提督「記憶を消し鎮守府を去るか、残留するか艦娘達と面談をする」 (53)

 戦争は終わった。多大な血は流されたが、艦娘達の活躍により我々は再び平和な海を取り戻したのだ。深海棲艦はもういない。だが……艦娘達は残っている。


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提督「記憶の抹消についての面談か」


大淀「はい、大本営からの指令です。提督には艦娘に記憶を残したいか、否か個別に希望を聞いてもらいます」


提督「……記憶を残す奴らは、海軍に残りこのまま艦娘として働く…か」


大淀「はい。戦争が終わったとはいえまだまだ私達には仕事がありますから」


提督「……記憶を消す奴らは、艦娘としての記憶を全て抹消され新たな戸籍が与えらる……か」


大淀「はい。彼女達には新たな人生が与えられます。その後の生活は軍によって保証されますので生きるのに困る事はありません」


提督「……そうか」








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ーー面談当日


提督「………」


提督(俺としては……残って欲しくはないな)


提督(彼女達は多くの仲間を海に失った。記憶を残すならば、それを背負って生きなければならない)


提督(戦争さえなければ彼女達にも別の人生があった筈だ。だから、彼女達には新たな人生を歩んで欲しい)


提督(身勝手な意見かもしれないが、俺はそう思う……)


コンコン


提督「……入れ」


訂正


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ーー面談当日


提督「………」


提督(俺としては……残って欲しくはないな)


提督(彼女達は多くの仲間を海に失った。記憶を残すならば、それを背負って生きなければならない)


提督(戦争さえなければ彼女達にも別の人生があった筈だ。だから、彼女達には新たな人生を歩んで欲しい)


提督(身勝手な意見かもしれないが、俺はそう思う……)


コンコン


提督(っと……最初は……赤城か)


提督「……入れ」



赤城「提督、失礼します」


提督「赤城……。座ってくれ」


赤城「はい」


提督「………」


赤城「………」


提督(……赤城は、唯一無二の戦友である加賀を失っている)


提督(それも、強行的な進軍で……だ)


提督(加賀が沈んだ作戦は成功した。上層部は加賀を護国の英雄と褒めたたえた)


提督(名誉の殉死と言えば聞こえはいいだろうが………実際は戦果を欲した上の無茶な進軍指令の結果だ)


提督(上の命令通り、俺は加賀達に進軍を命じた)


提督(……あの時、命令に逆らい撤退していれば加賀は沈まずに済んだのだ)


提督(つまり俺は……加賀を見殺しにした)

提督(……どう切り出そうか)


提督(変に誤魔化しても仕方ないよな。よし……)


赤城「あの、提督」


提督「え?! な、なんだ…」


赤城「実は……」


提督「………」ドキドキ
















赤城「間宮羊羹持ってきました。一緒に食べませんか?」


提督「……へ?」

赤城「ほら、提督もお好きでしたよね?」


提督「あ、ああ…」


赤城「いただきます」パクッ


赤城「……美味しいですね。提督も食べて下さいよ」


提督「…………」


提督「なぁ、赤城。お前は――」


赤城「私は残りますよ」


提督「……!」

赤城「……残ります、鎮守府に」


提督「…………」


提督(残る……か)


提督「……」


赤城「……加賀さんの事ですか」


提督「……っ」


赤城「……言ったじゃないですか。あれは提督のせいじゃないって」


提督「赤城…俺は」


赤城「私が貴方の立場なら、同じ事をしていたでしょう。それくらい、私にも理解できます」パクッ


赤城「提督とは長い付き合いですから。分かっています」


提督「赤城……」

赤城「……それに、どうであれ加賀さんは深海棲艦と戦い、死んだんです」パクッ


赤城「人のため深海棲艦と戦い死んだ……それは兵器である艦娘の本懐でしょう。違いますか?」


提督「……いや、その通りだ」


赤城「なら、加賀さんの死についてこれ以上、提督は気にする必要はありません。加賀さんは国を守り死んでいった。それだけです」


提督「…そうだな。すまない……赤城」


赤城「ふふ……いいですよ。提督とは長い付き合いです。そういう性格なのは分かってますから」

提督「赤城、一つ聞きたいんだが」


赤城「なんですか?」パクッ


提督「ここに残りたい理由を聞いていいか?」


赤城「……理由、ですか」


提督「…………」


赤城「……」


提督「……加賀か」


赤城「……はい」

赤城「……やっぱり分かっちゃいますか」


提督「……長い付き合いだからな」


赤城「……」


赤城「私はですね、加賀さんが守ったものがどうなるか見ていたいんですよ」


提督「守ったもの…」


赤城「これからの未来。日本の行く末です」

赤城「加賀さんが見れなかったもの。加賀さんが守ったもの。それがどうなるのか、私は加賀さんの代わりに見ていたいんです」


赤城「それが私の役目。そう強く思うんです。だから、私はこのまま海軍に残ります」


提督「……そうか」


提督「分かった。それならば俺がとやかく言う理由はない」


提督「これからも私に力をかしてくれ、赤城!」


赤城「はい!」


提督(強いな赤城は)


