こうなって欲しかった「艦これアニメ版」 (16)

妄想を書き記します。


オープニング
其れは、前触れもなく、我々の世界を壊した。
1929年9月26日。海に住まう怪物達が、突如として世界中の国々を襲った。後に「暗黒の木曜日」、「世界恐慌」などと呼ばれる、有史以来最悪の事件である。
黒塗りの装甲に身を包み、高威力の火砲を備えた、禍々しい海の来訪者。彼らの存在を端的に表すなら、『人間大の戦艦』と呼ぶのが妥当である。
火力は戦艦と同等。なれどその大きさは5~10尺程であり、従来兵器での補足は困難極まりない。彼らの迎撃に赴いた黒鉄の戦艦は、その的の小ささと機動力に翻弄され、尽く一方的な砲火を浴びた。
彼らの来訪から一月も経たずして、世界の国々は、いや人類は、海の支配権を奪われた。海を隔てた国との航路は、いつ彼らの砲火を浴びると分からぬ死地と化し......海上を経た物流と外交は絶たれ、近代社会の構造は根本から覆された。

海は、もはや人類のものではない。
世界の7割を占める海は彼らに奪われ、人類の活動領域は残りの3割、陸へと押し込められた。
地表の支配領域だけで言えば、世界の支配者は既に、人類から彼らへと移り変わっていた。

彼らの名前は『深海棲艦』、深海に棲まう艦にして、海の王者。
それに抗うのは、陸に住まう人間。海を奪われた、かつての地球の覇者。

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人類に繁栄をもたらした、人間の持つ最大の武器とは、未知を既知とし、敵の武器を己が武器へと活かす叡智である。日本の技術者達は、捕獲に成功した深海棲艦の遺骸を元に、彼らの技術を盗んだ。無論、深海棲艦に対抗する武力を目的として。
最軽量化された艦装を、人間に備えさせることで、『人間大の戦艦』を人為的に生み出す技術。その技術の生成過程は極秘とされ、その神秘の謎を知る者はごく僅かだ。現時点で分かっていることは、
・艦装の装着員は、旧来の戦艦の名称で呼称される
・艦装の装着員は、艦装に宿る『艦の記憶』を自らと共有する
・艦装の装着は、女性のみが可能。原因が人体構造にあるのか、精神的な強さにあるのかは未だ不明
・妖精と呼ばれる、小型の謎の生物が、艦装の動員に多大な貢献をしている
......ということである。
深海棲艦への対抗戦力たる艦装の装着員は、その姿から、艦装を背負う娘という意味で『艦娘』と呼称される。

人間の使者である艦娘と、海の覇者である深海棲艦。生存圏を懸けた両者の対立は、深海棲艦の出現から十数年が経過した今なお、激しさを増すばかりだ。

「第1話 吹雪と提督」
~~Aパート~~
1940年、未明。
晴天に恵まれた朝の田舎に、一人の少女が田植えをしていた。

少女「ふぅ、今日もいい天気だだなぁ」

顔や手、腕。あちこちに泥をつけた少女は、首から下げた手拭いで顔の汗と泥を落とす。

少女「お米を作るべ。お米をだくさん作れば、だくさん買ってくれるべ。したらみんな、うちのお米でお腹膨らませてくれるべさ」

ごんなやりがいがあることはねが、と、少女は上機嫌で一人ごちる。辛い農作業も、少女には苦では無かった。子供の頃からやり続けている習慣というのは、人から労苦の心を減らしてくれる。

老婆「おーい、そろそろ休憩にするべ。お茶とぼた餅用意してやるが」

そこそこ広い田圃で、もう一人作業に従事していた老婆が、少女に声をかけた。

少女「うん! わがったよ、ばっちゃ」

少女が元気に返事をする。二人は、孫と祖母の関係であった。
農場から少し歩き、我が家の縁側に少女は腰を落とす。しばらくすると、台所で準備していた老婆が、家屋から顔を出した。手には茶と菓子を載せた盆がある。

