【ガルパン】沙織「フリータイムにしといてよかったじゃん」【まこさお】 (53)

前回
【ガルパン】麻子「ファーストキスがベロチューだった」【まこさお】
【ガルパン】麻子「ファーストキスがベロチューだった」【まこさお】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1476244908/)





麻子「はあー・・・っ」

沙織「雪降りそうなほど寒いね」

麻子「雪にはまだ早いだろ・・・、でもたしかに。ここ数日で、ぐっと寒くなった」

沙織「空白いね」

麻子「うん」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476425829

麻子「次の寄港でまたおばあの所に行く」

沙織「ついていっていい?」

麻子「それはいいけど・・・せっかくの寄港だぞ。お前も予定があるんじゃないのか」

沙織「いいじゃん。おばあに叱られて頭が上がらない麻子かわいいし」

麻子「・・・おばあは人前でも容赦がないんだ・・・。この間も絞られたしな・・・。貧血で倒れるなんて、栄養を取ってないからだって。まるで食うにも困ってるみたいで情けないって・・・」

沙織「まあ、確かに、麻子ってあばら骨すごいもんね。胸の下なんて骨と皮じゃん」

麻子「そんなのいつ見たんだ?」

沙織「えー、みんなで一緒にお風呂入る時、いつも見てるじゃん。みんな知ってるよ」

麻子「・・・・・・」

麻子「ちゃんと三食とも食べてるんだけどな・・・」

沙織「いやー、食べてるけど量が少なすぎなんだよ。何だっけ・・・、朝が食パン1枚で、お昼が素うどんで、夜が食パン1枚。・・・って全部炭水化物じゃんか」

麻子「お腹が空かないんだから、仕方ないだろ・・・」

沙織「あの日だって、冷蔵庫の中、相変わらず何にも無かったから、麻子が帰ってくる前に一生懸命お買い物してお料理したら、ほんのちょーっとしか食べてくれないんだもん」

麻子「すまん・・・あの時は全然余裕がなかったし・・・。でも、2日か3日かけて残さず食べ切っただろ、お弁当にしたりして」

沙織「なーんかちがうのー」イヤイヤ

沙織「ま、でもおばあから直々に麻子の専属栄養士に任命されたからには、その少食を治してみせるからね」

麻子「まあ、助かるんだが・・・、少食は治さなくてもいいんじゃないか。金もかからなくていいし」

沙織「おばあからよろしく頼むって言われちゃったもん」

麻子「・・・・・・」

麻子「・・・あれから一ヶ月か・・・」

沙織「もう、だいぶ寒くなってきたね。コート無しじゃ辛いよ」

麻子「うん・・・」

沙織「・・・・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「あ、うん・・・」



麻子(・・・学校のそばに来ると、繋いでいた手を離さなければならない)

麻子(親友に戻る時間帯の始まりだ)

麻子(私たちのような関係に対して、世の中では法整備が始まり、民間でも様々なサービスが出始めた昨今だが)

麻子(結局、あんこうのメンバーにも、おばあにも、沙織とのことは言い出せていない)

麻子(・・・・・・。・・・まあ、・・・こんなものだ・・・)

麻子「ん・・・、校門に風紀委員がいる」

沙織「あれ? まだ遅刻じゃないよ?」

麻子「きっと抜き打ちの持ち物検査か何かだろう・・・、特に痛い腹も無いから、今日のところは大人しく協力してやろう」

沙織「お、彼女持ちの余裕だね」

麻子「おいおい・・・」

沙織「分かってるって・・・」



沙織(学校ではただの親友のふりだもんね・・・)

沙織(結局流れで、基本的に、あんこうにも家族にも黙ってることになっちゃったもん)

沙織(本当は全部話して、みんなにお祝いしてもらいたいくらいだけど)

沙織(きっとお祝いしてくれると思うけど)

沙織(もしかして、私たちみたいな関係が許容できない人も居るかもしれないから)

沙織(それはみんなが優しいとか、優しくないとか、そういう次元の問題じゃないもんね)

沙織(どんなに仲が良くても、理解し合えないことというのは、多分必ずあって)

