人とが個人的親交を持つに当たってはね、得てして、『正しいか否か』ということよりも……」

先生「『好きか否か』『気になるか気にならないか』ということの方が、優先されるものなのさ」

先生「その女の子のこと、嫌いなのかい?」

男「いえ、……そんなことはない、と思います」

先生「好き、なのかな」

男「……分かりません」

先生「嫌いだからと言って相手を傷つけていいわけじゃない。好きだからと言って、相手にとって耳心地の良いことばかり言うわけにもいかない」

先生「でも、……君はその子に、もう少しだけ優しい言葉をかけてあげても、良かったのかもしれないね」

男「はい……」

先生「謝ってみる、というのも一つの手かもしれない」

男「謝る……ですか」

先生「うん。ただし、『自分が間違っていた』などと非を認めて謝るんじゃない。『相手を傷つけたこと』について謝るんだ」

先生「正しいことに従って行動するんじゃなく、好意に従って行動してみる……これは過去の罪に囚われている君にとって、良いリハビリになるかもしれないね」

男「………………、……次に会った時に、謝ってみます」

先生「うん。その子は素直なようだし、きっと許してくれるさ」

男「はい」

***

妹 ── お兄ちゃん! お兄ちゃん!お兄ちゃ~ん!

男「ただいま。今日はいつもの三割増しくらいで忙しないな。何か嬉しいことでもあったのか」

妹 ── あったよ~。とってもいいこと! キシシ~

男「そうか、で、何があったんだ」

妹 ── ないしょ!

男「ああそうかい。俺、風呂に入ってくるから」

妹 ── ちょっとぉ! そこは、何だよ~気になるだろ~、って引き止めるところでしょ!

男「いや、対して興味もないし」

妹 ── じゃあいいよ! ふんだ!

男「風呂からあがったら飯にするから。今日も作ってくれてんのか?」

妹 ── シチューだよ~。一人で作ったの

男「園長先生の監修なしか。期待しないでおくよ」

***

男「……ふぅ」

男「風呂が広いってのはいいことだな。この時間帯だと独り占めできるし」

妹 ── 妹登場!

男「……お前、今日はまだ入ってなかったのか?」

妹 ── うん、今日は一緒に入りたい気分だったから待ってた。ねね、驚いた?

男「あ~びっくりしたわ~ほんとびっくりした~」

妹 ── やる気がないなら帰れ!

男「俺が先客なんだから、お前が帰れよ」

妹 ── 背中流してあげるからおいでよ

男「ああ、ありがと。頼むわ」

妹(~♪)

支援

読んでる

男「なんか、今日は本当に機嫌がいいんだな」

妹(ごしごし♪♪)

男「そんなにいいことあったのか?」

妹 ── ~~~~~~~

男「いや、いま手話で伝えられても……流石に、背中に目がついてるわけじゃないしなぁ」

妹 ── ~~~~~~~

男「なるほどなるほどそうかそうか」

妹 ── ~~~~~~~

男「はー、そいつはめでたいめでたい」

妹(ぎゅっ)

男「お、おい……くっつくなって」

妹 ── 今日のシチュー、美味しくできたんだよ?

男「……お前、そんなことで喜んでたのかよ」

妹(にこにこ)

男「ほら、次は俺が洗ってやるから背中向けろ」

妹(こくり)

男「……」

妹 ── ……

男「なあ」

妹(?)

男「お前さ……俺のこと、好きか」

妹(こくり)

男「はは、即答なんだな……じゃあさ、その、あくまで例え話なんだが、もし俺がどこかに行っちまったら、どうする」

妹 ── え!? なにそれ? お兄ちゃんどこかに行っちゃうの!?

男「いやだから、あくまでも例え話で」

妹 ── うそ! 行かないでよ! お願い! どこにも行かないで! 一人にしないでッ!!

男「……ッ、落ち着け! 落ち着けってば! 別にどこにも行かないから。そんな予定ないから!」

妹 ── いやだ、一人はやだよ……

妹(ぐすっ……ぐすん……)

男「あー、悪かったから。泣くなって。別に、本当にどこか行っちまうとか、そんなことないからさ」

妹 ── じゃあ、なんで急にそんなこと聞いたの?

男「いや、その……。兄貴が妹の元からいなくなっちまったら、残された妹はどう思うんだろうなって、何となくそんなことが気になっただけだ」

妹 ── そんなの、辛いに決まってるじゃん! 馬鹿じゃないの!?

男「分かった、分かった。つまんないこと聞いて悪かったよ」

妹 ── 私、別にお兄ちゃんのことを異性として好きなわけじゃないよ?

妹 ── でも家族なんだよ!?

妹 ── 家族は一緒にいなきゃ駄目なんだからッ!!

男「分かったよ。本当に悪かった……許してくれ」

男「もう、馬鹿なこと聞いたりしないから」

妹(むぅぅ)

男「そんなリスみたいな膨れっ面で怒るなって、こんなに謝ってるだろ」

妹 ── 今日は、ぎゅって抱きしめて寝て

男「あぁ、分かった。言うとおりにするよ」

妹 ── あと、私が寝つくまで頭を撫でてないと駄目だから

男「分かった分かった。全部聞いてやるよ。お休みのキスもか?」

妹 ── それはキモイからイヤ。抱きしめるのと撫で撫でだけでいい

男「お前の中にあるキモさの判定基準が分かんねえよ……」

男(────本当は、分かっている)

妹 ── あ、あとアイス食べたい。お兄ちゃんの奢りで

男「……太るぞ」

男(────こいつが俺に求めているのは異性としての愛情じゃない)

俺(────実の父親と母親に求めても得られなかった情愛と同質のものを、俺に求めているんだ……)

