黒森峰みほ「もし流されたのが私の戦車だったら?」 (73)


第62回戦車道全国高校生大会 決勝戦


みほ「どうですか、狙えそうですか」

乗員「すいません、雨で視界が悪いので厳しいと思います」

みほ「分かりました、一定の距離を保ってください、Ⅲ号と連携して追い詰めましょう」

みほ『小梅さん、そちらも砲撃は厳しいですか』

小梅『無理ではないですが、失敗した時のリスクが少し怖いですね』

みほ『分かりました、もう少し状況を見てみます』


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乗員「くそっ、目の前に敵はいるってのに…っ」ギリッ

みほ「仕方ありません、この天候で出来る最善のことをやりましょう」

みほ「耐え抜いてください、雨が止む時こそ私達が連覇を成し遂げる時です」

乗員「もちろんです、いつでもご命令を」

みほ「...雨、止まないな」ボソッ


乗員「どうしたんですか、副隊長、らしくないですね」

乗員「さっきまであれだけ啖呵切らしてたのに、意外と気は短い方でして?」

みほ「予報では確かに雨だったんですけど、ここまでとは」

乗員「試合中断の報はありませんし、ここ一帯だけ降ってるんでしょうか」

みほ「いえ、河も増水してます、恐らく会場はどこもそうだと思いますよ」

みほ「所在地の気候によって大きく公平さを欠く積雪と違って、雨はどこでも降りますから」

みほ「この天候でも続行されると思います、相手も条件は同じです、頑張りましょう」


乗員「はい、了解で...うわっ!」ドン

みほ「っ、砲撃!?なんで!」

小梅『みほさん!前方にプラウダの援護車輌がいます!そこから砲撃されてます!』

みほ『応戦します!とにかく撃ってください!』

小梅『っ、ダメです!間に合いません!』

みほ『相手も条件は同じです!当たりません!落ち着いて照準を合わせて...!』


乗員「副隊長危ない!」

みほ「え...きゃあ!」ドン

乗員「おい!車体落ちてるぞ!早く立て直せ!」

乗員「ダメです!完全に制御利きません!」

みほ「どうにかして踏ん張ってください!」

乗員「出来るならしてます!っく、うあああああ!もうダメです!」

みほ「きゃああああああ!」


小梅『217号車応答願います!217号車!みほさん!お願いします!』

まほ『どうした赤星!フラッグ車に何があった!』

小梅『敵車輌に砲撃されて脱輪!そのまま川に転落しました!』

まほ『な...っ!車輌はどうなってる!』

小梅『車体のほとんどが沈んで流されて行ってます!』

エリカ『217号って副隊長のじゃない!何やってんの!』

まほ『至急大会本部に連絡しろ!乗組員の命が危ない!』


みほ「み、皆さん大丈夫ですか!」

乗員「はい!大丈夫です!」

乗員「早く!早く脱出しないと!」

みほ「落ち着いてください!ハッチを開けなければ浸水は最低限に抑えられるはずです!」

乗員「で、でも!スリットから水が!水が!」


みほ「その浸水量なら本部が来るまでに持ちこたえられます!だから」

乗員「でも!もし間に合わなかったら!」

みほ「間に合います!今外に飛び出す方が危険です!」

乗員「嫌よ!閉じ込められたらそれこそ、それこそ...っ」

みほ「落ち着いてください!私を信じて!」


乗員「ひっ、いや、いやあああああああああああああ!」ガチャッ

みほ「ダメ!そこを開けたら...っ」

乗員「え」サババババッ

乗員「きゃあああああああああああああああああああ!」


みほ「早く!早くハッチをしめ、かはっ」

乗員「いやああああああああ、かはっ、あっ、いや!たす、けて」

みほ(まずい、このままだと車内でみんな...)

みほ(この川に飛び込んだらそれこそ、いや、でもそうしないと)

みほ(もう、イチかバチか決めるしか!)


みほ「み、みなさ、ん!息を止めて、くだ、さい!」

みほ「満水になった、しゅ、瞬間に、ハッチから出て!」

乗員「わ、わかりました!」

みほ「す、ぐに、満水、に、なります、から、せーのでい、きを、とめ、ます!」

みほ「せぇ、の!」


「誰が落ちたの!」

「フラッグ車!副隊長のティーガ-Ⅰよ!」

「早く助けを呼ばないと!」

「大会本部はまだ!?」

「なんで中止判断が出ないの!」

「まだ気づいてないんだよ!」

「隊長!プラウダに助けを呼びましょう!」

「優勝旗の重み分かって言ってんの!?そんな簡単に捨てれない!」

「あいつの命がかかってんのよ!」


まほ「...赤星」

小梅「あ、ああ、隊、長...」

小梅「ご、ごめんなさい、私が、私がすぐに助けに行ってれば...」

小梅「あ、ああ、ああああぁぁぁぁ」

まほ「お前のせいじゃない、落ち着け、自分を責めるな」

まほ「きっと、きっと大丈夫だ、みほなら、あいつらなら、大丈夫だ」


「ねえ!大丈夫!しっかりして!」

「中の子を引き上げたわ!みんな手伝って!」

まほ「っ!すぐ行く!暖を取れるものを持ってこい!」

乗員「はぁ、はぁ、はぁ...」グッタリ

まほ「安心しろ、もう大丈夫だ」


小梅「......」

乗員「う、うぅぅ、ごめん、なさい、ごめんなさいぃぃ...」

乗員「私達のせいで、十連覇が、ああぁ...っ」

まほ「何を謝る必要がある、お前達が助かることが一番だ」

まほ「何も気負わなくていい、だから、何も」


小梅「どこ、ですか」

小梅「副隊長は、みほさんは、どこですか」

乗員「......」

まほ「......」

乗員「...中、です」

乗員「副隊長は、まだ、中に、います」


みほ(ほら、せぇの)グググ

みほ(よし、三人車外に出した)

みほ(あと一人、はやく、はやくしないと、私も、もう)

乗員「」

みほ(...っ、まずい、この人、意識が!)


