勇者「駄目だ!殺せない」 (100)

魔族の森


勇者「駄目だ!殺せない!殺せるわけないだろう!」

魔族子供「・・・・」

賢者「落ち着け。勇者、子供の姿をしているが奴も魔物だ。殺すしか道はない」

魔法使い「そうよ、勇者!こいつらは、村を襲って、村人たちを食ったのよ!」

戦士「んー、でも子供だぜ?ちゃんとした教育をすれば、分かり合えるんじゃないのか?」

賢者「無理だ、やつは俺たちを憎む。仲間を皆殺しにした俺たちをな」

勇者「でもよぉ!子供を殺しちまったら、俺たちは魔物と同じだ!」

賢者「・・・」

勇者「俺は進めない・・・こいつを殺してつくる平和なんて俺はつくれない!」

賢者「わかった・・・。近くの村にこいつを預けよう・・・。」

勇者「ありがとう・・・!ありがとう賢者!」

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魔法使い「・・・」

賢者「魔法使い、俺と一緒に飛翔魔法を使ってくれ。行先は近くの村だ。」

賢者「勇者たちはここで待っていてくれ。すぐ戻る」

勇者「わかった。野営の準備をしておくよ」

戦士「そうだな、腹も減ったし」

魔法使い「じゃあ、行ってくるね勇者。飛翔魔法フライ!」

勇者「たのんだぞー!」

近くの村の入り口


魔法使い「・・・で、どうするの?村に預ける気なんて無いんでしょう?」

賢者「リスクは取れない。子供と言っても魔族だ。殺すしかない」

魔族子供「ぎぎぎ!!!」

賢者「だまれ、恨むなら魔族に生まれた自身を恨め。即死魔法デス」

魔族子供「」

魔法使い「流石ね。血も涙もない」

賢者「わかってて連れてきた君も同罪だ」

魔法使い「・・・」

賢者「勇者は優しすぎる。誰かがこの役目を負わなくてはならない」

魔法使い「わかってる。少し時間を置いたら帰るわよ・・・」

魔族の森


賢者「戻ったぞ。村人たちに話を付けてきた」

賢者「あの子は、これからは人としての教育をうける」

勇者「わがまま言ってすまない・・・賢者・・・」

賢者「気にするな、それでこその勇者さ」

魔法使い「・・・」

戦士「おーい、飯にしようぜ!腹減っちまった」

魔法使い「・・・っぷ。あなたはそればっかね」

勇者「戦士らしいじゃないか、みんな、今日も良く戦った、飯にしよう」

じゃら

魔法使い「ん?戦士、その荷物は何?」

戦士「げ、これか。これは落ちてたんだ」


勇者「ん?貴金属じゃないか」

戦士「ちっ・・・魔族どもがつけてたんだよ!大方、村からの略奪品だろうよ」

魔法使い「あんた!魔族の死体からはぎ取ったっての!?」

戦士「いやいやいや、まてまてまて!元は人間のもんだぜ!・・・たぶん」

賢者「戦士!お前はまだ盗賊の頃の癖が抜けていないようだな!」

勇者「まってくれ、みんな!」

勇者「これらは村人からの略奪品に間違いないだろう・・・俺たちの手で村人の生き残りに届けてあげよう」

魔法使い「勇者がそういうなら・・・」

賢者「うむ・・・」

勇者「戦士。お前は旅に出るとき、精霊の前で誓ったな『もう、盗みはしない』と」

戦士「あぁ・・・」

勇者「誓いは守ってくれ、俺たちは勇者一行なんだ」

勇者「勇者一行に盗賊はいらない」

戦士「わかったよ!もう二度としねえよ!」

湖畔の村


勇者「ふぅ、なんとかたどり着けたな」

賢者「日が暮れる前に着いてよかった」

戦士「はやく宿屋に入ろうぜ、腹減っちまったよ」

魔法使い「戦士と同じなのは嫌だけど、同意見ね」

賢者「ふむ、村長に挨拶をしておきたかったが、どうする勇者」

勇者「挨拶は明日の朝にしよう、まずは疲れを癒そう」

賢者「だそうだ」

戦士「さっすが勇者!はやく行こうぜ」

宿屋


戦士「ふはー!飯だ!」

勇者「主人、飯と酒をじゃんじゃん出してくれ!金は前金で払う」

戦士「さっすが勇者!」

賢者「勇者!あんまり散財はできんぞ!」

勇者「何言ってるんだ、ここのところずっと野宿だったんだ!」

勇者「たとえ傷はなくても、心は疲れている」

賢者「だが、まだ旅の途中なんだ。金は限られているんだから」

戦士「だったら、この間の宝を村人の生き残りに返さなきゃよかったんだ・・・」

勇者「戦士!おこるぞ!」

戦士「す、すまん勇者・・・」


勇者「賢者、お前の言う通り俺たちは旅の途中だ」

勇者「だからこそだ。俺たちは魔王を倒すまで、倒れることはできない」

勇者「だから!今日は英気を養うんだ!」

魔法使い「まあ、わからないでもないけど」

賢者「・・・俺たちのリーダーは勇者だ、・・・従おう」

勇者「よしっ!じゃあ、飲むぞ!」


そして夜が明けた

湖畔の村 村長邸


村長「おお!あなた方が魔王討伐の為に王都から派遣されたという勇者一行ですか」

賢者「ご存じなのですか?」

村長「もちろんです。魔族の森討伐の噂はすでに、この村にも届いておりますぞ」

村長「森林の村も滅んだと聞き及んでおります・・・」

勇者「はい・・・我々が付いた時にはすでに・・・」

村長「勇者殿が気に病むことではありませぬ」

戦士「そうだぜ勇者、俺たちは敵を討ったじゃねえか」

村長「ほう。勇者一行には女性が含まれるとは聞いておりましたが」

村長「まさか、二人もおられるとは思いませなんだ」

魔法使い「中身は男だけどね」

戦士「なんだと!魔法使い!」


賢者「こら!村長の前だぞ、勇者に恥をかかせるな!」

村長「いえいえ、元気があってなによりです」

村長「ところで、勇者殿にご相談がございます」

勇者「なにか問題がありますか?」

村長「実は、湖の対岸には、もう一つ集落がございまして」

村長「その集落は数年前に魔物に襲われ壊滅し、今は誰一人いない廃墟とかしております」

村長「ところが、湖の漁師や山菜取りに出掛けた村人たちが、動く人影を見たと申すのです」

勇者「わかりました。私たちが見に行ってみましょう」

村長「おお流石に話が早いですな!ありがとうございます!」

魔法使い「もし、魔物が住み着いたのなら、この村も危ないしね」

戦士「まあ魔物退治なら、俺たちにとっちゃいつもの仕事だな」

賢者「・・・」


勇者「どうした?賢者」

賢者「いえ・・・」

戦士「村長さん!俺たちにどーんと任せておきな!」

村長「はっはっは、心強いですなあ」

対岸の集落


賢者「いるな・・・魔物で溢れている」

