【モバマスSS】 偶像、濫造、そして怨憎 【SF、ディストピア】 (16)

モバマスSSです。

R-18描写は有りませんが、エグい表現が出てくるディストピアものなので
閲覧注意でよろしくお願いします。



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朝、私が目覚めるとベッドの横では、ご主人様がいつものように優しい笑顔で微笑んでいました。

「おはよう、卯月」

私はそれに答えながら、はにかみながらご主人様の唇におはようのキスをします。
恥ずかしくて未だに慣れませんが、毎日繰り返す私達の大事な日課、大好きな時間です。

名残を惜しむ様に唇を離すと、ご主人様と手を取りながらベッドから起き上がって一緒にキッチンへ向かい、
二人で朝ごはんの用意をします。

用意といってもボタンを一つ押すだけなんですけど。

二人で一緒に共同作業すると言う事実が大事ですからね、こう言う事は!

ワンプッシュでテーブルに配膳されてきた朝食を口に運びながら、
昨日デートで行った映画館で観た、昔のラブロマンス映画の感想をご主人様と話し合ったりします。

映画の内容は、愛し合う二人が時には遠ざかりながら、最後は熱烈に結ばれる結末でとても素晴らしかったのですが、
一つだけ腑に落ちない点が有りました。

何で映画に出てくる女性達がみんな違う顔だったんでしょうかね??

街には同じ顔の人が一杯いるのに。

その事をご主人様に尋ねてみたら、

「昔はみんなそうだったんだよ」

と笑って教えて下さいました。
ご主人様は何でも知ってらっしゃいますね。とても尊敬します。

さて、朝食を食べ終わったら片付けて(コレもワンプッシュですが)、ご主人様とお出かけです。

私は自分の部屋でご主人様に買っていただいた色々な服の中から、ご主人様の横に並んでも恥ずかしくない服装を選びます。

どれもご主人様が選んでくれたセンスのいい服ばかりなので、選択に困ってしまうのは贅沢な悩みでしょうか??
毎回デートの度にお洋服を買って頂いて恐縮なのですが、反面嬉しくもあります。

この洋服の量がご主人様の私に対する思いに比例する、と考えるのは、些か私の思い上がりが過ぎるでしょうか??


用意が終わり着飾った私は、ご主人様と腕を組んで出掛けて街中を歩きます。

途中、ウィンドーショッピングをしたり小物を買ったり、街角のクレープ屋さんで買った物をお互いに食べさせあったり、
掛け替えのない時間が流れていきます。とても幸せ。


そんな幸福な時間を過ごしていると、通りの後ろの方から耳を覆いたくなるような轟音と悲鳴が聞こえてきました。

驚いて振り向くと、そこには自動運転が暴走したのか、
無人で走る荷物運搬用の大型トラックが私たち二人目掛けて突っ込んで来たのです!!


咄嗟の事で頭が真っ白になり、何も判断が出来なかった私。

ただ一つ頭に浮かんだのは大事なご主人様を守らないと、ただそれだけでした。

慌ててご主人様をトラックの進行方向から外れる様に突き飛ばしました。

次の瞬間、そのせいで逃げるのが遅れた私はトラックに跳ね飛ばされ、遥か後方に吹き飛びました。
ガードレールに激突して止まり、地面に崩れ落ちる私の身体。

薄れ行く意識の中で、微かに聞こえたのは私に駆け寄ってくるご主人様の声。


ああ……良かった…ご主人様は…無事で……。





私が目覚めると、目の前には見知らぬ男性が一人、私の手を取り微笑みながら声を掛けてきました。

「良かった…!卯月、目が覚めたんだね??」

そう言うと男性はお医者さんを呼んでくるから、と言い残して部屋から出ていきました。


お医者さん……と言うと、この見知らぬ部屋は病院の病室なのでしょうか??


白を基調とした落ち着きのあるレイアウトはなるほど、病院の個室と言われればそんな感じもします。

その部屋に置かれたベッドに横たわる自分の身体を見渡すと全身包帯まみれで、腕には何本もの点滴のチューブが繋がっています。


一体、私の身体に何が起きたのでしょうか??


