理樹「杉並さんと付き合ったら皆から祝われた」 (99)

教室

キーンコーン

生徒「起立、礼!」

真人「んがーーっ……」

理樹「もう起きなよ真人!学校終わったよ!」

真人「むにゃむにゃ………」

謙吾「そっとしておけ。昨日あんなにはしゃいだんだ、並大抵のことで起きるはずがない」

理樹「いや、まあ確かに………」

理樹(昨日、リトルバスターズのメンバーで行った2度目の修学旅行は最後まで騒ぎ倒した。特に真人はエネルギーが有り余っていたからか、帰り道の終盤には走りで僕らの乗る車と競争していたくらいだ)

鈴「いつまで寝とるんじゃボケーーッ!!」

ドゴォッ!

真人「ぐはぁ!?」

理樹(そこで鈴のハイキックがかまされた。並大抵の事ではない)

理樹「ほら行こう真人」

真人「ふあぁ……ああ。やっと疲れが取れたぜ……」






下駄箱

理樹(これからまた騒がしい日常が始まる。そんなことを考えながら靴箱を開けると、何かがそこから落ちた)

理樹「んん?なんだこの紙……」

真人「おっ、どうした?」

理樹(紙にはこう書かれていた)


『放課後、誰もいなくなった教室で待っています。杉並睦実』

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474715105

教室

理樹「…………………」

理樹(下駄箱には『放課後、教室に来てほしい』と、杉並さんからの手紙が入っていた。僕だってそこまで鈍感じゃない。もしも勘違いなら恥ずかしいだけで終わるけど、もし想像通りなら……)

ガラッ

理樹「!」

杉並「あっ……」

理樹「す、杉並さん……」

杉並「えと……その……」

理樹「…………ん?」

杉並「えっ?」

理樹(……なんだろう。青空をバックに、1人教室で待っていた杉並さん…この光景には見覚えがあるような……デジャヴか?)

杉並「ど、どうしたの?」

理樹「……………」

杉並「……………えっと…」

理樹(いや、光景だけじゃない。既視感だけでなく、僕がその時何を思ったのかもなんとなく感じられる。……だけどもちろんこんな事は今までに無かったはず)

杉並「直枝くん?」

理樹「………ハッ!」

理樹(いやいや、今はそんな事どうだっていいんだ!ぼーっとしている場合じゃないぞ理樹!)

理樹「す、杉並さん……あの手紙はどういう意味かな…?」

理樹(言った!)

杉並「……えっ?」

理樹(しかし、その勇気とは裏腹に本人の反応は妙だった)

理樹「えっ?」





理樹「あー……つまり友達がイタズラで両方に呼び出しの手紙を?」

杉並「多分……」

理樹「み、見事に騙されたよ……てっきりそういう事かと……」

理樹(やはり僕の気のせいだ。こんな事が人生でそう2度3度もあってたまるものか。ある意味勘違いではなかったが、とても恥ずかしい……)

理樹「じゃあまた明日……」

杉並「あ…合ってるから!」

理樹「えっ?」

杉並「………好きなのは……本当だから……」

杉並「私は直枝くんの事が好きだから……」

理樹「!!」

理樹(とても消え入るような声でそう続ける杉並さん。自分のスカートをクシャクシャになるくらい握っていた。顔も俯いていてどんな表情か分からない)

理樹「そ、そ、そ、それは……」

杉並「……………………」

理樹(もうそれ以上なにも喋ってくれなかった。ずっとそこに立って僕の返事を待っている)

理樹「……………っ」

理樹(正直に言うと、僕の方も修学旅行が終わってから何故か彼女の事を目線で追うようになっていた。しかし、それは僕にも何故かよく分からないものだった)

理樹「あ………」

杉並「……!」

理樹(僕が一言話すだけでピクッと肩を震わせた。彼女は待っているんだ。こんな状態でとても返事を待たせるわけにはいかない。今、ここで決断しなくては!きっと無意識に僕はこの事を予感していたのかもしれない。案外返事は簡単に出た)

理樹「ぼ、僕でよければ!お願いします!」

杉並「!!」

理樹(その時の杉並さんがどんな顔をするのか。何故か予測出来た)

理樹(2人で一緒に教室を出た瞬間、廊下の奥の方から数人の足音が聞こえた。多分さっき言ってた杉並さんの友達なんだろう……やけに大人数だな)

杉並「な、直枝さん。連絡先、交換しませんか?」

理樹「あっ!うん!そうだね!」

理樹(さっきからどうも声が裏返ってしまう。冷静になれ直枝理樹)



杉並「………………じゃあ今日はこれで!」

理樹(交換した後、素早く女子寮の方向へ走って行った杉並さん。とても可愛い)

理樹「………………」

理樹「…………僕が杉並さんと……かぁ」

理樹(未だに信じられない)



理樹部屋

理樹「………………」

真人「ど、どうした理樹ー?帰ったからずっとそんな調子だなー!」

理樹「ああ、うん……」

ピロンッ

理樹「!」

理樹(携帯が鳴った。メールの主は……!)

理樹「杉並さん…!」

真人「!」

『今日は色々とごめんなさい!でも、返事をくれてとても嬉しかった。直枝くん、他の人が好きなんだと思ってたから。こんなこと聞くのもおかしいけど、どうして私と付き合ってくれたのかな……(._.)』

理樹「お、おぉぉ……!」

理樹(可愛い!!可愛い過ぎるよ!!)