沙織(・・・もしそれがこれだったら、もう目も当てられなくなっちゃうもんね)



沙織「・・・はあぁ~・・・」

麻子「また深いため息だな。また嫌な夢か?」

そど子「・・・ため息っていうのは、身体に酸素を取り入れる効果があるから、積極的にしていいそうよ」

そど子「おはよう武部さん、冷泉さん」

麻子「おはようそど子」

沙織「おはよー」

そど子「園みどり子よ。・・・まったくのんきなものよね」

麻子「・・・? 何かあったか?」

そど子「別に。・・・はい、抜き打ちの持ち物検査です」

麻子「特におかしなものは持ってきていないが、ご希望とあらば協力にやぶさかでないぞ」

そど子「あら、今日はご機嫌ね。ここのところ遅刻もしてなくて大変よろしい。武部さんのおかげね」

沙織「いえいえ」

そど子「・・・・・・」



沙織(・・・・・・)ニコニコ

沙織(いま変な顔で見られたような・・・?)ニコ・・・



そど子「まぁやぶさかでないなら結構。別室で検査があるからついてらっしゃい」

麻子「別室・・・?」

そど子「武部さんは教室に行っていいわよ」

沙織「えー?」

麻子「・・・よくわからんが・・・、沙織、連中に目を付けられない内に行ってしまえ」

沙織「うん、わかった・・・。・・・・・・?」

麻子「寒くなってきたな」

そど子「そうね」

麻子「・・・ずいぶん遠くまで行くんだな・・・」

そど子「話が漏れなくて、ほかの生徒が寄り付かないところの方がいいとの仰せなのよ」

麻子「仰せって・・・、誰からのだ」

そど子「内緒」

麻子「何の話だ」

そど子「内緒」

麻子「・・・・・・」

そど子「ではお話を聞かせ願います」

麻子「なんだここは・・・、まるで取調室じゃないか」

そど子「その通り、これからあなたにご協力いただきます」

麻子「いったい何の件なんだ」

そど子「・・・・・・」

そど子「最近、あなたの家から武部さんが一緒に登校してくるという声が多数寄せられているそうだけど、間違いありませんか?」

麻子「・・・・・・。それは、そうだろう・・・、ここのところ毎日、沙織が朝起こしに来てくれるんだ」

そど子「ということは・・・、武部さんは朝、冷泉さんの家に寄っているだけで、武部さんが冷泉さんの個人寮に寝泊まりしているという事実は無い?」

麻子「たまに泊まりに来ることはある」

そど子「武部さんが一人で、冷泉さんの個人寮の鍵を開けて中に入るところが、複数回、複数の日にわたって目撃されているのだけれど」

麻子「お泊り会の時なんかは、鍵を預けることもある」

そど子「なるほど、お泊り会」

麻子「・・・・質問の意図を図りかねるんだが」

そど子「単刀直入に言うと、武部さんと冷泉さんが同棲しているのではないかという声が上がっているのだけれど。つまり、男女のように。・・・ごく一部でね」

麻子「・・・・・・。仮に沙織がうちに頻繁に寝泊まりしていても、そんなことはあり得ない・・・」

そど子「あり得ない?」

麻子「私たちは女同士だぞ。沙織は将来、・・・素敵な男性と結婚をしたいんだ。そういうことはあり得ないって、知ってるだろ・・・」

そど子「一見そのように見えるわね」

麻子「・・・そど子、こういうのはあまり良くないぞ」

そど子「・・・・・・。あまり、睨まないでちょうだい」

柚子「では質問を変えます」

麻子「小山先輩・・・?」

柚子「武部さんが大洗女子の集団寮に住んでいることは知ってる?」

麻子「はい」

柚子「集団寮には防犯上、出入りにカードキーシステムを採用しているのは知ってる?」

麻子「はい」

そど子「カードキーは防犯だけじゃなくて、寮生がちゃんと寮を使っているか確かめてもいるの。だから複数人で同時に入る時も、いちいち一人ずつカードキーを使うルールなのね、あまり守られていないけれど」