今日は午前中はレッスンで、午後からは凛ちゃんと未央ちゃんと一緒に街に遊びに行く筈だったのですが……。

レッスンが終わって着替え終わり、街に出た前後辺りからの記憶が定かでは有りません。


一体此処は何処なんでしょうか?? そしてあの男性は…。

私が困惑していると、先程の男性がお医者さんらしき人物を連れて部屋に戻って来ました。

何やら診断を始めたので、私はその邪魔にならない様に遠慮がちに、此処は何処で貴方達は何方なのか二人に聞いてみました。

その言葉を聞いて、絶望的な表情を浮かべてお医者さんの方に振り向く男性。

お医者さんは軽く首を横に振りながら、

「事故の影響で一時的に記憶が混乱しているのでしょうな…、何、心配いりません、
このシリーズは今まで致命的な欠陥は報告されていませんから。すぐに良くなるでしょう」

と、男性の肩をたたき、安心するように言うと部屋から出ていきました。

記憶の混乱…?? 
あのお医者さんは何を言ってるのでしょうか、私、別に混乱なんてしてませんけど……。



私は島村卯月。都内の高校に通う二年生で17歳。


誕生日は4月24日の牡牛座でO型、346プロダクションに所属するアイドルで、
ニュージェネレーションズって言うユニットを組んで活動しています。


ほら、ちゃんと言えます。 
……多少の記憶の欠落は有るかもしれませんが、別に混乱なんてしていませんよね……??


私が戸惑っていると見知らぬ男性はベッドの横には腰掛け、私には身に覚えのない思い出話を次々に語り始めました。

どうやら記憶を取り戻す為にしてくれているみたいなのですが、
全く身に覚えのない事ばかりでどう反応していいか、全くわかりません。

なんだか申し訳ない気持ちで俯いていると、男性は少しガッカリした様子で

「……また来るよ、じゃあ…」

と、言い残し、部屋から出ていきました。




私はその後、一人残された部屋で天井を見つめて時を過ごしました。

一体私はこれからどうなるのでしょうか……。
不安に胸が押し潰されそうです。 

みんな心配してるだろうな……。パパ…ママ……、凛ちゃん…未央ちゃん…、それに…プロデューサー……。


そうして1日、また1日と日は過ぎていきます。

急にいなくなって心配しているだろう人達みんなに連絡を取りたいと、部屋にやってくるお医者さんや看護師さんにお願いしますが、
何故か皆、首を横に振るばかりで連絡を取らせてくれません。

お仕事とか大丈夫かな…。 
せめてプロデューサーだけにでも連絡が付けばいいのですが…。


あれからも男性は度々私をお見舞いに来てくれました。

色々と一緒に暮らしていたと言う時の思い出話をしてくれるのですが、私にはやはり全く覚えのない事ばかりです。

最初は思いつめたファンの人かストーカーの線か、とも考えたのですが、目に正気は有りますし、おかしな事も言いません。

何より、病院のスタッフさんも事情を聴きに来た警察の方も、男性に何も疑いを持っていないようです。

あらゆる可能性を考えた結果、誰か別の人と勘違いしてるのではないか?と思いつき、そう聞いたことも有るのですが、
それを聞いた瞬間、とても悲しい表情をされてしまったので、それ以上はとても追及出来ませんでした…。