勇者「集落の生き残りってのも、少し期待していたんだがな・・・」

戦士「さっさとやっちまうか」

魔法使い「待ちなさい。賢者、あの魔物の弱点はわかる?」

賢者「人型・・・皮膚は腐っているようだ・・・」

賢者「服も一般的に人間が着ているもの・・・グールだな・・・」

戦士「グール?」

魔法使い「死んだ人間が魔物化したものよ・・・」

勇者「じ、じゃあ!あれは!」

賢者「十中八九、この集落に住んでいた者たちだな・・・」


勇者「ぐっ・・・」

魔法使い「勇者・・・彼らには、もう人の魂が宿っていない」

賢者「この間の子供の件とは違う、倒すしかない」

勇者「・・・いやだ、殺せない」

賢者「バカなことを言うな勇者!奴らが湖畔の村を襲う可能性もあるのだぞ!」

勇者「わかっている!でもよ!でもよぉ!」

勇者「魂がなくたって彼らは人間だ!人間なんだ!魔王に操られているだけなんだ!」

勇者「そんなのを斬れるわけないじゃないか!」

賢者「睡眠魔法スリープ」

勇者「なっ、待ってくr・・・」zzz

賢者「勇者は置いていく。私たちだけでやろう」

魔法使い「まあ、グール相手なら動きもとろいし。勇者抜きでもなんとかなるでしょ」

戦士「ちょっといいか?」

賢者「・・・なんだ?」

戦士「勇者は優しいし、甘っちょろい。だからグールを斬れないなんてことを言う」

戦士「でもさ、あいつも馬鹿じゃない。グールの危険性ぐらいわかっている」

戦士「だからさ、勇者は斬らないで済むやり方を選びたかったんじゃねえのか?」

魔法使い「そんな方法あるわけないじゃない!バカ戦士!」

賢者「・・・」

戦士「気に食わなければ、俺にも睡眠魔法をかければいいさ」

戦士「それが賢き者たちのやりかたなんだろ?」


賢者「・・・覚醒魔法ビター」

勇者「!」

賢者「すまなかった勇者。何か考えがあるのか?」

勇者「てめぇ!つぎやったらただじゃおかねぇぞ!!」

魔法使い「ゆ、勇者・・・」

戦士「勇者、落ち着け」

賢者「すまなかった」

勇者「はぁ・・・はぁ・・・、グールってのには力はどれくらいあるんだ?」

賢者「人間とさほど変わらん。体が腐っている分、人間には劣る」

勇者「知恵は?速度は?魔物として脅威となる部分はなんだ?」


賢者「知恵はない。近づくものを襲う程度。足も遅い」

賢者「脅威となりうるのは、やつらが止まらないことだ」

戦士「止まらない?」

賢者「ああ。元が死体だからな、切っても倒せない。無力化するには両手両足と頭を切断するか」

魔法使い「魔法で跡形もなく焼くか・・・ってことね」

勇者「奴らはのエネルギー源はなんだ?どうやって動いている?」

賢者「魔力だ。魔王が復活してから、この大地にも魔王の魔力が及んできている」

賢者「その魔力が、あの村の死体に宿ったのだろう」

勇者「・・・そうか」

賢者「どうする気だ勇者」

勇者「放置しよう」

魔法使い「はぁ!?」

戦士「黙ってろよ、あほ魔法使い」

魔法使い「な!」

賢者「二人とも黙れ。放置しても危険が残るだけだぞ勇者」

勇者「ああ、だがその危険も俺たちが魔王を倒すまでの間だ」

勇者「奴らに知恵がないなら対岸の村を襲うなんて思いつかないだろ?」

賢者「特に意図もなく村に近づくかもしれない」

勇者「グールぐらいなら、湖畔の村で対処できるんじゃないか?柵でも設けときゃ、楽勝だろ」

賢者「我々がやれば、数刻でかたがつくんだぞ。それでもか?」

勇者「・・・それでもだ」

賢者「わかった・・・従おう」

魔法使い「・・・」

戦士「・・・」

賢者「よし、それならば村へ戻り村長に報告をしよう」

湖畔の村


村長「そうでしたか。彼らはグールに・・・」

賢者「はい。ですので、我らが魔王を倒すまでの間、対岸の集落には近づかず」

賢者「村では、防御を固めておいてください」

村長「ありがとうございます・・・」

村長「この村には、あの集落で生き残った者たちや、集落で亡くなった者たちの親類が多数おります」

村長「彼らも、いつか遺体を弔えるとわかれば喜んでくれるでしょう」

戦士「へぇ・・・」

魔法使い「?」

勇者「では、よろしくお願いいたします。私たちは、もう一泊してから出立します」

村長「おお、ならば今晩は酒と豪華な食事を用意させましょう。せめてものお礼です」

戦士「やりい!」

勇者「ありがとうございます!」

村の広場


勇者「ぷはーっ、うめぇなこの村のエール!早くグールたちを弔えるよう、さっさと魔王を倒さなくちゃな!」

戦士「そうだな!魔王倒したら、どれくらい褒美がもらえるんだろうな!ぐびぐび」

勇者「バカ戦士!俺たちは褒美の為に戦ってるんじゃないぞ!」

戦士「へへ!わりぃわりぃ!」

勇者「おい!賢者!魔法使い!お前たちは飲まないのか!?」

賢者「俺たちは、あまり酒に強くないから遠慮しておくよ」

魔法使い「・・・昨晩も飲んだしね。なによりちょっと疲れたわ」

賢者「そうだな、私たちはもう休むとしよう」

魔法使い「・・・そうね」

戦士「なんだぁ!おめえら!いつも二人でふけやがって!できてんのか!」


戦士「?」

勇者「まあ、戦闘こそなかったが結構な距離を歩いたからな。無理するな、もう休め」

賢者「そうさせてもらおう」

魔法使い「おやすみ勇者」

宿屋


魔法使い「・・・また尻ぬぐい?」

賢者「・・・全部はやらない。半数でいいだろう」

魔法使い「魔王を倒した後に、遺体がなかったら変だものね・・・」

賢者「ああ。」

魔法使い「いつまで、こんなことを続ける気・・・?」

賢者「私たちの力では尻拭いが出来なくなった時までだ・・・」

賢者「いつか、勇者にもその手を汚さざるを得ない時がくる・・・せめて、その時までは・・・」

魔法使い「賢者の勇者信者っぷりには、ちょっと引くわ・・・」

賢者「それは、お前も同じだろう?」

魔法使い「なっ・・・///」

賢者「わかるさ、仲間だからな」

魔法使い「ほら!さっさと行くわよ!朝までにやらなくちゃならないんだから!」

賢者「そうだな、行こうか」


そして夜が明けた

勇者は男です
賢者は男です
魔法使いは女です
戦士は女です
ちなみに私は男です

以降、初登場で女性の場合は記述します。ご指摘ありがとうございます。

書きためてるので明日投稿予定です。
感想ありがとうございます。


勇者「どおりゃあああ!」すぱぁん!