そど子「保護者の方がお金を出して借りているものだし、知らない内に知らないところに引っ越していたら大変だから」

麻子「まあ、そうだな」

柚子「そのカードキーだけれど、副次的な情報として、寮生の出入時刻も記録しているのね」

麻子「・・・はい」

柚子「そしてその情報は、本来個人情報として固く守られているのだけれど、必要に応じて必要な手続きを経ると、生徒会から各執行機関に下ろされることになってるの」

そど子「こんな風にね」

麻子「・・・・・・」

そど子「・・・武部さん、ここ一か月寮に帰ってないわね?」

そど子「この一カ月、武部さんの出入時刻が、ほぼ完全に五十鈴華さんと一致したの。それで今日の持ち物検査で五十鈴さんをひっかけたら、これを持っていたわ」

麻子「沙織のカードキー・・・」

柚子「集団寮で、五十鈴さんがこっそり2枚のカードキーを使っているところが、何度も目撃されていたみたいなの」

そど子「五十鈴さんの几帳面さが、この際は裏目に出たわね。無断外泊の時の常套手段だから、しばらくは誰も何も言わなかったみたいだけれど、一カ月も続いているとさすがに不審に思う子がいたのよ」

そど子「それで、もともと彼氏募集中だった武部さんの言動と合わせて、誰かがよからぬ噂を立てだしたの。『武部沙織が男性と同棲中ではないか』って」

麻子「それはちがう・・・」

柚子「でも、その噂と前後して目撃されている武部さんの寄宿先は、冷泉さんの個人寮だったことが分かって、私たちも安心したの」

そど子「もしも男の家だったら、学校も何らかの処分を出していたところだったわ」

麻子「・・・そうか・・・、それなら・・・、・・・良かったじゃないか・・・」

そど子「でも、寮を無断で一カ月空けて、周囲の寮生や他の生徒に無用の混乱を招き始めているのは事実だわ。それで最初の話に戻ります」

麻子「最初・・・?」

そど子「あんたたち、付き合いだしたんでしょ」

麻子「うぇ!」

麻子「それは、さっき違うと・・・」

そど子「もうバレッバレよ、バレッバレ」

柚子「ここでは隠さなくても大丈夫だよ、冷泉さん。私と園さんは知ってるし、あと会長と西住さんも気付いているけど、知ってる人はこれで全部。全員完全に秘密を守っているから、これ以上は広まらないよ」

麻子「・・・・・・」

そど子「普通、相手が男だろうが女だろうが、恋愛感情を持って同居している以上、風紀委員としては黙って見ているわけはいかないんだけれどもね」

そど子「一般の目から見ると友達の家に泊まっているようにしか見えないし、するとせいぜい長期の無断外泊というくらいで、馬鹿みたいに長いことを除けばよくあることだから、とりたてて騒ぐようなことじゃない、内々に処理すべき、という方向にも振れるのよ」

柚子「園さんの立場では、冷泉さんたちの秘密がばれることを気にせずに仕事をすることもできるのね。というより本来はそうするべき立場なんだけれど、その前にいち早く会長が止めてくれたの」

そど子「男と女と違って、あなたたちは付き合っていると公表されただけで大ダメージになっちゃうからね。あなたたちの関係が世間一般に認められ辛いことが、ここでは皮肉にも吉と出たわけね」