少女「うん。濃厚で、しっかりした味だべ」

老婆「当然だに。今日のぼた餅は良いもち米使うだからな」

老婆と縁側に並び、我が家の田圃を眺めながら、ぼた餅を食う。のんびりとお茶を啜る。
幸せだな、と少女は思った。実際、こういう牧歌的な日常を送れる人間というのは、この時代にはとても少ない。
深海棲艦の登場以来、海上航路による物資は途絶え、日本は巨大な孤島となった。植民地を喪い、日本は資源の乏しい国土での自給自足を強いられている。
深海棲艦の攻撃で、食は困窮し、住宅を破壊された者も少なくない。慢性的な不景気から、町々には失業者が溢れ、犯罪率は年々増加していた。そんな中での田舎暮らし......世界恐慌以前には貧乏人と呼ばれた......というのは、少なくとも食いっぱぐれも深海棲艦とも無縁な分、幸せなだと言える。

老婆「最近まんだ税が増えてんよ。『農民は生かさず殺さず』なん時代ば思てくるよ」

少女「しかだなかべよ。兵隊さんが、命賭けて私ら守ってくれよ? ちっと役ば立つなら、それでええとよ」

老婆「いかんよ。兵隊なんて、ロクなもんじゃなか、なか」

少女の父と母は、生まれて間も無い頃の「暗黒の木曜日」に、深海棲艦によって殺されている。その後老婆に引き取られ、寂れた田舎で過ごしてきた。
深海棲艦に、特段の深い恨みは無い。父と母がいないのは少し寂しいが、祖母がいてくれたおかげで、自分を不幸だと思ったことは一度も無い。
ただ、人間を襲い、色んな人達を困らせ怖がらせている海の怪物達への嫌悪というのは、少女も人並みに持っている。そういう深海棲艦への嫌な思いを持っていると、それと戦って民衆を守る兵隊というのは、少女のような一般人には、とてもカッコ良いものとして映った。

老婆「兵隊なんて、ロクなもんじゃなか」

もう一度言う祖母の隣で、少女は黙ってお茶を啜った。

......その日の夜。遅めの夕飯を食べている時に、家に一通の手紙が届いた。こんな時間に珍しいな、と思いつつ、祖母の手を煩わせるわけにはいかないので、少女は玄関まで足を運ぶ。
配達屋から手紙を受け取ると、宛名は少女のものであった。送り主は帝国海軍。何事か、と思い、少女は慌てて中を確かめる。

少女「嘘、嘘だ」

赤紙であった。兵力確保の為に、民衆から兵を徴収し、死地へと誘う死神の招待状が、少女に届いたのだ。
有り得ない、何かの間違いだ。だって私はただの女の子で、戦争の為に貢献するとしても、それは銃後の働きのはずだ。少女は何事が起きているのか確かめるべく、赤紙に写る文字を読み進める。
すると、手紙にはこう書かれていた。数週間前に小学校で行われた身体検査の結果、貴君には艦装"吹雪"の適性があると分かった。皇国の四方を守るべく、急ぎ海軍の屯所に出立されたし、と。

少女「そんな、そんな。嫌だそんなの」

思考が追いつかない。耳鳴りが眩暈が止まらなくなる。額には汗がどっぷりと吹き出し
呼吸が荒くなるも、少女は赤紙を凝視したまま動けない。

軍の指令は絶対だ。逆らえない。自分は海軍に行くしかない。でなければ反逆罪で祖母もろとも、何年とも分からぬ刑務所行きだ。では、自分の今の生活は、もう終わってしまうのか。これで、こんな突然にあっさりと、この幸せな日々が終わるのか。なんだそれは、あまりに理不尽ではないか。

老婆「どっしたね。なんがあったか?」

戻りが遅い、と思ったらしい祖母が、居間から顔を出した。その声に、少女はハッとした。固まっている場合ではない、と思った。

少女(んだ。私が、私が逆らったらばっちゃも巻き込んでまう。それだけは駄目だ。私は行くしかないないんだ。行くしかないなら、せめて......)