提督(俺なんかより、何倍も……)

提督「面接は以上だ。事前のメンタルチェックも全て可だったから、希望は通るだろう。戻って休んでくれ赤城」


赤城「はい――――ところで提督」


提督「ん?」


赤城「質問ですが……ケーキがあると思って、一生懸命守った箱の……中身が腐っていたらどう思います?」


提督「は? どうって………………っ?!」


赤城「………」ポロポロ


提督「……あ、赤城」


赤城「私は加賀さんが守ったものにがっかりしたくありません……。平和に慣れた人間がどうなるか……私は歴史から学びました……」ポロポロ


提督「………っ」


赤城「……提督。どうか……どうかこれからお願いします」ガチャッバタン


提督「赤城……」

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提督「…………」


提督(がっかりしたくない……か)


提督(人間にとって平和は教授すべきことだ……それによる腐敗を防ぐのは…難しいだろう。当人たちは悪気はないのだから…)


提督(でも赤城はそれを許しはしないだろうな…)


提督(赤城の望む未来を俺たちは作れるのだろうか……)


提督「…………」


コンコン


提督(次は……朝潮か)


提督「…入れ」


朝潮「朝潮、入ります!」


提督「ああ、そこに座ってくれ」


朝潮「はい! 失礼します!」


提督「…………」


朝潮「………」


提督(朝潮か……彼女との付き合いも長い)


提督(勇猛果敢。朝潮型のネームシップとして、先陣を切って多くの戦果をあげてくれた)


提督(性格もストイックで、常に訓練漬け。戦果を第一に考えている。朝潮は正に艦娘としてあるべき姿なのだろう)


提督(……艦娘として……な)

提督(だから朝潮の答えは分かっている)


提督「……朝潮」


朝潮「はい、司令官」


提督「鎮守府に残留か、離れるか……どうしたい?」


朝潮「はっ! 駆逐艦朝潮。残留を希望します」


提督「そうか……」


提督(やっぱりか……朝潮は…)


提督(朝潮が親しかった者に戦死者はいない……)


提督(これは運が良かった……のも少なからずあるだろうが…………別に大きな要因がある)


提督(…………)