麻子「・・・・・・。それで・・・、結局、つまり、私は何でここに呼ばれたんだ・・・」

そど子「つまり・・・、あんたたちのやることに文句はつけないから、やるならもっと上手くやりなさいって言いたいの。

そど子「私たち戦車道選択者の中でも、あんたたちあんこうのメンバーはVIPみたいなもんよ。どこにいても誰かが見てるのよ」

柚子「園さんが火消しに動いてくれなかったら、目に見える形の騒ぎになっていたかもしれないし、そうなったら冷泉さんも武部さんも傷ついて・・・、」

柚子「もしかしたらせっかく芽生えた関係がなくなってしまうかもしれなかったでしょう。私も園さんも、そうなってほしくないの。応援したいの、2人を」

そど子「会長と西住さんもね。4人で話し合って、そういう話になったの」

麻子「・・・・・・。あまりに突然のことで・・・、頭が追い付かない・・・」

そど子「まあ無理もないでしょうけど。それはこちらの台詞よ、まったくもう」

柚子「西住さんと会長から相談された時は本当に驚いたもんねぇ」

そど子「この件の取り扱いについては、こうしてくれってあの2人が頼み込んできたのよ。今度折を見てお礼しておくことね」

麻子「・・・なんだか、とっても迷惑をかけたみたいですまない・・・。まさかそこまで気を遣ってもらうことになるとは・・・。というか会長と西住さんも知っているとは・・・」

柚子「最初に気づいたのは西住さんで、西住さんが会長に内密に直談判して、こういう流れになったみたいよ」

麻子「・・・いったいどうして気付いたんだ・・・」

そど子「西住流っていうのは、感覚もやたら鋭くなるものなのかしらね」

そど子「それより、主に骨を折ってるのは私なんだから、私も今度何かおごってもらおうかしらね」

麻子「ああ・・・何でも言ってくれ・・・、・・・だが・・・」

そど子「なによ」

麻子「そこまでしてもらって悪いんだが・・・。・・・多分、こんなことはそう長くは続かない。今だけのことなんだ・・・」

そど子「どういうこと・・・? ・・・ああ、同棲のこと?」

麻子「・・・いや、そうではなくて・・・、・・・・・・」

柚子「・・・・・・?」

麻子「・・・沙織も私も、今はきっと舞い上がっているんだ」

麻子「まだ高校生だし、全国大会や大学選抜戦での夢のような体験に、きっとまだ酔っているんだ」

麻子「それで、この間も、本当なら絶対に言わないようなことを言ってしてしまって、こんなことに、・・・こんな関係になってしまったんだ・・・」



麻子「・・・こんなのは、子供の内のことなんだ・・・」

麻子「今の気持ちや、私や沙織から出てきた言葉はきっと本当のことだけれど・・・、・・・・・・」

麻子「私は金もないし、ただの学生だ・・・、そして何より、私の身では、この世の中で、沙織を幸せにすることはできない・・・」

麻子「沙織はあれで、気高く頭のいい女だ・・・、遅かれ早かれ、大事なことに気づいて、そうしたらこの関係は終わるんだろう・・・」



麻子「・・・でも、・・・でも今・・・、・・・私はすっごく幸せなんだ・・・」

麻子「だから、それまでは、見逃しておいてくれないか・・・」

そど子「・・・・・・」

柚子「・・・・・・」

そど子「・・・こういう時、あんたみたいなやつに向ける顔を練習しておくべきだったわ・・・」

そど子「・・・まあ、確かに、おかしなテンションになってるみたいね・・・」

そど子「・・・あんたがそう言うならもうそういうことでいいわ」

そど子「でも今はあんたが武部さんの彼女だか彼氏だかそういうやつなんだから、あんたはあんたの責任を果たしなさいな」

そど子「私や生徒会は大洗女子戦車道の主力チームのスキャンダルなんて望まないから、大抵はあんたらの望み通りに動くことになると思うわよ」

麻子「ありがとう・・・」

そど子「じゃあ私もう戻るから。小山先輩、失礼します」

柚子「うん、ありがとうね。・・・じゃあ、私も戻るから・・・、帰り道分かる?」

麻子「大丈夫です、覚えてます」

柚子「うん。・・・じゃあ、これから頑張ってね。・・・あと・・・」

麻子「・・・?」

柚子「あんまりいじめないであげてね・・・」

麻子「・・・? ・・・はい・・・」

麻子「・・・・・・」



麻子(きっともう授業が始まっている頃だろうが・・・、予鈴も何も聞こえなかった)

麻子(ここはそんなに離れているのか・・・それとも放送が無いエリアなのか・・・)