ジタバタ

真人「大丈夫か理樹?まるで釣り上げられた魚みたいになってるぞっ!」

理樹(キュンキュンする興奮を抑えてメールを打った。2回書き直した)

『僕も杉並さんが好きだと言ってくれてとても嬉しかったし、そう意識してしまったら僕も杉並さんの事を普通の目で見れなくなったから……とかかな』




ピロンッ

理樹(返事が来た)

理樹「ボドドドゥドオー」

真人「フッ……つい興奮しすぎて魂の叫びを発動した……ってとこかい?」

理樹「ごめん!それにしてもよく分かったね……」

真人「いいのさ。好きに叫びな」

理樹(真人の許しが出たので気を取り直してメールを読む)

『嬉しいです!そう言ってくれると私も安心したよ。それとごめんなさい。気が動転してて自分でも何言ってるか分からないカモ……!』

理樹「僕もです!!」

理樹(そんなこんなで至福のメール交換は深夜まで続いた。ここまでメール機能を発明した人に感謝するとは思わなかった。ありがとう!)



食堂

理樹「えへへ」

謙吾「おいおい、真人!あれはなんだ?」

真人「おーすまねえ!昨日帰ってからずっとあんな調子で全く分からねえんだよぉー!」

謙吾「フフフッ、お前がそんなものでどうするんだ!」

真人「うっせえなーっ!じゃあお前が理樹に直接聞けよ!」

謙吾「ううむ…どうしよっかなー!」

鈴「どっちも朝からうるさいんじゃー!!あとなんでニヤニヤしてるんだ!キショイわボケェー!」

ゲシッ

ゲシッ

謙吾・真人「「ご、ごめんなさい……」」

来ヶ谷「にしても今の理樹君の幸せオーラは凄いな」

美魚「少なくとも放課後まではそんな様子もありませんでしたねー」

小毬「とにかく嬉しい事があったのは良いことだよぉ~」

来ヶ谷「まったくだな。理由がまったく見当もつかないが」

葉留佳「ふふっ、まったくですネ!はるちんもなんの事やらサッパリですガ!」

恭介「…………………」

昼休み

キーンコーン

先生「じゃあここ明日までに終わらせておくようにー」

生徒「起立!礼!」

ガヤガヤ

「腹減った~」

「今日は食堂で食べようぜー」

理樹(授業が終わり、ふと杉並さんの方を見るとあちらもこっちを見つめていた)

杉並「あ……ふふっ」

理樹「ふへへ」

理樹(思わず不自然な笑みがこぼれた。今のは気持ち悪くなかったかな?表情1つにここまで気を使うのは初めてだ)

真人「よっしゃ終わったー!理樹、昼飯に行こうぜ!」

理樹(5秒ほど見つめていると杉並さんの方が誰かに呼ばれてフッと目を逸らされた。でもあれは『また後で』って感じの目配せだった。そうに違いない)

真人「理樹?」

理樹(まだみんなに杉並さんの付き合ったことは言っていない。別にあえて言う必要もないけど。いや、それでも真人や恭介達くらいには報告しておいたほうがいいのかな?色々アドバイスも聴けるかもしれない)

真人「おっと……そうだった!ちょうど断食中だったの思い出したぜ。じゃあお邪魔筋肉は退散させてもらうとすっかなー……っと」

理樹(今度は僕からメールを送ろう。そして今週の日曜にデートへ誘ってみよう。そうだ、せっかく行くなら小毬さんにオススメの店を聞いてみよう。確か昼休みはずっと屋上にいたはずだ)

理樹「あ、ごめん真人。ちょっと今日は………あれ、真人?」

理樹(真人がいつの間にか消えていた)

理樹(真人もいないので小毬さんにアドバイスを求めて屋上で食べる事にした)

小毬「街でオススメのお店?」

理樹「大雑把でごめん。例えば小毬さんがよく行く店でもいいんだけど」

小毬「うんうん、やっぱり私は駅前のクレープ屋さんかなぁ。日曜の昼によくワゴンで来るんだけどあれはベリーグッド!だよっ」

理樹「なるほど、駅前のクレープワゴン……」

小毬「あとそれとカップルで行くお店なら……」

理樹「か、カップル?」

小毬「あっ、ふ、ふぇぇ!!今のはナシ!聞かなかった事にしよー!オッケー!?」

理樹「お、おっけー……」

理樹(小毬さんは何故か付箋が貼られまくったメモ帳を手にしていた。まさかこういう時のための本なのか!?)




理樹(そんなこんなで小毬さんから発せられる店の情報を何も聞き漏らさないように僕の方も全てメモした。これで杉並さんがもんじゃ焼きが食べたいとか言いださない限りデートコースは素晴らしいものになるはずだ………いや、一応穴のないようにそちらもチェックしておこう)

小毬「ふぅ……そ、それじゃあ理樹君もこれでおっけー?」

理樹「うん。いきなり色々と聞いてごめんね!」

小毬「ぜ、全然大丈夫ですよ~!理樹君ファイトっ。だよ!」

理樹「えっ、あっ、うん…?」

理樹(よく分からない声援をもらった)

放課後

理樹(全ての授業が終わるとすかさずメールで杉並さんに聞いた。まだまだ流石に他の人がいる前で直接は聞けない)

『日曜日、予定は空いてませんか?よければ僕と街でお茶でもしませんか』

ピロンッ

理樹(返事はすぐに帰ってきた)

『ぜひ!』



裏庭

理樹(その後、腑抜けた顔で意味もなく散歩していると恭介にばったり会った)

理樹「あっ、恭介」

理樹(恭介は大樹に身を任せたままこちらをジロリと見つめてきた)

恭介「理樹……話がある」

理樹「えっ!?」

理樹(神妙な顔つきの恭介。まさかもうバレたのか?いや、隠すつもりでもなかったけど)

恭介「………とりあえずお前もそこに座りな」

理樹(そう言ってそのまま芝生に腰掛ける恭介。僕も靴を脱いで隣に座る)

恭介「………もうだいたい何が言いたいかお前も分かっているとは思うが」

理樹「うん……」

恭介「本当に……」

理樹「うん?」

理樹(恭介が僕の前に立った)

恭介「この度は………」

理樹「えっ?」

理樹(そして膝をつき)

恭介「ごめんなさいでしたぁぁああああああっっ!!」

理樹「ええぇーーーっっ!!」

理樹(僕に向かって土下寝をした。土下寝とは土下座の進化系で、地面に対してうつ伏せになり、『きをつけ』する事である)

前作↓
理樹「杉並さんと付き合ったら皆から襲われた」
理樹「杉並さんと付き合ったら皆から襲われた」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474199114/)

これを見てから読むともっと面白くなるゾ!