***

女「あ、の……」

男「……」

女「あの……あ、き、昨日はごご、ごめ、ごめんなさい!」

男「……なぜお前が謝る」

女「え、だって、その、不快にさせたかなって……思って、その……」

男「……自分の言っていたことが間違っていた、と認めるのか」

女「それ、は……」

男「……」

女「それは……」

男「……」

男「悪かった」

女「……え?」

男「お前が自分の意見を曲げないように、俺も自分の見解を曲げるつもりはない」

女「う、うん……」

男「でも、それにしたって言い方ってものがあった」

男「昨日はひどいことを言った。傷つけたことを謝る。悪かった」

女「あ、う、ううん! いいの! 私の方だって、言い方が悪かったかなって思ってたし……」

男「そうだな」

女「はうぅ……」

男「お互い様、ということでいいのか?」

女「え……」

男「どうなんだ?」

女「あ……う、うん。……うん! うん! それでいい! それがいい!」

男「そうか。じゃあこの話はもうおしまいだ」

女「う、うん……へへ……へへへっ…………」

女「き、今日はね、ピーマンの肉詰めを作ったんだ。もし良かったら食べてみてね」

男「……」

女「あ……」

女「も、もしかして、ピーマンも苦手だったり、するのかな」

男「いや、ピーマンはむしろ好物だったはずだ」

女「だったはずって……へへ、へ……」

男「まぁいい。一個頂くぞ」

女「あ、ど、どうぞ! 一個と言わず、ぜ、全部頂いちゃってください!」

男「お前の食う分がなくなるだろうが」

女「あ、そ、そうだよね」

男「……うまいぞ」

女「あ、うん……ありが、とう……へへ」

***

────── 表面的な取り繕いも、既に限界だった

本心を隠した表情の裏側から、暗澹たる感情が顔面の表皮に滲み出てしまいそうだ

眼前で腰を下ろしている人間の様子を伺い、そしてその心境を想像するだに虫酸が走った

この愚物は、よもや勘違いでもしているのではないだろうか

自分が相手から僅かでも好意を寄せられているなどという蒙昧なる妄想で、悦に入っているのだろうか

こちらがどれ程の鬱然とした感情を身に棲まわせているかも知らずに

……不快な聴覚刺激から意識を逸らす

遠巻きに聴こえる人々の談笑、近くの木々の騒めき、食事の音、そして定期的に発声される────うまい、という一言

その言葉ひとつひとつが、その先にある酷薄な行為の愉悦を高めるとも知らず……

俯いて口元を手で覆い、微かに忍び笑う

最後にもう一度だけ、自らの視線を手向けとして送るかのように、世界で最も忌々しいその顔を正面から捉えた

もうすぐ、二度と見ることがなくなるであろう、その顔を────

***

先生「やあ、こんにちは。調子はどうだい」

男「こんにちは先生。おかげさまでいい感じです」

男「その、先生のアドバイスのおかげで……先週、喧嘩したって言ってた女の子とも、翌日にすぐ仲直りできました」

先生「そうか。それは何よりだね。その女の子とは、どんな感じなのかな」

男「まぁ……その、雨降って地固まる、じゃないですけど」

男「その……少しだけ、心の距離が縮まったかもしれません」

先生「そうか……うんうん。それはとてもいいことだね」

男「先生……俺、実はまだ、自分の内にある罪悪感と、きちんと向き合いきれていない気がするんです」

男「でも、先生に言われた通り、正しさかどうかじゃなくて」

男「もっと単純に、相手のことが好きかどうか、気になるかどうかということを基準に、人と付き合ってみよう、と思うんです」

先生「ふむ……なるほど」

支援

男「もちろん、それによって、自分の罪が消えるわけでも、罪悪感が薄れるわけでもないとは思います」

男「ただ、そういった罪悪感を抱えながらでも、もし、相手が俺の罪すら認めて、正面から対峙してくれるなら……」

男「そんな好意を向けてくれる相手とは、その……」

男「絆を結べるかもしれないって……へへ、あの、月並みですけど、そんな風に思えるくらいには、なりました」

先生「……そうか。うん、……うん」

先生「僅かな期間で、君は驚くほど成長したように見えるね」

男「すみません、なんか……青臭いことばかり言っちまって……」

男「恥ずかしい奴ですね、俺って」

先生「いや、それでいいのさ」

先生「大人になれば恥ずかしくて素直に感じたり言ったりできないないようなことも、今の君の年齢だからこそ感じられる、言えるってことがあるんだ」

先生「そういう気持ちはね、大切にすべきものだと、……僕は思うよ」

男「……はい。ありがとうございます、先生」

先生「しかし、正直なことを言うとね、……君がそんな風に思えるには、もっともっと時間がかかると思っていたんだ」

先生「何ヶ月か……場合によっては何年もかけて、じっくり取り組む必要があると思っていた」

男「はい」

先生「でも、今回の件が、たまたまいい切掛けになったんだろうね」

先生「うん……人生というのは不思議なものだなぁ」

先生「必要なチャンスが必要なときにこそ巡って来ない不運の人もいれば……」

先生「君のように、まさしく、心の成長にとって不可欠の切掛けというものが、奇跡のようなタイミングで訪れる、ということもある」

先生「まぁ君は、これまでの人生に不幸が多すぎたんだ」

先生「このくらいの幸運があって、丁度いいんだろうさ。誰だか知らないが、その女の子にも感謝しないと、ね?」

男「あぁ……へへ……そうかも、しれませんね」

男「確かに、運が良かったのかもしれません。とびきり」

先生「ん?……うん、そうか」

先生「さて、それじゃあ、今後のことだけど……」

先生「君はもしかしてこれから、妹さん……彼女に、君の罪や、君の考えについて話をしに行くつもりなのかな」

男「ええ。そうなります、ね」

男「正直……怖いです。先生の言ってた通り、絆は、一方通行じゃ結べない」

男「あいつに俺の本心を暴露して、拒絶されたらって思うと、怖いです」

先生「……うん」

男「でも、根拠なんて全くないんですけど、大丈夫じゃないかって気もするんですよね」

男「あいつなら、……無条件に、俺の罪を含めて、俺を丸ごと受け入れてくれるだろうって……そんな気がします」

先生「そうか……うん。そこまで決心が付いているなら、もう言うことはない」

先生「いますぐ行っておいで」

先生「……いい報告を、期待しているよ!」

男「はい、先生。いってきます!」

叔父夫妻の交通事故の追突で死んだのが女の親とかそういうオチか

***

────── そして、その日が来た

陽が落ち、街に覆いかぶさる薄闇の色合いが次第に濃さを増す時刻

息を潜めて物陰に隠れ待っていると、目標となる人物が、その人物の住まいである建物から外に出てきた

目標の行き先も道中の経路も、自分は完全に把握している

機嫌でも良いのだろうか……顔を笑みで綻ばせて軽く鼻歌でも口ずさんでいる様子だった

これから自分の見に振りかかる凶刃になど思いも馳せていないのだろう、暢気なものだ

ふと眼下を見れば、腕が小刻みに震えていた

緊張? 武者震い? ……いや、そのどちらも違う

これは、歓喜だ

一人の人間の死によって齎される、一人の人間の安寧の日々

その期待が高まりすぎて身体が慄然と打ち震えているのだ

はっはは──────あまりに可笑しくて、可笑しくて、その尊厳を犯してやりたくて、顔貌が笑みを形作ってしまう

つまり女に刺される訳か

自分は、この機会を辛抱強く待った

いま振り返れば……そう、もしかすると自分はこの日を何年も前から待っていたのかもしれない

そしてその願いは、今日この日に叶おうとしている

感慨深げな表情さえ浮かべて、標的を見つめる

こちらの50m先を弾む足取りで移動する獲物は、街の喧騒や煌明から遠ざかる方角へと歩を進めていく

この時間帯、いま自分が追跡を続けているこの住宅街では人とすれ違うことも滅多にない

そして閑静な住宅街の先には、この地域で最大の公園がある

獲物はいつも通り、その公園に足を踏み入れた

その公園を通ることが、目的地に辿り着くためのショートカットになるからだ

さて…………お前は知らないのか?

その公園は、夜になれば途端に人通りが少なくなるということを

公園内の経路や出口は多数あるが、標的はいつも最短路を選んで進む

だから今日も、ほら、その角を曲がったぞ

そして、いつも通り全く通行人のいないその園路へと、お前はやはり足を踏み入れた……

自分にだって逡巡はあった……人並の情愛というものが自分にもあるのだから

許すか、排除か────そんな二者択一に懊悩してきたのだ

しかし、そんな葛藤も、実のところ理性の取り繕いにすぎなかったのかもしれない

きっと、答えなんて最初から分かっていたのだ

あの学園でのおぞましい昼食の会話の中で、あいつが時折見せる笑顔が、たまらなく許せなかった

だから、この結末もまた必然だったのだ

……さあ、こちらの息遣いが聞こえないか?

お前との距離はいつの間にか、たったの5mだ

貴様の体躯を付け狙う、獣欲にまみれたこの息遣いが聞こえないのか?

身の安全を考慮すれば、背後から有無を言わさず刺殺すべきだろう

しかしそんなことはしない……そんな結末では終わらせない

多少なりとも思い知らせないと気が済まないから…………この苛立ち、憎しみ、暗鬱たる感情を

そして標的との距離をついに僅か3m、一足の距離にまでに縮めた

この時間帯になれば目撃者はまず出ないし、少々騒がれたところで問題もない……殺して逃げきるには十分すぎる時間があるだろう

……ほら、もう、こちらの手がその肩に届くぞ、背後から影のように忍び寄り、お前の肩を叩く

5秒だ……肩を叩いて、お前が振り返ってから5秒だけ猶予をやる

5秒以内に我に帰って逃げないと、お前の顔面に、このナイフが突き立つことになるぞ

ほら、いくぞ……、この白刃の煌めきがお前を終わらせるんだ……

いくぞ………ッ、殺すぞ……、お前を消し去って、宿願を果たしてやる……ッ!

お前の……、危機感など微塵もないその肩まで、もう自分の手が届く距離だ……ッッ!!

叩くぞ………ッ、叩くぞ………ッッ、ほら……、この手が伸びて、ほら……ッッ、お前の肩に、そうだ…………ッッッ、今……ッッ!!!

掴む────ッッ、いまだッッッッ──────!!!!!!

いまッッ──────!!!!

触れ────────





男「そこまでだ、この────────バカ妹」

***

男「いますぐそのナイフを捨てろ……この、バカ妹が」

妹 ── ……

女「え、え? ……あれ、二人とも……、ど、どうしたの、こんなところで……」

妹 ── なん、で?

男「どうして分かったのか、って?」

男「俺が毎晩毎晩、どこに出かけてたと思う」

妹 ── ……

男「お前を尾行してたんだ。その暢気女の尻をつけまわすのに必死で、自分自身が尾行されてることには全く気付かなかったようだな、マヌケ」

男「尾行がばれないように、お前とは時間をずらして夜遅くに帰ってくるために……はぁ」

男「外で時間をつぶすのが大変だったよ。勘弁してくれマジで」

女「へ? び、尾行って? あの、な……なんだか全然、い、意味がわからないよぉ……」

男「意味がわからんのは当然だ。お前からしたら寝耳に水だろうからな」

女「あうぅ……」

妹 ── なんで、よ

男「あん? だから今言った通り……」

妹 ── そうじゃない! なんで、そもそも私を尾行してたのかって聞いてるのよッ!

男「……それは」

妹 ── ……

男「元々は、お前を見張ってたわけじゃない。そっちの暢気女の方を見張ってたんだ」

女「……え? わ、私?」

男「ああ、そうだ」

女「って、え、えぇッ!? 見張ってたって、……その、わ、私をストーキングをしてたってこと!?」

男「人聞きの悪い事を言うな。だいたいお前だってうちの施設の前に隠れ潜んで、不審者扱いされてただろうが」

女「あ、い、いや、それはぁ……あのぉ……」

男「……はぁ」

男「こうなったからには仕方がないから言うが……お前と同じ理由だよ」

女「……え?」

男「俺がお前のことを陰から監視してた理由だよ。お前が、俺のストーカーだったのと同じ理由」

男「お前のことが何となく気になってた……ただ、それだけだ」

女「気になってた、って……。ッて! いや、すすす、ストーカーって、そ、そんな言い方ひどいよぉ~!」

男「うるさい馬鹿。人んちの前でじっとりした視線で監視するのが、ストーキングでなくて何だって言うんだ」

男「……で、まぁ。こいつを遠巻きから監視してるときに」

妹 ── 私がそこの女をつけ回しているのを、見つけたのね

男「ああ、そういうことだ。傍から見ればさぞ笑えただろうよ」

男「お前はそこの暢気女を、暢気女は俺を、俺はお前を、それぞれストーキングしてたんだからな。なんつう三角関係だよ」

妹 ── そう。じゃあ、私がこの女を殺したがってる理由も、分かってるんでしょうね?

女「え、こ……殺す? 私を、妹ちゃんが? えっ、な、なんでぇ??」

男「ああ。よく分かってるよ。この世界で、俺が一番よく理解してやってる」

妹 ── そう。じゃあ止めないでよ、お兄ちゃん

男「止めるに決まってるだろう、馬鹿。妹が殺人を犯そうとしてるのを止めない家族がいるかよ」

妹 ── お兄ちゃんは、私にはとても優しいよね

妹 ── でもね、その女がいると、私に向けられる愛情は半分になっちゃうの

妹 ── それだけは、……絶対に許さないッ!!!

女「い……妹ちゃん? その、ちょっと落ち着いて話さない?」

女「私たち、きっと分かり合えると思うの……だって、ほら、私達には繋がりがあるじゃない。その、お兄さんっていう……ね?」

男「お、おい……馬鹿! いま、それを……ッ」

妹「………………………………………………くひッ」

妹「……………………くく……ッく」

男「……お、おい、お前……?」

女「え……?」

妹「く…………くくくくくくくきくくく、く」

妹「くく、く………………────────くびを、ねじ、切り、落としてやる」

────それが、七年ぶりに声を取り戻した妹の、初めての言葉だった

ここからどうやってスレタイに繋がるんだ

説得解決ハッピーエンドからスレタイに繋がるんだろ

男「……ッ!!」

男「おまえ……声が……ッ」

妹「あ"、あ"あ"、ぁ"ぁあああッッッ──────あ"ん、だなんか、お兄ぢゃんには、ふ、ざわしくないんだ、から!」

男「……お、おい、無理すんな! まともに声出すのなんて久方ぶりだろうが! 無理して発声したら喉が壊れるぞ!!」

女「……あ、ぁ……そ、そうだよ。その、と、とりあえず病院に行きましょう? すぐに!」

妹「う"る"ざい"ッッ!!!」

女「……ひッ、ぅぅ」

妹「あんだに"、いいごどを教えてあげる……ひッはは……お兄ちゃんはね"……」

男「ッ!?」

男「おい、やめろッ!!」

妹「お兄ぢゃんは、ねぇ…………、殺人犯、……なんだよぉ?」

女「……え?」

男「……ッ」

妹「お兄ぢゃんは、私のだめ"に、私のお父ざんとお母ざんを、殺じてくれたの」

女「そん、な……」

あれ?おかしいな、俺が開いたスレって藤原竜也スレだったか

妹「ひひッ……ごれ"で、わかっだでしょう? お兄ちゃんにどっで、誰が一番大切な存在、なのか」

妹「私を護るために……、人殺しまでやってくれだの"! ごれ"以上の愛が、どごにあるっでいうの!?」

女「……」

妹「それに、あ"なだには受け入れら"れ"るの? ……殺人を犯じた男を、本気で愛ぜる"の?」

男「ッ……」

女「……」

妹「人殺じの罪は、消え”ないわ! だがら、お兄ぢゃんど一緒に生ぎる人には、ぞの覚悟がないと駄目なの"!」

妹「私にはぞの覚悟があるわ! ……でも、あなだは、そん"な覚悟持てるかじら?」

妹「あなだみだいな、人の顔色ばがりうかがってる、心の弱い"人間が……、殺人犯を愛ずることなんで、でぎるの?」

女「……」

妹「ほ~ら"ぁ”!? 無理でしょう? もし、二度どその汚い"面見せないっで、約束するな"ら"、お兄ぢゃんに免じて、命だげは見逃してあげる"わ」

妹「あはッ……わがっだら、さっざど」

女「愛せるよ」

妹「………………、へ?」

男「おまえ……」

女「愛せるって、そう言ったの」

妹「……」

女「その愛は、きっと、異性に向けるそれとは違う種類のものなのかもしれない」

女「でもね、……それでも自信をもって言える。私は、彼を……愛せる」

妹「お"ま"、……え"」

女「ううん。少し違うかな」

女「彼を、これまでもずっと、愛してた。これからも変わらず、愛し続ける」

男「……」

女「この気持ちは、何があったって、絶対に変わらないよ」

女「たとえ殺人の事実があったって、大人の都合で離れ離れにされたって、数年ぶりの再開で冷たく当たられたって……」

女「私は愛してる。誰よりも深く、愛しているわ。うん……」



女「私の──────血の繋がった、実の兄を」

超展開入りまーす

妹「────ッッ」

女「私達の両親が自動車事故で死んで、お兄ちゃんは叔父さんの家に、私は遠方にある遠縁の親戚の家に引き取られた」

女「当時の私たちには選択権なんてあってないようなもので、大人が決めた大人の勝手な都合で、私達は別々の家に引き取られたの」

女「私を引き取ってくれた先の御夫婦は、本当にいい人達で、私は今日この日まで、今のお父さんとお母さんに不満を持ったことなんてない」

男「……」

女「だからこそ、私が大きくなって、お兄ちゃんたちが叔父さんや叔母さんに与えられた仕打ちや、その後施設に入れられたことを知って、私は……胸の内が罪悪感でいっぱいになったわ……」