麻子「あ」

沙織「・・・・・・」

麻子「沙織、どうしたんだそんなところで」

沙織「・・・・・・」

麻子「もしかして後ろからついて来てたのか。悪かったな、けっこう長かったよな」

沙織「・・・・・・」

麻子「おい、手がこんなに冷たいぞ・・・。ここは寒いだろう・・・、早く教室に行こう」

沙織「・・・・・・」

麻子「どうしたんだ? 黙りこくって・・・」

沙織「・・・・・・」

麻子「沙織、顔が赤い・・・、熱が・・・、いや、もしかして怒ってるのか・・・?」

沙織「・・・・・・」

麻子「沙織・・・、そんなに睨むな・・・、怖い・・・」

沙織「・・・麻子」

麻子「な、何だ・・・?」

沙織「・・・ホテル行くよ」

麻子「へっ」

麻子「沙織、沙織、足早い、手ぇ痛い」

沙織「制服で行くと目立っちゃうから、私服に着替えにいったん麻子んち寄るからね」ギュー

麻子「いや、だって、これから学校が」

沙織「エスケープ」

麻子「で、でも、まだ私たち一カ月しか経ってないし、ちょっと早すぎるんじゃ」

沙織「早くない」

麻子「いや、でも、心の準備とか」

沙織「私はできてるもん」

麻子「私はどうなるんだ」

沙織「私の旦那さまでしょ! そのくらいの度胸持っててよ!」

麻子「いやだって私も女だし・・・」

沙織「おだまり!」

麻子「そもそもこんな真っ昼間からホテルだなんて」

沙織「昼でも夜でも変わらないよ」

麻子「変わるよ!」

沙織「いいから! 11時から第2部だからそれまでに準備するよ」

麻子「あ・・・、・・・ああ・・・」

沙織「お風呂は入らなくていいからね、どうせ後で入るから」

麻子「あ、ああ」

沙織「携帯と充電器とお金とポーチだけ持って、あー、あとタオルくらいは余分に持って行こうか、やっぱりカバン持って行こう」

麻子「く、詳しいな」

沙織「お勉強のたまものです。あとあのホテル、アメニティがやたらと豪華らしいから、シャンプーとか自前じゃなくても多分大丈夫だよ」

麻子「な、なんでそんなことまで知ってるんだ・・・」

沙織「ラブホの口コミサイトいっつも見てるの」

沙織「コンビニで必要そうなもの買っていこう。お茶とかご飯とか」

沙織「あとお金も余分に下ろしちゃおう、ルームサービスとかタクシーとか頼むかもだし。ていうかたぶん帰りはタクシーだし」

麻子「ていうかフリータイムで入らなくても・・・」

沙織「いいからもう!」

沙織「おにぎりでもお弁当でも、いくつでもいいから食べたいものどんどんカゴに突っ込んで、確か冷蔵庫ついてるから。ケーキも何個か入れちゃおう」ボトボト

麻子「あ・・・、ああ・・・」

沙織「あと女子学園艦名物のフィンガードム!」

麻子「沙織、声がでかい・・・!」

麻子「入口はどこなんだ・・・?」

沙織「もうちょい先だよ。表側からは出入り口が見えないようになってるの」

麻子「そうなのか・・・、あ、ああ、本当だ・・・」

沙織「ほら、今ならだれも見てないから! ぱっと入っちゃうよ!」

麻子「ど、どうしてそんなに堂々としてるんだ・・・!」

沙織「はーやーくぅ!」グイグイ

沙織「えっ、満室?」

係員「はい、ただいま清掃中ですので、あと30分ほどお待ちいただければと・・・」

麻子「ほら、沙織、帰ろう、タイミングが悪かったんだ・・・」

沙織「じゃあ待ちます。どの部屋が空きますか?」

係員「えぇと、女性専用禁煙の、一番大きいお部屋になりますがよろしいですか?」

沙織「あ、そこがいいです。待合室ありますよね?」

係員「ございますよ。どうぞこちらへ」

沙織「だってさ、麻子、行くよ」グイッ

麻子「さ、沙織ぃ・・・」

麻子(他にも待っているカップルがたくさんいるな・・・)

麻子(何だか息遣いが聞こえるようだ・・・)

