モバP「P人の愛」 (24)

書き溜めなし

地の文あり

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P「まゆ、今日のスケジュールだが。」

まゆ「うふふ・・・ちゃんと覚えていますよぉ。」

P「そうか・・・俺はこの後会議があるから現場まで一人で・・・」

まゆ「もう、心配性ですねぇ。」

P「そうは言うがな・・・」

まゆ「現場まではタクシーを使いますし、スタッフの方々も優しいので大丈夫です。」

P「・・・・・・そうか。」

まゆ「時間も押しているのでまゆはもう行きますね。」

P「気をつけるんだぞ。」

パタンと優しく閉じた扉に俺は寂しさを感じた。

最近、まゆの態度が冷たい気がする。
俺の担当しているアイドルはまゆを含めて6人。
運命と言った大層なものではないが出会いは思い出に残る。

美波「Pさん、おはようございます。」

P「ああ、おはよう。」

彼女は新田美波。
俺が4人目にスカウトしたアイドルだ。
広島から東京の大学へ進学するために上京してきた。
最初は不慣れなことも多かった様だが、最近は上手くやれているようだ。

美波「今日のスケジュールは・・・変更なしですね。」

P「わざわざ事務所に確認しなくても電話やメールで伝えたのに。」

美波「いえいえ、私もレッスンの時間まで暇でしたので。」

P「・・・・・・大学は楽しいか。」

美波「おじさんみたいですよ、Pさん。」

そう言うと彼女は事務所のソファーに腰掛け、小脇に抱えていた小さな白い鞄から本を取り出し読み始めた。

俺も会議に出なければならないので必要な書類を鞄に詰めて事務所の扉を開けた。

事務所の扉を開けると季節を思い出したかの様に少し冷えていた。
上に羽織ると暑く。しかし、そのままでいると少し寒く感じる気温だ。

アイドル事務所とはいえ、まだ小さい。
雑居ビル群のコンクリートの階段は乾いた音がする。

文香「あ、おはようございます。」

不意にかけられた声に「おはよう。」と返すと彼女は恥かしそうに下を向き階段を上がる。

彼女は鷺沢文香。
俺が6人目にスカウトしたアイドルだ。
まだ上手く意思の疎通が出来ず難儀している。

彼女との接し方について思索をふけている間に社用車の前に立っていた。
ミニバンの扉を開け、席に置いてある本をどかして座り鍵を入れて捻る。

P「もう、古いのかな。」

エンジンのかかりがどうも最近悪い。
この車も長い間使っている。
アイドルが多少増えても乗れるようにと考えていたが皆しっかりしているし軽でも良い気がした。
車体が少し震え、音と共にカーエアコンから風が流れる。

車を駐車場から出し行き交う車の波に乗る。

青信号を待っていると助手席に置いてある鏡が目に入った。
裏面が蒼い凛の鏡だ。
俺は最初の三人をプロデュースした際に三色の鏡をプレゼントした。
卯月にはピンク、未央にはオレンジ、凛にはブルーだ。
皆、喜んでいたが凛だけは「蒼だよ」と譲らなかった。
それぞれ最初はぎこちなかったものの今では随分と打ち解けた気がする。

P「どうするかな。」

最近では美波も名前で呼んでくれる様になったのだが。
まだ日の浅い文香はともかく、まゆとはかれこれ一年近くの付き合いになる。

P「また後で考えるか。」

今日の議題を反芻し終える頃には目的地に着いていた。

俺は凛にメールを送りロビーで挨拶を済ませ会議室へ向かう。
アイドルたちも知名度が上がったとはいえまだまだ上からは遠い。
特番で如何に映してもらえるかが勝負だ。

ある程度の手応えを感じ、会議室を後にする。
この後は美波と文香のレッスンを見学する。

車に乗りふと携帯を開くと凛から後で取りに行くとの旨が来ていた。

スタジオに着く頃には入日が空を染めていた。
トレーナーさんに断りを入れて部屋の隅で二人を眺めていた。

美波「お疲れ様でした。」

美波の声で我に返る。
どうやらレッスンは終わったらしい、胃の虫も騒いでいた。

美波「どうでしたか。」

P「ああ、良かったよ。」

トレーナーさん程に知識も技量もない俺はつい、手をかけずに返事をした。

P「時間も頃合だし飯でも行かないか。」

美波はあどけない子供の様に返事をした。

P「文香もどうだ。」

文香は花が垂れる様に頷いた。

俺は二人に希望を聞くと近くのファミレスに行きたいとのことなので一度車に戻り二人の荷物を置く。
そして五分ほど歩き店に入る。

P「ファミレスで良かったのか。」

美波「大丈夫ですよ。」

文香「私も・・・嬉しいです。」

美波「文香ちゃんはあまり来ないんですか。」

文香「一人では入りにくいですし、両親もお蕎麦が好きなので。」

P「文香も蕎麦が好きなのか。」

文香「私は、食べ物よりも本のほうが。」

P「なぬ、アイドルは体が資本だぞ。」

文香は美波を見ると

文香「そうですね・・・」

そう呟いた。

P「少しトイレに行ってくるよ。」

そう断りを入れて個室に入る。
文香も美波とは大分打ち解けている様で安心した。

トイレから戻ると海老の乗ったサラダとピザをつまんでいた。
文香はスープを飲んでいる。
美波は手を止めサラダを装う。

美波「Pさんもどうですか。」

小皿に綺麗に取り分けられたサラダを受け取る。
少し食べると粉チーズのかかったミートパスタとドリアが届いた。

P「お、来た来た。」

そのまま恙無く食事を終える。
二人とも食事中は会話少なく黙々と食べていた。

P「送っていくぞ。」

支払いを済ませ、二人を家まで送る。
二人とも同じマンションを借り互いに助け合っているようだ。

美波「今日はありがとうございました。」

一礼をし、ロビーに消えていく。

俺は残りの事務作業を片付けるために事務所へ戻る。

事務所へ戻ると明かりは点いておらず部屋はひんやりとしていた。
灯りをつけパソコンを起動し書類を纏める。
明日からどうしようか。
まゆのことを考えると胸に重りが付く。

まゆとは出張先で出会った。
4人の地方営業のために立ち寄った喫茶店で出会った。
その後、番組でモデルとして出会い、俺に付いて来た。
モデルをやめてしまって良かったのかと聞くと、大丈夫ですと返すだけだった。

人の増えた事務所はより一層賑やかになった。
まゆは早くに打ち解け元モデルということもあり、仕事も最初から順調にこなしていた。

今ではもう、立派なアイドルの道を歩んでいる。
俺の手助けが要らないほどに。

嫁に行く娘を見守る父はこの様な心境なのか。
まだ、丁年を過ぎ幾許も経たないうちに今の社長に拾われた。
こんな若造に付いて来てくれているのだ、これからだ。

凛たちにも迷惑をかけたな。
こんな時だからこそ独りごちる。
社長に拾われて入社した。
出社一日目、そこで最初に言われたのが。

「アイドルをスカウトしてきてくれたまえ。」

正直二つ返事で入社したとはいえこれはあんまりだと思った。
そこからは街を歩いた。
だが、アイドルの卵と言えるものは見つからなかった。
そんな時に気分転換で立ち寄った花屋に彼女達がいた。
花を持った髪の長い女の子。
笑顔の素敵な可愛い女の子。
陽が照る様な姦しい女の子。
歪なそれでいて調和の取れた輪が出来ていた。

すぐに名刺を差し出し用件を伝える。
するとすぐに三人は申し出を受け入れた。
話を聞くと三人ともアイドルスクールに通う友達の様だった。

そこから直ぐに4人で歩み始めた。
それが5人になり6人になり7人に・・・
思いを暖かく浸らせていると、いつの間にか時計の針は夜の終わりを告げようとしていた。

いつの間にかこんな時間になっていたのか。
仕事もあまり進んでおらず夜を徹して終わらせることにした。
給湯室に行き、コーヒーを淹れて戸棚の柿の種を取り出す。
席に戻り、口を動かし手を動かす。
書類を纏め終えようとしていた時に不意に扉が開く。

まゆ「Pさん、お疲れ様です。」

P「まゆ、どうしてこんな時間に。」

呆気に取られる俺を他所にまゆは語り始める。

まゆ「まゆはPさんに育てられました。」

まゆ「モデルをしていたまゆは、まゆじゃなかったんです。」

まゆは何を言っているんだ。

まゆ「そうだとは思いませんか、皆さん。」

まゆは扉の奥に目をやる。
そうすると5人の影が入る。

P「まゆ、どういうことだ。」

まゆ「Pさん、困惑しているのはわかります。」

まゆは俺の瞳を捉え真っ直ぐに。

まゆ「落ち着いて、皆の話を聞いてください・・・お願いします。」

まゆの瞳は黒く俺の姿を浮かばせていた。
すると凛が口を開く。

凛「鏡、取りに来たよ。」

凛は音もなく俺に近づく。

卯月「凛ちゃん、私も。」

未央「ずるい、私も。」

三人は俺の脇に隠れるように立つ。

美波「Pさん、受け取って。」

そして美波も。

正直、理解が追いつかない。
どういうことだ。

文香「私はまだそちらには行けないので。」

文香の言葉に嫌な迷夢が忍び寄る。

まゆ「Pさん、とぼけるのはやめてください。」

P「・・・どういうことだ。」

まゆ「わかっているんでしょう。」

まゆ「まゆのPさんへの態度。」

まゆ「まゆはどんなPさんでも受け入れます。」

ここまで来たのか、今まで考えないようにしていた。
してはならなかった。

凛「Pさん、今の私はどう。」

美波「つらいんですよ、意外と。」

まゆ「隠さなくていいんです。」

P「わかっていたんだな。」

P「俺はどうすればいい。」

まゆ「今のままでいいんですよ。」

まゆ「まゆ達はPさんのものです。」

俺は怖かったんだ。
真面目に凡庸に生きようとした。

凛「Pさんも回りくどいよね。」

凛「私はもう、Pさんの色だよ。」

美波「ふふ、でも私は大学での人当たりは良くなったから。」

凛「私は先生に怒られるようになった。」

卯月「私は明るくなったって。」

未央「いいなぁ・・・私なんてうるさいだよ。」

凛「元気なのはいいことじゃない。」

P「お前らは・・・大丈夫なのか。」

俺はいつの間にか夢に憑かれていたのかもしれない。
俺はある日、三人を見つけた。
その子を俺は変えたのだ、男の愚を塗った。
上京した女の子にテレビに映る影を重ねた。
喫茶店で出会った女の子に本の幻想を被せ。
本を愛する女の子を欲望で沈めようとした。

まゆ「これからは出してください。」

文香「私にも零してください、分け与えてください。」

そうか、ここまで来たのか。
皆、わかってて俺の側にいる。

何かが自分の中でどろりと溶ける。
そして一つの結論を導く。

まゆ「決まりましたか。」

まゆ「大丈夫ですよ、Pさんは変わりません。」

P「ありがとう。」

P「なら・・・こうしよう。」

外は白みがかっていた。

ある日のこと。
俺は家のリビングにいた。
4人が掛けても間の空くソファーが二つ並んでもリビングにはまだ余裕があった。
金ならあった。元々浪費癖もなく金には困らずに取れた。

まゆ「Pさんお昼ご飯できましたよ。」

美波「ご飯ですよー。」

可愛らしい声が響く。

様々な返事が飛び、リビングに人が集まる。

凛「ふーん、今日はお蕎麦なんだ、まぁ悪くないかな。」

文香「実家からいっぱい送られてきたもので。」

卯月「私、お蕎麦大好きです。」

今日は全員でオフを貰っている。
皆がオフなら全員一緒が良いと言ったからだ。
社長にも許可を貰っている。

まゆ「Pさん、今日は誰を選ぶんですか。」

P「偶の休みだ、一緒に居ようじゃないか。」

未央「楽しそうだね、何する。」

卯月「私はこの前してもらったのが良いかな。」

美波「私はいつも通りがいいかな。」

俺は皆と同居している。
マスコミの心配や世の倫理観から目を逸らしてもいない。
ただ、皆で一緒に楽しくこのまま暮らせたらどんなに幸せなことか。

そう、思わずには居られない。
こんな素晴らしい日々は、何度生まれ変わっても手に入らないだろう。

この日々を守るために俺はなんでもする。
俺の心はもう決まっているのだ。

・・・まゆはPさんを愛しています。
でもPさんはまゆだけでなく凛ちゃん達をも塗っていく。
なので皆さんと相談したんです。

皆さんちゃんとPさんのことを考えていてまゆ、感動しちゃいました。
そして、塗るようにしたんです。
Pさんは気づいていましたか。
悟られないように、慎重に。
そしてここまで来ました。

ねぇ、Pさんはもうまゆ達に逆らえないんですよ。

そうして今日も6人と1人は平和な日々を過ごしている。

忙しさにかまけていると大事な事を忘れてしまう。
谷崎潤一郎の作品はそんな自分に風を吹かせてくれました。
自分など路傍の石に過ぎぬ存在ながら焦がれる気持ちを抑えられませんでした。

こんな自分でもコーヒーを飲み、アイドルの痴態を薫らせることが出来るのです。
どの様な人にも美しく溢れる気持ちがあるのです。

突然の休みにはパンツではなくストッキングはどこが一番美味しいのか考えながら、長い睡眠を楽しみたいと思います。

最後に、見てくださった方ありがとうございました。

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