【ワールドトリガー】染井華「それでも私は停滞を望む」 (25)

成長する気のない人は前には進めない


それをよく痛感したのは小学生の頃だったか


私「染井華」が「香取葉子」に対しての恋心を自覚してからだった


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彼女は私にないものを持っていた


自由や意志、そしてある種のずうずうしさ


人によってはその彼女を彼女足らしめる所が嫌いらしいのだが


しかし、私にはそこがどうしても魅力に感じた

いつだってそうだ


あの時だって、あの時だって


それが大人の選択だとしても、だ


彼女は何の気なしに切り離された私の空間へと、入り込んだ来た


そんな彼女を見続け、私はだんだんと思い始める


「彼女ぐらい、自分の欲しいものに貪欲になれれば...」と

彼女の両親は彼女に対していつも言う


「華ちゃんぐらい頑張ってくれたら」


その言葉は、私にいつも突き刺さる


葉子に対して心の内を明かし、一歩でも仲を進めることができれば


そんな自問自答に対して、いつも同じ言葉で返事をする


「成長する気のない人は前に進めませんから」

怖かった、心の内を明かした結果、拒絶されるのが


彼女に対する私の限界を知るのが


結果的に私はいつも「前に進めない人だった」

時は流れ、進路を決める時期になる


私たちはそこで道を違える筈だった


私の実力を知ったうえで別の道を推奨する葉子


当たり前というようにその学校に入れるつもりの両親


私だけが胸にしこりが残るまま時が進んでいく


そんな中、転機が訪れた

大規模侵攻


それは突然の出来事だった、


つい数分前の光景が、謎の侵略者によって変わっていく


まるで「映画か何かでしか見たことのない光景」そこで私は二択を責められる


「家族」か「恋の相手か」


結果的に私は後者を選んだ


その光景はドラマチックだったろうか


崩れていく光景の中、片思いの相手と自分の身を削りながら彼女を助けた私


もしもこれが何かの漫画やアニメならば主人公とヒロインが結ばれるシーンだろう


「映画か何かでしか見たことのない光景」「何かの漫画やアニメならば主人公とヒロインが結ばれるシーン」


そんな非日常の中、私の脳裏にある考えが浮かぶ


「今、思いを伝えれば、高い確率で成功するのでは?」

しかし、私はそんな考えをかき消すように彼女の手を取り走り出した


怖かった、もしも家族を捨ててまで助けた彼女に見放されたら、私は完全に一人だ


結果、私は前に述べた通り「成長する気のない、前に進めない人間だった」


せめて....せめて、その後の葉子の「なぜ自分を選んだのか」という問いに


「葉子は特別だから」と答えられればと今も後悔している


それから少し経ち、とある組織が創立された


「ボーダー」そう名乗った組織は進行を食い止め、事態を収束させた


聞く話によると、その組織は人材を求めているらしい、共に戦ってくれる隊員


その話を聞いたとき、すぐに入ることを決めていた


いくら葉子を選んだからといって親がどうでもよかった訳じゃない


その敵討ちだった

それを葉子に話すと、やはりというかなんというか、葉子も話に乗ってきた


もうすぐ道が分かれるといった時期にこの話だ


私は嬉しかった


しかし、現実は上手くいかない


葉子は受かったが、私は落ちた...