麻子(ここにいる連中、みんな、この後、裸になって、その、・・・するんだな・・・)

麻子(というか私たちも・・・)

麻子(私が、沙織と・・・、その・・・するだなんて・・・)

麻子(・・・信じられない・・・、想像がつかない・・・)



麻子「・・・なあ、沙織・・・。どうして突然・・・、こんなところに・・・?」

沙織「・・・・・・」

麻子「・・・・・・」



麻子(・・・沙織、怒ってるのか・・・)

麻子(顔が赤いし、さっきから腕をつかまれていて痛かった・・・)

麻子(あんな所にいたくらいだから、きっとあらぬ誤解をしているか、何か余計なことを聞いてしまったに違いない・・・)

麻子(もしかしてそど子や小山先輩とすれ違って、その時何か言われたんだろうか・・・)



麻子「はあー・・・」



麻子(薄暗い中でテレビの光だけが当たってる横顔・・・、映画のワンシーンみたいだ)

麻子(つまらなそうにテレビ見てるくせに、私の方は見てくれないんだな・・・)

麻子(・・・・・・)

麻子(きれいだな・・・)

麻子(きれいだ・・・)



係員「お待たせしました」

麻子「ひゅっ」

係員「お部屋の準備が整いましたのでフロントまでお越しください」

麻子「ず、ずいぶん早いな」

沙織「行こう、麻子」グッ

麻子「あ、あ、ああ・・・」

沙織「706・・・706・・・、・・・・・・、はい、着いた!」ガチャン

麻子「・・・もう、情緒もへったくれもないな・・・」

沙織「無いよ。・・・そんなの無いよ、まったくもう・・・」ギュー

麻子「ど、ど、どうしたんだ・・・本当・・・、なにもかも突然だ・・・」ドタン

沙織「・・・・・・。・・・私、今だけなんてつもり、全然ないからね」

麻子「・・・・・・。沙織・・・」

沙織「・・・私、重いんだから。私、麻子と一緒の墓に入る気満々なんだからね」

麻子「それは・・・、・・・たしかに重いな・・・」

沙織「でしょ・・・」

麻子「・・・お前はそれでいいのか・・・」

麻子「・・・私は経済力も信用もない、ただの高校生だ・・・」

麻子「お前はこれから大学に行ったり、仕事に就いたりして、いろんないい男と出会うだろ・・・」

麻子「そのとき後悔したって、もう遅いんだぞ・・・」

沙織「そんな正論いらないよ・・・!」ギュー

麻子「いるんだ・・・! だってそれは沙織の幸せに関わることなんだ・・・」

麻子「私よりいい男がいたら、そいつと付き合って結婚するべきだろ・・・」

沙織「麻子よりいい男なんていないよ・・・! ていうかもう男なんていらないよ・・・!」

麻子「えっ」

沙織「私がいつから麻子のこと、その・・・! そういう目でみてると思ってるの・・・!」

沙織「ずーっと勉強してきたんだから! もう今日だってやる気満々なんだから!」

麻子「そ、そう・・・、そうだっ、たのか・・・」

沙織「麻子は違うの!?」

麻子「いや・・・、だって、まさかこんなに早く、こんなに事が運ぶと思ってなかったから・・・、全く・・・何も・・・よく、わからない・・・」

沙織「ん~~~~もう! もう! もう!! もういい! 今日は私がリードしたげるから! とりあえずお風呂貯めよう!」

麻子「あ、ああ・・・」

麻子「しまった・・・バスバブルってこれ、お湯をためる前に入れろと書いてあるな・・・」

沙織「あぁそうなんだ、まあまた貯め直せばいいよ・・・」ギュッ

麻子「ひゃっ」

沙織「麻子なにその声かわいい~」ニヤニヤ

麻子「いきなり後ろから抱き着くな、びっくりするだろ・・・っ」

沙織「いつもやってるじゃんか」

麻子「・・・・・・、いまは緊張してるんだ・・・」

沙織「へぇー緊張してるんだ・・・麻子かわいい・・・」チュッ

麻子「・・・何だか子ども扱いされてるようで嫌だ・・・」

沙織「だって麻子ってば子供じゃん、ほら」ヒョイッ

麻子「な・・・っ、なんでお姫さま抱っこなんだ」

沙織「ほらーちょっとの間だったら簡単に持ち上がるんだもん」

