亜梨子「雪…?」大助「ふゆ…ほたる」 (22)

ムシウタのSSです

更新は遅めで、メインヒロインの出番があまりありません

一部キャラ崩壊(特に摩理)があります

それでも大丈夫、という方は、どうぞよろしくお願いします

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飛んでいる…ヒラヒラと、ヒラヒラと…

「何やってるの?早くしないと遅れるわよ、大助」

宙を舞う蝶を眺めていた俺に、 ちょっとだけ前を歩いていた亜梨子が声をかける

「ああ、悪い」

「全く、人生は有限なんだから、貴方みたいにボーッとしてたら損するだけよ?」

「極論にも程があるだろ」

学校に向かって、二人で歩をすすめながら、いつも通りの、他愛ない会話に興じる


普通で、平均的で、一般的な日常…

刺激的な未知も、突拍子もない事件も、常識を逸脱した現象もない、当たり前の青春…

そんな代わり映えのしない日々を、今日も繰り返している

ガラリと、教室のドアを開ける。どうやら、遅刻は免れたみたいだ

「よぉ、遅刻ギリギリだぜ、大助」

…とりあえず、訂正。明らかに普通じゃないやつもたまにはいる
着席した俺の前の席に、許可も取らずに座った金髪碧眼は、明らかに普通とは掛け離れていた

「アンネさんは、いつも早いね。早起きの秘訣でもあるの?」

「おいおい、んなゾッとするような口調で話すなよ。気味が悪いっての」

まぁ、こいつからしたらそうだろうな…

「全く、なんでそんなに優等生のフリをしたがるんだか」

…こいつにだけは、絶対に言われたくない台詞だな、これ…

「…まぁいい。さっさと自分の席に着けよ。HRまで、もう二分もないぞ」

小声で忠告すると、アンネは小さく舌打ちして、つまらなそうに自分の席に戻っていった

「なぁ、数学の課題、見せてくれね?」

昼休みがはじまった途端、クラスメートの男子に頭を下げてそんなことを言われた

「数学の…?またやって来てないの?」

「人聞きの悪いことを言うなよ…家に忘れて来たの」

「それ、何度目だっけ?ま、いいけどさ」

鞄から一冊のノートを取り出し、クラスメートの男子に渡す

「お、サンキュー!今度、埋め合わせはちゃんとするよ」

「いいから…授業はじまるまでには返してよ」

頭を下げて礼を言うと、少年は自分の席に戻って、課題を写しはじめた

結構な量があったし、今日はあいつ、昼休み返上で写さないと間に合わないかもな…

「相変わらず…猫を被るのが好きね、大助」

「一之黒さん…」

弁当を片手に持った亜梨子が、呆れたような視線をオレに向ける

周囲の生徒を確認して、小声で話す

「いいだろ、別に。それに、アンネだって大概じゃないか…ほら」

教室の隅を見ると、俺達からしたら違和感しかないような上品な笑みで、たどたどしい日本語を話す少女がいた

「いいのよ、アンネは…皆、猫被ってるって知ってるし」

「まぁ、ばれるよな、あれは…」

大体、普段大声で喧嘩越しのやつが、猫を被ってもごまかせるわけがない

「亜梨子、大助さん…」

聞き覚えのある声に、振り返る

「摩理…補習は終わったの?」

「ええ。大体、私は元から分かっている内容だったから」

花城摩理…亜梨子の親友で、ついこの前まで入院していたクラスメート…

入学してから、ほとんど登校していなかったのが原因で、今は昼休みや放課後を使って補習を受けさせられている…らしい

「まぁ、亜梨子よりは成績いいしな、摩理は。というか、ほとんど学校に来てなかった摩理にあっさり抜かれるって、お前、どういう頭してんだよ…」

「私の頭が悪いんじゃないの!摩理の頭がいいのよ…大助だって、きっとすぐ追い抜かれるに違いないわ!」

ムキになって反論する亜梨子…まぁ、万年平均点の俺じゃ、確かにあっさり抜かれそうだけど