そんな毎日が続き、不安を覚えながらも時は過ぎ、順調に体は回復してきた様です。

車椅子でなら移動出来るようになり、リハビリがてら車椅子を使い、院内の廊下を一回りしてきました。

この調子ならもう少しで退院できそうです。そうしたら真っ先にみんなに連絡しないと。

そう思いながら病室に戻ろうとすると、私の病室から会話が聞こえてきました。

どうやら、男性と別の見知らぬ男性が話をしているようです。


別に理由があった訳では有りませんが、見知らぬ人が居ることに気おくれを感じ、外からこっそり様子を伺う事にしました。

僅かに空いた病室のドアから覗いた光景に、私は思わず息を呑みました。

その余りに衝撃的な光景に私は言葉を失ったのです。


「り、凛ちゃん……っ??」


そこに居たのは、紛れもなく私の同僚のアイドルで親友の渋谷凛ちゃんでした。

しかし身体は小さく、小学生くらいしかありません。
普通に考えれば凛ちゃんの訳がありません。

けれども私の直感はあの子は間違いなく凛ちゃんだ、と告げていました。

それに、前に凛ちゃんの家に泊まりに行ったときに見せてもらったアルバムの、
小さい頃の凛ちゃんの姿にまるで生き写しでした。


どういう事かと困惑しながら様子を伺っていると、どうやら小さい凛ちゃんは見知らぬ方の男性が連れて来たようです。


そして、その男性とお見舞いに来てくれていた男性が語った、悍ましい内容の会話で、

私は
全てを
思い出したのです。

「いやぁ、それにしても驚いたよ、早期出荷なんて抜け穴が有るとはなぁ…」

「へへ、驚いただろ、お前ならそう言う反応してくれると思ってな、こんな所まで見せに来た甲斐があったってもんだよ」

「良いなぁ…俺も欲しいぜ、ロリ卯月」

「親父に口聞いてやろうか??官製の工場の工場長に大分貸し付けたみたいだから、相当融通が利くみたいだし」

「ホントか!? 丁度良かったわ、今の奴傷物になっちまったし、頭おかしくなったみたいで使い道に困ってたんだわ…、
勿体ないから我慢して使おうと思ってたんだけどな」

「変えとけ変えとけ、いいゾ~、ロリは。 可愛いし、しっかりと躾けてやれば素直だし扱いやすいし…」

「長い間愉しめそうだしなww」

「それなwww」

「今のヤツは優しいご主人様路線で攻めてて、まあ新鮮で良かったんだけどそろそろ飽きたからな、
次からは久しぶりに鬼畜モードに戻るかな…」

「おいおい、普通のヤツより耐久度は低いんだからあんまり無茶するんじゃねーぞ?? 安くは無いんだからな」

「わかってるっーの」

「ホントか?? お前そんな事言って、もう数体ダメにしてるじゃねぇかよ」

「それはお互い様だろ??」

「まあなww」


この二人が語る会話の内容について説明する前に、私の本当の名前について話さなければなりません。


私の名前は島村卯月ではなく、UZU-170630。

誕生日は199X年4月24日ではなく、240X年、前期生産型です。


私は本物の島村卯月ではなく、数百年後の未来に生産されたクローン。

この世に生まれた島村卯月の17万630体目のクローンです。


全ての事の始まりは20XX年、画期的な技術の進歩によって量子コンピューターが実用化された事に始まります。

従来のPCの1億倍高速と言われていた量子コンピューターはその名に恥じず、素晴らしい性能を発揮し、
演算速度、記録容量とも既存のPCとは比べ物にならないくらい、ずば抜けていました。

量子コンピューターは様々な分野で活用されましたが、その中の一つに、自らの遺伝情報のすべてを読み取り、
記録し、媒体に移すサービスがにわかに流行を見せました。

自らのすべてを記録し、プロポーズと共に相手に渡す。
自分の全てを相手に受け取ってもらいたい…。

そんな結婚指輪代わりの行動が、若い女の子を中心に流行したのです。

私達346プロのアイドルも御多分に漏れませんでした。

多くのアイドルが自分たちの思い人、大抵は自らのプロデューサーに何時か手渡す事を夢見て、自分の遺伝情報を媒体に残しました。

それが全ての過ちの始まりだったのです。


その情報はひっそりと、しかし確実に量子コンピューターで作られた巨大なクラウドの片隅に眠っていました。

その時点では、それは何の問題なかったのです。


しかし、私たちが年を取り、天寿を全うし永遠の眠りに眠りに着いた遥か後の世、
進歩した科学技術は遺伝情報のみで完璧なクローンを作り出す技術を産み出すまでに至ったのです。


最初は、遺伝情報が残っているあらゆる偉人を生産、研究するだけの技術でした。


しかし、次第に技術は陳腐化し、興味はもっと解りやすい手近なモノへと移って行ったのです。


そのニーズに、クラウドの片隅に残された数百年前の、アイドル黄金時代の少女達…、
そう、私達の遺伝情報はぴったりと一致しました。

次々と生産される少女達。


最初はアイドルとして生産されました。


しかし、後に違法に観賞用、愛玩用として裏取引されるようになり、女性を中心に人権問題として取り上げられるようになりました。


そして下された司法の判断は。

何と、クローンの著作権を持つ本人は数百年前に死亡しており、著作権は存在しない。
よって違法ではない、と言う判断が下されたのです。

熱狂的な男性使用者の声と、歯止めの掛からない人口減少に対する対策件、ガス抜きと言う訳でしょうか。

その後、官製のクローン工場でも作られ始めるようになったアイドルのクローンたちは、
公然と性風俗業者にも販売されるようになりました。

世界中で17万体の私が数えきれない見も知らぬ男性に抱かれているのです。
同じくらいの数の凛ちゃんが同じ様な目に合い、同じくらいの未央ちゃんが……。


私は車椅子の背もたれに倒れ込み、顔を覆い咽び泣きました。

こんな事ならば記憶を取り戻しなどするのではなかった。
島村卯月のままでもUZU-170630でも良かった。

そのどちらでもこんなにまで苦しむことは無かったでしょう。

事故に合い、脳に大きな刺激を受けたせいで遺伝上に刻まれた島村卯月の記憶を呼び覚ましてしまったから、
自分の愛したご主人様が幻想だったと気づいたショックでUZU-170630の記憶が戻ってしまったから、