その時の葉子の顔は今でも忘れられない

自分でも何が悪かったのかは分からない、しかしそれでも私は諦めるしかなかった


と、思っていた、しかし葉子は違った


一人、抗議を申し出たのだ


単純に嬉しかった、彼女が私の為にここまでしてくれるなんて


が、私はそんな考えで終わるほど無欲ではない、ある期待を込めてしまったのだ


もしかしたら、少しでも私に対して負い目を感じてくれているのではないだろうか

結果的に私は戦闘員にはなれなかった、初めて聞くトリオンや何やらといった単語の前には諦めるしかなかった


が、オペレーターという職に就く事になった、それは防衛隊員がチームを組むために必須なものらしく


私たちがチームを組める正隊員になったときに、一緒の隊を組むことで話は収束した


そこからは忙しい日々だった、変わった環境の中で駆け出しオペレーターとしての雑務をこなす日々


回りの同期を倒し正隊員に近づいたという、葉子の報告を聞く度に歯がゆい思いをした

そして、私は葉子の少しあとに正隊員になった


「やっと隊を組めるわね」と言葉をかけてもらったときは単純に嬉しかった


そこから、葉子の快進撃が始まった


たった数か月でアタッカーでマスターランクに到達し、隊の順位を上げていった


しかし、それが怖かった


もしもこのまま、私の両親を殺した者たちを殺せば、晴れて葉子はこのボーダーにいる意味がなくなるのではと

頭では分かっていた、直ぐにそんなことができるわけがない


上位陣の壁は厚く、その進行してきた星もまだ分かってもいない


しかし、今の葉子の快進撃を見ていると焦らずにいられなかった


だが、やはりそう上手くはいかない


ある時を境に葉子は上手く勝てなくなっていた

元々努力を怠る正確の葉子だったが、この組織内ではそれが色濃く結果に出る


同じ顔触れで繰り返すランク戦において、実力以上に必要なものは、適応と進化だった


葉子も試行錯誤はしているらしく、ガンナーやオールラウンダーに転換するなど工夫はしていた


が、他のランク戦を見ない葉子には適応は無理だった


自分の情報を持っている相手に情報なしで勝つのは至難の業で


ますます、香取隊の雲行きは悪くなって行った

そんな中、私はある行動にでた


葉子がランク戦を見ないならば、私がその遅れを取り戻せばいい


色々な隊のランク戦を研究し、その傾向や癖を分析し始める


今まで圧倒的に足りていなかったものを埋めた香取隊


それから数回はいい調子が続いた


あの日までは

その日は香取隊の面々で作戦室にて作戦会議が行われていたのだが


どうにも葉子の様子がおかしい、いつも通りの言葉の中に棘があった


そしてやっとのことでチームメイトの若村くんが理由を聞き出した


答えはこういったものだった


「自分は誘われていないのに、木虎、黒江隊員は加古さんに誘われていた」


加古たちは以前からイニシャルが「K」で才能がある隊員を誘っていることが見られる隊だった


だから私以外の二人は「また、葉子の嫉妬か...」といつも通りの反応だった、が


私は違った、その言葉は私の心をえぐったのだ


「私たちと試行錯誤するより、より良い隊長の元で上を目指したい」


そう聞こえてしまった


それから、不安がよぎる日々が続く


もしも、もっと葉子が脚光を浴びてしまったら


そしたら、もっと上の隊へ行ってしまうのではないか?


そう思っているうちに次のランク戦は近づいていた


そして、私はある行動に出る、いや、正確には「やめた」


チームメイトの不仲を取り持つのを、戦闘中指揮するのを


知っていたのに止めてしまった


葉子は実は友情に熱いのを知っていたのに、恐怖に負けて、前進するのをやめてしまった


「また」止めてしまった

それから、香取隊の成長は完全に止まった


他の隊に敗北し、順位は落ちていった


葉子は次第に成長を諦めていた...


しかし、ある時あるランク戦でそれは覆る


柿崎隊、三雲隊とのランク戦のことだった


私たちの誰よりも未熟な三雲君に三人全員止められたのだ


まさに、成長と適応だった、私たち三人の反応を完全に予想し、それへの対策をとってきた

その中で葉子は久しぶりに、心からの怒りを見せた


そして私は選択を迫られる「このまま停滞しているか」「また、上を目指すために指揮を執るか」


結果、考えるまでもなく後者を選んだ


葉子が本気上を目指しているのなら...


私は自分よりも葉子の意見を尊重しよう






その試合は三雲隊の勝利で幕を閉じる


その後の作戦室では葉子の泣き叫ぶ姿が見えた


それをなだめ、私は久しぶりにその言葉を発する


「変化しようとしなければ、前には進めない」


それを聞いた葉子は不器用な言葉ながらも、前に進む意志を示す


しかし、まだ私は停滞を望む


本気でぶつかることに不安を感じているから....



おわり

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