女「自分が知らない間に、お兄ちゃんはずっと辛い思いをしてきたんだって……」

女「それが辛くて、苦しくて、でも、……お兄ちゃんとは仲良くしたかった」

女「だからお父さんとお母さんに無理を言って、お兄ちゃんと同じ学校に転校させてもらったの」

妹「……お前ざえ、来なげれ"ば……」

女「……そうだね。そんな風に恨まれてるかもしれないって、覚悟もあった。でも、いざ対面してみるとやっぱり怖くて」

女「お兄ちゃんはおろか、年下の妹ちゃんにすら、いつも卑屈な笑顔ばっかり浮かべて……いつだって二人の顔をまともに見るができなかった……」

男「お前……確かに、いつも変な笑い方してたな……」

樫野弘揮

女「あなたが……どんな想いを、どのくらい深く、お兄ちゃんに対して持っているのか、私には分からない」

女「その想いを持つに至った経緯は、きっと、とてもじゃないけど私なんかの想像の及ばないことなんだろうって思う」

妹「当だり前だ! あんだなんかに"……理解されでだまるもん"でずか!」

女「うん……そうだね。でもね、それでも、この気持ちは譲れないの」

女「誰が何と言おうと、お兄ちゃんは……私の、お兄ちゃんだから」

妹「あ"ん"、だ……」

男「いい加減にやめろ! お前ら、挟まれてる俺の気持ちにもなってくれよッ!?」

女「ごめんねお兄ちゃん。でも私はね、この子と一緒になって、お兄ちゃんを取り合うつもりもないの」

男「はぁ? ……お前、何言って」

妹「…………お前がぁ"ッ、ぞの臭い口で、……私のお兄ぢゃんを"ッ」

妹「────お兄ぢゃんっで、呼ぶんじゃねえよぉッッッ!!!」

女「……ッ」

男「やめ、ッ────」

fm

────── 瞬間、世界が急激にスローに感じられた

時間がゆっくりと進んでいって、私の身体はぴくりとも動かない

妹ちゃんが手にもつナイフが、一直線に私に向かってやってくる

妹ちゃんの憎しみに満ちた表情、彼のとても焦った表情、その顔を伝って流れる汗、汗を運ぶ風、風に揺れる木々の葉の一枚一枚

全てがモノクロになって、なのに細部まで精緻に観察できるような鋭敏な視座が自分には宿っていて

そんな私の目は瞬きもできないで、彼女のナイフが肉を裂き、身体にずぶずぶと押し入っていくところを鮮明に捉えていた

音はしなかった

スローな世界が、スローな速度で終わりを告げて、世界に色が戻ってきて、次に悲鳴が聞こえた

目の前で、何故か安心した表情を浮かべた彼が、ゆっくりと倒れていく

もうスローな世界は終わったはずなのに、彼が地面に堕ちていく速度は何故かひどくゆったりとしていた

泣き叫ぶ妹ちゃんの声を聞きながら、私の世界は────暗転した

***

────── 夢を、見た

  両親が事故で死んだりせず、私とお兄ちゃんが愛情を注がれて育つ夢を

────── 夢は、理由もなく、唐突に場面を変えた

  叔父さん夫妻のもとで、お兄ちゃんと妹ちゃんが、虐待なんてされずに、楽しそうに遊んでいる夢

────── 最後に、もう一回だけ、夢はその景観を変えた

  私と、お兄ちゃんと、妹ちゃんが、三人で一緒に暮らす、そんな幸せな夢に



そんな、めくるめく夢の天の川を泳いでいて……私は唐突に気づく

ああ────そっか、これは、叶わなかった願いの欠片たちだったんだ

私の願望……心の底からの願い

余りにも綺麗だから、偽物だって分かってしまう、現実との背理────

夢は夢……叶わないから、手を伸ばしても幻のようにすり抜けてしまうから夢なんだ

どうして、いつも、本当に欲しいものは手に入らないんだろう

あの頃の私は、お父さんと、お母さんと、お兄ちゃんがいればよかった

  でも失われた
  
お父さんと、お母さんが死んでも、お兄ちゃんさえそばにいてくれれば、それでもよかった

  でも失われた
  
今度は何を失うの? お兄ちゃんと妹ちゃんを失うの? また、この手の中から零れ落ちてしまうの?

誰も誰もが、私のそばから消えてしまって、私だけが時間の停留所に無理矢理、留め置かれてしまって……

それなのに、こんなにも、どこまでも遠い幻想を夢に見せられることが悲しくなって、夢の中なのに涙が流れそうになって、

こみ上げてくる嗚咽をこらえながら、いつも浮かべている卑屈な笑みさえ今は浮かんでこず、

両親が死んで、お兄ちゃんがいなくなったあの頃のように、いつしか、何もかも諦めたような暗い顔に舞い戻り、

世界を拒絶して、差し伸べられる他人の手を恐れて、自分の殻にひとりきりで閉じこもって、私は────



女「────────駄目! 今度は、絶対にあきらめない!!」

昏倒してから25時間も経って、ようやく私は目を覚ました

さるさん3回目……
投稿ペースを遅くします

看護師「あら、目が覚めたのね。丁度よかったわ」

女「え、あ、あれ……ここは、ど、どこでしょうか?」

看護師「落ち着いて。ここは ××病院よ。あなたは気絶していたの。どこも怪我はしていないから、安心して」

女「気絶……って、え……あ、彼は!? 私と一緒にいた男の子はどうなりましたかッ!?」

看護師「そちらも大丈夫。命に別状はないし、怪我の後遺症も心配はいらないだろうって」

看護師「とても運が良かったそうよ。しばらくは入院が必要だけど」

女「あ、……そ、そうですか……へへ……よかったぁ……」

女「って、そそ、そうだ!」

女「あの、し、質問ばかりで恐縮なのですが、もう一人、その、お、女の子がいませんでしたか!?」

看護師「あ……ええ、その子も無事よ。先ほどまで警察の方がいらっしゃていたけれど、今は帰られたようね」

女「け、警察!?」

看護師「詳しいお話は、あの男の子から聞いた方がいいんじゃないかしら」

看護師「あなたと会いたがっているの。それで、あなたを起こしにここに来たのだけどね?」

女「え、も、もう面会できるんですか!?」

看護師「術後経過の確認もあるし、普通ならもう少しの間は面会謝絶なんだけどね」

看護師「……彼ってばさっき目覚めたばかりなんだけど、どうしてもあなたに会って話したいことがあるって聞かなくて」

看護師「駄目ですって窘めたら、病室から無理矢理出ていこうとするんですもの……」

女「は、はぁ……」

女「それは、ご迷惑をおかけしました……」

看護師「そういうわけですので、特別に面会を許可しますが、くれぐれも患者さんに無理をさせないようにね」

女「はい」

***

男「よっ、元気か」

女「もう! それはこっちの台詞だよ~、お兄ちゃん!」

男「……はは。すっかりお兄ちゃんって呼び方に戻っちまったな」

女「あ、そ、その……ごめんなさい。嫌だった?」

男「嫌じゃないよ。お前が呼びたいように、呼べばいい」

女「……ありがとう。……その、お、お身体の具合は大丈夫なの?」

男「ああ、ピンピンしてるよ。刺された箇所が絶妙で、すっごく運が良かったんだとさ」

女「う、運が良かったらそもそも刺されてないよぉ~」

女「でも……本当に良かった。お兄ちゃんが生きてて……」

男「……すまなかった」

女「謝らないでいいよ……私を護ってくれたんだもんね……」

男「まぁ確かにそれもあるが、もう半分は、あいつを護りたかった、ってのもあるんだ」

女「……」

男「あいつのこと、怒ってるか?」

女「怒ってるよ、当然」

男「そっか、そう……だよな」

女「……」

女「すっご~く怒ってるから、すっご~く叱ってあげないとね」

男「え?」

女「悪いことをしたら、誰かが叱ってあげなくちゃいけないでしょ?」

女「それで、心から反省したのなら……許してあげないとね」

男「……」

男「おまえ、……すごい奴だなぁ」

女「え、え? そう、かなぁ……」

男「普通、自分を本気で殺そうとした兇悪犯に、説教かましたがる奴なんていないって」

女「う、う~ん……でも、相手は妹ちゃんだし?」

男「……はは、大物だよ。お前は」

男「俺な、実は……ここの所ずっと、カウンセリングにかかってたんだ」

女「うん、知ってるよ。前に一度、お兄ちゃんの……ふふ、『先生』に施設の前で挨拶したから」

男「ああ、あれ、やっぱりお前だったのか……」

女「うん、正直びっくりした。でも、『この人がお兄ちゃんのカウンセラーなんだ』っていうのは、すぐに分かったよ。納得もできた」

男「……まぁ、お前の気持ちも分からないでもないが……」

男「ただな、俺が『先生』のカウンセリングにかかり始めたのは、つい最近だったんだぞ? やっぱりたまたま、じゃないか」

女「あ……ま、まぁ、それは……へへ」

女「でも、ほ、ほら、仮にそうだったとしても、私の場合、別に問題ないわけじゃない? 『先生』に普通に話を聞けばいいと思ったんだよ」

男「はぁ……そんな風に抜けてるお前のことだから、俺がカウンセリングを受けた事情も、全然分かってないんだろうなきっと」

女「へ……へへ……ごめんなさい」

男「……お前のことだよ」

女「え?」

男「お前とどう接したらいいのか、分からなかったんだ。それで『先生』に相談したんだ」

女「え、えぇ? どういうこと?」

男「……妹も言ってたように、俺は殺人犯だ。それは本当のことだ」

女「あ……」

男「叔父さんたちが乗ってた車の事故は、俺が横合いからハンドルに手をかけて引き起こした、人為的な事故。……だから、叔父さんや叔母さんの死の責任は俺にある」

男「そんな人殺しの俺に、十年ぶりくらいに、遠方からわざわざ会いに来た物好きな奴がいる」

女「あ、……はい。物好きな奴です」

男「俺は、どの面下げて『お兄ちゃん』をすりゃいいんだ? 俺はどうすればよかった?」

女「……」

男「妹は……あいつは、俺の殺人を自分への愛の証だと解釈してしまっている。だから、そのことで傷ついたりはしない。……でも、お前は違うだろう?」

男「最初は突き放した態度を取っていたさ。でもお前は不死身のゾンビのごとく、倒れても倒れても立ち上がっては追いすがってくる」

女「そ、その例えはどうかと……」

男「お前は、少し甘くするとすぐ付け上がる。一端、あるラインまで自分の陣地を引き上げたら、どんなに叩かれても、決してその位置から後退しようとしない」

女「お、お兄ちゃんに似て頑固なんだよ……へへ……」

男「先生……あの人はさ、すごく頼りになる人で」

男「……改めてすごい人だなって思ったよ。色んなことを学んだし、励ましてももらった」

女「うん」

男「……俺はさ、お前との間に兄妹としての絆を結ぶ資格がないと思ってた」

男「罪を犯した俺の手でお前に触れたら、お前まで穢れてしまうんじゃないかって、怖かったんだ……」

女「そう……」

男「なあ、改めて聞くぞ……。その、俺はお前が大切だ」

男「あいつも、お前も、どちらも俺の妹だ。二人共かけがえのない存在だ」

男「お前は……こんな俺を、兄として認めてくれるか? 受け入れて、くれるだろうか」

女「……もちろん」

女「私がお兄ちゃんを拒絶するなんて、あり得ないよ。ましてや、お兄ちゃんの手であたしが穢れるなんてこともない」

男「……そっか。……そうかぁ」

女「うん……ありがとうお兄ちゃん。そんなにまで、私のことで悩んでくれて」

女「ねえ、お兄ちゃん。これからのことをする前に、一つだけお願いがあるんだけど、……いいかな?」

男「なんだ、俺にできることなら何でも言えよ」

女「うん……その。十年前の、まだ私たちが小さかったあの頃みたいに、抱きしめて……頭を撫でてくれるかな?」

男「ああ、そんなことでよければいくらでも……」

女「う、うん……じゃあ……」

男「……」

女(ぎゅぅっ)