「そうね…大助さんには絶対勝ちたい」

「…何でだよ…」

「だって、大助さんは私のライバルなんだもの」

「…ライバル?」

「そう。どっちが亜梨子の親友か…ね」

いや、どっちが親友かって…

「んなもん、満場一致で摩理に決まってるだろ。本人のお墨付きだぞ?」

「ええ!摩理は私の親友よ」

「な?」

「それじゃあ、大助さんは?」

「大助は…奴隷?」 

「おい…」

「嫌?」

「当たり前だろ」

「それじゃ、相棒ってことで」

「結局そこに落ち着くんだな」

大体、これはいつも亜梨子が言っていることだ
摩理は親友、大助は相棒(奴隷)、と…

正直、奴隷はともかく、相棒と親友で何が違うか、なんてさっぱり分からない。まるで浮気のばれた男の言い訳、みたいな言い回しだ、とは思うけれど…

「そもそも、親友なんて何人いたって問題ないだろ」

「それはそうかもしれないけれど…」

何処か納得出来ない様子で、摩理はじっと俺の顔を見詰めている…
見た目は美人の部類に入るからか…正直、ちょっと恥ずかしい…

「なら、今度は何のライバルになればいいの?」

「…お前、やっぱり何処かズレてるよな…」

実は、単に俺が普通なだけで、俺のまわりは全然普通ではないのかもしれない…

「そんなことより、早くお弁当食べましょうよ。昼休み、もう半分も残ってないけど?」

「ああ、そうだな…」

次の授業は数学…ノート、ちゃんと帰ってくるんだろうな?

「…で、相変わらず立入禁止の屋上で飯を食うんだな」

「いいじゃない。それに、ここに入れるようになったのはアンネが鍵を壊したから、なんだから」

「おう、感謝しろよな」

「そういう話じゃないだろ」

得意気に胸を張るアンネに溜息をつく

「こういうのって、ちょっと楽しい」

うっすらと笑みを浮かべて、摩理が亜梨子に続く

「ほら、早くしろよな」

更には、アンネまでもが立入禁止の屋上に足を踏み入れる

あきれるほど、いつも通りの展開だ

そうして俺は…それも悪くないと、口では文句を言いながらもついて行くのだ

ああ、全く…本当に、楽しいいつも通りだ

「はろー、皆」

「…お前、いっつもここでオレ様達待ってるけどさ…クラスに友達とかいねぇの?」

屋上で弁当を持って座り込んでいる少女…
夜森寧子…一つ上の先輩ではあるんだけど、見た目以外に説得力はない、とよく言われているらしい

「そんなわけないでしょ…バンドのメンバーとかいるんだし」

「うん。それに、それを言ったら同年代の同性に友達らしい友達がほとんどいない大助くんが一番酷いんじゃない?」

「それもそうか。やっぱ、こういうのは人間性がでるよなぁ、大助?」

「…言い返せないのが無性に腹立たしいな」

というか、いつもフラフラして、ぼーっとしているから、バンドなんて組んでるのはすっかり忘れていた

「結構人気なんだってな」

「ぶい」

やる気のなさそうにVサインをする寧子…こんなんで、どうして人気が出るんだか…

「それじゃ、さっさと食べるわよ」

「ああ、時間もねぇしな」

「いや、お前はさっき食ってたろ」

当然のように腰をおろすアンネ…けれど、こいつはさっき他のクラスメートと昼食をとっていたはずだ

「一々細かいことまで気にすんなよ。そんなんだから友達が出来ねぇんじゃねぇの?」

「余計なお世話だ…って、何やってる!?」

アンネが会話の途中でひょいと俺の弁当から唐揚げをかっさらう…こいつ、もしかしてわざわざついて来たのはこれが目的か…?

「だ、大助さん…私、あんまり食べないから、何か取っていってもいいよ?」

「い、いや…唐揚げ一個くらいでそんなに気にしなくても…」

「そうそう、気にすんなって」

「お前は反省しろ!」

ムシウタだ、期待や!