戦士「ふぅ・・終わったな。つかれたー!」

魔法使い「さすがに、魔王城に近づくと魔物の質も違うわね」

賢者「魔王城に最もちかい村まで、あと一息だ」

賢者「最果ての村から魔王城までは、歩いて二日の距離」

賢者「つぎが最後の補給となるだろうな」

勇者「やっとここまできたか・・・」

勇者「よし、最後まで油断なく行くぞ」


最果ての村


村長「よくぞいらっしゃいました。勇者様」

勇者「私たちが誰だか知っているんですか?」

村長「ええ、勇者一行の噂は最果てのこの村まで届いております」

賢者「説明が省けたな。村長、一晩の宿を頼みたい」

戦士「あと飯も!」

魔法使い「水と食料、薬草類もすっからかんよ。お店はあるのかしら?」

村長「ええ。ええ。すべてこちらで準備いたしましょう」

村長「もちろん、お代はいりません」

戦士「至れり尽くせりだな!」

賢者「・・・」


勇者「ところで、村長。村に入ってから女子供の姿を見ていませんが?」

村長「ええ。この村は、魔王城に最も近い村ですから」

村長「魔王復活以降、女子供達は遠方の土地へ疎開させました」

村長「いまこの村にいるのは、畑と土地、家屋を守る男だけです」

賢者「の割には、村に防衛施設が少ない気がするな」

村長「なにせ、強い魔物がひっきりなしに襲ってまいります」

村長「村の男たちは、王都の衛兵共より経験を積んだ強者ばかりになってしまいました」

戦士「そいつは、笑えるな」

村長「なので、土塁や塀なども不要なのです」

勇者「それは心強いことだ。今晩は、ゆっくり眠れそうだな」

村長「まあまあ、立ち話もなんですから今日はゆっくり休んでくだされ」

勇者「お言葉に甘えます」


最果ての村 宿屋


賢者「勇者、この村はおかしい」

勇者「何が言いたいんだ、賢者?」

勇者「こんなに良くしてもらっているのに、ケチをつけるつもりか?」

賢者「それだよ。豊かすぎるんだよ勇者」

賢者「強い魔物が高い頻度で襲ってくる。なのに、陣地構成が甘すぎる」

賢者「いくら村の男たちが強いからと言っても限度がある。村の防衛には相当な数の男手が必要となるはずだ」

賢者「女子供もおらず、男たちは防衛につく。ならばいったい誰が畑を耕すんだ」

賢者「なのに、食料に、薬にまで余裕がある様子」

戦士「確かに、俺達でも苦戦する魔物がうじゃうじゃいるのに村の体裁は保っているな」

戦士「王都から、さほど遠くない村でさえ魔物に襲われて壊滅してるっていうのに」


勇者「だからそれは、普段から強い魔物を相手にしているからだろ?」

魔法使い「・・・勇者だって魔物と戦うだけで強くなったわけじゃないでしょ?」

魔法使い「勇者も初めは騎士団で剣の訓練を受けたじゃない」

勇者「まあ、そうだけど・・・」

賢者「いまのところ確たる証拠はないが、魔王城に最も近い村だ何が起こるかわからん」

賢者「ただ、強い村人がいるからって油断するなというだけの話だ」

勇者「ちょっと気に食わないが、わかった。今晩は交代で寝よう」

戦士「じゃあ!俺は先におやすみ!」zzz

魔法使い「あ!あんたねぇ!・・・もう、寝てる・・・」

賢者「才能だな・・・」

勇者「ふふふ・・・」


そして夜が明けた


勇者「何から何までありがとうございました。村長」

村長「いえいえ。平和のためです」

賢者「薬と食料は有難く使わせていただきます」

戦士「よっしゃ!いくか!」

魔法使い「村長さん、次お会いするときは平和な世界で」

勇者「では、いってまいります」

最果ての村を臨む丘


勇者「結構、歩いたな小休憩するか」

魔法使い「最果ての村がすっごい小さく見えるわ。眺めがいいわね」

戦士「警戒もしやすいし、休憩にちょうどいいな」

戦士「って!そうじゃねえ!」

戦士「思わせぶりなこと言ったくせに、なんにも起こらなかったじゃないか!」

賢者「む・・・」

魔法使い「まあまあ。賢者だって読みを違えることはあるわよ」

魔法使い「占い師じゃないんだから」

勇者「まあ、村の人たちは本当に平和を望んでいた。そういうことでいいじゃないか」

魔法使い「そうそう。そういうことそういうこと」

賢者「・・・・!」

戦士「!」


戦士「勇者!」

勇者「ん?どうした?」

戦士「囲まれてる!」

戦士「おいおいおいおい!半端ない数だぞ!どこに潜んでいやがった!」

賢者「ざっと200はいるか・・・」

魔法使い「」

勇者「・・・怯むな、魔法使い。俺たちは勇者一行だ。魔王を打倒す者たちだ」

勇者「こんなところで倒れるわけにはいかない。何としても生き残るぞ!」

深緑の森


勇者「みんな、無事か・・・」

魔法使い「魔力が尽きた・・・、もう戦えない・・・」

賢者「日も沈んで、奴らも私たちを見失ったようだな・・・」

戦士「ぐ・・・あ・・・」

勇者「戦士!どこをやられた!?」

戦士「わきばら・・・えぐられちまった・・・」

勇者「賢者!」

賢者「わかっている。小回復魔法エイド」

賢者「ひとまず、傷口はふさげた。戦士、悪いが私も打ち止めだ」

賢者「もう魔力がない」


戦士「さんきゅ・・・」

魔法使い「荷物も投げ出してきちゃった・・・」

魔法使い「もう手持ちの水しかないわ・・・」

勇者「・・・」

勇者「無理だな・・・戻ろう。最果ての村で立て直す。」

賢者「それしかないな。だがな、勇者・・・」

勇者「・・・わかっている」

魔法使い「え?」

勇者「休憩で、荷を下ろした途端の襲撃」

勇者「そのうえ眺めのいい丘で、戦士が気づかないほど息を潜めた大軍」


勇者「俺たちの動きが筒抜けだ。情報の出どころは十中八九。あの村だ」

賢者「そう。だがなんの確証もないうえに、私たちはあの村に戻らなければならない」

賢者「奇襲が失敗したことはもう伝わっているだろう。待ち構えているだろうな」

魔法使い「・・・ねえ、勇者・・・」

勇者「もしそうならば・・・俺たちの推測が正しかったら、その時は斬る」

魔法使い(・・・っ!)

賢者(その時が来たようだな・・・もう私たちには手がおえない・・・)

魔法使い(潮時ね・・・)