理樹「ど、どうしちゃったのさ恭介!?そんなところに顔を埋めたら汚いよ!」

恭介「いや……我慢出来なくて……」

理樹「いつもは我慢してるの!?」

恭介「いや……なんというかだな……説明するのは非常に難しいんだが…」

理樹「えっ?」







……………………………………………


………………………




理樹(恭介の話を要約すると、あちらの世界でいた時に、一度だけ杉並さんと僕が付き合った事があったらしい。しかしそこはNPCとの恋。鈴と僕を成長させるための時間が惜しいので恭介達は逃げる僕らを追って無理やり別れさせたらしい。だから今回、本当の意味で付き合う事になった僕らにようやく謝る事が出来たという)

恭介「本当にごめんな……お前らには申し訳ない事をしたと思っている……」

理樹「い、いや、恭介たちを責めることは出来ないよ!好きでやった訳ではないのも分かるし、そうして厳しくしてくれなかったら僕たちはそもそもここにいなかったかもしれないから……」

恭介「り、理樹……!!」

理樹「それにこうしてまた杉並さんと……こ、恋が出来たんだから……気にする事ないよ!」

理樹(今更ながら大真面目に恋だなんて言うのはとても恥ずかしい)

恭介「じゃあちょっと部屋に帰る。理樹はここでぶらぶらしててくれ」

理樹「あっ、うん……」

「あっ、直枝くん……」

理樹(後ろから声がした。最近になって何度も頭の中で再生していた声だ)

理樹「す、杉並さん!?」

恭介「狙い通りのナイスタイミングだ。それじゃあばよ!」

理樹(そう言って男子寮の方へ走り去っていく恭介。何故かその背中はとてもワクワクしていた)

杉並「あ、ごめんなさい。お邪魔だったかな、私…」

理樹「ぜ、全然そんなことないよ!」

杉並「そ、そう?なら良かった……」

理樹(まったく記憶にないが僕は一度杉並さんと付き合っていたのか……いや、その杉並さんとここにいる本人が別なのは分かっているけど……奇妙な感覚だ。とにかく気を取り直してデートに誘ってみる)

理樹「す、杉並さん、日曜日の事なんだけどさ、どこか行きたい場所ってある?」

杉並「行きたい場所かぁ……あっ!べ、別に直枝君の好きなところで大丈夫だよ!どこでもついて行くから……」

理樹「僕の方こそどこでもいいんだ。せっかくのお出かけだし2人が楽しめる場所にしたいしね」

理樹(さりげなく『杉並さんとならどこでも楽しい』というアピールを含めたこの返事、我ながら完璧だ。それにたとえ杉並さんがどんな所に行きたいと言ったところで大抵のデートスポットとは既に抑えている!)

杉並「本当にいいの?」

理樹「うん!」

杉並「じゃあ……その…今まで女友達とだけじゃ行きづらかったから直枝君と……もんじゃ焼き……食べたいなって……」

理樹「もんじゃ焼き!」

杉並「えっ!?」

理樹「あ、いや……」

理樹(まさか本当にもんじゃ焼きが来るとは……準備はするものだ)

杉並「もしかして嫌?」

理樹「全然全然!僕凄くもんじゃ焼き好きなんだよ!校内では『もんじゃ焼き全一の直枝』って呼ばれてるとか呼ばれてないとか!この町のもんじゃなら任せてよ!」

杉並「そ、そうなの?」

理樹(前回の僕はここでつまずいたんだろうか……)

理樹部屋

理樹「ただいまー!」

理樹「………ってあれ?」

理樹(いつもならこの時間、背筋をしてるはずの真人がいない。ランニングか?)

ガチャッ

真人「………理樹か」

理樹「ああ、真人。どこに行ってたの?」

真人「フッ……ちょっと呼ばれてな」

理樹「ふーん……ところで真人も覚えてたんだよね?僕と杉並さんのこと」

真人「えっ!?いや!その……!」

理樹「通りでなんだか様子が変だと思ったんだよ……話を聞くまでそれどころじゃなかったけど」

真人「す、すまん理樹……別に騙すつもりじゃなかったんだが……」

理樹「ううん、気にしてないよ。むしろ気にさせてごめんね」

真人「理樹……!」

理樹「僕らの友情は永遠だ!」

真人「よ、よせやい!筋肉から涙が出ちまっても知らねーからな!!」

理樹「アハハ!よーし!それじゃ今からほふく前進で晩御飯食べに行こう!!」

真人「いやっほぉおおおう!!久々に筋肉が戦慄いてやがるぜ!!」





……………………………………


…………………




理樹部屋

ベッド

理樹「…………………」

カチカチカチ

『そう。そこで恭介達と出会ったんだ。真人や謙吾も同じ幼馴染だよ』

ピロンッ

『羨ましい!私はもう小さい頃に遊んでた友達とは連絡取ってないし……』

カチカチカチ

『それなら今度杉並さんにも紹介するよ!みんな良い人だからきっと気に入ると思うな』

ピロンッ

『本当?でも私、人見知りだからちょっと緊張しちゃうな……』


カチカチカチ


ピロンッ


カチカチカチ





ピロンッ

『それじゃあ、そろそろお休みなさい。明後日が楽しみですっ』

理樹「………ふふっ」






ピロリロリンッ

『計画書を添付した。決行は明後日。くれぐれも悟られるな』

真人「………………………」

続く(∵)

間違いは誰にでもある。例えば誤爆とかな…

じゃあ今日の夜に再開



校門前

理樹(今日はとても快晴だった。こんな日に初デートとは幸先がいい)