まだ弁当の中身を狙っているアンネを怒鳴りつける

「大助、あんまり大きな声を出さないの。見つかったらどうするつもり?」

「俺か!?俺が悪いのか…!?」

相変わらず俺に対してだけは理不尽だな、こいつ…

「あ、そうだ…これ、次の演奏のチケット…次の日曜日だから」

数枚の紙切れを取り出して、俺達に差し出してくる

「ありがと、寧子さん!絶対見に行くわ…ね!」

「いや、俺はワンコと遊ぶ予定なんだけど…」

「ごめんなさい…私は定期検診が…時間があえば行けないこともないと思うけど…」

「これ、売り切れたころにオークション出したら結構稼げるんじゃねぇかな?」

「…他の二人はともかく、あなたは何を考えてるのかしら、アンネ?」

結局、行くと即答したのは亜梨子だけか…というか、アンネ…流石にそれは俺でも引くぞ…

「…って、ホントにもう時間ないぞ…」

「え…?あっ!?あと5分!?」

予鈴を聞いて、亜梨子が顔色を変える
まだほとんど弁当に手をつけていない

「い、急いで食べて、全速力で教室まで戻るわよ!」

「いや、廊下を走るのはダメだから」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

結局、五限目の数学には間に合わず、授業の最中にノートを返せと要求するわけにもいかなかった…

「だからって…放課後補習なんてありかよ…」

「ドンマイ、大助」

こんな感じで続きます

一応、虫がいない世界観、というわけではないので。ちゃんといるし、ストーリーにも関わってきます

あんまり長くはならない予定です

ムシウタ懐かしー
今どんな状況か知らんが、まあ名作だよなあ

ムシウタか、いいね
平穏な日常が儚いものに見えてくる

摩理が一緒に学校生活を楽しんでるという時点で、なんというか、夢とか幻想に思えてしまうこの感覚……

期待

「やぁ、久しぶりだね、大助」

日曜日…駅前まで行くと、懐かしい人物が既に集合場所で待ち構えていた

「久しぶりだな。ワンコ」

「懐かしいな…キミがそんな呼び方をするせいで、ボクはずっとそう呼ばれ続けていたっけ…」

ニヤリと笑みを浮かべる…前の町で友人だった少女…獅子堂戌子
いつもレインコートを身に纏っている変人だ

「にしても…こんな時期に来なくても…もう少し待てばゆっくり時間も取れただろ…」

今は7月上旬…夏休みまであと一歩という時期だ

「いやいや、夏休みはヒッチハイクで何処まで行けるか、という実験を行う予定でね。時間が無いのだよ」

「相変わらず、ぶっ飛んだこと考えてんな…」

「それがボクだからね。キミがいなくなった後、舎弟も十人以上増えたんだよ?」

「お前は何を目指してるんだよ…」

というか、何で俺とコイツが仲良かったんだろうな…俺はどこまでも普通なのに、何を気に入られたんだか…

「安心したまえ。千晴さんは、夏休みに長々と居座る予定らしいからね」

「千晴が…?」

ということは、夏休みに俺の自由はほとんど無いんだろう…というか…

「お前、千晴って、そんなに仲良かったか?」

「何を今更…今だって、色々なことを互いに愚痴れる仲さ。ま、愚痴を言うのは大体ボクだけで、あちらはほとんどキミの話しかしないけれどね」

「なら、お前が今日来ることも…?」

「勿論。伝えてあるとも」

「……」

千晴が知っている…?ワンコの訪問のことを?
おかしい…アイツなら、それを聞いたら意地でもついて来そうなものなのに…いや、そもそも、千晴が俺が亜梨子の家に下宿することを認めるものなのか…?
あの、頭のネジがいくつもとんでるようなブラコンが…?

「あれ…大助さん?」

「……え…?」

ハッとして、声に振り返る。
そこには、花城摩理が立っていた…珍しく、亜梨子が一緒にいない…

「なんで、ここに……?」

「今から病院…言ってなかった?今日は定期検診なのよ」

そういえば、寧子のライブに行けない理由がそれだったな…

「その人がワンコさん?」

「あ、ああ…俺が前住んでいた町での友達だよ」

「ああ、じゃないだろう…ボクは戌子だ。獅子堂戌子!キミも、さっきの大助の発言を真に受けないように。アレは、大助が勝手につけた不名誉なあだ名なのだから!分かったね?」

「そう…よろしくね、ワンコさん」

「分かってないではないか!」

「え?大助さんがつけたあだ名ならいいじゃない?」

…ダメだ。会話が噛み合っていない…
というか、微妙に摩理の目が怖いんだが…何かあったのだろうか…?