賢者「安心したよ勇者。ただ、わかっているな?相手は人間だぞ」

勇者「ああ、躊躇はしない・・・必ず皆で生き残る」


賢者「戦士、剣を借りるぞ」

賢者「魔法使いと戦士は、私たちからつかづ離れずで居ろ」

賢者「魔力がないこと、体力がないことを悟られないよう敵を牽制しろ」

勇者「あとは、俺と賢者に任せろ。賢者、剣はどの程度扱える?」

賢者「私を誰だと思っている。戦士並には使ってやるさ」

勇者「頼もしいな、よし、じゃあ行くか」

賢者「ああ」


そして、夜が明け一つの村が滅びた


賢者「勇者は?」

魔法使い「戦士を看病してる」

賢者「流石に、あの状態で二刻も仁王立ちを続けるとは思わなかった。さすが戦士だな」

魔法使い「けっこう牽制になってたのが、信じられないわ。本当に女なのかしら?」

賢者「・・・魔法使い、おそらく勇者は・・・」

魔法使い「わかっているわ。まあ、悔しいけど戦士になら譲ってあげる」

賢者「そうか・・・」

魔法使い「それよりも、勇者が本当に躊躇なく人を斬れるとは思っていなかったわ・・・」

魔法使い「それに、村人の本性がわかった途端に村に火を放つなんて・・・」

賢者「この村は、魔王に協力することで被害を免れていた。女子供が人質になっていたとしても」

魔法使い「この村の人にも魔王に協力する理由があった・・・」

賢者「それでもだ。勇者は私たち、仲間を選んだんだ・・・」

魔法使い「・・・そうね」


そして、数日が流れた


戦士「心配かけたな!みんな」

魔法使い「まあ、心配はしてないわよ」

戦士「な!?」

賢者「そう言うな、魔法使い。戦士が寝込んでいる間にこちらも休ませてもらった」

賢者「お互い様だ」

勇者「それもそうだな。」

勇者「あと、賢者、魔法使い」

賢者「む?」

魔法使い「どうしたの?」


勇者「いままで、すまなかった」

魔法使い「?・・・気にしないで」

賢者「わかっている。気にするな」

勇者「よし!傷は癒えたが完調はしていないし」

勇者「何より、旅の物資がない。」

賢者「うむ。出発は明日にしよう。今日は、村に残った食料や薬を集めよう」

戦士「らじゃー」

魔法使い「はーい」


そして夜が明けた


魔王城 最後の間


勇者「ついに、ここまで来たな」

賢者「ああ」

魔法使い「結構、あっさりたどり着けたわね」

戦士「確かに、敵の本拠地の割には魔物の数が少なかったな」

賢者「先日の奇襲攻撃。あの時の魔物だ」

賢者「私たちを確実に仕留めるため、城の防御を捨てて、絞り出した戦力だったんだろう」

戦士「なるほどなー」

勇者「みんな、こんな時に悪いんだが一つ頼みがある」

戦士「どうした?」

勇者「最果ての村のことだ。あの村のことは俺たちだけの秘密にしてくれ」


賢者「わかっているさ」

魔法使い「・・・どうして?理由を聞かせて」

勇者「保身のために言っているわけじゃない」

勇者「俺は俺自身のことを、希望の象徴だと思っている。実際、そうあらんとしてきた」

勇者「魔王を打倒せば、人々は、俺を妄信し崇拝すらするだろう」

魔法使い「なに?みんなを、騙すつもり?神にでもなるつもり?」

賢者「黙れ。魔法使い、最後まで聞け」

魔法使い「・・・」

勇者「違う。俺自身は、表舞台から消えるつもりだ。権力に興味はない」

勇者「勇者の物語の話なんだ」


勇者「魔王を打倒す希望の勇者の物語、人々は俺たちの物語を糧に世界を復興させるだろう」

勇者「そんな物語に、人々に希望を与える物語に水を差したくないんだ。俺たちがやってしまったことで」

勇者「保身と思われても仕方がない・・・軽蔑してくれてもいい」

勇者「だが、約束してくれ。あの村のことを口外しないと」

戦士「もちろんだ」

賢者「そんなもの当然だ。考慮するにも値しない」

魔法使い「ごめんなさい。勇者。貴方の本心は受け取ったわ。秘密は守るわ」

勇者「ありがとう、みんな」

戦士「なんだ!なんだ!魔王と戦う前から、もう倒した後の話かよ!」

賢者「それもそうだな。私としたことが」

魔法使い「ふふふ。結構、余裕あるわねみんな」

勇者「よし!行くぞみんな!魔王を倒して凱旋だ!!」


その日、勇者は片腕を、賢者は両目を。
そして魔王は、命を失った。

王都 王城


勇者「魔王討ち死にの連絡は入っているはずなんだけどな」

戦士「なんか衛兵の数、多くね?」