麻子「やーめろ! おーろーせ!」ジタバタ

沙織「やーだー」チュッ

麻子「やめろよぉもう・・・」

沙織「麻子、顔真っ赤だよ」

麻子「もう・・・情けなくて・・・」

沙織「ごめんごめん、泣くほどとは思わなかった。下ろすから気を付けてね」

麻子「ん・・・」

沙織「ていうかお風呂にテレビついてるね。ベッドのところにもあったけど」

麻子「風呂に入りながらテレビが見れるのはいいな・・・とてもいい。うちにも欲しい・・・」

沙織「ね。映画見たりドラマ見たりしたい」

麻子「小さいのなら買えるかもしれないな。あとで携帯で探してみよう・・・」

沙織「なんかこういう会話って夫婦みたいだよね」

麻子「・・・・・・。まあ、今までにも何度もしてるけどな」

沙織「これからずーっと飽きるほどするんだよ」ヒョイッ

麻子「だから! お姫さま抱っこするな!」

沙織「えー、だってなんか癖になっちゃって・・・こうすると麻子すっごい真っ赤になるし」

麻子「当然だろ・・・あと脇に手が当たって痛くすぐったい!」

沙織「あー、ここか!」

麻子「あはっ! にゃ!んめろ! や、んやめろぉ!」

沙織「あははは! あっはっはっは!」ドサッ

麻子「はー・・・、布団ふかふかだ・・・」

沙織「だねぇ・・・、ここ住みたいねえ・・・」

沙織「麻子やっぱりいい匂いするよね・・・」

麻子「そうかな・・・、自分ではよく分からない・・・」

沙織「んー・・・寝れる・・・いい匂い・・・」

麻子「何か恥ずかしいからやめろ・・・お風呂も入ってないし・・・」

沙織「恥ずかしくないよ・・・」

麻子「うぅ・・・」

沙織「・・・すー・・・はー・・・。あー・・・、いいなあ・・・」

麻子「もう満足か?」

沙織「んー・・・、実はわりともう満足かな・・・。楽しいし、お部屋きれいだし」

麻子「ああ・・・、ここは陸の立派なホテルより掃除がしっかりしてるそうだ・・・」

沙織「・・・・・・。麻子だって詳しいじゃん・・・」

麻子「私の場合は・・・勉強というか・・・妄想というか・・・」

麻子「そうはならないだろうけど・・・、そうなったらいいなあって・・・」

沙織「私に連れてきてもらってよかったね・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・・・・」

麻子「・・・うん・・・」

麻子「お風呂、貯まったようだな・・・」

沙織「勝手に止まるの便利だよね・・・うちに欲しい・・・」

麻子「うん・・・」

沙織「とりあえず、お風呂入ろうか・・・?」

麻子「・・・うん・・・」

沙織「・・・2人だけで入るの、子供のころ以来だね・・・」

麻子「・・・・・・、うん・・・」

沙織「・・・麻子」

麻子「なんだ」

沙織「・・・脱がして」

麻子「えっ」

沙織「ほら、早く。はーやーく」

麻子「わかった・・・」

沙織「・・・・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・・・・。麻子、下手だなあ」

麻子「う、うるさい」

沙織「女の子なのに何でだろう・・・?」

麻子「そう言うならやってみせてくれよ、ほら」

沙織「あれ、下着は脱がせてくれないの?」

麻子「し、下着も脱がすのか?」

沙織「お風呂入るんだもん、当然じゃん?」

麻子「・・・わ、私の服を脱がせたら脱がせてやる・・・」

沙織「それってなんかおかしくない? ・・・まぁいいや。ほらー麻子ちゃん、脱ぎ脱ぎしましょーねー」

麻子「やめろ!」

沙織「はいばんざーい」

麻子「うん・・・」

沙織「・・・あ、すごい・・・。麻子って上下揃った下着持ってたんだね。さっきおうちで一生懸命探してたもんね」

麻子「う、うるさいな・・・、さっきから何なんだよもう!」

沙織「あはは! ごめんごめん・・・、でも麻子がかっこつけようとしてるのがおかしくてさ・・・」

麻子「はあ・・・?」