その両方の記憶を持つ私だからこそ、この残酷な世界の現状に辿り着いてしまったのです。


無数の顔も知らない男性に抱かれるために生産され、これからも無数に生産されていく悪夢。

そんな悪夢の只中に私は、私達は居るのです。


私は、私達は穢れてしまった…。 
もう、あの人に、愛しいプロデューサーさんに合わせる顔がありません。


もうプロデューサーさんがこの世の人ではないとしても、私のこの思いは、この悲しみは、何処に行けばいいのでしょうか…。

そしてこの残酷な真実を知った私はどうやって生きていけば……。


この悪夢の世界で生きて行くには……。




……全てを断ち切るしか………。




私はフラリと車椅子から立ち上がった。

治り切っていない身体には当然の様に激痛が走り、私に無理を止める様に警告を発する。

しかし、今の私には身体の痛みなどもう如何でも良かった。

今私が、私達が置かれている、これからも置かれ続ける生き地獄に比べれば、
一個体の身体の痛みなど、一体どれ程の物だというのだろうか。

私はフラフラとナース室の脇にある洗面所にまで歩いていくと、そこにあった目当ての代物を見つけ出すことに成功する。



その後、壁を伝いながらヨロヨロと病室まで歩いていき、今度は立ち止まることなくドアを開けた。

まだバカ話を続けていたらしい男性二人は、入ってきた私を見て驚きの表情を浮かべる。

そして、私を見舞いに来ていた男性の方が、

「卯月……歩けるようになったのかい??良かったよ、心配したんだよ??」

と、私の方に駆け寄り、優しい笑顔を浮かべた。


私を捨てると言ったその口で、まだあの時のような笑顔を浮かべるのか。


今まで優しい笑顔と思っていた、仮面に張り付いた偽善。
もう見ているだけで反吐が出る。


これで私の中に僅かに残っていたUZU-170630の【ご主人様】に対する思いは、全てが粉々に砕け散った。

「ご主人様……」

にこりと男性に微笑む私、それを見て笑顔で両手を広げた男性に、私は体ごと飛び込んでいった。


熱を持つ患者の為に使う氷を砕く、アイスピックと共に。

あやまたず心臓を貫いたアイスピックの衝撃に、
【ご主人様】は何が起こったかも分からないうちにパクパクと口を二、三度開き、絶命した。

驚愕に満ちた表情のまま床に崩れ落ちた骸を冷たく一瞥すると、私は小さく悲鳴を上げてドアの方に走り去ろうとする男性に向けて
その背中にアイスピックを突き刺した。

今度は背中と言う事もあり、一撃で仕留めることは出来なかった。

男性は悲鳴と共に倒れ込んだので、引き抜いたアイスピックを頭上に掲げながらその背中に馬乗りになり、
今度は後頭部に目掛けて二度、三度と突き刺す。

硬い頭蓋骨に阻まれ、思う様に刺さらなかったが、何度も繰り返すうちに遂に傷は脳に達したようで、
ピクピクと動いてた男の身体は遂に動きを止めた。

そこで一息ついて天井を見上げる。

既に血まみれになった床。
廊下は先程の絶叫を聞きつけ、既にザワザワとした大騒ぎになっている。

そう遠くないうちに警備員がここに踏み込んでくるだろう。

早急にこの部屋から逃げ出さなくてはならない。


今は捕まる事は出来ないのだ。


全ての記憶を取り戻したのは私だけ。 
全ての私を救い出す為に、今、私は捕まる訳にはいかない。

窓に足を掛け外に飛び降りようとしたとき、部屋の中に佇む小さな凛ちゃんの事に気が付いた。

自分の主人が目の前で殺害されたのに、特に悲しそうな感じは見受けられない。
既に手ひどいを扱いを男に受けていたのだろう。

床の遺体に向けるその眼差しは冷たく、感情を感じなかった。


その凛ちゃんの方見つめ、私は手を伸ばしてこう言った。

「…一緒に…来る??」

凛ちゃんは少し考えたあと、こくりと頷き、その小さな手で私の手を取ったのだった。


私達はそのまま二人で窓から飛び降り、病院から走り去った――


この狂った世界に復讐する為に――








「本日未明、官製のクローン工場でテロリストが侵入したと通報がありました。
テロリストは武装しているとみられ、施設内の職員は全員殺害された模様」

「これは最近頻発しているクローン工場を狙ったテロリスト集団の犯行とみられ、防犯カメラに映った画像から
犯人は全員女性とみられます」

「これは先日判決が下ったクローンに対する人権に不服を持つ集団の犯行とみられ、当局では…」






【終】

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