魔法使い「なんか歓迎ムードってわけじゃなさそうね・・・なにかあったのかしら」

賢者「魔法使い、様子を教えてくれ」

魔法使い「言葉のとおりよ、衛兵が戦時装備で私たちの両側面に並んでいる。数は20ね」

賢者「たしかに妙だな・・・」

大臣「王陛下がいらっしゃいました。みなさんお静かに」

王「よいよい。賢者よ報告を聞かせてもらえるか?」

賢者「・・・恐れながら、我らは勇者一行。報告は勇者からが妥当ではないでしょうか?」

王「ふむ・・・そうだな。形は大事だものな」


王「勇者よ・・・申せ」

勇者「・・・?はっ!我ら勇者一行、無事、魔王を討ち果たして参りました。」

勇者「この世界より、魔王により魔力は一掃され。精霊による平和の光があまねくもたらされることでしょう」

王「ふむ、よくやった。勇者よ」

戦士「あれ?それだけ?俺たちの冒険譚とか聞かないの?」

賢者「戦士、王陛下の前だ控えろ」

王「うむ、あらかたは聞いておるからよい」

王「さて、大臣。わしは自室におる。あとは頼む」

大臣「はい、承りました」

魔法使い「やけにあっさりしてるわね」

大臣「さて勇者よ・・・疲れているところ悪いが」

勇者「?」



大臣「衛兵!勇者と戦士を捕らえよ!」

勇者「なっ!」

戦士「はぁ!?」

賢者「魔法使いっ!何だ何が起こっている!?」

魔法使い「話はあとよ!脱出魔法!エスケーp」

大臣「沈黙魔法サイレント!」

魔法使い「・・・・・・・っ!!!」

戦士「まだだ!勇者にげるぞ!」

戦士「大臣を人質にとればぁあああ!」

大臣「遅いわ!雷撃魔法サンダー!」

戦士「が・・・」


大臣「抵抗はするなよ、勇者」

大臣「かつて大魔法使いと言われた私と、衛兵達を相手に片手でやりあう気はないだろう?」

賢者「恐れながら!恐れながら申し上げます!」

大臣「ならぬ。魔法をかけられては困る、おぬしもしばし黙っておれ。サイレント!」

賢者「・・・・・」

勇者「なにかの!なにかの間違いです!なぜ私が、なぜ戦士が投獄されるのですか!?」

大臣「黙れ・・・貴様の本性はわかっている。衛兵、連れていけ」

衛兵「はっ!」

勇者「間違いです!これは!」

戦士「・・・・勇者・・・」


そして、世は明ける

回想 魔族の森にて


戦士「あの魔族のガキ、殺されるぜ賢者に」

勇者「わかってるよ。承知のうえさ」

戦士「へへっ、流石だねぇ勇者様」

勇者「役割分担さ。俺は勇者、あいつは賢者。勇者が汚れ役になるわけにはいかねえだろ」

勇者「俺たちは、魔王をぶっ殺して国に帰れば英雄だ。けちがつきそうなネタは早めに処理しねえとな」

戦士「どこまでも付いていくぜユウシャサマ」

勇者「おい、楽しくお話してる暇なんかねえぞ」

戦士「あ?」

勇者「お前、それでも元盗賊かよ。魔族どもの死体から金目の物を漁るんだよ」

戦士「えー、でも精霊の前で『盗みはしねえ』って誓っちまったしなあ。ばち当たんねえかな」


勇者「ばっか。戦士のばか。これは盗みじゃねえよ、正当な報酬なの」

勇者「俺たちが大事に使ってあげたほうが、村人も報われるだろ」

勇者「というか、急げ。賢者たちが帰ってくる前に集めちまうぞ」

戦士「んーそうだな。汗水垂らして働いたんだ、次の街では豪遊すっか」

勇者「おうおう、その意気だ。ほらさっさと集めろ」

勇者「言っておくが早い者勝ちだぞ、自分の金は自分で稼げ」

戦士「死体漁りで盗賊と競うなよ」

回想 湖畔の村宿屋にて


勇者「賢者と魔法使いは、もう寝たかな」

戦士「あいつら、途中でふけやがって。せっかくの酒なのに、もったいない」

勇者「・・・ところで、戦士。なにかいう事はないか」

戦士「・・・すまねえ。死体漁りがばれた件だろ」

勇者「いや、こっちこそ、お前を売るような真似をしてすまん」

戦士「お前が謝んなよ、へましたのは俺だ」

勇者「わかっていればいいさ。賢者たちには率先して汚れ役を引き受けてもらわなきゃならねえ」

勇者「そのためには、奴らにも俺の本性をみせるわけにはいかんからな」

戦士「わかっているよ。俺とお前だけの秘密だ」

勇者「ああ、この話は終わりにしよう」

勇者「今夜は俺の奢りだ」

戦士「へへへ、愛してるぜ勇者様」

回想 湖畔の村広場にて


勇者「今日は油断した・・・まさか、睡眠魔法をかけられるとは・・・」

戦士「いや、まじでびびったからね俺」

戦士「馬鹿キャラ捨ててまで、賢者を説得したんだぜ」

勇者「助かったよ。ありがとう」

戦士「へへへ、どういたしまして」

勇者「しかし、ちょっと考えを改めなくちゃな」

勇者「賢者が俺を信奉しているのは知っていたが、あそこまでとはな」

戦士「汚れ役を買って出ていることを隠さなくなったてことだよな?」

勇者「あのタイミングで睡眠魔法をかけたんだ、俺から嫌われるのも織り込み済みなんだろ」

戦士「嫌われても、勇者の手は汚させないってか?ちょっと引くわ」


勇者「・・・もしくは、汚れ役を買って出ることで俺に罪悪感を与えるとかかな?」

戦士「罪悪感を使ってでも、自分に興味を持って欲しいってか?うわ、まじ気持ち悪いな」

勇者「・・・今後は、俺も手を汚すよ・・・」

戦士「ええぇ・・・計画はどうすんのよ?」

戦士「勇者の名を汚すような事件が起きたら、賢者達になすりつける計画は」

勇者「あんだけ、俺を信奉してるんだ。こちらから頼まなくても勇者一行の闇を全部かぶってくれるだろう」

勇者「いきなり睡眠魔法をかけられるよりましだ」

戦士「まぁ、それもそうか?」

戦士「それよりさ」

勇者「グールのことか?殺しに行っただろうな、賢者と魔法使いのことだ」

戦士「別に勇者の案でも、大丈夫だとおもうんだけどなあ」

勇者「少しでもリスクを減らしたいのさ」

戦士「そんなもんかねぇ・・・ぐび」




魔法使いの日記



○月○日 

今日、初めて勇者様とお会いすることができた。
世界に平和をもたらす一筋の希望、勇者。
勇者様に同行できることを誇りに思う。



○月×日 

勇者様の希望で、もう一人仲間を迎えることになった。
なんでも、国で有名な盗賊らしい。
会ってみたら、若いけど乱暴な娘だった。
どうやって説得するか考えていたら、あっさり仲間になった。
更には、今後盗みはしないと誓いまで立てた。
流石、勇者様。

ただちょっと、勇者様に馴れ馴れしすぎる気がする。


○月△日  

明日はいよいよ、王都出発の日。
準備をしていたらお師匠様に呼び出された。
お師匠様は、この国の大臣でもある。ちなみに賢者の師匠でもある。
つまり賢者は私の兄弟子という事になる。

お師匠様に言われた。
「勇者は眩しすぎる。光あるところには闇もある。妄信してはならない」
いくらお師匠様でも、言っていいことと悪いことがある。
平和の導き手である勇者様に対する侮辱だと怒ったら。
「ならば、自身の目で見極めなさい。もし困ったら魔法で連絡しなさい」
だってさ。
お師匠は、何事においても心配し過ぎるんだから。

旅に出たら、日記もなかなか書けなくなるだろうなあ。



※月※日 最初の村にて 

最初の街についた。
ここにたどり着くまでに、初めて人に手をかけた。

彼らは商人の恰好をしていた。森の中で遭遇したのだ。道を教えてもらって別れた。
賢者は、彼らが盗賊であることに気づいていた。勇者も私も戦士も、完全に騙されていた。
別れた後も、盗賊たちは隠れながらついてきた。賢者曰く「隙を伺っていたのだろう」
賢者から、耳打ちされ。私と賢者で、静かに毒の魔法を放った。勇者も気づかなかっただろう。
私は数日、言葉を話すことができなかった。感情をうまくコントロールできなかった。
口を開いたら、贖罪の言葉を吐き出すかもしれない。
勇者に知られてはならない。嫌われるのは嫌だ。

勇者がしきりに心配してきた。ほっといてほしかった。

×月▽日 湖畔の村にて

湖畔の村は綺麗なところだ。心が休まる。

私たちは、子供を殺した。
殺したのは賢者だけど。
二回目だからだろうか、今度は感情をうまく抑えられた。
こんなことでも慣れてしまう自分が怖い。

罪悪感からか、勇者に近づくのが怖くなってしまった。
あんなに純粋な人に、私が近づいたら汚してしまいそうで。怖い。
必然的に、賢者といる時間が増える。
彼は酷い人だ。いくら弟弟子だからと言って、勇者一行の尻拭いを私にも手伝わせることはないだろう。
でも、彼の勇者への信奉は本物だ。そこだけは尊敬する。

△月※日 山小屋にて

ずるい。
私と賢者は、あれからも手を汚し続けているのに。
勇者と戦士は、綺麗だ。まぶしいくらいに。

彼らも、私と同じ苦しみを味わえばいいのに。



▽月×日 最果ての村にて

後悔した。
勇者が人に手をかけてしまった。かけざるを得なかった。
全てが終わったあと、勇者は人目をはばからずに泣いた。大声で。
あんなことを日記に書くべきではなかった。



▽月△日 最果ての村にて

寝込んでいた戦士が回復した。
突然、勇者が「いままで、ごめんな」と謝ってきた。
何のことか迷った。とりあえず、気にしないでと返した。

いま、日記を書きながら思い至ったことがある。

何か都合の悪いことが起きる度に、居なくなる私と賢者。
勇者は、そのことに対して触れたことは一度もない。

戦士が、死体漁りをして勇者が叱ったとき。
私には勇者の懐も膨らんでいる気がした。
そのあとの湖畔の村での散財。

この村での、いままでの勇者とは思えないほどの非情な戦い方。

他にも、他にも、他にも
私は、違和感を、不審なことを、無意識に精神の奥底に沈めていた。
勇者を信じていたから。
勇者が好きだったから。

「いままで、ごめんな」は
「いままで、『お前たちだけ手を汚させて』ごめんな」
初めて人間に手をかけた勇者の贖罪だったのではないだろうか。

お師匠様の言う通りかもしれない
勇者は純粋な光のみの存在じゃない。
彼にも裏が、闇がある。

見極めなければならない。私自身の目で。

ただ、それでもなお勇者を信用している私がいる。
まだ、勇者への恋心が残っていて、私の目を曇らせているのかもしれない。

勇者を信奉している賢者には相談できない。
お師匠様に、相談してみよう。

そういえば、この旅の中、一度も連絡を取っていなかったなあ。
お師匠様、元気にしているかしら。

回想 最果ての村にて


勇者「・・・戦士・・・大丈夫か」

戦士「大丈夫だよ勇者、泣くなよ、男だろ」

戦士「賢者と魔法使いは・・・?」

勇者「外にいる・・・。ここには俺とお前だけだ」

戦士「・・・そうか」

勇者「初めて人を殺した・・・」

戦士「知っている」

勇者「村に火もかけた」

戦士「みていた」

勇者「この村にも、そうせざるを得ない理由があったのにだ・・・」

戦士「わかっているさ」

勇者「賢者と魔法使いに謝らなきゃな・・・」

戦士「そうだな」

勇者「さっきから曖昧な返事ばっかしやがって・・・」

勇者「ちゃんと聞いているのか?」

戦士「勘弁してくれ、もうへとへとなんだよ」

勇者「そうだったな。おやすみ戦士」

戦士「おやすみ・・・」

勇者「戦士?寝たか?・・・・・・戦士愛してる」

戦士「・・・・///・・・でてけぇええええ!」

勇者「ふふ、おやすみ」

戦士「ふん・・・おやすみ」

魔法使いの日記


Ω月Ω日 王都にて


わたしだ。わたしのせいだ。
わたしがお師匠に相談したからだ
そんなつもりはなかった
なのになのになのに

勇者の真意はわかったのに
信頼にたるひとだって
確信できていたのに

わたしの相談のせいで
勇者に翻意の嫌疑がかかったんだ
わたしのせいだわたしの

勇者にあわすかおがない
ごめんなさい戦士

もう
死んで詫びるしかない
ごめんなさい 勇者

ごめんなさい。適当に脳内変換してください。日本語むずかしい

牢獄


賢者「やあ、勇者。元気にしていたかい?」

勇者「てめぇ・・・やけにいい服着ているな・・・出世したのか?」

賢者「それが本来の君の口調か」

賢者「私が睡眠魔法をかけた時以来だね。そっちの口調も好きだな」

戦士「おげぇ・・・お前、キモさに磨きがかかってねえか?」

賢者「やあ、戦士。君も大丈夫そうだね」

勇者「賢者、聞きたいことがたくさんある。答えろ」

賢者「いいよ。ただ訂正しないといけないことがある」

賢者「私は賢者ではなくなった。私のことは真・勇者と呼んでくれ」

賢者「元・勇者くん」

勇者「・・・やだね」


勇者「まず、大臣は俺の本性を知っていると言っていたな?誰がチクった?」

賢者「魔法使いだ」

戦士「・・・まじかよ」

賢者「彼女を責めないでほしい。投獄は彼女の意志とは無関係だ」

賢者「君たちに申し訳がたたなかったんだろう・・・彼女は毒を飲んだよ・・・」

勇者「そうか・・・次だ、お前たちが言う俺の本性ってのは何だ?」

勇者「裏で盗みを働いていたことか?村を焼き討ちにしたことか?」

勇者「いずれにしても、投獄されるほどのことか?魔王を倒した英雄だぞ」

賢者「そこについては私の推測だが、答えよう」

賢者「ただただ平和を愛する男、魔物であろうと子供には慈悲の心を与える男」

賢者「君がただそれだけの男なら、純粋に英雄として迎えられただろう」

賢者「だが実際の君は、裏と表を使い分け、いざとなれば非情な手段も厭わない」

賢者「そう。王は認めたのだよ。君を。王の対抗馬、ライバルになりうると」

賢者「だからこその投獄だ」

勇者「・・・世間では、俺と戦士はどういうことになってる?」

賢者「魔王を倒すも、魔王最後の呪いによって魔に堕ちた」

賢者「しかし、新たな勇者、かつての勇者の仲間、賢者によって捕らえられた」

勇者「てめえは、おこぼれで勇者になったってわけか」

戦士「なあ、あの村のことはどうなったんだ」


賢者「魔に堕ちた君たちが焼き払ったことになっている」

勇者「・・・そうか」

勇者「俺と戦士はこれからどうなる?」

賢者「生かさず殺さずかな」

勇者「何故だ。何故殺さない」

賢者「君たちにも少なからず、同情する者たちがいる。君たちがまだ生きているのは、彼らの力によるものだ」

勇者「そうか・・・まだ、終わっちゃいねえ」

勇者「賢者、てめえを勇者の地位から引きずりおろしてやる」

賢者「おや?表舞台に立つつもりは無いんじゃなかったのか?」

勇者「気が変わった。王もてめえも糞ったれだ、勇者は世界の希望だぞ」

勇者「てめえらじゃ力不足だ」

戦士「ん?あれ?ちょい待て勇者」

勇者「あ?なんだよ」

戦士「賢者、お前、一人でこの牢獄まで来たのか?」

賢者「ああ、そうだ」

戦士「目はどうした?」

賢者「魔法使いが開発した、触覚、嗅覚、聴覚を最大限まで高める新しい魔法だ」

勇者「ああああ?魔法使いは毒を飲んで死んだんじゃ?」

賢者「私が解毒して助けた」

勇者「てめえ、どういうつもりだ。ふざけてんのか・・・・?」

賢者「さて、質問に答えるのこれぐらいにしようか。ここからは私の話を聞いてもらう」

賢者「勇者、助けに来た」

勇者「・・・お前、一体なんなんだ・・・」

賢者「私は、これまでもこれからも勇者の味方だ」

賢者「君は投獄されてなお、勇者という名に固執しているように見える」

賢者「君は、一人でしょい込みすぎだ。魔王城での言葉、あれは本心なのだろう?」

賢者「勇者という物語を、みなの希望にしたいのだろう?」

勇者「・・・口裏を合わせたかっただけさ」

賢者「いまの君を見ていると、『勇者』が枷となってしまっている。少しは仲間を頼ってくれ」

賢者「旅の最中、さんざん私と魔法使いに頼ってくれていたじゃないか」

勇者「お前らが手を汚していたことか?それも魔法使いから聞いたのか?」

