【ワールドトリガー】 香取「――次は負けない」 (115)


ワールドトリガーのssです
時系列はROUND3終わった後
玉狛は上位入りして、香取隊は入れ替わりに中位に落ちたところからです

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2月9日 日曜日

「中位に落ちた?」

一夜明けてランク変動の結果を麓郎から聞かされた。
結果は中位落ちだ。

「どっか上がったの?」

「玉狛第二ってチームみたいだね」

玉狛第二、聞いたことのないチームだ。
話を聞けば今期できあがったばかりのチームらしい。
そんなチームと入れ替わりで降格なんて。

――バン

机に叩きつけた拳が大きな音を鳴らす。
痛みはない。
トリオン体というものは、こういうとき都合が良い。


「どこ行くんだよ」

「帰るのよ」

「っは? これからミーティングの予定だっただろ?」

「上位チームのためのね。中位なんて、ミーティングの必要もないわ」

「逆だろ。最近戦ってなかったからこそミーティングが大事なんじゃないか」

もっともだ、と思った。
しかし、同時にアタシのプライドが邪魔をする。
2期連続上位クラス入りのプライドが。

「なら少しでも練習しなさいよ。アタシの足を引っ張らないようにね!」

「おい!」

声を無視してアタシは退室を出た。
これ以上、麓郎の声は聴きたくなかった。


*****

雪こそふっていないものの春を感じるにはまだまだ遠く、三門市の風は身を切るように寒い。

アタシはカバンからマフラーを取り出し、少しの風も通さまいときつく首元に巻きつけた。

冷たい空気が火照った頭を冷やす。



どうも最近イライラすることが多い。

中位におちたこともその理由の1つではある。

でもそれだけじゃない。

この頃、いろんなことが上手くいかない。

何をしても失敗する。

そんな現状が、アタシをいらだたせるのだろか。

良くわからない。

分からないことがさらにアタシをイライラさせていた。


いまごろ雄太が麓郎をなだめているころだろうか。

麓郎の言っていることは分かる。

しかし、いまさら中位グループにさした対策も必要ないだろう思ったのも事実だ。

ROUND4ではアタシが点を取って勝つ。

そして上位にもどる。

それだけの話だ。

それだけのはずだ。


15分ほど歩いて、ある店の前にたどり着いた。

今ではめっきり見ることも減ったゲームショップ。

アタシのお気に入りの場所だ。

嫌なことがあると良くここに来ていた。

現実の嫌なことも、ゲームの世界までは持ち込めない


店内のゲームの間を縫うようにして進む。


「ラスト1本、ついてる」

アタシが探していたのは、ついこの間発売したばかりのゲーム。

シリース物の3作目。

誰もが知ってるゲームではないけれど、3作発売されるくらいには人気のあるものだった。


「ミーティング。しないで正解だったわね」

ミーティングなんかしていたら売れていたかもしれない。

格下チームのミーティングなんてした挙句に、ゲームまで売切れてたとしたら、泣きっ面に蜂も良いところである。

ラッキー、ラッキー。

心の中でそう呟きながら、アタシはその残ったゲームソフトへと手を伸ばした。


「あ……」

「お……」

手と手とが重なり合う。

こんなことが起こるなんて漫画かよ、と悪態をつく。

男の人だったら譲ってもらおう。

女の人だったら強気にでれば良い。

そんなことを考えながら、触れ合った手から上の方に視線を移らせると、見知った顔がそこにあった。


「香取ちゃん?」

「……こんにちは、先輩」

A級1位オペレーター国近先輩だ。

「奇遇だね~こんなところで出会うなんて」

「そうですね」

知り合いと会うなんて。

それも顔を知っているくらいの先輩だ。

正直きまずい。


「先輩もゲームとかするんですね」

「するよ~ゲーム大好きだからね~」

「意外です」

この先輩がゲームに勤しむ姿は想像つかなかった。

やっていたとしても、牧場作ったりとか、その手のゲームな気がした。

「私も驚いたよ~。でも、そうするとー」

うーんと人差し指を顎に添えて唸っている。

あざといとも捉えられかねないポーズも、この先輩だと不思議と自然にきまっている。


「なんですか?」

「このゲームどうしよっか?」

ま、それしかないよね。

ソフトは1本、買い手は2人、半分こというわけにはいかない。

なんとしても購入したいと思っていたが、相手がこの先輩では仕方がない。

今日のところは諦めよう。

「アタシはいいですから、先輩どうぞ」

「そんなの悪いよー香取ちゃんが買ったら良いよ」

「そういうわけには、アタシのほうが後輩ですから」

「だったら私も先輩として、自分だけ買うわけにはいかないよ」


っち。

心の中で舌打ちをする。

本当にめんどうくさい。

形だけの譲り合い。

ただ過ぎる時間。

何も生み出さない、無駄な時間だ。

この時間が終わるなら、ゲームを譲ることもいとわないとさえ思った。

「そうだ! じゃあ私が買うからうちの作戦室来なよ!」

「は、いや……それは」

「うんうん、それが良い。私もこのゲーム好きな人話したいし」

「ん……」


どうこの場を切り抜けようか。

ゲームなんて誰かとするものはない。

その類のゲームはあるが、アタシは好きじゃない。

それも、とくに親しいわけでもない先輩と。


そんなことばかり考えていたら、手が引っ張られるのを感じる。

先輩の手だ。

いつのまにか会計をすましていたらしい。

グイグイと引っ張られ、抵抗を試みるタイミングさえない。

「じゃーいこかー」

やれやれ。

アタシは、自嘲気味にそう呟いた。


百合はないですが
カトリーヌと国近先輩がメインです
今日は終わります

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