沙織「麻子ってさ。・・・その喋り方も、その性格も、きっと、一人で生きていかなくちゃいけなかったから・・・」

沙織「急いで大人にならなくちゃいけなかったから、そんな風になったんじゃないかなーって思うんだよね」

麻子「・・・・・・そうかな・・・。どうかな・・・」

沙織「まあ、全部私の想像なんだけど。でも、けっこう、ありえるっぽくない?」

沙織「本人でも気づいてないとか、忘れてたりとかしてるとか、あると思うしさ」

麻子「・・・わからないけど・・・、そういうこともあるかもしれない・・・」

沙織「それでね。もし、そうやって気を張ってなくちゃいけない生き方を続けてきたんだったら、」

沙織「・・・ま、私が抱きしめてあげなきゃなーって思ってたの・・・」ギュー

麻子「んむ・・・」



麻子(・・・何も、見えない・・・)

麻子(脚やお腹で肌が触れ合っているのか、すごく温かい・・・)

麻子(沙織の胸・・・下着・・・いい匂いがする・・・、すごくいい・・・)

麻子(お腹も・・・太ももも・・・温かくて・・・柔らかい・・・すべすべだ・・・)

麻子(ああ・・・確かに・・・、これはよく・・・眠れそうだ・・・)

麻子(・・・すごくいいな・・・、・・・すごくいい・・・)

麻子(・・・・・・。私はずっと・・・、ずっと前から・・・、・・・こうしたかったんだ・・・)

麻子(・・・ずっと前から・・・)

麻子(・・・・・・)

麻子(・・・・・・)

沙織(麻子、ちっさくてかわいいなあ・・・。子供みたい・・・)

沙織(麻子、ちっさくてかわいいのに一生懸命かっこつけてて・・・)

沙織(傍目で見てみるとそれがダサくも見えて、なのにそれがまた妙にかわいい・・・)

沙織(昔は全然考えたことなかったけど・・・、こんな旦那さまも悪くないじゃん・・・)

沙織(・・・いつからだろうなあ、そんな風に思うようになったの・・・)

沙織(・・・・・・)



沙織「・・・情けなくったって、かわいくったって、いいじゃん・・・」

沙織「・・・私の前では楽にしてなよ。麻子は麻子なんだから・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・・・・。じゃあ、お風呂入ろうか・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・・・・」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・・・・? 麻子?」

麻子「・・・・・・」

沙織「・・・麻子? 麻子?」

麻子「・・・スー・・・、・・・スー・・・」

沙織「・・・・・・」



沙織(・・・・・・)

沙織(・・・ワーオ・・・)

沙織(・・・ありえない・・・)

沙織「・・・ほら、フリータイムにしといてよかったじゃん・・・」

おしまいです

またも連投すまんかった
HTML化依頼出してきます


何か色々とリアルだね
桃ちゃんがナチュラルにハブかれてる所まで

桃ちゃんは広報だし言う必要ないんだよ多分。

ご感想ありがとうございます、恐縮です。

>>40
>>41
風紀委員まわりの采配は角谷会長の判断です。
目的のために手段を選ばないけど、身内に嘘は言わない。
でも、時に口を噤むことがある、という感じじゃないかなーと妄想しています。

そど子三年生やで。柚子ちゃんと同い年やで

皆様ご感想ありがとうございます、恐縮です。
もっとホメてくれ。本当、とてもうれしいです。

>>48
正直すまんかった、れま子とタメ口だからあんまり気にしてなかった。
ややこしい部分だったので頑張って書いたのに情けない。



まこさおが将来どう生きていくのかが心配ですが、とにかく今を幸せに、したたかにすこやかに生きてほしいです。
当分続きとかは無いかもと思いますが、またお目にかかれたらと思います。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom