P「君よ不幸せであれ」 (36)

デレマスの白菊ほたるとPメインのSSです

地の文多めなので苦手な方はご注意を

ニコニコにあるとある動画をモチーフにさせていただきました

初投稿なので何か不備等があれば教えてくださるとありがたいです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476286230

仕事で外回りをしていると、ふと街中の大型ビジョンが目に入った。
ビジョンに映る映像には今、人気急上昇中の346プロダクションに所属するアイドル達のPVが流れている。

その中に少し控えめな、しかし何処か見るものを惹きつけるような笑顔を振りまいている一人の少女、白菊ほたるの姿を見つけた時
俺はその姿を自分の中に存在している白菊ほたるというアイドルと比較し、卑しくもこう思うんだ。


君よ不幸せであれ、と。


俺とほたるは元々プロデューサーと担当アイドルという関係だった。
俺が勤めていた事務所のオーディションをほたるが受験した際、何故こんなダイヤの原石のような子がフリーな立場なのか、そう疑問に思える程トップアイドルになり得る素質を抱えた子だと、俺は衝撃を受けたのだ。
確かにダンスや歌はまだまだ未熟だったが持ち前のストイックさに加え、どこか冷めたような目の中にもトップアイドルになりたい!という強い意志を感じた俺は社長に直談判し、無事白菊ほたるの担当プロデューサーになることに成功した。
後日、顔合わせの時の会話は今でもハッキリと覚えている。


P「オーディション合格おめでとう。俺がこれから君を担当する○○だ。よろしくな。」


そう言って差し出した俺の手をほたるは少し不安げに、まるで自分がこの手を握ってしまって良いのかという感じで手を取らず


ほたる「こちらこそよろしくお願いします。・・・あの、本当に私なんかがオーディションに合格してしまって良かったんでしょうか?」


白菊ほたるという少女は自分に自信が持てないタイプだ、ということにオーディションの時から薄々気がついていた俺はこの発言もその自信の無さからきているものだと思い


P「私なんかが、なんて言い方はしないで良い。ほたるは間違いなくトップアイドルになれるアイドルだ。俺が保証する。」


そうフォローした。

が、その予想は外れたらしくほたるは悲しげな顔をしながら


ほたる「いえ、あの・・・実は私は昔から不幸な体質で・・・前の事務所もその前の事務所も私の不幸のせいで倒産してしまったんです・・・。」


と言った。何を馬鹿なことを、そう思いプロフィールを調べてみたがなるほど、確かにほたるが以前まで所属していた事務所と更に前に所属していた事務所は少し前に相次いで倒産している。
しかしこう言ってはなんだが2つとも所謂弱小と言われていた事務所だ。正直いつ倒産しても不思議ではなかった。


P「確かにほたるの前事務所は二つとも倒産しているが・・・これはほたるのせいなんかじゃない。正直二つとも何時倒産してもおかしくないって業界で噂になってた事務所だ。
  それに俺たちの事務所はこの二つに比べたら数倍以上の規模はある中堅だ。ちょっとやそっとの不幸で倒産なんかしないさ。」


ほたる「そう・・・なんですか?」


P「ああ、まあほたるが多少不幸体質だとしてもそんなものは俺の力でなんとかしてやる。心配するな。」


そう言って改めて差し出した手を、ほたるはゆっくりと握り


ほたる「・・・ありがとうございます。」


そう言ってぎこちなくだが笑ってくれた。



今思い返せばこの時からもう俺たちの歯車は狂っていたのかもしれない


ほたるをスカウトしてから一ヶ月が過ぎた頃。この頃の俺はほたるには確かにトップアイドルになれる素質があると確信すると同時にこの少女は確かに人と比べて少し、いや大分不幸なようだと認識するようになっていた。
ダンスレッスンをすれば靴紐は切れる。社用車に乗ればバッテリーがあがる。営業に出かける時は渋滞が当たり前。
これらが一度や二度ではなく毎回の様に起こるとなれば流石に認めざるを得なかった。
そしてそんなことが起こる度にほたるは俺やスタッフに向けて


ほたる「すいません!私のせいで・・・すいません!」


と必死に謝り


P「いや、ほたるのせいじゃないし、そんなに謝らなくてもいい。」


ほたる「うう・・・謝ってばかりですいません・・・あっ。」


こうやって堂々巡りになることがお決まりのパターンだった。
そんなある日の会話の中で


P「・・・ほたるは面白い子だな。」


そう言って思わず笑ってしまった俺をほたるが珍しく少し怒った様な表情で見たことがあった。

その顔を見た俺は慌てて


P「すまんすまん。別に悪い意味で言ったわけじゃないんだ。ただなんというか・・・とにかく、俺はほたるを見てると笑顔になれるんだ。」


と、付け足すと今度は不思議そうに、そして少し嬉しそうに


ほたる「笑顔にですか・・・?こんな私でも誰かを、プロデューサーさんを笑顔にすることができるならそれは少し嬉しいです。」


P「ああ。・・・俺だけじゃない、今は少ないがファンの皆だってお前を見て笑顔になってくれている。ほたる、お前は皆を笑顔にする為にアイドルをやっているんだろ?」


ほたる「はい。・・・こんな不幸な私でも誰かを、昔の私みたいな人を笑顔にすることができたらって・・・。」


P「その夢は叶うぞ。いや、俺が必ず叶えてやる。」


ほたる「プロデューサーさん・・・。」


P「靴紐が切れるなら何足も靴を用意しておいてやる。社用車だって何台も抑えておく。渋滞なんて予め早めに事務所を出れば良いだけだ。他にどんなトラブルが起きても俺に任せておけ。」

「・・・お前は間違いなくトップアイドルになれる。俺はそう信じている。その為にも約束だ、俺がお前をどんな不幸からも守ってみせる。だから何の心配もするな。」


ほたる「・・・はい!ありがとうございます。私もプロデューサーさんを信じてます・・・!」


俺の言葉にそう言って笑ったほたるの笑顔は今までで一番輝いていて、今でも脳裏から離れることはない。



この頃の俺はほたるをあらゆる不幸から守ってトップアイドルに導けると本気で思っていた。いや、今もか。


異変が起き始めたのはその後すぐのことだった。

始まりは何時もの様に俺のデスクの近くで二人で談笑している時。突然後ろの書庫の扉が開き大量の分厚く、厚いファイルや本がほたるに向かって降り注いだ。


P「ほたる!」


咄嗟にほたるの上に覆いかぶさるようにして事なきを得たと思ったのも束の間、頭に鈍い痛みと赤く染まる視界、その中でもハッキリと分かる青ざめたほたるの表情で俺は自分の置かれている状況を理解した。


ほたる「わ、私、救急箱取ってきます!」


ほたるの迅速な行動もあって幸い大きな怪我には至らず済んだ。が、ここからほたるに降りかかる不幸はガラッと性質を変えた。と言うより俺自身に不幸が訪れるようになったのだ。

外を歩いていたらいきなり植木鉢が降ってくることもあった。帰宅途中に後ろから追突されムチウチになったこともあった。
そして俺が不幸な目に遭い、傷つく頻度に比例してほたるの笑顔は曇っていった。だが俺は、それが自分のせいだとも気付かず仕事に没頭していたんだ。


ほたる「プロデューサーさん、少し休んだほうが・・・」


そう心配するほたるに


P「大丈夫だ。心配かけてすまんな。それよりほたる、お前の初ライブがようやく決まったぞ。」


初ライブと聞いて一瞬明るい顔になったほたるだったがすぐに心配そうな顔に戻り


ほたる「ありがとうございます。・・・でも、そのお仕事が終わったら少しやすんでくださいね?」


そう言って俺の渡した資料を一瞬躊躇してから受け取った。今思えばこの時もう、ほたるは何か嫌な予感を感じていたのかもしれない。


P「ははっ。分かったよ。」



何も分かってない。この時の俺は何も分かっていなかったんだ。自分の行動がどれだけほたるを傷つけているのかも知らず、呑気なことを言っていた過去の自分を思い出すと今でもやるせなさと激しい怒りを覚える。

LIVE前日、俺はほたると一緒に会場へ行き下見をしていた。
小さなステージだったがアイドル白菊ほたるの記念すべき初LIVEのステージだ。

俺は翌日ここで輝くであろうほたるの姿を思い浮かべて胸が高鳴っていたし、それはほたるも同様だった。
人一倍アイドルへの思いが強いうえにここまでの道のりは決して楽な道のりではなく、13歳とは思えない程の苦難を味わってきたのだ。
誰が、誰がそんな少女が初舞台への高ぶる気持ちを抑えられなかったことを責められようか。


責められるのは俺だ。そんな状態のほたるから目を離した俺が悪いんだ。

あの日、俺が一瞬持ち場を離れ戻った時、ほたるはステージの端から真ん中へ移動するステップの確認をしていた。

問題だったのはステージ中央の上部で設営が行われていた照明やその他の器具、それらがステージに落下しかけていたということだ。
普段のほたるなら間違いなく気がついていただろう。俺が目を離していなければ、いや俺が知らず知らずの内に与えていた心労も間違いなく負担になっていただろう。さえなければ・・・。


「ほたる!危ない!」


俺やスタッフの叫び声に気がついたほたるがこちらを向いたのと機材が落下を始めたのはほぼ同時だった。


「ほたる!」


俺は無我夢中でステージに駆け出し、そしてほたるを突き飛ばしたその直後、俺はとてつもない衝撃と激痛に襲われた。


「プロデューサーさん!」


薄れゆく意識の中で涙を流しながら俺の名前叫ぶ姿。それが俺が最後に見た、俺の担当アイドルだった白菊ほたるの姿だ。

俺の意識が戻ったのはそれから一週間程経ってからだ。
一時は命も危なかったらしいが幸いにもしばらくリハビリを重ねれば退院することができると言われた。

ほたるはあの後無事にLIVEをこなした。健気だと褒めてくれる人も居れば薄情だと言う人も居たらしいが、病室で社長に動画を見せてもらった俺から言わせてもらえばほたるの魅力が何一つ出ていない、酷いLIVEだった。
パッと見笑顔で歌も踊りも問題なく見えたが、目は出会ったばかりの頃のように完全に冷め切ってしまっていて、歌も踊りもまるでロボットのように見えた。

完全に俺の責任だ、ほたるに謝ろう。そう思って社長にほたるの現状を聞き、返ってきた返事に俺は耳を疑った。


P「辞めた・・・?」


このライブの翌日のことだったよ、と社長は言った。君に手紙を預かっていると渡された手紙には何度も書いては消したであろう長文の跡や涙の跡の上に書かれていた文字はたった一行。

『ごめんなさい、さよなら』

その文字を見た瞬間、俺は自分の目から溢れる涙を抑えることはできなかった。


P「なんで・・・ほたるが謝るんだよ・・・!」


いっそ俺のことをボロクソに言ってくれればどれだけ楽だったか。だが俺の知っている彼女はそれこそ、優しすぎるくらいに優しい人間で、全てを自分で抱え込んでしまう人だ。そしてその彼女をここまで追い詰めたのは俺だ。
悪いのは俺なんだ、ほたるは自分を責める必要なんてないのに。俺は手紙を握り締め子供のように嗚咽をあげて涙を流した。


P「社長・・・自分は、プロデューサーを辞めます。」


俺はその場で社長に辞意を表明した。社長も何も言わずに認めてくれた。



この時、俺は白菊ほたるという一人のアイドルの人生を自分が台無しにしてしまったという業を抱えて生きていくことがせめてもの償いだと思ったんだ。


そして長い入院生活も終わりを迎えようとしていた頃、リハビリの帰りに何気なく立ち寄った売店でそれは起こった

ついつい習慣で購入していた芸能雑誌。今月は346プロ特集か、などと思いながら雑誌を捲る中に『白菊ほたる』という名前を見つけた時、俺は自分の中の時が止まったかのような感覚に襲われた。

慌てて病室に戻りページを確認してみるとどうやら346プロの新人アイドルの特集らしい。最初は、もう地元の鳥取に帰っているとばかり思っていたほたるがまだアイドルを続けていたということに安堵し、喜んだ。
が、それ以降湧き出てくるのは醜い負の感情だけだった。

何故だ?ほたるは俺のことを信じてると言っていたのにあれは嘘だったのか?人が意識不明の間に勝手に辞めていって他所でアイドルをやるなんてズルいじゃないか・・・。
分かってる、本当にズルいのは自分だと。約束も守れず結局ほたるを傷つけてしまった自分にそんなことを言う資格がないことも。そもそも何時意識が戻るかも分からない男を延々と待っていられる訳が無い。
それでも、俺を信じてほしかった。


それでも、俺は白菊ほたるというアイドルを、ずっとプロデュースしていたかったんだ・・・!