少女「見てや、見てや。ばっちゃ、私、兵隊さんになれるんよ! 深海棲艦と戦うカッコ良い艦娘に、私もなれるんだっで」

作り笑いを懸命に浮かべ、明るい口調で祖母に告げる。ガタン、と祖母は膝から崩れ落ちた。呆然と、信じられないとばかりに、目を見開く。

少女「お国の為に、私も戦えるんよ! こんなに嬉しいことばなか! 私は、お国の為に戦って、そんでお金も稼げると! 全部ばっちゃに送るが、そんだらばっちゃ、もう税金も蓄えのことも気にすることなかね。だから、だからな」

老婆「行くな! 行ったら駄目だぁ!」

悲痛な声で、祖母が叫んだ。その声と、顔で、少女は自分の胸の内は見透かされるのだと気付いた。少女は祖母の元に駆け寄り、その身を抱いた。

老婆「行くな、行くな! 行ったらあんだ、死ぬんぞ? お父とお母のように、化物に殺されんぞ!? 行ったら駄目だぁ! 絶対行かせんぞぉ!」

少女「でも、無理やぁ。行かな、私ら捕まってまう。そんで捕まった後は、ばっちゃは牢屋で、私は戦場行きだぁ。そんなんば耐えられんとよ。私、せめてばっちゃば巻き込みだくねぇ」

老婆「じゃあ逃げるど! 二人で逃げるど! あんだだけは死なぜだくなが!」

少女「無理や。逃げ場なんか無か。私、ばっちゃだけは死なぜだくなが」

老婆の悲嘆の声は、やがて涙の絶叫へと変わった。少女は祖母を抱きしめながら、その声に釣られるように、やがて大声で泣き出した。

......翌日の夜。少女は祖母との最後の別れを交わし、家を出た。祖母は別れる前に、少女に忠言を残した。

老婆「いが? これからあんだは、国に言わされ続けるど。『お国の為に戦え』『お国の為に死ね』とな。だどこんなら戯言、信じちゃ駄目だ。お国の為に戦っても、なんも残ったりゃせぇんよ。こんなら無駄なことや」

少女「んでも皆そういって戦うけ、だら、私はなんの為に戦わばええんと?」

老婆「あんだが信じるもんだ。戦わなあかんなら、ぜめて自分の信じるもんの為に戦え。国が守りた思うもんでなぐ、あんだが守りた思うもんの為に戦え。そすりゃ、きっと、悔いば残らん」

金ばいらんから、必ずまた帰ってきいよ。待っとるよ。そう言葉を続ける祖母と抱擁を交わし、少女はついぞ家を出た。

少女(ばっちゃの言葉、私、きっど守るよ。自分の信じるもんの為に戦って、そんで帰るよ。でも、金ば送らんとのだけは、守れんけどね)

向かう先は、海軍。最後に一度だけ顔を拭うと、旅立つ少女の目に、もう涙は無かった。

~~~
1941年4月未明。
列車に揺られながら、女提督は考える。
女の身で提督の座に就いたのは、自分が史上初らしい。広い世界のどこかではとっくの昔にいたのかも知れないが、深海棲艦のおかげで確かめようも無い。少なくとも、日本史上では自分が初だ。
階級は少将。地に足が着いたままの、2階級特進の大出世だ。墓に入れば大将かと思うと、その地位の高さに身震いする。
が、喜びは無い。むしろ憂鬱でしか無い。いっそ逃げ出したいと思った。何故なら、

女提督「横須賀鎮守府。深海棲艦から東京湾を守る、東の海の最前線。肩書きだけ聞きゃあ立派だが、同時に」

女提督「『着任した提督が100日で死ぬ』、呪われた鎮守府だもんなぁ」

横須賀鎮守府。ここに着任した提督は、女提督で13人目であった。先代の歴代提督というのは全員2階級特進、ようするに既に故人である。四年前から続く『100日目に死ぬ』、という呪いが、先任達の命全てを奪っていたのだ。

女提督「マジモンの呪いか、それとも誰かの意図的な犯行か」

先任達の死因は心臓麻痺から事故死など、多岐に渡って共通性がない。ただ、どういうわけか100日目ピッタリに死ぬのである。マトモな神経をしていれば、幽霊を信じていようがいまいが、絶対に勤めたくない鎮守府である。が、限りなく重大な要所である為、誰かがその任を引き受けなければなない。
女提督自身も、望んで配属されたわけでは無い。上からの命令に逆らえなかっただけであり、厄介事を押し付けられた形での転属であった。
異例の2階級特進も、最重要拠点の提督に相応しい階級を、というのが公的な理由だが、その実は詫びのようなものなのだろうと、女提督は推測している。

女提督「嫌だなぁ。死にたくないなぁ」

列車が止まり、鎮守府の最寄りの駅へと着いた。ここから先は、自分の足で、呪われた鎮守府に向かわなければならない。その足取りはとても重かった。

女提督「死にたくないから、呪いの原因を突き止めなきゃなぁ。13人目にはなりたくないもん」

幽霊など自分はほとんど信じていなかったが、妖精という謎の種族が、鎮守府にはいるらしい。犯人の目星を人間以外にもつけなければいけないのかと思うと、またまた憂鬱になる。
いっそ、事件を起こしているのは妖精全員だ、なんて線も生まれてしまうのだから、調べる側としては堪ったものではない。