「あ、ごめんなさい。そろそろ時間が危ないみたい…またね、大助さん、ワンコさん」

「戌子だ!」

摩理がゆっくりと病院のほうへと歩いていく。病弱だという身体も、そこまでは回復したのだろう…二週間程前までは杖をついていたのだが…

「それで…どこに行くんだ?」

「君は終始我関せず、という顔をしていたね。誰が原因だと思っているんだい?」

「…悪かったよ」

「ふん…まぁいい。それじゃ、まずはゲーセンにでも行こうか」

「こんなところまで来てゲーセンかよ…」

「ほら、早くしたまえ」

「うん、レッツゴー!」

「……おい」

「ん?何かな?」

にこりと、さっきまでは確かにいなかったはずの少女が笑みを浮かべる

「何かな、じゃないだろ。どうしてお前がここにいる?残ってるんじゃなかったのか?」

「もう、大助の町に行くっていうのに、お姉ちゃんがついて来ないわけないでしょ?」

誇るように胸を張って応えるのは、薬屋千晴…俺の姉で、重度のブラコンである

「…ワンコ」

「ふふふ、千晴さんに持ち掛けられてね…キミをちょっと騙してみようと思ったのだよ」

「寂しそうな顔をしてくれて、お姉ちゃんはホントに嬉しいよ」

ガバッと千晴が抱き着いてくる

「ちょっ…おい馬鹿…離せよ!?」

「ダメ。久しぶりなんだから、このくらいはね」

ああ、そういえば…
前の町では、こんなんが日常茶飯事だったな…

幾分かの懐かしさを感じつつ、離す気配のない千晴を必死で引きはがす

快晴の空では、相変わらず、羽根を広げた蝶がヒラヒラと舞い踊っていた


「全く…」

本当に疲れた。こんなに疲れたのはいつ以来だろう…思い返すと、先週の日曜日ということに思い当たり、口から溜息が漏れた

「元気ないわね、大助…久しぶりにワンコさんに会って来たんじゃないの?」

「会ってきたよ…だから疲れてるんだ」

まぁ、疲労の原因はほとんどがもう一人だけど

「大丈夫?寧子さんのライブはちゃんと聞けそう?」

俺の顔を覗き込んで、亜梨子が尋ねてくる。ワンコ達が予想より早く帰ったから、夜に行われるライブには参加出来るようになったのだ。

それで、今現在、亜梨子に引っ張られて会場まで来ている

「珍しいな…心配してくれるのか」

「まぁね。折角のライブなのに、隣で暗い顔されてちゃつまらないし」

「正直、これで心配するんなら、いつももう少し抑えてくれると助かるんだけどな」

千晴に振り回されるのも、こいつに振り回されるのも、疲労感というのだけを計れば大差ないだろう

「それ、どういう意味よ?」

「…分からないならいいさ」

「…もしかして、私のこと馬鹿にしてる?」

「そんなつもりはねぇよ」

分からないなら分からないでいい。それは本音だ。皮肉を言っても伝わらないんなら、亜梨子は紛れも無く本気だということなんだろうから…
それなら、付き合ってやるの悪くはないだろう

「ま、居候でもあるしな」

小声で…絶対に亜梨子に聞こえないように呟いた台詞には、自分でも言い訳臭いと呆れてしまった

「あ、はじまるみたいよ」

ステージの中央に、見知った顔が現れた
夜森寧子…正直、あのボーッとした上級生と同一人物だとは思えないくらい、真剣な表情をしている

「皆、今日は私達のライブに来てくれてありがとう」

そうして…夜森寧子の…クロール・ライヴのステージははじまった

「昨日、来てくれてたね」

翌日…昇降口でばったり出くわした寧子から、笑みを向けられた

「どうだった、私達のライブ?」

「…聞いて良かった、とは思ったな」

「そう…良かった」

この挨拶は、いつものこと…
こいつのライブを見た翌日は、開口一番でこの会話をするのがいつの間にか習慣のようになっている

「亜梨子ちゃんは?一緒に登校してないの?」

「ああ、あいつは先に来てるよ。摩理が日直だからって、手伝ってるらしい」

「そうなんだ…過保護だね、亜梨子ちゃんも」

「そんなことはないだろ」

少し前までは杖無しでは歩くことも出来なかったような奴だからな…そのくらいは必要だろうと思う

「君がちょっと早めに来てるのも、彼女が心配だったから?」

「そういうつもりでもないけどな…」

昇降口には俺と寧子しかいない。朝練に来るには遅すぎて、普通に登校するには早過ぎる…そんな時間帯に、俺がここに来たからだ
けれど、だとすれば…

「どうして、お前はこんな時間にここにいるんだ?」

「さぁ、なんでだろうね?大助くんは、どう思う?」

「……」

目の前にいるのは、夜森寧子…
その少女は、ちょっと抜けた雰囲気をしている上級生…
或いは、クロール・ライヴのボーカルとして、ステージに立つ歌姫…
そのどちらかであるはずの彼女は、しかし、今はそのどちらとも違う雰囲気を纏っている

「…なんてね。実はアラームが20分近くズレてただけ。間違って早く登校しちゃった」

「……は?」

「ね?ビックリした?ちょっとミステリアスなお姉さん」

「……はぁ…」

呆れてものも言えないというのは、きっとこういうことを言うんだろうな…

本当に、俺の周りには変な奴ばっかりだけど…
それでも…いや、だからこそ、俺はこの日常が、いつまでも続いて欲しいと…そう、願っている

普通に、平均的に、一般的に…青春を謳歌できる、こんな日常が…

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