もし俺の意識が戻った時にほたるがまだ辞めていなければ、しばらくはぎこちない関係になっていたかもしれないがすぐにまた前みたいな関係に戻れた筈だ。
その後にどんな不幸があってもほたると一緒ならば全部乗り越えられる自信があった。

ほたるからの手紙を取り出し見つめると、謝罪と別れの言葉の下にある書こうとしたであろう長文の跡が嫌でも目に入る、ほたるがここで何を伝えようとしていたのかは今でも毎晩考えているが分からない。
だからもう一度ほたるをプロデュースして、本人から直接聞きたい。いや、聞かなきゃいけないんだ。

分かってる、俺のエゴだって。分かってる、悪いのはほたるでも346プロでもない、全部俺が悪いんだ。ほたるはとても強い子だったじゃないか。
あんなことがあってもトップアイドルになるって夢を簡単に諦めるような子じゃないことぐらい俺だって分かっていた。
そんな中346プロからのオファーがあればだれだって受けるに決まってる。346プロとしてもほたるみたいなダイヤの原石をフリーにしておくなんて有り得ないだろう。


でも、認めない



俺は、それくらい白菊ほたるというアイドルが好きだった。

それから数ヶ月、俺は今以前とは別の事務所でプロデューサーをやっている。
以前辞めた時はもうプロデュース業に関わるつもりはなかったがほたるの現状を知って退院後、すぐに幾つかの事務所に連絡し、なんとかまたプロデューサーの職に就くことができた。

ほたるは346プロでのデビュー以降少しずつではあるが順調に露出を増やしている。今の俺の目標はそんなほたるを再びプロデュースし、トップアイドルに導くこと。
かと言って今担当しているアイドルを蔑ろにするようなことはしない。二人まとめてトップアイドルに導くつもりだ。


??「すいませ~ん。プロデューサー、お待たせしました♪」


P「よし、じゃあ行くか。」


・・・それに彼女とほたるは相性抜群だと思う。
因みに彼女には俺とほたるの件は今後の目標についても含めて話をしてある。過去のプロデュースでのトラブルを隠すのは失礼だし目標に協力してもらいたかったからだ。
断られたら他の事務所を探すつもりだったが幸いにもOKしてもらえた。彼女曰く


??「その話を聞いたら私もそのほたるちゃんって子に興味が沸いてきちゃいました♪」とのことだ。

・・・肝心のほたるをもう一度プロデュースする方法だが取り敢えずはしばらく様子見をしていた。
正直346プロに就職することやプロデューサー業に復帰してからすぐにでも会いに行くということも考えたのだが、それは俺にとってもほたるにとっても良くない結果になるだろうということは目に見えている。

そんなことを考えていた時、俺はふとほたるの目を思い出したんだ。
ほたるの目は以前のうちの事務所に来たばかりの時やそこを辞める直前、何とも言えない冷め切ったような目をしていた。

ほたるのあの目をもう一度見ることが出来れば、ほたるをもう一度あの目にすることができればほたるは346プロを辞めるかうちからの誘いに乗ってくれるかもしれない・・・が、それにはほたるに不幸な目に遭ってもらう必要がある。
勿論ほたるは強い子だからそんな簡単な話ではないだろう。だがもう俺にはこれしかもう一度ほたるをプロデュースする方法が思いつかなかった。その手始めとして今から行うLIVEバトルでこっ酷く叩く予定だ。

・・・今や毎日毎日ほたるの不幸を祈っている俺は最早狂ってしまっているのかもしれない。だが、ほたるをもう一度プロデュースする為ならそれでも構わない。

??「そろそろ出番ですね。ほたるちゃんを間近で見るの、初めてだから楽しみです♪」


P「強い子だよ、よく見てくるといい。・・・そして圧倒してくるんだ。」


??「・・・ふふっ♪分かりました。」


P「よし。茄子、行ってこい!」


はい!と良い返事を残して茄子がステージに飛び出していった。遠くには先に登場していたほたるの姿も見える。
・・・ほたるは今のエゴの塊のような俺を、そしてこれからやろうとしていることを知ったらどう思うだろうか。
悲しむだろうか、怒るだろうか、それとも――。そんなことを思いながら俺は1人、小声で呟くのだった。



「君よ不幸せであれ。」

終わりです。拙い文でしたがありがとうございました。

動画を見たことがない方は 君よ不幸せであれ で検索すると出てくると思います

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom