阿笠博士「できたぞ新一!ワシと新一を真人間にするスイッチじゃ!」(33)

コナン「…」

ポイッ、ガシャーン

グシャベコバキ…プスン…シュー……

!?

博士「新一ぃぃぃい!!なぜ壊した!」

コナン「…バーロ、つまんねー冗談は嫌いだぜ博士。まさかこんなゴミ発明のために俺を呼んだわけじゃないだろ?」

博士「新一…」

コナン「で、本当の発明品はどこだ?こちとら一週間も待ってたんだ。確か…『どんなに働かせても感謝しか言わせない』発明品だっけ?早く光彦や灰原たちに使って実験したいんだ。くぅーっ、もうサッカーのヒデの試合ぐらい待ち切れねぇよ!」

博士「もうやめよう、新一君…」

コナン「なんだよ博士、らしくないぜ?そうそう、先週博士が発明したアレはサイコーだったよ。空間転移装置だっけ?光彦のケツに一瞬でロケット花火100本ぶっ挿して光彦打ち上げ花火大会!まったく、きたねえ花火だったぜ!な!」

博士「…ワシはもう疲れたんじゃ。君も、本当はそう思ってるんじゃろ?」

コナン「は?」

博士「新一君がさっき壊したスイッチ…実は何の仕掛けもない、ただのハリボテだったのじゃがな、…あれを君自身の手で押してもらいたかったんじゃ。決意の証として、過去の愚行にケジメをつけるためにな」

コナン「ハッ、なんだ、じゃあ本当の意味でゴミだったんじゃねーか…バーロ、何が真人間だ、何が疲れただ!今まで散々、光彦たちの命を弄んで楽しんでたのは他でもないアンタじゃねーか。まったく、都合がいいのは発明品だけにしてくれよな、ハハハハハッ!」

博士「その通りじゃ。返す言葉もない。…思えば全ての発端は、君が黒ずくめの男の手にかかって今の姿にされた三ヶ月後、ちょうどあの日が始まりじゃったな」

!!

コナン「おい…やめろ」

博士「君は頑張った。小さくされてからも、いくつもの事件を毛利君に扮し、解決していった。しかし、ふとあることに君は気付いた。『何かがおかしい』と。あの日、君は沈んだ表情でワシにこうもらした」

コナン「おい、聞こえないのか。やめろって博士」

博士「『カレンダーはまだ三ヶ月しか経ってないはずなのに、解決した事件の件数は100件をゆうに超えている…?』君は気付いてしまったのじゃ…身体どころか、時間の法則まで変わってしまっているこの世界に、な」

コナン「…」

コナン「……」

コナン「………」

コナン「あれれ~?博士がまともなこと言ってるよ~?一周廻っておかしくなっちゃった~?」

博士「…ふざけるでない。ワシは真剣なんじゃ」

博士「しかし、無理もないことじゃったな。ただでさえ元の身体に戻れる保証もないというのに、時間の経過が異常なまでに遅いこの世界…いくら新一が天才探偵と言えども、この拷問にも似た精神的圧迫に耐えられるはずもなかった」

コナン「…」

博士「そして四ヶ月目、君はとうとう塞ぎ込んでしまった。睡眠薬や安定剤も効果は薄いし、その副作用は小学生の身体に負担がかかりすぎる。どうしたものか、ワシは考えた」

コナン(あ…)

博士「『そうじゃ、発明品じゃ!ワシ得意の発明で、新一を元気づければいいんじゃ!』早速取り掛かって作ったのが、イタズラ発明品じゃった。覚えておるか?」

コナン「…」

コナン(忘れるわけねーよ、バーロ)

博士「その名も『迷彩カンチョーハンド』。なんとまぁ、我ながらしょーもない物を作ったものじゃよ。しかし、あれがきっかけになって君はだんだん笑顔を取り戻していった」

コナン「…」

コナン「…あぁ」

コナン「…光彦の反応が事のほか良くってな。アイツ、あまりのケツの痛さに飛び回ってピョンピョン跳ねてたんだよ」

博士「あの時、ワシの家まで結果を報告に来てくれた新一の笑顔は、まさしく小学生のように純粋じゃった。ワシは嬉しかったよ。だからつい調子に乗ってしまい、イタズラ発明は止めどなくエスカレートしていったんじゃな」

博士「…あの時、後ろを振り返る機会は何度もあった。じゃが、狂気としか例えようのない魔物にただただ突き動かされ、殺人的発明品を量産していく自分に何の疑問も抱かなくなっていたんじゃ…」

コナン「いや、だけど博士!」

コナン「…だけど、俺も博士も分かってたんだよな。楽しさが、勝手に一人歩きする感覚を分かってた。だけど面白さには逆らえない。過去に、人差し指ですくってなめた麻薬みたいな味が脳に込み上げてきて、それでーー」

博士「時間の法則を調べたところ週に数回、世界の時間だけが遡るスキマがあった。その間隙を見計らって、ワシらはノーリスクの享楽的かつ非人道的行為に酔いしれた」

コナン「その翌日にはすっかり元通りの光彦や少年探偵団がいて、安堵と興奮がない交ぜに襲ってきた。ある意味で、トリックが解けたときの興奮を凌駕してたと思う」

博士「…」

コナン「…」

博士「ワシらは、とてつもなく愚かじゃったな…」

コナン「ああ…笑っちまうぜ。探偵として事件を解決するその裏で、サイコキラーばりに人の命を弄ぶ、どうしようもねえバーローにはよぉ!くそっ!」

博士「…」

コナン(だけど…)

コナン(だけど、このまま現実から逃げるわけにもいかない)

コナン(今、こうしてる間にも黒の組織は犯罪の手を広げている。そんな奴らの悪行をすべて白日の下に晒すまで、俺は黒ずくめの男たちを追い続けると決めたんだ…)

コナン(でなけりゃ、いつまでも蘭を心配させることになる。それに灰原を元の姿に戻してやることもできねー……)

コナン(俺は…俺は探偵だろ?探偵だったらよ…こんなデッケー未解決事件を見過ごしておけるかよ!)

コナン(愚行の反省は、全てにケリをつけてからだ。今は、)

コナン(今、やるべきことは…)

コナン「なぁ、博士」

博士「…?」

コナン「さっき、俺が『誤って壊しちまった』発明品なんだけどさ…」

コナン「俺には、今すぐ必要なんだ!頼む!もう一度作ってくれないか!?」

博士「…」

博士(あの新一君が、土下座までしてワシに頼みこんでおる…!)

コナン「博士…頼むよ…!」

博士「…」

博士「うむ、分かった」

コナン「は、博士…!」

博士「ただし!」

コナン「…!?」

博士「『真人間になるスイッチ』は、ワシと新一の二人分が必要じゃ。ハリボテとはいえ、ワシは発明品のディテールにこだわるのでなぁ。少しばかり時間がかかる。ま、そこは大目に見てほしいもんじゃのぉ、ホッホッホッホッ」

コナン「…ははっ。博士らしいぜ」

博士「…ホッホッ。じゃあ、早速取り掛かるとしようかの」

ーー1時間後ーー

博士「新一君、ようやくできたぞ!」

コナン「すまなかったな、博士」

博士「何を言うか。ワシらの歪んでいた心は、このスイッチとともに押し込めなければならん。これは儀式であり、ケジメなんじゃ」

博士「それでは、準備はよいか?」

コナン「ああ…」



灰原「…あら貴方たち。その手元にある、あからさまに怪しいスイッチは一体なに?」

コナン「は、灰原!?」

博士「あ、哀君!これはじゃのぉ…」

灰原「…ふん。おおよそ、また良からぬ発明品で私や光彦君たちを陥れようってわけね?」

博士・コナン「!」

博士「哀君…君はいつの間に」

コナン「気付いて、いたのか?」

灰原「あら、私が気付かないとでも思っていたの?」

灰原「貴方たちの奇妙な行動は全て監視していたわ。それにしてもまさか、気付かないうちに時間の歪みが生じるなんて非科学的な話、にわかには信じられなかったわよ。神様でもいるのかしらね?」

博士・コナン「…」

灰原「ふふ、そんなに驚かなくてもどうやって気付いたか説明してあげる。簡単なトリックよ。私は毎日、自分の腕にペンで目印を付けてたの。アルファベットを一文字ずつね」

灰原「それを携帯電話の写真に収め、念には念を入れてメモも取ったわ。すると、ある日突然腕に書いたはずのアルファベットがいくつか無くなっていることに気付いた。写真やメモの日付では確かに書いてあったはずなのに…ね」

コナン「…!」

灰原「他にも試したことはあったけど、それで一通り、時間の歪みについては理解したわ…すると、もう一つ重要なことに気付いたの。私が、『気付かないうちに』何者かに殺されていたことにね」

博士・コナン「!」

灰原「もちろん、痛みの記憶は綺麗さっぱり忘れてしまっていて何も覚えてないわ。けど問題は、『誰に殺されたか』ということにあったのよ…」

博士「あ、哀君…」

灰原「あら博士、博士が一番ご存知のはずでしょ?そこの工藤君も、なぜうつむいているのかしら?」

コナン「は、灰原…」

灰原「貴方たちには失望したわ…黒の組織から目を背け、私や少年探偵団のみんな、果ては一般人の命まで弄んだのだから」

灰原「そろそろ罪を償ってもらおうと思っていたの。ちょうど良かったわ」

灰原「…これね、一週間前から作ってた、博士の新発明は」

コナン「灰原!俺たちーー」

博士「あ、哀君、待ってくれ!ワシらはーー」


灰原「さようなら」

「…」

「…」

ーー二ヶ月後ーー

灰原「ふふ、昨日の工藤君100人射撃、あれはクセになりそうね」

灰原「博士はストックが少なくなってきたところね、増やしておかないと。自分の作った培養装置で自分自身が増やされる気分はどうかしらね、博士?」

灰原「明日は少年探偵団のみんなと遊ぶ約束をしたものね。張り切ってストックを揃えておかないと、彼らきっと拗ねちゃうわ。フフフフフ」

END

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