男「……でっかくなったなぁ、お前……」

女「あたりまえじゃない……もう十七だよ?」

男「妹よりもたった一つ年上なだけなのに、こんなに発育具合に差が出るってのは……やっぱ環境の違いか?」

女「ばか、えっち……。妹ちゃん聞いたら怒るよ?」

男「はは、そうだな。これは禁句にしとくよ」

女「……さて、と。甘えるのはここまで!」

男「もういいのか?」

女「うん! 今は、やることがあるから」

男「あいつのこと、だな」

女「うん……妹ちゃん、あれからどうなったの?」

男「あいつは、今、この病棟に入院しているよ」

女「えっ? ど、どこか怪我したの」

男「俺も看護師さんに事情を聞かされたばかりだから、あまり詳しくはないんだが、俺たちが運び込まれてすぐ、警察がやってきたらしい」

女「警察……」

男「ああ。まぁ、殺人未遂の容疑者を放っておく訳にもいかないってことで」

男「それで、そのまま警察署に連行……されるはずだったんだが、あいつ、病院を出る前に血を吐いた」

女「血ッ!?」

男「そりゃそうだろ……七年ぶりに口を開いたかと思えば、あんなにベラベラとまぁ……」

男「緊急入院だとさ。とりあえず、しばらく安静にしていれば大丈夫らしい」

女「そ、そうなんだ……よかったぁ~」

女「あ、でも……その、警察はどうするの?」

男「後日改めて取り調べるってことらしいけど、まぁ心配すんな、俺は訴え出たりしないさ」

女「そ、そう……。それじゃ、なんとか一安心だね……」

男「安心、かな……」

女「え?」

男「俺は不安だよ。あいつがまた短絡を起こすんじゃないかって」

女「た、短絡って……?」

男「いや、な……逆上してお前をまた殺しにくるとか。……自殺を図ったりとか。あり得ない話じゃないだろう?」

女「そんな……」

看護師「あ、あの、ごめんなさい! ちょっといいかしらッ!?」

女「えッ!?」

男「ッ、なんですか!?」

看護師「あの、本当にごめんなさい。あなたの妹さんね、ほんの数分目を離した隙に、病室を抜けだしてしまって……」

男「……はぁ。もしかしたらそうなるかもって思ってました、よッと!」

看護師「ち、ちょっと、起き上がらないで下さい!!」

男「すみませんが、妹の一大事なんで、死んでも行きますから」

看護師「だ、誰か来て! 早く!」

医師「……何があった!?」

男「あ、ちょっと、待てって! おい! 多対一はずるいぞ!」

医師「興奮状態が見られるな……鎮静剤を、早く!!」

女「あ、ま、待ってください!」

看護師「下がっていなさい! あなたはこの男の子を死なせたいの!?」

女「……ッ、で、でも……」

男「あッ、ちくっ、しょ……」

女「だ、大丈夫なんですか!? あの、ひどいことはッ!」

看護師「興奮状態を抑えて眠らせる薬を打っただけだから、安心しなさい!」

女「あ……でも、そんな……」

男「ぉ……おい」

女「な、なに!?」

男「×××市 ×××町 ××× ×-×-×」

女「それって!?」

男「あい、つの、元の住所……」

男「頼む……あいつ……きっと、ひとりで……」

男「ごめ、……な…………頼……」

男「……」

看護師「……眠った、ようですね。ふぅ……」

医師「やれやれ、人騒がせな患者だ、全く……」

女「お兄……ちゃん」

男「……」

医者「簡易拘束バンドを用意しておいてくれ。次に暴れるようなことがあったら、やむを得まい」

看護師「分かりました……患者さんの容態を悪化させるわけには参りませんものね」

男「……」

女「お兄ちゃん、大丈夫だよ」

看護師「え、…………あなた、さっきの女の子、よね?」

看護師「なんだか、雰囲気が……」

女「……大丈夫」

女「大丈夫だからね。お兄ちゃんは、すっごく頑張ったよ」

女「だから安心して休んで。次は……私が頑張る番だから」

女「絶対に、これ以上誰も、失わせたりしないんだから────」

***

────── 喉が、焼けつくように痛い

冷たい夜風を肺に吸い込むと、赤々と裂けた喉の内奥がギチギチと痛んだ

しかし今は、その痛みすらも心地良い

痛みは罰……私の罪に対する罰に他ならない

この痛みのおかげで私は、自分の罪に押し潰されずに、辛うじて、一歩、また一歩と、足を前に踏み出せるのだろう

でも、こんなものでは足りない

私の犯した罪は、最も大切な人をこの手にかけそうになった罪の大きさは……

嗚呼、彼が、自分にとって世界そのものに等しいというのなら、

私はきっと自らの世界に刃を突き立てたのだ

だからだろうか、目の前の風景の、あちこちにヒビが入って見えるのは

認識と世界との間にズレを感じる

薄皮一枚隔てたところから、この世界を眺めているような────

……もはや私は、この世界の住人ではないのだろうか?

この辺りの河原の風景には、郷愁を禁じ得ない

それは当然のこと

私とお兄ちゃんが、二人きりでよくぼんやりと過ごした場所だからだ

家に帰れば、暴力と罵倒が待っていたあの当時

遅く帰ればありもしない門限を破ったと殴られ、早く帰れば意味も無くとにかく殴られた

どうせ殴られるなら、時間が短い方がいい

だから、できるだけ家に帰るのを遅らせるために、お兄ちゃんと二人で時間を潰す場所がここだった

あのとき、私達は何を考えながら、ここに佇んでいたのだろう

家のことを考えると憂鬱な気分になるから、そのことは極力頭から追い出すようにしていた

……ああ、そうだ。一つ思い出したことがある

ここにいるときは、いつも、ずっと、お兄ちゃんが手を握ってくれていたっけ

私の体温が高いのか、お兄ちゃんの体温が低めなのかは分からないけど、お兄ちゃんの手はいつだって冷たかった

それなのに、私の心にはいつも暖かいものが満ちて、私はそれが泣きたくなるくらい嬉しくて、

絶対に、その手を振り解こうとしなかったんだ────

支援

私の昔の家が見えてきた

お父さんとお母さんとお兄ちゃんと私の四人が住んでいた場所

目的地なんて定めていたつもりなかったのに、自然と、こちらに足が向いてしまった

妹「あ、はは……」

まともに声にもなっていない、掠れた自嘲の残滓が、潰れた喉から絞り出される

こんなになってまで、まだ、私は、家族の愛を求めているんだ

なんて、無様で、滑稽な──────

自分の大切なものを自分自身で傷つけたゴミ屑風情が、何を一丁前に人間様の崇高な情愛を求めているのだ

妹「ははは、はは……ごほッ……げほッ……」

自分が余りに惨めなので、嗤ってやった

とても苦しくて、咳が出て、その咳がいっそう喉を痛めつけるのだけれど、そんなの知ったことじゃない

そして、そうだ、いっそこのまま大嗤いしながら喉をつぶしてやろうと、そう自棄になって、

一拍置いてから、一際息を吸い込んだとき、

女「駄目だよ。そんなことしちゃ」

──────あの、クソ忌々しい女がそこにいた

***

住宅街で大声を出されてはすぐに警察の御厄介となるだろう

人気のない河原に場所を移そうと提案すると、妹ちゃんは、その真意は読めないながらも、私に従ってくれた

妹「……で、何のよう?」

妹ちゃんの声は綺麗だった

つい数刻前までのような濁った声ではなく、透き通った美しいソプラノで、いつまでも耳を傾けていたいと思わせる魅力があった

でも、それは逝く者の見せる最後の輝きにも似て、私は、激しい焦燥感に胸を突かれた

女「喉、痛いでしょう? 喋らなくていいから。ね? 手話で構わないから」

できるだけ刺激しないように、優しく告げたつもりだった

妹「うるさい、黙れ……この売女」

柔和であれと自戒しつつそっと押し出した私の声色は、しかし、彼女の憤悶の琴線に触れてしまったようだ

妹「あんたの精液臭い媚びた声が耳に触ると鳥肌が立つのよ。むしろお前が手話を使えよ。その気持ちの悪い声を二度とこの世に生み出すな、この淫乱が」

額に青筋を浮かべて淡々と語るその態度は、その先にある暴虐の嵐を予期させて、足が竦む

女「さっきから、売女とか、淫乱とか、そんな言葉を使うのはどうして?」

妹「はぁん? 何、清純キャラで行きたいわけ? 人の兄貴に股ぐら開く淫売の分際で」

嘲弄めいた言葉を投げかけてくるが、顔はひくりとも笑っていない

────仕方がない

覚悟を決めて、下腹に力を込めると、恐怖に竦んでいた背筋に一本の芯が通った

カチリ、と思考が切り替わり、透徹した心性が身体の隅々に遍満する

何事につけても巧遅と評されがちな彼女の戦闘態勢が、事ここに至り、今ようやく整ったのであった

女「……何か勘違いしているようだけど、私、自分の兄と寝る趣味はないわ」

真実だ。兄に欲情したことなど一度もないし、これからもあり得ないだろう

女「貴女の方こそ、一緒にお風呂に入って、一緒のベッドで寝てるそうじゃない? 聞いたわよ」

女「淫売はどっちかしら。貴女、私のお兄ちゃんに懸想してるの?」

『私の』を殊更に強調し、意図的に皮肉な物言いをする

普段であればこんな安い挑発には乗ってこないだろう

だが今の彼女の心理防壁は、とても薄い

妹「お前みたいなクソ女と一緒にするな! それに、『お前の』じゃない! 『私の』だ!」

ぺろいもしえん

女「あら、確かにそうね。貴女と一緒にされたのでは、たまったものじゃないわ」

女「自分のために殺人まで犯してくれた心優しい兄を、ナイフで突き刺す……なんてね? 私にはとても真似できないもの」

私には手持ちの武器などない

彼女が凶器でもって襲い掛かってくることがあれば、ひとたまりもないだろう

私に使えるのは拘束力のない言葉だけ、信じられるのは自分の頑強な信念だけ

妹「よく、も……抜け抜けとぉ……」

だが私は、きっと彼女が、先ほどのようにナイフを持って襲い掛かってくることはないだろうと踏んでいる

今の彼女は、刃物で人を傷つけることは疎か、それに触れることすら恐ろしいはずだからだ

妹「お前のせいだ! 私が悪いんじゃない! お前を護って、お兄ちゃんは怪我を負ったんだ!」

じゃりっと大きく一歩、足を踏み出して、断末魔の叫びの如き様相で咆哮する

妹「お前のッッ、せいだろぉがああぁぁッッ!!!」

裂帛の気迫……それでも、私はぶれない、動じない、こんなことでは決して揺るがない

女「そうね。確かにお兄ちゃんは、『私を』護った」

ひくっ──と、痙攣したような響きが彼女の喉から軋んで聞こえる

女「貴女の言う通りよ? お兄ちゃんは、『敵』である貴女から、『私を』護ってくれたの」

妹「……ち、ちが……それは、ちがう!」

不動なる強固な信念でもって、彼女を見下ろし、告げる

女「違わないわ。貴女はお兄ちゃんの敵。私がお兄ちゃんの妹」

その粛とした佇まいは、相対する少女に、神厳なる託宣と見紛うほどの威容を感じさせた

妹「……ひッ……ぁ、……ち……ぃ、ちがう、ちがうちがうッッ!!!」

女「何も違わない。貴女はお兄ちゃんを傷つけた。お兄ちゃんが護ってくれたのは私」

妹「ちがう! ……ちが、……うぅぅぅうううッッ!」

女「いいえ、違わない。貴女はこの世で最も大切な人に嫌われてしまった不幸な存在。私は実の兄から大切に想ってもらえている幸せな存在。これが……全てでしょう?」

妹「ぃ、ぁ……や、ぁ……ち、が……」

女「これの……どこに『違う』と否定できる要素があると言うの?」

女「ふふ、まったく────可哀想な、子」

────ぶちん、と、そう切れる音が実際に響いたわけではないのに、まるでそう錯覚させるほどの現象が、眼前に立ち現れた

妹「ッッッがあああああああああああああああああッッッ!!」

僅かな理性の欠片すら吹き飛ばして、自身の身体そのものを凶器と化した存在が、襲いかかってきた

私は、そんな彼女の狂態を眼前にしながら、慌てることなく、取り乱しもせず、彼女の動作をつぶさに観察して、

それまで通り、激情から心を乖離させ、至って冷静なままに────

妹「がッッ────!!」

────彼女を、思いっきり殴り飛ばした

女「……あら、ごめんなさい。私、腕力だって特別ないし、実は喧嘩だってしたことないんですけどね、ふふ」

女「ただ、お兄ちゃんと同じで、頑固者なの」

女「一度、こうと決めたことを簡単に曲げたり、変えたりできない性分だから……」

女「貴女を『無様に這いつくばらせる』という当初の目標…………それだけは、土を喰んででも絶対に完遂しますよ?」

妹「……ッ、が、あぁ……」

両親に殴られたときの恐怖でも思い出したのだろうか、意思で抑えようとしても身体の震えは止まらないだろう

女「はぁ……とんだ根性無しの期待外れ。やっぱり、お兄ちゃんに見捨てられる程度の存在ってことよね」

妹「……ッッッッ!!!!!」

……そう、意思で抑えてどうにもならないのなら、逆に感情を爆発させてやるまでだ────

やっと追い付いた
何か引き込まれるな

女「────ぐッッ!?」

ガン、と頬に重い衝撃が走る

痛い、怖い、蹲ってしまいたい、涙が出そうだ、いや、生理的反射で涙が自然と流れる

女「ッッ……ぁあああ"あ”ッッ!!」

でも、負けられないんだ

妹「ぐぎッッ────」

殴り返す……もちろん手加減抜き、本気も本気、大本気のグーパンチだ

人を平手でぶったこともないこの手が、拳を固めて、相手の顔を殴る

たったの二回殴っただけで、手の表皮が破れて血が流れる

でも、今は気にしていられない

蹲って震える少女に声をかける

女「ほんと愚図……私の方がほんの一歳、年齢が上というだけなのに、……心の強さには天地の開きがあるみたい」

女「貴女のように見た目も心もお子様なガキは、一生そうやって一人っきりで震えて生きるのがお似合いよね?」

あからさまに苛烈な物言い、わざとらしいくらい熾烈な口振り

けれどもその言葉によって、世界で一番私を嫌っているであろう少女の瞳に、また、激情の光が灯る────

***

無様に地べたに這いつくばる

挑発されて、怒りや憎しみで目の前が真っ赤になって、猛り狂いながら殴りかかる

私の拳を受けた忌々しいクソ女は、ぶべッ、とか女性にあるまじき情けない声を出した

ざまあみろッ! これでようやく涙交じりの顔で許しを乞うて戦意を喪失────

妹「ギぎゃッッ!!!」

────真正面からの痛打を受けて2メートルほど後ろにふっ飛ばされる

私が倒れ伏す間は絶対に追い討ちをかけてこない

一発殴った後は、必ず、一発殴らせる、その余裕の態度が、また、気に入らない

その顔が、その声が、その振舞いが、その全てが忌々しくて

女「大切な人を、横から出てきた女に掻っ攫われて、本当に惨めで可哀想……ふふ」

──────殺すッッッ!!!!

そんな風にしか考えることができなくなって、また拳を固めて立ち上がって、そして、いつしか私は

お兄ちゃんの怪我のことも、お父さんやお母さんから受けた虐待のことも、何もかも忘れて

いつの間にか、この下らない殴り合いに没頭していた────

────── あいつは、そう、いつだって忌々しい存在だった

何が忌々しいって、あいつはお兄ちゃんだけじゃなくて、私まで懐柔しにかかったってこと


男『……煮浸し好きだろ。食べるか?』

妹 ── うん。食べる

女『……』

男『……ん?』

男『……どうした、欲しいのか?』

女『えっ、あ、違うの! いや、ううん……違わなくて……』

女『ほ、欲しい……かな』


お兄ちゃんの不用意な言葉で、私の好物が煮浸しだって、あいつにバレてしまった

そうしたら調子にのって、あいつ、色々な種類の煮浸しを三週間も連続で作ってきやがったんだ

嫌らしい女……私のためって顔をしてるけど、どうせあれだってお兄ちゃんに媚を売るための一環に過ぎないくせに

────── あいつが作ってきたゴーヤのお漬物は、確かに美味しそうだった


男『お前も食えよ、ほら』

妹 ── いらない

女『……』

男『……』

男『……お気に召さないか。悪い』

女『え、いや、気にしないで! うん、気にしないでいいから! ……へへ』


でも、お兄ちゃんが美味しそうに食べてたのが、何だかムカついて、いらないって答えた

冷たくされても、ちっとも可愛くなんてない卑屈な笑顔を振りまいて平気だよって健気なフリをして……

そうやって、少しずつ人の心の隙間に入り込もうとしてるんだ

汚い女、嫌らしい女、忌々しい女……不快、不快不快不快

────── なにより一番、腹に据えかねたのは、あの女が猫の死体の件で同情をひいたこと

お兄ちゃんはあの女にまんまと騙されて、ハンバーグが好物だって、バラしてた

馬鹿なお兄ちゃん……謀られてるだけなのに


男『お前食ってみろよ』

妹 ── 私は味見でおなかいっぱいだからいいの

男『……はぁ』

妹 ── あいつの料理は、うまいって食べてたくせに

男『え? いまの手話、速すぎてよく分かんなかったんだけど』

妹 ── なんでもない


お兄ちゃんがあいつのハンバーグに舌鼓を打つのを想像してムカついたので、その日の晩に滅多にしない料理なんてものをした

ハンバーグは黒焦げになっちゃって、ちっとも美味しくなさそうだったし、実際お兄ちゃんもまずいって言ってた

でも、お兄ちゃんは文句を言いながらも残さず全部食べてくれた

お兄ちゃんは優しい

────── 傑作だったのは、私のトマト嫌いが原因であいつとお兄ちゃんが喧嘩したこと


女『あ、あのね、トマトが安かったからね、今日はラザニアにしてみたの』

男『……』

女『たくさん作ってきたから、その……よかったら食べてみてね』

妹 ── いらない。トマト嫌い

男『……』

女『……』

女『……え、と、もしかしてトマトアレルギー、とか?』

男『いや……その、単なる食わず嫌い、みたいなんだが』

女『す、好き嫌いは、よくないと、お……思うな!』


あのあと、あいつってば、お兄ちゃんから逆に説教されて涙目になってた……はは! ざまぁみろ

おかげで私はその日は一日中、機嫌がよかった

お兄ちゃんとお風呂に入っている途中に、お兄ちゃんが変なことを言うから、せっかくのいい気分が台無しだったけど

────── でも、あの喧嘩のあと、二人は結局すぐに仲直りしてた

というか、むしろ、前よりももっと仲良くなってそうな感じだった


女『き、今日はね、ピーマンの肉詰めを作ったんだ。もし良かったら食べてみてね』

妹 ── いらない。食べない

男『……』

女『あ……』

女『も、もしかして、ピーマンも苦手だったり、するのかな』

男『いや、ピーマンはむしろ好物だったはずだ』

女『だったはずって……へへ、へ……』

男『まぁいい。一個頂くぞ』


ピーマンは好きだし、ピーマンの肉詰めなんてもう大好物だけど、あいつが作ったものは食べたくない

いらないって言われて傷ついた顔をしてたけど、いくらでも傷つけばいいんだ

あいつがどんなに傷つこうと、私はなんとも思わない

さるよけ

────── あいつは笑顔で近寄ってくる

臆病者のくせに、卑屈な笑みを浮かべるくせに、でも、打たれても打たれても、打たれ負けずに、こっちに擦り寄ってくる

芯が強い……ううん、違う。頑固者なんだ

お兄ちゃんと喧嘩したときもそうだった。自分の考えを簡単に変えたりしない

そういう意味では、お兄ちゃんとよく似ているのかもしれない

でも、……そこがまた、腹が立つのだ

根暗な私とは違って、周囲に笑顔を振りまくあいつがムカつく

お兄ちゃんと似て、頑固なところのあるあいつがムカつく


男『いや、お前って普段から無駄に身振り手振りが多いよな、って言ったんだ』

女『そ、そうかな?』

男『それ、別に必要ないと思うんだが』

女『え……あ、でも……仲良く、なりたいから……』


私のために……わざわざ手話を覚えて、尻尾ふって寄ってきて会話したがってるのが、たまらなくムカつく──────

妹「あ"あ"ぁ"ぁ"ああああああ────ッッ」

もう何度目になるか分からない殴打を叩き込む

あいつの温室育ち然とした白い肌は、血と青痣だらけで、見るに耐えない有り様だった

妹「────ぁッッ、ギッ」

……でも、きっとそれは私も同様だろう

殴り返されて地面に顔から突っ込んで、もう痛みに因るのか悔しさに因るのかも分からない涙で顔をぐしゃぐしゃにして

ふと、……いったい私、なんでこんなことしてんだっけ?

そんな疑問が頭を掠めたけど、心よりも、立ち上がった身体の方が止まらなかった

そしてふらふらになりながら近づいて、渾身の力でアイツの鼻っ柱を殴りつけてやったけど

お返しとばかりに脳が揺れるほどの強烈な一撃を頬に叩きこまれて

それで……

ああ、もうさすがにだめだ────

……ムカつくとか、忌々しいとか、悔しいとか、死んじまえとか、確かに色々あるんだけど

それ以上にもう疲れ果ててしまって、考えるどころか、憎むことすら億劫になってしまった私は、

矜持も何もかも手放すかのように、あいつの胸の中に、倒れこむようにして意識を失った──────

しえん

そして>>1も意識を失った────

すんません限界です寝ます
ここからが本編なので……できれば保守してもらえると有難いですすみませんすみません

睡眠代行はよ

何時間書いてたんだよ氏ね











やっと追いついた

★睡眠代行始めました★

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ここからが本編ってどういうこっちゃ…

保守いないのか

最近過疎ってるしこの時間帯なら一時間くらい保つだろ

ぽしゅ

女(谷亮子)

ここから本編とかどういうことだ…終盤かと思ったぞ…
ほしゅ

まさかの二人のお昼ごはんではなく三人のお昼ごはんだったとは…喋らないからわからなかったよ

やっと追い付いたー
保守

保守ありがとうございました再開します

***

妹「──────ん、ぁ」

私の膝の上に頭を乗せた少女が、夜風が起こす草葉の音に身じろぎして、暫しの休息から目を覚ます

女「おはよう。妹ちゃん」

妹「……ッッ!!」

女「駄目、まだ安静にしてて」

頭上にある私の顔を見た途端、慌てて起き上がろうとする彼女を窘めるように、肩を抑えて身動きを取れなくする

妹「ふざけるなッッ!! 離せ!!!」

女「離さないわ。あなたが嫌がっても」

無理矢理離れようとするが、まだ力が入らないのだろう

どう藻掻いても抜け出せないと知り、次第に抵抗が収まる

妹「あんた……一体、なんのつもり?」

それでも瞳には怒りの色が見えて、血の繋がりが薄いとは言え、やっぱり彼女もお兄ちゃんの妹らしく頑固者のようだ

十年という歳月は、私よりもむしろ彼女の方をこそ、お兄ちゃんに近しい存在に育て上げてしまったのではないか

妹「こんな真似して、一体……ッ!?」

妹ちゃんの質問には直接答えず、私は、私のペースで会話をする

女「……話を、聞いて欲しいの」

妹「……」

私の神妙な気配に何かを感じ取ったのか、彼女も一端引いてくれたようだった

女「……私の、幼い頃の話」

女「あなたも知っての通り、私のお父さんとお母さんは芸能人だったの。一昔前では、日本では知らない人がいないくらい有名だった」

女「そして、二人は不倫関係にあった」

妹「……」

女「マスコミは、二人が不倫旅行中に事故に合って死んだことをセンセーショナルに取り上げたわ。面白おかしく」

女「当然、隠し子であるお兄ちゃんや私も、好奇の目に晒されることになった」

女「まだほんの子供だった私にはよく分からなかったけど、遺産相続でかなり揉めたってことだけは伝え聞いてるわ」

女「父さんには本当の奥さんが、お母さんには本当の旦那さんがいて、さらにそれぞれ子供がいたみたいだし、親戚も多かった。もう無茶苦茶ね」

女「そして、私達はそんな大人たちの思惑に振り回されて、最終的に、別々に暮らすことになったの」

起きたのか

女「私ね、子供の頃は一時期…………鬱病で、ひどい状態だったの」

女「今は随分と回復したけれど、未だに根治には至っていないわ。もしかすると、一生付き合っていく必要があるのかもしれない」

膝の上の少女の顔が、少しばかりの驚きの形に表情を歪ませる

女「お医者様が言うには、原因は一つじゃなく、多面的・複合的なものだろうって」

女「マスコミの連日の訪問に対するトラウマや、周囲の人たちの好機の視線への恐怖、……学校へ行けばクラスメイトに嘲笑され、虐められたわ」

女「それでも、お兄ちゃんが側にいてくれれば耐えられたかもしれないって、今でも思うの」

私はお兄ちゃん子だったから、と笑いながら付け足す

妹ちゃんは、初めて芽生えた心のうちの恐怖を振り払うように、私から目を逸らした

女「うん。そうだよね。私たち、今きっと同じこと考えてる」

女「私にはあなたの苦しみが分らないし、あなただって私の苦しみは分からないと思うけど、とにかく私たちは二人とも、幼少期に耐え難い苦しみを味わってきた」

女「……でも、そんな私達二人のうち、お兄ちゃんが側にいて護ってあげられたのは────あなたの方だった」

先ほどから目を逸らし続けている少女のその顔に、今度こそ苦悶の表情が表れる

女「今更それについて恨み言をいうつもりはないの。私には優しい養父母がいたのだし」

女「でもね、ひとつだけ言わせて欲しい」

女「……あなただけが、苦しんでるなんて思わないで」

妹「私は……そん、な……」

少女の顔が、これまでとは異なる種類の恐怖に歪む

兄を盗られる恐れとも、私に殴られる怖れとも異なる、自分の心の内に撒かれた新たな恐怖に

女「みんな多かれ少なかれ苦しんでる」

女「お兄ちゃんはあなたのために手を汚した自分の生き様について悩んでいる」

女「私は、小さな頃に受けた心の傷が未だに塞がり切らないまま」

女「そしてあなたは、叔父さん達に虐待されたことが原因で、家族愛というものに異常なまでの執着をもっている」

噛んで含めるように言い聞かせる

女「でもね、私は、手垢にまみれた言い方かもしれないけど……そんな自分の運命に、負けたくないの」

女「辛い経験を負った人は、その後も辛い人生を歩まなくてはならないの?」

女「どうして、私たちが幸せになっちゃいけないの!?」

それは少女を説得する言葉でありながら、自分の本心の吐露でもあった

女「憎しみや苦しみの連鎖に囚われて、自分から幸せを放棄するなんて、そんな生き方、私は絶対に認めない」

妹「でも、……でも、私は、お兄ちゃんが、……お兄ちゃんさえいえれば……」

揺れる心、さらに一石を投じて波紋を呼び起こす

女「ねえ、あなたのトマト嫌いが原因で、私がお兄ちゃんと喧嘩しちゃったこと、覚えてる?」

妹「……ぇ、?」

女「私ね、今でもあの時の自分の考え、間違ってるなんて思ってない」

……私は、頑固者だから

そう心の中で誇らしげに呟いて、少女の瞳をまっすぐに見据える

女「私はね、好きな人には自分の考えを分かって欲しいし、共感して欲しいの」

女「私だって、これがわがままなことだって分かってる」

女「でも……でもね、わがままを言わなきゃ、好きなものが手に入らないことだってあるの!」

妹「好きな、もの……」

少女はあまりに真っ直ぐな視線を向けられることにたじろいで、でも、その目線を逸らすこともできない

女「うん、……あなたと、お兄ちゃん」

今北産業

女「あの学園に転入してきてから、最初はお兄ちゃんと仲良くなることで必死だったけど」

女「段々環境にも慣れて、心に余裕ができると、次第にお兄ちゃんの側にいる可愛らしいあなたと、お友達になりたいって思うようになったの」

妹「……ッ」

羞恥と忌々しさ、どちらにも対応を決めかねた変な表情になってしまう

女「お兄ちゃんはね、私と絆を結ぶ資格がないって悩んでた」

女「だって……絆って、お互いが互いを想い合わないと結べないものね」

女「私もずっと悩んでた。あなたとどうすれば絆を結べるんだろうって」

女「だから、手話を覚えたり、あなたの好きな食べ物を作ってきたり、好き嫌いを窘めたりしたわ」

女「それは、一方通行でひとりよがりな行為かもしれないけど、それでもいつか届くと願って、頑張ったの」

優しさを込めて向ける笑顔、笑顔を向けられて痛む心

妹「……私は、嬉しくも何ともなかったわ」

女「ふふ……そうだね、それだけが残念だった」

さして残念そうでもない風に答える

妹ちゃんが私の膝元から身を離して起き上がり、ようやく正面から相対してこちらを見つめる

妹「……あんたのご高説は立派だけどねぇッ、私には家族がいればいいの!」

妹「家族であるお兄ちゃんさえいてくれれば、他はどうでもいい。友達なんているもんですか!」

妹「食べ物の好き嫌いなんて、それこそ勝手にしろって話でしょ!?」

妹「お兄ちゃんに言われるならまだしも、なんであんたなんかに怒られなくちゃいけないわけ!?」

強い視線で睨み返され、思いの丈をぶちまけられる

でも私は揺るがない、負けない

女「家族でなくちゃ叱っちゃ駄目って、誰が決めたのッッ!?」

妹「……ッ」

女「……私は叱るよ。あなたが私を襲おうとしたこと。過失とは言えお兄ちゃんを刺したこと!」

女「あなたが、私を追い詰めるために、お兄ちゃんがあなたのためにした過去の過ちを持ちだして、お兄ちゃんを傷つけたことッ!!」

妹「……それ、は……ッ」

さるよけ

女「私はこう思ってるの。人と人とが絆を結ぶために必要な、ただ一つの資格は……」

絶対に目を逸らさない。倒れそうなくらいに強い視線をぶつける

女「相手のことを、本気で叱ってあげられる気持ちを持つことだって」

妹ちゃんが震える

自身の罪を、あるいは、自分の心の弱さを暴き立てられることに怯えて

女「他人に優しくすることは、心に余裕があれば、誰にだってできることだわ……妹ちゃんに接し始めた最初の頃の私みたいに」

女「でも相手のことを本気で心配して叱ってあげられるのは、本心から相手のことを大切に思ってないければできないことだって、そう思うの」

女「それは、時にはひとりよがりになってしまうかもしれない」

女「自分のことを棚にあげることだってあると思う」

女「叱り方が不器用で、うまく表現できなくなっちゃうことだってきっとある」

女「食事の好き嫌いを窘めるなんてことは、ただ空回ってるだけの行為なのかもしれない、けど────」

少女の揺れる瞳の中に自分の姿が映る、……本気で怒っている表情を浮かべた自分の姿が────

女「それでも、これがわがままだとしても、私が今──────あなたのことを本気で大切に思ってるのは確かだもんッッ!!」

妹「……ッ、ぁ、……あ、…………」

さるよけ

女「人を傷つけるようなことを、言っちゃ駄目でしょう?」

────今度こそ、本当に瓦解しそうだった

女「人を本気で殺そうとするなんて、駄目に決まってるでしょう!?」

両親に求めても得られなかった無量の愛を、赤の他人である目の前の少女が自分に与えようとしている現実

女「自分の苦しみにばかり目を向けて、他人の苦しみには鈍感でいいわけがないでしょう!?」

それは両親の死後誰も自分にはぶつけてこなかった感情

女「憎しみの連鎖の中に身を置いて、自分も周りも破滅させるなんて見過ごせるわけないでしょうッ!?」

だから、こんな風に叱られるのはとても怖くて、怖くて怖くて怖くて、でも、本当は────

女「自分をこれ以上傷つけるのも、周りにこれ以上迷惑をかけるのも、──────いい加減にしなさいッッッ!!!!」

妹「ぁ……あ……、ぅ……ぐすッ……ぁ、あ……」

まるでそれは、自分が欲しくて欲しくてたまらなかった、幻想の中の両親だけが与えてくれた、あの優しい言葉のようで

混乱して、もうどうしていいかなんて全く分からずに、足がすくんで、一歩も動けなくなる

妹「……ぁ、ッぐ……で、でも、……ッ」

妹「それでも、……ぐすッ…………あなたは、他人だものッッ!!!」

自分の中の譲れぬ一線、……最後の防衛線

それを飛び越えられるのを恐れるように、必死で、たったの一言を返すのが精一杯で

女「……そう、だね」

なのに、目の前で叱責をするその女は、さらに一歩、叱られて子供のように怯える少女の側に踏み込んだ

女「確かに私は、あなたとは何の関係もない、他人だもんね……」

他人だと認めつつも、絶対に距離を離そうとせず、むしろ一層縮めていく

妹「ち、近づかないでぇッッ────!」

その言葉はもう悲鳴に近くて、恐怖で頭がいっぱいで、他のことを考える余裕なんて無いはずなのに

────その瞬間、少女の頭には浮かんだのは、なぜか

ある一人の女の子が、毎日自分のために作ってきてくれた料理のことや、

自分が邪険にしても絶対に諦めないで根気強く笑顔で話しかけてきてくれたことや、

そして、その女の子が、耳が聞こえる自分に身振りや手振りで会話を試みるのがおかしくて、つい気まぐれで返したほんの一言だけの言葉を、

まるで、何よりも大切な宝物を貰ったかのような表情で、嬉しそうに何度も何度も心の内で反芻していたこと────

……そんな、何てことのない思い出の泡沫だった

妹「……や、だ、……だめ……ッッ」

女「私は、あなたと心の絆を結びたいって、本当にそう思ってるの……」

────そして、家族でなくても絆は結べると豪語していた頑固者の、その女の子は、

女「だけどね……それでもね…………」

女「それでももし、あなたが、どうしても不安だって言うならね……ッッ」

自分にとって最も大切な人たちを護るために、もう二度と自分の夢の欠片を手放さないために、ほんの少しだけ信条を曲げて、半歩だけ相手に歩み寄る

女「家族以外の誰も、何者も信じられないって、あなたが、どうしてもそう思ってしまうのなら………ッッ!!!」

最後のその半歩の距離を縮めて、目の前の小さな身体を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる

妹「────ッ」

声は悲鳴にならなかった。強く、強く、二度と離すものかと抱きしめて、かき消してしまったから

胸に抱かれて感じた抱擁の暖かさは、夢にまで見た幻想の両親が与えてくれた、あの温もりに等しく

背中にきつく回された腕の確かな感触は、まるで自分を罰してくれているかのように、この上なく力強くて

いま最後の決意を胸に秘めて、あらゆる悪意から護るように、心の底から情愛を込めて、誰よりも優しく叱りつけるように────



女「────────私が、あなたのお姉ちゃんになるッッ!!!」

支援

ほう!

妹「──────ッ、ぁ、あ……ああ、」

胸の中で嗚咽を漏らす小さな少女を、絶対に離さない

女「私は、好き嫌いなんて許さないんだから!」

妹「ひ…ぁ…ぐすッ……ひッく…ぁぁ………」

女「お風呂だって寝るのだって、一人でしないと駄目なんだから!」

次第に少女は、泣き声を留めることができなくなる

女「あなたがいたずらしたときには、いっぱい叱ってあげるからッ!」

妹「あッ……う"ぁ”……ぁ”……ひぐッ…ぁぁああ………」

女「人にひどいことを言ったときは、本気で怒ってあげるからッッ!!」

妹「…う"、ああああ"ぁ”ぁぁ…………」

女「……だから……ね?」

女「だから、お願い……ッッ。私の……私の妹になって────」

妹「ッう”わぁぁあああああ"あ”あ”ぁぁぁ……ッッ」

胸のなかで子供のように泣きじゃくる少女を、優しく撫で擦る

彼女は、いま初めて肉親の愛に触れたかのように、強く、強く追いすがってきた

この子が求めても得られなかった情愛を、目一杯注いであげよう

それはきっと、私自身にとっての救いにもなるはずだから

女「あなたは、……私がいることで、お兄ちゃんの愛情が半分になるって恐れてたけど、そうじゃないんだよ」

女「これからは、私とお兄ちゃん合わせて、倍の愛情であなたを包み込んであげるから、ね?」

妹「うわああぁぁ"ぁ"ッッ……ひぐッ、ッうあああ"あ"あ"ぁぁぁ…………」

殴りあって、言い争って、すがりついて……

そうやって初めて、胸のうちの怒りや憎しみ、妬みや悲しみ、そんな心に暗い影を落とす様々な感情が洗い出されていく

それは冷たい夜風に気付かされる季節の変遷に呼応した、必定の移ろいでもあるかのようだった

暗鬱たる激情の日々は夏の終わりと共に幕を閉じ、いま、澄み切った秋風が心の澱を消し去っていく

巡る四季は、ときに冬の凍寒を、ときに春の寧息をもたらすかもしれない

ただ、いまこの一瞬は、見果てぬ水平線の闇の先に、夜明けを告げる、朝焼けの鮮やかな色彩が近づいていた

これから本編だっけ?
もう終わりかと

***

────── エピローグ



女「────ね、ねえ、妹ちゃん、菜箸どこに置いたかしら~?」

妹「もう! お姉ちゃんってば料理は上手なのに、本当に片付け下手なんだからー!」

女「へ……へへへ……ごめんね~」

妹「愛想笑いで誤魔化さないの! 全くもう、な~にが『叱ってあげる!』よ」

妹「いっつも、私の方がお姉ちゃんを叱ってばっかりじゃない!」

女「そ、そんな風に言わなくったって~~」

妹「あぁ……あの時の格好いいお姉ちゃんはどこにいったのかしら……」

妹「もしかして、途中で別人にすり替わってたりしてないわよね?」

妹「あんた偽物? 偽物なの!? この、この~!!」

女「い、いもうろふぁん、いふぁい、いふぁいよ~~、ひっふぁらないへ~~」

──── あの後、私は泣きじゃくりながらお姉ちゃんに手をひかれて一緒に病院に戻ったんだけど、そこからが大変だった

お姉ちゃんと私の怪我は、自分たちの想像以上に酷いものだったようで、

帰院後すぐに緊急施術と相成った(お姉ちゃんは鼻の骨に、私は頬骨に、それぞれヒビが入っていた)

私の方は身体の怪我以上に、喉の方が相当にまずい状態だったらしく、下手をすると二度と喋れなくなっていたかもしれないとのお叱りも受けた

二人とも厳重な監視のもと入院の運びとなり、加えて私の方は以降3ヶ月は喋れない状態が続いた


女「あ、妹ちゃん! そのハンバーグ、そろそろひっくり返して~」

妹「……というか、うちは元々食卓のハンバーグ率が高いんだから、何も、お誕生日会の時にまで作らなくてもよかったんじゃない?」

女「だ、だって~。お兄ちゃんっていつも『またハンバーグかよ』って言いつつ、美味しそうに食べてくれるんだもの」

女「つ、ついつい作っちゃうのよねぇ……」

妹「はいはい、ノロケ乙、ノロケ乙~」

女「で、でもでもほら、妹ちゃんの好物の煮浸しだって今日は五種類も作ったんだよ!?」

妹「いや、そんなに食べられないから────って、玄関のチャイムだ。お兄ちゃんたち帰ってきたんじゃない?」

女「あ、そうみたいだね~。妹ちゃん見てきてくれるかな。私は料理を並べちゃうから」

妹「あ~い」

きもちわりー文だな、どんな顔して書いてんだろ

入院することになった私たちを心配して、お兄ちゃんが血相を変えて見舞いにやってきた時のことは、今でも覚えている

私たちを心配する言葉をかけてくれるのかと思いきや、開口一番「うわ! ぶっさいくな面だな~お前ら!!」だもんね

お兄ちゃんと顔を合わせたら真っ先に謝ろうと思っていた私も、余りの事態に唖然としてしまって……

そんな私の気持ちなんて露知らず、私たちを指さして笑うお兄ちゃんを見てさすがに頭にきて、お姉ちゃんと一緒にお兄ちゃんのほっぺたを殴りつけてやったっけ

……でも、その時からかな。私たち姉妹の間に、何だか奇妙な連帯感が生まれたのは

それ以降、お兄ちゃんがお姉ちゃんをからかうと私が叱り、お兄ちゃんが私をからかうとお姉ちゃんが怒ってくれるようになったんだ

お兄ちゃんは妹二人に責められて肩身が狭そうだったけど、それでも以前より幸せそうな顔をしていた


妹「おかえりなさい! 二人とも!」

男「ただいま」

先生「────お邪魔させてもらうよ。今日は誕生日会に招いてくれてありがとう」

妹「ほら、外は寒かったでしょう? 早くあがってあがって!」

男「お、おい! 引っ張るなって!?」

長い
冗長だから早く終われ

男「おっ。美味そうじゃんか~。さすが自慢の妹」

女「ふふ……もう、こんな時くらいしか褒めてくれないんだから」

妹「私だって手伝ったんだよ!」

先生「それにしても……これは凄い量だねぇ。食べきれるかなぁ、はは」

女「さあ、それじゃ、みんな席につきましょう?」

妹「って、あぁッ! ……トマトのサラダがあるじゃん。いつの間に作ってたのぉ、お姉ちゃん!?」

女「ふふ。反対すると思って、こっそり……ね?」

妹「う"ぅ~~」

女「妹ちゃん────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」

妹「はぁい。わかってるよぉ……もぅ……」


────あの日以降、私は、(できるだけ)食べ物の好き嫌いを言うのを控え、(できるだけ)一人でお風呂に入るようにもなった

ただ、それも決して嫌々ながら従ってるというわけではなくて、お姉ちゃんに笑顔で見つめられながら「わがままは駄目だよ?」って言われると、何故か……

その……自分でもよく分からないのだけど、何故だか心が暖かくなって、嬉しくなってしまって、逆らおうにも逆らえなくなるのだ

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

なあ、まだ長いんなら割とマジでSS速報で1からゆっくり投下した方がよくないか?

うめ

終わったら教えて
まとめるから

入院しているとは言え、私は殺人未遂事件の被疑者。当然、警察の人も取り調べをしようとしたんだけど……

喋れない状態の相手では詳細を聞くのも難しいとのことで、お兄ちゃんへの聞き込みの方が優先されたみたい

でも、お兄ちゃんは当然のことのように私をかばってくれて、結局、大きな問題には発展せずに済んだ

────そう、あくまでも、私の起こした事件に関しては、だ


先生「……さて。みんな、今日は僕のためにこんな席を設けてくれて本当にありがとう」

女「その、奥さんもいるのに……ごめんなさい。本当によかったの?」

先生「いや、この間も言ったとおり、妻はいま臨月で入院しているからね」

先生「今回のことを話したら、言っておいで、って快く送り出されたよ」

妹「はやく赤ちゃん見たいなぁ~」

男「お前は落っことしそうだから抱かせるのが不安だよ」

妹「そ、そんなことないもん!」

お兄ちゃんは一ヶ月ほどで退院できたのだけど、その後、何を思ったのか七年前の事件について警察に自首をして、しばらくの間拘留されることになった

後で理由を聞いたら、「けじめをつけたかった」……だって

でも、何せ七年も前の自動車事故だし、既にまともな証拠なんて残っていない

お兄ちゃん自身、当時の記憶に曖昧な点があって、自白としての決め手に欠けると判断され、起訴されることもなく放免となった

その際、お兄ちゃんの『先生』であるところの彼が、お兄ちゃんのカウンセリングの際の記録を持ちだして、

お兄ちゃんの当時の不安定な精神状態に言及して擁護してくれたことも後押しとなったらしい


男「それじゃ、いただきます」

女「どうぞ召し上がれ」

先生「…………うん、すごく美味しい! このハンバーグなんて、お店に出せるレベルじゃないかなぁ」

男「はは、そうだろう、そうだろう? 羨ましいだろう?」

妹「どうしてお兄ちゃんが偉そうなの~?」

先生「いや、本当にお前が羨ましいよ……まぁ、僕の家内の作る料理には負けるけどね?」

女「ふふ……やだなぁもう、早速ノロケなの?」

お兄ちゃんが警察に七年前の事件で取り調べを受けている頃、もちろんそのことは凄く気になっていたけれど、

同時に私は、本当にまた自分が喋れるようになるか、もしかして二度と声が出せなくなるんじゃないか、と不安な日々を過ごしていた

でも、声を取り戻すまでの三ヶ月間、献身的に私を支えてくれたお姉ちゃんの顔を思いだすと、今でもじんわりと心が暖かくなる

それまで私は一人で眠ったことなんてなくて、お兄ちゃんが側にいない夜は寂しくて泣きそうだったけど、

そんなときでも、二日に一回くらいは、お姉ちゃんが一緒に布団で寝てくれた

まぁ正直に言えば……そのときの名残りというか何と言うか、今でもたまにお姉ちゃんと一緒に寝ることはあるのだけれど

そして三ヶ月の月日が過ぎ、お医者様の許可がようやく下りて、緊張しつつも、私は、恐る恐るそっと声を押し出してみた

声は……無事に出た。みんなが綺麗な声だねって褒めてくれた私の声……

私が二度目に声を取り戻したときの最初の言葉は────「お姉ちゃん」だった


男「────ああ~、もう食えない。限界」

女「えぇッ!? まだこんなに残ってるよ~~!?」

先生「はは……、さすがに僕ももう限界かな。これ以上胃に詰め込んだら破裂しそうだ」

妹「だから作り過ぎだって言ったじゃないのよ~~ッッ!!」

その後リハビリを経て、完全に声を取り戻してからは、それまで内に溜め込んでいた言葉が溢れ出てくるように、もう止まらなかった

私は(比喩じゃなく)三日三晩お姉ちゃんと話し続け、そのせいで喉がまた炎症を起こして、お医者さんに大目玉を食らった

……でもその三日間、私とお姉ちゃんは、本当に本当に色々なことを語りあった

子供の頃のことや、成長してからのこと……でもその話題の中心はと言えば、いつもお兄ちゃんに関することだった

そしてたったの三日で私たちはお互いのことを完全に熟知し合って、その結果、私たち二人は、この世界で誰よりも強い絆をもつ姉妹となった

……あ、そうそう

「あの時どうして殴り合いを?」と聞いたら、「むかし少年漫画で読んで、ああいうのに憧れてたの~」と暢気に言いやがったので、一発叩いておいた

別に怒ってるわけじゃない……あのおかげで、心の中の嫌なものが全部洗い出されてしまったのは確かなのだし

ただ、私たち姉妹の魂の対話が、よもや漫画の真似事だったなんて……ッ!

