千秋「黒髪の姫騎士」翠「参ります!」 (12)

・モバマスの黒川千秋、水野翠のSSです。
・地の文ありです。

「急に呼ばれたけど……悪い用事じゃなさそうね、その顔は」
 持って生まれた歌唱力を、人一倍のレッスンで開花させる歌姫、黒川千秋20歳。
「私たちに、お仕事のお話ですか? プロデューサーさん」
 一射一生、どんな仕事でも真剣に臨む弓道少女、水野翠18歳。

 ふたりは同じプロダクションに所属してはいるが、プライベートの付き合いはない。
かと言って殊更対立しているわけでもない、ごく普通の仕事仲間である。
 その千秋と翠が、担当プロデューサーのデスクの前に並んで立っている。窓からのそよ風が、
二人の髪――千秋のロングヘアと、翠のポニーテールをふわりと揺らした。

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黒川さんと聞いて

「ああ。取ってきたぞ、CMの仕事」
 千秋と翠の担当プロデューサーは、平々凡々を絵に描いたような容姿ではある。
美女ふたりの前では、通行人A、いやPも同然だ。
が、時たま妙な縁から仕事を取り付けてくる。侮れない。

「この、ラッ……おっと危ない、リッチな高級シャンプーなんだが、聞いたことはあるか」
 この物語はフィクションであり、実在の商品とは一切関係ありません。べ、別に筆者は
試供品とかもらってないんだからね!
「ええ、ヒアルロン酸が配合されてるやつでしょ。似たようなのは使ってるわ」
 千秋はこのくらいのグレードの製品は、普通に使っていた。それも投資のひとつだと
思っている。
「そんなものが入っているんですか!? 言葉の意味はよく分かりませんが、
た、高そうですね……」
 対して翠は、そういう贅沢に縁のない少女だった。親が買ってくる、お値打ち品を
使っている。

「それで、だ。メーカーの希望はふたつ。ひとつはもちろん『長くて美しい黒髪の持ち主』
であること。日本市場で売りたいわけだからな。これは千秋と翠のためにあるような条件だろ?」
「……!」
 千秋と翠の頬が、さっと朱に染まる。共にまんざらでもなさそうな表情だが。
「ん、何か悪いこと言ったか?」
「な、なんでもないわ」
「ぷ、プロデューサーさんてば……」
 通行人Pの分際で、死んでしまえばいいほど鈍感な男である。

「もうひとつ、『アクションシーンがこなせる』こと。しかも本格的なドレスを着て」
 これには千秋が目を丸くした。
「ドレスでアクション? ダンスじゃなくて?」
「『髪のダメージに勝つシャンプー』を表現したいんだと。クリエイター様の考えること
は分からん」
「そうね。ドレスでアクション、ちょっと意外かもね」
 千秋の表情はかなり固い。やはり彼女の本領は、静かな動きの中でこそ発揮されるのだろう。
「そうですか……今までの稽古、活かせるといいですね……どうだろう」
 それに比べると翠は、不安と期待が半々といったところか。弓道で得たものは、意外な
所で応用がきくのかもしれない。きかないのかもしれない。

「まあ2、3日後には制作会社の人と打ち合わせに入ってもらうから、詳しい話はその時
だな! 頼むぞ、千秋、翠」
 プロデューサーが努めて出した明るい声も、むなしいだけだった。

墜ちそう

 プロダクションでの一日が終わり、千秋は寮に戻ってきていた。
「長くて美しい黒髪……私のためにあるような条件……お上手なんだから」
 今夜はバスルームで過ごす時間が長い。いつにもまして丹念にロングヘアを洗い、すすぐ。
黒真珠を溶かしたような髪と、色白の柔肌との対比は、見事としか言いようがない。
 一時は切ろうかとまで悩んだ髪のために、プロデューサーが仕事を取ってきたのだ。
歌の仕事にも負けないほど、今の千秋は静かに燃えていた。

 だが。

「髪なら負けないのよ、髪なら……アクションってなによ」
 間違いなく、運動神経で千秋は翠にかなわない。これがアクションシーンを撮るうえで、
どれほどのハンデになるか。予測のつかない恐ろしさがある。
「悩んだってしかたないわ。トップに立つためには練習あるのみ。今までずっと、そうして
きたんだもの」
 黒川千秋、これほどまでに2歳下の同僚を意識したことはなかった。ライバルとして。

(長くて美しい黒髪……私のためにあるような条件……そんなことないのに)
 同時刻。翠は闇に沈んだ自室の真ん真ん中で、目をそっと閉じて正座していた。常夜灯
ひとつ点けていない。黙想するつもりでも、浮かんでくるのは昼間のプロデューサーの言
葉。まさに歯の浮くようなお世辞、と翠はとらえていた。
(話を聞いたときは『運動神経でどうにかなる』って思ったけど、そんなに甘くないです
よね)
 翠は自分の身体の固さを自覚している。周りの抱くイメージとは裏腹に、体を動かす
仕事が絶対有利というわけでもないのだ。
柔軟運動を多めにしたり、お酢を飲んだりしてはいるのだが、すぐに効果が出るはずもない。
そもそもお酢でどうにかなるのか?

 共演する千秋の練習量の凄まじさは、翠もよく知っている。きっと、運動神経の差も簡単に
埋めてくるだろう。彼女に勝ちたいとは言わないまでも、足を引っ張りたくはない。
(今回の仕事、見る人の心を射抜けるのでしょうか)
 水野翠、今はまだ弱気な自分との戦いに明け暮れていた。

黒川千秋(20)
http://i.imgur.com/nqSE6sp.jpg
水野翠(18)
http://i.imgur.com/g6tRPZz.jpg

まずここまで

乙にゃん
少し読みにくいかも。改行タイミングの問題かな?
行間は個性もあるとは思うけど、一定字数改行は横書き掲示板には適さないかなーって

おつ
句点で改行すればええよ
変なとこで区切ると読みにくいから

>>7-8
アドバイスありがとうございます。エディタで1行40字表示にし、最後に改行挿入してたのが
完全に裏目ですね。すみません。


そういや最近よく見る黒川さん姫騎士説はどこから出てきたんだ…

序盤のPが絡む描写がキモい
具体的に言うと「通行人Pのくせに」云々の辺りとか
こういう地の文見るとお前誰だよって思うんだが

>べ、別に筆者は試供品とかもらってないんだからね!

とかの部分も「うわぁ……」って思ったけど話は面白そうだから期待

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