提督「……分かった。朝潮の希望は通るだろう」


朝潮「本当ですか! ありがとうございます!」


提督「これからも、頼むぞ」


朝潮「はい!」

提督「ところで、朝潮。聞きたい事がある」


朝潮「はい、何でしょうか?」


提督「朝潮は何故、危険を顧みず先陣を切っていけたんだ? 傷だらけで帰投してばかりだっただろう。恐くはなかったのか?」


朝潮「恐くなどありません! 国のため、この身を捧げるのは私達の役目です!」


朝潮「栄えある皇軍にて戦闘の一番槍をとれるのは名誉な事です! 国の為を考えれば、恐怖などありません!」


提督「国の為……か。素晴らしい答えだ朝潮」


朝潮「ありがとうございます!」



提督「だがな…朝潮。戦争が終わった今、俺は朝潮の口から本当の事が聞きたい」


朝潮「ほ、本当の? 司令官、私は嘘などついていません!」


提督「危険を顧みず先陣を切るのは、恐くない。国の為を考えればか」


朝潮「はい。その通りです!」


提督「……」


提督「朝潮、君の隊に戦死者がいない理由は何故だと思う?」


朝潮「それは、皆が優秀だったからで…」


提督「それもある。ある…が、大きな要因が別にある」

提督「隊に真っ先に死地へ飛び込んでくれる奴がいてくれたからだ」


朝潮「……っ」


朝潮「だから、それは国の為を…」


提督「…………」


提督「……朝潮、一つ俺の本音を話そう」


朝潮「え?」


提督「朝潮、俺はな。国を想い戦った事なんか1度もないんだ」


朝潮「し、司令官?!」

提督「俺はな、いつだって俺の身近な大事な奴らを思って戦ってきたんだ」


朝潮「……」


提督「国を思って戦うなんて、俺にとってはあまりにも不透明で曖昧すぎる」


提督「そんなものに命を懸けて戦えない……そうだろう、朝潮」


朝潮「……っ」


朝潮「わ、私は……」

提督「戦争は終わったんだ。もう、胸に想いを秘める必要はないんだ」


朝潮「…………」


朝潮「……司令官、私は融通の効かない……不器用な奴…です」


朝潮「戦うことしか出来ないのを……理解していました」


朝潮「そんな私が、仲間たちの為に出来る事は…体を張る事だけ……」


朝潮「……私、私も国の為に戦ってはいなかった。全ては皆が無事に帰る為に」


提督「そうか….…」

朝潮「皆、良い子ばかり……こんな私にも皆は優しく接してくれました」


朝潮「ここにいるのが似つかわしくないような子も沢山いました…」


提督「ああ……だが、ここにいる以上は」


朝潮「戦わなければならない。だけど……彼女達は海原で沈むべきじゃない。もっと違う人生を歩めた筈です」


朝潮「……海の藻屑になるのは私のような兵器で充分なんです」

朝潮「……ふふ。私はとんでもない不良品ですね。艦娘失格です」


提督「そんな事はない」


朝潮「……隊の皆は鎮守府から去るんですよね」


提督「……そうだ」


朝潮「司令官、艦娘にはまだやることがあるんでしょう。それは、彼女達を守る事になりますか?」


提督「ああ」


朝潮「それなら安心です」


朝潮「私はこれからも、彼女達の為に艦娘であります」


朝潮「それが朝潮に出来る唯一の事ですから」

前に自分が安価でエタった奴の書き直し?です
非安価で多分後2、3人書いて終わります

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ーーーー


提督「…………」


提督(……確かに不器用かもしれないが、誰よりも仲間思いな奴だよ……朝潮)


コンコン


提督(次は……時雨か)


提督「入れ」

時雨「失礼します、提督」


提督「時雨、そこに座ってくれ」


時雨「うん」


提督「…………」


時雨「…………」


提督(時雨は、頭が良い子だ。秘書官として俺と内陸に行く事も多かった)


提督(……そして、彼女は姉妹全てを失っている)

提督(時雨は……常に何かを考えている娘だ)


提督(……俺は彼女の本心を見たことが無い)

提督(ただ、分かっていたのは彼女の発言はその場の最適解ではあるが、本心では無いという事だけだ)


提督「時雨、君には二つ選択肢がある」


時雨「うん」


提督「記憶を消し鎮守府を去るか、このまま残留するか……」


時雨「……僕はここを去るよ」


提督「……っ、そ、そうか」

時雨「……」


提督(……時雨は鎮守府を去るのか。やはり……姉妹達の…)


時雨「理由……知りたいって顔してるね」


提督「いや、そんな事は……」


時雨「いいよ、今まで僕は提督に対して煙をまいてたからね。最後くらい本心をぶちまけるさ」


時雨「それに、どうせ消える記憶だしね!」ニコニコ


提督「あ、ああ……」

提督(な、何だ今の時雨は。違和感が……)


時雨「さぁ、どんどん質問してよ!」


提督「わ、分かった」


提督「じゃあ、鎮守府を去る理由は……」


時雨「理由? 理由は…」














時雨「この国が大嫌いだからだよ」


提督「え?」

提督(え……今、なんて?)


時雨「うーん何だろう。ゴミクソ?肥溜め?例えられないなぁ……」


時雨「ほんと何で勝ったんだろね。負ければ良かったのに」


提督「し、時雨!!」


時雨「おっと、何さ」


提督「お前! 自分が何を言ってるのか」


時雨「分かってるよ」


提督「え」


時雨「分かってるさ」

提督「な、なら何でそんな事を……」


時雨「……戦時中に内側の奴らを見たらこうも思いたくもなるさ」


提督「……っ」


時雨「奴らのワインや肉の分の弾薬が前線に回ってたら、それで万全の弾薬で姉さんや妹達が出撃出来てたら死なずに済んだ………そうは思わないかい?」


提督「そんな極論…」


時雨「極論さ。……でもそう思わずにいられないんだ」


提督「…………」


時雨「僕にとって大事なのは妹達だけ。国なんてどうでも良い」

時雨「しかし、赤城と朝潮も哀れだよ」


提督「なっ?!」


時雨「耳ざといんだ、僕。聞こえちゃったよ」


提督「お前、仲間を侮辱するのか?!」


時雨「侮辱してないさ。事実だよ」


提督「あいつらは、仲間の為に鎮守府に残って……」


時雨「呪いさ」


提督「え?」

時雨「本人達も気付いてない。彼女達は解けない呪縛にかかってしまったのさ」


時雨「死者は喋らない、記憶を無くした者は戻らない」


時雨「故に解する方法も無く、その呪いはゆっくりと彼女らを蝕む」


時雨「気付いた時はもう手遅れさ」


提督「…………」

時雨「ああ、そうだ。提督も……だよね。呪われてるのは」


提督「俺は……」


時雨「これから始まる呪われた者達の行軍の果て。行き着く先は果たして…………希望か……それとも」


時雨「僕は抜けさせてもらうよ。さよなら。提督」

 その後の面接。艦娘達の回答は様々だった。だが、俺の頭にはずっと時雨の言葉がこびり付いていた。


ーー墓地ーー


提督「…………」


提督「なぁ、〇〇。俺は…………」


提督「…………」


提督「行軍の果て……」


提督「歩くしかない……か」




ーー完ーー

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年10月10日 (月) 22:37:49   ID: k4yFTCOL

良かったけどもう少し先の話しも見たかったな

2 :  SS好きの774さん   2016年10月12日 (水) 17:47:47   ID: QQUZHv0U

ちょっとなにがしたかったのかわからないですう

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