賢者「伊達に賢者を名乗っていない。魔法使いが気づくのにどうして私が気づかないだろうか」

勇者「いつからだ?」

賢者「最初からだ、神託が降りてからずっと君を見ていた」

戦士「おえ・・・」

賢者「茶化すなよ。勇者の称号は私が引き継ごう。勇者、君は逃げろ」

賢者「戦士と共に生きるがいい」

勇者「・・・いや、だめだ」


賢者「安心しろ、君の素性も私は知っている。その懸案事項、私が解決しよう」

賢者「なに、勇者の称号を得たんだ。それぐらい容易いことだ」

戦士「孤児院のことか・・・?どこまで知ってんだ?」

賢者「すべてさ」

勇者「お前はどうする気だ。勇者の枷に縛られて、しかも、王に目を付けられないように」

勇者「そうやって、生きていくつもりなのか?」

賢者「賢者の名は伊達ではないぞ。それぐらい容易いことだ」

賢者「それにな、解毒魔法が遅れたせいか。魔法使いは歩けなくなってしまった」

賢者「彼女を一人にはできない、あれでも弟弟子だからな」

戦士「へへへ、できてんじゃねえのか?」

賢者「私は彼女を愛している。彼女は、どうだろうな」

戦士「・・・ごめん、同性愛者だと思ってたよ」

賢者「さて勇者。話はこのぐらいにしておこう」

賢者「実はね、国中に魔法陣をしかけたんだ。魔法使いと私で魔力を込めたとっておきの奴だ」

賢者「君たちはしばし眠りにつく。まあ、君たちだけじゃなく国中の人々も眠りにつくんだが」

賢者「目が覚めたら、新しい生活のはじまりだ」

賢者「二人とも、さようならだ」

  「ごめんなさい。幸せに」

勇者「ありがとな二人とも。借りはいつか返す」

戦士「うまいことやれよ賢者。達者でな魔法使い」

賢者「では、おやすみ」

賢者「「 極大睡眠魔法 」」




その日、国中が眠りにつき
二人の囚人が消えた。

たった二人の囚人に、国が陥落した日
後の書には、そう記されていた。


戦士の回想


私は、戦士になる前は盗賊だった。盗賊の前はただの餓鬼だ。
両親は物心つくころには居なかった。理由はわからないが捨てられたのだ。
私に生きる術はなかった。勇者に拾われなければ野垂れ死んでいただろう。
勇者は、街の身寄りのない子供たちを町はずれの廃墟に集めて、面倒をみていた。
わたしもそのひとりだったのだ。
私たちは、生きるために盗みをし、旅人をだまし、そして人さらいどもと戦った。

神託が降りて、勇者が伝説の血を受け継いでいると分かって騎士団に連れていかれた時。
私は、泣いて泣いて泣いて、勇者にすがりついた。
置いていかないでくれと。
勇者は困った顔をして、「必ず戻ってくる」と言った。
身寄りのない子供たちは、教会に引き取られた。勇者の懇願による温情だったそうだ。
ただひとり、私だけが廃墟に残った。
勇者の帰ってくるところを残さなくては、勇者が戻ってこれる場所を守らなければ。
幼いながらにそう思ったのだ。

結果、私は順当に道を踏み外し。盗賊と成り果てていた。
言葉づかいも必要以上に荒くなった、一人称に至っては「俺」になっていた。

数年の後、帰ってきた勇者は、しかめっ面した賢者と。
傍目に見ても勇者に媚をうっているのが分かる魔法使いを連れていた。
そして、見たことも無い笑顔で、似合わない笑顔で。
聞いたことも無い優しそうな、流暢な言葉で語りかけてきた。
当時、私は、素早さと勘の良さで名の知れた盗賊となっていた。その私をスカウトしに
来たというのだ。私の知っている勇者ではなかった。
彼は、私を迎えに来たのではない。腕のある盗賊を迎えにきたのだ。そう思った。

しかし、勇者は賢者と魔法使いに聞こえないほどの声で
「ただいま」
ただいまと言ったのだ。あの時と変わらない声色。なによりも力強い声だった。

旅の中で、勇者が変わっていないことはわかった。
ただ、賢者と魔法使いの前では、良い子ちゃんの仮面をかぶっていた。
「計画がある」
勇者はそう言った。
金と名声を手に入れ、孤児院を作るつもりらしい。
その為に、汚れ仕事は全て賢者と魔法使いに押し付けようという魂胆らしい。

計画を話してくれたという事は、私を信用してくれているという事だ。
本当の勇者を知っているのは私だけだった。正直、うれしかった。

確かに勇者には裏表があったし、金にせこい男だ。
でも、彼のやさしさは本当だ。

旅の途中、魔物の子供と出会った。
賢者と魔法使いは殺すべきだと主張し、勇者は反論した。
結局、子供は賢者たちが勇者に隠れて殺した。
勇者は気づいていた。
私の前では「自分の手は汚さない」と嘯いていたが。
その晩、彼は一人キャンプを抜け出し、胃の中をすべて吐き出し、声を抑えて泣いていた。

彼は、魔物の子供が人間に復讐することも理解できていたし。再教育は無理だとわかっていた。
自身がそうだったから。
騎士団に連れていかれ勇者としての教育を受けても、変わることのできなかった自分を知っているから。
ただ、自分の手で斬ることができなかった。
街の子供たちの面倒を見ていた勇者が、魔物だからと子供を斬るなんてできるわけがない。
彼は恥じていたのだろう。自らの手を汚さなかったことを。汚せなかったことを。

湖畔の村で、グールの処置でまた揉めた。
結局、グールの大半は賢者たちによって消し炭にされたらしい。
ただ、あの時、勇者は本当に願っていた。
魔王の魔力から解かれたグールが、いつか親族や集落の生き残りによって弔われることを。
だってそうだろう。自分の名声を高めるためなら、さっさと皆殺しにすればよかったんだ。
私たちの手柄にできたんだ。


最果て地で、私たちは一つの村を滅ぼした。
勇者は声をあげて泣いた。
魔法使いや賢者への、アピールじゃない。
あれはもう、計画の内じゃない。勇者の本当の姿だ。
仮面はもう剥がれていた。賢者と魔法使いは信頼できる仲間だ。
もう彼らの前で、仮面をつける必要はなかった。少なくとも私はそう思った。

魔王城で勇者がみんなに語ったこと。
あれも、勇者の本心だ。
ただ勇者は否定するだろう。「ただ口裏を合わせただけ」勇者はそう言った。
私の前では格好つけたい人なのだ。自分が優しくあることを恰好悪いと思っているのだ。
いつまでも、悪い兄貴分でいたいんだ。

勇者は本当に、本当に優しい人。
わたしだけが知っている本当の勇者の物語。
いや、あの気持ち悪い男、賢者、新しい勇者。あいつは、何もかも気づいて居たっぽい。
ちょっと、まじであの男は怖い。

もしかしたら、賢者から魔法使いにも本当の勇者の話が伝わっているかも。
まあ、いいか。魔法使いは仲間だし。勇者一行だし。

ちょっとだけ訂正しなくては。
私だけではない。
私たち、勇者一行だけが知っている、本当の勇者の物語。

おわり

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