杉並「お、お待たせー!」

理樹(僕が待ち合わせ場所に既にいたのを見たおかげで慌てて走ってきた。もちろん彼女も約束の10時に間に合っているが、こんなお決まりのセリフを聞く日が来るとは。2時間前に待機していた甲斐があったというものだ)

理樹「ううん、全然待ってないよ!それじゃあ行こう!」

杉並「うんっ」

理樹(そして学校から出る直前、何気なく振り向いた時だった)

「……………」

理樹「___________!」

理樹(何者かの気配がした。あの茂みの奥からか)

杉並「どうしたの?」

理樹「……………」

理樹(しばらくその辺りを見回したが、もうその気配は消えていた。気のせいか?きっと人に見られることが恥ずかしくて敏感になりすぎているのかもしれない)

理樹「いや、行こう。なんでもないよ」





ガササッ



理樹部屋

ガチャッ

恭介「…………いないな」

真人「………ふあぁ……んんっ。来たか恭介」

恭介「理樹はどうした」

真人「ああ。理樹なら8時にここを出て行った。だが約束の時間は10時だって言ってたし、戻ってくる可能性もあったからこのまま寝たふりをしていたぜ。きっと今頃待ちきれなくて校門で待機してるんだろ」

恭介「オーケー。それなら今はちょうど来ヶ谷が近いはずだ」

ピピッ

恭介「待て、ちょうど来ヶ谷からだ」

来ヶ谷『恭介氏へ。2人は校門から出て行った。今から街に行くつもりだ。オーバー』

恭介「了解。俺から謙吾に中継しておく。オーバー」

来ヶ谷『了解だ。アウト』

真人「……で、結局どうするんだって?」

恭介「やはり時間を無駄には出来ない。予定通り『全力で応援する』」

真人「………了解。ところでなんでわざわざ無線なんだ?」

恭介「全員で連携するならこちらの方が優れている。それにカッコいいからな」



理樹「昼ご飯何処で食べようか」

杉並「うーん……」

理樹(休日ということもあって行き交う人は家族連れや僕らのような男女ばかり。……の、はずだった)

謙吾「………………」

理樹「……………!?」

理樹(なんかいた。切符売り場に、いつもの服装の謙吾が)

謙吾「………………?」

理樹「ッ!」

理樹(動揺して動かないでいると、逆にそれが不自然だったのか謙吾の目に止まってしまったらしい)

謙吾「………………」

理樹(サングラスをかけているのでどんな顔をしているのかいまいち読みづらいが間違いなく謙吾だった)

理樹「け、謙吾………?」

杉並「えっ、あれ宮沢君?」

理樹(ゆっくり、ゆっくり近づいてみる。どうしてこんなところにいるんだ?

理樹「………け、謙吾?どうしたの?今日は部活の日じゃ……」

謙吾「………………」

理樹(謙吾はそこをピクリとも動かない。しかし、その代わりにポケットから無線を取り出した)

理樹「だ、誰にかけようとしているの?」

謙吾「~~~~~~。」

謙吾「………………」

理樹(短い会話だった。無線をしまうと、別にどうという訳でもなく、ずっとそこに立っていた)

理樹「なんで黙ったままなのさ……謙吾……」

謙吾「……………」

理樹(まだこの距離なら謙吾でも撒ける。そのギリギリのラインで謙吾が口を開いた)

謙吾「…………エッ?アッ、いや、別に俺は謙吾じゃないっスヨ?」

理樹(めちゃくちゃ無理して裏声を出していた。そして悟った。『これ多分みんなから監視されてる奴だ』と)

理樹「くっ……!い、行こう杉並さん!」

杉並「えっ?ど、どうしたの!?」

理樹(切符は既に朝一で2つ買っておいた。それを素早く渡すと、杉並さんの手を握って電車に素早く走った)

『扉が閉まります。ご注意くださいー』

理樹(ちょうど僕らの乗る電車は乗った瞬間に出た。これなら追ってこれまい)

理樹「はぁはぁ……!」

杉並「ふぅ……ふぅ……き、急にどうしたの直枝くん?どうして宮沢君から逃げるように走ったの?」

理樹(隣の杉並さんが困惑した様子で聴いてきた。もっともな質問だった)

理樹「……い、いや……まあ……」




理樹部屋

恭介「………そうか。分かった。みんなを向かわせる」

ピッ

真人「………………」

恭介「お前の気持ちも分かる。俺もワクワクしてしょうがない」

真人「あ、ああ……!」

恭介「とにかく事態を完全に把握できるまでお前はまだ動くな」

真人「えー!」

恭介「お前も無限に動ける訳じゃない。限界もあるんだ」

真人「………だからこそ行かせてくれよぉ!!」

恭介「言わせるなよ。俺たちとは違うんだ、あいつらは……」







恭介「多分、間近で見てたら嫉妬で死ぬぞ」

真人「うっ………否定できねえ…」



理樹(常識的に考えると追ってくるメンバーはリトルバスターズの皆だろう。きっと僕らのデートの様子が気になった野次馬根性を暴走させているに違いない。しかし、そうなると僕らを監視する中に恭介もいるということになる。その裏をかかなくてはならない)

理樹「す、杉並さん。今からタクシー使って水族館の方にでも行こう!」

杉並「す、水族館?」

理樹(返事を聞く前にタクシー乗り場を振り向くと……予想はついていたけど既にメンバーの1人がいた。葉留佳さんだ)

葉留佳「………ニッヒッヒ」

理樹(ここは通しませんヨって感じでこちらを見る葉留佳さん。もうダメだ。杉並の手を握って反対方向へ走った)

理樹「ご、ごめん今の嘘!やっぱり街であそぼう!」

杉並「そ、それはいいけどなんでまた走るの!?」

理樹(街の中心に行くことにはなるが後から謙吾も来るであろう方向を考えるとそれしかない)

葉留佳「あーっ!待て待てーっ」

理樹「…………」

理樹(昨日まで仲の良かった人を無視したがまったく心は痛まなかった)

タッタッタッ



理樹「ご、ごめん…何度も走らせて……」

杉並「ううん。別にいいけど今度はどうしたの?」

理樹「い、いや、そのー……ほら!アレだよ!たまには運動も必要かなーと思って!」

杉並「………それって私が太ってるって言いたいの?」

理樹(頬をぷくっと膨らませて静かに怒る杉並さん。そういう彼女も可愛いがそれはまたいつかの機会に見るとしよう)

理樹「ぜ、全然そんなこと思ってないよ!」

杉並「本当?」

理樹「本当本当!杉並さん凄くスタイルいいもん!引き締まっていてそれでいて主張しすぎない魅力的な身体だよ!」

杉並「……な、直枝君……もしかしてすけべなの?」

理樹「えっ!?」





理樹(……とりあえずどこか建物の中に避難しよう。このまま道を歩いてても出くわしたらアウトだ)

理樹「ねえ杉並さん。どこか行きたい場所はある?出来れば建物の中で、長時間居座れて、いざという時の脱出ルートがある所がいいんだけど」

杉並「す、凄く具体的だね……それじゃあ映画館は?あそこなら出口が2個あるし…」

理樹「それだ!」






映画館

理樹「学生チケット2枚下さい」

理樹(ここなら例えここまで探されたとしてもいくつものフロアを探さなくてはならないし、上映中は暗くて見つかりにくい。とてもいい考えだった)

理樹「どれを観ようかな……」

杉並「ううん……直枝君みたいのある?」

理樹「僕?そうだなぁ……」

理樹(今から上映する映画は3つあった。1つはアクション。これはデートには論外だ。2つ目はラブコメ。なんだか意識してるみたいで選びづらい。となると残るもうのは………)

理樹「じゃあこの『ムール貝の悪夢』で」

杉並「!?」

受付「かしこまりました」

杉並「な、な、直枝君……ホラー観るの?」

理樹「えっ?うん」

杉並「……あ………うん……ゎかった……」

理樹(心なしか元気が無さそうだった)

『ギャァァアアア!!』

『イヤァァアアア!!』

杉並「…………!!」

理樹「…………」

理樹(内容はホラーというかなんというか、変な所にコメディ要素が入っていてあまり怖くなかった。肝心の大ボスがムール貝という時点で企画は失敗していると思う。退屈してるかもしれないなと不安で杉並さんをチラリと見た)

杉並「あっ……あっ……ひぁ!?」

理樹(恐怖に怯えていた。既に目の端に涙を浮かべていた。手も落ち着きなく弄っていて、必死で目を覆うのを我慢しているようだった)

杉並「な、なおえ……くん……て、て……」

理樹「て?」

杉並「てー!!」

理樹(怒ったような声で僕に手を出した。握れということだろうか?)

理樹「え、えと……」

理樹(どうしてよいのか迷っているとあちらが手を握ってきた)

理樹「はうっ!」

理樹(その手はとても冷たく、震えていた。どんだけ苦手なんだ)

杉並「う、うぅー………!!」

理樹(しかし、合法的に手を握れるのはありがたい。しばらくずっとこのまま柔らかい感触を噛み締めておこうかと思った。その時だった)

来ヶ谷「………………」

理樹「!!」

理樹(来ヶ谷さんだった。もう既にこちらに気付いている)

『ウォォオオオオ!!』

『ガァァァアアア!!』

理樹(来ヶ谷さんは僕が気付くのを確認して二コリと笑った。ああいう笑い方をする時はだいたいろくなことがない)

理樹(だが、今回の来ヶ谷さんは何かを口パクで僕に伝えると、そのままにスクリーンを離れた)

理樹「『は』『や』『く』『キ』『ス』『し』『ろ』……?」

理樹(見事ロクでもない言葉が完成した)

理樹(エンドロールが終わり、ライトが点いてから杉並さんはやっと自分が手を握っていることに気付いた)

杉並「あっ、な、直枝くん!ごめんなさい!いつの間に……」

理樹「い、いや……いいんだよ……」

杉並「って大丈夫直枝くん!?背中凄い汗だよ!?」

理樹「ハハハ……え、映画があんまりにも怖かったから……」

理樹(もはやどうやっても振り切ることは出来ないのか……)








来ヶ谷『……という訳で、もう逃げ切られる心配はない。これから無事に応援出来るだろう。アウト』

恭介「ふっ……ふっふっふっ……」

恭介「………よっしゃあーーっっ!!全員に告ぐ!こっから本番だ!気を引き締めて全力でバックアップするぜ!!作戦名オペレーション”ラブきゅんボンバーズ”開始だッッ!!」

『『『おおーーっっ!!』』』



恭介「さて……」

恭介(駅前のカフェにて街の見取り図を広げた。現在ここにいるのは西園、真人、小毬、クドだった。残りの全員は外で遠くから理樹達を囲むようにスタンバイしてもらっている)

恭介「来ヶ谷によると今は映画館を出て西に向かっているらしい。そろそろランチの時間だし食事処に向かっているはず。小毬、理樹はどこに向かうと思う?」

小毬「えっとですねぇ……理樹君には美味しいパスタ屋さんがあるよーって言ったからそこに行くかもっ」

恭介(小毬には事前に理樹へ俺達が誘導しやすい店をお勧めしておいた。もちろんすべてが小毬自身のお墨付きだ)

恭介「よし。聞こえるか鈴?オーバー」

鈴『聞こえるぞ。オーバー』

恭介「そこの近くにパスタの店があるはずだ。ええと……」

小毬「『バッコス』」

恭介「バッコスという店だ。そこに直枝理樹で2名予約してくれ。苗字だけだとあいつらが気付かないかもしれないからな」

鈴『ラジャー!』

杉並「お昼はどこにする?」

理樹「ああ、それならこの辺りでいいパスタの店を知ってるんだ」

理樹(と言ってもパスタ専門店なんてそこしか知らないけど)

杉並「直枝君って結構オシャレな店知ってるんだねっ」

理樹(杉並さんか尊敬の眼差しを向けられた。小毬さん、ありがとう!)

理樹「えへへ……そ、そんなこと……」






理樹「あ…ああ……」

杉並「うわ……す、凄く人気な店なんだね……」

理樹(店の前には既に10団体ほどの人が並んでいた。この様子だと1時間は待つだろうか?)

杉並「べ、別に私待つの嫌いじゃないよっ?」

理樹(精一杯のフォローをしてくれる杉並さん。しかし流石にここまでは……)

店員「次でお待ちの直枝理樹様ー!いらっしゃいますでしょうか?」

理樹「えっ!?」

杉並「今、直枝君の名前呼んだ?あははっ、なんだ予約してくれてたんだね」

理樹「い、いや僕は予約なんて……」

「2名でお待ちの直枝理樹様ー?いませんかー?」

理樹(やっぱり僕の名前を……)

杉並「直枝君?」

理樹「あっ、う、うん!ここにいまーす!」

理樹(まさか僕らの行動をここまで予測してあらかじめ僕の名で予約を!?)

理樹「馬鹿な……」

杉並「えっ?」

理樹「あ、いや、なんでも……」

真人「カツサンド追加で!」

店員「かしこまりましたー」

恭介(無線で思惑通りに作戦が成功した事を確認した)

葉留佳『HQ!HQ!こちらパトロール!近くの噴水広場でたい焼きが売ってますヨ!きっと食べ終わったら寄るに違いないっス!』

恭介「………HQってなんだ?」

美魚「司令部、または本部という意味ですよ」

恭介「なるほど、こちらHQ!了解した!」

葉留佳『でも今はなんか怖~いヤンキーがたむろしててそれどころじゃないですヨ!』

恭介「人数は?」

葉留佳『4人くらいかなー?』

恭介「分かった。謙吾、来ヶ谷、そいつらには悪いが丁重に遠くに退いてもらえ」

来ヶ谷・謙吾『『了解』』

店員「ありがとうございましたーっ」

理樹「美味しかったね」

杉並「また行きたいかも……」

理樹「ほ、本当!?じゃあまた今度行こうよ!」

杉並「うんっ」

理樹(喜んでもらえてなによりだ)

ピーポーピーポー

理樹(と、外に出た途端救急車が横を通り過ぎていった)

理樹「近くで事故でもあったのかな?」

杉並「物騒だね……ん」

理樹(すると杉並さんがキョロキョロと辺りを見回した)

理樹「どうしたの?

杉並「甘い匂いがするの……」

理樹(言われてみれば何かカスタードの匂いがする)

理樹「あっ、そこの事じゃないかな?」

理樹(ちょうど噴水広場の辺りにたい焼きの屋台があった)




恭介「状況報告してくれ」

来ヶ谷『すまない。一応刺激しないように試みたんだが……』

謙吾『あっちが来ヶ谷を置いていけだのなんだの言って長引くようだったから……』

恭介(無線から微かにサイレンの音がした。なるほど、そいつらは”運悪く”好戦的だったらしい)

恭介「まあしょうがない。それで2人の方はどうだ?」

来ヶ谷『うむ……とても良い雰囲気だよ』







杉並「ふふっ、美味しい……」

理樹(噴水のベンチで今後の予定を話しつつ一休みする事にした)

理樹「これからどうしようか……杉並さん、どこか行きたい場所とかある?」

杉並「ねえ直枝君……」

理樹「なに?」

杉並「………”杉並さん”ってよそよそしくない?」

理樹「へっ!?」

杉並「な、直枝君が嫌じゃなかったらでいいんだけど……お、お、お、お互い下の名前で……とか……」

理樹(杉並さんがそっぽを向きながら提案した)

理樹「そ、それは……」

杉並「い、嫌?」

理樹「嫌じゃない!」

杉並「じゃあ……理樹君っ!」

理樹「あっ、はい!」

杉並「呼んで……?」

理樹(ゴクリ……)

理樹「む…む……むつ……」

杉並「……………っ」

理樹「………睦実さん…」

杉並「キャー!キャー!」

理樹「わー!わー!」

理樹(なんというか途轍もなく恥ずかしい。意識しながら下の名前で呼ぶというのはかなりヤバい。これは少し練習する時間が必要だった)

杉並「ご、ごめんなさい……やっぱりもうちょっとしてから……」

理樹(それは杉並さんも同じだったらしい)

理樹「~~~!!」

杉並「~~~!!」




来ヶ谷「あれが見えるか謙吾少年」

謙吾「ああ……まさにお似合いって感じだ」

来ヶ谷「うむ。私も恋愛の類には疎いが彼らの相性がいいことは分かる。杉並女史はどこか似ているんだ。少年と」

謙吾「確かにそうかもしれない。一見、弱々しい印象を持ってしまうが、よく見ればひたむきな一面がある。誰かが言っていたな。結局は似た者同士が一番上手くいくんだと」

来ヶ谷「はっはっはっ。理樹君は色んな人間と合わせることが出来るが、その点に関しては杉並女史が一番かもしれんな」

謙吾「おっ、そろそろ動くぞ。恭介に報告だ」

来ヶ谷「よし……あの方向はショッピングモールだな」

次の更新で最後かな
あとネタが切れたから『カップルのデートで筋肉が活躍する場面』を一緒に考えてくれ!

杉並さんは目を閉じキスを待っていた。
理樹がキスするぞ!と決心し杉並さんに迫った瞬間、隕石が理樹の頭に当たった。その衝撃になんとか首の筋肉で耐えるものの、このまま頭を押されれば口が杉並さんに触れてしまう。
理樹は「こんな形でキスしたいんじゃない!」と筋肉を振り絞るが、もってあと1秒だった。
すると「筋肉を信じろ!」と叫びながら真人が突っ込んできた。真人は隕石に体当たりし、隕石を宇宙へと弾き返した。
理樹は心から真人に感謝した。でも隕石に耐えるなんて僕の筋肉も捨てたもんじゃないな、そんなことを考えていると唇に柔らかい感触。
杉並さんは僕を見つめて「たった数センチ動くだけの筋肉も無いの?」と悪戯っぽく笑った。

待たせたな(∵)




喫茶店

来ヶ谷『次はショッピングモールだ』

恭介「分かった」

真人「恭介!俺の出番は!?」

恭介「ふっ、しょうがねえな……出来るだけ2人に見つからないよう、あくまで影としてのサポートだぞ」

真人「ひゃっほーう!そう来なくっちゃ旦那!」

恭介「と言うわけで真人が向かう。謙吾はポジションを交代してやってくれ」

謙吾『了解』






ショッピングモール

杉並「な、直枝君は何か見たいものとかある…?」

理樹「い、いやぁ……杉並さんは?」

理樹(先程の恥ずかしさを残しながらショッピングモールに来た。買い物なら少しは良いところを見せられるかもしれない)

杉並「じゃあ……あそこ行きたいな」

理樹(杉並さんはレディース専門の洋服店だった)

理樹「うん。じゃあ行こっか!」

理樹(しめた!こういう時のためにわざわざ銀行から諭吉を5人連れてきたのだ。なんでも御座れだ!)




杉並「………これとこれだと…どれがいいかな?」

理樹(杉並さんは何着か選ぶと交互に身体に被せて僕に質問をした。しまったな、僕はファッションには疎い。試しに周りの女の子の私服のチョイスを思い出してみたが見事に参考にならないし……)

理樹「こ、困ったな…僕あんまり流行とか知らないんだ……」

杉並「ううん。直枝君が着てほしい物でいいよ」

理樹「!」

理樹(なるほどそう来るか。うーん胸キュンポイント稼ぐなぁ)

理樹「そ、それじゃあ……そうだな。そのブラウンのワンピースとか…」

杉並「ふふっ、実は私もこれがいいかなって思ってたの」

理樹(正解を引き抜いたようだ)

杉並「それじゃ行ってくるね」

理樹「あっ、待って!せっかくだからそれは僕からのプレゼントにさせてよ」

杉並「えっ?……ああ、いいよそんなの!」

理樹「いやいや、今日の記念にこれくらいは買わせてよ」

杉並「ううん、本当にいいの。直枝君にそういうのは買ってもらいたくないから……」

理樹「えっ?」

杉並「服っていつかは着なくなってしまうものでしょ?そしていつかは手放してしまう……それがもし直枝君に買ってもらったものだとしたら捨て辛いと思う」

理樹「……………」

理樹(そういうものなのだろうか?でも確かに僕が杉並さんに何かをもらったとしたら一生手放さないだろうな)

杉並「それに直枝君には他のものを買ってほしいから……」

理樹「他のもの?」


アイスクリーム屋

店員「お待たせしました!どうぞっ」

杉並「う、うわぁ……!」

理樹(他のもの。それは3段重ねのアイスクリームだった)

杉並「ありがとう直枝君!ずっと前から頼んでみたかったの!」

理樹「これくらいなんてことはないよ」

理樹(杉並さんは食べるのさえも惜しむ様子で手に持つアイスクリームを眺めた。まるで綺麗なビーズをもらった子供みたいだ)

理樹「……それにしてもこんなものでいいの?別に遠慮しなくても……」

杉並「遠慮はしてないよっ。確かに洋服やブーツに比べたら安いかもしれないけど、この中で一番欲しいものはこれだったから。前に来た時もこんな風に直枝君と一緒に食べられたらなって思ってた」

理樹(独特な価値観だった。いや、ある意味、金銭面での概念を取っ払った素直な物の見方と言うべきか)

理樹「それじゃあ今度からまたここに来た時はずっと買ってあげるよ。それなら僕のメンツも保てるしね」

杉並「ほ、本当!?」

理樹「うん!約束さ!」








「~~~!?」

「~!~!」

来ヶ谷「………なるほど君にしては考えたな。『それ』ならずっとそばで見守れる」

真人「へへへ………」



ピエロ「~~~~」

杉並「あははっ、見て直枝君。ピエロがいるよ!」

理樹「うわ、本当だっ」

理樹(すっかり調子が戻ってよかった。色々あったが今の所はまだ順調と言ってもいいだろう。あとは恭介達が邪魔をしなければ……)

「キャー!」

理樹(上の方から声がした。このショッピングモールは上まで吹き抜けているのでよく声が通る。)

理樹「ん?……なっ!?」

理樹(そして上から聴こえてくる叫び声の真相が分かった。誰かが家具を落としたのだ。きっと商品として運び出す最中だったのだろう。ちょうど僕らの真上に落ちてくるそれはまるで隕石のようだった)

ピエロ「…………!」

杉並「な、直枝君!!」

理樹「杉並さん!!」

理樹(もはや逃げるには遅過ぎる。せめて杉並さんだけでもこの身体で!)

「__________ッ!」

理樹(瞼を閉じる瞬間、僕には何かあり得ないレベルで移動する”何か”を見た気がした)

ドゴッ!

理樹「……………ハッ!」

杉並「う、うう…………あれ?」

理樹(瞳を開けると僕らはまだ無事だった。その代わりそのすぐ横には変な形に曲がってしまったイスが倒れていた)

理樹「こ、これが落ちてきたのか………」

「き、君達!大丈夫かい!?」

理樹(すぐに周りにいた人達が僕らを心配して駆け寄ってきてくれた。だが僕らは傷1つ付いていない。あのままでは確実に大怪我を負っていたはずなのに……)

ピエロ「…………」

理樹(その時、さっきまで前に居たピエロが後ろへ去っていったのが見えた。……まさか)

理樹「あ、あの!」

理樹(思わず遠くから声をかけると、その『ピエロ』は振り向き、声を発せずにこう言った)

《筋肉を信じろ》

理樹「…………ありがとう」

理樹(僕の礼を聞いてその大きな赤い口をニッコリ曲げるとそのまま去っていった。明日のカツ定食は是非とも僕が奢らせてもらおう)

杉並「な、直枝君………もういいと思う……」

理樹「えっ?………あ、ああ!!」

理樹(胸の中には杉並さんが顔を真っ赤にして目を泳がせていた。すっかり忘れていた)

夕方



理樹(その後も店を転々として遂に日が暮れてしまった)

理樹「そろそろ晩御飯食べに行こうか」

杉並「うんっ。どこにする?」

理樹「ふふふ、杉並さん、前に言ってたでしょ?」

杉並「?」









店内

ジューッ

理樹(店に入るともんじゃ焼きのいい匂いがした。あちらこちらから鉄板がキャベツや肉を焼く音がする)

杉並「覚えててくれたんだ!」

理樹「うん。それにしてもこの街でもんじゃ焼きを食べさせてくれる店を探すのには手間取ったよ」

杉並「ということは直枝君も来るのは初めて?」

理樹「うん……というかもんじゃ焼き自体初めてなんだ」

杉並「えっ、ど、どうしよう……」

理樹「どうかしたの?」

杉並「こういうお店って自分たちで実際に作るから初めて同士で上手く出来るかなって……ほら、私不器用だし……」

理樹「そ、そうなの!?」

理樹(しまった。焼き方も勉強しておくべきだったか……)

理樹(その時、どこからともなく店員さんが現れた)

店員「へえ、お客さん達初めてなのか。なら今日は特別に私が作るところまでしてさしあげよう!」

理樹「えっ、いいんですか?」

店員「なーに!」

理樹(と、言うが早いか店の人は具や出汁を取ってくると慣れた手つきでそれをあっという間にもんじゃに仕上げた)

杉並「凄い……美味しそうな香りがします……」

理樹「ゴクリ……」

店員「フッ、ではたんと召し上がってくれ……理樹、そして杉並」

杉並「えっ……」

理樹(今まで営業的だった声がぐっと低くなり、とても聞き覚えのある地声になった)

理樹「なっ!?」

理樹(さっきは目が隠れるほど深く帽子を被っていたので気付かなかったが、よく見るとその鼻と口はとても見覚えがあった)

理樹「き、恭介!?」

店員(恭介)「ようお二人さん」

理樹(くそう!もう充分振り切ったと思ったのに!)

恭介「気付くのに少し遅かったな」

理樹「恭介………」

理樹(急いで逃げようと立ち上がったが、斜め後ろからまた別の声が聞こえた)

謙吾「理樹、もう諦めろ……」

理樹「謙吾……っ」

理樹(となると出口の方は……)

来ヶ谷「……………………」

理樹「ううっ………」

杉並「な、直枝君………!」

恭介「そう。俺達はお前らがデートに行った時点でお前を祝いやすくするために、下手に不意打ちで祝おうとせず、あえて姿を見せることでお前たちを籠に追い詰めた」

恭介「最初はタクシー乗り場、次に映画館、ショッピングモール、そして最後はディナーのもんじゃ焼きに」

理樹(まるでキツネ狩りだ。どこへ逃げるか分からないはずの僕たちに対して、恭介は街全体でそれをやったんだ)

理樹「き、恭介……」

恭介「……………」

理樹「ほ、ほっといてよ……どうして初デートくらい僕ら2人にさせてくれないのさ!はじめてお使いじゃないんだよ!?」

恭介「…………………」

理樹(恭介は何も答えてくれない)

理樹「………これからどうするつもりなの」

恭介「………恨まないでくれ。だって身内に彼女が出来たら祝いたいし……」

理樹(そう言って恭介は懐から何かを取り出した)

ガタッ

真人「へっ……」

クド「わっふっふっ……」

美魚「………………」

葉留佳「ニヤニヤ……」

鈴「ククク……」

理樹「ハッ!!」

杉並「な、直枝君……なにこれ?」

理樹(よく見ると店にいたのは全員変装したリトルバスターズの面々だった)

恭介「せーの!」

パンッ!パパパパッ!!

「「「2人ともお幸せにー!!」」

小毬「いぇーい!理樹君、杉並さん。良かったねえ~」

鈴「もう食べてもいいか!?」

クド「わふー!私もお腹空いたのですー!」

葉留佳「いやぁ、理樹君達ったら普通に祝おうものならすぐ恥ずかしがって逃げちゃうからなあ!」

美魚「おとなしくしておいた方が身のためですよ……」

来ヶ谷「早速だが2人の馴れ初めについて色々と聴きたいんだが……」

杉並「こ、これは………」

理樹「す、杉並さん……紹介するよ。これが前に話したリトルバスターズってチーム……」

理樹(ヤケクソ気味に紹介した。本当は2人で静かにささやかな晩御飯としたかったのに……)

謙吾「まあそんな顔するな理樹。これが俺達だっていうことは最初から分かっていたはずだ。諦めろ」

理樹「励ましたいのか落ち込ませたいのかどっちなんだよ……」

真人「やい杉並!」

杉並「は、はい!」

真人「………理樹をよろしく頼む。あいつは寂しがり屋だからな」

恭介「そりゃお前だろ!ま、とにかく理樹は任せたぜ杉並!なんたってこいつはうちのリーダーなんだから!」

杉並「………はいっ!」

恭介「………よっしゃー!!今日はもう門限なんて関係ねえ!サタデーナイトフィーバーだぜ!!」

来ヶ谷「今日は日曜日だがな」

理樹「まったくもう……」

理樹(と言うわけで今回も結局どんちゃん騒ぎになった。全員そういうプロフェッショナルだから仕方がないといえばないが……)

理樹「ご、ごめんね杉並さん……」

杉並「ふふっ、ううん。こういうのも嫌じゃないよっ」

理樹(…………まあ、今回は杉並さんの笑顔が見れたし良しとしよう。またいつか、茶々を入れられず、2人きりで良いムードになれることを信じて……)








終わり

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