~~~
同日。
数ヶ月に渡る厳しい訓練を終え、"吹雪"は横須賀鎮守府へと配属された。今日は、その最初の日である。

吹雪「よーし、頑張るぞ!」

一人気合を入れ、鎮守府の中へと足を踏み出す。とにかくまずは提督へのご挨拶だ、と、吹雪は執務室へと向かった。
田舎では一度も目にしたことの無い、豪華というか、洋風な造りの建物内部に感嘆の念を覚えながら、廊下を進み、階段を昇り、また廊下を進む。時計の針は12時を指しており、お昼の為か人気は少なかった。皆、食堂に集まっているのかも知れない。

吹雪「着きました!」

一際大きな扉の前に立ち、吹雪は胸の前で両拳を握る。右手に持つ、弁当や生活用具を包んだ風呂敷がぶらりと前に揺れ、

??「それでは、失礼するわね」

??「失礼しますだにゃしぃ!」

突如開かれた執務室の扉にぶつかり、風呂敷の結び目が緩んだのか、中身ががしゃりとぶちまけられた。

吹雪「うひゃああああ! おむすびが、歯ブラシが!」

??「わっ、なんですかなんですかぁ!?」

??「あらっ、ごめんなさい! うっかりしてたわ、大丈夫?」

あわあわと床に散らばった物を集めていると、執務室から出た二人が、急いで手伝ってくれた。三人で拾うと、あっという間に拾い終える。

??「ごめんなさいね。悪気はなかったの」

吹雪「い、いえ! こちらこそ、その、扉の前でぼうっとしててすいません!」

??「ん? 君、もしかして新人さん?」

吹雪「はい! はじめまして、吹雪です! よろしくお願いします!」

睦月「にゃはは、そんなかしこまらないでよ。私達もさっき来たばかりの新人さんなの。私の名前は睦月だよ! よろしくね、吹雪ちゃん」

如月「私の名前は如月よ。睦月ちゃんとは姉妹、みたいなものよ。うふふ、他にも新人さんがいて安心したわ。仲良くしましょうね、吹雪ちゃん」

吹雪「う、うん! よろしくね、睦月ちゃん! 如月ちゃん!」

如月「じゃあ、私達は先に食堂に行ってるけど、よかったら一緒にお食事しましょう? 提督との挨拶、けっこう早く終わるみたいだから」

じゃあね、と言葉を交わし、二人は食堂へと向かっていった。良い人達だな、と吹雪は思い、幸先の良さに少し頬が緩んだ。

吹雪「よーし。私も頑張っちゃうんだから」

勢いよく扉を押し開き、失礼します!と挨拶を述べる。

女提督「来たか。君の名は、たしか」

執務室には長い黒髪の女性が一人、机に座っているのみで、他に人影はいない。秘書艦の人はどうしたのかな? 女の人の提督って意外だな、などと思いながら、吹雪は名を告げる。

女提督「そうか、吹雪か。私の名前は双葉 奈々詩......まぁ、これはどうでもいいか。提督とだけ呼んでくれればいい」

吹雪「はい!承知しました、提督!」

女提督「ああ、ああ、そういうかしこまった態度はしなくていい。私は大して偉くないし、男共がつくった階級意識なんざ糞喰らえと思っている。指揮に際しての命令に背いたりしなければ、自然体で、思うように振舞ってくれた方が居心地が良い」

吹雪「わ、分かりました。......えと、じゃあ、その......し、司令官」

女提督「うむ。まだ硬い気がするが、それでいい。さて、その風呂敷から見て、お昼もまだだろうから手短に行こう。君に一つ頼みがあるんだ」

吹雪「はい! なんでしょうか!」

女提督「実はだな。君には私の、秘書艦になってもらいたいんだ」

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