やっぱり悔しくなったので、もう一発だけ追加で頭を叩いたら、お姉ちゃんは「あぅっ!」と、あの時の凛々しさとは程遠い鳴き声を出して涙目になった


先生「……今日は本当にどうもありがとう」

男「送っていこうか?」

先生「はは……男に送られる趣味はないさ」

先生・・・このロリコンがっ!!

>>1をNGにしたら見易過ぎワラタ

うわぁ…

これからやっと本編のイチャイチャが見れるのか
保守したかいがあるぜ

>>292
一番のキチガイはID:zc1jbPTBOだけどな
前の日から一日中張り付いてる

先生「もう……大丈夫だな」

男「うん。……『先生』には、本当に感謝しています」

男「俺たちが施設を出て、今こうして三人暮らしをできるのも、『先生』の色々な取り計らいがあったからこそです」

先生「はは、くすぐったいから止めてくれよ。もう、カウンセリングは終わったんだから」

男「……俺の罪は消えない。一度生じてしまった罪の解消なんて……問題の解消なんて、多分できないんだ」

男「それでも俺は、たとえ自分勝手だって人に誹られても、自分とあいつらとの幸せを取ろうと思う」

男「自分の罪と向き合いながら、妹たちのことを、家族として愛そうと思う」

先生「そうか……うん。本当にお前は成長したんだな」

先生「今だから言うが、ずっと後悔していたんだ……僕の、あの時の選択は、間違っていたんだって」

男「……」

先生「お前は、僕を恨んでいないのか?」

男「まさか…。見方を変えて言えば、あんたのおかげで俺は妹を二人も持つことができたんだ」

>>295
あ?もしもしでやるのがどんだけ辛いかお前にわかんの?

>>297
辛いのにやってんの?
お前はそいつの母親かなんかなの?

男「あんたが自ら施設に行くことを志願したのは、俺たち二人が養父母の元で幸せになることを願ったからだろう?」

先生「……」

男「確かに叔父さんたちは実際には最低の人間だった。でも、叔父さんたちは外面だけは良かったからさ……」

男「今から十年前……当時まだ十六歳だったあんたに、狡猾な大人の思惑や裏の顔が見抜けなかったとしても、それは仕方のないことだったと思うよ」

先生「……そしてその三年後、叔父さんたちが死んで、お前たち二人が施設にやって来たときには、僕は既に施設を出ていた」

男「俺たちは、何もかもが……すれ違いの連続だったんだな」

先生「だから僕は、お前のカウンセリングを担当することを、自らの罪滅ぼしのように感じていたのかもしれない」

先生「最低だな……すまない」

男「謝らないでくれよ……さっきも言った通り、感謝してるんだ、本当に」

先生「そうか……うん、わかった。……ありがとう」

先生「今度はうちに遊びに来い! あの子たちに我が子を抱かせてやりたい。……それじゃ、また」

男「うん。必ず行くよ。だからその時まで……」



男「待っててくれよな────────兄さん」

>>298
ヒマだからに決まってんだろーが

口げんかついでに保守するとか、おまえらツンデレだな

兄だったのか・・・

女「兄さん帰ったの?」

男「ああ、『泊まっていけば』って言ったんだけど、『家内のことも気になるし』って帰っちまった」

女「相変わらず、なんだか大人な感じだね~」

妹「そりゃ、お兄ちゃんより八歳も……、お姉ちゃんと比べれば九つも年上なんだから大人でしょうよ」

女「ふふ、私とお兄ちゃんは一歳差なのにね……って、お父さんとお母さん、もしかして出産計画とか全く立てずに私たちを産んだのかなぁ?」

男「そりゃ実の配偶者との子供がいるのに不倫して俺たちをこさえる奴らだぞ……計画性なんてあるはずも無かっただろうよ」

妹「……でも、そのおかげで私はお兄ちゃんとお姉ちゃんをゲットできたんだから……私的には感謝、だなぁ……」

妹「あれ? ……待てよ? 今回の件、兄さんがお兄ちゃんを、お兄ちゃんがお姉ちゃんを、お姉ちゃんが私を支えてくれたってことは……」

妹「実は陰の功労者は兄さんで、実地で大活躍したのがお姉ちゃんで……お兄ちゃんは二人のただの仲介役、というか脇役?」

男「なッ、……なんだそりゃッ!? 俺がどんだけお前らのために心も身体も砕いたと思ってんだ!!?」

女「ふふ……拗ねない拗ねない。私も妹ちゃんも、きちんと感謝してるから。ね?」

妹「あはは……冗談だってば、もう。拗ねない拗ねない」

男「く、くそ、お前ら~……女二人で徒党を組みやがってッ!」

>>301
こんなレスが付かないつまんないスレならいくらレス消費しても問題無いからな


長くなるとまとめのコメントで叩かれるよ

失語症じゃなくて失声症っていうんだよ馬鹿
さっさと死ね

>>303
妹「兄さんって呼ばせて下さい」のまとめ読んでこいよ 3時間コースだ

>>305
だるい

妹「ねえお姉ちゃん、今日、一緒に寝てもいい?」

女「もう、仕方のない子ねぇ……でもお風呂は一人で入るのよ?」

妹「やった! ありがと、お姉ちゃん!」

男「……」

妹「ん? なに、お兄ちゃん……もしかして寂しいのぉ?」

男「ニヤニヤしながら阿呆なことを言うなこの阿呆」

女「お兄ちゃん? 娘離れできない父親じゃあるまいし、しっかりして下さいよ?」

男「ぷりぷりしながら真に受けて怒るなこの天然娘」


──────賑やかな宴が終わり、今日という穏やかな一日も、また過ぎ去っていく

そしてそれに呼応するように、この、数奇な運命を辿った、とある家族の物語も幕を閉じる

これは、兄が、傷ついた弟を立ち直らせようとした償いの物語

これは、弟が、一度は分かたれた少女の手をとろうと藻掻いた絆の物語

これは、姉が、今は何よりも大切にしたいと思える妹を家族にもった姉妹の物語

そしてこれは、妹が、求めてばかりいた愛を他人に与えることの意味を知った、愛の物語

荒らしている方々へ。
一つ言わせてもらっていいですか?誤解されてるみたいなんで。

私はキャラたちを愛していますし、たとえそれが今回の作品の「男」「女」「友」というような、何人ものSS作家達に使われてきたものだとしても…ある程度のアイデンティティは持っています。

この物語を見てどう感じたか、どう思ったか、それはあなた方1人1人の自由です。そして、それは一生自分のものとなります。

私はいくら馬鹿にされても構いません。しかしこの物語を少しでも面白いと思ってくれた読者すまの、言うなれば私の「仲間」の感性を馬鹿にされるのは我慢できません。(作中でも「男」が似たようなことを言っていましたね?)

読者様へ。
必ず続編を書きますのでご心配なく。
真の芸術は初めは理解されないものです。

ss作者の頭悪そう

>>308
誰だお前は

これはそんな、兄と、弟と、姉と、妹の────彼ら四人の物語だ

…………私は、お兄ちゃんとお姉ちゃんの笑顔を見つめながらこの上ない幸せを感じて、ふと、瞳を閉じる

瞼を暗幕とし、それを閉じてもたらされる暗闇を、この物語の終わりに代えるように

お兄ちゃんとお姉ちゃんの会話が……現実の喧騒が私の耳から遠のいて、そして、私はいつしか夢を見るんだ

届かなかった幻の欠片を手に入れた私が見る夢の景色は、きっと、あの日にお姉ちゃんと見た朝焼けの美しさに違いない

そんな風に想像しながら、私は、多幸感に包まれて、そして世界は、暗転して────


女「あ~~~ッッ!! 妹ちゃん、トマト残してる!!!」

妹「やばっ! お兄ちゃん、後は任せたから!!」

──────ついでに言うと、ここから先は、お姉ちゃんが私に好き嫌いを克服させる物語本編の幕開けだ

そしてきっとその物語は、これまでのお話よりも、ずっと笑顔の多い楽しいもので、きっと涙が出そうなくらい暖かなものになるはず

だって私たちの絆は、────ね?、ほら、こんなにも、強く、強く、

誰にも解けないくらいに強く、この世界で一番幸せな形をとって、結ばれているんだから──────



────────そうだよね、お兄ちゃん、お姉ちゃん!!

これ実話だったら笑えるな
フィクションでも脳を疑うけど

女「────好き嫌いなんて、許さないんだからね?」 fin.


俺は好きだったぞ

で趣旨は何なの?

ID:zc1jbPTBO は一人で延々保守してくれてありがと
ID:DeUzbi3S0 はミスリードにひっかかってくれてありがと

暇な人は宇宙人と幼女がいちゃいちゃするSSも読んでみてね!
http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51700401.html

乙でした 楽しかった

途中 >>305のスレの人かと思ったけど、違うっぽいな

乙!

え…







イチャイチャは?

失声症を間違えた時点でゴミ

面白くなかったけど、乙
何というか、全然違うんだよな
何が違うのかは分からんけど読んだ後に何も残らない感じ
なんか足りない感じ

乙楽しかったよ

なんかID変えて必死なやつ多いなw

>>321
お前せっかくの日曜に長文SSわざわざリアルタイムに全部読んでその結果が何も残らなかったのか…

大層乙であった

擁護してる奴多いがこれ乙っていうほど面白いか?

>>327
途中までは面白かった

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年06月13日 (金) 13:19:51   ID: G7TMsRp1

読み切った

2 :  SS好きの774さん   2014年07月06日 (日) 00:53:05   ID: T_llYXJG

なんかイライラする

3 :  SS好きの774さん   2014年12月08日 (月) 00:32:17   ID: KGqMgW3O

すばらしい

4 :  SS好きの774さん   2015年03月12日 (木) 01:35:12   ID: mIL4okcF

5 :  SS好きの774さん   2015年04月09日 (木) 23:35:23   ID: ZB5lRgrJ

いやぁーよかった
最後ワロタwww

6 :  SS好きの774さん   2015年08月29日 (土) 08:21:00   ID: fTJm6CvF

最後可哀想過ぎワロタ

7 :  SS好きの774さん   2015年12月06日 (日) 12:28:07   ID: kgcTw_-7

最後www

8 :  SS好きの774さん   2016年02月01日 (月) 01:36:00   ID: _J-mJk9f

いや〜、とてもいい話だったなぁ〜‼︎
最後可哀想過ぎワロタwwwwww

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