みほ(咄嗟のことで判断出来なかったんだ!このままだと本当に!)

みほ(ゆっくり引っ張って、一緒に車外に)グググ

乗員「っ!~!」ゴポ

みほ(っ、意識が!)

乗員「~っ!」フルフル ガシッ

みほ「っ!」


みほ(この人、私が逃げると思って、車内に引っ張って...っ!)

乗員「~!」

みほ(や、めて!お願い!中に引っ張らないで!)

乗員「!」グイッ

みほ(もう本当に息が、だめ、いや!やめて!)

みほ(...いやだ、死にたくない、しにたくない!)ジタバタ


みほ(死にたくない!死にたくない!死にたくない!)

みほ(死にたくないっ!!)バシッ

乗員「~、 っ 」

みほ(はやく、はやく水面に!)

みほ「っ!げほっ!がはっ!」


まほ「みほ!」

みほ「は、はぁ、はぁ、はぁ、あ、ああぁ」

まほ「大丈夫かみほ!もう大丈夫だからな!」

みほ「あ、おねい、ちゃん...」

みほ「あ、ああ、あああああぁぁぁ...」


みほ「怖かった、怖かったよぉぉぉ...」

まほ「よしよし、もう大丈夫だからな」

みほ「あああああぁぁぁぁぁ...」

小梅「みほさん!良かった!」

エリカ「アンタいつまで心配かけさせてんのよ!」

みほ「ごめんなさい、でも、ホントに、死ぬかと、思って」

みほ「生きたい、って、すごく、おもって、だから、私...っ」


「ねえ、ちょっと、副隊長...」

みほ「う、ううぅぅ、うぇ、どう、しました...?」

「もう一人は、あの子は、どう、したんですか」

みほ「もう、一人...っぁ」

みほ「あああぁ、あ、ああぁ、ぁぁ」ガタガタ

まほ「みほ?」


みほ「あ、いや、わたし、ごめん、なさい...」

みほ「ちがう、ちがうの、違って、あ、でも、うあ」

エリカ「ちょっと!どうしちゃったの副隊長!落ち着きなさい!」

みほ「いや、いや、いや、いや...」

みほ「いやあああああああああああああああああああああああああ!」


まほ(第62回大会の決勝、黒森峰の10連覇の夢は潰えた)

まほ(フラッグ車に白旗が上がる前に、試合は中断され、すぐさま救出活動が行われた)

まほ(最後まで残された一人は救出時、既に心肺共に停止していて救急搬送)

まほ(幸い、牽引すれば走行は不可能ではなかった、中断時に車輌を整備することも可能であった)

まほ(全員に私の考えを尋ねてみた、これが最後の大会でもある先輩方にも意見を伺った)

まほ(先輩方は、涙を流しながら、私の意見を後押ししてくれた)

まほ(黒森峰女学園は、ここに試合の放棄を申し出た)


エリカ(最後に救出された一人は、決死の救命治療によって、命だけは永らえた)

エリカ(それでも、脳に酸素が送られなかった代償は、決して安くはなく)

エリカ(今もまだ意識が回復しないまま、植物人間として生きている)

エリカ(そして、あいつは、副隊長は、みほは)

エリカ(その重すぎる結果に、大きな心の傷を負った)


みほ「っ!」ガバッ

みほ「あ、ああ、ああああぁぁぁ...」ポロポロ

エリカ「もう、あんた、またあの夢見たの」

みほ「ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい...」


エリカ「ったく、同じ寮部屋にいる私の気持ちにもなってよ」

みほ「ごめんね、エリカさんごめんね、ちがう、ちがうの」

エリカ「別にいいわよ、もう慣れたわ」

みほ「ごめんなさい、ごめんなさい、ああぁぁぁぁ...」

エリカ「...ホント、不憫な子」ヨシヨシ


小梅(あの日以来、みほさんは戦車道を極端に恐れるようになりました)

小梅(事態が事態だからでしょう、部員の誰も、みほさんを恨んでなんかいません)

小梅(それでも、みほさんにはいつも、付いて回る悪夢があるのです)

小梅(隊長も、お二人のお母様も、みほさんには同情しています)

小梅(戦車道から離れることになっても、仕方ないとさえまほさんは言ってました)


小梅(しかし、ここは、そういう学園です、みほさんが来たのもそれが理由です)

小梅(自発的にか、それとも陰から圧力があったのか)

小梅(みほさんは、この学園を去っていきました)

小梅(転校先には戦車道がないようです、それがせめてもの救いだと、私は思います)


『次のニュースです、大洗町で女子高生が意識不明の重体で発見された事件』

『警察は、この生徒の元同級生の母親を殺人未遂容疑で緊急逮捕しました』

『その後の調べで、この母親は去年の戦車道大会で娘が事故にあったことで』

『生徒にも同じ目に遭わせたかったと供述していることが分かりました』

『生徒は今現在も、意識不明のままです』


優花里「と、思うので」

優花里「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!」

みほ「秋山さん、頭の中で私はどんなキャラなのかな」

優花里「凄い、西住殿にありがとうって言われちゃいましたぁ」

みほ「最初の『あ』しか合ってないよ、秋山さん」

優花里「えへへっ」


おしまい

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